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脳神経外科・平成 23(`11)年度問題と解答(コメント付き)

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脳神経外科・平成 23(`11)年度問題と解答(コメント付き)
矢野による卒試解説解答シリーズ 6.5
脳神経外科・平成 23(’11)年度問題と解答(コメント付き)
1. 50 代男性,進行性の右上下肢の不全片麻痺,頭痛などで発症,造影 MRI を示す.以下の文章
で誤っているものを選べ(複数回答可)
.
a. 病変は左前頭葉・頭頂葉皮質下にあると推定される.
b. 病変はいわゆる ring-enhancement と呼ばれる造影所見である.
c. 周囲に脳浮腫を伴っている.
d. 中心線の軽度の偏倚所見を認めるが,このほかには明らかな
mass effect を認めない.
e. dural tail sign と呼ばれる所見を認める.
解答:d, e
【d:正中の偏位だけでなく周囲への圧排所見を広義に mass effect と言い,ここでは腫瘍と浮腫
で側脳室が変形している.e:dural tail sign は髄膜腫の所見(腫瘍から伸びる細い造影部位)で
ある.
】
2. 前設問の症例で,鑑別診断として最も適切なもの 2 つを選べ.
a. 悪性グリオーマ
b. 髄膜腫
c. 転移性脳腫瘍
d. 血管芽腫
e. 脳出血
解答:a, c
【神経膠腫(a)は造影 T1 強調画像で辺縁が不整に染まることが多く,内部に造影されない壊死
部分がみられることがある.この像は単発性の転移性脳腫瘍(c)と類似する.】
3. ニューロナビゲーションに関する以下の文章で誤っているものはどれか.1 つ選べ.
a. 現在は,赤外線による追尾方式が主流である.
b. 開始にあたって,レジストレーションと呼ばれる作業を必ず行う必要がある.
c. グリオーマなどの腫瘍摘出術に有用であり,手術開始時に極めて精度が良ければ,手術中盤
以降もブレインシフトは問題とならない.
d. ニューロナビゲーションは近年 MRI,CT だけでなく PET 画像も重ねあわせて利用すること
が可能で,実用段階にある.
e. ニューロナビゲーションは近年錐体路のトラクトグラフィーなど白質情報を表示させること
も可能で,実用段階にある.
解答:c
【c:問 1 の所見を作り出していた腫瘍による物理的圧排が解かれれば,脳の位置が変わり,術前
の画像とは当然合わなくなる.
】
4. 手術手技に関する以下の文章で誤っているものはどれか,1 つ選べ.
1
a. 頭皮の切開時には,止血の目的で頭皮クリップを用いる.
b. 術後の硬膜外血腫を予防するために,硬膜を骨縁に吊り上げる.
c. 開頭の際は,通常バーホールを複数穿ち,バーホールを繋ぐようにして骨切りを行う.その
際,硬膜を骨の内側面から剥がす操作を,骨切り前に必ず行っておく.
d. 開頭術では年齢を問わず頭部のピン固定が必須となるが,その際にはピンによる骨折に十分
注意が必要である.
e. パーキンソン病に対する定位脳手術では,必ず頭部のピン固定が必要であり,フレームを装
着した上で手術を行う.
解答:d
【d:顕微鏡を使用しない場合であればピン固定が必要ないこともある.また,頭蓋骨が薄く縫合
も不完全である小児の場合,ピン固定以外の固定法をとることもある.
】
5. 以下の脳神経外科手術について,通常,穿頭術で行うものはどれか.すべて答えよ(複数回答
可)
.
a. 慢性硬膜下血腫に対する血腫除去術
b. 急性硬膜下血腫に対する血腫除去術
c. 水頭症に対する脳室ドレナージ術
d. 水頭症に対する脳室腹腔シャント術
e. 水頭症に対する内視鏡的第 3 脳室底開窓術
解答:a, c, d, e
【むしろ,穿頭術で行えないものを考えた方がよい.急性硬膜下血腫(b)では凝血塊を除去する
のに開頭が必要である一方,慢性硬膜下血腫(a)では血腫が流動性なので穿頭術で吸い出せる.
】
6. 小児脳腫瘍患者に対する放射線・化学療法後の晩期合併症とその対策における記述で,誤って
いるものはどれか.2 つ選べ.
a. 精神発達遅滞を予防するため,放射線治療は 3 歳以前に行った.
b. 下垂体機能不全が起こったため,ホルモン補充療法を行った.
c. 二次癌と思われる脳腫瘍を認めたため,摘出術を行った.
d. 水頭症を認めたため,脳室‐腹腔シャント術を行った.
e. 不妊が心配されたため,治療後に卵子の凍結保存を行った.
解答:a, e
【a:3 歳以前の放射線治療では精神遅滞が高率に発生する.e:卵子の凍結保存はダメージを受
・
ける前(治療前)に行う.
】
7. 転移性脳腫瘍に関する記述のうち,正しいものはどれか.2 つ選べ.
a. 原発性脳腫瘍より発生頻度が高い.
b. 原発巣の約半数は肺がんである.
c. 髄液細胞診の陽性率は約 50%である.
2
d. 頭部の FDG-PET 検査は非常に有用である.
e. 全体の約半数は脳出血で発症する.
解答:a, b
【転移性脳腫瘍は実際には原発性脳腫瘍より発生頻度が高く(→ a は正しい),原発巣としては
肺癌が約 50%を占め(→ b は正しい),続いて乳癌,腎臓癌,胃癌,直腸癌の順に多い.c. 髄液
細胞診で腫瘍細胞の検出は難しい.
】
8. 次の遺伝子異常のうち,髄芽腫の発生と関わりの深いものはどれか.1 つ選べ.
a. NF1
b. PTCH
c. PTEN
d. VHL
e. INI1
解答:b
【髄芽腫の一部にはその発生に SHH/PTCH シグナル伝達系(シグナル分子ソニックヘッジホッ
グ(SHH)とその受容体 Patched(PTCH)
(選択肢 b)
)が関わっているとされるものがある.c:
PTEN は髄芽腫でも少数例で関与が認められているが1,近年,膠芽腫で注目されているがん抑制
遺伝子である.e:INI1 は AT/RT (atypical teratoid/rhabdoid tumor) の抑制遺伝子である.
】
9. 次の原発性脳腫瘍のうち,手術のみで治癒しうるものはどれか.1 つ選べ.
a. 胚種
b. 髄芽腫
c. 膠芽腫
d. 血管芽腫
e. 松果体芽腫
解答:d
【手術のみで治癒する腫瘍とは,
(マージンをとれない脳でも)手術でマクロに取り切れれば再発
を危惧しなくてよい腫瘍であり,つまり良性腫瘍はどれかを聞いている.d の血管芽腫のみが良
性である.
】
10. 中枢神経悪性リンパ腫の標準的な治療薬として用いられる薬剤はどれか.1 つ選べ.
a. アドリアマイシン
b. メトトレキサート
d. リツキシマブ
e. テモゾロミド
c. シスプラチン
解答:b
【中枢神経系原発悪性リンパ腫の標準治療は,メトトレキサート(b)大量化学療法とその後の全
脳照射である.
】
11. 小児の頭部外傷の特徴で誤っているものを 1 つ選べ.
a. 新生児では脳内に血腫があっても症状が出にくい特徴がある.
b. 網膜出血を伴う硬膜下血腫は虐待を疑う.
c. 乳児で重要な観察ポイントは大泉門である.
1 Inda MM
et al. (2004). PTEN and DMBT1 homozygous deletion and expression in medulloblastomas and supratentorial
primitive neuroectodermal tumors. Oncol Rep., 12, 6, 1341-7.
3
d. 小児の頭蓋内圧亢進に対する治療を要する脳圧は 15~20mmHg である.
e. 小児では予防的過換気療法(PaCO2<35mmHg)は推奨される.
解答:e
【頭蓋内圧降下療法に関しては,正常頭蓋内圧が 8~12mmHg の成人では 20~25mmHg が治療
開始の目安とされている.小児では正常値が 3~7mmHg で,そもそも頭蓋骨の癒合が弱い分上
がりにくいものであることもあり,15~20mmHg と少し低めに設定されている(→ d は正しい)
.
一方,その具体的手段である過換気療法については,脳の充血によるびまん性脳腫脹に効果的と
一時推奨されたが,現在は脳虚血の方が問題とされ小児では原則避けるべきと言われている(→ e
は誤り)
.
】
12. 頭部外傷について正しいものを 2 つ選べ.
a. 外傷性クモ膜下出血は脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血と明確に区別できる.
b. 外傷性クモ膜下出血で脳血管攣縮を生じることはない.
c. 脳挫傷と硬膜下血腫はしばしば合併する.
d. 脳挫傷では脳実質内に多発性の出血を生ずることがある.
e. 外傷性の内頸動脈の解離では,Wallenberg 症候群が生じることがある.
解答:c, d
【a:原発性クモ膜下出血による転倒で外傷性にもクモ膜下出血が生じること,外傷性脳動脈瘤が
後に破裂することなどがあり,原発性か外傷性かをいつも明確に区別できるわけではない.b:外
傷性でも出血量が多ければ脳血管れん縮が生じる.e:ワレンベルク症候群は椎骨動脈・脳底動脈
系に属する後下小脳動脈領域の障害による.
】
13. 急性脳虚血に対して tPA が使えるのはどれか.以下の中で正しいものを 1 つ選べ.
a. 神経症状が比較的短時間に改善しているもの
b. 発症から 4 時間
c. 高血圧(収縮期血圧 170mmHg)の状態
d. 血小板値 9 万
e. 頭蓋内血腫の既往
解答:c
【高血圧で tPA 療法の除外となるのは,収縮期血圧≧185 mmHg,拡張期血圧≧110mmHg の場
合である(→ c は使用可能)
.他は適応とならないか,除外項目である(ex.血小板は 10 万以上必
要)
.なお,欧米では投与時間を発症後 3 時間以内から 4.5 時間以内へと延長するガイドラインの
書き換えが進んでおり,日本でも次回改訂でそうなる予定である.
】
14. もやもや病について誤っているものを 1 つ選べ.
a. 女性の患者の方が多い.
b. 兄弟や親子間での発生が約 10%で日本人に多く発生する.
c. 大声で歌う時,泣く時など,血液中の二酸化炭素濃度が低下し,脳の動脈が拡張し虚血症状
4
が出やすくなる.
d. 鈴木分類とは脳血管撮影上での病期分類である.
e. EDAS, EMS, EGS はいずれも間接的血行再建術である.
解答:c
【ひっかけ問題に近いが,血液中の二酸化炭素濃度が低下すると,脳動脈は「収縮」し脳血流量
が減る(→ c は誤り)
.外傷時の過換気療法はこの現象を応用したものである.e:直接的血行再
建術に浅側頭動脈‐中大脳動脈吻合術があり,挙がっている EDAS(encephalo-duro-arteriosynangiosis,脳硬膜動脈接着術)等は間接的血行再建術である.
】
15. 高血圧性脳出血について以下の文で誤っているものを 1 つ選べ.
a. 高血圧性脳出血は脳卒中全体の 15%を占め,減塩の食事指導と高血圧の治療によって減少し
てきた.
b. 脳出血の危険因子は高血圧があること,MR で多発無症候性ラクナ梗塞を認めること,HDL
コレステロールが高いことである.
c. 脳出血に対する手術治療は未だ明確なガイドラインはない.
d. 手術治療で比較的低侵襲なものは内視鏡的血腫除去や定位的血腫除去法である.
e. 被殻出血の主たる原因はレンズ核線条体動脈外側枝からの出血である.
解答:b
・
【高血圧と組み合わさって脳出血の危険因子となると考えられているのは,低コレステロール血
症である.いわゆる善玉コレステロールである HDL が低いことはもちろん(→ b は誤り),LDL
も低いと脳出血の危険因子となるので,男性・高齢者・高血圧症例・特に脳出血既往例に対する
脂質改善薬は慎重投与となっている.】
16. 中枢神経系原発悪性リンパ腫 PCNSL(Primary central nervous system lymphoma) の特徴
について誤った記載はどれか.一つ選べ.
a. びまん性大細胞性 B 細胞リンパ腫が最も頻度が高い.
b. 原発性脳腫瘍の約 3%を占め,年々増加傾向にある.
c. 発症年齢のピークは 10 歳代の若年性で,やや男性優位である.
d. 発生部位は皮質に比べて深部白質に多い.
e. 眼内浸潤によるぶどう膜炎による進行性の視力低下を合併する.
解答:c
【PCNSL は 60 から 80 歳代の高齢者に多く発生する(年々増加傾向にあることは,ほとんどの
場合,
「その疾患が高齢発症傾向,かつ,その高齢者は現在増加している」ことの結果である)
(→
c は誤り)
.
】
17.鞍上部腫瘍の鑑別診断として最も可能性の少ない腫瘍はどれか.一つ選べ.
5
a. 神経膠腫
b. 下垂体腺腫
c. 頭蓋咽頭腫
d. 胚細胞腫
e. 神経鞘腫
解答:e
【鞍上部腫瘍の鑑別として,下垂体腺腫(b),頭蓋咽頭腫(c),鞍結節髄膜腫,視神経・視床下
部神経膠腫(a)
,神経下垂体胚腫(ジャーミノーマ)
(d)を挙げることができる.e の神経鞘腫
(主に前庭神経鞘腫(いわゆる聴神経腫瘍)や三叉神経鞘腫)は鞍上部には考えにくい.
】
18. 髄膜腫の特徴として正しい記載はどれか.二つ選べ.
a. 女性に有意に多く発生する. b. 小児期の発生頻度が高い. c. 悪性転化する可能性が高い.
d. 後頭蓋窩に好発する.
e. 硬膜内髄外腫瘍である.
解答:a, e
【髄膜腫は成人女性に多く見られ(→ a は正しい,b は誤り)
,悪性転化はまれ(2%)
(→ c は
誤り)
.好発部位は傍矢状洞,大脳鎌辺縁,大脳半球円蓋部の順である(→ d は不正確)
.髄内/
硬膜内髄外/硬膜外の腫瘍発生部位の区別は脊髄腫瘍で特に強調されるが,脳腫瘍でもこれら区
別ができることは同様で髄膜腫は硬膜内髄外腫瘍である(脳実質から発生した腫瘍ではない)
(→
e は正しい)
.
】
19. 神経皮膚症候群の範疇に属さない疾患を一つ選べ.
a. von Recklinghausen 病
c. 結節性硬化症
b. 神経線維腫症Ⅱ型 (Neurofibromatosis-2)
d. Starge-Weber 病
e. 多発性硬化症
解答:e
【神経皮膚症候群は遺伝的な奇形性病変が神経系と皮膚を同時に侵す疾患群で,母斑症とも呼ば
れる.これに対し,多発性硬化症(e)は中枢神経髄鞘抗原を標的とする自己免疫機序によると考
えられる中枢性脱髄疾患である.】
20. 第 8 脳神経から発生する脳腫瘍について,最も頻度の高い腫瘍を一つ選べ.
a. 神経膠腫
b. 神経芽腫
c. 神経鞘腫
d. 神経肉腫
e. 神経細胞腫
解答:c
【第 8 脳神経は内耳神経で,内耳神経(のうち前庭神経)の神経鞘に由来する前庭神経鞘腫(聴
神経腫瘍)の頻度が高い(→ c が正しい).】
21. 頭蓋内脳腫瘍を合併するのはどれか?3 つ選べ.
a. 神経線維腫症
b. Louis-Bar 症候群
c. Bourneville-Pringle 病
d. 色素失調症
e. von Hippel-Lindau 病
解答:a, c, e
【a:神経線維腫症Ⅰ型では視神経膠腫が合併する(15~20%)
.同Ⅱ型は皮膚病変が少なく両側
6
ル
イ
バール
聴神経腫瘍を主徴とする.b:Louis-Bar症候群(毛細血管拡張性運動失調症)は先天性免疫不全
症候群の一つで,小脳性失調による運動障害と眼球結膜や耳介のに毛細血管拡張を伴い,上下気
ブ ル ヌ ヴ ィ ー ユ
プ リ ン グ ル
道の感染を反復する.悪性リンパ腫を高率に合併する.c:Bourneville-Pringle病は結節性硬化症
の別名である.頻度は低いが上衣下巨細胞性星細胞腫など脳腫瘍を合併する.d:色素失調症は皮
膚の色素沈着に眼症状を合併するが,けいれんやてんかんなど中枢神経症状が出ることもある.
e:リンダウ病の小脳血管芽腫合併はよく知られる.
】
22. 石灰化が少ない脳腫瘍はどれか?2 つ選べ.
a. 頭蓋咽頭腫
b. 中枢神経原発悪性リンパ腫
c. 髄膜腫
d. 上衣腫
e. 血管芽腫
解答:b, e
【頭蓋咽頭腫(a)
,髄膜腫(c),上衣腫(d)は石灰化をみせる脳腫瘍である.他に星細胞腫,稀
突起膠腫,奇形腫でも石灰化がみられる.
】
23. 正しい組み合わせはどれか?2 つ選べ.
a. 動眼神経麻痺 ― 眼瞼下垂
b. 外転神経麻痺 ― 眼球外転
c. 顔面神経麻痺 ― 兎眼
d. Horner 症候群 ― 散瞳
e. Parinaud 徴候 ― 眼球下方偏位
解答:a, c
ホ ル ネ ル
【d:Horner症候群では縮瞳する(交感神経は散瞳させるのでそれが効かなくなれば縮瞳)
.e:
パ
リ
ノ
ー
Parinaud徴候は中脳背側症候群のことで,定義が一定しないが上下眼球運動の中枢である中脳背
ふくそう
側の障害で上方注視麻痺もしくは上下方注視麻痺に輻湊2麻痺を認めるものをいう(だから下方偏
位というより眼球が上方に動かなくなるといった方が正確か)
.】
24. 中脳の血管障害でみられるものはどれか?3 つ選べ.
a. 傾眠傾向
b. 複視
c. 嗄声
d. 触覚と痛覚の解離性障害
e. 運動失調
解答:a, b, e
【a:中脳上部に広範に梗塞が生じれば昏睡,除脳硬直を来たす.b:中脳は動眼神経核の在り処
かつ動眼神経の通り道であるから,その障害で複視を来す.c:中脳レベルでは温痛覚は脊髄毛帯,
精細触覚・固有感覚は内側毛帯を上行しているから,原理的には梗塞時にそれらが個別に生き残
ることはありうるけれども,脊髄障害の時のような著しい感覚解離は見られない.e. 小脳と大脳
の連絡線維の通り道ではあるので小脳性運動失調は見られ,動眼神経麻痺と小脳性運動失調を同
ク ロ ー ド
時にみるものをClaude症候群と呼ぶ.
】
2 輻湊とは,眼の前の物を見るために(両眼の視軸がその物体に集まるように)
,左右の眼球が内転する運動(内寄せ運動)の
ことである.
7
25. 誤っているのはどれか?2 つ選べ.
a. トルコ鞍は蝶形骨に隣接する.
b. 前大脳動脈は脳梁の表面に沿って走行する.
c. 中硬膜動脈は骨溝の中を走行する.
d. 第 6 脳神経と第 7 脳神経は,頭蓋内で並列して走行する.
e. 上眼静脈は視神経管を通る.
解答:d, e
【d:第 6 脳神経は外転神経,第 7 脳神経は顔面神経である.頭蓋内で並列し,ともに内耳道に入
るのはこのうち顔面神経と第 8 脳神経の内耳神経である.e:上眼静脈は上眼窩裂を通る.視神経
管を通るのは視神経と眼動脈であり,その他の眼がらみの神経と静脈(動眼神経,滑車神経,外
転神経,眼神経,上眼静脈)は上眼窩裂を通るのであった.
】
26. 皮質脊髄路の記述で誤りはどれか.一つ選べ.
a. 上位ニューロンである錐体細胞は中心前回の第 5 層に多く存在する.
b. 錐体交叉で 100%の線維が反対側へ移る.
c. 上位ニューロンは脊髄前角で下位ニューロンへシナプスする.
d. 皮質脊髄路モニタリングとして運動誘発電位(MEP)がある.
e. DTI トラクトグラフィーは皮質脊髄路の画像的描出を可能とする.
解答:b
ベ ッ ツ
【a:中心前回一次運動野の第 5 層に見られる錐体細胞は特に大きく,Betzの巨大錐体細胞と呼
ばれる.b:皮質脊髄路は最終的には全て反対側に行き着くが,錐体交叉で交叉する外側皮質脊髄
路は全体の 7~9 割,交叉せず同側の脊髄前索を前皮質脊髄路として下行し脊髄レベルで交叉する
線維が 1~3 割である.
】
27. 術前の言語機能評価に通常使われないのはどれか.1 つ選べ.
a. functional MRI
b. 和田テスト
c. 標準言語機能検査
d. 脳波検査
e. 利き手テスト
解答:d
【まず c の標準言語機能検査という学術用語はないので出題ミスに近い.術前に行われる標準失
語症検査はじめ言語機能評価の一般的なプロトコルのことを言いたかったのであろう.
術前の言語機能評価は優位半球の判定と一体であり(a, b, d, e は言語機能そのものでなく優位
半球を評価している)
,また,術後に脳の高次機能に低下が見られていないかを判断する比較対象
を得ておくという意味もある(c もこの点で欠かせない)
.
術前と言っているので d の脳波検査は頭皮脳波のことである.正確な言語野のマッピングのた
めには開頭しての皮質脳波が必要で,この点で「術前検査」を問うている本問では使われない検
査として解答になる.が,皮質脳波は正確なマッピングに欠かせず,
「言語機能評価に脳波検査が
欠かせない」とのみ言われたらそれは正しい.
b の和田テストは血管造影検査下に左右の内頚動脈にプロポフォールを注入し,一過性に失語
8
症状が出現する側を言語優位半球と判定するものである.a の fMRI は高磁場 MRI の普及で精度
が上がっているが,和田テストとのいずれかが選択されることが多く,現在はまだ和田テストが
優位半球決定のゴールドスタンダードである.
】
28. 症候学で正しいものの組み合わせを一つ選べ.
(ア) 前頭葉で起きる失語症はウェルニッケ失語である.
(イ) 両側前頭葉の機能低下で自発性は亢進する.
(ウ) ゲルストマン 4 徴候は失算,失書,前後失認,手指失認である.
(エ) 両側後頭葉の障害でアントン症状が出現する事がある.
(オ) 一側頭頂葉の障害で対側の上 1/4 盲が出現する.
a. (ア,イ,オ)
b. (ア,エ,オ)
c. (イ,ウ,エ)
d. (エ,オ)
e. (全部)
解答:なし
【ア&イ:ウェルニッケ野は側頭葉.前頭葉の機能低下で自発性は低下する.ウ:ゲルストマン症候
群は「左右」失認が生じる.エ:アントン症候群は両側後頭葉の鳥距野または視放線の破壊により
皮質盲(両眼が見えなくなる)が生じる一方,当人はこれに気づかない(見えていると言ったり
・
見えないことに平然としている)ものをいう.オ:頭頂葉の障害では下1/4 盲が生じ,上 1/4 盲が
生じるのは側頭葉障害である.以上よりエのみが正しく,正解組み合わせはない.
】
29. パーキンソン病についての記載で正しい組み合わせを一つ選べ.
(ア) パーキンソン病の 3 主徴は,無動,固縮,失調である.
(イ) 中脳の黒質のドーパミン産生細胞の変性脱落が病態の中心である.
(ウ) 外科治療として視床下核の深部電気刺激手術がある.
(エ) コンピュータを使って脳のある特定の部位を壊したり刺激したりする手術を定位脳手術と
呼ぶ.
(オ) 外科治療の効果は永遠に継続する.
a. (ア,イ)
b. (イ,エ)
c. (イ,ウ,エ)
d. (エ,オ)
e. (全部)
解答:c
【ア:パーキンソン病の 4 主徴は安静時振戦,無動,筋固縮,姿勢反射障害である.オ:これに対
する外科治療(今日,実質的には視床下核に対する深部脳刺激療法)の効果はひとまず 5 年以上
持続することが確認されてはいるものの疾患の進行自体を止めるものではなく,また,それ以前
に 5‐6 年ごとに体内電池の交換が必要というデバイスの問題で永続しない.イ~エは正しい.
】
30. てんかんの発生頻度は次のうちどれか?一つ選べ.
a. 1,000 人に 8 人
b. 100 人に 8 人
d. 100,000 人に 8 人
e. 10 人に 8 人
c. 10,000 人に 8 人
解答:a
9
【てんかんの有病率は,神経疾患としては極めて高く世界的に 3~10 人/1,000 人(a)とされ,
その年間発症率は 20~70/10 万人と言われる.】
31. 顔面けいれんについて正しいものを 2 つ選べ.
a. 顔面の痛みを伴うことが多い.
b. 抗けいれん薬などの内服薬で症状が改善することが多い.
c. 手術を行っても,症状の改善が見られることはほとんどない.
d. ストレスにより悪化することが多い.
e. 顔面神経が脳幹から出る部分(REZ)で,血管により圧迫されることが原因である.
解答:d, e
【顔面けいれんは片側眼輪筋が不随意にれん縮する症状に始まり,徐々に進行し片側顔面筋全体
が共同的にれん縮するようになる疾患で,顔面神経起始部での,動脈硬化性変化をきたした動脈
による圧迫が主たる原因とされている(e)
.よって,心因性ではないがストレスで誘発,また悪
化する(d)
.薬物療法が有効でないため(→ b は誤り)
,神経筋接合部を遮断してけいれんを止
めるボツリヌス毒素(ボトックス®)療法か,神経と血管を外科的に離す神経血管減圧術が行わ
れ,外科治療は 9 割で奏効する(→ c は誤り).
】
32. 腰椎椎間板ヘルニアについて正しいものを 2 つ選べ.
a. 下肢痛を伴うことが多い.
b. 腰痛を伴うことはない.
c. 膀胱直腸障害が出現したら,早期の手術が必要である.
d. 手術をせずに保存的治療のみで改善する例はまれである.
e. 腰椎単純 X 線写真で多くの例で診断が可能である.
解答:a, c
【a&b:腰痛で発症し,徐々に下肢の疼痛やしびれ感が出現する.c&d:十分な保存療法を行う
のが原則だが(→ d は誤り),膀胱直腸障害は 48 時間以内という準緊急手術の対象になる(→ c
は正しい)
.e:腰椎単純 X 線写真に椎間板は写らないのであらゆる例で単純 Xp による椎間板ヘ
ルニアの確定診断は不能である.】
33. 頚椎症について正しいものを 2 つ選べ.
a. 神経根症では歩行障害が出現することが多い.
b. 神経根症では頚部痛を伴うことが多い.
c. 神経根症では両側の手指の巧緻運動障害が出ることが多い.
d. 脊髄症では下肢の腱反射が亢進することが多い.
e. 脊髄症では保存的治療で症状が改善することが多い.
10
解答:b, d
【神経根圧迫の症状(神経根症)は頚部痛(b)に続く上肢痛あるいは手指のしびれである.手指
の巧緻運動障害は神経根ではなく脊髄本幹の機械的圧迫ないし循環障害で起こる症状(脊髄症)
で(→ c は誤り)
,このとき,下肢の腱反射は亢進する(痙性不全麻痺)
(→d は正しい)
.この場
合,中等度以上の運動障害があれば手術療法を考える(→ e は誤り)
.
】
34. 脊髄の後索を走行するものについて正しいものを二つ選べ.
a. 温度覚
b. 痛覚
c. 交感神経
d. 位置覚
e. 振動覚
解答:d, e
【脊髄後索は,下半身(Th7 以下)からの線維から成る薄束と,上半身(Th6 以上)からの線維
けつじょうそく
から成る楔 状 束で構成される.皮膚からの識別性の高い触圧覚情報と筋・腱・関節からの運動感
覚(深部感覚とも呼ばれ,具体的には位置覚(d)や振動覚(e))を伝える.
】
35. 脊椎の解剖について正しいものを 2 つ選べ.
a. 頚椎椎体は 8 番,胸椎椎体は 12 番,腰椎椎体は 5 番まである.
b. 椎骨動脈は頚椎神経根の前方を走行する.
c. 椎骨動脈は第 7 頚椎の横突起から入ることがほとんどである.
d. 神経根のうち,後根が運動神経である.
e. 頚部の回旋は多くが環椎と軸椎間で行われる.
解答:b, e
【椎骨動脈は第 6 ないし 5 頚椎の横突孔を通って頚椎神経根の前を上行する(→ b は正しく,c
は誤り)
.脊髄神経節付きの感覚神経根が後根で(→ d は誤り)
,神経根症で障害され症状を出す
のはほとんどこちらである.a:頚椎椎体は 7 番までしかない.
】
36. 20 歳男性.バイクにて転倒.頭部強打して,意識不明で搬送された.来院時は意識清明とな
っており,強い頭痛を訴えた.右側頭部に大きな皮下血腫と,右側頭骨骨折を認める.入院後し
ばらくして左片麻痺が出現した.この病態について誤った記述を 2 つ選べ.
a. 対側損傷に伴う硬膜下血腫を最も疑う.
b. 当初の意識障害は脳震盪によるものである.
c. 意識清明な時期があったのは,血腫増大までに時間がかかったためである.
d. 緊急 CT をとり血腫の除去を行う必要がある.
e. すでにテントヘルニアが完成しており,保存的治療が勧められる.
解答:a, e
【右側頭部に皮下血腫と骨折があり,片麻痺は左に出ているのだから,頭蓋内病変も右にある(対
側損傷ではないので a は誤り)
.脳ヘルニアが完成すると瞳孔不同,対光反射の消失,片麻痺,意
識障害,脳幹反射の異常,除脳・除皮質姿勢,呼吸障害を生じるが,片麻痺以外の記載はなく現
11
在は脳ヘルニアの徴候が表れた段階である(→ e は誤り).速やかに外科的治療でその原因(お
そらく脳挫傷は伴わない急性硬膜外血腫)を除去しなくてはならない.
】
37. 次のうち脳挫傷の部位付近に付随して生じる出血で最も合併しにくいものを 2 つ選べ.
a. クモ膜下出血
b. 硬膜下血腫
c. 硬膜外血腫
d. 脳室内血腫
e. 脳内出血
解答:c, d
【脳挫傷による小出血が癒合し血腫が形成される挫傷性脳内血腫(e)では,くも膜下出血(a)
や硬膜下出血(b)を合併することが多い.ただし,硬膜外血腫や脳室内血腫を合併しないという
ことではなく,選択肢のいずれも外傷性頭蓋内出血に含まれ,種々の組み合わせで合併しうる.】
38. 72 歳男性.今週になって数分間右目が見えにくくなることがあるとの訴えがある.現症では
神経学的症候を認めない.この患者について行うべき検査で最も優先順位の低いものを一つ選べ.
a. 頚動脈エコー
b. 心電図
c. 脳波検査
d. 脳血流シンチグラム(SPECT)
e. 頭部 MRI
解答:c
【一眼の視覚障害が 5~30 分持続し,その後改善するこの症状は一過性黒内障と言われる.頚動
脈や心臓からの塞栓,頚動脈狭窄による灌流低下,後頭葉の一過性脳虚血発作などが原因となり
うる.脳血流の状態を確かめる一連の検査がしたいので,脳機能検査である脳波検査(c)の優先
度は低い.
】
39. 被殻出血と視床出血の違いについて述べた記述のうち正しいものを選べ.
a. 視床出血は内包より内側であるので,被殻出血のような麻痺を生じにくい.
b. 視床出血はしばしば脳室内穿破を起こす.
c. 被殻出血は重症の場合には緊急脳室ドレナージを行って脳圧低下をはかる.
d. 視床出血は慢性期まで待機すれば開頭手術の適応となる.
e. 瞳孔不同の生じた被殻出血は開頭手術の適応とはならない.
解答:b
【視床出血では視床の外側にある内包の圧排により対側の片麻痺を生じるが(→ a は誤り),こ
の運動麻痺の程度に比べ感覚障害が強い点は被殻出血と鑑別になる.脳室内穿破とそれにより生
じる水頭症による意識障害も特徴的である(→ b は正しい).この場合には脳室ドレナージを行
う(→ なので,c は視床出血の話.しかし被殻出血でも重症だと血腫が内包を破壊し脳室に穿破
することはある)
.視床出血の脳実質内血腫に対して外科治療の適応はない(→ d は誤り)
.一方,
被殻出血は 31ml 以上と血腫が大きい時に深昏睡でなければ手術適応となる(→ e は誤り).
】
40. 58 歳女性.買い物中に突然頭をかかえて倒れ込んだ.意識なく救急搬送.来院時血圧 180/90.
12
瞳孔両側 2.0mm,対光反射あり.救急室でしだいに意識が回復して両手足を動かすようになっ
た.この患者について最も考えにくい疾患を一つ選べ.
a. 脳塞栓症
b. 橋出血
c. クモ膜下出血
d. 洞不全症候群
e. 症候性てんかん
解答:b
【救急室で特に何か特別な処置をした記述はないので,定義通りに「失神」
(姿勢保持能力の欠如
を伴う短い意識消失発作であり,治療なしで完全に元の状態に戻る)であり,その鑑別を行う.
①心血管性(不整脈,心筋症,弁疾患,心筋梗塞,大動脈解離)
,②消化管出血・子宮外妊娠に
よる大量出血での起立性低血圧,③くも膜下出血・脳出血,④薬剤性を疑い,TIA(一過性脳虚
血発作)は失神の原因としては実際は稀3なので最後に考えるが,一応この a の脳塞栓症は広範な
虚血が生じるも短時間で再開通した場合としてあり得るにはあり得る.
クモ膜下出血(c),洞不全症候群(不整脈)(d)は上の鑑別に挙がっている通りである.問題
文にけいれんの記載はないが,意識障害を呈する非けいれん性てんかん重積状態(欠神発作重積)
も存在することは覚えておきたい(e)
.
一方,典型的橋出血(b)では数分で深い昏睡に陥り,四肢麻痺,除脳硬直を呈するものである
し,意識障害なく片麻痺や運動失調不全片麻痺のみを呈する微小橋出血も,本症例では両手足を
動かしていることから考えにくい.
なお,瞳孔径が 6mm 以上は絶対的な散瞳,2mm 以下は絶対的な縮瞳と呼んで,病的と捉える.
橋出血の症状で有名な pinpoint pupils では瞳孔の最大径が 1mm ないしそれ以下になるが,対光
反射は保たれている.
】
41. 68 歳の高血圧の既往のある女性.急に激しい後頭部痛を覚え,嘔吐.すぐに救急車にて来院.
来院時昏迷状態.麻痺はなし.血圧 182/100.両眼縮瞳.来院後処置中に突然除脳硬直となった.
緊急 CT を示す.この患者について正しい記述を 2 つ選べ.
a. CT 上視床出血の脳室穿破が見られる.
b. 出血のため急性水頭症を呈している.
c. 全身の硬直は出血に伴うてんかん発作を示唆し
ている.
d. 来院後の処置として降圧剤投与をすべきである.
e. 脳血管撮影は診断的価値がない.
解答:b, d
【CT はくも膜下出血と,それによる急性水頭症(b)を示す(側脳室下角の拡大所見)
(→ a は
誤り)
.処置中に突如除脳硬直というスピードで状態が悪化しているのは水頭症による脳ヘルニア
の進行があるからで(→ c は誤り)
,再破裂の危険が高まるので軽症例では頭蓋内圧を下げない
が,今は速やかに脳室ドレナージを行わなくてはいけない.くも膜下出血急性期の治療方針の二
3 意識が失われるということは,両大脳半球または脳幹部の網様体賦活系の神経細胞が一時的でも働かなくなった状態を考えね
ばならない.だが,両大脳半球の血流を同時に阻害する TIA はまずありえない.また,網様体賦活系の血流を阻害しうる椎骨
脳底動脈系 TIA には必ず複視,構語障害,めまいなどの脳神経症状が伴うので確実に鑑別できる.
13
つの柱は再出血を防ぐ鎮静・鎮痛と降圧(d)で,これは常に変わりがない.脳血管撮影(e)は
出血源の最終的な確定には必要である.
】
42. 出血性脳血管障害について正しいものを 1 つ選べ.
a. 破裂動脈瘤のうち,頻度の最も高い部位は前交通動脈瘤である.
b. 視床出血では血管奇形を伴うことが多い.
c. 被殻出血はしばしば第四脳室に穿破する.
d. 小脳虫部の出血では体幹失調より四肢末梢の失調が著明である.
e. locked-in 症候群は重症くも膜下出血で生じる.
解答:a
【b:視床出血のベースになるのは高血圧により生じた微小脳動脈瘤である.c:被殻出血は重症
で内包を破壊したときに側脳室に穿破することがある.d:小脳虫部の障害では体幹失調が著しい.
e:locked-in 症候群(閉じ込め症候群,意思はあるけれども体は動かない状態)は脳幹腹側の広
範な病変で生じ,多くは脳底動脈の梗塞による.
】
43. 脳血管障害にともなう症状で正しいものを 2 つ選べ.
a. 頭頂葉の皮質障害では感覚脱失を生じる.
b. 前大脳動脈領域の損傷では上肢に比して下肢の麻痺が強い.
c. 損傷が内包後脚に及ぶと重度の運動障害が生じる.
d. 視床痛は発症直後から生じる.
解答:b, c
【a:感覚脱失は感覚消失ともいい,感覚障害の中でも最も強いもので,一部または全部の感覚が
全くなくなる状態をいう.頭頂葉の体性感覚野はかなり広いので感覚鈍麻が生じることはあって
も身体の広い部分に感覚脱失を生じることは少ない.原因部位としてむしろ末梢神経や脊髄を考
えるべきである(情報の細い通り道で一網打尽).b:前大脳動脈灌流領域(大脳半球の内側)の
障害では運動障害として反対側の下肢優位の麻痺がみられる.c:内包後脚前部,あるいは内包膝
が錐体路を形成する線維の通り道である.d:視床痛は数週~数ヵ月後に出現する.
】
44. パーキンソン病の定位脳手術後の頭部単純写真を示す.正し
いものを 2 つ選べ.
a. 電極先端部分を破壊して治療する.
b. 合併症として頻度が高いのは,電極挿入時の頭蓋内出血と感
染症である.
c. バッテリーは,30 年以上交換する必要はない.
d. 両側に行うこともある.
14
解答:b, d
【a:破壊するのではなく持続的に電気刺激する治療法である.c:バッテリーは現在のところ 5
~6 年で交換が必要である.
】
45. 正常圧水頭症の特徴的症状でないものを 2 つ選べ.
a. 頭痛
b. 嘔吐
c. 歩行障害
d. 失禁
e. 痴呆
解答:a, b
【正常圧水頭症の三徴は,歩行障害(c)
・尿失禁(d)
・認知症(e)で,診断にはこのうち少なく
とも一つは生じていることが必要である.
】
46. 交通事故で救急搬送された生来元気な 6 歳男児,意識障害が
みられる.頭部 CT 所見を示す.誤りを 2 つ選べ.
a. 受傷後意識清明期があり見落とされることもある.
b. 頭蓋骨骨折が単純 X 線写真でみつからないこともある.
c. 架橋静脈の損傷や脳挫傷が出血源のこともある.
d. 保存的に経過をみることもある.
解答:c, d
【頭蓋骨直下の両側凸レンズ型高吸収域(白)は出血を示し,急性硬膜外血腫である.頭蓋骨と
くっついた硬膜を剥がしてでも出血するわけで4それなりに強い出血が背景に必要であり,急性
・
しかない(硬膜下血腫には慢性もある)のはそういう理由である.c:急性硬膜下血腫について
の記載である.d:意識障害が出ているので速やかに手術となる(保存的にみられるのは神経症
状がない場合のみ,ただし,急激な発症と進行がありうるので再度の CT を含めた経過観察を怠
ってはならない)
.
】
47. 54 歳の女性,3 年ほど前より疲れやすく汗をかきやすく,手足が太くなり靴や指輪が合わな
くなってきた.
頭部造影 MRI を示す.
正しい診断を 1 つ選べ.
a. ACTH 産生下垂体腺腫
b. GH 産生下垂体腺腫
c. TSH 産生下垂体腺腫
d. プロラクチン産生下垂体腺腫
解答:b
【
「手足が太くなり靴や指輪が合わなくなってきた」は文字通りの先端巨大症(GH(成長ホルモ
4 それに時間がかかるので一度意識清明期を経る場合があるのである.
15
ン)産生性下垂体腺腫5)の症状である.
】
48. 上記患者に合併する臨床症状として最も考えにくいものを 1 つ選べ.
a. 睡眠時無呼吸症候群
b. 手根管症候群
c. 頭痛
d. 高血圧
e. 易感染性
解答:e
【頭痛(c)は初発症状として重要.成長ホルモンによる各組織の異常な肥大6で睡眠時無呼吸症
(a)や手根管症候群(b)も起きる.成長ホルモンは代謝を活発にする系統のホルモンなので耐
糖能異常や高血圧(d)を生じることもある.一方,ステロイドが出るわけではないのでクッシン
グ症候群のような易感染性(e)は生じない.
】
49. 上記患者に最初に行う治療を 1 つ選べ.
a. 開頭術
b. 経鼻的蝶形骨洞手術
d. オクトレオタイド注射
e. 定位放射線手術
c. ブロモクリプチン内服
解答:b
【手術に対する禁忌がなければ治療の第一選択は手術であり,かつその術式の第一選択は経鼻的
蝶形骨洞手術―経蝶形骨洞的下垂体腫瘍摘出術(TSS)と言った方が正確だが―である.】
50. 分水嶺領域脳梗塞について次の CT 模式図(右の a~e)
で当てはまるものを 2 つ選べ.
解答:a, c
【分水嶺領域脳梗塞は,前・中・後大脳動脈の各灌流領域
の境目(a や c は前と中の境目)や,表面から動脈する皮
質枝と深部を貫いて動脈する穿通枝の各灌流領域の境目
で起きる脳梗塞である.血行力学的に一番虚血に陥りやす
く,ピンポイントにそこが詰まったというのでなく全体の
潅流圧が低下した時に脆弱なそこが梗塞に陥るのである.
】
51. 後縦靭帯骨化症について正しいものを 1 つ選べ.
a. 日本人には少ない. b. 胸椎に多い. c. 女性に多い.
d. 手術は頚椎椎間板ヘルニアよりも難しい.
解答:d
【後縦靭帯骨化症(OPLL)は,日本人に多く,男性の罹患率は女性の 2 倍,頚椎に生じる疾患
5 ただし,GH 産生性腺腫がプロラクチンを同時産生することがあるので,d の同時診断を問題文否定できるわけではない.ま
た,プロラクチン同時産生を伴わなくても高濃度の GH はプロラクチン様作用を有するとも言われる.
6 睡眠時無呼吸症候群は巨大舌と声帯肥厚のため,手根管症候群は手関節結合組織の肥大のために生じる.
16
である(→ a, b, c は誤り)
.d:大きな骨化巣を有する OPLL では脊椎の前方からアプローチす
る前方除圧固定術が選択され,さらに後縦靱帯の切除が必要となるので難度が高い.
】
52. 頚椎後縦靭帯骨化症について誤りを 1 つ選べ.
a. 後縦靭帯が骨化する病態であり,脊髄を後側方から圧迫する.
b. 黄色靭帯の骨化症を伴うことが稀ならずある.
c. 骨折のない脊髄損傷の原因の一つである.
d. 後方からの脊柱管拡大術や,前方からの骨化靭帯除去術などの外科治療がある.
解答:a
【a:後縦靭帯は椎体の後面にあるので後と付いているが,椎体の後面ということは脊髄より前方
である.b:黄色靭帯は隣接する脊椎の椎弓と椎弓の内面間に張る靭帯で,その特に胸椎における
骨化症(OLF)の頻度は頚椎 OPLL 同様に人口の数%と高い.しかし,両者ともほとんどは無症
候性である.c:予め硬くなった靭帯で脊柱管が狭くなっている病態のために,骨折を伴わない軽
度な外傷なのに頸髄損傷を生じる可能性があるので,日常動作やスポーツで過伸展や圧迫を避け
るなどの注意が必要になる.】
53. 脳梗塞の危険因子につき誤りを 1 つ選べ.
a. 高血圧
b. 高脂血症
c. 糖尿病
d. 心房細動
e. 喘息
解答:e
【血管にダメージを与える病態(a, b, c)と栓子を作る病態(d)に,これらと関係しない e が混
じっている.
】
54. 発症直後(1 時間以内)の脳動脈瘤破裂患者にみられる可能性の低い所見を 1 つ選べ.
a. 髄液検査で髄液はキサントクロミー
d. 動眼神経麻痺
b. 急性水頭症
c. 意識清明
e. 片麻痺
解答:a
【要するにクモ膜下出血の徴候を聞いている.b~e はありうる.e も一過性ながらありえ,c は
意識障害が一過性であることを意味する.a:キサントクロミーは髄液が黄色調を呈することをい
い,陳旧性の出血か蛋白増多を意味する.出血直後でしかも大量であれば血性髄液となることは
あるが,キサントクロミーは出血後,4~6 時間以上経たないと出現しない.その代わり,数週間
持続するので CT,MRI 陰性の頭痛に後からルンバールを行って「あぁ,あれはやっぱり軽度の
クモ膜下出血だったのね」ということもあるような指標である.
】
55. 45 歳の特に既往歴のない男性.仕事中に急に激しい後頭部痛を覚え,嘔吐.すぐに救急車に
て救急病院へ来院.来院時意識清明.軽度眼振,左の Horner 症候群と右の軽度片麻痺を認める.
17
血圧 140/85.CT 上特に所見を認めない.この患者について正しい記載を 2 つ選べ.
a. クモ膜下出血を考え,腰椎穿刺後,止血剤,降圧剤の投与を行う.
b. 小脳梗塞が疑われるため,局所血栓線溶療法を行う.
c. 椎骨動脈・後下小脳動脈付近の血管解離が疑われる.
d. 動脈病変があるか確認するため,脳血管撮影を行う.
e. 破裂動脈瘤に準じ,脳血管れん縮に対する治療を始める.
解答:c, d
【激しい頭痛と嘔吐からはクモ膜下出血を疑うが,
CT 上所見がないことと眼振,Horner 症候群,
片麻痺と脳幹の障害を示唆する所見から椎骨動脈・後下小脳動脈の解離も考慮する.ただし,解
離性脳動脈瘤をクモ膜下出血と分けて捉えるのはナンセンスで,クモ膜下出血,動脈やその分枝
の閉塞による脳の虚血症状,あるいはそれらの組み合わせとして発症するものである.
よって,c を疑い処置として d を行うのではあるが,CT 上所見がなくてもクモ膜下出血を疑う
こと自体は正しいし(→ a は処置までやっているのでやや不適切だが),出血があれば発症 4 日
目以降に出てくる脳血管れん縮への備え(e)も必要である.
c:小脳失調では頭痛,めまい,嘔吐および四肢・体幹の運動失調を認め,処置までやろうという
c の文章は不適切だが鑑別疾患には入る.
】
56. 脳動脈瘤の治療として最も適切なものを 2 つ選べ.
a. 頭蓋形成術 b. コイル塞栓術 c. バイパス術 d. 神経血管減圧術 e. クリッピング術
解答:b, e
【脳動脈瘤は,その中に血流がなくなれば問題が解決する.よって,開頭して血管の外側からク
リップをかけるか(e),血管の中からコイルを詰めて埋めてしまうか(b)
,いずれかが治療法で
ある7.
】
57. 75 歳一人暮らしの男性.家で倒れているのを隣人が発見して救急搬送.心電図上心房細動が
認められる.緊急 CT を示す.この症例について誤っている記述はどれか? 2 つ選べ.
a. 症状としては右片麻痺と失語が認められる.
b. CT 所見としては右前大脳動脈領域の大きな脳梗塞が認められる.
c. 心臓エコー検査が必要である.
d. 原因としては心原性脳塞栓が最も考えられる.
e. 発症後間もないため,すぐに t-PA による血栓溶解療法を行う.
解答:b, e
【左中大脳動脈領域に大きな梗塞巣を認める(→ b は誤り)
.このよ
うに CT 上はっきりと所見が出てからではとても t-PA は間に合わな
い(t-PA は CT 上 early CT sign 段階での治療である)
(→ e は誤り)
.c&d:心原性脳塞栓の可
7 血管内治療であるコイル塞栓術は侵襲が少なく,クリッピング術の名手は今や絶滅危惧種であるが,コイル塞栓術はフォロー
の上で合併症の危険のある脳血管撮影が定期的に必要など短所もあり,守っていかねばならない技術である.
18
能性が高いので,原因の確定と再発リスクの探索の意味でも心エコーで心内血栓を探す.
】
58. 脳神経の通過しない孔を 2 つ選べ.
a. 正円孔
b. 卵円孔
c. 棘孔
d. 破裂孔
e. 頚静脈孔
解答:c, d
【a, b, c は蝶形骨の大翼の内側部にある 3 つの孔で,前から順に正円孔,卵円孔,棘孔である.a:
上顎神経(三叉神経第 2 枝)が通過する.b:下顎神経(三叉神経第 3 枝)が通過する.c:中硬
膜動脈と下顎神経硬膜枝が通過する.d:破裂孔は孔の底面が軟骨で閉ざされており,頭蓋底を貫
通する孔ではない.e:舌咽神経,迷走神経,副神経が通過する(もちろん内頚静脈も).以上よ
り脳神経本幹を通さないのは c と d.
】
59. 以下の疾患のうち,血管内手術が治療として最も不適切なものを一つ選べ.
a. 偶然見つかった脳動静脈奇形
b. 昏睡状態になっている重症急性硬膜下血腫
c. 軽症のくも膜下出血
d. 眼球突出を来した内頚動脈海綿静脈洞瘻
e. TIA を繰り返す頸部内頸動脈狭窄
解答:b
【血管内治療というのは文字通り血管の内部から操作するものなので,血管の外の病変に対して
は何もできない.c のクモ膜下出血は血管外に病変が及んでいるが,それは保存的にみることに
して再出血を起こしうる血管病変だけ治療しようということである.一方,既に生じた血腫が脳
を圧迫することが問題となっている b では血管内治療では対処し難く,開頭血腫除去術が必要8で
ある.
】
60. ウィリス動脈輪を構成しない血管を 2 つ選べ.
a. 前大脳動脈
b. 中大脳動脈
c. 後大脳動脈
d. 後交通動脈
e. 椎骨動脈
解答:b, e
【ウィリス動脈輪は前交通動脈‐前大脳動脈(左右)‐内頸動脈(左右)‐後交通動脈(左右)
‐後大脳動脈(左右)で形成される動脈の輪である.前大脳動脈分岐部より外側(末梢)の中大
脳動脈は含まれない.後大脳動脈として左右に分かれる前の脳底動脈のさらに前(心臓寄り)の
椎骨動脈(e)が含まれないのはもちろんである.
】
8 穿頭ドレナージによる頭蓋内圧コントロールに留める場合もあるが,いずれにしても手術となる.
19
61‐70.
別紙に頭部単純 CT を示す.①から⑩の矢印の先端が指し示す解剖学的構造名をそれぞれ下記
の対照表を参照して 1 桁から 5 桁の番号で答えよ.解答欄は 61 に①の答えを,順に 70 に⑩の答
えを記すこと.
(図の注:①,③は周囲組織に比べて高吸収,②,④,⑥,⑦,⑧,⑨は周囲組織
に比べて低吸収部を指す.
)
ア‐カ行:
1 鞍上槽,2 迂回槽,3 延髄,
4 オリーブ核,5 海馬,12 外包,13 橋
サ行:
14 四丘体槽,15 視交叉,23 視床,24 松果体,
25 シルビウス裂,34 赤核,35 側脳室前角,
45 側脳室下角,123 側脳室後角,
124 側脳室体部
タ行:
125 第 3 脳室,134 大脳鎌,135 大脳縦裂,
145 第 4 脳室,234 中脳,235 中脳水道
ナ‐マ行:
245 内包,345 被殻,1234 尾状核頭部,
2345 放線冠,12345 モンロー孔
解答:
61(①)
:134(大脳鎌)
62(②)
:245(内包)
【視床とレンズ核に挟まれた低吸収(黒)部分=
線維束が問われている.
】
63(③)
:24(松果体)
【矢印の先とつながっておりわかりにくいが,高
吸収(白)の点は松果体の石灰化を捉えたもので
ある.
】
64(④)
:25(シルビウス裂)
65(⑤)
:345(被殻)
【矢印はレンズ核の外側寄りを指しているよう
にもみえるものの,被殻しかないので選べるだけ
で,淡蒼球という選択肢もあったら判別は不能.
(レンズ核はそれら両者を合わせて言うもので
選択肢にこれのみであれば自信を持って選べ
る.
)
】
66(⑥):1(鞍上槽)
【トルコ鞍の上部で,低吸収の脳脊髄液の満ちた空間である.
】
67(⑦):25(シルビウス裂)
20
【より頭側とやや下側で 2 回シルビウス裂を指摘させている.紛らわしい選択肢は見当たらず,
④も⑦もシルビウス裂である.
】
68(⑧):45(側脳室下角)
【側脳室下角は大脳をこんな下の方まで貫く構造で,輪切りにすると大脳内部に穴が開いている
ように見える.
】
69(⑨):145(第 4 脳室)
【第 4 脳室は背側を小脳で蓋をされているかのような構造である.】
70(⑩):13(橋)
【小脳とつながっているところ(小脳脚)がまさに捉えられている断面で,このように大脳と小
脳を物理的に接続しているからそもそも「橋」と呼ばれているのである.
】
21
Fly UP