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平面液膜式気流微粒化噴射弁の 液膜挙動に関する研究
法政大学大学院理工学・工学研究科 Vol.55 (2014 年 3 月) 法政大学 平面液膜式気流微粒化噴射弁の 液膜挙動に関する研究 A STUDY ON THE BEHAVIOR OF AIRBLASTED PLANAR LIQUID SHEETS 藤田和幸 Kazuyuki FUJITA 指導教員 林茂 法政大学大学院工学研究科機械工学専攻修士課程 Behavior of planer liquid sheets sandwiched with co-flowing air jets have been studied by several researchers to understand the mechanism of breakup of liquid films in air streams.In modern high-pressure ratio aero engine combustors,air-blast fuel nozzles become to be used for the reduction of emissions of NO,CO,HJC and smoke.In this type of nozzles,the annular liquid sheet of kerosene is sandwiched by annular swirling air jets prepared by swirl vanes with an angle in the rage of 45-60 degrees.In our order to clarify the basic behavior of the liquid in airblast fuel nozzles,a specially designed planer air-blast nozzle was used for the present study.The planer fuel sheet was injected between the cross flowing planer air jets,one was 45 degrees and the other was minus 45 degrees.The behavior was also investigated under parallel flow conditions.The behaviors of liquid sheets over a wide range of air-liquid momentum ratios and Reynolds numbers of liquid jets was photographed by a high-speed cam recorder. Key Word:airblasted planar liquid sheet,liquid sheets behavior,shear,primary atomization 1.研究の背景と目的 原油価格の高騰や地球温暖化の対策として,航空用エ ンジンについてもその高効率化が強く求められており, の開発においてはこれらの総合的な性能が求められること になる. 燃焼器内部の高温・高圧化によりサイクルの高効率化が 気流微粒化方式の燃料噴射弁は,従来の圧力式燃料噴射 図られている.燃焼器内部を高温・高圧化することはサ 弁に比べ燃料の微粒化・混合特性に優れており,次世代の イクルの効率化,すなわち二酸化炭素の排出量や燃料消 低 NOx 航空用エンジンの開発において,そのさらなる性能 費量の削減にとっては好ましいが,一方で燃焼器におけ 向上が求められている.気流微粒化燃料噴射弁の一挙動で る火炎温度の高温化により地球温暖化の原因となる窒素 ある液膜式気流微粒化燃料噴射弁は,環状の液膜をその 酸化物(NOx)の生成が問題となる.NOx は火炎温度の高い 内・外周に設けられた流路を通る気流により微粒化を行い, 状況下で生成されやすいため,離陸時等の高負荷条件で 各々の流路に設けられた旋回羽根の角度を変更することで とくに排出が問題となる.NOx の排出を抑えるためのア 燃焼器内部の噴霧特性を変化させることが可能である.こ プローチとして考えられているものには RQL 方式や の液膜式気流微粒化燃料噴射弁の微粒化特性に関しては, LPP 方式の燃焼方式が挙げられるが,いずれの方式にお すでに過去の研究で報告されている[1-2]. いても,NOx が生成されやすい化学量論比付近における 鈴木ら[2]は,2 重逆旋回の液膜式気流微粒化燃料噴射弁 燃焼を避ける狙いがあり,これらのアプローチを最大限 において,内側の流路の旋回羽根角(ISA)を固定し,外側の 有効に活用するためには燃焼器内部において燃料と空気 流路の旋回羽根角(OSA)を変化させた際に,霧化空気差圧 との混合を促進し,局所的に化学量論比となる部分を作 (噴射弁上下流の圧力差を噴射弁上流圧力で除したもの) らないことが必要である.そのため,微粒化・混合特性 4% 程 度 に お い て ザ ウ タ 平 均 粒 径 (SMD , Sauter Mean に優れた燃料噴射弁の開発が低 NOx 航空エンジン用燃焼 Diameter)はある OSA の値において極小値をとる(換言すれ 器には必要不可欠である.しかしその一方で,高空での ば,OSA が小さい場合 OSA の増加に対し SMD は減少す 再着火時や火炎の安定性などの観点からは燃料と空気の るが,ある値以上に大きくしても SMD はそれ以上減少し 混合に偏りがある方が好ましい場合もあり,燃料噴射弁 ない)ことを報告している.この場合,OSA を増加したとき に SMD が減少する理由としては,液膜に加わるせん断の なお,wa は気流流路の幅,実開口面積 Ao は空気流路 A, 強さが増加することがその一因と考えられ,またその一 B の合計値,案内羽の枚数 N は片側あたりの枚数を表す. 方で,ある OSA で SMD が極小となる理由については, OSA が大きくなると遠心力による気相と液相の相互干 渉の強さが弱まることや,気流の急拡大に伴い速度が低 下することが挙げられてきた.しかし,実際の燃焼器で 用いられる軸対称型の燃料噴射弁の場合,せん断の強さ と遠心力や気流の拡大を独立して変化させることは困難 であり,上記の考察は推測の域を出ないのが現状である. そこで,吉田ら[3]は現象を単純化し,液膜に与える気流 のせん断のみが微粒化特性に及ぼす影響を調査するため, 研究用の平面液膜式気流微粒化燃料噴射弁を開発し,気 流のせん断が 2 次微粒化(粒径や粒子速度)に与える影響 について調査している. 平面液膜式気流微粒化燃料噴射弁については,他の研究 図 1:平面液膜式気流微粒化噴射弁の概略図 表 1:各迎角 α における空気流路の設計 α, deg 0 45 噴射弁から出る液膜の分裂挙動は運動量比 M によって分 wa, mm 40 60 類する事が出来ると報告している.Fernandez らの噴射弁 Ao, mm2 240 360 は,噴射弁から噴出する液膜を,噴射弁の外側を回り込 N 0 9 者も調査している[4-7].その中でも Fernandez ら[4]は,同 む気流によって挟み込む構成となっているので,気流出 口角度を自在に変化させる事が出来ない.即ち,せん断 が 1 次微粒化に与える影響については,調査する事が出 来ない.また,他の研究者らもせん断の影響については 調査していない.しかし,気流のせん断が 1 次微粒化に 及ぼす影響を明らかにすることは,平面液膜式気流微粒 化燃料噴射弁の微粒化特性,延いては液膜式気流微粒化 燃料噴射弁の微粒化特性を理解する上で,極めて重要で 図 2:噴射弁の組み立て後の写真 ある.そこで本研究では,吉田ら[4]が開発した平面液膜 式気流微粒化燃料噴射弁を用いて,せん断が液膜の 1 次 微粒化に与える影響を調査した. 2.2 大気圧リグ・高速ビデオ 図 3 にブロワの仕様,図 4 にに本研究で使用した大気圧 リグの概略図を示す.大気圧リグにおける空気の供給源は 2.試験概要 2.1 供試燃料噴射弁 川崎重工製,川崎 GM ブロワ GR91 である.ブロワから送 られた空気はリグ上部の調整用バルブを経てノズルに供給 図 1 に本研究で用いた燃料噴射弁の概略及び用いる座 される.試験に使用する液体は,液体供給タンクに蓄えら 標系を示す.現象を単純化するため,燃料液膜は実際の れ,液体供給ポンプから噴射弁の燃料供給パイプに供給さ 燃焼器で用いられる環状ではなく平面上の流路を用いて れる.液体の流量は,ポンプに取り付けられた回転数制御 形成される.微粒化に用いられる空気流は燃料流路の流 装置によって設定される.ノズルから噴射された噴霧は排 れ方向と平行に,液膜を挟むように配された 2 つの流路 気装置に回収され,気相と液相に分けられる.そして気体 を経て,それぞれから 2 次元噴流状に放出される.各々 は,排気筒から大気に放出され,微粒化された燃料は,試 の空気流路は流路出口で向かい合う向きにスパン方向の 験装置底部に溜ったものとともに,ドレインタンクに集め 迎角 α を持つ.噴射弁の主要な部品は図中の①空気流路 られる.排気装置は愛豊工業株式会社製ミストスピンセパ A,②空気流路 B,③液膜部品 A,④液膜部品 B,⑤液膜 レーターMSS-7 を用い,これを三菱電機製のインバータに スペーサの 5 点である.空気流路 A と空気流路 B につい て制御した.なお,噴射弁上流全圧はダクト最下部の静圧 ては,取り付け用ねじの穴等を除き同形状である.この 孔から水中マノメータを用いて計測し,噴射弁下流静圧は 空気流路部品を交換することにより迎角 α を変更し,液 大気圧とした.光源にはメタルハライドランプ(協和株式会 膜に加わるせん断の強さを変更することが可能となって 社,MID-25FC)を使用した. いる.本研究では,せん断が液膜の 1 次微粒化に与える 影響を調査するために,α= 0 deg,45 deg の 2 通りについ て試験を行った.表 1 に各迎角 α における空気流路の設 計,図 2 に噴射弁の組み立て後の写真をそれぞれ示す. (1) 雰囲気圧力に関しては,0.10MPa(大気圧)に固定した.空 図 3:ブロワの仕様 気温度についてはいずれの条件下においても室温(293K)で ある.また液体については,実際の航空燃料に組成が近い ケロシン(288K :粘性係数 μ=0.0013Pa・s,密度 ρl=784kg/m3, 遠心圧縮機 Air Fuel 表面張力 σ= 0.0277kg/s2 )[8]を使用した.なお,液膜の厚さ 液体供給ポンプ tl は 0.5mm である.各気流条件に対し,燃料流量 Qf の決定 方法は以下の 2 通りである.1 つ目は,気相と液相の運動 パソコン 量比 M を一定に保つように, 気流速度に応じて変化(M=0.34 メタルハライドランプ ディフューザー ~50).2 つ目は,液体速度を固定した時の気流速度の影響 噴射弁 を見るために,Rel=15~450 になるように設定した.ここで 運動量比 M については次式で定義される. 高速ビデオ (2) ドレイン タンク ミストセパレーター 大気へ 図 4:本研究で使用した大気圧リグの概略図 なお気流速度 ua は軸方向速度,液体速度 ul はポテンシャ ル速度である事に注意されたい.ua に軸方向速度を使用し 表 2 に高速ビデオの設定構成,図 5 に受光系写真をそ た理由については,後述する.本研究における燃料流量の れぞれ示す.高速ビデオは,米国 Vision Research 社製の 最大値は Qf=23.5g/s なので,それ以上の燃料流量を必要と Phantom v7.3 を使用した.また,望遠レンズにはニコン社 する条件に関しては,試験を行っていない.本研究におけ 製の Nikon 80-200mm f/2.8 AF-D NIKKOR ED,接写リング る計測面は,液膜の分裂挙動に大きな変化が現れるとされ にはニコン社製の Nikon PK-13 27.5mm をそれぞれ使用し る yz 面のみを対象とした. た. 表 2:高速ビデオの設定構成 迎角 α(deg) 0,45 Image size(pixels) 800×600 視野(mm2) 60×45 露光時間 (ms) 0.15 3.結果および考察 3.1 運動量比 M の定義 図 6 に 0 deg,M=0.34,Rel =450,図 7 に 45 deg,M=0.34, Rel =450,図 8 に 45 deg,M’=0.34,Rel =450 の時の液膜写真 を示す(M’はポテンシャル速度を使って算出した運動量比). これらより,図 8 より図 7 の方が図 6 の液膜挙動に,似て いる事がわかる.これは,液膜挙動には,ポテンシャル速 度よりも軸方向速度の方が支配的である事を示唆している. ゆえに,本研究では軸方向速度を使って運動量比 M を定義 した. 図 5:受光系写真 2.3 試験条件 試験は前述した 2 通りの迎角について,霧化空気差圧 p/pt を,主に 0.03~6%の範囲で固定して行った.霧化空 気差圧とは,噴射弁上流全圧 pt と噴射弁下流静圧 pa の 圧力差を噴射弁下流圧力で無次元化したものであり,以 下の式(1)で定義される. 図 6:Cellular breakup (0 deg,M=0.34,Rel =450) 液膜挙動に違いが表れたと考えられる.また Fernandez[4] らの結果と違いが出た原因は,2 つ考えられる.1 つ目は, Rel =90,180,360,540 のケースしか調べていない.2 つ目 は,0.15 < M < 327 と調査対象が広く,M の値の間隔が大き い.これらが原因で,Fernandez[5]らとは異なる結果になっ たと考えられる.逆に言えば,より詳細に液膜挙動につい て調査する事が出来たと言える.次に Rel=450 に固定して 液膜挙動を見ると,Stretched Ligament breakup では,M が増 図 7:Cellular breakup (0 deg,M=0.34,Rel =450) 加すると,Sac が小さくなる傾向が見られた.Torn Sheet breakup や Membrane breakup においても,M が増加する事 で全体の構造が小さくなる傾向が見られた.このように M の増加に伴い,液膜挙動が変化する理由は,ケルビン・ヘ ルムホルツ不安定性[13]の影響であると考えられる.M の 増加は,換言すれば,気相の運動量の増加に等しい.本研 究では雰囲気圧力は変化させていないので,空気密度は一 定である.即ち,気流速度の増加が液膜挙動に変化を与え ていると言える.ケルビン・ヘルムホルツ不安定性は,気 液間の速度差に基づく不安定性なので,これと合致する. 図 8:Cellular breakup (45 deg,M’=0.34 (M=0.17),Rel =450) つまり気流速度の増加に伴い,ケルビン・ヘルムホルツ不 安定性が高められて,液膜挙動が変化した. 3.2 定性的観察 3.2.1 0 deg (yz 面) Icicle Cellular 図 9 と 10 に,M,Rel による液膜挙動の分類を示す.こ イノルズ数とは,慣性力と粘性力の比を表す無次元数で 400 Rel こでレイノルズ数(Rel,Reynolds number)を定義する.レ Contraction Stretched Ligament 300 あり,次式で定義される. 200 (3) 100 D は代表寸法であり,本研究においては tl とした.図 0 0 11~15 に 0 deg の液膜写真を示す.液膜挙動を見ると, 1 M2 3 4 図 9:M,Rel による液膜挙動の分類 Fernandez[4] ら が 発 見 し た Cellular breakup , Stretched (0 deg,M < 4,Rel <450) Ligament breakup,Torn Sheet breakup,Membrane breakup が観察された.更に,図 11 のような挙動も見られた.こ の挙動を Icicle と呼ぶ事にする.Cellular breakup では, 10]では,Rel >410 でオア・ゾンマーフェルド不安定性[11] により TD-wave[12]も発生する.更に Stretched Ligament breakup では,Rel が増加すると,Sac[4]が小さくなる傾向 が見られた.Torn Sheet breakup や Membrane breakup にお Icicle Torn Sheet Membrane 400 300 Rel Cell[4]崩壊後に bead[9]を形成している. また Contraction[7, 200 いても,Rel が増加する事で全体の構造が小さくなる傾向 が見られた(Cellular breakup については,本研究では比較 100 する事が出来なかった).このように Rel の大きさによっ て液膜挙動が変化する理由は,液膜内部の表面張力の影 響であると考えられる.Rel が大きくなれば,液体速度が 大きくなる.換言すれば,液体流量が大きくなる事を意 味する.流量が大きくなれば,噴出する燃料も増加する. 即ち,液膜の表面積も増加する.液体に働く表面張力の 総量は,表面積に比例して増加する性質を保有する.こ の性質が原因で,表張力の総量が Rel と共に大きくなり, 0 4 14 24 M 34 44 図 10:M,Rel による液膜挙動の分類 (0 deg,4< M <50,Rel <450) 3.2.2 45 deg (yz 面) 図 16 と 17 に,M,Rel による液膜挙動の分類を示す.ま た,図 18~20 に,45 deg の液膜写真を示す.液膜挙動を見 ると,0 deg 同様 6 つの液膜形態が観察された.M を固定し て Rel を大きくすると,0 deg と同様な液膜全体の構造が小 さくなる傾向が見られた.これは 0 deg と同様,表面張力の 影響と考えられる. 次に Rel を固定して M を大きくすると, 0 deg と同様な液膜全体の構造が小さくなる傾向が見られ 図 11:Icicle (0 deg,M=4.9,Rel =38) た.これは 0 deg と同様,ケルビン・ヘルムホルツ不安定性 の影響と考えられる.最後に,M と Rel を固定し,せん断 が液膜挙動に与える影響を示す.Icicle 同士で比較すると, 45 deg ではスパン方向にパタパタ揺れる挙動が見られた. Contraction 同士で比較すると,45 deg の液膜上部には 0 deg にない縞模様が発生する.また液膜下部(二等辺三角形の頂 角にあたる部分)では 45 deg のみ,スパン方向にパタパタ揺 れる挙動が見られた.Cellular breakup 同士で比較すると, 45 deg の液膜上部には 0 deg よりも細かく明瞭な縞模様が 発生している.また Cell の大きさが 45 deg の方が小さく, 図 12:Contraction (0 deg,M=0.48,Rel =120) 丸みを帯びた形状になっている.更に,Cell の格子が自動 車 の ワ イ パ ー の よ う に 動 く 挙 動 が 見 ら れ た . Stretch Ligament breakup 同士で比較すると,0 deg では液膜縁まで スパン方向に連続した Sac が形成されていたが,45 deg で は主に液膜中心部で Sac が形成されている.Torn sheet breakup 同士で比較すると,0 deg よりも複雑な現象が見ら れる.また M=2.3,Rel =450 の時などは,0 deg では Stretch Ligament breakup,45 deg では Membrane breakup と液膜挙動 自体にも変化が見られた.これらのような現象の違いが表 図 13:Stretched Ligament breakup なお,Membrane breakup についてはp/pt > 8%を取得しな ければならないので,今回は比較する事が出来なかった. Icicle Cellular Membrane Rel (0 deg,M=1.85,Rel =196) れるのは,せん断(スパン方向の気流)の影響だと考えられる. Contraction Stretched Ligament 400 300 図 14:Torn sheet breakup (0 deg,M=8.6,Rel =90) 200 100 0 0 1 2 M 3 図 16:M,Rel による液膜挙動の分類 (45 deg,M <4,Rel <450) 図 15:Membrane breakup (0 deg,M=25,Rel =242) 4 450 Icicle Torn Sheet Membrane 400 Rel 350 た,45 deg ではp/pt =0.2%~0.3%でその傾向が見られる. これは,液相の運動量と噴射弁内部の表面張力の関係から 理解できる.即ち,Rel が大きくなると,液相の運動量が大 300 きくなり,噴射弁内部の表面張力よりも大きくなるからで 250 ある.換言すれば,We(ウェーバー数:液相の運動量と表面 200 張力の比)>1 になっている.また,45 deg のp/pt =0.6%~ 150 2%では初めから wl >40mm である.これはスパン方向の気 100 流によって,広げられ,噴射弁出口をつたっているからで 50 ある.更にp/pt =0.6%~2%では,概ね 100< Rel <165 の間 で最大値を取っているように見える.この領域は,We>1 の 0 4 14 24 M 34 44 図 17:M,Rel による液膜挙動の分類 (45 deg,4< M <50,Rel <450) 領域である.即ち,Rel <100 の領域では,液相の運動量の 増加と共に,wl は増加し,最大値を取る.Rel >165 になる と,液相の運動量が十分に大きくなっているので,スパン 方向の気流の影響を受けにくくなっていると考えられる. 液膜流路の幅 0.30% 2% 6% wl (mm) 43 静止気体 1% 4% 41 39 図 18:Contraction (45 deg,M=0.48,Rel =120) 37 35 0 100 200 Rel 300 400 図 21:Rel,wl (0 deg)の関係 (45 deg,M=1.85,Rel =196) 48 wl (mm) 図 19:Stretched Ligament breakup 40 液膜流路の幅 0.2% 0.6% 2% 32 0 100 200 Rel 静止気体 0.3% 1% 300 400 図 22:Rel,wl (45 deg)の関係 図 20:Torn sheet breakup (45 deg,M=8.6,Rel =90) 3.3 定量的研究 3.3.1 液膜の幅 wl に関する考察 図 21 に Rel,wl (0 deg)の関係,図 22 に Rel,wl(45 deg) 関係を示す.図より,0 deg ではp/pt =0.3%~6%で Rel が 大きくなると,wl =40mm(液膜流路の幅)に漸近する.ま 3.3.2 分裂長さ Lb に関する考察 図 23 にせん断が分裂長さに与える影響を示す.図より, 0 deg,45 deg 共に ua が大きくなると,分裂長さが短くなっ ている事がわかる.また,Rel が大きくなると分裂長さが長 くなっている事がわかる.これは,液膜挙動と同様にケル ビン・ヘルムホルツ不安定性から理解出来る.即ち,気流 速度が大きくなると不安定性は高められ,分裂長さは短く なり,液体速度が大きくなると不安定性は弱められ分裂 謝辞 長さは長くなる.また,45 deg より 0 deg の方が,分裂長 本研究は,独立行政法人宇宙航空研究開発機構(Japan さが短い事がわかる.これは,せん断の影響であると考 Aerospace Exploration Agency)において,連携大学院生とし えられる.また軸方向速度が大きい条件では,0 deg と 45 て実施したもので,特に燃焼技術セクションの松浦一哲研 deg の分裂長さの差が小さくなっている事がわかる.この 究員には,学部 4 年時から研究全般に関して,ご指導を頂 事実は,軸方向速度が大きい時は,せん断の影響は小さ きました.また,多くの方々から多大なご指導及びご協力 くなる事を示唆している.換言すれば,軸方向速度が大 を頂きました.皆様方に対し,ここに感謝の意を表します. きい時は,せん断よりもケルビン・ヘルムホルツ不安定 参考文献 性の影響の方が大きい. [1] 鈴木一弘,他,航空エンジン用気流微粒化燃料噴射弁の 9 噴霧特性に雰囲気圧力・旋回気流が与える影響,第 36 回ガ 0deg 0 degua=22.5m/s ua=22.5m/s スタービン定期講演会講演論文集 0 degua=41.2m/s ua=41.2m/s 0deg [2] 鈴木俊介,他,液膜式気流噴射弁の設計パラメータ・作 動条件が噴霧特性に与える影響―第二報 45 deg ua=22.5m/s ua=22.5m/s 45deg 回及び噴射弁出口形状の影響―,JAXA-RM-08-015 (2009), 6 Lb (mm) 気流・液膜の旋 45 deg ua=41.2m/s ua=41.2m/s 45deg JAXA [3] 吉田圭佑,液膜式気流微粒化燃料噴射弁の噴霧特性に関 する研究,平成 23 年度,早稲田大学大学院,修士論文 [4] Fernandez,V. ,2010.Experimental study of a liquid sheet 3 distintegration in a high pressure enviromnent.These.Uni. Toulouse - ISAE. [5] S.Gepperth,et al,Ligament and Droplet Characteristics in Prefilming Airblast Atomization,Proc.12th ICLASS 2012 0 0 100 200 Rel 300 400 500 図 23:せん断が Lb に与える影響 [6] A.Lozano. ,et al,The effects of sheet thickness on the oscillation of an air-blasted liquid sheet.Exp Fluids,39:127–139, 2005. 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[12] 橋本弘之,鈴木孝司,平面液膜噴流界面における微細 5) 0 deg,45 deg 共に,M を固定して Rel を変化させると, し ま 波 状 の 実 験 観 察 ,日 本 機 械 学 会 論文 集 液膜全体の構造が小さくなる. 56-523(1990-3)712-718 6) wl は,0 deg ではほとんど変わらない.45 deg では,100< [13] 天谷賢児,液微粒化の基礎,第 9 回微粒化セミナー - Rel <165 の間で最大値を取り,Rel >165 になると小さくな 液体微粒化の基礎と計測技術 -,1-13 る.これは噴射弁内部の表面張力と液相の運動量から理 [14] H.B.Squire,“Investigation of the instability of moving. 解出来る. liquid film” Brit.J.Appl.Mech.4(1953). 7) 分裂長さには,気流速度が小さい時はせん断が大きな [15] C.Larricq.Etude de la pulverisation assistée en air d’une 影響を及ぼす.気流が大きい時は,ケルビン・ヘルムホ nappe liquid et influence d’un vent ionique sur les intabilitées ルツ不安定性の影響の方が大きい. hydrodinamiques.PhD thesis,ONERA,Toulouse,2006. [16] H.Carentz.Éude de la pulvérisation d’une nappe liquide mince.PhD thesis,Université Pierre et Marie,2000.