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固気混相乱流における固体粒子の密度分布
385 ながれ 23(2004)385−393. 〔原著論文〕 固気混相乱流における固体粒子の密度分布 *理化学研究所 ものつくり情報技術統合化研究プログラム 東京大学 情報基盤センター 日本自動車研究所 所長 雷 谷 小 康 斌† 口 伸 行 林 敏 雄 固気混相乱流における固体粒子の密度分布を明らかにするために、固体粒子を混入した垂直下向きチャネ ル乱流の LES 解析を行った.著者らの提案したダイナミック Random Walk SGS モデルを用いて,5種類の 固体粒子のストークス数と空間分布の相関,乱流の SGS 成分の粒子密度への影響,および粒子の衝突によ る粒子群の形成などについて調べた.その結果,流れ場のレイノルズ数の変化に関らず,乱流のコルモゴ ルフ時間スケールに基づく固体粒子のストークス数が1のオーダーである際に,固体粒子がもっとも極端 な濃度むらを形成し,壁近傍の乱流低速ストリークに固体粒子のクラスター構造ができたことを確認した. また,乱流渦の SGS 成分から固体粒子分布に与える影響は選択的に粒子緩和時間に依存することも示した. Solid Particle Distribution of Particle-Laden Turbulent Flows Kangbin LEI, Integrated Volume-CAD System Research Program, RIKEN Nobuyuki TANIGUCHI, Information Technology Center, University of Tokyo Toshio KOBAYASHI, President, Japan Automobile Research Institute (Received 27 December, 2003; in revised form 30 April, 2004) Large Eddy Simulation of downward fully developed particle-laden turbulent channel flows were performed with considering inter-particle collisions and fluid sub-grid scale components at Reynolds number 180 and 644 respectively. The effects of Stokes numbers, turbulence sub-grid scale components and inter-particle collisions on the distributions of solid particles were discussed. It was verified that, regardless of the Reynolds number of fluid flows, the maximum departure from randomness is when the ratio of the particle's aerodynamic response time to the Kolmogorov time scale of flow was approximately one. In addition, the simulation results showed that the degrees of particle preferential concentration are selectively associated with the sub-grid scale components of fluid turbulence because preferred particles were affected by preferred scale of the eddy structure around. (KEY WORDS): Particle-Laden Turbulent Flow, Large Eddy Simulation, Inter-Particles Collision, Stokes Number, Solid Particles Distribution, Dynamic Random Walk SGS Model, Preferential Concentration 1 はじめに 乱流による固体粒子の混合や拡散は様々な工学 分野で興味が持たれており,また,流体力学の基 礎的な課題としても物理的に興味深い対象でもあ *〒351-0198 埼玉県和光市広沢 2-1 †E-mail: [email protected] る.これまでに,乱流中の粒子は単にランダムに 分散するのではなく,渦度が小さく歪み速度が大 きい領域に集中するという乱れ構造を反映して固 体粒子濃度むらを形成するいわゆる preferential concentration を生じることが,数値シミュレーシ ョン 1-3)や,実験観測 4)によって示されている. Squires & Eaton らの一様等方性乱流の DNS1)およ び Fessler らの一様乱流と見なせるチャネル流路 386 固気混相乱流における固体粒子の密度分布 中央付近の観測実験 4)はともに,コルモゴルフ時 間スケールに基づくストークス数が1のオーダー である時,粒子はもっとも極端な濃度むらを形成 することを示されている.壁乱流においては Rouson & Eaton らの DNS2)や Wang & Squires らの LES3) による粒子間衝突を考慮しなかった One Way Coupling で行った計算で得られた結果では, 壁面近傍において粒子は流体低速ストリークに集 まる傾向があることを報告されている.また, Fessler らによる実験 4)ではチャネル中央付近にお いて特定の粒子がスパン方向に長い分布をもって 集ることが観測されている. 著者らはこれまでに固気混相乱流 LES の定式化 を目的として,粒子 SGS 成分のカップリングを考 慮する乱流変調ダイナミック SGS モデル 5,6)や乱 流 SGS 成分のカップリングを考慮する粒子拡散 ダイナミック Random Walk SGS モデル 7)を提案し, さらに粒子間衝突も考慮した Full Way Coupling 計 算手法 8,9)を開発した.それらの提案したモデルを 垂直チャネル内の固気混相乱流に適用し,粒子の 乱流拡散や乱流の粒子運動による変調に対する乱 流 GS 成分,SGS 成分及び粒子間衝突の影響など について,主に乱流統計量の予測分布をもとに報 告した.本研究では,それらの手法を用いて垂直 チャネル内の固気混相乱流の LES 解析を行い,固 体粒子の密度分布に対する乱流の SGS 成分と粒 子間衝突の影響,特に乱流の組織構造と粒子分布 の相関などを考察する. 2 計算手法 固体粒子の直径が乱流の最小スケールより小さい, かつ気体と固体粒子の密度比も小さいため,粒子 に働く外力は抗力と重力のみと考え,粒子の運動 方程式を無次元化して次式で与えられる. dx pi dt du pi dt = u pi =− (1) f ( u pi − u i ) τp + g i δ 1i (2) ここで x pi は粒子の変位,u pi は粒子の速度,ui は 粒子位置での気体速度, τ p = ( ρ p d p2 ) /( ρ f 18ν ) は 粒子運動緩和時間, f = 1 + 0.15 Re0.687 は Stokes 近 p 似修正係数, g i は重力加速度,Re p = d p u p − u / ν は粒子の運動レイノルズ数である. 2.3 Dynamic Random Walk SGS モデル 粒子運動を考察する時,粒子運動方程式(2)中の 気体速度成分 ui は, ui の GS 成分だけではなく, 気体の速度 SGS 成分 ui' をも加えて,ui = ui + ui' の ' べきである.ここで SGS 成分 u i を著者らの提案 した Dynamic Random Walk (DRW) SGS モデル 7) より以下のようにモデリングする. (ui' )n = ∆ S 2 CνT 3 Cε ⊗ −2log( x j ) cos(2π x j +1 ) n (3) (ui' )n+1 = ∆ S 2 CνT 3 Cε ⊗ −2log( x j ) sin(2π xj+1) n+1 (4) 2.1 流体の計算 式(3)と(4)の下添え字 n, n + 1 は固体粒子の番号で, 気体相の計算手法については,非定常非圧縮性 粘性 N-S 方程式をダイナミック Smagorinsky SGS モデルを用いて LES 解析を行う.その計算手法の 詳細は文献 10)を参照されたい.流体計算の離散化 x j , x j +1 はBox and Mullar法により正規乱数を発生 するのに使われる2個一様乱数である. ⊗ はラグ ランジュ・スケーリング操作を表わす.また, 1 ∆ = (hx h y hz ) 3 , Sij = 1/ 2(∂ui / ∂x j + ∂u j / ∂xi ) , 1 S = (2Sij Sij ) 2 である.式(3)と式(4)の中にあ る無次元解析の係数 Cν T / Cε はダイナミック操作 により次式に与えられる. にはスタガード格子を用いて空間に関しては 2 次 精度中心差分法,時間に関しては 2 次精度の Adams-Bashforth 法を採用する.計算アルゴリズム には SMAC 法,圧力の修正値に対するポアソン式 のソルバーは ICCG 法を採用する. 2.2 粒子の運動方程式 分散相の計算手法について,本研究で扱われる < uk 1 i u j − ui u j > Cν T / Cε = 2∆ 2 k 2 < S Sij − α S Sij > 2/3 (5) 387 雷 康斌・谷口伸行・小林敏雄 2.4 粒子間衝突の計算モデル 本研究で粒子間の衝突を分離手法と決定論的な 方法を用いて取り扱う.ただし,本研究で対象と する粒子の長さスケールが乱流のコルモゴルフ・ スケールより小さいので,粒子の回転運動を無視 し,並進運動のみを考察する.また,粒子同士の 衝突は完全弾性衝突と仮定し,衝突する粒子ペア の運動量交換は互いに衝突接触面の垂直方向のみ で行われるものとする.さらに,固体粒子は全て 同じ密度と直径の固体球と仮定するため,衝突方 程式における運動量は全て粒子速度を用いて代表 され,運動量保存則に従って,衝突後の粒子速度 は次式のように算出される. G G G urji* = u *pj − u *pi (6) G G G rji = rj − ri (7) G G* G G c G * ( rji ⋅ urji ) rji u pi = u pi + G 2 rji G G* G G c G* ( rji ⋅ urji ) rji u pj = u pj − G 2 rji (8) る. 計算の境界条件として主流方向とスパン方向に は流体と粒子ともに周期境界条件とし,壁方向に は粒子が弾性衝突するとする.壁は滑らかであり, 粒子の中心が壁より一半径分の距離にある時に衝 突するとみなす.流体は粘着条件を採用し,初期 条件で発達した乱流場を与える.粒子は 65536 個 で均一分布とする.粒子の初期速度は各粒子の重 心位置での流体瞬時速度と等しく与える.粒子統 計量の算出には,壁面間でメッシュごとに層状検 査領域を設定し,各層内に位置する粒子について アンサンブル平均を取って算出する.初期条件の 影響がなくなる後に統計量を取り始めるため,計 算開始より 20 δ / uτ の時間が進んでから 10 δ / uτ 時間分のデータで統計量を取る.粒子位置での流 体速度 GS 成分には,対象粒子周囲の 43=64 点格 子の情報による 3 次ラグランジュ補間法を用いて 与える. 表1 (9) ここで上添字*は衝突直前の粒子速度を,cは 衝突直後の粒子速度を示す,また下添字 ji は衝突 するペア粒子 i と粒子 j の相対速度と相対位置ベ クトルを示す. 3 ∆z + =17.6, ∆y + =1.98~12.4 であり, Reτ =644 + の場合には ∆x + =63, ∆z =32, ∆y + =2~72 とな 7 µm 28 µm 50 µm 70 µm Lycop. Lycop. Glass Copper d *p = d p / δ 0.00035 0.0014 0.0025 0.0035 d p+ = d *p Reτ 0.063 0.252 0.45 0.63 τp δ / uτ 0.003 0.048 0.65 4.50 τ +p = τ *p Reτ 0.54 8.6 117 810 Stk = τ p / τ k 0.048 0.60 8.1 56 τ p (ms ) 0.11 1.7 19 130 2500 8800 Case 計算条件 τ *p = 本研究では,乱流渦の特性時間の変化をチャネ ル乱流のレイノルズ数の変化(180 と 644)により 表現し,垂直下向きのチャネル内の流れ場を解析 対象として Fessler ら 4)と同じ 5 種類の固体粒子を 用いて計算する.解析領域の大きさには,周期境 界条件を利用する場合,解析領域長さは速度擾乱 の 2 点相関から少なくともその値がゼロとなる長 さの 2 倍は必要とされるので,壁面摩擦速度 uτ と チャネル半幅 δ で定義されたレイノルズ数 Reτ = 180 の場合には主流方向×壁方向×スパン方向を 2πδ × 2δ × πδ と し て , Reτ = 644 の 場 合 に は πδ × 2δ × π / 2δ とする.格子点数はx,y,z方 向に対していずれも 32×64×32 点を分割し,格子 幅は Reτ =180 の場合にはそれぞれ ∆x + =35.3, 粒子の計算パラメータ(Re=180) ρ p ( Kg / m 3 ) τ k ( ms ) 700 τ k ≅ δ / U cl = 2.3 5 種類粒子の直径,緩和時間およびストークス 数などを無次元化してレイノルズ数ごとに表 1, 388 固気混相乱流における固体粒子の密度分布 表2 Case d *p d + p τ * p 粒子の計算パラメータ(Re=644) 2 µm 7 µm 28 µm 50 µm 70 µm Lycop. Lycop. Lycop. Glass Copper 0.0001 0.00035 0.0014 0.0025 0.0035 0.0644 0.2254 0.9016 1.61 ークス数の大きい 70µm Copper, 50µm Glass, 28µ m Locopodium 粒子が壁へ集積する傾向にあり, 粒子の数密度ピーク値は壁面にある.特にコルモ ゴルフ時間スケールに基づくストークス数が1の オーダーである 50µm Glass 粒子が最高の集積度 を示している. 1 <Np> 表 2 に示す.また,ケーススタディにおける乱流 GS 成分,SGS 成分および粒子間衝突の考慮の有 無を表 3 に示す. 7 μm 28μm 50μm 70μm 2.254 0.1 0.0002 0.0025 0.042 0.4655 3.185 τ +p 0.13 1.6 27 300 2050 τp 0.009 0.11 1.7 19 130 Stk 0.0046 0.056 0.89 10 70 Lycopodium Lycopodium Glass Copper 0.01 0.001 τk 1 10 図1 τ k ≅ δ / U cl = 1.9( ms ) 100 y+ 粒子の数密度分布 (Re=180, without SGS and without collision) 表3 Case GS <Np> 1 計算ケース GS+ SGS GS+ Collision GS+ SGS+ Collision ◎ ◎ Re 数 180 ◎ ◎ 644 ◎ ◎ 0.1 Lycopodium Lycopodium Glass Copper 0.01 表 1,表 2 に示されるストークス数の算出に使 用される時間スケール τ k はチャネル中央付近で のコルモゴロフ時間スケールであり,本研究では 文献 4)の実験で得られた近似式 τ k ≅ δ / U cl を利用 する.また,粒子統計分布に関する流体の計算に は粒子の流体へのフィードバックを無視して行う. 4 7 μm 28μm 50μm 70μm 計算結果および考察 4.1 粒子の平均数密度分布 レイノルズ数 180 において,乱流 SGS 成分を無 視したときと,考慮したときの粒子の数密度平均 分布を図 1,図 2 に比較して示す.両方ともスト 0.001 1 10 図2 y+ 100 粒子の数密度分布 (Re=180, with SGS but without collision) 流体の SGS 成分を無視した場合,ストークス数 の小さい 7µm Locopodium 粒子はチャネルにわた って均一な分布を呈し,むしろ壁近傍において数 密度がわずか減少する傾向も見られる.乱流渦の SGS 成分から固体粒子分布に与える影響を考慮す ると,この傾向が緩和される.すなわち,乱流の SGS 成分から固体粒子の数密度分布に与える影響 はストークス数の大きな粒子に対してその数密度 389 雷 康斌・谷口伸行・小林敏雄 10 2 μm Lycopodium 7 μm Lycopodium 28μm Lycopodium 50μm Glass 70 μm Copper 1 <Np> <Np> 1 2 μm 7 μm 28μm 50μm 70μm 0.1 Lycopodium Lycopodium Lycopodium Glass Copper 0.1 0.01 0.01 0.001 1 10 図3 100 0.001 1 y+ 10 図5 粒子の数密度分布 (Re=644, without SGS and without collision) y+ 100 粒子の数密度分布 (Re=644, without SGS but with collision) 1 2 μm 7 μm 28μm 50μm 70μm Lycopodium Lycopodium Lycopodium Glass Copper <Np> <Np> 1 2 μm 7 μm 28μm 50μm 70μm 0.1 Lycopodium Lycopodium Lycopodium Glass Copper 0.1 0.01 0.01 1 10 図4 100 y+ 粒子の数密度分布 (Re=644, with SGS but without collision) ピーク値を減少するが,逆にストークス数の小さ い 7µm Locopodium 粒子に対しては,壁付近で粒 子数密度を高める. レイノルズ数 644 の粒子の平均数密度分布につ いて,流体 SGS 成分を考慮する場合しない場合の 比較を図 3,図 4 に示す.流体 SGS 成分から粒子 分布への影響は定性的にレイノルズ数 180 の場合 と同じであるものの,乱流時間スケールが違うた め,壁付近の粒子数密度の最高集積は低レイノル ズ 数 の 場 合 の Glass 粒 子 で は な く , 28µ m Locopodium 粒子で見られる.しかし,流れ場のコ ルモゴルフ時間スケールに基づく粒子ストークス 数から考察すると,レイノルズ数 644 では 28µm Locopodium 粒子のストークス数が1に近いこと 0.001 1 10 図6 100 y+ 粒子の数密度分布 (Re=644, with SGS and with collision) が分かる.つまり,流れ場の種類(一様乱流また はせん断乱流)やレイノルズ数に係わらず,粒子 の緩和時間は流れ場の特性時間スケールとしての コルモゴルフ時間スケールに基づくストークス数 が1のオーダーである時,粒子はもっとも極端な 濃度むらを形成するとした従来の研究を裏付けて いる. 図 5 は粒子間衝突を考慮した場合の粒子分布を 示す.また図 6 は粒子間衝突に加えて,さらに乱 流 SGS 成分の影響も考慮した粒子数密度分布を 示す.粒子間衝突の影響について,SGS 成分を無 視した場合の図 3 と図 5 を比較してみると,緩和 時間小さい(2µm,7µm Locopodium)粒子の数密度 分布は均一であるため,その分布は粒子間衝突の 390 固気混相乱流における固体粒子の密度分布 影響をほとんど受けない.ただし,緩和時間大き い(Copper, Glass, 28µm Locopodium)粒子の数密度 分布は壁付近で局所的に高くなるため,粒子間衝 突によって粒子の数密度ピークが緩和される.一 方,SGS 成分の影響を考慮した場合に,図 4・図 6 を図 3・図 5 と比較してみると,緩和時間大きい (Copper, Glass) 粒子の数密度分布における粒子間 衝突の緩和効果は,前述の SGS 成分を無視したも のより弱くなる.しかし,緩和時間の小さい(2µ m, 7µm, 28µm Locopodium)粒子では,SGS 成分 の影響によって局所的に数密度が高くなっても, 数密度分布の粒子間衝突による影響が見られなく なる.すなわち,緩和時間の小さい粒子(2µm, 7µ m Locopodium)に対しては,粒子数密度の不均一 な分布があるにもかかわらず,粒子分布の衝突に よる影響はほとんどないことから,粒子間の衝突 は局所的な粒子濃度だけではなく,粒子の緩和時 間にも支配されることがわかる.これは緩和時間 の充分小さな粒子が流れ場の運動(流線)に良く 追従し,一般に流線は互いに横切ることがないた め,流線に沿って運動する粒子も衝突しないと考 えられる.SGS 成分による粒子数密度分布の影響 については,粒子衝突を考慮した図 5 と図 6 の場 合は粒子衝突を無視した図 3 と図 4 の場合と同じ 傾向であり,SGS 成分の粒子分布への影響は粒子 間の衝突と関係しないこともわかる. 4.2 粒子の衝突頻度 流体の SGS 成分から粒子の衝突に及ぼす影響 を考察するため,レイノルズ数 644 の際に,流体 の SGS 成分を考慮した場合としなかった場合に それぞれの衝突頻度を調べた(粒子の平均体積数 密度を同じ 6640 / δ 3 にする).時間進行 6 万ステ ップの間における5ケースの粒子衝突頻度の計算 値を棒グラフで図 7 に示す.その図から分かるよ うに 2µm, 7µm Locopodium 粒子はほとんど衝突 しない.また,SGS 成分を無視した場合,衝突が 最も頻繁に起きるのは 28µm Locopodium 粒子で あるのに対して,SGS 成分を考慮すると,この粒 子の衝突の頻度は減少し,またその衝突頻度のピ ーク値は 50µm Glass 粒子に移り変わる.この計 算結果から LES における SGS 成分は流れ場の特 性時間(例えばコルモゴロフ時間)に影響を及ぼ すことにより,緩和時間の大きな粒子運動にも大 2 106 without SGS with SGS 1.5 106 1 106 5 105 0 2μLacop. 7μLacop. 28μLacop. 50μGlass 70μCopper 図7 粒子の衝突頻度(Re=644) きな影響を与えることが考えられる. シンプルに考えると,SGS 成分を考慮すると粒 子速度の変動成分が増加し,粒子間の衝突する確 率が増えると思われるが,実際に粒子間の衝突す る確率は,粒子の直径が均一かつ粒子の緩和時間 がある程度以上の場合には,主に粒子間の距離, つまり粒子の平均数密度に支配されるので,4.1 節の粒子の平均数密度分布の計算結果に示される ように,SGS 成分を考慮すると,壁近くで緩和時 間の大きい粒子の平均数密度が低くなり,結局粒 子間の衝突確率も低くなった. Elghobashi11)は固気混相乱流において,混入粒子 の体積分率が 10−3 以下であれば粒子間の衝突に よる影響を無視できるとしたのに対して,山本ら 12) は乱流中の固体粒子は特定の領域に集積する傾 向があるため,たとえ一般的に希薄と考えられて いるような場合でも粒子間衝突が粒子運動に大き な影響を及ぼすことを指摘しているが,本研究で は,粒子衝突は局所濃度のみならず,さらに,緩 和時間にも支配されることを明らかにした.つま り,粒子数密度の不均一な分布があるにもかかわ らず,緩和時間のある程度小さな粒子(コルモゴ ロフ時間スケールに基づく粒子ストークス数 Stk < 10−2 の粒子)は,ほとんど衝突しないこと が数値シミュレーションによって予測されている. 4.3 粒子の瞬時密度分布と乱流の空間構造 壁面近傍において固体粒子が流体の低速ストリ 雷 康斌・谷口伸行・小林敏雄 ークに集まることやチャネル中央付近において特 定粒子の分布がスパン方向の長い分布形状を持つ こ と を 確 認 す る た め , Intelligent Light 社 の FIELDVIEW を用いて幾つかの計算結果を可視化 して観測する. 図 8 はレイノルズ数 180 の場合に,壁近傍 + y = 0~5 の間にある 28µm Locopodium,50µm Glass,70µm Copper 粒子と y + = 5 の乱流渦度の 分布を示す.色は渦度の絶対値を表す.また,図 9 はチャネル全領域の三次元的な粒子瞬時分布を 示す.色は粒子速度の絶対値を表す. 28µm Lycopodium 50µm Glass particles 70µm 図8 Copper 壁近傍における粒子の瞬時分布 と流体の渦度分布(Re=180, y+=0~5) 図9 垂直チャネルにおける粒子の 瞬時分布(Re=180) 391 392 固気混相乱流における固体粒子の密度分布 図 8 にははっきり現われていないが,ストーク ス数 1 に近い Locopodium,Glass 粒子での流れ方 向に長いストリーク構造があることが見られる. 特に図 9 からは,壁近傍の乱流低速ストリークに 集まる低速 Glass 粒子が流れ方向にクラスター構 造をもつことも確認された. 図 10 はレイノルズ数 644 の場合に,粒子間衝突 を考慮したときの 5 種類粒子の計算結果を可視化 した三次元的な粒子瞬時分布を流れ方向から見た 画面である. Fessler らによる実験 4)では,特定の粒子がチャ ネル中央付近において流れ方向ではなく,スパン 方向に長い分布構造をもつことが報告されている. しかし,粒子間干渉を考慮しなかった Wang & Squires らの LES3)や Rouson & Eaton らの DNS2)に よる計算結果は,この様な実験での観測を再現で きていなかった.本研究では図 10 に示すように粒 子緩和時間の増大に従って徐々にスパン方向に粒 子むらが形成することが見られる. この構造を形成するメカニズムを分析してみる とき,垂直下向きのチャネルにおける固体粒子は 流体力だけでなく,重力をも受けて運動している ことが重要である.この場合に粒子の流れへの追 従性と重力の干渉により,固体粒子拡散の性質が 決まると考える.重力の効果が大きい場合,固体 粒子の軌跡が流体粒子の軌跡を横切り(crossing trajectory) ,粒子の速度も速くなる.よって,チャ ネルの中に囲まれる粒子同士の衝突は粒子の拡散 運動を促進し,チャネルの上から投入した粒子の 流下抵抗を増加させる.この効果は粒子数密度と 正の相関を持つと考えられ,密度集積をさらに促 進してスパン方向に分布むらを生じると考えられ る.つまり,チャネル中央付近のスパン方向粒子 群は乱流の渦構造によるものではなく,粒子間の 衝突に起因するものと推測される.これは,田中 ら 13)や米村ら 14)の非粘性理想流体(乱流構造がな い)の DSMC による粒子間衝突シミュレーション 結果でも同様の可視化構造が得られていることか らも裏付けられる. 5 図10 チャネルスパン方向における粒子の瞬時分布 (Re=644, with particles collisions) 結論 本研究では,レイノルズ数 180 および 644 の垂 直下向きチャネル乱流における緩和時間の 5 種類 雷 康斌・谷口伸行・小林敏雄 固体粒子の濃度分布を対象として,著者らの提案 したダイナミック Random Walk SGS モデル 7)を 用いて,さらに粒子間の衝突を考慮する決定論的 な DNS 手法 8)を加えた LES 解析を行い,粒子ス トークス数と粒子空間分布の相関,乱流の SGS 成 分の固体粒子密度への影響,および粒子の衝突に よる粒子群の形成などについて調べた.その結果, 以下のような結論をまとめた. (1) 流れ場の種類(一様乱流またはせん断乱流) やレイノルズ数に係わらず,粒子の緩和時間は流 れ場の特性時間スケールとしてのコルモゴルフ時 間スケールに基づくストークス数が1のオーダー である時,粒子はもっとも極端な濃度むらを形成 し,特に壁近傍の乱流低速ストリークに流れ方向 の粒子クラスター構造が現われることを計算結果 の可視化により確認した. (2) 乱流の SGS 成分から固体粒子の数密度分布 に与える影響は,ストークス数の大きな粒子に対 してその数密度ピーク値を減少して緩和されてい るが,逆にストークス数の小さい粒子に対して, 壁付近ではかえって粒子数密度を高めている.こ のことから,乱流渦の SGS 成分から固体粒子分布 に与える影響は選択的に粒子緩和時間に依存する ことが示唆されている. (3) チャネル中央付近のスパン方向粒子群の形 成過程は,乱流の渦構造によるものより,むしろ 粒子間の衝突に起因するものと推測される. 引 用 文 献 1) Squires, K. D. & Eaton, J. K.: Preferential concentration of particles by turbulence, Phys. Fluids, A3 (5) (1991) 1169-1178. 2) Rouson, D. W. I. & Eaton, J. K.: Direct numerical simulation of turbulent channel flow with immersed particles, ASME/FED Numerical Methods in Multiphase Flows, 185 (1994) 47-56. 3) Wang, Q. & Squires, K.D.: Large eddy simulation of particle-laden turbulent channel flow, Phys. Fluids, 8 (5) (1996) 1027-1223. 4) Fessler, J.R., Kulick, J.D. & Eaton, J.K.: Preferential concentration of heavy particles in a turbulent channel flow, Phys. 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