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寺崎一郎(V)
電子のスピンが運ぶ熱 : コバルト酸化物の熱電効果 機能性物質物性研究室 (V 研 ) 寺崎 一郎 Department of Physics, Nagoya University アウトライン 研究室の自己紹介 熱電変換入門 ボルツマン方程式の復習と熱電性能指数 コバルト酸化物の優れた性能 強相関電子系入門 まとめにかえて Department of Physics, Nagoya University V 研究室の特徴 • 新物質の電気・熱伝導現象の実験的研究 – ハードウェアへの依存度が低い 最も理論系に近い実験系、誰でも参入可能、着眼点が大切 – 物質の性質が機能として応用につながるような物質を対象 最も工学部に近い理学系研究室 • 面白くて役に立つ物質 – 巨大熱起電力 – 巨大非線形伝導 – 室温強磁性体 – 強磁性強誘電物質 • 産官学の共同研究 今年度実績 – 東京大、東工大、大阪大、早稲田大、東北大、広島大 – 産総研、高エネ研、原研、理研 – 日本ガイシ、 HOYA 、 – ヘルシンキ工科大 • まだ学問になるかどうかもわからないくらい新しいテーマに挑む Department of Physics, Nagoya University 自然科学の未解決問題 宇宙の不思議 もっと遠くには何があるのか 極微の世界の不思議 物質は何からできているか この 2 つは、 「我々はどこから来 たのか」という根源的な疑問に直 結する、面白さが " 自明な " 問題 物理学は、少数の基本法則と少数 の基本粒子がこの世の全てを形 作っている・・・と信じている学問 ・・・しかし、 Science 309 (2005) 78 Department of Physics, Nagoya University 多くなると何かが変わる More is different アンダーソンの言葉 ひとつひとつが理解できても,たくさん集まると すべてが変わる 水は 1 分子 H2O では凍らない,たくさん集めると凍る たくさんの原子・電子を集めたときに何が起こるか? 「創発性」( emergence) の物理学 物質の性質を決めているのは電子だけなのに・・・ 磁性体 (ビデオテープ ), 誘電体 ( 携帯電話 ), 超伝導体 ( リニアモータカー ), 半導体 (コンピュータ ) 光学材料 (DVD) 私たちは,物質の機能のすべてを予言できていない。 物質の物理学には至る所にフロンティアがある 特に、熱がからむ問題は・・・・ Department of Physics, Nagoya University アウトライン 研究室の自己紹介 熱電変換入門 ボルツマン方程式の復習と熱電性能指数 コバルト酸化物の優れた性能 強相関電子系入門 まとめにかえて Department of Physics, Nagoya University 熱電変換: 固体の中の電子が運ぶ熱 • 熱電変換 固体の熱電気現象で熱と電 気を相互変換 • 熱電素子 – 長寿命 – メンテナンスフリー – 直接変換 (老廃物なし ) – 廃熱による発電 – フロンなしの冷却 • エネルギー・環境問題に資 する Department of Physics, Nagoya University 熱電発電 Department of Physics, Nagoya University 熱電冷却 ペルチェ効果による冷却 恒温槽・センサー制御 多段冷凍(‐ 120 ~ 150℃) ワインクーラー 携帯用冷蔵庫 Department of Physics, Nagoya University アウトライン 研究室の自己紹介 熱電変換入門 ボルツマン方程式の復習と熱電性能指数 コバルト酸化物の優れた性能 強相関電子系入門 まとめにかえて Department of Physics, Nagoya University 電気抵抗、熱抵抗、熱起電力 電流 I 熱流 J 温度差 ΔT 長さ d 電位差 V 温度差 ΔT 電位差 V 断面積 A (a) 電気抵抗 (b) 熱抵抗 (c) 熱起電力 電気抵抗率 ρ 熱伝導率 κ ゼーベック係数 S Department of Physics, Nagoya University ゼーベック係数の意味 電流密度 j = σE + σS (-dT/dx) 電場 熱流密度 q = σSTE + κ(-dT/dx) j=0 ならば E = S (dT/dx) dT/dx=0 ならば q/T = S j エントロピー流 温度勾配 ゼーベック係数は、エントロピー流 密度と電流密度の比 → もしも緩和時間が同じならば、 エントロピーと電子密度の比 → キャリアあたりのエントロピー 電流 固体中の電子は最大どれだ けの熱(エントロピー)を運べ るか? Department of Physics, Nagoya University Drude モデルによる定性的説明 Department of Physics, Nagoya University 熱電変換材料の性能の評価 • 特性指数 (Figure of merit) Z 2 = S / – 大きい 熱起電力 S → 電池の起電力 – 小さい 抵抗率 → 電池の内部抵抗 – 小さい 熱伝導率 → 温度差をつける ZT >1 を目指す (温度差 300 ~ 400K 程度で効率 10 % ) Department of Physics, Nagoya University アウトライン 研究室の自己紹介 熱電変換入門 ボルツマン方程式の復習と熱電性能指数 コバルト酸化物の優れた性能 強相関電子系入門 まとめにかえて Department of Physics, Nagoya University これまでの熱電変換材料の問題点 • 有毒な元素 Pb , Te , Sb を含む • 大気中高温で酸化・蒸発しやすく安定でない • Te は資源として埋蔵量が少ない • 無害で,安定で,豊富な材料が必要 → 酸化物が最適 • これまでは,良い熱電特性を示す酸化物はなかった Department of Physics, Nagoya University NaxCoO2 (NaCo2O4) Terasaki et al., PRB 56 (97) R12685 • 抵抗率 ρ – 200 μΩcm@300 K • 熱起電力 S – 100 μV/K@300 K • 格子熱伝導率 κL – 15 mW/cmK@300 K • 性能指数 Z = S2/ρκ – 10-3 ( 単結晶 ) – 10-4 ( セラミック ) Department of Physics, Nagoya University 層状コバルト酸化物の ZT IT, Proc. of ICT2005 (Clemson) Department of Physics, Nagoya University 遷移金属酸化物ならいいということはない 寺崎:パリティ 2003 年 10 月号 Department of Physics, Nagoya University アウトライン 研究室の自己紹介 熱電変換入門 ボルツマン方程式の復習と熱電性能指数 コバルト酸化物の優れた性能 強相関電子系入門 まとめにかえて Department of Physics, Nagoya University 強相関電子: 強く相関する系の物理 車 ( =電子 ) と交差点 ( =格子点 ) の問題 高速道路 →他の車と衝突しない →車 1 台の問題 一車線 →他の車の位置が問題 →車全部が問題 →車同士が相関している 小さな喫茶店 2 人がけのテーブル 10 セットに,一人ずつの客が 10 人 ( 空席 10 席 ) → 11 番目の客は座りにくい → 相席の斥力 Department of Physics, Nagoya University 金属電子における相関 電子の波動性が強調された状態 ( 金属 ) と、電子の粒子性が強調 された状態 ( モット絶縁体 ) の間で生じる新現象がある → それが、電気を流す強相関電子系 Department of Physics, Nagoya University モット絶縁体の残留エントロピー モット絶縁体 各サイトに自由度を残したま ま電子が局在 → 巨大な縮退とエントロピー s=NkBlog g 熱力学の第 3 法則 絶対零度でエントロピーはゼ ロに向かう 量子力学の不確定性 Δx Δp > h/2π 孤立原子 Δx ~ a0 結晶 Δx ~ Na0 (N; 原子数 ) 電子の運動エネルギー ∝ (Δp)2 → 電子は結晶全体に広がる方が得 ( 自由電子 ) s は低温で解放 → 相転移の起源 従来の強相関物性 =相転移の物理 Department of Physics, Nagoya University 結晶場と磁性イオンのスピン配置 Department of Physics, Nagoya University 熱電効果の起源 NaCo2O4 → Co3+:Co4+=1:1 kB gA x kB 6 0.5 S= log = log = 150 µV / K |e| gB 1− x | e | 1 1 − 0 .5 Koshibae et al., Phys Rev B (2000) Department of Physics, Nagoya University なぜコバルト酸化物は優れていたか? 3 価の Co と4価の Co イオンの組み合わせが絶 妙。電荷とともに最大のエントロピー kBln6 を運ぶ このエントロピーは多電子原子の配置からくるもの で、従来の半導体には見られない コバルト酸化物は他の酸化物と同じくらい移動度 は低いが、キャリア濃度が非常に多いため低い抵 抗率が実現している Department of Physics, Nagoya University アウトライン 研究室の自己紹介 熱電変換入門 ボルツマン方程式の復習と熱電性能指数 コバルト酸化物の優れた性能 強相関電子系入門 まとめにかえて Department of Physics, Nagoya University 携帯電話を充電 産業総合技術研究所 舟橋良次氏の Web サイト http://staff.aist.go.jp/funahashi-r/b-charge.htm Department of Physics, Nagoya University 酸化物モジュールの販売開始 ベンチャー TES New Energy 起業 http://tes-ne.com/Japanese/01_home.html Department of Physics, Nagoya University まとめ 熱電変換は熱と電気を相互に変換する 技術であり、 1 個の電子が最大いくつの 熱を運べるかという問題に帰着する 我々が見出したコバルト酸化物は、多電 子配置に伴う「熱」を運ぶことで、酸化物 の中で群を抜いて高い特性を示す そのような現象は、強相関電子系と呼ば れる固体で生じる。強相関電子系には、 一電子近似を越える未知の現象が見出 される可能性が眠っている コバルト酸化物が切り開いた面白い物理 学は、高温でつかえる素子として販売さ れるまでに至った Department of Physics, Nagoya University