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強み・特色編 - 神戸大学大学院農学研究科・神戸大学農学部

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強み・特色編 - 神戸大学大学院農学研究科・神戸大学農学部
『農学部・農学研究科ファクトブックⅠ』
(強み・特色編)
1.他大学・他学部にない独自性(強み)
・・・P1
2.最近における特記事項
・・・P17
3.地域貢献
・・・P18
4.各界・メディア等で活躍している教員・卒業生
・・・P20
附属食資源教育研究センター
・・・P23
神戸大学農学部・大学院農学研究科
1.他大学や他学部等にない独自性(強み)
日本農業や食の安全安心、生態系を含めた環境が、大きな問題に直面しており、近未来には食料危機
とエネルギー危機の到来が予測されている。重大な岐路に立つ今、こうした複雑系の問題解決に向けた
科学技術の中で農学の重要性が増している。
神戸大学農学部・農学研究科では、「農場から食卓まで(From Farm To Table)」の「食料・環境・健
康生命」と”Think Globally、 Act Locally”をモットーに、食料・環境・健康生命に代表される農学
の諸課題を探究することによって、持続共生社会を構築するための知識と技術を備えた人材を育成し、
地域社会・国際社会に貢献できる知的基盤を創成するための教育研究を行っている。グリーンイノベー
ション、ライフイノベーションを通じて、食料の安定供給、環境の保全、新規バイオ産業の創成、およ
び食の安全安心に向けた科学技術の開発などの研究を行い、地域社会・国際社会に貢献している。
今後は、附属食資源教育研究センターの拠点化及び食の安全・安心科学センターの組織強化を行い、
「農場から食卓まで(From Farm To Table)の食料・環境・健康生命」に関わる諸問題解決に向けた教育
研究を強力に推進して、神戸大学ビジョン2015を実現すべく努力したいと考えている。
◆卓越した教育研究組織
<「農場から食卓までの食料・環境・健康生命」を実現するための一貫した組織構成の戦略>
モットーである「農場から食卓までの食料・環境・健康生命」と”Think Globally、 Act Locally”
を実現するための学部・大学院の組織構成として,以下のような一貫した戦略をとっている。
① 3学科6コース・3専攻6講座とBMD一貫の学科・専攻構成
②
「農場」サイドの食資源教育研究センター、「食卓」サイドの食の安全・安心科学センター、こ
れらと地域の連携を図る地域連携センターの一貫した3附属センター構成
【食資源教育研究センター】
本センターは兵庫県加西市に位置する元の附属農場であり、①農学部、農学研究科及び学内外の研究
機関等と連携して、動植物資源開発から生産までに関わる実学の教育研究及び実習を行うこと、②特に、
循環型社会の実現、多様な生物資源の持続的利用に関する教育研究を行うこと、③アグロバイオサエン
ス(農生命環境科学)の進展並びに地域及び国際社会党に寄与すること、を目的としている。
農学部全学科学生の牧場実習・農場実習を行うだけでなく、学部生・大学院生を含めた最先端の研究
が実施されている。その教育研究成果は、「2. 最近の特記事項」や「4. 各界・メディア等で活躍し
ている教員・卒業生」に示すとおり、万年英之教授(資源生命科学専攻応用動物学講座)の数多くの特
許や受賞、さらに附属食資源教育研究センター所属である山崎将紀准教授、片山寛則講師、本多健助教
などの研究成果としてあげられている。さらにこうした教育研究成果は「3. 地域貢献」に示すとおり、
「神戸大学ビーフ」や純米大吟醸酒「神戸の香」など、多くのブランド商品としても社会貢献している。
【食の安全・安心科学センター】
①農畜水産物の安定生産確保、②機能性食品の創出と安全性の検証に向けた教育研究、③食の安全安心
1
神戸大学農学部・大学院農学研究科
科学に関する理論・技術のグローバルスタンダード樹立、④食料安全保障に関わる総合研究領域の開拓等
を目的に、平成18年4月に日本最初の「食の安全・安心」に関わるセンターとして発足した。「2. 最近
の特記事項」に示すとおり、過去2年間にわたって9月に東京大学食の安全研究センターとの共同フォーラ
ムを開催するとともに、(独)農林水産消費安全技術センター、国立感染研究所、コープ神戸や食品・医
薬品会社と恊働・連携した研究活動を行っている。さらに、(独)農林水産消費安全技術センターにおけ
るインターンシップを盛り込んだ「食の安全科学技術演習」などの授業を担当している。
【地域連携センター】
①地域のシンクタンク機能、②地域で働く人材養成機能、③相談支援機能を果たすべく、平成15年に創
設され、地域の住民、行政、NPO等と農学部・農学研究科の各研究講座やを繋ぎ、その活動をサポート
する中間支援の役割を果たしている。また同時に、センター独自でも連携プロジェクトを行っている。そ
の成果は、「2. 最近の特記事項」や「3. 地域貢献」に示すとおり、文科省教育GPプログラムである食
農コープ教育プログラムやその後の実践農学教育プログラムの実施、篠山市やJA兵庫中央会との地域連携
に大きく貢献している。
2
神戸大学農学部・大学院農学研究科
◆卓越した研究成果
<グリーンイノベーション・ライフイノベーションの研究推進>
農学研究科においては、以下に掲げるグリーンイノベーション・ライフイノベーションに関係する最近の研
究成果を得ている。SSクラス研究7件、Sクラス研究13件を数え、優れた賞を受賞した研究、または高いImpact
Factorの国際誌に掲載された研究であり、食料の安定供給、環境の保全、新規バイオ産業の創成、および食の
安全安心に向けた科学技術の開発などの農学研究科における研究目標の達成だけでなく、特許取得や研究成果
の応用を通じて、地域社会・国際社会に貢献している。
<SSクラスの研究成果:7件>
著者・発表者名
専攻・講座等
業績タイトル等
優れていると判断した根拠
Kinoshita, K.,
食料共生シス
Spectral pattern of
Nature Scientific Reportsに採択され
Miyazaki, M.,
テム学専攻生
urinary water as a
た。ヒトを含めた動物種のホルモンモニ
Morita, H.,
産環境工学講
biomarker of estrus in
タリングに利用された初めての近赤外分
Vassileva, M.,
座
the giant panda, Nature 光法の研究成果である。本研究の成果か
Tang, C., Li, D.,
Scientific Reports,
ら、近赤外分光法およびアクアフォトミ
Ishikawa, O.,
November 22, 2012
クスは、今後生息域外保全における希少
種の個体管理のための新しいツールとな
Kusunoki, H. and
ることが期待される。
Tsenkova R.
万年 英之
資源生命科学
牛品種と牛肉品質を判別
本研究で開発された牛肉の美味しさに関
専攻応用動物
するウシゲノム診断技術
する遺伝子マーカーは、国内外において
学講座
の開発
牛肉の遺伝的改良や牛肉品質の指標とし
3
神戸大学農学部・大学院農学研究科
ての代表的なマーカーになっている。ま
た、我国の牛肉偽装を見抜くための初め
てのDNAマーカーを開発し、現場で幅広く
活用されている。平成24年4月に、この技
術開発に対し「科学技術分野の文部科学
大臣表彰、科学技術賞・開発部門」が授
与された。
・「黒毛和種とホルスタイン種およびそ
れらの交雑種の識別方法」特願
2009-223172
・
「ウシの品種の鑑別方法」特許第4394969
号
・「ウシ由来試料を鑑定する方法及びキ
ット」特願2010-095158
・「国産牛と豪州産輸入牛の鑑別方法」
特許第4872084号
・「牛肉の風味や食感の良さ等に関する
遺伝子判定法」特許第4893893号
・Mannen H. Anim. Sci. J. 82, pp.
1-7.,2010
万年 英之
資源生命科学
アジアの在来家畜の起
本研究はアジア全域での永年にわる実施
専攻応用動物
源・系統史研究と遺伝資
調査を軸に、農学だけでなく考古学・人
学講座
源の先駆的汎利用
類学などの知見からも、家畜の系譜の全
体像を体系的に研究したものである。本
書にまとめられた内容から、本著者は平
成23年度日本農学賞および読売農学賞を
受賞している。
・万年英之
他 (2009): アジアの在来家
畜, 在来家畜研究会
編, 名古屋大学出
版会
・Zebu cattle are an exclusive legacy
of the South Asia Nneolithic. Mol.
Biol. Evol. 27, pp. 1-6, 2010
Mizutani, M. and 生命機能科学
Diversification of P450 Annual Review of Plant Biologyは、
Ohta, D.
専攻応用生命
genes during land plant Impact factor:28.4という数字が示すと
化学講座
evolution. Annu Rev
おり植物科学業界では最上位の総説誌で
Plant Biol, 61, pp.
ある。掲載された総説は著者らの業績を
291-315, 2010
中心に当該分野の先端的な研究内容を網
羅したものであり、その著者として選ば
れることは当該分野での世界レベルでの
4
神戸大学農学部・大学院農学研究科
第一人者であることを示している。
Seki, H., Sawai, 生命機能科学
Triterpene functional
The Plant Cellは、Impact factor:10.68
S., Ohyama, K.,
専攻応用生命
genomics in licorice for という数字が示すとおり植物科学業界で
Mizutani, M.,
化学講座
identification of
は最上位の科学誌であり、本論文は2011
Ohnishi, T.,
CYP72A154 involved in
年11月号の表紙を飾った。また、本論文
Sudo, H.,
the biosynthesis of
の成果は多数の新聞に掲載された。
Fukushima, E.O.,
glycyrrhizin. Plant
Akashi, T.,
Cell, 23, pp. 4112-4123,
Aoki, T., Saito,
2011
K. and Muranaka,
T.
PLoS Pathogens は、impact factor 9.079
Chuma, I.,
生命機能科学
Multiple translocation
Isobe, C.,
専攻農環境生
of the AVR-Pita effector (2010年)という高い評価を得ている雑
Hotta, Y.,
物学講座
gene among chromosomes
誌である。2012年6月27日現在(発表から
Ibaragi, K.,
of the rice blast fungus 約11カ月後)におけるアクセス数は
Futamata, N.,
Magnaporthe oryzae and
2,232、PDFダウンロード数は634である。
Kusaba, M.,
related species. PLoS
本論文は、NATURE REVIEW Microbiology
Yoshida, K.,
Pathog, 7, e1002147,
(10: 417-430, 2012)でも引用された。そ
Terauchi. R.,
2011
の引用文献欄の本論文の項には ”This
Fujita, Y.,
impressive population
Nakayashiki, H.,
the
Valent, B. and
oryzae
and
Tosa, Y.
to
attractive
Avr-Pita
an
effector
study
in
of
M.
related species
led
model that……”
というコメントが付されている。
Asano, K.,
附属食資源教
Artificial selection
本論文はProceedings of the National
Yamasaki, M.,
育研究センタ
for a green revolution
Academy of Sciences of the United
Takuno, S.,
ー
gene during japonica
States of America (Impact Factor,
Miura, K.,
rice domestication.
9.771)に掲載され、同号のCommentaryに
Katagiri, S.,
Proceedings of the
も紹介された。Science誌にも論評され、
Ito, T., Doi, K.,
National Academy of
国内外の新聞や科学誌にも本研究内容が
Wu, J., Ebana,
Sciences of the United
紹介された。
K., Matsumoto,
States of America, 108,
T., Innan, H.,
pp. 11034-11039, 2011
半矮性遺伝子Semi-dwarf1は1970年代
に改良が行われ、「緑の革命」の切掛け
Kitano, H.,
となったが、遥か昔の人々が同遺伝子を
Ashikari, M. and
利用したイネの改良を既に行っていたこ
Matsuoka, M.
とを本研究は示した。
<Sクラスの研究成果:13件>
著者・発表者名
専攻・講座等
業績タイトル等
5
優れていると判断した根拠
神戸大学農学部・大学院農学研究科
田中丸治哉・藤原 食料共生シス
妥協計画法による流出モ
本業績は、平成21年度農業農村工学会学
洋一
テム学専攻生
デル定数の多目的最適
術賞を受賞した。洪水・渇水流出の的確
産環境工学講
化,農業土木学会論文集, な予測とその関連課題について、先駆的
座
241,pp.107~115,2006
かつ有用性のある複数の成果をあげたも
ので、その成果は土地改良施設管理基準
に取り上げられるとともに、複数の利水
ダムの運用で長く使用され、安全管理に
大きく貢献するなど、実用面でも高く評
価されている。
Inoue, K.,
食料共生シス
Assessment of Well
本研究は、後方粒子追跡法並びにランダ
Uffink, G.J.M.
テム学専攻生
Capture Zones Using
ムウォーク粒子追跡解析を適用して、地
and Tanaka, T.
産環境工学講
Particle Tracking,
下水帯水層の効率的な汚染浄化や汚染防
座
Proceedings of the
止に資する成果である。粒子到達確率に
International Symposium 関わる一連の過程は、当該研究の独創的
on Prediction and
な点であり、学術的意義の高い研究内容
Simulation Methods for
と言える。
Geohazard Migration,
pp.145-151.
草苅 仁・中川聡司 食料共生シス
不完全競争市場における
本論文は、2012年度日本農業経済学会学
テム学専攻食
米作農家の借地行動-取
会誌賞を受賞した。同賞は、学会誌の水
料環境経済学
引費用と不確実性の影響
準を高める顕著な研究業績として、当該
講座
分析. 農業経済研究, 83
年度の学会誌に掲載された最優秀論文1
巻1号, pp. 28-42, 2011
編に与えられるものである。
Lee, J., Ogushi, 資源生命科学
Condensins I and II are Molecular Biology of the Cell誌は、
S., Saitou, M.
専攻応用動物
essential for
Impact Factorが常に5以上(2010年度
and Hirano, T
学講座
construction of
Impact Factor、 5.861)の、当該分野に
bivalent chromosomes in おいて高い評価を受ける学術雑誌であ
mouse oocytes. Mol.
る。また、論文に関わる写真が掲載号の
Biol. Cell, 22, pp.
表紙として採用された。
3465-3477, 2011
Ishikawa, C.,
資源生命科学
Functional
植物生理分野ではトップレベルのPlant
Hatanaka, T.,
専攻応用植物
incorporation of
Physiology誌(Impact Factor, 6.45)に
Misoo, S.,
学講座
sorghum small subunit
掲載された。また、光合成分野の権威で
Miyake, C. and
increases the catalytic あるドイツ・ハノーバー大学Peterhansel
Fukayama, H.
turnover rate of Rubisco 教授がCurrent Opinion in
Okada, K.,
資源生命科学
in transgenic rice.
Biotechnology誌の総説で、光合成の改良
Plant Physiology, 156,
において将来的に有望な技術として研究
pp. 1603-1611, 2011
を取り上げている。
Deletion of a 236 kb
ナシ園の単植化と受粉作業の省力化には
6
神戸大学農学部・大学院農学研究科
自家和合品種の利用が有効で、雌しべ側
Tonaka, N.,
専攻応用植物
region around S4-RNase
Moriya, Y.,
学講座
in a stylar-part mutant S4が変異したS4smハプロタイプを用いた
Norioka, N.,
S4sm-haplotype of
自家和合性品種の育成が進められてい
Sawamura, Y.,
Japanese pear. Plant
る。開発した自家和合性マーカーを用い
Matumoto, T.,
Mol. Biol, 66 (4), pp.
ることによって自家和合性個体を幼苗段
Nakanishi, T. and
389-400, 2008
階で効率的に選抜できるようになった。
Takasaki-Yasuda,
このマーカーはナシの品種育成を行って
T.
いる国公立の研究機関で利用されてい
る。
Yoshida, K.,
生命機能科学
myo-Inositol catabolism 本論文はJ. Biol. Chem.(ISI Impact
Yamaguchi, M.,
専攻応用生命
in Bacillus subtilis. J. Factor 5.581)に掲載された。発表され
Morinaga, T.,
化学講座
Biol. Chem, 283(16), pp. た研究内容はゲノム情報からの推論を実
10415-1024, 2008
Kinehara, M.,
験的により実証し、未知なる代謝系の全
Ikeuchi, M.,
貌を分子レベルで明らかにすると言う精
Ashida, H. and
緻なものであり、ポストゲノム時代の研
Fujita, Y.
究手法の規範ともなっている。これによ
って解明されたイノシトールの分解系は
データベースのリファレンスとして常に
引用されていることも特筆に価する。
Nakagawa, M.,
生命機能科学
Functional analysis of
本研究成果は植物の酵素の前駆体の働き
Ueyama,M.,
専攻応用生命
the cucumisin
と成熟酵素のできる過程を正しく理解す
Tsuruta, H.,
化学講座
propeptide as a potent
る上で重要な発見である。本論文はアメ
Uno,T.,
inhibitor of its mature リカ生化学会誌(Journal of Biological
Kanamaru, K.,
enzyme. J. Biol. Chem,
Chemistry, Impact Factor 5.328, 2010
Mikami, B. and
285, pp. 29797-29807,
年)に掲載された。
Yamagata, H.
2010
Shirai, Y.,
生命機能科学
Direct biding of RalA to ケラチノサイトの分化におけるPKCɳ の
Morioka, S.,
専攻応用生命
PKCh and its crucial
役割を調べたところ、PKC・の活性は表皮
Sakuma, M.,
化学講座
role in morphological
Mol. Biol. Cell
Yoshino, K.,
change during
に掲載された研究成果で、国際的評価の
Otsuji, C.,
keratinocytes
高い雑誌に発表されただけでなく、皮膚
Sakai, N.,
differentiation. Mol.
の分化において新しいコンセプトを提唱
Kashiwagi, K.,
Biol. Cell, 22, pp.
し、今後の創薬及びスキンケア製品の開
Chida, K.,
1340-1352, 2011
発につながると期待されるため、卓越し
(impact factor 6.3)
た水準にあると判断した。
Shirawaka, R.,
Horiuchi, H.,
Nishigori, C.,
Ueyama, T. and
Saito, N.
7
神戸大学農学部・大学院農学研究科
Nakayashiki, H.
生命機能科学
and Nguyen, Q.B. 専攻農環境生
物学講座
RNA interference: roles 本論文は、糸状菌におけるRNAiの機構と
in fungal biology.
応用例についての総説であり、微生物学
Current Opinion in
の世界で一流の国際的なレビュージャー
Microbiolgy, 11, pp.
ナルであるCurrent Opinion in
494-502, 2008
Microbiolgy誌(最近5年間の平均IFは8
を越える)に掲載された。当該分野の理
解に必要な情報がまとめられている。
Morigaki, K.,
生命機能科学
Photo-regulation of
本論文は、Analytical Chemistryという
Mizutani, K.,
専攻農環境生
cytochrome P450
国際誌に投稿されたが、査読者からもほ
Kanemura, E.,
物学講座
activity by using caged とんどが「Excellent」という高い評価を
Tatsu, Y.,
compound. Anal. Chem,
得て、極めて短期間で受理された。本研
Yumoto, N. and
84, pp. 155-160, 2012
究については、産業応用の観点からも知
的財産保護のため特許出願を日本国内お
Imaishi, H.
よび米国で行っている(特願
2009-201187、PCT/JP2010/064567)。特
に国際特許に関しては、JSTより有用性の
審査を経て出願支援を受けている。また、
本研究に関連して多くの招待講演を行っ
ており、中には海外での講演も3件含まれ
ている(2011年アメリカ化学会年会
(Anaheim, USA)、2012年アメリカ化学会
年会 (San Diego, USA)、2012年
“Engineering Lipid Bilayers 2012”
(Leeds, UK))。
Mizuno, N.,
生命機能科学
Autoimmune response and 発表誌The Plant Journalは、ISI Journal
Shitsukawa, N.,
専攻農環境生
repression of mitotic
Citation ReportsのImpact factorが2010
Hosogi, N., Park, 物学講座
cell division occur in
年6.94、2011年6.16の学術雑誌であり、
P. and Takumi, S.
inter-specific crosses
植物科学のリーディング雑誌の1つであ
between tetraploid
る。本論文は、コムギ種間雑種が成立可
wheat and Aegilops
能かどうかを左右するハイブリッドネク
tauschii Coss. that show ローシスに焦点をあてて研究を行ってい
low temperature-induced るが、パンコムギの成立を考察する上で
hybrid necrosis. The
重要なだけでなく、高等植物の倍数性進
Plant Journal, 68, pp.
化における種形成機構に興味のある研究
114-128, 2011
者にとってインパクトのある情報を提供
している。
Iketani, H. and
附属食資源教
Introgression and
本研究成果は史前帰化植物(ニホンナシ)
Katayama, H.
育研究センタ
long-term
から野生種(イワテヤマナシ)への遺伝
ー
naturalization of
子浸透を集団遺伝学的データに基づき明
archaeophytes into
らかにしたものである。これは国内の植
8
神戸大学農学部・大学院農学研究科
native plants
物群では初の研究例となり自生種の遺伝
underestimated risk of
子汚染として朝日新聞の科学欄(全国版)
hybrids. Topics in
にてとりあげられ大きな反響を呼んだ。
Conservation Biology,
またイワテヤマナシの自生集団を特定で
In-Tech Educational and きたことから環境省絶滅危惧種IA類に選
Publishing, Chapter 3,
定された。現在自生地の生息域内保全を
pp. 43-56, 2011
行うべく関係自治体と協議中である。ま
た自生地の一部でもある東日本大震災の
津波被災地に神戸大学大学院農学研究科
で系統保存しているイワテヤマナシを定
植して復興のシンボルとする社会的活動
にもつながっており全国的に報道される
に至った。以上のように本研究成果は学
術的、社会的な両面から評価された。
さらに、以下に掲げるグリーンイノベーション・ライフイノベーションに関係する農工連携・農医連携の
大型研究プロジェクトを推進し、新規バイオ産業の創成および食の安全安心に向けた科学技術の開発などの
研究成果を得ている。
■バイオプロダクション次世代農工連携拠点プログラム
資源・エネルギー問題、環境問題を克服し、安全で持続的に発展できる低炭素循環型未来社会を
実現する上で、再生可能な資源バイオマスから様々なバイオベース製品の生産を行なうバイオリフ
ァイナリーへの転換を図るグリーン・イノベーションの実現を目的とした拠点形成プログラムであ
る。本拠点では、食料と競合しないセルロース系バイオマスから多様な燃料や化学品を高効率に作
り出す「バイオプロダクション技術」を確立し、最終的には化学工場で石油から製造している製品
群をバイオベース製品に大転換することで、大きなパラダイムシフトを目指し、21世紀型の発展「グ
リーン成長」に大きく貢献するものである。
神戸大学のフラッグシップ研究プログラムとして、平成20年度から10年間にわたって研究に取り組ん
でいる。福田学長を拠点長とし、農学研究科14名と工学研究科14名、その他20名が基盤企業群14社と
連携し、神戸大学の独創的な先端技術を統合した6つの「リサーチエンジン」を創成して密接に発展
させた先端融合領域としての「バイオプロダクション」領域を体系化している。つまり、農学が得
意とする、バイオマス増産のための植物育種技術「(1)バイオマスリソース」技術、農工の学際領
域である、バイオマス分解を促進する処理「(2)前処理プロセス」技術や、前処理したバイオマス
を直接発酵して目的物質を高効率生産可能なスーパー微生物育種「(3)細胞工場」技術、それを用
いたバイオリアクター「(4)バイオプロセス」技術、そしてプロダクトの「(6)機能性・安全性
評価」技術、さらに工学が得意とする「(5)分離・化学プロセス」技術である。こうした神戸大学
の独創的な先端技術を統合してバイオプロダクション領域を体系化するための研究を推進している。
9
神戸大学農学部・大学院農学研究科
■メタボローム解析による機能性食物繊維の作用機序解明とその臨床応用に向けた食品開発
ライフイノベーションに関係する農医連携プロジェクトであり、食の安全・安心科学センター(前記
参照)や自然科学系先端融合研究環ヘルスバイオサイエンス重点研究チームを中心に推進されてい
る。ヘルスバイオサイエンス研究は、糖・蛋白質・脂質・フラボノイドなどの様々な食品含有生体機
能分子及びその代謝物の作用機序を、個体、組織、細胞、分子の各階層において多次元的に解析することに
より、生体機能分子の作用メカニズムの理解を進めつつ、研究成果に基づく応用開発の可能性も視野に入
れて研究することを目的とする。すなわち、食品に含まれるべき新規生体機能分子を探索・開発すると共
に、その作用機序を探求する先端的研究を展開することによって、ヘルスバイオサイエンスに斬新な切り
口を拓き、究極的に人類の厚生に貢献するものである。本チームは水野雅史教授をチームリーダーとした
13名の教員で構成され、東京大学食の安全研究センターや(独)農林水産消費安全技術センター、国立
感染研究所、コープ神戸や食品・医薬品会社などと恊働・連携した研究活動を行っており、「2. 最近
の特記事項」に示したとおり、チームリーダーの水野雅史教授が2009年に森喜作賞を受賞するなど、多
くの研究成果を得ている。
10
神戸大学農学部・大学院農学研究科
■地球規模課題対応国際科学技術協力事業「根寄生雑草克服によるスーダン乾燥地農業開発」
平成21年度から5年間のJST-JICA技術協力事業であり、杉本幸裕教授が中心となって推進している。本
研究課題は、①スーダンにおける農業生産を阻害する根寄生雑草ストライガの発芽過程及び養水分収奪
機構に着目して、科学的及び栽培学的アプローチにより、有効な防除法を開発する、②アフリカで導入
が進められているイネのうち、スーダンの栽培条件に適し、かつストライガに抵抗性を示す品種を選抜・
導入する、ことを目的としている。スーダン科学技術大学及び総合地球環境学研究所、大阪大学大学院
工学研究科、鳥取大学乾燥地研究センターと協力連携して、スーダンの食料安定供給及び環境保全につ
いて国際的に貢献している。
◆卓越した教育成果
神戸大学ビジョン2015における「卓越した独自の教育プログラムを通じて、高い見識とグローバルな
視野を有する人間性豊かな指導的人材を育成し、 世界トップクラスの評価を得る教育機関となる」目標
の実現、及び農学部および農学研究科のモットーである「農場から食卓までの食料・環境・健康生命」
と”Think Globally、 Act Locally”を実現するために、国際性に優れた人材を育成するための国際連
携教育プログラム、及び地域に貢献できる人材を育成するための実践型農学教育プログラムを実施して
いる。
<国際性に優れた人材を育成するための国際連携教育プログラム>
グローバルな視野を有する人間性豊かな指導的人材を育成することを目的に、以下の卓越した独自の
国際連携教育プログラムを開発し、実施している。
■教育プログラム(①~⑥)
①文科省「大学教育の国際化推進プログラム(戦略的国際連携支援):アジア農業戦略に資する国際連
携教育の推進」(平成17(2005)年度~平成20(2008)年度)
国際交流協定を締結しているアジア4ヶ国(ベトナム、フィリピン、中国、韓国)の拠点5大学と本
学が密接な教職員コンソーシアムを形成し、「食料・環境・健康生命」に関連する諸問題を解決し、持
続共生を可能とするアジア農業戦略の立案と推進に貢献できる人材育成に向けた先駆的かつ共通性の
高い国際連携教育プログラムを開発して、学生を海外に派遣して英語による国際連携演習科目「熱帯農
学海外演習(ベトナム・ノンラム大学及びハノイ農業大学)」および「アジア農業環境海外演習(フィ
リピン大学ロスバニョス校)」を実施するプログラムである。
1)
平成17年 9 月 20~24 日ノンラム大学(ベトナム)25
名学生・2 名教員派遣
2)
平成18年9月 24~29 日フィリピン大学ロスバニョス
校(フィリピン)9 名学生・2 名教員派遣
3)
平成19年 9 月 17~22 日ハノイ農業大学(ベトナム)
38 名学生・2 名教員派遣
4)
平成20年9月 21~26 日フィリピン大学ロスバニョス
校(フィリピン)15 名学生・2 名教員派遣
11
神戸大学農学部・大学院農学研究科
プログラム終了後も隔年ではあるが、海外農学演習として、ベトナム(ベトナム・ノンラム大学及び
ハノイ農業大学)で継続的に実施している。
5)
平成22年 9 月 13~18 日ノンラム大学(ベトナム)15 名学生・2 名教員派遣
6)
平成25年 3 月 14~21 日ハノイ農業大学(ベトナム)20 名学生・2 名教員派遣
7)
平成26年 9 月 1~19 日ハノイ農業大学(ベトナム)17 名学生・2 名教員派遣
②文科省「国費外国人留学生(研究留学生)の優先配置を行う特別プログラム」(平成19(2007)年度
~平成23(2011)年度)
国費留学生2名と私費留学生2名のMD英語特別プログラムであり、下記の表に示す実績を得ている。
(年度)
H19
H20
H21
H22
H23
H24
博士前期課程国費留学生の受入人数
1
2
2
2
2
1
私費留学生の受入人数
0
2
0
0
0
0
国費留学生の学位取得者数
-
-
1
2
2
2
私費留学生の学位取得者数
-
-
0
2
0
0
博士後期課程国費留学生の進学者数
-
-
1
2
2
2
私費留学生の進学者数
-
-
0
1
0
0
国費留学生の学位取得者数
-
-
-
-
-
1
私費留学生の学位取得者数
-
-
-
-
-
0
③日本学術振興会「インターナショナルトレーニングプログラム(ITP):食料危機に備え資源保全をEU
に学びアジアに活かす国際農業戦略の実践的トレーニング」(平成19(2007)年10月~平成24(2012)
年9月)
ITPは、複数の海外パートナー機関と組織的に連携し、研究生活の初期段階にある若手研究者(博士課
程・修士課程の大学院生、ポスドク、助教等)に対して、海外の研究機関における研究活動を通じ、広
範な基礎的・革新的学術情報、特殊技能・技術、より高度の学術論文作成力及び外国語による研究発表
能力などを獲得させ、学術の将来を担う国際的視野に富む有能な研究者を養成することを目的としたプ
ログラムであり、九州大学大学院農学研究院と協力して実施し、下記の表に示す実績を得ている。神戸
大学派遣者のポスドク2名は派遣後に、助教に採用されている。
H20
H21
H22
H23
合計
神戸大学派遣者数(大学院生)
1
2
1
1
5
(ポスドク)
1
1
1
-
3
(助教)
2
-
-
-
2
九州大学派遣者数(大学院生)
-
1
-
-
1
(ポスドク)
-
-
1
1
2
(助教)
1
-
-
-
1
5
4
3
2
14
合
計
④文科省「大学教育の国際化加速プログラム:アジア農業教育の国際プラットフォーム形成」(九州大
学・神戸大学・東京農工大学)」(平成20(2008)年度~平成22(2010)年度)
12
神戸大学農学部・大学院農学研究科
日・独・タイの複数の大学教員が参加する「国際協働教育プラットフォーム」を設立し、魅力ある大
学院教育プログラムを提供することによってアジア及びEUにおける国際農業開発教育の拠点を形成す
ることを目的としたプログラムである。遠隔セミナーやリレー講義など、共同カリキュラムを開発した。
Present
学内大学院共通科目
(英語による授業)の
調整
神大
ITP
事業
国際協力
イニシアテ
ィブ事業
ITP
事業
MOU
MOU
交換
留学
九大
国内コンソシアム
農工大
MOU
MOU
UHOH Upland
MOU
KU
program
ダブル・
ディグリー
Step 3
Step 2
Step 1
CMU
同盟による
教育連携整備
教育インフラ整備
国際共同教育プラット
フォームの始動
国際共同教育プラット
フォームの展開
複数学位制度
クレジット・トランスファー
プログラムの展開
⑤JICAトレーニングコース「持続可能な農業のためのアグロバイオテクノロジーコース」および「植物
保護のための総合防除コース」
前者は、微生物・高等動植物を利用する分野及び化学物質の検出に関わる分野について,理論と応用
に関する講義や実験技術の実習に加えて最新技術の施設見学を行うことで,開発途上国の研修員が自ら
の国における問題解決を達成し,さらに新たな問題意識を喚起することを目指すことを目標とするプロ
グラムであり、定員5名である。平成22年に東日本大震災による中断はあったものの,平成20年から25
年の間に延べ19カ国,28名の研修員を受け入れた。
後者は、グローバルな見通しと人や環境に優しい総合防除の日本における取り組みを学び,それぞれ
の国の気候条件や経済・社会システムに適した防除システムを計画・実践できる人材の育成を目指すプ
ログラムであり、定員12名である。平成20年から25年の間に延べ42カ国,60名の研修員を受け入れた。
JICA プログラム受入れ人数
[1] 持続可能な農業のためのアグロバイオテクノロジーコース
年度
期間
受入人数
平成 20 年度
平成 21 年 3 月 16 日~8 月 22 日
6名(4か国)
平成 21 年度
平成 22 年 3 月 15 日~8 月 7 日
6名(5か国)
平成 22 年度
東日本大震災のため実施せず
平成 23 年度
平成 24 年 3 月 27 日~7 月 14 日
7名(4か国)
平成 24 年度
平成 25 年 3 月 26 日~7 月 13 日
4名(3か国)
平成 25 年度
平成 26 年 3 月 26 日~7 月 12 日
5名(3か国)
[2] 植物保護のための総合防除コース
年度
期間
受入人数
平成 20 年度
平成 20 年 5 月 26 日~9 月 6 日
13名(9か国)
平成 21 年度
平成 21 年 5 月 25 日~9 月 5 日
11名(7か国)
平成 22 年度
平成 22 年 6 月 14 日~9 月 3 日
11名(10か国)
平成 23 年度
平成 23 年 6 月 6 日~9 月 3 日
11名(7か国)
13
神戸大学農学部・大学院農学研究科
平成 24 年度
平成 24 年 6 月 8 日~8 月 31 日
5名(4か国)
平成 25 年度
平成 25 年 6 月 6 日~8 月 30 日
9名(5か国)
⑥JSPSの“Exchange Program for East Asian Young Researchers”
平成21年度に東アジア地域の若手研究者・技術者を招くJSPSの 標記事業に応募して採択された。その
支援のもと,平成22年度にベトナム,フィリピン,タイから計13名の若手研究者を招き,農業生物資源
の保全と防疫をテーマに,30日間の研修を行った。
■その他
国際性涵養の一貫として、3年次編入学試験及び大学院博士前期課程入学試験に平成23(2011)年よ
りTOEFL-ITP 試験を導入している。
<地域に貢献できる人材を育成するための実践型農学教育プログラム>
学部のモットーである「農場から食卓までの食料・環境・健康生命」と”Think Globally、Act Locally”
学部専門教育において実現するために、1年次必修科目として「食の倫理」および「緑の保全」の導入教
育を実施している。さらに、兵庫県農林環境部との連携講義「兵庫県農業環境論」、神戸大学農学部の
前身である兵庫農科大学に発祥地である兵庫県篠山市と連携した「実践農学」などの地域連携教育を推
進している。これらの実践型農学教育プログラムは、「2. 最近の特記事項」に示した平成21年度から3
年間に実施された教育GPプログラム「食農コープ教育による実践型人材の育成」が基礎となり、終了後
には神戸大学ESD教育プログラムとして全学的規模で実施されている。さらに、学部及び博士前期課程学
生を対象とする「海外農学演習(ベトナム)」国際連携教育(前述の教育プログラム①の継続実施)な
ど、多彩な実践型農学教育プログラムを提供している。また、附属食資源教育研究センターにおいても、
農場実習・牧場実習、学生実験・演習などの実践を重視した教育を推進している。
こうした実践型農学教育プログラムの成果は、学生の専門性を活かした就職先の選択や研究のモチベ
ーション向上に役立っている。
<多くの資格取得可能なカリキュラム>
農学のカリキュラムには、以下のように多くの資格が取得できるカリキュラムが整備されている。
1) 「技術士補」(日本技術者認定機構(JABEE)認定プログラム:食料環境システム学科生産環境工学
コース地域環境工学プログラム)
2)
「測量士補」(食料環境システム学科生産環境工学コース地域環境工学プログラム)
3) 「食品衛生管理者・食品衛生監視員」(食品衛生課程:資源生命科学科応用動物学コース及び生命
機能科学科応用生命化学コース)
4)
「樹木医補」(資源生命科学科応用植物学コース及び生命機能科学科環境生物学コース)
5)
「実験動物技術者」資格取得に関わる授業科目(資源生命科学科応用動物学コース)
「家畜人工授精に関する講習会」、「家畜人工授精及び家畜体内受精卵移植に関する講習会」、「家
畜人工授精並びに家畜体内受精卵移植及び家畜体外受精卵移植に関する講習会」に関連する授業科目
を設定している。
平成20~24年度における各有資格者数は以下の表の通りである。
14
神戸大学農学部・大学院農学研究科
学 科 (※)
平成20年度 平成21年度 平成22年度 平成23年度 平成24年度
応用動物学科 (応用動物学コース)
22
17
20
18
20
食品衛生課程修了者
生物機能科学科 (生命機能化学コース)
15
15
20
19
18
37
32
40
37
38
計
食料生産環境工学科 (地域環境工学プログラ
測量士補登録申請有資格者
19
15
16
14
15
ム)
JABEEプログラム修了生
食料生産環境工学科 (地域環境工学プログラム
16
12
15
14
15
<大学院における卓越した教育成果>
博士課程前期課程の修士学位取得率,後期課程の3年以内での博士学位取得率もそれぞれ 96%及び 5
9%と高い。学生の研究に関わる論文及び学会発表は毎年多数あり,各種の賞も多数受けていることか
ら,学生が身に付けた学力や資質が高いレベルにあり,学習成果が十分上がっていると考えられる。
1)修士学位取得状況
修士の学位を授与した者の割合は 96%であり、極めて高い取得率である。
生産環境工学 食料環境経済
応用動物
応用植物
応用生命科学 農環境生物
合計
学位授与率
平成21年度
18/18
6/8
20/21
23/24
31/32
18/22
116/125
93%
平成22年度
20/21
2/6
28/29
25/26
35/35
28/32
138/149
93%
平成23年度
22/22
6/7
23/23
18/18
29/29
27/28
125/127
98%
平成24年度
20/21
3/4
19/ 19
22/25
26/26
24/28
114/123
93%
平成25年度
合 計
2)博士学位取得状況
平成 19 年度に自然科学研究科から農学研究科に改組されたため,平成 20 年度には早期修了2名が学
位を取得しており,平成 21~23 年度の3年間における課程博士の学位取得者数は9〜15 名,合計 37 名
であった。通常3年で学位を取得するとして 19~21 年度の3年間の全入学者数は 63 名であり,59%の
学生が学位を取得したと見積もられる。3年間での学位取得率は,学位授与機構の「大学情報データベ
ースから得られる国立大学法人の集計値(H18 年度データ)」によれば 25%(農学系は 38.5%)であり,
59%は高い値と判断できる。3年を超えた学位取得率(在学中・休学中の学生を除く)は 74%である。
平成 20年 度
平成 21年 度
平成 22年 度
平成 23年 度
平成 24年 度
平成 25年 度
合 計
課程博 士取得者(A) 対象年度の入学者数(B) 学位授与率(A/B)
2
8%
25
15
60%
9
20
45%
11
18
61%
17
13
76%
54
76
平成19年度入学
平成20年度入学
平成21年度入学
平成22年度入学
平成23年度入学
59%
3)早期修了者
博士課程前期課程・後期課程で優秀な成績を修めた者に対しては早期修了制度を適用しており,前期
課程では平成20~23年度の間,早期修了者数はいなかったが,後期課程では7名あった
食料共生システム学
生産環境工学 食料環境経済
平成 20年度
平成 21年度
平成 22年度
平成 23年度
平成 24年度
平成 25年度
合 計
資源生命科学
応用動物
応用植物
生命機能科学
食料生産
フィールド
1
応用生命科学 農 環境生物
1
3
0
0
1
1
1
4
1
15
1
1
0
合計
2
3
0
2
1
0
8
神戸大学農学部・大学院農学研究科
4)著書・論文,学会での発表状況
平成 20~23 年度に学生が共著者となっている著書及び論文数は 170〜198 件/年であった。学会等に
おける発表数は 336〜429 件/年であり,このうち 43〜88 件/年は海外における発表であった。また,
学生の学会・調査等による海外度航数は 17〜25 件/年であった。
《学会誌等での論文発表状況》
《学会等での研究発表状況》
《論文及び学会発表に対する受賞状況》
《学生の学会・調査等による海外度航数》
年度
20
21
22
23
学生の海外渡航数
17
20
25
21
24
《日本学術振興会特別研究員 DC1,DC2 の採択状況》
年度
20
21
22
23
24
件数
3
2
3
3
2
DC1 DC2
1
2
0
2
1
2
2
1
0
2
5)受賞数,特許取得数
発表した論文や学会発表に対して賞を多数受けている。在学時の研究活動に関連した特許の取得にも
関与している(平成 20 年度 1 件,21 年度 3 件,22 年度 1 件,23 年度 2 件)。
6)日本学術振興会特別研究員
平成 20~24 年度の間,毎年 2〜3 名の博士課程後期課程の学生が日本学術振興会特別研究員 DC1 また
は DC2 に採用されている。
<1日で来場者2,000名近いオープンキャンパスの実施>
下の表に示すとおり、過去3年間のオープンキャンパス来場者数は、1日で2,000名近い高校生が来場す
16
神戸大学農学部・大学院農学研究科
る盛況ぶりを誇っている。入学者の約40%がオープンキャンパス経験者であり、こうした数は、志願者数
の増加にかなり影響していると考えられるため、広報活動とに重点的に取り組んでいる。
年度
実施日
学生数(名)
保護者数(名)
合計(名)
志願者数(名)
平成20(2008)
8月9日
1,000
100
1,100
783
平成21(2009)
8月12日
780
350
1,130
716
平成22(2010)
8月11日
1,800
450
2,250
938
平成23(2011)
8月11日
1,800
500
2,300
844
平成24(2012)
8月9日
1,800
400
2,200
-
2.最近における特記事項
◆平成 20 年(2008 年)
2008.10.10: 朴杓允教授(現在名誉教授)が井植文化賞を受賞
2008.10.17:
日本学術振興会 ITP プログラムの採択(2007.10.1~2012.09.30)の一環として、ブルガ
リアの雑誌 B&BE (Biotechnology & Biotechnological Equipment ; Bulgarian
Journal)、 DIAGNOSIS PRESS に農学研究科の研究内容の紹介文が掲載
2008.11.07:
金沢和樹教授が兵庫県科学賞を受賞
2008.12.17:
石井弘明准教授が日本農学進歩賞を受賞
◆平成 21 年(2009 年)
2009.02.03: 大学教育の国際化加速プログラム「アジア農業教育の国際プラットフォーム形成」(九
州大学・神戸大学・東京農工大学)の日・独・タイの大学連携調印
2009.04.01:
教育 GP プログラム「食農コープ教育による実践型人材の育成」が採択(3 年間)
2009.04.01: 地球規模課題対応国際科学技術協力事業「根寄生雑草克服によるスーダン乾燥地
農業開発」が採択(5 年間)
2009.08.17:
田中丸治哉教授が農業農村工学会賞学術賞を受賞
2009.08.20:
水野雅史教授が森喜作賞を受賞
◆平成 22 年(2010 年)
2010.02.10:
眞山滋志名誉教授ら編集の「植物病理学」が発刊
2010.03.02:
中村千春教授 (理事・副学長) にブルガリア農業アカデミー名誉博士号が授与
2010.03.28:
万年英之教授が日本畜産学会賞を受賞
2010.03.28:
本多健助教が日本畜産学会奨励賞を受賞
17
神戸大学農学部・大学院農学研究科
2010.05.13: 食料環境システム学科食料生産環境工学コース「地域環境工学プログラム」がJABEE(日
本技術者教育認定機構)の平成16 年新規審査(5年間認定)に引き続いて、平成21年継
続審査により6年間認定を獲得
2010.06.18: 日本学術振興会「若手研究者交流支援事業~東アジア首脳会議参加国からの招へい~」
の採択プログラム「食料危機回避に向けた東南アジア動植物資源保全・防疫若手研
究者ネットワークの形成」 のオリエンテーションを開催
◆平成 23 年(2011 年)
2011.03.27:
笹崎晋史講師が日本畜産学会奨励賞を受賞
2011.04.28:
万年英之教授が日本農学賞・読売農学賞を受賞
2011.08.01:
生命機能科学科環境生物学コースにおいて、科学技術振興機構(JST)が高校生を対象と
する先進的科学技術の体験型合宿「サマーサイエンスキャンプ 2011:植物の力で環境
を浄化しよう」を実施(3 日間)
2011.09.01: 神戸大学食の安全・安心科学センターと東京大学食の安全研究センターとの共同フォー
ラム「食の機能性・安全性、そして安心を科学する」を開催(2 日間)
◆平成 24(2012)年
2012.01.24: バイオプロダクション次世代農工連携拠点プログラムが「先端融合領域イノベーション
創出拠点形成」プログラムに採択
2012.01.24:
万年英之教授が平成 24 年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(開発部門)
を受賞
2012.08.01:
昨年に引き続き、生命機能科学科環境生物学コースにおいて、科学技術振興機構(JST)
が高校生を対象とする先進的科学技術の体験型合宿「サマーサイエンスキャンプ 201
2:植物の力で環境を浄化しよう」を実施(3 日間)
2012.09.20: 神戸大学食の安全・安心科学センターと東京大学食の安全研究センターとの共同フォー
ラム「日本の食の安全を考える」を開催(2 日間)
3.地域貢献
◆神戸大学ブランド
附属食資源教育研究センターでは以下の商品を「神戸大学ブランド」として世に送り出してきた。
・神大のおこめ
・神大のたまねぎ
・「はいいぶき」(玄米)
・神大のなし
・神大のきゃべつ
・神大のぶどう
・「神戸の香」(酒)
・神大のばれいしょ
・「らんらんチップス」(スナック菓子)
・神戸大学ビーフ
18
神戸大学農学部・大学院農学研究科
これらの「神戸ブランド」を販売することで、農学研究科のみならず神戸大学の広報に貢献してい
る。
生産物の販売方法には現在も工夫を重ねており、平成 23 年度からは新規導入した精米機と色彩選別
機を活用し、それまで玄米 30 kg でしか販売してこなかったコメを小包装にして白米でも販売するこ
ととした。このことで、近隣に精米所のない都会の家庭へも「神大のおこめ」を届けることが実現し、
消費者との距離をまた一歩縮めることができた。
《表:生産物の収量と総収入の推移》
作目(単位)
H20 年度
H21 年度
H22 年度
H23 年度
玄米(kg)
43,055
41,145
40,130
40,394
バレイショ(kg)
6,551
6,769
1,694
2,500
サツマイモ(kg)
1,883
1,801
2,048
1,888
ダイズ(kg)
863
503
337
461
キャベツ(kg)
5,403
6,030
620
3,750
タマネギ(kg)
3,287
3,383
3,711
2,627
ナシ(kg)
3,752
4,774
1,645
2,993
ブドウ(kg)
2,237
1,948
1,834
2,320
カキ(kg)
3,357
1,233
1,233
304
肥育牛(頭)
22
23
20
22
廃用雌牛(頭)
2
2
1
0
子牛(頭)
4
13
0
5
総収入(千円)
43,842
40,565
32,675
34,838
◆兵庫県篠山市との連携
附属地域連携センターを中心に、神戸大学農学部発祥の地である兵庫県篠山市と連携協力して、フ
ィールドステーションを設置し、地域農業などに関するシンポジウムや相談会を開催している。さら
に、平成21(2009)-23(2011)年度の教育 GP プログラム「食農コープ教育」およびその後の ES
D「実践農学」教育プログラムの実施において、篠山市真南条上営農組合などと協力して実践的農学教
育を実施しているほか、附属食資源教育研究センター教員がネオデリシャスの栽培法を指導し、ネー
ミング「丹波の赤ジャガ」の考案からパッケージングまで制作するなど、生産販売に協力した結果、
新しいブランド商品として定着するなどの具体的成果をあげている。
◆東日本大震災復興支援プロジェクト
附属食資源教育研究センター片山寛則講師を中心に、東日本大震災被災地の復興を願い、平成23
19
神戸大学農学部・大学院農学研究科
(2011)年度から神戸大学復興支援プロジェクト「校庭にイワテヤマナシの花を咲かせよう」を展開
している。平成24(2012)年 3 月には農学研究科長や片山講師らが参加して岩手県の吉里吉里小学
校、高浜小学校、宮古水産高校にて、生徒たちと復興祈念植樹を行った。これら一連の活動は朝日新
聞夕刊(時平成24(2012)年 3 月 17 日)や、読売、日経、毎日、岩手日報、神戸の各新聞にも取り
上げられ、共同通信社から全国に配信された。
◆公開講座
年度
実施日
H20(2008)
11 月 1 日
公開講座タイトル
参加者数
生き物のつながりをゲノムから眺めたら~インターゲノ
86 名
ミクスで拓くこれからの農学~
H21(2009)
9 月 26 日
農学がめざす食料、環境と健康生命-研究室を覗いてみま
70 名
せんか-
H22(2010)
9 月 25 日
大学の地域貢献と農業・農村の再生
53 名
H23(2011)
9 月 10 日
これからの日本の農を考える
64 名
H24(2012)
9月8日
“農業と遺伝資源” 未来への架橋となる動植物の多様性
47 名
◆地域企業との共同研究
年度
相手方
教員名
研究題目
平成 24(20
カネカ
金丸研吾准教授
コンパニオンフランツの機能解明と植物
12)年度
成長促進剤への応用展開
関西鉄工
伊藤博通准教授
薬用植物の植物工場生産技術の開発
宇野雄一准教授
平成 23(20
住友電工ハードメ
11)年度
タル
篠山市
井原一高助教
ダイヤモンド電極を用いた電気化学反応
による水質浄化プロセスの開発
金子治平教授
篠山市観光の市内への経済波及効果の推
計
全国農業共同組合
黒木信一郎助教
タマネギ腐敗球非破壊判別技術の開発
連合会兵庫県本部
(平成 23(2011)年度及び平成 24(2012)年度において、相手方が兵庫県内に在住のもの)
4.各界・メディア等で活躍している教員・卒業生
◆教員
20
神戸大学農学部・大学院農学研究科
万年英之教授(資源生命科学専攻応用動物学講座)
万年教授は、DNA による牛肉判別技術に関して、平成22(2010)年 11 月の新聞各紙(京都新聞
11/22 朝刊、神戸新聞 NEWS11/21、東京新聞 11/22)に大きく取り上げられたほか、平成22(2010)
年 3 月日本畜産学会賞、平成23(2011)年 4 月に日本農学賞・読売農学賞の受賞、平成24(2012)
年 4 月に文部科学大臣表彰科学技術賞(開発部門)など、多くの賞を受賞している。
乾秀之講師(自然科学系先端融合研究環遺伝子実験センター;生命機能科学専攻農環境生物学講座)
科学雑誌「Newton」(平成22(2010)年 7 月 26 日発売)内の積水化学広告ページに、「ウリ科植
物の学ぶ土壌浄化法(ファイトレメディエーション)」の研究内容が掲載された。
片山寛則講師(附属食資源教育研究センター)
片山講師が中心となった東日本大震災復興支援プロジェクト「校庭にイワテヤマナシの花を咲か
せよう」の活動は、朝日新聞夕刊(平成24(2012)年 3 月 17 日)の 1 面トップ記事として大きく
取り上げられ、その他、読売、日経、毎日、岩手日報、神戸の各新聞にも取り上げられ、共同通信
社から全国に配信された。
山崎将紀准教授(附属食資源教育研究センター)
山崎准教授は、名古屋大学の浅野研究員(現在北海道農業研究センター)等と共同して、古代人
が栽培イネを背の低さで選抜していたことを遺伝子レベルで解明し、米国科学アカデミー紀要
(PNAS)に掲載された。この内容は、平成23(2011)年 6 月の新聞各紙に大きく取り上げられた。
金沢和樹教授(生命機能科学専攻応用生命化学講座)
医薬品開発支援のインクリース研究所が、従来は捨てられていたタマネギの外皮から、金沢教授
の開発による製法で、「ケルセチン組成物」を抽出し、化粧せっけんやローションを製造・販売し
ていることを、神戸新聞朝刊(平成24(2012)年 5 月 21 日)で取り上げている。
草苅仁教授(食料共生システム学専攻食料環境経済学講座)
兵庫県環太平洋連携協定 (TPP)対策検討委員会において、TPP に日本が参加すると、兵庫県内の
農家数や耕地面積が平成32(2020)年に最悪で 6 割減少するとの予測をまとめ、同委員長の草苅教
授は「消費者ニーズを踏まえて高付加価値化と低コスト化を後押しするしかない」と訴えたとの記事
が神戸新聞朝刊(平成24(2012)年 7 月 3 日)に掲載された。
土佐幸雄教授(生命機能科学専攻農環境生物学講座)
土佐教授研究室所属の留学生ヴ・ティ・ビ・ハウ博士が発見したサザンカ酵母をもとに、神戸大学
は沢の鶴と共同で古代米「赤米」を原料にした日本酒「茜彩(あかねいろ)」を開発し、平成22
(2010)年 11 月に全国発売した。これは、沢の鶴と神戸大学、灘区役所の共同研究「灘区発、灘の
酒物語創出プロジェクト」をスタートさせ、発売に至ったものである。こうした内容は、平成22
(2010)年 11 月 8 日の神戸新聞に取り上げられた。沢の鶴はハウ博士の功績に感謝してベトナム留
学生に平成24(2012)年から研究助成金を与える制度を開始し、多くの新聞で取り上げられた。
21
神戸大学農学部・大学院農学研究科
伊藤一幸教授(資源生命科学専攻応用植物学講座)
平成21(2009)年 9 月 7 日の NHK 番組「クローズアップ現代」に出演し、「スーパー雑草(除草
剤抵抗性雑草)の驚異」についてわかりやすく説明した。
内田一徳教授(食料共生システム学専攻生産環境工学講座)・高田理教授・草苅仁教授・小野雅之教授(同
専攻食料環境経済学講座)
学識経験者として兵庫県や神戸市の各種審議会委員に参画している。
◆卒業生
佐々木蔵之介(本名:佐々木秀明)
俳優、昭和63(1988)年農学部入学、平成4(1992)年農学部卒業。平成24(2012)年 10 月
26 日に日本テレビ「アナザースカイ」で六甲台地区キャンパス訪問の様子が放映された。
向井文雄
和牛登録協会会長,神戸大学名誉教授。
22
神戸大学農学部・大学院農学研究科
附属食資源教育研究センター
1.他大学や他学部等にない独自性(強み)
附属食資源教育研究センター(以下「食資源センター」とする)は兵庫県加西市に位置し、①農学部、
農学研究科及び学内外の研究機関等と連携して、動植物資源開発から生産までに関わる実学の教育研究
及び実習を行うこと、②特に、循環型社会の実現、多様な生物資源の持続的利用に関する教育研究を行
うこと、③アグロバイオサエンス(農生命環境科学)の進展並びに地域及び国際社会党に寄与すること、
を目的としている。
今後は、附属食資源教育研究センターを拠点化して、農学部・農学研究科のモットーである「農場か
ら食卓まで(From Farm To Table)の食料・環境・健康生命」に関わる諸問題解決に向けた教育研究を強
力に推進して、神戸大学ビジョン2015を実現すべく努力したいと考えている。
◆卓越した教育研究組織
食資源センターは生産フィールド部門、資源開発部門、連携利用部門の3部門で構成されている。資源
開発部門は研究活動の主軸であり、部門下の植物資源開発分野は植物遺伝資源の収集・保存・評価、新
たな農業機能の探索・評価に重点を置いた教育研究を、動物資源開発分野は動物遺伝資源の遺伝的評価、
特に和牛の効率生産と持続的利用に重点を置いた教育研究を特徴としている。
《食資源教育研究センターの組織構成》
また食資源センターは、生産フィールド部門に配置された技術員組織である生物生産技術班を中心と
して、教育研究活動の基盤となる実際規模の農業生産活動を行っている点が特徴である。同部門は、資
23
神戸大学農学部・大学院農学研究科
源開発部門が開発した育種素材の特性評価と管理、遺伝資源や循環型持続農業体系に関する研究活動支
援に加え、農牧場実習や特色ある生産物の企画・生産を行っている。
連携利用部門は、地域または他の教育研究機関との共同研究、農業関連民間企業や地場産業との連携・
受託研究など、研究プロジェクトの企画と推進を目的としている。また、センター事務室は教育研究全
般にわたる支援から、施設の維持管理や生産物の販売まで多岐にわたる業務を担当している。
食資源センターには平成24年7月1日現在、教員8名(うち専任4名)、技術員13名、事務員5名(うち非
常勤2名)が在籍している。平成19年4月の大学院改組により、食資源センターは農学部附属施設から大
学院農学研究科附属施設となり、4名の専任教員は資源生命科学専攻応用植物学講座の「植物遺伝資源開
発学」教育研究分野と同専攻応用動物学講座の「動物遺伝資源開発学」教育研究分野にそれぞれ配置さ
れている。また、大学院改組に伴って設置された自然科学系先端融合研究環において、センター専任教
員全員が重点研究チーム「ゲノム育種研究」に参画している。
《農学研究科における食資源教育研究センター専任教員の配置》
専
攻
講
資源生命科学
座
教育研究分野
所属教員
応用植物学
植物遺伝資源開発学
山崎将紀准教授、片山寛則講師
応用動物学
動物遺伝資源開発学
大山憲二教授、本多健助教
◆卓越した研究成果
以下に述べるように、食資源センター専任教員の 50%にあたる 2 名が学会の奨励賞を受賞しており、
さらに学術的ならびに社会的にもインパクトのある業績の発表もあることから、研究成果は客観的にも
高い水準にあり、期待される水準を上回ると考えられる
食資源センター専任教員の研究対象は、ナシ、イネ、ウシと様々であるが、いずれも遺伝育種学的ア
プローチにより多様な遺伝資源の持続的利用に関する研究を行っている点は共通している。
平成 20 年度から 23 年度までに食資源センター専任教員が発表した学術論文、学術講演数を下表に示
した。平成 21 年度末をもって教員 1 名が退職し、現在は専任教員 4 名体制となっている。公表論文数
は年度による変化が大きいが、ほとんどの学術論文が評価の高い国際誌に発表されている。
《学術論文(著書を含む)の公表数並びに学術講演数》
項
目
H20 年度
H21 年度
H22 年度
H23 年度
学術論文数(含む著書)
5
3
11
13
その他の学術論文
1
1
1
1
学術講演(国内)
16
12
13
17
学術講演(国際)
0
6
4
0
これまでの研究成果が認められ、食資源センターの若手専任教員に日本育種学会奨励賞と日本畜産学
会奨励賞が、それぞれに授与されている。
24
神戸大学農学部・大学院農学研究科
《食資源センターの教員に対する学会賞等》
賞
受賞課題
日本畜産学会奨励賞
「黒毛和種の遺伝的多様性に関する研究」(平成 22 年 3 月)
日本育種学会奨励賞
「穀物における選抜遺伝子および農業形質関連遺伝子の解析手
法の開発」(平成 24 年 3 月)
さらに食資源センターを代表する研究業績として、下表に示した学術論文と著書があげられる。これ
らはそれぞれ学術的意義と社会、経済、文化的意義で S 評価(優秀)を付した業績である。以下にその
概要と評価の判断となる理由を示す。
《食資源センターを代表する研究業績一覧》
種
別
原著論文
分類
S
業
績
Asano, K.*, Yamasaki, M.*, Takuno, S., Miura, K., Katagiri, S.,
Ito, T., Doi, K., Wu, J., Ebana, K., Matsumoto, T., Innan, H.,
Kitano, H., Ashikari, M. and Matsuoka, M. (2011): Artificial sele
ction for a green revolution gene during japonica rice domesticati
on.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the
United States of America, 108, pp. 11034-11039. (*: equally cont
ributed)
著書
S
Iketani, H. and Katayama, H. (2012): Introgression and long-term
naturalization of archaeophytes into native plants underestimated
risk of hybrids. Topics in Conservation Biology, In-Tech Educat
ional and Publishing, Chapter 3, pp. 43-56.
S 評価とした学術論文では、「緑の革命」のきっかけとなった半矮性遺伝子 Semi-dwarf1 について検
討し、数千年前の古代の人々が野生イネを栽培イネへ改良する過程で、この Semi-dwarf1 遺伝子が変異
した個体、つまり草丈が低くなるイネを選抜し、積極的に栽培していた可能性が高いことを明らかにし
た。これは従前のイネの進化の常識を覆す発見であり、その成果は Proceedings of the National Academ
y of Sciences of the United States of America(PNAS)に掲載された。PNAS のインパクトファクター
は 9.771(2010 年)と高く、また別の科学雑誌である Science 誌にも論評され、海外の新聞や科学誌から
も計 3 件の取材があった。一方、日本の新聞社からも多数取材があり、日本の主要 3 大新聞も含めて、
計 5 誌以上に本研究内容が紹介された。
一方、S 評価とした著書はイワテヤマナシ自生集団の保全に向けて集団遺伝構造解析例を示したもの
である。ここでは北上山系のイワテヤマナシ自生集団を特定し、史前帰化植物であるニホンナシがイワ
テヤマナシ自生集団に遺伝子浸透したことを研究結果から類推している。本結果は史前帰化植物(ニホ
ンナシ)から野生種(イワテヤマナシ)への遺伝子浸透を集団遺伝学的データに基づき国内の植物群で
初めて明らかにしたものであり、自生種の遺伝子汚染として朝日新聞の科学欄(全国版)にて取り上げ
られ、大きな反響を呼んだ。また、イワテヤマナシの自生集団を特定できたことから、環境省絶滅危惧
種 IA 類に選定されるきっかけとなった。現在、自生地の生息域内保全を行うべく、関係自治体と協議
中である。また、自生地の一部でもある東日本大震災の津波被災地に神戸大学大学院農学研究科で系統
25
神戸大学農学部・大学院農学研究科
保存しているイワテヤマナシを定植して、復興のシンボルとする社会的活動にもつながっており、全国
的に報道されるに至った。以上のように本研究成果は学術的、社会的な両面から評価された。
食資源センター専任教員が代表となって科学研究費補助金等の外部資金を獲得した研究課題数とその
獲得金額を下表に示した。平成 22 年度は比較的大型の課題があったため金額が突出しているが、平成 2
3 年度も 7 件の研究課題の代表となっており、着実に研究費の獲得が進んでいる状況がうかがえる。
《外部資金獲得の代表件数と獲得金額》
項
目
H20 年度
H21 年度
H22 年度
H23 年度
4
4
3
2
1
1
1
1
3
3
8
6
15,032
12,756
45,278
14,383
科学研究費補助金 申請数
〃
獲得数
その他補助金の獲得数
獲得金額(千円)
■共同利用、共同研究の実施状況
食資源センターの施設を利用した学内の研究支援の一覧を下表に示した。この一覧には食資源センタ
ー外からの依頼に対し、センター教員の個人的な判断のもとで実施した活動は含まれていない。この表
からは比較的特定の教育研究分野の長期の利用が多いことがうかがわれ、より開かれた食資源センター
の実現には施設の利用に関する敷居を低くする必要があると考えられる。一方、近年は工学研究科の研
究にも食資源センターが利用されるようになっており、農学研究科の枠にとらわれない学内の共同利用
施設としての役割も少しずつ果たせるようになってきている。
《学内における研究支援活動一覧》
期間
テーマ他
H20.4 ~ H24.3
応用植物学講座果樹園芸学:「ナシの育成に関する研究」
H20.4 ~ H24.3
農環境生物学講座土壌学:「石炭灰の緑化資材および農業分野等へ
の有効利用に関する共同研究」
H20.5 ~ H22.3
農環境生物学講座昆虫多様性生態学:「実験試料とするオサムシ科
甲虫の採取」
H20.6 ~ H20.10
生産環境工学講座生産システム工学:「水田の凸凹と品質・収量な
H21.5 ~ H21.10
どの関係調査」
H22.10 ~ H22.10
H21.12 ~ H22.2
生産環境工学講座生産システム工学:「耕盤をそろえる冬季ロータ
H22.4 ~ H22.12
リー耕の効果の検証」
H20.6 ~ H20.10
生産環境工学講座生産システム工学:大学院講義『栽培行程論』-
水田の凸凹と生育の関係調査、コンバインと田植機の簡易分解
H23.1
生産環境工学講座土地環境学:「ため池改修技術の研究開発に関す
る地盤材料混合予備試験の実施」
H23.5 ~ H24.3
工学研究科機械工学専攻:「農業ロボットに関する共同研究」
26
神戸大学農学部・大学院農学研究科
H23.5 ~ H24.3
農環境生物学講座昆虫多様性生態学:「里山環境に生息する天敵寄
生蜂類の解明」
H23.12
工学研究科機械工学専攻:「UGV の走行制御・認識技術に関する研
究」
■共同利用、共同研究の成果
近年の実習教育に関するトピックとして、日本酒の醸造実習があげられる。神戸大学は産学連携を実
現した商品として、栽培した酒米を用い純米大吟醸酒「神戸の香」を企画しているが、酒蔵である富久
錦株式会社(加西市)の協力により平成 23 年度には農学部と農学研究科の学生による醸造実習を行う
ことができた。学生は最後の試飲まで参加することで、酒造りの全体像を理解し、自らの研究が果たす
役割も体験的につかむことができたと考えられる。このような教育面での効果に加え、酒造実習は「神
戸の香」のブランド力の向上にもつながり、神戸新聞社の取材を受け記事として紹介された。
◆卓越した教育成果
食資源センターの教育活動の柱となる実習教育に関し、平成 24 年度博士課程前期課程の学生を対象
としてアンケートを実施した。受講後数年を経過した学生にアンケートを実施したのは、ある程度の時
間をおくことで実習に対し、より客観的な評価が行えると考えたためである。その結果は下表に示すよ
うに農牧場実習を履修したことが高く評価されており、農学を学ぶ上でこの実習が必要であると多くの
卒業生が回答した。また、この実習を通じて学生間の親睦が図れる効果もあると考えられた。
《実習に関する学生アンケート集計結果》
選択枝
応用動物学
応用植物学
農環境生物学
全コース*
Q1.農牧場実習を受けてよかったと思いますか?
5(はい)
20 人(95%)
21 人(88%)
6 人(50%)
49 人(80%)
4
1 人( 5%)
2 人( 8%)
5 人(42%)
10 人(16%)
3
0 人( 0%)
0 人( 0%)
1 人( 8%)
1 人( 2%)
2
0 人( 0%)
0 人( 0%)
0 人( 0%)
0 人( 0%)
1(いいえ)
0 人( 0%)
1 人( 4%)
0 人( 0%)
1 人( 2%)
Q2.農学を学ぶ上で実習は必要だと思いますか?
5(はい)
17 人(81%)
19 人(79%)
7 人(58%)
43 人(70%)
4
4 人(19%)
4 人(17%)
5 人(42%)
16 人(26%)
3
0 人( 0%)
0 人( 0%)
0 人( 0%)
0 人( 0%)
2
0 人( 0%)
0 人( 0%)
0 人( 0%)
0 人( 0%)
1(いいえ)
0 人( 0%)
1 人( 4%)
0 人( 0%)
2 人( 4%)
Q3.今の自分の研究を遂行する上で、実習で経験したことが役に立っていると思いますか?
5(はい)
4 人(19%)
3 人(12%)
1 人( 8%)
8 人(13%)
4
4 人(19%)
5 人(21%)
0 人( 0%)
9 人(15%)
27
神戸大学農学部・大学院農学研究科
3
8 人(38%)
9 人(38%)
5 人(42%)
24 人(39%)
2
3 人(14%)
2 人( 8%)
3 人(25%)
9 人(15%)
1(いいえ)
2 人(10%)
5 人(21%)
3 人(25%)
11 人(18%)
* 応用生命化学・生産環境工学コースの履修者を含む
アンケートの自由記述欄には実習を有意義に感じ、その必要性を述べる意見が大多数であった。また、
大阪府立大学の「動植物系教育融合による食の教育プログラム」報告書(平成 24 年 3 月)においても、
食資源センターでの実習を有意義に感じている学生のアンケートが多数掲載されている。一方、例えば
Q2 において「分野によるが、自分の研究にはそれほど必要ないかと思った」、Q3 において「ウイルス
の研究をしているので無関係だから」、「実習で体験したこととはあまり関係のない研究だから」など
の意見も寄せられたように、大学院生の現在の研究生活において、農牧場実習での経験が直接活かされ
ている場面が必ずしも多くない現状も明らかになった。農学に関わる限りどのような分野であっても農
業が無関係である訳はなく、実習を通してその関連性を意識させられなかったことが反省点である。
<農牧場実習の成果>
教育活動の主幹である農牧場実習は、農学部 3 学科 6 コースすべてで実施され、農繁期を中心に年間
55 日程度の実習教育が行われている。
平成 20 年度の農学部改組に伴い、農牧場実習の再編が行われた。これまで農場実習の科目設定がなか
った応用生命化学コースの学生も選択科目として履修できるようになり、農学部の全 6 コースに対して
農牧場実習が履修科目として開講された。平成 20〜23 年度における農牧場実習の受講者数を下表に示す。
《農牧場実習の受講者数》
科
目
単位
コース・学科他
種別
H20
H21
H22
H23
農場実習Ⅰ
2
応用植物学 2 年
必修
42
34
32
30
農場実習Ⅱ
3
植物資源学 3 年
必修
38
42
-
-
農場実習Ⅱ
2
必修
-
-
46
44
農場実習
生物環境制御学 3 年
必修
45
39
1
-
2
食料生産環境工学 3 年
選択
7
10
-
-
農環境生物学 3 年
必修
-
-
31
32
選択
-
-
25
17
応用植物学 3 年
食料環境経済学 3 年
農場実習
2
農場実習
1
牧場実習
2
応用動物学 3 年
必修
30
30
29
28
食料生産実習
1
大阪府立大学 1 年
選択
-
-
19
20
162
155
183
171
生産環境工学 3 年
応用生命化学 3 年
計
平成 23 年度の農牧場実習の内容を下表に示す。植物系の農場実習でも和牛の飼養管理や牧草管理の作
業が組まれる一方で、牧場実習でも田植えや稲刈りが組み込まれ、循環型農業を模索する上で十分な配
慮がなされていることがわかる。生産環境工学と応用生命化学コース対象の農場実習は 1 単位の配当で
28
神戸大学農学部・大学院農学研究科
時間が限られているが、所属するコースのことを考慮しながら作物・果樹・畜産の一連の作業を実習で
きるようにした。また、平成 22 年度から大阪府立大学の教育 GP「動植物系教育融合による食の教育プ
ログラム」の一環として「食料生産実習」も開講した。
《平成 23 年度農牧場実習の内容》
日
程
実習内容
農場実習Ⅰ(応用植物学コース 2 年)
4/15, 22
自主栽培説明、野菜苗鉢あげ・播種、野菜畑準備、ブドウ割当て
5/6, 13, 20, 27
野菜苗定植・管理、ブドウ芽かき・新梢誘引・整房、雑草防除法、タ
マネギ収納
6/3, 10, 17, 24
野菜畑管理、ブドウジベレリン処理、タマネギ調製、ブドウ摘粒・摘
芯
7/1, 8, 15, 22
野菜畑管理、バレイショ収穫、ブドウ摘芯・袋掛け、野菜畑後片付け
8/29
ブドウ収穫
農場実習Ⅱ(応用植物学・食料環境経済学コース 3 年)
5/9 ~ 5/11
農場実習 II 全体説明、サツマイモ採苗植付け、ナシ摘果と袋かけ、
水稲栽培概要説明、水稲播種、田植え、ウシの基本
7/5 ~ 7/6
バレイショ収穫と調製、カキ摘果、水田の補植と除草
8/22 ~ 8/24
イネ除草、刈り払い機操作実習、果樹収穫と調製、農作業機械の基礎
10/11 ~ 10/13
サツマイモ収穫、キャベツ除草、カキ収穫、イネ収穫と調製、ウシ体
測定実習、兵庫県立農林水産技術総合センター見学
農場実習(農環境生物学コース 3 年)
5/23 ~ 5/25
農場実習全体説明、サツマイモの自主栽培、タマネギの掘り上げ、ナ
シ摘果と袋かけ、水稲の手植え、ウシの基本
7/11 ~ 7/13
自主栽培サツマイモ除草、バレイショ収穫と調製、カキ摘果、ナシの
袋掛け、水田の除草、苗箱洗い
8/25 ~ 8/26
キャベツ定植、果樹収穫と調製、水田の除草
10/17 ~ 10/19
サツマイモ収穫と調製、自主栽培サツマイモコンテスト、カキ収穫と
調製、イネ収穫と調製、ウシの体測定と鼻紋採取
農場実習(応用生命化学・生産環境工学コース 3 年)
6/1
農場実習全体説明、水稲栽培概要説明、水稲の手植えと機械植え
9/7~9/9
ナシ収穫と調製、ブドウ収穫と調製、果樹園管理作業、ウシ体重測定、
イネ収穫、刈払い機操作
12/9
キャベツ収穫と調製、クロダイズ調製
12/10~12/11
酒造体験、「神戸の香」の仕込み
2/11
「神戸の香」試飲会
牧場実習(応用動物学コース 3 年)
5/16 ~ 5/18
牧場実習全体説明、ウシの基本、ウシ体重測定、農作業機械の基礎、
ナシの摘果、田植え、雑草防除法
8/8 ~ 8/11
製造実習、飼料計算、農作業機械-耕耘、ロープワーク、和牛審査、
刈払い機の操作実習、サイレージの実習、ウシの去勢
10/5 ~ 10/7
トウモロコシ調査、ニワトリ解体、ウシ体重測定、イネの収穫と調整、
果樹園管理作業
食料生産実習(大阪府立大学生命環境科学部植物バイオサイエンス・獣医学科 1 年)
9/12 ~ 9/14
食料生産実習全体説明、ウシの基本、トウモロコシ調査、農作業機械
-基礎と耕耘、ウシの除角と鼻環と去勢、ウシ体重測定,飼料作物と
里山散策
29
神戸大学農学部・大学院農学研究科
◆卓越した神戸大学ブランド品の生産販売
食資源センターでは教育研究活動を支えるために多くの農産物を栽培し、これらの農産物を素材に 10
品目にもおよぶ「神戸大学ブランド」商品を世に送り出してきた。ブランド化は、神戸大学の広報に留
まらず、学生の教育や教員の研究にも大きな影響を与えており、地域の学校給食や病院食にも採用され
るなど社会への貢献も無視できないものとなっている。このような活動が高く評価され、平成 23 年 10
月には生物生産技術班の技術員 13 名に対して学長表彰(特別賞)が授与された。
近年のブランド化に関するトピックスとして、JA 全農兵庫直営レストラン「神戸プレジール」にて例
年 8 月下旬に開催されている「神戸大学フェア」があげられる。これは平成 22 年に農学研究科と兵庫
県農業協同組合中央会との間で締結された連携協力協定を契機に継続的に実施されてきたもので、フェ
アでは食資源センター産の牛肉、バレイショ、ナシ、米などを食材とした料理が提供され、農学研究科
が掲げる「From Farm to Table」のひとつの形を実現したものとなっている。
想定する関係者としては、先ずは農学部生たちであり、食資源センターは農業現場をほとんど知らな
い学生たちが実際の農業を体験し、農学への思索を深めることができる場である。一方、研究面で想定
される関係者としては、作物や家畜の品種改良に携わる人達で、先端技術や分子遺伝学的な知見を食料
生産の現場で応用できるような技術開発が求められ、また、持続的農業を目指した新規育種素材の開発
や特性評価など、実際規模で応用研究が行える場であると期待される。さらにこれら教育研究の基盤と
して行われている農業生産活動は、農産物が神戸大学ブランド品として消費者から直接的評価を受ける
ことから、トレーサビリティの表示など、安全・安心な食料供給の先導的役割を担うものとして期待さ
れる。
前述のように生物生産技術班は、教育研究活動を支えるために多くの農産物を栽培しているが、各生
産物の生産量の年次推移と総販売額を下表にまとめた。ここで例えばバレイショは、実際にはサッシー、
メークイン、ネオデリシャスなど複数の品種を栽培しているが、それらをまとめたものとなっている。
玄米、ナシ、ブドウなども同様である。
バレイショは平成 22 年度から大幅に栽培を減少させている。これはバレイショ育種を専門としていた
専任教員の退職とバレイショ品種評価試験の終了に伴い、作付けを変化させたためである。一方で、玄
米、サツマイモ、タマネギなどは毎年ほぼ一定の収量が確保されている。果樹は新木への更新を図って
いることに加え、平成 22 年度の猛暑と鳥害で収量の低下がみられた。また、カキは胴枯れ病の発生によ
り平成 23 年度に大きく収量が落ち込んだ。しかし、ナシやブドウは新木からの収穫が徐々に増加してお
り、今後の収穫増が期待される。畜産系では肥育牛としての出荷頭数の増加を目論み、食資源センター
産の子牛を性によらずできるだけ多く肥育するという方針のもと、雌牛の肥育を開始した。東日本大震
災の余波を受けた枝肉価格の低迷から、販売額は伸び悩んではいるものの、年間 20 頭ほどがコンスタン
トに出荷できる体制が整った。食資源センターの過去 4 年間の総販売額の平均は 37,980 千円/年であり、
平成 16 年度からの 4 年間の平均 33,876 千円/年と比較して 10%ほどの増加となっている。
《表:生産物の収量と総収入の推移》
作目(単位)
H20 年度
H21 年度
H22 年度
H23 年度
玄米(kg)
43,055
41,145
40,130
40,394
バレイショ(kg)
6,551
6,769
1,694
2,500
サツマイモ(kg)
1,883
1,801
2,048
1,888
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神戸大学農学部・大学院農学研究科
ダイズ(kg)
863
503
337
461
キャベツ(kg)
5,403
6,030
620
3,750
タマネギ(kg)
3,287
3,383
3,711
2,627
ナシ(kg)
3,752
4,774
1,645
2,993
ブドウ(kg)
2,237
1,948
1,834
2,320
カキ(kg)
3,357
1,233
1,233
304
肥育牛(頭)
22
23
20
22
廃用雌牛(頭)
2
2
1
0
子牛(頭)
4
13
0
5
総収入(千円)
43,842
40,565
32,675
34,838
2.最近における特記事項
植物に関する研究活動には、東北地方より収集した在来ナシ遺伝資源の評価と利用、イネの栽培化遺
伝子に関する研究など、植物遺伝資源の有効利用に向けた実用的研究が特筆に値する。この研究活動が
縁となり、食資源センターでは東日本大震災に見舞われた被災地の復興を願い、平成 23 年度から神戸大
学復興支援プロジェクト「校庭にイワテヤマナシの花を咲かせよう」を展開している。岩手県を代表す
る詩人・宮沢賢治の童話「やまなし」に登場する梨はイワテヤマナシと考えられており、本プロジェク
トは岩手の宝であるイワテヤマナシの苗木を、復興のシンボルとして被災地の学校に贈ろうとするもの
である。
食資源センターでは早くからイワテヤマナシがもつ植物学的、
育種学的重要性に着目し、約 700 個体のイワテヤマナシを系統
保存している。平成 23 年 12 月、食資源センターの教職員が津
波で被災した三陸沿岸地域のうち、南部の陸前高田市から宮古
市までの小中高等学校、特別支援学校 43 校を訪問してプロジェ
クトの趣旨を説明し、約半数の学校から苗木を育ててみたいと
の返答を得た。平成 24 年 3 月には農学研究科長、食資源センタ
ー長、農学研究科事務長、片山講師らが参加して吉里吉里小学
校、高浜小学校、宮古水産高校にて、生徒たちとイワテヤマナシの祈念植樹を行った。さらに本プロジ
ェクトがきっかけとなり、宮古水産高校では生徒たちがイワテヤマナシを材料として加工品を開発し、
地元の活性化を目指す取り組みにつながった。これら一連の活動は朝日新聞夕刊(平成 24 年 3 月 17 日)
の 1 面トップ記事として大きく取り上げられ、その他、読売、日経、毎日、岩手日報、神戸の各新聞に
も取り上げられ、共同通信社から全国に配信された。
また近年の優れた研究成果としては、山崎准教授によるイネの半矮性遺伝子 Semi-dwarf1 に関する報
告があげられる。Semi-dwarf1 はイネの「緑の革命」のきっかけとなった遺伝子であり、数千年前の古代
の人々が野生イネを栽培イネへ改良する過程で、この遺伝子が変異した個体を選抜し、積極的に栽培し
ていた可能性が高いことを明らかにした。これは従前のイネ進化の常識を覆す発見であった。その成果
31
神戸大学農学部・大学院農学研究科
は国際的に評価の高い学術雑誌に掲載され、日本の主要 3 大新聞も含めて計 5 誌以上に本研究内容が紹
介された。さらに、海外の新聞や科学誌からも計 3 件の取材があった。
動物に関する研究活動では、黒毛和種の生産効率と経済価値を高めるための選抜指標に関する研究、
同品種の遺伝的多様性を維持するための集団構造に関する研究が行われている。このような研究活動が
広く認められ、食資源センターの専任教員は社会活動の一環として平成 20 年度以降の新規分だけでも、
社団法人日本畜産学会の代議員、公益社団法人全国和牛登録協会の中央審査委員、公益社団法人日本食
肉格付協会の専門委員などを委嘱され、和牛改良の現場で指導的役割を果たすようになっている。また、
兵庫県庁と関係団体で構成される兵庫県肉用牛改良委員会では大山教授が委員長を務め、前食資源セン
ター長の向井文雄神戸大学名誉教授は公益社団法人全国和牛登録協会の会長理事を務めているように、
食資源センターは地元の但馬牛のみならず全国の和牛の育種改良に大きな貢献をしている。
3.地域貢献
◆神戸大学ブランド
上記の農産物を素材にして、附属食資源教育研究センターでは、以下の商品を「神戸大学ブランド」
品として世に送り出してきた。
・神大のおこめ
・神大のたまねぎ
・「はいいぶき」(玄米)
・神大のなし
・神大のきゃべつ
・神大のぶどう
・「神戸の香」(酒)
・神大のばれいしょ
・「らんらんチップス」(スナック菓子)
・神戸大学ビーフ
これらの「神戸ブランド」を販売することで、農学研究科のみならず神戸大学の広報に貢献してい
る。
生産物の販売方法には現在も工夫を重ねており、平成 23 年度からは新規導入した精米機と色彩選別
機を活用し、それまで玄米 30 kg でしか販売してこなかったコメを小包装にして白米でも販売するこ
ととした。このことで、近隣に精米所のない都会の家庭へも「神大のおこめ」を届けることが実現し、
消費者との距離をまた一歩縮めることができた。
◆外部団体等の受入
外部団体などの受け入れ状況は下表に示したとおりであり、毎年恒例になっている地元中学校の「ト
ライやるウィーク」による中学生の職場体験をはじめ、幼稚園児から、小・中学生、一般社会人など、
外部からの要請に応え、さまざまなレベルで農業体験が行える場として地域への貢献を行っている。こ
のうち、公益社団法人全国和牛登録協会が主催する支部審査委員認定講習会では、実牛を使った子牛検
査の実技指導をしている。受講生は日本全国からの参加であり、畜産現場の第一線で働く技術者である
ことから、神戸大学における和牛研究の発展のためのネットワーク構築にも役立っている。兵庫県立農
業大学校についてはバレイショ畑において実地講義及び実習を行っている他、家畜育種学の集中講義を
32
神戸大学農学部・大学院農学研究科
担当するなど、農業の将来を担う学生と食資源センターが密接なつながりをもっている。また、平成 2
1 年度までは韓国からの和牛に関する視察見学を多く受け入れていたが、宮崎での口蹄疫の発生を受け、
以降は農学研究科が受け入れている JICA 研修など特定の教育目的のものを除いて、口蹄疫汚染国から
の視察見学の申し込みはすべて断らざるを得ない状況となっている。その他、下表に加え食資源センタ
ー内の戦争遺跡調査あるいは見学として 15 件の受け入れを行っている。
《外部団体等の受け入れ状況》
日
程
内
容
人数
平成 20 年度
6/9 ~ 6/13
加西市立加西中学校 トライやるウィーク
5
6/17
神戸シルバーカレッジ
11
7/7
兵庫県立農業大学校
10/1
加西市立九会小学校 写生大会
10/10
発達科学部附属特別支援学校
11/14
韓国・慶尚南道農業技術院
2/3
韓国・慶北大学校応用生命科学部
3/12
千葉県農林総合センター育種研究所
3/9 ~ 3/26
鹿児島県肉用牛改良研究所 技術研修
1
中南林業科術大学(JISTC)技術研修
1
5/7 ~ 5/8
全国和牛登録協会 第 5 回支部審査委員認定講習会
30
6/8 ~ 6/12
加西市立加西中学校 トライやるウィーク
6
8/20,8/24
加西市立九会小学校
初任者研修に係る社会体験研修
1
7/10
兵庫県立農業大学校
校外学習
23
9/29
加西市立九会小学校
施設見学と写生会
64
10/14
加西市立九会小学校 柿の収穫体験
69
11/25
韓国・慶尚南道農業技術院韓牛班 施設見学
17
12/8
加西市立九会小学校
76
12/17
韓国・松湖大学産学協力団 施設見学
19
1/13
韓国・奨学財団農村希望財団 施設見学
18
1/25 ~ 2/5
鹿児島県肉用牛改良研究所 技術研修
1
5/6 ~ 5/7
全国和牛登録協会 第 6 回支部審査委員認定講習会
36
6/2
加西市立九会小学校
65
6/7 ~ 6/11
加西市立加西中学校 トライやるウィーク
6
7/12
兵庫県立農業大学校
20
9/29
加西市立九会小学校 写生大会
70
10/5
神戸大学附属明石幼稚園 牛舎見学
96
10/12
加西市立九会小学校 柿の収穫体験
69
4/26 ~ 4/27
全国和牛登録協会 第 7 回支部審査委員認定講習会
37
6/6 ~ 6/10
加西市立加西中学校 トライやるウィーク
7
7/12
兵庫県立農業大学校
バレイショ実習
17
8/4 ~ 8/5
ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~
16
神戸牛に関する調査研究
校外学習
27
72
芋掘り
30
和牛視察
34
施設見学
技術研修
5
1
平成 21 年度
キャベツ収穫見学
平成 22 年度
田植え見学
校外学習に係るじゃがいも栽培指導
平成 23 年度
33
神戸大学農学部・大学院農学研究科
9/28
加西市立九会小学校 写生大会
68
◆兵庫県篠山市との連携
食資源センターでは附属農場として作物を生産するだけでなく、兵庫県の特産となるものを探してい
た。そんな中、バレイショのネオデリシャスは、種芋から一本立てすると大玉となり、空洞ができたり、
鬆(す)が入ったりするために苦味が生じるが、これを 1 本立てでない栽培方法により、ピンポン玉か
ら鶏卵大の大きさで収穫できればホクホク感があり、特産品になりえると考えられた。そこで、大学発
の普及技術として県下の有望な営農組合を探していたところ、篠山市真南条上営農組合が武庫川の源流、
龍蔵寺川のほとりに有機の里として 40 ヘクタール余の農地を集積し、コシヒカリと丹波の黒大豆を生
産しながら新しい特産物を求めていることを知った。
「私を農村に連れて行って」という学生からの要望を農学部地域連携センターで汲み取り、農業の実
践教育「食農コープ教育」を篠山市の農村をフィールドに 5 年前に立ち上げた。このプログラムの中で
ネオデリシャスが真南条上営農組合で「丹波の赤じゃが」として栽培されることとなった。農家と学生
をつなぐプログラムに大学発の技術が加わり、「農業農村フィールド演習」の一コマとして、「農業農
村プロジェクト演習」では農家レストランの食材として、「実践農学入門」などの演習の教材や卒業研
究のテーマともなった。このように現在、夏じゃが、秋じゃがともに真南条上営農組合の特産品として
位置づいている。このことは毎年、神戸新聞などに紹介され、ホームページなどで消費者との双方向の
交流もできるようになり、篠山市や兵庫県農林水産局からも注目されるようになった。この技術の基本
は食資源センターの教員や技術員の栽培に関する指導をベースとしたものであり、農学部地域連携セン
ターや篠山フィールドステーションと連携して、篠山市の「丹波の赤じゃが」として不動の地位を築き
つつある。
このように研究活動と生産技術を基盤とした地域への展開は初めての事例であり、食資源センターの
研究活動に質の変化が認められる。
4.各界・メディア等で活躍している教員・卒業生
◆教員
片山寛則講師(附属食資源教育研究センター)
片山講師が中心となった東日本大震災復興支援プロジェクト「校庭にイワテヤマナシの花を咲か
せよう」の活動は、朝日新聞夕刊(平成24(2012)年 3 月 17 日)の 1 面トップ記事として大きく
取り上げられ、その他、読売、日経、毎日、岩手日報、神戸の各新聞にも取り上げられ、共同通信
社から全国に配信された。
山崎将紀准教授(附属食資源教育研究センター)
34
神戸大学農学部・大学院農学研究科
山崎准教授は、名古屋大学の浅野研究員(現在北海道農業研究センター)等と共同して、古代人
が栽培イネを背の低さで選抜していたことを遺伝子レベルで解明し、米国科学アカデミー紀要
(PNAS)に掲載された。この内容は、平成23(2011)年 6 月の新聞各紙に大きく取り上げられた。
35
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