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土木計画学とは? - 芝浦工業大学工学部土木工学科

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土木計画学とは? - 芝浦工業大学工学部土木工学科
土木計画学
芝浦工大 土木工学科 岩倉成志
1.プランニングとは?
・ 土木計画学とは?⇒社会的意志決定支援のための学問
・ プランナーに求められる資質
・ 学問領域
・ 取り扱う対象(社会資本の性質)
2.発想法−問題の発見・構造化
・ ブレーンストーミング
・ KJ 法
・ ISM 法
3.データ解析技術
・ 予測技術について
・ 分析手法①:クロス集計、回帰分析
・ 分析手法②:最適化手法→最小自乗法、最尤推定法
・ 分析手法③:マーケットセグメンテーション
・ スケール感の育成
4.リスクマネージメント
・ リスクとは?
・ リスクヘッジ
5.評価論
・ 効率性と公平性
・ 政策評価と事業評価
・ 経済評価/環境評価
・ 時間管理概念
・ 収支分析
6.財源論
・ 直轄事業、補助事業
・ PFI
7.合意形成技術
・ パブリック・インボルブメント
・ AHP
※ 講義のプリントは、http://www.db.shibaura-it.ac.jp/~iwakura/index10.htm の講義→土木計
画学にあります。pdf ファイルなので、Acrobat Reader を使って開いてください。
1
1.ガイダンス
1)プランナーに必要な能力
・ 社会資本整備の計画プロセス
・ プランナーに必要な能力
2)土木計画学の学問領域
3)土木計画学の歴史⇒1958 年(S33)に京都大学で開始、1966 年(S41)に土木学会に「土
木計画学研究委員会」が組織された
4)設立の背景(1960 年代前後は高度成長期:渋滞等経済発展の隘路、地域間所得格差、環
境問題、エネルギー問題)
・ 土木事業の社会における役割の大きさ⇒影響、効果分析の必要性
・ 限られた国土面積の有効利用
・ 各種土木施設の採択可否における計画理論の必要性
・ 土木事業の細分化に伴う総合的な視点の必要性(道路工学、鉄道工学、河川工学など)
5)土木計画の今日的な問題の所在
【地域に着目】
・ 大都市⇒ ①人口、諸機能の集中による交通混雑の発生(道路、鉄道、羽田空港)
②都心部における地域コミュニティーの崩壊(インナーシティ問題)
③震災等による諸機能の麻痺による全国的な混乱の恐れ
④産業構造の変化と低未利用地の発生
・ 地方部⇒ ①郊外 SC の立地に伴う中心市街地の停滞
②大都市依存と低い自立性(生産機能の海外移転)
・ 地域間公平性(国土均衡論)か効率性重視か
【人間に着目】
・ 成熟化(経済発展中心⇒心の豊かさの重視)
・ 自然の再認識(自然志向の高まり⇒余暇活動の増大)
・ 自由な選択と自己責任の確立(選択の自由度の必要性、住民投票)
・ 男女の共同参画⇒女性が継続して働くための条件整備
【時代的な変化】
・ 地球的視点:地球環境問題、エネルギー問題、大競争時代、アジア諸国との交流拡大
・ 人口減少、高齢化:財政制約⇒投資余力の減少、高質な施設整備
・ 高度情報化社会(地球規模での時間・距離制約の克服⇒業務立地先の変化)
・ 限界効果の減少⇒効果の疑問視されるプロジェクトの出現
・ 建設費の増加、採算性の悪化
・ 政策決定の不透明性⇒情報公開の要求→行政のアカウンタビリティ(説明責任)の確保
2
6)社会資本の性質
−社会資本の概念とその分類−
・ 社会資本の概念:
「私的な動機(利潤の追求または私的生活の向上)による投資のみに委ねて
いるときは、国民経済社会の必要性からみて、その存在量が不足するか、あるいは著しく不
均衡になる等の等の望ましくない状態におかれるであろうと考えられる施設」
(経済審議会社
会資本研究委員会「これからの社会資本」1969.12)
・ 社会資本の特徴による分類
① 排除困難性:受益者の便益を回収することが不可能
② 共同消費性:ある人の消費が他の人の消費を妨げない。
③ 外部経済効果:供給を受けたものだけでなく、不特定多数に効果が発生する。
④ 費用逓減性、地域独占性:巨大かつ分割不可能→初期投資額が大きい
⑤ 政策意図:公平性の確保や高リスクな先導的技術開発
公的介入の根拠
財の諸特性
サービス供給
の目的・効果
基礎的なサービス
の供給
・ 国土、生命、財
産の保全
・ 居住環境、保健
衛生
公共財的性格(排除困難)
排除不可能
技術的には排除
可能または受益
範囲特定は可能
公的供給によ
る特定の政策
意図の実現
市
場
性
小
治山
治水
海岸
下水道(雨水)
等
経済社会の活力の
維持、増進
・ 産業振興、国土
の均衡ある発展
救急医療
一般道路
都市公園
自然公園
農道・林道
灌漑・排水
漁業整備
等
・ 国民の創造的活
動の支援等高次
のサービス提供
市場性
排除可能財
性格的に存在量が不足する財
技 術 的 外 部 経 費用逓減産業で
済。社会的利益 地域独占が生じ
>個人利益
やすいもの
無し
保健衛生
下水道(汚水)
廃棄物処理
教育
等
水道
電気(家庭用)
ガス
鉄道
有料道路
空港
港湾
電気通信
漁港
工業用水道
電気(業務用)
等
社会福祉
公共賃貸住宅
郵便
研究所
圃場整備
土地造成
文化
社会教育
等
大
有り
・ 社会資本整備の際の留意点
①大きな経済効果:人や物を流す直接的機能と地域経済効果という間接的機能がある。
②空間機能:人々が都市を見る多くの視点が交通空間上にある。
③長期的視点:莫大な費用、回収期間の長さ、建設期間の長さ
④空間的・時間的整合性:単体ではなく、他の施設、交通機関などとの整合性の考慮
⑤シビルミニマム:不採算市場でも最低限のサービスの確保が必要
例(交通市場の特徴)
①交通施設間の供給不整合:交通機関間の異なる歴史的発展、位置付けと供給主体がバラバラ
②施設とサービスとが分離供給:交通事業者、一般利用者が直接、間接的施設利用者として存
3
在し複雑化
③営業用と自家用の混在:施設利用の優先性や料金格差
④機関間の競争:同一または異種交通機関間の競争が存在→総合交通体系が必要
⑤費用低減性:参入規制なくしてサービスの提供が難しい→地域独占性→撤退規制、料金規制
⑥安全問題:高速移動のための安全問題を有す
⑦蓄積不可能性:需要の時間的変動や空間配置に柔軟な対応が困難
・ 事業主体
交通施設整備の事業主体となりうる機関:国、地方公共団体、公団、公社、営団、3セク、民
間企業、組合(公共団体)
・ 事業主体の選択
①責任論:施設の性格から、どの主体が責任を持つか?
②効率性論:どの事業主体が整備、運営、管理すれば効率的か?
③限界論:事業主体の供給能力、供給意思の限界
④財源論:国、自治体、民間の資金調達能力の差→最も大きな制約条件
4
2.発想法−問題の発見・構造化
・ 問題は、目標と現状との隔たりが意識されて初めて為し得る。
1) 問題解決のプロセスと技法
① 問題状況表現(要素抽出)⇒発想法⇒ブレーンストーミング法
・ 問題が複雑でかつ関係者が多数の場合、関係者間で認識の不一致をできるだけ解消し、
共通の認識を持つことが大切。
・ 極力、自分自身の置かれた制約から意識を自由にし、先入観を捨て、相手を受け入れる
雰囲気づくりが必要。
・ その上で、参加者が問題に関する項目(要素)やアイデアを出し合いリストアップを行
う。
②仮説発見(構造分析)⇒KJ 法⇒ISM 法⇒DEMATEL 法
・ 要素間の関係把握が重要
・ 次に、要素間関係を人間が理解しやすい形に表現し、参加者が共通の認識を持てるよう
にする必要がある。
③仮説評価(代替案評価)
・ 表現された仮説は、複数の問題群が関連する複雑な問題設定となる。これを評価するた
めに、多変量解析や費用便益分析、階層型意志決定手法(AHP 法)などがある。
④ 計画案の作成
2) 要素抽出法(ブレーンストーミング法)
ブレーンストーミング法はオズボーン[Osborn,1953]が考案したもので、グループでいろい
ろなアイデアを自由奔放に出す方法である。特徴は相手を批判せず、自由な雰囲気のなかでアイ
デアを思いつくままに出させることにある。ブレーンストーミング法のポイントは以下の4点。
①人の意見を批判しない、②自由に意見を述べる、③多くのアイデアを出す、④他人の意見をヒ
ントにしてさらに考えを発展させる。
このポイントが守られないと、①グループ力学、同調圧力が働く、②批判されることで感情が
荒立ち対話が制約される、③発言の時間が平等でなく、よって対話が制約されるなどの問題が発
生する。
3) 問題の構造化手法(KJ
問題の構造化手法(KJ 法)
KJ 法[川喜田二郎、1972]の構造分析は4つのステップで行う。
① カードに問題点を記入する。
② カードをグループ分けする。
③ 作図する。
④ 口述で説明する。
① カードに問題点を記入する
ブレーンストーミングで出された意見をカードに記入する。
(もしくは個人で考えた問題点をカー
ドに記入する)カード記入に指しては次の点に注意する。
5
・ 一枚のカードには一つの意見を記入する。
・ できるだけ具体性のある分かりやすい書き方をする。
・ 文章はできるだけ簡潔にする。
・ カードの枚数には制限を設けない。
・ 思いつく内容がなくなるまで粘って記録する。
(個人でやる場合は、日をおいて再度考え
てみる)
カード作成の例(都市再開発の事例)
駅前に停めて
ある自転車が
多い
友達と憩える場
所がない。
商店街に活気
がない
② カードのグループ分け
ア)カードをグループごとにまとめる
カード群を眺め、内容が似ていると感じられるもの同士を集めてグループ化する。自分勝
手にストーリーを作ったり、先入観や既成概念に従ってグループ化を進めることは避けな
ければならない。自分の考えた理屈によって集めたのでは、そこからいままで気づかなか
ったような、新たな問題点を見つけ出すことは難しい。
・ 1グループは5枚以内程度とする。
・ 先入観を捨て、表面上の言葉にとらわれず、頭の中に感じたままにグループ化を行う。
(カ
ードに使われている単語で分類しない)
・ グループ化できないカードは無理にグループ化しない。
駅前に停めて
ある自転車が
多い
空き地や古い
家が多い
駐車スペース
が無い
ゴミの夜間回
収がない
商店主が高
齢である
まちの目玉が
ない
役所が街の
中心にない
街がゴミゴミし
ている。
駅前に停めて
ある自転車が
駐車スペース
多い
が無い
まちの目玉が
ない
役所が街の
中心にない
グループ化
公園が少ない
保育施設、児
童館が少ない
子供の遊び
場が少ない
商店街に活
気がない
エスカレー
ターがなく、お
年寄りが不便
下町の気楽な
買い物の雰
囲気が大事
電線がうっと
おしい
災害が起きた
とき心配
商店主が高
齢である
商店街に活
気がない
空き地や古い
家が多い
災害が起きた
とき心配
ゴミの夜間回
収がない
保育施設、児
童館が少ない
子供の遊び
場が少ない
公園が少ない
街がゴミゴミし
ている。
電線がうっと
おしい
エスカレー
ターがなく、お
年寄りが不便
下町の気楽な
買い物の雰
囲気が大事
イ)グループのタイトルをつける。
各グループの内容を表現するタイトルをつける。
・ グループ内のカードをもう一度読みなおし、このグループに入れておくのが適切かを再
度確かめる。
・ 極力、誰にでもわかるような簡潔な表現にする。
防災への対応が必要
景観への対応が必要
子供の遊び場が必要
空き地や古い
家が多い
街がゴミゴミし
ている。
保育施設、児
童館が少ない
災害が起きた
とき心配
電線がうっと
おしい
子供の遊び
場が少ない
公園が少ない
6
ウ)グループ化とタイトルをつける作業を繰り返す。
グループ化したもの同士、あるいはまだグループ化されていないカード間でさらにグループ
化を進め、新たにグループ化したものにタイトルをつける。
防災計画と都市緑化との連携が必要
防災への対応が必要
空き地や古い
家が多い
ゆとりのある街にすることが必要
景観への対応が必要
子供の遊び場が必要
街がゴミゴミし
ている。
保育施設、児
童館が少ない
災害が起きた
とき心配
電線がうっと
おしい
避難路は確
保できるか
子供の遊び
場が少ない
公園が少ない
駅前に停めて
ある自転車が
多い
③ 図の作成
最後のステップは、最終的な配置図の作成である。
(通常いくつかのパターンがあり、最適化は難
しい。よって、集団で行っている場合は関係者の合意を得る。個人で行っている場合は、他人へ
の説明等を通じて決定することが望ましい)
また、必要があれば、要素間、グループ間の因果関係を記入する。
順接
相互関係
(弱い)関係あり
矛盾・反対
[参考図書]
竹村
哲:問題解決の技法−合意形成のための支援化システム考、海文堂、¥1900+税
川喜田二郎:発想法、中央新書、¥660+税
川喜田二郎:続・発想法、中央新書、¥796+税
7
KJ法に関する FAQ と解決のヒント
Q1:グルーピングの方法に関する問題
・ 分類の仕方と、その分類が問題点からずれてしまう
・ グループ分けの面で悩んだ
・ どこのグループに分類してよいかわからず、強引にいれたものもある。
・ 先に大枠を考えてから、その中で要素を考えてしまう。でも要素を分解する作業というのは、
枠の中で細かく分類作業なので、何か矛盾を感じる。
・ KJ法のはじめ方で、グルーピングからはじめれば、大きな課題から樹形図的に細分化しや
すくなるのでは?
・ まとめ方が困難
A1
・ 最初に大まかにグルーピングをしてから、細分化する方法は KJ 法に発想とはまったく逆です。
一見、論理的できれいに整理できそうですが、自分の既成概念の枠にカードを当てはめよう
とするもので、「自由な発想」をセーブすることになってしまいます。理性でグルーピングす
るのではなく、「感性」でグルーピングすることで新たな問題発見ができるようです。
・ 一つのグループに何枚のカードをいれるかということについての制約はありませんが、KJ 法
の図解が「視覚」に訴えるという点からいって、3∼5枚程度で1グループを目安に考える
のが良いようです。
・ グルーピングのできない1枚のカードのあってもかまいません。また、2つのグループに関
係しそうなカードをどちらかのグループに入れることができず、2つのグループを合体させ
て、そのカードを組み入れるということもやめましょう。
・ なお、大きなグループになるにしたがって、順次太い線で囲むと見やすくなる。
Q2:グループ名称のつけ方の問題
・ グループ名のつけ方で悩んだ
A2
・ グループ名称づくりは、KJ 法の全ステップの中でも、それを会得するに一番苦しむ難関だそ
うです。川喜多二郎(KJ 法作者)は以下のような方法を提案しています。
・ まず、最初にグループ内にある数枚のカードを熟読する。そして、一枚一枚のカードで訴え
1
たい本質的な意味を考える。
・ 次に、自分自身に対して以下の2つの質問を発する。①「このグループに集まっているカー
ドは、類似性があると感じることができるか?」②「きちんと分類できていると感じるなら、
カードの類似性がある理由を1行の見出しにして考えてみよ」
・ もし、①で1、2枚ふさわしくないと思われるカードがあったら、グループから外す。→そ
れでも自信がない場合もある。その時は、グループ名称づくりは、あとまわしにして、自信
をもって名称をつけられるものから先にやる。
・ 適切な見出しが考えられたら(これはある程度の訓練が必要です→不得意な人は、教科書や
新聞、雑誌の見出しのつけ方を気にしてみよう)、グループ名称をカードに書く。
・ 最後に、カード群を束ねて、グループ名称が書かれた紙を1番上(表札)にして、クリップ
止めをする。
・ 以後の作業は、グループ名称のみを見て行う。カードを束ねた後、中身のカードをたびたび
めくらないと、以後の作業ができなようでは良いグループ名称が作成できていない証拠です。
Q3:課題要素カードの文章の簡潔化策について
・ キーワードがこんな感じで良いのか悩んだ
・ 知識が曖昧で、薄っぺらな表現しかできない。
・ カードの文章の簡潔化が難しい。
・ 自分のボキャブラリーが少なく、自分の考えだけでは広がらないので、何かで調べてでも多
くのメモを作るべきか?
・ 構造化していく際に、問題を広げていくのが苦労した。
A3
・ キーワードづくりは、上記の A2 を応用して、練習してみよう。
・ 量が少ないからそれを多くするために何かを調べるというのは本末転倒です。まず、自分の
考えでカードを作成してみる。そのカードをもとに、関連性のある資料をみて、発想を広げ
るのが大変大事です。
Q4:課題要素間の関係の整理方法について
・ 矢印をどこにどうつけるかで悩んだ
・ カードの関連性を考えるのが難しかった。
2
A4
・ 基本的には、生起の順(A だから B{A→B}、B が起こったら C{B→C})に矢印をつなげるの
がわかりやすい。矢印をたどっていくと問題の本質に辿り着けるようになっているのが良い
でしょう。
・ その他、単に関係がありそうなものは、{E−F}のように棒線でつなげる。相互関係がありそ
うな場合(にわとりと卵の問題のようなもの)については{G⇔F}のように両矢印で結ぶ。
・ もう一つ、KJ 法で価値があるのは、トレード・オフの課題(あっちを立てるとこっちが立た
ず)があるカード同士を{K >−< J}のような記号で結んでやると、問題の本質をとらえや
すくなります。
Q5:KJ 法は、問題点の整理に留めるべきか?
・ KJ法は問題点をあげて、その改善案までを上げるのか?
・ 対策などを書いてよいかわからなかった。
・ 解決案を導きだすのが難しい。
A5
・ 問題点を構造化し、問題の本質を捉えるまでが、KJ 法が得意とするところと考えます。問題
の本質を捉えれば、どの要素を改善すれば良いかがわかります。必ずしも KJ 法による構造図
に改善点を入れなければならないわけではなりませんが、図上に改善案を書いておいた方が
議論しやすいでしょう。
・ 何のために KJ 法をやっているかを考えれば、KJ 法で判明した改善すべき点を早急に(箇条書
きなどで)整理しておくことの重要性は理解できると思います。
Q6:KJ法はいつからあるのか?
・ KJ法はいつからあるのか?
A6
・ KJ 法の作成者、川喜多二郎(Kawakita Jiro)は 1967 年に「発想法」という本で KJ 法の方法
について初めてまとめています。
Q7:全般的な問題
3
・ 個人でやるよりもグループでやった方がうまく構造化できるのではないかと感じた。
・ 実際にKJ法では、原因抽出までに何らかの調査とかを行うのですか?一人でやるには知識
に限りがあります。
・ 問題の論点がわからなかった。結論を先に考えてしまい、KJ法の真の意味を理解できなか
った。
・ 結局、収拾がつかず、問題の解決への糸口が表われてこない。
A7
・ 本来は、個人ではなく、複数の人間でディスカッションしながら作成するものです。ただし、
同じ発想の人間よりも、考え方や専門分野、社会的立場の異なる人たちで行うのが発想を広
げるという点で、より有効と言えます。
・ 問題の解決の糸口が見えてこないのは、残念ですね。収拾がつかないということであれば、
上記 A1や A2 のグルーピングの方法を検討してみると良いかもしれません。
参考文献
川喜多二郎[1970]続・発想法−KJ 法の展開と応用、中公新書、796 円+税
以上
4
3.データ解析技術
問題点およびその因果関係を明らかにした結果、その問題を解決するためのいくつかのアイデ
アが浮かんだことでしょう。その解決案を裏付けをもって、関係主体に説得するためには、数値
データを解析し、自分の問題の因果連鎖と解決案を実証することが必要となります。
通学路問題の数量評価の例
(交通施設の問題)
・ 田町駅の階段や自由通路の歩行速度
・ 自由通路の通行量と幅員
・ 田町駅を着駅とする利用者の通勤先、通学先分布
・ 田町駅を通勤、通学で利用する住民の数
・ タクシーの利用者数と駅前広場の大きさ
など
(歩行空間の景観問題)
・ 歩行空間の景観に関する満足度調査
・ タバコの捨てがらの量
など
(分析例)
・ 自由通路の歩行速度と幅員と通行量との関係がわかれば、幅員を広げた場合の歩行速度の増
加を予測できる。
・ 利用者の通勤先、通学先がわかれば、迂回路を整備したときの迂回率が予測できる。
・ タクシー利用者数がわかれば、必要なタクシー台数および待機のための駅前広場面積がわか
る。
・ 景観に関する満足度調査を行えば、どの程度の人数が不満に思っているのかがわかる。また
項目別(看板、緑、舗装、スカイライン、建物の色調など)に不満がわかれば、解決すべき
優先順位が把握できる。
など
(上記の分析の課題)
・ 現況の分析については上記で OK かもしれない。しかし、将来にわたって問題は発生しないだ
ろうか?
・ 通行量は現況のままか?→通行量の増減には複雑な要因がからむ(首都圏の人口、業務施設
や学校の立地量、交通施設の整備量など)
・ 調査した世代の構成比は現況のままか?→将来は現在と状況が異なる(人口構成比、ライフ
スタイルなど)
(予測技術)・・・要因間の因果構造のモデル(模型)化
・ 線形モデル=最小自乗法(重回帰分析)
・ 非線形モデル=最尤推定法
8
3.1.予測技術について
1)予測分析を行う際の留意点
・ 何を予測するのか(内生変数=被説明変数)
・ どのような要因で説明するのか(外生変数=説明変数)
・ どのような構造で説明するのか
2)予測分析の例
①交通量予測(4段階推定法)
、②人口予測(コーホート法)、③経済予測(計量経済モデル)
① 交通需要予測分析
(4段階推定法のフレームと外生変数の例)
内生変数
生成交通量
発生交通量・集中交通
量
分布交通量
交通機関分担交通量
配分交通量
外生変数
・人口
・経済
・交通整備量
・免許取得者数
・自動車保有台数
など
・目的地の経済活性度
・目的地(観光地)の魅力度
・目的地までの行き易さ
など
・所要時間
・移動費用
・乗換え回数
など
・所要時間
・移動費用
・景色
など
9
「21世紀初頭における総合的な交通政策の基本的方向について」
(運輸政策審議会諮問第20号、
2000 年 9 月)の国際航空旅客の予測結果
予測モデル
Y = k × GDP β × RATE γ
Y :出入国者数
GDP :国内総生産(100 億円、1990 年価格)
RATE :為替レート(円/ドル)
k , β , γ :パラメータ
日本人観光目的出入国者数
外国人全目的出入国者数
Y = 0.000000161× GDP 2.59 × RATE −0.255
Y = 0.0000001427 × GDP 2.05 × RATE 0.346
10
② 人口予測
国立社会保障・人口問題研究所:
『日本の将来推計人口(平成9年1月推計)
』
(平成7年の国勢調
査の基本集計結果を利用して全国の男女年齢各歳別人口の将来推計を実施)
11
コーホート法(年齢階層ごとの将来人口の予測)
Pt c++55 = Pt c − α c Pt c + ( β c − γ c ) Pt c
α c :年齢階層cにおける死亡率
β c :年齢階層cにおける転入率(全国人口の場合、入国率)
γ c :年齢階層cにおける転出率(全国人口の場合、出国率)
P00 :婚姻率と出生率で推計
年齢階層
年次t
c
0∼4歳
5∼9歳
10∼14歳
c=0
c=5
c=10
P00
P05
P010
・・・
∑P
P50
P55
P510
・・・
∑P
P100
P105
P1010
・・・
∑P
Px0
Px5
Px10
・・・
∑P
1980年
t=0
1985年
t=5
1990年
t=10
200X 年
t=x
総人口
c
0
c
c
5
c
c
10
c
c
x
c
③ 経済予測(計量経済モデル)
三面等価の原則⇒GNE(国民総支出)=GNP(国民総生産)=NI(国民所得)
国民総支出 GNE の構成比
・ 個人消費支出(約60%)
・ 民間設備投資(約20%)
・ 民間住宅投資(約
5%)
・ 政府消費
(約
9%)
・ 政府投資
(約
7%)
・ 輸出
(約14%)−輸入
・ 在庫
(約0.5%)
(約14%)
12
計量経済モデルの基本的な考え方
所得均衡式 Y = C + I + G
消費関数 C = a + b(Y − T )
投資関数 I = cY
租税関数 T = dY
政府支出 G = G *
国民総支出(Y)が、個人消費(C)と国内民間総資本形成(民間設備投資、民間住宅投資、民
間在庫品増加)と政府支出(政府の消費と投資)から成り立っているとする(輸出と輸入は釣り
合っていて無視して良いという仮定)
。 a, b, c, d はパラメータを表す。
最大の支出項目である個人消費は、主に個人の所得に依存して決まっている→給料が多ければ、
消費を増やすし、少なければ減らす。
民間投資は、国民総支出や企業収益、金利などによって決まる(上式では国民総支出のみ)。金
利は低ければ低いほど民間投資は増える。
政府支出は、政府が独自に決定できるものとして外生変数として与える。
Y =C + I +G
C = 30 + 0.8(Y − T )
I = 0.2Y
←パラメータ推定結果の例
T = 0.3Y
G = 70兆円
このようなモデルを用いれば、公共投資1兆円(G を変更)増加と所得税減税1兆円(T を変更)
では、どちらが GNP を上昇させるか?などの分析ができる。
13
3.1.重回帰分析
1)土木計画で多用される重回帰分析
【量の推計】
・ 発生交通量の予測
【発生量=f(人口、運転免許の有無…)】
・ 分布交通量の予測
【分布交通量=f(発生交通量、集中交通量、OD 間時間距離)
】
・ 地価関数
【地価=f(駅までの距離、容積率…)
】
・ 開発人口の予測
【開発人口=f(整備年数…)
】
・ 道路走行速度
【走行速度(or 所要時間)=f(交通量、道路容量)】
・ 生産力の分析
【生産額=f(労働力、民間資本ストック、社会資本ストック)
】
【率の推計】
・ 交通機関分担率(2選択肢のみ)の予測【分担率=f(所要時間、費用…)】
重回帰分析は内生変数(被説明変数)が「量」のデータ、外生変数が「量」か「質」
(例えば性別、
職業など)データの解析に使うことができる。
最も基本的かつ多用される多変量解析手法で、統計ソフトには必ず組み込まれているものである。
例えば、Excel2000 だと「ツール」⇒「分析ツール」⇒「回帰分析」でパラメータ推定が実施で
きる。
【基本的な考え方】
XとYの関係の中心線を引きなさい
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
Y
Y
問
0 1
2 3
4
5 6
X
7 8
9 10
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
0
1
2
3 4
5 6
7
8
9 10
X
大体の感じはわかるけど、人によって中心線は異なるし、正確とは言いきれない。
この線を正確に引く方法が重回帰分析とか回帰分析とか最小自乗法(最小ニ乗法)と呼ばれるも
のである。
14
2)パラメータの推定方法
誤差の最小化⇒ G =
∑e = ∑(y
2
i
i
i
− βx i ) 2
i
これを行列式で表すと
G = (Y − Xβ) 2
Gがミニマムになるような β を推定する。
∂G
= −2X T (Y − Xβ) = 0
∂β
β = (X T X) −1 (X T Y)
3)非線型の関数でも線形化できるものもある。
y = β 0 + β1 x + β 2 x 2
y = β 0 e β1 x
y=
e β1 x1
e β1x1 + e β1 x2
4)モデルの良し悪し
①モデル全体の精度チェック
残差平方和(Residual sum of squares)⇒ RSS =
∑e = ∑(y
2
i
決定係数(Coefficient of determination)⇒ R 2 = 1 −
i
− βx i ) 2
i
RSS
∑(y
i
− y) 2
i
重相関係数(Multiple correlation coefficient)⇒ R = R 2
② 各パラメータの信頼性
各パラメータの信頼性はt検定でチェックする。
t=
β −0
SE
標準誤差(Standard Error)⇒ SE =
RSS
n − k −1
1
∑x
2
i
i
t値が 1.64 でパラメータが 0 でない確率が 90%、1.96 で 95%となる。
(サンプル数が十分大き
い(120 以上)場合)
15
Y
Y
Y
(参考)同じ y = 2 x でもパラメータ β = 2 の信頼性は利用したデータによって異なる。
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
0
1
2 3
4
5 6
X
7 8
9 10
0
1
2 3
4
5 6
X
7 8
9 10
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
X
16
5)弾性値(パラメータ感度について)
y = f (x ) において、 x が1%変化したときに y が何%変化するか?
弾性値の算出方法
E=
dy
y
dx dy x
⇒変数 y の変化率と変数 x の比
=
x dx y
例えば
M0
M1
y
20
24
x
100
110
∆y 24 − 20
=
= 0 .2
y
20
∆x 110 − 100
=
= 0.1
x
100
E=2 %
y = f ( x) = x β を
ln y = β ln x に変換
dy x
1
1
dy = β dx 
→
=β
y
x
dx y
6)最小自乗法と最尤推定法の関係
・一般的な正規分布の表現
f ( x) =
1
(2πσ )
2 1/ 2
 ( x − µ )
exp−

2σ 2
2



・これを重回帰分析に当てはめると、
f (Y ) =
1
(2πσ )
2 n/2
 1
(Y − Xβ )T (Y − Xβ )
exp −
2
 2σ

⇒ 最大化して β を求める
17
3.2.非線形モデルのパラメータ推定
2.0
X4 X2
例題: f ( X ) =
−
+ X の最小値を
4
2
f(x)
1.5
1.0
与える X を求めなさい。
0.5
1)ニュートン・ラプソン法の基本的
0.0
-3
な考え方
-2
-1
0
1
2
x
3
1
2
x
3
-0.5
-1.0
① 求解値の近くの適当な値を初
期値 X 0 とする。
-1.5
-2.0
② y = f ′(x) の X = X 0 における接
線を引き、 X 軸と交わったと
ころを X 1 とし、以下同様に
2
X 2 , X 3 , X n −1 , X n と求めてい
df(x)
1
く。
0
③
X n − X n −1
X n −1
-3
-2
-1
0
-1
≤ 収束判定値 :にな
-2
ったときの X n を求める根と
し、収束判定値より大きい場
-3
合は、②に戻る。
-4
-5
②で X n を求めるためには接線方程式
-6
を利用する。
f ′′( X n −1 ) =
f ′( X n −1 ) − f ′( X n )
X n −1 − X n
1
こ こ で 、 f ′( X n ) = 0 で あ る の で 、
f ′( X n −1 )
X n = X n −1 −
f ′′( X n −1 )
として、 X n が求められる。
df(x)
x
-2
①
-1.8
②
-1.6
-1.4
③
-1.2
-1
-0.8
0
-0.6
-1
-2
-3
-4
18
2)最尤推定法を用いてロジットモデルのパラメータ推定を行う。
例)軽井沢へ遊びに行こう!車と鉄道どっちで行く?
収集された実績データ:n:サンプル番号、i:選択したモード C→車、R→鉄道
1
n
i
TC (分)
TR (分)
2
3
4
5
・・・・・・
6
N
・・・・・・
C
R
C
C
・・・・・・
R
C
・・・・・・
R
100
90
130
80
・・・・・・
100
60
・・・・・・
90
140
105
130
90
・・・・・・
200
40
・・・・・・
70
上記の選択パターンが表現できる Vi = θ 1Ti を求めたい。
PCn =
eVCn
→車の選択確率
eVCn + eVRn
eVRn
PRn = VCn
→鉄道の選択確率
e + eVRn
*
尤度関数 L の作成
L* = PC1 ⋅ PR 2 ⋅ PC 3 ⋅ PC 4 PR 5 ⋅ PC 6 PRN →実績パターンを表現することは L* を最大化すること。
0
1
L* = ( PC11 ⋅ PR01 ) ⋅ ( PC02 ⋅ PR12 ) ⋅ ( PC13 ⋅ PR03 ) ( PCN
⋅ PRN
)
N
L* = ∏ PCnδcn ⋅ PRnδRn
n =1
対数尤度関数
N
L ≡ ln L* = ∑ (δ Cn ln PCn + δ Rn ln PRn )
n =1
パラメータ θ を求めるために Newton-Raphson 法
接線方程式 ∆L − ∆L(θ
(m)
) = ∆2 L(θ ( m ) )(θ ( m +1) − θ ( m ) )
θ ( m +1)= θ ( m ) − ∆L(θ ( m ) ){∆2 L(θ ( m ) )}
−1
19
4.土木計画における需要予測リスクへの対応 (交通計画を例に)
1)最近の問題の背景
大都市部の過小予測:環境影響に対する不安
地方部の過大予測:無駄な投資への不満
不透明感→出せない、隠している、信用できない
2)需要予測が左右する3項目
必要性→費用対効果、採算性
環境影響→構造、対策など
適性規模→システム選定、規格
3)アメリカの事例
1989年ごろ
1990年
サンフランシスコの裁判 その後 TMIP へ
USDOT が都市鉄道の予測値の事後評価を実施(右表)
4)日本の事例
道路大気問題として西淀川訴訟(1995)
、川崎訴訟(1998)
道路需要予測改善委員会の設置(1998年∼)
都市鉄道需要予測の改善手法調査(1999年∼)
5)予測結果の取り扱いに関する今後の方向性
効率性や必要性の観点
→下限値
環境影響評価
→上限値
適切な施設グレード
→中間値
6)需要予測におけるリスク分析のポイント
人口定着の評価(計画値 VS 予測値)
競合・補完交通施設のサービス改善の評価
プロジェクトの開業年次
など
20
USDOT(1990)Urban Rail Transit Projects: Forecast Versus Actual Ridership and Cost より
21
リスクマネージメント
リスクマネージメント:危機的状況が発生する前に、損害の可能性をいかに減らすか、あるいは
コントロールするかを検討し実行すること。
⇒このためにリスクを定量的に把握することが必要。
・ 損害を被る可能性のある事象の洗い出し
・ これらの事象の発生確率と生起した場合の損害を定量化する。
・ 損害額として金銭評価を行う。
リスクコントロールの方法
・ リスクの低減:損害を発生する事象を事前に発生確率を低くするか、損害を少なくするかの
対策を行う。⇒対策費用(耐震補強、改築、移転など)が生じる。
・ リスクの転嫁:損害の発生は許容するが、発生した損害を保険や証券化などの金融上の対策
(リスクファイナンス)を行うことで補填する。①に比較して費用は小さいが、金銭リスク
以外はなくなっていないことに注意が必要。
・ リスクの保有:積極的な方策を行わず、現状のままにしておくか、発生した場合の緊急対応
マニュアルなどを作成する。損害があまり大きくない場合や資金に余裕がない場合に使われ
る。
22
6.財源論
社会資本整備を実施するための各種財源と制度について学ぶ。
下記は、社会資本整備のための財源の種類をいくつかの観点から整理したものである。
1)財源の種類
・ 国の財源
国の財源は、①一般会計、②特別会計、③財政投融資に分かれる。
一般会計の歳入は、租税、税外収入、国債に大別される。
特別会計の歳入は、道路整備特別会計、港湾整備特別会計、空港整備特別会計があり、その
財源は、各特別会計により異なるが、特別財源(目的税)
、一般財源、財政投融資、施設利用
料等がある。
※ 特別会計:基本的に受益者負担が前提とされ、事業収入と目的税が歳入構成である。前者は
施設使用料など利用に応じて徴収されるもの、後者は、揮発油税や航空燃料税など受益の量
が計測可能な課税によるものである。
※ 財政投融資:郵便貯金、簡易保険、年金等の資金を運用する。このため、運用面でも収益を
上げる必要があり、採算性を伴っている。
・ 地方公共団体の財源
地方自治体の財源は、①普通会計と②公営企業会計に分かれる。
普通会計の歳入は、地方税、地方譲与税、地方交付税、国庫支出金、地方債など
公営企業会計の歳入は、サービスの対価としての企業収入、地方債、普通会計からの繰り入
れなど。
・ 事業主体の財源
事業主体からみた財源は、①事業収入、②資本金、③国および地方自治体からの補助金、④
民間からの出資金などに分かれる。
2)財源の選択
・ 国が支出?地方自治体が支出?
国の単独事業(例えば第1種空港)以外の施設は、国と自治体の両者が費用負担をして行う。
国の負担の論拠
① 国道のようにその整備を行う責任の一部が国にあること。
② 施設やそれによる便益が複数の自治体にまたがること。
③ 地方公共団体の財政からみて全額負担が困難であること。
④ 国で統一したシステムを持つ必要があること。
⑤ 地域間の所得再分配機能の必要があること。
⇒国費負担が過大になると、負担の少ない自治体の投資に非効率を招きやすい。
29
3)応能負担と応益負担
応能負担:負担能力すなわち所得および保有資産の大きさに応じて負担すること→広い意味での
公平性の観点、所得再配分の観点から望ましい。
応益負担:受益の量に応じて負担する。投資の効率性、負担の公平性の観点から望ましい。
4)外部補助と内部補助
事業の採算性が収入ではまかなえない場合に補助が行われる。
外部補助:国や自治体による補助
① 社会的に望ましい事業の採算性を確保することができる。
② 事業主体に投資のインセンティブを与えることができる。
③ 国としての施設の構造基準やサービス内容を統一するため。
④ 施設整備による外部経済効果があり、施設の直接的利用者だけの負担では不公平であること。
内部補助:同一事業者の他路線の収入や他の事業収入(例えば広告収入、物販収入)からの補助。
① 不採算路線や事業のサービス確保ができる。
② サービスの一体性(まとめて初めてサービス供給が可能なこと)
③ 分割負担の負経済性(料金所が多くでき、不経済な場合など)
内部補助は、単独では実施できない事業を実施するため、効率性および負担の公平性から問題が
あることに留意。
5)開発利益の還元
・ 社会資本整備は、その利用者に対して時間節約等の形で直接的な便益をもたらすほかに、間
接的に施設周辺の土地不動産に、そこから得られる効用あるいは収益の増加をもたらし、そ
のために住宅の立地を促進し地価上昇をもたらす。
・ このように、社会資本整備は、利用者以外にも種々の主体に間接的に便益をもたらすが、こ
れらの間接的な便益(開発利益)に対する対価が支払われない(不労所得・フリーライダー
となる)ことが多い。開発利益の内部化できないことが、社会的に適性な社会基盤施設の供
給レベルを達成できない原因となる。
・ 開発利益還元を実施するためにエンジニアが貢献できる技術⇒便益計測技術:①受益者の特
定、②受益額の特定(次頁参照)
・ 現存する開発利益還元策⇒土地区画整理事業、請願駅方式、土地区画整理による用地提供、
開発インターチェンジ事業など
30
【ヘドニックアプローチによる公園の整備効果分析】
≪分析式≫
各土地属性のデータの収集
LP = β S S + ∑ β j X j + C
j
LP : 地価 (万円 /m2 )
説明変数の設定
β:
j j 番目のパラメータ
X:
j j 番目の土地属性
( 都心までの距離など )
地価関数の推定
各土地属性を説明変数
とした重回帰分析
シミュレーションにより公園
整備の資産価値向上額を算出
C :定数項
≪公園指標≫
 n

S = ln  ∑ e Z k 
 k =1

Z k = βm l
+
γ
k
k
S :公園指標
m:
k k 番目の公園面積
(m 2 )
l:
k k 番目の公園までの距離
(m )
【パラメータ推定結果】
住宅地地価関数(品川区・ 大田区)
変数
係数
t値
1公園指標
0.023
4.12
2前面道路幅員
0.929
1.92
3地積
0.035
6.32
4容積率
0.068
3.49
5最寄駅までの時間 -0.240 -1.39
6都心までの時間
-0.445 -4.80
7低層住居地域ダミー 9.982
3.79
8中層地域ダミー
3.906
2.22
定数項
35.891
相関係数
0.761
サンプル数
101
分析結果から公園指標
と地価が正比例の関係
公園整備によって
地価が上昇する
経済効果を算出
1
【推定結果その1】
≪前提条件≫
500m
・対象地域:大田区西蒲田付近
・面積2haの公園を想定
・大田区公共地面積28%を除く
街区公園
近隣公園
地区公園
運動公園
地価上昇額の空間分布
1.2
上昇額(万円/㎡)
64億円の経済効果をもたらす
1
0.8
0.6
0.4
0.2
-500
-300
0
-100
100
公園からの距離(m)
300
500
【推定結果その2】
≪前提条件≫
500m
・対象地域:大田区久が原付近
・面積2haの公園を想定
・大田区公共地面積28%を除く
街区公園
地区公園
公園
地区
近隣公園
運動公園
地価上昇額の空間分布
5億円の経済効果をもたらす
上昇額(万円/㎡)
1.2
-500
1
0.8
0.6
0.4
0.2
-300
0
-100
100
300
500
公園からの距離(m)
2
6)民活方策
民間資金を利用した社会資本の整備方策として第三セクター方式、最近では PFI(Private Finance
Initiative)がある。
第3セクター方式
公共
出資
提案
3セク
認定
出資
民間
・ 第3セクター事業は、公共(自治体)のリスク耐力と民間の効率性の融和狙った方法。
・ 公共事業の性格をもつため、補助金、税制等の優遇措置が受けられる。公共・民間から出資、
役員派遣等により経営関与する。
問題点
・ 公共と民間の責任分担が不明確だった。
・ 事業のリスク分析が不充分だった。
どのようなリスクが発生するか?
・ 市場リスク:予測需要量が確保できない(予測誤差、補完施設整備の遅延、競合施設の
整備など)
。料金改訂ができない。
・ ファイナンス完了リスク:プロジェクト実施のための資金調達ができない。または遅延
する。
・ 完工リスク:工事予算がオーバーしたり、資材、人件費等の不測の高騰によって工期が
遅延したり、構造物が契約上の規格にあわない。
・ 不可抗力リスク:天変地異
・ カントリーリスク(途上国で多い)
:戦争、革命の発生。内貨価値の急激な下落。法制度
の不備により契約の実行性が担保されない。
PFI 方式
公共
事業権契約
出資
民間 事業者
業務
委託等
民間
民間
・ 公共が特定事業を選定
・ 公募、客観的評価により特定事業者を選定
・ 通常、特別の目的会社が設立される。
33
・ 公共と事業会社の間で事業権契約を締結
・ 事業会社は契約により民間企業のノウハウを活用しながら事業を遂行する。DBFO がポイン
ト⇒設計 D、建設 B、資金調達 F、運営 O を一体で民間が実施することによってコスト削減
を図る。
・ 公共は契約に従って事業を監督する。
問題点
・ 採算性の低い箇所が取り残され、全体のネットワークとして機能しなくなる恐れ。
・ インフラの質や安全の側面の軽視や環境対策の軽視。
・ 料金が高くなることによる国民生活の圧迫や経済成長への悪影響の恐れ。
・ 適切な維持管理の軽視
・ 政府の責任、企画能力の減退
・ リスクを含むライフサイクルコストの計量化技術が不充分
VFM(Value for Money)
リスク
従来型の公共事
業の調達コスト
PFI
調達コスト
(建設費+運営維持
費)
従来型公共事業
PFI
リスクを考慮しなければ、基本的には PFI は割高?
・ PFI は民間事業故に、事業主体の利潤が必要、高度に複雑な入札費用の算定が必要、民
間資金からの調達のため金利等が割高になる。
VFM が高まる理由
・ リスク配分の最適化
・ 入札による競争
・ 技術的な革新
・ 過剰仕様の回避
・ 設計から運営に至るライフサイクルコストの低減
・ 自由度が高い関連投資など
34
7.合意形成技術
パブリック・インボルブメント(Public Involvement)
1)PI の価値
・計画策定段階に興味をいだかない団体や個人をどの様に関与させて理解を深めるか?
・将来の事業遂行上のコンフリクトを少なくできるか?
※PI の実施段階としては①計画段階、②個々のプロジェクトの事業化の段階、③建設の段階に分けられるが、
特に従来導入がなされていない①での実施が重要である。
2)パブリックに含まれる主体とは?
・行政の別組織を加えて縦割りを排除
・ローカルな公共団体
・様々な関連主体
・住民、国民→「住民」はパブリックの構成員の1主体に過ぎない。
3)わが国の動向
行政施策立案
↓
決 定
↓
社会資本整備
行政
情報公開・問いかけ
国民の意見・考え
国民
行政
批判・クレーム
行政施策の提案
国民
施策の実施・整備
政策評価・CS
※キックオフ・レポート(建設省)……国民の意見を 21 世紀の道路計画づくりに反映するため、
「道路審議会
基本政策部会
21 世紀のみちを考える委員会」が道づくりに関する 12 のテーマを提示し、
「みち」に関する
意見を募集した冊子。全国の学校、経済団体、道路利用者団体等などに向け、53 万部配布し、平成 8 年 5 月
から 7 月末にかけて意見募集を行った。
※CS……顧客満足度調査(Customer Satisfaction Survey)。建設省道路局では今秋に第1回調査を予定、道路
幅、工事の多さ、交差点の見通し、ミラーや標識の整備、路上の駐車スペースなどについて、満足度と重要
度を5段階で評価。調査結果は 2001 年度以降の予算に反映予定。
※英国の鉄道のCSの例:英国では定時性(5分以内の遅れで走った列車の比率)、信頼性(運行がキャ
ンセルされなかった列車の比率)等を定期的に計測し、事業者が定める目標に対する達成度に応じて、罰金
が賦課されたり、報奨金が支払われたりしている。また定期的(6ヶ月ごと)に顧客満足度調査(定時性、
所要時間、運行頻度、乗車の容易さ、着席可能性、乗り心地、車内や駅の安全性、車内デザイン、車内騒音、
車内の清潔さ、駅全般の状況など)を行うことを義務づけている。なお、事業者が実施した顧客満足度調査
の結果、定時性数値目標などのパフォーマンスの状況、報奨金・罰金の状況などが、四季報として公開され
る。事業者によっては、これらの情報を使って車内紙などでサービスの改善状況をアピールしている。
35
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