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アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題

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アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
第2節
アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
我が国製造業はグローバル競争の激化、アジア地域の成
2001 年以降中国、NIEs に加え、タイ、マレーシアなどの
長を背景に、製造拠点のアジア展開を進展させるなど、ア
ASEAN4 を中心としたアジア地域向けの伸びが特に高く、
ジア規模でのサプライチェーン(本年次報告においては、
2007 年には輸出額が 40.4 兆円となり(図 121-1)
、我が
原材料の調達から製品を消費者(顧客)に届けるまでの一
国 の 総 輸 出 に 占 め る ア ジ ア 地 域 へ の 輸 出 の 割 合 は、
連の過程に係る事業者等のつながりを指す)を構築してい
48.1%に達している。また、輸入においては、原油等の
る。アジア地域での我が国製造業の生産活動の拡大は、我
資源価格の上昇を背景に中東地域からの輸入額が 2005 年
が国からアジア地域への中間財の輸出増加をもたらし、我
以降急激に増加しているほか、アジア地域からの輸入が高
が国経済の活発化にも寄与している。
い伸びを示している(図 121-2)。こうしたことから、ア
一方、国際機能分業が深化する中で、我が国のものづく
りを支えるものづくり基盤産業もアジアとの競争下に置か
ジア地域は我が国の貿易活動において近年最も重要な地域
となっていることがうかがえる。
れ、今後アジアとの競合は一層厳しくなっていくと見込ま
我が国から中国・NIEs・ASEAN4 への工業製品の輸出
れることから、その経営基盤の強化が、我が国ものづくり
額の推移を財別に見ると、2002 年以降、素材・中間財の
全体の強化の観点から重要である。
輸出が大きく伸び、2005 年には 2,148 億ドルとなってい
また、競争環境が変化する中、取引構造のメッシュ化、
る(図 121-3)。また、工業製品の輸出に占める素材・中
在庫の削減、カスタマイズ部品の増加など我が国製造業の
間財の割合も上昇傾向にあり、1990 年には 62.3%であっ
サプライチェーンをめぐる変化が生じている。こうした変
たが、2005 年には、70.8%と約 8.5 ポイント上昇してい
化の中で、供給途絶リスク、技術情報の管理の在り方な
る。一方、中国・NIEs・ASEAN4 の工業製品の輸出と我
ど、新たな問題も顕在化しつつあり、サプライチェーンを
が国からの中間財の輸入の推移を見ると正の相関が見られ
強化する視点が重要になっている。我が国製造業は、こう
る(図 121-4)。また、近年その成長性が注目されている
した諸問題に対応しつつ競争力を高めていくことが求めら
インドにおいてもこうした相関関係が 2000 年以降に見ら
れている。
れるようになった(図 121-5)。こうした相関関係は、ア
ジア諸国・地域の経済が拡大する過程で、現地では生産困
1
難な部品・材料等を我が国に依存してきたことが背景にあ
国際機能分業の深化
ると考えられる。
(1)我が国製造業の貿易と直接投資
一方、我が国製造業の直接投資は、2007 年には前年比
第 1 節で見たとおり、我が国は輸出、輸入共に拡大傾向
16.3%増の 4.7 兆円となった(図 121-6)。非製造業は、
にある。我が国の輸出入の推移を地域別に見ると、輸出は
金融・保険業が北米、南米、西欧でそれぞれ 5,000 億円
図 121 − 1 我が国の地域別輸出額の推移
図 121 − 2 我が国の地域別輸入額の推移
(兆円)
50
アジア
北米
西欧
その他
40
(兆円)
35
30
40.4
アジア
北米
西欧
中東
その他
31.6
25
30
20
20
15
13.4
10
10.4
9.5
8.3
18.1
13.1
12.3
10
5
0
0
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07(年)
資料:財務省貿易統計
18
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07(年)
資料:財務省貿易統計
第1章 我が国ものづくりが直面する課題と展望
以上の直接投資を行ったため、全体を大きく押し上げた
なったため、同地域向け投資が大きく増加した。近年増加
が、直接投資全体に占める製造業の割合は 53.9%と引き
傾向が続いていたアジア地域では、2006 年に電気機械器
続き大きな割合を占めている。また、地域別に見ると、西
具製造業が大きく増加させたことへの反動もあり、2007
欧地域で食料品が前年比 5.5 倍の 2 兆円の直接投資を行
年は 10.4%減の 1.5 兆円となった(図 121-7)。
図 121 − 3 我が国のアジア主要国・地域への輸出内訳
(億ドル)
1,500
1,000
500
2005 年
200
150
y=10.822x−49.489
R²=0.967
100
50
1990 年
0
5
7
9
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05(年)
図 121 − 5 インドの工業製品の輸出と我が国からの中間財の輸入
インドの工業製品輸出額
1990-1994
1995-1999
2000-
8
25(兆円)
■非製造業
■製造業
50,000
40,000
4.0
6
2000 年
30,000
1.8
20,000
4
1990 年
10,000
0
23
図 121 − 6 我が国の対外直接投資の推移
2005 年
60,000
0
21
(兆円)
10
(億円)
90,000
70,000
11 13 15 17 19
我が国からの中間財の輸入
備考:アジア主要国・地域は中国、NIEs、ASEAN4
ドル建の全額を IMF 為替レートにより各年毎に円換算した。
資料:RIETI-TID(2006)より経済産業省
備考:アジア主要国・地域は中国、NIEs、ASEAN4
資料:RIETI-TID(2006)
80,000
第2節
消費財
資本財
素材・中間財
2,000
500
1,000
1,500
2,000
2,500
(億円)
我が国からの中間財の輸入
備考:ドル建の全額を IMF 為替レートにより各年毎に円換算した。
資料:RIETI-TID(2006)より経済産省作成
2
0
2.2
2.9
2005
4.0
2006
4.7
2007 (年)
資料:日本銀行「国際収支統計」
図 121 − 7 我が国製造業の地域別直接投資の推移
(兆円)
5.0
4.5
0.6
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0.3
0.4
1.0
1.2
05
1.4
1.5
1.0
1.2
1.6
1.5
06
07
(年)
■アジア ■北米 ■西欧 ■その他
資料:日本銀行「国際収支統計」
19
アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
アジア主要国・地域の工業製品の輸出額
(兆円)
250
2,500
0
図 121 − 4 アジア主要国・地域の工業製品の輸出と我が国
からの中間財の輸入
(2)アジア規模に広がるサプライチェーン
た、経常利益率について見ても、アジア通貨危機が発生し
対外直接投資の増加に伴い、2006 年度の海外生産比率
た 1997 年度に一時的に低下したものの、1998 年度以降
(全法人ベース)は過去最高の 18.1%となっている(図
は北米地域や欧州地域より高い水準を維持している(図
121-8)
。海外生産比率(全法人ベース)を業種別に見る
121-13)。
と、輸送機械が 37.8%で最も高く、続いて電気機械が
22.9%、化学が 17.9%となっている(図 121-9)
。
次に販売先について見ると、我が国への輸出の割合は、
2006 年度に 22.1%にとどまる一方で、現地販売額の割合
地域別に見ると、特にアジアにおける我が国現地法人
は 51.9%であり、近年上昇傾向にある(図 121-14)
。
(製造業)の売上高が近年大きく増加し、2004 年度には
北米を上回り、その差は拡大している(図 121-10)。
こうした中で、アジアにおける我が国現地法人(製造
業)は、我が国からの部品・材料等の調達を大きく増加さ
アジアにおける我が国現地法人数(製造業)を経済産業
せてきた(図 121-11 再掲)。前述のアジア向けの素材・
省の「 海 外 事 業 活 動基本調査」で見ると、中国 で は、
中間財の輸出の伸びは、これらの現地法人による調達が大
1995 年 度 の 743 社 か ら 2006 年 度 に は 2,376 社 に、
きく貢献しているものと考えられる。
ASEAN では同じ時期に 1,109 社から 1,783 社にまで増加
している(図 121-11)
。
以上のように、我が国製造業のアジア地域への生産拠点
の展開は、アジア地域の高い経済成長を背景に、拡大する
また、アジアにおける我が国現地法人(製造業)の設備
投資について見ても、2004 年度、2005 年度と大幅に増
市場の活力を取り込むものとしての性格が近年強まりつつ
あることがうかがえる。
加し、他の地域を大きく上回っている(図 121-12)。ま
図 121 − 8 我が国製造業の海外生産比率
(%)
35
国内全法人ベース
海外進出企業ベース
29.0
30
25
20
18.0
21.8
19.7
15
10
7.9
8.3
94
95
23.8
24.5
29.1
29.7
29.9
30.6
15.6
16.2
16.7
03
04
05
31.2
31.4
18.1
18.3
24.2
23.0
10.4
11.0
11.6
11.4
11.8
96
97
98
99
00
14.3
14.6
01
02
5
0
06
07 予測(年度)
備考:1.国内全法人ベースの海外生産比率=海外現地法人
(製造業)
売上高/
(海外現地法人
(製造業)
売上高+国内法人
(製造業)
売
上高)
×100
2.海外進出企業ベースの海外生産比率=海外現地法人
(製造業)
売上高/
(海外現地法人
(製造業)
売上高+本社企業
(製造業)
売上高)
×100
3.
「海外現地法人」とは、
「子会社(日本側出資比率が 10%以上の海外法人)
」と「孫会社(日本側出資比率が 50%超の海
外子会社が 50%超の出資を行っている海外法人)
」を指す。
4.
「海外進出企業」とは、
「海外現地法人」を有する我が国企業を指す。
5.2007年度は見込額として調査したもの。
6.2001 年度に業種分類の見直しを行ったため、2000 年度以前の数値とは断層が生じている。
資料:経済産業省「海外事業活動基本調査」
図 121 − 9 我が国製造業の海外生産比率(業種別)
(%)
40.0
食料品
鉄鋼
輸送機械
35.0
木材紙パルプ
一般機械
繊維
非鉄金属
精密機械
(兆円)
化学
電気機械
37.8
30
北米
アジア
ヨーロッパ
25
25.0
22.9
20.0
15.0
10.0
5.0
94
95
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
32.2
18.6
15
10
14.3
5
10.6
10.3
9.0
8.9
4.7
4.2
0
06(年度)
42.5
20
17.9
備考:1.海外生産比率=海外現地法人売上高/海外現地法人売上高+国内法人売上高)
×100
2.
「海外現地法人」
とは、
「子会社
(日本側出資比率が 10%以上の海外法人)
」
と
「孫会社
(日
本側出資比率が 50%超の子会社が 50%超の出資を行っている海外法人)
」を指す。
3.「電気機械」には「情報通信機械」を含む。
4.2001年度に業種分類の見直しを行ったため、2000 年度以前の数値とは断層が生じている。
資料:経済産業省「海外事業活動基本調査」
20
40
35
30.0
0.0
図 121 − 10 我が国の現地法人(製造業)の地域別売上高の推移
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 20 00 01 02 03 04 05 06
(年度)
資料:経済産業省「海外事業活動基本調査」
第1章 我が国ものづくりが直面する課題と展望
図 121 − 11 我が国の現地法人(製造業)の海外展開
図 121 − 12 我が国の現地法人(製造業)の地域別設備投資額の推移
(億円)
25,000
0.2 兆円→3.0 兆円
中国
(1995 年度)
(2006 年度)
20,000
●●●●●
●●●●●●
●●●●●
●●●●●
●●●●●
●●●●●
●●●●●●●●●
15,000
743 社
2,376 社
0.8 兆円→3.1 兆円
19,095
11,706
10,000
7,244
5000
ASEAN
(2006 年度)
●●●●●
●●●●●
●●●●●
●●●●●
●●●●●
●●●●●●●●●●
●
現地法人
(製造業)
の
日本からの輸入額
1,109 社
0
5,436
(年度)
93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06
1,783 社
北米
現地法人数
●…100 社
● …10 社(四捨五入)
アジア
ヨーロッパ
中国
資料:経済産業省「海外事業活動基本調査」
図 121 − 13 我が国の現地法人(製造業)の地域別経常利益率の推移
(%)
6.0
4.0
5.3
5.2
4.6
3.0
3.0
5.0
2.0
図 121 − 14 我が国のアジア地域現地法人(製造業)の販売先(割合)
(%)
54
(%)
28
51.9
52
26
50
24
48
1.0
0.0
46
-1.0
93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06(年度)
北米
アジア
ヨーロッパ
国内全法人
資料:経済産業省「海外事業活動基本調査」
コ ラ ム
44
22.1
98
99
00
01
02
現地販売比率(左目盛)
03
04
05
22
20
06
(年度)
日本向け輸出比率(右目盛)
資料:経済産業省「海外事業活動基本調査」
新興市場での海外競合企業の活動
韓国系主要メーカーの新興市場での事業戦略の特徴として、まず、市場のボリュームゾーンを対象にしたハイエン
ドでない汎用品を手ごろな価格帯で販売していることが挙げられる。この点については、ハイエンドな製品に力点を
置く日系メーカーとの戦略上の大きな差異と言えよう。韓国系企業は、利益率から見ると決して大きくはないが大量
に販売することにより、市場での自社ブランドの浸透を図る戦略を重視していると見られている。
ブランド力を高めるためのマーケティング戦略も看過できない。会社全体のイメージ広告に対して多額の広告宣伝
費を投じていることや、流通網整備に多くの資源を投入していることが代表例である。流通網に関して韓国系 A 社は、
インド市場において日系メーカーの10 倍以上の規模で販売店(ブランドショップ)を展開していると言われている。
現地市場のニーズに対応した商品開発もまた、新興市場における重要な事業戦略の1つである。具体例として、イ
ンドにおける地域別の言語に対応したソフトウェアを組み込んだテレビの開発などが挙げられる。この点については、
日系メーカーも積極的な取組をしているが、現地のエンジニアを最大限に活用している点が韓国系メーカーの特徴で
ある。このような地元人材を登用した商品開発の取組の中から、韓国系B 社は、インドにおいてドアロック機能を搭
載した冷蔵庫といったヒット商品を生み出している。
本社から派遣された新興市場担当のマネジャー層は、5〜10 年間以上、現地に赴任することが一般的であり、その
間、現地の言語をマスターするほか、現地の風土や習慣に対する理解を深めている。こうした地道な努力もまた販売
先との良好な関係構築に大きく寄与しているものと考えられる。
ハイエンド製品の品質においては、依然として日系メーカーに一日の長があるが、新興市場においては、ボリュー
ムゾーンに深く浸透した韓国系メーカーのブランド力が、今後、大きな脅威になる可能性がある。日系メーカーは今
後、新興市場において、いかにしてブランド力を高めていくかが重要な経営課題になるであろう。
21
アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
資料:経済産業省「海外事業活動基本調査」
-2.0
第2節
(1995 年度)
コ ラ ム
日 ASEAN EPA 署名
2008 年 4月に署名に至った、日ASEAN 包括的経済連携協定(以下、AJCEP)は、日本にとって初めての多国間
の面的な経済連携協定(以下、EPA(注1)
)である。
多国間でのEPA の実現により、最適分業体制の追求に伴って集約化されているASEAN内の部品供給網に、関税
削減というメリットを受けて、日本製の高付加価値部品を導入することが可能となる(注 2)
。
また、AJCEPは関税削減のみならず、投資・サービス分野について、より良い投資環境構築を目的として、将来
的な地域レベルの自由化及び保護に向けた交渉を行うために小委員会を設置する旨の規定や、物流・貿易関連手続、
ビジネス環境、知的財産、環境・エネルギー、情報通信技術、人材育成といった多岐にわたる分野の日ASEAN 地域
共通の課題解決に向けた協力など包括的な内容となっており、既存の二国間の経済連携協定及び投資協定と合わせ
て、日ASEAN 地域に重層的な経済連携の枠組みを構築できる。これらにより、日本で開発・生産した高付加価値部
品を用いてASEAN 域内で製品を生産する高度な分業体制によるサプライチェーンの発展が促進されるなどの、日本
とASEAN 地域全体との経済ネットワークの更なる緊密化が期待される。
さらに、AJCEPは、これまで日本が進めてきた東南アジア地域との経済連携の取組の集大成であり、ASEAN+6
(ASEAN日中韓印豪NZ)による東アジア包括的経済連携(CEPEA)構想につながりうる大きなステップとなる。
(注1)EPA
関税分野に関する運用上の基礎的情報は、以下のページにある経済産業省作成のパンフレット参照
よくわかるEPA/FTA(関税分野)
http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/epa/data/071004EPA_Pamphlet.pdf
(注 2)これまで日ASEAN 地域には、ASEAN内のFTA(AFTA)のCEPT(共通効果特恵関税)及び二国間EPAが存在するが、日本で高付加価値部
品を開発・生産しASEAN 域内で最終製品を生産・販売するフロー(薄型テレビが典型例)においては、これらAFTA・二国間EPA の原産地規
則では原産性を得ることができず、貿易自由化のメリットを享受できないケースが生じていた。しかし、AJCEPの締結により、原産性を得るた
めの付加価値基準をクリア出来、メリットを受けることが出来るようになる(下図参照)
。
日本で開発・生産した高付加価値部品を用いてアセアン域内で製
品を生産するサプライチェーンにおける関税撤廃を実現
A(日本
二国間 EP
0%関税
A国
J
部品
ASEAN
薄型テレビパネル
B
薄型テレビ
C
(例)
アセアン域内
付加価値 40%未満
通常の税率
(高関税)
I
H
D
E
G
F
本 -A
日
PA(
間E
二国
税
関
0%
日本
AJCEP アセアン
域外 域内※
A国
AJCEP締結後
AJCEP締結前
TA
AF 関税
0%
-A 国)
J
TA
AF
関税
0%
薄型テレビ
C
AJCEP
0%関税
H
G
F
最終製品
部品・材料
※アセアン域内での付加価値が 40%未満の製品
は AFTA(アセアン自由貿易地域)による関税撤
廃の対象とならない。
・ 最終生産拠点(A 国)へ部品を調達する貿易は、AFTA(CEPT 協
定)又は二国間 EPA の原産地規則(輸出製品に対して付加価値
40% など)を満たす限りにおいて無税となる。
・ しかしながら、A 国から市場(F 国)へ輸出する最終製品における
ASEAN 域内の付加価値が CEPT 協定の原産地規則を満たさない
(付加価値 40% 未満)場合、通常の関税率(高関税)となってし
まう。
(3)内外生産拠点の位置付け
①国内の立地動向
薄型テレビパネル
部品
I
日本
B
ASEAN
日本
国)
D
E
(例)
日アセアン
付加価値 40%以上
アセアン
AJCEP 域内
域外
日本
最終製品
部品・材料
・ AJCEP では日本及び ASEAN において、輸出品に加えた付加価値
(その生産に用いる日本及び ASEAN 諸国原産の部品等の価値を含
む。)が 40% を超えることを求める規則がある場合にそれを満たせ
ば AJCEP の下での原産性を得て AJCEP の特恵税率の適用を受ける
ことが可能。
・ AFTA(CEPT 協定)及び二国間 EPA では特恵関税のメリットを享
受できなかったケースにおいて新たな貿易自由化の恩恵を受ける。
最近 5 年間で国内での新設立地を行った企業にアンケー
トを実施したところ、財別の内訳では、素材・中間財や生
一方、我が国の工場立地件数・面積の推移を見ると、
産財を生産する企業の割合が相対的に高い(図 121-16)
。
2002 年に 830 件、854haと工場立地動向調査開始(1967
また、国内に立地する理由については、主に国内販売を行
年)以来で最低の水準を記録したが、その後の景気回復及
うことを目的に新設立地を行った企業では 67.2%が「日
び国内立地の再評価により回復傾向を示し、2007 年には
本国内の顧客との近接性が重視されるから」をその理由に
2002年の2倍を超える工場立地件数となった(図121-15)
。
挙げている。背景には、国内景気の回復や、近年の製品ラ
22
第1章 我が国ものづくりが直面する課題と展望
図 121 − 15 我が国の工場立地動向
(件)
2,000
図 121 − 16 近年の国内新設立地の状況
2,710
1,800
(%)
40
1,400
2,000
1,200
1,791
1,000
1,500
800
(%)
15
14.1
12.4
2,500
1,600
30
20
11.1
9.7
35.1
5
10
400
13.5
500
200
98
99
00
01
02
03
■立地件数(左目盛)
04
05
06
0
07(年)
敷地面積(右目盛)
生産財
賃加工
消費財
0
各財に占める新設立地を行った企業の割合(右目盛)
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
図 121 − 18 過去 5 年間のアジア地域の我が国製造拠点に
おける撤退・大幅な縮小
37.5
日本国内の顧客との近接性が重視されるから
67.2
45.8
42.7
本社や既存の国内拠点との近接性が重視されるから
日本国内に魅力的な市場があるから
25.0
26.0
日本国内の方が優秀なサポーティング・
インダストリーが存在しているから
25.0
19.8
知財・ノウハウの管理上、
海外に拠点を設置するリスクが増大してきたから
■主に海外に輸出
■主に国内に販売
29.2
11.5
日本国内の方が優秀な人材(研究者、技術者、
技能者等)を確保しやすいから
20
無い
82.6%
54.2
19.1
10
ある
17.4%
30
40
50
60
70
80(%)
備考:対象は過去 5 年間に国内に新設立地した企業
新設立地した拠点の主な販売先が海外であるか国内であるかによってグループ分けを
行った。
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
図 121 − 19 撤退後の方向性
その他
2.1%
国内の拠点に移転
14.9%
海外の拠点に
移転
26.6%
備考:対象はアジア地域に生産拠点を展開している企業
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
図 121 − 20 国内に機能を移転した理由
日本国内需要に対する
迅速な対応の必要性増大
9.4%
(安心・安全が保障できる)
高い品質の確保
12.5%
現地の法律、制度の変更
によるメリットの縮小
12.5%
備考:対象は過去 5 年間にアジア地域から製造拠点の撤退・大幅な縮小を行った企業
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
その他
15.6%
現地の生産
コスト・
人件費の上昇
28.1%
現地における知的財産・
ノウハウ管理上の問題の増大
21.9%
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
イフサイクルの短期化等により顧客ニーズを把握してから
撤退があった」と回答しており、そのうち 14.9%の企業
市場に製品を投入するまでの期間を短くする必要性が増し
は縮小・撤退を行った事業を国内の拠点に移転したとして
ていることなどがあると考えられる。一方で主に海外に輸
いる(図 121-18、図 121-19)。これらの企業が国内に機
出することを目的に新設立地を行った企業では、54.2%
能を移転した理由としては、「現地の生産コスト・人件費
の企業が「日本国内の方が優秀な人材を確保しやすいか
の上昇」や「現地における知的財産・ノウハウ管理上の問
ら」をその理由に挙げている(図 121-17)
。
題の増大」が上位に挙げられている(図 121-20)
。こう
したことから、人件費を始めとする現地の物価の上昇等に
②国内生産の意義の再評価
アジア地域に展開した製造拠点の過去 5 年間での状況に
ついて見ると、17.4%の企業が「事業の大幅な縮小又は
より国内立地に対するアジア立地の比較優位が相対的に低
下していることや、技術流出防止の観点等から、国内立地
の意義が再評価されていることがうかがえる。
23
アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
図 121 − 17 国内に新設する理由
当該事業を廃止
56.4%
素材・中間財
■新設立地占める割合(左目盛)
備考:07 年は速報値
資料:経済産業省「工場立地動向調査」
0
0
17.6
第2節
97
10
33.8
1,000
600
0
(ha)
3,000
③内外経営資源の戦略的活用
年度は 3,837 億円、海外研究開発投資比率は 3.2%にとど
製造拠点等の海外展開を行っている我が国製造企業によ
まっている(図 121-22)。ただし、現地市場向けの設計
る内外拠点の今後の活用方針について見ると、研究・開発
開発は、海外拠点に機能を移していくとする企業も一部に
分野では、79.5%の企業が基礎研究を「日本国内に集約」
見られる(図 121-21 再掲)。
としているなど、全体としては、
「日本国内に集約」、「日
一方、製造分野では研究・開発分野に比べ海外拠点を積
本国内が主、一部を海外へ展開する」と回答した企業の割
極的に活用する企業の割合が高く、特に汎用的な製品部材
合が多く、引き続き活動の中心は国内であると考えられる
等の量産では「日本国内と海外の両方で行う」、
「海外が主、
(図 121-21)
。経済産業省の「海外事業活動基本調査」で
一部を日本国内に残す」、「全面的に海外シフト」とする企
海外研究開発投資の動きを見ても、1999 年度に前年度比
業の割合の合計は 76.8%に達する(図 121-21 再掲)
。国
29.7%増の 3,770 億円となり、海外研究開発投資比率も
際機能分業が深化する中で、今後企業が国内外の経営資源
0.9 ポイント上昇したが、その後は横ばいが続き、2006
を戦略的に活用する動きが一層進んでいくと見込まれる。
図 121 − 21 我が国製造業の機能分業の方向性
図 121 − 22 我が国の現地法人の研究開発投資
基礎研究
10.1 9.0 1.0
79.5
応用研究(応用技術の開発)
69.3
新製品の設計開発(世界市場向け)
67.6
20.4
(億円)
新製品の設計開発(現地市場向け)
51.4
21.3
16.6
3.8
3.9
3.8
9.3 0.7
3.3
4,000
15.9
(%)
5,000
13.9 2.0
3,770 3,816
2.9
3.9
3.5
4,107
3.2
3,633
3,632
3,407
4
4,210
3.2
3,837
3
3,000 2,907
7.8
2
最先端技術を用いた新製品・
先端部材等の製造
58.4
特注品の製造
22.3
43.4
汎用的な製品部材等の量産 6.9
0
21.8
16.3
20
47.6
40
60
15.7 2.4
28.3
4.9
18.3
10.8
80
100(%)
■日本国内が主、一部を海外へ展開する
■日本国内に集約
■日本国内と海外の両方で行う ■海外が主、一部を日本国内に残す
■全面的に海外シフト
備考:対象は海外生産拠点を持っている企業
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
コ ラ ム
1
1,000
0
98
99
00
01
02
03
04
05
0
06(年度)
■北米(左目盛)
■ヨーロッパ(左目盛) ■アジア(左目盛) ■その他(左目盛)
海外研究開発比率(右目盛)
資料:経済産業省「海外事業活動基本調査」
薄型テレビのサプライチェーン
A 社の薄型テレビ(液晶テレビ、プラズマテレビ)の生産
では、製品価格の 5 割〜6 割程度を占めるパネル(プラズマ
の場合駆動装置を含む)は国内で一極生産を行い、テレビ組
立については現地生産を行っている。こうした背景には、薄
型テレビのパネル生産は設備集約的であり、一極生産を行う
ことに合理性が高い点、モデルチェンジが毎年行われるため
技術陣と生産現場の近接性が求められる点、国内に優秀な
設備メーカーが集積しており、中国等で生産を行おうとする
と設備の多くを入れ替えのたびに日本から輸入しなければな
らず、かえって割高になってしまう点などが挙げられる。一
方、テレビ組立を需要地付近で行う背景にはテレビを国内か
ら輸出しようとすると多くの場合、輸送コストや関税が割高
になる点、製品価格の下落が激しいため、製品在庫を抱える
リスクが大きい点が挙げられる。
24
2,000
【薄型テレビのサプライチェーン】
北米、南米、欧州
中国
パネル部品
TV組立、域内販売
板金・金型等汎用
部品を中国から輸入
TV組立、域内販売
パネル輸出
筐体等
ASEAN
筐体等パネル以外の
多くの部品を中国から輸入
パネル輸出
TV組立、域内販売
パネル輸出
日本
パネル生産
液晶材料・駆動装置等
重要なパネル部品
内需向けTV組立
第1章 我が国ものづくりが直面する課題と展望
コ ラ ム
部素材産業の強み〜電子材料の例〜
我が国の中間財の輸出が増加している背景には、液晶ディスプレイ材料や半導体材料といった電子材料に代表さ
れる我が国部素材産業の高い国際競争力の存在が挙げられる。図のとおり、フラットパネルディスプレイの製造に不
可欠な部材や素材については、我が国企業が高いシェアを有しているケースが多い。フラットパネルディスプレイの
うち、例えば液晶パネルの場合には価格の 60〜70%を部品・部材部分が占めていると言われており、そこでの高い
世界シェアは、正に製品のコアを押さえていることを意味する。経済産業省が、液晶ディスプレイ材料や半導体製造
材料を生産する企業のうち、世界トップレベルのシェアを有する企業15 社に対し、競争優位を獲得するに至った要
因等につきヒアリングを行った結果、概要は以下のとおりである。
第2節
アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
コ ラ ム
表 示
バックライト
〈競争優位獲得の要因〉
①顧客との徹底的な擦り合わせによる顧客ニーズの取り込み
一般に製品開発プロセスにおいて企業間の共同が極めて重要な意味を持っている自動車産業などを中心に、製品
開発における顧客との擦り合わせは顕著に見られてきたところであったが、ヒアリング結果によると15 社中13 社は
早期にサンプルの提供を行い、15 社中15 社が製品開発プロセスで顧客と徹底した擦り合わせを行ったと回答してお
り、電子材料分野の開発プロセスにおいて、擦り合わせとそれに基づくマーケットインの研究開発が競争優位の源泉
の一つとなっていることがうかがえる。また擦り合わせの相手は、15 社中13 社がマーケット動向に関する情報が集
中する業界トップレベルの企業を挙げている。
②顧客への評価技術の提案に見られる提案型営業
電子材料分野では新しい部材に対する評価スキルを顧客が有さないケースも多いことから、ヒアリング結果では
15 社中9 社が顧客に対して製品の評価技術や試験方法の提案を行っていると回答しており、うち3 社はそのために
顧客と同様の設備環境を自社内に保有している。
③顧客の顧客を視野に入れたマーケティング
【液晶ディスプレイ(LCD)部材サプライチェーン】
分業の進展・サプライチェーンの複雑化等
により、直接の顧客との擦り合わせのみでは、
材 料
部 材
製 品
カラーレジスト
LCD
カラーフィルター
製品需要を十分に把握できないケースも少な
市場規模 700 億円
市場規模 4,000 億円
日韓台欧等の
くない。そのため、直接のユーザー(顧客)
日系企業シェア 90%
日系企業シェア 95%
大手パネルメーカー
のみならず「顧客の顧客」を視野に入れたマー
カラーフィルター用
顔料分散材料
偏光板
ケティングを行い、直接の顧客に対して提案
377 億円、100%
市場規模 5,000 億円
していくことで競争優位を獲得したケースも
日系企業シェア 64%
液晶配光膜材料
(参考)液晶パネル用フィルム
155
億円、99%
多い。ヒアリング結果では15 社中8 社が顧客
材料の仕組み
PVA フィルム
の顧客まで意識したマーケティングや製品開
ガラス
カラーフィルター
配向膜・透明電極
250 億円、100%
発によって競争力がある製品が生み出された
視野角補償フィルム
と回答している。
567 億円、100%
④組織内での情報共有
TAC フィルム
偏光フィルム
(偏光膜保護フィルム)
顧客に対する提案型営業を行う上で、社内
接着剤
PVAフィルム偏光子
偏光フィルムの構造図
(略図)
600 億円、100%
の他部門との連携が重要になると考えられる
位相差フィルム
100 億円、100%
が、15 社中14 社が顧客情報や顧客ニーズの
保護フィルム
位相差フィルム等
部門・部署間を超えた共有を行っているとし
資料:富士キメラ総研等の資料から経済産業省作成
ており、こうした組織能力も競争優位の源泉
の一つと考えられる。
感性価値創造イニシアティブ―第 4 の価値軸の提案―
現在我が国は、国内においては人口減少に伴う量的需要減に直面するとともに、近隣諸国から猛烈な追い上げとコ
スト競争を強いられているが、これに打ち勝つものづくりとサービスの在り方を考える上で、改めて「
『いい商品、い
いサービス』とは何か」という基本的な問いからスタートしたのが、感性価値創造イニシアティブである。
「いい商品、いいサービス」に対して消費者が満足して払う「対価=価値」を体現したものには、
「高機能」
、
「高信
頼性」
、
「価格」といった従来型の価値を超えた「何か」が存在していることに気付かされる。それを感性による価値
25
感性に訴えるもの
創造、第 4の価値軸として『感性価値』と表現した。
「感性」自身の内容や、良し悪しを決めようとするものではなく、また、
「いい商品、いいサービス」とは必ずしも
価格の高い商品、高いサービスというわけでもないという考えに立っている。
感性の働きを意識した上で、作り手の感性に由来するこだわりやスピリットが、
「もの」
(とサービス)に息づき、
語り始めるとき、つまりは「もの語り」として、消費者の感性に訴え「共感」を得たとき、それは経済価値を生み出
す。逆に作り手がどんなに良いものであると信じても、消費者に共感されないものは、価値実現に至らない。この感
性が経済価値を持つものとして可視化され、消費者(=生活者)に共感されたもの、それが『感性価値』である。
社会経済が成熟化するとともに、国際競争が一層の激しさを増す中で、従来からの高機能・高品質を基礎としなが
らも、感性価値の高い製品・サービスの開発・販売を進め、生活
感性価値=『+αの価値』
○商品選択の動機
者の感性に訴え、他製品との差別化を図っていくことが重要。
○商品に求める対価
『+αの価値』=『感性価値』
を細分化してみると
この取組が我が国の産業競争力の強化につながるとともに、生
・ 第一印象への影響大。
・ 付加価値ということ以上に
機能・品質・信頼 等
活者の感性により選ばれる製品は、その生活者の暮らしを彩り、
購入の動機の鍵となる。
一層心を豊かにするものと期待される。同イニシアティブは
2007 年 5月に報告書を取りまとめた。その中では 2008 年度か
・ココロの充実が求められるよう
らの 3ヶ年を「感性価値創造イヤー」として位置付けた上で、感
になる中、一層重要に。
性に訴えかける優れた製品やサービスを紹介するイベント「感性
+α
価値創造フェア」を東京(2009 年1月)とパリ(2008 年12月)
・作り手は、自らの思いを再認識し
低価格
それを訴えていく『もの語り』
高信頼
で開催するなど、同イニシアティブを定着させていく施策を今後
が重要に。
高機能
重点的に展開する予定である。
購入金額/購入動機
(4)国内におけるイノベーションの推進
①オープンイノベーション
図 121 − 23 事業されなかった研究開発成果の取り扱い(全産業)
ライセンス販売することが多い
5.7%
前述のとおり、我が国製造業の研究・開発の主たる拠点
は国内であり、我が国製造業が今後も競争力を維持・強化
(将来に向けて)水面下で
研究開発が継続されることが多い
25.7%
していくためには、国内で連続的に新製品・新サービスを
創出していくことが重要となる。
製品ライフサイクルの短縮、グローバル競争の激化の中
で、連続的に新製品・新サービスの創出が求められる中、
従来の基礎研究〜応用研究〜開発〜事業化といったリニア
そのまま中断し何も
残らないことが多い
61.4%
モデルは限界に来ており、既に国際的に競争優位を獲得し
ている企業では、自社に足りない技術の外部からの取り込
研究開発成果をオープンにし、
他社からアプローチがあれば
使用許諾することが多い
7.3%
資料:研究産業協会「企業の研究開発関連の実態調査」2007 年 3 月
みや、将来の自社のコア事業から外れる技術の外部化を積
極的に進める「オープンイノベーション型技術経営」に転
②コーポレートベンチャリングをめぐる課題
換している。しかしながら、依然として自前主義へのこだ
近年、死蔵技術の積極的な活用や、外部とのアライアン
わりや技術の囲い込みへの執着といった閉鎖的な経営が行
スによるイノベーション創出を効率的に行うため、大企業
われている企業が多いことも事実であり、結果として多く
がベンチャーという外部の組織を活用して戦略的に新事業
の技術が死蔵されてしまっている(図 121-23)
。
の開発などを行う「コーポレートベンチャリング」が注目
これに対し米国では、コーポレートベンチャーキャピタ
されている。特に、製造技術・ハイテク分野など技術的な
ルやコンサルティング事業者が、第三者的立場に立って、
ストックや大きな設備投資が必要とされる場合には、大企
自前主義に陥りがちな大企業内の技術、人材について外部
業との連携をベースにしたベンチャー企業が創出されるこ
との競合関係や補足関係を客観評価し、戦略的アライアン
とが有効である。
スを提案する等の役割を果たしている。また、技術の流動
コーポレートベンチャリングは、ベンチャー特有の活
化に関しては、オープンイノベーションの機会を提供・仲
力・成長力を大企業内部に取り込むことで自らの企業価値
介するプラットフォーム事業者が存在しており、オープン
の向上を図る企業戦略であり、①異分野の知識・人材との
イノベーションを指向する企業はこうした事業者を利用す
融合によるイノベーションの誘発、②経営資源のコア事業
ることで、自社が抱える研究上の課題について社内だけで
への集中による収益力の向上、③スピード感を持った企業
なく、優れた解決策を提案した他企業等との連携の機会を
経営の実現、④外部資源活用による投資リスク及びコスト
活用している。
低減などのメリットがあるが、一方では、①取り組まない
26
第1章 我が国ものづくりが直面する課題と展望
ことによるデメリットは顕在化しないこと、②チャレンジ
が国では、その普及に当たって大企業とベンチャーが
することへのプラスの評価がなく失敗したときのマイナス
Win-Win となる成功事例の積み上げが必要であり、成功要
評価が顕在化していること等企業内部のガバナンスの問題
素(出資比率、出口設計(IPO や MBO など)等)の共有
が存在する。コーポレートベンチャリングの経験の浅い我
化を図っていくことが重要である。
コ ラ ム
研究開発サービス産業
第2節
オープンイノベーション型技術経営の進展に伴い、積極的に外部リソースを活用して自社の新事業創造に取り組も
うとする企業が増える結果、今後は研究開発についても外部リソース活用の動きが増大していくことが見込まれる。
各産業の研究開発機能を代行、支援する「研究開発サービス業」は、米国では約 350 億ドルの市場規模があり、
米国バテル記念研究所やドイツのフラウンホーファー研究所といった民間研究所が有名である。我が国では正確な統
計はないが、民間企業から民間企業へ支出した研究開発費用は1.5 兆円となっており、更なる成長が期待されている
産業分野である。
また、今後の研究開発サービス産業の発展が我が国の国際競争力の強化に重要であるとの観点から、経済産業省
は産業活力再生特別措置法に基づき、
「研究開発サービス業の活力の再生に向けた基本指針」を策定し、同産業の生
産性向上・活力の再生に努めている。
アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
【企業等における外部支出研究費】
企業等における外部支出研究費は、7,700 億円(1990 年度)から 1.9 兆円(2006 年度)に増加。
1990 年度
億 円
1995 年度
構成比
億 円
2000 年度
構成比
億 円
2006 年度
構成比
億 円
構成比
社外支出研究費
7,739
7.7%
9,054
8.8%
13,572
11.1%
19,008
社内使用研究費
92,672
92.3%
93,959
91.2%
108,602
88.9%
133,274
87.5%
100,411
100.0%
103,013
100%
122,174
100.0%
152,282
100.0%
合 計
12.5%
出典:総務省統計局「科学技術研究調査報告」
コ ラ ム 「情報家電ビジネスパートナーズ」について
関西には、情報家電産業に関する世界的な大手家電メーカーを始め、中小・ベンチャー企業、大学等が数多く集
積している。ベンチャー企業等の課題としては、製品アイデアが生まれても、独自での量産化は多額の費用がかかる
ことから困難といった問題や、人脈がないことから大企業に売り込んでも適切な評価をしてもらえないといった問題
があった。一方、大企業では、更なる競争力を確保するため、オープンイノベーションの観点からベンチャー企業等
の外部の新たなアイデアを求めているが、自社に必要な技術を持つ企業等を効率的に探し出すことは困難であった。
こうしたマッチングの問題を解消するべく産業クラスター計画の取組の一環として、2006 年に「情報家電ビジネ
スパートナーズ」
(略称:DCP)が設立された。DCPでは、全国の産業クラスターのネットワーク等を通じ、関西は
もとより国内外のベンチャー企業等から製品アイデアの提案を受け付け、技術盗用の恐れのないクローズな関係で大
企業とのマッチングを図り、新たな製品開発へつなげていくことを目的として活動している。これにより、大企業側
も一定のスクリーニングを経たアイデアにアクセスできる利点がある。2008 年 3月時点で国内延べ約180 件、海外
60 件の合計約 240 件が DCPに提案されている。
【情報家電ビジネスパートナーズ(Digital Concept Partners)
】
大手企業
との取引・
提携機会
の開拓
提案企業
②スクリーニング
①相談
国内外の
中堅・中小、
ベンチャー
③構想を
ブラッシュ
アップ
DCP 事務局
(国内担当)
関西情報・
産業活性化
センター
(海外担当)
大阪商工会
議所
技術や知財、市場動向
等に関する専門家集団
受入企業
内外の新たな
ベンチャー企
業等との連携
④提案
⑤実面談・商談へ
(不採用の場合でも、
必ず理由やアドバイ
ス等を報告)
大手情報家電系企業
16 社
※上記メカニズムを補完するため、定期的な技術・ビジネスプランの発表会や交流会等を開催。
発表会等には、金融機関等資金・販路支援のサポート企業も参加。
27
コ ラ ム
研究開発促進税制について
研究開発促進税制は、企業の研究開発投資の促進を目的として、2003 年度に試験研究費の総額の一定割合を税
額控除する制度を創設し、試験研究費の増加額にかかる税額控除制度との選択制とした。2006 年度には増加型と総
額型を統合する等の見直しが行われた。2008 年度には総額型とは別に、増加型と高水準型のいずれかを選択適用で
きる制度が創設された。同制度は、①総額型:試験研究費の総額の8〜10%(=8%+売上高試験研究費割合×0.2)
を税額控除するのとは別に、②増加型:試験研究費の増加額の 5%を税額控除、③高水準型:試験研究費の額が売
上金額の10%を超える場合のその超える金額の一定割合(
(売上高試験研究費割合−10%)
×0.2)を税額控除する
ものである(②「増加型」と③「高水準型」は選択適用)
。また、税額控除の上限は①(
「総額型」
)法人税額×
20%、②又は③(
「増加型又は高水準型」
)法人税額×10%がそれぞれ別に設けられており、最高で法人税額×
30%の税額控除が可能となっている(図1)
。
同制度によって、民間企業の研究開発投資の一層の増加が促され、イノベーションの加速による成長力・競争力
の強化への貢献が期待される。
また、直近の製造業の研究開発費の推移を見ると、2006 年度においては前年比 4.2%増となっている(図 2)
。
【図 1 研究開発促進税制の概要】
改正前(現行制度)
改正後(平成20年度∼)
本体部分(総額型)
と、上乗せ部分(増加型又は高
水準型)
を、それぞれ法人税額から控除。
(税額控除の上限は総額型:法人税額の 20%、増
上限
加型又は高水準型:法人税額の 10%)
本体部分(総額型)
と上乗せ部分(増
加型)
を合算し、法人税額から控除。
但し、合計で法人税額の20%が上限。
平成21
年度迄
売上高の10%を
試験研究費の 選択 超える試験研究
増加額 ×5%
費 × 一定比率
+
+
【図 2 製造業の研究開発費の推移】
(兆円)
11.8
11.6
4.2%増
11.4
11.2
11.0
10.8
10.6
10.4
10.2
10.0
総務省「科学技術研究調査」
28
05
06
(年度)
20
%
※中小企業は12%
※産学官連携は12%
−試験研究費の総
額に係る税額控
除割合
本体単独で
試験研究費の総
額 ×8%∼10%
10
法人税額の
本体
①総額型
恒久
措置
③高水準型
②増加型
上乗せ単独で
法人税額の
%
上乗せ
20
%
試験研究費の総
額 ×8% ∼10%
※中小企業は12%
※産学官連携は
12%−試験研究費
の総額に係る
税額控除割合
法人税額の
総額型
本体と上乗せ合計で
本体
恒久
措置
+
試験研究費の
増加額 ×5%
拡充
上乗せ
平成19
年度迄
上限
増加型
最大で法人税額の30%に
第1章 我が国ものづくりが直面する課題と展望
2
ASEAN のいずれの地域においても地場企業から調達でき
我が国ものづくり基盤産業をめぐる状況
る製品はロースペックなものにとどまっており、現地の日
(1)総じて高いレベルにある我が国ものづくり基盤産業
系企業との技術レベルの乖離も相対的に大きい。電気機械
国際機能分業が深化する中で、我が国のものづくりを支
分野では、現地の地場企業の技術レベルは自動車分野に比
える基盤技術を有する産業(ものづくり基盤産業)もアジ
べ高く評価されており、また現地の日系企業との技術的な
ア地域の企業との競争にさらされている。ここでは、もの
差も相対的に少ない(図 122-1)。
づくり基盤産業をめぐる課題について、統計データの制約
次に技術以外の面について見ると、「納期遵守意識」や
「機動的な対応力」といった面で国内企業に比べ大きく
中国及び ASEAN 地域のものづくり基盤産業の技術レベ
劣っているとの評価になっており(図 122-2)、現状では
ルについて、実際にこれらと取引のある企業の評価を見る
我が国のものづくり基盤産業はアジア地域の地場企業に比
と、自動車のサプライチェーンに属するグループ(自動車
べ取引企業から価格以外の面では高い評価を得ていること
分野)と電気機械のサプライチェーンに属するグループ
がうかがえる。
第2節
等から、素形材産業及びめっき業などを中心に分析を行う。
(電気機械分野)との比較では、自動車分野は、中国、
中国現地地場企業の基盤技術レベル
現地日系企業が 1.5
技術的に優れている
自動車分野
電気機械分野
熱処理
1
ASEAN 現地地場企業の基盤技術レベル
現地日系企業が
1.5
技術的に優れている
鍛造 めっき
現地日系企業との
評価の乖離
金型
熱処理 鋳造
プラスティック成型
切削
1
現地日系企業との
評価の乖離
プレス加工
溶接
切削
実装
0.5
金型
プラスティック成型
現地日系企業と
技術的に差がない
0
一部のロースペックな技
術については調達可能
ロースペックなものについ
ては概ね調達可能
溶接
金型
めっき
プラスティック成型
金型
切削
鋳造
0.5
鍛造
プレス加工
自動車分野
電気機械分野
プレス加工
切削
実装
プレス加工
プラスティック成型
現地日系企業と
技術的に差がない
一部のハイスペックな技
術についても調達可能
0
一部のロースペックな技術
については調達可能
調達先からの評価
ロースペックなものについ
ては概ね調達可能
一部のハイスペックな
技術についても調達可
調達先からの評価
備考:「調達できるレベルにない」
(0 点)
、
「一部のロースペックな技術については調達可能」
(1 点)
、
「ロースペックなものについては概ね調達可能」
(2 点)
、
「一部のハイスペックな技術について
も調達可能」(3 点)、「スペックを問わず調達可能」
(4 点)で点数化し指数化した。縦軸は、同様の操作を行った日系現地法人との差。
自動車分野:自社の生産する製品が最終的に自動車の生産に利用される企業
電気機械分野:自社の生産する製品が最終的に電気機械の生産に利用される企業
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
図 122 − 2 アジアの現地(地場)ものづくり基盤産業の技術以外の面での評価
国内基盤産業よりも
60
優れている
■中国現地地場企業
■中国現地日系企業
40
■アセアン現地地場企業
■アセアン現地日系企業
20
0
-20
-40
-60
国内基盤産業より -80
劣っている
価格水準
生産能力
(生産規模)
納期遵守意識
機動的な
対応力
備考:
「国内企業より優れている」
(100 点)
、
「同程度」
(0 点)
、
「国内企業より劣っている」
(−100 点)の 3 段階で点数化し指数化した。
全社が国内企業より優れていると考えていれば、100 点となる。
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
29
アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
図 122 − 1 アジアの現地(地場)ものづくり基盤産業の技術レベル
コ ラ ム
中国での金型調達の状況
中国における日系企業の乗用車の生産に必要な金型(1次サプライヤーから調達している部品の金型を含む)の調
達状況を、A 社を例に見てみると、外板用金型、バンパー用金型など一般に高い精度が求められる部分の金型につい
てはその多くが A 社の内製も含め国内で生産されている。また、現地調達を行っている金型についても多くは日系企
業が生産している。一方で、現地地場企業が直接・間接的に納めている金型は現在のところ一部に限られている。
【中国での現地日系企業による自動車用金型の調達例】
(標準的な乗用車のケース)
●ダッシュボード及びパネル用
・大型の金型は日本の金型メーカーから調達。
●パネルに装着する小型部品用
■電装品・電子部品
■外板用(一番型、ハイテン材対応)
・海外の地場企業から調達。
・大型の金型や、特殊な技術を必要とする金
型は、自動車メーカーが日本国内で内製化
・現地に進出した日系の自動車部
品メーカーが、現地の日系金型
メーカーから調達するケースが
多い。
・現地地場企業から調達も進んで
いる。
■外板用(二番型)
・二番型は自動車メーカーの海外現地工場で
内製化
・現地に進出した日系メーカーにも発注
●照明・計器など
●バンパー用(一番型)
・海外の地場企業から調達。輸入する
場合もある
・大型の金型は国内メーカーから調達。
●バンパー用(二番型)
・現地に進出した日系メーカーに発注。
■内板用(高剛性を必要とする部位)
■エンジン部品
・技術力の高い国内メーカーから調達。
・一次部品サプライヤーからも調達
・軽量化に対応した部品等の
金型を中心に、国内メー
カーから調達
■内板用(上記以外)
・金型調達コストを下げるため、現地の日系企業から
調達。
・将来的には現地地場企業から調達する可能性大。
【凡例(記号)】■プレス金型 ●樹脂成型
【凡例(色)】 ■主として日本国内の金型メーカーから調達 ■主として海外に進出した日系企業から調達 ■主として海外地場企業から調達
(2)アジア地域の産業集積
おいても低下傾向にある。他方で、現地の日系企業、地場
一方で、アジア地域の産業集積も着実にその厚みを増し
ている。アジア地域に展開する我が国現地法人の我が国か
企業からの調達が 50%以上を占める企業の割合はいずれも
今後増加する見込みとなっている(図 122-4、図 122-5)
。
らの輸入は、製造拠点の増加や生産活動の活発化を背景に
金額は増加傾向にあるが、調達全体に占める割合の推移を
見ると、2001年度以降減少傾向がうかがえる(図 122-3)
。
図 122 − 3 アジア地域の我が国現地法人
(製造業)
の我が国
からの調達額・割合の推移
こうした背景には、セットメーカーと共に部品メーカーのア
(兆円)
ジア展開が進み、またこれらの我が国現地法人が現地調達
を進めてきたことがあると考えられる。近年特にアジア地
域への海外展開が積極的に行われている自動車分野につい
て、現地製造拠点の材料調達の状況につきアンケート調査
を実施したところ、調達総額のうち 50%以上を日本からの
輸入に頼っている企業の割合は、中国、ASEAN のいずれに
10
5
7.8
3.6
4.2
5.2
(%)
仕入れ高に占める日本からの
輸入額の割合(右目盛)
日本からの輸入額(左目盛)
5.2
8.8
37
9.7
35
33
5.8
5.1
31
29.6 29
0
98
99
00
01
02
03
04
05
27
06(年度)
資料:経済産業「海外事業活動基本調査」
図 122 − 4 中国の我が国現地法人(自動車分野)の調達の状況
25.6
22.7
26.0
現地地場企業から調達
■5 年前
■現在
■5 年後
12.5
現地地場企業から調達
12.8
18.2
日系企業から調達
図 122 - 5 ASEAN地域の我が国現地法人(自動車分野)の調達の状況
22.1
28.8
25
現地日系企業から調達
33.8
37.3
24.0
53.8
48.5
日本から輸入
40.0
0.0
10.0
20.0
30.0
40.0
備考:自社の調達総額のうち 50%以上を占める調達先を聴いたもの
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
30
50.0
60.0
(%)
日本から輸入
10
20
43.75
33.8
18.6
0
■5 年前
■現在
■5 年後
30
備考:自社の調達総額のうち 50% 以上を占める調達先を聴いたもの
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
40
50
(%)
第1章 我が国ものづくりが直面する課題と展望
コ ラ ム
天津の自動車産業集積
第2節
中国・天津市は、地場の自動車セットメーカーが拠点を構えていたため、古くから関連産業の集積があった。しか
しながら、1984 年に経済技術開発区が開発され、手厚い優遇措置による外資系企業誘致が活発に行われるようにな
ると、集積状況は一変することになる。日系企業を始め豊富で安い労働力を求める外国資本の自動車部品メーカーが、
経済技術開発区を中心に生産拠点を設置するようになったからだ。日系の大手セットメーカーの進出が決まると、そ
の勢いは更に加速し、比較的規模の大きい企業に限ると、2000 年時点で7 割以上を日系企業が占めるようになった。
進出工場での事業内容を見ると、日系企業の進出が始まった1990 年代前半は、自動車塗料やワイヤーハーネスと
いった汎用品の生産が多くを占めていたが、2000 年以降は、電装品製造や金型設計といった付加価値の高い業務を
行う拠点が増大している。
このように天津では、日系企業を中心に重層的な自動車部品メーカー集積が形成されており、その活動内容も年々
高次化する中、産業クラスターとしての様相を見せ始めている。
【2001 ∼】
【∼ 1990】
天津豊津汽車伝動部件有限公司(TFAP)
天津豊田汽車鍛造部件有限公司(TTFC)
天津空港物流加工区 ---3
日系 ●●●
武清区 ---5
日系 ●●● その他 ●●
天津市区 ---10
日系 ●●●●●
地場 ●●
その他 ●●●
北辰区 ---1
地場 ●
天津市区 ---1
地場 ●
西青区 ---2
地場 ●●
●
日系
●●●●●●●●●
地場 ●
その他 ●●●●●
日系●●●●●●
西青区 ---19
★
●
★ 天津経済技術開発区 ---1
日系 ●
天津経済技術開発区 ---25
北辰区 ---9
日系 ●●●●●●●
地場 ●●
東麗区 ---6
★
日系
●●●●●
津南区 ---4
地場 ●●●●
日系 ●●
天津一汽豊田発動機
その他 ●●
有限公司(TFTE)
大港区 ---1
天津一汽豊田汽車有限公司(TFTM) 日系 ●
第一工場
●---10
凡例: ●---1 凡例: ●---1 天津一汽豊田汽車有限
公司(TFTM)
第二工場
★
豊田一汽(天津)
模具
★
有限公司(TFTD)
天津港保税区 ---1
日系 ●
天津経済技術開発区西区 ---2
日系 ● その他 ●
●---10
資料:アイアールシー「中国自動車産業と日本メーカーの事業戦略 2004 年版」等の資料を参考に経済産業省作成
(3)国内ものづくり基盤産業とアジア地域との競合
る。金型の輸入浸透度は 2006 年に 6.0%(図 122-6)と
アジア地域の産業集積が厚みを増す中で、上記のアジア
工業製品全体(2006 年で 13.6%)を下回るが、近年増加
地域における日系企業の現地調達割合の増加傾向に加え、
傾向にあり、輸入の大宗を占める射出・圧縮ゴム・プラス
アジアから我が国への金型の輸入について一部の分野で増
チック成形用型について見ると韓国からの輸入が近年伸
加が見られるなど、今後国内ものづくり基盤産業とアジア
び、中国からの輸入も徐々に増えている(図 122-7)
。
地域の企業との間での競合は増していくものと見込まれ
国内ものづくり基盤産業を技術分野ごとに自動車分野と
図 122 - 6 金型の輸入浸透度
(億円)
25,000
■輸出額 ■輸入額 ■内需(国内出荷)
輸入浸透度
5.5
20,000
(%)
7
6.0
6
5
15,000
4
10,000
3
2
5,000
0
1
90
91
92
93
94
95
96
98
97
99
00
01
02
03
04
05
0
06(年)
備考:輸入浸透度=輸入額 /
(出荷額+輸入額−輸出額)
×100
金型部品・付属品を含む。
資料:経済産業省「工業統計(品目編)
」
、財務省「貿易統計」から経済産業省作成
31
アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
天津津豊汽車底盤部件有限公司(TJAC)
電気機械分野に属するものに各々分け、アジア地域に展開
みならず、現地地場企業とも競合を感じるようになってい
している日系他社(現地日系他社)及びアジア地域の地場
る。さらに 5 年後の見込みついては、ほとんどが現地日系
企業(現地地場企業)との競合の度合いをプロットする
他社及び現地地場企業の双方との競合を感じるようになる
と、5 年前では総じて現地日系他社や現地地場企業との競
としている。また、自動車分野と電気機械分野の一般的な
合を感じる度合いは低かったものの、現在では現地日系他
比較では、求められるスペックが相対的に低い電気機械分
社との競合を感じるものが増え、特に電気機械分野のう
野において、競合を感じる度合いが強いことがうかがえる
ち、「実装」や「プラスチック成型」では現地日系他社の
(図 122-8)。
図 122 - 7 プラスチック用金型の輸出入
(億円)
500
中国(香港を含む)
400
375
■輸出 ■輸入 収支
300
219
200
100
0
-100
-200
▲156
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07
(年)
(億円)
韓国
100
28
50
0
-50
-100
-150
-200
-250
■輸出 ■輸入 収支
▲294
-300
▲322
-350
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07
(年)
備考:HS コード 848071(射出・圧縮式ゴム・プラスチック成形用型)
資料:財務省貿易統計
図 122 - 8 国内ものづくり基盤産業とアジア地域の企業の競合の状況
どちらとも
言えない
実装
プラスチック成型
金型
めっき
鋳造・鍛造
切削
熱処理
プラスチック成型
溶接
めっき
金属プレス
自動車分野
電気機械分野
どちらとも
言えない
競合を感じない
競合を感じる
現地地場企業との競合
アジアの現地日系企業との競合
金型
プラスチック成型
鋳造・鍛造
実装
どちらとも
言えない
プラスチック成型
自動車分野
電気機械分野
競合を感じない
どちらとも
言えない
競合を感じる
熱処理
めっき
めっき
実装
プラスチック成型
溶接 切削
金属プレス
どちらとも
言えない
現地地場企業との競合
32
めっき
金型
切削
溶接
金属プレス 鋳造・鍛造
熱処理
めっき
プラスチック成型
現地地場企業との競合
自動車分野
電気機械分野
競合を感じない
(現在)
競合を感じる
(5年後)
競合を感じる
どちらとも
言えない
アジアの現地日系企業との競合
アジアの現地日系企業との競合
(5年前)
競合を感じる
競合を感じる
備考:競合の度合いについて、
「競合を感じない」
(−2 点)
、
「競合をあまり感じない」
(−1
点)
、
「どちらとも言えない」
(0 点)
、
「競合をやや感じる」
(1 点)
、
「競合を感じる」
(2 点)で点数化し、指数化した。
自動車分野:自社の生産する製品が最終的に自動車の生産に利用される企業
電気機械分野:自社の生産する製品が最終的に電気機械の生産に利用される企業
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
第1章 我が国ものづくりが直面する課題と展望
(4)ものづくり基盤技術強化への課題
は、黒字である企業の割合が 7 割前後であるものの、
「現
国内ものづくり基盤産業とアジア地域の競合が増してい
在の利益水準で十分に設備投資、研究開発投資、人材育成
く中で、国内ものづくり基盤産業に求められる役割は何
が可能」と回答している企業の割合は 2 割から 3 割程度に
か。ものづくり基盤産業と取引のある企業に対するアン
とどまり、経営基盤が安定しているとは言えない(図
ケートによると、70.3%が「ハイスペックな技術のみな
122-12)。今後、我が国ものづくりの競争力強化の観点か
らず、ロースペックな技術についても国内に必要」として
ら、その経営基盤が強化されることが重要であると考えら
いる(図 122-9)
。さらにその理由として、55.3%の企業
れる。
「 新 製 品 開 発 等 で 必 要 に な る た め 」 を 挙 げ て い る( 図
の高付加価値化が必要であり、川下メーカーが川上のもの
122-10)
。ものづくり基盤技術も時代と共に高度化するも
づくり基盤産業に過度なコストダウンを要請していくこと
のであり、我が国が中長期的にものづくり基盤を維持・強
は、これら産業の経営基盤を弱め、部品及び製品の品質や
化する上で、ものづくり基盤産業が常に先端で他国をリー
性能などに支障を来すことにもつながり、最終的には川下
ドしていくことが求められるが、同時に、ロースペックな
メーカーの競争力低下を招く懸念もある。こうした観点か
ものを含め裾野の広いものづくり基盤技術の維持・強化が
ら、下請適正取引を推進し、ものづくり基盤産業が適正な
不可欠である。
利益を確保できる環境を整備することが重要である。
次に、これらの産業の経営状況について見てみると、近
また、ものづくり基盤産業は、その主な取引先である大
年国内の景気が回復し、工業製品の生産も拡大傾向にあっ
企業に比べ海外展開を行っている企業の割合は低い(図
たことから、利益率が改善している割合が高いものも少な
122-13)。中小企業の多いものづくり基盤産業は、海外展
くない一方で、
「プラスチック成型加工」や「実装」につ
開には人材・企業体力・情報量の面で困難を伴うケースも
いては利益率が改善しているとする企業の割合は相対的に
多いが、中期的に大きな伸びが期待しにくい国内市場のみ
低い(図 122-11)
。こうした背景には、これまで見てき
に依存せず、適切な技術管理の下で輸出や海外展開を進め
たように特に電気機械分野での「プラスチック成型加工」
ることを通じて、成長するアジアの活力を取り込むことに
や「実装」がアジア地域の企業との競合にさらされている
より国内での経営基盤を強固なものとする視点を持つこと
ことも一因として考えられる。一方で利益水準において
が重要である。既にアジアに製造拠点を持つ中堅・中小企
図 122 - 9 国内ものづくり基盤産業の必要性
図 122 - 10 ロースペックな技術も国内に必要な理由
その他
1.9%
コアな技術については内製化しており
特に必要性を感じない
7.4%
海外の基盤産業で対応不可能な
ハイスペックな技術を有した
基盤産業が国内にあれば十分
20.4%
海外調達先を
ゆうしていないため
9.0%
ハイスペックな技術のみならず、
ロースペックな技術についても
国内に基盤産業があることが必要
70.3%
備考:対象は海外生産拠点を持ち、かつものづくり基盤産業に仕事の発注を行っている企業
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
図122-11 国内ものづくり基盤産業の利益率の変化(最近5年間)
切削加工
61.1
鋳造・鍛造
60.0
溶接
49.5
金型
32.2
39.0
プラスチック成型加工
34.5
実装
33.3
0
33.3
40
20
溶接
28.8
切削加工
28.7
28.8
金属プレス加工
32.1
60
80
■増加した ■変化なし ■減少した
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
33.3
100(%)
45.0
29.1
27.5
35.2
31.5
図 122 - 12 国内ものづくり基盤産業の現在の利益水準
実装
18.5
23.1
新製品開発等で
必要になるため
(設計開発時) 国内需要に迅速に
対応するため
28.7%
(量産時)
55.3%
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
鋳造・鍛造
21.7
29.2
52.3
金属プレス加工
17.5
21.4
18.3
その他
1.6%
輸送費等を勘案すれば
コストメリットがあるため
5.3%
34.5
金型
22.0
22.0
0
15.2
54.3
40
14.0
47.2
20.2
54.2
11.9
50.0
20
3.3
16.4
51.5
24.7
プラスチック成型加工
18.3
20.0
22.0
60
80
4.5
3.1
7.9
11.9
6.1
(%)
100
■現在の水準で十分に設備投資、研究開発投資、人材育成が可能
■黒字であるものの、設備投資、研究開発投資、人材育成は十分に行えない
■設備投資、研究開発投資、人材育成は困難
■経営は逼迫している
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
33
アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
より良い製品を生産するためには、それを構成する部品
第2節
が「国内需要に迅速に対応するため」
、28.7%の企業が
業では、その多くの業種でアジアの現地法人の利益率が企
ジー効果を発揮し、小規模であるが故のデメリットを克服
業全体の利益率よりも高い水準であり、収益を牽引してい
すること、特定の取引先・分野に過度に依存せず、航空
る(図 122-14)
。さらに、川下企業のニーズを踏えたイ
機、ロボット産業など今後成長が見込まれる分野を含め多
ノベーションや同業種 / 異業種の企業間連携を通じてシナ
様な分野に取引を広げていくことも重要である。
図 122 - 13 ものづくり基盤産業の海外展開
6.2
6.2
64.2
基盤産業として業務を
展開している企業
0
1.8
17.6
13.2
20
(%)
10.0
23.5
67.4
40
60
80
■実施している
■実施していた(現在は実施していない)
■検討したが実施にはいたっていない
■実施していない(検討もしていない)
資料:経済産業省調べ(07 年 12 月)
100(%)
アジア現地法人の経常利益率
基盤産業に業務を
発注している企業
(大企業)
図 122 - 14 中堅・中小企業の海外展開
輸送機械
8.0
6.0
一般機械
アジア地域の現地
法人が全体の収益
を牽引
繊維
4.0
製造業
食品 電気機械
精密機械
2.0
0.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
経常利益率(連結)
6.0
7.0(%)
備考:資本金 10 億円以下のアジアに海外展開をしている企業。利益率は 5 の平均値
資料:経済産業省「海外事業活動基本調査」、「企業活動基本調査」を再編加工
コ ラ ム
取引適正化ガイドライン
下請事業者と親事業者の間のあるべき理想的な取引(ベストプラクティス)を示し、両者の“win-win”の関係づ
くりを目指すため、2007 年度に、10 業種の「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」が策定された。
ガイドラインには、業界の特性に応じたベストプラクティス事例等が示されており、ガイドラインが幅広く活用さ
れることによって、下請事業者と親事業者の間の望ましい取引関係の構築が期待される。
【ガイドライン策定業種】
①素形材 ②自動車 ③産業機械・航空機等 ④繊維 ⑤情報通信機器
⑥情報サービス・ソフトウェア ⑦広告 ⑧建設業 ⑨建材・住宅設備産業
⑩トラック運送業
(①〜⑧:2007 年 6月策定、⑨〜⑩:2008 年 3月策定)
【下請かけこみ寺】
2008 年 4月1日、47 都道府県に「下請かけこみ寺」が開設された。
「下請かけこみ寺」では、きめ細かな取引相
談、迅速な紛争解決、ガイドライン説明会を業種ごとに開催するなど、適正取引を推進する。
(問い合わせ先)
下請かけこみ寺本部(財団法人全国中小企業取引振興協会)
TEL:03-5541-6688
コ ラ ム
素形材取引ガイドライン
鋳造・鍛造・金型といった素形材産業は、下請体質が強く、親事業者の経営に依存するところが大きいが、大手
メーカーのグローバル展開、コストダウン要請等により、仕事はあるが利益なき繁忙状況にある。
より良い製品を生産するためには、それを構成する部品の高付加価値化が必要である。しかし、原材料価格の高
騰に伴う価格転嫁が、十分な協議を行うことなく、一方的に認められない等、素形材メーカーとユーザー企業間の
様々な取引慣行の中には、企業の創意工夫の意欲を削ぐような取引慣行が存在する。
こうした事態にかんがみ、素形材産業取引ガイドラインは、以下 3つを目的として策定された。
①我が国製造業の競争力強化
②法令違反の未然防止
③企業の研究開発・創意工夫の意欲を削ぐような取引慣行の改善
34
第1章 我が国ものづくりが直面する課題と展望
アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
コ ラ ム
第2節
素形材産業取引ガイドラインは、取引慣行と関連法規上の留意点を提示しているほか、望ましい取引慣行とベスト
プラクティスを提示している。本ガイドライン策定後、約1年が経過したが、様々な改善事例が生まれている。
〈事例1:原材料価格の高騰分を適切に取引価格に反映した事例〉
○原材料価格の高騰を踏まえ、従来は半年に一度価格会議を行っていたが、一定の範囲以上の変動があった場合に
は、四半期に一度価格提示の機会が持てるよう話し合いの上変更した。
〈事例 2:型保管費用の問題が改善された事例〉
○半年に一度、使用していない金型は、取引先に対して、除却申請を行い、承認を得て取引先から除却費用を受領し
て除去している。
本ガイドラインの実効性を担保する
【ユーザー(自動車部品、産業機械・航空機等)】
【素形材】
ためには、国による取組のほか、企業
(N=351)
(N=784)
による自主的な取組が求められる。具
知っている
知らない
知っている
知らない
ガイドラインを
88.0%
10.8%
71.3%
25.0%
知っているか
体的には、発注側・受注側双方の企業
は、自らが行っている日々の取引につ
活用して
ガイドラインを
活用している
活用している 活用していない
いない
活用しているか
いて、ガイドラインをよく理解した上
70.1%
32.5%
37.5%
16.5%
で、再点検し、必要に応じ改善を図っ
問題と
ていくことが求められる。さらに、一
なって
効果あり
活用して改善の
いない
26.4%
効果があったか
歩進んでベストプラクティス事例に示
17.5%
問題あるが改善
効果なし 4.5%
されたような取引形態を参考にしつつ、
交渉できない 17.3%
自動車部品、素形材、産業機械等の業界団を通じ、3,353 社に対してアンケート表を発送したところ、回答数
自社製品の競争力強化のために取引慣
1,135 社(回答率 33.9%)から回答あり。平成 19 年度素形材関連取引実態調査より引用。
行はいかにあるべきか、検討し実践し
ていくことが必要である。
事業承継税制の抜本見直し
事業承継の際の課題の一つである相続税負担の問題を抜本的に解決するため、非上場株式等に係る相続税の軽減
措置について、現行の10%減額から80%納税猶予に大幅に拡充するとともに、対象を中小企業基本法上の中小企業
全般とするなど抜本的に見直す。
※2008 年度税制改正の要綱(2008 年1月11日閣議決定)において、本制度は、2009 年度税制改正で創設し、中
小企業における経営の承継の円滑化に関する法律案の施行日(2008 年10月1日予定)以後の相続に遡って適用
することとされている。
事業承継税制の抜本見直しにより、単に事業承継の円滑化の実現のみならず、事業継続要件の設定により、事業
の継続を通じた地域経済の活力の維持や雇用の確保が期待される。
改正の概要
自社株式に係る 10%減額措置(現行制度)
自社株式に係る 80%納税猶予(改正後)
主な要件
<対象会社要件>
主な要件
○対象会社は中小企業基本法上の中小企業
発行済株式総額 20 億円未満の会社
<軽減対象の上限>
相続した株式のうち、発行済株式総数の 2/3 又は
評価額 10 億円までの部分のいずれか低い額
軽減割合を 80%に
大幅拡充
相続人
(後継者)
被相続人
○被相続人と同族関係者で発行済株式
総数の 50% 超の株式を保有しかつ
同族内で筆頭株主であった場合。
又は
従業員数
製造業その他
3 億円以下
300 人以下
卸売業
1 億円以下
100 人以下
5 千万円以下
50 人以下
100 人以下
会 社
経済産業
大臣の認定
○相続人と同族関係者で発行済
株式総数の 50%超の株式
を保有かつ同族内で筆頭株主
となる場合。
○5 年間の事業継続。具体的には、
・代表者であること。
・雇用の 8 割以上を維持。
・相続した対象株式の継続保有。 等
中小企業基本法の
中小企業であること
(中小企業基本法における中小企業の定義)
サービス業
○会社の代表者であること。
株式の相続
○会社の代表者であったこと。
小売業
○軽減対象となる株式の限度額は撤廃
※但し、発行済議決権株式総数の 2/3 以下の限度有り。
具体的スキーム(骨子)
資本金
※株式総額要件は撤廃
5 年間
経済産業大臣
によるチェック
○死亡の時まで対象株式を保有し
続けた場合などには、猶予税額
の納付を免除。
35
コ ラ ム
オオタ・テクノ・パーク
東京都大田区の外郭団体である(財)大田区産業振興協会は、2006 年 6月に工業団地を経営するタイのアマタ・
コーポレーションと提携して、タイ東部チョンブリ県のアマタ・ナコーン工業団地に「オオタ・テクノ・パーク(OTA
TECHNO PARK)
」をオープンさせた。
(財)大田区産業振興協会は、大田区の中小製造業との仲介に入り、入居を
斡旋するとしている。
サポーティングインダストリーを中心とした大田区の中小企業は、高度な技術を有すると評価をされている一方で、
その数はバブル期に9,000を超えて以来、年々減少を続けており、現在では5,000を割り込んでいる。そのような中
で、
「これからは中小企業自体がグローバル化を求めなければ、仕事の拡大は望めない」という問題意識から、日系
大企業が多数進出し、交通網も整備されつつあるタイにこのような工業団地を整備した。
このように(財)大田区産業振興協会が現地の工業団地と提携す
【オオタ・テクノ・パークの外観】
ることで、日本語ができるスタッフを配置することが可能になるな
ど、中小企業単独では難しいサービスを提供することが可能となっ
た。また、現地に進出している日系大企業に対しても効率的な営業
が可能となるとともに、中小企業の海外進出のリスクを低減させる
ことができたようだ。
なお、オオタ・テクノ・パークは「大田区内に生産拠点を有する
中小製造業」を入居の対象としている。このことによって、あくま
でも大田区の企業として発展することを前提に、グローバル分業を
構築するというねらいを明確にしている。
コ ラ ム
海外での代金回収リスク
我が国製造業の海外展開が進展し、進出先で商取引を行う機会が増加している。一方、法制度や商習慣の違いに
より、進出した日系企業が解決策を講じることが困難なビジネスリスクがある。特に、現地での代金(売掛債権)回
収の困難さに直面する企業は少なくない。独立行政法人日本貿易振興機構の「在アジア日系製造企業の経営実態調
査 2006 年度調査(中国・香港・台湾・韓国編)
」によれば、中国では約 3 割の企業で売掛金の10%以上が延滞して
いる。こうした背景には、中国では不渡手形を出してもペナルティーが無く、銀行取引停止処分とならないことから、
経営の悪化した企業の淘汰が進まない点や、支払い期限を延ばすことが担当者の評価アップにつながるといった文化
が残っていることが指摘されている。
代金回収問題は実際に問題が発生してからでは対処が困難である場合も多い。こうしたリスクを回避するためには、
自社の製品の市場優位性を確保することで取引条件の改善に努めるほか、現地の実情を理解した上で、書面による
契約の徹底、取引先の与信調査、銀行保証の取得による債権の保全など、事前の対応が重要となる。
また、近年こうしたリスクを回避するべ
【売掛金に占める支払い延滞率】
く、現地の販売代理店の代金回収の実績
に応じて、代理店への製品の販売価格に
韓国
12.7
3.6
83.6
差をつけるなどし、代金回収率を向上さ
台湾
せる動きなどの取組も見られる。さらに、
7.9 2.6
89.5
建設機械産業などでは、自社の製品に全
香港
地球測位システム(GPS)を搭載し、部
3.3
23.3
73.3
品交換や修理などのサービスに役立てる
中国
8.8
15.5
69.9
一方で、万一取引先の代金支払いが滞っ
た場合、顧客に通知した上で遠隔操作に
0
20
40
60
80
100(%)
■10% 未満 ■10 ∼ 20% 未満 ■20 ∼ 40% 未満 ■40 ∼ 60% 未満 ■60 ∼ 80% 未満 ■80% 以上
よりエンジンの出力を落し、支払いを促
すなど新しい取組も見られる。
資料:日本貿易振興機構「在アジア日系製造業の経営実態調査」
36
第1章 我が国ものづくりが直面する課題と展望
コ ラ ム
中小ものづくり高度化法の施行状況
サプライチェーンを取り巻く課題
(1)サプライチェーンをめぐる変化
グローバル競争が激化する中、我が国製造業のサプライ
チェーンは既に述べたとおりアジア規模の広がりを見せて
セットメーカー
1次サプライヤー
2次サプライヤー
・・・・
・・・・
シュ化、在庫の削減、カスタマイズ部品の増加などサプラ
図 123 - 1 取引構造のメッシュ化(イメージ)
・・・・
いる。こうした地理的な広がりに加え、取引構造のメッ
アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
3
第2節
我が国産業の強みの一つとして、製造業の基盤となる優れた技術を持った中小企業が数多く存在していることがう
たわれて久しい。もちろん、国際競争に直接さらされている川下産業(最終製品を製造・販売する産業)が、技術開
発を始めとする様々な企業努力を欠かさないことも我が国競争力の要因ではあるが、製造工程に必要不可欠な鋳造、
鍛造、プレス加工、めっき、切削等、ものづくりの基盤となる技術を有する川上産業(川下産業に対して加工サービ
スや部品の供給等を行う産業)が多数存在し、それら川上中小企業者の技術レベルが卓越した水準に達している点
が我が国最大の強みの一つと言える。
これら我が国産業の競争力の源泉であるものづくり中小企業の有する基盤技術の高度化を強力に支援するため、
2006 年 4月に「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律」が成立した。同法は同年 6月13日に施行さ
れ、以来ものづくり中小企業への総合的な支援策が展開されている。
同法では、支援の対象となる高度化すべき基盤技術として、施行当初に鋳造、金型、めっき等の17の特定ものづ
くり基盤技術が指定され、その後、パブリックコメントによる意見、社会的ニーズなどを踏まえ、2007 年 2月13日
に粉末冶金及び溶接、2008 年 2月15日に溶射が追加して指定されている。
中小企業者は、これら20の特定ものづくり基盤技術ごとに経済産業大臣が告示した「特定ものづくり基盤技術高
度化指針」に沿って特定研究開発等計画を策定し、各地域の経済産業局において認定を受けることができる(2008
年 2月末時点で累計 623 件を認定)
。この認定を受けると、国からの研究開発委託事業への申請、中小企業金融公庫
からの低利融資、信用保証協会による信用保証の特例、特許料・特許審査請求料の軽減等の特例措置を受けること
ができる。国の研究開発委託事業である「戦略的基盤技術高度化支援事業」については、2007 年度は認定を受けた
中小企業者から合計 218 件の申請があり、このうち金型技術分野で16 件、金属プレス加工分野で10 件、鋳造技術
分野で9 件等、合計 89 件の研究開発計画が採択されている。
ものづくり中小企業に対する支援策としては、このほかにも、基盤技術を担う川上中小企業者と、川下製造業者等
とのコミュニケーションを促進するための「川上・川下ネットワーク構築支援事業」や、ものづくり人材の育成を支
援する「中小企業ものづくり人材育成事業」等が展開されており、国は中小企業者によるものづくり基盤技術の高度
化に対する支援を強力に押し進めている。
資料:経済産業省作成
イチェーンをめぐる変化が生じている。
高度成長期以来、我が国の特徴的な産業構造の 1 つとし
成車企業への売上の割合は、2001 年度から 2006 年度の
て、いわゆる系列取引に代表される長期安定的な取引構造
間で約 75%の企業が減少させている(図 123-2)。こうし
があった。こうした産業構造の中で、親企業を頂点とした
た背景の 1 つには自動車部品企業が厳しい競争の中で成長
階層的な分業構造が作られ、親企業では投資資本の節減等
し、系列の完成車メーカーへの依存関係から脱却しつつあ
のメリットを享受し、下請け企業では親企業から安定的な
ることも考えられる。
受注を受けられれば、新規の販路開拓に積極的に取り組ま
また、我が国製造業は経営の効率化を追求し棚卸資産回
なくても存立が可能であり、相対的に乏しい経営資源を新
転期間の短縮に努めてきた。製造業全体では 1975 年度以降
製品・技術の開発に集中できるメリットを生んでいた。し
棚卸資産回転期間は短縮傾向にある。また、主要業種につい
かしながら、1990 年代の厳しい経営環境の中で川上 - 川
て見てみると、
「ジャストインタイム」
、
「カンバン方式」な
中 - 川下の各段階で厳しい競争が行われた結果、こうした
ど在庫を持たない経営の典型例として挙げられる自動車・
系列取引は大きく変化し、取引関係は多面的に展開しメッ
同付属品製造業では、1960 年代以降製造業全体と比べ短い
シュ構造化していった(図 123-1)
。こうした動きは 2000
棚卸資産回転期間を維持し続けている。一方、近年総じて激
年代になっても引き続き見られる。系列取引の典型として
しい製品単価の下落に直面している電気機械器具製造業で
挙げられることも多い自動車産業を例にとり見てみると、
も在庫圧縮に努めていることがうかがえる(図 123-3)
。
主要完成車企業系列に属する部品企業の売上に占める各完
さらに近年競合企業との差別化を図るため、サプライ
37
ヤーから調達する部品・材料のカスタマイズ化を進める動
上回っており、代替性の乏しい部品・材料を利用する割合
きも見られる。サプライヤーから調達している部品・材料
は増加傾向にあることがうかがえる(図 123-5)
。こうした
の代替性について、75%以上の企業が少なくとも一部の部
背景として、企業が競合企業とは異なる機能やデザイン、
品・材料がすぐには代替できないとしている(図 123-4)
。
さらには小型化・軽量化などを実現するためサプライヤー
さらにそうした部品・材料の割合は「増加した」とする企
と設計段階から緊密な関係を構築し、自社専用の部品・材
業が 30.3%と、「減少した」とする企業を 20 ポイント近く
料を調達することを指向していることが挙げられる。
図 123 - 2 主要完成車メーカーグループの自動車部品メー
カーの取引の変化(2001 年度比)
増加
(5ポイント以上)
11.9%
(ヶ月)
3.0
製造業
20.9%
減少
(5ポイント以上)
19.4%
減少
(5ポイント未満)
34.3%
備考:協豊会、日翔会及び本田技研工業主要取引先部品企業のうち、各完成車メーカー(例え
ば協豊会所属企業の場合はトヨタ自動車)への売上比率の変化が追跡可能な 67 社を対
象に 2001 年度から 2006 年度の売上比率の変化を集計した。
資料:有価証券報告書から経済産業省作成
図 123 - 4 調達部品・材料の代替性
多くの部品・
材料が代替
できない
29.4%
一部の部品・材料が
代替できない
46.3%
資料:(社)日本機械工業連合会「平成 19 年度進展するグローバル経済下における我が国製
造業の国際機能分業構造に関する調査」
コ ラ ム
電気機械器具製造業
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
代替できない
部品・材料は
ない
24.4%
自動車・同付属品製造業
2.5
減少
(10 ポイント以上)
増加
(5ポイント未満)
13.4%
図 123 - 3 棚卸資産回転期間(主要業種)の推移
61
66
71
76
81
86
91
96
01
06(年度)
資料:財務省「法人企業統計」
図 123 - 5 代替できない部品・材料の割合の変化(最近 5 年間)
減少した
11.5%
増加した
30.3%
変わらない
58.2%
資料:
(社)日本機械工業連合会「平成 19 年度進展するグローバル経済下における我が国製
造業の国際機能分業構造に関する調査」
製品のカスタマイズ化の進展
半導体材料や液晶材料は、一見、同じような材料に見えてもユーザー仕様に合わせて必ずカスタマイズされており、
半導体材料であればユーザーが使用している装置や製造プロセスを加味した擦り合わせを行っている。例えば、半導
体封止材料の場合、ユーザーが使うパッケージやリードフレーム、基板などがそれぞれ微妙に異なるため、顧客の製
造ラインに合わせ込むための手間をかけている。さらに、試験評価を行うために相応の時間もかけている。このよう
に、機能性化学メーカー側はユーザー仕様に作り込むための手間と時間をかけているが、これはユーザー側も同様で、
独自に試験評価を行うほか、信頼性を確立するまでには相当の時間を必要とする。こうした事情もあって、一般に、
ユーザーとしては調達先である部材メーカーの変更には慎重にならざるをえず、一度取引が成立すると、次世代の材
料開発までそう簡単には他社の部材に入れ替わることがない。これが、半導体材料や液晶材料のような機能性化学
製品において寡占化が進む理由の一つとして指摘されている。
(2)供給途絶リスクへの対応の必要性
もないが、一方で、地震などの予期せぬ供給途絶リスクに
前述のとおり我が国製造業は競争環境の変化に対応する
対する脆弱性もはらんでいるとの指摘もある。また、サプ
ため在庫の削減など徹底した効率化を進めてきた。こうし
ライチェーンがグローバルに広がる中、そのリスクも多様
た取組は競争力の向上に資するものであることは言うまで
化しており、最近では、新型インフルエンザといった新た
38
第1章 我が国ものづくりが直面する課題と展望
なリスクも出て来ている。
業の割合が相対的に高い(図 123-9)。供給途絶が発生し
た場合の対応は、大きく分けて供給途絶が生じた箇所の復
途絶リスクに対する我が国製造業の意識は高まってきてい
旧と代替先の確保である。自動車分野では前者の対応が重
る。過去 5 年間での供給途絶リスクに対する取組状況につ
視されるケースが多いと考えられるが、こうした取組を通
いて、進展している企業の割合は 43.6%となっている(図
じて、①自然災害等の緊急事態が発生した際の取引先との
123-6)
。取組が進展している要因については、46.3%の
的確な連絡体制の構築、②防火、防災対策の徹底、早期復
企業が「取引先からの要請が高まってきているから」を挙
旧体制の整備、緊急時の生産補完の在り方の検討など取引
げている。また、41.8%の企業が「リードタイム短縮、
先における事業継続計画の確認推奨、③緊急事態が発生し
在 庫 削 減 が 進 展 し て い る た め 」 と し て お り、 次 い で
た際の支援体制に関する平時からのコミュニケーション等
29.5%の企業が「グローバル化に伴い、リスク要因が拡
を進めることが必要と考えられる。
近年我が国製造業においては、分業が進み、ある事業所
の停止は、その川下に位置する企業など他の事業者や産業
十分であるとする企業の割合は 26.5%にとどまっている。
に対して大きな影響を及ぼす事態も十分想定される。在庫
とりわけ、自然災害の多い我が国の事情を考えると対応状
の削減が進む中、特に代替が困難な部品等であればその影
況が十分とは言い難い(図 123-8)
。
響は非常に大きいものとなり得る。第 2 節で見たとおり、
次に供給途絶リスクへの対応について、具体的にどのよ
今後国内の製造拠点がより高度なものづくりを担っていく
うなことを検討・導入しているかにつき、自動車分野及び
ことにかんがみれば、供給途絶リスクに対する対応は一層
電気機械分野それぞれに属する大企業の状況を見ると、自
重要性を増すと考えられる。
動車分野、電気機械分野とも「調達品の在庫を増やす」と
一方で、過度に詳細な事業継続計画は往々にして実効性
している企業はわずかにとどまっている。2 社購買など
が損なわれる懸念があることに留意が必要である。供給途
「調達先を分散させる」とする企業の割合は特に電気機械
絶が生じた場合の影響の度合いや自社のサプライチェーン
分野で高く、一方で、一般的に「擦り合わせ」の要素が強
の強み、弱みを十分踏まえ、競争力を損なわない対応を検
いとされる自動車分野では「調達先への復旧支援を検討」
討することが重要である。
や「調達先との間で対応方法について協議する」とする企
図 123 - 6 供給途絶リスクに対する取組の進展度合い(最近5年間)
その他
1.0%
かなり進展している
4.0%
図 123 - 7 供給途絶リスクに対する取組が進展している理由
46.3
取引先からの要請がたかまってきているから
リードタイム短縮・在庫の削減が
進展しているため
41.8
グローバル化に伴い、リスク要因が
拡大しているため
変化していない
55.4%
多少進展
している
39.6%
29.5
同業他社、協力企業などでサプライチェーン
途絶を経験した企業があったため
22.3
18.4
過去にサプライチェーン途絶を経験したため
14.4
部素材サプライヤーが寡占化しているため
0
資料:(社)日本機械工業連合会「平成 19 年度進展するグローバル経済下における我が国製
造業の国際機能分業構造に関する調査」
図 123 - 8 供給途絶リスクに対する取組状況
その他
3.1%
10
20
取り組んでいるが
不十分
70.4%
備考:母数は図 123−7 で「進展している」と回答した企業
資料:(社)日本機械工業連合会「平成 19 年度進展するグローバル経済下における我が国製
造業の国際機能分業構造に関する調査」
40
50(%)
図 123 - 9 供給途絶リスクに対する対応
調達先を分散化させる
十分取組が
進んでいる
26.5%
30
資料:
(社)日本機械工業連合会「平成 19 年度進展するグローバル経済下における我が国製
造業の国際機能分業構造に関する調査」
63.2
84.3
9.1
5.3
調達品の在庫を増やす
3.0
調達先への復旧支援を検討
17.5
24.2
調達先との間で対応方法
について協議する
0
20
■電気機械分野(大企業)
■自動車分野(大企業)
40.4
40
60
80
100(%)
資料:
(社)日本機械工業連合会「平成 19 年度進展するグローバル経済下における我が国製
造業の国際機能分業構造に関する調査」
39
アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
大しているため」としている(図 123-7)
。一方対応が
「進展している」としている企業においても現状の取組で
第2節
近年の台風などによる豪雨、地震の発生等も背景に供給
コ ラ ム
自動車産業中越沖地震からの復旧
2007 年 7月の新潟県中越沖地震で被災した自動車部品メーカーの A 社は、一週間操業が停止し、自動車メーカー
の生産ラインもストップした。A 社は、エンジン回りの高度部品であるピストンリングの国内シェアの約 5 割、変速
機用シールリングの国内シェアの約7 割を占め、ほぼすべての国内自動車メーカーに部品を供給している。そのため、
A 社の操業がストップしたことにより、自動車メーカー12 社すべての生産ラインもストップし、結果として、10 万台
を超える完成車の生産が失われた。A 社の被害は甚大であり、被災直後は、復旧には少なくとも2ヶ月はかかると予
想されていた。しかしながら、取引先の自動車メーカーが被災直後から現地に数百名規模で社員を派遣し、正に業界
総がかりとなって復旧活動に当たったこともあり、余波は被災後1週間で沈静化に向かった。
地震の被害は比較的局地的なものであったにもかかわらず、部品メーカー1社の被災が全国に立地する自動車メー
カー工場の操業に影響を及ぼすという事態になり、部品の在庫を極限まで減らし、必要量のみ調達する「カンバン方
式」の脆弱性を問題視するような論評にまで発展し、在庫を最小化し、生産性を高めるジャストインタイム方式は緊
急な事故や災害等への対応が難しいという課題を改めて提起する形となった。
サプライチェーンが途切れた場合の具体的な対応策として調達先の複数化や在庫の積み増しなどの方法があるが、
こうした対応を一律に義務づけることは、ジャストインタイム方式の否定になるといった声が、特に自動車メーカー
の調達関係者の間では大きい。10 年に一度起こるかどうかといったリスクへの対応策としては、むしろ、自動車業界
が今回行ったように、自動車メーカーが一致団結して早期の復旧を目指す対応も合理性があると言えるのではないだ
ろうか。非常事態において、互助の精神で企業の壁を超えて協力できるのは日本的産業組織が持ち得る強みである。
コ ラ ム
取引先への BCP 要請
半導体材料や液晶材料は、カスタマイズ中心の数社寡占の業界構造にある。こうしたことは、万一の災害時には代
替生産が難しく、サプライチェーンに深刻な影響が及ぶことが懸念される。米国では2001年の同時多発テロをきっ
かけにBCPに対する議論が高まり、これを踏まえて翌年の 2002 年には米国半導体メーカーが日系企業を含むサプラ
イヤーである製造装置・部材メーカーに対してBCPへの対応を要請し、被災地以外の拠点での代替生産を要求する
ようになった。これを受け、2006 年後半には日本の半導体メーカーもサプライヤーに対してBCP 作成を要求し、半
導体に続いて日本の液晶メーカーもサプライヤーに対してBCP 作成の要求を行っている。台湾・韓国の半導体メー
カーや液晶メーカーもほぼ同様の動きを示している。
このように、世界中の半導体・液晶メーカーに材料を供給している日本の機能性化学メーカーにとってBCPへの
対応は待ったなしとなっている。寡占構造にあるだけにその対応には難しさが伴うが、SEMI(国際半導体製造装置
材料協会)ジャパンでは2004 年に国内の業界団体として初めてのBCPガイドラインを制定するなど、業界への働き
かけを行っている。
コ ラ ム
BCP の ISO 化の動き
事業継続計画(BCP: Business Continuity Plan)とは、企業等において災害、事故などが発生した場合に、重要
な業務が中断しないこと、又は万一事業活動が中断しても目標復旧時間内に早く重要な業務を再開させるために日常
的に様々な準備などを行う計画で、近年その重要性が指摘されている。
現在、ISO(国際標準化機構)においては、事業継続計画(BCP)についての国際標準化の検討が社会セキュリ
ティ技術委員会(TC223)で行われている。ISO 社会セキュリティ技術委員会(TC223)は、2006 年 5 月にス
ウェーデンで第1回総会が開催され、その後、半年に1回の頻度で総会が開催されている。
この技術委員会の下には、3つのワーキンググループ(WG)が設置されている。WG1はオーストラリアがコンベ
ナー(主査)として「社会セキュリティ規格の枠組」
、WG2は英国がコンベナーとして「セキュリティ関連の用語定
義」
、WG3はドイツがコンベナーとして「コマンド&コントロール / 組織内・組織間の指揮命令系統等」
、について議
論を行っている。
事業継続計画(BCP)の検討は、5ヶ国(米国、英国、オーストラリア、イスラエル、日本)がそれぞれ提案した
事業継続計画に関連する文書をベースに、第三者認証制度を意図しないガイダンス文書としての検討が進められ、
40
第1章 我が国ものづくりが直面する課題と展望
2007 年11月に「ISO/PAS2239 社会セキュリティ- 緊急事態準備と業務継続マネジメントガイドライン」
(注PAS:
正式な規格ではない一般公開文書、3 年間有効)として発行された。この文書は民間企業のみならず、NPO 法人や
公的機関などすべての組織を対象とするために、
「事業継続(Business Continuity)
」より広義の「業務継続
(Operational Continuity)
」という表現が用いられている。
今後 TC223では、ISO/PAS22399 の正式な規格化に向けた議論が行われる予定である。ISOで制定される国際
標準は、強制力を持たない任意のものであるが、産業界などで広く利用されることもある。したがって、今後とも同
技術委員会の議論の動向を注視し、積極的に関与していくことが重要である。
中小企業の BCP 作成支援
第2節
コ ラ ム
(3)取引先を含めた情報管理の必要性
を介した技術情報の流出のリスクも無視できない。自社内
近年サプライチェーンのグローバル化、取引構造の変
での技術情報の管理は十分に行われていると考えている大
化、人材の流動化などが進展する中で、製品や人を介して
企業においても、9 割以上が取引先を介し重要な情報が流
技術が流出するリスクへの対応は、これまでにも増して重
出するリスクを問題として意識している(図 123-11)
。
要である。近年のアジア地域の企業の技術的キャッチアッ
例えば、外部に加工等を委託する際に複数社に分割発注し
プの要因として、消費財や資本財を生産している企業の 7
て全体像を見せないことで技術情報等の流出リスクを低減
割が「日本の技術が流出していること」を挙げている(図
したり、受注側においても顧客の技術情報等の管理を徹底
123-10)
。こうした状況に対応するため、自社内での管理
することで信頼向上を図る等の取組が重要である。
強化の取組が重要であることは言うまでもないが、取引先
図 123 - 10 アジアの技術的キャッチアップの背景
アジア地域に日本の技術が
流出していること
70.9
人材(エンジニア等)の能力が
低下していること
47.5
生産設備の機能性向上
による技術力の格差が
縮小していること
45.7
アジア地域において高い能力
を有する人材(エンジニア等)
の輩出力が高いこと
27.6
0 10 20 30 40 50 60 70 80(%)
備考:母集団は消費財及び資本財を生産している企業
資料:(社)日本機械工業連合会「平成 19 年度進展するグローバル経済下における我が国製
造業の国際機能分業構造に関する調査」
図 123 - 11 取引先を介した技術流出リスク
ほとんど
意識していない
5.6%
ある程度の
問題として
意識している
32.2%
大きな問題として
意識している
62.2%
備考:母集団は自社内での技術情報の管理は「十分できている」と回答した大企業
資料:
(社)日本機械工業連合会「平成 19 年度進展するグローバル経済下における我が国製
造業の国際機能分業構造に関する調査」
41
アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
企業が自然災害等の緊急事態に当たって損害を最小限にとどめつつ、事業の継続あるいは早期の復旧を可能にす
るため、平時に行うべき活動や緊急時に取るべき方法・手段を取り決めておく計画であるBCP(事業継続計画)の
策定は、人材や資金に余裕のない中小企業にとっては企業の存続に係る重要なことである。
中小企業庁では、BCP 策定の手順の解説や書き込んでいくことでBCPが作れる様式など、BCPを策定するための
「中小企業BCP 策定運用指針」を2006 年 2月より中小企業庁の WEBサイト(http://www.chusho.meti.go.jp/BCP/
index.html)で公開しており、中小企業者のBCP 策定に必要な情報提供をしており、2006 年度から毎年全国10 箇
所程度で中小企業向けの中小企業BCP 策定セミナーを開催している。
また、2008 年 4月には、BCPの概要や必要性、その策定のポイントを簡潔にまとめた『中小企業 BCP(事業継
続計画)ガイド』を作成し、中小企業支援機関等に配付するとともに、中小企業庁のWEBサイトで公開している。
(http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/080418BCP_gude.html)
コ ラ ム
取引先を介した技術流出
半導体材料や液晶材料は日本企業が圧倒的シェアを誇る競争領域として知られるが、その一方で、近年は技術流
出が問題視されている。顧客であるユーザーと綿密な擦り合わせを行いながら材料開発を行うこれらの機能性化学材
料では、開発段階から顧客にサンプルを提供したり、試験評価データを提供したりしながら量産へと至る。しかし、
今や半導体チップや液晶パネルの大口ユーザーは韓国、台湾、中国等のアジア諸国のメーカーであり、しかも、これ
らの国では大資本のユーザー企業自身が傘下に子会社として材料メーカーを抱えているケースが少なくない。こうし
た事情から、ユーザーである取引先経由で日本の半導体材料や液晶材料のノウハウが流出しやすいとの懸念を有する
企業もある。
(4)人材面での課題
回答している(図 123-14)。
団塊の世代の大量退職、青少年のものづくりばなれ、中
調達先の技能承継が上手くいかず技術水準が低下するこ
長期的な人口減少を背景に我が国のものづくりにおいて人
とは、調達品の品質低下等を通じて、自社にその影響が及
材確保・育成が一層重要になっている。また、サプライ
ぶことも考えられることから、一部の企業では、調達先と
チェーンが国を超えて広がる中で、国内のみならず海外の
協力して調達先の技能承継を推進する動きも見られる。
拠点においても人材の確保・育成が重要な課題となる。
こうした中で、特に中小企業では、一般に若い人材の確
(ものづくり現場における人材面の課題全般については、
第 2 章で詳述する。)
保、定着が困難であり、深刻な状況となっている。中小企
業金融公庫が 2007 年 3 月に実施した「第 193 回中小企業
動向調査」によれば、ベテラン従業員の退職に伴い技能が
失われることについての影響は 24.7%の中小製造業が「影
図 123 - 12 ベテラン従業員の退職等に伴い技能が失われ
ることへの影響
響がある」と回答し、35.0%が「当面影響は小さいが、
いずれ問題となる」と回答している(図 123-12)。さら
影響がある
24.7%
に「影響がある」と回答した企業の中で、技能承継の取組
について「取り組んでおり、うまくいっている」と回答し
た企業は 29.4%にとどまり、62.7%の企業が「取り組ん
特に影響はない
40.3%
当面影響は
小さいが、
いずれ問題となる
35.0%
で い る が う ま く い っ て い な い 」と 回 答 し て い る( 図
123-13)
。こうした中で、7 割以上の大企業が調達先の技
能承継が上手くいかないリスクを「大きな問題として意識
している」又は「ある程度の問題として意識している」と
備考:対象は中小企業
出所:中小企業金融公庫総合研究所「中小企業動向調査」
図 123 - 13 ベテラン従業員から若手従業員等への技能承
継の取組み
図 123 - 14 調達先の技術承継リスク
無回答 0.5%
取り組んでいない 7.3%
取り組んでおり、
上手くいっている
29.4%
取り組んでいるが、
あまり上手くいっていない
62.8%
備考:母集団は図 123−12 で「影響がある」と回答した中小企業
出所:中小企業金融公庫総合研究所「中小企業動向調査」
42
全く問題として
意識していない
3.1%
ほとんど
問題として
意識していない
21.8%
大きな問題
として
意識している
21.8%
ある程度の問題として
意識している
53.3%
備考:対象は大企業
資料:
(社)日本機械工業連合会「平成 19 年度進展するグローバル経済下における我が国製
造業の国際機能分業構造に関する調査」
第1章 我が国ものづくりが直面する課題と展望
コ ラ ム
調達先の技能承継
大手部品メーカーA 社では、取引先の部品メーカーからの供給に頼る部品が 7 割を占める。部品メーカーの世代交
代等に伴い、熟練工のノウハウが上手く伝わらず、品質問題につながるケースは少なくない。取引先の部品メーカー
が不良品を納入すれば、A 社も大きな打撃を受けかねない。A 社の特命チームは部品メーカーとの意見交換を通じて、
部品メーカーの作業の進め方を事細かに記録し、詳細な作業マニュアルを作成した。改善後の作業手順書では工作
機械に取り付ける際の立ち位置、手の伸ばし方、持つ指、持つ場所までが事細かに記された。書類を見ればすぐに
分かるよう、作業の様子を示した写真も記載。なぜそのような作業方法が必要なのかという理由までを明記している。
「指先までのマニュアル」を作成したことで、ベテランから若手への技能承継がスムーズになった。
第2節
コ ラ ム
企業立地の促進に向けた宮城県地域の人材育成事業
アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
地域活性化を図る鍵の一つは、企業立地の促進であり、そのための地域人材の育成に向けた前向きな取組が各地
域で進められている。
宮城県では、県内の自動車部品製造事業者のうち自動車メーカーと直接取引をしている企業はごく一部であり、他
方、自動車車体メーカーの大型立地が計画されている。このため、地元の企業が当該立地企業に対し、ニーズにこた
えられるような魅力ある高度な技術力の供給と、それを使いこなせる地域人材の育成が急務となっている。
2007 年 3月、宮城県は自動車や電気・電子部品産業などの振興による経済成長を図るため「宮城の将来ビジョン」
を策定し、企業立地促進法に基づき、
「自動車関連産業」と「高度電子機械産業」を対象とする2 本の基本計画を策
定した。同年 7月には、第一号として国の同意を得て、その後、国からの支援を受けながら人材育成事業を実施して
いる。
具体的には、事業者である(財)みやぎ産業振興機構内に、事務局として「みやぎカーインテリジェント人材育成
センター」を設け、自動車関連企業の開発部門の立地促進と、自動車関連企業等のニーズを踏まえたカーエレクトロ
ニクス関連技術者の人材育成を進める体制を構築した。
本事業の研修生は、学生と企業在職者であり、大学や高専と企業が連携した研修カリキュラムを通して、企業ニー
ズに沿いかつ即戦力となる人材の供給を目指し、カーエレクトロニクス開発系人材の養成、自動車構造研修、ものづ
くりインターンシップ等受入促進など、様々な研修が実施されている。
県外の学生や企業からも受講申込みがあり、ほとんどの講義が応募開始とともに定員となるなど、取組への反響は
大きく、企業の関心の高さと期待の大きさがうかがわれる。今後は、県内に進出する自動車や高度電子関連産業の
ニーズも踏まえながら、地元の産学官の連携で行う人材育成メニューの充実を図ることに意欲を見せている。
コ ラ ム
新現役チャレンジプランの創設
少子高齢化が急速に進展する中で、我が国産業の発展のためには、技術や経験を蓄積した大企業等の退職者に引
き続き活躍してもらうことが重要との認識の下、中小企業庁では、2003 年度から商工会議所で実施してきた「企業
等 OB人材活用推進事業」を抜本的に拡充・強化し、
「新現役チャレンジプラン」として2008 年度から取り組んでい
くこととしている。
「新現役チャレンジプラン」とは、大企業等の退職者及び近く退職を控えるシニア人材を「新現役」と位置付け、
大企業、都市部に偏在するこれら人材の有する知識・ノウハウを地域や中小企業にいかす仕組みであり、
「潮流1 大企業から中小企業へ」
、
「潮流 2 大都市から地方へ」
、
「潮流 3 海外から国内へ」
、という3つの潮流を作り出すこ
とを目指している。
このうち、
「潮流 3 海外から国内へ」については、これまで高度技術を有する人材が、退職と同時に海外にその
活躍の場を求めていた実態もあることから、高度な技術・ノウハウ等を有する新現役が、国内でその技術・ノウハウ
等をいかせる基盤づくりを推進する業界団体の取組をモデル事業として支援することとしている。
本モデル事業は、高度な技術・ノウハウ等を有する新現役を、その高度な技術・ノウハウ等を必要とする国内の関
連中小企業において活用するもので、1件当たり1千万円から2 千万円で10 件程実施する予定であり、
「特定ものづ
くり基盤技術」に挙げられている20の技術分野に関係する業界団体などにおける取組を想定している。
43
コ ラ ム 「製造中核人材育成事業」を活用した日本初、金型・鋳造工学専攻の大学院の設置事例
経済産業省では、国際競争力の強化や強い産業を実現していくために、産学連携の人材育成として、先端的な技
術を有する産業界と教育ノウハウを有する大学等高等教育機関がコンソーシアムを構成し、実践的なものづくり人材
を育成するためプログラム開発を支援する「製造中核人材育成事業」を2005 年度から実施し、2007 年度までの 3
年間で、65 件のプロジェクトを支援してきた。本事業において、2005 年度にプログラム開発を実施した岩手大学で
は、その成果を活用して日本初となる金型・鋳造工学専攻の大学院を設置した。
日本初、金型・鋳造工学専攻の大学院を設置した事例(岩手大学)
東北地域における高度部材の製造・供給を担う企業の研究開発人材や製造現場マネジメント人材を育成するため
の教育プログラム開発を岩手大学等で実施。
岩手大学では、自動車産業等のものづくり企業向けに「製造現場で起こっている現象を論理的に説明するとともに、
製品・技術のロードマップや経営シナリオを描きながら現場を動かせる人材」を育成するため、2006 年 4月から大
学院に日本初となる「金型・鋳造工学専攻」を開設。2008 年 3月21日に修士課程を修了した第1期生14 人は、後
期課程へ進学又は地元企業等に就職。
【これまでの成果】
1)開発成果を活用し大学院の博士課程を開設。雇用受入やインターンシップ費用の支援等、産業界が全面的に
バックアップする産学連携による強固な実施体制を構築。
2)2007 年度から文部科学省の科学技術振興調整費を受け、学部生を対象とした「ものづくりコース」を工学部
に新設し、大学カリキュラムの見直し・改編といった大学院にとどまらない一連の工学部教育改革を実現。ま
た、自治体と連携して社会人向けの「岩手マイスター」制度も創設。
3)他大学に同大学の取組を紹介するなどして、金型分野において他大学(九工大、岐阜大、群馬大)の専攻コー
ス等の開設を牽引する等、大学・大学院における持続的な人材育成プログラムの整備が波及。
【実習風景】
コ ラ ム
【パンフレット】
産学人材育成パートナーシップ
グローバル競争やイノベーション競争の激化等に伴い、産業界においては、これらの競争に対応できる人材育成が
喫緊の課題となっている。このため、これまで以上に産業界と大学界が密接に連携し、一貫した人材育成・活用のシ
ステムを構築することが重要である。
例えば、大学界は産業界の「学生にしっかりと専門分野の基礎知識を身につけてほしい」といったニーズにこたえ
る必要がある一方、産業界も人材採用に当たって「大学での成績」等を重視していく必要があるとの指摘がなされて
いる。このように、人材の育成や活用について、産学の役割分担を明確にし、協力関係をより強固にしていかなけれ
ばならない。
そこで、経済産業省と文部科学省は連携の下、産学が人材育成について対話を行い、課題解決のための具体的行
動につなげる場として、
「産学人材育成パートナーシップ」を創設した。
「産学人材育成パートナーシップ」は、産学の代表者から構成される全体会議の下に、現在、
「化学」
「機械」
「材料」
「原子力」等の 9つの分科会を位置付けている。全体会議では人材育成における産学連携に関する大枠の考え方につ
いて整理を行うこととし、分科会では求められる人材像や、人材育成における産学の役割分担及び協力の在り方、課
題を解決するために必要な取組等について検討することとしている。第1回全体会議を2007 年10月3日に開催し、
44
第1章 我が国ものづくりが直面する課題と展望
各分科会を全体会議の下に正式に位置づけ、第 2回全体会議を2008 年 3月27日開催し、各分科会から2007 年度
の活動の報告等を行った。
2008 年度では、全体会議としての中間取りまとめを行うとともに、各分科会の「提言」や「具体的行動」の実現
を図っていく予定である。
【産学人材育成パートナーシップの推進体制について】
<全体会議>
全体会議委員
分科会議長
榊原定征副会長
小林いずみ副代表幹事
水越浩士副会頭
梶山千里副会長
佐々木雄太会長
大沼淳会長
白井克彦副会長
情報処理
電気・電子
経営・管理人材
機械分科会
バイオ分科会
原子力分科会
材料分科会
化学分科会
資源分科会
阿草清滋 名古屋大学大学院情報科学研究科教授
荒川泰彦 東京大学先端科学技術研究センター教授
清成忠男 法政大学学事顧問前総長
白鳥正樹 社団法人日本機械学会筆頭副会長
西山 徹 味の素(株)技術特別顧問
服部拓也 社団法人日本原子力産業協会理事長
浜本康男 新日本製鐵株式会社常務取締役
府川伊三郎 旭化成株式会社顧問
山冨二郎 東京大学大学院工学系研究科教授
第2節
産業界 : 日本経団連
経済同友会
日本商工会議所
教育界: 国立大学協会
公立大学協会
私立大学協会
私立大学連盟
<分科会>
別の基準に基づいた対応を求められる場合大きな負担とな
世界的に CSR(企業の社会的責任)に対する関心が高
り、ひいては最終製品メーカーの競争力の低下につながる
まる中、我が国製造業においても、その取組が推進されて
ことも考えられる。こうした中で、効率的かつ効果的な
きた。一方、調達先の不祥事等により、最終製品メーカー
CSR 調達を実現するために、最終製品メーカー、サプラ
が社会的批判を浴びる可能性も考えられる。実際に過去の
イヤーなどが協力し、統一の管理手法などの導入を推進す
事例では、欧米の企業が途上国にある調達先の工場での労
る動きもある。
働環境をめぐり人権団体から批判を受け、自社製品の不買
運動にまで発展したケースもある。我が国製造業のサプラ
イチェーンが国を超えて広がる中、自社内の取組だけでな
く、サプライチェーンに属する企業全体での CSR の取組
図 123 - 15 CSR 調達の推進状況
未着手
8%
の重要性が増している。こうした中で、CSR の観点を取
引条件などに盛り込む動きが見られる。2007 年に社団法
人日本能率協会が実施した調査によれば、製造業では
61%の企業が CSR 調達を「積極的に推進している」又は
「推進している」としている(図 123-15)
。
今後
推進していく
31%
積極的に
推進している
21%
推進している
40%
一方、こうした動きは、複数の最終製品メーカーと取引
のあるサプライヤーにとっては、それぞれの取引先から個
コ ラ ム
資料(社)日本能率協会「2007 年度購買・調達に関する調査」
サプライチェーン全体での CSR 調達の取組
エレクトロニクス業界では、複数の製品サプライヤーが、同じ生産委託先や部品等のサプライヤーと取引を行うこ
とが多くなっている。そのため、それぞれのメーカーが CSR 調達に関する独自の基準を導入することで、サプライ
チェーンに大きな混乱と過剰な負荷がかかることが懸念される。
こうした背景から、エレクトロニクス業界では、米国企業が中心となり、セットメーカー及び部品・材料メーカー
等が協力して、電子業界行動規範(Electronics Industry Code of Conduct:EICC)を2004 年に作成した。同行動
規範により、基準・監査等の統一がなされ、サプライチェーン全体でのCSR 管理の効率的な運用が図られている。
また、こうした動きを受けて日本では電子情報技術産業協会(JEITA)が EICCに高い親和性を持ち、国内で関心
の高い品質・安全や情報セキュリティー等の項目を追加した「サプライチェーンCSR 推進ガイドブック」を2006 年
8月に発表している。
※EICC 会員企業:セットメーカー、部品メーカー、生産受託企業、小売業などで構成され、日米欧及びアジアの
企業 25 社(2007 年 4月現在)が参加している。
45
アジア規模に広がる製造業のサプライチェーンの現状と課題
バイオ
経営・管理
人材
原子力
電気・電子
情報処理
資源
材料
機械
化学
(5)調達先を含めた CSR 推進の必要性
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