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Brexit(英国のEU離脱)にかかる 現状と今後の影響

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Brexit(英国のEU離脱)にかかる 現状と今後の影響
Brexit(英国のEU離脱)にかかる
現状と今後の影響
September 2016
※本稿は、週刊経営財務8月1日号に寄稿した記事に加筆修正をくわえたものです。
1. はじめに-Brexitの概要と当面の影響
6月23日の国民投票の結果である英国のEU離脱(以下Brexit)という予想外の決定に、
英国内外の政府・企業・一般市民が混乱に陥る状況が続いていますが、本稿では今後予
想される英国における短期的・中期的動きとそれらへの対応について、欧州大陸側の状
況も踏まえて整理したいと思います。また、長期的変化には、離脱通知から2年後の離
脱直後に始まるものと、EU同盟外で事業活動を行うことになって次第に判明するであ
ろうより長期的な影響がありますので、後段で若干言及します。
(1)英国の短期的動き:
英国では7月13日に予想より2ヵ月も早く新首相が誕生し、新内閣が組閣されました。
テリーザ・メイ新首相は、まずはBrexit以外の公約を、この新しい政治的かつ経済的に
難しくなった環境の下でどのように国民に対して果たすかについて戦略を早期に立て
ることになるでしょう。そのため、税制に関する何らかの施策は、おそらく晩秋に通常
発表される「Autumn Statement」といわれる次年度予算編成方針発表によるものと予
想されるため、これ以前の税制改正は想定し難いといわれています。また、新内閣にEU
離脱担当相が新設されたように、政府は英国の企業・事業者と緊密に連繋してEUとの
交渉に当たることになります。このためにフォーラムなどを通じて、産業界の意見を反
映させる機会が設定されることも考えられます。
リスボン条約50条(離脱通知)の発動から2年後以降のシナリオについては、複数の可能性
が残されています。例えば、EUから脱退はするがEEA(European Economic Area:欧州
経済領域)もしくはEFTA(European Free Trade Association:欧州自由貿易連合)諸国と
しての加盟国であり続ける、英国が完全に分離するもの、あるいはBrexitがスコットランド
の英国からの独立を誘発するものなどまでさまざまありますが、後に詳述します。
(2)欧州大陸の短期的動き:
英国国民投票の影響は、欧州大陸その他の地域にも及びつつあります。政治的・経済的
な不確実性が長引くことを恐れて、EUの指導者たちは英国が離脱通知をできるだけ早
期に行うことを望んでいますが、他方英国政府は非公式な交渉をまず開始することを
希望しており、離脱通知のない限り交渉しないという立場のEU側と対立しています。
これにより、2つの疑問が浮上します。1つは、欧州諸国は将来の英国との通商交渉にお
いて実際にどのような立場を取るかということ、もう1つは、英国が離脱通知を行うこ
とが欧州大陸を更に不安定なものにするかどうかです。
© 2016 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG network of
independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.
Brexit(英国のEU離脱)にかかる現状と今後の影響 2
オランダ、フランス、ドイツでは2017年の春と秋に総選挙が行われ、この結果はこれら
の国々の英国との交渉に影響を与えることでしょう。EU離脱の動きが他の国々へ伝染
することも懸念されていましたが、7月初めのスペイン総選挙の結果は、現政権を支持
しEUへの求心力を回帰させるものであり、EU主要国政府にとっては朗報となりました。
Brexitがユーロ圏経済にショックをもたらすとも伝えられてきましたが、現在までのと
ころそのインパクトは英国のそれと比べると比較的穏やかなものに留まっています。
国民投票後のEUの主なイベントは、下記図の通りです。
<想定される今後のスケジュール(6月23日国民投票後)>
英国議会によるEU離脱に
おける基本原則の交渉の批准
リスボン条約50条発動期限(?)
リスボン条約50条を
発動し、最短で、英国
が EUから 離脱 す る
場合のタイミング
2018
2016年
2017年
6月23日
国民投票
7月13日
10月2日~5日
テレーザ・メイ英国首相・ 保守党党大会
保守党党首選任
10月10日
英国議会再開
2018年
12月15~16日
欧州理事会
11月/12月
秋の予算編成方針
フランス大統領選挙(5月)
英国がEU議長国?
ドイツ連邦議会選挙(10月)
2. 英国のEU離脱が与える税務への中長期的影響
KPMG英国による分析によると、多くの企業にとって、法人税および間接税の改正のう
ち9割は重要ではなく、また、短期・中期的にも変更は見込まれないため、今すぐに何
か行動を起こす必要はないであろうとしています。しかしながら、残り1割の「もし起
きた時には重大な影響がある」以下の3つのエリアには十分な注意を払う必要があるで
しょう。
① 英国と世界との間の通商・関税の体系に少なくとも一定の変更が起こり、中には根
本的な変化が含まれる可能性。
② 憲法的に機能するEU法に英国の税法は準拠してきたが、この関係がなくなること
により将来的に様々な副作用が出てくる可能性。
③ Brexitによる変化から二次的に生まれる税務上のインパクトの可能性。例えば、業
界規制が変更されることにより必要となるグループ再編など。
(1)「よくある懸念、でも実現しない」こと:
 「英国でVATが大きく変わる?」- 現在の英国VAT法はEUの枠組みの中で規定され
ているので、今後どうなるかという論点です。おそらく、英国政府はほとんど同一の
規定を暫定的に導入するか、EUと現状の取扱いを相互承認するということを移行期
間を経て合意することになると考えられます。
 「EUの国家補助を制限する規定がなくなるため、英国政府は英国に存在する企業を
自由に補助・優遇することが可能となる?」- 実現すれば魅力的な話ですが、実際
にはスイスがEUからの圧力で税制自体を全体的に見直した例を見ても、極めて難し
いことが分かります。また、BEPS行動計画の影響で、倫理的な面から世論の強い圧
力がかかることも明らかで、結果的に現在と同様の国家補助規制のルールに沿った
政策しかとりえないと推定されます。
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Brexit(英国のEU離脱)にかかる現状と今後の影響 3
 「EU親子会社間指令や利子・ロイヤルティ指令の枠組みがなくなるため、英国は持
株会社・ファイナンスの拠点としての魅力がなくなる?」- 英国が世界で最も多
くの国々と租税条約を結んでいる現状、事業上の諸条件および外国投資を魅きつけ
るさまざまな税制改正を鑑みると、英国投資促進策が見込まれ、最小限の変化に抑え
られると思われます。
 「EU仲裁協定の恩恵がなくなるので、移転価格問題に起因する二重課税の問題を解
決することに長期間を要するようになる?」- EU仲裁協定は二重課税問題を解決
するために税務当局間の合意を早める効果がありますが、BEPS行動計画14(相互協
議の効果的な実施)による新たな仲裁メカニズムが導入される場合、EUもこのフ
レームワークに当初から参加することが見込まれるため、悪影響は限定的なものに
なると思われます。
(2)「もし起きた時には重大な影響」がある1割のエリア:
それでは、
「もし起きた時には重大な影響」がある1割の部分はどうでしょう。グローバ
ル展開している日系企業の多くで、2つの重要な共通問題があります。物理的なサプラ
イチェーンに与える関税の影響と、他の変更事項に応じて二次的に発生する税務上の
影響です。
<a. 関税のサプライチェーンに与える影響>
最も端的な例は、例えば製造業において、事業の重要な部分を関税のないEU単一市場
への取引、もしくはEUが締結しているFTAに依拠しているような場合に、現在のサプ
ライチェーンとオペレーションモデルがBrexitに対処できるかどうかという点があり
ます。最悪の場合には、英国がEU関税同盟の一員ではなくなり、英国からEUへの輸出
は、現在のEUへの「発送(Dispatch)」ではなくなり、EU関税法典に従って関税が課
せられる等、EUが締結しているFTAの恩恵を享受できなくなるケースが出てくるとい
うことです。また、二国間のFTAがない状態となる国々と英国はより条件の良いFTAを
独自に締結する期待もあり得ますが、そのような条約の交渉には何年もかかるのが通
常であり、事業への影響は避けられなくなると思われます。
<b. 非EU諸国の取引形態類型>
実際には、EU離脱後の対EUとの貿易動向は、どのような条約が合意されるかに依拠す
ることになります。可能性のある選択肢として他国の例を見てみると、EEA加盟国であ
るノルウェー、EFTA加盟国であるスイス(非EEA加盟国)、EU関税同盟の一員である
トルコ、EUと包括的なFTAを締結している韓国などのケースがあります。しかし、出
発点は通常のWTOルールに基づいたWTO加盟国としての取扱いを受けるのみと思わ
れます。
英国がノルウェーのような待遇を得られるとすれば、EUへの輸出のほとんどは関税が
かからなくなりますが、英国の輸出者は原産地規則に従って原産地を証明せねばなり
ません。年々グローバル化しているサプライチェーンの下では、一般的に原産地規則へ
の対応は非常に複雑でコストを要する手続きとなります。また、英国が、トルコのモデ
ルを採用する場合、EU関税同盟の一員となり、EEA諸国に求められる手続きに比して
大幅に簡便的な手続きによって輸出を行うことができますが、これは物品のみを対象
とするもののため、金融を含むサービスは対象外となる大きな制約があります。当然な
がら、これらの影響は、最終的にどのような合意がなされるか明確になるまで判断でき
ないものとなります。
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Brexit(英国のEU離脱)にかかる現状と今後の影響 4
<c. 欧州組織再編を誘発する可能性>
その次の大きな問題としては、Brexitが事業再編を引き起こす可能性があると思われま
す。つまり、事業に関する規制、外国人労働者への規制、EUからの補助金がなくなる
ことが引き起こす事業環境の変化などにより、事業再編の要否が検討されることにな
るということです。銀行であれば、銀行免許のパスポート制度が利用できなくなること
により、一定の機能をEU加盟国に移転させる必要が出てくるかもしれません。また英
国に製造拠点を有する企業は、最適なロケーション選定の検討を始める可能性がある
一方で、規制の違いを利用して英国に進出してくるビジネスも出てくることもあるで
しょう。こうした場合には、BEPS行動計画の中の事業再編に関するガイドライン(事
業上の機能・リスクの変更や、有形・無形の資産の移転に関する税務上の影響)にも注
意を払う必要があります。
3. EU離脱による会計・監査に対する影響
英国会計基準自体は、EU離脱の有無によって特に影響を受けることはありません。ま
た、EU指令による監査法人の強制ローテーション制度は、EU離脱が有効になった時点
で 適 用 を 受 け な く な り ま す が 、 現 状 で は Financial Reporting Council の Ethical
Standardsの改正として英国国内ルールとして取り込まれているので、こちらが改正さ
れない限りEU指令が適用されているのと同じこととなり、現時点では国内ルールの改
正の議論は始まっていません。
4. おわりに
以上のように、英国との間でビジネスを有する企業は、英国とEUと合意の中で重要性
の高いポイントを複数洗い出し、どのような合意が形成されることが自社のビジネス
にとって重要かを評価できる体制を整える必要があります。これにより、条件交渉過程
の情報が明らかになるにつれて、ビジネスに与える影響をタイムリーに分析すること
ができます。
また、英国がEU加盟国であることで、自社のサプライチェーンにおいて、どのような
ベネフィットを享受できていたのかを分析しておくことにより、EU加盟国でなくなっ
た場合のコンティンジェンシープラン(緊急対応計画)作成の基礎とすることが可能に
なります。そして、コンティンジェンシープランの策定を行う場合には、プランの実行
により、関税や付加価値税等の間接税への影響のみならず、移転価格などもふまえ包括
的にどのような税務上の影響をもたらすのか、あわせて分析しておくことが望ましい
と考えられます。
これからの2年間は情報の錯綜なども見込まれ、企業の活動においては混乱が避けられ
ない期間となりますが、Brexitへの対応を通じて現在の商流の設計や組織のあり方を見
直す好機ととらえることにより、新たな事業機会の発見と活用に繋げることが期待さ
れます。
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編集・発行
KPMG/あずさ監査法人
専務理事/Brexit EU対応専門チーム統轄責任者
KPMG税理士法人
パートナー/Brexit EU対応専門チーム
神津
シニアマネージャー/Brexit EU対応専門チーム
三浦
隆幸
福田
洋
隆
ここに記載されている情報はあくまで一般的なものであり、特定の個人や組織が置かれている状況に対応するものではありません。私たちは、
的確な情報をタイムリーに提供するよう努めておりますが、情報を受け取られた時点及びそれ以降においての正確さは保証の限りではあ
りません。何らかの行動を取られる場合は、ここにある情報のみを根拠とせず、プロフェッショナルが特定の状況を綿密に調査した上で
提案する適切なアドバイスをもとにご判断ください。
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