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女性向けマンガ雑誌における恋愛・性表現(2)
日心第71回大会 (2007) 女性向けマンガ雑誌における恋愛・性表現(2) クラスタ分析による類型化の試み ○上瀬由美子1・福富護2・宇井美代子 3・関口元子・松本真人 4・立脇洋介 5 (1江戸川大学・2東京学芸大学・3 筑波大学・4 東京学芸大学教育学研究科・5 筑波大大学院/日本学術振興会特別研究員) Key words: 恋愛・性表現 マンガ雑誌 内容分析 目 的 日本性教育協会(2006)によれば、女子青年の性意識・行動 に影響を与えるものとして、 「友人」に次いで「コミックス・ 雑誌」があげられている。またマンガを含めた雑誌メディア の性表現分析からは、女性が男性に比べて性的対象として「見 られる」存在であると指摘されている(福富,1991)。 宇井ら(2006 報告(1))は、一般流通経路で販売される女性 向けマンガの中に、近年、男同士の恋愛を描いた一見すると 従来とは異なる恋愛や性表現がみられることに注目し、男と 女の恋愛を描いた「男女」マンガと、男と男の恋愛を描いた 「男男」マンガを比較分析した。その結果、 「男男」は「男女」 よりも、身体露出描写が多く、 「受」(性器挿入される役割)の 描かれ方が「女」と類似していることを明らかにしている。 これに続き本研究では、報告(1)と同一のデータを用いて、 「男 女」と「男男」のマンガそれぞれに、恋愛と性表現について どのような類型があるのかを比較検討することを目的とする。 方 法 分析対象と分析手続きについては、報告(1)参照。分析カテ ゴリは、「愛情表明の有無」「抱擁描写有無」「キス描写有無」 「性器への手や口による直接的接触(以下ペッティング)描写 の有無」 「性器挿入(以下挿入)の直接的描写の有無」であった。 結果・考察 まず「男女」「男男」別に、全カテゴリに対して、数量化 III 類による分析を行った。第 1 軸(「男女」固有値 0.42 「男 男」固有値 0.37)と第 2 軸(「男女」固有値 0.26 「男男」固 有値 0.24)に基づくカテゴリスコアの布置を検討した。その 結果、 「男女」では 4 つのカテゴリ群に分かれ、成分 1 の負の 方向に各性行為の「無」が、成分 1 が正・成分 2 が負の方向 に「愛情表明有」「キス有」「抱擁有」がまとまった。また成 分 1 が正・成分 2 が中心から負の方向に男性から女性への「ペ ッティング有」 「挿入有」が、成分 1 と 2 が正の方向に男女双 方での「ペッティング有」がまとまっていた。一方、「男男」 では 3 つのカテゴリ群に分かれ、成分 1 の負の方向に、各性 行為の「無」が、成分 1 が正・成分 2 が負の方向に「愛情表 明有」 「キス有」 「抱擁有」 「挿入有」が、成分 1 と 2 が正の方 向に攻から受への「ペッティング有」、受から攻への「ペッテ ィング有」がまとまっていた。 さらに、両軸のサンプルスコアを元に「男女」 「男男」別に 各ケースを対象に、SPSS を用いて大規模データのクラスタ分 析(ward 法)を行った。 「男女」では、ケースのまとまりから第 1 ク ラ ス タ ( 以 下 1CL)N=55(8%) 、 第 2 ク ラ ス タ ( 以 下 2CL)N=503(72%)、第 3 クラスタ(以下 3CL)N=145(21%)を抽出 した。さらにこの 3 クラスタを独立変数とし、愛情表明・ペ ッティング描写・挿入描写の有無の割合に差がみられるかχ2 検定を行った(表 1)。その結果全ての項目で有意差がみられた。 クラスタ間の回答傾向をみると、2CL は全体として性行為描 写の頻度が低く、愛情表現の描写のみにとどまっていた。1CL と 3CL は、2CL と比較すると性行為描写が多いが、細かくみ ると描写の性質に違いがみられる。ペッティング描写をみる と 3CL では行為の主体が男性であるが、1CL は「双方」ある いは「女性が男性に」が増加している。 「男女」マンガの挿入 描写の頻度は 2CL で低く、3CL と 1CL を比較すると 1CL の 方が 5%ほど描写は多い。この順で、女性から男性へのペッ ティングの割合も変化していることから、性関係初期におい て行為の主導は男性にあること、女性の積極性の上昇は性関 係の進展と解釈されて描かれていることが示唆された。その 一方、最も性描写の高い 1CL で愛情表明「なし」が 4 割を占 めて多かったことから、過激な性描写ほど、性行為の主体性 を恋愛と切り離して描くような視点が強まっている傾向もう かがわれた。 「男男」にも同様の分析を行い、第 1 クラスタ N=167(58%)、 第 2 クラスタ N=39(14%)、第 3 クラスタ N=82(28%)を抽出し、 クラスタによる回答差の分析を行った (表 2)。回答傾向から 1CL は性行為描写が少ない群と位置づけられた。2CL と 3CL はペッティング描写を比較すると、 3CL は性行為の主体が「攻 (性器挿入する役割)」である。これに対し、2CL ではペッテ ィング(口)において「受が攻に」や「双方」が多くなってい る。この「男男」の 3 群構造は「男女」と類似しており、報 告(1)と同様に、男同士の性描写は「男女」を踏襲して展開し ていると解釈できる。ただし愛情表明「なし」とその他合計 の割合を「男女」「男男」で比較すると有意な差が見られ(χ 2 (1)=31.47 p< .001)、 「男男」の方が愛情表明のなされない性行 為が描写されやすいことが示されている。さらに「男男」の 2CL と 3CL を比較すると、挿入シーンの頻度の差は「男女」 よりは少なめであり、 「受」の積極性が性行為の進展を示す構 造にはなっていないこともうかがわれた。 表1 男女マンガ (値は%) 愛情表明 (χ 2=51.13 p < .001) 男性の 双方 み 41.8 12.7 5.5 40.0 27.2 20.5 10.9 41.4 12.4 6.9 10.3 70.3 ペッティング(口)(χ 2=813.54 p < .001) 女性が男 男性が なし 双方 性に 女性に 10.9 38.2 7.3 43.6 99.2 0.4 0.4 0.0 46.9 0.7 51.7 0.7 なし 第1クラスタ 第2クラスタ 第3クラスタ 第1クラスタ 第2クラスタ 第3クラスタ 女性のみ 表2 男男マンガ (値は%) 愛情表明 (χ 2=16.30 p < .05) なし 第1クラスタ 第2クラスタ 第3クラスタ 第1クラスタ 第2クラスタ 第3クラスタ 受のみ 攻のみ 双方 51.5 8.4 18.0 22.2 30.8 7.7 15.4 46.2 32.9 14.6 17.1 35.4 ペッティング(口)(χ 2=282.51 p < .001) なし 受が攻に 攻が受 双方 95.8 1.8 2.4 0.0 20.5 56.4 2.6 20.5 37.8 0.0 54.9 7.3 ペッティング(手)(χ 2=770.82 p < .001) 女性が 男性が 双方 なし 男性に 女性に 14.5 14.5 34.5 36.4 98.8 0.0 1.2 0.0 24.8 0.0 75.2 0.0 2 性器挿入(χ =501.28 p < .001) なし 10.9 97.0 15.9 あり 89.1 3.0 84.1 ペッティング(手)(χ 2=306.51 p < .001) 受が攻 攻が受 なし 双方 に に 90.4 0.0 9.6 0.0 23.1 15.4 17.9 43.6 15.9 0.0 84.1 0.0 性器挿入(χ 2=147.40 p < .001) なし あり 79.0 21.0 5.1 94.9 7.3 92.7 注)表1・2とも、値の下線は 5%水準で残差分析した結果、有意な項目を示している。 (値が多いものは太字で示した。) 引用文献 福富護(1991)雑誌メディアにみられる性の商品化,青少年問 題,38,12-22. 日本性教育協会(2006)青少年の性行動(報告書) 宇井美代子ら(2006)女性向けマンガにおける恋愛・性表現 (1)日本心理学会第 70 回大会発表論文集,238. (KAMISE Yumiko, FUKUTOMI Mamoru, UI Miyoko, SEKIGUCHI Motoko,MATSUMOTO Mahito, TATEWAKI Yosuke)