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WoSの検索方法について No 2(社会科学編)
2007/12/10 Web of Knowledge の検索方法について Number 2 (Web of Science 人文社会編) トムソンサイエンティフィック 矢田俊文 目 次 人文社会系のテーマを、Web of Science でどの様に検索するか? ■キーワード検索 a) 人文社会学でのキーワードの選び方 b) キーワードの見つけ方(引用のリンク) ■検索事例 A) アメリカの多角主義について (資料: 『アメリカ政治外交のアナトミー』 山本吉宣・武田興欣 編 2006) B) ベケットと現在演劇 (資料: 『ベケット巡礼』 堀 真理子 著 2007) C) 紛争地域の民主化政策 (資料: 『パックス・デモクラティア-冷戦後の世界と原則』 ラセット) 1 ■キーワード検索 a) 人文社会学でのキーワードの選び方 人文社会学のキーワードで検索する場合に注意すべきことがいくつかあります。第一 に、キーワードは自然科学分野ほど、定まったキーワードは無く、人によってはより抽 象的な言葉を使うことがある点です。下記は、不正会計で問題となった米国の新興企 業 エンロンについて論じている論文ですが、会計監査を意味する Auditing などのキ ーワードを使ってもヒットしません。タイトルでは会計監査ではなく、Gatekeepers など と記載されています。誰が言っても同じ Enron などの固有名詞を使ったほうが良い場 合があります。 第二に、日本の研究者を検索しようとしても、ほとんどの研究者は日本の学術雑誌に 投稿しているので、Web of Science がカバーしていないことが多いことも検索を難しく させています。自然科学では、日本の学術雑誌でも英文誌が出版されたり、研究者 が国際誌に論文を書くことは日常的ですが、人文社会系では、情況が違います。 b) キーワードの見つけ方(引用のリンク) しかしながら、検索に適したキーワードは、すぐに思いつくものでもありません。その 場合、著者の引用文献の中のタイトルを見たりすると良いキーワードが見つかること があります。また、引用文献のリンクは、著者が論文を書く際に直接関係のあった文 献にリンクします。 2 キーワードに困った際は、研究者名で検索することをお勧めします。日本の研究 者を探すのは難しいかもしれませんが、欧米の研究者で日本で翻訳が出版されるよ うな場合は、その人の論文を探すのは、それほど難しいことではありません。さらに、 後で検索事例でもご紹介しますが、人文社会学では、引用文献から逆引きするのが 一番効果的です。 ある書物、ある文献を引用している人であれば、きっとこの研究をしているに違いない という検索方法です。 3 ■検索事例 A) アメリカの多角主義について (資料: 『アメリカ政治外交のアナトミー』 山本吉宣・武田興欣 編 2006) アメリカは、 冷戦後「唯一の超大国」と呼ばれるようになった。 この間、 アメ リカの対外政策は、 必ずしも一貫したものではなかった。 ブッシュ(父)大統領(1989 -93 年)は、 冷戦を終焉させた大統領であり、 また、 湾岸戦争を指導し、 法の支 配を基本とした新世界秩序を唱えた。 クリントン大統領(1993-2001 年)は、 当初 国連強化を唱え、 またソマリアなどでの国連の平和活動に熱心であった。 そして、 ソ マリアでの失敗の後でも、 ボスニア問題、 さらにはコソボ問題で、 積極的な役割を 果たした。 しかし、 クリントン政権の多角主義(multilateralism、 多国間主義とも いう――国連や NATO などの多角的国際制度の枠内で行動すること)も、 90 年代も末 になると議会の保守化もあり、 色あせ、 安全保障の分野でも環境の分野でも、 単独 的な色彩が濃くなる。 ブッシュ(子)政権(2001 年-)は、 当初は、 現実主義的な 対外関係を展開したが、 9.11 事件後、 アフガニスタン攻撃、 そしてイラク戦争と、 単 独主義、 軍事力の行使、 さらに非民主主義国の民主化など新しい政策を展開していく。 このようなアメリカをどのように理解したらよいのであろうか。 ここで論じられている、「アメリカの多角主義(multilateralism)」を Web of Science で検索するにはどうしたら良いでしょうか?WoS を使ってできる検索は、だいたい下記 のようなことです。 イ) キーワード検索。 ジャーナルの論文が検索されます。 ロ) 特定の著者の論文(ジャーナル)を探す。さらに、その著者の引用文献を辿っ たり、あるいは、その後に続く(Citing)論文を探す。 ハ)特定の著者の著作物(単行本やジャーナルの論文)を引用している(Citing)し ている論文を探す。 4 それでは、まずキーワード検索から始めます。キーワードは、資料に示されてい るように、multilateralism を使います。317件ヒットしました。画面左側の Refine Results で、Subject Areas を見ると International Relations (157), Political Science (69) のように、分類されていて、どの分野から見るかを選べます。 ただし、自分のお目当ての文献が沢山ヒットしているかは不明です。Author で Refine すると、どのような著者が存在するかを確認できますが、『アメリカ政治外交の アナトミー』で繰り返し引用されている J・ラギー(米国の国際政治学者)の多角主義 についての論文がヒットしていません。どのようにすればヒットするでしょうか? J・ラギー(米国の国際政治学者)の多角主義についての論文をヒットさせるに は、ラギーの名前で調べます。Author の欄に Ruggie J* と入力します。33件ヒット。 5 同姓同名もいるので、分野で、関係の無いものがヒットしていないか確認します。 J・ラギー(米国の国際政治学者)は、ウィッキペディアによると、コロンビア大学 教授を経て、現在、ハーバード大学・ケネディー行政大学院教授、と書いてあるので、 所属でも絞り込むことができます。 このリストを見ていくと、1986年、1992年、1993年に、「アメリカの多角主義 (multilateralism)」に関すると思われるものが存在し、よく引用されていることも分りま す。 6 14番目の論文を見ると、書録のほか、ラギーの引用した文献、あるいはラギー を引用している論文にリンクします。 7 それでは、『アメリカ政治外交のアナトミー』で繰り返し引用されている J・ラギー の下記の書物を引用している人を逆引きしてみましょう。実は、人文社会系のテーマ を検索する際、逆引きが一番面白い結果を見せてくれます。Cited Reference Search で Cited Author に Ruggie J* Cited Work に Multilatera* を入力して検索します。出 版年はあえて、空欄にしておきます。重版されていることが多いためです。 下記は、引用文献からの逆引きの、途中経過です。これらは、9300誌の WoS 収録タイトルのジャーナルの引用文献の欄に、指示したパターンで入力されている引 用文献が、何回引用されているかを示しています。Select All をクリックし、Finish Search をクリックすると、この単行本を引用しているジャーナルの論文が検索されま す。 8 以上のような手法で、通常のキーワード検索ではヒットしない論文を探します。 これまでのステップをまとめると、キーワードで検索するには、色々な同義語など をOR(A または B)を使って、広く検索できるようにする必要があります。ある いは、人によって言い回しが異ならない固有名詞なども使います。 キーワードが思いつかない場合は、現在ヒットしている文献の中で一番適して いると思われるものの、Author Keyword もしくは、引用文献のタイトル、引用文献 のリンクを使います。 一番良いのは、代表的な研究者名や、文献を元に、著者名検索や引用文献検 索(逆引き)を実行します。 9 ■検索事例 B) ベケットと現在演劇 (資料: 『ベケット巡礼』 堀 真理子 著 2007) サミュエルエ・ベケットの文献を検索する際、いろいろな視点が必要かと思います が、今回は、現代演劇との関連について注目してみたいと思います。Topic にベケット とだけ入力すると、2781件ヒットしました。Refine で Theater を選びます。そうすると、 演劇関連のジャーナルに記載されている論文だけに絞られます。巨匠と呼ばれるよう な文学者は、Topic 検索に著者名を入れると、それを取り上げている論文もしくは書 評がヒットします。 10 どのような著者がいるか確認するには、Refine で Author を選び、more でリストを 表示します。『ベケット巡礼』に引用文献に登場する、GONTARSKI, SE (9) COHN, R (8) などが検索されています。 ベケットの本についての書評はどうでしょうか?General Search の検索結果から Refine を使って Document Type を Book Review に限定します。 1515件ヒット しました。 11 ベケットの著作で、日本の演劇界にも大きな影響を与えた、『ゴドーを待ちなが ら』(Waiting for Godot)を検索します。 "Waiting for Godot" 143件ヒット。 日本の演劇関連で、『ゴドーを待ちながら』に影響を受けていそうな文献名など、 『ゴドーを待った日々』安堂信也演劇論集出版委員会編 2004 『ゴドーは待たれながら』いとうせいこう 1992 『ゴゴを待たせて – 東方の三聖人』黒テント上映台本 1991 『ゴドーの変身 – 小演劇劇場と現代』 扇田明彦 1985 『巷談松ヶ浦ゴドー戒』 つか こうへい 演劇シナリオ集 1987 引用文献からの逆引きはどうでしょうか?いろいろ候補があがっていますが、全 てを選択し、Finish Search をクリックします。 12 499件ヒットしました。 『ゴトーを待ちながら』を論文のタイトルにしているか、抄録中で述べている文献 の結果#2と、『ゴトーを待ちながら』を引用している文献#3を、足し合わせて、#4 を作成しました。この集合から、これらをさらに引用している文献なども分ります。 13 下記のレポートは、『ゴドーを待ちながら』を引用しているか、抄録中に述べてい る文献が、年間どれぐらい出ているのかを表にしています。左が論文数、右が引 用されている数。 14 下記のリストは、『ゴドーを待ちながら』関連の文献を、その後引用している (Citing)文献です。これらは、全て『ゴトーを待ちながら』関連の文献です。 ベケットのように、大文学者関連の文献を追いかける時、WoS は、引用文献検索 の一番の醍醐味を味あわせてくれます。Social Science Citation Index は、1956 年以降の1700誌、Art & Humanities Citation Index は、1975年以降の1100 誌の引用文献を全て入力していて、それらは全て、逆引きが可能です。 また、引用文献ですから、論文より、もっと古い文献も『引用文献』として入力され ています。 15 ■検索事例 c) 紛争地域の民主化政策 (資料: 『パックス・デモクラティア-冷戦後の世界と原則』 ラセット) 人文社会系のキーワードを検索する場合の注意事項が3つほどあります。一つ目は、 自然科学系と違って人文社会系は、年代によって言い回しが違うことが多く、また人 によってあるいは国によっても言い方が違ったり、あるいは自然科学系より抽象的に 書かれることが多いので、キーワードは一筋縄ではいかないことが多い点を考慮する 必要があります。 例えば、民主主義による武力紛争というキーワードで検索する場合、民主主義は、 Democracy と Democratization などであらわし、武力紛争を War だとか Conflict で表 現するとします。2312 件ヒットしましたが、もっと絞りこんで調べたいと思います。 # 3 2,312 Topic=((democracy or democratization) and (war or conflict*)) 著者で Refine すると、この分野「民主主義と平和論」の提唱者であるラセット先生が検 索されています。ラセット先生を詳しく見てみます。ラセット先生はどんなキーワードを 使っているのでしょうか? 16 キーワードですが、2004 年のラセット先生の文献には Democracy という言葉はありま せん。この文献がヒットしているのは、KeyWords Plus という、この著者の引用文献中 (ジャーナル)のタイトルに頻出した単語でかろうじて検索されたのみです。民主主義 という言葉は、この文献では、Post-war public health とか、もっと具体的な言葉となっ ています。 私の場合、既にYale大学のラセット先生という既知の情報があるのでキーワード検索 よりは、ラセット先生で調べた方がよさそうです。名前で検索すると 87 件ヒットしまし た。 あるいは、先生の書物から、それを引用している人という逆引きも効果的です。人文 社会系は、単行本を引用していることが多いからです。例えば、ラセット先生の鴨武 彦訳『パックス・デモクラティア-冷戦後の世界の原理』という本を引用している文献 を探しましょう。原著は、Grasping the Democratic Peace です。 17 Cited Reference Search のステップ2で得られた、ものを全て選択(Select All)し、 Finish Search をクリックすると、ラセット先生の書物を引用している各種文献が 500 件 以上ヒットします。この中には、民主主義と平和に関する論文が数多く見つかると思 います。 日本で訳本が出るぐらいの研究書は、WoS収録のジャーナルにも多く引用されてい と思われます。是非、自分の知っている本で逆引きしてみることをお勧めします。 18 19