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食生活に関する学習における実践的態度を高める学習指導の工夫

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食生活に関する学習における実践的態度を高める学習指導の工夫
食生活に関する学習における実践的態度を高める学習指導の工夫
―○教材開発及びその活用を通して○―
【研
究
者】
○○○教科教育部
指導主事
長谷中
久美
【研究指導者】
広島大学大学院教育学研究科 准教授 鈴木 明子
【研究協力員】
廿日市市立四季が丘小学校 教諭 石本 有士
廿日市市立佐伯中学校 教諭 伊豆田 智子
県 立 湯 来 南 高 等 学 校 教諭 児玉 智美
○ ○○
研究の要約
本研究は,昨年度の理論を踏まえ,小・中・高等学校の学習内容を関連付け,習得型の教育と探究型
の教育をつなぐような教材を開発し,その活用を通して,食生活に関する学習における実践的態度を高
める学習指導の工夫を行うことを目的とするものである。そこで,栄養指導及び献立作成において,各
学校段階を通して活用できる教材として,①視覚的な情報を含んでいること,②具体的な操作が容易で
あること,③児童生徒の主体的な思考を促すものであること,の三つの特長をもつ「食材さいころ」を
開発した。また,「食材さいころ」を,知識・技能の習得や食生活の工夫いずれにも活用できる教材と
して,それぞれの学習場面に応じるように位置付けた授業を計画し実施した。その結果,開発した教材
「食材さいころ」は,全ての学校段階において学習内容を関連付けながら繰り返し活用でき,児童生徒
の食生活における実践的態度を高める上で一定の効果があることが分かった。
キーワード:食生活 実践的態度 習得型 探究型 一汁三菜 食材さいころ
目 次
はじめに …………………………………………
Ⅰ 研究の目的 …………………………………
Ⅱ 研究の基本的な考え方 ……………………
Ⅲ 教材「食材さいころ」の開発………………
Ⅳ 研究協力校における授業実践と分析………
Ⅴ 研究のまとめ ………………………………
おわりに …………………………………………
91
91
93
100
102
109
109
はじめに
平成17年6月,国民が生涯にわたって健全な心身
を培い,豊かな人間性をはぐくむ食育を推進するた
めの基本理念及び施策の基本となる事項を定めるこ
とにより,施策を総合的かつ計画的に推進すること
等を目的とした食育基本法が公布された。食育基本
法前文には,食をめぐる問題として,
「栄養の偏り」,
「不規則な食事」,
「肥満や生活習慣病の増加」,
「過度
の痩身志向」,「安全上の問題」,「海外への依存の問
題」等が挙げられている。さらに,「『食』に関する
情報が社会に氾濫」していること,
「地域の多様性と
豊かな味覚や文化の香りあふれる日本の「食」が失
われる危機にある」ことを指摘している。このよう
な状況を踏まえ,国民が自ら「食」について改めて
意識を高め,自然の恩恵や「食」にかかわる人々へ
の感謝の念や理解を深めつつ,
「食」に関して信頼で
きる情報に基づく適切な判断を行う能力を身に付け
ることによって,健全な食生活を実践することが求
められるとしている。また,食育基本法の基本的施
策の一つとして,学校,保育所等における食育を推
進するよう,子どもの健全な食生活の実現と豊かな
人間形成を図るための取組みとして,
「指導体制の充
実」や「子どもへの指導内容の充実」を図ることが
求められており,従来から「食」に関する内容を指
導している小・中・高等学校の家庭科教育において
も,指導の一層の充実が求められている。(1)
Ⅰ
研究の目的
近年,健康によい食習慣の在り方等に対する関心
が高まっており,人々の健康志向に支えられ一般に
も理解しやすい形でのさまざまな情報提供がなされ
ている一方で,健康志向のゆきすぎから,例えば,
本来食事としてとるべき栄養素の摂取を,サプリメ
ントや短時間で摂取できる栄養補助食品等に頼るな
ど,きわめて矮小化された栄養概念や食概念による
ものと考えられる現象が数多く指摘されている。こ
- 91 -
のように現代の社会には,
「食」に関する不確かな情
報が氾濫しており,信頼できる情報を適切に選別し
活用することが困難な状況が見受けられる。
そのような中で,栄養バランスに優れた「日本型
食生活」が注目を浴び,平成18年3月に決定された
食育推進基本計画の中でも取り上げられている。食
生活指針の普及・定着を通して「日本型食生活」の
実践を促進することは,食料自給率の向上や各地で
古くからはぐくまれてきた貴重な食文化の継承にも
繋がることが期待されている。そもそも「日本型食
生活」とは,明治期に確立した,多量の主食である
米とみそ汁,漬け物,大衆沿岸魚の塩焼き等の副食
からなる「米食型食生活」を原型としたものであり,
これがやがて国民食として定着し,次第に変化して
いく過程のある一時期(昭和55年頃における栄養素
別摂取構成比のバランス)を指しているものである。
1日に摂取するエネルギーのうち,たんぱく質
(P),脂質(F),炭水化物(C)からそれぞれ摂
取するエネルギー比率を表すPFC構成比の推移に
ついて図1に示す。ちょうど昭和55年頃が理想的な
バランスであることが分かる。しかしその後も食生
活は変化し続け,平成17年には主食である米等の穀
類を主体とする炭水化物のエネルギー摂取の割合が
減少する一方で,脂質のエネルギー摂取の割合が増
える等,
「食」の欧米化は確実に進んでおり,メタボ
リック症候群が注目を集める状況になってきた。
「食
料・農業・農村基本計画(平成12年に閣議決定)」に
おける,平成22年度の目標値としての適正比率は,
P=13%,F=27%,C=60%と設定されている。
このことから,日本の気候風土に適した米を中心
に水産物,畜産物,野菜等多様な副食から構成され,
栄養バランスに優れているとされた「日本型食生活」
は崩壊しつつあり,食の欧米化やグローバル化,個
別化等はますます加速していくことが予測される。
また,朝食の欠食に代表されるような,朝,昼,
晩の規則的な食事をとらない,いわゆる不規則な食
事のとり方が,子どもを含めて目立つようになって
きた。図2は,平成19年4月~7月に実施された「平
成19年度広島県児童生徒の体力・運動能力調査報告
書」1)の中で「朝食は食べますか。」という設問に対
する回答のグラフである。このグラフから,小学校
第5学年については,男女ともに全国平均をわずか
ながら上回る 90.5%の児童が毎日朝食を食べてい
るが,男女ともに 0.7%の児童は毎日朝食を食べて
いないことが分かる。中学校第2学年については,
男子では 82.5%,女子では 82.8%の生徒が,毎日朝
食を食べているものの,朝食摂食率は全国平均より
もわずかに低い状況となっている。また,男子では
2.7%,女子では 3.4%の生徒が,毎日朝食を食べて
いない等,小学生よりも中学生の朝食欠食率の方が
高くなっていることが分かる。
家庭科では,小・中・高等学校を通じて,健康で
安全な食生活を実践できる児童生徒の育成を目指し,
実習などを通して,栄養・食品・調理・食品衛生な
どに関する知識と技術を身に付けさせ,実践的な態
小5 男子
小5 女子
8.8 0.7
8.8 0.7
11.9 1.3
広島
全国
89.0
90.5
90.5
中2 男子
中2 女子
14.8
昭和35年
2.7
13.8
P
13.0
12.2
C
P
11.4
13.1
C
F
76.4
C
F
61.5
広島
3.4
15.6 1.2
F
28.9
58.0
25.5
広島
全国
全国
平成17年
広島
全国
86.8
12.4 3.3
昭和55年
P
10.6 0.4
84.2
83.2
82.5
82.8全国
毎日食べる
広島
ときどき食べない
(%)
毎日食べない
(%)
「日本型食生活」
図1
図2
朝食の摂取について
※広島県教育委員会「平成19年度広島県児童生徒の体力・運
動能力調査報告書」を参考に稿者が作成
PFC構成比の推移
※内閣府「食育白書」平成18年版を参考に稿者が作成
- 92 -
実践的態度について
(1) 実践的態度とは
表1に示すように,家庭科で実践的な態度を育て
ることは,小・中・高等学校それぞれにおいての最
終的な目標として示されている。実践的態度とは,
「学習で得たものを実際の生活に活用する態度」であ
り,
「生活の各場面で課題を見いだし,その解決を図
りながら,家庭生活の充実向上を果たす態度」 2)の
ことである。本研究においては,児童生徒の食生活
上の実態を把握し,その実態から見られる課題を解
決することを実践的態度を高めることととらえた。
(2) 実践的態度を高めるための課題
岡陽子(平成19年)は,家庭科の学習と実生活と
のかかわりについて子どもはどう感じているのかに
ついて,国立教育政策研究所(平成17年)の「音楽等
質問紙調査の結果(第5・第6学年の児童各約2500
人)」から分析し,家庭科教育の指導の充実を図る上
での課題について次のように述べている。
小学生は「家庭科を学習すれば,私の普段の生活
や社会に出て役に立つ」や「自分で工夫して生活を
よりよくするために,家庭科の学習は大切だ」とい
高等学校
衣食住などに関
生活に必要な基
人間の健全な発
する実践的・体験
礎的な知識と技術
達と生活の営みを
的な活動を通し
の習得を通して,
総合的にとらえ,
て,家庭生活への
生活と技術とのか
家族・家庭の意義,
関心を高めるとと
かわりについて理
家族・家庭と社会
もに日常生活に必
解を深め,進んで
とのかかわりにつ
要な基礎的な知識
生活を工夫し創造
いて理解させると
と技能を身に付
する能力と実践的
ともに,生活に必
け,家族の一員と
な態度を育てる。
要な知識と技術を
して生活を工夫し
習得させ,男女が
ようとする実践的
協力して家庭や地
な態度を育てる。
域の生活を創造す
る能力と実践的な
徴
1
中学校
(技術・家庭科)
態度を育てる。
特
研究の基本的な考え方
小・中・高等学校の学習指導要領の目標
小学校
標
Ⅱ
表1
目
度を育てることを目標としている。家庭科の目標は,
発達段階に応じて,小学校では家族の一員としての
視点で,中学校では,自己の生活の自立を図る視点
で,高等学校では生活を創造する主体としての視点
で示されており,小学校・中学校・高等学校の各段
階に応じた実践的な態度を育てることが求められて
いる。しかし,前述した調査の朝食欠食率や児童生
徒の実態から見ると,学年が高くなるにつれて,食
生活の課題が顕著になるという現状がある。
昨年度の研究において,食生活における実践的態
度を高めるためには,小・中・高等学校の学習内容
の系統性を踏まえるとともに,習得型の教育(食生
活における基本的な知識・技能を身に付けさせるこ
と)と探究型の教育(実生活において問題を解決さ
せること)とを関連させた指導を行う必要があるこ
とが分かった。また,文献研究に基づいて,食生活
に関する指導計画を作成し,提案することができた。
そこで,今年度の研究では昨年度の理論を踏まえ,
小・中・高等学校の学習内容を関連付け,習得型の
教育と探究型の教育をつなぐような教材の開発及び
活用を通して,食生活における実践的態度を高める
ための学習指導の工夫を行うことを目的とした。
生活的な自立の
生活の自立に必
充実した生活を
基礎に必要な知識
要な基礎的な知識
営むための知識と
と技能
と技術
技術
家族の一員とし
ての視点
自己の生活の自
立を図る視点
生活を創造する
主体としての視点
※下線及び特徴は稿者による
った家庭科に対する有用感を持っている。また,家
庭での実践への意欲は学年が高くなると数値が下が
るもののやってみようとしていることが分かる。
一方,指導者は家庭での実践をさせようとしてい
るが,具体的な年間の指導計画や指導方法と結び付
いていないのではないかと考えられる。それが「家
庭科で学習したことを家庭でやってみようとしてい
る」けれど,実際には「学習した知識や技能が実生
活に十分生かされていない」という子どもたちの実
態に反映されているのではないかと述べている。(2)
また,ここでは小学校における調査結果を中心に
述べられているが,中・高等学校においても同様の
傾向が見られると考えられる。
これらのことから,食生活に関する課題において
も,生徒個々の実態の違い等を踏まえた上で,家庭
における実践的な学習活動が計画されなければなら
ない点はあるが,最終目標とされる実践的な態度を
高めるための指導計画が不十分であると考えられる。
2
実践的態度を高める学習指導の工夫
(1) 学習内容の実践化を促す要因
家庭における実践が困難であることについて,青
木幸子(2002)は,たとえ「生活事象を意識化させ,
問題解決を図るような学習過程が組織され,生活現
実の改善方針を設定することができても,実生活に
おける実践が難しいのが現状である」と述べている。3)
- 93 -
また,青木(2002)は,実践化を促す重要な要因と
して,学習者の生活実現に立脚した題材の必要性を
挙げている。このような題材を設定した上で,学習
者が興味をもって主体的・意欲的に知性の発動を活
発にし,問題解決に立ち向かう思考力や判断力,洞
察力や創造力などを養うような学習展開を図ること
が必要であることと,そうした授業展開において,
技能は,問題解決の探求のプロセスにおいて,仮説
の形成や検証に必要な能力として位置付けられると
述べている。そして,現実生活の問題解決への意欲
的なモチベーションを形成する源となることにも触
れている。さらに,技能はさまざまな学習方法を駆
使して問題解決を図る中で,解決への見通しと,実
践への糸口をひらき,意欲を駆り立てるような的確
な技能として習得されなければならないとし,問題
解決的な学習の過程における実践活動の中で,技能
は身に付ける段階から高める段階となることを示し
ている。
このことから,実践的態度を高めるためには問題
解決的な学習と技能の定着は車の両輪のごとく必要
であると考えられる。
(2) 技能について
家庭科では,習得すべき技能とは単にできること
のみに重点をおいているわけではない。高等学校学
習指導要領解説家庭編において,家庭生活事象の根
底にある原理・原則についての科学的理解,理解し
たことを実際の生活の場で実践できる技術の習得が
求められており,それは技能単体ではなく,科学的
な根拠に裏付けされた技術であると考えられる。技
能とは,その科学的な根拠となる知識を含めたもの
としてとらえることが必要である。(3)
そこで,家庭科における目標を小・中・高の関連
からみてみると,小学校学習指導要領家庭の目標に
は「日常生活に必要な基礎的な知識と技能を身に付
け」とあるが,中学校学習指導要領技術・家庭の目
標には「生活に必要な基礎的な知識と技術の習得」
となり,高等学校学習指導要領家庭では「生活に必
要な知識と技術を習得」とされている。小・中学校
段階では基礎的であった知識と技術が,高等学校で
は基礎を踏まえた上での知識と技術を習得するよう
に示されているといえる。また,小学校の目標では
「技能」であるが,中学校の目標では「技術」と示
されていることも特徴的である。小学校学習指導要
領解説家庭編では,
「自分の学習の目的に応じて身に
付いている技能を使いこなす能力を育てることを目
指す必要がある。」4)と示されており,中学校学習指
導要領解説技術・家庭編において,生活に必要な知
識と技術は,各分野の指導内容として示されている。
これらのことから,技能とは,身に付けて使いこ
なすことを目指すものであり,その技能を身に付け
た上で,技術の習得を図るものと考えられる。
(3) 技能の定着を図るために
それでは,技能を身に付けて使いこなすことがで
きる指導の工夫はどうすればよいのであろうか。
平成15年中央教育審議会答申「初等中等教育にお
ける当面の教育課程及び指導の充実・改善方策につ
いて」(4)では,
「確かな学力」をはぐくむための重要
な視点として次の3点を挙げている。
○ 知識や技能を剥落させることなく自分の身に付
いたものとすること
○ それを実生活で生きて働く力とすること
○ 思考力・判断力・表現力や学ぶ意欲などを高め
る観点から,知識や技能と生活との結び付きや,
知識や技能と思考力,判断力・表現力の相互の関
連付け,深化・総合化を図ること
次に,平成17年10月の中央教育審議会答申「新し
い時代の義務教育を創造する」(5)においては,基本
的な理念・目標についてこのように述べている。
現行の学習指導要領の学力観について,様々な議
論が提起されているが,基礎的な知識・技能の育成
(いわゆる習得型の教育)と,自ら学び自ら考える
力の育成(いわゆる探究型の教育)とは,対立的あ
るいは二者択一的にとらえるべきものではなく,こ
の両方を総合的に育成することが必要である。これ
からの社会においては,自ら考え,頭の中で総合化
して判断し,表現し,行動できる力を備えた自立し
た社会人を育成することがますます重要となる。し
たがって,基礎的な知識・技能を徹底して身に付け
させ,それを活用しながら自ら学び自ら考える力な
どの「確かな学力」を育成し,「生きる力」をはぐ
くむという基本的な考え方は,今後も引き続き重要
である。
ここに示された習得型の教育と探究型の教育を
総合的に育成すること,すなわち,実践的な態度の
育成のために必要な技能の習得は,単にそれだけを
繰り返すことでできるようになることが求められ
ているのではなく,自ら学び自ら考える力の育成,
すなわち家庭科における問題解決能力の育成を目
指した問題解決的な学習との関連を図ることが必
要であることを示していると考えられる。
また,岡陽子(平成17年)は,これら二つの答申
に示された考え方を踏まえ,中学校技術・家庭科家
- 94 -
庭分野において,基礎・基本の定着を図る学習指導
を工夫する際の課題として,次の5点を挙げている。
ア 基礎的な知識・技能を確実に定着させる
イ 知識・技能を実生活との関連でとらえ,応用可
能な能力に高める
ウ 知識・技能と,工夫し創造する能力の相互の関
連を明確にする
エ 生活を工夫しようとする能力をはぐくむ問題解
決的な学習を充実させる
オ 学んだ知識・技能を生活に生かす価値を認識し,
学習意欲の向上を図る 5)
特にウについては,資質・能力を観点別にとらえ
た場合,生活の自立を図ることや生活を工夫し創造
する能力の育成を図るための基盤となる「知識・理
解」
「技能」と,生活を見つめて課題を発見する能力
や課題解決を目指して自分なりに工夫したり創造し
たりする「工夫・創造」の能力について,内容のま
とまりごとや具体の評価規準レベルで相互の関連性
や順序性を明確にすることが,
「習得型の教育」と「探
究型の教育」のバランスを図り,総合的に力を高め
ていくことにつながることが示されている。つまり,
技能を習得する場合,実践的な場面で活用ができる
ことを視野に入れた指導計画が必要となることが示
されているのである。
これらのことから,技能の習得のための指導の工
夫として,技能面の目標を設定し,児童生徒の主体
的な学習につなげるようにすることと,
「習得型の教
育」と「探究型の教育」のバランスをとりながら実
践的な場面で応用可能な能力に高めることが必要で
あることが分かった。ここに挙げた2点から,小・
中・高等学校という児童生徒の発達段階を考えた場
合,系統性や一貫性のある指導計画が必要であると
考えられる。
3
表2
調査内容
食に関する実態把握調査
朝食摂取に
関する意識
と実態
調査対象
平日・休日
の食事の
実態
調理に関する
知識と技能の
定着状況
A小学校 第5
○
○
学年(30 人)
B中学校
○
○
(17 人)
C高等学校
○
○
(13 人)
※表中の○×は調査内容の有無を示す
×
○
○
小学校
96%
4%
中学校
94%
6%
15%
85%
高等学校
0%
20%
40%
60%
思う
図3
80%
100%
思わない
「朝食を大切だと思いますか」について
イ
平日・休日の食事の実態
図4は平日の朝食摂取の状況を,次ページの図5
は休日の朝食摂取の状況を示している。平日・休日
ともに,年齢が高くなるにつれて欠食の割合が高くな
っている。特に休日は,毎回朝食を食べると回答し
た生徒の割合が,年齢が高くなるにつれて極端に減
少していることが分かる。平日,休日の欠食の理
由としては,小・中・高等学校ともに,平日は食欲
がない,時間がないことが挙がっている。また休日
は,
「起床時間が昼なので食べない」と回答している
生徒がいた。また,アンケートの回答の他に児童生
徒が記述した献立名や絵をもとに,一汁三菜をモデ
ルに分類した結果を表3として次ページに示す。
実態調査の実施と分析から
家庭科における食生活に関する学習内容及び実践
的態度にかかわる課題を明らかにするため,平成18年
度に実態調査を行った。ほぼ同地域にある小・中・高等
学校において家庭科を学んでいる学年を対象に,表2
に示す項目について調査したものである。
(1) 調査結果
ア 朝食摂取に関する意識と実態
「朝食を大切だと思いますか」という問いに対し
ての回答を図3に示す。
年齢が高くなるにつれて朝食を大切だと思う生徒
の割合が少なくなっていることが分かる。
- 95 -
3%
小学校
86%
10%
中学校
88%
0% 12%
0%
62%
高等学校
0%
20%
15%
40%
60%
8%
80%
0%
15%
100%
毎日食べる
1週間に1~2回食べない
1週間に4~5回食べない
食べない
図4
「平日に朝食を食べていますか」について
93%
小学校
0%
65%
中学校
23%
高等学校
0%
20%
35%
46%
40%
いつも食べる
図5
7%
0%
31%
60%
時々食べる
80%
100%
食べない
「休日に朝食を食べていますか」について
この一汁三菜については,小・中・高等学校を通
して食事の整え方の方法として教科書で用いられて
いるものである。回答内容が一汁三菜を満たしてい
る場合は,
「主食+主菜+副菜+汁もの」の欄に,そ
の他の場合は,主食,主菜,副菜,汁もののいずれ
が含まれるかによって分類した。また,どの項目に
も分類することが難しいものを「その他」としてま
とめた。
「その他」の食事内容は,単に分類が難しい
というだけでなく,炭水化物が食事のほとんどを占
めていたり,食品数が極端に少なかったりなど,栄
養のバランスという面においても課題のある食事内
容であった。
表3
平日の夕食の献立 (一汁三菜を基準にして)
(人)
主食+主
菜+副菜
+汁もの
主食+
主菜+
副菜
主食+
主菜
主食+
主菜+
汁もの
その他
小学校
2
9
9
2
7
中学校
0
5
4
1
7
高等学校
2
2
2
2
5
ウ 基礎的な調理の技能の習得の実態
「みそ汁づくり実技テスト」を通して,基礎的な
調理の技能の習得の状況を調査した。みそ汁は小学
校の学習内容として米飯とともに唯一指定されてい
る題材である。小学校における学習の定着をみるこ
とを目的としたので,小学校では実技テストを実施
していない。
「みそ汁づくり実技テスト」では,4~
5人のグループを編成し,利用可能な材料を用いて
1人で3人分のみそ汁を作ることとし,制限時間は
20分間とした。今回の調査では,生徒の実態を考慮
して,あらかじめグループで扱う材料や作り方など
を協議した上で,実技テストを実施した。この実技
テストの評価の観点は,だしの取り方,実の切り方・
処理の仕方,加熱の仕方,みその分量や入れるタイ
ミングとした。また,小学校での学習が生かされて
いるかをみるため,複数の材料を用意し,利用可能
な材料として選択し調理させた。
実技テストの結果を分析した結果,中学校・高等
学校において,基礎的な知識と技能の定着は十分で
はないことが分かった。また,小学校家庭科では,
だしの材料として煮干しを使っている場合が多いと
考えられるが,多くの生徒は,粉末の風味調味料(だ
しの素)を使用していた。
(2) 実態調査から明らかになった課題
以上の調査結果から,児童生徒の食生活に関する
学習を踏まえた上で,実際の生活の中から明らかに
なった課題としては次の4点である。
① 年齢が高くなるにつれて,朝食の重要性が意識
されなくなること
② 年齢が高くなるにつれて,朝食の欠食率が高く
なること
③ 食事の整え方及び栄養面のバランスが悪いこと
④ 小学校で学習した調理に関する知識・技能が中
学校・高等学校で定着していないこと
4
課題解決のための指導の工夫
実態調査から明らかになった四つの課題を,「食
事の整え方」と「習得型の教育と探究型の教育のバ
ランス」という2点にまとめ,その解決のための指
導の工夫を検討した。
(1) 食事の整え方について
実態調査の中で,特に平日・休日の食事の実態を
みると,栄養のバランスが取れていない実態が把握
できた。また,児童生徒の実際の食事内容を栄養バ
ランスからみたとき,学年進行に伴ってバランスが
よくなっているわけではない。つまり,学習した内
容が実践的態度に結び付いていないのではないかと
考えられる。
では,小・中・高等学校を通して,バランスのよ
い食事のとり方はどのように指導するようになって
いるのだろうか。小・中・高等学校のバランスのよ
い食事のとり方に関する指導内容を各校種の学習指
導要領解説を参考にまとめたものが表4である。
バランスのよい食事のとり方をみると,小学校で
は多くの種類の食品の摂取を目安とし,体内でのお
もなはたらきによって三つのグループに分けること
を,中学校では,6つの基礎食品群(以下,
「6つの
食品群」と記述する。)とその食品群別摂取量の目安
を利用して,重量をもとに設定されたポイント数を
充足させることを,高等学校では,四つの食品群と
- 96 -
表4
小・中・高等学校におけるバランスのよい食事のと
り方に関する指導内容の系統性
栄養素
バランス
のよい食
事のとり
方
献立作成
小学校
中学校
高等学校
栄養的な特徴,体
内でのはたらきの
三つのグループ
栄養素の定義,五
大栄養素の理解
なるべく多くの種
類の食品を摂取す
ることが大切
中学生に必要な栄
養量を満たすよう
食品群別摂取量の
目安を利用
自分の1食分
中学生の1日分
栄養素の種類と機
能,ライフステー
ジごとの栄養的な
特徴
日常の食事と関連
付けて栄養素等摂
取の基準や食品群
別摂取量の目安を
利用
自分や家族の栄養
や嗜好,調理の能
率や経済性を考慮
した適切な1日分
そこで,昨年度の研究においては,小・中・高等
学校の教科書で献立作成の方法として取り扱われて
いる一汁三菜をモデルとし,食事を整えさせること
を検討した。食事を整えるための視覚的なイメージ
を持つことができるように一汁三菜に当てはめて献
立作成の概略をつかみ,各校種の食品分類法を用い
て分析・検討することが実践化につながるのではな
いかと考えたのである。小・中・高等学校の教科書
における一汁三菜の取り上げ方の中から中学校にお
ける記述例を図6に示す。
※小・中・高等学校各学習指導要領解説を参考に稿者が作成
調理例
その食品群別摂取量の目安を利用して,食品の重量
の過不足を補うことが求められている。
中川眸他(1999)は,食事の栄養のバランスに関
する指導内容が小・中・高で同じではないことに対
して,次のような問題点を挙げている。
現在の学校教育において多くの場合,小学校では
3色食品群(6)が,中学校では6つの食品群(7)が,高
等学校では四群点数法 (8) が多く用いられており,
小・中・高等学校において使用されている食品群の
種類に一貫性はみられない。
人は青年期後半から壮年期,老年期にかけて加齢
とともに多様な疾病,主として生活習慣病に見舞わ
れる可能性がある。特にこれらの疾病にかからない
ように,すなわち,予防という見地から常に栄養に
関する知識を求め,学習していかなければならない
が,そのためには,小・中・高等学校で能率よく一
生涯の食生活の基礎力を身に付け,学校教育終了後
も自分の食生活を合理的に正しく送っていけるよう
にすることが必要である。したがって,実践の基礎
知識,すなわち食品摂取のための食品分類法は一貫
している方が効果的であり,それが学校教育におい
て実践されるならば,生徒は卒業後のいかなるライ
フステージにも対応していける力をもつことができ
ると考えると述べている。(9)
しかし,この中川眸他の論のように,栄養バラン
スを学ぶために,小学校から高等学校と同様の食品
分類法を利用するだけでは,指導の一貫性という点
において難しいと考えられる。食品摂取のための食
品分類法は児童生徒の発達段階を考慮したものであ
り,小学校において高等学校と同様の詳細な食品分
類法を用いることは難しいと考えられる。ここでの
課題は,詳細にバランスを取ることができるように
指導されている高等学校段階においても,バランス
の取れた食事の取り方に課題が見られる点である。
1食分の献立づくりの手順例
①主なおかず ② 主 食 を 決
を決める
める
③その他のお
かずを決める
○ 魚・肉・卵・
豆・豆製品を
使うことが多
い。
○ つけ合わせ
として,他の
食品群の食品
が入る
焼き肉
○ 穀類(米
飯,パン,
めん類)か
ら選ぶ。
(①
②の順序は
逆でもよ
い。
)
○①と②で足
りないものを
補ったり,味
や量のバラン
スを考えたり
して決める。
米飯
野菜サラダ
焼き魚
パン
野菜いため
④汁物(飲
み物)を決
める
すまし汁
牛乳
スープ
食事作りの計画を献立という。献立は,食品群別摂取量のめやすの概量
をもとに,食品の組み合わせを考えて立てることが大切である。
1食分の献立は,上記の表の手順で立てる。また,1回の食事で1日の食
品群摂取量のめやすの1/3量をとるようにする。しかし,1回の食事では
十分な量をとることができない場合もあるので,1日のうちで補うように献
立を考える。食品を食品群で分け,点検マークを塗りつぶして確認する。
図6
中学校技術・家庭科で扱われている一汁三菜例
※東京書籍「新しい技術・家庭
家庭分野」を参考に稿者が作成
ここで,一汁三菜を構成している主食,主菜,副
菜について説明をする。主食とは,食事の中心的な
位置を占め,他の料理のリード役として重要な料理
で,米や小麦などの穀物を含むものである。主菜と
は食事の中心的な位置を占め,1食の総栄養素量の
決定に大きな影響を及ぼす料理で,魚介,肉,卵,
大豆・大豆製品,乳・乳製品などを含むものである。
また,副菜とは,主食・主菜の栄養面を補強し,味
や彩りの多様さや季節感を生み出す料理であり,野
菜,いも,きのこ,海草などを含むものである。(10)
しかし,小・中・高等学校において一汁三菜のモ
デルを扱うだけでは,栄養バランスのとれた食事を
整えるために十分だとはいえない。各学校段階の学
習指導要領に示されているバランスのよい食事のと
り方に係る指導事項を用いて,発達段階に応じた指
導を行うように指導計画を立てることが必要である
と考える。
小・中・高等学校における具体的な学習の流れは
次のとおりである。1食分の食事を,一汁三菜の枠
- 97 -
に当てはめてみることで大まかな把握をして,課題
の有無の確認をすることを共通に行う。その後,課
題があると考えられる場合は,小学校では,なるべ
く多くの種類の食品を摂取し,栄養的な特徴や体内
でのおもなはたらきによって,食品を三つのグルー
プに分類できるようにする。中学校では,食品を「6
つの食品群」に分類し,不足している食品群を中心
に献立の見直しを行い,栄養素を補うようにする。
高等学校では,食べる対象者の性別,年齢,身体活
動レベルなどを考慮した栄養素等摂取の基準や食品
群別摂取量の目安を利用して,食品群中の過不足を
整理し,過不足のある食品群中の食品を用いている
料理を中心に献立の見直しを行うようにする。これに
より,一汁三菜をモデルにした食事の栄養バランス
を確認するという小・中・高等学校を通した一貫性
と,発達段階を考慮して示された学習指導要領の指
導事項を用いて,具体的な改善策を検討するという
系統性を図ることができると考えられる。
(2) 習得型の教育と探究型の教育のバランス
家庭科教育における小・中・高等学校の習得型の
教育と探究型の教育はどのようなものが考えられる
であろうか。
まず,習得型の教育は,特に身に付けなければな
らない技能の習得のための学習である。特に身に付
けなければならない技能は,実習などの実践的・体
験的な学習を通して繰り返し指導する技能と考えら
れる。表5に示されているような,繰り返し学習内
容として示されている技能は,その技能のみを取り
出して集中的に学ぶことでは技能を身に付けるこ
とにはならない。小学校学習指導要領解説家庭編で
は,「基礎的な技能は,単に方法だけを取り出して
表5
指導事項(技能に係る内容)
小学校
扱う
食材
中学校
高等学校
中学生に多く必要と
米,野菜,いも類, されるたんぱく質,
卵,みそ
無機質,ビタミンの 日常用いられている主
(生の魚,肉は扱 主 な 供 給 源 で あ る な食品
わない)
魚,肉,野菜,卵,
いも類
米飯,みそ汁
調理
方法
調理上の性質を生かし
た調理法と調理の基礎
洗う,切る,ゆで
洗う,切る,煮る, 技術を身に付ける
る,いためる,味
焼く,炒める
様式,調理法,食品が
をつける
重ならないように題材
を設定する
調味
計量
表6
習得型の教育と探究型の教育のバランス
習得型
指定
調理
食塩,みそ,しょう
ゆ,さとう,食酢,
塩味による味付け
油脂などを用いて,
を中心に扱う
調理の目的に合った
調味ができる
材料や調味料の
計量器の適切な使用
正しい計量
訓練しても実生活に生かすことのできるものとは
なりにくい。日常生活に関連のある学習場面におい
て,児童自身が主体的に技能を発揮し,自分の考え
を働かせながら工夫する経験を重ねることで身に
付いていく」6)と述べられている。小学校と中学校,
または小・中・高等学校を通して技能の習得を図る
場合,
「場面に応じて基礎的な技能を使いこなす」7)
ためには,ねらいの新しさと応用の場面を意識して
指導計画を立てることが必要となる。限られた指導
時間の中で,異なった場面において技能を使いこな
す到達目標を複数回設定し,応用可能となる技能を
身に付けなければならない。つまり,使いこなすこ
とができるようなステップを考慮した繰り返し学
習が必要であると考えられる。
次に,探究型の教育として代表されるものは,問
題解決的な学習である。小・中・高等学校の学習指
導要領解説に示されている問題解決的な学習の指導
に係るポイントとバランスについて表6に整理する。
小学校では実践的・体験的な活動により,実感を伴
った具体的な学習を展開し,学び方を身に付けるこ
とを,中学校では生活の自立に必要な基礎的な知識と
技術を習得し,問題解決能力をもつことが必要であ
り,知識や技術が生徒自らの生活に生かされること
が重視されている。また,高等学校では科学的な根
拠に基づいた実践力を身に付けることが重要であり,
生活の充実・向上を目指した問題解決能力の育成が
目指されている。自ら学び自ら考える力は,このよ
うな問題解決的な学習を一層充実させることにより
育成されるといえる。したがって,各学校段階にお
いて習得型の教育と探究型の教育のバランスを図る
ことは当然であるが,小学校段階ではその後の学習
の基盤となることを踏まえ,必然的に基礎的な技能
を身に付ける習得型の教育が主になると考えられる。
しかし,身に付けた技能を様々な場面で活用するた
めの問題解決の場面を設定することで,技能を使い
小学校
探究型
問題解決的な学習における
指導のポイント
実践的・体験的な活動により,実感
を伴った具体的な学習を展開する
中学校
生活の自立に必要な衣食住に関する
基礎的な知識と技術を習得すること
が必要
学習した知識や技術が生徒自らの生
活に生かされることを重視する
高等学校
小学校・中学校における学習の上に
立ち,生活文化の伝承と創造の視点
を踏まえて,科学的な根拠に基づい
た実践力を身に付けることが重要で
ある
※小・中・高等学校各学習指導要領解説を参考に稿者が作成
※小・中・高等学校各学習指導要領解説を参考に稿者が作成
- 98 -
こなすおもしろさや活用する自信をもつことができ,
その自信が生活に生かそうとする意欲を高め,さら
に技能が身に付くことにも留意する必要がある。
中学校段階では,習得型の教育と探究型の教育の
それぞれに重きを置くように配慮されなければなら
ない。小学校で取り上げた技能を新しい活用場面で
用いた後に,家庭で工夫をして実践するなどの習得
型から探究型へという学習の流れと,自分の食生活
における課題を解決するために,授業で試し作りを
するなどの探究型から習得型へという学習の流れが
相互にバランスよく計画される必要があると考えら
れる。また,高等学校段階では,新しい様式や調理
材料が指導内容となる場合は,必然的に習得型の教
育が計画されることになるが,発達段階を考慮すれ
ば,小・中学校段階以上に探究型の教育が計画され
なければならないと考えられる。
5
小・中・高等学校の関連を図った指導計画
(1) 指導計画作成の視点
以上のことを踏まえて,小・中・高等学校の関連
を図った指導計画作成の視点を次の4点とした。
○ 習得型の教育と探究型の教育の学年進行に伴
うバランス
○ 効果的な繰り返し学習を取り入れ,児童生徒自
らが本時のめあてを設定(習得型の教育)
○ 学習内容を家庭における実践に転移させやす
い指導内容の工夫(探究型の教育)
○ 小・中・高一貫した食生活改善のためのモデル
の活用(一汁三菜をもとに)
次に小・中・高等学校における食生活に関する学
習内容の指導計画作成の意図を示す。
(2) 指導計画作成の意図
ア 小学校指導計画
小学校第5学年で初めて履修する家庭科は,小学
校・中学校・高等学校の家庭科学習の始まりであり,
教科としての食生活に関する学習の始まりでもある。
そこで,児童実態を踏まえた上で,食生活への関心
を高め,食生活に必要な基礎的な知識と技能を身に
付けさせることは,食事に関する基本的生活習慣の
定着とともに中学校・高等学校での学習につなげて
いくためにも大変重要であると考える。また,児童
個々の発達段階を考慮し,家庭との連携を図りなが
ら保護者等の協力を得て,家庭での実践に結び付け
られるような学習活動を計画することと,家庭での
実践の繰り返しによる基礎的な技能の定着を図るこ
とが必要である。
食生活に関する指導計画作成にあたっては,児童
一人一人に家族の一員として家庭生活への関心をも
たせること,実践前に調理作業に関する安全教育を
徹底し基礎的な技能の定着を図ること,コンピュー
タや掲示物等の活用により調理作業や主食・主菜・
副菜の組み合わせ,児童個々の食生活の課題等を視
覚的にとらえさせること,家庭での実践と結び付け
られるような実感を伴った具体的な学習を展開する
ことに留意した。
イ 中学校指導計画
家庭分野の目標である生活の自立を目指すために
は,学んだことが生徒の生活の中で生きて働く力に
なるような学習展開の工夫が必要となる。いわゆる,
家庭生活をよりよく豊かにしようとする「能力」と
「態度」を育てるということにつながる。
「能力」を育てるためには,習得型の教育を基に
基礎・基本の定着を図ることが大切だと考える。ま
た,「態度」を育てるためには,「身に付けた能力
および技能を使える知恵」と「情報収集をする技術」
を獲得する必要がある。そのために,探究型の教育
として問題解決的な学習を取り入れる必要があると
考えた。
そこで,習得型の教育を基に基礎・基本を定着さ
せる点については,まず,小学校との関連を図り,
みそ汁作りを調理の基礎の学習として取り入れる。
その後,みそ汁の応用として「さつま汁」を扱うこ
とで繰り返しの学習とする。また一汁三菜は,体の
成長や健康な生活に必要な要素を多く含んでいるた
め,指導計画の中でも献立の学習や調理実習等にお
いて繰り返し一汁三菜に触れながら,栄養のバランス
について考えさせることにした。
次に,探究型の教育として,栄養素の学習に調べ
学習を取り入れ,栄養素のキャラクターを作ること
により,自分たちの食生活に栄養素がどのように役
立っているのかを考えさせる。また, 栄養素の学習
や,献立学習の基礎を終えた後の,「栄養満点の朝
食を考えよう」という題材において問題解決的な学
習を取り入れ,それまでの学習を総合的に活用でき
るように工夫することにした。
ウ 高等学校指導計画
高等学校家庭科では,小,中学校での学習の上に
立ち,自分の生活を主体的に創る力を身に付けるこ
とが重要である。そのためには,知識・理解の習得
だけでなく,学習で得たものを実際の生活に活用し,
実践できるように,実践的・体験的な学習を中心と
することが必要である。生徒の食分野への関心は他
- 99 -
の分野に比べて高い。しかし,“食生活診断”等の
結果をみると“改善が必要なタイプ”の生徒が最も
多く,朝食の欠食・無理なダイエット・食事のアン
バランスなどの問題を抱えている。
指導計画作成にあたって,高等学校では中学校に
おける生活の自立を目指した指導を踏まえて生活の
充実向上を目指した問題解決能力を育成することを
重視し,探究型の教育を中心に展開することに留意
した。また,指導計画の中で設定した題材では,自
分の食生活をよりよいものにしていくために,各自
の課題を見付け,解決方法を考えさせ,実践できる
力を身に付けさせることをねらいとした。
以上の視点や作成の意図に基づき,小・中・高等
学校の関連を図った食生活に関する指導計画を作成
した。指導計画については,紙面の都合上割愛する。
食生活に関する指導計画の全体及び詳細については,
広島県立教育センター(平成19年)研究紀要第34号
を参照されたい。
次に,これらの基本的な考え方と作成した指導計
画に基づいて,小・中・高等学校を通して活用でき,
知識・技能の習得や食生活の工夫いずれにも活用で
きるような教材の開発を具体的に進めることにした。
Ⅲ
教材「食材さいころ」の開発
1
教材について
(1) 教材とは
辰野千尋(2005)は,「教材とは,学習指導上の素
材を指す。教科書をはじめ,
『教材』と呼称されるも
のは多種多様であり,一定の定義はない。何が教材
になるかは,教授・学習上の機能から決められるこ
とが多い。」8)と述べている。教材と教具は区別され
る場合もあるが,その境界は曖昧である。教授・学
習上の機能においては,教具も教材と同様に意義付
けられることから,本研究では,両者を包括する概
念として,「教材」の語を使用することにする。
(2) 教材の選択・作成にあたって
辰野(2005)は,教材は教師と学習者をつなぐ媒体
であることを考慮し,教材を選択・作成するにあた
っては,①教科内容と教材の関係,②学習者と教材
の関係,の二つの視点をもつことが重要であると述
べている。つまり,教科内容(知識・技能)と教材
が表現・伝達する情報や示唆する認知活動・行動と
の対応関係を明確化することにより,同一の教科内
容に対する教材の選択肢の幅が広がったり,教材の
おもしろさや問題提起性などから出発して授業展開
を構想したりすることもできるとしている。また,
平成19年11月に示された「中央教育審議会初等中等
教育分科会教育課程部会におけるこれまでの審議の
まとめ」の中で,学力の重要な要素の一つとして明
確に位置付けられたことから,特に学習意欲(動機
付け)の面にも配慮することが大切であると考える。
この点について,鈴木克明(2002)は,
「ARCSモ
デル」が参考になると述べている。このモデルは,
米国の教育工学者であるジョン・M・ケラーが,ど
うしたら「やる気」を引き出すことができるのかを
考える枠組みとしてまとめたものである。ケラーは
学習意欲を高める手立てを四つの側面からチェッ
クし,それに応じた作戦を立てるのが効果的である
としている。ARCSモデルの4要因とは,①注意
( Attention ), ② 関 連 性 ( Relevance ), ③ 自 信
(Confidence),④満足感(Satisfaction)の四つ
であり,それらの頭文字から「ARCSモデル(ア
ークスモデル)」と呼んでいる。鈴木(2002)は,こ
のモデルに従って四つの側面から学習意欲を眺めて
みると,
「学びへの意欲を育てるといっても,いろい
ろな観点や方法があるとし,それぞれの段階で,児
童生徒が①「おもしろそうだな」②「やりがいがあ
りそうだな」③「やればできそうだな」④「やって
よかったな」と実感できるようなヒントを挙げ,教
材をより魅力的にするための工夫を具体的に検討
することの大切さを述べている。(11)
本研究において,具体的に教材の検討をするため
の視点として,これらを参考とすることにした。
2
教材「食材さいころ」について
(1) 教材の開発意図
栄養指導や献立作成について学習する時には,た
とえ実物がなくても,実感をもって学習できる教材
は大切である。実感をもつためには,ただ見るだけ
よりも実際に手に取って触るなどの操作ができるも
のであれば,より活動に集中でき,試行錯誤をしな
がら自分なりに考えを深め,解決に取り組めるので
はないかと考える。
家庭科教材としての要件を備え,基礎的な知識・
技能の定着に効果的であること,子どもが自ら課題
を見いだし,探究することのできること,子どもの
興味・関心が高まり,持続性があること,子どもの
発想を生かせること,子どもが抵抗なく操作し,活
用しやすいこと,意外性があることという具体的な
意図をもって教材「食材さいころ」の開発を行った。
(2) 栄養指導・献立作成の指導について
- 100 -
これまでの栄養指導・献立作成の問題点としては
各学校段階で扱う食品の分類法が違うことや,高校
生にとっても実感をもちにくい内容であることがあ
る。日本家庭科教育学会が2007年6月にまとめた「高
等学校家庭科男女必修の成果と課題―高校生・教
師・社会人調査の結果―」
(全国調査:高校生の有効
(12)
回答数 1,863 人) によると,高校生が家庭科の授
業で「実施した」と回答した実験・実習等の項目は
次のとおりであった。上位7位を抜粋し図7に示す。
「家庭科の授業で実施した実験・実習等」
96.5
調理実習
69.5
ビデオ・DVD視聴
69
被服製作
47.1
食事点検・献立作成
調べ学習
33.9
幼稚園・保育園訪問
30.9
ホームプロジェクト
27.8
0
図7
(%)
20
40
60
80
100
家庭科の授業で実施した実験・実習等の項目
※資料より上位7項目のみを抜粋して稿者が作成
ほとんどの生徒が,
「実施した」内容のトップに「調
理実習」を挙げており,はっきりと学習した記憶を
もっていることが分かる。しかし,「食事点検・献立
作成」の項目について「実施した」と回答した生徒
は,半数以下の 47.1%にとどまった。また,各実験
・実習等を「実施した」とする者のうち,その学習
内容が生活の中で「役立った」と回答した生徒の割
合が最も大きい項目は,同じく「調理実習」であっ
たが,
「食事点検・献立作成」の順位は,6番目とな
っている。
これらの結果は高校生の回答によるものである
ため,同調査の中で実施されている家庭科教員を対
象とした指導方法の実態の結果を合わせて考察した。
その結果,栄養指導・献立作成の指導については,
8割以上の学校で指導されているものの,指導した
教師の約6割が「実施したが効果を認めにくい」と
感じており,約半数の生徒が学習した記憶があるも
のの,実生活においての役立ち感が低い状況である
ことが分かった。
従来の指導では,栄養素の学習から食品,料理へ,
そして献立作成という学習の流れが一般的である。
目に見えない栄養素の働きについて理解することの
難しさ,あるいは学校段階によって変わる食品の分
類法等から,
「よく分からない難しい学習内容」とな
りがちで,記憶に残りにくいのではないだろうか。
「食」の欧米化が言われるようなって久しいが,日
本型の食と欧米型の食はそもそも献立の構造が違っ
ている。日本型の食は一汁三菜に代表されるように
主食のご飯,主菜の肉・魚,副菜の野菜,汁物のセ
ットからなっている。このうちどれが欠けてもしっ
くりこないため,このセットこそがひとまとまりの
食事として完結した印象を与えるものになっている。
これに対して欧米型の食は,アラカルト方式といえ
る構造をもち,料理同士に主従の別はなく,種類の
違う食物をまんべんなく取り合わせるバランスが大
切である。
一汁三菜は栄養学的にみても「練り上げられた」
食事法といえ,主食の位置にパンや麺類がくること
があっても,健全な食事が保証されるという仕組み
をもつ。しかし近年,無秩序なアラカルト方式の採
用によって食生活が破綻している人が増えつつある。
これからは栄養や献立についても,児童生徒の思考
の流れに自然に沿う形での発想の転換が必要だと考
える。すなわち,献立から食事の全体像をつかみ,
献立の構成から各料理へ,さらに一つ一つの食品と
食品群へ,そしてその食品に多く含まれている栄養
素へという流れである。このようなプロセスを通し
て,食事の全体量と内容を把握することの意義は大
きい。
昨年度の研究において,小・中・高等学校共通で
一汁三菜をモデルとし,食事の栄養バランスを確認
したことは,食事量の全体を把握させることに効果
があった。この一汁三菜のモデルを,日常の食事点
検や献立作成の力へと結び付けるためには,生徒の
主体的な思考を促し学習を促進する具体的な手段と
して有効な教材が必要であると考えた。
そこで,指導計画作成の意図で述べた点に留意し
ながら,栄養指導や献立作成におけるねらいを達成
するための具体的手段として,①視覚的な情報を含
んでいること,②具体的な操作が容易であること,
③児童生徒の主体的な思考を促すものであること,
の三つの特長をもつ「食材さいころ」を考案した。
(3) 「食材さいころ」とは
「食材さいころ」とは,立方体の6面を利用して,
それぞれ食材に関する何らかの情報を盛り込んだも
のである。その構成と表示例を次ページの図8に示
す。「食材さいころ」には,例のように,食材1本
分の重量,食品群を示す色,1ポイント分の重量,
切り方,調理例などの情報を表示することが考えら
れる。このようなA4版の写真用紙1枚分の展開図
- 101 -
いる弁当に注目して検討する場面や家族の弁当の
献立作成を考える場面で活用する。
これらのことを踏まえて,各学校段階における具
体的な授業計画を立て,授業実践を行った。
6
1 2 3 4
5
重量
切り方
切り方
図8
1 ポイント
の重量
食品群の色
調理例
「食材さいころ」の構成と表示例
研究協力校における授業実践と分析
1
小学校の実践
< 小学校第5学年 >
(1) 題材について
【題材名】「料理って楽しいね!おいしいね!」
【題材の目標】栄養的にバランスのとれた調和のよ
い食事を楽しくとることが大切であることを理解さ
せるとともに,簡単な調理を通して,調理操作など
の基礎的な技能を身に付けさせ,日常生活で活用で
きるようにする。
【題材の評価規準】
○ 日常の食事に関心をもち,調和のよい食事のと
り方をしようとしている。
(家庭生活への関心・意欲・態度)
○ 日常よく使用される食品を用いた簡単な調理に
ついて考えたり,自分なりに工夫したりしている。
(生活を創意工夫する能力)
○ 日常よく使用される食品を用いた簡単な調理に
関する基礎的な技能を身に付けている。
(生活の技能)
○ 調和のよい日常の食事のとり方について理解し
ている。(家庭生活についての知識・理解)
【題材の指導計画】全11時間
次
時
2
第1次
学
習
内
容
1 1 日の食事を調べよう
・1日分の食の振り返りと自分の食生活の課題
1
1
)
122
第2次 7(時間
2 簡単な調理をしよう
○調理の計画を立てよう
○ゆでたりいためたりしよう(本時)
・たまごや野菜のいろいろな調理方法を知る。
・手順を考えて調理計画を立てる。
○調理実習:ゆでたまご・生野菜のサラダ・ 和風ソース
○調理実習:いりたまご・野菜いため
3 なぜ食べるのか考えよう
2
第3次
を組み立てると,出来上がりの一辺が約6.5㎝の手の
平サイズのさいころができるようにした。
(4) 小・中・高等学校を通して活用できる栄養指
導及び献立作成に役立つ教材開発
教材の活用を通して,その効果の確認と改善のた
めの情報収集をすることは,教材の品質を保証する
上できわめて重要である。評価の主な観点は,教科
内容との整合性,学習者との整合性,学習効果の3
点である。より実態に即した教材を開発する上で,
試作・活用して改善を繰り返すことは大切な過程で
あると考える。正しく指導目標に合致しているか,
指導計画の中に位置付けられているか,子どもの活
動の中で生きているかどうかを確認していくことが
必要である。
このような観点で「食材さいころ」を検討した後,
小・中・高等学校それぞれの学習場面に応じるよう
に活用方法を考え,指導計画に位置付けた。「食材
さいころ」を活用する学習場面は,次のとおりであ
る。すなわち,小学校第5学年では,たまごや野菜
の六つの調理方法を理解する場面や野菜の加熱に
よる変化を考える場面で活用し,第6学年では,栄
養素のはたらきによる食品の分類を理解する場面
や自分の食事を振り返りバランスを考える場面で
活用する。中学校では,一汁三菜をモデルとして食
事の整え方を考える場面や自分が製作した食材さ
いころを家庭に持ち帰り,実際に使用する場面で活
用する。高等学校では,高校生が毎日持参し食べて
Ⅳ
・家族や友達と食事をする楽しさ
・学習を振り返り,これからの生活に生かす
(2) 授業の概要
【本時の目標】たまごや野菜のいろいろな調理方法
を理解する。
【本時の評価規準】
○ たまごや野菜のいろいろな調理方法を理解して
いる。(家庭生活についての知識・理解)
- 102 -
【本時の展開】第2次2時間目
学
習
活
動
指導上の留意事項
◆「努力を要する」と判断さ
れる児童への指導の手立て
1. 本 時 の 学 習 課 題 を 確 認 す ・本時の学習課題を提示する。
る。
導
調理の仕方について考えよう
入
2.知っている調理の仕方を ・特に,ゆでる,炒める,煮
発表する。(ゆでる,炒める, る,揚げる,焼くについて,
煮る,揚げる,焼く,生の 調理方法を確認する。
まま,炊く,蒸す)
・食材さいころの振り方とル
3.食材さいころ(調理のし
-ルを説明する。
かた・たまご料理・野菜料
理)を使って,たまごと野
菜の調理方法の違いを知る。
展
開
①2人1組になり,調理の仕方さいころを振る順番,たまご料理さい
ころと野菜料理さいころの分担を決める。
②交互に調理の仕方さいころを振り,出た調理方法に対応するたま
ご料理と野菜料理の面を示し合い,確認する。
③卵料理さいころと野菜料理さいころを交換したり,何度か繰り返し
たりしながら,調理方法の違いへの理解を深める。
ま と
め
4.食材さいころ(加熱による
変化)を使って,野菜の加
熱による変化(生のまま,
ゆでた場合,炒めた場合)
について考える。
・まず,ペアの2人で考えさ
せ,全体に意見を出させるよ
うにする。
◆色やかさの変化に着目させ
る。
5.学習内容を振り返り,学習
のまとめをする。
・ワークシートに記入させ,
学習のまとめと次時の予告
をする。
(3) 使用した食材さいころについて
教科書には,たまごと野菜のいろいろな調理のし
かたとして,6通りの調理方法(生のまま,ゆでる,
いためる,にる,焼く,あげる)が扱われており,
たまご料理も野菜料理もこれに対応している。また,
加熱による野菜の変化についても,キャベツともや
しでそれぞれ3種類(生の場合,ゆでた場合,いた
めた場合)が掲載されており,さいころの立体的な
特徴である6面をうまく生かして構成し,活用でき
た。具体的には,ことばで書かれた調理のしかたさ
いころと,卵料理と野菜料理のさいころ3個を製作
し,活用した。小学校第5学年で使用した「調理の
しかたさいころ」の構成等を図9に示す。
この「調理のしかたさいころ」は,もう一つの「加
熱による変化さいころ」と併せて活用もできる。
(4) 学習指導の工夫について
① 食材さいころの写真や絵に用いた食材は,教科
書に掲載されているものを基本とし,日常的にな
じみ深いものとした。また,お互いに相談や教科
書での確認がしやすいように隣の児童とのペアで
活動を行うようにした。
② 動機付けに留意して,さいころのもつ偶然性や
おもしろさを十分に味わいながら学習を進めるこ
とで,調理のしかたによる違いへの理解を深めな
がら,「加熱すると野菜はどのように変化するか」
に気付かせるようにした。
③ ゆでたりいためたりする調理実習の直前に実施
することにより,学習した基本的な知識・技能に
ついて,実践的・体験的に確認できるようにした。
(5) 授業実践の分析
○ 食材さいころに用いた食材を使用教科書に掲載
されている食品を基本にし,ある程度限定された
ものにすることにより,お互いに確認する時も教
科書から探しやすい等,いろいろな調理のしかた
と食品とを直接結び付けることが容易になった。
○ 食材さいころの振り方とルールについて,教師
があまり細かい指示をせずに食材さいころを提
示し,児童の発想を促すようにしたところ,ペア
の2人で話し合ってルールを決めたり,分担を考
えたりする場面が見られた。このように食材さい
ころの活用方法を自分達で考えることにより,楽
しみながら意欲的に学習に取り組んでいた。
○ 児童は「加熱による変化さいころ」にも興味をも
ち,さいころの面を変えながら,キャベツともや
しについて,「加熱すると野菜はどのように変化
するか(色,かたさ,かさ)。」を考えた。気付い
たことの発表では,「キャベツをゆでたら,生の
時より量が減ったように見える」,
「もやしをいた
めると,色が濃くなっている」など,いずれも生
のままと比べた自分なりの表現をしていた。
○ 授業後のアンケート結果を図10に示す。
0%
・調理のしかたさいころ
・卵料理のさいころ
20%
40%
1 さいころを使った
学習は楽しい。
60%
73
80%
20
100%
7
・野菜料理のさいころ
2 さいころを使った
学習はわかりやすい。
65
31
4
3 たまごや野菜の調理
の仕方がわかった。
63
35
2
とてもそう
図9
第5学年で使用した食材さいころ
図 10
- 103 -
そう
あまりそうではない
そうではない
授業後のアンケート結果(第5学年)
まとめ
内
開
習
容
1どんな食べ物を食べているのかな
2 2
1
2
第2次 8(時間
1
)
2ごはんとみそ汁をつくろう
○調理実習:おにぎり
・計量,洗米,吸水,加熱,蒸らしの調理作業をする。
・米の状態の変化を観察し,発表する。
・ご飯とみそ汁の調理計画を立てる。
○調理実習:ごはん,みそ汁
・調理計画に沿って,ご飯とみそ汁の調理をする。
・調理実習を振り返り,米を使った料理やみそ汁を家
庭で実践する計画を立てる。
2
3おかずの必要性を考えよう(本時)
・食品は,体内でのおもなはたらきによって三つのグ
ループに分けられることを知る。
・1食分の食事に含まれる食品を書き出し,栄養的な
バランスを調べる。
・学習を振り返り,これからの生活に生かすことを考え
る。
指導上の留意事項
◆「努力を要する」と判断され
る児童への指導の手だて
1.本時の学習課題を確認す ・本時の学習課題を提示する。
る。
食品のグループ分けをしよう
学
展
学
1
第1次
第
3
次
時
【本時の展開】(第3次1時間目)
入
次
(2) 授業の概要
【本時の目標】主食・汁物・おかずなどを組み合わ
せることにより,より多くの種類の食品を食べるこ
とができるようになることを理解する。また,栄養
的な特徴による食品のグループ分けを理解する。
【本時の評価規準】
○ 主食・汁物・おかずなどを組み合わせることに
より,多くの種類の食品を食べることができるよ
うになること及び栄養的な特徴による食品のグル
ープ分けを理解している。
(家庭生活についての知
識・理解)
導
アンケートは,3クラス在籍児童89名のうち授
業当日出席した81名が対象となっている。
全ての項目において「とてもそう思う」と「そ
う思う」を合わせた肯定的な評価が93%を超え,
ほぼ全員の児童が食材さいころを使った授業を
「楽しい」,と感じており,学習内容について「分
かりやすい」,
「分かった」ととらえている。また,
学習内容の確認においても,約90%の児童が6通
りすべての調理のしかたについて正しく解答し
ていたことから,食材さいころの活用が児童の学
習意欲を高め,調理のしかたに対する基礎的な知
識の定着に有効であったと考えられる。
< 小学校第6学年 >
(1) 題材について
【題材名】「見直そう!毎日の食事」
【題材の目標】調理に必要な材料の分量や手順を考
えて調理計画を立てること,米飯とみそ汁の調理,
栄養素のはたらきによる食品のグループ分けの学習
等を通して,栄養的にバランスのとれた調和のよい
食事をとること及び1日になるべく多くの種類の食
品を摂取することが大切であることを理解させ,日
常生活で活用できるようにする。
【題材の評価規準】
○ 日常の食事に関心をもち,調和のよい食事のと
り方をしようとしている。(関心・意欲・態度)
○ 米飯とみそ汁の調理について考え,自分なりに
工夫している。(生活を創意工夫する能力)
○ 米飯とみそ汁の調理に関する基礎的な技能を身
に付けている。(生活の技能)
○ 食品の体内でのおもなはたらきにより,グルー
プに分ける方法を理解している。(知識・理解)
【題材の指導計画】全11時間
習
活
動
・食品のおもな三つのはたらき
2.第5学年での学習を振
を確認し,そのはたらきをする
り返り,体内での食品の
栄養素と関連付けて説明する。
お も な は た らき を 想 起
する。
3.教科書の献立例をもと ・汁物やおかずに多くの種類の
食 品 が 含 ま れて い る こ と に気
に,食品を三つのグルー
付かせる。
プに分ける。
4.食材さいころを使って, ・食材さいころの扱い方と学習
食品をグループ分けする。 の進め方を説明する。
①2人1組になり,食材仕方さいころを振る順番を決める。
②1人が3個の食材さいころを1回ずつ順に振り,出た面にある食品が
どのグループ゚に分類されるかを考え,グループ分けシートの上に置く。
③3個の食材さいころをシートの上に置いた後,もう1人が教科書を見
て確認し,正誤を伝える。
④役割を交替しながら何度か繰り返し,食品のグループ分けへの理解
を深める。
5.前日の夕食に含まれる
食品を書き出し,三つの
グループに分ける。
6.前 日の 夕食に 含 まれ
る食品から6個の食品
を選び,マイさいころを
作り,友達同士で交流す
る。
7.学習内容を振り返り,
学習のまとめをする。
◆前日の夕食を食べていない,
ま た は 内 容 が不 十 分 で あ った
児 童 の た め に献 立 例 を 提 示す
る。
・友だちのマイさいころとグル
ープ分けシートを使って,食品
の グ ル ー プ 分け を さ せ る よう
にする。
(3) 使用した食材さいころについて
食品を体内でのおもなはたらきによって三つのグ
ループに分けるための3色のシートと,それぞれの
グループから食材を6個ずつ取り上げた黄・赤・緑
の食材さいころ3個を製作し,活用した。
(4) 学習指導の工夫について
① 第5学年での学習内容を踏まえ,楽しみながら
繰り返すことによって,食生活に関する基礎的な
技能の定着を図る。
② 食品のグループ分けをする基礎的な知識の定着
を図った後,自分だけのこだわりをもって「マイ
さいころ」を製作するという活動を通して,自分
の食生活を振り返り,実生活に結び付ける。自分
- 104 -
の食生活を振り返る場面を設定し,その中から食
材を選び出すことによって,毎日の食事を無意識
に食べていることに気付き,食材に対しての意識付
けとする。
(5) 授業実践の結果について
○ 授業では,児童がペアになって活動し,役割を
交替しながら何度も繰り返し行うことで,第5学
年での既習事項を思い出しながら,食品のおもな
体内でのはたらきについて,定着させることがで
きた。活動の中で,児童が「どのグループに入れ
たらよいか分かりにくい」食品として挙げたもの
には,牛乳,いも,油,バターがあった。
○ マイさいころの製作時には,前日の夕食を食べ
ていない,または内容が不十分であった児童のた
めに献立例を提示するとともに,作業中はグルー
プ分けの正誤確認とつまずいている児童への支
援を行った。
○ 製作後,自分や友だちのマイさいころを使って,
再度食品のグループ分けを行い,基礎的な知識・
技能についての繰り返し学習を行い,より一層の
定着を図ることができた。また,多くの児童は1
面に一つの絵を描き,色使いや食品の表現方法に
ついて自分なりの工夫をしていた。ある児童は,
実際のさいころのように,食品の絵を各面に1個
~6個描き,向かい合った面の食品の数を足すと
全て「7」になるようにする等の工夫をしていた。
○ 児童がマイさいころのために選んだ食品につい
て,三つのグループ別食品数から分類すると,表
7のようになった。その時間内に完成したさいこ
ろ27個のうち26個については,三つのグループす
べてから食品を選んでいた。食品のバランスの面
からみると,C・H・Iのパターンについては,
あるグループの食品が0個あるいは4個以上選ぶ
等の偏りが見られたが,その他の24個(約78%)に
表7
パターン
A
B
C
D
E
F
G
H
I
「マイさいころ」に選んだグループ別食品数
三つのおもなはたらき
おもにエネルギー
のもとになる食品
おもに体をつくる
もとになる食品
おもに体の調子を
整えるもとになる食
品
2
1
1
3
2
1
2
1
0
2
3
1
1
1
2
3
4
4
2
2
4
2
3
3
1
1
2
ついては,6個の食品の選び方に配慮していると
考えられる。
○ 授業後のアンケートは,第5学年と同様の項目
とし,学習内容については,
「食品の三つのグルー
プ分けが分かった」として実施した。その結果,
在籍33名のクラスの児童のうち,授業当日出席し
た32名全員が,食材さいころを使った授業を「楽
しい」と感じ,ほぼ全員の児童が,学習内容につ
いて「分かりやすい」,「分かった」ととらえてい
た。全ての項目において,
「とてもそう思う」と「そ
う思う」を合わせた肯定的な評価が 97%を超えて
いた。また,学習した内容については,1食分の
食事計画について学習すること等を通して,今後
より確かな知識・技能として定着させることがで
きると考える。
2
中学校技術・家庭科の実践
(1) 題材について
【題材名】『「一汁三菜の魅力を発見しよう」~食
材さいころの活用を通して~』
【題材の目標】一汁三菜のよさを知らせ,献立作成
の条件を取り入れた一汁三菜を考えることを通して,
健康な食生活について考えることができるようにす
る。また,食生活をより豊かにするための工夫をす
ることができるようにする。
【題材の評価規準】
○ 一汁三菜のよさと献立作成の条件について考え
学んだことを活用しようとしている。(関心・意
欲・態度)
○ 献立作成の条件を取り入れた一汁三菜を考える
ことができる。(工夫創造,技能)
○ 一汁三菜と献立作成の条件及び「6つの食品群」
について理解している。(知識・理解)
【題材の指導計画】※全5時間を次ページに示す。
(2) 授業の概要
【本時の目標】一汁三菜のよさを理解する。
【本時の評価規準】
○ 一汁三菜と献立作成の条件に関心をもち,考え
ようとしている。(意欲・関心・態度)
○ 一汁三菜のよさと献立作成の条件について理解
している。(知識・理解)
【本時の展開】※第1次1時間目を次ページに示す。
(3) 使用した食材さいころについて
中学校では,食事を整えるためのモデルである一
汁三菜をより実生活に結び付けるために「一汁三菜
さいころ」を製作し,活用することにした。この一
汁三菜さいころはコンパクトで,生徒の個々の机上
でも,家庭に持ち帰っても活用することができる。
- 105 -
【題材の指導計画】全5時間
一汁三菜さいころ(5個セット)+お盆
学習活動
指導上の留意点
「一汁三菜さいころ」
導 ・給食の膳を見て,一汁 ・一汁三菜について思い出した
三菜の膳を思い出す。
事をアンケート形式で確認す
入 ・本時の課題を知る。
る。
・食材さいころを用いて, ・お盆を使い実物により近い状
一汁三菜の配膳を確認
態で一汁三菜の膳を構成させ
する。
る。
・一汁三菜の献立と,栄養素の
働きとの関係に気付かせる。
・日本型食生活と欧米型の食生
活との違いに触れ,日本型食
・一汁三菜のよさについ
生活は健康維持によい影響を
展
て考える。
与えている事に気付かせる。
・栄養バランスがとれている。
・一度に多くの食材を摂取できる。
・塩分・油・糖分をあまり使わず調理されている。
・良質たんぱく質を摂取することができる。
・食物繊維を多く摂取することができる。など
開
ま
と
め
・各班で考えた一汁三菜
のよさについて「一汁
三菜さいころ」を活用
しながら,発表する。
・ワークシートをまとめ
る。
・次時の学習を知る。
・自己評価により,本時
の学習を振り返る。
・次時は,献立の条件を思い出
し,家族の好みや旬の食材の
入った一汁三菜を考えること
を知らせる。
【本時の展開】第1次1時間目
次
学
習
活
動
関
評 価
工 技 知
第 1 次 ( 1 時 間 )本 時
第 2次 ( 3時 間 )
・食材さいころ,ラン
チシート,お盆を利
○
用して「一汁三菜」
の位置や献立例を知
る。
・「一汁三菜のよさ」
と「献立作成の条件」
について既習の内容
を振り返り確認す
る。
・家族の好み・旬の食
材・地域の食材の入
○
った「一汁三菜」を
考える。
・「6つの食品群」を
含んでいるか点検し
てみる。
第3次(1時間)
・考えた献立を発表し
交流する。
・食材さいころで考え
た献立を付け加え,
家庭に持ち帰り活用
する。
○
の 観 点
評 価 規
準
・「一汁三菜」と「献
立作成の条件」につ
いて関心をもち,考
えようとしている。
・「一汁三菜」と「献
立作成の条件」につ
いて理解している。
・課題にあった献立を
考えるために学んだ
ことを積極的に活用
しようとしている。
○
○
○
・食品を「6つの食品
群」に分類すること
ができる。
・「6つの食品群」を
含んだ献立を立てる
ことができる。
・課題にあった献立を
工夫している。
一汁三菜さいころを図11に示す。このような主食
・主菜・副菜・汁もの・その他の5個の食材さいこ
ろをセットとし,小さなお盆の上で操作する。
(4) 学習指導の工夫について
① 一汁三菜さいころを小さなお盆の上に並べるこ
とで,実感をもたせながら一汁三菜の配膳につい
主菜
副菜1
主食
図 11
副菜2
旬や地域の
食材を生か
した献立等
飲み物・汁物
中学校で使用した「一汁三菜さいころ」
て繰り返し確認でき,1日分の献立例についても,
食材さいころの3面にあらかじめ印刷されている
料理例を組み合わせながら考えることができるよ
うにした。
② 食材さいころの3面は基礎的な知識・技能の習
得とし,残り3面は,それぞれ旬や地域の食材に
ついて調べ学習をしたことをもとに,自分で献立
を考えたり,家族の声を生かした献立を考えたり
して完成させる問題解決の面とした。
(5) 授業実践の分析について
○ 授業後のアンケート結果から,一汁三菜さいこ
ろを活用した授業について,「大変楽しい」,「楽
しい」と回答した生徒は22人中17人であり,7割
以上の生徒が肯定的に回答している。「楽しかっ
た」と回答した生徒は,「何度も復習できて覚え
やすく分かりやすかった。」,「一汁三菜のこと
が詳しく分かった」,「自分のさいころセットが
完成した時の達成感がよかった。」,「みんなで
相談する事もあって,真剣に考えるのが結構楽し
かった。」等と具体的な理由を記述していた。
○ 「あまり楽しくない」と答えた5人の生徒は,
授業には意欲的に取り組んでいたが,さいころの
出来映えに関して十分納得いかなかったことが理
由であった。また,食材さいころをよりよくする
ためのアイディアを尋ねたところ,「クイズやす
ごろくを作って活用するといい」,「皆が楽しめ
るようにバランスや色合いを考え,献立の構成を
考える時に使うといい。」等の回答があった。
○ 一汁三菜に関する基礎的な知識について問う事
後テストにおいて,全員が正しく回答しているな
ど,教科書やワークシートだけで学習するよりも,
定着率は高かった。
○ 一汁三菜さいころの問題解決の3面については,
それぞれグループで調べ学習を行ったことを基に
- 106 -
次
第2 次
(
時間
14
高等学校家庭科「家庭基礎」の実践
指
導
事
項
家族の栄養と食事
①現代の食生活の問
題点
②食生活診断
③栄養素の種類と特
徴
④食事摂取基準と食
品群
食品と調理
⑤炭水化物を多く含
む食品
⑥調理実習1
(親子丼とすまし汁)
⑦脂質を 〃
⑧たんぱく質を
⑨調理実習2
〃
(ポークソテー・青野菜)
⑩無機質を 〃
⑪ビタミンを 〃
⑫調理実習3
(鍋貼餃子・牛乳寒)
⑬献立と調理
家族の献立作成
(お弁当)本時
⑭調理実習4
(正月料理)
(2 時間 )
第 3次
(1) 題材について
【題材名】「食生活の管理と健康」
【題材の目標】栄養,食品,調理,食品衛生などに
関する基礎的な知識と技術を習得させ、家族の食生
活を健康で安全に営むことができるようにする。
【題材の評価規準】
○ 栄養,食品,調理,食品衛生などに関心をもち,
積極的に学習活動に取り組んでいる。(関心・意
欲・態度)
○ 家族の食生活について課題を見付け,その解決
を目指して思考を深めている。(思考・判断)
○ 家族の食生活を健康で安全に営むために必要な
基礎的・基本的な技術を身に付けており,安全と
衛生に配慮した調理ができる。(技能・表現)
○ 栄養,食品,調理,食品衛生などについて理解
し,家族の食生活を健康で安全に営むために必要
な基礎的・基本的な知識を身に付けている。(知
識・理解)
【題材の指導計画】※全20時間を右へ示す。
(2) 授業の概要
【本時の目標】バランスのとれた献立(家族のお弁
当)を考えることができる。
【本時の評価規準】
○ 弁当の問題点・良い点を考え,弁当の改善点を
検討することができる。(思考・判断)
【本時の展開】※第2次12時間目を右へ示す。
(3) 使用した食材さいころについて
高等学校の生徒の実態としては,改善の必要性が
あるにもかかわらず,その課題になかなか気付いて
)
3
【題材の指導計画】全20時間
第1次( 4時間 )
して自分の献立を考えたり,インタビューをして
家族の声を生かした献立を考えたりして完成させ
た。特に,家族との接点をもつことは,学習した
ことを実生活に生かす上で大切な点である。また,
自分で完成させた一汁三菜さいころを家庭に持ち
帰ることで,自分自身で日常的な食事の内容確認
ができるとともに,一汁三菜のよさなど学習で得
たことを,家族に伝える場となることが期待され
る。協力校においては,「家庭科だより」を発行
して授業での学習内容を家庭に知らせることによ
り,一層活用の効果をあげることができた。毎日
の食事を意識しながら食べることの大切さを知り,
自分が学習したことを家族にも伝えようとするな
ど,中学生としての自分の食生活の改善に生かせ
ることは大切だと考える。
食生活の安全と衛生
⑮安全で衛生的な食
生活
⑯これからの食生活
評 価 の 観 点
関 思 技 知
評 価 規 準
・現代の食生活の問題点
について考えている。
○
・栄養的にバランスのと
れた食事について考
○
えようとしている。
○ ・栄養素の種類と機能,
各ライフステージの
栄養的な特徴を理解
○
している。
・炭水化物,脂質,たん
ぱく質,無機質,ビタ
○
ミンを多く含む食品
の栄養的特質や調理
上の特性を理解して
○
いる。また,それらの
○
欠乏・過剰から起こる
○
身体への影響につい
て理解している。
○
・調理の基礎的技術,能
○
率,盛りつけ,食事の
マナーを身に付けて
○
いる。
○
・バランスのとれた献立
(お弁当)を考えるこ
○
とができる。
・不足している食品群か
ら食品を補い,献立改
善ができる。
・伝統的な料理,行事食
○
に関心をもっている。
・安全で衛生的な食生活
を営むことができる。
○
・健康で安全に配慮した
食生活が実践できる。
○
【本時の展開】第2次12時間目
導
入
展
開
ま
と
め
- 107 -
学習活動
1.本時の学習内容を確認
する。
2.様々なお弁当(写真)を
見比べて選ぶ。
(父の弁当・高校生の弁
当・幼児の弁当・コンビ
ニ弁当等)
3.弁当箱ダイエット法に
ついて知る。
4.弁当箱ダイエット法の
ポイントを確認する。
5.食材さいころを用いて
自分の弁当を考える。
(さいころを6個選び,
弁当の献立を考える。)
6.様々な弁当(写真)の
主食:主菜:副菜の割
合を算出して問題点を
まとめ,発表する。
7.5で考えた弁当につい
て,チェックする。
8.食材さいころを用いて
再度弁当作りに挑戦す
る。
9.幼児向け等,家族向け
の弁当を考える。
10.次 時 の 学 習 内容 を 知
る。
指導上の留意点
・家族のお弁当の献立作成を行
うことを知らせる。
・各弁当の良い点を考えさせな
がら,「食べてみたい弁当」を
選択させる。
・1 食に必要なエネルギーと弁
当箱の容量がほぼ一致する
ことを知らせ,弁当箱の実物
を提示する。
・選んだ献立をワークシートに
記入させる。机間指導により,
主食・主菜・副菜の区別が正
確であるかを確認する。
・写真をパズル状に切り分ける
又はマジックで色分け等をし
た後,主食:主菜:副菜の割
合を算出させる。
・表面積比や同じ調理法が重な
っていないか等,5で考えた
弁当の問題点を考えさせる。
・問題点を改善するにはどうす
ればいいかを考えさせる。
・食材さいころを用いて数種類
の献立を考えさせる。
いないという問題がある。昼食に持参する弁当の内
容も,主食が全く入っていないということもある。ま
だ成長期にある高校生にふさわしい内容と量的な把
握をさせるために,食材さいころ6個で弁当箱をイ
メージし,主食・主菜・副菜さいころを組み合わせ
て「弁当さいころ」として活用することにした。
これは,女子栄養大学の足立己幸(2004)らが提
唱している「3・1・2弁当箱ダイエット法」の考
え方を参考にしたものである。「3・1・2弁当箱
ダイエット法」基本的な考え方をまとめたものを図
12に示す。「弁当」を題材とした食生活の改善方法
に活用する「3・1・2弁当箱ダイエット法」の特
徴は,やせるための方法ではなく,望ましい食事量
や食事バランスの目安を知るためのもので,まず,
弁当箱の大きさを決めて食事の全体像をつかんでか
ら,細部へと考えていく方法である。自分にとって
必要な1食分のエネルギー量(kcal)は弁当箱の容
量(ml)にほぼ一致することから,まず自分にあっ
たサイズの弁当箱を選び,最初に主食を弁当箱半分
にきっちりと詰め,残りの表面積の1/3に主菜を,
2/3に副菜を料理が動かないようにすき間なく詰
めることによって,1食分の食事として量的にも内
容的にもバランスよく食品をとることができるとい
うものである。(13)
(1) 一食の分量を把握する。
(2) およそ3:1:2の表面積比になるように,主食・主菜・
副菜の量のバランスを考える。
(3) 主食・主菜・副菜の3種類の料理を組み合わせる。
米や小麦な
どの穀物を
50g以上
含む
・
・
・
・
主菜
主食
副菜
おかずケースやしきりは最小限
同じ調理法のおかずを重ねない
おいしそうできれいなこと
最後に総合チェック
図 12
魚介,肉,卵,大
豆・大豆製品,
乳・乳製品などを
50g以上含む
野菜,いも,き
のこ,海草など
を 50g 以 上 含
む
おおきさぴったり
いろどりきれい
しゅ食:主菜:副菜=3:1:2
それぞれ異なる調理法
うごかない
3・1・2 弁当箱ダイエット法の考え方
「弁当さいころ(6個セット)」と家族の弁当献
立への発展について図13に示す。
(4) 学習指導の工夫について
① 実践的・体験的な学習活動を中心とし実際の生
活に活用できるようにするため,食材さいころを
活用して弁当の内容を確認させる際,さまざまな
弁当さいころ(6個セット)
高齢者向け
の弁当
働き盛りの成人向け
の弁当
幼児向け
の弁当
図 13
高等学校で使用した「弁当さいころ」と発展
弁当(教員の弁当やコンビニ弁当等)のカラー写
真や実際に持参させた自分の弁当を比較し検討す
る場面を設定し,実感をもちやすいよう工夫した。
② 計算や問題点を改善するための解決策を考える
場面ではペア活動とし,活発な意見交換の中で思
考を深められるようにした。また,最初は多めに
用意した弁当さいころの中から,2人が考えて最
終的に選択した6個の弁当さいころを弁当箱の形
に完成させるようにした。
(5) 授業実践の分析について
○ 弁当さいころで組み合わせたものと実際の自分
の弁当を比較検討させることは,量的な実感を伴
い,自分の弁当箱の容量が不足しているという認
識をさせることに効果的であった。また,弁当さ
いころを活用することによって主食・主菜・副菜
の区別がつきやすく,献立内容の視覚的なバラン
スのよさ,あるいはアンバランスさを認識しやす
いものとなった。
○ 各ペアで最初に弁当さいころを用いて考えた献
立について,どのような表面積比であったかをみ
てみると,主食:主菜:副菜=3:2:1:の割
合が半数以上であり,主菜と副菜の量が逆転して
いることが分かる。中には副菜が全く含まれてい
ない表面積比1:1:0というものもあった。
○ 弁当さいころを組み合わせて献立作成をした後,
最初に選んだ「食べてみたい弁当」の写真を切り
分ける活動を取り入れてコンビニ弁当の問題点
を分析することにより,自分たちの考えた弁当献
立が適切な内容であるかどうかの分析や検討が
容易となった。
○ 弁当さいころを活用した授業について,授業後
のアンケートによると,12名全員が「よく分かっ
た」「楽しかった」と回答しており,「コンビニ弁
当はよく利用するけど,主食:主菜が1:1で,
副菜が入っていないものが多いことに気付い
た。」「カルビ丼が好きだけど,それだけではダメ
で,サラダを付けて組み合わせて食べる方がよい
ことが分かった。」等の記述がみられた。
- 108 -
○
自分達の弁当には基本的におむすびや白飯に肉
を中心とした主菜と野菜を加えるパターンが多か
ったが,家族向けの弁当献立を考える場面では,
高齢者向けの弁当には魚を中心に主菜を選び,煮
物・和え物を加えていた。また,幼児向けの弁当
には,彩りがきれいであることを重視し,幼児が
「食べたいな」と思うようにフルーツやウインナ
ーを加える等かわいらしく仕上げる等の工夫が
見られた。
○ 弁当さいころを活用して献立を考える等の活動
はペアで行ったが,全てのペアが問題点を検討し
て改善案を考えることができた。ただ,実際の生
活での実践に生かせるまでに理解度が深まって
いないと判断される生徒が3人いた。普段の生活
上の問題を抱えていることもあり,今後も個に応
じたかかわりを継続していく必要があると考え
られる。逆に,これまで主食のご飯が全く入って
いない弁当を持ってきていたが,この学習をきっ
かけにし,翌日からきちんとご飯を詰めた弁当を
持参するようになった生徒もいた。
4
授業分析のまとめ
(1) 小学校
○ さいころ本来の立体的な特徴と「さいころをこ
ろがす」というゲーム的な要素を生かすことがで
きた。また,視覚的な情報は児童の注意を引き付
け,食材さいころを操作することによって,それ
までの自分の経験から習得した知識や技能をう
まく引き出す働きをすること,さらに,面を変え
ることによって思考の切り替えが容易にでき,集
中しやすいことが分かった。
○ 授業は習得型の教育に重点を置いて展開したが,
第5学年では調理方法の違いから加熱による野
菜の変化へ,第6学年では食品のグループ分けか
ら自分の食事を振り返り,「マイさいころ」の製
作へと,習得した知識・技能を活用して学習を発
展させることができた。
(2) 中学校
○ 一つのさいころの中に,習得を意図した部分と
探究を意図した部分を組み込んで構成し,教材を
生徒が完成させるという手順を踏むことで愛着
が増した。また,1人1セットを完成させ家庭に
持ち帰ることで繰り返し活用することができた。
○ 個人でもグループでも,コンパクトな空間で操
作することが可能であり,小さなお盆の上で操作
するという条件があることで,5個でセットとい
う感覚を自然に認識でき,何度でもやり直しなが
ら主体的に問題解決できることが分かった。また,
一汁三菜さいころを活用しながら発表すること
によって説明しやすくなり,聞いている側の生徒
も理解しやすいという効果があることが分かっ
た。
(3) 高等学校
○ 弁当さいころの6個で一まとまりということが,
弁当箱という立体感をもった食事としてとらえ
やすく,自分にとっての必要量が実感としてわか
るため,日常的に食べている自分の弁当の容量や
内容の問題点に気付かせることができた。
○ 自分の課題から,家族のライフステージを考慮
した献立作成を考える学習へと発展できた。
Ⅴ 研究のまとめ
1 研究における成果
本研究を通して明らかになった成果としては,次
の2点である。
○ 開発した教材「食材さいころ」が,小・中・高
等学校全ての学校段階において,学習内容を関連
付けながら繰り返し活用できる教材であること
が分かった。
○ 教材「食材さいころ」を適切な学習場面に位置
付けることによって,知識・技術の習得や食生活
の工夫いずれにも活用でき,食生活における実践
的態度を高める上で一定の効果があることが分
かった。
以上のことから,小・中・高等学校の学習内容を
関連付け,習得型の教育と探究型の教育とをつなぐ
ような教材の開発及び活用を通して学習指導の工夫
を行うことは,食生活に関する学習における実践的
態度を高めるのに有効であったといえる。
2 今後の課題
今後の課題としては,次の2点があげられる。
○ 授業実践を通して明らかになった問題点を改善
し,食材さいころをさらに工夫していくこと。
○ 食生活における実践的態度を高めることのでき
る他の教材開発や学習指導の工夫についての研究
を継続すること。
おわりに
生涯にわたり豊かでよりよい食生活を実践してい
くためには,小・中学校において,高等学校や社会
における姿を見通した上で,基本的な知識や技能を
確実に習得していくことが求められる。その基盤の
上に,楽しい食卓を整え共に食事を摂ることの意義
を理解し実現できる知識と技術が身に付けられると
- 109 -
養素の働きの特徴から三つの群に分ける。80kcalを1点とし
考える。同時に日常生活における問題を主体的に解
て,エネルギーも考慮し栄養バランスがとりやすくなって
決していこうとする意欲を育てながら,実生活にお
いる。
いて実践できる態度にまで高めていくことが重要で
(9) 中川眸他(1999):「自立的に健康な生活を営む力」,『主
体的に生活をつくる 人間が育つ家庭科』 学術図書出版
ある。生まれたときからファーストフードや調理済
社 pp.37-38
み食品等が日常的に身近にある現代を生きる児童生
(10) 足立己幸(2004):『3・1・2弁当箱ダイエット法―自分に
徒たちに,何をどう課題としてとらえさせるのかが
ぴったりの1食分がひと目でわかる―』 p.13
課題である。しかし,変化のある季節の食材や味覚・ (11) 鈴木克明(2002):「教材設計マニュアル-独学を支援する
ために-」北大路書房pp.176-179
嗅覚などを刺激する地域独特の食材等と出会う度に,
(12) 日本家庭科教育学会家庭科教育問題研究委員(2007):『高
もっと食生活について楽しむことが大切だと感じる。
等学校家庭科男女必修の成果と課題-高校生・教師・社会人
世の中にこれさえ食べればよいという食品は存在
調査の結果-』
(13)
足立己幸(2004):『3・1・2弁当箱ダイエット法―自分に
せず,これを食べてはいけないというだけでは食事
ぴったりの1食分がひと目でわかる―』群羊社 pp.6-17
療法となる。こう食べなければならないという「正
しい食生活」を追求するのではなく,いかに毎日の
【引用文献】
「適切な食生活」を自分自身の手に取り戻し,「食」 1) 広島県教育委員会(平成19年):
『平成 19 年度広島県児童
と真面目に向き合うかということこそが重要である。
生徒の体力・運動能力調査報告書』
2) 文部科学省(平成17年):『高等学校学習指導要領解説家
日本の食文化を後の世代に伝え,本当の豊かさを追
庭編』開隆堂 pp.21-22
求し続けるためには,まず我々自身がフードファデ
3) 青木幸子(2002):「家庭科教育の学習指導」,『家庭科教
ィズムからの脱却を試み,いたずらに食情報に振り
育』学文社 p.104
回され,食をないがしろにすることがないようにし, 4) 文部科学省(平成16年):『小学校学習指導要領解説家庭
編』開隆堂 p.16
生涯にわたるQOL(生活の質)を高めていくこと
5) 岡陽子(平成17年):「『確かな学力』をはぐくむ(2)―基
が重要だと痛感している。
礎・基本の定着を図る学習指導の工夫―」,『中等教育資
料』文部科学省 pp.62-63
最後に,本研究を進めるに当たって,2年間にわ
6)
文部科学省(平成16年):前掲書 p.16
たり多くのデータを提供していただいた研究協力校
7) 文部科学省(平成16年):前掲書 p.16
並びに研究協力員の皆様の御理解と御協力に深く感
8) 辰野千尋編(2005):『最新 学習指導用語事典』教育出
謝するとともに,常に研究課題の解決に向かうため
版 p.78
のご示唆をいただいた広島大学大学院の鈴木明子先
【主な参考文献】
生に対して,心から感謝申し上げる。
【注】
(1) 平成17年7月に施行された食育基本法については,内閣
府編『平成18年版食育白書』に詳しい。
(2) 岡陽子(平成19年):「子どもの実生活とのかかわりを大
切にする家庭科の授業づくり」,『初等教育資料1月号』
東洋館出版社 pp.46-57
(3) 文部科学省(平成1 7年)『高等学校学習指導要領解説家庭
編』開隆堂 pp.19-20
(4) 平成15年中央教育審議会答申「初等中等教育における当
面の教育課程及び指導の充実・改善方策について」
(5) 平成17年10月中央教育審議会答申「新しい時代の義務教育
を創造する」
(6) 昭和27年広島県庁の岡田正美技師が提唱し栄養改善普及
会の近藤とし子氏がこれを取り上げ普及に努めたもので,
栄養素の主な働きから赤,黄,緑の3色の食品群に分ける。
(7) 6つの基礎食品群は,厚生省(現厚生労働省)が,国民の
栄養知識の向上を図るための教材として作成し,保健所で
も使われている。栄養のバランスに重点をおき,食品に含
まれる栄養素の種類によって六つに分類し,毎日取らなけ
ればならない栄養素とそれを多く含む食品を示している。
(8) 四群点数法は,昭和35年香川綾が提案した分類法で,日
本人の食生活に普遍的に不足している栄養素を補充し完全
な食事とするために,牛乳と卵等を第1群におき,他を栄
高橋久仁子著(2007):『フードファディズム-メディアに惑
わされない食生活』中央法規出版
多々納道子・福田公子編著(2005):『教育実践力をつける家
庭科教育法』大学教育出版
日本家庭科教育学会編(2005):『家庭科からひろがる 食の
学び』ドメス出版
田中秀樹他編(2001)
:
「『日本型食生活』の変貌」,
『海と恵み
のサイエンス』共立出版
中村丁次監修(2007):『栄養の基礎がわかる図解事典』成美
堂出版
日本家庭科教育学会編(2007):『生活をつくる家庭科第1巻
~第3巻』ドメス出版
佐藤文子・川上雅子共著(平成18年)『家庭科教育法』高陵社
書店
中間美砂子編著(2004):『家庭科教育法―中・高等学校の授
業作り―』 建帛社
食育基本法研究会編(2005):
『Q&A 早わかり食育基本法』
大成出版社
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