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韓
雪
プラスチック成形加工の中で最も汎用性・生産性の高い射出成形法により、低コストを
維持しつつ、いかに高い転写性を実現するかが新たな課題となっている。転写性の向上に
は充填過程での固化層の生成を抑制することが効果的で、超高速射出成形技術による高転
写率の実現が期待されていた。しかしながら、同分野での系統的な研究や、各種成形因子
と転写性との相関解析はこれまでほとんど実施されていなかった。射出成形における微細
パターン転写成形プロセスも解明が進まず、樹脂挙動を直接観察した研究は行われていな
い。さらに、汎用射出成形や射出圧縮成形では実現できない高機能・高付加価値の転写成
形技術の可能性を探索することも、先導研究として重要な研究課題に位置づけられる。
以上の背景に基づき、本論文では以下の3つを研究目的として掲げて研究を行っている。
(1)超高速射出成形における各種成形因子の影響を系統的に調査し、超高速射出成形によ
る微細転写技術を確立する。(2)動的可視化手法を通じて射出成形の金型表面における転
写プロセスを解明する。(3)転写成形における超高速射出成形の有効性を生かして、二方
向同時転写技術を開発する。
まず超高速射出成形による転写成形では、頂角 90 度、ピッチ 50μm のプリズムパターン
とアクリルを用いて、 800 cm3/s の超高速射出条件にて平均転写率 0.97 を達成し、超高速
射出成形の有効性を実証的に明らかにした。また転写成形に及ぼす残留空気・ガスの影響、
各種成形パラメータと金型条件の影響、流動パターンと転写率分布との相関解析を行い、
超高速射出成形における転写成形においては、射出率に加えて溝配置方向と金型温度、充
填過程での圧力上昇の立ち上がり特性の影響が大きいことを具体的に明らかにしている。
さらに成形機ノズルおよび金型内ゲートにおけるせん断発熱効果を計測し、樹脂温度上昇
と転写成形との相関を明らかにした。
可視化解析では、ピッチ 100μm と 50μm のプリズムパターンのニッケル電鋳スタンパー
を用い、長距離顕微鏡と超高速ビデオカメラにより、スタンパー溝内部への樹脂充填挙動
の直接可視化を世界で初めて成功させた。これによって、射出成形型内充填過程において、
射出率、溝配置方向、キャビティ厚さ、溝ピッチの大きさ、金型温度などの各種因子が転
写溝内部への樹脂充填挙動にどのような影響を及ぼすかを可視化解析し、スタンパー溝へ
の充填が充填過程のごく初期(2~3 ms)にほぼ終了しているという重要な知見を明らかに
した。また射出率が高くなるほど、充填過程での溝部への樹脂充填が早い段階で行われ、
その充填速度も最終充填率もともに高くなることを明らかにしている。
二方向同時転写技術の開発では、L 字型成形品においてその垂直両面上に二つの微細転写
面を同時に形成する成形方法を提案している。超高油圧シリンダ導入によるサイドブロッ
ク独立駆動機構金型により、30 mm × 30 mm の 25μm ピッチのプリズムパターンとポリカ
ーボネート、超高速射出成形機を用いて二方向同時転写成形を実現し、その可能性を実証
的に明らかにしている。
以上のように、本論文では系統的な研究を通して高転写率成形への超高速射出成形技術
の適用とその有効性を実証的に明らかにし、また高転写率実現のメカニズムについても樹
脂温度、キャビティ内樹脂圧力の計測データに基づき具体的な解明が行われている。微細
転写溝への樹脂の充填挙動については、新規に開発した直接可視化手法により解析を実施
し、充填過程での転写プロセスの重要性と各種パラメータの影響を初めて明らかにしてい
る。また、転写成形における溝配置方向の影響の原因について、ファウンテンフローに伴
う伸長流れに起因する分子配向の視点から考察し、微細転写成形における溶融流動過程で
のフロント部分子配向の重要性を初めて指摘している。さらに、超高速射出技術の応用開
発研究として、二方向同時転写技術を検討し、新しい金型構造の提案により実現可能性を
実証的に明らかにしている。
このように本論文は、微細パターンの転写成形の研究分野において、超高速射出成形の
有用性の実証、成形因子の系統的解析、転写成形現象の可視化実験解析、先導的な応用技
術開発の重要な研究成果を総合的に纏め上げたものである。
よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。
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