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ファイル名:sugata21-4 サイズ:1.22 MB
せっつ・スクール広場協議会 生活サポート部会 寄稿
現代の児童、
生徒を育てるための
「生活サポート」
という考え方
――教師力の中軸として「関係力の向上」を目指す
(財)関西カウンセリングセンター 川上 範夫
1、
「生活サポート」という視点、考え方を
導入することの必要性と背景
ところにはここに述べてきたような認識があ
ってのことである。
現代の子どもたちの示す問題事象の多様化
や複雑化を考えると、従前から行われてきた
2、子どもたちに見られる問題事象の今日的
学級指導、生徒指導、保健室指導、保護者へ
難しさと「生活サポート」という着眼に
の助言指導といったオーソドックスな対応の
ついて
枠組みでは十分、応じきれない状況が随所に
上に述べてきたように、現代の子どもたち
見られてきた。昨今、全国的に共通して見ら
に見られる問題事象はその原因からしても背
れるこうした問題状況の変化は子どもたち自
景からしても従来からの常識的な理解の枠組
身の変化に起因するというのでなくて、時代
みではつかみきれない複雑な事情に貫かれて
社会状況の急激な変化に伴って子どもを取り
いる。言いかえるならば、児童、生徒に見ら
巻く生活環境にあまりに急速な様変わりが生
れる今日的問題事象はその様相において多様
じてきてしまって、これまで蓄積されてきた
化していると同時に、その背景事情や原因と
子育て、教育のノウハウが無条件には効を奏
考えられる事情も多様化、多面化の一途をた
することが困難になってきたものとしなけれ
どってきているということである。
ばならない。特別支援教育の提唱も、その背
景には教育現場における指導困難状況につい
学力不信、非行、対人不安、パニック反応に
てより多面的に幅広く考えなければならなく
加えて、年齢が上がるとともにリストカット、
なってきたという共通認識があったといって
摂食に関する逸脱行動、呼吸不全問題、慢性
間違いないだろう。
的引きこもり、多重人格問題、性的不適切行
その意味では、子どもたち自身はもちろん
動問題、さらにはパソコン依存(ネット依存)、
子育てに関わる親や学校教師たちも、皆、
ケータイ依存といった問題事象が目立つよう
日々、迷いながら有効な関わりの知恵を求め
になってきている。
て取り組みを積み重ねてきているといってよ
い。
さらにこうした一方で、いわゆる発達障害
といわれる子どもたちの出現によって、その
こうした現代の子どもたちを取り巻く実態
独特な個性が学校内、教室内での不安定な逸
や教師ならびに周囲の関係者たちの実情につ
脱行為にもつながることがあって、学級活動
いて吟味するならば、今、子どもの育ちや成
の基本である授業そのものがスムーズに進行
長に向けて関わっていこうとする者すべてが
できなくなるといった場面が広く一般に見ら
旧来の実践の枠組みにとらわれない有効な実
れるようになってきている。
践の形を見出していかなければならないこと
になる。
そもそもいわゆる発達障害といわれる子ど
もたち(正しくは高機能広汎性発達障害)の
このたびのプロジェクトで「生活サポート」
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従来から問題にされてきた不登校、いじめ、
出現は、教室内での対応を余儀なくされる教
という実践テーマを新しく提唱して、実際の
師たちのみならず、保護者や社会のさまざま
取り組みに向けて試みを行っていこうとする
な関係者をも戸惑わせてきているものであ
摂津の教育のすがた
せっつ・スクール広場協議会
る。高機能広汎性発達障害という問題行動群
て関わっていくことが肝要ということになる
は具体的には広汎性発達障害、高機能自閉症、
のである。
アスペルガー障害、学習障害などを含んでい
「生活サポート」という着眼は実はこうし
るが、そのいずれもが効果的治療法とか対処
た現代という時代社会の持つ問題点について
法を有しているわけではない。それにもかか
のグローバルな視点からの点検を基にして、
わらず、教師をはじめ教育関係者は子どもた
子どもの育ちをあくまで丸ごとの人間像とし
ちを学校や学級に送り込まれて無原則に責任
て理解して関与の知恵を見出していこうとす
を負わされてきている。
る発想に基づいているものなのである。こう
そして実に不都合なことに、授業困難学級
した点を言い換えるならば、子どもに関わっ
があると、それを教師の指導力の問題である
ていこうとする者自身が丸ごとの全体性や統
とか、学校の教育体制の不備の問題であると
合性を自分自身の体験の前提としていなけれ
かいって無前提、無点検のまま非難されると
ばならないことになる。
いったことすらある。
発達障害問題を含めて子どもに見られるこ
3、
「生活サポート」を実践課題とすること
について
のような現代的状況を考えると、本当は子ど
もに関わる関係者、すなわち教師と保護者さ
はじめにふれたことでもあるが、全体性や
らには地域社会の関係者の間で積極的な連携
統合性を前提とした関与というのはオーソド
が図られて当然なのであるが、実際には反対
ックスな学級指導、生徒指導、保健室指導、
に社会の個別分断化傾向に流されるかのよう
保護者への助言指導といった個別化した思考
にそれぞれの関係者がいわば個別的に責任を
のもとでは創造的に組み立てていくことは困
負って対応していかざるを得なくなってしま
難である。いわばさまざまな意味での関係性
って、互いに連携を求めるということはむし
の体験を実践することを通して具体的な取り
ろ難しくなってきてしまっているといってよ
組み課題を見出していくというプロセスに結
い。
びついていくものでなくてはならない。
実際、時代社会の個別分断傾向は連携の困
教師と子どもとの関係性にとどまらず教師
難や不全にとどまらず、悪くすると立場の違
と教師との関係性、教師と保護者との関係性、
う者同士が知らず知らずの間に互いに責任を
ひいては教師と地域関係者との関係性をどの
押し付け合うようになってしまって、立場の
ように構築して実際に体験化していくかとい
違いがそのまま不信感の眼差しへとつながっ
うことが実際的な課題として見えてくる。子
てしまう傾向も否めなくなってきている。本
どもと子どもの関係性をどのようにはぐくん
来、協力し合って当然と考えられてきた親と
でいくかということも当然のことながら改め
学校教師の間で、まるで教育責任を全面的に
て課題として取り組んでいかなければならな
教師に委ねてしまう難しい親の存在が知られ
い。
るようになってきている。
このような課題に取り組むことが文字通り
こうして子どもの置かれてきている状況を
「生活サポート」の実践につながっていくの
反省的に振り返るならば、問題を抱えた子ど
であり、このことがこれからの時代の教師力
もたちの十全な成長、発達を促すためには子
の中軸になっていくべきものではないかと考
どもの個別的能力を局面的に把握して対応を
える。
試みていくというよりも、むしろ子どもの生
きる全体性を統合的に把握することを通して
そこに認められる問題事象はその全体性や統
合性の失調から発しているのであると理解し
摂津の教育のすがた
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せっつ・スクール広場協議会 生活サポート部会ガイダンス(H21.5.13) 「生活サポート」という考え方の必要性について
担当:学校教育課 奥野宏一
1. せっつ・スクール広場協議会の趣旨説明
・参加者とともに作り上げる双方向の研究会。
各自のスキルアップのみならず、今回のテーマ「生活サ
ポート」が本市でどのように位置づけられるか検討し、
その成果を広く市内へ発信・提案する。
2. 生活サポート部会の趣旨説明
・教科研究以外の分野で初めての取り組み。
・学力の土台作り、学力向上を下支えする役割の一端を担う。
昨年度の「教育改革フォーラム」で大阪大学大学院志水
宏吉教授から、学力を下支えすることの大切さが提起さ
れた事への1つの答えとして、生活サポートの充実によ
り摂津の教育改革をより一層推進していきたい。
・教師力の向上
子どもや保護者の生活背景に厳しさが増し、現象面を理
解するためにはその背景にあるものを推察したりイメー
ジする力が求められる。そのためには経験とともに研修
も必要である。
希薄な人間関係に起因する問題が多く発生しているが、
対応する教職員も同じ時代・環境の中で育ってきており、
これまではトラブルにならなかった内容でも事後処理に
時間を要する問題に発展することもある。特に経験の短
い教職員の中には、子どもや保護者との関係作りや対応
に戸惑うことも考えられる。教員の授業力とともに人間
関係力の向上も図る必要があり、経験年数の短い教職員
への子ども・保護者理解と対応へのヒントとなるような
情報発信をすることもこの部会の目的のひとつである。
3. 生活サポートという考え方の導入の経緯
・教育研究所移転に伴う機能充実のため、教育相談施設の視
察。
教育研究所では、平成22年度の男女共同参画センター
跡地への移転にむけて、子どもや保護者、学校を支援す
る拠点、人材育成の拠点としての機能充実が課題となっ
ており、教育相談機能についても近隣他市や愛知県豊橋
市など、先進地域の視察を重ねながら検討を進めてきた。
その過程で豊橋市の「生活サポート」という考え方・シ
ステムに出会う。
・大阪教育大学GPリスクマネジメント共同研究
韓国の教育相談・教育機関の視察に同行する機会を得た。
その中で「困った生徒ではなく困っている生徒に最適の
サービスを提供する。」という立場から展開される施策
に接することができたことも今回の部会の背景にある。
4. 生活サポートという考え方
・生活サポート主任の創設にむけて
支援を要する子どもが抱える状況の多様化・複雑化とい
う現状を踏まえ、子どもや保護者の「困り感」すべてに
対応するための要となる役割。
不登校や問題行動の原因がいわゆる発達障害であった
り、いわゆる発達障害のような現象面の背景に児童虐待
があったりと、支援を要する子どもの背景が複雑化して
きていることは学校現場で実感されていることだと思
う。これらいじめ、不登校、問題行動、発達障害、学業
不振等子どもの「困り感」すべてに対して、生活全般に
わたる適切なサポートが行えるよう、子ども理解・保護
者理解を深め、校内及び関係機関とのより良い連携を行
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うための人材育成及びシステム構築を図る。
5. 研究の進め方
・共通理解
この部会は、従来の教科研究ではなく、子どもや保護者
の「困り感」全般に対して適切な見立てと支援が行える
ことをめざしている。前半では、まず参加者の共通の基
盤を作ることをねらいとして子ども理解や機関連携に関
する研修や面接技法の実際についてのロールプレイング
等を行い、その後各校での実践をもとにした協議や事例
検討を行う。
・部会参加者による各校での実践
不登校・問題行動・特別支援教育・学業不振・児童虐待・
等、子どもの「困り感」への対応を一元管理出来る人材
の育成は可能かという試みであるともいえる。
SSW(スクールソーシャルワーカー)や要保護児童地
域対策協議会を活用しケース会議を経験出来る機会はま
れであり、各校で抱えて支援するケースがほとんどであ
るため、学校のスタッフが校内でのケース会議を運営で
きるような力量を身に付ける必要がある。
6. 教育研究所との連携 この部会は教育研究所の全面的な協力の下で、教育研究
所スーパーバイザーや臨床心理士による講義や演習によ
って進めていく。
参考資料 「生活サポートハンドブック」
(愛知県豊橋市教委作成)より抜粋
※一部本市の名称に置き換えています。
1.「生活サポート」ってどういうこと?
児童生徒への支援と予防
不登校・いじめ・学力不振・問題行動・発達障害による二
次障害・非行・不適応・対人不安等児童生徒がいろいろな
問題や困難を抱えているときに、自ら乗り越えていけるよ
うに児童や保護者を支援すること。及び児童生徒に過度の
負担がかからないように、さまざまな問題発生を、学校の
教育活動や対応などによって予防すること。
2. 生活サポート委員会について
(1)何のために開くの?
不登校を含むすべての児童生徒への支援のあり方について
の検討
校内連携、家庭との連携・支援、関係機関との連携(必要
に応じて)
児童生徒の現状を共通認識し、学校ができる手立てを講じ
ます。情報交換だけで終わるものではありません。
(2)構成メンバーは?
①基本形(例)校長・教頭・教務・校務・学年主任・生活
サポート主任・生徒指導主事・保健主事・養護教諭・該
当児童生徒の担任・特別支援教育コーディネーター・ス
クールカウンセラー
※必要に応じて、教育相談員、主任児童委員等にも参加
依頼し、専門的な立場からのアドバイスや地域の協力
を得たりします。
②小委員会 緊急性が高い場合、該当児童生徒に関係の深
い職員がすぐに集まり小委員会を開き、手立てを講じま
す。
(3)必要な資料、記録等は?
◎児童生徒の様子が分かるもの
摂津の教育のすがた
生活サポート部会第1回ガイダンス(H21.5.13) せっつ・スクール広場協議会
・教育支援センター(適応指導教室)
「パル」と連絡を密にし、
通級している児童生徒の様子を把握します。時には児童生
徒の顔を見に足を運ぶことも大切です。
・対 象児童生徒の心や体のことで、「学校がどう注意して関
わったらいいか」を聞きたい場合、その児童生徒が通って
いる病院の医師の話を聞くことができます。その場合は保
護者の承諾が必要です。
・その他、教育相談員や主任児童委員などとの連携や、さわ
やかフレンドなどの活用をします。
(例)①家庭環境 ②経過と現状 ③これまでの対応の仕
方(具体的にどんな指導・対応等をしてきたか)→対本人・
対学級・対家庭
3. 生活サポート主任の役割
(1)担任を支援する
・気になる児童生徒の様子を担任から聞き、情報を共有して、
担任と一緒にその子や保護者の対応に当たる。状況に応じ
てスクールカウンセラーや専門機関の利用を提案します。
・問題を抱える児童生徒やその保護者への対応について、担
任へアドバイスをします。担任が安心して対応することが
できれば、児童生徒や保護者と良い関係が築けます。
※特に、不登校児童生徒やその保護者への対応は大変な労
力を使います。学級担任が孤独感をもたないように支援
することが大切です。
4. 校内適応指導教室について
(1)設置の意義
・自己表現の場 ・社会性を養う場 ・学級復帰を目標に
力をためる場 ・自主学習の場
校内適応指導教室とは、様々な問題を抱えた児童生徒が、
日々、学級復帰を目指して登校してくる「居場所」です。
問題といっても「非行」ではなく、
「心の問題」を考えます。
人が怖い、集団の中では息苦しい、著しい不安におそわれ
るなど、心の状態が不安定で、教室で過ごすには少し苦痛
を伴う児童生徒が、安心して過ごせる場所であることが大
切です。
教室には、朝から登校できる子もいれば、午前中の授業の
途中から、もしくは給食中、その後など、児童生徒の状態
によって様々です。どんなときにも快く受け入れて、一人
ひとりがやる気を持って過ごすことができる「居場所」で
ありたいと思います。
(2)不登校などの児童生徒へのアプローチ
・不登校の児童生徒に対しては、担任やスクールカウンセラ
ーと一緒に家庭訪問をし、本人や保護者と話します。本人
に会えない場合は手紙を書きましょう。手紙はいつでも好
きなときに見られ、押しつけがましくありません。
・校内のすべての児童生徒に対して、その子の健やかな成長
のために、具体的な支援の手立てを考え実行します。
(3)人と人をつなぐ(校内マネジメント)
児童生徒にとって、関係の深い職員の間に入って、支援方法
などについての連絡、調整をします。
・スクールカウンセラーの予約の確認や連絡を確実にします。
(相談窓口としての役割)
・児童生徒と関係の深い職員と納得するまで話し合い、その
子に合った手立てを講じます。
いつでも相談しやすい雰囲気を作ることも大切です。
(4)関係諸機関との連絡・相談・協力
(2)どんな場所に置くか?
・職員室、保健室、トイレにちかいところ
・他の児童生徒の目に触れないで、入室できる場所
(3)教室内のレイアウトの例
下図参照
じゅうたんが
敷き詰められてい
教室内のレイアウトの例
ると、心地よい!
入り口
(北向き)
花 絵
内線
樹 木
つ い た て
机
机
机
机
机
本
机
カーテン
ホ ワ イ ト ボ ー ド
長 机
長 机
掲 示 板
テレビ
ビデオ
等
ソファー
畳スペースもあ
ると気持ちが落
レースのカーテンなどで外から見えないよう工夫する
ち着きます
窓(南向き)
摂津の教育のすがた
49
せっつ・スクール広場協議会 生活サポート部会第1回(H21.5.25) 「心の育ちの臨床心理学」
講師 教育研究所 臨床心理士 高濱 志帆 臨床心理士 小出 久美子
臨床心理士 渡邉 登至明
■はじめに(高濱)
支援を必要とする子どもに接するたびに教育以前の生活面の難
しさに直面することが多い。教育ができる環境にもっていくた
めに、目の前のこの子には何が必要なのか。
子どもは本来自ら「そだつ」ことができるものであり、少しの
サポートがあれば自らの力で生きていけるようになる。そのた
めにはどのようなサポートが適切なのか。
今回はこれからの部会の共通の言語・情報共有の核となるよう
に誕生から思春期までの「心の育ち」について確認していく。
■「心の育ち」とは(小出)
・「心の育ち」ということが共通の認識となり得ているだろう
か?
・心は時間をかけて育てるもの。
ゆっくり時間をかけて丁寧に育てられるべきところが、普通
に行われていない現状がある。そのためには、乳幼児期のス
キンシップは重要な意味を持っている。育児の質が問われて
いる。安定してすこやかに育つことが大切。 ・「母原病」ということが話題になったことがあるが、本当は
子どもにとって何が必要で、そのためにどうするかが問題な
のに、ここでは母の責任が問われた。
母性性は男女の別なく表れる。子どもの感じる心地よさのこ
とをいう。
・多様な発達論の中でウィニコットは環境の大切さをあげてい
る。
母と子は一体であり、ユニットとして考える。一人きりの赤
ん坊はいない。母役が必要。
・母親の原初的没頭:妊娠後期~出産後2 ~ 3 ヶ月の母親の赤
ん坊への没頭
母子一体から母子分離の移行期に移行対象が現れる。それに
よって自然な母子分離が可能となる。(例 スヌーピーにお
けるライナスの毛布)
気が付けばいつの間にか必要が無くなっている。
・適度に自立し依存する。
一人でいられることは、小学校入学までに達成できているこ
とが望ましい。一人でいることに不安の無い子が友達もでき
る子である。
目の前に母がいなくても、寄り添ってくれていると想像でき
ること。この時期に大きな不安を与えてしまうと妄想を抱く
など心の変調を来してしまう。
・徐々に、だんだん、ほどよく、自然にやっていれば、ほどよ
く失敗もする。完璧な母はむしろ必要ないのだが、現在の子
育てではこの「ほどよく」ということが大変難しいことにな
っているのではないか。
・母は子どもが育つ上で環境となること、心の育ちの上で安心
できる自然であること。
・移行期は遊ぶこと、創造することが大切で、そのためにもほ
どよい空間が必要になる。
・最近の社会状況は母が子をホールディングできない。母が不
安などにさらされている。
母子をホールディングする父、家族をホールディングする社
会が必要。
(ホールディング:抱っこすること。その中で安心して成長
できる環境となること。)
母子一体から母子分離へのイメージを図示してみた(図1)。
実際のケースで母子関係を見ていくときの参考にして欲し
い。例えば、思春期の相談で母子一体の状態にまで帰りたい
ようなら病的な引きこもりの可能性がある。
図1 心の育ちに伴う母子関係のイメージ図
⑤③
……
①
母
子
母
子
母
子
50
摂津の教育のすがた
④⑥
安心できる環境に包まれて母は子どもをホールディングしている。
子
②
移行対象
母子一体
安定した孤立
世界をまだ知らない状態
母
母子分離
ほどよい空間
(母と子の言葉や気持ちの
やりとりが続いていく)
生活サポート部会第1回(H21.5.25) せっつ・スクール広場協議会
■心の発達と青年期(渡邉)
1-0..青年期の心の育ち
・思春期・青年期の一般的な心の発達模様
・「親離れ」と「アイデンティティの確立」というテーマをめ
ぐって展開していく。
1-1.親離れのはじまり(思春期)~親離れの達成(青年期)
①前青年期(小学生高学年時代に相当)
②初期青年期(思春期、中学生時代に相当)
→「第二次性徴」による戸惑い、親や大人が完全でないことへ
の気づき、大人や親への距離と心細さ・依存というアンビバ
レント。
※自分だけれど自分じゃない。親から離れたいが不安。親友
の存在は大きく、徐々に安定していく。大人の矛盾を嫌悪
し反抗することもある。
③中期青年期(思春期、高校生時代に相当)
→親への本格的な距離、孤独や不安の埋め合わせとしての親友、
仲間とともに親や社会への批判や反抗による自己確認。
④後期青年期(20歳前後に相当)~⑤後青年期(20代半ば前
後に相当)
→親との安定した距離、他人の目による自己評価からの脱却と
自分自身の価値観の形成、親の良い面も悪い面も受容。
1-2.自分探しと自己確立
・アイデンティティとは?
自己の同一性、時間的な連続性、集団への帰属性からなる「自
分とは何者かという感覚」
2-0.「第二の誕生」という意味合い
・精神分析的な臨床心理学の考え方。
→乳幼児期の「分離個体化」という心の発達課題が青年期にも
「親離れや自己確立」というテーマとして繰り返される。(従
って、未解決の問題が露呈しやすい)という考え方を共有(=
「第二の分離個体化」)。
→精神分析的な観点では、乳幼児期において、母親の役割とは
子ども自身の心が子どもなりの体験をしていけるように心の
仕組みを育んでいく存在として考えられ、母子相互作用によ
る心の発達という視点が基本に据えられている。
→いずれにしろ、青年期を理解するには、「第一の誕生」であ
る乳幼児期の心の発達を理解することが欠かせない。
※以下、精神分析的観点からみた母子関係を通じての心の育ち
に関する理論をいくつか見ていく。
※いずれも、思春期・青年期の心模様や関わり方を考える上で
参考になる。
2-1.マーラーの理論
①正常な自閉期
②共生期
③分離個体化期
→分離の自覚とともに「分離不安」の出現。
→「再接近期危機」とよばれる現象(母親の反応への傷つきや
すさ、しがみつきや拒絶の揺れ、母親像の分裂、など)。
④対象恒常性の過程
→母親像の統合。
→母親からの分離と自律の結果、新しい自我機能、さまざまな
情緒的能力(独りでいられる能力、不安や抑うつに耐える能
力、罪悪感の能力)などが発達。
2-2.ウィニコットの理論
①絶対依存の段階
→母親の「抱える」機能、赤ん坊の「存在の連続性」の保証、
「本
当の自己」の基盤。
②相対依存の段階
→母親の「錯覚」から「脱錯覚」させる機能、赤ん坊の「移行
現象・潜在空間」の保証、遊びや文化の基盤。
③自立に向けて
→大人になっても一生続く(「ひとりでは生きられないのも芸
のうち」by内田樹氏)。
2-3.ビオンの理論
①母親の「コンテイニング」機能
→もの想い、ベータ要素のアルファ要素化(アルファ機能)、
②乳児のコンテイニング機能の取り入れ
→体験の意味化・内面化による心の形成。
参考文献:「精神発達と精神病理」下坂幸三 他編 金剛出版
■参加者の声・質疑より
(参加者)幼い頃の安心感が足りていない子どもが多いと感じ
る。
(講 師)重い病体の場合は組織内、チーム内の役割分担など
枠組みをつくり、自分一人で抱え込まないこと。関わる構造
作り、決まりを作る。より安定するため、きちんとさせるこ
とも大切。最初は不快かも知れないが、守られる・安心でき
るものであることを知ること。
(講 師)自分が安定していること、まず環境作りが大切。
(参加者)通常学級の子どもたちのこころのほぐし方をいかに
すればよいか課題に感じている。
摂津の教育のすがた
51
せっつ・スクール広場協議会 生活サポート部会第2回(H21.6.26)
「心の不適応のさまざま」
講師:(財)関西カウンセリングセンター 常務理事 川上 範夫
■心の不適応のとらえ方
・「病識」 病気ということのとらえ方、病気かも知れないと自
覚することついて
故河合隼雄氏は、正しいことは2つ以上ある。正しいことは
頭の数だけある。とよく言われていた。(一方ですべてとは
言い切れないが、1つの答えに収束させるのが教育の役割で
ある。)
「私は正しい、まともである、健康だ!」よりも「私は変か
も知れない?」と思う方が健康かも知れない。生活感覚を大
切にすることが重要。
サルトルは「自分はこうだ、と言ったとたんにズレていく不
安が常に生じる。」と語っていた。
・不適応も1つのあり方である。
精神病というあり方、ADHD(編者注:注意欠陥多動性障害)
というあり方。おかしな奴という見方をするのではなく、そ
れも1つの社会でのあり方なのだという理解をすること。
民主主義の社会では多数決で負けた方を排除する傾向がある
ので注意が必要。
・発達障害について
発達障害のような状態であっても、必ずしも脳の病気とは決
めつけられない場合がある。その見立ては大変難しいが、私
が関わったケースで、きちんとしつけをし、癖を直すことに
よって状態が好転した実例があるので紹介する。
(例)ADHDと診断されたある高校生の場合、最初は保護者
が診断名を盾に取り、医師からの指示どおりの対応を高圧的
に要求してきたため、医師の指示以外の対応ができず、教員
がその場の状況を判断して関わることができないことに対し
て戸惑いがあり、本人や校内の安全を保つことにも支障が出
た。この状況を学校側から医師に直接伝えて協議したところ、
診断名が取り下げられ、医療対象者からはずれた。そこで、
本人のためには学校と保護者が対等な立場での協力関係を成
立させて関わることが大切だということで対応を見直し、教
員全員で対策を立て実施した。その後状況は好転し、大変大
柄で力も強い生徒だったが、体育会系の教員等が常に様子を
観察して安全確保に努め、また、ボクシング部で活動するよ
うになって気持ちや力のコントロールができるようになって
いった。本人が生きやすくなるためのしつけとして周りの大
人が協力して関わることが時には大変効果的であるというこ
との例として紹介しておく。
・不適応を考える場合
「からだ、精神・神経、こころ」の3つの視点でとらえること
が重要。
・了解可能か了解不可能か
病気の範囲を決めるのは了解の範囲かどうかである。
・「傾聴」について
一切の自己の価値観を無くして聴くことが傾聴である。先生
方には難しいことかも知れない。
・発達障害とは
発達障害はパーソナリティーが癖を持つということだという
理解が大切である。その子が生きやすくなるためのしつけを
するという視点が大事。どういう子かということではなく、
どう言えばいいかを知っていれば安心できる。
とが肝要である。
中核不安論と不適応のさまざまより
・神経症的不安 神経症的不適応
・抑うつ不安 抑うつ不適応(うつ病)
関係体験不全による自己感希薄不適
応
行為の異常、社会性不安障害という
取り上げ方もある
(過呼吸、リストカット、摂食障害、
ネット依存、いじめ、バイオレンス、
ストーカー ほか)
発達障害という新しい範疇(高機能
広汎性発達障害)
・両極的分裂不安 人格障害(ボーダーライン)不適応
◎不適応のさまざまに関する具体的説明
からだの不調、精神・神経との不調、こころの不調のどこが
中心か考える
※ 三者を相互に組み合わせて理解を正確化していく。
・一過性現実水準不適応(一時的不調)
・神経症的不適応の実際(不安感情の病)
不安神経症、強迫神経症、ヒステリー神経症、離人神経症、
心身症、心気症、嗜癖症
・抑うつ不適応(心因性抑うつ症、仮面うつ症)(性格によ
る気分変調の病)
気分の落ち込み、時間的展望の萎縮
・関係体験不全に基づく自己希薄不適応の行動群(「実存感
不全」による「実存感希求」問題行動、行為の異常、社会
性不安障害ということもある)
リストカット問題、摂食に関する不適切行動問題、過呼吸、
ニート、いじめ、虐待、ネット依存、携帯フェチ問題、バ
ーチャルリアリティ行動化問題 など
・発達障害という新しい範疇(高機能広汎性発達障害)
広汎性発達障害、高機能自閉症、アスペルガー障害、注意
欠陥多動性障害(ADHD)、AdultADHD、学習障害(LD)
・人格障害(ボーダーラインパーソナリティー問題)不適応
の実際(性格と生活の病)
・精神病的不適応
躁鬱病(躁病、うつ病、躁鬱病)(深刻な気分障害の病)
・統合失調症(分裂病)(思考と意志の病)
■参考資料:当日配付レジメより抜粋
心と行動のひずみのさまざま(対象関係論に基づく)
◎不適応を考える、不適応への対応を考える
からだ ―――― 精神・神経 ―――― こころ
※問題行動、心の不適応を三者の関係で捉えて考えていくこ
52
摂津の教育のすがた
生活サポート部会第3回(H21.7.3) せっつ・スクール広場協議会
「心の相談機関の連携について」
講師:家庭児童相談室 室長 白山 真知子
■摂津市における要保護児童対策地域協議会と支援への取組み
・ネットワークが機能している摂津市
福祉と教育の協力が良好な摂津市は他市に誇れるネットワー
クを作り上げてきた。
・「障害児問題連絡会」
ネットワークはここから始まった。
府の保健所や子ども家庭センター、市の家庭児童相談室の連
携により、保護者がどこへ相談に行ってもきちんと受け止め
られるシステム作りに取り組んだ。
・「思春期問題連絡会」
昭和60年代に当時の茨木保健所摂津支所原田正文支所長(現
在は大阪人間科学大学教授であり、本市教育委員会の教育委
員)のリーダーシップのもとでこの連絡会ができた。このよ
うな組織は事務局会議が要となる。ここで本音を出し合うこ
とで連絡会が成長しながら継続していく。本市の良さはここ
にあり、この連絡会を引き継いだキャピセ(摂津市児童虐待
防止連絡会)で連携を熟成させてきた。
・「要保護児童対策地域協議会」への道のり
平成15年の個人情報保護法によりこれまでのようにケース
会議での情報共有が円滑に進められなくなる。
平成16年に児童福祉法が改正、法定協議会として「要保護
児童対策地域協議会」が制度化され、個人情報保護法をクリ
アして必要な情報共有が可能となった。
これまでは、万引きや不登校では個人情報を扱うケース会議
ができず、その背景に虐待の疑いが判明して初めてキャピセ
の会議で扱うことができるという状況があった。虐待以外の
ケースでも子どもの人権を大切にしながら早期発見・早期対
応をするために虐待以外の問題を扱う専門相談部会を新たに
立ち上げた。子どもの人権を大切にする立場から、事務局は
人権教育室長としている。これは子どもを守るとともに、連
携する者も安心して情報を共有できる、守られるシステムと
なっている。
■機関連携のポイント
・互 いの機関の役割とストレングス(どれほどの力を持つか)
を理解することが必要。
・トップダウンではなく、ボトムアップ。
機関相互が対等・平等であること。いずれかから命令されて
動かされてはいけない。
作り上げた当初の意義が忘れられると形だけが残り、一人ひ
とりの意見が大切にされなくなる。これでは機関連携は継続
も発展もしない。
・ケースによって役割が変わっていく。
信頼し、
情報を共有する。
クライアントの思いを大切にしながら動いていく、どこから
相談が入ってもきちんとつなげられる体制を作ること。
・ケースの分担 実際のケースでは主担・副担・見守る人、当面の目標とその
先の目標などを定めて進めていく。
■コーディネータ研修(人材育成)
・コミュニケーション技術、カウンセリングマインドだけでは
不十分。IメッセージとYOUメッセージの違いを知り、伝え方
の工夫をすること。押したり引いたり駆け引きができること。
聴く技術を磨くこと。
・ケース記録の書き方
何を残すのか、ポイントを押さえること。
判断の基準として、5歳の標準の発達について理解を深めて
いること。また、法律や定義の基礎知識を知ることも必要。
・各ケースの進め方のみならず、機関の運営方法も学ぶ必要が
ある。
・参考資料として「摂津市虐待対応防止マニュアル」
「特別支援
チェックポイント」など参照すること。アセスメントは単な
る検査ではなく、綿密に行う必要がある。
・機関の運営について(例)
全員が集まって情報共有し分担すること、強いパワーを持つ
保護者によって組織を分断されてしまうこともある。保護者
との2者の関係のみを大切にしていると多様な視点が忘れら
れてしまう。平面を立体に見ること、本当の姿を見ることが
大切。ここで、集約する力、コーディネートの力が問われる。
ネットワークミーティングは支え合える、孤立しない、分か
ち合える、人と人との連携である。
ここで、健康推進課の保健師の役割に注目して欲しい。母子
保健法のもとで、家庭の中に入っていける権限を持っている。
虐待対応や非行対応などに応用を考えるべきである。
■親支援
虐待を未然防止する、早期発見する、保護者の回復を図るな
ど多様なプログラムを家庭児童相談室で実施しているが、前
提として保護者に来てもらうことで始まる。
そこには本当に必要な人に届けられないもどかしさがある。
そこで、注目されるのが「ティーチャーズパワー」学校の先
生が学校で実施し、子どもをしっかりと受け止め、支えてい
くこと。
(例)ファンフレンズプログラム
ゲームや活動をとおして、子どもの自己回復力、自己肯定
感、社会的スキルを身に付けるプログラムで、2時間単位
の6 ~ 8回で実施するもの。
■参加者の声
・摂津市子育てに関する相談機関、セーフティネットについて
子どもたちが健やかに生まれ育つための環境づくりを推進す
る「子育て支援ネットワーク」、児童虐待への早期発見と早
期対応、未然防止のための「要保護児童対策地域協議会」が
あり、摂津市の子育てにおけるサポート体制が確立されてい
ること。また、摂津市家庭児童相談室をはじめ、各相談機関
の説明もあり、今まで知っているようでも曖昧なところがあ
ったので詳しく聞けて良かった。
・機関連携のためのポイントについて
「機関連携すると、平面が立体的に見える。」と言われていた
のがとても印象に残っている。学校だけでの対応ではなかな
か見えてこないことが、違う視点から見ると理解できたり広
がったりするので大切なことだと思う。
・「摂津市における児童虐待防止への取り組み」について
様々なプログラムを用いて取り組まれていることを知り驚い
た。系統立てた素晴らしいプログラムがあるので、必要とす
る親子が参加することができれば、虐待は減少するだろうと
感じた。
・コーディネータ研修について
きちんと研修を受けたコーディネータが増えれば、状況は変
わるのではないかという期待をもちながら聞いていた。
摂津の教育のすがた
53
せっつ・スクール広場協議会 生活サポート部会第3回(H21.7.3) 資料編
◎当日使用パワーポイントより
摂津の教育のすがた
児童虐待への早期対応、早期発見と未然防止
子どもたちが健やかに生まれ育つための環境づくり
54
摂津市子育てセーフティネット
生活サポート部会第4回(H21.7.17) せっつ・スクール広場協議会
「事例理解のための基本的枠組み」
講師:(財)関西カウンセリングセンター 常務理事 川上 範夫
■第5回「面接技法の実践研修」にむけた基本的事項の確認
事例検討や日々の指導の場面で、子ども・人間・心というも
のを見ていく時に参考となる観点を取り上げていく。
以下、当日配布資料に※印で講義内容の概略を追記する。
■当日配布資料
テーマ「子ども観・人格観に基づいて事例理解の手がかりを
得ること」
1. 子ども観からみえてくる事例理解のための着眼
※最初に様々な子ども観を紹介する。これらを知ることで子ど
もを見るときに少し余裕が生まれるかも知れない。
フロイトの子ども像
欲動的存在、
「エス(本能的欲動)あるところにエゴあらしよ」
とエディプス的人間像を目指す。
※動物とは異なり、本能をコントロールできる人間は、獣より
高級である。自分自身をコントロールできるようになること
が成長することであるという立場。近代民主主義社会の始ま
りの頃には、一般大衆は我慢し自己を抑制することが求めら
れたことを反映している。
ユングの子ども像
普遍的可能性内蔵の存在、無意識元型をふまえて究極の自己
実現に向かっていくことを目指す。
※フロイトに反対の立場のユングは、人間は深い可能性を秘め
ていて、選ばれた人はその可能性を開花させることができる
という立場。
※フロイトやユングの子ども像は一般大衆のためのある種の慰
めという側面もあるが、この通りにいかなくて困っている子
どもへの手立てを考える臨床心理士や教員には参考になるだ
ろう。
A. フロイトの子ども像
自我欲求に導かれる存在、適切な育児によって自我と超自我
の形成を目指す
※<フロイトの娘>、親の側からの刺激により子どもは自分自
身をセルフコントロールできる存在であるという考え。この
考えはアメリカの市民社会に受け入れられた。
この考えはアメリカの市民社会に受け入れられた。
O. ランクの子ども像
出産外傷をこうむる存在、癒しとケアによる心の再構築に向
かう
※心地よい母の胎内から、出産の時には苦しみながら全く違う
環境に置かれ、そこが出発点となるという考え。
M. クラインの子ども像
死の本能にさいなまれる存在、母親によるあがないによって
無事を確保し、その上で羨望から感謝へ、破壊から償いへと
導いていくことで成長を目指す。
※生まれること自体を拒絶的に考えており、嫌々ながら産み落
とされてしまう。無理矢理生かされているといった常にマイ
ナスの考えを持っている。成長したくない思い、企死、希死、
念慮など。
※魂の自殺、自己の心を押し殺すことによって生きながらえる。
そういった人たちには、哲学的に話さねばならなくなる。
ビオンの子ども像
ベータ要素の詰まった存在、母親のアルファファンクション
による浄化作用によってアルファ要素の獲得から概念機能の
獲得まで成長していく。
※子どもは放っておけばオオカミに育てられた子どものように
なる。文化を背負った母親が愛情をもって注ぎ込むことによ
って人として成長できる。決めごとの中で我々は生きている
ということも伝えていく。
関係性によって体験が意味を持ってくる。例えば幼い子ども
が転んだ場合に、母親が冷淡に接したり必要以上に騒ぎたて
たりすることは、いずれも対応としては不適切。母親がこの
ような対応を続け、子どもにマイナスの経験が積み重ねられ
ることによって、子育て関与が不十分なことが原因によるA
DHDなど、いわゆる発達障害となる心配がある。一方子ど
もが転んだときに、怪我がないか確かめ、痛いということに
共感し、やさしくさすることで気持ちを落ち着かせ、もう大
丈夫と声を掛ける。そのような一連の接し方の中で、
「転ぶ」
ということがどういうことかを知る。こうして一つひとつの
経験を積み重ねることで人として成長していく。
フェアバーンの子ども像
依存し関わることを渇望する存在、依存の渇望に対して適切
に応じる母親によって人格の構築が可能になっていく
※依存するということが人間の本性である。寄りかかる関係を
持つことで人間が存在する。もっと言うなら地球に、宇宙に
寄りかかっている、包まれているという考え。
バリントの子ども像
宿命的に依存の失敗が体験されて基底欠損をこうむらなけれ
ばならない存在、オクノフィリア、フィロバットといった基
本的関係行動傾向を環境が適応的に枠付けすることで育って
いく
※依存は絶対裏切られる。オクノフィリア(しがみつく感覚)
フィロバット(ほっておいてくれという感覚)
ウィニコットの子ども像
母親と一体ユニットの存在でイリュージョンによって対象を
共体験するところから始まる、子どものニーズに適応するた
めに子どもと母親のほどよい関係性の原理に基づいた関与が
行われることで人格化が達成されていく
※母と子は最初からセットで、授乳などの経験が積み重ねられ
ることで成長していく。また、この成長のためには上手に失
敗もしなければならない。例えば1人でお留守番ができるの
は母との関係が心の中にできているから。適切に2人でいる
ためには1人でいられることが前提、それが無ければ共依存
となる。
E.H.エリクソンの子ども像
人格発達の軸を持っている存在、それぞれのライフサイクル
の課題にかなった養育、対人関係の体験によって発達課題が
達成されていく。
※アイデンティティ(=最終的な人格の完成体のこと)の獲得
に向けての課題。
C.R.ロジャーズの子ども像
自然状態におくことができれば適応的に育っていく可能性の
存在、子ども中心の関わりによって子どもに備わった自己実
現能力が発揮されていく。
※自然の状態に置いておくと適応するという考え。1960年代
のアメリカの発展を背景とした考え。金融資本主義、安全弁
さえあれば放っておいても経済は成長するということ。
摂津の教育のすがた
55
せっつ・スクール広場協議会 生活サポート部会第4回(H21.7.17)
土居健郎の子ども像
甘えなければ生きていけない弱い日本人存在、親が甘えを克
服させるように育てることで一人前に成長していく
※戦後資本主義的自由主義社会のもとでの、アメリカへのコン
プレックスが言わせた言葉。若い頃に土居先生に直接「どう
して日本人なのに、日本人のことを悪く言うのですか?」と
聞いたことがあるが、「日本は輸入文化で生きてきた国だか
ら、輸入文化を担うのが文化人の仕事だ」という答えだった。
河合隼雄の子ども像
いろいろな面を相補的に備えた母性への依存的存在、元型レ
ベルの成長可能性を十分に体験していくことで統合的自己実
現に向かうことができると考えられる。
※河合先生が話されていた昔の船場の商家のエピソードを紹介
する。福助足袋のモデルは水頭症の子どもで、どこかに水頭
症の子どもが生まれると喜んで養子に迎え大切に育てた。そ
れは、この子の生活を維持するためには皆が倍働かなければ
ならない。そのことによって結果的にその商家も栄えるとい
うもの。同様に不登校の相談を受けた場合に、「家族皆で考
える良い機会ができましたね、可能性のある家庭だから不登
校になったのです。可能性のない家庭には起こりません。」
と言われていたそうで、起きていることにはすべて意味があ
るということを言われていた。また、関連することを大江健
三郎さんに聞いた。それは講演料はできるだけ高く欲しいと
露骨に要求しているというもので、障害のある我が子のため、
今の日本には我が子を守るシステムがないので、親として自
力でなんとかしないといけない、ということだった。昔の商
家には相互扶助の倫理がありシステムが働いていたが今は失
われているという皮肉なエピソードでもある。
河合先生の考えは子どもが生まれて家族が変わる、家族が動
いて子どもが変わるという関係で動いていく、というもの。
※動物としての子ども像と意味存在としての子ども像の間を行
き来しながら、総括的に子ども像を見てきた。発達障害とい
う子どもを見ていくときにどのように見ていくか、次の話題
に進む。
2. 臨床的事例理解への方向性
大きく分けて、不適切な心的内容、心的経験記憶が心の内面
に押さえ込まれてひずみとなって抱え込まれる、といった理
解が適切な事例と、子育て関与が不十分のゆえに子どもが社
会適応力を備えた「大人」への道を歩みそこなった、と理解
するのが適切な事例がある。
どちらの軸でクライアントに関わっていくかといった点は、
いずれ対象へのかかわり方における「覚悟」という点にかか
わってくる。
※本人の資質と環境の影響との両面から迫るということで、単
に強調点が違うということ。
具体例として考えると、昨今話題になるいわゆる「発達障害」
と呼ばれている子ども、大人たちへの理解と関わりについて
どのような子ども観を基本とするかによってみえてくること
が違ってくる。
3. 内
的力動性を関係性を重ね合わせて臨床実践を模索していく
着眼
ウィニコットの着想の始まり
「ほどよい抱っこ」とは相互関係的操作行動ではなく関係性
のインスピレーション、関係性のメッセージに従って関与す
ることである、という。
「ほどほど」
「そこそここんなもの」
「ほぼ大丈夫」
「ころあい」
と思えるようになっていくことをゴールとする実践論が展開
していくことになった。「ほどほど」「グッドイナフ」の実現
のためには「厳しい」「妥協のない」関与の構えがなければ
ならない、という逆説が背後に含まれている。
究極表現としては「関係性の体験感覚を生き生き(アライブ)
と味わうことができる」という実践感覚に集約されていくこ
とになった。
科学的思考、客観技術的思考に対する逆説的反省的着眼とし
ての意義
オーソドックスな精神分析も含めて「科学的合理的操作改善
モデル」を臨床的関与のモデルとして考えると、具体的な話
として、たとえば「ほどよく」「抱っこをして」ということ
になっても、その実現のための現場において、母親が理屈と
して説明としてはわかっていても実際の体験イメージにつな
がらなくて、結局、実践イマジネーションから実行への展開
が不可能なままに終わるということが起こる。
だから、
「母親が反省する」
「母親の子育て技術が向上する」
「そ
して子どもの問題が改善する」という因果的思考では行き詰
まってしまうことになる。
※例えば「ほどよい抱っことはどういうことか」をちゃんと分
かるようにと事前に説明を求める母がいる。やってみないと
分からないことがあるということが理解できない。マニュア
ルに依存し育児ノイローゼになってしまうこともある。
また、いわゆる学級崩壊についても因果論ではなく、兼ね合
いの問題として捉え、兼ね合いに変化を起こすための方法を
ともに考えていくことで解決に向かう。技術的・方法的改善
ではなく兼ね合いをどう変えるか。別のいいかたをすると、
クラスは空気でできている。一人ひとりの集合体が全体であ
るという要素論的科学主義ではなく、個人の個性の寄せ集め
だけではなく教室に空気があるというグループ理論に基づ
き、この空気を変えることによって改善できるということに
もつながる。
これに対して、関係体験モデルに基づいた癒しの臨床的実践
においては「母親が子どもの母親として生き生きと子どもと
の関係を体験できるようになる」とか「子どもが母親の子ど
もとして生き生きと関係を体験できるようになる」ことを志
向する、といったテーマに転じていく。
心理療法は二人の心が重なって遊ぶところに実現する。
ウィニコットの臨床実践に対する“最終的メッセージ”
心のつまずきは「心が遊べない」ことによって起こるという。
それゆえ、治療的改善を図るためには「遊べていない心を遊
べるようにする」こと、ということになる。
心が遊べているかどうかということは「普通に健康な人」で
あれば普通にわかることである。
※心の遊びがうまくいっていない例として次に様々な現代的問
題を列挙している。今の時代を象徴するような事柄が多いこ
とが理解できるだろう。
4. 関
係体験不全、関係性のセンスのつまずきから生じている現
代的問題
関係体験不全が瀰漫性(びまん:広がりはびこること)の実
存的不全感、実存的空虚感を招いてさまざまな今風の不適切
問題行動を引き起こしてきていると理解することができる
56
摂津の教育のすがた
生活サポート部会第4回(H21.7.17) せっつ・スクール広場協議会
実際の臨床的問題事象
幼児虐待問題、子ども虐待問題、夫婦間暴力問題、恋人間暴
力問題、老人虐待問題、行動障害問題
(突発性粗暴行動、キレ粗暴行動、逆ギレ粗暴行動)
リストカット問題、(時にはネックカットにまで至ることも
ある)
摂食に関する不適切行動問題、(やせ願望、拒食、過食)
過呼吸発作・呼吸不全問題、
学校、地域でのいじめ問題、ストーカー問題、
いま風不登校、難治引きこもり問題、ニート(NEET)問題(フ
リーター問題、パラサイトシングル問題もその延長線上にあ
る。)
自殺未遂願望問題、自殺企図問題、
インターネット依存問題、携帯フェチ問題、ネット援助交際、
ネット集団自殺企図、バーチャルリアリティー行動化問題(ネ
ット集団自殺ほか)
解離性人格問題、多重人格様体験問題、
発達障害といわれる問題(高機能広汎性発達障害)
高機能自閉症、アスペルガー障害、ADHD、広汎性発達障害、
学習障害
例えば、いま風リストカット問題、いま風摂食障害問題のウ
ラには、関係性の断裂感からくる自己感希薄の不安感覚と、
生きた関係体験希求のニーズが認められる。実際、生き生き
とした人間関係を体験することを通して問題事象は減衰して
いくものである。
引きこもり問題、NEET問題は、社会との関係性に丸ごとの
自分を賭けることが難しいと自覚した若者が陥っている問題
である。
関係体験不全がどのように内面形成されていくのか
―――遊びの心が貧困化してきている。ほどよい母親を体験
出来ない子どもが多い。ほどよい抱っこ、ほどよい親子関係
を経験できていない子どもが多い。
―――母親からのほどよい分離を体験できていない子どもが
多い。母親からのほどよい裏切りを経験できていない子ども
が多い。
―――一方で社会的には客観的合理的現実主義が支配する中
で、それに隠れてはびこるかのように、欲動主義、本能主義、
瞬間主義、刹那主義が横行して、子どもたち自身も自分たち
の心の動きに戸惑っていることが多い。
―――関係体験の不十分を未熟な防衛、すなわち、否認、切
り離し、投影性同一視、取り入れ性同一視で処理しようとす
る。そのことがやがて社会常識になってきた。
―――体験領域のスライス、人間関係のスライス、パーソナ
リティーのスライス化問題、乖離性反応問題の出現につなが
ってきた。
―――その実、関係体験不全の心では、分裂感に伴う不安問
題、false self(偽りの自己)感からくる存在感の不確かさ
が支配することになっている。
いずれも実践の上では「関係性を生き生きと生きられるよう
になること」が好転につながる。
※ここで、事例をどのように理解するかということに戻ると、
各々の子ども観、人格観でその事例をも理解をすることがで
きるということである。フロイトの子ども像だけで人間・歴
史・子どもを理解することもできるし、ロジャーズの理論で
学校や子どもを理解し、自然を回復することで課題を解決で
きることもある。
また、クラインの理論に基づいて、学級崩壊を起こす子ども
たちは自己の存在自体に怒りを感じているという前提のもと
に、怒りの方向をクラスではなく、本当は自己にあるという
ことに気付かせることで子どもたちが教室に戻っていくとい
う物語を実際に経験したことがある。
そして、ビオンの理論に基づいて裂帛の気迫で思いを注ぎ込
むこともある。
不幸せな話にはすさまじい人間観が通用するものである。ど
う見るかは自分の何に照らして考え、だから、どう変なのだ
と言えるかどうかである。
さて、次回の心理学的面接技法の実践、ロールプレイングは、
どのような路線で理解をするかは皆さんの趣味の問題、それ
は単に好みといった軽いものではなく、倫理・人間観・哲学
につながるもの。それが無ければ社会に迎合しているだけと
いうことになる。
学校における評価も、客観評価はあくまでも1つの見方であ
り、先生と子どもとの関係の中で理解し評価することも大切
ではないか。
次回の実践演習ではそれぞれが自分の人間観をもって面談を
すること。そのことによって知的・感覚的な快感を味わうこ
とができる。次回会場の教育研究所は、辺鄙な所だが空気が
よい。それはそこに集う人が醸し出すもの、人を迎える所と
して良い空気をもっているのでそのあたりも楽しみに参加し
て欲しい。
摂津の教育のすがた
57
せっつ・スクール広場協議会 生活サポート部会第5回(H21.8.20)
「心理的面接技法の実践研修Ⅰ・Ⅱ」
講師 教育研究所 臨床心理士 小出 久美子
臨床心理士 高濱 志帆 臨床心理士 渡邉 登至明
■講義1「見立て・関わり・連携 その1」(小出)
―― カウンセリング的交流に向けての実践体験学習 ――
※同じ日本語が、おしゃべりにもカウンセリングにもなりま
す。
以下に当日配付した資料を紹介し、講義の内容をお伝えし
ます。
カウンセリング的交流ができるためには・・・まず聞くこと
=まず話してもらうこと
そのためには・・・まず一定時間一緒に居られること
話してもらうためには・・・(相談者が)話してみよう、話
しても良い、聞いてもらいたいという気になる
*大切なのは雰囲気―適度なくつろぎ、落ち着き、安心感、手
ごたえ、信頼感・・・そして自然さ
(注意)雰 囲気を壊さないように気を遣い過ぎないこと(気
遣い≠気配り)、「自然さ」というのはあまり意識す
ると失われます、落ち着いていることが不自然なこ
ともあります。
その瞬間その場で出来るだけ自然でいるためには、適
度なリラックスと適度な緊張感が必要です。肩の力を
抜くこと、考え過ぎないこと(思考<感覚)、集中し
過ぎないこと、広く意識が行き渡ること(自分の身体
及び心理状態も気がつけること)、まず身体の状態を
整えて保つこと、等々
「話す」ことに焦点を当てた場合の相談者にとってのカウンセ
リング体験
1. 少し話してみて・・
もっと詳しく話したくなる、更にいろいろ話したくなる
今まで(或いは普段)誰にも話したことがないことを話し
てみたくなる
気がつけば自然といろいろ話していた
2. そうして話しているうちに・・
いろいろなことを思い出す、いろいろなことが思い浮かぶ
いろいろなことを感じる、考える
気がつく、ものごとが見えてくる
考えよう、向き合おう、見つめ直そう、という気になる
行動してみようという気になる 等々
3. いろいろ話したり考えたり感じたりした結果、また考えた上
でいろいろやってみた結果・・
・すっきりする、はっきりする、納得する、安心する、解決
する 等々
→一旦落ち着く→終了or継続
・考えることや感じることが活発になる→どんどん進んだり
広がったり深まったりする
→継続→落ち込む、イライラする、モヤモヤする→継続or中
断or終了
・上記1の部分が通常ラポールの形成(カウンセリングに必要
な最低限の信頼関係)と言われる部分です。まずある程度の
関係性が築けたときに2以降に進めます。
・上記2 ~ 3の部分が、通常カウンセリングと呼ばれている部
分です。実際のカウンセリングのプロセスは単純にいかない
ものです。時間を要する場合も多いし、相談者の状態やカウ
ンセリングの内容や相談者とカウンセラーの関係が、一時的
58
に停滞したり後退したり悪化したりする場合もあります。
・基本的な関わり(後述)は、ラポールの形成のためにも、そ
れ以降のプロセスを可能な限りスムーズに運ぶためにも、ス
ムーズにいかないときにカウンセリングを継続させ、関係を
維持するためにも、必要です。積極的な関わり(後述)以上
に功を奏する場合も多く、それはどのような理論や技法でも
同様です。
カウンセラーの基本的な心得
・ちゃんと聴くためには、ちゃんと居ること、ちゃんと見るこ
と(観ること)、ちゃんと感じること、ちゃんと味わうこと、
が同時に出来なくてはなりません。
・ちゃんと聴くこととは、話しの内容だけでなく、声や話し方
に耳を傾けることが出来ることであり、沈黙にさえも耳を傾
けられるようになることであり、言葉の奥にあるものや背景
にまで想いを巡らせることが出来ることです。
それらが出来ることにより・・・
・適切な見立てが出来ます。→適切な見立てによって適切な関
わりが出来ます。
・見立てとは、相手の状態について一定の把握が出来て、その
状態についていくつかのストーリー=今どういう現実的状況
にあり、身体及び心理状態はどうであり、どのような関わり
が適当で、そのように関わることによりどうなるだろうとい
う仮説が立てられるようになることです。人格の発達水準、
性格傾向、疾病や障害の有無、を見立てることも必要ですが、
単なるラベリングに終わらないようにします。複数の仮説が
立てられるようになると、対応がしやすくなります。
・適切な関わりによって、カウンセリングのプロセスが進展す
る、それなりの納得や解決に至る、無用なトラブルが避けら
れる、余計な時間や労力を消費しなくて済む、等々が可能と
なります。
・相手と自分の両方、そして周囲にまで意識を働かせながら、
適切な関わりが出来るためには前述(注意)のところで述べ
た適度なリラックスと適度な緊張が保てる身体の状態が必要
です。
基本的な関わりとは
・表情、態度、姿勢、頷き、相槌、オウム返し(繰り返し)、
言い換え、質問(開かれた質問、閉ざされた質問)、感情の
反映、要約などによって、相手の気持ちに寄り添いながら丁
寧に聴くことです。沈黙することも 時に大切な関わりにな
ります。
・上記表情、態度、姿勢、頷き、相槌などは日常のコミュニケ
ーションと同じですが、カウンセリングでは意図を持って自
覚的に用いる点が違います。(自分は)「何の為にうなずいた
のか?」
「何故笑ったのか?」についてある程度気づいてい
なくてはなりません。
・後からでも自分の関わりについて丁寧に振り返り、検討し、
細やかに工夫してゆくことで、カウンセリングの技術は磨か
れます。面倒なことですが、そうすることによって、ごく普
通のうなずきや相槌によって、普通の会話とは違うカウンセ
リング的(治療的、教育的)な効果が生じます。
・会話のための最小限のはげましとして、頷きや相槌の他に、
簡単な質問、繰り返し(オウム返し)などを使います。
・例としては、はい、はあ、ああ、なるほど、ええ、うんうん、
ふんふん、そうですか、へ~、ほ~、ふーん、え~!、そう
なんですか、そうでしたか、そうだったんですね、そんなこ
摂津の教育のすがた
生活サポート部会第5回(H21.8.20) せっつ・スクール広場協議会
とが!、そう?、それで?、それは?、それから?、というと?、
というのは?、で?、はい?、え?、う~ん、うむむ、ほか
には?、そこをもうちょっと話してください、等々です。(オ
ウム返しは後述)
注:意識することに関して
・前述したようにカウンセリングは自然さが大切で、会話にお
いても自然に生じるものも大切にします。意識的自覚的でい
ることと、雰囲気を大切にして自然でいることは、慣れれば
それなりに両立できるようになります。
・つまりその場の雰囲気で「言った」「笑った」ということが
あってもよいのですが、例えば「答えに窮してつい愛想笑い
をしてしまった」「沈黙に耐えられなくてついしゃべってし
まった」「話しの重さに耐えられなくて話しを逸らしてしま
った」というように自分で気づいていなくてはなりません。
・ふと笑ってしまったことで意図しなかったのに場の雰囲気が
なごんだり、ふと浮かんだイメージや言葉をつい口に出して
しまって、それが非常に効果的だったという場合があります。
その場合でも自分と相手との間で何が起きたかを冷静に振り
返ります。関係のなかで生じることは、計算通りには行きま
せん。偶然起きることも大切にしつつ、偶然性に無自覚に身
をまかせないように気をつけなくてはなりません。
・「今はとにかく聴こう」という意図を自覚している時は、余
計な質問はしないものです。「よく観察しよう」と思ってい
る時に、助言をしたりすることはありません。
・
「余計なことを言わない」と思うのではなく、
「ちゃんと聴こう」
と思います。余計なことをたくさん言ってしまうのは、「ち
ゃんと聴こう」と思えていないからか、意識しているけれど
話したくなる自分をどうすることもできないか、自分がしゃ
べっていることを自覚できていないからです。
・話したくなる自分は、
「抑える」のではなく「横に置いておく」
ようにします。
・相手の話しを聴いていて、いろいろ刺激されて思いや考えが
湧いてくるのは自然なことです。まったく思いがけないこと
を思い出して冷静でいられなくなることも起きます。相談者
とのほど良い距離と自分自身とのほど良い距離が必要です。
・知らないうちに巻き込まれてしまわないようにすることが必
要ですが、巻き込まれないようにと気を張るより、巻き込ま
れそうになっている自分、既に巻き込まれている自分に気が
つくことができれば、それだけでほど良い距離を取り戻せま
す。
・相談者についてよく把握できていないうちに、助言したり、
勇気づけようと褒めたり、共感的な気持ちを伝えようとして
も、それが全くずれていたり、逆効果になってしまうことが
あります。
・大切なのは、自分の関わりが、今目の前にいるその個人に添
っているかということです。同じ悩みや問題を抱えていても
一人一人違うわけですから、その人の場合、今、どうするこ
とが一番適切なのかは、その人と接してみて、そこから得た
生(なま)の情報をもとに関わる必要があります。
・生(なま)の情報を多く得るためには、自分の思いや考えは
少し横に置いておく必要があります。
・何を言おうか、どう上手く返そうか、と考えなければ、話し
をよく聴けて、観察に注意を向けることもでき、相手に対す
る理解が進み、見立ての精度が高まります。
・オウム返しは、語尾を繰り返したり、言葉をそのまま繰り返
したり、直前の話しの中に出てきた単語や話しの一部を繰り
返したりすることです。長い文章をそのままオウム返しする
こともあります。
・単語や文章をそのままを返してもよいし、「~ね」
「~なんで
すね」「~なんですか」と助詞をつけることもあります。
・イントネーションで語尾を上げると確認や疑問になりますし、
下げると言葉をそのまま受け止めたという合図になり、丁寧
に余韻をもって繰り返すと受け止めて味わう感じになりま
す。オウム返しの仕方だけで「分かりますよ」と伝える以上
に共感が伝わることがあります。
・一般的には、相談者の使った言葉を大切にすることで、相談
者を尊重していることが伝わります。「分かります」や「そ
れは良かったね」といった言葉や、相談者の言葉を自分の言
葉に言い換えることによって共感や理解を伝えようとするこ
とがよくありますが、相談者にとっては「何がどう分かった
のか」と感じたり「簡単に分かると言うな」「そんな簡単に
大変とか言うな」と感じたり、カウンセラーの言葉を押し付
けられているように感じたりすることがあります。
・相槌や語尾のオウム返しによって、話しの穂が継ぎやすくな
ります。会話の自然な流れを促進します。
・オウム返しされることによって、相談者は自分に対して客観
的になれます。ものごとの理解や自己理解、自己洞察を促進
します。もっと正確に表現したいと思ったり、自然と話しが
深まったり広がったりします。また受け止めて貰えていると
いう実感を得て安心感や安定感を感じることも出来ます。前
述したように尊重されていることも感じます。ただしオウム
返しを多用すると、相手は馬鹿にされているように感じるこ
ともあります。
・はじめから助言を期待していたり、一方的に話したい人、特
に一方的に不満や怒りを吐き出したい人などには、オウム返
しはあまり喜ばれません。関係性が築けていない段階では控
えた方が良いでしょうが、時に逆効果の効果が生じる場合も
あります。助言を期待している人には、出来るだけこちらが
答えるのではなく質問を使って自分で答えを出してもらうよ
うにします。助言してほしい気持ちは、理解して受け止めて
あげます。
・相槌とオウム返しだけだと深まりも広がりも生じず、進展し
ないように感じることがあります。その場合、焦らず丁寧に
質問や要約をします。
・質問は、必要に応じて、流れを邪魔しないようにしながら、
というのが原則です。
・本当に必要な質問か、よく考えます。人は自分がはやく理解
したい為、はやく納得したい為に質問しがちですが、待って
いたら、聞きたいことを、相談者の方から話してくれること
がよくあります。
・初めから事実確認の為の細かい質問をされると、相談者は自
分が話したいことが話せません。あるいは事柄の説明に終始
してしまい、肝心の気持ちが語れずモヤモヤが残ってしまう
ことになりかねません。
・相談者が何を分かってほしいのかということに意識を向け、
枝葉の部分に囚われないようにします。
・カウンセリングの場合、事実関係は詳細に正確に分からなく
ても解決する場合が多いものです。事実関係を正確に把握す
る必要が生じたときに改めて「もう一度お聞きしますが」と
質問しても構いません。
・質問するときは、
自分が何を聞きたいか、
何の為に聞きたいか、
意識しておかなければなりません。はじめの段階から一方的
な推測のもとに質問したり、一定の方向に誘導するような質
問は、望ましくありません。自分の推測や考えのもとに質問
する場合は、自分の考えを先に説明して質問します。
・話しを進めたいときや広げたいときは、「他には?」「そのこ
とで何か思い浮かぶことは?」「同じようなことで思い出す
ことは?」「どんな感じがしますか?」「どう思いますか?」
というふうな質問をしたり、具体例を尋ねます。
・明確化したい場合、解決に向けて具体的に話しを進めたい場
合も同様に「具体例をあげて貰えませんか?」「もう少し説
明してもらえませんか?」「その時のことをもっと詳しく話
して貰えませんか?」という質問の他、
「はい、いいえ」や
特定の答えを求める質問をします。答えが限定される質問は、
その質問によって話の焦点が絞られていきます。
・寡黙な人、話すことに抵抗があるらしい人などには、様子を
見ながら表面的で答えやすい質問をしてみてまず雰囲気をや
摂津の教育のすがた
59
せっつ・スクール広場協議会 生活サポート部会第5回(H21.8.20)
わらげることから入るのも一つの方法です。多用すると質問
が続かなくなりかえって気詰まりになることがあります。ま
た表面的な会話に留まり肝心の話しが聞けなくなってしまい
ます。
・「何故?」と問われると、責められているように感じて考え
られなくなったり、答えを考えるために頭ばかり使い気持ち
から離れてしまいがちなので、質問の形を変えます。
・「何故そんなことをしてしまったんですか?」問う代わりに、
「そのときどんな気持ちでしたか?」「どんなことを思いまし
たか?」「そのときのことをもっと詳しく話してもらえませ
んか?」というふうに質問してみます。経緯や状況を詳しく
丁寧に聞くだけで「何故?」という質問が不要になる場合が
よくあります。
・
「何故そう思うのですか?」と聞きたい場合、「どんな点から
そう思うのですか?」「そう思うのはどんな時ですか?」「前
にも同じように思ったことがありますか?そのときのことも
話して下さい。」といった質問が可能です。その他、質問の
仕方を変えるだけで、答えを導きやすくなります。
・要約をすると、話しを整理できるだけでなく、こちらが適切
に理解できているか確認することができ、ズレを修正できま
す。
・聴いていてあまりにも訳が分からなくなったときは話の腰を
折ることになっても「すみません。ちょっと確認させていた
だいてよろしいか?」「すいません。ちょっと分からなくな
ってしまったんですが・・・」とお願いして整理しても構い
ません。
・
「こういうことでいいですか?」「こういうことでしょうか?」
という質問形で確認します。
・相談者は、理解されることで癒されたり安定したり出来ます。
また自己洞察を促進し、ものごとを主体的に受け止めたり、
受け入れたり、解決してゆくことに役立ちます。
・しかし常にピッタリした理解を伝えることは不可能です。カ
ウンセリングとは、共同作業であることを忘れないようにし
ます。時間をかけて共通の理解にたどり着けば良いのです。
・相談者によっては共同作業の難しい人もいますが、一人で抱
え込まないようにします。どうすれば一緒にやれるか、どん
なことなら一緒にできるのかを考えます。
・要約のポイントは、事柄の要約ではなく、相談者が何を言い
たいのか、何を分かってほしいのか、特に気持ちの部分に焦
点を置いて要約することです。
・出来るだけ相談者の使った言葉を使って要約します。
・要所で的を得た質問や要約が出来るようになると、相談者の
状態にもよりますが、基本的な関わりだけでも、カウンセリ
ングは十分進展します。
・気持ちや感じについては、相談者が語った気持ちの言葉をオ
ウム返ししたり、「どんなお気持ちでしたか?」「どんな感じ
がしましたか?」と質問したり、確認したり、一緒に探索し
たり、味わったりするように心がけます。過去の時点での気
持ちも大切ですが、「語っている今」「語ってみた今」の気持
ちや感じを聞いてあげることも非常に大切です。
・ラポールを形成し、主訴とその背景を把握し、ある程度の見
立てをするためには、基本的な関わりが必要です。
・基本的な関わりは、だいたいは受身的です。基本的な関わり
が出来た上で、積極的な関わりをすると効果的です。来談者
中心療法は出来るだけ基本的な関わりを使います。理論によ
っては、積極的な技法を多く取り入れるものもあります。
積極的な関わりとは
・積極的な支持(*)、指示、助言、教示、情報提供、自己開示、
解釈、対決 等々です。より効率よく解決を目指したい場合、
実際的で早急な対応が必要な場合、普通に話していただけで
は進展しない場合や深まらない場合、相談者の状態がより積
60
極的な関わりを必要とする場合などに用いると有効です。基
本的な関わり以上に、相手をよく把握した上で、意識して用
いないと効果が無いばかりか、逆効果になることがあります。
*積極的な支持とは、操作的な意図をもって、相談者の状態や
特定の言動に対して支持を表明することです。
・「よくがんばったね」「よくできたね」「良かったね」「大丈夫
だよ」「それは良いね」等々、励ましたり、褒めたりするこ
とで特定の考えや行動を強化したり、保証を与えて支えてあ
げることなどです。
・自信のない人に自信を持たせてあげようとして一生懸命褒め
て、相手をかえって落ち込ませるのはよくあることです。
・相手をよく把握して用いないと、相手に負担になったり、依
存を助長したり、評価的なものの見方や考え方を助長するこ
とになります。「あなたはあなたのままでよい」という支持
が伝わらないことになります。
理論と関わり技法
・来談者中心療法
・精神分析と精神分析的心理療法、
・ユング派心理分析
・行動療法、認知療法
・家族療法
・その他
参考文献:
「マイクロカウンセリング-“学ぶ-使う-教える”
技法の統合:その理論と実際」アレン・アイビィ著、
福原真知子他翻訳 川島書店
■実習1(小出)
3分+(3分+2分フィードバック)×4パターン
※3人1組でカウンセラー役、児童・生徒役、観察役を交代
する。
※次の5つの方法でロールプレイングを実施し、その違いを
実感する。
1. いつもどおり
2. うなずきのみ(声を出さない、表情をつくらない)
3. うなずき+笑顔のみ(声を出さない)
4. うなずき+相づち+自然な表情
5. うなずき+相づち+オウム返し
■講義2「見立て・関わり・連携 その2」(渡邉)
―― 精神分析的精神療法、対象関係論的カウンセリン
グに向けて ――
※当日使用した資料を以下に紹介します。
精神分析の観点に沿った関わり
<前提>
◦無意識を含めた自らの心の内側(深層あるいは内的世界)
に気づいていくこと(意識化あるいは洞察的理解)を通し
て、心の変化(治療、情緒的発達)がもたらされる。
→このような前提に沿った形で、「専門的な口の挟み方(介
入技法)」が工夫されている。
*クライアント=専門的援助が必要な人々=「困っている子
ども、保護者」。
1. 注目のための解釈
◦クライアントが語ることの中の曖昧なこと、あまりきちん
と目を向けられていないこと、あるいは語ることで避けて
いそうなことだが、クライアントの自己理解に大事と思え
るところにクライアントの注目を求めるための介入技法。
→言葉に表わされてはいながらも意識できていないこと、あ
るいははっきり意識されていないことに気づかせようとす
る口の挟み方。
→注目を促す介入技法は、「明確化」と「直面化」に分けら
れる。
1.1.明確化
摂津の教育のすがた
生活サポート部会第5回(H21.8.20) せっつ・スクール広場協議会
◦クライアント自身が語っていても曖昧にしかとらえられて
いなかったり、本人は十分気がついていないことに注目さ
せる口の挟み方。
→クライアントの考えの流れにほぼ沿いながら意識化をもた
らそうとする。
応答例
◦「お母さんが忙しい、忙しいとばかり言ってあたふたして
いると、イライラしてきて、些細なことに文句を言いたく
なるんです」というクライアントの発言に、カウンセラー
が<あなたに関心を向けないお母さんに腹が立っているの
ですね>と応答する。 →語られていることにある関係性と感情をより明確なものに
する。
1.2.直面化
◦クライアントの意識に近いところにある考えや感情をクラ
イアント自身が曖昧にしていたり避けていたりしていると
きに、当該の考えや感情ときちんと向かい合うように促す
口の挟み方。
→明確化に比べよりラジカルな意識化をもたらそうとするも
のであり、情緒的に強く働きかける。
応答例
◦「私はゆっくりと人の中に入っていけばいいし、それまで
はうるさい人だけど、お母さんと一緒にいようと思ってい
ます」という外出恐怖のクライアントに、カウンセラーが
<あなたはひとりでやっていくのを避けていますね>と応
答する。
→クライアントが母親との分離を避けていることをそのまま
直面させている。
「先生の言うとおりです。私がもっとじっくりと取り組め
ばよいのを、私がそうしないから、・・・」というクライ
アントの発言に、カウンセラーが<あなたは内心では私に
責められたと感じて腹が立っているのでしょう>と応答す
る。
→クライアントが表面に示している従順さの奥にある怒りの
感情をきっぱりと浮かびあがらせて、本人に示している。
2. 探究のための解釈
◦クライアントが語ってはいても、それがどんなことかをも
っと探究する必要があると思われるときに問うこと。
→<それは何か?(what)>の問い。
→クライアント自身の手で、自分自身の心をもっと知ろうと
する作業を進めてもらいたいときに行う介入。
応答例
◦<どんなことなのですか、それは?><どうしたのでしょ
う?><何なのでしょうね?><どんなことと思います
か?><どんな感じなのでしょう?><それで?><そう
したら、どうなのでしょう?>など。
3. 解釈
◦クライアントが語っていることの無意識の考え、感情、欲
望、空想などをカウンセラーが言葉にして伝えること。
→解釈により、
「無意識を意識化する」作業が端的に行われる。
→解釈には、いくつかの精神分析的な理論的観点(心の仕組
みと変化に関する人間理解)に基づいて行われる。
3.1. 構造論的・力動的解釈
心は「エス」「自我」「超自我」の三つの構造からなり、自我
を中心とした力動的関係が展開する。
応答例
◦エス
→<どうしても○○したい感じ><どうしようもなく○○し
たい気持ちを抑えられない感じ><○○が我慢できない感
じ>など。
◦自我
→<△△をああでもないこうでもないと考えている><△△
を□□した方がよいと考えている><△△を□□すれば何
とかなると感じている>など。
◦超自我
→<△△についてどうしても××しなければならない感じ>
<○○しようとしても絶対に××しなければいけない気持
ちになる><××でないとどうにも落ち着かない感じにな
る>など。
3.2. 防衛解釈
◦自我は超自我やエスの命令・要求に晒され、また外的現実
への適応を迫られてもいるなど、常にその存在が脅かされ
ている(不安に怯えている)。このため、自我は不安から
身を守るためにさまざまな防衛機制を働かせている。
防衛規制の種類
・抑圧 自分では認めたくない考えや出来事を無意識(エス)
に中へ封じ込めてしまうメカニズム。
・否認 事実そのものは受け取るが、その事実が示している
ことを認めようとしないメカニズム。
・分離 自分に生じた行動や考えなのに、自分の気持ちを切
り離してしまいうメカニズム。
・反動形成 あるものや人物に対して抱いた感情や欲動を受
け入れられず、まったく反対の態度や行動をあらわ
すメカニズム。
・投影 相手に対して自分が抱いた感情や欲動なのに、相手
が自分に対してその感情や欲動を持っていると思い
こむメカニズム。
・同一視 相手に対して何らかの葛藤が生じたとき、相手の
行動や態度などを取り入れて自分のものにするメカ
ニズム。
・合理化 本来、ほかの動機がある行為や考えに対して、な
んらかの理由をつけて正当化してしまうメカニズ
ム。
・昇華 現実では満たすことが許されない欲望を、学問や芸
術などの社会的に受け入れられるものに置き換えて
みたそうとするメカニズム。
応答例
◦抑圧
→<どうやら、思いだすのが難しいようですね>など。
置き換えあるいは投影
→<あなたではなく彼の方が憎んでいるのだと、あなたが思
われたいように感じられます>など。
3.3. 不安解釈
◦自我の防衛機制によって守られている背後には不安を中心
とした生々しい感情がうごめいている。
→不安や怯えは自らの本能(エス・・・愛情や憎しみ)に由
来する。
→不安に焦点が当てられてることで不安の性質が変化し、そ
もそも不安の起源である自らの本能に責任が持てるように
なることが、乳幼児期の心の形成・成長と発達の道筋(自
我の発達)でもあり、終生にわたるものでもある。
不安の性質と変遷
破滅 ‐ 解体不安→迫害不安→抑うつ不安
応答例
◦破滅不安 →<消えてなくなってしまいそうな感じ><何もかもが駄目
になりそうな感じ>など。
◦解体不安
→<バラバラになってしまいそうな感じ><こなごなになっ
てしまいそうな感じ>など。
◦迫害不安
→<誰かのために動かされている感じ><誰かが自分を操作
していると感じる><○○に陥れられる、裏切られる、悪
摂津の教育のすがた
61
せっつ・スクール広場協議会 生活サポート部会第5回(H21.8.20)
口を言われる、という感じ>など。
◦抑うつ不安
→<相手に迷惑をかけてしまうのではないかという感じ><
相手を傷つけてしまったのではないかという感じ><相手
に許しては貰えないのではないかという感じ><自分には
どうにもできないという感じ><将来に何も希望が持てな
い感じ><八方塞がりで何もできない感じ><ああでもな
い、こうでもない、どうにも決まらないという感じ><両
方の気持ちがあって何ともまとまらない、迷ってしまう、
困ってしまう感じ><落ち込んでしまって動けない感じ>
<身体の芯に力が入らない感じ>など。
3.4. 転移解釈
<転移現象とは>
◦クライアントのカウンセラーに対する対人関係は、関係が
深まると、クライアントの過去の重要人物(父親・母親・
兄弟姉妹・子供・友人など)との対人関係のかたちをとり
やすい。
→過去の対人関係が場所を移してあらわれるというのが転移
の原義であり、転移という現象は対人関係一般にも広く見
られる。
→転移現象を取り扱うことで、そこに展開されている心の世
界をさらに探究できる。
応答例
◦<お母さんと同じく、私もあなたの行動を軽蔑していると
思うので、あなたは今私に腹を立てているのですね>
◦<今ここで私に対して言われていることが、幼いころのお
母さん(重要な他者)との間で経験したこと(想い)と重
なるところがあるのではないでしょうか>
◦<私とのあいだで、自分は理解されないのだといつも失望
されますね。かつて信頼していた中学の先生とのあいだで
もそうした理解されない失望がありましたし、幼いころの
お父さんとのあいだでも自分は理解されないと感じていま
したよね> など。
3.5. 心の歴史性(再構成)解釈
◦過去にあった体験、とくに心に大きな衝撃を残した体験の
状況やその展開を、あらためて構成していくための解釈。
→精神的な苦悩の発生時点に遡って、その起源となった出来
事のあり様を再体験し、心のもつれが解きほぐされていく。
応答例
◦<今おっしゃった話は、以前に経験された何かと関連があ
るんでしょうか>
◦<今ここで言われていることは、以前子どものころに経験
したことと関係ありますか>
など。
3.6. ウィニコットの新しい観点
<遊び>
◦心の不調や変容は、「遊べていないこと/遊べていること」
62
に集約される。
<創造性>
◦遊びは、新しい生き方への展望など、創造性につながる。
<応答例>
◦遊び
→「まあ、そこそこ、こんなものという感じ」「こんなもの
で仕方がないなあという感じ」など。
◦創造性
→「今までと違う体験になっているという感じ」「自分でも
分からない考えが浮かんでくるという感じ」「気づかない
うちに今までと違う考えになっているなあと感じる」「こ
んな見方や考え方ができそうに思う」など。
参考資料:「精神分析的カウンセリング」川上範夫
■実習2(渡邉)
「困っている子ども」の面接技法の実践研究
3分×3人+5分フィードバック
※3人1組でカウンセラー役、児童・生徒役、観察役を交代
する。
全体シェアリング
解説及び実践研究より
・本人のやり場のない怒りのパワーに怒りで対応せず、受け止
めることも必要。
何でも人のせいにする場合、指導的な関わりでは改善しない
ケースもあり、逆説的・非常識な対応が必要な場合もある。
Q:生活指導とカウンセリングは両立できるか?
A:トラブルがあった場合に、ダメなものはダメだと毅然とし
た姿勢を示すことは必要。
改めて時間をとって話しを聞いてはどうか、その際先生は
喋りすぎる傾向があるので沈黙に耐えることが必要。同じ
教員と生徒との関係でも設定を変えることで関係や内容を
変えることはできる。
また、役割分担することや、事前に結論を持って関わらな
い、結論を急がない、良い悪い・できるできないの評価を
せず気持ちに着目することなどが大切。
■実習3(小出)
「困っている保護者」の面接技法の実践研究
3分×3人+5分フィードバック
※3人1組でカウンセラー役、保護者役、観察役を交代する。
全体シェアリング
解説及び実践研究
■教育支援センター(適応指導教室)「パル」見学
※プレイルームや学習室の環境整備の意図や様子、日々の活
動について職員より説明をする。
摂津の教育のすがた
生活サポート部会第6回(H21.10.23) せっつ・スクール広場協議会
「事例検討・提言検討」
講師:(財)関西カウンセリングセンター 常務理事 川上 範夫 教育研究所 臨床心理士 渡邉 登至明 ■事例検討の意味と意義・事例検討の進め方について
枠組みや方法について、レジメに基づいて確認をしておく
※印は編者注
1. ことばについて
事例検討、事例研究、ケースカンファレンス
2. 対象についての研究方法
実験的方法 ―― 実験群と統制群を作って実験し、比較
検討する。
そして一般的法則を見いだす
調査的方法 ―― 一般的に多くの人にアンケートして数
量的に処理して一般化法則を見いだす
※因子分析
事例観察法 ―― 典型事例、特異な事例の場合先験的な
知見の提供の意味を持つ
※エ イズや新型インフルエンザなど、
1件の事例で皆が学べて意味があり
役立つ。 関与しながらの事例研究法 ――「参与しつつ観察する」
という方法的に矛盾した
ことを同時的に行う
※現 象学的方法、まっす
ぐに観察する。白紙に
なろうとすることが大
切
・単一事例の繰り返し検討 ―― 追跡的観察検討
※日 々変わっていく様
子を観察する。
※見 る者と見られる者
と の 関 係 で 決 ま る。
双方関与する。常に
動いている。
・少数事例の多面的多角的検討 ―― 新 たな仮説構築の
ため
※ 研究しながら
仮説を変えてい
く
・心理臨床研究的事例検討 ―― 行 動とか問題について
のからくりを明瞭化し
(心理臨床的)
て合理的な解明が可能
になるように試みる
※あ る現象の背景、内
面(精神分析)をさ
ぐる
3. 事例検討形式
個別スーパービジョン
※スーパービジョン=監督指導・客観的な立場からの(経
験者による)助言・指導
集団スーパービジョン
集団事例検討ディスカッション ※本 日これから進めるの
はこの方法
4. 事例検討の評価
消極的理由
・一人ひとり違うので集計して数量化することは難しい。
積極的理由
・一つの事例に深く関わった実際例を聴くと聴いた側は
感動を覚えて自分が実践する場合に向けてのスピリッ
トを刺激活性化される。
・そのためには逆にデータが一人または少数に限られて
いる方が迫力が出る。
・聞いた人の主体的な感動が肝要。
5. 報告事例検討のための調査方法について
・事例と相談者の間の適切な距離が肝要
近すぎると聞く人が息詰まる
遠すぎると聞く人がしらける
プライバシーや人権への配慮が必要
秘密保護の倫理
6. 事例検討の進め方 ・生育歴、生活歴、家族歴 ※歴史・時間の経過を差別的
に扱わない倫理が必要
・問題発生の経緯についての理解
トラウマ論
欲求不満論
・見通しの検討
■提供された事例に基づく検討
※事 例の内容を加工することが難しいため事例の詳細は省略
し、主な検討内容を以下に紹介する。
(報告者)本人は攻撃的で集団生活になじめない、学習にも
向き合えない。能力が高く、大人に対して試し行動をとる。
見立てと対応について専門家の意見を聞きたい。
(渡邉)本人のエネルギーは大きく、母の注目の方向によっ
て行動が変わっている。人との関係の中で変化している。こ
れは発達の問題、気質の問題ではなく、まわりとの関係性の
問題のようである。
(川上)つまり一定のパターンから外れず、行動の異常が継
続していたら障害といえるが、状況によって行動が変わるよ
うなら環境によるところが大きいということである。性格形
成の上での問題なのか気質的なものなのかは比重の問題であ
る。
「どう見立てるのか」あるいは「どうしていくのか」今後の
検討の方針を決める必要がある。
(報告者)本人の行動が荒れる前には、必ず教員が母と懇談
をしている。という因果関係がある。母と本人との関係の難
しさを感じている。
(川上)母の変容の可能性はどれほどか?父も併行して関わ
れる可能性はあるか?
(渡邉)母へのカウンセリングはどうかと考えると、かなり
困難が予想される。母からマイナスの影響が無ければそれで
よしとしておくのも1つの方法である。
(川上)つまり、母が変わるということは、母が一度壊れる
ことを意味する。その過程の激しさや混乱を考えると大変難
しい。構造(枠づけ)がしっかりした中で、有能な臨床心理
士ならできるかも知れないが、失敗すると更に増長する。受
容・共感・傾聴も母が反省するつもりなら効果はあるが、そ
うでなければ逆効果である。この際母に関与することは考え
ない方が無難ではないかという意味を含んでいる。
ここで、母と戦えるかどうかということが問題になってくる。
感情ではなく具体的におかしいところを伝えていく。軸をぶ
らさずに対すること。母の40年の歴史を覆し、普通に戻す
こと。子どもを普通に叱り、普通にほめること。母の機嫌次
第で、自分の気分に合っているときだけほめるのではダメだ
ということを伝えること。
この母に立ち向かう心意気があるかどうか、担任一人だけで
なく、職場の体制作り、戦い方・戦略が必要になる。要は本
人をどう育てたいか、きちんと座ってしっかり学べるように
なって欲しいという教員の強い思いが行動に移せるかどうか
である。
これは、余談になるが、このような母の話を聞くたびにこ
摂津の教育のすがた
63
せっつ・スクール広場協議会 生活サポート部会第6回(H21.10.23)
れまでの教育で自由と平等は教えてきたが、倫理や価値基準、
コモンセンスを教えてこなかったことへの反省を強く感じ
る。
■参加者の声 ※後日寄せられた文章から抜粋して紹介
・事例として取り上げた児童の様子や家庭背景などを担任の
先生が詳細にまとめられ、どう関わってきたかということも
しっかり話されたので状況がすぐにイメージできました。事
例の中で担任や他の先生の関わり方、校内組織や関係諸機関
との連携の仕方なども知ることができ、チーム対応ができて
いると実感しました。川上先生の助言では、実情と戦略でど
こに向かってどう変えるのかということを具体的にお話いた
だき、ひと言ひと言にこれまでの経験則からくる説得力があ
り心強い存在だと感じました。この回では時間がとれません
でしたが、事例研究を聞いていた他の先生方との意見交流も
行えたらと思います。また、実践的な研修である事例研究や
ケース会議の流れなども、もう少し回数を重ねて参加するこ
とができれば、実践で活かせるスキルを身につけることがで
きるのではと思いました。
・今回の実際の問題は、その児童というよりも、児童の親に
大きくあるものだと分かりました。ここで、川上先生のおっ
しゃった言葉が私の目を点にさせました。
「親をぶっこわしましょう。」
あの優しいお顔から想像がつかなかったこともありますが、
私の予想に大きく反しました。親の価値観や子どもに対する
愛情など、おかしいところがあるのなら、じわじわと壊して
いけばいいのです、と。
私自身、児童の親に悩まされており、どうして自分の子ど
もに愛情を注いでやらないんだと思いながらも、何でも正当
化する方にどうしていいか分からない経験をしたことがあり
ます。何よりも、子どもの実態からの「生の手立ての声」を
聞けたのが大変よかったと思います。しかし、それもそれ以
前の様々な講義での子ども像を学んだ上でだと思います。川
上先生のような手立ては、私は未熟ですからできませんが、
何とか色々勉強させて頂きたいと感じております。またこの
ような立場の方が身近にいらっしゃるのは大変心強いです。
・家庭環境が大きく起因していると思われる事例を聞き、課
題を積み残したまま成長している様子が具体的に伝わりまし
た。そして本人の言動に翻弄される担任の苦悩を自分のこと
のようにとらえ、真剣に考え込んでしまいました。
事例を聞きながら、的確に的を押さえながら話される川上
先生の話がとても印象的でした。「一定のパターンから外れ
ず、行動の異常が続くようなら『障害(気質)』と言い、日
によって状況によって行動が違うのなら環境による要素が大
きい」と言われましたが、とても分かりやすく、クラスの子
どもを思い浮かべながら「なるほど、なるほど」と感心して
いました。「母親を壊す」という衝撃的な言葉・お話しに驚き、
逆に担任が「壊れて」しまわないかと心配しながらも、子ど
もや親と正面から向き合う本気さを感じました。私たち教員
自身がぶれないこと、保護者へ何がおかしいかを理路整然と
伝えられること等、子どもたちへ支援をしていく上で必要な
たくさんのキーワードをいただきました。この事例検討を通
して彼の幼少期の様子を思い、今目の前にいるクラスの子ど
もを思い浮かべながら、環境による課題を積み残したまま小
学校へ進学させずにすむ支援の必要性を改めて大きく感じま
した。
・研究方法に様々な方法がありましたが、私たち教職員に一
番に身近でよくする方法は関与しながらの事例研究法だと思
いました。「参与しつつ観察する」という方法的に矛盾する
ことを同時的に行うというのは、まさに教師のやり方だと思
います。「単一事例の繰り返し検討」や「少数事例の多面的
多角的検討」や「心理臨床研究的事例」があり、そのどれも
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学校では日常的に行っていることが多いと思います。また、
事例検討の進め方は、今まで校内のケース会議で実際に行っ
ていますが、このように整理したことが無かったのでよく分
かりました。後半の実際の事例検討では事前の講義で使用し
た言葉を使いながら児童の様子・経過などを報告して頂きま
した。その児童の様子を聞いていると自分の学校にも同じよ
うな問題行動を起こす子がいることに思い当たり驚きまし
た。
事例検討を行っていく中で議論の柱を①「なぜこうなのか」
②「これからどうすれば良いのか」のどちらで話しをするか
絞ることが大切だと教えて頂きました。他にもビジョン(教
育観)を持って、対象にあたることや方法として「友愛」「戦
略」があることも教えて頂きました。この回に学習したこと
は、実際に学校の中で生かして問題行動にあたることができ
るものが多く、大変勉強になりました。経験の少ない若手の
教職員ではどのように対応すればよいか悩むことも多いので
すが、このように実際の例を取り上げて、対処法や考察を学
習できる機会が多いとありがたいです。問題行動には一種類
だけでなく様々なケースがあるのでたくさんのケースに対す
る考察や対処法をもっと教えていただけるとありがたいと思
います。
・今回の報告内容と検討は自身が抱える問題と合致しており、
非常に具体的で対応について参考となることが多々あった。
生徒本人の抱える問題行動の背景に、家庭が大きくのしか
かっており、保護者との対峙が大きな課題となってくる。保
護者本人が親としての問題を持っている。親が親としての機
能を果たしておらず、親自身が自分を持て余していて、子ど
もとともに育とうとしていない。そして、その親たちを教育
してきた世代が今の50代の教員であり、その子どもたちが
現在の児童・生徒であると指摘されたことは痛烈であった。
親自身に対しても教員は真っ向から向き合わないといけない
との提言については、教員の仕事の重みを今更に感じ入った。
苦言を呈することは、生徒の自律・自立を促すためにも保護
者に突きつけていかなければならないと思った。現実のとこ
ろ、保護者の姿勢によって翻弄されている生徒を見ていると、
自分に何ができるのかと考えさせられる。だが、将来自分の
足で立ち、経済的自立ができるためにもできる限りの支援が
できるようになるために「生活サポート部会」を通じてスキ
ルアップを一層図りたい。
■提言検討 ※後日寄せられた文章から抜粋して紹介 テーマ:
「生活サポート」という役割の可能性と校園内に位置
づける上での課題
・「生活サポート」という役割については、学校現場ではな
くてはならないものだと痛感しました。担任だけが悩んでし
まうのではなく、学校が支えてくれることでどれだけ救われ
ることでしょうか。実際、私の学校では名称は異なりますが、
生活サポートの役割に似た組織があります。この組織のおか
げで、担任一人が悩むことはないですし、学校の共通認識と
して、学校が見守っていくという心強い方針があります。実
際、緊急を要した事態でも早急に応対してくださったり、不
登校で悩んでいる児童に対しても、お迎えや担任との連携な
ど、肌理細やかな対応を大変ありがたく思っています。
しかし、課題として、やはりどの職員でもその役目ができ
るように、知識をつけなければならないことだと思います。
学校現場では必要な事項ですので、私を含め学習しなければ
ばらないと思いました。
約一年間の長いスパンで、貴重な機会を与えて下さった教
育委員会の方に深くお礼を申し上げます。そして、また川上
先生の心温まる、そしてはっとさせられるご講義をお聞きし
たいと強く思います。本当にありがとうございました。
・気になる児童についてのサポート体制は学校によっても違
うが、校内体制が確立していて、いじめ不登校対策委員会や
摂津の教育のすがた
生活サポート部会第6回(H21.10.23) せっつ・スクール広場協議会
特別支援委員会の中で毎週ケース会議が行われ、教職員の連
携がとれているところもあれば、校内組織としていじめ不登
校対策委員会や特別支援委員会は存在するが、機能していな
いというところもあると思います。また、校内組織やサポー
ト体制について、管理職の意識と位置づけが学校全体として
できていない場合は、教職員間でもきちんと図られていない
ため重要視されないということがあると思います。さらに、
組織の主軸となるコーディネーターの動きによって、サポー
ト体制や会議の流れの運びがスムーズにいくかが決まるよう
に思います。また、ケース会議などで子どもの見立てや方向
性を決める時にカウンセラーの助言なども重要であり、ズバ
リと真をついた助言をいただけるカウンセラーの存在が大き
いように思います。今後、学校の校内体制として「生活サポ
ート」という役割は、いじめ不登校対策委員会や特別支援委
員会などの分野とどう兼ねていくのかという課題や、いじめ
不登校対策委員会が十分機能していない学校でどう位置づけ
ていくのかなどの課題があると思います。組織の中身と動き
については、学校全体で共通の認識がなければ、スムーズに
連携することも難しいため、研修等が必要だと思います。ま
た、気になる児童や不登校予備軍について少しでも早い段階
から十分な支援体制や引継ぎがあれば、対応が困難になると
いうことを防ぐことができるので、校内組織としては必要な
役割だと思います。
・「生活サポート」の取り組みの推進はもちろん、それ以外
の取り組みにおいても、スタッフ配置上の課題が幼稚園には
多くあります。個人的にはスキルアップしたいと考えても専
門的な知識を得て取り組むというところまでいかず、日々歯
がゆさを感じています。このような中で保育しているので、
幼稚園でも機能的に支援ができるスタッフ体制にならなけれ
ば、「生活サポート」や「コーディネーター」が名ばかりで
機能していかないと思います。
摂津の教育のすがた
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