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欧州マイナス金利政策と 住宅金融市場

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欧州マイナス金利政策と 住宅金融市場
特 集
4
マイナス金利下における住宅金融
欧州マイナス金利政策と
住宅金融市場
国立大学法人 和歌山大学
経済学部 准教授
簗田 優
(やなた すぐる)
2002 年獨協大学外国語学部卒業。I T 企業、米国製薬企業等勤
2. マイナス金 利 政 策の欧 州
先行事例 1)
欧州では、2008 年以降の世界的な金融危機にくわ
え、2010 年のギリシャ危機、2011 年の欧州債務危機、
務の後、2011 年獨協大学大学院修了。博士 ( 経済学 )。2012 年
そしてユーロ危機などの金融危機が生じてきた。危
4月に和歌山大学経済学部着任、2014 年 4月より現職。2012 年
機が生じるたび、欧州中央銀行 (ECB) は政策金利
証券経済学会優秀賞受賞。専門は金融論、証券市場論。
引下げや資産購入プログラムなど金融緩和を行った。
ECB による金融緩和は、本来はユーロ圏の金融
市場に向けられたものであった。しかし、緩和効果
1. はじめに
の波及過程では、ユーロ圏外の周辺諸国にも影響
は及んだ。詳しくは後述するが、
デンマークやスイス、
そしてスウェーデンなどでマイナス金利政策が導入
現在、欧州では複数の国および地域でマイナス金
された背景には、ECB の金融緩和が影響している
利政策が導入されている。同政策が、欧州の住宅
側面もあった( 表 1)。
金融市場や住宅市場にどのような影響を与えるの
欧州で最初にマイナス金利政策を本格的に導入
かについては、現時点では評価が難しい。しかし欧
した国はデンマークであった。デンマークが同政策
州の一部の国々では、マイナス金利政策導入に前後
を導入した主な要因は、
為替レートの維持であった。
して住宅金融市場に変化が生じている。そこで本
デンマークは欧州通貨安定メカニズム( ERMⅡ)
稿では、まず欧州におけるマイナス金利政策の代表
の対象国であるため、デンマーク国立銀行 ( DNB)
的な事例を確認した後、導入前後の各国住宅市場
は、デンマーク・クローネ ( DKK)とユーロの為替
および住宅金融市場について検討する。
レートを1ユーロあたり7.46038DKK(±2.25% )に維
持することを重要課題としている。そこで、DN B は
1) 本節は概略のみであるが、マイナス金利政策の欧州先行事例について詳しくは簗田 (2016) を参照されたい。
30
表 1 マイナス金利政策を導入している主な国および地域(本稿執筆時点)
導入発表日
対象および現状
主要な目的
デンマーク
2012 年 7月4日、
2014 年 9月4日
C D 金利
−0.65%
為替安定
ユーロ圏
2014 年 6月5日
預金ファシリティ金利
−0.3%
物価安定
2014 年 12月18日
当座預金金利
−0.75%
為替安定
レポ金利
−0.5%
為替・物価安定
スイス
スウェーデン
日本
2015 年 2月12日(2009 年 7月7日)
2016 年 1月29日
(新規)
当座預金金利 −0.1%
物価安定
(出所:各国中央銀行)
金利差変動による為替レート変動を避けるため、政
( CHF) 高への対応であった。この時期の CHF は、
策金利をECB に連動させている。そのようななか、
ユーロ圏の金融危機とECBの金融緩和にくわえ、
ア
ECB が 2012 年 7 月5日に利下げを行うと、DNBも
ラブの春など政情不安の資金逃避先として大きく買
利下げを行い、CD 金利を-0.2%とした。これにより
われていた。CHF 高は輸入物価の下落を通じてス
デンマークは欧州で本格的なマイナス金利政策を導
イス経済に利益をもたらすが、一方で貿易環境悪化
入した最初の国となった。なお DNB は2014 年 4 月
にくわえ輸入価格の下落を通じインフレ率の低下も
に一度はマイナス金利政策を中止したが、2014 年 9
引き起こした。スイスは2011 年以降の多くの時期で
月にマイナス金利政策を再導入した。
インフレ率がマイナスとなっていた。
ユーロ圏でマイナス金利政策が導入されたのは
またスイスの輸出先の 60% 程度をユーロ圏が占め
2014 年 6 月11日であった。ユーロ圏では金融危機
ていたが、ユーロ圏経済の悪化による輸出減にくわ
がたびたび生じていたこともあり、
ECBは金融緩和を
え、CHF 高による貿易収支悪化は、スイス経済に大
繰り返してきた。しかし2014 年 6月5日、ECBはさら
きなダメージとなった。そこでスイス国立銀行( SNB)
なる金融緩和が必要と判断し、
同月11日から預金ファ
は、2011 年 9 月から大規模な為替介入を行った。し
シリティ金利を-0.1% に引き下げると発表した。こう
かし、それだけでは不十分だとし、2014 年 12 月18日
して、
ユーロ圏でもマイナス金利が導入された。
には3カ月物スイス・フラン建てLIBOR のターゲッ
この背景には、成長率やインフレ率、そして銀行貸
トレンジを-0.75~0.25% に引き下げ、また中央銀行
出額の低下があった。E CB によるマイナス金利政
預金金利を-0.25%とした。こうしてスイスでもマイ
策導入は、欧州の金融市場にインパクトを与え、以
ナス金利政策が導入された。
来、非ユーロ圏の複数の国でマイナス金利導入を含
スウェーデンでマイナス金利政策が導入されたの
め金融緩和が行われるようになった。
は2015年2月18日であった2)。主な目的は、為替レー
スイスでマイナス金利政策が導入されたのは2014
トの安定、
インフレ率の引き下げであった。
年 12 月18日であった。その目的は、スイス・フラン
スウェーデンは ERMⅡの対象ではないが、ECB
2)‌スウェーデンでは 2009 年 7 月にもマイナス金利政策を導入している。しかし、
このときはマイナス金利となった部分は少なく、本格的なマイナス金利政策導入は、
2015 年 2 月を指すと言える。
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特 集
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マイナス金利下における住宅金融
が利下げを行うと金利差によりスウェーデン・クロー
ナ(S EK ) 高となることがある。また、スウェーデンは
相対的に景気が維持されていたことから、ユーロ圏
3. マイナス金利下の欧州住宅
金融市場
でリスクが生じると国債や通貨などが買われた 3)。そ
マイナス金利政策が導入された欧州諸国および
こで、スウェーデン国立銀行 (SR B ) は、2015 年 2 月
地域の住宅市場や住宅金融市場について、ここで
にレポ金利を0.1%引き下げ-0.1%とした。こうして、
は住宅価格・住宅ローン金利・住宅ローン契約件
スウェーデンでもマイナス金利政策が導入された。
数 ( 住宅着工許可件数 ) の 3 点に絞って検討する。
このように、マイナス金利政策を導入している欧州
の国々および地域では、導入の目的は一様ではない。
しかし、為替レート維持やインフレ率上昇などを意図
(1)住宅価格
図1は、マイナス金利政策を導入した欧州諸国お
していた点は共通する部分もある。また欧州で繰り
よび地域の住宅価格指数を示したものである。これ
返し生じた金融危機や、ECB による危機対応策も、
をみると、デンマーク、スイス、スウェーデンでは住宅
各国のマイナス金利政策導入の一因となっていた。
価格指数が上昇を続け、一方でユーロ圏では横這
いとなっていることが分かる。
詳しくみていくと、2016 年 Q1 時点の住宅価格指
数は、デンマークが 113.2、スイスが 120.0、スウェー
デンが 144.6となっている。これらの国々ではイン
図 1 マイナス金利導入国・地域の住宅価格指数推移(2010 年平均 =100)
(注)
家計が取得した全住宅の価格指数。スイスのデータは1970 年 =100から2010 年 =100に筆者が再計算している。
(出所)E u r o st a t , S w i ss N a t i o n a l B a n k
3)‌これはデンマークやスイスも同様であった。
32
フレ率の低下が問題視されていたことはすでに述
住宅価格上昇に結び付いているとされている。ただ
べたが、
それとは逆に住宅価格は上昇している。
し、住宅価格水準は実体経済の状況からみれば適
これら諸国の住宅価格水準について、Bergman
当であるとされている。一方で、イギリスの EU 離脱
a n d S ø re n sen (2016) では、スウェーデンとデン
に関連する国民投票の結果を受け、スイス経済の先
マークを比較し、スウェーデンでは住宅バブルの水
行きにも不安を持つ国民が増えており、それが直近
準にあるがデンマークではそうではないと分析され
の戸建住宅価格の下落に関連している可能性も指
ている。そして、スウェーデンの住宅バブルの要因と
摘されている。
しては、住宅ローン金利の低さや住宅ローン利子控
ただし、スイスの大手金融機関であるUBS によれ
除の存在など、低い借入コストが要因として大きいと
ば、チューリッヒとジュネーブの不動産価格はバブル
されている。それゆえ、政府による住宅バブル抑制
の水準とまでは言えないものの長期的にみれば割
策の導入が正当化される、
とも述べられている。
高であるとされ、世界で不動産市場が過熱している
また、De rmani et al.(2016) では、スウェーデン
主要都市のなかでも上から9 位と11 位としている4)。
における近年の可処分所得増加や金融資産増価に
くわえてHolz hey et al.(2016) では、スイスの住
比べれば、住宅投資は過剰とは言えない、しかし人
宅市場はバブル化してはいないものの、割高感から
口増加率の急上昇や近年の低金利が住宅価格の
投資リスクは高い状態にあるとしている。同時に、投
急上昇に強く影響を与えている、とされている。そし
資用物件を購入するための住宅ローン需要が依然
てストックホルムなど大都市圏では可処分所得に比
として高く、低金利も手伝って投資用不動産投資が
して過剰な家賃支出が行われており、この状況は長
活発であるとも述べられている。
期的に継続できるものではなく、将来的に問題化す
このようにデンマーク、スウェーデン、スイスの住宅
る可能性があると指摘されている。
価格が上昇傾向にあり一部はバブル化している一
デンマークについては、
Simon, J,H (2016)では、
方で、
ユーロ圏の2016 年 Q1 時点における住宅価格
住宅バブルが生じているとは言えないとされている
指数は2010 年時点と比べほぼ変化がない。もちろ
が、
ただしコペンハーゲンなど大都市圏に限っては明
ん、ユーロ圏の住宅価格指数は2011 年第 4 四半期
らかに住宅バブルが生じていると指摘されている。
から緩やかに低下を続け、2013 年央には96.4まで
そして、最近は住宅バブルが起こっていたリーマン・
下落していた点を考慮すれば、最近は若干の上昇
ショック前の住宅市場と共通性を見いだせると警戒
傾向にあると言える。しかし、他国と比較すれば状
感も示されている。
況がことなる。
スイスについては、SNB (2016) では、戸建住宅を
ところで、ユーロ圏と言っても実体は国ごとに大
中心に住宅投資は活発化しており、それが全体的な
きくことなる。例えば、2016 年 Q1 のオーストリアの
4)‌UBS (2016) を参照されたい。なお 1 位はバンクーバー、2 位はロンドン、3 位はストックホルム、4 位はシドニー、5 位はミュンヘン、6 位は香港。この 6 都市
は明らかにバブル化しているとされている。なお、日本では東京が 12 位に入っており、バブルではないが割高と評価されている。
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マイナス金利下における住宅金融
住宅価格指数は 138.7、ドイツは 121.7など高水準
る。なお、住宅需要増大の要因として大きいのが、
となっているのに対し、フランスが 100.0、イタリアが
つぎにみる住宅ローン金利の大幅な低下だろう。
85.1、スペインが 76.4となっている。また、先にも述
べたが、国としての住宅価格指数が高くはなくても、
都市として住宅バブルが生じているところもある。
(2)住宅ローン金利
図 2 は、各国・地域の住宅ローン金利を示したも
例えば UBS(2016) では、
ミュンヘンでは住宅バブル
のである。ここから、住宅ローン金利は( 金融危機
が生じているとされており、アムステルダムやパリもそ
への対応の過程で低金利政策が採られていたこと
れに近い水準にまで上昇しているという。
もあり) 継続的に引き下げられてきたことが分かる。
なお、ユーロ圏以外の欧州諸国 (EU 加盟国 ) は、
ただし、マイナス金利政策導入前後を比べると、
アイスランドが 145.7、ノルウェーが 136.5となってお
ECB だけマイナス金利導入後に金利の低下が加
り、平均するとEU 加盟国のうち非ユーロ圏はユーロ
速しているようにもみえるが、一方でデンマーク、ス
圏よりも住宅価格指数が高い。この点は興味深い
イス、そしてスウェーデンについては、マイナス金利
傾向であると言える。
政策導入後になり状況が変化したというわけではな
以上のように、デンマーク、スイス、そしてスウェー
い。すなわち、住宅ローン金利についても住宅価格
デンの住宅価格は、
リーマン・ショック後の超低金利
同様に、
リーマンショック以降の超低金利政策期の流
政策の時期に上向いて以降は継続して上昇し、また
れがマイナス金利政策導入後も継続したと考えること
マイナス金利政策導入以降もその流れが続いてい
が自然だろう。ただし、金融機関としても金利引下げ
図 2 マイナス金利導入国・地域の住宅ローン金利推移
(注)
全住宅ローン金利タイプの平均値
34
(出所)E u r o st a t , S N B , D N B , S RB
の余地がなくなってきており、最近では住宅ローン金
かし、デンマークの住宅金融市場では、金融機関は
利をさらに引き下げた場合には、手数料率を引き上げ
貸出残高に対し一定割合の手数料を顧客から徴収
るようなケースも多くみられるようになっている。
するケースが一般的である。この手数料を勘案す
ところで、最近スイスでは、金融機関は収益確保
れば、
金融機関の収益はプラス圏にある。
のために金利を引き上げる例が見られる、との情報
いずれにしても、このようなマイナス金利の住宅
に触れることがある。これについて、住宅ローン金
ローンが、住宅金融市場で定着することはないだろ
利については必ずしも当てはまるものではない。確
う。なぜなら、その場合は調達金利もマイナス化しな
かにマイナス金利政策導入後の 2015 年初から年央
い限り、1980 年代〜 90 年代のアメリカのS&Lのよう
にかけて住宅ローン金利がやや上昇した時期があ
に、
利鞘逆転で経営が継続できなくなるからである。
るが、2015年後半からは再び低下に転じた。しかも、
なお、スイスでは大口定期預金にマイナス金利を
スイスで最も利用者が多い 10 万~ 50 万 C HF の住
適用する金融機関も出てきている。また、他国でも
宅購入向け住宅ローン金利について、マイナス金利
顧客口座管理手数料の導入や手数料率の引上げを
導入直前の 2014 年 11 月と2016 年 6 月とを比較す
行う金融機関も現れている。運用金利が限界付近
れば、2016 年 6 月の方が低い。
まで下がってきている状況下で、金融機関は顧客を
住宅ローン金利が再度低下傾向となったのは、
(ス
失わず収益を確保するための工夫を続けている。
イスに限らず ) 住宅ローン市場が過当競争状態にあ
以上のように、住宅ローン金利水準は、以前から
るからだろう。金融機関は調達金利の引下げ余地
の低金利政策の流れのなかでマイナス金利政策導
がなくなりつつあるなかで運用金利を引き上げられ
入後も低下傾向が継続している状況にある。そして、
ず、困難な経営を強いられているが、これが住宅金
著しく低い住宅ローン金利のもと、金融機関は今ま
融市場の現状である。
で経験したことのない問題に直面している。
また、デンマークでは、住宅ローンの貸出金利がマ
これは、顧客が住宅ローンの返済に際し、元本と利息
(3)住 宅ローン新規契約数・住宅
着工許可指数
を合わせて返済するのではなく、金利がマイナスとな
図 3 は、住宅ローン契約数 (スイス)と、住宅建設
り銀行から支払われることとなった受取り利息分を
許可指数 ( ユーロ圏、
デンマーク、
スウェーデン)を示
元本部分から差引いて返済する、というものである。
したものである。ここからは、
スウェーデンとデンマー
または、元本部分だけ返済し、その後に金融機関が
クの住宅着工許可指数が急速に上昇している一方
顧客に利息を払い戻すというものである。このような
で、ユーロ圏の指数は停滞していること、またスイス
ことは、確かに一部では生じているようではある。し
においては新規住宅ローン契約数が減少傾向にあ
イナス化している、などの情報に触れることがある5)。
5)‌例えば、
http://www.wsj.com/articles/the-upside-down-world-of-negative-interest-rates-1460643111 (Wall Street Journal 電子版、2016 年 4 月14日掲載 ) など。
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特 集
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マイナス金利下における住宅金融
図 3 住宅ローン新規契約数・住宅着工許可指数(2010=100)
(出所)E u r o st a t , S N B
ることが分かる。
の住宅着工許可指数は、2011 年から2012 年 Q1 に
スウェーデンの着工許可指数は2012 年までは横
かけて横這いに推移した後、2015 年 Q2まで継続的
ばいだったものの、2013 年以降は継続的かつ急速
に100 以下となっていた。2015 年より若干上向きと
に指数が上昇している。そして2016 年 Q2 には指
なっているが、2016 年に入ってからは再び低下傾向
数が 200となっており、指数の起点である2010 年と
となっている。これは、ユーロ圏経済の不調を反映し
比較すれば 2 倍の着工件数となっている。
たものだろう。ただし、ユーロ圏においては最近にな
またデンマークの着工許可指数も著しく上昇して
り銀行貸出の増加がみられるようにもなっており6)、
いるが、ただしデンマークは2013 年までは大きく落ち
今後は住宅取引の回復もみられるかも知れない。
込んでいる。しかし、2014 年 Q2に100を超え、
2015
そして、スイスでも住宅ローン新規契約数が継続
年 Q2 には170 超となっている。これらの点から、先
的に減少している。比較的景気が良かった2010 年
に述べた両国の住宅価格の上昇は、住宅需要の高
には契約数が 11,500 件を超えた時期もあったが、
まりを伴って生じていたと言え、単純な住宅投機バ
2016 年 Q2 時点では7,500 件程度となっている。図
ブルとは異なるだろう。この背景には、B ergman
1 でみたように住宅価格が上昇を続けるなかで住宅
a n d S ø re n se n (2016) でも指摘されていたように
ローン契約件数が減少しているということは、住宅
借入コストの低下があったと考えられる。
一方で、ユーロ圏とスイスは軟調である。ユーロ圏
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6)‌簗田 (2016) を参照されたい。
ローンの利用をせず現金で購入する者が一定数存
( MBS)などの発行により資金調達の多くを頼って
在している可能性もある。実際、近年は中東産油国
いる。しかし、住宅ローン金利が極限付近まで低下
や新興国の富裕層が欧州の不動産への投資額を
している現在、住宅ローンを裏付け資産とした債券
増加させており、そのような層がスイスに投資してい
や証券における利回りも著しく低い。そのような債
るケースは多いという情報に触れることはある。
権や証券を購入する投資家が今後も継続的に現れ
以上のように、住宅ローン新規契約数および住宅
るかどうかは不確定であり、金融機関の資金調達に
建設着工指数については、各国および地域ごとに状
も問題が生じる可能性は否定できないだろう。
況がことなっている。各国の状況が低金利政策およ
欧州住宅金融市場および住宅市場は、マイナス金
びマイナス金利政策とどの程度関係しているのかは
利政策下で前例のない世界を歩んでいる。今後を
検証が難しいが、スウェーデンやデンマークでの活
注意深く見守る必要がある。
発な取引が一層強まるようであれば注意が必要で
あろう。また住宅価格が高水準なスイスにおける住
宅ローン契約数の低下が、住宅市場を下落に転じさ
せることにつながる可能性にも注意が必要だろう。
4. おわりに
ここまで述べてきたように、欧州では複数の国や地
域でマイナス金利政策が導入されている。同政策が
金融市場に大きなインパクトを与えたことは周知の通
りであるが、住宅金融市場へのインパクトという点で
は、
大きいと言うよりは、
それ以前からの影響が継続し
ていたと考える方が正確だろう。ただし一部の大都
市では低金利環境を背景に活発な不動産投資が行
われており、これが今後も継続するようであれば、局
地的な問題に留まっている住宅バブルも範囲が広が
る可能性もある。この点は注意が必要だろう。
また、本 稿では紙幅の関係で触れられなかっ
たが、欧州で住宅ローンを貸し出している金融機
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関の多くは、カバードボンドや住宅ローン担保証券
37
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