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高階微分項含む重力理論に関する研究

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高階微分項含む重力理論に関する研究
高階微分項含む重力理論に関する研究
名古屋大学大学院理学研究科
素粒子宇宙物理学専攻 QG 研究室
学生番号:461101181
廣地京介
平成 26 年 3 月 7 日
1
概要
アインシュタインが提唱した一般相対性理論は、ニュートンの理論では説
明できなかったさまざまな物理現象 (重力赤方偏移・近日点移動・光の彎曲・
光の遅延) を説明できる。このことより、一般相対性理論は重力場の古典論と
しては確立している。ところが重力が非常に強い場合、例えばブラックホール
の内部では時空が無限に歪むという特異点問題と呼ばれる問題が生じる。時
空が無限に歪むときは、もはや古典的な描像が成立しなくなるため、相対性
理論は破綻していると考えられ、重力の量子的な描像、つまり量子重力理論
が必要となる。
重力の量子化として、素朴に一般相対性理論をゲージ場の量子化における
手法に従って量子化しようとすると、取り除くことの出来ない無限大の量が
出現するため理論は予言能力を失う。このことは理論が繰り込み不可能であ
ることを意味しており、重力の量子化における最大の困難とされている。こ
のことから、一般相対性理論は量子論としては不適切であり、重力理論の拡
張が必要となることが分かる。
申請者はまず一般相対性理論が繰り込み不可能であることをあらわに計算
を実行して確認した。それに引き続き重力理論の拡張としてアインシュタイ
ン重力理論に曲率高次項を導入した模型を考察した。この時理論は繰り込み
可能性の条件を満たし得るのだが、一般的にはその代償として理論の正定値
性 (確率保存則) が失われる。このように曲率高次項を導入した模型の中に繰
り込み可能性と正定値性を両立させる模型が存在するかが問題となる。
次に繰り込み可能性と正定値性という 2 つの条件の両立が可能とされる模
型として 3 次元時空の重力理論の拡張を考察した。位相不変量であるチャー
ン・サイモン項を導入した模型や曲率 2 次の項を導入した模型において 2 つ
の条件が成立するとき、宇宙項の存在が必要になる。この宇宙項の必要性は、
より高次の次元の重力理論でも同様に成立していて、ミンコフスキー時空で
は両立が不可能とみなされていた。
申請者は更なる拡張としてミンコフスキー時空においても繰り込み可能性
と正定値性を両立出来る重力理論の模型を構築した。この模型は 4 次元時空
において、単一スカラー場を導入した形の模型であり、(反) ドジッター時空
に加えて、ミンコフスキー時空においても両立が可能であることを明らかに
した。この時、ミンコフスキー時空においてはスカラー場と重力場が非最小
結合していることが 2 つの条件の両立のための条件となっている。
2
目次
1
序章
4
2
アインシュタイン重力理論の繰り込み不可能性
7
3
高階微分重力理論
3.1 O(R2 ) 重力理論 . . . . . . . . . . . . . .
3.2 3 次元重力理論の発展 . . . . . . . . . . .
3.2.1 TMG with cosmological constant
3.2.2 New Massive Gravity . . . . . . .
3.3 Critical Gravity in 4dim . . . . . . . . .
4
臨界重力理論の拡張
4.1 臨界重力+スカラー場模型
4.2 (反) ドジッター時空 . . .
4.3 ミンコフスキー時空 . . .
4.4 エネルギー . . . . . . . .
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13
13
15
16
21
24
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35
35
36
38
39
結論
41
A 表記規約
43
B 摂動展開
43
C 任意次元時空の臨界重力理論
C.1 critical point の導出 . . . .
C.2 ハミルトニアンエネルギー
C.3 パラメータ選択 . . . . . .
C.4 対数モード . . . . . . . .
C.5 ブラックホール . . . . . .
44
44
46
47
48
49
5
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3
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1
序章
一般座標変換不変性と等価原理を基礎法則とする一般相対性理論は重力場の古
典論として確立しており、特にアインシュタイン-ヒルベルト作用 SEH で記述され
るアインシュタイン重力理論における予測 (重力赤方偏移,近日点移動,光の湾曲,
光の遅延) は観測・実験と非常に良い精度で一致している。ところが一方で、非常
に重力が強いブラックホール内部などでは、特異点と呼ばれる無限に大きい時空
のゆがみが生じる。この時、古典的な時空の描像はもはや破綻していると考えら
れる。よって、このような状況に対する理論の構築として時空の量子化、つまり
は量子重力理論の構築が必要不可欠なっている。
量子重力理論の構築としてまず考えられる事は、古典重力理論として確立して
いたアインシュタイン重力理論の量子化である。ところが、ゲージ場の理論の手
法に従って量子化を試みると、取り除くことの出来ない発散量が紫外領域におい
て出現し、いわゆる繰り込み不可能なことが明らかとなる。この事は、SEH に現
れる結合定数である重力定数 GN の質量次元が負であることに起因している。理
論が繰り込み可能であるためには結合定数の質量次元が非負でなければならない
ことが知られている。
実際 1970 年代に’tHooft と Veltman[1] らによって量子補正の計算が行われてい
る。その結果、1 ループのオーダーから繰り込み不可能な量子補正が現れることが
示された。但し、この補正項は質量殻上 (on-shell) でゼロになるので on-shell では
繰り込みが不要であると思われた。ところが、2 ループのオーダーから得られる
量子補正項は on-shell でもゼロにはならないことが [2] で示された。また、[1] では
物質場が結合している場合の計算も行っており、on-shell においてでも 1 ループの
オーダーで繰り込み不可能な量子補正項が現れることも示している。
アインシュタイン重力理論が量子論の模型としては不適切であることが明らか
になってから、量子重力理論のための模型構築が考えられ始めた。一般座標変換
に対する不変性を失わないことを要請した例として、[4] においてアインシュタイ
2
ン重力理論を拡張し、曲率 2 次の項 R2 , Rµν
を SEH に追加した模型が考案された。
この模型では、曲率 2 次の項の結合定数が無次元量である事より、繰り込み可能性
を満たしていると期待される。一方で、高階微分項 (4 階微分) を含んでいること
から、新たな伝搬モードが追加される。アインシュタイン重力理論で出現してい
たスピン 2 の質量を持たない重力子に加えて、スピン 2 の質量を持つ重力子とス
ピン 0 の質量を持つ重力子が新たに伝搬モードとして出現する。これら新たな伝
搬モードのうちでスピン 2 の重力子が正定値性を破ってしまうので、たとえ繰り
込み可能性を満たしていても、この模型は量子論として矛盾する。その後、この
正定値性問題を回避するための条件が研究されて、結合定数間に適当な関係を与
えることで、問題の原因であるスピン 2 の質量を持つ重力子を消去することが可
能なことが明らかになった。ところが、ミンコフスキー時空周りの展開によって
条件式を具体的に求めることで、曲率 2 次の項に含まれている結合定数が両方と
4
もゼロでなければならないことが分かった。この条件の下では曲率 2 次の項は落
ちてしまい、模型はアインシュタイン重力理論に帰着する。この事は、曲率 2 次
の項までを含む重力理論では、繰り込み可能性と正定値性の両方を満たすような
模型をミンコフスキー時空周りでは構築できないことを示唆している。
ところが近年、上で述べたような高階微分項を含む重力理論の模型が再び注目
を集め始めた。3 次元時空においては、アインシュタイン・ヒルベルト作用に位相
不変量であるチャーン・サイモン項 (CS 項) を加えた模型が以前より [6][7] で提案
されていた。アインシュタイン重力理論では、3 次元時空で重力子は伝搬モードと
して現れない (局所的な自由度がない) が、CS 項は運動方程式に 3 階微分項を含む
ので新たな伝搬モードとして質量を持つ重力子が生じる。この伝搬モードが位相
不変量の導入によって現れることから、この模型は Topological Massive Gravity
模型 (TMG) と呼ばれている。この TMG 模型の拡張として宇宙項を導入した模型
が [8] で新たに提案された。この模型においては、一般には負のエネルギーを持つ
重力子が出現するので正定値性問題が生じる。ところが宇宙項の存在によって、結
合定数をある特別な値に選ぶことで CS 項を残したままで、正定値性を回復するこ
とが出来ることが示された。
また、3 次元時空での重力理論の更なる拡張模型として曲率の 2 次の項と、さ
らに宇宙項を導入した New massive Gravity (NMG) と呼ばれる模型が提案された
[9][10]。この模型でもやはり質量を持つ重力子が伝搬モードとして生じて、正定値
性を破る危険性があるのだが、適切な条件を結合定数に課すことで回避可能であ
ることが示された。この時曲率の 2 次の項は消去されていないため、この NMG 模
型は繰り込み可能性と正定値性を満たしていると期待される。(但し、3 次元時空
においては曲率の 2 次の項の結合定数が質量次元 1 なので理論は ”超 ”繰り込み可
能である)。
これら 3 次元時空における重力理論の発展を踏まえて、4 次元時空における曲率
高次項を含む重力理論が改めて考察されている。曲率 2 次まで含めて、更に宇宙項
を導入した模型として臨界重力理論 (Critical Gravity) と呼ばれる模型が提案され
た [11]。この模型においては、3 次元時空の時と同様で宇宙項の存在が重要になっ
ているため、ミンコフスキー時空ではなく (反) ドジッター時空周りで議論がされ
ている。その結果、以前より [4][5] 等で問題とされていた正定値性の破れを回避し
つつ、なお且つ繰り込み可能性を満たす条件が存在し得ることが明らかになった。
その条件の下では、質量を持つ重力子はもはや伝搬モードとして現れず、SEH と
同様のスピン 2 の質量を持たない重力子が伝搬モードに含まれることから、量子
重力理論の Toy 模型とされるのではないかと期待されている。また、3 次元と 4 次
元における真空解の分類が [12] でまとめられていて、さらに高次の次元への拡張
として一般の D 次元での模型の考察も [13] で実行されている。
ところで、今まで述べてきた正定値性と繰り込み可能を両立し得る模型は、宇
宙項の存在が必要不可欠であったことから、(反) ドジッター時空周りでは矛盾なく
定義されているが、ミンコフスキー時空周りでは定義できてはいない。以上を踏
5
まえたうえで我々は、ミンコフスキー時空周りでも正定値性と繰り込み可能性を
両立できる模型の構築が可能かどうかを研究した [14]。本研究においては、拡張模
型として単一スカラー場 ϕ を新たに導入した模型を提案した。ここでは、4 次元時
空に限定して、ブランス・ディッケ型と呼ばれるスカラー場を重力場と直接結合さ
せた模型を用いて考察を実行した。その結果、従来と同じく (反) ドジッター時空
周りで正定値性と繰り込み可能性の条件が両立できることに加えて、ミンコフス
キー時空周りでもこの 2 つの条件が両立し得ることを明らかにすることが出来た。
本論文は以下のように構成されている。まず第 2 章ではアインシュタイン重力
理論が繰り込み可能でないことを簡単にまとめておいた。続く第 3 章では、次数勘
定的に繰り込み可能な重力理論である、曲率 2 次の項含む重力理論に関するさま
ざまな模型の概要を説明する。特に、素朴な模型では困難とされていた正定値性
と繰り込み可能性を両立し得るとされている模型ついてを解説する。そして、第 4
章で我々の研究である臨界重力理論の拡張についてを解説して、実際にミンコフ
スキー時空周りでもうまく定義出来ることを示していく。そして最後に結論を述
べて本論文のまとめとする。
6
2
アインシュタイン重力理論の繰り込み不可能性
序章で述べた通り、アインシュタイン重力理論は繰り込みができない理論とし
て知られているので、量子重力理論の構築のためには、重力理論の拡張が必要不
可欠であることは明らかである。
この章では、重力理論の拡張模型を考えるに先立って、まずアインシュタイン
重力理論における諸問題に関して簡単にまとめておく。特に、一般相対性理論に
おけるアインシュタイン重力理論が繰り込みできないことに関して、量子化の計
算の結果としてどの様な形で量子補正が出現するかを考察していく。詳しい計算
の手法等は [1] に記載されている。
まずアインシュタイン重力理論の作用は次のように与えられる:
∫
√
1
SEH = 2 dD x −g (R − 2Λ) .
(2.1)
2κ
ここで gµν は時空の計量であり、その行列式を g と定めた。R はスカラー曲率であ
り、R = g µν Rµν , Rµν = Rα µαν とリーマンテンソル Rα µβν やリッチテンソル Rµν
の縮約によって定義されている。また、κ2 = 8πGN は重力定数であり、Λ は宇宙
項である。これらの定数は質量次元でそれぞれ、[GN ] = 2 − D, [Λ] = 2 を持つ。
重力定数 GN が負の質量次元であることから、アインシュタイン重力理論は次数
勘定的に繰り込み不可能であると考えられる。
4 次元時空周り (Λ = 0) の摂動展開 gµν → gµν + hµν (この展開の際に、gµν を背景
時空の計量として再定義している) における重力場 hµν の伝搬関数に対する 1 ルー
プオーダーの量子補正は、[1] で計算が実行されている。
ここで、任意のボソン場 Φij... に対するラグランジアンが
L=
)
√ (
µ
−g −∂µ Φ∗ij... g µν ∂ν Φij... + 2Φ∗ij... Nij...kl...
∂µ Φkl... + Φ∗ij... Mij...kl... Φkl... (2.2)
µ
のように与えられたとする。ここで Nij...kl...
, Mij...kl... は場の添字 ij . . . と kl . . . の
入れ替えに関してそれぞれ反対称・対称な性質を持つ行列である。この時、この
ラグランジアンの 1 ループオーダーの発散に対する相殺項 Lcount
Lcount
1√
−gTr
=
ϵ
{ (
)2
(
)}
1 2
1
1
1
1
2
Q − R + Gµν +
Rµν
− R2
2
6
12
60
2
(2.3)
Q ≡ M − Nµ N µ − ∂µ N µ
Gµν ≡ ∂µ Nν + Nµ Nν − (µ ↔ ν)
(2.4)
が必要であることが知られている。ϵ−1 は次元正則化により現れる発散パラメータ
である。但し、ここではボソン場の添字については省略している。例えばボソン
場がベクトル場 Ai である場合に添字をあらわにすると、Qij , Gµνij と記述される。
7
この結果を利用して、アインシュタイン重力理論の発散を考えていく。まず、重
力場のラグランジアンとして物質場 ϕ を含めた形で次のラグランジアンを考える:
L=
√
(
)
1
µν
−g R − ∂µ ϕg ∂ν ϕ .
2
(2.5)
このラグランジアンに対して摂動展開を行って、摂動場に関して 2 次のラグラン
ジアン L2 を求める。そのために背景場からの展開をそれぞれ次の形で与える:
gµν → gµν + hµν ,
ϕ → ϕ̄ + ϕ.
(2.6)
ここで、gµν , ϕ̄ を背景場として、それらからの摂動として場 hµν , ϕ を定義した。こ
れらを (2.5) に代入することで L2 を得る:
L
2
√ { 1
1
1
=
−g − ∂µ ϕ∂ν ϕ̄(g µν h − 2hµν ) − ∂µ ϕ̄∂ν ϕ̄(hµα hαν − hhµν )
2
2
2
(1
)
1
1 2 )(
1
1
2
2
2
ν β α
h − hµν R + (∂µ ϕ̄) − hβ hα Rν + hhµν Rµν
− (∂µ ϕ) −
2
8
4
2
2
}
1
1
1 α
1
2
2
αβ
µ να
− (∇µ hαβ ) + (∇µ h) − ∇ h∇β h + ∇α hµν ∇ h
.
(2.7)
4
4
2
2
ここでの共変微分 ∇µ は背景場 gµ に関するものである。
次にゲージ固定条件を課すことを考える。ゲージ固定条件のラグランジアン Lgf
は一般には次の形で与えられる:
1√
−gCµ g µν Cν .
(2.8)
2a
ここで Cµ はゲージ固定関数であり、また a はゲージパラメータである。以下では
簡単のため a = 1 として、さらにゲージ固定関数を次のように定める:
Lgf = −
1
Cµ = ∇ν hνµ − ∇µ h − ϕ∂µ ϕ̄.
(2.9)
2
このゲージは de Donder gauge と呼ばれるものである。このゲージを選ぶ利点は、
hµν の運動項が簡略されることである。(2.7) と (2.8) をまとめると次のようになる:
L2 + Lgf =
√ { 1
1
1
−g − (∇µ hαβ )2 + (∇µ h)2 − (∂µ ϕ)2
4
8
2
}
1
1
+ hαβ X αβµν hµν + ϕY µν hµν + ϕZϕ .
2
2
(2.10)
但し、X αβµν , Y µν , Z は背景場とその微分だけで定められている行列であり次の形
で与えられている:
8
{ 1
1
1
X αβµν = 2 − g βν ∇µ ϕ̄∇α ϕ̄ + g αβ ∇µ ϕ̄∇ν ϕ̄ − g αβ g µν (∂γ ϕ̄)2
2
4
16
1
1
1 νβ µα
+ g g (∇γ ϕ̄)2 − g αβ g µν R + g αν g βν R
8
8
4
1 βν αν 1 αβ µν 1 βµαβ }
− g R + g R + R
,
(2.11)
2
2
2
1
Y µν = g µν ∂ 2 ϕ̄ − ∂ µ ∂ ν ϕ̄,
2
(2.12)
Z = −(∂µ ϕ̄)2 .
(2.13)
以上で求めたラグランジアンを (2.2) の形にもっていく。そのためには、hµν , ϕ
を単一の場で記述する必要がある。ここでは 11 成分を持つボソン場 H, H ∗ を形式
的に次のように定義する:
(
H≡
)
hµν
ϕgµν
,
H∗ ≡
(
hµν P µναβ ϕg αβ
)
.
(2.14)
但し、
1
1
P αβµν ≡ g µα g νβ − g αβ g µν
2
4
である。これらを用いるとラグラジアンは次のように与えられる:
}
1{ ∗ 2
H ∂ H + H ∗ (2N µ ∂µ + M )H ,
2
(
)
∂µ N µ + Nµ N µ + P −1 X P −1 Y
M≡
.
V
Z
L(H, H ∗ ) =
(2.15)
(2.16)
(2.17)
ここで、hµν に掛かっていた共変微分 ∇µ を偏微分 ∂µ で書き変えている。
ラグランジアンを (2.2) の形で書き下すことが出来たので、(2.3) を用いて重力
場の発散を評価できる。ここで、さまざまなトレースの計算結果を以下のように
与えておく:
Tr(P −1 XP −1 X) = (P −1 )µναβ X αβρσ (P −1 )ρσγδ X γδµν
2
+ 3(∂µ ϕ̄g µν ∂ν ϕ̄)2 ,
= 2R2 + 6Rαβ
(
)
1 −1
1 2
1
1
Tr − P XR + R
= − (P −1 )µναβ X αβµν R + R2 Tr1
3
36
3
36
31
= − R2 ,
18
9
(2.18)
(2.19)
Tr(Y P −1 Y ) = Y µν (P −1 )µναβ Y αβ
= (∂ 2 ϕ̄)2 + 2Rµν ∂µ ϕ̄∂ν ϕ̄,
(2.20)
1
1
Tr(Z − R)2 = (Z − R)2
6
6
1
1
(∂µ ϕ̄)2 R + R2 + (∂µ ϕ̄g µν ∂ν ϕ̄)2 ,
=
3
36
(2.21)
2
Tr(G µν Gµν ) = 6Rαβµν
.
(2.22)
以上の計算をまとめることで、hµν , ϕ に対する 1 ループオーダーでの相殺項が得
られる。
次に、ゲージ固定の導入に伴って現れる Faddeev-Popov ゴーストによる発散へ
の寄与を考えていく。ゴースト場・反ゴースト場 (ηµ , η̄ ν ) に対するラグランジアン
Lgh は、ゲージ固定関数 (2.9) より、次のように与えられる:
√
Lgh = − −g η̄ ν (δνµ □ + Rνµ − ∂ µ ϕ̄∂ν ϕ̄)ηµ .
(2.23)
先ほどと同様に、共変微分を偏微分があらわになる形で書き下すと、(2.2) と同
じ形式として Lgh は以下のように与えられる:
Lgh
√ {
= − −g η̄µ ∂ 2 η µ + 2η̄µ (N γ ∂γ )µν η µ
}
γ
α
γ
+η̄µ (Rµν − ∂µ ϕ̄∂ν ϕ̄ + ∂γ Nµν
+ Nµγ
Nαν
)η ν .
(2.24)
これより、(2.3) を用いてゴースト場に対する 1 ループオーダーの相殺項を求める。
ゴーストセクターにおいては、Q, G はそれぞれ添え字をあらわにすると次のよう
に与えられる:
Q = Rµν − ∂µ ϕ̄∂ν ϕ̄
G = Rµναβ .
(2.25)
(gh)
よって、トレースの計算を行うことでゴースト場の対する相殺項 Lcount は次のよ
うに求まる:
√
(gh)
Lcount
−g { 1 2 17 2 1 2
R + Rµν Rαβµν
ϵ
5
30
12
}
1
1
R(∂µ ϕ̄)2 + Rαβ ∂α ϕ̄∂ν ϕ̄ + (∂µ ϕ̄g µν ∂ν ϕ̄)2 .
6
2
= −
10
(2.26)
ここまでで、重力場とゴースト場に対して 1 ループオーダーでの相殺項をそれ
ぞれ求めることが出来た。それら 2 つの寄与を足し合わせることで、アインシュ
タイン重力理論に対する 1 ループオーダーでの相殺項が次のように得られる:
√
Lcount =
}
−g { 9 2
43 2
1 µ
1
2
2
2
2
R +
R + (∂ ϕ̄∂µ ϕ̄) − R(∂µ ϕ̄) + 2(∂ ϕ̄) .(2.27)
ϵ
720
120 µν 2
12
但し、ここでは 4 次元においてはガウス・ボンネ項が全微分で記述されるという
2
2
2
項を消去している。
を代入して Rµναβ
= −R2 + 4Rαβ
事実から、Rµναβ
ここで、運動方程式に従う場合 (on-shell) を考える。今、(2.5) より背景場 gµν , ϕ̄
に対する運動方程式はそれぞれ以下のように求まる:
1
1
0 = Gµν − ∂µ ϕ̄∂ν ϕ̄ + gµν (∂α ϕ̄)2 ,
2
4
0 = ∂ 2 ϕ̄.
(2.28)
ここで Gµν はアインシュタインテンソルであり、Gµν = Rµν − 21 Rgµν で定義される。
さらに (2.28) 第 1 式のトレースを取ると
1
1
R = − (∂µ ϕ̄)2 , Rµν = − ∂µ ϕ̄∂ν ϕ̄
(2.29)
2
2
を得る。ここで第 2 式はトレースを取った式を元々の運動方程式に代入すること
で得られる式である。
これらの運動方程式を代入すると相殺項 (2.27) は
√
−g 203 2
Lcount =
R
(2.30)
ϵ 80
となる。結局、1 ループオーダーに対する相殺項は R2 に比例する形になっている
ことが分かる。ところが、R2 項は (2.5) の中にはない。故に、重力場とスカラー
場を含む場合は 1 ループオーダーで繰り込み不可能ということになる。
一方スカラー場を含まない、いわゆる pure gravity の場合は運動方程式 (2.28) が
R = 0 なので相殺項は
Lcount = 0
(2.31)
となる。つまり、1 ループオーダーでは有限となるので繰り込み操作が不要という
ことになる。
ここで、pure gravity において運動方程式を満たさない場合 (off-shell) での相殺
項は次のように与えられている:
Lcount
)
(
√
7 2
−g
1 2
=
R + Rµν .
ϵ
120
20
11
(2.32)
この式は単純に (2.27) において ϕ̄ = 0 しただけでは得られないことに注意する。な
ぜならば、(2.27) にはスカラー場 ϕ がループを回っている寄与が含まれているから
である。その寄与は次の量で与えられる:
(
)
√
1 2
1 2
1 2
−g
R +
R −
R .
ϵ
144
120 µν 360
(2.33)
よってこの寄与を差し引くことで (2.32) が得られる。
ここまでで、’tHooft と Veltman が実行した重力場の発散を見てきた。1 ループ
オーダーでの相殺項を求めたところ、off-shell においてはスカラー場の有無にかか
わらず繰り込み不可能であったが、on-shell で考えると pure-gravity の場合は相殺
項が有限になることから繰り込みが不要であることが示された。また、ここでは
物質場として単一のスカラー場を導入していたが、[15][16][17] で、さまざまな種
類や数の物質場が結合している場合が計算されており、1 ループオーダーで発散が
繰り込み不可能であることが示されている。
以上の結果から、物質場を含まない pure gravity における量子補正は on-shell に
おいて全てのオーダーで有限の値になるのではと当時期待されていた。しかし、2
ループオーダーでの量子補正の計算が [2][3] で実行されて、その相殺項が
209GN √
−gRµν αβ Rαβ ρσ Rρσ µν
(2.34)
2880ϵ
となることが示された。リーマンテンソル Rµναβ のみで記述されていることから、
1 ループオーダーの時とは異なり on-shell においてでも相殺項は残っている。
以上よりアインシュタイン重力理論は、重力場のみの場合は 2 ループオーダー
から、物質場を含む場合は 1 ループオーダーから繰り込み不可能な理論であるこ
とが理解できる。また、超対称性を課した超重力理論に対する発散も考察されて
おり、この場合は N=1 の pure-supergravity において 2 ループのオーダーまで発散
が有限になるが [18] [19] [20]、3 ループから発散が繰り込み不可能であることが示
されている [21] 。
Lcount =
12
3
高階微分重力理論
アインシュタイン重力理論では 1 ループオーダーで量子補正が O(R2 ) の形で与
えられて、SEH にこのような項が存在しないことから確かに理論が繰り込み不可
能であることを前章で確認した。
これを踏まえると、アインシュタイン重力理論の拡張として O(R2 ) の項をあら
かじめ作用に含めておけば、上述したような発散問題は解決でき得ると思われる。
確かに素朴に考えれば、曲率高次の項は結合定数が非負の質量次元を持ち始める
ので理論は次数勘定的に繰り込み可能性を満たす。その一方で、曲率高次の項が高
階微分項を含んでいることにより、理論が持つ自由度は一般的には増加する。こ
の増えた自由度の中でいくつかが正定値性を破ってしまう場合があり、そのとき
理論は量子論として意味を成さない。
このような問題に対して、繰り込み可能性を満たすように曲率高次の項を理論
に含めてさらに上述した正定値性問題を回避し得る模型として、臨界重力理論と
呼ばれている模型が提案されている [11]。
本章では、まず素朴な高階微分理論である曲率 2 次の項まで含む重力理論模型
の説明を行い正定値性に関する問題点を明らかにする。そしてその問題を解決し
得る模型の 1 つである臨界重力理論についての説明をしていく。
3.1
O(R2 ) 重力理論
ここではアインシュタイン重力理論の拡張模型として、次の重力作用を考えて
いく:
∫
)
√ (
1
2
S = 2 d4 x −g R − 2Λ + αR2 + βRµν
.
(3.1)
2κ
α, β は新たな結合定数であり、その質量次元は共に等しく [α] = [β] − 2 である。
このとき [κ2 ] = 2 − D であることより、作用全体に掛かる結合定数は 4 次元時空
においては無次元量となっている。よってこの模型は次数勘定的に繰り込み可能
となっていることが [4] で示されている。実際、(3.1) を形式的に書き直して次のよ
うにおくと理解しやすい:
(
)
∫
√
α 2
Λ
β
4
2
−1
S = 2 d x −g Rµν + R + β R − 2
.
(3.2)
2κ
β
β
この形式では明らかに作用の結合定数は無次元量であり、曲率 2 次の項は運動項・
曲率 1 次の項は質量項としてそれぞれ解釈できる。後に結合定数 β が実際に質量
の役割を担うことを確認する。
さらに曲率高次の項を含めていくと、上述した手法で κ2 とまとめた結合定数は
正の質量次元を持ち始めるので理論は超繰り込み可能となる。ただ、ここでは繰
13
り込み可能性の是非に注目するので、曲率 2 次の項まで含めておけば十分である
のでそれ以上の補正は考えないことにする。
曲率 2 次の項を導入した模型は繰り込み可能性を満たしているが、さらなる特
徴として自由度の増加がある。これはアインシュタイン重力理論に比べて (時間)
微分の次数が増加していることに起因している。
実際にどのような伝搬モードが新たな自由度として出現するかを調べるために、
ミンコフスキー時空周りで摂動展開を考え、摂動場について 2 次のオーダーまで
の作用 S2 を記述する。まず、摂動展開を以下のように定義する:
gµν = ηµν + hµν ,
(3.3)
ここで ηµν = (−, +, +, +) はミンコフスキー計量である。さらに詳しく伝搬モード
をみるために、重力場 hµν を以下のように既約分解しておく:
{
}
1
1
hµν = sµν + ∂µ ων + ∂ν ωµ + ∂µ ∂ν − δµν □ η + δµν h.
(3.4)
4
4
但し、sµν , ωµ は次の条件を満たすとする:∂ µ sµν = δ µν sµν = ∂ µ ωµ = 0. この展開
の下で S2 を求めると次のようになる:
1
S2 = 2
8κ
{
∫
d x sµν (1 + β□) □s
4
µν
}
3
+ H△□H .
8
(3.5)
但し H = h − □η であり、また △ は次のように定義される演算子である:
△ ≡ −1 + 2(3α + β)□.
(3.6)
まずは、アインシュタイン重力理論の場合 (α = β = 0) を考察する。この時 S2
は
1
S2 (α = β = 0) = 2
8κ
∫
{
}
3
µν
d x sµν □s − H□H
8
4
(3.7)
と記述される。第 2 項目は重力場のスカラーモードであり、運動項として逆符号
を持っているのでゴースト的に振る舞うように見える。しかしゲージ固定項と FP
ゴースト項を導入して適切にゲージパラメータを選ぶことで消去できるので物理
的に問題は生じない。よって物理的な伝搬モードとしては重力場のテンソルモー
ド sµν のみが残りる。これはスピン 2 の質量がない重力子に他ならない。
続いて一般の場合を考察する。まずはスカラーモード H に着目して、伝搬関数
H
P を記述すると次のように与えられる:
PH ∼
1
1
1
=− +
.
□ {2(3α + β)□ − 1}
□ □ − {2(3α + β)}−1
14
(3.8)
第 2 等式より 2 種類のスカラーモードが伝搬しうることが分かる。第 1 項は先ほ
ども現れていたゲージ固定によって除去できるスカラーモードである。一方、第 2
項は O(R2 ) の寄与によって新たに出現する質量を持つ伝搬モードである。
同様にテンソルモード sµν に対する伝搬関数を記述する:
Ps ∼
1
1
.
−
□ □ + β −1
(3.9)
第 1 項は質量を持たない伝搬モードであり、アインシュタイン重力理論において
先ほど出現したものと同様である。第 2 項が新たな伝搬モードであり、その質量
が β で特徴づけられている。
曲率 2 次の項の寄与によって、スカラーモードとテンソルモードに新たな自由
度が加わることを確認した。ところが、これらのうちでテンソルモードがよくな
い振る舞いをしている。実際、伝搬関数 P s において符号が第 1 項と逆符号で現れ
ていることに注意すれば、新たな伝搬モードが負の確率で伝搬するので理論が正
定値性を破っていることが理解できる。故に、正定値性を満たすためには新たな
テンソルモードを取り除かなければならず、β = 0 と取る必要がある。さらに伝搬
モードをアインシュタイン重力理論と合致させるためにスカラーモードの除去を
考えると 3α + β = 0 が条件として得られる。このとき、理論は α = β = 0 を取る
ことになるので曲率 2 次の項は落ちてしまい、理論の繰り込み可能性は失われて
しまう。
以上より、O(R2 ) を導入した場合は高階微分項の寄与によって繰り込み可能に
思えるが、理論の正定値性を考慮すると繰り込み可能性が満たされないことが分
かる。この事より曲率高次の項を加える模型においては、繰り込み可能性に加え
て正定値性も同時に満たすことが出来るかどうかを考察する必要性がある。以降
では両方の条件を満たし得る模型である臨界重力理論について解説していく。
3.2
3 次元重力理論の発展
曲率高次の項を加えた重力理論においては、高階微分項の寄与により伝搬関数
が修正される。その結果、発散の収束性が良くなり理論は次数勘定的に繰り込み
可能になる。
だが一方で、高階微分項の存在によって局所的な自由度が増加するので理論に
新たな伝搬モードが加わる。これら新たな伝搬モードのうちで、特にスピン 2 の
質量を持つ重力子が伝搬モードとして出現するのだが、このモードは負の確率で
伝搬するという性質を持つので理論は正定値性を失う。この事は、曲率高次の項
を加えると一般には生じる問題であり、また前節で指摘した通り理論の正定値性
の回復を図ると、理論の繰り込み可能性が失われてしまう。
ところが、理論に宇宙項を導入した模型を考えると状況は一変するのではない
かと、近年から考えられ始めている。このようなことは元々は 3 次元重力理論の
15
研究の発展に基づいている。
3 次元時空の重力理論では、曲率テンソル Rµναβ と Rµν がどちらも6つの独立
成分を持っている 。これより、アインシュタイン重力理論では、宇宙項の有無に
かかわらず局所的な自由度が存在しない [22][23][24]。その意味でアインシュタイ
ン重力理論は自明であると思われる。
ところがいくつかの場合では自明でない、つまり何か物理的な構造をもつ重力
理論が 3 次元で存在することが示されている。例えばアインシュタイン重力理論
が負の宇宙項を持つ場合は、漸近的反ドジッターブラックホール解が存在し [25]、
理論は熱力学的な性質を持っている。ほかの例として、Chern-Simons 項を加える
方法ある。この場合、理論はパリティ変換に対して不変ではないが局所的な自由
度として質量を持つ重力子を含んでいる。この理論は TMG[6][7] と呼ばれていて、
位相不変量である Chern-Simons 項を通して物理的な構造を与えている。ところが
この理論では、重力子のエネルギーが一般に負になり、正定値性を満たしていな
いという問題点を持っている。これを回避するための模型として、負の宇宙項を
TMG に導入したもの [8] が考案された。この模型は一般に 3 種類の重力子 (右巻
き・左巻き・有限質量) を含んでおりそのいずれかが負のエネルギーを持っている。
ここで、宇宙項と Chern-Simons 項の係数に適切な関係を与えることですべてのエ
ネルギーを負でない値に取ることが出来る。
2
さらに Chern-Simons 項ではなく、曲率 2 次の項である R2 , Rµν
をアインシュタ
イン重力理論に加える理論として、New Massive Gravity (NMG) と呼ばれる模型
[9] も考えられている。この模型は TMG と同じく質量を持つ重力子を含んでいる
が、パリティ不変性を満たしているという点が TMG とは異なっている。また、こ
の模型は線型のオーダーでは Fierz-Pauli Massive Gravity[26] と等価であることが
分かっている。
ところで、曲率高次の項を含んだ模型は一般的には次数勘定的に (超) 繰り込み
可能とされているが、前節で述べた理由により一般には正定値性を破っていた。し
かし、実際にこの模型をミンコフスキー時空・(反) ドジッター時空周りで考察し
て、いずれの場合も正定値性と繰り込み可能性を両立し得ることが示されている。
以下では、上述した高階微分項を含む 3 次元重力理論の模型である TMG と NMG
の概要を説明していく。
3.2.1
TMG with cosmological constant
負の宇宙項を持つ TMG の作用として次のものを考える:
{
}
∫
√
1
1
3
S = 2 d x ( −g(R − 2Λ) + LCS .
2κ
µ
(3.10)
ここで µ は質量次元 1 を持つ結合定数であり、また LCS は Chern-Simons 項であり
次の形で定義される位相不変量である:
16
LCS
(
)
√
3 σ τ
−g λµν ρ
σ
=
ϵ Γλσ ∂µ Γρν + Γµτ Γνρ .
2
2
(3.11)
ここで ϵλµν は完全反対称テンソルである。Chern-Simons 項は高階微分項を含んで
いるので、新たな自由度としてスピン 2 の質量を持つ重力子が出現する。この重
力子の質量は µ, Λ に依存する形で記述される。但し、微分の次数が 3 階であるこ
とより理論はパリティ不変性を破っていることに注意する。
この作用に対する運動方程式は次の形で与えられる:
Gµν + Λgµν +
1
Cµν = 0.
µ
(3.12)
ここで Cµν は LCS 項からの変分の寄与であり Cotton tensor と呼ばれる量で
Cµν ≡
ϵαβ
µ ∇α
(
)
1
Rβν − Rgβν
4
(3.13)
で与えられている。但し Cµν は以下の 3 つの性質を満たしている:
Cµν = Cνµ ,
g µν Cµν = 0,
∇µ Cµν = 0.
(3.14)
運動方程式 (3.12) の解として、アインシュタイン方程式に対する解である反ド
ジッター時空を考える。反ドジッター解は次のような線素で与えられている:
ds2 = l−2 (−cosh2 ρdτ 2 + sinh2 ρdϕ2 + dρ2 ).
(3.15)
但し、半径 l は宇宙項 Λ と次の関係式を満たしている:
l−2 = −Λ.
(3.16)
この時、曲率テンソル及びその縮約は次のように与えられている:
Rµανβ = Λ(gµν gαβ − gµβ gνα ), Rµν = 2Λgµν , R = 6Λ.
(3.17)
曲率が全て計量 gµν に比例しているので Cotton tensor (3.13) は明らかにゼロであ
る。よって、確かに反ドジッター時空が運動方程式 (3.12) に対する解になってい
ることが分かる。
続いて、反ドジッター時空を背景場としてその周りの摂動展開 gµν → gµν + hµν
を考察する。運動方程式 (3.12) に対して摂動を取り hµν の 1 次まで残すと次の形
の線型方程式を得る:
L
Gµν
+
1 L
C = 0,
µ µν
1
L
L
Gµν
= Rµν
− RL gµν − 2Λhµν ,
2
17
(3.18)
(3.19)
1 L
L
L
Cµν
= ϵαβ
µ (Rβν − R gβν − 2Λhβν ).
4
(3.20)
1
L
Rµν
= − (□hµν + ∇µ ∇ν h − ∇α ∇µ hαν − ∇α ∇ν hαµ )
2
(3.21)
RL = −□h + ∇µ ∇ν hµν − 2Λh
(3.22)
さらに方程式のトレースを取ると、
RL = 0
(3.23)
を得る。このとき、Cotton tensor がトレースレスあることを用いている。
続いてゲージ固定を行う。ゲージ固定条件として次の条件を課す:
∇µ hµν = ∇ν h.
(3.24)
このとき、RL = −2Λh = 0 となる拘束条件を得る。結局 hµν に対する条件は次の
2つになる:
∇µ hµν = 0,
h = 0.
(3.25)
これは、hµν が Traceless かつ Transverse であること (TT-mode) を示唆している。
ゲージ条件 (3.25) を課した場合の線型方程式 (3.18) は次の形をした 3 階微分方
程式で与えられる:
(
)
2
1 αβ
(□ + 2 ) hµν + ϵµ ∇α hβν = 0.
l
µ
(3.26)
ここで、互いに可換である 3 つの演算子 (DL , DR , DM ) を次の形で定義する:
(DL/R ) ≡ δµβ ± lϵµ αβ ∇α ,
(DM )βµ ≡ δµβ +
1 αβ
ϵµ ∇α .
µ
(3.27)
これらの演算子を用いると、(3.26) は次のように記述される:
(DL DR DM h)µν = 0.
(3.28)
演算子の可換性から、運動方程式は 3 種類の解を持つ。まずは質量を持つ重力子
(M )
hµν として、
)
(DM h(M ) )µν = h(M
µν +
1 αβ
(M )
ϵµ ∇α hβν = 0
µ
(3.29)
を満たす解が存在する。この解は Chern-Simons 項の導入によって現れる伝搬モー
ドである。残りの DL/R に対する解は、アインシュタイン重力理論でも現れる伝搬
18
L(R)
モードである。それぞれ、左 (右) 巻き hµν
解として定義される:
と呼ばれていて次の方程式を満たす
L
(DL hL )µν = hLµν + lϵαβ
µ ∇α hβν = 0,
(3.30)
αβ
R
(DR hR )µν = hR
µν − lϵµ ∇α hβν = 0.
(3.31)
以上をまとめると、重力場 hµν は次の形に分解されている:
)
L
R
hµν = h(M
µν + hµν + hµν .
(3.32)
今、重力場は 3 種類の伝搬モードを含んでおりそれぞれ、負の宇宙項 (Λ ≤ 0) に
L/R
(M )
よって出現する hµν と Chern-Simons 項の寄与によって出現する hµν であった。
ここからは、これらの伝搬モードが一般の (Λ, µ) に対してどのような値のエネ
ルギーを有するかを調べて、理論の正定値性を考察していく。
まず、hµν の 2 次の作用 S2 を求める。ゲージ固定条件 (3.25) を課したときの線
型方程式 (3.26) を導出する作用を考えると S2 は
1
S2 = 2
4κ
∫
{
(
)}
√
2 2
1
2
2
µν αβ
d x −g −(∇α hµν ) + 2 hµν − ∇α h ϵµ
□ + 2 hβν
(3.33)
l
µ
l
3
で与えられる。この作用に対応するハミルトニアンを求めて、それぞれの伝搬モー
ドに対するハミルトニアンエネルギーを調べる。但し、作用 S2 には3階の時間微
分項を含んでいるので通常の方法では上手くハミルトニアンを定義できない (ḣµν
に独立な関数を定義できない)。
ここでは hµν に対する共役運動量を [29] [34] の手法を用いて以下のように 2 種類
定義する:
Πµν
1
{
}
√
−g
1 µα
1 0µ
2 βν
0
µν
βν
= − 2 ∇ (2h + ϵβ ∇α h ) − ϵβ (□ + 2 )h
,
4κ
µ
µ
l
√
−gg 00 λµ
µν
ϵ ∇λ hβµ .
Π2 = −
4κ2 µ β
(3.34)
(3.35)
ここで Πµν
2 は LCS の導入によって新たに必要となる、∇0 hµν に対応する共役運動
量である。
これら2種類の共役運動量を用いるとハミルトニアンは次の形で定義される:
∫
0˙
H = d3 x(ḣµν Πµν
(3.36)
1 + (∇ hµν )) − S2 .
これより、重力子の各伝搬モードに対するエネルギーはそれぞれの運動方程式
を適応させればよく、それぞれ次の形で与えられる:
19
(
)
∫
√
1
1
1
3
M
2
EM =
µ − 2
d
x
−gϵβ 0µ hβν
M ḣµν ,
2
µ
l
4κ
(
)
∫
√
1
1
L
EL = −1 +
d3 x −g∇0 hβν
L ḣµν ,
2
µl 2κ
(
)
∫
√
1
1
R
d3 x −g∇0 hβν
ER = −1 −
R ḣµν .
2
µl 2κ
(3.37)
(3.38)
(3.39)
アインシュタイン重力理論に帰着する場合 (µ = ∞) でエネルギーが負でない
と仮定すると積分値は全て負であることに注意する。また µ ≥ 0 を仮定して、そ
れぞれのエネルギーを考察する。まず EM は µl ≤ 1 の時に正の値を取ることが分
かる。EL は逆に µl ≥ 1 で正の値を取り、ER は常に正の値を取ることが分かる。
L
hM
µν , hµν に対するエネルギーが正である条件が逆であるので、一般には両立が不可
能である。これは理論の正定値性が一般には破れていることを意味している。
ここで、ある特別な場合として µl = 1 を考えると EM = EL = 0 となり正定値
性を満たしている。この時右巻きモード hR
µν のみがゼロでないエネルギーを持つ
ことから、この重力理論は chiral gravity と呼ばれていて、µl = 1 は chiral point
としばしば呼ばれている。このように、理論への正定値性の要請から chiral point
を取る必要があるのだが、この点を取るのに重要なのが宇宙項 Λ = − l12 の存在で
ある。実際 Λ = 0(l = ∞) を取ると µ に依らずに EL = ER ≤ 0 となるので、この
場合はもはや正定値性を満たすための条件を課すことが出来ないので、理論が破
綻してしまう。
ここまで µ ≥ 0 を仮定して考察しているが、逆に µ ≤ 0 の場合では chiral point
µl = 1 において左巻きモード hLµν のエネルギーのみが正の値を取り、残りの 2 つ
の伝搬モードのエネルギーはゼロとなる (以下では再び µ ≥ 0 のみを考察する)。
最後に、BTZ ブラックホールと呼ばれる 3 次元重力理論に出現するブラックホー
ルの種々の物理量が、chiral point でどのような値を取るかを調べる。
まず、BTZ ブラックホールの質量 M (µ) と角運動量 J(µ) をアインシュタイン重
力理論 (µ = ∞) に対する値と関係づけて [27][28] に従って次にように定義する:
J(∞)
,
µl
M (∞)
J(µ) = J(∞) +
.
µ
lM (µ) = lM (∞) +
(3.40)
(3.41)
M (∞) の下限が lM (∞) ≥ |J(∞)| と定まっている [25] ので、条件 µl ≥ 1 を満たす
とき (3.40) は正の値を取る。これはハミルトニアンエネルギーが EM ≤ 0, EL ≥ 0
となっている場合に対応している。逆に µl ≤ 1 の場合はブラックホールの質量は
負の値を取り得る。ここで、ハミルトニアンエネルギーの正定値性を満たす chiral
20
point µl = 1 の場合をみると、BTZ ブラックホールの質量は
lM (l−1 ) = J(l−1 )
(3.42)
で与えられる。
また、BTZ ブラックホールのエントロピーを求める。Chern-Simons 項の寄与を
含めた形は
π
SBH (µ) =
2GN
(
)
1
r+ + r−
µl
(3.43)
と与えられる [31][32][32][33]。r+ (r− ) は外側 (内側) のホライズンであり µ に依存
しない形で次のように定義される。
r± ≡
√
2GN l(lM (∞) + J(∞)) ±
√
2Gl(lM (∞) − J(∞))
(3.44)
(3.43) は µl の値によっては負の量を取り得る。
Chiral point においては r+ = r− となるので、そこにおけるエントロピーは
√
π ∗
∗
SBH (µ) =
(3.45)
r + , r+
≡ 2l GN M (l−1 )
2GN
となる。この表式はアインシュタイン重力理論のエントロピーに一致しており (外
側のホライズンのみに依存しているので)、確かに正の値を取る。
ここまで、TMG が宇宙項を持った場合の理論におけるエネルギーとその正定値
性に関して考えてきた。Chern-Simons 項の導入によって出現した hM
µν の有するハ
(L/R)
ミルトニアンエネルギーと、従来から在った hµν のそれは全てが正にはなってお
らず一般には理論の正定値性が失われている。また、負の宇宙項 Λ の導入により
得られる時空構造である BTZ ブラックホールの質量やエントロピーに関しても、
やはり一般的には負の値を取り得る。ここで chiral point µl = 1 を取ると、右巻
(R)
き hµν のみが正のハミルトニアンエネルギーを有し、BTZ ブラックホールの物理
量も正の値になっていた。よって、 chiral point においては理論が正定値性を満た
していることになる。この時伝搬モードは右巻きのみが自明でない振る舞いをし
ている。但し、chiral point においても理論はパリティ変換に対して不変ではない
ことに注意しておく。
3.2.2
New Massive Gravity
3.2.1 で考察した負の宇宙項を導入した TMG は、高階微分項を含んでいること
により出現し得る正定値性を破る伝搬モードを、適当な結合定数を選ぶこと (chiral
point) でそのハミルトニアンエネルギーをゼロに取れることを導いた。このとき
理論の正定値性は満たされている。しかし、この模型はパリティ不変でないとい
う特徴を持つ。
21
ここではさらなる拡張としてパリティ不変な模型である New massive Gravity(NMG) [9] についてを説明する。この模型は、曲率 2 次の項を導入して結合
定数に適切な関係を与えることで、正定値性と繰り込み可能性を同時に満たし得
るものである。
NMG の作用は負の宇宙項を含むものとして次のように与えられる:
1
S= 2
2κ
∫
(
)
√
1
d x −g R − 2Λ0 − 2 K ,
m
3
(3.46)
3
2
K ≡ Rµν
− R2 .
(3.47)
8
ここで、m は質量次元 1 を持つ結合定数であり Λ0 は裸の宇宙項である。曲率 2 次
の項 K の係数である結合定数 κ2 m2 が質量次元で 1 なのでこの理論は次数勘定的
に (超) 繰り込み可能な模型とされる。
この作用の運動方程式は次のように与えられる:
Gµν + Λ0 gµν −
1
Kµν = 0,
2m2
(3.48)
(
)
)
(
(
)
3
3
Kµν
□gµν + ∇µ ∇ν − Rgµν R+2 □ − R Rµν + 4Rµανβ − Rαβ g µν Rαβ .
4
4
(3.49)
この運動方程式では、前節で考察した TMG と同様に (反) ドジッター時空 (3.17)
が解になる。但しここでは裸の宇宙項 Λ0 と結合定数 m2 を用いて、解に含まれる
宇宙項 Λ は、
1
=−
2
m2 =
Λ2
4(Λ − Λ0 )
(3.50)
で与えられている。これより、一般には Λ ̸= Λ0 であることが分かる。また Λ0 ≤ 0
から Λ は正負どちらも取り得るが、以降では Λ ≤ 0 のみを考察していく。
続いて、摂動展開を考えて hµν についての線型方程式を導出する。摂動 gµν →
gµν + hµν より、
L
−
Gµν
1
L
= 0,
Kµν
2
2m
1
1
L
L
Kµν
= − □RL gµν − ∇µ ∇ν R + 2□Rµν
− 4Λ□hµν
2
2
3
19
L
−5ΛRµν
+ ΛRL gµν + Λ2 hµν .
2
2
(3.51)
(3.52)
ここで、ゲージ固定条件を ∇µ hµν = ∇ν h と取ると、(3.51) のトレースが RL = 0
であることから、TMG の時と同じく
22
∇µ hµν = 0
h = 0,
(3.53)
が得られる。この時 (3.51) は 4 階微分方程式として次の形で与えられる:
{
(
)}
5Λ
2
□− m +
(□ − 2Λ)hµν = 0.
2
(3.54)
これより、hµν は 2 種類の解を持つ。まず 1 つ目は、
(□ − 2Λ)hm
µν = 0
(3.55)
を満たす解である。これは 3.2.1 における右 (左) 巻きの重力子と同じ伝搬モードを
記述していて、特にここでは質量を持たない重力子として m でラベル付けしてお
く。もう一方は、
{
(
)}
5Λ
2
□− m +
hM
µν = 0
2
(3.56)
である。これは高階微分項の寄与によって出現したスピン 2 の質量を持つ重力子
を記述している。その質量 M 2 は
Λ
1
= m2 − 2
(3.57)
2
2l
で定義される。M 2 が正であるという要請から、m2 l2 ≥ 21 が条件として必要になる。
次に、エネルギーの正定値性を確認する。ハミルトニアンを定義するためには
2 種類の共役運動量が必要であり、それぞれ次のように与えられる:
M 2 ≡ m2 +
{
}
√
−g
1 0 µν
9
0 µν
=
∇ □h − (1 −
)∇ h
,
(3.58)
4κ2 m2
2m2 l2
√
−g g 00
µν
Π2 = − 2 2 □hµν .
(3.59)
4κ m
これらを用いればハミルトニアン H を 3.2.1 節と同様に定義することが出来る。先
M
に求めた重力子の伝搬モード hm
µν , hµν の固有値 Em , EM はそれぞれ
Πµν
1
(
Em = − 1 −
)∫
√
−g
m
d x 2 ∇0 hµν
m ḣµν ,
4κ
(
)∫
√
1
−g 0 µν M
3
EM − = 1 −
d
x
∇ hM ḣµν
2m2 l2
4κ2
1
2m2 l2
3
(3.60)
(3.61)
で与えられる。先ほど求めたように、重力子の質量 M 2 が正であるための条件
m2 l2 ≥ 12 より Em ≥ 0 (EM ≤ 0) となってることが分かる。よって、高階微分
項の寄与によって出現する質量を持つ重力子 hM の エネルギーが負であることに
より、理論は一般には正定値を満たさない。これを避けるために、TMG における
23
chiral point と同様に結合定数に関係式を与える。エネルギーの表式は全体の符号
が逆になっているだけなので、両方のエネルギーが非負の値を取る条件は
1
(3.62)
2
であり、このとき Em = EM = 0 である。TMG における chiral point の場合とは
異なり、正定値性を満たすときはエネルギーが正である重力子が存在せず理論が
自明であるように見える。
但し、(3.62) は m2 ̸= 0 なので曲率 2 次の項は消えずに残っている。このことは、
理論が (超) 繰り込み可能であることを示している。
最後に、NMG は特にミンコフスキー時空周りの摂動では Fierz-Pauri Massive
Gravity と等価であることを確認しておく。(3.46) は補助場 fµν を用いて 2 階微分
までの形式にすると次のように記述される:
{
}
∫
√
1
1 2 2
3
µν
2
S = 2 d x −g R + f Gµν − m (fµν − f ) .
(3.63)
2κ
4
m2 l 2 =
ここで摂動展開を実行して 2 次のオーダーまでの作用 S2 を記述すると、
)
}
1 µν
1 2 2
2
dx
f − h
[Gh]µν − m (fµν − f )
(3.64)
2
4
∫
2
となる。但し、[Gh]µν は SEH
= 2κ12 dD xhµν [Gh]µν で定義されるアインシュタイ
ン演算子である。ここで、fµν の運動方程式を利用するのだが、例えば fµν を消去
した場合は作用は 4 階微分を含む形になりそれは (3.46) の摂動 2 次の作用に他な
らない。一方 hµν を消去する場合は、hµν の運動方程式が hµν = fµν になるのでこ
れを代入することで、
{
}
∫
1
1 µν
1 2 2
3
2
S2 = 2 d x
f [Gf ]µν − m (fµν − f )
(3.65)
2κ
2
4
1
S2 = 2
2κ
{(
∫
3
µν
を得る。これは fµν をスピン2の質量を持つ重力子とする Fierz-Pauri Massive Gravity の作用に他ならない。
3.3
Critical Gravity in 4dim
3.2 節では、3 次元重力理論において高階微分項を含んだ模型の考察を行ってき
た。注目する点として、宇宙項の存在が理論を正定値を満たすための重要なファ
クターとなっていた。特に NMG においては繰り込み可能性と正定値性が両立し
得ることが示唆された。ここでは、今までの結果を踏まえて次元を拡張して 4 次
元時空において宇宙項を含めた高階微分項を含む重力理論を考察していく。
4 次元時空での重力理論の作用を、曲率 2 次の項と宇宙項を導入したものとして
次の形で与える:
24
1
S= 2
2κ
∫
)
√ (
2
d4 x −g R − 2Λ + αR2 + βRµν
.
(3.66)
ここで、ガウス・ボンネ項 E が 4 次元では全微分項となり運動方程式に寄与しな
2
いことから、Rµναβ
項は含める必要がないことに注意する。
すでに述べてきた通り、高階微分項の寄与によりこの模型は繰り込み可能であ
り、スピン 2 の質量を持つ重力子・スピン 2 の質量を持たない重力子・スピン 0 の
質量を持つ重力子が伝搬モードとして現れることが示されている [4]。これら 3 つ
のモードのうちで、スピン 2 の質量を持つ重力子が負のエネルギーを持つ事から、
理論の正定値性が失われてしまうことが分かっている。Λ = 0 の際には、正定値性
の回復のためには模型の結合定数を α = β = 0 と選ぶ必要があり、繰り込み可能
性を放棄しなければならなかったのだが、Λ ̸= 0 の時には 3 次元においての考察と
同様に正定値性と繰り込み可能性を両立し得る結合定数の選択条件が存在する。
まず (3.66) から計量 gµν に対する運動方程式は次のように求まる:
Gµν + Eµν = 0.
(3.67)
但し Gµν ,Eµν はそれぞれアインシュタイン・ヒルベルト項、曲率 2 次の項からの寄
与であり
Gµν = Gµν + Λgµν ,
(3.68)
1 2
1
Eµν = 2β(Rµα Rνα − Rαβ
gµν ) + 2αR(Rµν − Rgµν )
4
4
1
α
+β(□Rµν + □Rgµν − 2∇α ∇(µ Rν)
) + 2α(gµν □R − ∇µ ∇ν R)(3.69)
2
で与えられる。この方程式は (反) ドジッター時空解を満たしていており、その解
は曲率に対して次のように与えられる:
Λ
(gµα gνβ − gµβ gνα ).
(3.70)
3
ここで、4 次元時空においては (反) ドジッター時空解に対して Eµν が寄与しない
ことから、作用において Λ ̸= 0 であることが (3.70) を満たすために必要不可欠と
なっている (逆に言えば、他次元時空では作用において Λ = 0 であっても曲率高次
の項の結合定数の寄与により (反) ドジッター時空解を取り得る)。
続いて、(反) ドジッター時空 (3.70) を背景時空として、その周りにおける計量
の摂動展開を gµν → gµν + hµν と取り、重力場 hµν に対する 1 次の運動方程式を求
めると次のようになる:
Rµν = Λgµν ,
R = 4Λ,
Rµναβ =
25
0 =
{
}
{(
2Λ ) L
2Λ L }
L
1 + 2Λ(4α + β) Gµν
+β □−
Gµν −
R gµν
3
3
+(2α + β)(gµν □ − ∇µ ∇ν + Λgµν )RL .
(3.71)
また、運動方程式 (3.71) のトレースを取ると
{2(3α + β)□ − 1}RL = 0
(3.72)
と求まる。但し、Gµν ,Rµν ,R を摂動展開に対して 1 次のオーダーまで取ったものを
添字 L を付けて次のように与えた:
1
L
L
− RL gµν − Λhµν ,
Gµν
= Rµν
2
(3.73)
1
1
L
Rµν
= ∇α ∇(ν hν)α − □hµν − ∇ν ∇µh,
2
2
(3.74)
RL = ∇µ ∇ν hµν − □h − Λh.
(3.75)
次に、一般座標変換不変性を用いてゲージ固定を行って、重力場のスカラーモー
ド h を消去して方程式の簡略化を図る。ここでは以下のような形のゲージ固定条
件を課す:
∇µ hµν = ∇ν h.
(3.76)
この条件の下では、
1
1
L
Gµν
= − □hµν + ∇µ ∇ν h +
2
2
1
1
Rµν = − □hµν + ∇µ ∇ν h +
2
2
L
R = −Λh.
Λ
(2hµν + hgµν ),
6
Λ
(4hµν − hgµν ),
3
(3.77)
(3.78)
(3.79)
となり、(3.72) は次のように重力場のスカラーモード h についての運動方程式とし
て記述される:
Λ{2(3α + β)□ − 1}h = 0.
(3.80)
これより、結合定数をうまく選ぶことで h を消去することが可能なことが分かる。
その条件は、
3α + β = 0
26
(3.81)
2
でありこの時確かに h = 0 となる。このとき、曲率 2 次の項は β2 Cµναβ
とワイルテ
ンソルの 2 乗でまとめられる。
さらに元々のゲージ固定条件と合わせると hµν に対する拘束条件として、
∇µ hµν = 0,
h=0
(3.82)
が与えられる。
残りの解くべき運動方程式は、以下のように記述される hµν に対する 4 階微分
方程式である:
3α
0=
2
(
)(
)
2Λ
4Λ
1
□−
□−
−
hµν .
3
3
3α
(3.83)
但し、ここでの hµν は (3.82) を満たすものである。この 4 階微分方程式 (3.83) は
(m)
スピン 2 の質量を持たない重力子モード hµν とスピン 2 の質量を持つ重力子モー
(M )
ド hµν を記述しており、それぞれ次の2階微分方程式を満たす解として定義され
ている:
(
)
2Λ
□−
h(m)
µν = 0,
3
(
)
2Λ
2
)
□−
− M h(M
µν = 0.
3
(3.84)
(3.85)
(M )
但し、M 2 は、hµν の質量として次のように定義されている:
1
2Λ
+
.
(3.86)
3
3α
解の安定性より M 2 ≥ 0 が要請されるので結合定数に次の制限が課される:
M2 ≡
0≤α≤−
1
2Λ
0 ≤ α or α ≤ −
(M )
(Λ ≤ 0),
1
2Λ
(Λ ≥ 0).
(3.87)
(3.88)
次は、hµν を消去するように結合定数 α を選ぶことを考える。まず α = 0 を考え
ると、この時 4 階微分方程式 (3.83) は 2 階微分方程式 (3.84) の形に落ちる。この
(M )
(m)
場合では hµν はもはや運動方程式の解ではなくなり、理論は hµν のみを含む。と
ころがこのとき結合定数は、(3.81) より α = β = 0 となるので、曲率2次の項が
落ちてしまい理論は繰り込み可能性を失う。これは正に、Λ = 0 で行った考察と同
じ状況となっている。
(M )
ここで Λ ̸= 0 で考えていることが重要となっている。結合定数 α を hµν の質量
M がゼロになるように選んでみると α は
27
α=−
1
2Λ
(3.89)
と決定されてこの時 (3.83) は、
(
)2
2Λ
□−
hµν = 0
3
(3.90)
のように、縮約された形の 4 階微分方程式で与えられる。この方程式も α = 0
(M )
の時と同様に hµν はもはや解ではなくなっている。ところが先ほどとは異なり
α ̸= 0, β ̸= 0 であるので曲率 2 次の項がどちらも落ちずに残っている。この事よ
り、理論の繰り込み可能性は未だに保たれたままとなってることが分かる。
このように質量がゼロである極限となる結合定数を選択することを“ critical point
”を取ると呼ぶことにする。critical point では重力理論は繰り込み可能性と正定値
性を両立し得るとされている。 ここまで、宇宙項 Λ を導入して (反) ドジッター時空周りで重力場の運動方程式
(M )
を求めた。そして解のうちの1つであるスピン 2 の質量を持つ重力子 hµν を除去
(M )
する条件を考察した。結果、critical point を取ると hµν を消去できて、このとき
曲率 2 次の項が落ちずに残っていることがわかった。
これからは理論に含まれている各重力子のハミルトニアンエネルギーを求めて、
(M )
critical point とそうでない場合とでどのような値を取るかを調べて、実際に hµν
のエネルギーが負となることを確認して理論の正定値性について改めて考察する。
ここでは時空を反ドジッター AdS4 に取ることにする。この時空構造は次のよう
な計量で与えられる:
]
3[
−cosh2 ρdt2 + dρ2 + sinh2 ρdΩ22 .
(3.91)
Λ
まずはハミルトニアンを求めるために hµν に対する作用を求める。但し、ゲージ
固定条件と共に (3.81) を満たしていてスカラーモード h は消去している状況を考
えることにする。O(h2µν ) までの作用 S2 は線型な運動方程式 (3.83) を導出する形
でなければならないことに注意すれば、− 12 hµν を (3.83) に掛ければ容易に求める
ことが出来て次のように与えられる:
ds2 = −
1
S2 = − 2
2κ
∫
√ {1
3
d4 x −g (1 + 6αΛ)(∇α hµν )2 + α(□hµν )2
2
2
}
Λ
+ (1 + 4αΛ)h2µν .
3
(3.92)
次に共役運動量を定義するのだが、作用は高階微分項を含んでいるので通常の方
法とは異なる定義が必要となる。ここでは Ostrogradsky 公式 [34] に従って、以下
のように 2 種類の共役運動量を定義する:
28
π1µν
δL2
≡
−∇0
δ ḣµν
(
δL2
∂
δ[ ∂t
(∇0 hµν )]
π2µν
)
√
−g
= − 2 ∇0 [(1 + 6αΛ)hµν − 3α□hµν ] , (3.93)
2κ
√
δL2
−g
≡ ∂
= − 2 3αg 00 □hµν .
2κ
δ[ ∂t (∇0 hµν )]
(3.94)
これらの共役運動量を用いてハミルトニアンは次のように定義される:
[
∫
H≡
3
dx
π1µν ḣµν
+
(m)
π2µν
] ∫
√
∂
(∇0 hµν ) − d3 x −gL2 .
∂t
(3.95)
(M )
これに対して運動方程式の解 hµν , hµν を代入すれば、各伝搬モードに対するハ
ミルトニアンエネルギーが求まる。
ここで、計算の簡略化のために H の表式を変更する。ラグランジアンが時間に
陽に依存しないことからハミルトニアンは時間独立なことが分かる。よってハミ
ルトニアンを時間積分の平均として、
1
H=
T
∫
T
dtH
(3.96)
0
と形式的に記述しておくが出来る。但し T は適当なインターバルである。この表
式を用いることの利点は、時間微分に関する部分積分を実行出来る点である。
結局、ハミルトニアン H は 4 次元積分を用いて次のように与えられる:
{
}
√
∂
S2
0 µν
µν
0
d x −g −(1 + 6αΛ)∇ h ḣµν + 6α (□h )∇ hµν − .
∂t
T
(3.97)
なお、(3.97) の第 2 項は運動方程式 (3.83) に比例するので、ハミルトニアンエネ
ルギーを求める際には寄与しない。
以上より、それぞれのモードのハミルトニアンエネルギー Em , EM を求めると
次のように与えられる:
∫
)
√ (
1
0 (m)
Em = − 2 (1 + 2αΛ) d4 x −g ḣ(m)
∇
h
,
(3.98)
µν
µν
2κ T
∫
)
√ (
1
) 0 (M )
∇
h
.
(3.99)
EM = 2 (1 + 2αΛ) d4 x −g ḣ(M
µν
µν
2κ T
1
H= 2
2κ T
∫
4
ここで、アインシュタイン重力理論の場合 (α = β = 0) を考えると、ハミルトニ
アンエネルギーは
∫
)
√ (
1
0 (m)
Em = − 2
d4 x −g ḣ(m)
∇
h
(3.100)
µν
µν
4κ T
29
で与えられる。これはスピン 2 の質量を持たない重力子のエネルギーであり、ア
インシュタイン重力理論が正定値性を満たしていることから Em ≥ 0 でなければ
ならないことが分かる。よって積分値は負でなければならない。また、(3.99) に現
れる積分は (3.98) 中の積分と同じ形をしているので、こちらの積分値も負である
ということが分かる (但し M 2 ̸= 0 の時に限る)。
以上より、Em , EM の差異は符号のみであることが分かるので、一般には必ずど
(m)
ちらかのモードが正定値性を破ってしまう。hµν はアインシュタイン重力理論で
出現するものと同等な伝搬モードであるので、通常はこちらのエネルギーが正で
あると考える。
よって一般には EM ≤ 0 となるので、確かに高階微分項の寄与によって出現し
(M )
たスピン 2 の質量を持つ重力子 hµν の存在が理論の正定値性を破っていることが
(M )
分かる。先ほど hµν 消去のための条件として critical point を取ればいいことを
(m)
述べたが、その条件 (3.89) においては、唯一残っている伝搬モード hµν に対して
Em = 0 となる。これは 3 次元の NMG[9][10] に対する状況と類似している。
(M )
hµν の存在による正定値性の破れを回避するためには critical point を取ればよ
(m)
く、そのときに残る伝搬モードは hµν であり、アインシュタイン重力理論のそれ
と一致している。またハミルトニアンエネルギー Em は critical point においてゼ
ロとなることが分かった。
(m)
(M )
ここで理論が持つ自由度の数に注目すると、通常は hµν と hµν の 2 種類が伝搬
しておりそれぞれ自由度は 5、2 であり計 7 自由度を持っている。一方 critical point
(m)
(M )
においては hµν が解として現れないので、自由度が hµν のみで 2 となっていると
一見考えられる。
(M )
ところが、ここではゲージ対称性を用いて hµν を消去したわけではないことに
注意する。よって 5 つの自由度は実際に理論から消去されたわけではない (スカラー
モード h はゲージ自由度を用いて消去していた)。実はこの 5 つの自由度は critical
point においては別の伝搬モードとして出現しているのである。
(M )
ここからは、critical point において hµν に代わって出現する新たな伝搬モード
を対数モード [35] [36] と定義して、改めて理論の正定値性に関する考察を行う。
まず、critical point における重力場 hµν の運動方程式が 2 階微分演算子 (□ − 2Λ
)
3
の縮約形である 4 階微分方程式であったことに注意して、対数モードを (3.90) の
解として以下の極限で定義する:
(M )
(m)
hµν − hµν
≡ lim
.
2
M →0
M2
このモードは以下の式を満たす:
hlog
µν
(
)
2Λ
= −h(m)
□−
hlog
µν ,
µν
3
30
(3.101)
(
)2
2Λ
□−
hlog
= 0.
µν
3
(3.102)
よって、hlog
µν は 4 階微分方程式の解ではあるが、2 階微分方程式の解ではないこと
が分かる。AdS4 計量 (3.91) に対しては、確かに対数関数を含んだ形式で以下のよ
うに与えられている:
(m)
hlog
µν = (2it + log sinh2ρ − log tanhρ)hµν .
(m)
(3.103)
(M )
よって、理論の正定値性を議論するためには hµν , hµν だけでは不十分であり hlog
µν
も考察の対象にする必要がある。
critical point において正定値性が満たされているかを考察するために hlog
µν のハ
ミルトニアンエネルギー Elog を求める。前節で求めたハミルトニアン H に hlog
µν を
代入することで、Elog は次のように与えられる:
∫
)
√ (
3α
0 log
Elog = 2
d4 x −g ḣ(m)
(3.104)
∇
h
µν
µν .
2κ T
この式に含まれている積分値は、正の値を取ることが実際に計算で確認されている
[37]。よって、Elog が正定値であるためには、α ≥ 0 でなければならない。今 Λ ≤ 0
を考えているので、この条件は critical point(3.89) で確かに満たされている。
(m)
以上で、critical point において存在する 2 種類の伝搬モード hµν , hlog
µν の正定値
性は確認できた。ところで、critical point における最も一般的な解は 2 種類の伝
搬モードの重め合わせとして次のように定義される:
(m)
hµν = c1 hlog
µν + c2 hµν .
(3.105)
ここで、c1 , c2 は任意の定数である。
最後にこの重ね合わせ状態に対するハミルトニアンエネルギーを求める。対応
するエネルギーを E(c1 , c2 ) として計算すると、
{(
)2 (
)2 }
E
E
cross
cross
c1 + c2
E(c1 , c2 ) = c21 Elog + 2c1 c2 Ecross = Elog
− c2
,
Elog
Elog
(3.106)
∫
√ ( (m) 0 (m) )
3α
4
Ecross ≡ 2
d x −g ḣµν ∇ hµν
(3.107)
4κ T
で与えられる。(3.106) より、質量を持たないモードと対数モードの重ね合わせ状態
は負エネルギー状態を取り得ることが分かる。実際、α ≥ 0 より Elog ≥ 0, Ecross ≤ 0
であるから、c1 c2 ≥ 0 を満たす重ね合わせ状態に対するエネルギーは負の値を取
り得る。
31
(M )
故に、理論が完全に正定値性を満たすためには、critical point を取り hµν を縮
退させるだけではなく、さらに hlog
µν を (境界条件等で) 取り除く必要がある。結局、
(m)
理論に含まれる伝搬モードは critical point においては hµν のみであり Em = 0 と
なることから幾分か自明な模型となってることが分かる。
なお、ここまで hlog
µν を反ドジッター時空において定義して考察したが、ドジッ
ター時空に対しても同様に定義することが出来ており [38]、やはり、正定値性の要
請から消去しなければならないことが分かっている。
次に、ブラックホールに対するエネルギー (AD 質量) 及びエントロピーが critical
point においてはどのような値を取るかを漸近的 AdS 時空において示す。
まずは、一般的な重力理論に対する保存チャージ [39][40] を定義しておく。物質
場を含んだ重力作用に対する運動方程式は
Φ(g, R, , ∇R, R2 , ...)µν = κτµν
(3.108)
の形で与えられる。ここで、τµν は共変的に不変な物質場の source である。続い
て、計量 gµν を背景場とその差分 hµν に分解する。但し、摂動的に扱うと限っては
いない。これを用いて運動方程式を hµν の線型部分と、非線形部分に分けて次の
ように記述する:
O(g)µναβ = κTµν .
(3.109)
ここで O(g) は背景場のみに依存する演算子であり、Tµν は τµν を含むエネルギー
運動量テンソルであり共変的に保存している。今、背景場がある特別な対称性を
持っているとすれば、キリングベクトル ξµ が存在して、
∇µ ξν + ∇ν ξµ = 0
(3.110)
を満たす。このとき、共変的に保存するベクトル密度カレント J µ を Tµν を用いて
次のように定義できる:
√
∇µ J µ ≡ ∇µ ( −gT µν ξν ) = 0.
(3.111)
これより、キリングベクトル ξµ に関する保存チャージ Qµ を Jµ の空間積分で次の
ように定義できる:
∫
∫
√
µ
D−1
µν
Q (ξ) = d
x −gT ξν = dSi F µi .
(3.112)
ここで、F µν は反対称性テンソルであり、詳細な形は理論に依存している。
ここでは、crtical gravity における Qµ を求めていく。Tµν は (3.71) の左辺を 0 →
Tµν とすれば容易に定義出来て、以下のように与えられる:
32
2Λ L
2Λ L
)Gµν −
R gµν }
3
3
+(2α + β)(gµν □ − ∇µ ∇ν + Λgµν )RL .
L
Tµν = {1 + 2Λ(4α + β)}Gµν
+ β{(□ −
(3.113)
この式を (3.112) に代入すれば ξµ に関する保存チャージ Qµ (ξ) は次のように与え
られる:
µ
Q
{
}∫
√
= 1 + 2Λ(4α + β)
d3 x −gξν GLµν
∫
√
+(2α + β) dSi −g(ξ µ ∇i RL + RL ∇µ ξ i − ξ i ∇µ RL )
∫
√
+β dSi −g(ξν ∇i GLµν − ξν ∇µ GLiν − GLµν ∇i ξν + GLiν ∇µ ξν ). (3.114)
第 1 行目はアインシュタイン重力理論における通常の保存チャージに比例した形
をしている。ここからは特に、背景場をシュヴァルツシルト (反) ドジッター時空
として以下の計量を考えていく:
ds2 = −f (r)dt2 +
dr2
+ r2 dΩ22 ,
f (r)
(3.115)
Λ 2 r0
r − .
(3.116)
3
r
ここで、Ω2 は 2 次元球の立体角であり、r0 はブラックホール半径である。すると、
hµν は漸近的に
f (r) = 1 −
r0
r0
, hrr =
(3.117)
r
r
で与えられて、ほかの成分は全てゼロである。この時、(3.114) の第 2 項・第 3 項
は寄与しない。なぜならば、ドジッター時空に対しては、
h00 =
RL = Λhµν ,
R = 0,
L
=0
Gµν
(3.118)
が漸近的な領域では成立する。よってそのような領域での積分である (3.114) の第
2 項・第 3 項は寄与しない。残った第 1 項はアインシュタイン重力理論での保存
チャージに比例しているので、漸近的 (反) ドジッター時空におけるブラックホー
ルのエネルギー EBH = Q0 は
EBH = m0 {1 + 2(4α + β)Λ}
で与えられる。ここで、m0 =
ある。
r0
2GN
(3.119)
はアインシュタイン重力理論でのエネルギーで
33
続いて、エントロピー S も求めておく。[41] によるエントロピーの公式は
∫ √
∂L
S = −2π
hd2 xϵµν ϵαβ
(3.120)
∂Rµναβ
である。これに従って計算するとエントロピーはように求まり、以下の形式で与
えられる:
S = {1 + 2(4α + β)Λ} SBH .
(3.121)
ここで SBH はベッケンシュタイン・ホーキングエントロピーである。
以上で、重力作用 (3.66) におけるブラックホールのエネルギー及びエントロピー
を求めた。これらの表式は両方とも、1 + 2(4α + β)Λ に比例していることに注目
する。ここで、重力場のスカラーモード h を消去するための条件 (3.81) を課すと
EBH = m0 (1 + 2αΛ) = 3M 2 m0 ,
(3.122)
S = (1 + 2αΛ) SBH = 3M 2 SBH
(3.123)
と、重力子の質量 M 2 に比例した形で記述される。M 2 ≥ 0 より両方とも正の値を
取るのだが、理論の正定値性を失わないためには critical point に取る必要がある
ので M 2 = 0 を課さねばならない。この時、これらの値は明らかにゼロにになる:
EBH = 0,
S=0
(critical point).
(3.124)
以上より、critical point においてはハミルトニアンエネルギーがゼロになるだけ
ではなくブラックホールのエネルギーやエントロピーまでもがゼロになることが
示された。この事は、臨界重力理論は繰り込み可能かつ正定値性を満たし得る模
型ではあるが、さまざまな物理量がゼロになるので理論としては自明なものでは
ないかと考えられる。
ここまで、3 次元重力理論における TMG や NMG といった模型で行った正定値
性を満たすための手法を 4 次元重力理論に適応できるかの考察を行った。その結
果、4 次元の場合でも結合定数を適切に選び critical point を選ぶことで、理論の
正定値性を満たすことが出来る。このとき、曲率 2 次の項はワイルテンソルの 2
乗の形で記述される。よって繰り込み可能性を次数勘定的に満たしている。但し、
critical point においては非自明な物理量がないと示唆される。
これらのことは NMG と同様の結果であり、宇宙項 Λ の存在が必要不可欠であ
った。
34
4
臨界重力理論の拡張
前章では、曲率 2 次の項まで含む重力理論について特に宇宙項を含む形の模型
である臨界重力理論を考察した。理論の正定値性の要請により結合定数は制限を
受けることが示されて、critical point を取るときに正定値性と繰り込み可能性を
満たし得る。但し、critical point を満たす真空解は (反) ドジッター時空に限られ
て、ミンコフスキー時空は critical point を取れないことが示された (アインシュタ
イン重力理論に落ちてしまう)。
この章では、ミンコフスキー時空が critical pont を満たす真空解として得られ
ることを目標として、臨界重力理論の拡張を実行していく。
4.1
臨界重力+スカラー場模型
拡張模型として我々は新たにスカラー場 ϕ を導入した模型 [14] を提案した。こ
の模型に関する考察を本節で行う。重力場と非最小結合した Rϕ2 項を含んだ以下
のような作用を出発点とする:
∫
S =
√ { 1
2
d4 x −g
(R − 2Λ0 + αR2 + βRµν
)
2κ2
}
1
1
1
− (∇µ ϕ)2 − m2 ϕ2 + ηRϕ2 − ξϕ4 .
2
2
4
(4.1)
スカラー場に関しても繰り込み可能を要請して、ϕ4 項までに制限している。ここ
で、η, ξ は無次元の結合定数であることより次数勘定的な繰り込み可能性を確か
に満たしている。また m2 は単なるパラメータとして導入していて、ここでは特に
m2 ≥ 0 は仮定していないことに注意しておく。
スカラー場 ϕ 及び重力場 gµν の運動方程式はそれぞれ以下のように与えられる:
(□ − m2 + 2ηR)ϕ =
1 3
ξϕ ,
3!
Gµν + Eµν + 2κ2 Φµν = 0.
(4.2)
(4.3)
ここで Gµν 、Eµν は (3.68)・(3.69) で定義したものである。但し今は Λ → Λ0 と
なっていることに注意する。また、Φµν はスカラー場の項からの変分の寄与として
次のように与えられる:
Φµν ≡
}1
1
1
(∇α ϕ)2 + η(2□ − R)ϕ2 + m2 ϕ2 + ξϕ4 gµν
2
2
4!
2
1
− ∇µ ϕ∇ν ϕ + η(Rµν − ∇µ ∇ν )ϕ2 .
2
{1
35
(4.4)
これらの運動方程式が定曲率解 (3.70) を満たす場合を考察する。このとき運動方
程式はそれぞれ
1 3
ξϕ ,
3!
(4.5)
1
(Λ0 − Λ)gµν + Φµν = 0
2κ2
(4.6)
(□ − m2 + 8ηΛ)ϕ =
と記述される。
特に ϕ が真空期待値 ϕc を持つ場合、真空解 Λ は
1
Λ = Λ0 + κ2 (mϕc )2
(4.7)
4
で与えられる。ここでは結合定数に関して (4.5) より次の関係式が得られている:
48ηΛ = 6m2 + ξϕ2c .
(4.8)
これより、作用が裸の宇宙項 Λ0 を含んでいてもスカラー場の真空期待値 ϕc の
寄与によってミンコフスキー時空が解となり得ることが分かる。
次節から、背景時空が (反) ドジッター時空・ミンコフスキー時空のときそれぞ
れに対して前章と同様の計算を実行して、critical point の存在の有無やエネルギー
の正定値性等を考察していく。
4.2
(反) ドジッター時空
この節では背景時空が (反) ドジッター時空である場合を考える。このとき、(4.7)
より Λ0 ̸= − 41 κ2 (mϕc )2 である。
まずは背景時空周りの摂動展開を行う。重力場は今までと同様に gµν + hµν と摂
動を取り、スカラー場は真空期待値 ϕc 周りの摂動を、ϕ → ϕc + ϕ と展開する。こ
こでスカラー場の量子場を ϕ として改めて定義する。
これらの摂動に対する ϕ, hµν の線型な運動方程式はそれぞれ以下のように求まる:
(□ + 2m2 − 16ηΛ)ϕ + 2ηϕc RL = 0,
(
0 =
+(□gµν
)
2
GLµν − βΛRL gµν
{3
}
− ∇µ ∇ν + Λgµν ) (2α + β)RL + 4κ2 ηϕc ϕ .
1 + β□ + 2κ
2
ηϕ2c
(4.9)
(4.10)
続いて、ゲージ固定条件を今までと同様に ∇µ hµν = ∇ν h として、運動方程式 (4.10)
のトレースを取ると
36
{
}
1 − 2(3α + β)□ + 2κ2 ηϕ2c Λh + 4κ2 ηϕc (3□ + 4Λ)ϕ = 0
(4.11)
が得られる。
ここで、重力場のスカラーモード h を消去する条件を考える。(4.11) の微分項を
落とす条件として、
3α + β = 0
(4.12)
を課す。この条件の下では、曲率 2 次の項はワイルテンソルの 2 乗に比例する形に
なる。このことは前章の考察と一致する。
次に (4.11) におけるスカラー場 ϕ の微分項を (4.9) を用いて消去すると、h と ϕ
の間に対して次の関係式が得られる:
(
)
(
)
1
2
2 2
+ ηϕc + 12η ϕc Λh + 4ηϕc 24ηΛ − 3m2 + 2Λ ϕ = 0.
2
2κ
(4.13) において、結合定数が次の条件を満たす場合を考える:
(
)
1
2
2 2
+ ηϕc + 12η ϕc = 0.
2κ2
(4.13)
(4.14)
この時、ϕ = 0 が得られる。この条件を満たす結合定数 η は (4.14) が η についての
2 次式であるので、これを解くことで容易に得られる。解を η± とすると以下のよ
うに求められる:
1
η± =
24
√
{
−1 ±
24
1− 2 2
κ ϕc
}
.
(4.15)
ここで、結合定数の実数性より ϕ2c に対して下限値が以下のように定まる:
24
.
(4.16)
κ2
これより、真空期待値 (の絶対値) は少なくともプランクスケール程度はないとな
らないことが分かる。また、η± は平方根の値が常に 1 未満であるので必ず負の値
を取ることに注意する。
さらにこの時、(4.9) から h = 0 を得る。つまりこの条件の下では、重力場のス
カラーモードとスカラー場は伝搬しない。
h = ϕ = 0 の下では、重力場 hµν の運動方程式は次の形で与えられる:
(
)(
)
2
2
2
0= □− Λ
□ − Λ − M hµν .
(4.17)
3
3
ϕ2c ≥
(m)
(M )
(M )
この 4 階微分方程式は前章と同様に hµν と hµν を記述している。ここで M は hµν
の質量であり次のように定義される量である:
37
2
1
M2 ≡ Λ +
(1 + 2κ2 η± ϕ2c ).
(4.18)
3
3α
Critical point の条件は M 2 = 0 となる要請であったので、結合定数に対して次の
関係式を与える:
3 1
(4.19)
(
+ η± ϕ2c ).
2Λ 2κ2
この場合 ϕc の寄与によって critical point がシフトしていることがわかる。
α=
4.3
ミンコフスキー時空
続いて本節では、スカラー場の真空期待値 ϕc の寄与によりミンコフスキー時空
周りに対しても critical point を取り得ることを示す。
まず、ϕ, hµν に対する線型方程式はそれぞれ次のように与えられる:
(□ + 2m2 )ϕ + 2ηϕc RL = 0,
(
)
{
}
1
2
+ β□ + ηϕc GLµν + (□gµν − ∇µ ∇ν ) (2α + β)RL + 2ηϕc ϕ = 0.
2
2κ
(4.20)
(4.21)
但し、今ミンコフスキー時空を考えているので (4.8) から ξϕ2c = 6m2 を満たしてい
ることに注意する。前節と同様のゲージ条件 ∇µ hµν = ∇ν h を課して運動方程式の
トレースを取ると、
□ϕ = 0
(4.22)
を得る。これを ϕ の運動方程式に代入すると、結局 m2 ϕ = 0 を得る。この条件で
再び hµν の運動方程式を記述すると、
(
)
1
2
+ β□ + ηϕc GLµν = 0
2
2κ
(4.23)
1
となる。但し、GL
µν = − 2 (□hµν − ∇µ ∇ν h) であるので、この場合は未だ h が消去
できずにいるので前節までに求めてきたような hµν に対する 4 階微分方程式が得
られていない。
ここから h の消去を行うためには、残りのゲージ自由度を用いれば可能である
ことが [42] で示されている。ここで残りの自由度を確認するために、ゲージ固定
条件の不変性を見る。そのために次の無限小変換を考える:
δxµ = ξµ + ∂µ χ,
38
∂ µ ξµ = 0.
(4.24)
この変換に対してゲージ固定条件は次のような変換を受ける:
δ(∂ µ hµν − ∂ν h) = □ξν .
(4.25)
よって、□ξµ = 0 であればゲージ固定条件は無限小変換に対して不変に取ること
が出来る。この時、無限小変換のスカラー成分 χ は決定されていないので、この
自由度を用いて h = 0 にゲージ固定を取ることが出来る。
結局 hµν に対する拘束条件として
∂ µ hµν = 0,
h=0
(4.26)
を課すことが出来ることが分かった。この時 hµν に対する運動方程式は次のよう
に与えられる:
(□ − M 2 )□hµν = 0,
1
M 2 ≡ − (1 + 2κ2 ηϕ2c ).
β
(4.27)
ここで、質量の定義式より ϕc の寄与によって M 2 = 0 となるように critical point
を取れることが分かる。この条件は次のように与えられる:
η=−
1
.
2κ2 ϕ2c
(4.28)
以上でミンコフスキー時空に対しても critical point が存在することを確認した。
ここで、結合定数に関して幾つか述べておく。非最小結合定数 η は critical point
においてはどの背景時空に対しても負の値となっている。特に前節との相違点と
して、ミンコフスキー時空では η ̸= 0 であることが critical point を取るためには
必要不可欠であることに注意しておく。
4.4
エネルギー
ここまで、スカラー場 ϕ の導入によって critical point は (反) ドジッター時空・
ミンコフスキー時空のどちらにおいても存在することを示した。今節では、ハミ
ルトニアンエネルギーやブラックホール時空に関して考察を行い、critical point に
おいてどの様な振る舞いをするのかを調べていく。
まずは、ハミルトニアンエネルギーを求める。ハミルトニアン H は以前と同様
に Ostrogradsky の手法 [34] を用いて次のように与えられる:
}
{
√
∂
S2
0 µν
µν
0
2 2
d x −g (1 − 2βΛ + 2κ ϕc η)∇ h ḣµν + 2β (□h )∇ hµν − .
∂t
T
(4.29)
∫T
ここでは前章の時と同じ理由から H = 0 dtH を用いて 4 次元積分の形式にして
(m)
(M )
いる。これより、hµν と hµν に対するエネルギーはそれぞれ次のように求まる:
1
H=− 2
2κ
∫
4
39
1
Em = − 2 (1 + 2βΛ + 2κ2 ϕ2c )
2κ T
EM
∫
1
= 2 (1 + 2βΛ + 2κ2 ϕ2c )
2κ T
)
√ (
0 (m)
d4 x −g ḣ(m)
∇
h
,
µν
µν
∫
)
√ (
) 0 (M )
d4 x −g ḣ(M
.
∇
h
µν
µν
(4.30)
(4.31)
互いの差は符号のみに現れているので、一般にはどちらかのエネルギーが負となっ
てしまい正定値性を破ることが分かる。この問題が回避出来るのは、両方のエネ
ルギーがゼロになるときのみであり、その条件は正に critical point を取ることに
(M )
なっている。また、critical point においては hµν に代わって hlog
µν が伝搬モードと
して出現する。このモードに対するハミルトニアンエネルギーは前章で求めた形
と全く同じであり正の値を取るが、やはり一般の重ね合わせの状態に対するエネ
ルギーは負となり得るので正定値性が破られる。よって hlog
µν は critical point にお
いては境界条件を用いて消去する必要がある。
つまり、スカラー場を導入した模型においてでも、理論の正定値性を要請する
(m)
と critical point においては hµν のみが伝搬モードとして出現する。
続いて、ブラックホールに対するエネルギーやエントロピーを求める。前章に
おいて行った計算手法に従っていけば、これらの表式はスカラー場 ϕ の真空期待
値の寄与 2κ2 ϕ2c だけ値がシフトすることが分かる。よって、ブラックホールのエ
ネルギー EBH やエントロピー S は以下のように与えられる:
{
}
EBH = r0 1 + 2Λ(4α + β) + 2κ2 ϕ2c ,
(4.32)
{
}
S = 1 + 2Λ(4α + β) + 2κ2 ϕ2c SBH .
(4.33)
これら2つの物理量は、やはり critical point においてはゼロになることが分かる。
ここまでは Λ ̸= 0 として (反) ドジッター時空を仮定していたが、ミンコフスキー時
空に対する考察は Λ = 0 を代入すれば容易に結果が得られる。この場合でも critical
point における物理量は全てゼロとなっていることが分かる。
40
5
結論
重力の量子化を考える際に最大の問題点とされている繰り込み可能性問題を解
決する模型の1つとされている曲率高次の項を導入するものについての研究を行っ
てきた。曲率高次の項の存在により発散の収束性が改善されることで、理論は次
数勘定的に繰り込み可能となり得るのだが、同時に高階微分項の影響により自由
度が増加する。その結果、正定値性を破る伝搬モードが新たに出現してしまう問
題が生じる。特に、ミンコフスキー時空まわりにおいて正定値性の回復を考える
と、曲率高次の項の結合定数をゼロにしなければならず、理論の繰り込み可能性
が失われてしまう。
これらの問題を解決し得る拡張模型として、宇宙項の導入によって繰り込み可
能性と正定値性が同時に満たされるような重力理論の模型が近年提案された [11]。
それらの模型はまず 3 次元時空で考察され始めていて、後に 4 次元以上に適応され
ていった。これらの模型では、正定値性を破る伝搬モードであるスピン 2 の質量を
持つ重力子の質量をゼロに取るという、いわゆる critical point を取ることで、正
定値性の回復を実現している。このような critical point を取り得る重力理論の模
型は、特に 4 次元以上では臨界重力理論 (Critical Gravity) と呼ばれている。ここ
で、critical point の存在には宇宙項の存在が必要不可欠となっていた。よってミン
コフスキー時空ではこれらの模型は成立しないことが知られている。また、critical
point においては種々の物理量 (ハミルトニアンエネルギー・ブラックホールエネ
ルギー・エントロピー) がゼロになることから、この模型は自明なものとみなされ
ている。
これらの現状を踏まえたうえで、我々は臨界重力理論の拡張を試みた。従来の
模型に加えてスカラー場を導入して、どの様な条件を満たせば critical point を取
ることが可能かどうかを考察した [14]。その結果、スカラー場の真空期待値の寄与
によって critical point の値は従来の値からシフトすることが分かった。また、同
じく真空期待値の寄与によって、従来もあった (反) ドジッター時空だけではなく、
ミンコフスキー時空においても critical point を取り得ることが明らかになった。
このことが従来の模型の拡張によって得られた新たな結果である。さらに critical
point での結合定数の条件として、スカラー場と重力場の非最少結合定数 η は必ず
負の値を取ることが示された。このことはどちらの時空においてでも示されてお
り、特にミンコフスキー時空では η ̸= 0 であることが理論が critical point を取る
ための条件となっていた。また、物理量としてハミルトニアンエネルギー・ブラッ
クホールのエネルギー (AD 質量) やエントロピーを求めたところ、critical point に
おいては 3 つの物理量が全てゼロになっていることが分かった。このことは従来
の模型と同様の結果であり、やはり critical point においては、理論は非自明な値
を持つ物理量を持たないことが分かった。
故に、本研究で得られた新たな臨界重力理論模型は、critical point においては
自明な物理量しか持たないが、ミンコフスキー時空をも解として取り得る模型で
41
あると結論付けられる。
42
謝辞
自分の研究を進めていき、本論文を執筆する際おいてご指導を頂いた指導教員
である野尻伸一教授には大変感謝致しております。また、日々の研究生活におい
て活発な議論を通じて多くの知識を頂いた同研究室の皆様に感謝いたします。
A
表記規約
さまざまなテンソル量等の定義をまとめておく。但し、計量 gµν の符号は、(−, +, +, · · ·)
に取る。
曲率テンソル及びその縮約は次で与えられる:
Rα µβν = ∂β Γαµν − ∂ν Γαµβ + Γαβλ Γλµν − Γανλ Γλµβ ,
Rµν = Rα µαν ,
(A.1)
(A.2)
R = g µν Rµν .
(A.3)
α
ここでクリストフェル記号 γµν
は次のように与えられる:
1
Γαµν = g αβ (∂µ gνβ + ∂ν gµβ − ∂β gµν ) .
2
また、ワイルテンソル及びその自乗はつぎのようになる:
(
)
2
1
Cµναβ = Rµναβ −
gµ[α Rβ]ν + gν[β Rα]µ −
gµ[α gβ]ν R ,
D−2
D−1
4
2
2
Rµν
+
R2
(D − 2)
(D − 1)(D − 2)
(D − 3) 2
D(D − 3)
= E+4
Rµν −
R2 .
(D − 2)
(D − 1)(D − 2)
(A.4)
(A.5)
2
2
Cµναβ
= Rµναβ
−
(A.6)
また、ガウス・ボンネ項は次で与えられる:
2
2
+ R2 .
− 4Rµν
E = Rµναβ
B
(A.7)
摂動展開
計量 gµν に対する摂動場 hµν を背景場 ḡµν 周りの展開として以下のように定める:
gµν ≡ ḡµν + hµν .
43
(B.1)
逆行列及び行列式の展開は
g µν = ḡ µν − hµν + hµα hαµ + O(h3 ),
{
}
)
√
√
1
1( 2
2
3
h − 2hµν + O(h )
−g = −ḡ 1 + h +
2
8
(B.2)
(B.3)
で与えられる。ここで行列の添え字は、背景場 ḡµν で上げ下げをしている。
リーマンテンソル及びその縮約の摂動展開は次のように与えられる:
1 ¯ ¯
γ
γ
L
¯ ¯
¯ ¯
¯ ¯
Rµναβ
= (∇
α ∇ν hµβ − ∇α ∇µ hνβ − ∇β ∇ν hµα + ∇β ∇µ hνα + R̄ ναβ hµγ − R̄ µαβ hνγ ),
2
(B.4)
1 ¯α¯
¯ α∇
¯ ν hµα − □h
¯ µ∇
¯ ν h)
¯ µν − ∇
(∇ ∇µ hνα + ∇
(B.5)
2
1 ¯ ¯α
¯ ν∇
¯ α hαν − □h
¯ ν∇
¯ µ h − 2R̄α β hαβ + R̄α hαν + R̄α hαµ ),
¯ µν − ∇
=
(∇µ ∇ hαν + ∇
µν
µ
ν
2
¯ µ∇
¯ ν hµν − □h
¯ − R̄µν hµν .
RL = ∇
(B.6)
L
Rµν
=
C
任意次元時空の臨界重力理論
D ≥ 4 において臨界重力理論 [13] に関する計算をまとめておく。
C.1
critical point の導出
作用は次で与えられる:
∫
)
√ (
1
2
S = 2 dD x −g R − 2Λ0 + αR2 + βRµν
+ γE .
2κ
(C.1)
ここで、Λ0 は裸の宇宙項、α, β, γ はそれぞれ質量次元 2 を持つ結合定数ある。任
2
意次元の際には Rνµαβ
項も寄与することに注意 (ここでは E でまとめた)。
運動方程式は次のようになる:
(1 + 2α + β□)Gµν + Λ0 gµν
1
1
+ αR2 gµν + (2α + β)(□gµν − ∇µ ∇ν )R + 2β(Rµανβ − Rαβ gµν )Rαβ
2
4
1
+2γ(RRµν − 2Rµανβ Rαβ + Rµαβγ Rν αβγ − 2Rµα Rνα − Egµν ).
(C.2)
4
定曲率解は次のように与えられる:
Rµανβ =
2Λ
2DΛ
2Λ
(gµν gαβ − gµβ gνα ), Rµν =
gµν , R =
. (C.3)
(D − 2)(D − 1)
D−2
D−2
44
但し、Λ は次の 2 次方程式を満たす量である:
Λ − Λ0 + 2f Λ2 = 0,
f ≡ (Dα + β)
(D − 4)
(D − 3)(D − 4)
+γ
2
(D − 2)
(D − 1)(D − 2)
(C.4)
D ̸= 4 の時には f の寄与が生じるので、一般に Λ ̸= Λ0 であり、2 つの異なる真空
解を持ち得る。
線型方程式は次のようになる:
2Λ
2βΛ
gµν )RL −
gµν RL = 0.(C.5)
D−2
D−1
L
+ (2α + β)(gµν □ − ∇µ ∇ν +
(c + β□)Gµν
ここで、
c≡1+
4ΛD
4Λ
4Λ(D − 3)(D − 4)
α+
β+
γ,
D−2
D−1
(D − 1)(D − 2)
2Λ
1
L
hµν .
Gµν L ≡ Rµν
− RL −
2
D−2
(C.5) のトレースは次のようになる:
[{4α (D − 1) + Dβ} □ − (D − 2) (1 + 4f Λ)] RL = 0.
(C.6)
(C.7)
(C.8)
ゲージ固定条件として次のものを課す:
∇µ hµν = ∇ν h.
(C.9)
スカラーモード h の消去を与える。ダランベルシアン演算子 □ の項が取り除か
れる条件は
4α (D − 1) + Dβ = 0,
(C.10)
となり、この時トレースされた方程式 (C.8) は h = 0 となる。但し、
1
+ 4f Λ ̸= 0,
2κ2
∇µ hµν = 0,
h = 0,
(C.11)
(C.12)
L
L
は次のように表わされる:
及び Gµν
である。この時、Rµν
2DΛ
1
hµν − □hµν ,
(D − 1)(D − 2)
2
2Λ
1
hµν − □hµν .
(D − 1)(D − 2)
2
(C.13)
次に 4 階微分方程式は h を消去した上で、hµν が満たす方程式で次の形になる:
L
Rµν
=
L
Gµν
=
45
β
−
2
{
□−
4Λ
− M2
(D − 1)(D − 2)
}{
4Λ
□−
(D − 1)(D − 2)
}
=0
(C.14)
ここで M は重力子の質量であり以下のように定義されている:
β
M ≡−
2
{
2
(m)
4Λβ
c+
(D − 1)(D − 2)
}
≥0
(C.15)
(M )
この方程式は hµν と hµν を解に持ち、これらのモードはそれぞれ次の式を満たす:
{
□−
}
4Λ
2
)
= 0, □ −
− M h(M
µν = 0
(D − 1)(D − 2)
(C.16)
2
critical point は M = 0 となる条件であり次のように与えられる:
4Λ
(D − 1)(D − 2)
}
{
h(m)
µν
c+
4Λβ
= 0.
(D − 1)(D − 2)
(C.17)
ハミルトニアンエネルギー
C.2
始めにハミルトニアンの導出を行う。まずは hµν の 2 次の作用を構成する:
[
]
∫
√
β
β 2
c c
1
D
2
2
2 2
(□hµν ) − (c + M )(∇α hµν ) + ( + M )hµν .
S2 = 2 d x −g
2κ
2
2
2 β
(C.18)
次に共役運動量を定義する:
π1µν
δL2
≡
− ∇0
δ ḣµν
(
δL2
∂
δ[ ∂t (∇0 hµν )]
π2µν
)
√
[
]
−g
= − 2 ∇0 (2c + βM 2 )hµν + β□hµν ,
2κ
(C.19)
√
δL2
−g 00 µν
≡ ∂
βg □h .
=
2κ2
δ[ ∂t (∇0 hµν )]
これらの共役運動量よりハミルトニアンは次のように定義される。
[
] ∫
∫
√
µν
µν ∂
D−1
H≡ d
x π1 ḣµν + π2
(∇hµν ) − dD−1 x −gL2
∂t
(C.20)
(C.21)
.
ハミルトニアンエネルギーは次のようになる:
1
Em = −
2T
{
4Λβ
c+
(D − 1)(D − 2)
}∫
46
)
√ (
0 (m)
,
∇
h
dD x −g ḣ(m)
µν
µν
(C.22)
EM
1
=
2T
{
4Λβ
c+
(D − 1)(D − 2)
}∫
)
√ (
) 0 (M )
dD x −g ḣ(M
∇
h
.
µν
µν
(C.23)
但し積分の値は負である。critical point では両エネルギーともゼロになる。
パラメータ選択
C.3
理論は一般的には2つの独立な真空解をもつ。臨界点やそうでない場合におい
て真空はどのようになっているかを考察する。
臨界点における真空は次のようになる:
Λcrit = −
8κ2
D(D − 1)(D − 2)
.
{(D − 1)(D − 2)2 α + D(D − 3)(D − 4)γ}
(C.24)
また、対応する裸の宇宙項 Λ0 は (C.4) より、
Λ0 = −
D2 (D − 1)(D − 2) {(D − 1)(D − 2)α + (D − 3)(D − 4)γ}
16κ2 {(D − 1)(D − 2)2 α + D(D − 3)(D − 4)γ}2
(C.25)
となる。
次に臨界点でない場合の真空解は
Λnoncrit =
D {(D − 1)(D − 2)α + (D − 3)(D − 4)γ} Λcrit
(D − 4) {(D − 1)(D − 2)α + D(D − 3)γ}
(C.26)
で与えられる。
臨界点の真空解を持つ作用は 2 つのパラメータ (α, γ) で定まり、以下のように
与えられる:
∫
S=
√
d x −g
D
{
}
1
4(D − 1) µν
2
(R − 2Λ0 ) + αR −
αR Rµν + γE .
2κ2
D
(C.27)
この理論は 2 つの真空解 Λcrit , Λnoncrit を持つ。ここで、前者は正定値性を満たす
が、後者は満たさないことに注意する。
最後に、真空解が一意に定まる状況を考察する。(C.4) より、まず解が縮退する
場合すなわち 1 + 16κ2 f Λ = 0 が考えられるが、これは理論が臨界点を持つ Λ0 を
満たす条件 (C.25) を満たさない。よって考えられるのは、(C.4) が一次方程式に落
ちる場合すなわち f = 0 の場合のみである。この時、真空解は Λ0 = Λ となる。
以上より、理論に含まれる 4 つのパラメータ (Λ0 , α, β, γ,) は、真空解の一意性・
スカラーモードの消去・無質量極限の 3 つの条件で制限されて、1 つのパラメータ
のみで理論は記述される。これらの拘束条件は、
β=−
4α(D − 1)
,
D
Λ = Λ0 = −
D
,
16κ2
47
α=−
D(D − 3)
γ
(D − 1)(D − 2)
(C.28)
で与えられる。単一のパラメータを γ に取って、作用を記述すると以下のように
アインシュタイン+ワイルテンソル形式で与えられる:
}
{
∫
√
1
(D − 1)(D − 2)
2
D
(R − 2Λ0 ) + γCµναβ , Λ = Λ0 =
.
S = d x −g
2
2κ
16κ2 (D − 3)
(C.29)
C.4
対数モード
対数モード hlog
µν の定義は次で与えられる:
(M )
hlog
µν
(m)
hµν − hµν
≡ lim
,
M →0
M2
}
4Λ
hlog = −h(m)
µν
(D − 1)(D − 2) µν
{
}2
4Λ
, □−
hlog
= 0.
µν
(D − 1)(D − 2)
(C.30)
{
□−
(C.31)
対数モードのハミルトニアンエネルギーは次で与えられる:
∫
√ ( (m) 0 log )
β
D
Elog = −
d x −g ḣµν ∇ hµν .
(C.32)
T
この式に含まれている積分値は、4 次元では正の値を取り、3 次元では、アインシュ
タイン・ヒルベルト項を逆符号に置くことで正に取ることが出来る [37]。よって、
hlog
µν のエネルギーが正定値であるためには、例えば 4 次元では β ≤ 0 でなければな
らない。この条件は無質量極限条件より Λ ≤ 0 すなわち背景時空が反ドジッター
時空であること要請している。
重ね合わせ状態に対するエネルギーは次のようになる:
(m)
hµν = c1 hlog
µν + c2 hµν .
(C.33)
ここで、c1 , c2 は任意の定数である。対応するエネルギーは
{(
)2 (
)2 }
E
E
cross
cross
− c2
,
E(c1 , c2 ) = c21 Elog + 2c1 c2 Ecross = Elog
c1 + c2
Elog
Elog
(C.34)
∫
)
√ (
β
0 (m)
(C.35)
∇
h
Ecross ≡ −
dD x −g ḣ(m)
µν
µν
2T
で与えられる。(C.34) より、質量を持たないモードと対数モードの重ね合わせ状
態は負エネルギー状態を取り得ることが分かる。実際、例えば 4 次元では Elog ≥
0, Ecross ≤ 0 であるから、c1 c2 ≥ 0 を満たす重ね合わせ状態に対するエネルギーは
負の値を取る。
48
C.5
ブラックホール
反ドジッター時空におけるシュヴァルツシルトブラックホールのエネルギー (質
量) 及びエントロピーを計算する。
時空構造は次の線素で与えられる:
dr2
+ r2 dΩ2D−2 ,
f (r)
( r )D−3
2
0
f (r) = 1 −
.
r2 −
(D − 1)(D − 2)
r
ds2 = −f (r)dt2 +
(C.36)
(C.37)
ここで、ΩD−2 は D − 2 次元球の立体角であり、r0 はブラックホール半径である。
シュヴァルツシルト-反ドジッター解のエネルギー EBH は、[39] [40] で計算され
ており、
(
)
4Λβ
D−2
EBH = c +
ΩD−2 r0D−3
(C.38)
(D − 1)(D − 2)
2
で与えられる。また、エントロピー S は [41] の公式を用いて計算すると以下の形
式で与えられる:
(
)
4Λβ
S = c+
SBH .
(C.39)
(D − 1)(D − 2)
ここで SBH はベッケンシュタイン・ホーキングエントロピーである。
49
参考文献
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