...

ピッツ氏の講演内容を邦訳したもの

by user

on
Category: Documents
2

views

Report

Comments

Transcript

ピッツ氏の講演内容を邦訳したもの
「官民連携による犯罪者の社会復帰の促進
―犯罪者の雇用やその他の再統合要因促進のための
新たなアプローチ―」
(仮訳)
英国法務省全国犯罪者マネージメントサービス
国際開発室長
スティーブ・ピッツ
【目次】
Ⅰ. 犯罪者マネージメントサービス
…1
A.犯罪者マネージメントサービス(NOMS)とは?
…1
B.一般市民に対する業務の執行
…2
C.組織構造
…4
D.公的協力関係
…5
Ⅱ. 量刑制度
…7
A.量刑の目的
…8
B.犯罪の重大性
…8
C.自由刑
…9
D.社会内刑罰
…9
Ⅲ.効果的処遇策又は「何が上手くいくか(What Works)」の枠組み
…11
A.犯罪者査定システム(OASys)
…11
B.全国犯罪者処遇モデル
…12
C.処遇プログラム-「”What Works”の コア・カリキュラム」
…13
Ⅳ. 社会的排除と社会再統合,社会復帰
…15
A.全体的手法の開発
…15
B.社会復帰に関するデータ
…16
Ⅴ. 学習・技能・雇用に関する戦略
…17
A.なぜ,学習・技能・雇用に着目するのか
…17
B.開発事例
…18
Ⅵ. 民間部門との連携戦略と再犯予防活動
コーポレート・アライアンス(法人提携)
…23
…23
Ⅶ. 非営利部門の戦略と再犯減少活動
…27
Ⅷ. 社会貢献企業
…28
A.社会貢献企業とは何か
…28
B.地域レベルで運営されている社会貢献企業関連プロジェクトの事例 …29
Ⅰ.
犯罪者マネージメントサービス
A.犯罪者マネージメントサービス(NOMS)とは?
犯罪者マネージメントサービス(NOMS:The National Offender
Management Service)は創設されて日が浅い。NOMSは,犯罪者を処遇す
るに当たり,施設内処遇と社会内処遇とが効果的かつ効率的に協同し得るよ
う支援することを目的として,2008 年4月,法務省の一機関として創設され
た。
NOMSの局長は,大法官と法務大臣に対して責任を負い,法務事務次官
が議長を務める省庁委員会の一員である。NOMSの職責は,大臣に代わっ
てイングランドとウェールズにおける裁判所の判決や命令を執行し,以下を
行うことである。

成人犯罪者の施設内及び社会内処遇の公的機関,民間企業及び非営利
部門への委託

官営刑事施設の運営

保護観察業務を実施する委員会と受託団体の監督
NOMSは,成人の再犯件数を 2005 年から 2011 年の間で 10%減少させ
る責任を負っている。この目標の達成は,2011 年までに社会に対して達成す
べき事項を掲げた,法務省全体の省庁戦略目標の達成にも貢献するものであ
る。
NOMSは,公的機関,民間企業,NPOと連携しながら,統合的な犯罪
者の処遇を目指している。処遇の内容と実施機関は,実証性と費用対効果と
1
いう観点から決定される。
NOMSは,施設内処遇と社会内処遇を合わせて,年間約 26 万人の犯罪者
の処遇に当たっている。我々が自由刑を執行しているイングランドとウェー
ルズには,135 箇所の刑務所があり,そのうち 124 箇所は公的機関,11 箇所
は民間企業により運営されている。一方,我々は社会内刑罰の管理も行って
おり,犯罪者,被害者,証人及び裁判所に対し,業務を提供している。42 の
「保護観察管区」は,最近,受託団体(Trust)に改編された。受託団体にな
ったことで,個々の管区がより自由に裁量権を持って業務を行えるようにな
った。その一方で,管区自身が行い,又は他団体に委託する業務の内容につ
いては,より明確な説明責任が課せられている。
NOMSは,再犯のおそれを減らすために,犯罪者が自身の人生を変える
ための支援をすることを目標としている。NOMSに課せられた 28 項目の国
家実施目標のうち 27 項目については目標値に達しており,中には上回ってい
るものもある。2005 年から 2007 年の間で再犯件数は 11.1%低下し,重大再
犯件数も同期間に 9.8%低下した。また,世界中のほとんどの政府機関と同
様,我々も効果的に節約を行うことが求められているが,2008 年から 2009
年にかけては効果的節減目標 8100 万ポンドを達成している。2009 年から
2010 年には,更に目標を上げ,1億 7100 万ポンドの節減を目指している。
B.一般市民に対する業務の執行
NOMSは法務省の一機関であり,法務省の掲げる4つの省庁戦略目標
(DSO)のうち, DSO3「国民を守り,再犯を減らすこと」について責
2
任を担っている。この省庁戦略目標は,NOMSが請け負う2つの公共サー
ビス協定(PSA)にも反映されている。
一つ目のPSAは,PSA23「より安全な地域社会を」である。PSA23
には,政府内の他機関の連携により犯罪者の処遇を改善し,再犯を減らすこ
とが含まれている。また, 2011 年までに 10%の再犯を減少させるという目
標が設定されている。
二つ目のPSAは,PSA16「社会的に排斥された成人に対する,安定し
た住居と雇用,教育,訓練の供給の割合を増やすこと」である。PSA16 が
内閣府主導のものであることは,注目に値する。そして,どちらのPSAも,
NOMSが他の政府部門と共に作業を行うことを必要としており,各機関間
の連携を促すものとなっている。この協力的な取組は,後述する民間企業・
非営利団体などとの連携にも反映されている。
NOMSは,社会内処遇中,仮釈放期間の終了時及び刑事施設からの釈放
時における有職者数・有職率について目標値を掲げ,その達成を目指してい
る。例えば,昨年は,社会内処遇の対象者のうち,14,430 人が就職し,仕事
を続けていることが求められていたが,実際はこの目標値を 2,000 人上回る,
16,982 人が仕事をしていた。また,社会内刑罰命令及び仮釈放期間の終了時,
40%が就労していることが求められていたが,達成値は 45%だった。受刑者
の釈放時については,26%という目標値を達成できた。
安定した又は適切な住居を持つ犯罪者の比率も,社会内刑罰命令及び仮釈
放期間の終了時並びに刑事施設からの釈放時のそれぞれについて,目標が定
められている。目標値はそれぞれ 70%と 80%で,達成値は 78%と 86%であ
3
った。この成果はそれなりに満足のいくものではあったが,真に重要なのは,
このことが政府部門・民間企業・非営利部門団体との連携によって達成され
たということである。そして,我々の努力だけではこのような連携は成し得
なかったであろう。
これらの連携については,また後で触れることとする。この目標を達成す
るための我々の作業は,次に述べる組織構造ともつながっている。
C.組織構造
NOMSは新しい組織である。NOMSは,その上位組織である法務省と
同様,政府の組織改編の一環として創設された。改編の目的はいくつかある
が,その1つは,地域社会の治安及び再犯減少に対する政府の国家戦略と,
それを「現場で」実行するNOMSの職責を明確化し,説明責任を高めるこ
とである。現場での業務は,イングランドの各地方に9名,ウェールズに1
名置かれた,合計 10 名の犯罪者処遇局長(DOMS:Directors of
Offender Management)が指揮監督している。DOMSの任務は,公的機関,
民間企業及び非営利部門の関係者・協力団体への業務委託を通じて,費用対
効果の高い成果を挙げることである。刑事施設や保護観察受託団体に対し,
地域での再犯減少戦略の実施を要求することも,DOMSの業務の一環であ
る。
司法を始め,教育,雇用,住居,公衆衛生等を所管する各官庁間での国家
レベルでの連携戦略は,地方レベルでも同様に展開される。再犯減少を目的
とした国家レベルでの協力関係の例としては,国家省庁間再犯減少委員会
4
(The national cross-Government Reducing Re-offending Board)が挙げら
れる。
戦略の展開に並行して,そのための予算も各DOMSにゆだねられるため,
DOMSは各地方の必要性に応じて予算を使うことができる。実際の業務は,
各地方及びウェ-ルズにて他の政府機関や他のセクターとの協力の下,実施
される。地方レベルにおいても,民間企業や非営利団体が公的機関と共に犯
罪者の社会復帰に従事している。また,135 箇所の刑務所と 42 の保護観察受
託団体も,それぞれの地方におけるニーズに応えた協力関係を結ぶことが可
能である。
ここで強調したいのは,中央・地方・地域のすべてのレベルにおいて,公
的機関,民間企業及び非営利部門を問わず,他の機関との協力が我々の業務
の中心となっているということである。
D.公的協力関係
民間企業・非営利部門との連携について話す前に,まずは,公的機関との
協力関係についてお話ししたい。
2010 年4月に新たに整備・制定された地域安全協力機構(CSP:
Community Safety Partnerships)は,再犯の減少を目的に,警察,地方自治
体(住宅供給に関する責任など),消防救助,公衆衛生と保護観察を結び付
け,更には刑事施設,青少年犯罪防止部門を含むその他の刑事司法部門及び
非営利団体との協働も提唱するものである。各部門の中央官庁から配賦され
5
た予算は,より現場に近い協力機関の間で,ニーズに応じて集約される。C
SPは,こうした連携モデルの良い実施例である。
CSPに属する団体は,保護観察部門により開発された ASPIRE モデルに従
って,協力して作業を実施する。ASPIRE モデルにおいては,各団体は比較的
単純に協力できるようになっている。ASPIRE の示す5つの協力手順は以下の
とおりである。

社会的排除情報を含む,その地域での再犯の特性を査定
(A=Assess)する

戦略的(S=Strategically)に行動計画(P=Plan)を立てる

ケースへの介入,主流サービスの提供,業務委託などの計画を実施
(I=Implement)する

実施内容を見直す(R=Review)

成果や費用対効果を見直し,成功度を評価する(E=Evaluate)
CSPは非常に新しいものであるため,完了したプロジェクトの例を挙げ
ることはできない。しかし,CSPの前身である,犯罪及び秩序違反法
(1998 年)は,たくさんの成果を挙げてきている。この法律に基づいて設立
されたのが,「犯罪,暴力行為等削減パートナーシップ(CDRPs:Crime
and Disorder Partnerships)」である。このCDRPsの枠組みの下に構築
された協力関係の中には,全国的な表彰プログラムである「ビーコン・スキ
ーム」により,最も成功した革新的なパートナーシップとして高い評価を受
けたものもある。4つの地域が,再犯予防による地域社会の治安維持という
6
点において,ビーコン(模範)の地位を得ている。ビーコンと認められるた
めには,以下の6つの面で優秀という「認証」を受けなければならない。

優れた統率力

透明で建設的な説明責任

情報収集主導のビジネスプロセス

効果的で臨機応変な実施体系

地域社会の関与

適切な技能と知識
なお,CSPは,複数機関による地域レベルの連携の一例にすぎない。他
にも,特定のタイプの犯罪者を対象とした協力体制がある。ハイリスクの犯
罪者に関する調整を行うMAPPや,常習累犯者やその他の優先度の高い犯
罪者と作業を行うPPOなどはその代表的なものである。その他,薬物乱用
者や釈放直後の短期刑受刑者に対して集中的な処遇を行う連携機関もある。
その一例である代替刑高密度処遇プロジェクト(Intensive Alternative
to Custody project)は,裁判所との密接な関係の下に進められている。社
会奉仕作業,電子監視,グループワーク・プログラム及び警察による監視な
どを組み合わせ,受刑者を拘禁刑以外の方法で処遇することを目的としてい
る。
Ⅱ. 量刑制度
7
イングランドとウェールズの量刑制度は,それに続く効果的な社会復帰制度
と同様,比較的最近できたものである。量刑制度の設計に当たっては,社会
復帰支援も,その目標の1つとして位置付けられている。
A.量刑の目的
2003 年制定の刑事司法法は,量刑に5つの目的を定めている。

犯罪者の処罰

犯罪の減少(抑止力による減少を含む)

犯罪者の改善更生

一般市民の保護

犯罪行為によって被害を受けた人への償い
量刑制度の基盤には,多くの重要な原則がある。例えば,刑罰が公平で犯
罪行為の重さに釣合っていること,また,拘禁刑が施設内処遇から社会内処
遇まで継ぎ目のない「包括的刑罰」として実施されることの必要性を含んで
いることである。量刑の目的は,拘禁期間中からアフターケアである社会内
処遇まで一貫して引き継がれなければならない。この原則は,犯罪者の社会
復帰制度を直接支えるものとなっている。
B.犯罪の重大性
裁判所は,量刑に当たって上記の原則すべてに配慮しなければならないも
のの,一般的には犯罪の重大性に従って刑を決める。重大性を決定するのは
以下の要因である。

犯罪によって引き起こされた被害の程度

犯罪を犯した犯罪者の有責性の程度
8
C.自由刑
自由刑の構成は,刑期の長短によって異なり,これらは段階的に実施され
る。
(a) 12 箇月未満(現在,仮釈放認可後に保護観察は行われない。)

拘禁期間2~13 週間,仮釈放認可期間6~9箇月

裁判所が仮釈放認可時の遵守事項を設定

行政機関による仮釈放取消処分あり
(b) 12 箇月以上の禁固刑

刑期の半分は施設内,半分は社会内で実施

事件担当者が,処遇計画と遵守事項を決定

行政機関による仮釈放取消処分あり
(c) 断続的拘禁,執行猶予(遵守事項違反については裁判所が対応す
る。)
(d) 終身刑,不定期刑,公衆に著しい被害を与えるおそれのある重罪にか
かる延長刑の場合,仮釈放委員会が釈放日を決定する。
本法の意図は,社会内刑罰で用いられる多種多様なオプションの多くを,
仮釈放認可中の期間にも使用できるようにすることである。
D.社会内刑罰
2003 年刑事司法法の施行以降,18 歳以上の犯罪者に対しては,1種類の社
会内刑罰命令が課せられることになっている。社会内刑罰命令は,犯罪と犯
罪者の性質に応じ,最大で 12 項目の条件・遵守事項を付することができる。
9

無報酬作業(旧来の社会奉仕/社会処罰):40 時間から 300 時間の無
償作業の完遂

特定活動(例:基礎的技能訓練の受講など)

処遇プログラム(再犯危険性低減のためのプログラムが複数設定され
ている。)

特定活動の禁止(再犯や迷惑行為につながる行動の禁止)

夜間外出禁止(電子監視による)

所定の場所への近接の禁止(電子監視装置機能の不備のため,ほとん
ど実施されていない。)

住居の指定(保護観察官による承認した場所への居住の指示)

精神疾患の治療(犯罪者本人の同意が必要)

薬物更生(犯罪者本人の同意が必要)

アルコール依存症治療(犯罪者本人の同意が必要)

保護観察(犯罪ニーズや犯罪につながる行為に対処するための保護観
察官による面接)

アテンダンスセンターへの出頭(合計 12 時間から 36 時間に及ぶ1日
3時間の活動。通常は土曜日の午後に実施)
通常は,深刻な犯罪ほど,また犯罪者のニーズが大きいほど,より多くの
条件が課せられる。ほとんどの場合,条件は1項目又は2項目のみであるが,
必要であれば利用できる事項をいくつかまとめて課すこともある。裁判所は,
保護観察管区の作成した判決前報告書を参考に,個々の犯罪者に合った社会
内刑罰命令を作成する。
10
Ⅲ. 効果的処遇策又は「何が上手くいくか(What Works)」の枠組み
NOMSは再犯を減らすために3つのシステムを導入している。

犯罪者査定システム(「OASys」)
リスクとニーズを査定し,その情報を事件管理担当者に提供するため
のシステム

全国犯罪者処遇モデル(National Offender Management Model)
施設内から社会内までの一貫した処遇を含む,安全で効果的な犯罪者
処遇体制

処遇プログラム
無報酬作業,雇用適性プログラム,認定プログラム(思考スキル不
足・家庭内暴力・性犯罪・薬物乱用・アルコール依存など,犯罪に関連
したあるいは「犯罪を誘発する」ニーズに対処するためのプログラム)
などが含まれる。
これらの効果的処遇制度は,量刑制度からおのずと導かれるものである。
一見すると,両者は犯罪者の社会復帰と間接的にしか関わっていないように
思われるが,深く検討するとより直接的につながっていることが分かる。
A.犯罪者査定システム(OASys)
犯罪者査定システム(OASys)は矯正局と保護観察局が共同で開発し
てきた,犯罪関連ニーズと再犯リスク・重大再犯リスクを評価する,ITベ
11
ースのシステムである。現在,実際の再犯例から,精度の検証も行っている。
このシステムは,個別的処遇計画策定時の参考資料となり,犯罪者の変容を
測定し,処遇に関する情報源となる。デ-タは中央,地方及び実施機関ごと
に集約され,NOMSや関係者による分析や刑執行計画の策定に用いられる。
OASysは,統計的に犯罪との関連性が認められている諸要因を,幅広
く測定する。例えば,教育程度,職業訓練と就業能力,居住形態,金銭管理
と収入,人間関係,生活様式と交友関係,薬物・アルコ-ル依存,精神的健
康,思考スキルと態度などである。
リスク要因の測定に基づき,一般市民,子供,職員,他の受刑者,犯罪者
本人,知り合いの成人に対する加害の程度を測定し,犯罪者を低リスク,中
リスク,高リスク,重大リスクのいずれかに分類する。その分類に応じて,
MAPPAとの連携も含めた適切な処遇計画が策定される。
OASysのデータは様々な分析にも使われる。例えば,ニーズの種類や
性別ごとに分類して,保護観察に関する全国的なサンプルとして犯罪関連ニ
ーズの証明に用いることもあるし,各矯正施設や保護観察管区の事件数別あ
るいは地域や市ごとに分析することもある。OASysのデータによると,
教育と雇用は最も犯罪者に共通したニーズである。また,「思考スキル」
(問題解決能力など),住居,薬物問題などのニーズも多くの犯罪者に認め
られる。これらの複合的なニーズに対応しなければならないのが,我々の職
務の難しいところである。
B.全国犯罪者処遇モデル
12
全国犯罪者処遇モデルは,定住支援を目的とする多くの原則により支えら
れている。それらの原則には以下のものが含まれる。

個別担当官制度(One Offender Manager)。一人の犯罪者を一人の保
護観察官が担当し,施設在所中から継続的に刑期を通じてその事件の
処遇に当たる。

対象者が矯正施設収容中であっても,施設の職員でない個別担当官が
その対象者の処遇に対する責任を負う。

1つの刑に対し,包括的に1つの刑執行計画を策定する。

「階層(Tiers)」リソースシステムにより,個々の犯罪者のリスクと
ニーズに応じて,リソースを割り振る。

「犯罪者処遇チーム(Offender Management Team)」の概念に基づき,
全関係機関が,1つの目標意識を共有し,その目標に向けて作業を行
う。
このモデルによって,犯罪者は,OASysによる評価を通じて認識され
たリスクやニーズに応じた適切なサービスを受けられることになる。
C.処遇プログラム-「”What Works”の コア・カリキュラム」
3つ目のシステムは「コア・カリキュラム」と呼ばれるものである。これ
は,”What Works”プロジェクトと最も深く関わるもので,独自調査によっ
て効果の実証された手法に基づいて行う処遇である。
NOMSの”What Works”プロジェクトにおける処遇プログラムは,国際
的専門家からなる独立団体の「認定委員会」による認定過程を経て制定され
13
たプログラムである。認定委員会は,新しい処遇プログラムを査定するため
の「処遇基準」を策定している。主要な基準は以下のとおりである。

明確な変容モデル

対象者選定基準の明記

犯罪リスク要因志向

有効な実施方法

技能指向

適切な手順,期間,密度

動機付けと参加意欲

継続的な実施

プログラムの完全性の保持

評価とモニタリング
コア・カリキュラムには 20 個以上のプログラムが含まれており,その数は
更に増えつつある。NOMSの創設により,これまで矯正と保護で別々に開
発されてきたプログラムを整理し,その計画・実施において継続性を持たせ
ることができるようになった。例えば,施設内で実施された性犯罪者プログ
ラムを,釈放後に更に強化するようなことが可能である。
プログラムの扱う領域は,認知技能,薬物乱用,性犯罪,暴力・感情のコ
ントロール,女性犯罪者,飲酒運転,社会復帰など多岐に及ぶ。集団処遇が
大半だが,例えば,へき地に居住する対象者に対しては,単独で行うプログ
ラムもある。
14
プログラム実施者の適切な訓練,管理及びサポート体制なしには,意図さ
れたとおりのプログラムの効果が得られないということは,経験的にも研究
からも分かっている。プログラムの質を維持するという観点から,NOMS
は,施設内及び社会内処遇のいずれにおいても,プログラム実施の水準が確
実に満たされるよう,綿密な指導・監査・サポート体制を整備している。
Ⅳ. 社会的排除と社会再統合,社会復帰
A.全体的手法の開発
社会復帰及び社会再統合の制度は,量刑制度や”What Works“制度とほぼ
同じ時期に始められた。2001 年,政府の社会的排除防止局(SEU)が受刑
者の社会復帰と社会的排除に関する報告書を公表した。その調査結果は衝撃
的なものだった。例えば,受刑者は人口全体の比率よりもはるかに高い失業
率を示し(国民全体の失業率が5%だったのに対し,受刑者の判決前の失業
率は 67%),資格を持たない人や,ホームレス,精神障害者の占める割合も
高かった。
NOMSの社会再統合・社会復帰制度は,社会的排除防止局の作業結果に
基づいている。矯正局及び保護観察局との密接な連携の下で調査・作成され
た前述の報告書では,犯罪者のニーズに官庁の枠組みを超えて対応していく
ための,「通行路」手法が提案されている。
社会復帰制度では,更生に向けて,7つの「通行路」が設定されている。
それぞれの「通行路」は,犯罪者の社会復帰(及び社会内処遇の課題)にお
15
ける最重要領域に対応する。しかし,犯罪者の社会復帰に当たり,刑事施設
から社会まで通行路を通すためには,矯正と保護の緊密な連携が不可欠であ
る。「通行路」とは,以下の7つである。

住居

教育,訓練,雇用

健康

薬物とアルコール

金銭

家族

態度,思考,行動
B.社会復帰に関するデータ
欧州保護観察機構の Leo Tigges 事務総長 は,理想的な社会復帰モデルと
して,以下の9項目を挙げている。
1
刑務所の目的・役割:受刑者の自由を制限することであって,孤立させ
ることではない。刑務所も社会の一機構である。
2
段階的受刑システム:受刑者が徐々に社会に戻っていくシステム
3
適切な時期に行われる釈放前処遇
4
矯正と保護による一貫性のある包括的処遇:「門の中から外まで」
5
ニーズ把握のための全受刑者スクリーニング
6
個々の犯罪者に見合った個別的処遇。犯罪者にもインプットの機会を与
えること。
16
7
ハイリスクの犯罪者には強制的な枠組みにおける監督
8
犯罪者にも「一般社会」と同じサービスを提供する法的責任
9
釈放前後を通じて,あらゆる機関・部門と連携
ドイツの雇用均等プロジェクト「MABIS」によると,
 刑事施設への再収容は
職業資格を有することで 10%
雇用を得ることで 25%
職業資格と雇用の両方を得ることで 50%
低下する。
 就職率は保護観察官の積極的な関与により
48%から 75%に
上昇する。
Ⅴ. 学習・技能・雇用に関する戦略
A.なぜ,学習・技能・雇用に着目するのか
NOMSが 2008 年から 2009 年に施設内及び社会内処遇の対象者を調査し
た結果,無職犯罪者の大半が就労に関する複合的な障壁を抱えていることが
判明した。例えば,住居問題(45%),薬物使用(33%),アルコール依存
(53%),精神的健康(40%)などである。つまり,無職犯罪者は有職犯罪者と
比べて,仕事以外のニーズも高いということである。そういった犯罪者が社
17
会復帰し,職を見つけ,働き続けられるように支援するためには,複数の機
関が連携してこのような障壁に取り組まなければならない。
受刑者自身が自分のニーズをどのように自覚しているかは,ニーズそのも
のに加えて,更生意欲の重要な指標でもある。大半の受刑者が援助を必要と
している領域は,雇用(48%),職業資格の取得(42%),仕事に関係する技能
(41%)であり,それに住居(37%)が続く。特に若年成人犯罪者においては,
他のニーズと比べて,圧倒的に雇用,職業資格の習得,仕事に関係する技能
のニーズを挙げることが多かった。
多数の調査研究によって,刑事施設内の学業・職業指導は,公的資源の有
効活用だということが示されている。近年公表された数値(1990 年代以降,
アメリカ合衆国で行われた5つの研究結果より引用)では,学業・職業指導
を行うことで,公的機関に対し,犯罪者一人当たり 2,000 ポンドから 28,000
ポンドの純益が生じるとされている。被害者関連の費用を含めば,犯罪者一
人当たり 10,500 ポンドから 97,000 ポンドにも達する。
NOMSの戦略は多岐にわたっており,刑事施設内作業を通しての学習・
技能取得・雇用に関する「通行路」に対する支援や,雇用主の支援を得るた
めの「企業提携」,他官庁との連携による戦略的開発,また近年では社会事
業と無報酬での仕事(Social Enterprise and Unpaid Work)の開拓などを含
んでいる。
B.開発事例
1.個人の「通行路」:学習,技能,雇用
18
NOMSが関与する犯罪者個人の「通行路」は,その者のニーズによって
4つの段階で推移していく。その進捗状況は,重要情報の追跡・伝達が行え
るよう,記録に残される。4つの段階とは,以下のとおりである。

当初のニーズ及び障壁への対応

就労準備の支援

段階的就労

リスク及び犯罪歴の開示
(i)
評価
中長期刑受刑者については,OASysによるリスク・ニーズの査定など
を踏まえた,総合的な評価が行われる。短期刑受刑者については,介入でき
る時間も限られているため,そこまで細かい評価は行われない。この評価の
目的は,刑事施設入所直後又は社会内処遇の決定直後の時点で,対象者の基
礎的な能力のスクリーニングテストを行うことである。「名前,住所,電話
番号などを自信を持って書けるか」といった基本的な質問をすることで, そ
の対象者のニーズを迅速に把握することができる。
評価を記録しておくことは,処遇計画策定のためにも説明責任の観点から
も重要である。多くの就労支援プロジェクトで活用されているケース評価追
跡システム(CATS:Case Assessment and Tracking System)においては,
関連する 10 の領域のニーズの高低を,赤・黄・青の3段階で判定する。この
評価結果は,各刑事施設に設置された,他機関による「学習・技能・就労チ
ーム」の個別的行動計画の策定にも直接反映される。
(ii)
就職準備の支援
19
査定されたニーズのレベルに応じて,就職準備の出発点が定められる。例
えば,情報提供(雇用機会,欠員状況,職業資格について),助言(福利厚
生/金銭管理,動機付けについて),指導(ニーズ,目標,行動計画作成に
ついて),求職支援(就職活動,履歴書と面接の準備について)などである。
「バーチャル・キャンパス」は,この目的のため,過去3年間をかけて開
発されてきたツールである。「バーチャル・キャンパス」では,注意深くコ
ントロールされたネット上で,キャリア相談,履歴書作成,借金や家族問題
に関する助言,認定コースの学習などに対し,受刑者がアクセスすることが
できる。また,「バーチャル・キャンパス」を通じて,釈放後に就労・研修
予定の雇用主や研修先にチェックを受けた安全な電子メッセージを送信する
こともできる。効率よく学習の機会を提供できることが,このシステムの一
番の売りでもある。
(iii)
段階的就労
この段階的就労は,最も NOMSと協力団体が労力を注入している課程で
あると同時に,犯罪者自身も一日で最も長い時間を使っている課程である。
基礎学力から始まって,コミュニケーション能力などの生活・対人関係技能,
具体的な就労技術に至るまでの幅広いスキルを開発するためのプログラムが
組まれている。
(a)
任意資金
この資金は,仕事に就こうとする犯罪者の支援のためのものである。この
資金により,生活のための初期費用,例えば,生活保護が停止されてから最
初の賃金を受け取るまでの間,仕事の道具代,自営業を開始する場合の準備
20
費用などを賄うことができる。短期間の訓練の場合も受給できることがある。
(b)
教養プログラム
教養プログラムもしばしば実施され,インフォーマルな関係を築く能力や,
自己表現力を習得するために行われる。こういったプログラムは,非営利部
門が提供することが多い。
(c)
就労体験
就労体験は,受刑期間中に失ってしまった就労技能を取り戻したり,もと
もと持っていなかった新しい技能を身に付けたりするためのものである。集
団で学習したり,「仕事の世界」に対する理解を深めたり,時には釈放前に
いくらかの現金を得たりする機会ともなっている。日中だけ釈放されて社会
内で行われることもあるし,施設内の作業として行われることもある。この
就労体験は,NOMSの業務に対する産業界の直接的な関与の一つである。
無報酬の場合も報酬が払われる場合もあるが,払われる場合も「訓練」とし
ての性質上,賃金は低く抑えられている。
(d)
面接の保証
その仕事に対する最低要件を満たす受刑者や,特別に設定された職業訓練
コースを無事修了した者に対し,雇用主が就職のための面接の機会を保証す
る場合がある。
(e)
雇用主保険
雇用主保険は,非営利団体が一般の保険会社との提携の下,雇用主に提供
する損害保険である。この制度のおかげで,多くの犯罪者が直面している,
就労に際して直面する障壁を乗り越えることができる。
21
(f) 刑務所情報コミュニケーション技術アカデミー(PICTA:
Prisons Information and Communication Technology Academy)
NOMSは,成長する市場分野の企業に向けて,犯罪者処遇に対する積極
的な関与と釈放後の受刑者の雇用を促すために,情報技術分野において現在
使用されている技術を受刑者に提供するため専用のワークショップを設立し
た。このワークショップでは,受刑者が最新の職業技能について個人個人の
ペースで学ぶことができる上,釈放後にもその学習を続けていくことができ
る。
(g)
刑務所ラジオ
NOMSは,舎房内や施設内で作業中の全受刑者を対象とした,国営刑務
所ラジオサービスの開発と提供を目指している。刑務所ラジオの主な目的の
1つは,服役中の受刑者の社会復帰に向けた準備である。
(h)
施設内店舗
施設内店舗は,受刑者が購入するための品物を供給する場所である。
DHL/Booker との 10 年間の新規契約の下,営利企業との協力関係により幅広
いサービスが提供されている。購入品は,就労・技能訓練の一環として,受
刑者によって小売作業場で選択・包装される(重警備施設は除く)。
(iv)
法務省と労働年金庁の共同見直し作業
両機関の業務をより適切に調整するため,以下の事項を目的に,見直し作
業が行われた。
22

可能な限り最善の結果を目指し,共同して犯罪者への業務提供を行う
こと,及びその業務内容を他の協力団体にも伝達することを目的に,
連携を強化する。

両組織の役割や責任をより明確にした実施体制を築き,施設内及び社
会内処遇における就労関連業務の効果を高める。

NOMSと公共職業安定所(ジョブセンター)の間の雇用主契約活動
を連携する。

地域レベル,地方レベル,国レベルにおいて,合同データをNOMS
(法務省)とジョブセンタープラス(労働年金庁)の間で共有する。

組織の枠組みを超えて業務を執行するための,将来的な共有目標の実
現可能性を探る。
Ⅵ. 民間部門との連携戦略と再犯予防活動
コーポレート・アライアンス(法人提携)
コーポレート・アライアンスは,犯罪者の雇用に対する企業の関与を高め
ることを目的とした,政府主導の取組の旗印である。犯罪者の職業技能及び
雇用実績を向上させるため,公的機関,民間企業,非営利団体等の連携の下
に推し進められている。
その具体的な目標は以下のようなものである。

求職活動中の犯罪者を雇用し,現に就労中の犯罪者の継続を支援す
る企業を増やす。
23

犯罪者の職業技能と雇用実績の向上に関する企業努力を支援し,広
報に努める。

既にコーポレート・アライアンスに関わっている企業を通じて,コ
ーポレート・アライアンスを他の企業に「売り込む」。
企業が犯罪者と関わることのできる活動には3つの段階があり,個々の企
業がその中から自分に一番向いていると思う方法を選ぶ。
 レベル1- 犯罪者の就労能力を高める活動。例えば,職業訓練で使用
可能な資材の寄付や,面接の練習,履歴書作成,助言などを行う人員
の提供。
 レベル2- 有償の仕事のあっせんを含む,訓練プログラムの策定・実
施のサポート活動。
 レベル3- 受刑中又は保護観察中の対象者の直接雇用。
国レベル及び地方レベルでコーポレート・アライアンスを推進した結果,
現段階で 100 を超える企業が実際に犯罪者の更生に関与しているか,将来的
な参加を計画しており,更にその輪を他の企業にまで広げようとしている。
また,企業との関係強化に関して,企業自らが主体的にかじ取りをしてい
くために,実業界のリーダーが議長を務めるレファレンス・グループが創設
された。このレファレンス・グループには,中小企業のみならず大企業,ま
た公的機関や非営利団体も加わっている。
(i)
産業別技能委員会
産業界や他部門との関係強化に向けた,NOMSの近年の重要な取組の1
つに,産業別技能委員会が挙げられる。各委員会は雇用市場の様々な業種を
24
代表しており,工芸・工業からケータリングまで,19 の異なる業種において
取組がなされてきた。この取組の利点は,例えば次のようなことである。

労働力市場のニーズ,変化,不足している技能を把握できる。

各業種や地域におけるニーズを踏まえることで,より確実に通用する
職業訓練を施設内で提供できる。

各業種において特定の団体に優遇措置を与え,異なった刑務所間でも
一貫したサービスを提供させることができる。この優遇措置には,研
修費用,登録費用,資格認定費用が含まれる場合がある。

より優れた訓練スタッフを確保することができる 。

雇用主との連携や手続の改善につながる。
(ii)
BIC(地域社会ビジネス)
BIC(Business in the Community)は独立した産業界主導の慈善事業で
あり,830 社以上の企業が会員となっている。BICは企業の社会的責任
(CSR)を支持する団体の一員として,「能力開放」プログラムを通じて
労働者の技能と能力を開発することを目的としており,犯罪者雇用に向けた
事業も1つ行っている。これは,NOMSと民間企業の連携の一例であり,
元犯罪者の雇用に対するスポンサーとなっているのはバロウ・キャドベリ
ー・トラストである。
BICは,犯罪者雇用について明確な見解を持っている。
「BICは会員企業を通じて,就職に向けた元犯罪者の能力向上に努めて
いる。安定した良い仕事こそが再犯を減らす唯一最大の要素である。彼らが
定職に就くということは,生活を向上するために必要な収入源や自己評価の
25
確保という犯罪者個人のメリットだけではなく,犯罪率の低下という,社会
全体にとっての利益も生むものである。」
企業側にとっては次のような直接的な利益もあると指摘する。
「我々の頭痛の種は,大半の企業と同様,人材の採用と定着率である。
我々は従来の採用以外の方法も選択肢に入れざるを得なくなっている。刑務
所には,地域社会に戻るための出所を間近に控え,働く意欲にあふれている
にもかかわらず,十分に技術のある人材が眠っている。我々が採用した元犯
罪者たちは模範的な従業員となっている。」
BICは,元犯罪者を雇用する上での費用対効果についても明確な考えを
持っている。その効果を支持する意見は次のようなものである。
(a)
犯罪減少による民間部門のコスト削減:犯罪に対する実業界の出
費は年間 190 億ポンドに及ぶ。うち,元受刑者による再犯の費用は
年間 110 億ポンドである。職に就いている元犯罪者は無職の者と比
べ再犯リスクが 33%~50%も低く,適切な対策を講じれば,それ
は 10%まで下がるとされている。
(b)
人材リクルートのための費用が 40%~60%削減できる。
(c)
既存の従業員にとっても,元犯罪者の指導に当たることで,マネ
ージメント,コミュニケーション,傾聴,チームビルディングとい
った観点で,技能や経験が培われる。
(iii) 元犯罪者の訓練や雇用における企業関与の事例
26
(a)
DHL/Booker 社(物品流通管理)は,NOMSと施設内店舗の契
約を結んでいる。いくつもの刑務所において,500 人もの受刑者が
DHL 社の監督の下で作業に就いている。
(b)
Travis Perkins 社(工具リース,建築資材販売)は,1年ほど
前に自社初の職業訓練センターをストッケン刑務所(HMP Stocken)
に開設したが,同刑務所内に既に新たな作業場を拡張し,90 人の
受刑者が就業している。Travis Perkins 社は現在,自社の多くの
支店で釈放後の受刑者を雇用しており,2例目となるフォード刑務
所(HMP Ford)にも協力関係を拡張している。この刑務所内の作業
場では,本年末までに約 50 人の受刑者の就業が見込まれている。
(c)
Timpson’s 社(靴)は現在,リヴァプール刑務所とウォンズワ
ース刑務所に2つの「アカデミー」を持っており,受刑者の更生に
多大な関心を示している。
(d)
Morrisons 社(小売業)は釈放前訓練コースを3つの刑務所で運
営しており,訓練受講者を釈放後に雇用にしている。注目すべきは,
同社における同訓練受講者の定着率が 80%に達していることであ
る。
(e)
Compass Group の「更生」プロジェクトでは,服役中の女性受刑
者が防衛施設で雇用されており,食事配膳業関連の技能を学んでい
る。
Ⅶ. 非営利部門の戦略と再犯減少活動
27
NOMSは,釈放前・釈放後に教育,訓練,住居等に関する支援を行う幅
広い分野の非営利部門の団体と活動を行っている。非営利団体は,民間企業
と同様,刑務所と地域社会の懸け橋となるべく支援を行っている。
NOMSと非営利団体との協働体制は,国レベル,地方レベル,地域レベ
ルにも及んでいる。国レベルでは,「CLINKS」という団体が,犯罪者
やその家族に対する活動を行う他の非営利部門団体を包括的に支援している。
900 を超える非営利組織が,犯罪者にサービスを提供する 2000 ものプロジェ
クトを担っている。
助言団体などの非営利団体を支援する傍ら,CLINKSは,約4分の3
の受刑者が機会さえあればボランティア作業をする意欲があると推定してい
る。受刑者は豊富なボランティア人材源となりつつあり,実際に職員や他の
ボランティアと共に,「対等な立場の助言者」として他の受刑者を援助する
こともある。合計で 7000 人以上のボランティアが全国で犯罪者の更生に貢献
している。
Ⅷ. 社会貢献企業
A.社会貢献企業とは何か
社会貢献企業には以下のような特徴がある。

独立して設立された企業で,事業計画により運営され,社会的目標と
財務目標の両方を達成しようとするものである。
28

経済収益や余剰金は,その社会的目標に沿った事業に再投資される。

会員制や民主的構造を持っており,社会的に所有され,社会に対して
広く説明責任を負う。
社会貢献企業の利点として,コスト節約,地域社会とのつながり,革新と
創造性などが挙げられる。NOMSの最近の調査によると,62%の保護観察
管区が社会貢献企業と関わりを持っている。そのうち約 40%は,コミュニテ
ィ・ペイバック(社会還元労働,社会奉仕活動)関連である。刑事施設につ
いては,関わりを持っているのは約 53%だが,残りの 47%のうち,95%は関
与したいと考えている。
B.地域レベルで運営されている社会貢献企業関連プロジェクトの事例
以下に述べるのは,元犯罪者関連の活動を行う非営利部門と社会貢献企業
によるプロジェクトの例である。
(i) 「Clink」-ケータリング

「Clink」はハイ・ダウン刑務所(HMP High Down)のレストランで
ある。

ここでは,一流レストランという環境で職業訓練や就労体験が得ら
れる。

訓練生として,一度に 16 人の服役中の受刑者を雇用する。

社会貢献企業 Eco-Actif CIC によって運営されている。

収益によって,訓練生に賃金を支払い,訓練と資格を提供し,訓練
終了後の支援を行う。
29

元受刑者も雇用している。
(ii) リーズ市信用組合 - 金融業

犯罪者に対し銀行取引を可能にすることにより,経済活動の面にお
ける社会的排除を解消する。

刑務所と連携しているため,身分証明がなくても簡単なプロセスだ
けで取引ができる。

受刑者に対し 500 の口座を開設している。

家賃滞納や携帯電話契約を含む,以前からの借金に関する金銭管理
の相談にも乗る。
(iii) ダートムーア英国刑務所社会復帰ユニット(HMP Dartmoor
Resettlement Unit)

著名な庭園と連携し,「エデン・プロジェクト」というプロジェクト
を実施。

受刑者はエデン・プロジェクトのスタッフの指導の下,刑務所内の使
用されていない空間を生産性のある菜園に変えた。

そこで収穫された野菜は,箱に詰めて,地域社会のお年寄りや貧しい
人たちに無償で配られている。

このプロジェクトには,地元の人々から多くの感謝の手紙が送られて
きている。
(iv) Reach – プリンクナッシュ修道院の庭園(Prinknash Abbey Garden)

社会的に排除されていると感じている人や,犯罪をした人の潜在能力
を開花させる活動を行うためのプロジェクトである。
30

このプロジェクトにより,雑草がはびこっていた古い寺院の庭園は一
変した。現在,庭園は,園芸技術を習得したり,一般市民会員や恵ま
れない人々が余暇を過ごしたりする場所になっている。
(v) Inside Job Productions 社

刑務所からの日中釈放という形で,女性受刑者に対して専門的なメデ
ィア業界での訓練を実施する。
(vi) Cementaprise 社

Cementaprise 社は,刑事施設,保護観察局,雇用主,教育・雇用局,
地方自治体当局,非営利団体を結び付ける。

各団体が協力して犯罪者の建設業界での就職を支援する。

犯罪者は様々な職種を「お試し」したり,短期速習研修コースで作業
に従事したりすることで,雇用のための対人スキルや実践スキルを身
に付け,建設業界で働くための要件である安全衛生関連の認定を得る。
(vii) 「方向性修正」
高リスクの犯罪者の場合,そのリスクを確実に管理するための特別な
対応が要求される。方向性修正イニシアチブ(The Changing Directions
initiative)は性犯罪者や児童に危害を加えるリスクのある受刑者に対し,
個人事業を興す機会を与えるプログラムである。プログラムには以下が含
まれる。

起業に向けた刑事施設内での訓練プログラムの実施

個別起業計画の作成
31

小規模事業運営のための優遇措置を講じた,小規模事業支援ネット
ワークの開発
32
Fly UP