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コールベッドメタンの埋蔵量評価 手法および開発 ・ 生産技術
JOGMEC 技術調査部 開発技術課 松原 修 JOGMEC 技術調査部 探査技術課 小西 祐作 アナリシス コールベッドメタンの埋蔵量評価 手法および開発 ・ 生産技術 はじめに ひっぱく 近年、油価・ガス価の高止まりや将来的なエネルギー需給の逼迫に対する懸念、石油・ガス開発技術 の進歩などに伴い、これまでは回収が難しいと考えられていた「非在来型」の石油・ガス資源にも大きな 注目が集まっている。また、環境意識の高まりや、欧州では既にいくつかの国で導入され今後一層の導 入拡大が予想される環境税等の影響もあり、環境負荷の低いエネルギーが世界的に求められ、ガス資源 の需要や開発への期待感が高まっている。 こうしたなか、石炭層内に存在する非在来型ガス資源であり、豊富な資源量* 1 を有するコールベッ ドメタン(Coalbed Methane:以下、CBM)にも、有望なガス資源として大きな関心が寄せられてきて いる。 現在のところ、CBM は米国、カナダ、オーストラリアで商業生産が行われており、それらの国々で は既に CBM がガス市場のなかで重要な地位を築きつつある。例えば、米国における 2 0 0 6 年の CBM 生 産量は約1.8Tcfで全天然ガス生産量の約10%を占める。また、オーストラリアのなかで特にCBM*2フィー ルドが集中しているクイーンズランド州では、現在同州に供給されるガスの 5 0 %程度が CBM 生産によ るものとなっている。さらに同州では、ガスの国際価格の高騰にも後押しされ、内陸部で生産された CBM をパイプラインで東海岸の港町グラッドストーンまで輸送し、液化する CBM-LNG プロジェクト しのぎ が昨年より相次いで発表され、現在 6 プロジェクトが実現に向けて鎬を削っている(今号同時掲載の 3 1 ページ「いよいよ実現に向かう豪州クイーンズランド州の CBM-LNG 事業」も参照されたい)。世界的に 見ても CBM を取り巻く状況はダイナミックに変化しており、今後エネルギー市場において CBM の存 在感が一層増していくことはほぼ確実であろう。 本稿では、平成 1 9 年度に JOGMEC がカナダの Sproule International 社に委託して実施した技術動向 調査「コールベッドメタンの埋蔵量評価手法および開発・生産技術に関する調査」の結果に基づき、 CBM の埋蔵量評価手法、開発・生産技術について紹介することにしたい。 なお、CBM は広義には石炭層中に包蔵されるメタンガスと定義されるが、本稿では狭義の CBM、す なわち、炭層の開発を伴わずに坑井を通じて直接石炭層から生産されるメタンガスを扱う。広義の CBM の分類については島田荘平氏執筆の「加速する新資源 コールベッドメタン開発」(石油・天然ガス レビュー 2 0 0 5.9 Vol. 3 9 No. 5) に詳しく述べられているのでそれを参照されたい。 1. CBM 開発の歴史 石油・天然ガスの探鉱・開発業界では、かねて石炭は 象層(砂岩または炭酸塩岩)に向けて掘削している途中で 原油や天然ガスの根源岩となっていることが広く知られ 石炭層を掘削してもガス徴が見られないことなどから、 ていたが、在来型の石油・天然ガスの試掘井において対 石炭層はガスの貯留層とは考えられてこなかった。一方、 *1:数千 Tcf(兆立方フィート)と見積もられる。 *2:オーストラリアでは CBM と同義で“Coal Seam Gas(CSG)”という語が用いられるのが一般的である。 19 石油・天然ガスレビュー アナリシス 石炭業界では、炭層に含まれるメタンガスの存在は認識 を行い、1 9 7 8 年には同社が米国西部コロラド州の San されてはいたものの、坑道内に爆発限界(約 5 %)以上に Juan 堆積盆地において掘削した Cahn-1 号井から、日産 滞留すると爆発事故の原因となるため、メタンは排気に 1MMscf(1 0 0 万立方フィート)の生産に成功した。 よって地上に追い出すべきものとされ、長い間ガス資源 これらの成功によって CBM が重要な天然ガスの供給 としては注目されてこなかった。 源として認識されるようになり、それ以降の米国におけ 1 9 6 8 年に米国の炭鉱で発生したガス爆発事故を契機 る商業開発に結びつき、近年ではオーストラリアおよび として、1 9 7 0 年代には石炭層のガスを事前に取り除き カナダにおいて商業生産が開始された。 安全に石炭を開発する方法が同国で研究された。それら 北米およびオーストラリアでの開発成功と近年のガス の研究活動の一環として、1 9 7 1 年にアラバマ州 Warrior 価の高止まりなどにより、石炭の埋蔵量が豊富な国々に 堆積盆地において掘削された坑井で石炭層に対してフラ とって CBM は魅力的なガス資源になりつつあり、これ クチャリング(水圧破砕)を実施したところ、日産 5 万 までに東欧やアジアなど世界 4 0 カ国以上で CBM に対す scf(立方フィート)のメタンガスが生産された。この成 るポテンシャル調査が実施されている。 功の後、Amoco 社(現 BP)が精力的に CBM の技術開発 2. CBM に関する基礎知識 (1) 石炭の特徴 緯度地域である。 ① 石炭の分類 石炭はその熱熟成度により石炭化度(rank)が決定さ 石炭は、植物が主に湖沼で堆積、埋没し、温度・圧力 、亜瀝 れ、一般には石炭化の進行に伴い、褐炭(lignite) の増加に伴い変質して生じた可燃性の岩石(写 1)で、石 かったん あ れき せい たん 青 炭(sub-bituminous)、瀝青炭(bituminous)、無煙炭 炭紀(3 億 6,9 0 0 万年前)から第三紀(5 0 0 万年前)までの (anthracite)に分類される。石炭化が進行するにつれて 幅広い地質時代の地層から産出する。石炭が堆積した地 石炭中の炭素の量比が高くなり、同時に水素、酸素は減 域の大部分は、還元的(水中の酸素が少なく植物が分解 少する。また、後述のクリート(炭理 = 石炭の割れ目)の されない)堆積環境を維持できる低緯度地域もしくは高 発達、メタンガスの生成量および貯留(吸着)量は石炭化 の進行と大きく関連するため、石炭化度は CBM 探鉱に おいて非常に重要な指標である。 なお、石炭化度による分類のほか、石炭を構成するマ セラル* 3 の種類(ビトリナイト、リプチナイト、イナー チナイト)による分類(type)や、石炭の組成(石炭中の灰 分やその他の鉱物の含有量)による品位(grade)の分類 がある。 石炭の熱熟成度の測定にはビトリナイト反射率 (Ro %)* 4 が用いられ、メタンガスを多く生成する石炭 である瀝青炭のビトリナイト反射率は 0.4 7 から 2.0 5 を 示す。 出所:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より 写1 石炭(瀝青炭) ② クリートシステム 石炭中には、その石炭化の過程においてクリート(炭 理)と呼ばれる割れ目がさまざまなスケールで形成され *3:石炭を構成する成分の基本的な最小単位成分。一般の岩石で言えば「鉱物」にあたるもの。 *4:有機物の熟成度の指標として広く用いられており、一般に、埋没深度が深くなって地温が上昇するのに伴い、あるいは地質時代が古くなるほど 増加する。 2008.11 Vol.42 No.6 20 コールベッドメタンの埋蔵量評価手法および開発・生産技術 (図 1) 、主炭理(face cleat)と副炭理(butt cleat)という Review of World Energy, June 2 0 0 8)によれば、2 0 0 7 セット (クリートシステム) で発達することが一般的であ 年末時点で 8,4 7 5 億トンであり、国別では表のとおりで る。連続的に発達する主炭理に対して、副炭理は主炭理 ある。表からも分かるとおり、北米、アジア太平洋地域、 にほぼ直交し主炭理で止まるように発達する。クリート ヨーロッパ / 旧ソ連の 3 地域の確認埋蔵量が多く、実に は、石炭化の過程における脱水と脱ガス作用により石炭 確認埋蔵量の 9 2 %がこの 3 地域に分布する。また前述の が収縮することによって形成され、一般に石炭化が進む とおり石炭紀から第三紀まで幅広い地質時代の地層から ほどクリートは多く発達する。また、その発達方向はク 産出するため、図 2 に示されるように地理的にも広く地 リート形成時の応力場の影響を受ける。 球上に分布する資源である。 石炭層中では、クリートシステムが流体(ガスおよび 北米、アジア、ヨーロッパ / 旧ソ連の高品位の石炭 (瀝 水)の主要な流路となることから、その発達の程度が石 青炭 / 無煙炭)を産出する地質時代は、古生代の石炭紀 炭層の浸透率に影響し、CBM 坑井の生産性をも左右す ~二畳紀が主であり、この他に北米では白亜紀の石炭が、 る。このため、クリートシステムは CBM の生産におい オーストラリアではジュラ紀の石炭が知られている。ま て重要な役割を果たす。 た低品位の石炭(亜瀝青炭 / 褐炭)は第三紀の地層から多 く産出し、北米、東南アジア、ヨーロッパ、オーストラ ③ 石炭の賦存状況 リアが主要な産地である。 世界全体の石炭確認埋蔵量は、BP 統計(BP Statistical (2)CBM の特徴 ① CBM の生成および貯留メカニズム CBM のメタンガスは、主に石炭が熱熟成(脱水および 脱ガス)する過程において生成され、図 3 に示されるよ Butt Face 出所:http://outburst.uow.edu.au/html/cleat_joints_pg2.html 図1 クリート概念図 表 Coal Area of Known or Inferred Geologic Extent 石炭の可採埋蔵量(国別、2007年末時点) 出所:GRI 図2 世界の石炭の分布地域 単位:百万トン 1 米国 242,721 米国 112,261 2 ロシア 157,010 中国 62,200 3 中国 114,500 インド 52,240 4 オーストラリア 76,600 ロシア 49,088 5 インド 56,498 南アフリカ 48,000 6 南アフリカ 48,000 オーストラリア 37,100 7 ウクライナ 33,873 カザフスタン 28,170 世界全体 847,488 430,896 出所:BP Statistical Review of World Energy(June 2008) 21 石油・天然ガスレビュー Gas Generation as a Function of Coal Rank Increasing gas volume 石炭確認埋蔵量 石炭確認埋蔵量 (瀝青炭、無煙炭のみ) Thermallly-derived methane Lignite Sub-bituminous Biogenic methane Nitrogen Carbon dioxide Bituminous Volatile matter driven off Anthracite Increasing coal rank 出所:Schlumberger 図3 石炭化度(rank)とガス生成量 Graphite アナリシス うに瀝青炭の段階において最も多くのガスを生成する。 まないために、ハンドリングは比較的容易でガス処理 また、わずかではあるが石炭化の初期段階には生物起源 設備はシンプルなもので済む。 のメタンも生成される。 こうげき 石炭は微細な孔隙(空隙)構造を持っているが、生成 ③ 流動メカニズム されたメタンガスの大部分はその孔隙表面に分子レベ CBM の大部分は前述のとおり石炭の表面に吸着して ルのファンデルワールス力 *5 により吸着して存在する。 その点において、貯留層の孔隙にガスが圧縮されて貯 留されている在来型ガス田とは大きく異なる。クリー ト内にも吸着せずに遊離しているメタンガス(「遊離ガ ス」と呼ぶ)が存在することもあるが、せいぜい全体の 数パーセント程度とごくわずかであり、埋蔵量評価に おいても通常は吸着ガスのみを扱い遊離ガスは無視さ れることが多い。 おり、生産を開始すると以下のプロセスを経てガスは生 産井に到達することとなる。 a)石炭層の圧力低下(またはメタン分圧の低下)に伴い メタンが石炭層表面から脱着 こうばい b)脱着したメタンが濃度勾配により孔隙ネットワーク 内を拡散しクリートへと移動 c)クリートネットワーク内を圧力差により移動し、坑 内に流入 なお、ガス吸着量は図 4 に示されるように石炭化の クリート内の圧力差に伴うガス流動は在来型ガス田と 進行に従って増加することが知られ、同じ温度・圧力 同様であり、ダルシーの法則* 6 によって表現できるも 条件下では、無煙炭が最大の吸着量を持つ。CBM では のであるが、その他の石炭層からのガスの脱着および脱 この吸着量の評価(後述)が埋蔵量計算において重要と 着したガスの濃度拡散は在来型ガス田では見られない現 なる。 象である。したがって、CBM においては在来型ガス田 Absorbed gas content,scf/ton(dry,ash-free) に比べて複雑な流動メカニズムを呈すると言える。 Methane Sorptive Capacity versus Coal Rank 1,200 ④ 生産挙動および生産能力 1,000 石炭層は「ドライタイプ」と「ウェットタイプ」に分ける 800 ことができ、ドライタイプの石炭層におけるガス生産挙 600 動は在来型ガス田と大きな違いはないものの、大部分を 400 Anthracite Medium-volatile bituminous High-volatile bituminous A High-volatile bituminous B 200 0 0 200 400 600 800 1,000 Pressure,psia 横軸:圧力、縦軸:吸着ガス量 出所:Schlumberger 図4 石炭化度(rank)とメタンガス吸着能力の関係 占めるウェットタイプの石炭層では大きく異なる生産挙 動を示す。 ドライタイプでは、石炭層の吸着能力上限までガスが 吸着している状態(飽和状態)であり、クリート内も遊離 ガスが占有するため、初期状態からクリート内に水は存 在しない。生産開始直後から石炭層表面からのガスの脱 着も始まり、高レートでガスを生産することができる。 カナダ・アルバータ州西カナダ堆積盆地の Horseshoe Canyon 層(上部白亜系)の石炭はこのタイプの代表例で ② ガス組成 ある。 CBM の主たる成分はその名のとおりメタン(CH4)で 一方、ウェットタイプは、石炭層のガス吸着量が吸着 あり、一般的には 9 0 %以上を占めている。その他、エ 能力上限にまで達していない状態(不飽和状態)であり、 タン(C2H6)等のメタンより重い炭化水素、二酸化炭素 初期状態ではクリート内が水で満たされている。石炭層 等が数パーセント含まれる。すなわち、CBM は「非在 表面からガスを脱着させるためには、クリート内の水抜 来型」のガス資源に分類されるが、ガスの組成自体は在 き(“dewatering”という)をして飽和状態になるまで圧 来型ガス田から生産されるガスと大きな違いはなく、 力を低下させる必要がある。このため、生産初期にピー むしろ、二酸化炭素やその他不純物は通常微量しか含 クを示す水生産量が徐々に低下するにつれてガスの生産 *5:電荷を持たない中性の原子、分子間などで主となって働く凝集力の総称(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋)。 *6:多孔質媒体(表面または内部に数多くの孔隙をもち、その孔隙構造によって決まる固有の浸透率を有する固体)内を通過する流体の流速とその 粘性および圧力勾配との関係を表す経験則(『石油生産技術用語集』より抜粋)。 2008.11 Vol.42 No.6 22 コールベッドメタンの埋蔵量評価手法および開発・生産技術 量が増加するという特徴的な生産プロファイルを示す Peak Rate (図 5)。 Flow Rate CBM 坑井のガスの生産能力については、在来型ガス 田の生産井と遜色ない坑井(生産レート:日産 1 0MMscf 以上)もあるが、在来型ガス井の 1/1 0 ~ 1/1 0 0 0 程度と 低いのが一般的で、経済性を確保するためには数多くの Gas Dewatering 生産井が必要となる。また、坑井によって生産性に大き Water Time なばらつきがあるのも CBM の特徴であり、クリートの 出所:JOGMEC作成 発達度合いおよびクリート幅の違いに起因する浸透率の 局所的な変化がこの主因であると考えられる。 典型的なCBM生産プロファイル 図5 (ウェットタイプ) 3. 埋蔵量評価手法 (1) 原始埋蔵量評価手法 層の分布域。数百キロメートル以上にわたり分布してい CBM の原始埋蔵量はクリートシステム中に含まれる ることが分かる) 。また、CBM は前述のとおり石炭の表 遊離ガスと石炭層に吸着されたガスの合計で表される 面にガスが吸着されており構造トラップを必要としない が、一般に遊離ガスの量は全体の数パーセント以下であ ため、在来型油ガス田のように地震探鉱による構造範囲 る。このため遊離ガスは通常無視され、石炭層への吸着 の把握はあまり行われない。ただし、断層などによる複 ガスのみが CBM の原始埋蔵量として取り扱われる。 雑な地質構造を持つ地域では、石炭層の連続性を把握す ① 埋蔵量計算式 CBM (吸着ガス) の原始埋蔵量は以下の式で求められる。 OGIP=A × h ×ρ× Gc OGIP:ガスの原始埋蔵量 (scf または m3) A :面積 (ac:エーカー または ha) h :石炭層の層厚 (ft または m) エドモントン ρ :石炭の密度 (ton/ac-ft または g/cc) Gc:石炭単位質量あたりのガス吸着(含有)量(scf/ ton または m3/ton) カルガリー すなわち、 対象となるエリアの石炭の全質量を算出し、 そこに石炭単位質量あたりのガス吸着量を乗じたものが 原始埋蔵量となる。 なお、原始埋蔵量は基本的に一枚の石炭層ごとに算出 するが、同じ層準で類似した性状の炭層をまとめて算出 することも一般的に行われている。 0 (km) 200 出所:Alberta Geological Survey Websiteにて作成 http://www.ags.gov.ab.ca/website/cbm/viewer.htm ② 面積について 石炭は堆積盆地内で広く連続的に分布することが一般 的である(図 6 は西カナダ堆積盆地 Horseshoe Canyon 23 石油・天然ガスレビュー 図6 Horseshoe Canyon層分布図 アナリシス る目的で地震探鉱がなされることが多い。 ④ ガス吸着量(Gas Content)の評価 面積は、想定される生産井の排ガスエリアによって決 CBM の埋蔵量評価において最も重要なパラメーター められ、アメリカ / カナダでは典型的な坑井間隔に基づ の一つは、石炭へのガス吸着量である。ここでいうガス き 1 6 0 エーカー(約 8 0 0m の坑井間隔に相当)が用いら 吸着量は地下状態における吸着量であり、採取された石 れることが多い。ただし、炭層の浸透率やガス吸着量に 炭サンプルを用いた脱着テストにより推定される。ガス よっても左右され、通常は 4 0 ~ 6 4 0 エーカーの範囲の 吸着量は、脱着ガス(desorbed gas)、残留ガス(residual 値が用いられる。 gas)、およびロストガス(lost gas)、それぞれの量の合 計で求められる。脱着ガス量は、密閉容器に封入された ③ 石炭層の有効層厚および石炭の密度の評価 石炭サンプルを石炭層温度および大気圧の条件下に長期 *7 石炭層の有効層厚 を評価する際には、 在来型の石油・ 間(2 0 ~ 3 0 日程度)置き、その間に脱着したガス量を測 天然ガス探鉱同様、ガンマ線、密度、中性子等の物理検 定することで求められる(典型的な脱着曲線は図 7)。残 層が用いられる。これらの検層データを解析して、石炭 留ガスは、上記条件下に長期間置かれてもなお脱着せず 層の有効層厚と石炭の密度を得る。石炭の密度は一般に に残されたガスを指し、ガス脱着レートが十分に低く 堆積岩より低い 1.3 ~ 1.8g/cc であるため、密度検層に なった(5cc/ 日以下)後にサンプルを粉砕し、放出され より石炭層の層厚を決定することができる。また石炭層 たガスを測定することでその量を把握する。またロスト で低い値を示すガンマ線検層も広く用いられている。密 ガスとは、石炭のサンプルが採取され密閉容器に封入さ 度検層で石炭層の有効層厚を決定する際によく用いられ れるまでの間に失われたガスであり、その量の測定は困 るカットオフ値 *8 は 1.7 5g/cc(または 1,8 0 0ton/ac-ft)で、 難であるが、脱着時間と脱着ガス量のデータから経験的 に推定することができる。 ベース) を占める密度に相当する。 ガス吸着量を評価するためのサンプルはコア(円柱状 石炭層の有効層厚に関しては、垂直井で複数の層から の岩石サンプル)であることが望ましいが、カッティン 同時に生産する場合は、1 枚の厚さが数十センチであっ グス(掘りクズ)でも評価は可能である。この場合、掘削 ても生産される炭層はすべて埋蔵量に算定される。一方、 泥水中などで失われるガス(ロストガス)量が多くなるた 水平坑井で生産する場合には、ある程度の厚さがある炭 め、推定されるガス吸着量の精度はコアサンプルを用い 層 を 対 象 と す る た め、1 枚 の 炭 層 の 厚 さ の 下 限 値 は た場合に比べて劣る。 8 0cm ~ 1 mとなる。 なお、これまで CBM 商業生産を行っている主要な また、埋蔵量計算に用いる石炭密度としては、通常は フィールドの石炭のガス吸着量は 3 0 ~ 6 0 0 scf/ton と カットオフ後の有効層厚区間の平均値を用いる。 かなりの幅がある。 Cumulative Desorbed Gas Content(scf / ton) これは亜瀝青炭において石炭中の有機物が 5 0 %(重量 ⑤ 埋蔵量定義との関係 8 コールベッドメタンの埋蔵量や資源量は在来型の油ガ 7 6 ス 田 と 同 様、SEC 基 準 や SPE/WPC/AAPG/SPEE 基 5 準に従って算出されている。石炭層が一様に分布すると 4 考 え る と、 図 8 の よ う に 坑 井 を 中 心 と し て Proved 3 Developed(図の赤いエリア)、Proved Undeveloped(図 2 の 緑 色 の エ リ ア、 こ こ ま で が SEC 基 準 の 埋 蔵 量: 1 0 0 100 200 300 400 Desorption Time(hours) 横軸:圧力、縦軸:累計脱着ガス量 出所:CBM Solutions 図7 典型的なCBM脱着曲線 500 600 reserves) 、Probable Undeveloped( 図 の 水 色 の エ リ ア)、Possible(図の黄色のエリア、ここまでが SPE/ WPC/AAPG/SPEE 基準の埋蔵量)となる。坑井 1 本あ たりの排ガスエリアが埋蔵量算定の際の基準面積(図中 の正方形一つ)となる。例えばアメリカ / カナダでの典 *7:CBMでは良好な性状の石炭層の厚さを指す。一般に原油・天然ガス貯留層の貯留層区間の総層厚(gross thickness)から孔隙率が小さい、水飽和 率が高い、あるいは浸透率が低いなど性状の悪い部分を除いた(カットオフした)良好な貯留層の厚さをいい、原始埋蔵量の計算基礎となる。 *8:ここでいうカットオフ値とは、密度検層のデータを用いて灰分(Ash)を多く含む性状の悪い石炭の区間を除く際の閾値。 2008.11 Vol.42 No.6 24 コールベッドメタンの埋蔵量評価手法および開発・生産技術 型的な基準面積は 1 6 0 エーカーである。この基準面積は 石炭層の産出能力に基づいて決定されており、ガス吸着 量が多く生産性の高い石炭層ではこの面積が大きくな り、 逆に生産性の低い石炭層ではこの面積は小さくなる。 (2) 回収率の推定 CBM の 回 収 率 を 推 定 す る 手 法 は、 ① 容 積 法 (Volumetric analysis) 、②数値シミュレーション (Numerical simulation) 、 ③ 減 退 曲 線 法(Decline analysis) の三つに大別される。 ① 容積法 (Volumetric analysis) Proved Developed Reserves(確認開発埋蔵量) 石炭層のガス吸着能力と圧力の関係は、一般的にラン *9 グミュア(Langmuir)の吸着等温式 Proved Undeveloped Reserves(確認未開発埋蔵量) で表され、図 9 の ような曲線として描かれる。 対象となる石炭層に関してコアサンプルが採取され、 Probable Undeveloped Reserves(想定未開発埋蔵量) Possible Reserves(予想埋蔵量) 出所:Sproule International Ltd. 平成19年度技術動向調査報告書 吸着テストあるいは脱着テスト等のデータからラング 図8 CBMの埋蔵量定義エリア ミュア吸着等温曲線が推定されている場合、あるいは石 炭性状が類似の層のラングミュア吸着等温曲線が存在す 450 る。 400 回収率 (RF) は以下の式により推定される。 すなわち、ラングミュア圧力定数(PL:ガス吸着量が 圧力無限大時のガス吸着量*10 の1/2になるときの圧力)、 初期レザーバー圧力(Pi) 、想定される廃坑圧力(Pa)を用 いて、 /P(P RF=1-P(P a i+PL) i a+PL) あるいは、初期圧力でのガス含有量を Vpi、廃坑圧力 Gas Storage Capacity,scf/ton る場合は、それらから回収率を推定することが可能であ Critical Desorption Pressure 350 Water Production 300 250 200 Cga=119 150 100 Abandonment Pressure 50 となる。なお、 類似の石炭層データを使用する際には、 熱熟成度、埋没深度、厚さ、ガス吸着量、灰分含有量(ash VL=475 scf/ton PL=150 psia 0 0 200 400 600 Pa におけるガス吸着能力を Vpa とすれば、 RF=(Vpi-Vpa)/Vpi Initial Conditions P=1,200 psia Cgl=308 scf/ton 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000 Pressure,psia 出所:West Virginia Univ. 図9 典型的なラングミュア吸着等温曲線 content)、浸透率、および石炭層圧力を考慮の上、類似 層を選択しなければならない。 ることができる。また、開発初期段階においては、貯留 層パラメーターが生産パフォーマンスおよび究極的な可 ② 数値シミュレーション (Numerical simulation) 採埋蔵量に及ぼす影響を評価するために数値シミュレー 在来型油ガス田のシミュレーションと同様に、貯留層 ションがよく用いられるが、この段階においては各パラ (CBM の場合は石炭層)モデルを作成し、石炭層および メーターは大きな不確実性を含むこととなる。生産の進 流体性状のデータ、開発井データ、生産条件等に基づき 展に伴って得られる生産量データ、圧力データ等を用い シミュレーションを実施することにより回収率を推定す てヒストリー・マッチング* 1 1 を実施することで不確実 *9:気体がある一定温度下で固体に吸着される際の圧力と吸着量の相関関係を表した式。代表的なものにヘンリーの吸着等温式、ラングミュアの吸 着等温式などがある(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋)。 *10:このガス吸着量のことを「ラングミュア体積定数(VLで表される)」という。 *11:貯留層モデル(シミュレーションモデル)の信頼性を向上させるために、シミュレーションによる生産予測が生産実績データ(生産量、貯留層 圧力など)を再現するように各種入力データを調整する作業をいう。 25 石油・天然ガスレビュー アナリシス 性の少ないモデルに改善され、シミュレーション結果は より信頼に足るものとなる。 (3)可採埋蔵量評価 可採埋蔵量は、前述の手法により算出、あるいは推定 される原始埋蔵量と回収率の積により算出される。 また、 ③ 減退曲線法 (Decline analysis) 通常のガス田評価と同様、貯留層モデルを作成し数値シ 生産井からのガス生産量が減退を開始し、減退トレン ミュレーションを実施することによって可採埋蔵量を得 ドが確立された後であれば、通常のガス田評価に用いら ることもできる。 れるような減退曲線法によって最終的な回収率を推定す ることができる。 4. CBM の開発 (1) 開発対象となる石炭層 生産井には、在来型ガス田と同様に垂直井および傾 CBM の開発対象となる石炭層として理想的な条件と 斜 / 水平井のいずれも採用されるが、薄い石炭層が砂岩 しては、ガス吸着量の大きい石炭が広く厚く分布してい や泥岩を挟在して何層も重なっている場合には、垂直 て、かつ、浸透率が高くガスが流動しやすいことが挙げ 井(多層仕上げ)が適しており、掘削費も安価である。 られる。前者の条件については、石炭のメタンガス生成 一方、深度が大きく、厚く連続的な石炭層は、傾斜井 量は瀝青炭において最大となり、また吸着能力は石炭化 あるいは水平井を適用するのに理想的な条件となる。 の進行に伴い増加するため、石炭化の進んだ石炭(瀝青 また、傾斜 / 水平井では、地上の一地点から複数の坑井 炭~無煙炭)の方が有利になる。また、石炭化が進むに を掘削することが可能となるため、地上施設の設置に つれてクリートも発達し良好なクリートネットワークが 環境上の制約、規制等がある場合に有効な手段となる。 形成されていくが、一方で、石炭化は埋没深度の増加、 ただし、水平井の場合には、坑壁の安定性を保持する すなわち地層圧力の上昇につれて進行するため、クリー ことが最大の課題となる。 ト幅の減少による浸透率低下を伴う。つまるところ、定 生産井の仕上げ方法としては、在来型ガス田と同様の 性的に表現すれば、石炭化が適度に進んだ(ガス吸着量 ケーシング仕上げ、裸坑仕上げなどが用いられている。 の大きい)空間的広がりを持つ石炭層で、かつ、良好な また、石炭の浸透率は一般的に低く(数ミリ~数十ミリ 浸透性が保持されているものが CBM の開発対象として 適していると言えるだろう。 実際、これまでに CBM の開発対象となっている石炭 層の深度はせいぜい 1,0 0 0m 程度であり、それ以深の石 炭層では低浸透率が開発のボトルネックの一つになって いるものと考えられる。 (2) 掘削、仕上げ方法 CBM の掘削には在来型のガス田と同様の手法も用い られるが、掘削流体のダメージを受けやすく、かつ壊 れやすい石炭の特性と、CBM 開発対象層の深度が比較 的浅く圧力が低いことを考慮した、改良型の技術も適 用されている。掘削流体としては、泥水の他に地層水 や空気も使われている。また、CBM 開発対象層は深度 が浅く掘削期間が短いために、移動が容易なトラック 搭載式の掘削リグ(写 2)も採用されている。 出所:JOGMEC 写2 トラック搭載式掘削リグ 2008.11 Vol.42 No.6 26 コールベッドメタンの埋蔵量評価手法および開発・生産技術 ダルシー程度)、浸透性を高めるためにフラクチャリン (4)地上設備 グが適用されることも多い。この手法は、石炭層中に流 CBM の生産流体はメタンが大部分のガスおよび水で 体を圧入することによってフラクチャーを発達させ、浸 ある。そのため、地上設備としては在来型ガス田に見ら 透率の向上を促すもので、作業自体は通常 1 日~数日程 れないような特殊なものはなく、水の分離装置(セパレー 度で終了する。本作業においては、石炭層にダメージを ター、デハイドレーター)、計量設備、分離した水の処理・ 与えないように細心の注意が必要となる。 廃棄のための設備、二酸化炭素等の除去装置、昇圧装置 CBM の開発対象層となる石炭層の深度は、一般的に などが主要なものとなる。また、大部分を占めるウェッ は 2 0 0 ~ 1,0 0 0m 程度と非常に浅いため、開発井の掘削 トタイプの石炭層においては、生産初期には水を多量に は短期間で終了することができる。オーストラリア・ク イーンズランド州の例では、5 0 0m 程度の垂直井であれ ば 1 坑 3 ~ 5 日程度で掘削することができ、掘削費も 1 坑あたり 5 0 万~ 1 0 0 万豪ドルと非常に安価である。在 来型ガス田においては、通常数千メートルの掘削が要求 され、1 坑の掘削に数カ月の時間と数千万ドルの費用を 要するのも珍しくないことを考えると、その差がお分か りいただけるだろう。CBM 開発では、生産性の低さか ら多くの生産井が必要となるため、掘削費を低く抑える ことがプロジェクトを成功に導く上で極めて重要な要素 となる。 (3) 生産手法 大部分の石炭層はウェットタイプであり、本格的なガ ス生産を達成するまでに石炭層の水抜きが必要となる。 経済性の観点からも効率的に水抜きすることが求められ 出所:JOGMEC るため、特に水の生産量が多い坑井では在来型の油田で 写3 CBM生産井(PCP設置) もよく見られるサッカーロッドポンプ、あるいはプログ レ ッ シ ブ・ キ ャ ビ テ ィ・ ポ ン プ(PCP:Progressive Cavity Pump) (写 3)が設置されることが多い。ポンプ を設置する場合には、傾斜井であると困難なため垂直井 が採用される。 一方、ドライタイプの場合には、水の生産を伴わずに 生産初期から高レートでのガス生産が可能であるので、 在来型ガス田と同様に自噴(写 4)により生産が行われて いる。 また、石炭層はもろく壊れやすいために生産に伴って 石炭の微粉(coal fines)が産出されることも多いが、石 炭の微粉は坑底のポンプや地上設備の磨耗、閉塞の原因 にもなり得るため、以下のような対策が施される。 ・低ドローダウン* 1 2 での生産 ・坑底ポンプ吸込口へのフィルター設置 ・地上設備へのフィルター設置 出所:JOGMEC 写4 CBM生産井(自噴井) *12:生産井における流動坑底圧(生産中の坑底圧力)と密閉坑底圧(生産を停止し貯留層が安定状態になった時の坑底圧力)の差圧。 27 石油・天然ガスレビュー アナリシス 産出するため、その処理が CBM プロジェクトにおいて イプとして安価で腐食対策も不要なポリエチレン製パ 大きな課題となっている。現在では、地下への再圧入や イプ(写7)が使われることも珍しくない。 た 蒸発池(Evaporation Pond:写 5)に溜めての蒸発処理、 農業用 (家畜の飲料水、穀物栽培等) に供給するなどの方 (5)CBM 増進回収法(ECBM) 法が採用されている。 石炭層に種々のガスを圧入し CBM の増産を行う技 CBM 生産井では坑口圧が数十 psia(1 気圧 =1 4.7psia) 術は ECBM(Enhanced Coalbed Methane)と呼ばれ、 程度と低いために、坑井元のセパレーターで水と分離 現時点で商業プロジェクトはまだないものの、米国、 されたガスはギャザリング(集ガス)ラインでコンプ カナダ、ポーランド、日本* 1 3 でパイロットテストが実 レッサー・ステーション(写 6)に集められ、コンプレッ 施されるなど広く研究が行われている。ECBM は基本 サーで昇圧して販売されている。低い坑口圧に伴いギャ 的に圧入するガスとメタンガスとの石炭への吸着特性 ザリング・システムの運転圧力も低いため、ラインパ の違い(図 1 0)を利用したもので、圧入ガスとしては、 二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)、および二酸化炭素と窒 素の混合ガス等が検討されている。 出所:JOGMEC 写5 蒸発池(Evaporation Pond) 出所:JOGMEC Sorbed Gas Content(m3/kg)DAF 写7 ポリエチレン製パイプ 0.035 Initial Pressure=1295.9 kPa 0.030 CO2(Adsorption) CH4(Desorption) 0.025 0.020 0.015 N2(Adsorption) 0.010 0.005 Anthracite Sample (#1) :α=9.94%;wα=7% 0.000 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 Pressure(kPa) 出所:JOGMEC 写6 コンプレッサー・ステーション 横軸:圧力、縦軸:ガス吸着量 出所:Ye, J.P. et al(2004) 図10 石炭への吸着性 *13:経済産業省の「二酸化炭素固定化・有効利用技術等対策事業」の一環として、平成14年8月から「二酸化炭素炭層固定化技術開発プロジェクト」 が実施されており(補助事業者:株式会社 環境総合テクノス)、平成16年度からは北海道・夕張においてCO2圧入予備実験が実施された。 2008.11 Vol.42 No.6 28 コールベッドメタンの埋蔵量評価手法および開発・生産技術 ① N2 ECBM 量が急激に上昇し高いピーク生産量を達成することがで 窒素はメタンに比べて石炭に対する吸着性が低く、石 きるが(図 1 2)、一方で窒素のブレークスルー(生産井 炭層への圧入を開始しても石炭への顕著な吸着は起こら への到達)が早期に起こり、生産ガス中の窒素濃度が急 ないが、クリート内のメタン分圧を低下させる。それに 速に上昇していく。そのため、販売前に生産ガスから窒 よりメタンの石炭層表面からの脱着が促され、脱着した 素を除去する必要があり、そのための設備が不可欠とな メタンは窒素とともにクリートネットワーク内を流動し る。 生産井へと排出される(図 1 1) 。その結果、メタン生産 量は大きく増加する。 ② CO2 ECBM この手法では、窒素圧入開始後早い段階でメタン生産 二酸化炭素は窒素とは逆にメタンよりも石炭に対す る吸着性が高く、石炭層に圧入すると吸着しているメ タンと置換し優先的に石炭層表面に吸着する。脱着し たメタンはクリートへと押し出され、生産井へと流れ 込む(図 1 3)。この手法では急激な生産量の増加と高い ピーク生産量は期待できないが、圧入された二酸化炭 素は優先的に石炭に吸着するため、ブレークスルーま でには時間がかかり、ピーク生産量を長期間維持する 出所:Alberta Research Council ことができる。ただし、二酸化炭素の吸着により石炭 N2-ECBMによる増進回収 図11 プロセス概念図 そのものが膨張し、クリート幅を狭めて浸透率を低下 させる現象がこれまでの研究から分かってきており、 その克服が大きな課題の一つである。 CH4 Production Rate 3 この手法では、CBM の増進回収と同時に二酸化炭素 Gas Breakthrough の石炭層中への固定も達成できるため、二酸化炭素地中 N2 Injection 2 貯留(CO2 Capture and Storage、略して「CCS」と言われ る)技術の一つとしても注目されている。本技術を実用 CO2 Injection 1 化するためには、増進回収メカニズムのさらなる解明と Primary 0 0 ともに、排ガス等からの二酸化炭素の効率的な回収技術 Time(years) 出所:Alberta Research Council ECBMによる増産効果 図12 (シミュレーションによる予測) 10 や輸送技術、地中に固定した二酸化炭素のモニタリング 技術など、多くの要素技術を開発、発展させる必要があ ろう。 ③ N2/CO2 ECBM 窒素と二酸化炭素それぞれの特性を生かして両者の 混合ガスを圧入ガスとして使う研究も行われている。 この手法では、純粋な窒素の圧入(N2 ECBM)に比べて 生産ガスに含まれる窒素割合が少なくなる上、純粋な 二酸化炭素の圧入(CO2 ECBM)よりも高いメタン生産 量を達成できるという特徴がある。両者の混合割合に 出所:Alberta Research Council CO2-ECBMによる増進回収 図13 プロセス概念図 29 石油・天然ガスレビュー よって CBM の生産挙動は異なってくるため、圧入ガス の入手条件(供給源からの距離、供給能力、コスト)や ガス処理施設能力に応じた混合割合の最適化が鍵とな るであろう。 アナリシス おわりに 本稿は、平成 1 9 年度に実施した技術動向調査「コール れる。また、オーストラリアにおいて複数の CBM-LNG ベッドメタンの埋蔵量評価手法および開発・生産技術に プロジェクトが発表されたことを受けて、CBM は LNG 関する調査」の結果を中心に取りまとめたものであり、 の原料としてもにわかに注目を集めており、単なるロー CBM の埋蔵量評価手法、開発関連技術を包括的、網羅 カル消費を中心とした資源から、グローバルな資源へと 的に紹介した。このため各要素の記述が概略的なものと 変貌を遂げようとしている。CBM はわが国にとっても なった点はご了承いただきたい。 重要なエネルギーとなる可能性を秘めていると言え、今 膨大な資源量と高いガス価を背景に、CBM の開発プ 後も CBM に関する世界の趨勢と、CBM 開発関連技術の ロジェクトは今後ますます増えていき、中国、インド等 動向に注視していくことが必要であろう。 すうせい の国においても近い将来商業生産が開始されると予想さ 【参考文献】 1. Sproule International Ltd.: Survey of Evaluation Methodologies and Development/Production Technologies of Coalbed Methane(平成 1 9 年度 JOGMEC 技術動向調査報告書) 2. 島田荘平: 加速する新資源コールベッドメタン開発 , 石油・天然ガスレビュー 2 0 0 5.9 Vol.3 9 No.5 3. 三宅裕隆 , レイニー・ケリー: 豪州における炭層ガス(CBM)LNG プロジェクトの概要 , 石油・天然ガスレビュー 2 0 0 8.3 Vol.4 2 No.2 4. Creties D. Jenkins, Charles M. Boyer II: Coalbed- and Shale-Gas Reservoirs, JPT Feb 2 0 0 8 5. John Anderson, Mike Simpson et al.: Producing Natural Gas From Coal, Oilfield Review(Autumn 2 0 0 3) 6. Gas Research Institute: A Guide To Determining Coalbed Gas Content, 1 9 9 5 執筆者紹介 松原 修(まつばら おさむ) 愛知県岡崎市出身。1999年、東京大学大学院工学系研究科(地球システム工学)修士課程修了。 同年、石油公団(当時)入団。2004年4月より現職。 趣味はテニス(ただし、学生時代から長く続けているわりに実力は…)。家族は妻。 9月下旬に遅めの夏休みを取り、南太平洋にあるバヌアツ共和国のとある島を訪れました。そこでは、電気・ガス・ 水道は通じておらず、調理には薪(まき)を使うなど昔ながらの生活が営まれていましたが、住民は隣近所と 支え合いながら生き生きと暮らしており、便利な生活と個人主義に慣れてしまったわれわれの忘れかけている ものを思い出させられました。 小西 祐作(こにし ゆうさく) 長野市出身。静岡大学大学院理工学研究科博士前期(修士)課程修了。2000年、石油公団(当時)入団。 地質調査部およびJOGMEC技術調査部において6年間海外地質構造調査事業に従事(カザフスタン/メキシコ/広 域地質評価等を担当)。2007年4月より現職。探鉱出資事業などの技術評価・プロジェクト管理業務を実施中。 専門は構造地質学。趣味はオーケストラでのコントラバス演奏。 2008.11 Vol.42 No.6 30