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みるみる Vol.1 2016 すべて読む - 医療関係者のための医薬品情報 第一

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みるみる Vol.1 2016 すべて読む - 医療関係者のための医薬品情報 第一
診る × 看る
Vol.1
2016
病棟再編で病院が変わった!
特集
〜地域包括ケア病棟の実力〜
2
6
10
14
動向編
地域包括ケア病棟を徹底分析 !!
地域包括ケア病棟開設にあたってのポイントと現状の課題
〜地域包括ケア病棟協会「地域包括ケア病棟の機能等に関する調査」
より〜
◎Case Study─1
準備編
病棟開設 にあたっての取り組み
◎Case Study─2
運営編
病棟運営 にあたっての取り組み
地域包括ケア病棟への転換で経営指標が好転。
成功のカギはスタッフの共通認識の醸成
退院調整や基準に関わるデータの「見える化」
を図り、
病床稼働率と職員のモチベーションが向上
◎誌上セミナー 病院経営のツボ
分析力を活かした病院経営のススメ
その3:アナリスト
動向編
地域包括ケア病棟を徹底分析 !!
地域包括ケア病棟開設のメリットとポイント
〜動き出した病棟再編〜
2014年の診療報酬改定で登場した「地域包括ケア病棟」。新設から1年半が経過し、徐々に導入の動きが広がっている。
地域包括ケア病棟とはどのようなものか、病棟開設のメリットとポイントについてまとめるとともに、2015年11月に地域
包括ケア病棟協会が実施した会員への調査結果を紹介する。
地域包括ケア病棟の役割
機能)である。さらに4つ目の機能として、在宅・生活復帰
支援機能がある。第一段階として院内多職種協働でリハビ
3つの受け入れ経路と4つの機能
リや摂食機能療法、口腔ケア、栄養指導、認知症ケア、減薬
地域包括ケア病棟は、2014年度診療報酬改定で、急性期
調整、服薬指導、退院支援・調整等を提供。第二段階として
と在宅の橋渡し役として新設された病棟だ。病院からの在
医療ソーシャルワーカー(MSW)やケアマネジャーが地域
宅復帰や、在宅患者の支援など、地域包括ケアシステムに
内多職種協働による在宅サービスの段取りをして、最高60
おける中核的な役割を担う機能を持つ病棟として登場し
日を目安に在宅・生活復帰を目指す。
た。現在、急性期病棟や亜急性期病棟などからの転換を中
心に、全国の病院で導入が進められている。
地域包括ケア病棟には、3つの受け入れ経路と4つの機
能がある
(図1)
。受け入れ経路・機能の1つは、自院他院を問
地域包括ケア病棟開設のメリット
急性期病棟の在院日数短縮、診療報酬上の利点も
わず、急性期後の治療や回復期のリハビリを要する患者
急性期の一般病棟の場合、地域包括ケア病棟に転換する
を、予定入院で受け入れるポストアキュートを担う機能。2
と診療報酬は下がる。それでも、急性期病院にとって、地域
つ目の受け入れ経路・機能は、軽~中等度の急性期患者を、
包括ケア病棟導入のメリットは少なくない。
緊急入院で受け入れるサブアキュート機能。3つ目の受け
その理由の一つは、この病棟の開設により、地域包括ケ
入れ経路・機能は、出来高算定が認められている慢性期の
アシステムの中での自院の役割を院内外に明確にできる
定期的な抗悪性腫瘍剤治療±緩和ケア等や、短期滞在手術
ことだ。ケーススタディ(P.6〜P.13)で紹介するように、地
等基本料3(4泊5日までの場合)
、糖尿病教育入院、医療必要
域包括ケア病棟導入で、職員に病院の方向性に関するコン
度の高いレスパイトケア等の患者を受け入れる機能(周辺
センサスを得ることもできる。
急性期病院(病棟)からの患者の受け入れについては、回
復期リハビリテーション病棟があるが、入院日数上限が
図1 地域包括ケア病棟の役割
180日であるのに対し、地域包括ケア病棟は60日であり、軽
度の脳卒中や肺炎、整形外科的疾患での手術などで急性期
を脱した患者の場合には、機能回復に加え、日常生活への
急性期
急性期・高度急性期
復帰支援が行える地域包括ケア病棟が向いている。
運用の仕方により、経営上のメリットも出る。例えば7:1
①急性期からの受け入れ
ポストアキュート
③その他の受け入れ
(抗癌剤治療、レスパイトケア、
糖尿病教育入院等)
看護の病棟の場合、施設基準の平均在院日数は18日以内。
100床の病院で9割に当たる90人の平均在院日数が15日で
あっても、残りの10人の在院日数が60日を超えると、全体
の平均在院日数は19日を超えてしまう。しかし、一部病棟
地域包括ケア病棟
④在宅・生活復帰支援
病棟の併用により、稼働率を上げることもできる。さらに、
②緊急時の受け入れ
自宅・在宅医療
2014年度厚生労働省資料(地域包括ケア病棟の役割)改編
2◎
みるみる
03
2016
着いた患者を転棟させれば、残りの病棟では7:1看護の施設
基準を満たすことが可能になる。一般病棟と地域包括ケア
サブアキュート
長期療養・
介護等 介護施設等
を地域包括ケア病棟に転換し、在院日数の長い症状の落ち
看護配置も地域包括ケア病棟は13:1であるため、人件費を
抑えられる可能性もある。
地域包括ケア病棟開設にあたってのポイントと現状の課題
また、在宅から急性期医療、リハビリ期までを継続的に
関われることで、患者との信頼関係も得やすい。地域の開
業医との連携でも大きな強みとなる。
一方、患者にとっても大きなメリットがある。それは、地
域包括ケア病棟はサブアキュート、緊急時の受け入れ機能
を持つため、在宅療養の不安を緩和できることだ。今後、地
域で多職種の連携を成功させるためにも、地域包括ケア病
棟はカギとなるだろう。
地域包括ケア病棟開設のポイント
医師、看護師など職員の理解が不可欠
表1 地域包括ケア病棟開設にあたってのポイント
●地域の入院需要を把握、分析する
●施設基準の要件を満たせるかを検討
●総合診療のマインドを持つ医師の確保
●在宅復帰支援担当者を中心に多職種で連携
●病院職員に病院の経営状況を説明し、病棟開設の利点
(意義)
を理解させる
である。地域包括ケア病棟では、様々な診療科の患者が混
在する。入院ルートも他の急性期病院、急性期病棟、在宅、
介護施設など様々である。高齢者特有の一様ではない病状
地域包括ケア病棟開設のポイントを表1に示す。まず地
に対応するためは、総合診療のマインドを持つ医師の確保
域の入院医療需要の把握と分析が必要だ。高齢者の通院・
が不可欠だ。
入院状況や生活状況などの情報を集めるとともに、地域の
また、在宅復帰に向けては、強力なイニシアチブと権限
各医療機関の役割を分析し、地域包括ケアシステムの中で
を持つ在宅復帰支援担当者の配置が望まれる。また、院内
の自院の役割を見直す。
外の多職種との連携をスムーズに進めるには、支援担当者
また、7:1看護などの急性期医療を実施している場合に
と病棟看護師、メディカルソーシャルワーカーなどが常に
は、平均在院日数や在宅復帰率などのデータから、今後も
意見交換できる場とシステムを構築する必要もある。
7:1看護の基準を満たすことができるかどうかを検討する。
急性期病院における地域包括ケア病棟の開設では、ス
さらに、地域包括ケア病棟開設の際には、専従の理学療法
タッフが「慢性期の病院になるのでは」との不安から、協力
士の配置やリハビリ設備、1病床当たり6.4㎡以上の病室な
を得にくい面もある。しかし、自院をめぐる地域医療の現
どが必要になる。そうした人員配置や施設基準の要件を満
状や、経営状況を客観的に示すデータを示し、病棟開設の
たせるかを考慮することも重要だ。
利点(意義)を理解させることこそ、地域の中で病院が生き
その上で大切なのが、総合診療的な機能をいかに得るか
残る第一歩となる。
地域包括ケア病棟の現状と課題
〜地域包括ケア病棟協会
「地域包括ケア病棟の機能等に関する調査」
より〜
図表は
「地域包括ケア病棟協会ホームページ」
より抜粋
調 査 対 象: 地域包括ケア病棟協会会員のうち、
も多くあった。また、併設する関連施設の有無を聞いたとこ
地域包括ケア病棟を持つ病院約220施設
調 査 日: 2015年11月6日
ろ、訪問系医療・介護事業所や居宅系介護施設などの関連
回 答 数: 75施設(100〜199床の病院が44病院と最多)
表2 一般病棟入院基本料
総 症 例 数: 14,493床(1病院当たりの平均病症数は193.2床)
本調査は全国的にみれば一部の施設を対象とした結果で
はあるが、リアルな現状を伝えていることから、地域包括ケア
病棟の医療の質と経営の質を高める上で参考になると思わ
れる。
地域包括ケア病棟導入病院の一般病棟の入院基本料を
施設を持つ病院が69施設中56件(81.2%)
で多数を占めた。
病院数
病床数
一般病棟入院基本料 7対1
21
4,085
一般病棟入院基本料 10 対1
36
2,419
一般病棟入院基本料 13 対1
5
235
一般病棟入院基本料 15 対1
2
44
病床数
地域包括ケア病棟入院料 1
46
2,078
地域包括ケア病棟入院料 2
2
80
単位で地域包括ケア病棟として届け出したものが圧倒的に
地域包括ケア入院医療管理料 1
25
548
多いが、200床未満の施設では一部の病床を転換したもの
地域包括ケア入院医療管理料 2
2
16
域包括ケア病棟入院料の算定状況は表3の通りである。病棟
57 施設
6,504 床
表3 地域包括ケア病棟入院料
病院数
表2に示す。7:1看護、10:1看護が約96%を占める。一方、地
合計
みるみる
03
2016 ◎
3
動向編
病病・病診・医介連携は、殆どの病院で実施。
院内連携では、統括組織やツールの整備が課題
さらに、NST活動を行う病院の84%(42施設)で嚥下機能の
評価を行っていた。評価の主な担当科は内科で、ほかに耳鼻
咽喉科・リハビリテーション科・歯科口腔外科・神経内科で
地域包括ケア病棟運営で不可欠な様々な連携についても
あった。また、NST対象患者に薬剤管理指導や薬剤調整を
調査している。その結果、病病連携や病診連携、医介
(在宅医
行っている病院は41施設(80.4%)あり、積極的な活動がうか
療・介護の多職種)連携は75病院中74病院で実施されてい
がわれた。
た。一方、行政や社会福祉協議会などの関連団体との連携を
一方、診療報酬や薬剤費が一定額に決められている地域
行っていたのは68病院
(90.7%)
であった。
包括ケア病棟では、
多数の薬剤を使用する患者の
「ポリファー
院内での連携は、一部門が統括しているのは36病院
マシー対策」も重要だ。対策の有無について尋ねた結果、72
(49.3%)
と半数に満たず(表4)
、統一のアセスメントツールを
施設中31施設(43.1%)が何らかの対策を行っていると回答
利用しているのは14病院(18.7%)に留まっていた(表5)
。ア
した。実際の介入内容を表8に示す。これらの介入を中心と
セスメントツールについては運用の予定がある施設も8病院
なって行っていた職種は薬剤師であった。
(10.6%)
と少なく、今後の課題として浮き彫りになった。
表4 組織形態
一部門で統括
n=73
病院数
表5 統一アセスメントツール n=75
病院数
36
(49.3%)
あり
14(18.7%)
なし
46(61.4%)
34
3
運用予定あり
8(10.6%)
わからない
7(9.3%)
複数部門で分担
将来的に統括
認知症患者に対する対応を強化。
5割弱で専門医、サポート医を配置
認知症患者への対応の状況では、74病院中17施設で認知
症専門外来を設置しており、33施設(44.5%)で専門医やサ
ポート医を配置していた(表6)
。また認知症ケアの実践や教
育、看護体制づくりなど、専門性を生かした活躍が期待され
ポリファーマシー対策で苦労するのは、他院からの入院患
者における処方変更の難しさだという。
これを解決するには、
地域レベルでの取り組みが求められる。
表7 NST介入基準
n=52
介入基準
回答数
Subjective Global Assessment: SGA 等を利用した
入院時スクリーニングから抽出
31
血清アルブミン値、血清総コレステロール値、
リンパ球数などの血液検査を利用して抽出
43
NST 依頼書の運用による抽出
30
症例検討からの抽出
20
その他
15
※ 複数回答あり
表8 介入内容(ポリファーマシー)
介入内容
n=30
回答数
疑われる全症例への介入
20
服薬コンプライアンスの不良
7
なお院内デイサービスを持つ施設は約15%だった。新オレ
施設内基準による
5
ンジプランへの対応を含め、地域包括ケア病棟では、認知症
薬剤の副作用が疑われる
5
患者に対するケアにもより一層の積極的な取り組みが求め
その他
3
ている認知症看護認定看護師は10施設で配置されていた。
られている。
サポート医
常勤
非常勤
6
7
1
※ 複数回答あり
表6 専門医、サポート医
(認知症)
専門医
常勤
非常勤
15
7
治療目標値の設定
n=74
いない
41(55.5%)
7割の病院がNST活動に取り組む。
実施病院の8割で嚥下評価や
薬剤管理指導を積極的に実施
疾患別・がん患者リハビリは概ね2単位。
「1単位20分」の関わり以外のリハビリは、
過半数の施設で実施
地域包括ケア病棟におけるリハビリテーションの実施状況
を表9に示す。疾患別リハビリ、がん患者リハビリはともに2単
位程度となっていた。
栄養サポートチーム
(NST)の活動の有無を聞いたところ、
地域包括ケア病棟50床当たりのリハビリ職員数は、常勤換
70.3%に当たる52病院で実施していた。地域包括ケア病棟
算で理学療法士4.7人、作業療法士2.4人、言語聴覚士1.2人
(49病院)では、対象患者1人当たりの1週間にラウンドする回
で、合計8.3人だった。充足度については、72施設中32施設
数は平均3.2回、介入件数は1病院当たり7.9人だった。
が不十分と回答し、27施設が増員を予定していた。
NST活動を行う病院における介入基準を表7に示す。介入
一方、疾患別・がん患者リハビリとして定義されている
「1
対象患者は、入院時のスクリーニング、血液検査値などから
単位20分」の関わり以外のリハビリの実施の有無について
の抽出が多かった。
は、43病院
(59.7%)
が実施していると回答。内容も、個別リハ、
4◎
みるみる
03
2016
地域包括ケア病棟開設にあたってのポイントと現状の課題
41人へのインタビューで見えてきたもの
集団リハ、他職種や介護者への指導など様々だった。また、
1/4がサブアキュートの受け入れであった(表11)
。これらの病
37の施設86%でADL/IADLの改善に結びつく20分未満の個
院は、開設主体がほとんど民間で、平均病床数は200床未満
別リハビリが行われており、50床当たり、平均2.4人の療法士
だった。
が6.1人の患者に関わり、内容も起居/立位動作練習や移乗
同時期の退院患者についても、67病院の792症例が調査さ
動作訓練、移動訓練、摂食・嚥下訓練など多様だった。
れた。平均在院日数は25.5日、平均年齢は76.8歳だった。退院
表9 地域包括ケア病棟におけるリハビリ実施状況
n=72
平均単位
先は図3の通りで、自宅が68.5%と最も多かった。居住系施設、
特別養護老人ホームと併せた在宅復帰率は79.6%だった。
種別
職種
実施病棟数
患者数
単位数
疾患別
リハビリ
PT
71
1,459.4
3,376.3
2.3
OT
60
675
1,308.1
1.9
ST
27
143
253
1.8
急性期の
病床
症例数
がん患者
リハビリ
PT
11
22
50
2.3
あり
1,019
7.3%
71.9%
13.4%
7.4%
OT
6
12
24
2.0
なし
163
26.4%
49.1%
12.3%
12.3%
ST
2
3
3
1.0
※11 月 6 日の 1 日分の調査のため、平均単位数が低いものもある
地域包括ケア病棟への入院元は院内が最多。
平均在院日数は25.5日、
在宅復帰率は79.6%に
表11 受け入れ機能(10:1以上の病床の場合)
サブ
アキュート
ポスト
周辺機能 周辺機能
アキュート (その他) (緊急時)
図3 退院先の状況
特別養護老人ホーム
4.4%
その他
20.4%
自宅
68.5%
居住系施設
6.7%
入院患者についての調査では、68病院で1,205症例の入院
n=791
があり、平均77.6歳、男性41.5%、女性58.5%だった。入院元
※2015年10月27日~11月5日の10日間の実績
は7:1看護の院内病棟が最も多かった
(図2)
。
また、受け入れ機能別の症例数を表10に示す。地域包括
ケア病棟に求められる緊急時の受け入れ、急性期病棟(病
院)からの受け入れがそれぞれ一定数行われているのがわ
かる。調査では、病院の病床数による違いがあるかをサブ解
析したが、病床数別の受け入れ機能に大きな差はなかった。
一般病棟10:1看護以上の病院における
「受け入れ状況」を
比較したところ、急性期病床を持つ病院では、7割以上がポス
トアキュートで、サブアキュートは1割にも満たない。一方で、
生活復帰支援の役割としての地域包括ケア病棟。
在宅支援のためには、PFMが重要
退院患者の日常的な生活支援の状況を、疾患の発症前と
比較したものが表12である。生活支援の要/不要に変化が
ないケースが4割強を占めた。これに対し、支援が必要から
不要になったケースも26例(3.4%)あり、ある程度生活復帰支
急性期病床を持たない病院では、半数がポストアキュートで
援の役割を果たしていることがうかがわれた。
図2 入院時主病名と入院元の状況
援が欠かせない。入院調整中の患者数は、50床当たり8.6人。
神経疾患
筋骨格系
疾患
25.1%
その他
25.0%
院外 7:1
外傷・熱傷・
中毒
15.6%
13.1%
13.3%
7.8%
呼吸器系
疾患
消化器系疾患
その他
10.8%
9.2%
自宅
26.6%
また、退院支援中の入院患者数は50床当たり25.4人と活発な
院内 7:1
27.7%
院内 10:1
25.6%
n=1,202
情報や課題を入院前から把握し、入院早期の支援介入のみ
ならず、退院後も地域と連携しながら切れ目のない支援を継
続的に行う仕組みのことだ。地域包括ケア病棟では、今後
※2015年10月27日~11月5日の10日間の実績
「PFMの導入が欠かせない」
と地域包括ケア病棟協会では強
緊急入院
受け入れ経路
緊急時の
受け入れ
不
要
退院後のスムーズな在宅復帰支援のためには、PFM
n=1,201
入院経路
要
入退院調整・支援が行われていた。
(Patient Flow Management)が重要である。これは、患者の
調している。
表10 受け入れ機能別症例数
今回の入院契機
となった疾患が
発症する前の日
常的な生活支援
の必要性
地域包括ケア病棟を有効活用するには、入院調整や退院支
n=1,182
予定入院
急性期からの
受け入れ
その他の
受け入れ
サブアキュート
(中核機能)
ポストアキュート 周辺機能
117(9.9%) (中核機能)
157
813(68.8%) (13.3%)
周辺機能
95(8.0%)
表12 退院患者における日常的な生活支援の変化
発症前
退院後
症例数(%)
n=769
平均年齢
不要
→
不要
321(41.7%)
68.8
不要
→
要
54( 7.0%)
79.6
要
→
要
368(47.9%)
83.2
要
→
不要
26( 3.4%)
83.0
769(100%)
―
合計
みるみる
03
2016 ◎
5
特集
病棟再編で病院が変わった!
〜地域包括ケア病棟の実力〜
◎Case Study ─1
金沢有松病院
病棟開設 にあたっての取り組み
地域包括ケア病棟への
転換で経営指標が好転。
成功のカギはスタッフの
共通認識の醸成
前川院長、主治医、看護師、リハビリスタッフ、ケアマネジャー、
事務スタッフによる地域包括ケア病棟でのカンファレンス
30余年、石川中央医療圏の急性期医療を担ってきた金沢有松病院であるが、急性期病床のみの運営で、病床稼働率は
7対1看護、DPCを維持するためには大変厳しいものだった。また、かねてより在宅や介護施設に繋ぐ中間的な役割を果たす
病床の必要性を感じていたことから、2014年9月に病床の一部を地域包括ケア病棟に転換した。病棟転換への移行期に
は、さまざまな課題があったが、部長会や院内の勉強会等を通してスタッフ間における共通認識を形成し、それら課題を
一つひとつ克服。結果、1年後には全ての経営指標が好転した。同病院の地域包括ケア病棟への転換に至る取り組みと現状
を紹介する。
病床過剰地域で30年以上急性期医療を担う。
地域の患者ニーズに即した医療サービスを提供
リハビリテーションセンターなどを開設し、地域の患者
金沢有松病院は、人口72万人の石川中央医療圏にある。
吉田千尋氏は「医師に対しては、当院が急性期病院である
医療圏の中には、金沢大学附属病院、金沢医科大学病院と
ことを認識してもらうため、必要に応じて高機能64列マル
いう2つの大学病院をはじめ、7つの公的病院があり、病床
チスライスX線CTや血管撮影装置、体外衝撃波結石破砕装
数は9,612床にもなる病床過剰地域である。医療計画では約
置、3テスラのMRI等を導入し、仕事へのモチベーションを
ニーズに即した医療サービスを提供している。理事長の
2,500床が過剰とされている。一方、介護施設数は全国平均
と同程度であるものの、核家族化が進み、共働き家庭も増
加しており、在宅介護を担える家庭が少なくなっている。
そのため、介護施設への入所希望者が増加している。
その中にあって金沢有松病院は、1983年の開設以来、急
性期医療を担ってきた。108床の病院として開設後、1988
年に140床に増床。開設間もない頃からX線CTを導入するな
ど、常に最新の医療機器を揃えることで急性期医療を行う
環境を整えてきた。また、透析センターや内視鏡センター、
地域包括ケア病棟への取り組み
●在宅や介護施設に繋ぐ中間的な役割を果たす病床として、
140床のうち50床を地域包括ケア病棟へ転換。
●病棟転換に際しては、部長会で各部署の意見を調整。
●定期的に学習会を実施し、看護師、介護職員の共通認識の
醸成、レベルアップを図る。
●地域包括ケア病棟では、看護師長が中心となって退院調整
を行う。
●毎月、看護部長と事務長が看護師および看護補助者と面談
◎施設DATA
医療法人社団 中央会
金沢有松病院
6◎
し、職場環境の改善を図る。
病棟転換後の効果
石川県金沢市有松5-1-7
病床稼働率は78%へと8%アップ。平均在院日数も15〜16日
開 設/1983年6月
病床数/140床
(一般病床
(7:1入院基本料)90床、
地域包括ケア病棟50床)
となり、転換前より12%短縮された。それに伴い、経常利益
みるみる
03
2016
も2.5%増加した。
そんな折り、2014年の診療報酬改定で登場したのが地域
包括ケア病棟だった。地域包括ケア病棟は、リハビリテー
ションを強化し、ADL(日常生活動作)を高めて退院準備を
する中間的役割を持つため、在宅復帰への橋渡しができる。
また、急性期を過ぎた患者の経過も診る事ができることか
ら、同院では診療報酬改定後すぐに準備を始め、2014年9月
急性期病床の一部を地域包括ケア病棟へ転換した。
その成果は徐々に現れ、1年後の2015年10月には、病床
理事長
吉田千尋氏
稼働率は78%へと8%アップ。また、平均在院日数も15〜16
看護部長
島谷初枝氏
日となり、転換前より12%短縮された。それに伴い、経常利
益も2.5%増加した。
上げてもらう努力をしてきました」と話す。その甲斐あっ
て、現在も鏡視下手術や冠動脈インターベンション、人工
病棟転換にあたり、今後の医療の動向などを説明。
部長会で意見を調整することからスタート
骨頭置換術などの手術も多く行っている。
急性期医療の体制を整える傍ら同院では、患者の退院後
の医療・介護サービスへのニーズも考慮した取り組みを続
実際の病棟転換に際しては、吉田氏が2014年4月の診
けてきた。1997年からはデイケアセンター、居宅介護支援
療報酬改定後すぐに部長会(幹部会議)で、病院の現状、地
事業所、訪問看護ステーションなどを随時設置。また、2009
域のニーズ、今後の医療動向などを説明し、一部病棟を地
年にはグループの社会福祉法人で、ショートステイやデイ
域包括ケア病棟へ転換することを表明した。看護部長
サービス、小規模多機能型居宅介護支援事業を併設した特
の島谷初枝氏は、
「病院の経営が厳しい状況にあることは
別養護老人ホーム、そして2014年にはグループホームも開
感じており、このまま全床急性期病床でやっていくのは難し
設した
(図)
。
いだろうと思っていました。ですから一部の病床を地域包括
ケア病床に転換するのは、急性期病床を生かすためであるこ
病床稼働率が低下。
急性期病床の一部を地域包括ケア病棟へ
とは、直ぐに理解できました」
と当時の感想を話す。
部長会では、まず各部署の意見を調整し、どの程度の病
このように、急性期を脱した患者のケアにも目を向けつ
床数を転換するのが良いか、どの病棟を転換するのかなど
つ、急性期医療をいかに提供するかを模索してきた同院だ
を決めたという。また、並行して病棟管理委員会を立ち上
が、経営面での苦労があったことも事実である。
げ定期的に委員会を開催。病棟開設への意志の共有を図っ
吉田氏は「急性期病床だけでは、病床稼働率は70%程度
た。医師に対しては、同院での医療に対するモチベーショ
になっていました。また、高齢の患者さんの場合、クリニ
ンが維持できるように、急性期医療の対応はこれまでと変
カルパス通りに治療が進まないケースが多く平均在院日
わらないことを折に触れ話した。
数は17〜18日になっており、7:1
図 金沢有松病院のグループ関連図
入院基本料の施設基準ギリギリ
の状況でした」と当時を振り返
る。
また吉田氏は「退院後在宅で
の療養が難しい患者さんであっ
ても、すぐには介護施設に入所
できない方も多く、その間を繋
ぐ中間的な役割を果たす病床が
必要であると、かねてより考え
ていました」
とも語る。
実は石川県では老健施設の開
設要望が殺到しており、同院で
も開設を考慮したことがあっ
た。しかし当時は、老健施設を開
設するには急性期病床を半分に
減らせ等のしばりがあり、現実
連携介護施設
・住宅型有料老人ホーム
悠悠泉本町
・住宅型有料老人ホーム
清泉の宿あんず館
など
社会福祉法人 中央会
特別養護老人ホーム
ゆうけあ相河
●特別養護老人ホーム
●ショートステイ
●デイサービス
●小規模多機能型
居宅介護事業所
●グループホーム
病診連携/病病連携
・診療所、クリニックなど
・金沢大学附属病院など
医療法人社団 中央会
金沢有松病院
・外来
・入院
・検診、ドック
・透析センター
・内視鏡センター
・リハビリテーションセンター
・デイケアセンター
など
在宅医療
●訪問診察
●訪問看護ステーションありまつ
介護事業
●居宅介護支援事業所ありまつ
●金沢市地域福祉支援センターありまつ
●介護ショップありまつ
的な選択とはならなかった。
みるみる
03
2016 ◎
7
地域包括ケア病棟では急性期医療の知識に加え、
在宅ケアを支える介護などの知識も不可欠
こうした課題を払拭し、看護師、看護補助者が有機的に
看護師に対しては、朝礼や病棟会で看護師長から病院
にした勉強会に加え、看護師と看護補助者の両方が参加す
の方針について説明するとともに、地域包括ケア病棟を
る勉強会と、看護補助者がスキルアップするための勉強会
連携しレベルアップを図るため、前述の看護師のみを対象
運用していくに当たっての実務的な課題の調整に乗り出
も開催することにした(表1)
。いずれも、現在に至るまで
した。同院では、それまで病棟は外科系と内科系に分か
各々月1〜2回開催されている。
れていた。地域包括ケア病棟では、それが混合されるた
看護師と看護補助者の両者が対象の勉強会では、
「事故
め、内科系と外科系両方の知識とスキルが必要になる。
発生時の対応」や「心肺蘇生」
、
「褥瘡予防」といった実務的
一方で、急性期病棟よりは緊急の対応が少なくなること
な内容に加え、
「倫理
(エンドオブライフケア)
」
、
「人権を保
が予想された。
護するケアとは」などの医療者としての基本についての内
まず行ったのが、看護師の人員配置の検討であった。各
容なども盛り込み、医療やケアに対する共通の認識を持て
看護師に勤務したい病棟の希望を募り、同時に看護師長
るように工夫している。また、看護補助者のための勉強会
は、看護師の年齢や性格、適正を考慮した上で、最良と思わ
では、
「感染予防」や「オムツのあて方、選び方」など、より
れる人員配置案を策定した。124人の看護師の中で、本人の
実践的な内容をくり返し学べるようにしてあり、無理なく
希望と看護師長の人員配置案が異なっていたのは4〜5人
スキルアップすることを目指している。
であり、その多くが急性期病棟での勤務を希望していた。
島谷氏は
「患者さんの状態に応じて適切な介護をするには、
看護師が地域包括ケア病棟への異動に二の足を踏んだ
病名やADLなど、基本的な情報を看護師と看護補助者が共有
のには、大きく二つの理由があった。一つは、地域包括ケ
することが重要です。勉強会の実施により、両者が医療やケ
ア病棟ではどういった医療、看護が必要とされるのかがわ
アに対する共通認識が醸成され、1年後には情報共有と連携
からないということ。地域包括ケア病棟が在宅復帰に向け
がうまくいくようになりました」
と勉強会の効果を語る。
ての中間的な位置づけではあるが、急性期を脱したばかり
で重症度の高い人も多い。そのため急性期病棟と同様の医
療に関する知識に加え、スキンケアや認知症高齢者の看
退院調整は看護師長が判断。
定期的な面談で職場環境を改善
護、在宅ケアを支える介護などの知識も不可欠になってく
病棟転換当初は、医師の中には急性期病棟時代の名残で
るからであった。現場での不安に応えるため、2014年6月
クリニカルパスに合わせて退院調整を行ってしまうケー
から、看護師向けに地域包括ケア病棟で必要な医療、看護
スがあり、患者さんの自宅や介護施設の受け入れ準備が不
に関する勉強会が開始された。
十分であるにも関わらず、退院させてしまい、本来の地域
勉強会の具体的な内容は、
「呼吸療法」
、
「胸部画像の見
包括ケア病棟として機能が発揮されないことも少なくな
方」
、
「胃瘻管理」
、
「認知症の早期診断
(スクリーニング)
、早
かった。そのため、急性期病棟では従来通り医師がクリニ
期治療」などの臨床的なテーマが多く取り上げられている
カルパスに応じて退院や病棟移動を判断する一方で、地域
(表1)
。急性期病棟では「救急蘇生」
、
「レスピレーター管
包括ケア病棟では、看護師長が中心となって退院調整を行
理」などの緊急時医療に関する勉強会を実施している
うこととした。1年間試行錯誤してきたが、最近やっとス
(表2)
。地域包括ケア病棟には、急性期を脱したばかりで
ムーズに回るようになってきた。
重症度の高い人も多い。また、看護師は一度地域包括ケア
毎月、看護部長と事務長が、看護師や看護補助者との面
病棟勤務になっても、急性期病棟へ異動することもある。
談を行っている。業務上の課題や改善すべき点について話
その際に戸惑わないようにするため、同院の看護師は両方
し合うことで、職場環境の改善が図られ、ケアの向上にも結
の勉強会に参加している。
びついている。例えば、看護補助者からは、
「より効率的にケ
アをするために、清拭用のタオルを自前で洗濯するのでな
勉強会を通じて、
看護師と看護補助者との共通認識を醸成
し合った末、環境づくりの一貫として取り入れたという。
地域包括ケア病棟への移行期の解決すべきもう一つの
同院は、日本医療機能評価機構の認定も受けているが、
課題は、看護師と看護補助者との仕事の分担であった。実
その認定更新で2015年6月に職員満足度調査を行ったと
際に看護師と看護補助者が一緒に仕事をしてみると、本来
ころ、満足度において高い評価を得ている。島谷氏は
「地域
は看護補助者に任せるべき仕事まで看護師が行っている
包括ケア病棟を立ち上げてからは病床稼働率も上がり、ス
ケースがあった。一方で看護補助者からは、重症度の高い
タッフの仕事量も増えてきたと思います。しかし、こうし
患者の体位交換やオムツ交換、車いすへの移乗などでは、
た評価が得られたのは、スタッフの意見を聞き取り、それ
どこまで関わって良いのか、どう動かして良いのかわから
に対してきめ細やかに対応してきた結果だと思います」と
ないといった声も上がっていた。
分析する。
8◎
みるみる
03
2016
く、レンタルにしてほしい」との意見があり、幹部職員で話
表1 地域包括ケア病棟での勉強会の内容
開催時期
看護師対象
看護師及び看護補助者対象
看護補助者対象
移行期間
2014年6月
地域包括ケアシステムについて、
看護過程記録
倫理(エンドオブライフケア)
感染予防(手洗い演習)、環境整備、移動
のお世話
7月
看取りの看護エンゼルケア、
チーム医療における看護師の役割
認知症のケア
洗面のお世話、清潔のお世話
8月
看護必要度研修、胃瘻管理、退院支援に
おける看護師の役割
医療安全(事故発生時の対応)
食事のお世話、排泄のお世話
9月
呼吸療法(スクウィージング演習)、
経管栄養から経口摂取へ
事例検討「透析を導入した独居認知症高
齢者の在宅支援」
体位変換・良肢位について
10月
糖尿病合併症のケア、
認知症高齢者の理解と看護
感染予防(ノロウイルス対策)
感染予防
11月
ストマ管理、在宅ケアを支える看護
12月
看護必要度研修、
スキンケア
褥瘡予防
オムツの当て方、選び方
認知症の早期診断(スクリーニング)、
早期治療
高齢者虐待の実態とケア
高齢者の理解
2月
胸部画像のみかた、
呼吸療法(誤嚥性肺炎)
事例検討「入退院を繰り返している高齢
者の在宅支援(服薬管理を中心に)」
実技チェックリストの点検と演習
3月
チーム医療と信念対決、
尊厳ある退院・在宅支援に向けて
人権を保護するケアとは
実技チェックリストの点検と演習
4月
呼吸系のフィジカルアセスメント、
在宅支援(病棟看護師の役割)
心肺蘇生(AEDを含む)、接遇
清潔・食事・排泄のお世話
5月
インシデント分析、安全対策(転倒予防)
せん妄の理解とその対応
環境整備・移動のお世話、転倒予防
6月
看護記録、
グループマネジメント
事例検討「グループホーム入所中患者の
退院支援(施設との連携)」
感染予防(手洗い演習)
7月
長寿社会を支える看護、急変対応
褥瘡予防、事故分析とRCA展開
体位変換・ポジショニング
8月
看護必要度研修、胃瘻・腸瘻管理
事例検討「NST介入事例」、医療倫理
食事介助・食の支援
9月
感染防止対策、口腔ケア
オムツ交換時の感染対策
オムツの当て方、選び方
10月
経管栄養について、
ストマ管理
感染予防(インフルエンザ対策)
安全対策・転倒予防
11月
認知症患者の理解と看護、
ターミナルケア
2015年1月
院内研究発表
「食べたいという思いを支える看護」
地域包括ケア病棟
院内研究発表
「退院支援における看護師の意識調査」
地域包括ケア病棟の開設により
目指していた医療が実現
現在、同院の在宅復帰率は90%を超えているという。こ
との連携、他の介護施設との連携がうまくいっているため
である。実は、金沢有松病院では20年前から積極的に訪問
認知症の理解
表2 急性期病棟での勉強会の内容
開催時期
移行期間
れは地域包括ケア病棟の活用はもちろんのこと、関連施設
認知症ケアと食の支援
診療を実践してきた。2015年4月から10月までの月平均の
学習内容
2014年9月
KYTトレーニング
10月
地域包括ケア病棟とは、病院方針
11月
必要度研修、緊急カテーテル勉強会
12月
褥瘡
訪問患者数は76人にも上る。また、最近では高齢者施設な
2015年4月
どへの訪問も増えてきている。高齢者施設の増加ととも
5月
褥瘡、接遇、心電図について、褥瘡・
ポジショニング、上腸間膜動脈解離の看護
6月
レスピレーター管理について、レスピレーター
装着時の看護、感染、人工肛門について
7月
事故防止、看護必要度、術後管理、
レスピレーター管理、化学療法について
8月
倫理及び拘束について、PEG、チームリーダー・
サブリーダー、接遇、術後深部静脈血栓症・肺血
栓塞栓症について、看護必要度
9月
化学療法について、ASVについて、
術後深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症について
に、施設が医療必要度の高い人も入所させる傾向にあり、
る急性期病院との連携を模索しているからである。
吉田氏は、45年前に医師になった時に、先輩から「外科
医はメスを入れた患者さんは最期まで面倒をみるものだ」
と教わったという。病床の一部を地域包括ケア病棟へ転換
したことで、経営指標が好転しただけでなく、病院から介
護施設、在宅までを同じ医師による診察が可能になった。
図らずも先輩の教えに沿った理想の医療提供が叶うこと
となったのである。
急性期病棟 こうした施設では、いざというときに迅速に対応してくれ
救急蘇生、接遇、事例検討
10月
心臓カテーテル、救急OP準備、
インフルエンザ、感染
11月
人工肛門、疼痛コントロール、認知症について
みるみる
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2016 ◎
9
特集
病棟再編で病院が変わった!
〜地域包括ケア病棟の実力〜
◎Case Study ─2
横浜中央病院
退院患者割合70%キープ!
病棟運営 にあたっての取り組み
退院調整や基準に関わる
データの「見える化」を図り、
病床稼働率と職員の
モチベーションが向上
2014年に地域医療機能推進機構(JCHO)の傘下病院として生まれ
変わった横浜中央病院は、同年7月から地域包括ケア病棟の運用を
開始した。同病棟の運営においては、退院調整に関わる指導料や、
基準達成のための各種データをパソコン上で共有し、全職員に
「見える化」を図り、スムーズな在宅復帰を進めている。
「見える化」は、
職員全員に“経営”に積極的に関わる意識を芽生えさせ、モチベー
ションの向上にもつながっている。
7:1
病棟
・地
域
包括
ケア
病棟
デー
タ
横浜中央病院では、各種情報を全職員が
閲覧できるようにパソコン上で共有している
上)退院患者割合70%キープ!
下)7:1病棟・地域包括ケア病棟データ
後方支援病院としての体制強化のため
地域包括ケア病棟を開設
り組みをより鮮明に打ち出すため、2014年の診療報酬改
横浜中央病院は、近隣地域に横浜中華街や元町を配する
とを決めたのです。また、一般病棟のみでは病床稼働率が
横浜市中区の病院である。繁華街に位置する都市型病院の
落ちていたことも、病棟転換を後押しした要因です」と説
特徴として、患者の半数以上は30分〜1時間程度かけ同地
明した。既に体制が十分整っていたことから、スムーズな
域に通勤するサラリーマンであるが、一方、近くに住む独
移行が図れたという。尚、地域包括ケア病棟開設にあたって
居や老老介護の高齢者も多く通院している。
は、リハビリテーション室や車イス対応トイレの設置等に、
このような背景の中、同院は全床を一般病床(7:1と
約400万円を設備投資として計上している。
定で導入された地域包括ケア病棟にすぐに手を挙げるこ
HCU)で運用してきたが、2014年4月から3カ月の移行期間
を経て、7月より50床を地域包括ケア病床に転換した。同
時に、306床あった許可病床を56床減床し、194床を一般病
床(7:1)
、6床をHCUにした。院長の藤田宜是氏は地域包括
包括ケア病棟の取り組み
●2014年7月に許可病床数を306床から250床に減床し、うち
50床を地域包括ケア病棟に転換した。
ケア病棟転換の経緯について、
「当院は、近隣の開業医の先
●地域包括ケア病棟への受け入れ基準を策定。
生方の後方支援病院であり、横浜市中区の開業医のほぼ全
●個々の患者データを院内で共有し、情報の「見える化」を実
員である180名の先生方と連携し、患者さんの急変時の受
け皿として体制を整えてきました。これまでのそうした取
施。退院調整や各種基準達成に役立てる。
●患者毎の、地域包括ケア病棟と一般病棟での累積点数を
シミュレーション。病棟選択の判断データの一つとする。
●地域包括ケア病棟で蓄積された患者データを、転棟時の
◎施設DATA
独立行政法人 地域医療機能推進機構(JCHO)
横浜中央病院
横浜市中区山下町268
開 設/1948年3月、社会保険横浜中央病院として開設
2014年4月、JCHOグループ病院となる
病床数/250床
(一般病床
(7:1入院基本料)194床、
地域包括ケア病床50床、HCU6床)
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03
2016
インフォームドコンセントに活用。
病棟転換後の効果
●地域包括ケア病棟への転換後、一般病床(7:1)の稼働率は
70%台から90%近くにまで上昇。平均在院日数も15〜16日
だったものが12〜13日へと短縮した。
図1 地域包括ケア病棟入院受け入れまでの流れ
外来受診
・自宅
・紹介
救急受診
・自宅
・紹介
主治医・担当病棟医(地域包括ケア病棟担
当医)
・外来師長・在宅復帰支援担当者で
地域包括ケア病棟入院の適応か検討
院長
藤田宜是 氏
看護師長
地域ケアサービスセンター
療養支援科 退院調整看護師長
矢郷敦子氏
入退院支援と調整を行う
地域包括ケアセンターを設置
必ず
医事課
添付
◎DPC情報
・病名
・平均在院日数
・期別基本入院料
入院時
カルテ
一般病棟入院
合同カンファレンス(毎週)
主治医・病棟師長・在宅復帰支援担当者・
MSW・リハビリ・病棟看護師で検討
医事課と
「DPC情報」を基に地域包括へ
の受け入れを検討する。
▶担当医が患者・家族に説明
『計画書』
を発行(入室7日以内)
説明
退院前カンファレンス
同院ではこれまでも厚生労働省が進める地域包括ケア
地域包括ケア病棟
システムの中での役割を模索しながら様々な取り組みを
行ってきた。
退院前カンファレンス
2010年には地域の医師、行政、医療ソーシャルワーカー
(MSW)
、ケアマネジャー、訪問看護師と積極的な交流を持
退院
ち、2011年には地域包括ケア病棟の前身ともいうべき「亜
急性期病床」28床を設置した。また、2012年からは2週間に
1回、退院困難な患者に対する病棟ラウンドを、院長、看護
患者の場合には、主治医や担当病棟医、外来師長、在宅復帰
部長、退院調整看護師長、MSWなどで実施し、2013年には
支援担当者が地域包括ケア病棟入院の適応かどうかを検討
入退院支援と調整を行う地域ケアサービスセンターが設
する(図1)
。その際の判断の元になるのが以下の基準だ。
置された。
「センターが出来たことで、退院患者のフォロー
①急性期を終え、病態が安定した人、②在宅療養の患者で、
や、在宅患者の救急受け入れもスムーズに行えるようにな
軽度の治療等で短期入院が必要になった人、③介護施設で
り、在宅復帰を推進する上でセンターは大きな役割を担っ
受け入れ困難な医療依存度の高いレスパイト的入院の人、
ています」と地域ケアサービスセンター療養支援科 退院調
の3つである。
整看護師長 矢郷敦子氏は語る。
院内の一般病棟からの転棟の場合には、この基準を踏ま
地域ケアサービスセンターの設置と同時に、
「救急科」と
え、主治医、病棟師長、在宅復帰支援担当者、MSW、理学療
「総合診療科」も開設した。救急科では、原則として全ての
法士などの多職種で行う合同カンファレンスで検討する。
救急患者や紹介患者を診察し、入院が必要な場合には受け
事務部長の村越悟氏は
「その際は、医事課がDPCでの入院期
入れた。後方支援の役割を明確にするのが目的だ。
間がⅡ〜Ⅲになっている患者さんを抽出し、出来高を考慮
また、総合診療科に「総合診療病床」を設置し、いくつか
しながら、一般病棟(7:1)と地域包括ケア病棟のどちら
の疾病を合併しているため受け入れ科がなかなか決まら
が適切かを分析し、病棟に情報提供しています。特に、リハ
ない高齢者やレスパイト的入院患者を受け入れることに
ビリ単位が少ない患者さんや、手術・検査などの予定があ
した。こうした取り組みを続ける中で、2014年に開設され
る患者さんには留意しています」
と説明する。
たのが地域包括ケア病棟である。
地域包括ケア病棟への
「受け入れ基準」
を策定。
転棟については、合同カンファレンスで検討
情報を
「見える化」
。
職員のモチべーションが向上
一般病棟(7:1)
、HCU、地域包括ケア病棟ではそれぞれ
地域包括ケア病棟には
「在宅復帰率70%以上」
という基準
基準が異なるために、院内転棟の場合、どの患者を地域包
がある。このため、いかに患者が円滑に在宅に戻れるか、戻
括ケア病棟に移すのが適切かを判断するのは難しい。そこ
れそうな患者をどう見極めて行くかが経営上のカギとな
で、同院で導入したのが
「見える化」
の手法だ。これは、各部
る。また、一般病棟(7:1)と地域包括ケア病棟で算定できる
署から上がってくる様々な患者データを院内のネット
点数を比較し、患者の振り分け方を見極めることも必要だ。
ワークシステムの「病院共有フォルダ」に入力してもらい、
そのため、同院では様々な取り組みを行っている。
それを集計管理するというものだ。単に入力するだけでな
最初に作成したのが、地域包括ケア病棟への「受け入れ基
く、職員全員がそれらの数値をいつでも確認できることで
準」である。外来受診や救急受診など、院外から受け入れる
患者の状態を把握できることに意義がある。
みるみる
03
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11
「見える化」
するデータは次の通りだ
(表)
。
各病棟では
「新
規入院数」
や
「退院数」
を、MSWは
「退院場所」
を、リハビリ部
門は「リハビリ実施数」を、医事課は「DPC点数」などを入力
する。退院調整看護師長が全体を確認するとともに、看護
部長は集計結果と重症度、医療・看護必要度、在院日数を
チェックした上で、基準と照合し地域包括ケア病棟の患者
の現状(図2)と、地域包括ケア病棟への転棟候補者リスト
(図3)を作成。毎月の病棟別の実績はグラフ化され、看護部
会で発表される。
看護部長
認定看護管理者
澤邉綾子 氏
「自分たちの仕事の“成果”が数値で出てくるので、看護師
のモチベーションアップにつながっています。年間目標を
立てる際のベースにもなっており、職員全員が経営的な視
事務部長
村越 悟氏
す」
と看護部長の澤邉綾子氏は分析する。
累積点数のシミュレーションを基に病棟を選択。
集積データをインフォームドコンセントに活用
日々変わる平均在院日数や在宅復帰率などをデイリー
さらに、同院では地域包括ケア病棟に入院・転棟した
で把握し、情報共有できるので、全職員が常に基準達成を
患者の診療行為情報を基に、地域包括ケア病棟で算定した
意識するようになったという。
点数とDPCとして算定した場合の累積点数のシミュレー
点を持つ上でも役に立っているのではないかと感じていま
ションを行い、患者の病棟選択の情報として活用している。
表「見える化」
している主なデータ
2014年7月の実績では、地域包括ケア病棟の算定点数よ
◦退院調整に関わる指導料、加算実績
りもDPC点数の方が約2万6,248点高かった。このデータを
▶退院調整加算
▶介護支援連携指導料
▶退院時共同指導料
▶退院前訪問指導料
解析すると、特に外科のDPC点数が高いことがわかった。
入院期間(フェーズ)別に見ると、当然のことながら入院日
数が長くなると地域包括ケア病棟の点数の方が高かった。
また、出来高になっている患者については、全て地域包括
◦基準達成のためのデータ
▶7:1病棟の
「自宅等退院患者割合」
▶7:1病棟の各患者のDPC点数
▶重症度、
医療・看護必要度
(7:1病棟、
HCU、地域包括ケア病棟)
▶平均在院日数
▶地域包括ケア病棟の在宅復帰率
▶リハビリ平均単位
ケア病棟の対象になると考えられた。課題となったのは、
一般病床が満床の場合に地域包括ケア病棟へ、どの患者を
転棟させるかであった。点数がプラスになる患者と、マイ
ナスになる患者がほぼ半々で、患者の選定によって、結果
が大きく変わるからだ。また、地域包括ケア病棟の運用を始
めたばかりの頃は、安定していると判断して転棟してもらっ
図2 地域包括ケア病棟の各患者の現状
た患者が急変したり、在宅復帰に向けて転
地域包括ケア病棟
2015/9/3
包括
包括
入室 退出 リハ 方向 担当 期限
棟を決めた家族の気持ちに迷いが出て転棟
入室 退出 リハ 方向 担当 期限
を中止するケースなど、病床コントロール
7/23
なし
▲▲ 9/20
501 ●●●●様 8/12 9/3 なし 特養 ▲▲ 10/10 518 ●●●●様 6/30
3
▲▲ 8/28
の難しさに直面したこともあったという。
501 ●●●●様 6/25
501 ●●●●様 7/27
なし 在宅 ▲▲ 8/23 518 ●●●●様
▲▲ 9/24 518 ●●●●様
8/25
501
518 ●●●●様
8/19
502
520
なし
在宅
なし
▲▲ 10/17
図3 地域包括ケア病棟転棟候補者のリスト
リハ
備考
方向性
●●●●様 ♂
第3 ~8/28
(2405点)
4 承諾書スミ
病院方向
第2 7/22~8/18(2114点)
第3 8/19~10/31(1797点)
4 承諾書スミ
在宅方向
●●●●様 ♀
矢郷氏は当時を振り返る。一方、澤邉氏は、
の変化がある程度見え、患者さんへの説明
●●●●様 ♂
●●●●様 ♂
に見極めがつくようになってきました」と
「データが蓄積してくると、患者さんの状態
地域包括ケア病棟 候補者
DPC
もりでも思うように進まないことも経験し
ましたが、そうしたことの積み重ねで徐々
入室日、リハビリの状況、退院後の方向性、地域包括ケア病棟の期限などが一覧になっており、
その患者にどう関わればよいかがわかりやすい。
2B 候補者
「指標を見ながら基準通りに対応したつ
なし 承諾書スミ 個室希望
2 9/8ICしてENT目標決めて
担当
▲▲
包括ケア病棟で自宅退院した方の日常生活
動作の評価指標の一つであるバーセルイン
施設方向
在宅方向
もしやすくなってきました。例えば、地域
▲▲
デックスの改善度合いが一番良くなるの
は、“転棟から30日程度であった”というこ
一般病棟の入院患者のうち、地域包括ケア病棟へ転棟が考えられる患者の候補を各病棟で抽出。
DPC点数やリハビリの状況、退院後の方向性をまとめている。また、院外からの候補者についても
同様にわかるようになっている。
12 ◎
みるみる
03
2016
とがわかってきました。一般病棟から地域
包括ケア病棟への転棟を促す患者さんに、
地域包括ケア病棟の開設により
病床稼働率がアップし、在院日数は短縮
図4 病床種類別稼働率の推移
(%)
110
99.5%
100
88.6%
90
86.7%
80
77.87%
70
50
40
は一般病棟(7:1)が70%台だったものが、転換後には90%近
くまで上昇した
(図4)
。
また、病棟種類別平均在院日数の推移
(図5)
を見ると、地
域包括ケア病棟運用前の一般病棟(7:1)の平均在院日数は
一般病床
HCU
地域包括
全体
60
病棟転換前後の病床種類別の稼働率をみると、転換前に
14〜15日で推移していたが、こちらも運用後は12〜13日に
短縮。経営指標は大きく好転した。そして、地域包括ケア病
棟への入棟目的、患者の診療科、地域包括ケア病棟に入る
30
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3(月)
2013年
2014年
2015年
前にいた場所、退院後の行き先についてまとめたのが図6
地域包括ケア病棟の運用後、一般病床
(7:1)の病床稼働率は70%台が
90%近くにまで上昇した。
横浜中央病院の地域包括ケア病棟の運用は順調に進んで
いるといえる。一般病棟との併設により、緊急時の対応も可
図5 病棟種類別平均在院日数の推移
能であり、患者にとってもベストな環境が整った。また、職
(日)
35
員にとっては、
「見える化」によって経営参画への意識が向
7対1
HCU
地域包括
全体
30
25
20
上、仕事に対するモチベーションも更にアップした。一方
24.21
18.0
15
で、地域医療に対して、大いなる貢献をしているといえる。
「今後地域医療におけるニーズに変化が起こり、この病
棟の必要性が高まれば、さらに同程度の病棟を増やす可能
性もある。地域の求める医療に応えることができるよう
12.5
10
5
0
であるが、在宅復帰率は70%以上である。
3.8
地域に向き合い、しっかり判断していきたい」と藤田氏は
将来を展望する。
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3(月)
2013年
2014年
2015年
地域包括ケア病棟の運用後、一般病床
(7:1)の平均在院日数は14〜15日
から、12〜13日へと短縮した。
こうしたデータを医師が説明することで、転棟に対する理解
が得られるようになりました」
とデータ集積の有効性を話す。
図6 地域包括ケア病棟の稼働の実績
(2014年7月〜2015年9月)
〈入棟目的〉
終末期 3%
レスパイト的
12%
治療
訪問看護ステーション設置で外来、病棟、在宅の
スムーズな医療提供が可能に
横浜中央病院では、2015年に訪問看護ステーションを設
立した。これまでは近隣の訪問看護ステーションとの連携
在宅調整
転院調整
50%
31%
〈診療科内訳〉
皮膚科 2%
泌尿器科 2%
外科 7%
〈入棟前場所〉
テーション開設に踏み切った。また、ステーションの開設に
他院施設 2%
より、退院後の患者さんの在宅での状況を継続して把握し
自宅
18%
やすく、外来、病棟、在宅のスムーズな医療提供が可能に
パソコン上で共有されており、職員全員が在宅患者の状況
も把握できるようになっている。村越氏は、
「訪問看護ス
テーションは、患者さんが在宅へソフトランディングする
ために役立っています」
と話す。
消化器内科
16%
循環器内科
18%
母体であれば夜間や休日も対応が可能なため、同院ではス
申し送り表」がある。これは、前述した院内のデータとして
呼吸器内科
10%
整形外科
19%
合、夜間や緊急時の対応が難しい面があった。一方、病院が
こうした継続医療のシステムとして、同院には
「継続看護
腎臓内科 11%
脳外科
15%
を重視して設置してこなかったが、診療所などが母体の場
なった。
内科 0%
院内
80%
〈退院場所〉
死亡
院内 3%
老健 2%
11%
他院
13%
13%
自宅
58%
居住系介護施設
地域包括ケア病棟への入院目的の半数は
「在宅調整」で、31%が転院調
整、12%がレスパイト的入院だった。また、入棟前にいた場所は、80%が
院内、18%が自宅、2%が他院だった。退院場所は自宅
(58%)
と居住系介
護施設
(13%)
で、在宅復帰率70%以上を満たした。
みるみる
03
2016 ◎
13
誌上セミナー 病院経営のツボ
分析力を活かした
病院経営のススメ
クリニカル・プラットフォーム株式会社
代表取締役
分析力を高める
ための3要素
その3:アナリスト
最終回の今回は、これまでにご紹介した仕組みや手法
によって集めたデータを実際に分析して意味のあるメッ
セージを導き出す「アナリスト」の役割と育成方法につい
てご紹介していきます。
アナリストの仕事とは何か
ど
鐘江康一郎
アナリストの仕事とは、大量のデータを集めることでも
なければ、単にそれを集計することでもなく、集計した
結果から
『何かを明らかにすること』
になります。
「患者さんの待ち時間分析」を例にあげて説明してみま
しょう(図1)。①患者待ち時間をKPI(Key Performance
Indicators:重要業績評価指標)の一つとして選定する。
②患者待ち時間を測定する仕組みを構築する。ここまで
は前回までにご紹介しました。次に行う作業は、③集め
たデータを集計する、④集計したデータを分析する、の
二つです。
ここでお気づきのように、
「集計」と「分析」は別々の作
業として定義しています。膨大な待ち時間データをExcel
などに入力して、足したり引いたり掛けたり割ったりす
ることは単なる「集計」と呼びます。
「分析」ではありませ
んなに良い材料を使っても、料理人の技術が低け
ん。
「 分析」とは、集めたデータから、
「ある特定の曜日と
れば美味しい料理ができないのと同じように、い
時間帯に患者さんの待ち時間が長くなっている」とか
くら質の高いデータが揃っていても、それを分析する人、
「平均の待ち時間が長くなっているが、これは全体が長く
つまりアナリストの技術が伴わなければ意味のあるアウ
なっているわけではなく、ある特定のセグメントの待ち
トプットは出てきません。英語の「Analyst」を直訳すると
時間が長くなったためである」といった、意味のある
「分析をする人」となりますが、
「分析」の意味を辞書でひ
「主張」
を導き出すことを指します。
いてみると『複雑な事柄を一つ一つの要素や成分に分け、
そして、このようなアウトプットを出すことの出来る
その構成などを明らかにすること。』とあります。つまり、
人をアナリストと呼ぶのです。
かねがえこういちろう◎University of Washington MHA
(医療経営管理士)
。
1995年 一橋大学商学部卒業。
ベイン・アンド・カンパニー、
日本オラクル、
GEキャピタルに勤務。
2000年にP.ドラッ
カー氏と面会した際に
「非営利組織にこそマネジメントの本質がある」
に触発され病院経営の道へ。医療法人社団健育会理事長室、Swedish Medical Center Quality部でのインターン、聖路加
国際病院経営企画室マネジャー他を経て現職。
「マネジメントの質を高める! ナースマネジャーのための問題解決術」
他、著書多数。翻訳として
「エクセレント・ホスピタル」
等。
14 ◎
みるみる
03
2016
図1 外来患者の待ち時間分析の例
③企画力
集まったデータを与えられて分析をこなすだけでは良
いアナリストとは言えません。プロジェクトの上流工程
6ヶ月前との差(20分以上延びたところに■)
定義:受付時刻~診察開始時刻
月
火
水
木
金
土
9:00-
+12
+2
-3
+10
+2
+12
10:00-
+20
+4
-4
+15
+3
+20
11:00-
+10
+3
±0
+20
+1
+10
12:00-
+6
+2
+2
+30
±0
+10
全体
○○○内科
○○外科
から関わることで、プロジェクトそのものの成果向上に
も貢献できるのが良いアナリストです。例えば、データ
収集に対して分析者の観点から意見を述べる(例:アン
ケート項目には◯◯を追加するべきだ)、あるいは、分析
結果から見えてきた仮説を提唱し、まったく新しいプロ
ジェクトを立ち上げるといったことです。このような
「攻
めのアナリスト」が数多く在籍している組織は、問題解決
力に長けている組織だと言えます。
④コミュニケーション能力
アナリストの仕事は、依頼を受けて結果を返すといっ
た一方通行の業務ではなく、多くの人と双方向にやりと
アナリストに求められる条件
医
療機関に勤めるアナリストに特別な資格が必要な
わけではありませんが、良いアナリストに求めら
れる条件はいくつかあります。
①分析する技術
当たり前ですが、アナリストに必ず求められる第一の
スキルは、大量のデータを理解し、それらを分析し意味
のある結果を出すための技術です。いわゆる「統計分析能
力」がそれに該当します。大量のデータを扱うので、コン
ピューターを使いこなせることは必須の条件ですが、分
析の対象やデータの量によって求められるレベルは異な
ります。プロジェクトチームや病棟レベルの分析であれ
ばExcelが使えれば十分ですが、病院全体の診療データな
どを扱う場合は、専用の統計分析ツール(AccessやSPSS
など)
を使いこなせる必要があるでしょう。後で詳しく述
べますが、若手スタッフを外部の研修に派遣するなどし
て、基本的な分析スキルを早いうちから身に付けさせる
ことが育成のカギです。
②診療業務の知識
では、PCで統計処理ができればいいかと言うと、そう
ではありません。データの内容を理解するためにも、そ
こから意味のある分析結果を導き出すためにも、自分が
分析を行うデータの背景となる診療業務について深く理
解をしておく必要があります。とはいえ、医療行為その
ものについて深く知る必要はなく、例えば外来診療であ
れば、患者さんが来院してから帰宅するまでの業務の流
れをひと通り知っておくだけでも価値の高い分析結果を
りをしながら進めていく場合が多くあります。院内中に
散らばっているデータを集めるために複数の部署にデー
タ抽出の依頼をかけたり、分析の設計をするために経営
層や現場スタッフと何度もやりとりをしたり、分析結果
を相手が理解できるように上手に伝えたりする仕事も含
まれます。聞く力、交渉する力、プレゼンテーションする
力が求められます。
⑤コーチング能力
アナリストの人数は限られていて、分析できる量(=同
時進行できるプロジェクトの数)はアナリストの数に依
存していると言っても過言ではありません。そこで、若
手のアナリストを育成したり、他部門のスタッフの中に
多少の分析であれば手伝ってくれるサポーター的な人を
育成したりする必要があります。コーチング能力の高い
アナリストがいれば、若手アナリストのレベルアップを
促したり、他部門のサポーターの協力を獲得したりでき
るので、組織全体の分析力の底上げにつながります。こ
の能力はすべてのアナリストに求められるわけではな
く、管理者クラスのアナリストが獲得するべき能力とし
て理解してください。
アナリストの育成方法
病
院に限らずどこの組織であっても、優秀なアナリ
ストが現場任せで育つ可能性に賭けるのはあまり
得策とは言えません。組織をあげて目標を定め、時間と
費用をかけて採用と育成を継続していく必要がありま
す。具体的には以下のようなステップを踏みます。
出すことができます。
みるみる
03
2016 ◎
15
①アナリストの人数を試算する
が深まりますし、受講する側もデータ分析の技術を身に
本連載の第1回目で提唱しましたが、スタートラインは
付けることができます。
組織として追いかける指標(KPI)になります。それらの
KPIを分析するために、どのようなレベルのアナリストを
④実務
(OJT:On the Job Training)
何人くらい必要としているのかを試算します。KPIの内容
分析技術は座学で学べますが、アナリストの条件の中
にもよりますが、一人のアナリストで10〜20個のKPIを担
で挙げたコミュニケーション能力などは、現場のプロ
当することは現実的ではないので、
【KPIの数÷5〜7】程度
ジェクトの中でしか培われない技術と言えます。この技
が必要なアナリストの人数の目安となります。逆に言え
術は、他部門と関わる分析プロジェクトで経験を積ませ
ば、アナリストの数が足りない状態で数多くのKPIを設定
ることで育成するのが良いでしょう。若手アナリストを
するべきではありません。
中堅アナリストの補助的な立場でプロジェクトに参加さ
せることは最も効率的で効果的な学びの場となります。
②アナリスト候補を採用する
また、診療業務に関する理解を深めるために事務職員を
試算したアナリストの人数が現在の職員でまかなえる
臨床現場に数日間常駐させたり、その反対に医療者に事
場合は、新たに採用をする必要はありません。しかし、そ
務部門を経験させたりするなど、他部門の業務を知る機
のような組織は少ないと思われます。そこで、外部から新
会を積極的に設定してあげると良いでしょう。
たに採用することを検討します。上記で挙げた5つの条件
をすべて備えている人はそうそういません。この段階で
優先させるべきは、①分析力と④コミュニケーション能
まとめ
力の2つです。特に④コミュニケーション能力はその人本
来の資質によるところもあるので、採用の段階から重視
するべき点の一つです。分析力や診療業務に関する知識
は入職後の研修で身に付けることができます。
こ
れまでの3回の連載で、①分析力を活かした経営の
重要性、②質の高いデータの集め方、③アナリスト
の役割と育て方の3点についてお伝えしてきました
(図2)
。
このような取り組みを自ら推進できるのは、ある程度経
③外部の研修を受講させる
営に近い立場におられる方に限られるかもしれません。
アナリストの核となる技術である分析力に対しては投
しかし、分析力を高めるために現場職員は何をするべき
資を惜しむべきではありません。初級アナリストに対し
なのか、経営チームに何を提案すれば良いのかといった
ては基本的なExcel講座、中級以上のアナリストに対して
着眼点を持つことは、組織全体の分析力を底上げする上
は統計ソフト(SPSSなど)についての研修など、企業が提
でとても重要なことです。本稿をキッカケに、一人でも多
供している研修プログラムを積極的に活用しましょう。
くの方が、病院の分析力向上に向けて一歩を踏み出して
分析技術は「蓄積型」のスキルです。一度身につけた技術
いただくことを期待しています。
は長期に渡って効果を発揮します。Excelの操作はショー
図2 分析力を活かした病院経営
トカットや関数を知っているだけでかなり高速化されま
す。技術を身に付けることで仮に1日30分の操作時間短縮
が見込めるなら、1年間での効果は100時間を超えること
になります。また、Excelで学んだ内容をAccessに活かし、
その知識が更に高度な統計ソフトに発展していくという
ステップを踏みながら成長していくことも可能です。外
部で研修を受けたアナリストには、その内容を他の職員
と共有する機会を設けましょう。教えることで更に理解
「みるみる」
2016年 Vol.1
(通巻3号)
発行日──2016年2月
発行人──飛田信一 発行所──第一三共株式会社
企画/制作──メディカルクオール株式会社
編集──株式会社 毘沙門堂
印刷──株式会社 誠文堂
データ重視を宣言し組織体制を構築する
施設に適したKPIを設定する
システム構築/データ収集の徹底
アナリストの育成
〒103-8426
東京都中央区日本橋本町三丁目5番1号
ALL1T19600-0MQ
2016年2月印刷
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