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国内外における国際的な産学連携活動 の実態等に関する

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国内外における国際的な産学連携活動 の実態等に関する
平成 22 年度産業技術調査事業
国内外における国際的な産学連携活動
の実態等に関する調査
報告書
平成 23 年 3 月
(空白頁)
[目次]
I. 調査概要
I-1
1. 調査の背景と目的 ......................................................................................................................................................... I-3
2. 事業内容.............................................................................................................................................................................. I-4
2.1 海外の先進事例調査 ........................................................................................................................................... I-4
2.2 我が国の先進事例調査...................................................................................................................................... I-4
2.3 国際的な産学連携活動の推進に必要な取組等、支援策の提言 ............................................... I-4
2.4 調査報告書の取りまとめ................................................................................................................................. I-4
3. 実施期間.............................................................................................................................................................................. I-5
II. 本編
II-1
1. 各国の産学連携の概況.............................................................................................................................................. II-3
1.1 各国における大学等の状況........................................................................................................................... II-3
1.2 各国における研究開発の状況...................................................................................................................... II-5
2. 海外の先進事例調査................................................................................................................................................II-22
2.1 ドイツにおける国際産学連携への取組 ..............................................................................................II-23
2.2 シンガポールにおける国際産学連携への取組...............................................................................II-29
2.3 中国における国際産学連携への取組....................................................................................................II-42
3. 国内の先進事例調査................................................................................................................................................II-47
3.1 我が国における国際産学連携への取組 ..............................................................................................II-47
3.2 分野による国際産学連携の違い..............................................................................................................II-57
4. 国際的な産学連携活動の推進に必要な取組、支援策の提言 .........................................................II-58
4.1 国内外の先進事例から導かれる国際産学連携の促進・阻害要因......................................II-58
4.2 今後の我が国における国際的な産学連携活動のあるべき方向性......................................II-65
III. 付録編
III-1
1. 国内先進事例インタビュー記録......................................................................................................................... III-3
1.1 グリーン・イノベーション関連技術分野 ........................................................................................... III-3
1.2 ライフ・イノベーション関連技術分野 .............................................................................................III-17
1.3 ものづくり技術分野 ......................................................................................................................................III-25
1.4 その他.....................................................................................................................................................................III-43
2. 海外先進事例インタビュー記録......................................................................................................................III-55
2.1 ドイツ.....................................................................................................................................................................III-55
2.2 シンガポール......................................................................................................................................................III-70
2.3 中国......................................................................................................................................................................III-121
2.4 韓国......................................................................................................................................................................III-143
(空白頁)
I. 調査概要
I-1
(空白頁)
I-2
1. 調査の背景と目的
近年のグローバル化の進展に伴い、
国際的な産学連携活動の重要性が増しつつある。
また、分野を代表する研究拠点を形成し、世界の知を集めることは、我が国の科学・
技術の発展に大きく資するものである。平成 22 年 6 月に閣議決定された新成長戦略
には、世界をリードするグリーン・イノベーションやライフ・イノベーション等を推
進し、独自の分野で世界トップに立つ大学・研究機関の数を増やす等の目的を達成す
るために、国際共同研究の推進など、科学・技術外交を推進することが方針として示
されている。また、知的財産推進計画 2010 においては、「産学官共創力の世界最高
水準への引き上げ」のため、大学や公的研究機関の研究費に占める外国資金を約 80
億円から 500 億円に増加させることを目標指標としている。
一方、これまでの我が国の大学等における国際的な産学連携活動は、十分な水準に
達しているとは言い難い。平成 18 年 8 月の科学技術・学術審議会技術・研究基盤部
会産学官連携推進委員会の報告によれば、国内における共同研究・受託研究や技術移
転等の産学連携は進展しているものの、大学等の受託・共同研究のうち海外企業から
の受託・共同研究は、件数・金額ともに全体の 1%未満であり、実績のみならずノウ
ハウ・経験ともに少ない状況にあることが指摘されている。また、「我が国の産業技
術に関する研究開発活動の動向」(平成 22 年 3 月、経済産業省)によると、大学の
研究費全体に占める外国資金の割合は、我が国では 0.07%(2008 年)となって
おり、ドイツ 5.7%(2007 年)、フランス 2.2%(2008 年)、イギリス 8.
4%(2008 年)と比較して著しく低い状況にある。
さらに、知的財産戦略本部の知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会に
おいても指摘されているが、我が国では、世界の知を取り入れる取組や、我が国が有
する知を海外の技術開発ニーズに活かす取組など、大きな経済価値を生み出すグロー
バルなビジネス展開につながるような国際的な活動がまだまだ不十分であることがう
かがえる。
そこで、本事業では、殊に、海外企業への技術移転や海外企業との共同研究をはじ
め、国内の大学、研究機関等が国を越えて国外企業と密接に連携し、新たな研究開発
やイノベーション創出に取り組む活動(以下、「国際的な産学連携活動」と言う。)
に着目し、積極的に取り組んで一定の実績を挙げている国内外の先進事例を調査・分
析することにより、今後、我が国において国際的な産学連携活動を推進するに当たり
必要な取組、支援策について提言を行う。
I-3
2. 事業内容
2.1 海外の先進事例調査
ドイツ、シンガポール、および中国において、当該国内の大学、研究機関1(以下、
「大学等」と記載する。
)が国外の企業等と密接に連携して活動している先進事例を 3
拠点選定し、それぞれ以下の項目について調査・分析を行った。

国際的な産学連携活動の内容、関係機関による実施体制、体制構築の経緯

国際的な産学連携活動によるこれまでの実績、経済的効果

当該拠点およびその拠点における産学連携活動に対する参加者の評価

国際的な産学連携活動を支えるための各種取組(安全保障貿易管理上の取組、
知的財産権の取り扱い、海外からの人材獲得の取組、研究環境の整備等)
本調査は、文献・インターネット調査、関係者へのインタビュー等により必要な情
報収集・調査・分析を行った。
2.2 我が国の先進事例調査
我が国において、国内の大学等が国外の企業等と密接に連携して活動している先進
事例を、グリーン・イノベーション関連技術、ライフ・イノベーション関連技術、も
のづくり技術分野から 3 拠点選定し、2.1 節と同項目について調査・分析を行った。
本調査は、文献・インターネット調査、関係者へのインタビュー等により必要な情
報収集・調査・分析を行った。
2.3 国際的な産学連携活動の推進に必要な取組等、支援策の提言
上記の調査結果をもとに、我が国の大学等において国際的な産学連携活動を推進す
るに当たっての課題を整理し、その結果を踏まえ、以下の提言を行った。
① 今後の我が国における国際的な産学連携活動のあるべき方向性
② 大学等における国際的な産学連携活動への支援体制のあり方
③ 政府、地方自治体による新たな支援策
2.4 調査報告書の取りまとめ
上記の事業実施により得られた成果を取りまとめた報告書を作成した。
1
公的研究機関を指す。
I-4
3. 実施期間
委託契約締結日(平成 22 年 12 月 2 日)から平成 23 年 3 月 31 日まで
I-5
(空白頁)
I-6
II. 本編
II-1
(空白頁)
II-2
1. 各国の産学連携の概況
1.1 各国における大学等の状況
(1)大学の規模
各国の大学数
(日本とシンガポールは公的研究機関数も含む)
は以下の通りである。
大学数では中国が最も多く、日本、ドイツ、シンガポールの順である。
表 1-1 各国の大学の規模
日本
(2009年度)
大学・短期大学
(国公)
(私立)
(2008年度)
公的研究機関
企業・非営利団体
ドイツ
(2008年度)
1,173 大学・高等専門学校
207
966
544
17,493
(州)
(私)
シンガポール
(2008年度)
395 高等教育機関
304
91
(2008年度)
政府・公的研究機関
民間
中国
(2008年度)
大学・専科学校
10
及び職業技術学院
(公)
(私)
2,263
1,625
638
49
888
(単位)機関数
出所:日本・ドイツ・中国の高等教育機関数:文部科学省「教育指標の国際比較」
日本の公的研究機関、企業、非営利団体数:文部科学省「科学技術要覧」
シンガポール:Department of Statistics Singapore, Research and Development(Themes)
II-3
(2)大学のレベル
著名な世界大学ランキングである“Times Higher Education World University
Rankings 2010”に基づき1、各国の大学セクターのレベルを比較した結果(表 1-2)
をみると、トップ大学のレベルでは日本が高いが、100 位以内の大学数ではドイツ、
中国と変わらない。
また各国トップ大学2のランキング要素別のスコアを比較した結果(図 1-1)をみ
ると、北京大学は Industry Income(イノベーション指標)
、シンガポール国立大学
は International mix(国際性指標)で差が出ている。
表 1-2 各国の大学の研究水準
200位以内(校)
100位以内(校)
30位以内(校)
国内トップ大学
日本
5
2
1
University of Tokyo
(26位)
ドイツ
14
3
0
University of Gö
ttingen
(43位)
シンガポール
2
1
0
National University
of Singapore
(34位)
中国
6
3
0
Peking University
(37位)
出所:Times Higher Education World University Rankings 2010 より MRI 作成
Overall score
100
75
Citations
Teaching
50
25
0
Research
International mix
Industry income
National University of Singapore Singapore
University of Göttingen Germany
Peking University China
Kyoto University Japan
図 1-1 各国の大学のランキング
1
Times Higher Education World University Rankings 2010 は Citation、Research、Industry Income、International
mix、Teaching それぞれが 100 点満点のスコアで表現され、その合計で総合ランキングが計算されている。
2
日本のみトップ大学である東京大学の一部スコアが欠損値のため、ランキングが東大に次ぐ京都大学を対象とした。
II-4
1.2 各国における研究開発の状況
1.2.1 OECD 統計
日本、ドイツ、中国、シンガポールについて、OECD 統計による国内研究開発費総
額(GERD)
(名目購買力平価換算、百万ドル)を元に高等教育部門の研究開発支出
の財源を概観する。なお研究開発支出の財源を分析する上で、
「海外企業」という区分
はないため、以下では「企業財源」
「海外財源」について述べる。
(1)企業財源
各国の高等教育部門の研究開発支出において企業財源が占める割合をみると、中国
が約 35%前後で圧倒的に高く、ドイツが約 15%で次ぐ。日本とシンガポールは企業
財源の比率は一桁%と低い。
高等教育部門の研究開発支出において企業財源が占める割合
40.0%
35.0%
30.0%
25.0%
比
20.0%
率
15.0%
10.0%
5.0%
0.0%
1999
2000
2001
ドイツ
2002
2003
日本
2004
中国
2005
2006
2007
2008
シンガポール
出所: OECD Science, Technology and R&D Statistics より MRI 作成
図 1-2 各国の高等教育部門の研究開発支出において企業財源が占める割合
II-5
(2)海外財源
各国の高等教育部門の研究開発支出において海外財源が占める割合をみると、ドイ
ツが約 4%と最も高く、中国は 1%強、シンガポールは1%弱の順で続く。日本の高
等教育部門は海外財源による研究開発支出は最も低い
高等教育部門の研究開発支出において海外財源が占める割合
4.5%
4.0%
3.5%
3.0%
比 2.5%
率
2.0%
1.5%
1.0%
0.5%
0.0%
1999
2000
2001
ドイツ
2002
2003
日本
2004
2005
中国
2006
2007
2008
シンガポール
出所:OECD Science, Technology and R&D Statistics より MRI 作成
図 1-3 各国の高等教育部門の研究開発支出において海外財源が占める割合
II-6
1.2.2 日本の個別統計
平成 21 年度における日本の大学等における民間企業との共同研究受入額は
29451 百万円、受託研究受入額は 11227 百万円である。ただし、この「民間企業」
には外国企業は含まれておらず、外国企業については民間企業の外数として件数ベー
スでのデータが示されているのみである。件数ベースの比率でみると民間企業との共
同研究件数、受託研究企業に占める外国企業の比率共に増加傾向を示している。
表 1-3 国公私立大学等における相手先別の産学連携等実施状況の推移
■共同研究受入額(百万円)
合計
民間企業
15年度
16年度
17年度 18年度
19年度
20年度
21年度
21,621
26,376
32,343
36,843
40,126
43,824
42,016
15,173
19,601
24,857
28,585
31,077
33,907
29,451
■受託研究受入額(百万円)
合計
民間企業
15年度
16年度
17年度 18年度
19年度
20年度
21年度
85,904 101,227 126,480 142,035 160,745 170,019 165,503
11,046
12,710
12,289
11,706
11,528
11,329
11,227
■共同研究件数
合計
(A)民間企業
(B)外国企業(民間企業の外数)
(C)=(B)/((A)+(B))
17年度 18年度
19年度
20年度
21年度
13,020
14,757
16,211
17,638
17,586
11,054
12,489
13,790
14,974
14,779
51
83
111
127
179
0.5%
0.7%
0.8%
0.8%
1.2%
■受託研究件数
合計
民間企業
外国企業(民間企業の外数)
(C)=(B)/((A)+(B))
17年度 18年度
19年度
20年度
21年度
16,960
18,045
18,525
19,201
20,599
6,292
6,179
6,005
5,945
6,185
41
73
75
89
78
0.6%
1.2%
1.2%
1.5%
1.2%
出所:文部科学省「平成 21 年度 大学等における産学連携等実施状況について」
<http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/1296577.htm>より MRI 作成
II-7
1.2.3 各国の関連施策の動向
(1)イノベーション施策
(a)ドイツ
1)Hightech-Strategie für Deutschland
2006 年に策定された「Hightech-Strategie für Deutschland(High-Tech
Strategy for Germany、ハイテク戦略)1」は、ドイツ政府の科学技術関連政策とし
ては初の省庁を横断した包括的な国家戦略であり、将来の重要市場において、世界最
高水準の地位を築くことを目的としている。対象分野として、気候・資源エネルギー、
流動性、保健・栄養、安全保障等が挙げられ、主要技術分野としては、製造、材料お
よびマイクロシステム技術、ナノテクノロジー、情報通信技術、航空宇宙技術、バイ
オテクノロジー等を挙げている2。具体的には、次のようなプロジェクトの例がある。

カーボンニュートラルでエネルギー効率の高い都市

石油の代替となる再生可能資源

2020 までに国内で電気自動車 100 万台普及
2)Pakt für Forschung und Innovation
「Pakt für Forschung und Innovation(Joint Initiative for Research and
Innovation、研究イノベーション協定)
」は、2005 年 6 月に連邦政府と州政府の担
当大臣が合意した協定である。連邦政府および州政府が共同で予算を拠出している

フラウンホーファー研究機構(Fraunhofer Gesellschaft)

ヘルムホルツ協会(Helmholtz Gemeinschaft)

マックス・プランク協会(Max Planck Gesellschaft)

ライプニッツ学術連合(Leibniz Gemeinschaft)

ドイツ研究振興協会(DFG)
について、財政計画の安定性を担保することを目的としたもので、2011 年から
2015 年にかけて、予算を毎年 5%増加させていくこととしている3。
1
Bundesministerium für Bildung und Forschung, “Hightech-Strategie für Deutschland”.
<http://www.hightech-strategie.de/de/273.php> ;
(英語版)Federal Ministry of Education and Research “The High-Tech Strategy for Germany”
<http://www.bmbf.de/pub/bmbf_hts_en_kurz.pdf>
2
Bundesministerium für bildung und Forschung(Federal Ministry of Education and Research)
“Schlüsseltechnologien: Treiber für Innovationen(Key technologies: Driver for innovation)”
<http://www.bmbf.de/de/14397.php>
3
Federal Ministry of Education and Research, “ Joint Initiative for Research and Innovation”.
II-8
3)6 Milliarden Euro-Programm für Forschung und Entwicklung
6 Milliarden Euro-Programm für Forschung und Entwicklung(The Six
Billion Euro Programme for Research and Development、60 億ユーロプログ
ラム)は、イノベーションや今後の市場に高い効果が期待される研究開発プロジェク
トに対し、総額 60 億ドルを投入するプログラムである。
「Hightech-Strategie für
Deutschland」とは別に、経済成長および雇用創出にてこ入れできる部分に追加的に
資金を拠出する。交付を受ける産業側は、研究開発費の三分の二を負担し、残りの三
分の一を政府(連邦政府および州政府)が負担する形式となっている。1
第 1 期においては、対象範囲は次の 3 つとされた。
1. 最高水準の技術提供により将来の市場で主導的な位置を確保。
2. 中小企業におけるイノベーションの強化。
3. 研究の場としての効率性、国際的魅力の強化
4)税制
2008 年 1 月 1 日に、
主に国際競争力の確保を主眼として法人税改革が施行され、
法人税の実効税率が従来の約 39%から約 30%に引き下げられた。従来の税率は、
EU 内で最高水準であったが、改革により EU152の中間程度の水準となった3。ドイ
ツでは、研究開発を対象とした課税減免制度は特にない。しかし、有識者等からは、
研究・イノベーションを促進する優遇税制を導入すべきとの意見が出されており4 、
政府でも導入が検討されている5。
<http://www.bmbf.de/en/3215.php>
1
Federal Ministry of Education and Research “New Impetus for Innovation and Growth - The Six Billion Euro
Programme for Research and Development” <http://www.bmbf.de/en/6075.php>
2
2004 年 5 月の EU 拡大以前の加盟国であるベルギー、デンマーク、ドイツ、アイルランド、ギリシャ、スペイン、フラ
ンス、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、オーストリア、ポルトガル、フィンランド、スウェーデンおよび英国
3
Bundesregierung „Corporate Tax Reforms Boost Investment in
Germany“ <http://www.bundesregierung.de/Content/EN/StatischeSeiten/Schwerpunkte/Wirtschaftsstandor
t_20Deutschland/kasten1-unternehmenssteuerreform.html>;
Bundesministerium der Finanzen “Die Unternehmensteuerreform 2008 in Deutschland“,
<http://www.bundesfinanzministerium.de/nn_17844/DE/BMF__Startseite/Aktuelles/Monatsbericht__des__B
MF/2007/03/070321agmb007,templateId=raw,property=publicationFile.pdf>
4
Bundesministerium für Bildung und Forschung „Forschung und Innovation für Deutschland – Bilanz und
perspektive(Research and Innovation for Germany – Results and Outlook)“ p. 15 -16,
<http://www.bmbf.de/pub/forschung_und_innovation_fuer_deutschland.pdf>
Expertenkommission Forschung und Innovation „Gutachten zu Forschung, Innovation und technologischer
Leistungsfähigkeit Deutschlands 2010“ p. 18 - 25, <http://www.e-fi.de/90.html>;
Zentrum für europäische Wirtschaftsforschung „Clear Positive Vote for the Implementation of a Tax Incentive
for Research and Development(R&D)in Germany”
<http://www.zew.de/en/presse/presse.php?action=article_show&LFDNR=1114>
OECD „Germany should focus on innovation, education and competition to ensure a balanced recovery”
<http://www.oecd.org/document/5/0,3343,en_2649_37443_44885317_1_1_1_1,00.html>
5
Bundesministerium für Wirtschaft und Technologie „Technology and Innovation Poilcy for SME in Germany”,
II-9
(b)シンガポール
1)イノベーション・起業支援策
シンガポールにおける研究助成ファンドはシンガポール国立研究財団(National
Research Foundation of Singapore:NRF)が準備し、ほとんどが各省庁のプロ
グラムを通じて提供される。重点分野として、バイオメディカル、環境・水技術、イ
ンタラクティブ・デジタルメディアの 3 分野が挙げられている。NRF では研究開発
支出の GDP 比 3%を目指している。NRF で実施されているイノベーション・起業支
援策には表 1-4 のようなものがある。
p. 12.
<http://www.europeer-sme-rp6.org/uploads/media/Kleuver_Technology_and_Innovation_Policy_for_SME_in_
Germany.pdf>;
Bundesministerium für Wirtschaft und Technologie “ Politik für Technologie und Innovation”
<http://www.bmwi.de/BMWi/Navigation/Technologie-und-Innovation/technologiepolitik,did=234786.html>
II-10
表 1-4 NRF によるイノベーション・起業支援策
起業支援
種別
イニシアティブ
Proof-of Concept
Grants
Technology
Incubation
Scheme
Early-Stage
Venture Funding
Disruptive
Innovation ( DI )
Incubator
技術移転促
進
Translational R&D
Grants
for
Polytechnics
National
IP
Principles
for
Publicly-funded
R&D
Innovation
Vouchers
Scheme
Industry Proof-of
Concept
and
Technology
Incubation
Scheme
概要
 技術が機能し、商用化の可能性があることを示す概念実証
(proof-of-concept)のための支援。
 高等教育機関に属する研究者に対し、技術のアイディアの概念実証をするた
めの資金を提供。
 最大 S$250,000 まで給付。
 技術インキュベーターで、ベンチャーキャピタルによる資金提供には至らな
い、設立間もない企業を体系的に育成する環境を提供。
 高等教育機関に設置された技術インキュベーターに入居が認められた企業
に対し、85%の共同資金(最高 S$500,000 まで)提供。
 共同出資者は、NRF の持ち分を買い取りすることもできる。
 アーリーステージの企業にはベンチャーキャピタル(VC)ファンドが不足。
 当該施策によりアーリーステージ向け VC ファンドの発展を支援
 ベンチャーキャピタルから調達した資金と同額を NRF が拠出。
(1:1 のマッ
チングファンド)
 ファンド運営は、プロの VC が行う。シンガポールに拠点を持つハイテク系
スタートアップのみが対象。
 Clayton Christensen 教授の破壊的イノベーション(DI)の手法に基づく
インキュベーター。現状の産業を破壊し新たな産業を創出しうる企業を特定
する。
 NRF はインキュベーターに対し 1:1 の共同出資で支援。
 投資委員会が、スタートアップを評価し、DI の基準を満たしているか判断。
スタートアップは DI 手法を用いて育成される。
 多数のスタートアップが高等教育機関から設立されることを期待。
 ポリテクニックが大学の研究を市場に近づける技術移転で重要な役割。
 大学や研究機関の研究開発成果に基づくトランスレーショナルリサーチの
ポリテクニックでの実施を支援するグラント。
 大学や研究機関が、ポリテクニックを戦略的連携先とし、研究におけるブレ
ークスルーの市場投入推進が期待される。
 公的研究から生じた知的財産の特定、保有、保護、実施のため、原則、ガイ
ドライン、ベストプラクティスが提供される。
 公的研究から生じた知的財産の活用を促進、地元企業の参加推進、産学連携
の推進を図る。
 中小企業に「イノベーションバウチャー」を発行し、高等教育機関や公的研
究機関から研究開発やその他のサービス調達を促す。
 バウチャーを使用して調達できるサービスは今後発表予定。
 中小企業が、高等教育機関や公的研究機関との協力を通し、事業等の向上を
図ることを意図としている。
 上記“Proof-of-Concept” 事業と同様だが、高等教育機関以外も対象と
なる。
II-11
シンガポール貿易産業省(Ministry of Trade and Industry:MTI)傘下のシンガ
ポール科学技術研究庁(Agency for Science, Technology and Research:
A*STAR )は科学技術政策の中心的な役割を担っている。A*STAR における産業と
の連携・支援策には次のようなものがある。
表 1-5 A*STAR による産学連携支援策
種別
施策
概要
中小企業
Technology
向け
Enterprise
Authority が省庁横断的に実施するプログラム。研究を行う科学者・エンジ
Capability
ニアを地元企業に派遣。研究者の給与等を補助する。
for
A*STAR、EDB、SPRING、IE Singapore、Infocomm Development
Upgrading
Operation
and
Technology
A*STAR 所管の研究機関が地元企業に技術のロードマッピングを支援。事
業や市場ニーズへの対応に必要な技術を俯瞰。
Roadmapping
(OTR)
Technical
研究機関の上級研究者が技術的問題・課題に関して助言
Advisory
Support
A*STAR Facility
研究、開発、分析、試験等を目的とした活動に施設を貸与。
Sharing
Programme
研究協力
コンソーシアム
SERC(Science and Engineering Research Council)の研究所に蓄積
された幅広い専門知識を活用。地元企業が研究協力やメンバーシッププログ
ラム等を通して業界の大手企業とともに作業ができる機会となる。競争前段
階の研究開発が実施され、参加者は共通の技術的課題の研究開発を享受でき
る。
共同研究
民間企業と A*STAR 研究所とが 1 対 1 で連携。研究所からの技術移転に
研究所内ラボ
A*STAR の研究所が、研究開発の早期段階においてインフラを提供。相手
より、企業の技術を強化。
先企業は大規模な設備投資なく研究開発活動を開始できる。
技術・ビジネスイン
A*STAR の 戦 略 的 マ ー ケ テ ィ ン グ ・ 商 用 化 部 門 で あ る Exploit
キュベーション
Technologies が企業と連携し研究開発の支援・推進。A*STAR の保有す
る知的財産のライセンスや、企業のスピンオフ等を通して技術のインキュベ
ーションを行う。
II-12
2)企業に対する財務奨励策・税制優遇策
シ ン ガ ポ ー ル で は 主 に MTI 傘 下 の シ ン ガ ポ ー ル 経 済 開 発 庁 ( Economic
Development Board:EDB)が国内の登記企業を対象に各種財務奨励策、税制優遇
策を実施している。これらはシンガポールに登記された企業であれば企業の本拠地国
籍を問わないことから、海外からの企業誘致において重要な役割を果たしている。
表 1-6 EDB による研究開発関連の財務奨励策
スキーム
給付内容
支援対象
イノベーション開発スキーム
助成金支給: 製品、プロセス、アプリ
製品、プロセス、アプリケーシ
(
ケーションの技術革新を支援するため
ョンの技術革新に携わるシンガ
IDS
:
Innovation
Development Scheme)
に費用の一部を助成金として支給する。 ポール登記企業を対象とする。
企業向け研究開発インセンティ
適格プロジェクトの費用には、人材、設
研究開発事業活動を行うシンガ
ブ・スキーム(RISC:Research
備、知的所有権、専門的サービスの費用
ポール登記企業を対象とする。
Incentive
が含まれる。
Scheme
for
Companies)
新技術事業助成金(INTECH:
助成金支給: 研究開発センターの設立
事業活動として新規能力の開発
Initiatives
and/or 先端技術分野における社内研
もしくは導入を行うシンガポー
究開発能力推進のために費用の一部を
ル登記企業を対象とする。
in
Technology)
New
助成金として支給する。
出所:Economic Development Board
<http://www.edb.gov.sg/edb/sg/jp_jp/index/Guide_to_Investing_in_Singapore/financial_ass
istance.html>
II-13
表 1-7 EDB による研究開発関連の税制優遇策
スキーム
優遇策
支援対象
開発・拡張インセンティブ
適格事業活動による増収分に対する減税
製造業
( DEI : Development and
(5%または 10%)
サービス業
Expansion Incentive)
地域統括本部/国際統括本部
知的所有権ハブ
認定ロイヤルティ・インセンティ
先端技術・知識の入手にかかるロイヤルテ
製造業
ブ
ィ費用に対し、源泉税率 0%もしくは 5%
知的所有権ハブ
( ARI : Approved Royalties
減税
Incentive)
IP 買収による損金償却(S19B) 合法的かつ経済的な IPR の取得に対して
知的所有権ハブ
償却期間 5 年を認める
R&D コストシェアリングによる
低価格で買収された IPR については EDB
製造業
損金償却(S19C)
の認可を要する
知的所有権ハブ
Environment
Technology
エネルギー回収、リサイクル、特殊廃棄物
シンガポール登記企業
Research
Programme
処理の分野での研究開発プロジェクトを
高等教育機関
対象とした競争的資金。
公的機関
(ETRP)
非営利研究機関
営利研究機関
Innovation Voucher Scheme
営利企業・研究機関の場合、承認された直
(IVS)
接経費の 70%まで、高等教育機関、公的
シンガポール登記の中小企業
研究機関、非営利研究機関の場合 100%
までを支給。3 年以内。
Land Transport Innovation
中小企業が、スキームに参加している教
シンガポールに拠点を持つ機
Fund(LTIF)
育 ・ 研 究 機 関 等 ( ” knowledge
関(シンガポール登記企業、
institutions”
(KIs)
;大学、ポリテクニッ
研究機関、高等教育機関など)
ク、A*STAR 研究機関等が参加)のリソ
ース(知財等)を活用できる事業。KI か
ら中小企業への技術移転、製品イノベーシ
ョンに関する連携も推進されている。
Technology
Innovation
Programme(TIP)– Experts
シンガポールの交通システム整備につな
中小企業(株式の 30 %~
がる研究プロジェクトの支援。適格プロジ
100%がシンガポール現地保
ェクト(試作品開発、フィールドテスト、 有分)
試験結果分析)費用の 90%までを支給。
Technology
Innovation
中小企業が、主要研究開発機関(A*STAR
中小企業(株式の 30 %~
Programme(TIP)– Projects
研究機関、大学、ポリテクニック、海外研
100%がシンガポール現地保
究機関等)から技術専門家の派遣を受ける
有分)
際の費用を補助。
出所:Enterprise One, Government Assistance – Grants,
<http://www.business.gov.sg/EN/Government/GovernmentAssistance/TypeOfAssistance/
Grants/ProductDevelopmentNInnovation/>
II-14
3)クラスター政策
研究インフラとして、バイオ関連研究クラスターであるバイオポリスおよび、情報
通信・メディア・物理科学・工学の学際研究クラスターであるフュージョノポリスが
整備されている。海外企業の研究機関やリエゾンオフィス等が多数入居している。バ
イオポリスには、2,000 以上の研究機関・企業が入居している。例えば、日本の機関
では、富士通、早稲田大学等が事務所を設置している。また、シンガポールの政府機
関である A*STAR BMRC(Biomedical Research Council)
、SERC も同地に拠点
を構えている。フュージョノポリスの入居企業・機関数は不明であるが、国内外から
多数が拠点を設置している。
表 1-8 シンガポール Biopolis、Fusionopolis の入居研究機関・企業の例
機関名
親会社国籍
分野・概要
Applied Biosystems Asia Pte Ltd
アメリカ
バイオ関連機器・試薬・ソフトウェア
BioVenture centre Pte Ltd
アメリカ
生命科学
Biopolis
CombinatoRx Singapore Pte Ltd
アメリカ
薬品製造
Illumina(S)Pte Ltd
アメリカ
生物医学技術
Invitrogen(Singapore)Pte Ltd
アメリカ
ライフサイエンス研究用試薬、機器
Proligo Singapore Pte Ltd
アメリカ
オリゴヌクレオチド受託合成
Eli Lilly
アメリカ
医薬品
Valeant Pharmaceuticals International
アメリカ
皮膚科学、伝染病、神経学
Veeco Asia Pte Ltd
アメリカ
光通信、データストレージ、半導体
アメリカ/
新型インフルエンザ、SARS の研究
Regional
Emerging
Diseases
Intervention Cenre
シンガポール
British High Commission Science and
イギリス
イギリス大使館(科学・技術室)
イギリス
創薬研究
Lloyd Wise
イギリス
特許、商標弁護士事務所
ES Cell International Pte Ltd(ESI)
オーストラリア
ES 細胞
Novartis Institute for Tropical Diseases
スイス
デング熱および薬剤耐性結核の研究
Swiss House
スイス
スイス大使館所属(スイスの研究機関に関
Oxygenix Singapore Pte Ltd
日本
人工酸素運搬体の研究・開発・製造
RIKEN Singapore Representative Office
日本
生命科学、生物工学研究
Seiko
日本
ストレージ基盤技術、CAE を用いた開発の
Technology Office
GlaxooSmithlKline ( GSK ) Centre for
Research
in
Cognitive
&
Neurodegnerative
(NITD)
する情報提供など)
Instruments
Inc.
Singapore
Representative Office
効率化
II-15
Takeda Singapore Pte Ltd
日本
創薬研究
Waseda-Olympus bioscience Research
日本
知性や認知性など脳の高度機能に関する研
Pte Ltd
究
Fujitsu Laboratories Singapore
日本
A*STAR および所管研究所
シンガポール
Bio*One Capital Pte Ltd
シンガポール
政府系ベンチャーキャピタル
B Square Lab Pte Ltd
シンガポール
ナノバイオ
Davos Life Science Pte Ltd
シンガポール
栄養補助食品、医薬品、薬用化粧品
Health Sciences Authority(HAS)
シンガポール
衛生科学局
Helix Life Science
シンガポール
機能性食品、栄養補助食品
Inventa Technologies(S)Pte Ltd
シンガポール
特殊科学製品、油脂化学、生命科学
SingVax Pte Ltd
シンガポール
ワクチン開発
フランス
航空宇宙、防衛・安全保障向け情報システ
Invititrogen(Singapore)Pte Ltd.
Fusionopolis
Thales Technology Centre Singapore
(TTCS)
ム、交通
Vestas Wind Singapre
デンマーク
風力発電
Nitto Denko Asia Technical Centre
日本
水処理、有機電子デバイス等
Platform Computing Singapore
カナダ
ソフトウェア
A*STAR
シンガポール
(NAT)
Science
and
Engineering
Research
シンガポール
Council(SERC)
Edgilis
Media
シンガポール
Development
Authority
of
コンサルティングサービス
シンガポール
Singapore
出所:A*STAR
<http://www.a-star.edu.sg/tabid/864/default.aspx>
<http://www.bk.mufg.jp/report/aseantopics/ARS167.pdf>
II-16
(c)中国
1)863 計画
863 計画は、国家主導に基づく、明確な目標に沿ったハイテク技術発展計画であ
る。改革開放直後の中国では、人口、食糧、エネルギー、環境等の多くの問題を抱え
ており、ハイテク技術の開発を活かした社会全体の発展、特に農業現代化、工業・企
業の技術力の高度化に対するニーズが高まっていた。863 計画は、1986 年 3 月に
「世界でも先進的なレベルを追跡し、中国のハイテク技術を発展させる」ことを目的
として、中国科学界の著名な 4 名の科学者によって提出された提案書をもとに検討さ
れた計画である。863 計画の特徴は以下の通りである。

経済の発展および国民生活レベルの向上が中心

世界中の先進的な技術および経験を学習し、ハイテク技術の研究開発における
国際交流および連携を推進

政府の手動に基づき、企業の参加を促進
表 1-9 「863 計画」の領域とテーマプロジェクト
8 つの領域
バイオ技術
20 のテーマプロジェクト
 質がよい、生産性が高い動物・植物の新品種
 遺伝子薬物、ワクチンと遺伝子治療
 蛋白質プロジェクト
宇宙航空技術
 宇宙航空技術の性能が高い大型ロケット
(二つのテーマを含む)  中国の宇宙航空発射の商業サービス能力向上
 平和利用目的の宇宙空間技術の研究開発
情報技術
 知能コンピューターシステム
 光電子部品と光電子、微電子システムの集積技術
 情報の取得と処理技術
 通信技術
レーザー技術
 性能が高く、質がよいレーザー技術
(三つのテーマを含む)  成果を生産に応用でき、パルスパワー技術、プラズマ技術、新材料およびレ
ーザースペクトルなどの発展を促進できる技術
自動化技術
 コンピューター集積製造システム
 知能ロボット
エネルギー技術
 石炭磁流体発電技術
 原子炉技術
新材料技術
 ハイテク新材料と現代科学技術
海洋技術
 海洋測定と監視技術
 海洋生物技術
 海洋資源開発技術
特別プロジェクト
 水稲遺伝子図鑑
 航空リモート・センシング即座発信システム
 HJD-04E 型の大型デジタルプログラム制御交換台のネック技術
 超伝導体技術
 ハイテク技術新概念と新構想の探索
出所: 「中国の産学連携」関満博編
II-17
2)火炬計画
火炬計画は、中国ハイテク技術の産業化、特に「863 計画」などの研究成果を産
業化させるための政府指導性の計画であり、1988 年 8 月から中国科学技術部を中
心に実施されている。本計画の構成要素を表 1-10 に示す。
表 1-10 火炬計画の概要
構成要素
概要
ハイテク産業の発展に必要な環
火炬計画の広範囲の宣伝キャンペーンやハイテク産業の発展に対応した
境づくり
政策・法律・規制の立案、良好な支援環境の整備、融資ルートの拡大、中
長期の実施計画の作成等を実施する。
ハイテク創業サービスセンター
国家科学技術部、地方政府及びハイテク産業開発区の下に設立された公益
の設立
性のあるサービス機関であり、研究開発成果の事業への転化の促進やハイ
テク企業と企業家の育成などを目的とする。
ハイテク産業開発区の設立
国内と海外市場に向けて中国のハイテク産業を集中的に発展させる地域
である。税金免除などの優遇政策及びよりサービスを提供することを通
じ、ハイテク産業の集積優位を用意し、多くの人材、技術、資金を集め、
研究成果を産業化させる。
火炬計画の企画・推進
先端的なレベルや国内外の市場規模、経済効果の観点から、重点的なハイ
テクプロジェクト、ハイテク企業を認定する。また、国家ソフト産業基地
を設立する。
ハイテク産業の国際化
ハイテク製品の国際市場への進出とハイテク産業の国際化の推進を助成
するために、平等と相互受益の上に政府と民間のルートを通し、各国・地
域との広範囲の協力を確立し、技術、金融、企業、商業などの各業界との
交流を行う。
人材育成
多数の有能な管理経営人材の育成は、火炬計画の成否に係る重要な要素で
あり、常に競争心を持ち、創造性に優れた開拓型の技術者を育成する。
出所:
「中国の産学連携」関満博編,
「中国におけるサイエンスパーク・ハイテクパークの現状と動向調査報告
書」JST 中国総合研究センターより MRI 作成
II-18
(2)大学国際化に係わる施策
(a)ドイツ
1)Exzellenzinitiative
Exzellenzinitiative(Initiative for Excellence、エクセレンス・イニシアティブ)
は、トップクラスの大学研究を推進することにより、国際的な存在感を向上させるこ
とを目的に、COE(Center of Excellence)を設置する施策であり、2006 年に開
始した。選定された研究大学等には年間百万から 250 万ユーロ、クラスターには 3
百万から 8 百万ユーロが交付される。今後も 2017 年までは継続されることが決定
している1。
2)国際化
「High-Tech Strategie」の中で、国際協力の機会活用、欧州の研究政策における
積極的な役割を図ることに言及されている2 。国際協力の機会活用の具体的内容とし
ては、
外国人研究者の誘致、
連邦政府の資金配分プログラムにおける国際協力の拡大、
在外拠点、科学代表等を通してのドイツの存在向上、教育・研究拠点としての広報な
どが挙げられている。
3)人材
若手研究者に係わる課題として、研究キャリアの見通し明確化、性別・障害等にと
らわれない平等化推進、配分資金の長期的効果向上、高等教育機関の国際化、等が挙
げられている3。
若手研究者等の支援プログラムの例としては、2002 年に導入された若手を対象と
した新設ポストとしてジュニア・プロフェッサー制度4がある。30 歳代前半の若手研
究者が独立して研究・教育ができる機会の提供を目的としている。基本法では、高等
教育の責任は各州に委ねられているが、全州が当該制度を導入している。
1
Federal Ministry of Education and Research “Initiative for Excellence” <http://www.bmbf.de/en/1321.php>
2
Die Bundesministerium für Bildung und Forschung “Research and Innovation for Germany – Results and
Outlook,” p.99. <http://www.bmbf.de/pub/forschung_und_innovation_fuer_deutschland_en.pdf>
3
Bundesministerium für Bildung und Forschung “Bundesbericht zur Förderung des Wissenschaftlichen
Nachwuchses(BuWiN)”(Federal Government Report on the Promotion of Young Researchers”
<http://www.bmbf.de/pub/buwin_08.pdf>
4
Bundesministerium für Bildung und Forschung “Junior Professorship” <http://www.bmbf.de/en/820.php>
II-19
(b)シンガポール
2006 年 2 月に発表された
「科学技術計画 2010
(Science & Technology Plan)
」
では、優れた人材が経済成長の鍵と捕らえ、世界の人材を誘引する必要性を述べてい
る。シンガポールが目指す高度な研究開発活動を支えるには、科学技術研究者
(research scientists and engineers)がより多く必要であり、2010 年までに
PhD を 1,000 人育成することを目標に掲げている1。
(c)中国
1)大学サイエンスパーク
大学サイエンスパークは、一つの大学またはいくつかの大学群に基づいて、大学の
人材、技術、情報、実験設備、図書資料などの知的な資源を適切に社会の資源と結合
させ、知識創造、技術革新、研究成果の産業化、ハイテク企業及び人材の育成、地域
経済の発展などのためにより良いサービスを提供できる経済的及び社会的な組織であ
る。特に、産学連携により起業するハイテク企業に対して、企業孵化器として育成サ
ービスを提供する創業サービス機関であり、産学連携企業の実験場所でもあり、中国
ハイテク技術の産業化の過程に重要な位置づけがなされている。
2008 年 10 月現在、各地に設置された大学サイエンスパークの合計は 62 カ所に
上り、全部で 100 以上の大学、地方政府及び研究機関により運営されている。
表 1-11 国家大学サイエンスパークの地域分布
地域
基地数
地域
基地数
地域
基地数
北京
12
浙江
2
広東
3
天津
2
安徽
1
重慶
2
河北
2
福建
1
四川
4
遼寧
3
江西
1
雲南
1
吉林
1
山東
2
陜西
4
黒龍江
2
河南
1
甘粛
2
上海
8
湖北
1
新疆
1
江蘇
5
湖南
1
合計
62
出所: 中国教育部科技発展センター
1
Ministry of Trade and Industry Singapore, Science & Technology Plan 2010,
http://app.mti.gov.sg/data/pages/885/doc/S&T%20Plan%202010%20Report%20
(Final%20as%20of%2010%20Mar%2006).pdf; シンガポールでは、科学技術分野の国家戦略を 5 年ごとに策定
している。間もなく 2011 年から 2015 年までの計画が発表されると思われるが、現時点では状況は不明である。
II-20
2)海外人材呼び戻し政策
中国では急速な科学技術の発展を遂げ、先進国レベルへとキャッチアップするため
に、海外からの優秀な研究開発人材を招聘する「海外人材呼び戻し政策」を実施して
いる。これまでに実施された「海外人材招聘プログラム」の概要を表 1-12 に示す。
表 1-12 海外人材招聘プログラム
プログラム名
開始時期
実施主体
概要
百人計画
1994 年
中国科学
中国で最初に開始した「高目標、高基準、高強度」の人材招聘・要
院
請策である。1997 年より「海外傑出人材導入計画」と「国内百
人計画」とに分けられ、2001 年には「海外有名学者計画」が追
加された。任期は 3 年間で、実施以降、1459 名の人材が招聘、
助成を受けた。その内、海外傑出人材は 846 名、海外の著名学者
は 224 名、国内優秀人材は 251 名である。
留学生創業園
1994 年
人事部・
海外留学生、あるいは海外で就業している中国人の帰国を奨励する
教 育部 ・
ための優遇政策で、帰国者の起業をサポートする制度である。
科 学技 術
1994 年から、国家科学技術部、教育部、人事部により多くの地
部
域に留学生創業園が設立され、2006 年時点で、全国に 110 箇所
教育部
海外にいる留学経験者の中国国内での共同研究や学術交流等の短
以上の創業園を開設、約 6000 社が入居している。
春暉計画
1996 年
期帰国を支援するプロジェクトで、支援対象は主に海外で博士学位
を取得し、専門分野で優れた成績を収めた留学経験者。助成対象は
中国国内での共同研究、学術交流や国際会議、博士の共同育成及び
貧困地域での技術導入、国有企業での技術革新などに参加する際に
必要な旅費に限定されている。2006 年までに、12000 名以上
がこの助成を受けた。
長江学者奨励
1998 年
教育部
計画
国内外の優秀な学者を中国の高等教育機関に招致し、国際的なトッ
プレベル人材を養成することを目的に設立された制度である。香港
の「長江基建有限公司」が多く出資したため、この名がついた。対
象者には、長江学者特別招聘教授や講座教授のポストが与えられ
る。また、任期中に大きな学術成果を収めたものには長江学者業績
賞が与えられる。1998~2006 年の間に、97 校の高等教育機関
で 799 名の特別招聘教授と 308 名の鋼材教授が採用された。
千人計画
2008 年
中央人材
海外において重要な技術やハイテク産業を取得し、それらを中国で
工 作協 調
推進できる科学者や指導者の人材の帰国、もしくは外国人の中国誘
チーム
致を目的としている。対象は、海外の著名な高等教育機関や研究機
関において教授相当のポストに就いた者、国際有名企業と金融機関
において上級管理職を経験した経営管理人材及び専門技術人材、自
主知的財産権やコア技術を有する人材等である。選定された者は、
国内の高等教育機関や中央企業の上級管理職や専門技術職、国家重
大プロジェクトの責任者等のポストを与えられる他、補助金や各種
手当といった収入面での処遇を受けることができる。
出所:
「平成 21 年版中国の科学技術の現状と動向」JST 中国総合研究センター,Science Portal China ウェ
ブサイトより MRI 作成
II-21
2. 海外の先進事例調査
ドイツ、シンガポール、中国において、当該国内の大学等が国外の企業と密接に連
携して活動している先進事例を 3 拠点選定し、以下の項目について調査・分析を行っ
た。

国際的な産学連携の位置づけ・ニーズ

国際的な産学連携活動の実施体制

国際的な産学連携活動の実績と効果

国際産学連携活動に対する学内外の評価

国際的な産学連携活動を促進するための各種取組

国際的な産学連携活動を行う上での課題
本調査は、文献・インターネット調査とインタビュー調査により実施した。インタ
ビュー調査は、当該大学等と、その産学連携相手である日本企業(各国からみれば海
外企業)に対して実施した1。対象とした先進事例は以下の通りである。
表 2-1 国内の先進事例調査対象
国
事例
連携相手(日本企業)
ドイツ
フラウンホーファー研究機構(日本支部)
フラウンホーファー研究機構(本社)
2
シンガポール
ミュンヘン工科大学
Fujitsu Asia Pte Ltd,
シンガポール経済開発庁(EDB)
Fujitsu Asia Pte Ltd,
生物医学研究評議会(BMRC)
(参考)
科学工学研究評議会(SERC)
早稲田大学研究戦略センター
シンガポール国立大学(NUS)
および早稲田大学 WABIOS
3
株式会社ナノフロンティア
シンガポール経営大学(SMU)
ナンヤン・ポリテクニック(NYP)
中国
清華大学
大手機械メーカーA 社(技術企画担当者)
上海交通大学
-
(注)早稲田大学はシンガポール・バイオポリスに研究ラボ Waseda Bioscience Research Institute in
Singapore(略称:WABIOS)を設置している。
1
一部、連携相手企業へのインタビューを実施していない大学等もある。
2
バイオメディカル研究開発拠点であるバイオポリス(Biopolis)の関係機関である。
3
「NanoFrontier は、シンガポール経済開発庁(EDB)と総合科学技術大学トップのナンヤン工科大学(NTU)がナノテ
クの応用開発・事業化を目的に設立した合弁企業。NTU の保有する総額 150 億円規模の研究設備と研究員を動員し、NTU
の技術・特許を活用した共同開発や企業からの受託研究を行っている。
」
(出所:イー・エクスプレス株式会社ウェブサイト
<http://www.e-express.co.jp/past/fpd_0505.htm>)
II-22
2.1 ドイツにおける国際産学連携への取組
2.1.1 国際的な産学連携の位置づけ・ニーズ
本調査の対象としたフラウンホーファー研究機構(Fraunhofer Gesllschaft:
FhG)
、ミュンヘン工科大学(Technische Universität München:TUM)ともに、
産学連携には国内外を問わず長年に渡り取り組んできており、ごく自然な研究活動の
一部となっている。特に国際的な連携を行う理由としては以下の点を挙げている。
(1)質の高い研究・研究者の確保(FhG、TUM)
フラウンホーファー研究機構は研究の質を高め、世界中から優秀な人材を獲得する
ことにより、European Research Area のドライビングフォースとなることを目指
している。ミュンヘン工科大学はあくまで産学の研究者同士の興味が一致するかが鍵
であり、相手先の国はその結果で決まるものと位置づけている。
(2)将来有望な海外市場の獲得への期待(FhG)
FhG は「社会に役立つ実用化のための研究」をテーマに、国内外のアカデミアと企
業の橋渡し研究を行う欧州最大級の応用研究所であるが、最先端の技術を獲得し、中
国やインドのような将来の主要市場に備えることが意識されている。
(3)地球的規模の問題への貢献(FhG)
FhG は地球的規模の課題の解決は、世界のベストパートナーとの連携を通じてのみ
実現すると位置づけている。
2.1.2 国際的な産学連携活動の実施体制
(1)フラウンホーファー研究機構
(a)顧客連携の起点としての海外拠点設置
フラウンホーファー研究機構は、海外拠点として、機能の異なる 4 種類の拠点、す
なわち研究所(100%現地法人)
、研究施設(センター)
、事務所(代表部とも呼ばれ
る)及びシニアアドバイザーを置いている(以上、規模の大きい順)
。
現在、ドイツ国内には本部及び 60 の研究所(40 カ所)が、米国及びオーストリ
ア、イタリア、ポルトガルには研究所が、シンガポール及び中国には研究施設がある。
また、日本、韓国およびインドネシア等には事務所がある。今後のビジネスチャンス
を広げるため、ドバイ等の中東地域にも事務所等を設けている。
II-23
海外でのオフィス展開は、必ずしもフラウンホーファー研究機構の本部が決めるの
ではなく、傘下の研究所で必要性があれば個別に進出する。
フラウンホーファー研究機構が初めて進出する地域で顧客層が明確でない場合は、
事務所の開設の前にシニアアドバイザーを置き、ビジネスチャンスの可能性を探るこ
ととしている。事務所には窓口としての機能はあるが、研究機能はない。大型のプロ
ジェクトを受注することになった場合には、研究機能を持たない事務所を発展させ、
研究施設や 100%の現地法人(フラウンホーファー研究機構の 100%子会社)の研
究所を設けることで、現地においてより密着した連携を実施することとしている。
フラウンホーファー研究機構の海外拠点の責任者は、研究機構の職員やドイツ国内
での就業経験者で、かつ設置国出身の人材を海外拠点の責任者とするケースが多い。
(b)外部資金獲得と連動した政府からの運営資金配分
各研究所の研究資金は本部から配分されるものと、各研究所が独自に外部資金を獲
得するものがある。ポイントは、研究所が独自に獲得する外部資金が減ると、本部か
らの配分も減る仕組みとなっている点である。従って、各研究所は外部資金獲得に注
力することになり、外部資金の取得は、フラウンホーファー研究機構内で強く奨励さ
れている。研究分野ごとにビジネスユニットを設置し、顧客獲得を行っている。
フラウンホーファー研究機構の契約形態としては、契約研究が基本であり、ライセ
ンス形態はほとんどない。一般には、通常実施権は委託研究費用に含まれるが、独占
実施権には追加支払いが発生する。
フラウンホーファー研究機構は知的財産権の確保を重視しており、国際的な産学連
携活動ではすべての知的財産権の所有者となることが基本方針であり、他国において
はジョイントベンチャーを設置しない。ジョイントベンチャーは合弁先と知的財産権
をシェアすることになり、その知的財産権に関してドイツ政府のコントロールがきか
なくなる可能性があるためである。
(2)ミュンヘン工科大学
(a)産学連携窓口はなく、教員個人のつながりが産学連携の契機
ミュンヘン工科大学では、研究者の所属学部が様々であり、産学連携に際しては学
内の多くの部門が関わるため、産学連携の調整窓口は存在しない。通常、学長を筆頭
とする会議(Präsident Büro=President office)で審議される。産学双方のトップ
の話し合いのもとで決まることも多い。
産学連携の約9 割は、
企業のマネジメント部門から大学の研究者に直接相談がある。
ミュンヘン工科大学は産業界出身の教員が多いため、研究者同士の個人的なつながり
から産学連携に発展することもある。きっかけは学会、会議、ワークショップ、シン
ポジウム等様々である。産学間の人材交流は、博士課程学生が、博士論文の執筆のた
II-24
め企業に行くケース、企業の従業員が産学コーディネーターとして大学に来るケース
がある。
(b)TUM FoRTe:技術移転の中心組織
技術移転業務を支援する組織としては、TUM FoRTe(Forschungsförderung &
Technologietransfer: Office for Research and Innovation)1がある。FoRTe
では、学内で生まれた知的財産の企業への技術移転を支援する他、ミュンヘン工科大
学の知的財産に基づいたベンチャー企業のスピンオフやスタートアップ支援も行って
いる。また連邦政府の進める各種プログラムで関連するものがあれば、学内研究者に
報知し、活用してもらうのも TUM FoRTe の役割である。
ただし、TUM FoRTe だけで技術移転業務を全て担うことは困難であるため、TUM
Legal Office(技術移転にかかる法的問題を取り扱う)や Bayerische Patentallianz
GmbH(ミュンヘン工科大学の知的財産を商品化する企業)
、gate と呼ばれるビジネ
スインキュベーター(州の非営利)の力も借りている。
2.1.3 国際的な産学連携活動の実績と効果
(1)国際的な産学連携活動の実績
(a)フラウンホーファー研究機構
フラウンホーファー研究機構の研究予算全体は年間約 14 億ユーロ(約 1,584 億
2
円 )である。連邦政府からの研究資金(base funding)は 4.3 億ユーロ(約 487
億円)であり、フラウンホーファー研究機構の研究資金の土台となっている。その他
の資金は契約研究による受託資金である。受託資金のうち、4.5 億ユーロ(約 510
億円)が産業からの委託研究により賄われている。
フラウンホーファー研究機構が民間企業との連携に熱心と言っても民間企業からの
資金は停滞気味であり、研究資金の多くは公的資金で増加傾向にある。
委託研究の相手先は、金額が多い順に米国、オーストリア、スイス、日本の順とな
っている。オーストリアやスイスとの連携が多い理由としては、同じドイツ語圏のた
め連携がスムーズであること、
地理的にも近く連携コストが安いこと等が挙げられる。
1
http://portal.mytum.de/forte/index_html_en
2
1 ユーロ=113.16 円で計算(日本銀行金融市場局「外国為替市況」2011 年 3 月 1 日午前 9 時時点のレートを使用。
<http://www.boj.or.jp/statistics/market/forex/fxdaily/2011/fx110301.pdf>)
II-25
(b)ミュンヘン工科大学
1)長期間にわたる国際産学連携の実績
ミュンヘン工科大学が 2009 年度、
産業界から得た資金は 95 百万ユーロ
(約 110
億円)である。国内外企業との契約件数は、昨年度の新規契約分で約 700 件であり、
うち国外の企業との契約は約 20-30%を占める。ここ数年産学連携が増えているの
は、企業側のオープンイノベーションへの対応であると考えられる。連携相手の規模
の内訳は、産学連携において国内外を意識していないものの、実績ベースでは国外よ
りも国内企業や地元企業との連携が多くなっている。
シーメンスとは 100 年以上の連携の実績があり、学内に研究所を構える GE など
との連携実績も長い。他、アウディや BOSCH 等の大企業とも長期間にわたり連携し
ている。国際的な産学連携において金額、件数共に最も多い形態は委託研究(contract
research)である。次に多いのが共同研究である。
2)シンガポールへの進出
ミュンヘン工科大学は、2002 年に、シンガポール政府及びドイツ政府の支援を受
けて、ドイツとしては初めてシンガポールに研究所(German Institute of Science
and Technology: GIST1)を設立した。この拠点は研究機能のみならず教育機能も
備えている。シンガポール政府が進める国際戦略により、インド、マレーシア、イン
ドネシア、シンガポール等様々な国籍を持つ学生や研究者が一同に集まるので、学生
や研究者間の国際ネットワークが構築されている点が魅力となっている。
シンガポールに拠点を設けたことがきっかけとなり、シンガポール内外の大学およ
び企業との共同研究・委託研究が増えている。大学との連携では 2010 年、シンガ
ポール政府、ナンヤン工科大学との共同で研究所(TUM Create)を設立した。企業
との連携としては、富士通アジア(Fujitsu Asia Pte Ltd)からの提案を受けて共同
研究を行っている。研究資金は富士通アジアから提供されているが、ミュンヘン工科
大学側もドイツの連邦・州政府のファンドを受けておりマッチング形式で研究を遂行
している。
(2)国際的な産学連携活動の効果
国際的な産学連携が周辺地域およびドイツ国内の企業に対して与える直接的な効
果は限定的(あるいは殆どない)と考えられている。また、国際産学連携の効果とし
て学生が卒業後、連携先の企業に就職することを挙げている。
1
http://www.gist.edu.sg/index.aspx
II-26
2.1.4 国際産学連携活動に対する学内外の評価
(1)ドイツ国内での評価
フラウンホーファー研究機構、ミュンヘン工科大学ともに、国際的な産学連携を通
じて、国内の研究者が海外の最先端の研究に触れ、研究のトレンドをつかみ、ノウハ
ウを蓄積した上、大学等が名声を得られると評価している。
(2)日本企業からみた評価
ミュンヘン工科大学と連携した富士通アジアでは、企業、相手先大学の双方が異な
る専門性のチームであったため、
単独では得られないようなユニークな現象を発見し、
それを制御する技術を完成することができたとの評価をしている。
また富士通アジアは、の大学の産学連携体制、特に学生の係わり方を高く評価して
いる。例えば、共同研究テーマに対して、優秀な大学院生を専属で配置して、一緒に
成果を出そうとする積極的な姿勢とそれを実現する大学側の体制を高く評価している。
ドイツの大学院生は当該研究資金から給与を支給され、そのテーマに係わる研究を進
めるなかで博士論文を書くことになるため、共同研究に対して大学院生が真剣に取り
組むインセンティブが働く仕組みとなっている。
2.1.5 国際的な産学連携活動を促進するための各種取組
フラウンホーファー研究機構は国内外問わず、民間企業のような積極的なマーケテ
ィングは行っていないと認識している。しかし、実際には海外事務所や技術的なワー
クショップ、セミナー、論文、プレスリリース、イベント等を通し、フラウンホーフ
ァー研究機構の卓越したイメージを積極的に発信しており、日本でも企業だけでなく
地方公共団体にも足を運んで情報発信を実施しており、海外での提案活動は精力的で
ある。
なお、フラウンホーファー研究機構では、活動が産業界から離れすぎないよう、国
内外企業からの研究資金は委託研究費の 4 割を目標としている。傘下の研究所におけ
る国内外企業との連携のモチベーションを上げるため、企業からの委託研究費が目標
を上回った研究所には、連邦政府及び州政府からの研究費の一部を基盤的経費(ボー
ナス)として支給するようにしている。
ミュンヘン工科大学は、海外で大学が認知されるようになった契機は担当部署
(Alumni(同窓会)
)によるところもあるが、一番宣伝効果があるのは大学生や大学
OB・OG であると認識している。その点、学生が海外企業に就職していることが国
際産学連携の一つの契機となっているとも考えられる。
II-27
2.1.6 国際的な産学連携活動を行う上での課題
(1)大学等から見た課題
ドイツの大学等でも、国際的産学連携における課題には、コミュニケーション・文
化の問題と認識されている。国際的に開かれたグローバル企業との連携は比較的容易
ではあるが、大学等との連携に慣れていない、経験不足の企業との連携においては障
害が生じることがあると認識している。
また、国による法令の違いで調整がつかず、国際的な産学連携が成立しないことも
ある。例えば、ドイツの法律では、国際的な産学連携を行う場合においても、大学が
知的財産権を必要とする人から一部を報酬として受け取る権利を持つ。ロイヤルティ
についても別途交渉するのが普通である。
相手先でこの条件を受け入れられない場合、
合意が困難となる。
【参考:産学連携全般の課題】
国際産学連携に限らず、産学連携全般における課題として、連携相手先との成果に関する認識の違いが生じ
ることが挙がった。例えば、研究機関側では今後の実用化等に結びつく「研究」が成果であると認識する一方、
産業側では「製品」までを期待されることがある。また、
「アカデミックな研究」と「企業からの委託研究」で
は、研究者のマインドが異なる点に留意する必要がある。
「企業からの委託研究」を実施する上では、研究者の
マインドを企業向けに合わせる必要があり、そのための研究者の教育が必要と大学等では考えている。ただし、
企業や政府からの契約研究が主体であると、アカデミックな研究があまりできなくなってしまうことは研究者
にとって課題であるとの認識も聞かれた。
(2)日本企業から見た課題
日本企業の側から見て、産学連携で困難が感じられた点としては、日独の思考や文
化の違い、知的財産の取扱が挙げられた。思考や文化的な違いについては、ドイツ人
はロジカルに納得するまで動きださない国民性があり、新しい現象を探索する初期の
フェーズでは、研究への動機付けに悩んだとの経験が挙げられた。
知的財産の取り扱いについては、共同研究がスタートした時点から徐々に大学側の
知財管理方針が変化してきたため、
契約更新時の交渉が難航したことが挙がっている。
また、職務発明の取り扱いを定めた法律があり、共同研究契約を開始した当初は、枠
組の理解が難しかったとの意見があった。
II-28
2.2 シンガポールにおける国際産学連携への取組
2.2.1 国際的な産学連携の位置づけ・ニーズ
シンガポールは、自国の資源が限られていることから、常に競争力の高い産業への
重点的な資源投入が重要となっている。一方、国内企業は中小企業が中心であり、グ
ローバルな事業展開やイノベーション推進は海外企業(多国籍企業)への依存が大き
いこともあり、
政府は海外企業の誘致を積極的に進めている。
またシンガポールでは、
学術的な研究成果の産業への応用が強く意識されており、研究助成においても産業と
の関連性が重視されている。
この結果、国際産学連携については、主に多国籍企業誘致を通して国内外から優秀
な研究者人材をシンガポール国内に集め、そこで産学連携を推進することにより、大
学を含めた国内の研究機関の能力向上を期待している。また国内中小企業は、能力が
強化された研究機関等と連携することにより、結果的に国内中小企業の技術基盤の底
上げにつなげることを狙っている。したがって産学連携において外資系企業がパート
ナーとして果たす役割が明確であり、結果として国際的な産学連携が積極的に進めら
れている。
2.2.2 国際的な産学連携活動の実施体制
(1)シンガポール政府機関
(a)A*STAR
シ ン ガ ポ ー ル 科 学 技 術 研 究 庁 ( Agency for Science, Technology and
Research:A*STAR)は、貿易産業省(Ministry of Trade and Industry:MTI)
傘下のファンディング機関かつ中核的研究機関である。
A*STAR 傘下には、研究開発政策を担当する研究評議会が 2 つおかれており、一
つは、科学・工学研究開発の振興を目的とした科学工学研究評議会(Science and
Engineering Research Council:SERC)
、もう一つは生物医学研究開発の振興を
目的とした生物医学研究評議会(Biomedical Research Council:BMRC)である。
双方とも、基礎研究から応用研究までを対象に、民間部門の研究開発部門、公立の
研究機関・研究所、大学・ポリテクニックの間の調整と監督を行っている。
II-29
A*STAR
Chairman: Mr Lim Chuan Poh
Managing Director: Prof. Low Teck Seng
JCO
SERC
(Science and
Engineering
Research
Council)
DSI, I2R,
ICES, IHPC,
IME, IMRE,
SIMTECH
BMRC
(Joint Council
Office)
研究機関
(Biomedical
Research
Council)
BII, BTI, GIS,
IBN, IMB,
IMCB, SICS
AGA
ETPL
(A*Star
Graduate
Academy)
(Exploit
Technologies
Pte Ltd)
研究機関数: 14
研究者数: 約2,200名
(出身国 50カ国以上)
図 2-1 A*STAR 組織図
1)SERC
A*STAR の 科 学 工 学 研 究 評 議 会 ( Science and Engineering Research
Council:SERC)は、基礎研究及び応用研究から生じた知的・人的資本の活用によ
り、経済的価値を確保することを責務としている。重点は、中期(5~10 年)から長
期(10 年以上)の産業志向の研究開発に置いており、産業向け研究開発能力の構築・
強化・定着を図っている。また、人的・知的・産業的資本の開発も重視している。
SERC 傘下には、7 つの研究所が設置されている。SERC 傘下の研究所と企業との
連携には、1)研究協力、2)研究所内ラボ、3)コンソーシアム及び官民連携の 3 つ
の形態がある。研究協力は、個別の A*STAR 研究所と特定のプロジェクトを実施す
る形態である。研究所内ラボは、A*STAR 研究所内に企業のラボを設置するもので、
高額なラボ設置費用や各種設備投資をすることなくすぐに研究を開始できるメリット
がある。コンソーシアム及び官民連携には、多数の有識者が関与する応用研究開発や
技術ロードマップの作成のような形式がある。
2)BMRC
A*STAR の生物医学研究評議会(BMRC: Biomedical Research Council)は、
シンガポールにおける生物医療分野の公的研究開発活動の支援、監督、調整を行う組
織である。シンガポールでは、エレクトロニクス、エンジニアリング、化学に続く経
済の第 4 の柱として、バイオメディカルサイエンスを据えた。シンガポール政府の取
組の中で、BMRC は主に公的研究活動への資金配分及び支援を行っている。民間部門
における製造や研究開発活動は、シンガポール経済開発庁(Economic Development
Board:EDB)が担当している。
II-30
(b)シンガポール経済開発庁(EDB)
シンガポール経済開発庁(EDB)は、シンガポールのグローバルビジネスセンター
としての地位を高め、国内経済を発展させるため、戦略の立案および実行を主導する
政府機関である。主に、海外投資の誘致、産業構造の発展、ビジネス環境の整備を重
点としている。経済開発庁の活動目的は、シンガポールの GDP の成長と雇用創出で
ある。そのために、海外投資の誘致、産業構造の発展(新成長分野の探索)
、ビジネス
環境の整備、を中心に活動している。
経済開発庁の組織は以下の通りである。企業からアプローチしやすい(窓口が分か
りやすい)よう、産業開発については業界ごとの組織となっている。
出所:http://www.edb.gov.sg/edb/sg/jp_jp/index/about_edb/organisation_structure.html
図 2-2 経済開発庁組織図
EDB による国内外企業に対する奨励策は極めて多岐に亘る。例えば、産学連携に
最も関係の深いイノベーション・R&D・知的財産権に関する奨励策をはじめ、設備・
技術に関する奨励策、事業開発に関する奨励策、統括本部に関する奨励策、産業開発
に関する奨励策などがある。
EDB は主に多国籍企業含む大企業に対応しており、中小企業には主に規格・生産
II-31
性・革新庁(Standards, Productivity, and Innovation Board:SPRING)1が対
応している。EDB では在シンガポールの多国籍企業とのインタラクションが多い。
シンガポール国籍の大企業はほとんどなく、製造業で規模が大きいところは外国企業
の OEM を行っていることが多い。従って、国としてもどうしても外国の大企業に対
して露出を増やすことが重要という位置づけになっている。
(c)National Research Foundation(NRF)
シンガポールにおける研究助成ファンドはシンガポール国立研究財団(National
Research Foundation of Singapore:NRF)が準備し、ほとんどが各省庁のプロ
グラムを通じて提供される。重点分野として、バイオメディカル、環境・水技術、イ
ンタラクティブ・デジタルメディアの 3 分野が挙げられている。NRF では研究開発
支出の GDP 比 3%を目指している。
(2)高等教育機関
(a)シンガポール国立大学(NUS)
シンガポール国立大学(National University of Singapore:NUS)には、産学
連携窓口として NUS Enterprise が設置されている。シンガポール国立大学の学長の
直下に配置されている、研究技術担当、学術担当、事務担当とならんで、NUS
Enterprise の CEO が位置づけられている。
理事会
常任委員会
理事会
学長
評議会
学長代理
(研究・技術担当)
副学長
大学国際連
携担当
副学長
研究戦略担
当
学長代理 兼 学務部長
(学術担当)
副学務部長
教育担当
副学務部長
教育人事担
当
学長代理
(事務局担当)
副学長
人事担当
CEO
NUS Enterprise
副学長
キャンパス整
備担当
図 2-3 シンガポール国立大学組織図
NUS Enterprise は、シンガポールの経済発展のためにシンガポール国立大学の研
究・自在リソースを活用して企業活動を支援する役割を担っている。NUS Enterprise
1
貿易産業省の下位機関であり、生産性と革新、標準と品質、中小企業と国内部門の 3 分野に焦点を当てている。
http://www.spring.gov.sg/aboutus/pages/spring-singapore.aspx
II-32
内部には、産業リエゾンオフィス(ILO)
、海外カレッジ、起業センター、法人サービ
ス、事業部門に分かれている。
産業リエゾンオフィス(ILO)の主な役割には、
(1)企業との連絡窓口として産学
連携の促進、
(2)知的財産の管理、商用化がある。企業との連絡窓口としての主な活
動には、企業との戦略的関係構築と研究協力が可能な案件の特定、教員や研究センタ
ーとの密な連絡を通しての研究・知的財産状況の経常的な把握、外部機関との協力に
おける交渉の主導的な実施などがある。知的財産管理においては、知的財産の評価・
保護・活用を通して産業に寄与している。
大学と企業を結びつける役割は産業リエゾンオフィス(ILO)が担っているが、実
際には政府機関である経済開発庁が企業(主に大企業や国際的な企業)に大学を紹介
してくれるケースも多い。
NUS Enterprise
NUS 海外カ
レッジ
産業リエゾン
オフィス
NUS 起業セン
ター
法人サービ
ス
- Strategy &
Biz Dev
- MarComm
- Finance
- IT
Secretariat
事業部門
- NUS Press
– NUS
Extension
(NEX) - NUS
Technology
Holdings
(NTH)
図 2-4 NUS Enterprise 組織図
(b)ナンヤン工科大学(NTU)ナノフロンティア
ナンヤン工科大学(Nanyang Technological University:NTU)は、1981 年
に創立された、技術面における専門教育と研究に注力する大学教育機関である。ナン
ヤン工科大学の技術移転等を行う会社として、NTU Ventures Pte Ltd. が設置され
ている。ナノフロンティア(NanoFrontier)は、技術の商業化を図る、NTU Ventures
の全額出資「子会社」であり、経済開発庁(EDB)の支援のもと 2004 年に設立さ
れた。経済開発庁等政府機関との協力のもとベンチャー企業支援等を行っている。特
にアーリーステージのナノテク技術を対象に、コンセプト証明(proof of concept:
POC)
、価値証明(proof of value: POV)を必要とする企業向けのビジネスを展開
してきている。
ナノフロンティアによる産学連携支援は、クライアント企業のニーズを発掘し、学
内で最適な研究者・研究グループを見つけ出し、成果、費用、スケジュールなどの観
点でプロジェクト化を支援する形式で行われている。ナノフロンティアは、経済開発
II-33
庁および規格・生産性・革新庁(SPRING)と密接に連携しており、企業からの研究
資金で不足する場合には追加的なプロジェクトファンド確保を支援している。研究に
よっては、実際に研究プロジェクトがスタートした後のプロジェクトマネジメントも
ナノフロンティアが行うこともある。
ナンヤン工科大学の研究リソースを用いたナノ分野の産学連携において、ナノフロ
ンティアを介することは必須ではない。産業界と強いコネクションを持つ一部の研究
者は直接企業とやりとりをして研究を進めている。
研究成果としての知的財産については、NIEO(Nanyang Innovation and
Enterprise Office)が管理する。大学と企業の共有が基本形だが、交渉によって企業
に独占実施権を認めることもある。大学への実施料収入は、50%が発明者に、50%
が大学本体に配分される。
(c)シンガポール経営大学(SMU)
シンガポール経営大学(Singapore Management University:SMU)は、公的
基金によって運営されるビジネス/経営学の専門大学であり、
この種の大学はシンガポ
ールで初である。起業家育成を目的とし、2000 年 1 月設立された。学部/研究科
(School)には、会計学(Accountancy)
、経営学(Business)
、経済学(Economics)
、
情報システム(Information Systems)
、法学(Law)
、社会学(Social Sciences)
がある。シンガポール経営大学には、全学横断的な活動を行う 「institutes」が 6 つ
設置されている。教育・研究を行う組織、訓練を目的とした組織などがある。
表 2-2 シンガポール経営大学の 6 つの「institutes」の概要
名称
Behavioural
概要
Sciences
様々な社会的・組織的・文化的状況における人間の行動に関する科学的知識
Institute(BSI)
の創出、発信、応用を行う学際的な研究所。
Financial Training Institute
金融関連(コーポレートバンキング、ファンドマネジメント、プライベート
@SMU(FTI@SMU)
エクイティ等)の訓練・評価プログラムを実施する組織。
Human Capital Leadership
アジアにおける人的資本管理能力を高めることを目的に設立。シンガポール
Institute(HCLI)
労働省(Ministry of Manpower)がシンガポール経営大学と共同で設置し
た。
Institute of Innovation &
シンガポール経営大学や社会全般にイノベーション文化、起業コミュニティ
Entrepreneurship(IIE)
を育てることを目的とした組織。
(詳細は後述)
Institute
シンガポールにおけるサービスの水準の向上、優れたサービスの文化の振興
of
Service
Excellence at SMU(ISES) を目的に、雇用訓練庁(Singapore Workforce Development Agency:
WDA)とシンガポール経営大学が共同で設置。
International
Trading
貿易に関する教育・訓練を提供する組織。コンサルティングサービス等も提
Institute @SMU(ITI)
供している。大学内にこのような組織を設置するのは国内初。
Sim Kee Boon Institute for
シンガポールや周辺国の経済に戦略的に重要な分野についての金融経済学、
Financial
計量経済学を推進する。金融経済学において産業に負うようでき、実務的側
Economics
SMU(SKBI)
at
面を持つ学術研究を実施。
II-34
Institute of Service Excellence at SMU(ISES)は、シンガポールにおいて GDP
の 75%弱を占めるサービス業のレベル向上のために設置された機関で、ベンチマー
キング及び比較分析、研究、産業界の関与の 3 つを重点としている。いずれも実際の
サービス業界との連携が重視された活動となっている。ISES は産業界で実際に活躍
している人材との直接的な交流を重視しており、フォーラム、対話、リーダーシップ
研修・上級特別クラスなどの場で、
企業経営の現実に触れる機会を多数用意している。
サポートの対象となるサービス業の企業の国籍は問わない。ただし、シンガポールで
事業を行なっている起業でシンガポール経済に影響を与えていることは必須である。
Institute of Innovation and Entrepreneurship(IIE)は、シンガポール経営大
学の学生、教職員が、コミュニティとの連携を通してイノベーションや起業家文化を
創出し、育成することを目的に設置された。また IIE は、発明者のアイデアの商業化
を支援する役割を担っている。質が高く力強いスタートアップ企業創出も目指してい
る。
(d)ナンヤン・ポリテクニック(NYP)
ナンヤン・ポリテクニック(Nanyang Polytechnic:NYP)は、職業訓練を主眼
にした高等教育機関(高等専門学校)である。産業界で必要とされる人材を養成する
ことに焦点が当てられており、応用・開発志向の訓練を実践している。通常は 2 年間
で幅広い基礎を身につけ、3 年目に特定分野について学ぶ。
シンガポールにおけるポリテクニック教育は、1950 年代にシンガポール産業化プ
ログラムを支える教育制度として誕生したもので、技術開発や急激に変化するシンガ
ポール経済に歩調を揃えている。1980 年代はポリテクニックに進学する生徒は約
5%だったが、現在では 40%にまで増加している。
創立者の一人が経済開発庁(EDB)出身ということもあり、最終的にはシンガポー
ル経済に貢献することがナンヤン・ポリテクニックの役割とされている。そのためポ
リテクニック設立の目的の一つに産学連携が掲げられており、当たり前のミッション
として認識されている。基礎研究も対象となる大学とは異なり、産業界に役に立つこ
とが証明できない研究はナンヤン・ポリテクニックでは実施する意味が無いと認識さ
れている。
ナンヤン・ポリテクニックでは、理事会やアドバイザリーコミティー経由で、産業
界からのインプットがあり、産学協同プロジェクトなどを通じた緊密な産学連携を実
施している。また、産業界と業務を遂行するためのスタッフの能力開発も実施してい
る。
II-35
2.2.3 国際的な産学連携活動の実績と効果
(1)A*STAR
A*STAR SERC の研究所では 2009 年度に 245 の企業と 268 のプロジェクト
で研究開発連携を遂行した。
連携企業には多くの多国籍かつ大規模な企業が含まれる。
シンガポールにおけるバイオ分野の研究環境は、こうした研究開発連携の遂行等を
背景として、研究者として優れた人材が生まれつつある状況と評価できる。しかし強
力な研究ネットワークが形成されているとまでは言えず、個々の研究者の研究力に頼
っている状況とも言える。
アカデミアの研究からスピンオフ創業するベンチャー企業は、シンガポールのバイ
オ分野ではまだ成功例が非常に少ない。A*STAR では、創業支援よりもむしろ、既
存の中小企業の技術レベル、研究開発レベルを底上げすることをサポートするという
意味で国際産学連携を捉えている。
シンガポールにおけるバイオ研究を行う日本の機関として、バイオポリスに入居し
ている富士通アジアと早稲田大学がある。いずれも、シンガポール政府(A*STAR)
からの誘致をきっかけにシンガポールに進出している。
(a)富士通アジア
富士通アジアと A*STAR の研究所との連携事例では、A*STAR 側が日本企業の新
しい技術に対して強い関心を示したことが、共同研究をスタートした契機である。そ
の後、双方で人脈形成などが進んだことなどを理由として、シンガポールに進出して
国際産学連携を推進することとなった。連携先の研究機関の選定にあたっては、新し
い研究パートナーは広く海外を含めて広く模索している。その際、研究機関の所在地
に関わらず、企業側の有する基盤技術の強化につながる成果が得られそうかという点
が重視された。
(b)早稲田大学 WABIOS
早稲田大学は未だ国内大学の国際的な産学連携自体が活発とは言えない状況の中、
大学の窓口だけでなく研究自体を行う海外拠点を設定している点で極めて先進的であ
ると言える。
シンガポールの研究拠点化は、早稲田大学で掲げている「教育・研究のグローバル
化推進」が中長期的な優先課題と位置づけられた中で、シンガポール政府から直接大
学にバイオポリスへの誘致があったことが契機となった。
進出に際し、大学独自で現地調査を実施した後、2004 年 7 月にオリンパス(株)
と共同で早稲田・オリンパスバイオサイエンス研究所 WOBRI(Waseda Olympus
Bioscience Research Institute)を開設した。2009 年 9 月からは、WOBRI の後
継となる、早稲田大学単独の研究所 WABIOS(WASEDA Bioscience Research
II-36
Institute in Singapore)を設置した。現在、アジアの研究開発拠点をシンガポール
に 設 置 し て い る デ ン マ ー ク 系 の ベ ス タ ス 社 ( Vestas 1 ) と 、 秘 密 保 持 契 約
(non-disclosure agreement: NDA)を締結し、産学連携の可能性を探っている。
また、WABIOS では国際的な学学連携が進められている点も注目される。
現在は、シンガポールに進出している米国デューク大学(Duke University)
、シン
ガポール国立大学(NUS)とともに医学系大学院構想の実現を目指して大学間連携を
行っている。また A*STAR との間で研究者および学生の交流を促進する旨の
Memorandum of Intent(MOI)を締結し、A*STAR の研究者と早稲田大学の学生
を交換する等にも取り組んでいる。
(2)シンガポール国立大学(NUS)
シンガポール国立大学は国内屈指の総合大学であり、国際的な産学連携という意味
でも組織的な取組を行って来た歴史を有する。1992 年から当時 INTRO(Industry
Technology & Relations Office)というオフィスが工学部イノベーションセンター
に設置されたのが、産学連携の組織的支援の始まりである。
産学連携件数(概数)は 2008 年に累計 400 件だったものが 2011 年には累計
700 件近くまで増加する見込みである。
シンガポール国立大学の各研究所、研究センターでは、設立後 5 年間経過すると経
済的に自立することが求められるため、必然的に外部資金の獲得に熱心になり、その
ひとつの手段として産学連携活動も熱心になっている。
ただし、シンガポール国立大学の教員のうち、産学連携に熱心と思われる教員は全
体の 20%程度であり、残りの 80%の教員は、産学連携に強い興味を持っていない。
しかし、大学としてはこの 20%の教員で産学連携の成功事例を積み上げていくこと
で、残りの 80%の教員にも産学連携の重要性が伝わっていくと考えている。
(3)NTU ナノフロンティア
NTU ナノフロンティアはナンヤン工科大学のナノテクに関する研究リソースを産
業界のニーズに展開していく、という使命を持って 2004 年以降活動してきた。これ
までの 18 ヶ月で 3~4 の国際的な企業から、
および 2~3 の地域企業との委託研究・
共同研究を実施している。
NTU ナノフロンティアのこれまでのクライアント企業には多国籍大企業も、中小
規模のシンガポールの企業双方の企業があったもある。他のシンガポールの研究機関
と同様、産学連携を進める上で、
「国際」か「国内」かという点で異なることはないが、
一般的に、中小企業では研究開発リソースが限られていることもあって、産学連携に
関しては失敗できないという態度・成果に過剰に期待するという傾向がある。一方で
1
http://www.vestas.com/en/jobs/work-locations/singapore/singapore-asia/pacific-hq.aspx
II-37
多国籍大企業では、通常潤沢な研究開発費用を持っており、はっきりした研究成果の
イメージを予めもっていることが多い、という違いはある。
最近になってその活動分野をバイオメディカル分野に移行させるという大学の方針
変更があり組織的な転換期にある。この分野では中国企業からの引合が非常に増えて
いることが特徴としてあげられる。
(4)シンガポール経営大学(SMU)
シンガポール経営大学では経営学という実学を研究・教育するという立場上、企業
との不断の関係強化は不可欠であることから、学術的な研究以外にも企業と連携する
機会を多く持っている。
例えば「アフィリエイトコーナー」という活動では、特定分野の技術や特許を保有
するような発明に長けた研究者(シンガポールに限らず、イギリス、オーストラリア
など含む大学教授等)と、起業が得意な人材をマッチングする場を提供している。こ
れまでの 1 年半ほどの活動で、24 の起業にかかわり、約 50 のスタートアップ企業
への支援も行った。
「イノベーション・ラボ」では学生がチームを組み、企業のニーズを反映したプロ
トタイプの制作を行い成果を競う。これまで 60 近くのプロジェクトが対象となり、
そのうち 5~6 のプロジェクトについては次の実証ステージに進むという実際のビジ
ネスと同じ開発過程を経験させている。
(5)ナンヤン・ポリテクニック(NYP)
大学よりも実践的な技術や経験を伝える役割が高いナンヤン・ポリテクニックでは
産学連携の目的は収益を得るためではなく、産業界の具体的な課題解決のための課題
を通じて技術を獲得し、その技術をシンガポールの主として中小企業に伝承すること
により、
シンガポール企業の技術レベルの底上げを図ることであると認識されている。
したがって、
どんな共同研究のオファーも受けるわけではなく、
この目的に沿うよう、
連携パートナーや案件の内容を精査して選定する。
今後注力すべき連携分野としては、シンガポールの企業は価格競争ではすでに中国
の企業に対して勝ち目がないことは明らかであることから、例えばクリーン&グリー
ン技術など高付加価値技術が重要になってくると考えている。
2.2.4 国際産学連携活動に対する学内外の評価
(1)シンガポール国内での評価
シンガポールではライフサイエンス分野の研究インフラ整備などに代表されるよう
に、重点投資分野をしぼりこみ、短期間のうちに環境整備を進めることで注目されて
いる。しかし、そのインフラ整備の成果が国際産学連携を含む研究活動として進めら
II-38
れ、さらに研究成果が産業において活用されるまでには時間を要する。
研究開発環境整備を主導している政府もこの点は認識しており、例えば製薬関連の
研究開発については、シンガポールではまだ 10 年~12 年の歴史しかなく、産業界
のニーズへの適用、成果の移転にはさらなる施策展開が必要としている。
(2)日本企業等からみた評価
シンガポールにおいて国際産学連携を遂行している日本企業は、シンガポール政府
の充実した支援や柔軟かつ迅速な対応を高く評価している。
例えば、富士通アジアでは、連携の際に用いられた公的な研究ファンドについて、
いつでも応募できる柔軟性があり、意思決定のスピードが高いと評価している。一方
で契約内容の調整は日本と同様に慎重に時間をかけて進められる印象である。
また、富士通アジアは、シンガポールでは、知的財産を含む成果の取扱について柔
軟な対応がされていると感じている。知的財産の帰属をめぐる交渉において、
A*STAR が柔軟に交渉に応じるという姿勢であったため、企業側のビジネススキー
ムに合致する形で成果を切り分けることで合意ができた。
また、日本の企業等にとって、シンガポールには世界中から先端的な知識・情報・
研究成果が集積していることが魅力となっている。
例えば、富士通アジアの認識では、シンガポールでは、A*STAR 配下の多くの研
究機関によりバイオ分野の研究開発が進められており、研究成果の蓄積も増えてきて
いる。研究成果を活用してビジネスにいかに繋げていくかが、シンガポールでは重視
され始めている。
早稲田大学では、シンガポールはアジアの教育・産業・研究のハブとして、企業は
勿論、大学も含めて世界中から先端知が集まっており、先端情報の集積および連携の
場となっていることが最大の魅力であると感じている。
2.2.5 国際的な産学連携活動を促進するための各種取組
これまでのシンガポールにおける国際的な産学連携活動を分析すると、その相当数
は、政府による仲介や案件成立支援活動の成果と評価できる。その中心的役割を果た
すのが、国内経済を発展させるための戦略立案・実行を主導する政府機関である経済
開発庁(EDB)である。
経済開発庁の担当者は連携ニーズを持つ海外の大企業を国内の大学やポリテクニッ
クを含む研究機関に紹介している。また、経済開発庁は、海外にも 12 カ国 24 カ所
に在外拠点を設置しており、現地での誘致活動を行っている。
シンガポールで実施されている様々な財務奨励策や税制優遇策は、海外の企業によ
るシンガポール拠点設置を促進する役割を果たしている。例えば、研究開発センター
の設立等の費用や新技術等に関する人材育成費用が一部助成される制度等がある。こ
れらは、誘致される海外企業に限定した制度ではないが、企業の国籍を問わず、シン
II-39
ガポールに登記している企業であれば支援の対象となる1。
シンガポールでは、ライフサイエンスを重点とする施策が進められているが、その
一環としてアジアの医療ハブの構築を進めている。
同国では 1993 年以来、低廉なヘルスケアの提供に焦点を当て、特に近隣諸国か
らの患者誘致策を進めてきた。しかし、1997 年のアジア金融危機を受けて、他国も
同様の施策を開始したことによる競争の激化等を受け、施策を見直すこととなった。
見直された施策では、戦略的重点として、優れた診療に基づくブランドの構築、経済
的インパクトや規模の経済をもたらす外国人患者の大量誘致とされた2 。現在のシン
ガポールの医療機関には「国際患者サービスセンター」が設置されており、ビザの取
得から診療予約、通訳サービスに至るまで、海外からの患者の便宜を図るサービスが
提供されている。
国内の病院や医療専門機関と、海外の一流の医療機関、医薬品企業、医療技術企業
等が連携することにより、新たな治療法や技術の開発につながることとなる。また、
Biopolis をはじめとするインフラの整備、
A*STAR における最先端の研究の実施が、
世界から優秀な研究者、専門家が集積される誘引にもなっている3。
2.2.6 国際的な産学連携活動を行う上での課題
(1)シンガポール側から見た課題
シンガポールにおける国際的な産学連携を取り巻く環境を分析すると、国として研
究開発に重みを置くようになったのは最近であり、政府の強力な主導による研究イン
フラの整備などの施策を通じて、重点分野の研究開発に国として重みを置くようにな
ってきたという段階と評価できる。今後は、こうした研究インフラをいかに有効に活
用して国際的な産学連携を促進するかが重要となると思われる。例えば、これまで進
められてきた海外企業の営業・製造拠点誘致に加えて、海外企業の研究開発拠点をシ
ンガポールに誘致するための方策など、今後、知識ベース経済を進める中で国として
研究開発についての位置づけを明確化する必要があると思われる。
研究機関については、
大学の研究資金がほとんど政府からの支出によるものであり、
将来的には国際的な産学連携等を含む方法により、自ら資金を獲得することが期待さ
れている。一方で、シンガポールではポリテクニックの研究レベルが向上しているこ
とから、大学に対してはより先端的な研究分野で成果を出すことも求められている、
と言われている。
1
Economic Development Board Singapore, 財務支援ならびにその他症例政策,
http://www.edb.gov.sg/edb/sg/jp_jp/index/Guide_to_Investing_in_Singapore/financial_assistance.html
2
Ministry of Trade and Industry Singapore, Economic Review Committee, “Developing Singapore as the
Healthcare Services Hub in Asia”, http://app.mti.gov.sg/default.asp?id=507
3
Singapore Medicine, Excellent Basic & Clinical Research Development,
http://www.singaporemedicine.com/leadingmedhub/r&d.asp
II-40
(2)日本企業から見た課題
(a)シンガポールに関する課題
相手国に関する課題としては、シンガポール政府の柔軟かつスピード感のある政策
決定が評価される一方で、政府の急激な方針転換によるデメリットにも留意すべきと
考えられる。また、相手国の課題ではなく日本と相手国との関係という点では、日本
の法制度、特に研究機器輸出時の手続きにも課題があることがわかった。
早稲田大学では、政府の対応が迅速である一方、短期間で大幅に方針を変えてしま
うことがある点に注意が必要と捉えている。近年では、基礎研究分野の政府予算が約
30%されるなど、開発・応用研究支援の重視に急変したため、基礎研究に携わる外国
人研究者の帰国、研究機関の撤退などの事例もあるという。
シンガポールとの産学連携の過程で障害となった点として、富士通アジアでは、現
地拠点設置時の外国為替及び外国貿易法の手続きの問題が挙げられた。日本にあった
ラボをシンガポールに移転し、研究機器を日本から輸出する際、シンガポールは外国
為替及び外国貿易法(第 48 条等)1の規制対象の例外となる国ではないため、複雑
な手続きを要した。研究装置によっては、法令解釈の上で規制対象になる懸念があっ
たため、輸出を断念してシンガポールで新規購入した例がある。
(b)日本への示唆
シンガポールにおける国際産学連携への取組を分析した結果、日本における課題と
して、研究者には自身の研究がどのように産業界にニーズに応えることができるか、
という問いにより真摯に向き合っていくという研究者としての認識の共有化、および
単独の大学を超えて、国や複数の大学が国際産学連携を推進するために支援する体制
のより一層の充実が必要と考えられる。
日本の大学や公的機関の研究者について、富士通アジアでは、専門分野を深めてい
くことは得意であるが、例えば他分野との連携や、学際的な研究に展開していくこと
はあまり得意でないという印象を持っている。同社が海外の研究者を訪問して話をす
ると、企業側での実績の有無に係わらず、着想が面白ければ、その技術と組み合わせ
た応用研究や実用化の可能性について話が広がる。日本の研究者の場合、このような
幅の広がる議論ができない人が多いという印象がある、との指摘があった。
早稲田大学からは、国際産学連携には大学が単独で取り組むだけでなく、複数の国
内大学が連携した国際連携の支援体制や、政府による税制改革や規制緩和を通した支
援も必要ではないかとの提言があった。政府で導入すべき制度の例として、日本での
研究開発活動を対象にした税額控除制度、事務手続きの簡素化が挙げられた。
1
外国為替及び外国貿易法第 48 条:
「国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定め
る特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可
を受けなければならない。
」
II-41
2.3 中国における国際産学連携への取組
2.3.1 国際的な産学連携の位置づけ・ニーズ
中国の大学は、研究成果の産業化、企業への応用・技術移転とそれによる経済発展
への貢献を使命としている。産学連携は、これを実現するための活動として位置づけ
られる。中国の産業界には、従来のように海外企業から委託された製品製造・加工だ
けでなく、独自のキーテクノロジを開発し産業化したいというニーズがあり、大学と
の連携で活路を見出そうとしている。
このような背景の中で中国の大学は、国際的な産学連携を、大学の研究レベルを世
界レベルに向上するための重要な活動として位置づけている。清華大学では、国際的
「視野の拡大」
、つ
な産学連携の目的として、
「研究レベルの向上」を挙げると共に、
まり海外企業との連携により世界におけるビジネスや研究ニーズ等の動向に目を向け
ることを挙げている。上海交通大学では、世界一流を目指す上で、産学連携に限らず
海外との交流が重要としている。
海外企業との共同研究は、基礎研究が多い。上海交通大学では、基礎研究部門の研
究レベル向上のため、海外の一流の研究室との連携を必要としている。一方、企業か
ら見ると、先端技術でなく“ものづくり”に関する基礎的な研究を実施できる点が、
中国の大学との産学連携を実施するニーズとなっている。清華大学と共同研究を実施
する企業によれば、ものづくりの研究で着実に成果を挙げられることが、共同研究の
相手先として同大学を選定する大きな要因となっている。中国では、
“ものづくり”の
研究が適切に評価され、
“ものづくり”の研究を実施する優秀な研究者がいると考えら
れる。
2.3.2 国際的な産学連携活動の実施体制
中国の大学では国際産学連携を推進するための専門部署を設置し、海外企業との組
織的な連携を進めている。これによって、企業ニーズと研究者のマッチングを効果的
に実施すると共に、大規模なプロジェクトの実施を可能とし、研究者は研究プロジェ
クトの遂行に専念することができる。
上海交通大学では、国際的な連携を所掌する管理部門として、
「国際合作&交流処」
と「国際科学合作処」を設置している。前者は、学術交流のための人的な交流を支援
する部署であり、大学などの研究機関を担当している。後者はプロジェクトベースの
科学研究の交流を支援している部署であり、主として企業を担当している。
清華大学では、産学連携の担当部署として「校企合作委員会」を設置しており、そ
の下に国内部と海外部を設置している。国内部では、中国内企業との連携、海外部で
は海外企業との連携に関する業務を実施している。国内部と海外部の人員は、合わせ
て 50 から 60 人程度であり、各部の業務と委員会の業務を兼務している。また、研
II-42
究プロジェクトを所管する部署として「科研院」が設置されている。科研院は、大学
の管理部門の一組織であり、次の 4 つの種類のプロジェクトを進めている。

国家予算によるプロジェクト

企業からの委託プロジェクト

海外プロジェクト

専門プロジェクト1
清華大学における産学連携は、校企合作委員会と企業による組織的な調整の下に進
められることが多く、これによって、大規模なプロジェクトを実施することを可能と
している。また、海外企業の側から清華大学にコンタクトしてくるケースが多い。一
方で、企業と特定の研究者の繋がりにより連携が進められるケースは少なく、プロジ
ェクト規模も小さなものになっている。
産学連携プロジェクトにおける校企合作委員会の役割は、プロジェクトの審査と許
可、担当する研究者とのマッチングである。プロジェクト開始後は、担当する研究者
を中心に契約どおり研究を遂行する。委員会は、プロジェクトの進捗について適宜打
合せ等により確認する。
2.3.3 国際的な産学連携活動の実績と効果
(1)清華大学
清華大学は、多国籍企業 500 社の内の 1/4 と連携している。また、その中の上位
50 社の内の 20 社と連携している。ここ数年の海外企業との連携実績は、600 プロ
ジェクト/年、5000 万ドル/年程度となっている。研究分野としては、環境・エネ
ルギー分野、IT 分野(但し、最近は減少傾向)
、生物・医療・バイオ分野が多い。
連携先の企業については、企業規模ではなく、特定分野において優れているかを重
視している。これは、国際産学連携の目的として研究レベルの向上を挙げている点と
合致する。連携の相手国としては、4~5 年前は米国と日本の比率が高かったが、こ
こ 3~4 年は欧州との連携が増加傾向にある。その背景として、千人計画により帰国
した研究者、特に生命科学院の施一公博士の活動により、BAYEAR 社、ROCHE 社
といった欧州企業との連携が活発化したことが挙げられる。
清華大学と連携している日本企業としては、トヨタ自動車、日立製作所、東芝、三
菱重工業、富士通、日産自動車、パナソニック、三洋電機、ダイキン工業、IHI 等が挙
げられる。ある企業の例では、2002~03 年頃に共同研究が開始された後、積極的
に連携が進められている。清華大学との包括契約に加え、個別研究テーマごとにも契
約を交わしている。研究テーマ数は、年間十数件程度から、最近では年間 50 件程度
まで増加しており、
この件数は、
共同研究を実施する他の海外大学と比較しても多い。
1
専門プロジェクトの具体的な内容については非公開である。
II-43
これは、清華大学の研究成果が企業において評価されていることを裏付けるものであ
る。また、同社は、産学連携を通じ、良好な人材がいれば採用したいという考えも持
っており、現在でも清華大学出身の社員が数名程度いるとのことである。優秀な人材
の確保の観点に加え、中国市場への展開を意識したものであると推察される。
(2)上海交通大学
上海交通大学における産学連携は、大企業との連携が中心である。中小企業との連
携は、スポットでの協力が多い。海外企業との連携については、相手国別に見ると、
日本が 35%、米国が 35%、欧州が 20%、その他が 10%程度である。日本を除く
アジア地域との連携は少ない。
日本の企業では、パナソニック、NTT、オムロン、三菱重工業、日立製作所、トヨ
タ自動車と連携している。材料やセンサ技術などのエレクトロニクスに関する分野が
多い。
2.3.4 国際産学連携活動に対する学内外の評価
清華大学は、海外企業が同大学との連携を促進する理由として、2 つの理由を挙げ
ている。一つは、同大学に先端的な研究開発を行う研究者がおり、キーテクノロジの
研究開発を実施することができる点である。もう一つは、中国のマーケットの魅力で
あり、海外企業が中国に市場展開するために、中国に相応しい技術開発を行う必要が
ある点である。
清華大学と連携する日本企業によれば、同大学は、製造業のニーズに合致した研究、
すなわち、ベーシックな「ものづくり」の研究で着実な成果を挙げており、高く評価
されている。研究テーマの選定の際に、企業側のニーズを提示し、清華大学として成
果が出せるかどうかを精査しており、この過程が研究の成功に繋がっていると考えら
れる。研究テーマは広範囲に渡るが、製品化に直結するテーマではなく、要素技術ま
でブレークダウンしたものとなっている。しかしながら、その研究が製品に繋がるイ
メージは双方で共有することで、良好な成果、つまり製品化に大きく寄与する成果を
実現している。
また、清華大学の研究活動の特長として、研究にスピード感があり、また担当する
教員や学生が成果を上げることに意欲的である点が挙げられ、日本企業からビジネス
の観点で共同研究の相手先として高く評価されている。
加えて、コスト面での魅力も大きい。日本と距離が近く、国内出張感覚で訪問でき
る点は、日本企業にとって大きなメリットである。また、必要な研究資金についても
欧米と比較して安価である。
II-44
2.3.5 国際的な産学連携活動を促進するための各種取組
(1)中国政府による取組
海外からのハイレベル人材を招聘する政策として、2008 年より千人計画(One
Thousand Talents Scheme)1が実施されている。海外に出て良好な成果を挙げた
中国人が主な対象となっている。
清華大学では、千人計画により帰国した研究者が十数人おり、国際連携の促進に貢
献している。顕著な例として、施一公博士の活躍が挙げられる。同博士は、清華大学
卒業後、米国に渡り Johns Hopkins 大学で博士号を取得、Princeton 大学の終身教
授となった。2008 年、千人計画により清華大学生命科学院の教授となり、大きな働
きを果たしている。学生の育成、ハイレベルな研究能力、国際連携への影響、が顕著
な成果として挙げられる。国際産学連携では、特に BAYEAR 社、ROCHE 社との連
携を進めた。
また、中国教育部における国際交流の担当部門「国际合作与交流司」では、海外と
の共同研究プロジェクトを重視しており、主に中国の教育部門における外交に関する
指針・政策の策定、関連法規制の起草、中国と外国間の教育における協力・交流の管
理、調整、監督等を行っている2。
(2)清華大学の取組
清華大学では、政府の法令、省令、政策を踏まえ、大学内部で統一された方針のも
とに産学連携を進めている。代表的な取組としては、前述の通り、産学連携を促進す
る専門部署「校企合作委員会」を設置したことが挙げられる。同委員会では、産学連
携を促進するための人員を確保するだけではなく、政府が実施すべき政策の研究を実
施し、政府にインプットする役割も担っている。例えば、技術移転、特許、予算支援
等が挙げられ、具体的な例としては、新技術を研究し実用化された場合に、大学が受
益者となる政策を検討した。
大学は、得られた収益のうちの一定比率を研究者に還元することができる。大学の
教授等の研究者が産学連携を実施するインセンティブとしては、産学連携を含む社会
貢献活動から得られる収入が挙げられる。大学の研究者の給料は 10,000 元程度であ
り、その内の 3,000 から 4,000 元が国家予算から支出されている。その他は、産学
連携プロジェクトの予算および各種手当て等により賄われている。プロジェクト予算
の使用方法は大学が規定しているが、予算の 10%程度を研究メンバーの給料等に使
用することが出来る。これにより、研究者の給料の 2 割程度が賄われており、研究者
が産学連携を実施するインセンティブの一つとなっている。なお、政府プロジェクト
の場合は、予算を研究者の給料として使用することは出来ない。なお、各種手当てに
1
http://www.1000plan.org/groups/viewonetopic/928
2
http://202.205.177.9/english/international_1.htm
II-45
ついては、住宅手当、積立金、交通費、食事手当、新聞手当等、様々な名目があり、
政府や大学から支給される。
一方、社会貢献の側面からは、清華大学は中国政府の技術イノベーションシステム
の中で重要な位置づけとなっていることから、研究者にとっては、研究成果がそのシ
ステムの中でどのように位置づけられ、産学連携を通じて社会に貢献できるかが重要
であり、これもインセンティブの一つとなっている。
なお、清華大学では、教員、学生とも英語が堪能であり、外向けの意識が高い。こ
れも、国際的な産学連携を促進する要素の一つといえる。
(3)上海交通大学の取組
上海交通大学では、産学連携を推進する研究組織を設置している。一般的に、企業
のニーズと大学の研究との間にはギャップが存在する。このギャップを埋めるための
研究組織として「先進産業技術研究院」を設置した。ここでは、教育や基礎研究は実
施せず、産学連携のみを担当する。大学としては、これを特別プログラムと位置づけ
ており、通常の大学の評価システムとは独立させている。社会において大切な技術を
育てるという姿勢が表れており、1,000 人規模の部隊を作ることを目指している。
また、研究成果の産業展開を推進するために、上海交通大学は、
「エネルギー研究院」
(能源研究院)
、
「メディカル-X」
(Med-X 研究院)
、
「バイオ-X」
(Bio-X 研究院)
、
「ナノ科学技術研究院」
(微納科学技術研究院)という研究組織を設置している。
なお、上海交通大学の研究スタッフは海外から帰国者が多い。その背景として、助
教授から教授に昇進する条件として、海外に一旦出なければならないことが挙げられ
ている。そのため、教授は海外とのコネクションを持って着任しており、国際的な産
学連携を促進する要因となっている。
2.3.6 国際的な産学連携活動を行う上での課題
国際的な産学連携を進める上で、各国の法制度、文化の違いにより生じる様々な問
題が生じるが、清華大学では多くは話し合いにより解決できるとしている。日本と中
国との間の産学連携を進めるにあたり、対話のメカニズムを構築し、双方の共通点や
相違について継続的に議論することが必要との指摘があった。
また、日本政府や企業の特徴として、習慣が中国と似ている点、事前調査や遂行面
における緻密さが清華大学より指摘された。一方、プロジェクトや調整の進め方とし
て、重要人物やトップの決断があれば円滑に進む半面、担当者レベルから調整を開始
すると困難が生じるとの指摘があった。
中国との産学連携において問題となる輸出管理規制については、企業として対応を
検討しているが、研究テーマが個別の要素技術にブレークダウンされており、また規
制対象外の範囲であることを個別に確認していることから、特段の問題は生じていな
い。
II-46
3. 国内の先進事例調査
3.1 我が国における国際産学連携への取組
我が国において、国内の大学等が国外の企業と密接に連携して活動している先進事
例を選定し、以下の項目について調査・分析を行った。

国際的な産学連携の位置づけ・ニーズ

国際的な産学連携活動の実施体制

国際的な産学連携活動の実績と効果

国際産学連携活動に対する学内外の評価

国際的な産学連携活動を促進するための各種取組

国際的な産学連携活動を行う上での課題
本調査は、文献・インターネット調査とインタビュー調査により実施した。インタ
ビュー調査は、当該大学等と、産学連携相手である海外企業に対して実施した1。
対象とした先進事例は以下の通りである。
表 II-3 国内の先進事例調査対象
技術分野
事例
連携相手(本社所在地)
グリーン・イノベーション
物質・材料研究機構
サンゴバン株式会社
(独立行政法人)
(アジア地域事業開発、技術開発部長)
ライフ・イノベーション
大阪大学
米国大手製薬メーカー日本法人
(国立大学)
(契約担当次長)
ものづくり
東京大学
ボーイング・ジャパン株式会社
(国立大学)
(政府関係/渉外担当 ディレクター、他)
九州大学
-
その他
(国立大学)
早稲田大学
-
(私立大学)
-
韓国大手電機メーカー(元役員)
(注)韓国大手電機メーカーについては特定の国内大学に限定せず、日本の大学との産学連携全般についてコ
メントを得た。
1
一部、連携相手企業へのインタビューを実施していない大学もある。
II-47
3.1.1 国際的な産学連携の位置づけ・ニーズ
(1)国際的産学連携の位置づけ
対象とした国内大学等の多くは、海外企業との産学連携について具体的な方針(ポ
リシー、ガイドライン)を明文化している。
物質・材料研究機構は、日本と海外を区別せず「グローバル企業」との組織連携を
推進するという方針の下、①日本国内で事業実態があり、法人税を納付している企業、
②研究成果の普及とその活用の促進を目的とし、日本経済・産業の発展に貢献できる
企業と連携するとガイドラインを定めている。
一方、文部科学省「産学官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム)
」の「国際的な
産学官連携活動の推進」に採択された大学では、国際産学連携のポリシーを策定する
ことが求められている。例えば、東京大学は世界水準にある優れた研究成果を創造す
るためのベストパートナーと連携するという方針の下、最高のパートナーが海外企業
であればそこと連携するという方針である。また早稲田大学、九州大学では特に大学
のグローバル化戦略の一環としてアジアを重点地域と定め、そこでの国際産学連携に
重点を置いている。
(2)国際的産学連携のニーズ
(a)大学等の立場から
海外企業と産学連携を行う狙い・ニーズは対象とした国内大学等において微妙な違
いが見られ、各大学の産学連携戦略の違いが読み取れる。具体的には次の三つに大別
できる。
1)研究成果の社会還元
大学で創出した研究成果の社会還元をより効果的・効率的に行うため、研究成果を
最大限に社会還元できる企業=業界トップ企業と連携することを目指すものである。
2)大学等の研究活性化
世界トップレベルの研究開発を行っている企業と連携することで刺激を受け、大学
等の新たな研究の方向性や研究活性化を図ることを目指すものである。
3)大学等のブランド向上
大学の国際化戦略として重点国・地域を定め、当該国との産学連携を通じて教育・
研究・産学連携の間での相乗効果を発揮し、当該国・地域での大学ブランドの向上を
目指すものである。
II-48
例えば早稲田大学はアジア地域、特に中国で「早稲田大学ブランド」を高め留学生
獲得など大学のグローバル化に繋げたいという狙いがある。また九州大学は自治体と
協力し九州を国際的なゲートウェイにするという戦略の下でアジアへの産学連携に取
り組んでいる。
【物質・材料研究機構】

基本方針として、日本と海外を区別せず、グローバル企業との連携を推進する。

組織的大型連携の目的は、潤沢な研究資金を確保すると共に、その事業分野の将来動向を的確に把握し、
将来に向けての基礎・基盤研究を加速することである。物質・材料に係る各事業分野のトップクラスの企
業との連携を積極的に推進し、成果の普及につなげる。
【東京大学】

世界水準にある優れた研究成果の創造を目指す。そのためのベストパートナーを考える。国内が二番手で
あり、最高のパートナーが海外にいればそこと連携する。世界最高のところには情報も資金も集まる。

大学の研究成果は(中略)実用化に力を持っているところでなければ研究成果を活用できない。そうした
企業があれば国内にあればよいが、そうでなければ海外と組む必要が出てくる。
【早稲田大学】

教育・研究・産学連携で一体となってアジア地域への展開を目指すという明確な方針がある。もともとア
ジア各国(中国、韓国、台湾、シンガポール)に配置していた教育拠点を産学連携でも活用する(=コー
ディネーターを配置する)という戦略を進めており、中国、シンガポールでは産学連携活動を始めたとこ
ろである。
【九州大学】

九州大学にとってアジア地域は重点地域であり、自治体とも協力して九州を国際的なゲートウェイにしよ
うとしている。
(b)海外企業の立場から
海外企業が日本の大学等と産学連携する目的は、以下の三つが挙がった。
1)人材の確保
ボーイング・ジャパン株式会社は共同研究などを通じ、学生やポスドクから優れた
人材を発掘し、自社だけでなく日本支社あるいはサプライヤー企業が優秀な人材を獲
得することを目指すとのことであった。
2)技術・知識の獲得
研究開発では、日本の研究水準が高いことや、日本がビジネス上で良いパートナー
であることが日本の大学が選ばれる要因であると、サンゴバン株式会社、米国大手製
薬メーカー日本法人、ボーイング・ジャパン株式会社から聞かれた。
3)産学官コンソーシアムへの参加(特に企業との連携)
企業が単独で取り組めない研究に関して、企業同士をつなぐ役割を大学に期待して
II-49
いるとの意見がボーイング・ジャパン株式会社から聞かれた。日本企業ともコンソー
シアムを形成し、連携を進めていきたいとのことである。
【サンゴバン株式会社】

“Saint-Gobain University Network”は 2005~6 年から開始した。目的は次の 3 つ。

自社技術・市場において「ベストな研究チーム」との相互刺激:世界一の研究者は世界各地に分散して
いる。常にベストな研究者との連携を目指す。

トップ大学からの学生・ポスドクの雇用:共同研究プロジェクトを実施する中で、優秀な従業員を発掘
する可能性に期待。

自社にとって戦略的に重要な国でのプレゼンス獲得
【ボーイング・ジャパン株式会社】

産学連携を行う目的は大きく分けて 2 つある。1 つは研究開発を目的とするものであり、もう 1 つは人材
育成であり、優れた人材を見いだす、あるいは当社の社員を大学に派遣することである。

(中略)企業には 1 社単独で進めなければならないこともあるが、それでは太刀打ちできないものもある。
日本企業も結集していかなければならない。仲の悪い企業同士であっても一体として取り組まなければな
らない。それをつなげるのがアカデミアであり、政府の役割だろう。
【韓国大手電機メーカー】

億円単位の研究費を出すのは米国の大学のみである。その理由は米国の大学教員だけが「事業家」であり、
同社と対等なパートナーとして連携できるためである。

韓国を含む米国以外の国の大学との産学連携は、
「情報収集」が目的の少額なものである。ただし、その場
合も世界トップクラスにしか研究費は出さない。
3.1.2 国際的な産学連携活動の実施体制
全ての大学等において産学連携の専門部署が設置されているが、その下に「国際産
学連携」の専門組織が置かれている大学等と、連携先開拓・知的財産・契約事務の機
能別に構成されている(特に国際産学連携に特化した組織を持たない)大学等に大別
される。またいずれも、大学が有している海外オフィスと連携して情報発信・マーケ
ティングや連携先の開拓を実施している。

国際産学連携に関する専門組織を設置



九州大学:知的財産本部(国際産学官連携センター、国際法務室、他)
早稲田大学:国際産学官連携本部(産学官研究推進センターと知的財産本部の戦略・企画部門を統合)
機能別組織を設置(特に国際産学連携に特化した組織を持たない)

物質・材料研究機構:連携推進室(業務推進チーム、連携企画チーム、知的財産チーム)

大阪大学:産学連携推進本部(総合企画部、知的財産部、イノベーション創出部)

東京大学:産学連携本部(産学連携研究推進部、知的財産部、事業化支援部)
II-50
3.1.3 国際的な産学連携活動の実績と効果
(1)日本の大学等における国際産学連携の実績
海外企業との連携実績は増加傾向にあるものの現時点では決して多くはない。数字
の定義が異なるため単純に比較できないが、もっとも比率が高い物質・材料研究機構
で 1 割強となっている。
表 II-4 日本の大学等における国際産学連携の実績
大学等
実績
物質・材料研究機構
2009 年度、企業等からの受領資金約 10 億円のうち約 1.3 億円(約 13%)
東京大学
2006 年度、民間企業との共同研究費約 33.8 億円のうち 6 千万円(約 2%)
大阪大学
-
九州大学
2007 年度、契約ベースで共同研究 579 件のうち 4 件(約 0.7%)
早稲田大学
2009 年度、民間企業からの年間受入額約 10 億円のうち 6 千万円弱(約 6%)
産学連携の形態は、受託研究、ライセンシング等よりも共同研究が多い。その中で
も物質・材料研究機構は海外企業と共同研究センターを設置し組織連携を進めている。
また大阪大学は、上海等の海外クラスターと自身が属している国内クラスター間での
連携を進めている。
産学連携の実績がまだ多くないため、全ての大学等で海外企業等との産学連携効果
については十分に把握・検証されていない。しかし、物質・材料研究機構ではサンゴ
バン株式会社との共同研究センター設置により欧州における物質・材料研究機構の知
名度が大きく高まったり、九州大学と連携した日本企業(九州電力)が中国上海市の
プロジェクトを受注したり等の効果が言及されている。
(2)海外企業における国際産学連携の実績
(a)サンゴバン株式会社
サンゴバン株式会社では、“Saint-Gobain University Network”を 2005~6 年
から開始した。連携目的に照らし合わせて「母国」
「新興国」
「研究先進国」の観点で
重点国を絞り込んでいる。大学とのネットワークでは、科学的基礎を重視し、事業化
は重視していない。10 年以内に事業化するようなテーマは自社内で取り組んでいる。
また、真のネットワーク構築を目指しているため、委託研究(contract research)
は実施せず、共同研究(collaborative research)を実施している。日本では物質・
材料研究機構と東北大学を連携先として選定している。
II-51
(b)米国大手製薬メーカー日本法人
米国大手製薬メーカー日本法人は、スカウトと呼ばれる世界の研究シーズを発掘す
る役割の担当を地域毎に配置している(北米南米、アジア太平洋、欧州でそれぞれ 7
~8 人)
。日本の大学とリサーチツールの面での連携を図っており、2009 年に日本
国内の研究拠点を閉じるまで、年間 50~100 件程度の共同研究契約を日本の大学と
締結していた。当該研究所がなくなってからは、減少傾向にある。連携先は旧帝大が
多いが、限定しているわけではない。
(c)ボーイング・ジャパン株式会社
ボーイング・ジャパン株式会社では、研究開発に関して、世界クラスの技術を求め
ており、地域毎に担当者を配置している。人材確保に関して、同社は世界中にサプラ
イヤーがおり、世界的にエンジニアを確保する必要がある。このため、同社では中学、
高校の段階から優秀な人材を育てていこうと考え、大学と共同でカリキュラムを提供
したり、講師を派遣したりしている。これからの発展が期待される中国、インド等で
は日本よりも早い段階から実施してきた。
東京大学とは、R&D 協定を締結しているほか、人材育成として、2010 年から同
大学航空宇宙工学科と連携し Externship、サマーセミナーを実施している。
Externship は今後も同大学で実施し、サマーセミナーは地方などニーズのある別の
大学でも行っていく予定である。
(d)韓国大手電気メーカー
韓国大手電気メーカーは、研究面では世界トップレベルの大学としか産学連携を行
わない。国の大学が主であり、韓国含む米国以外の国の大学とは、情報収集が目的の
少額なものである。一方、人材育成に関しては、海外の優秀な学生(博士課程、ポス
ドク)に対し、奨学金として多額の投資を行っている。同社と日本国内の大学との産
学連携に関しては、日本における世界トップレベルの大学は限られていると考えてお
り、東北大学に材料分野で研究費を出す程度である。
3.1.4 国際産学連携活動に対する学内外の評価
(1)大学等の内部での評価
東京大学では、狭義の産学連携実績(受入金額など)をみると国際産学連携の費用
対効果について学内で厳しい評価もあるとの意見があった。
また九州大学では、分厚い契約書、英語での報告書納品等で海外企業に対して嫌悪
感を抱く教員、コーディネーターが教員と企業の間に入って調整することに契約遅延
の原因とみる教員がいるとのことであった。
II-52
(2)海外企業からの評価
(a)海外企業からみた日本の大学等の優れた点
海外企業からみた日本の大学等の優れた点として、まず日本の研究水準の高さが挙
げられる。サンゴバン株式会社では、特にエネルギー・環境分野を重視しており、同
社はこの分野における日本の研究水準は高いと考えている。また、米国大手製薬メー
カー日本法人は日本がサイエンス分野で世界第二位と認識しているとのことであった。
実際、
日本発の医薬品は数多く、
同社は日本の製薬会社からライセンスを受けている。
他に優れた点として、企業課題を解決するためのソリューションを大学等が提案し
ていることが挙げられる。物質・材料研究機構においては、これまで地味な研究と思
われていた評価・分析データの蓄積を中心に物質科学の先端研究だけでない材料研究
のトータル・ソリューションを提供できることは企業からみた魅力となっている。ま
た東京大学においては、独自のトップダウン型産学連携の仕組み(Proprius21)に
ついて「このような魅力的なプロポーザルを大学から受けたのは初めて」と高く評価
されている。
また、海外企業では、日本の大学における産学連携体制がこれまでと比べ、大きく
進歩した印象をもっている。サンゴバン株式会社では、2004 年の国立大学法人化を
契機にフロントオフィスが整備され、事務処理のスピード感アップ、職員体制の充実
を感じている。米国大手製薬メーカー日本法人では、大学教員の対応が柔軟に成った
点に改善を感じている。
(b)海外企業からみた日本の大学等の劣る点
1)グローバル化の遅れと提案力の弱さ
海外企業からみた日本の大学等の劣る点として、グローバル化の遅れと提案力の弱
さが第一に指摘されており、海外企業は日本の大学等とコンタクトが難しいと感じて
いる。グローバル化の遅れでは、リサーチペーパーが日本語中心であること、教授以
外のスタッフ、
事務職員と英語でコミュニケーションがとれないことを指摘している。
提案力の弱さでは、研究担当者以外の事務職員等では、大学の強みや研究内容を説明
できないこと、社外秘でない研究説明資料が無いことなどを指摘している。
2)契約スピード
次に、契約締結までの時間を要することである。契約締結までの時間が長いことに
関して、米国大手製薬メーカー日本法人から、契約交渉者自身に決定権がなく大学内
部の検討に時間を要している、また研究分野による違いが契約書の雛形で考慮されて
いない、との指摘を受けた。
II-53
3)研究コスト
米国大手製薬メーカー日本法人から、中国、シンガポールなどに比べ、人件費、土
地、維持管理費、税金が高いため日本に企業が研究拠点を置けないこと、それが結果
的に日本の大学等との産学連携が難しくなっている点が挙げられた。
米国大手製薬メーカー日本法人やボーイング・ジャパン株式会社からは、日本の大
学は米国、欧州、中国と比較して絶対的な研究水準を有している訳ではなく、企業か
らみて相手先候補の一つであること、つまり代替が可能な存在であることを大学関係
者は強く認識すべきであるという意見が聞かれた。
3.1.5 国際的な産学連携活動を促進するための各種取組
(1)大学等の取組
(a)民間企業並の企業開拓
海外企業との産学連携が進まない原因として海外における知名度・プレゼンスの低
さをどの大学等も挙げており、その対策として、民間企業並の営業・提案活動に取り
組んでいる大学等もある。
物質・材料研究機構では、組織連携対象となるトップ企業を業種別に時価総額等か
らリストアップし、日本支社を中心に理事を伴う「トップ営業」を展開して組織連携
の案件化に繋げている。東京大学は、欧米大企業の本社を直接訪問し、CTO 等の経
営層に直接連携を提案している。その際、現地の大学を訪問し、当該国における産学
連携の「文化」
「流儀」を踏まえた上で提案活動を行っている。なお、物質・材料研究
機構は海外企業の日本支社を最初に訪問する方針であるが、東京大学は日本支社では
なく直接本社を訪問している点が、物質・材料研究機構と東京大学で営業戦略が異な
る点である。
九州大学は、各国の在日商工会議所、領事館、大使館を通じて、あるいは各国大学
との学学連携をベースに、
その先にいる企業を開拓する取組を行っている。
この点は、
東京大学が学学連携を利用せず直接訪問しているのと異なっている。
早稲田大学は、学校法人としてアジア各国に配置していた教育拠点(現地オフィス)
を活用し、案件化を進めている。
(b)連携メニューの商品化
海外企業は既に自国の大学と産学連携を行っていることが多く、日本の大学と新た
に産学連携契約を締結するには魅力的な連携メニューを提示していく必要がある。
東京大学は、単に研究シーズを提案するのではなく、独自の産学連携のソリューシ
ョンである Proprius21 を「トップダウン型の組織連携」として提案している。これ
は既に国内大学と産学連携実績を重ねている海外トップ企業に対し「新たな枠組み」
II-54
を提示しなければ地球の裏側にある日本の大学は相手にされないという過去の経験に
基づくものである。
(c)産学連携部署のサポートによる円滑な連携遂行
実際に産学連携経緯役を締結し、速やかに共同研究等を開始するために産学連携部
署が中心となって連携サポートを充実させている。
九州大学ではコーディネーターが相手企業との調整、議事録作成、契約事務などに
研究支援(リサーチ・アドミニストレータ)機能を務めている。早稲田大学では、中
国政府 OB をコーディネーターとして雇用し、その人的ネットワークを活かして現地
企業・公的研究機関との連携を提案している。
また、物質・材料研究機構では、機構内放送や規定類のバイリンガル化をはかり、
また事務職員の国際化研修や TOEIC 受験等を制度化することで外国人研究者が物
質・材料研究機構内で不自由しなくても住む環境を整備している。
3.1.6 国際的な産学連携活動を行う上での課題
(1)契約締結
海外企業との契約締結においては、成果物(知的財産)の取り扱いに始まり、各国
の契約文化、知的財産法の相違、各国の関連制度・政策の理解、国内企業向けの雛形
が通用しないなど、契約事務に伴う負担が大きいことが課題である。
なお九州大学では輸出管理規制へ一大学で対応することが困難であることから、九
州で大学間ネットワーク構築し、運用面での問題を共有している。
(2)相手先企業の与信
初めて連携する企業は十分な企業情報が得られないことも多く、どのように与信管
理を行うかが課題である。直接、企業と連携するのではなく間に相手国の大学を挟ん
だり、大使館等から信頼にたる企業を紹介してもらったり等の取組が行われている。
(3)コーディネーター
海外企業と交渉力、技術的な専門知識を有し、教員と海外企業の間に入ってプロジ
ェクト遂行を支援するコーディネーター人材の確保が課題である。また現在、コーデ
ィネーター人材は任期付・外部依存であり、大学内にノウハウ・経験が蓄積されない
ことも課題である。
(4)海外企業との連携判断
国の委託・補助事業を受けている研究テーマに近い分野で海外企業と連携する際に
II-55
その可否の判断に迷うことが課題である。一律に基準を定めることは困難であり、個
別ケース毎に判断するしかないが、現状は手探りの状態にある。
(5)安全保障貿易管理
産学連携においては契約書において精緻な管理が行われること、また海外企業との
産学連携の実績が少ないことから、安全保障貿易管理については大きな問題とは認識
されていない。むしろ、産学連携以外の場面、具体的には留学生や受託研究者など人
的交流における問題として認識されている。
(6)進捗管理・マネジメント
海外企業との連携は、
民間企業と同様の進捗管理・マネジメントが求められるため、
経験の少ない教員は対応が難しい
(ビジネスと研究を分けて対応できる教員が少ない)
ことが課題である。
(7)国内企業からの反発
国際産学連携を実施する上で、競合する国内企業から反発を受けることがある。こ
れに対して、国として国際産学連携を推進する明確な方針を示して欲しいという要望
がある。
(8)日本という国の魅力
海外企業が日本から研究機能を撤退したり、中国やシンガポールなどとの産学連携
に流れる傾向があり、日本という国自身に海外企業を惹き付ける魅力がないことが課
題という意見がある。また、一部に我が国の科学技術外交が機能していないことが相
手国企業との連携に影響することを指摘する意見がある。
3.1.7 日本の大学が国際産学連携を促進するための提言
サンゴバン株式会社から、日本政府による研究ファンディングと連携することで、
研究のさらなる発展を期待したいとの意見が聞かれた。政府、海外企業、大学等のコ
ラボレーションが望まれている。ボーイング・ジャパン株式会社からは、官による産
学官連携のコーディネートや、海外企業と日本の大学等との共同研究等への研究費助
成を求める意見が聞かれた。官による産学官連携のコーディネートでは、産学官連携
のモデルケースの提示を求めており、そのモデルケース作りには同社としても協力し
たいとのことであった。
II-56
3.2 分野による国際産学連携の違い
分野による国際産学連携の違いは以下のように整理できる。
表 II-5 分野による国際産学連携の違い
企業
ライフ・イノベーション
グリーン・イノベーション/ものづくり


“契約研究”としての要求水準が高い。
(具体的な研究成果の獲得意識が強い。
)

国内外の制度・政策の違いが影響する。
(日本の企業との連携を期待。
)

(海外制度・政策への対応を求める。
)

(不実施補償が当てはまりにくい。
)
大学

人材確保への期待が比較的高い。
(長期的な関係を期待。
)

事業化までの期間が長い。
産学官コンソーシアムへの参加を期待。
日本政府の環境・エネルギー分野への施策を
期待。

海外企業の「研究費」を期待。
海外企業からの「刺激」を期待。
3.2.1 ライフ・イノベーション分野
ライフ・イノベーション分野では、大学等には海外企業と連携したほうが大きな研
究予算を得られるという金銭的な魅力がある。海外の医薬系企業(ノバルティスファ
ーマ社、エフ・ホフマン・ラ・ロシュ社、ファイザー社など)は大きな産学連携予算
を有しており、まず産学連携を始めてみて成果がでなければ別の大学に移るという考
え方である。また、この分野では共同研究の契約条件が細部に亘り細かく規定され、
各国の制度・政策への理解を企業から強く求められる。共同研究の契約条件が細かく
規定されているのは、投資額が大きく、事業化までの期間が長いことが原因であり、
失敗に終わった場合の責任分界や不実施補償の条件などを明確に契約書で規定したい
という企業の考え方がある。また医薬分野は各国の制度・政策の縛りが強く、例えば
米国の連邦海外腐敗行為防止法(The Foreign Corrupt Practices Act of 1977:
FCPA)があり、米国企業は本法を遵守しなければ産学連携契約ができないが、日本
の大学等が本法を理解していないために契約時に時間を要している現状がある。
3.2.2 グリーン・イノベーション、ものづくり分野
グリーン・イノベーション、ものづくり分野では、大学等は、研究成果の社会還元
の側面以上に、海外企業との産学連携を通じて自らの研究活性化につなげることを期
待している面が強い。
企業側からみると、ライフ・イノベーション分野のように自社製品に直接研究成果
を活用するというよりは、大学研究者との対話の中で新たな視点を得たり、優秀な人
材が確保したりといった長期的・間接的な成果を期待している面がある。さらに、グ
リーン・イノベーション、
ものづくり分野では日本企業との産産連携への期待もあり、
産学官連携コンソーシアムへ参加したいというニーズもある。また日本の政府がグリ
ーン・イノベーションという明確な方針を打ち出し、国内大学等の環境・エネルギー
分野の研究開発を牽引していることへの期待が高い。
II-57
4. 国際的な産学連携活動の推進に必要な取組、支援策の提言
上記 2 章、3 章の調査結果をもとに、我が国の大学等において国際的な産学連携活
動を推進するに当たっての課題を整理し、その結果を踏まえ、
① 今後の我が国における国際的な産学連携活動のあるべき方向性
② 大学等における国際的な産学連携活動への支援体制のあり方
③ 政府、地方自治体による新たな支援策
を提言する。
4.1 国内外の先進事例から導かれる国際産学連携の促進・阻害要因
4.1.1 企業が海外大学等と産学連携を行う目的
国際産学連携は、国内大学等と企業の Win-Win の関係が構築されなければならな
い。そのためにはパートナー(連携先)でありスポンサー(費用負担者)である企業
がどの様な狙いで他国の大学等と産学連携を実施するのかを理解する必要がある。
企業が海外の大学等と産学連携を行う目的は、以下の五つに大別される。

技術・知識の獲得(大学等から研究成果・事業の芽を獲得する)

市場の開拓(大学を媒介とした当該国市場に参入する)

人材の確保(大学等から優秀な人材を獲得する)

インフラ活用(当該国のイノベーション基盤を活用する)

産産連携の仲介(大学を媒介として当該国の企業と連携する)
一方で、3 章で示したように大学が海外企業との産学連携に取り組む目的は、以下
の三つに整理できる。企業と大学等の国際産学連携を行う目的に一部ミスマッチがあ
る(企業は人材の確保・産産連携の仲介を期待しているが、大学側にその意識がない)
ことも国際産学連携を促進する上でのボトルネックの一つと考えられる。
表 II-6 大学等が国際産学連携を行う目的
目的区分
内容
研究成果
大学で創出した研究成果の社会還元をより効果的・効率的に行うため、研究成果を最大限
の社会還元
に社会還元できる企業=業界トップ企業と連携することを目指す。
大学等の
世界トップレベルの研究開発を行っている企業と連携することで刺激を受け、大学等の新
研究活性化
たな研究の方向性や研究活性化を図ることを目指す。
大学等の
大学の国際化戦略として重点国・地域を定め、当該国との産学連携を通じて教育・研究・
ブランド向上
産学連携の間での相乗効果を発揮し、当該国・地域での大学ブランドの向上を目指す。
II-58
(1)技術・知識の獲得:大学等から研究成果・事業の芽を獲得する。
海外の大学等が、国内大学からは得られない世界的に見ても圧倒的な研究シーズを
有している場合には、当該大学等と産学連携を行うことで最先端の研究成果を得て事
業化・商品化に繋げることを期待して産学連携を実施する。
あるいは直接事業化・商品化につながるような成果を期待するのではなく、共同研
究を通じて大学等の優れた研究者に触発され自社が長期的に取り組むべき新たな事業
の芽を得ることを期待して産学連携を実施する。
(2)市場の開拓:産学連携を契機として当該国市場に参入する。
海外の大学等が立地する国の市場が大きく成長しており、企業の事業戦略において
重要国である場合には、当該国の大学等との連携は企業のプレゼンス向上(広告宣伝)
または市場ニーズの把握
(マーケティング)
を狙って産学連携を実施することがある。
また、大学は当該国の標準・規格策定や政府の審議会等と係わりが深いため、当該
国の標準・規格や政府調達の仕様等へ自社の技術仕様が反映されることを狙って産学
連携を実施することがある。例えば経済発展が著しい中国の大学との産学連携を通じ
て同国の市場参入を狙う企業は我が国を含めて複数ある。
(3)人材の確保:大学等から優秀な人材を獲得する。
大学等が優秀な人材を育成し、産業界に輩出している場合には、当該大学等から優
秀な人材を獲得することを期待して産学連携を実施する。共同研究に直接係わる博士
課程・ポスドクだけでなく、学士課程・修士課程の学生が間接的に企業に関心をもつ
ことで採用につながる可能性もある。また直接採用できなくても、自社のサプライチ
ェーンを構築する当該国の関連企業に勤めることで波及効果を期待する向きもある。
(4)インフラ活用:当該国のイノベーション基盤を活用する。
大学等が立地する国において、イノベーション創出に必要なヒト、モノ1 、カネ2 、
情報といった経営資源(イノベーション基盤)が充実している場合には、当該国の大
学等との連携を通じてそれらの基盤を活用できることを期待して産学連携を実施する。
例えばシンガポールの Biopolis は空港アクセスや先端機器、企業減税制度、大学・企
業のラボ誘致等によりイノベーション基盤を整備したものであり、当該インフラを活
用したい海外企業が進出している。
(5)産産連携の仲介:大学を媒介として当該国の企業と連携する。
海外企業からみて魅力的な企業が当該国に存在し、さらに大学等を中心に産学連携
ネットワーク(クラスター)を形成している場合には、大学等を仲介してそれらの有
望企業と提携することを期待して産学連携を実施する。
1
大規模研究施設など。
2
政府の研究助成制度、研究開発減税など。
II-59
4.1.2 我が国の国際産学連携の現状 –海外企業にとっての「魅力」と「課題」
海外企業が国際産学連携を行う目的を 4.1.1 で整理したが、その目的と照らし合わ
せると我が国の大学等の国際産学連携において、何が魅力となっているのか、また、
何が課題となっているかは以下のように整理できる。
企業が国際産学連携
を行う目的
技術・知識の獲得
(大学等から研究成果・事業
の芽を獲得する)
市場の開拓
(大学等を媒介として海外市
場に参入する)
日本の魅力
ワールドクラス(世界No.2)
の研究水準
日本の課題
研究コストの高さ
(アジア他国の大学と比較して)
コミュニケーション・ギャップ
(日本語・立地のハンディキャップ)
(日本市場の魅力低下)
企画提案力の弱さ
(シーズばら売り・海外と接点不足)
人材の確保
(大学等から優秀な人材を獲
得する)
(学生の内向き志向)
インフラの活用
(当該国のイノベーション基盤
を活用する)
科学技術・イノベーション政策
による研究開発の牽引
(特にグリーン・イノベーション)
産産連携の仲介
(大学を媒介として当該国の
企業と連携する)
世界的なサプライチェーンで不
可欠な存在である日本企業
“契約研究”実施体制の未成熟
(専門スタッフ不足、”海外・企業”
ルールの無理解)
教職員・学生のグローバル感覚欠如
(日本の存在感低下の認識が不足)
産学官コンソーシアム参加の壁
(ナショプロ等での海外企業排除)
図 4-1 海外企業からみた日本の「魅力」と「課題」
(1)日本の魅力
国際産学連携を行っている海外企業からみた場合、我が国は以下の点で魅力(他国
との差別化要素)がある。

ワールドクラス(世界 No.2)の研究水準

科学技術・イノベーション政策による研究開発の牽引

世界的なサプライチェーンで不可欠な存在である日本企業の存在
II-60
一方、市場開拓の面では我が国の国内市場の魅力低下1 、また人材確保の面では学
生の内向き志向2 があり、現状では海外企業にとって魅力となっているとは言い難い
面がある点に注意が必要である。
(a)ワールドクラス(世界 No.2)の研究水準
我が国の大学等の研究水準の高さは、今回対象としたグリーン・イノベーション、
ライフ・イノベーションの両方の分野において海外企業から認められている。
ただし、かつては高い研究水準を有していたものの、現時点では国内大学等の研究
水準が低下した(海外大学等の研究水準が上回った)分野では逆の現象、すなわち国
内企業が海外大学等との国際産学連携を進める要因となる。
【サンゴバン株式会社】

この分野で研究の品質は日本は世界一
【米国大手製薬メーカー日本法人】

日本はサイエンスでは依然として世界 No.2 であり、日本初の薬も多い。
【国内大手重工メーカー】

(清華大学は)製造業のニーズに合致した研究を実施している。すなわち、先端技術だけでなく、ベーシ
ックな“ものづくり”の研究で着実に成果を出している。
(b)科学技術・イノベーション政策による研究開発の牽引(特にグリーン・イノベーション)
世界的な産業社会のニーズを踏まえて、我が国の科学技術・イノベーション政策が
設定され、それが国内の大学等の研究開発を牽引していることは海外企業にとって魅
力として認められている。
特に環境・エネルギー分野はグローバルな課題であり、海外企業も注目している。
我が国がグリーン・イノベーション分野に政府開発投資を重点化したこと、また日本
の市場が環境負荷やエネルギー効率を重視することは大学等の環境・エネルギー分野
の研究を大きく牽引しており、それが海外企業にとって魅力と映っている。
【サンゴバン株式会社】

日本市場も環境・エネルギーを重視するニーズがある。日本政府が環境・エネルギー分野に投資すると大
学・研究機関もそちらを向いている。非常に良い効果だと思う。
(c)世界的なサプライチェーンで不可欠な存在である日本企業の存在
市場のグローバル化に伴い、世界規模でサプライチェーンの最適化が進んでいる。
日本企業、特に中小製造業は海外企業から見れば十分な魅力を有しており、日本の大
学等を介して日本企業との連携(産産連携)が期待できることは魅力となっている。
1
「日本は市場としての魅力も失いつつあり、社内で日本は重要な国と見なされなくなっている。
」
(韓国大手電機メーカー)
2
「日本の場合は当社への就職に学生が距離感を持つ(中略)一方で、学生の中でも中国人留学生はそうした面で積極的であ
った。国による違いがある。
」
(ボーイング・ジャパン株式会社)
II-61
【物質・材料研究機構】

海外企業から、日本企業を紹介して欲しいという依頼はあり、都度紹介している。
【早稲田大学】

将来的には海外企業と日本企業との橋渡しを本学が行えることを理想としている。ただし、実際のところ
本学を含め日本の大学は中小企業との結びつきが弱く、海外企業と結びつける相手となる国内企業がいな
い。ただし、大学発ベンチャー企業であれば海外市場への販路を求める部分があり、大学としても海外企
業を仲介しやすいため、可能性はあると見ている。
(2)日本の課題
前述のような魅力がある一方、日本あるいは日本の大学等が抱える課題としては以
下のものがある。
(a)研究コストの高さ(アジア他国の大学と比較して)
前述した通り、我が国の大学等の研究水準の高さは海外企業から認められている。
一方、アジア諸国の研究水準が高まる中で、中国やシンガポールと比較すると、人件
費や物件費(賃料など)
、法人税制の面で日本に特段の魅力はなく、研究開発拠点を日
本からアジア他国に移設する企業も少なくない。それに伴い産学連携の相手が日本か
らアジア他国に流れている可能性がある。実際、日本の企業が中国の大学と連携する
理由としてコスト的なメリットも挙がっている。また、日本国内に企業自身の研究開
発拠点があるかどうかは、日本の大学と国際産学連携に大きく影響する要素である。
【ボーイング・ジャパン株式会社】

海外企業の立場から見れば、他に選択肢があり日本の大学と産学連携しなくても良い。例えば、中国にも
良い大学があり、人件費も安い。そうした世界における日本の位置づけを認識し、危機感を感じて欲しい。
【米国大手製薬メーカー日本法人】

外資系製薬会社の日本研究所はほとんどなくなったが、背景には R&D コストの抑制方針がある。日本か
ら撤退したが、アジアから撤退するのではなく、中国、シンガポールに移っている。日本の研究の生産性
は高いが、人件費は米国より高く、土地や維持費が高く、税金が高い。
【大手重工メーカー】

(中国の大学は)日本と距離が近いこともメリットである。国内出張感覚で訪問可能である。
(中略)研究
資金も欧米と比較して安価である。
II-62
(b)コミュニケーション・ギャップ(日本語・立地のハンディキャップ)
研究水準が高くても、日本の大学等が国際産学連携の相手とならない理由にコミュ
ニケーション・ギャップの問題がある。米国や欧州と比べて言語面1、立地面2で不利
な立場にあり、多少の研究水準の差であればコミュニケーション・ギャップによる研
究プロジェクト遅延のデメリットの方が上回る結果となっている3。
【サンゴバン株式会社】

日本の大学・研究機関はグローバル化が遅い。日本の大学・研究機関のリサーチペーパーの多くは日本語
のため、翻訳して読むまで時間がかかる。サンゴバン株式会社は日本人従業員は多いが研究開発担当は 4
人しかいない。日本の大学・研究機関の情報を得るには少ない。
【米国大手製薬メーカー日本法人】

コミュニケーションの問題が大きい。共同研究となると、毎日のようなやりとりが必要である、少なくと
も毎週である。研究がうまくいかないときは何故うまくいかないか相談しなければならない。しかし、日
本の大学研究者はどうしても語学が苦手な人が多く、そこまでの対応は大学側の負担が多い。日本の大学
の教授クラスは米国の大学に長くいた人が多いが、その下のスタッフは英語に堪能でなく、かといってい
ちいち教授とコンタクトできないので、コミュニケ-ションが厳しい。これは意外と大きなハンディである。

技術的に断然日本のほうが優れていればよいが、半年程度の差であれば追い越されてしまう。また、契約
を進めるに際しても、ビデオ会議に通訳が必要であったり、時差があったりでとにかく周囲のサポートが
大変である。1 つの会議、1 つの契約をするだけでも疲れてしまうのは、デメリットである。
【フラウンホーファー研究機構】

オーストリアやスイスとの連携が多い理由としては、同じドイツ語圏のため連携がスムーズであること、
地理的にも近く連携コストが安いこと等が挙げられる。
(c)企画提案力の弱さ(シーズばら売り・海外と接点不足)
日本の大学等は個別にみれば優れた研究シーズを有しているが、それが企業にとっ
てどのように役立つのか、産学連携によって企業は何を得ることができるのか、十分
に訴求できる提案を実施できていない。
日常的に海外企業と接することは困難な中で、既に自国の大学と産学連携を推進し
ていることの多い海外企業に「何故、日本の大学と連携する必要があるのか」を説得
できる提案資料や、具体的な連携テーマを提案できる人材が不足している。
【米国大手製薬メーカー日本法人】

知的財産担当者の作成した文書では評価できないので、研究者まで行かないと話が進まない。そして、研
究者のところに行っても資料が用意されている訳ではないので大変である。

大学の知的財産担当者と教授が協力して、英文の”non-confidential package”を準備して欲しい。字で
1
全ての研究成果が英語のリサーチペーパーに翻訳される訳ではなく、また翻訳される場合も時間的なロスがある。
2
特に欧米企業から見れば日本は時差があり、距離が離れた日本との研究開発はボトルネックとなる。
3
これは日本に限ったことではなく、例えばフラウンホーファー研究機構はオーストリアやスイスとの連携が多い理由として
「言語が共通」
「隣接地域でコストが安い」ことを挙げている
II-63
書くばかりではなく、図示し、売りたい商品をショーウィンドーに並べて欲しい。民間企業はそうした資
料を持っているが、大学はほとんど持っていない。

大学が売りたい技術は秘密保持契約を結ばなくてもいくらでも表現できる。そうした売るための情報の作
り方のノウハウが日本の大学にはない。知的財産担当者に頼んでも出来ないし、かといって教授が作ると
どこまで秘密か秘密ではないか分からない。論文を配られてもすべてに目と通す時間はない。得られた知
財を売る人、ビジネスの人がいないのではないか。民間企業経験者はそうしたリクエストがなぜあるのか
を理解できると思うが、大学でそうした人材が十分にいないのは大学のシステムが遅れているからではな
いか。
【早稲田大学】

海外企業からの問い合わせは(中略)ただし具体的な成約に結びつかないことが多い。
(中略)ドイツの商
工会議所がドイツ企業を数社率いて本学の見学会(マッチング)を実施したことがある。その後、問い合
わせはあったが成約に至っていない。
(中略)国際産学官連携本部のスタッフとして、研究活動をしていた
人で学内の教員と対応に話ができ、海外企業と話をして具体的な案件にできる人材を必要としている。
(d)“契約研究”実施体制の未成熟(専門スタッフ不足、
”海外・企業”ルールの無理解)
産学連携は企業と大学が契約書を交わして実施する契約研究
(contract research)
であり、合意した仕様を満足する研究成果を産み出すために必要な進捗管理・研究マ
ネジメントが求められるが、これらの研究サポートが実施できる専門スタッフが日本
の大学等には不足している。
また海外企業は国内企業よりも
「ビジネスライク」
で大学等と接することが多いが、
日本の大学等が契約研究が遂行できない場合に「日本では」
「大学では」といった理由
を持ち出すことに違和感を海外企業は感じている。
【国内大手重工メーカー】

海外契約に対する知識やサポートが不足しており、課題である。

利益に対する意識が薄いことは課題である。技術的な話をする上でも、根底にはコスト感覚が共通してい
る必要がある。研究をビジネスライクに行う意識が欠如している。成果に対する意識が相対的に薄く、改
善が必要である。
【韓国大手電機メーカー】

米国の大学教員だけが「事業家」であり、同社と対等なパートナーとして連携できる。

米国の大学のようにビジネスとして研究をマネジメントできる教員が増えなければ(連携は)難しい。
(e)産学官コンソーシアム参加の壁(ナショプロ等での海外企業排除)
日本企業、特に中小製造業と連携(産産連携)したいというニーズを持つ海外企業
が存在するが、日本の大学は国内の中小企業と十分なネットワークを有していない場
合があり、海外企業を結ぶ仲介役としての機能は現時点で十分に果たせていない。
また産学官コンソーシアムにおいて、海外企業が参加していると政府の助成金が投
入される際に問題となることを理由に、コンソーシアムに海外企業が参加しにくいこ
とも海外企業にとって課題として捉えられている。
II-64
【サンゴバン株式会社】

日本の大学・研究機関との連携を行う上で、政府の研究ファンディングとの連携があれば良い。サンゴバ
ンも研究費を出すが、政府の研究ファンディングもそこに加われば研究が大きく発展する。政府、海外企
業、大学・研究機関のコラボレーションができれば良い。
【ボーイング・ジャパン株式会社】

国の研究費を海外企業に出すことが出来るか。
(日本は)基本的には出さない方針であろう。
(中略)いろ
いろな共同研究開発に参加を求められるが、いざ国からの助成を受けるとなると外されてしまう。日本企
業が国から金をもらい、当社はその企業と共同で研究するくらいしかない。産学官連携をして、コンソー
シアムで応分の金を出し合っても海外企業は知的財産が得られないのでは不利である。
4.2 今後の我が国における国際的な産学連携活動のあるべき方向性
4.2.1 基本的な方針 -日本の大学等が世界水準の研究を行う上で不可欠な国際産学連携
経済活動のグローバル化に伴い、日本の企業が国際的なサプライチェーンの構築を
求められているのと同様、高等教育のグローバル化に伴い、日本の大学、特に研究ト
ップレベルの大学は国際的なプレゼンス向上が求められている。
産学連携の国際化は、教育・研究の国際化と同様に、我が国の大学が国際的なプレ
ゼンスを維持・向上させるために不可欠な要素である。それと同時に、国内外を問わ
ずグローバル企業と連携することで産業社会のニーズを吸収し、新たな研究の方向性
を見出し、研究活性化を図ることは、日本の大学が世界最先端の研究を行うために極
めて重要である。
国内企業との産学連携は「大学が創出した研究成果を社会に還元する」という文脈
で位置づけられることが多いが、海外企業を含めたグローバル企業との産学連携は、
この「社会還元(アウトプット活動)
」の面だけではなく、またそれ以上に、日本の
大学が世界トップクラスの研究を行うために不可欠なインプット活動としてとらえ
るべきである1 。我が国の研究成果が海外に流出するというとらえ方は国際産学連携
の一部の側面を見ているに過ぎない。
なお、我が国の公的研究機関(独立行政法人)においては、法人としてのミッショ
ンが、①世界水準の研究遂行にあるのか、②国内産業の振興・支援にあるのかで、国
際産学連携に関する位置づけが変わってくる点は注意が必要である。
ここでは、前節で国際産学連携の阻害要因として整理した日本の課題を解決するた
めの施策について、大学等の個別組織が取り組むべきものと、政府が国として取り組
むべきものに大別して提言する。
1
なお、本調査では対象としていないが、海外企業との産学連携において注意すべきケースとして、①安全保障貿易管理上の
問題と、②パテント・トロール(特許トロール)への技術移転の問題がある。
II-65
日本の課題
今後の方向性
(大学/政府)
研究コストの高さ
(アジア他国の大学と比較して)
ソリューション力の強化
(単品売りからシステム売りへ)
(長期的・包括型の産学連携モデル)
方針
海外企業を含めたグローバル企業との産学連携は
大学が世界水準の研究を行う上で不可欠な活動
コミュニケーション・ギャップ
(日本語・立地のハンディキャップ)
企画提案力の弱さ
(シーズばら売り・海外と接点不足)
“契約研究”実施体制の未成熟
(専門スタッフ不足、”海外・企業”
ルールの無理解)
教職員・学生のグローバル感覚欠如
(日本の存在感低下の認識が不足)
産学官コンソーシアム参加の壁
(ナショプロ等での海外企業排除)
企画提案力の強化
(重点国・分野の選択と集中)
(提案営業・トップ営業”の推進)
(企画提案ができる専門人材確保)
“契約研究”支援体制の整備
(アドミニストレーター等の育成・確保)
(研究マネジメントの仕組み整備)
学学連携など外部リソースの活用
(海外大学を介した国際産学連携)
(国内大学間の連携ノウハウの共有)
(大使館・商工会議所等からの紹介)
その他、教職員・学生の意識改革等
(日常的な産学連携メニュー整備)
(学内グローバル化の推進)
国際産学連携の国家的推進
(連携方針の明確化[お墨付き])
(企業与信等の情報提供)
(海外企業との意見交換の場設置)
海外企業を惹き付けるインフラ整備
(海外企業は産学官コンソーシアム)
(研究開発特区[税制・施設設備])
図 4-2 基本的な方向性
4.2.2 大学等が自ら行うべき施策
(1)ソリューション力の強化
我が国の大学が米国等と比較して圧倒的な研究水準を有しているのではなく、また
海外企業からみて企画提案力が弱いと評価されている中で、日本の大学等が国際産学
連携を促進するためには、他大学(海外企業にとって自国大学)では提供できない魅
力的なソリューション(課題解決)力を持たなければならない。
大学等は個々の研究シーズを「単品」として訴求するのではなく、それらの研究シ
ーズを持続的に創出する大学の研究インフラ、あるいは、それらの研究シーズを組み
合わせて企業の課題・ニーズに応えることができる産学連携システムを、大学の「商
品」として確立し、海外企業に訴求すべきである。例えば、物質・材料研究機構では、
研究水準の高さに加え、大学にはない評価・分析データの蓄積を中心に、理論計算や
II-66
評価・分析技術、共用設備等といった強みを有機的に結びつけたトータル・ソリュー
ションを企業に対して訴求している。
また、複雑さを増す経営環境において、既に顕在化している企業課題・ニーズに応
えるだけではなく、大学等の得意とする長期的・俯瞰的な視点から企業活動のあり方
を企業と議論するような長期的・包括的な産学連携モデルの提案も有効である。例え
ば、東京大学ではトップダウン型の新たな産学連携の枠組み(Proprius21)を商品
化することで、他大学との差別化を図った提案を行って評価されている。またシンガ
ポール経営大学では「Enterprise Affiliate」という企業会員組織を立上げ、中長期的
な関係を構築できる仕組みを用意している。
このように、大学の研究力の基盤となる研究インフラ・産学連携システムを課題解
決力(ソリューション力)として商品化していくべきである。
(2)企画提案力の強化
前述のとおり、研究水準で差別化できず、海外企業とのコミュニケーション・ギャ
ップが不可避である中で、日本の大学等が国際産学連携を促進するためには、海外企
業まで足を運び、産学連携を自ら提案していかなければならない。
大学等の経営資源が限られる中では、どの国・どの分野で国際産学連携を実施すべ
きなのか、あるいは、実施できるのかを検討した上で、大学等として重点的に連携を
働きかけるべき重点国・重点分野を定め、ヒト・モノ・カネを集中投資する必要があ
る。特に長期的・包括的な連携を成約するためには、海外企業の意志決定者(CTO
等)を大学等の経営層がトップ営業することも積極的に実施すべきである。例えばフ
ラウンホーファー研究機構では各国に研究所等を配置しビジネスチャンスを広げるた
めに当該国の企業や自治体に対して積極的に連携提案を行っている。また清華大学は
産学連携窓口を国別に設置し、担当者を配置している。物質・材料研究機構では業界
毎にトップシェア企業リストを作成し、提案すべき企業を明確に絞り込んだ上で、理
事が直接訪問している。
また実際に企業に提案を行うだけでなく、企業ニーズと大学等シーズを勘案しなが
ら具体的な研究テーマを企画し、大学等の内部で適切な研究者を配置し、契約まで結
びつける産学連携プロデューサー的な人材を教員または専門人材として確保・育成す
ることが必要である。例えば上海交通大学では、大学の研究シーズと企業ニーズのギ
ャップを埋める産学連携専門の研究組織「先進産業技術研究院」を設置し、通常の大
学の評価システムとは独立させている。これは米国大学と同様、教員自らが「事業家」
としてビジネスとしての契約研究を企画提案し、マネジメントしていく体制である。
一方、物質・材料研究機構の連携企画チームやナンヤン工科大学の TLO である
NanoFrontier Pte Ltd は、教員(研究者)とは別の企画提案専門の人材(組織)を
設置して企画提案を実施する体制をとっている。
(3)“契約研究”支援体制の整備
海外企業と契約研究(contract research)を実施すための体制を大学等は整備し
II-67
なければならない。企業との間で契約締結した仕様を満足する研究成果を産み出すた
めには契約事務に留まらず、相手企業とのスケジュール調整、打ち合わせでの議事録
作成、必要な人員・施設・設備調達支援など研究マネジメント全般に係わる研究支援
機能を強化する必要がある。そのためには専門職としての研究支援者(リサーチ・ア
ドミニストレーター)を、大学内に経験・ノウハウが蓄積される「常勤」スタッフと
して確保・育成すべきである。このような研究支援機能は「研究の進め方に口を挟む」
として研究者に厭われたり、研究者の下請け的な扱いとなることがないよう、大学等
の研究品質マネジメントとして制度化し、リサーチ・アドミニストレーターが研究者
と同等の立場で研究プロジェクトに関与できる体制を整備しなければならない。
例えば九州大学では、
産学連携コーディネーターが、
産学連携の窓口だけではなく、
共同研究契約で対象とする研究分野を企業と調整したり、海外企業の知的財産文化を
教員に理解させたりといった研究支援の役割を果たしている。また清華大学では、産
学連携担当部署(校企合作委員会)が産学連携プロジェクトの進捗マネジメントを実
施している。
(4)学学連携など外部リソースの活用
国際産学連携に必要な企画提案体制を整備するためには大学等の内部で大きな投資
が必要となるが、経営資源に限界がある中小規模の大学等では、学外のリソースを上
手く活用することが不可避である。
具体的には、海外企業とのコンタクト・与信のための外部リソースとして、国際協
定を締結している海外大学等や、各国の在日商工会議所、領事館、大使館等を活用す
るべきである。例えば、九州大学と上海交通大学は学学連携を活用し、日本企業と上
海交通大学、中国企業と九州大学を相互に仲介することを目指している。また、東京
大学では、EU 駐日代表部と密な連携体制を築いて、欧州の先進的な R&D ベンチャ
ー企業の紹介を受けている。また早稲田大学では、中国の状況に精通した NGO を挟
む形で中国企業と連携するようにしている。
また、どの国内大学等でも国際産学連携の実績は現状十分ではなく、また産学連携
部門スタッフの多くが任期制・外部調達のため経験・ノウハウが大学内に蓄積しにく
い状況にある中、海外企業との連携に伴う経験・ノウハウを国内の大学等の間で共有
するための大学間ネットワークも整備するべきである。例えば、九州大学では、安全
保障貿易管理に関する知識共有のため九州の各大学とのネットワークを構築している。
(5)その他(教職員・学生の”意識改革”促進)
国際産学連携は、グローバル企業との共同作業であり、そこに参加する教職員およ
び学生にはグローバル化した企業活動、あるいはグローバル化した高等教育における
産学連携のあり方に対する認識の共有が求められる。海外企業からみれば日本の大学
は連携候補大学が複数ある中での選択肢の一つでしかないこと、さらに言えば、中国
やシンガポールの大学等が研究水準を高め、また魅力的な国内市場・研究環境を武器
に海外企業との結びつきを強める中で、日本の大学は多くの場合「海外企業に選ばれ
II-68
る立場にある」ことを認識して海外企業に対応することが求められる。
そのためには、教育・研究活動で日常的に企業を接する機会を確保するために、産
学それぞれにとって参加しやすい小規模で低負担の産学連携活動を継続すべきである。
例えば、ドイツでは、大学院生は産学連携プロジェクトから給与を支給され、産学連
携を進める過程で博士論文を執筆できるような体制を築くことで学生と企業の日常的
な接点が確保されている。またボーイング・ジャパン株式会社は Interenship よりも
企業負担の少ない Externship で学生が企業から刺激を受ける機会を提供している。
一方、国際産学連携が、国内企業と比較して個々の研究者にとって負担が大きいこ
とは事実であり、国際産学連携を促進するためには、研究者のキャリア制度上の配慮
や、インセンティブ設計が必要である。例えば上海交通大学では准教授から教授に昇
進する場合には一度海外に出ることが条件となっており、海外とのコネクションを獲
得する契機となっている。また、清華大学では、研究者(教授等)の給与の 2 割程度
が、研究プロジェクト予算から賄われており、産学連携を実施するインセンティブの
一つとなっている。またフラウンホーファー研究機構では企業からの研究資金が目標
を上回った研究所には、連邦・州政府からの研究費の一部を基盤的経費(ボーナス)
として支給するようにしている。
4.2.3 政府、地方自治体が行うべき支援施策
国際産学連携を推進するためには、個々の大学等が取り組むだけではなく国として
の環境整備が必要である。本調査で対象とした国について言えば、以下のような直接
的・間接的な国際産学連携の支援施策を実施している。

ドイツ:
「インセンティブ型」
公的研究機関への政府予算(交付金)が、外部資金の獲得額に連動するように
設計されており、公的研究機関が積極的に外部(海外企業を含む)と連携する
インセンティブとなっている。

シンガポール:
「政府直接営業型」
政府(EDB)自身が海外の大学・企業等に働きかけ、シンガポール国内への研
究ラボを国を挙げて誘致している。また企業の国籍を問わない財務奨励、税制
優遇などの産業支援策を展開している。

中国:
「政府-大学一体型」
政府が推進するナショナルイノベーションシステムにおいて、個々の研究者が
産学連携を通じて社会に貢献できるかが意識されている。
このように、
「海外企業の研究開発投資を自国の大学等に如何に呼び込むか」で国間
の競争が起きている中、我が国は以下に示すような支援施策を実施すべきである。
(1)国際産学連携の国家的推進
国際産学連携に取り組む大学等の一部には、
「国内企業ではなく海外企業と連携して
II-69
本当に良いのか」という不安感がある。また、国内企業から国際産学連携を批判する
意見があった事実もある1 。前述したように日本の大学等が世界水準の研究レベルを
維持するためには国内外を問わずグローバル企業との産学連携を実施することが不可
欠である。何が我が国にとって望ましいかは個別の側面ではなく、総合的に判断して
いく必要がある。そのことについて、国として明確な方針を示すことで、個々の大学
等が不安を覚えることなく国際産学連携を推進する「お墨付き」を付与することが必
要である。
また、大学等が海外企業と連携する上で必要な情報、例えば知的財産等の海外法制
度、企業与信等の情報については政府関連機関(例えば JETRO など)を通じて提供
したり相談に対応することが期待される。
また、シンガポール政府のような海外企業の直接誘致は困難であるが、日本法人を
置く海外企業や既に日本の大学等と連携している海外企業の CTO 等を集めて、研究
開発投資先としての日本および日本の大学等の魅力を高めるための方策や環境整備に
ついて日本の政策立案担当者と意見交換をする場を設置することが期待される。
(2)海外企業を惹き付けるインフラ整備
市場のグローバル化に伴い、世界規模でサプライチェーンの最適化が進んでいる中
で、産業政策において「競争と協調」が重視され、オープンイノベーションに対応し
た研究開発システムの整備が進められている。このような外部環境を認識した上で、
大学等の国際産学連携への支援施策として海外企業を日本に惹き付けるためのインフ
ラ整備が求められる。
具体的には、政府支援により様々な産学官コンソーシアムが構成されているが、そ
こに海外企業の参加を促進する、あるいは阻害しないような制度設計を行うべきであ
る。政府の研究開発ファンディングの対象に海外企業を含む(単独が難しければ国内
大学等との連携の場合に認める、海外企業の定義について見直す等)
、国の研究開発施
設の利用において海外企業を妨げない等が期待される。例えばミュンヘン工科大学は
シンガポールでの富士通アジアとの共同研究においてドイツ連邦・州政府のマッチン
グファンドを受けている。
また、日本のオープンイノベーション拠点として、つくばイノベーションアリーナ
(Tsukuba Innovation Arena:TIA)の整備を政府が進めているが、例えば研究開
発特区として、海外企業を含めた研究開発減税の優遇や諸手続の簡素化などを実現す
ることで、海外企業の参入を促すことも期待される。
1
「海外企業との連携を進めると競合する国内大手企業から文句を言われるという実態がある」
(物質・材料研究機構)
II-70
1
7
I
科学技術・イノベーション政策
による研究開発の牽引
(特にグリーン・イノベーション)
世界的なサプライチェーンで不
可欠な存在である日本企業
インフラの活用
(当該国のイノベーション基盤
を活用する)
産産連携の仲介
(大学を媒介として当該国の
企業と連携する)
産学官コンソーシアム参加の壁
(ナショプロ等での海外企業排除)
教職員・学生のグローバル感覚欠如
(日本の存在感低下の認識が不足)
“契約研究”実施体制の未成熟
(専門スタッフ不足、”海外・企業”
ルールの無理解)
企画提案力の弱さ
(シーズばら売り・海外と接点不足)
コミュニケーション・ギャップ
(日本語・立地のハンディキャップ)
研究コストの高さ
(アジア他国の大学と比較して)
日本の課題
図 4-3 国際産学連携を推進するための今後の方向性
(学生の内向き志向)
(日本市場の魅力低下)
市場の開拓
(大学等を媒介として海外市
場に参入する)
人材の確保
(大学等から優秀な人材を獲
得する)
ワールドクラス(世界No.2)
の研究水準
技術・知識の獲得
(大学等から研究成果・事業
の芽を獲得する)
日本の魅力
日本の大学等の国際産学連携の現状
海外企業を惹き付けるインフラ整備
(海外企業は産学官コンソーシアム)
(研究開発特区[税制・施設設備])
国際産学連携の国家的推進
(連携方針の明確化[お墨付き])
(企業与信等の情報提供)
(海外企業との意見交換の場設置)
その他、教職員・学生の意識改革等
(日常的な産学連携メニュー整備)
(学内グローバル化の推進)
学学連携など外部リソースの活用
(海外大学を介した国際産学連携)
(国内大学間の連携ノウハウの共有)
(大使館・商工会議所等からの紹介)
“契約研究”支援体制の整備
(アドミニストレーター等の育成・確保)
(研究マネジメントの仕組み整備)
企画提案力の強化
(重点国・分野の選択と集中)
(提案営業・トップ営業”の推進)
(企画提案ができる専門人材確保)
ソリューション力の強化
(単品売りからシステム売りへ)
(長期的・包括型の産学連携モデル)
今後の方向性
(大学/政府)
海外企業を含めたグローバル企業との産学連携は大学が世界水準の研究を行う上で不可欠な活動
企業が国際産学連携
を行う目的
方針
2
7
I
(空白頁)
III. 付録編
III-1
(空白頁)
III-2
1. 国内先進事例インタビュー記録
1.1 グリーン・イノベーション関連技術分野
1.1.1 独立行政法人物質・材料研究機構
実施日時
2011 年 2 月 2 日(水)10:00~11:15
実施場所
独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS)
対象者(敬称略)
安全管理室 室長 兼 企画部 IT 室 室長 赤羽 隆史
企画部国際室 室長 竹村 誠洋
企画部広報室 室長 兵藤 知明
企画部連携推進室 室長 青木 芳夫
企画部連携推進室知的財産チーム 係長 中野 恵介
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所 森、大木
内容
国際産学連携について
受領資料
組織的連携の推進等に関する説明資料(パワーポイント)
NIMS 研究者紹介(冊子)
NIMS NOW International(2010.Dec, 2010.Nov)
、NIMS NOW 別冊
Science and Technology of Advanced Materials(Vol11 Issue1,4)
NIMS ホームページ(英語版)コピー
概要

各事業分野におけるトップクラスのグローバル企業を対象とした組織的連携を積極的に促進している。そ
の目的としては、研究成果の普及、潤沢な研究資金の確保、優秀な研究者との連携などが挙げられる。

海外企業との連携は、連携推進室が担当しており、民間企業出身者を雇用し、民間の手法を取り入れて企
業との組織連携を進めている。海外企業へのアプローチとしては、理事が訪問するなどトップ同士の交渉・
合意を行っている。

NIMS の強みとしては、研究水準の高さに加え、理論計算や評価・分析技術、共用設備等といった技術的
ソリューションを融合して提供できる点も評価されている。また、国際対応が可能な点も評価されている。

研究所内のバイリンガル化や海外研究者等への支援活動などを進めるなど、研究環境の整備にも力を入れ
ている。
(1)国際的な産学連携活動、経緯等

Rolls-Royce との連携が最初である。当初、文部科学省や大使館と調整し、実
現した。その後、個別案件ごとに文部科学省に相談していたが、積極的に海外
企業との連携を進めるようにと言われた。その後、NIMS 内の手続きとしては、
当初は理事会での承認事項であったが、現在では報告事項となっており、最近
では「海外企業と連携するのは当たり前」のように自然に連携を進めることが
できるようになった。
III-3

産学連携の形態としては、共同研究、技術相談、サンプル評価、受託研究、ラ
イセンスがある。最も多いのは共同研究であり半分以上を占める。技術相談は
国内中小企業が多い。受託研究は研究者のメリットが少ないことからあまりや
っていない。
(2)国際的な産学連携の位置づけ・ニーズ等

NIMS では、組織的企業連携に関するガイドラインを作っている。基本方針と
して、日本と海外を区別せず、グローバル企業との連携を推進する。

連携の対象としては、以下の原則に基づき選定する。
 日本国内で事業実態があり、法人税を納付している企業
 研究成果の普及とその活用の促進を目的とし、日本経済・産業の発展に貢献
できる企業(例えば、Rolls-Royce の発展は日本の重工業の発展に波及する)

個別連携は、件数は増加するものの、成果の普及や事業化等に関する成果が見
えない。NIMS としては、成果の普及が重要と考えており、トップ同士の合意
による組織的連携を進めたい。

組織的大型連携の目的は、潤沢な研究資金を確保すると共に、その事業分野の
将来動向を的確に把握し、将来に向けての基礎・基盤研究を加速することであ
る。物質・材料に係る各事業分野のトップクラスの企業との連携を積極的に推
進し、成果の普及につなげる。

トップクラスの企業にはトップクラスの研究者が多いことも目的の一つであ
る。

売上高 1 兆円以上、時価総額 5000 億円以上の企業が対象である。中小企業
との組織的連携は行わない。なお、対象企業の条件としては、以下を掲げてい
る。
 潤沢な資金力を有し、将来への研究投資を積極的に行う企業
 5 年~10 年先の市場ニーズを的確に把握している企業
 その事業分野で圧倒的なマーケットシェアを有している企業

現在、12 企業との組織連携を進めている。公表している企業は GE、トヨタ、
St-Gobain、DSM、Rolls-Royce が挙げられる。

連携対象企業は、これまで欧州の企業が多かったが、最近は米国に焦点を当て
ている。欧米を特に分けていた訳ではないが、欧州の方が日本の気質に近いと
ころがあり、結果的に欧州企業との連携が多くなっていた。
(3)国際的な産学連携活動の体制等

連携推進室は、独立行政法人化した際に技術展開室として設置された。当時は
III-4
事務職 3 名、派遣社員 1 名、コーディネータ 1 名が所属していた。

連携推進室は、業務推進チーム、連携企画チーム、知的財産チームで構成され
る。

業務連携チームは 15 名が所属し、競争的資金、受託・委託の契約業務全般を
担当している。

連携企画チームは 6 名が所属し、大型企業連携の企画・推進を担当している。
新規に作られた組織であり、企業出身者もいる。

知的財産チームは 15 名程度が所属し、企業との契約事務や特許業務を担当し
ている。

グローバル企業(神戸製鋼、三菱化学、日立マクセル、富士通、ソニー、HP、
TI 等)出身の特別専門職を採用し、研究成果の普及・活用の促進に力を入れて
いる。知的財産チームの技術移転グループが担当する。

海外企業へのアプローチは、NIMS の理事を連れて相手企業のトップに会い、
ある程度の合意をする。その後は事務方で個別の調整を行う。

連携企画チームが国際産学連携の新規開拓を行い、実務的な調整が開始される
と知的財産チームが担当する。
(4)国際的な産学連携活動の実績・効果等

企業との連携における海外比率は増加している。日本企業は、研究所を独自に
設置しているケースが多いことから、海外企業との方が連携しやすい面がある。
最近になり、日本の大企業との連携が増えつつある。

中期の 5 年間で、企業との連携を 30 億程度まで増加したいと考えている。

平成 21 年度の企業等からの受領資金は 9.8 億円、連携件数は 200 件強程度
である。

海外からの外部資金は、平成 21 年度で 1.3 億円程度、件数は 17 件である。

海外企業との連携を実施している研究者は 150 人程度であり、1 人が複数の
案件を実施している。若い研究者は海外企業との連携に積極的である。

海外企業から、日本企業を紹介して欲しいという依頼はあり、都度紹介してい
る。しかしながら、良い企業ほど、英語のホームページが用意されていない。
(5)国際産学連携活動に対する参加者の評価

研究水準の高さはデータに表れている。1 人当たりのライセンス収入・国内特
許出願率は、国内 1 位である。

NIMS の強みとして、最先端の物質・材料研究の他に、理論・計算科学・ナノ
計測(新規材料を実現する理論的アプローチ)
、共用設備(NMR、TEM 等、
世界トップクラスの共用設備)
、評価・分析技術、信頼性科学(クリープ・疲労・
腐食等の実用化に向けた技術)等が挙げられる。特に評価・分析データの蓄積
III-5
は、これまで「地味」な研究として扱われていたが、海外企業から見れば大き
な魅力となっている。これらを融合したソリューションの提供が、企業から見
た魅力となっている。

これにより、研究以外の技術スタッフが注目されつつある。

各項目の連携の推進が課題であり、ALL NIMS 体制によるソリューション提
供の検討を開始している。

国際対応が可能である点は魅力と考えられる。St-Gobain が日本拠点を設置
する際に NIMS を選定した理由として、国際対応が可能である点が評価された
と聞いている。グローバルな環境・感覚・運用を重視しており、それを実現す
るのは人材がポイントとなるだろう。
(6)国際的な産学連携活動を促進するための取組等
(a)安全保障貿易管理について

安全保障貿易管理への対応は、3 年ほど前に開始した。契機は安全保障貿易管
理に対する機運が高まったことである。

2 年半ほど前より、当該分野の民間の経験者を週 3 日雇用し、個別案件の検査
を行っている。

当初 1 年は、研究者への普及啓発活動として、研究ユニットごとに講習会を開
くなどの活動を行った。
実務的な運用を開始したのは、
2 年ほど前からである。

現在の担当部署は安全管理室である。担当者は 2 名(次長と上述の民間からの
経験者)である。ただし、次長は事務担当であり、実際に該非検査を行ってい
るのは 1 名である。

該非検査の件数は 1 カ月あたり 15 件程度であり、
ほとんどが非該当であった。
海外機関との共同研究におけるサンプル輸出が半分以上を占める。輸出困難な
ものは現地で調達する等により対応する。

現在の体制では、該非検査に加え、経済産業省への許可申請まで対応するのは
困難である。

課題は人的交流への対応である。方針として国際交流を強化する一方で、外国
人研究者に機器の取扱マニュアルを見せないというような措置をとるのは現
実的には難しい。また、スーパーコンピュータの利用も規制対象であり、扱い
が難しくなっている。
(b)海外からの人材獲得について

海外からの研究者は、年間 100 名程度、3 年間で 300 名程度受入れている。
この数字は、連携推進室の活動に限ったものである。

海外からの人材獲得に関するプログラムは、連携大学院制度とインターンシッ
III-6
プの 2 つが挙げられる。優秀な人材は、NIMS でキャリアを積ませ、最終的に
は採用したいと考えている。

連携大学院制度は、NIMS 研究者が連携協定を締結している大学院の客員教員
に就任し、NIMS 研究所内で大学院生を受入れて、学位取得まで指導する。

インターンシップは、大学・大学院生に対し NIMS において研究する機会を提
供する。期間は 3 ヶ月程度である。

海外企業からの研究者の受入数は、大学院生やポスドクと比較して非常に少な
い。共同研究があった場合に受入れる程度である。

NIMS で受入れた海外の研究者は、その後学術機関に戻る人が多く、企業に進
む人は少ない。
(c)広報活動について

海外向けの主な広報活動としては、英語版ホームページ、英訳したニュース記
事アーカイブ、英語版プレスリリース、英語版の広報誌の発行などが挙げられ
る。

海外メディアからの取材は、BBS(2 回)
、KBS(2 回)
、ニューヨークタイ
ムズの他、フランス、ロシア等のメディアからの取材を受けた。それほど多く
の取材を受けている訳ではない。

海外向けの広報の課題としては、まずコストがかかることが挙げられる。コス
ト要因は翻訳費用である。

海外向けの広報のもう一つの課題は、位置づけが定まっていないことである。
研究者向けの広報は、英文の論文が最も効果がある。海外企業については、主
な企業は日本に支社を持っており、日本国内向けの広報を見ている。何をター
ゲットにすべきか検討している。

現在、海外向け広報誌は 2,300~2,500 程度発送している。大学教授、過去
に NIMS に在籍していた人などに対し、研究論文以外の NIMS の取組を紹介し
ている。駐日大使館にも発送している。

海外から NIMS にコンタクトする場合、広報活動よりも論文を読んで研究者個
人にコンタクトする例が多い。

NIMS のプレスリリースは年間 50 件程度であり、プレスリリース 1 件につき
企業からの問合せが複数ある。複数機関で広報を束ねる案については、個別機
関の特色が出にくくなり、意味がないと考えられる。

海外における NIMS の認知度はまだ不十分と認識しており、あと 1 年程度は周
知の活動が必要と考えている。

NIMS と産業技術総合研究所(AIST)を比較すると、NIMS は基礎研究、AIST
は実用化研究であり、AIST の方が企業との研究に馴染みやすいだろう。NIMS
に基礎研究を委託できる企業は、体力のある企業である。

国内を見ると、東京大学、京都大学、大阪大学は知っていても NIMS を知らな
III-7
い人は多いと考えられ、海外向け広報よりもまずは国内広報を優先している。

海外向け広報の対象地域としては、特定地域にターゲットを絞っておらず、全
方位に発信している。
当初は有名な研究機関向けに発送していたこともあった。
海外から NIMS を訪問する人は年間 500 名程度おり、その人には広報活動に
より継続的に情報提供している。

海外における広報活動は、広報室ではなく、国際室が担当している。展示会へ
のブース設置等をやっているが、
現状ではそれほど力を入れている訳ではない。

NIMS が 刊 行 す る STAM ( Science and Technology of Advanced
Materials)誌は、インパクトファクタが 2008 年の 1.267 から 2009 年に
は 2.599 に上がった。STAM 誌は、科学技術振興調整費をもとに、東京大学、
京都大学、大阪大学、NIMS の 4 機関で刊行していたが、数年前に同資金の終
了を契機に NIMS が引き取った。独立行政法人の本来のミッションと異なるこ
とから、当初は賛否の議論があった。現在は、NIMS の認知度が向上する点で
効果があることから、特に問題にはならない。

政府が国として海外向けの広報をやる必要はないだろう。国内機関を束ねるの
ではなく、個別に活動すべきである。共同で実施した場合、限られた紙面に何
を取りあげるか、という議論になるだけである。

1 人 1 頁、全 400 頁に渡る研究者紹介の冊子を作成している。
(d)研究環境の整備について

NIMS 内は、放送や規定類についてバイリンガル化している。また事務職員の
国際化研修を実施しており、1 ヶ月程度の米国派遣等を行っている。

昨年より、45 歳以下の事務職員の英語化対応を進めており、TOEIC500 点
以上を目指すことなどの取組を行っている。職員の採用の際にも、TOEIC の
点数の提示を求めている。

研究者の家族を含めた日常生活の支援を実施している。長期滞在者に対しては、
NIMS の専任スタッフが、銀行や市役所の手続きへの同行、入院時の支援、家
族に不幸があった場合の支援等を実施している。

最近の問題としては、中国やインドの研究者の人数が増加し、母国語で固まっ
ていることが挙げられる。外国人の研究者は、母国の研究者を招聘する傾向に
ある。母国に対しては大学の実力が分かるなど、研究者を招聘しやすい。
(e)NIMS 研究者の海外への派遣
 海外に留学する研究者に対し、資金面のバックアップをしていたが、それ以
外のサポートを検討している。
 従来は、研究者本人が希望するところへ行っていたが、それに加えて、対象
を特定し連続して送り込む取組を開始した。
III-8
 海外の企業に行く人はほとんどいない。
(7)国際的な産学連携活動を行う上での課題

NIMS が海外企業との連携を進めると、競合する国内大手企業から文句を言わ
れる(それも NIMS 経営層ではなく、個々の研究者レベルで言ってくる)とい
う実態がある。最近は減ってきたが、海外企業との産独連携を妨げるのは日本
企業かもしれない。

海外企業と連携すると日本の知財が流出することを懸念する声があるが、
NIMS の海外企業との連携の位置づけとしては、日本の経済に貢献しているグ
ローバル企業と連携することとしており明確である。

企業と連携する上で、基礎・基盤研究は NIMS 単独、実用化研究は企業と共同
で実施する方針としている。そのため、基礎・基盤技術については、まず特許
を単独出願し、次に論文発表するプロセスが重要となるが、研究者がその順番
を守らないことが課題である。

運営費交付金が減少し、外部資金が重要となる状況において、外部資金獲得の
ための仕組みへの協力を研究者に依頼している。

政策的な課題として、特許法の変更が必要である。企業と公的機関が共同で特
許を取得した場合、共願先企業は自由に権利を実施できるが、公的機関が(自
ら実施できたいため)他機関に実施権を譲渡する場合には共願先企業の了解が
必要となる。
これは、
自ら権利を実施できない公的機関に不利なルールである。
米国では共願であっても共願先の了解を得ずに自由に譲渡できる。
(欧州は国ご
とに異なっている模様。
)
III-9
1.1.2 サンゴバン株式会社
実施日時
2011 年 2 月 25 日(金)10:00~11:30
実施場所
Saint-Gobain K.K.(サンゴバン株式会社)
対象者(敬称略)
Brian E. Minahan
Director, HPM Asia Business and Technology Department
(アジア地域事業開発、技術開発部長)
実施者(敬称略)
三菱総合研究所 須崎、森
内容
海外企業からみた日本の大学・独立行政法人との産学・産独連携
受領資料
「サンゴバン・グループご紹介と共同研究」
概要

サンゴバンは世界中の大学・研究機関と連携を積極的に展開している(”Saint-Gobain University
Network”)
。目的は、①世界トップ研究チームとのコラボを通じた相互刺激、②優秀な学生・ポスドクの
採用、③企業にとって重点国におけるプレゼンス向上の 3 つ。そのため委託研究は行わず、共同研究とし
ている。

日本の大学・研究機関は材料分野では世界最高の研究品質であることは認めている。また連携部門の組織
的な対応もこの 5 年間で大きく進歩しており、驚く程である。一方、グローバル化への対応(日本語)の
問題があり、アクセスには多少時間がかかる。

日本の大学・研究機関、海外企業、政府のコラボレーションがあれば更に連携が進展する。海外企業と政
府の研究ファンドが上手く連携できると良い。
(1)サンゴバン・グループ概要

サンゴバン(Saint-Gobain)は 1665 年仏で設立し 346 年の歴史を持つ。
ルイ 14 世の時代に最初にガラスの注文を受けベルサイユ宮殿の鏡の間を製作
したガラスメーカーである。

今日では世界 64 カ国、1400 社、従業員 209,000 人を超える企業グループ
を構成(HQ は仏パリ)している。サンゴバン・グループで売上高は約 4.9 兆
円、純利益は約 780 億円(2009 年)の実績である。

事業領域は次の 5 つ(括弧内は同社売上高に占める比率:2009 年実績)で
ある。

板ガラス(12%)
:欧州 1 位、世界 3 位。

高機能材料 HPM(High Performance Materials)
(9%)
:世界 1 位。NIMS と連携。

ガラス容器(8%)
:欧州 1 位、世界 2 位。

建材(27%)
:世界 1 位。

建材流通(44%)
:欧州 1 位。欧州 3500 支店を有する。

グループ組織の営業利益の内訳
(2009 年実績)
でみると、
革新的材料が 21%、
III-10
建材が 23%、建材流通が 56%である。
(2)日本におけるサンゴバン

従業員数 840 人、総売上 1,100 億円(2009 年度)で日本国内 9 ヶ所に工
場・会社を持つ。

サンゴバン株式会社
諏訪工場(機能樹脂事業部)
千葉製作所(ダイヤモンド製品事業部)
瀬戸事業所(セラミック事業部)

サンゴバンハングラスジャパン株式会社(建築用ガラスの輸入・販売)
→サンゴバンと韓国硝子(HanGlas)とのの合弁会社。

マグ・イゾベール株式会社(グラスウールの製造・販売)
→元々は太平洋セメント株式会社と日本板硝子株式会社の合弁会社。現在はサンゴバン 97.59%その他
2.41%。

サンゴバン・ティーエム株式会社(耐火物の製造・販売)
→東芝セラミックとカーボランダム社が出資して設立。現在はサンゴバンと日本電気硝子株式会社の合弁
会社。

セントラル・サンゴバン株式会社(自動車用ガラスの販売)
→サンゴバンと日本セントラル硝子との合弁会社。

豊田バンモップス株式会社(研磨材の製造・販売)
→1975 年設立と古い。サンゴバンとジェイテクトの合弁会社。

日本におけるサンゴバン製品の例として、西武ドーム屋根財、プラダ・シャネ
ルビルのガラス、新幹線の防護窓ガラス、マツダ Axela 自動車ガラス等がある。
(3)サンゴバンの研究開発

サンゴバン・グループ全体で研究所従業員数は 3,500 名(うち PhD 保有者
1,000 名)
。研究開発費は年間 378M ユーロ(2008 年実績)である。

サンゴバン・グループは以下の以下の 4 ヶ所製造拠点に研究機能を有している。
これとは別に事業部には研究開発部門がある。
 USA ノースボロ
 France オーバビリエ
 France カバイオン
 China 上海

複数事業に共通する材料研究プラットフォームとして、Cristals、Ceramics
m、Glass、Polymers に取り組んでいる。Metal は実施していない。

代表例としては、Glass Glazing、SOFC、Photovoltaic、Lighting(LED、
OLED)がある。
III-11
(4)サンゴバンの大学ネットワーク(Saint-Gobain University Network)

“Saint-Gobain University Network”は 2005~6 年から開始した。目的は
次の 3 つ。
 自社技術・市場において「ベストな研究チーム」との相互刺激:
→世界一の研究者は世界各地に分散している。常にベストな研究者との連携
を目指す。
 トップ大学からの学生・ポスドクの雇用:
→共同研究プロジェクトを実施する中で、優秀な従業員を発掘する可能性に
期待。
 自社にとって戦略的に重要な国でのプレゼンス獲得

この観点から重要国を以下のとおり選定した。

Franc→Saint-Gobain’s Home Country(母国)

Brazil, India and Russia→Fast Growing Countries(新興国)

USA and Japan→Technological Leaders(研究水準)

中国(China)は最初に University Network を開始したときは IP(知的財産)
流出を危惧する意見もあり重要国に入っていなかった。現在は入っている。

大学とのネットワークでは、科学的基礎を重視している。逆に言えば事業化は
重視していない。10 年以内に事業化するようなテーマは自社内で取り組んで
いる。

委託研究(contract research)は実施せず、共同研究(collaborative
research)を実施している。これは、真のネットワーク構築を目指しているた
めで、教授、学生との人材交流やシンポジウム開催などを行うためである。

具体的な University Network 締結先は以下の通り。*印とは組織連携
(Institutional Contract)で残りはプロジェジェクト単位の連携である。

米国:MIT、Harvard Univ、UCSB、Penn State*、UMASS amherst

欧州:CNRS*

ロシア:Moscouw State Univ*

インド:IIT Madras*

日本:NIMS*
(5)大学以外のネットワーク

研究開発以外でも Techno-Marketing や External Venturing のための連携
も行っている。

External Venturing では金融面でのベネフィットを求めているのではなく、
優れたスタートアップ企業の支援(投資、エンジニアリングサポート、販売支
援)して自社事業に活かすことを志向している。
III-12
(6)サンゴバンの日本における産学(産独)連携
1)物質・材料研究機構(NIMS)

NIMS とは 2008 年 11 月に初めて連携研究に関する合意を締結した。現在は
3 つの共同研究プロジェクトを推進している。2010 年 6 月には NIMS・サン
ゴバン先端材料研究センター(NIMS - Saint-Gobain Center of Excellence
for Advanced Materials)を設置した。

サンゴバンの体制は、仏パリの研究拠点がカウンターパートとなっている。

2008 年に最初のワークショップを行った。サンゴバンの研究者(13 人)が
世界中から NIMS に集り、NIMS の研究者(16 人参加)と 2 日間のミーティ
ングを行って研究テーマを選んだ。新たな研究テーマを議論するため、3 月 2
日、3 日にワークショップを仏パリで行った。NIMS からは 16 人が参加した。

NIMS との連携は、2006 年 8 月に仏パリから来日した 2 名と私の 3 名で日
本の大学・研究機関を 12 ヶ所訪問したことが契機。訪問先は研究の評判
(reputation)やリサーチペーパーを見て選定した。

、東京大学
その中で、3 つに候補地を絞り込んだ。NIMS、東北大学(IMR42)
(LIMMS43)の中で、サンゴバンは CNRS とは別途連携していたので東京大
学を除き、NIMS は基礎研究、特に材料研究の「幅」があったことから NIMS
を選定した。

研究水準もあるが、途中でミーティング何回も繰り返す中での人間関係が大き
かったようにも思う。NIMS の人々、特に Collaboration Office 担当者であ
る青木氏はすばらしく、信頼関係を保てる人が NIMS の研究者との間にいるこ
とが安心感につながった。青木氏がサンゴバンのニーズに応える NIMS 研究者
をスムースに紹介してくれた。

また 2006 年に NIMS を初めて訪問した際、外資系企業に対して非常にオー
プンだった印象がある。
一方、
当時の日本の大学ははっきり断ることはないが、
外資系企業を嫌がっていることが態度でわかった。

2006 年:NIMS を初訪問。

2007 年 4 月:仏パリから 1 名が来日、NIMS の研究者 15 名の前でプレゼンテーションを行い意見
交換を実施。

2007 年 8 月:サンゴバンの研究担当副社長代理が来日、NIMS の理事と交渉。役員クラスの初めての
会合。

2007 年 11 月:NIMS の 2 名(長井寿氏および田中英彦氏)がフランス HQ を訪問し、最初の NDA
を締結。

2008 年 2 月:最初のワークショップを NIMS で開催。

2008 年 11 月:最初の共同研究契約を締結。
42
金属材料研究所
43
フランス CNRS と東京大学生産技術研究所の共同研究ラボ。
III-13

2009 年 8 月:第二弾の共同研究契約を締結。

2009 年 10 月:サンゴバンの社長が NIMS 訪問。MOU 締結。

2010 年 10 月:第 3 弾の共同研究契約を締結。
2)東北大学

東北大学原山優子教授はサンゴバンの社外取締役(日本人初)となっている。

現在 2 つの共同研究プロジェクトを推進している。

3 月 8 日に東北大学の研究者をサンゴバン上海研究拠点に招いてワークシ
ョップを開催する。東北大学は毎年産学連携シンポジウムをやっており、昨年
のシンポジウムで上海研究拠点の研究者が日本でプレゼンテーションを行った
ので今年は逆に東北大学の研究者を招聘した。
3)日本での連携について

サンゴバンと日本の大学・研究機関との連携は、双方が Win-Win の関係にな
らなければならないという意識がある。

基本的な連携ステップは以下の通り。
Examine the Research and Papers
↓
First Visit to Exchange Basic Information
↓
Sign NDA
↓
Exchange more Detailed Information
↓
Decide there is a Suitable Topic for Collaboration
↓
Draft Program Description
↓
Determine Budget and Post-doc Needs
↓
Draft and Sign Collaboration Research Contract
↓
Begin Joint Research

日本は NIMS だけに限定するというつもりはない。例えば東北大学と組織的な
連携を行いたいとは考えている。
ただし、
今の日本は NIMS が中心であり、
R&D
投資をするのであれば NIMS としたいという経営判断になる。勿論、東北大学
から双方にメリットのある良いテーマが挙がれば東北大学との共同研究が優先
される可能性はある。

日本での研究結果、特にエネルギー、環境関連の研究は世界で活用できる研究
III-14
内容であり、日本市場に特化した製品を念頭においたものではない。ただ、日
本初の研究成果はできれば日本でも販売される製品に活用したい、という思い
はある。
4)日本の大学・研究機関の印象

2005 年に最初に日本の大学にコンタクトしたが、この 6 年間に産学連携体
制が大きく進歩したという印象がある。今ではどこの大学にもフロントオフィ
スが整備されている。恐らく 2004 年の国立大学法人化が大きな契機となっ
たのではないか。

先日九州大学を訪問したのだが、最初に教授と意見交換をしたら、すぐに産学
連携本部に行って契約交渉が出来るくらいのスピード感になってきた。2006
年東北大学を訪問したとき連携窓口は職員 1 名しか対応してくれなかった。そ
れが最近訪問したら 8 名で対応してくれ、組織化されていた。大きな驚きだっ
た。

2005 年に最初に大学を訪問したときは大変だった。まず大学の対企業窓口が
誰なのかわからず、研究者以外に大学で誰に話を始めるべきかがわからなかっ
た。この点、東北大学は当時から産学連携のオフィスがしっかりしており、契
約などの研究内容以外の重要な点も組織として話しあうことができた。他の大
学も徐々に体制が整備されてきたと感じる。

米国の大学と比べると、日本の研究の質は高く、おそらく世界一である。こう
した点からサンゴバンで大学ネットワークを構築する際も、日本の大学が参加
することを必須とした。しかし、大学の研究者が執筆するリサーチペーパーに
ついては日本語しか用意されていないものもあり、重要なものは企業側で翻訳
するため時間がかかる点は課題である。また、日本の大学は企業からコンタク
トしにくく、大学側も強みを認識した営業が出来る人が少ないという欠点もあ
る(特に研究者ではなく、支援する事務方)
。

サンゴバンはエネルギー・環境を重視しており、これは世界共通である。この
分野で日本の研究水準は高いという印象がある。また日本市場も環境・エネル
ギーを重視するニーズがある。日本政府が環境・エネルギー分野に投資すると
大学・研究機関もそちらを向いている。非常に良い効果だと思う。

経済産業省でいえば、AIST(産業技術総合研究所)も毎年訪問しており、非常
に研究品質が高いと認識している。契約チャンスがないだけで、研究テーマに
関する情報交換も良くやっている。ただ個人的な印象だが、産業技術総合研究
所は経済産業省なので、産業技術総合研究所は日本企業を意識しているのでは
ないかと思っている。NIMS は文部科学省所管のために外資系企業にオープン
なのではないか。
III-15
5)日本の大学・研究機関の強み・弱み

本社の CTO(私の直接の上司)と意見が一致するところだが、この分野で研
究の品質は日本は世界一であるという高い評判は得ている。実際、University
Network を展開する際、日本の大学・研究機関と是非連携したかったという
思いがある。

日本の弱点としては、海外企業からコンタクトしにくいことである。日本の大
学・研究機関はグローバル化が遅い。日本の大学・研究機関のリサーチペーパ
ーの多くは日本語のため、翻訳して読むまで時間がかかる。サンゴバン株式会
社は日本人従業員は多いが研究開発担当は 4 人しかいない。日本の大学・研究
機関の情報を得るするには少ない。

確かに日本の大学と連携するための話し合いには時間がかかる印象がある。た
だし、以前よりは早くなった。また日本は人間関係を大事にするので、直ぐに
は連携が始まらない。信頼関係を築くまで時間がかかると思っている。将来の
成果を考えれば 5 年の時間は長かったとは思わない。日本との連携は 10 年、
20 年と続ける予定である。

日本の大学・研究機関との連携を行う上で、政府の研究ファンディングとの連
携があれば良い。サンゴバンも研究費を出すが、政府の研究ファンディングも
そこに加われば研究が大きく発展する。政府、海外企業、大学・研究機関のコ
ラボレーションができれば良い。
III-16
1.2 ライフ・イノベーション関連技術分野
1.2.1 大阪大学
実施日時
2011 年 3 月 9 日(水)13:10~15:00
実施場所
三菱総合研究所本社
対象者(敬称略)
大阪大学サイバーメディアセンター 特任教授
神戸大学大学院理学研究科 客員教授
坂田恒昭
実施者
株式会社三菱総合研究所 吉村、須崎
内容
大阪大学における国際産学連携について
受領資料
なし
概要

海外クラスターと交流促進を目的に覚書を結んだが、実態を伴う交流に進めることは難しいと感じている。

創薬分野の場合、海外企業と連携した方が大きな予算が得られる可能性があるので大学研究者にとって魅
力である。創薬分野は投資も莫大で、アカデミアだけでは開発できないので、少なくともプレクリニカル
からは企業に引き継ぐ必要がある。

海外との共同研究を進める上での課題は進捗管理やマネジメントどうするかである。実際に会って話をし
ないと意思疎通できないことも多い。お互いに最初に人となりをみたいというニーズがある。
(1)海外企業等との連携の現状と課題
(a)海外企業等との連携の実態

大阪大学、神戸大学において、海外クラスターと交流促進を目的に覚書を結ん
だが、実態を伴う交流に進めることは難しいと感じている。

かつて大阪大学とインシリコ創薬の分野でイギリス・ケンブリッジ大学、フラ
ンス・ストラスブール大学と共同研究し、ビジネスにつなげることを目指した
が、うまくいっていない。お互いに同じ技術領域で展開することになると、イ
ギリスでは先生の起業精神が高く、ビジネスまで進めるならベンチャーを作る
のでそれに投資してもらいたいという考えになり、やりにくい面がある。

現在、関西クラスターと上海のバイオクラスターと交流しようとしている。こ
れは、上海の企業等と神戸・大阪のバイオベンチャー、大阪医薬品協会の企業
とを結びつけようとするものである。期待しているのは中国の市場である。中
国ではアカデミアのレベルはまだこれからではあるが、発展の余地がある。

医薬系分野で大阪大学、神戸大学において海外企業と効果的に共同研究を実施
している例は知らない。
III-17
(b)海外企業との連携メリット

創薬分野の場合、海外企業と連携したほうが大きな予算が得られるのが大学研
究者にとっての魅力である。米国の医薬企業はとりあえず始めてみて駄目だっ
たら捨てる、という考えを持っている。ノバルティス、ロシュ、ファイザーな
ど大きな予算を持っている。

大学研究者にとっては研究資金が入って来れば何でもいいということではな
いか。但し、研究者の考えによる。日本の大学の研究者は「できれば日本企業
に」と考える人が多いようだ。

創薬分野は投資も莫大で、アカデミアだけでは開発できないので、少なくとも
プレクリニカルからは企業に引き継ぐ必要がある。どのように企業に引き継ぐ
かが鍵である。関西では京大が一番力を入れている。ロンドンにオフィスがあ
り、ブリストル大学とも連携している。
(c)海外企業との連携における課題と対応

海外企業と連携するには意思疎通の問題があるため、両者をつなぐ人材を置い
て対応することになる。

海外企業との契約書の解釈など難しい面もあり、日本の企業との方がやりやす
いという面もある。

海外との共同研究を進める上での課題は進捗管理やマネジメントをどうする
かである。実際に会って話をしないと意思疎通できないことも多い(テレカン
ファレンスやスカイプは使っても限界がある)
。お互いに最初に人となりをみ
たいというニーズがある。
(2)海外での取組、国内の大学、企業における取組についての見解
(a)海外での取組についての見解

近年、バイオ系の研究機関が上海に多く設立されている。シンガポールは逆に
減ってきた。成果へのプレッシャーが高く、辞めていく人が多いらしい。

上海は、サンフランシスコ、サンディエゴとつながっていて中国人同士の人材
交流が盛んなところが日本とは違う。医薬品には安全保障貿易の問題はない。
上海はオープン思考で、アメリカ型の考えがある。一部のエリート以外は人件
費が高くない。一方で人材流動性が高すぎて秘密保持の担保が課題である。

イギリスでは組織対組織。スウエーデンでは個人対企業(バイドール法もない)
という関係で産学連携が進んでおり、違いがある。日本は医薬品開発では規制
が多いが、中国は比較的フレキシブルに対応しているという特徴がある。

外資の製薬研究所が日本から続々撤退したのは 2 つの理由があると聞いてい
る。一つは、雇用問題で、首を切りにくい。もう一つは、発明者主義の特許制
III-18
度があるためで、発明の対価が青天井になったことに危機感を持ったため。

中国では企業に対して特許出願のインセンティブがある。目標値を決め、それ
を超えると補助が大きくなる仕組みである。
(b)国内大学等の取組についての見解

日本の大学の連携窓口は、大学によってまちまちである。共同研究の契約書に
ついては京大、阪大、東大などでは、企業のニーズに応じてフレキシブルに対
応できている。条文自体はあいまいなところもあるが、いかにきちんと書くか
は企業側が詰めないといけないところである。各国の知財法の違いも知ってお
かないといけない。京大など弁理士を抱えているところはきちんと対応しいる
が、地方の大学などはなかなかうまくいっていないと聞く。

海外の教員はビジネスと研究を分けて考えられる。ビジネスについてはきちん
と対応してくれる。日本でも最近はそうなってきているが大学の方から企業に
共同研究もちかけられることもある。

海外のファンドに日本の大学発ベンチャーで注目しているものをきいたとこ
ろ、3 人聞いたうち 3 人ともイノベーティブなものはないと答えた。短期のリ
ターンを求められると厳しい。日本の製薬企業はある程度インキュベートする
ことを考える。
(c)国内企業等の取組についての見解

塩野義製薬では、創薬イノベーションコンペを実施しており、企業側からニー
ズを出して、シーズを募集している。毎年 300 件程度の応募があり、2009
年では 3 件採択した。2010 年度はシーズ発掘型(ニーズ起点でなくシーズ
起点)とし、300 件程度の応募があったが、採択はゼロだった。日本の研究
者は企業側からテーマを出した方が得意なようだ。2011 年から海外の大学に
も声をかけようとしている。

大阪商工会議所の医療機器のフォーラムがうまくいっているようだ。今後ミネ
ソタと組んで大きな動きがあるらしい。ミネソタは昔からの付き合いで、医療
機器クラスターが発達しているらしい。ミネソタクラスターの事務所を大阪に
おいて、交流をすすめる計画もあるようだ。

日本企業において外国人留学生を雇用することについては、帰国後研究を真似
されて特許を先に出されるといった懸念がある。実際に問題が起きていると聞
く。
III-19
1.2.2 米国大手製薬メーカー日本法人
実施日時
2011 年 3 月 1 日(火)16:00~17:30
実施場所
米国系製薬メーカー日本法人
対象者(敬称略)
米国系製薬メーカー日本法人 契約担当次長
実施者
株式会社三菱総合研究所 吉村、高谷
実施内容
日本の大学等との国際産学連携について
受領資料
なし
概要

日本はサイエンスでは依然として世界 No.2 であり、日本初の薬も多い。しかし、本当にその技術が日本
にしかなければ当社は日本と共同研究を行うが、似たようなものがあれば米国、欧州にとられてしまうだ
ろう。

日本の大学は研究内容の紹介が貧弱であり、
”non-confidential package”が準備されていない。すぐに
秘密保持契約の締結を求められるが、自社の研究との混同を防ぐために秘密保持契約の締結は簡単にはで
きない。

共同研究を実施するにはコミュニケーションが重要だが、英語力と時差が問題となる。

契約締結に際しても、英文の契約書だと大学側でとても時間がかかる。英文のひな形が準備されていない、
日本語に訳して内部で議論しているといった理由と考えられる。また、分野ごとの違いに応じたひな形が
ないといった問題がある。
(1)日本の大学等との産学連携の経緯
(a)体制

当部署は、米国本社のライセンス関係の窓口であり、日本のサイエンスのシー
ズやプロダクトを、グローバルな全社に紹介することが役割である。

リサーチ・コントラクト・マネージャーは、当社が日本の大学・企業等と CDA、
MTA などの研究関連の契約を締結する際の交渉窓口である。大学やベンチャ
ー企業とフェース・トゥー・フェースで会っている。

当社には、スカウトと呼ばれる世界の研究シーズを発掘する役割の担当が地域
ごとに配置されており、北米南米、アジア太平洋、欧州でそれぞれ 7~8 人で
ある。日本は他に自分以外に 2 人、アシスタント 1 人である。
(b)実績

日本はサイエンスでは依然として世界 No.2 であり、日本発のものを作ってい
る。
一般に日本発の薬は多く、
日本の製薬会社からもライセンスを受けている。

日本の大学とはリサーチツールの面での連携、リサーチコラボレーションを行
っている。当社は、国内研究拠点を 2009 年に閉じたが、そこには 500 人く
III-20
らいの研究者がいた。かつては、日本の大学等と年間 50~100 件程度の共同
研究契約を締結していたが、当該研究所がなくなってから減った。

基本的には全方位だが、やはり結果として旧帝大が多い。しかし、地方大学は
訪問すると歓迎される。関西の大学とも産学連携している。
(c)方針

かつての日本の大学には「共同研究」か「受託研究」という枠しかなく、他の
制度がなかったため、無理に共同研究というフォーマットにしていた面がある
が、最近は変わってきた。

当社でいう共同研究は、本当に共同研究であり、民間でも大学でも同じように
考えている。
すなわち、
大学教員の研究の進捗管理をしっかりと実施しており、
オブリゲーションが果たせなければペナルティも発生し得る。ノルマを与え、
マイルストーンで管理する。日本の大学とはそこまでの「共同研究」はやりに
くかった。知財などの成果物はそれぞれの貢献に応じて配分する。単に、企業
が金を出して頼んだことを大学が実施する形態であれば、それは共同研究では
なく委託研究であるので、知的財産はすべて当社の帰属となるべきである。

大学とはリサーチツールのやりとりも行っており、ライセンスに関連した
evaluation agreement として社内で評価するための契約もある。

現存している技術が基準を満たしていれば獲得するというのが方針であり、こ
れから生まれる可能性に投資して連携するということはない。これは国内の研
究拠点がなくなった影響もある。国内他社はそうした連携でも実施するので、
興味を持った段階では既に国内他社の息がかかっていると言うことはある。
(2)貴社からみた日本の大学との産学連携の評価

本当にその技術が日本にしかなければ当社は日本と共同研究を行うが、似たよ
うなものがあれば米国、欧州にとられてしまうだろう。

日本の大学との産学連携は拡大していきたいが、なかなか良い案件がない。探
せば良い案件はあるだろうが、ビジネスにするには不足しているものがある。

日本の大学教員は海外企業とのつきあいに慣れてきた印象はある。
(a)案件探し

案件探しは、JST の技術説明会への出席、大学の TLO や知財担当との定期的
なコミュニケーションによる情報収集で行っている。

当社としての研究のニーズ集(Areas of Interest)を作成している。これは
40 頁程度の冊子であり、当社が他社に先駆けて始めていた取り組みである。
数年前は一部の信用できる相手にのみ配布していたが、近年はネット上でも広
く公開するようになった。ここでは、関心がある疾患領域(Areas of Interest)
、
III-21
技術(Technology/Tools)の他に、関心がない領域(Not Interested in)
も明示している。知財や研究者が見れば、当社が何に関心があるか非常にわか
りやすい。社内で充足しているので外部からは求めないもの、社内にないので
外部に求めたい、といったものもあるものの、このニーズ集は概ね当社の R&D
戦略を公開しているものともいえる。これを外部の研究者が見て、マッチする
シーズがあると連絡してくるので、関心があれば当社から会いに行く。

理化学研究所や産業総合研究所の知的財産関係者とは懇意にしている。ベンチ
ャー・キャピタルとも懇意にしている。また、特許情報についても登録したキ
ーワードに関連した情報をメールで知らせるサービスがある。
(b)情報提供

日本の大学の課題として、大学の知的財産担当者による紹介内容は貧弱であり、
内容が理解できない点が挙げられる。さすがに特許の明細書をそのまま添付し
てくるようなことはないが、知的財産担当者の作成した文書では評価できない
ので、研究者まで行かないと話が進まない。そして、研究者のところに行って
も資料が用意されている訳ではないので大変である。

大 学 の 知 的 財 産 担 当 者 と 教 授 が 協 力 し て 、 英 文 の ” non-confidential
package”を準備して欲しい。字で書くばかりではなく、図示し、売りたい商
品をショーウィンドーに並べて欲しい。民間企業はそうした資料を持っている
が、大学はほとんど持っていない。そうした情報が欲しいと伝えると、まず秘
密保持契約を結ぶように言われるが、
”non-confidential”が欲しい。

当社としては滅多に CDA は結ばない。8,000 件評価して、CDA は 600 件
といった程度である。国内企業はすぐに CDA を結ぶようだが、外資系企業は
あまり結ばない。これは、自社内の研究開発との混同を防ぎたいからである。

製薬での分野での核心は化学構造であるが、化学構造は CDA を結んでも見な
いことがある。知りたいのは化合物の作用であって、化学構造を見なくても評
価できる。つまり、大学が売りたい技術は秘密保持契約を結ばなくてもいくら
でも表現できる。そうした売るための情報の作り方のノウハウが日本の大学に
はない。知的財産担当者に頼んでも出来ないし、かといって教授が作るとどこ
まで秘密か秘密ではないか分からない。

論文を配られてもすべてに目と通す時間はない。得られた知財を売る人、ビジ
ネスの人がいないのではないか。民間企業経験者はそうしたリクエストがなぜ
あるのかを理解できると思うが、大学でそうした人材が十分にいないのは大学
のシステムが遅れているからではないか。
(c)コミュニケーション(語学と時差)

コミュニケーションの問題が大きい。共同研究となると、毎日のようなやりと
III-22
りが必要である、少なくとも毎週である。研究がうまくいかないときは何故う
まくいかないか相談しなければならない。しかし、日本の大学研究者はどうし
ても語学が苦手な人が多く、そこまでの対応は大学側の負担が多い。

日本の大学の教授クラスは米国の大学に長くいた人が多いが、その下のスタッ
フは英語に堪能でなく、かといっていちいち教授とコンタクトできないので、
コミュニケ-ションが厳しい。これは意外と大きなハンディである。技術的に断
然日本のほうが優れていればよいが、半年程度の差であれば追い越されてしま
う。

また、契約を進めるに際しても、ビデオ会議に通訳が必要であったり、時差が
あったりでとにかく周囲のサポートが大変である。1 つの会議、1 つの契約を
するだけでも疲れてしまうのは、デメリットである。
(d)契約

共同研究の場合、最初に CDA(秘密保持契約)を結ぶ。次に、どのような研
究を、誰がいつまでやるかは「プロトコル(ワークプラン)
」として研究者間で
作成する。次に契約書の作成に進む。研究者間ではおぼろげに分担が出来てい
るが、文章にするともめることがある。研究がうまくいかないときに双方でど
のような責任を負うのかが問題となる。

米国は契約書は出来るだけ良いものにしようとするので、ひな形のまま最終化
されることは少ない。出てくるものは十人十色が常識である。

契約締結の際には、契約書の文面をめぐって日本の大学と交渉をするが、大学
側の検討時間が長いのが問題である。旧帝大は一般に時間がかかる。持ち時間
でいうと、当社が 1、大学が 9 というところである。米国大学の場合には、契
約交渉は電話であり、相手側も交渉権を持っているので割と早く話が進む。契
約交渉者自身に裁量がある。

知的財産本部や国際本部はあるが、英語の契約書を取り扱う能力が不足してい
る。まず、英文の契約書のひな形があるところがまず少なく、あっても種類が
少ない。そして、ひな形通りであれば比較的容易に進むが、基本構造が違うと
全然進まない。そして、契約書を修正するときに、契約交渉者に決定権がない。

英文の契約書であっても、多くの場合、内部では対応する日本語の契約書があ
り、それで議論した結果を英語に直しているようだ。そのため、契約書につい
て日本語版も一緒に出してくれと要求されるが断っている。そうすると、翻訳
費用を出してくれと要求されるがこれも断っている。英文の契約書が読めて交
渉できて、裁量がある担当者がいないと時間がかかる。

200 万円の案件で半年もかけている例があった。それでは契約のコストの方
が高くなってしまうのではないだろうか。

契約書のひな形が、電子デバイス、医薬品、ソフトウェアと分野が異なっても
同じものしかない。何千もの特許が必要で、数年後に製品になるデバイスと、
III-23
たった 1 つの特許で 15 年かけて製品となる医薬品ではロイヤリティや持ち分
の考え方が相容れない。医薬品では投資額も大きい。不実施補償についても、
たとえば 3 年以内に商品化しなければその意思がないとされても、医薬品では
どんなに商品化の意思があっても 3 年以内は不可能である。

不実施補償についても、実施しないのは大学の都合であるという考え方がある。
(e)連邦海外腐敗行為防止法(The Foreign Corrupt Practices Act of 1977:FCPA)

国際的な視野に立って欲しい。米国企業であれば、連邦海外腐敗行為防止法
(FCPA)に準拠しなければ契約ができない。これが会社のポリシーにも反映
されている。それをもとに交渉すると、日本の大学がなぜ他国の 1 民間企業の
要望にあわせる必要があるのかということになってしまう。たとえば、大学に
医薬品の審査に関与する人物がいないことの宣誓を求めているが、大学として
も誰がどのように審査に関わっているかは把握できないので宣誓できないとい
う難しさは理解している。しかし、当社としてはポリシーである以上、交渉し
ても変えられない。
米国の法律のURL を教えても意味がわからないと言われ、
説明に労力がかかる。
(3)その他

医薬品には安全保障貿易の問題はない。

外資系製薬会社の日本研究所はほとんどなくなったが、背景には R&D コスト
の抑制方針がある。日本から撤退したが、アジアから撤退するのではなく、中
国、シンガポールに移っている。日本の研究の生産性は高いが、人件費は米国
より高く、土地や維持費が高く、税金が高い。
III-24
1.3 ものづくり技術分野
1.3.1 東京大学産学連携本部(その 1)
実施日時
2011 年 2 月 9 日(水)14:00~15:00
実施場所
東京大学
対象者(敬称略)
東京大学産学連携本部知的財産部長 教授
小蒲哲夫
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所 高谷
内容
国際産学連携について
受領資料
東京大学国際産学連携推進ポリシー
東京大学国際産学連携推進ポリシー概要
東京大学の概要 資料編
2010 東京大学産学連携本部概要
概要

学内の関係する研究科の代表が集まって国際産学連携推進ポリシーが策定されている。優れた研究成果を
創造するために、あるいは研究成果を実用化するために、ベストパートナーと組むというのが基本的な考
え方である。

国際産学連携は欧米との共同研究がほとんどである。

海外企業と共同研究は、契約、進捗管理、confidential といった条件が厳しい。本学でも英文の契約書ひ
な形を準備しているが修正が必要となるのが普通である。修正する場合は知的財産部が担当するが、研究
者の研究の自由度を確保するというのが基本的な考え方である。

海外との産学連携では知的財産制度や知財取扱の考え方が異なるし、英語での契約交渉が求められるので、
担当者には専門性が求められる。そうした人材を育成することが課題である。
※個人としての意見である。
(1)東京大学における国際的な産学連携の位置づけ・ニーズ
(a)大学における国際的な産学連携の位置づけ(基本方針の有無)

文部科学省が国際産学連携関係の予算を講じるに際して国際産学連携ポリシ
ーを前提としたので、学内の関係する研究科の代表が集まって議論して策定し
た。この議論には法学部の教員も参加している。
(b)大学が国際的な産学連携に取り組む狙い・ニーズ(目的・目標)

本学は世界水準にある優れた研究成果の創造を目指す。そのためのベストパー
III-25
トナーを考える。国内が二番手であり、最高のパートナーが海外にいればそこ
と連携する。世界最高のところには情報も資金も集まる。

また、大学の研究成果は、IT は別として、通常は企業が追加的に事業開発をし
なければ実用化できない。そうなると、実用化に力を持っているところでなけ
れば研究成果を活用できない。そうした企業があれば国内にあればよいが、そ
うでなければ海外と組む必要が出てくる。

ただしいずれも、経済産業省の日本版バイ・ドール等の契約を遵守した上での
ことである。
(c)大学における国際産学連携の重点地域・重点国・重点テーマ

海外との共同研究案件はまだ少なく、どこを重点国、重点地域として考えてい
ることはないが、結果的に欧米との共同研究がほとんどとなっているし、特許
のライセンス先も欧米が中心になっている。ベストパートナーを探すと結果的
にそうなったということである。
(2)大学における国際的な産学連携活動の実施体制
(a)国際産学連携の主な形態(共同研究、ライセンシング、研究者受け入れ、等)

共同研究を行う以外に、ライセンスのみを海外企業に行う例はライフサイエン
ス、IT 分野が中心であるが、まだ数は少ない。

こうしたライセンスはほぼ TLO の営業活動によるものであるが、若干研究者
からの紹介がある。ライフサイエンス関係であれば、展示会で東京大学 TLO
が商談をしてくる。また、東京大学 TLO の米国の技術移転業務委託先に紹介
をお願いすることもある。フィンランドの Aalto 大学(元フィンランド大学)
と東京大学 TLO はライセンス業務で相互に協力しており、人材の交換派遣も
行っている。
(b)国際産学連携の特徴(相手国、相手企業の属性、ニーズがある研究テーマ、等)

日本は共同研究、米国は sponsored research が多い。

海外企業は契約、進捗管理、confidential といった条件が非常に厳しい。

契約書はどこまで譲り合えるか、合意できるか。日本より手間がかかるが、歩
み寄れるところは歩み寄れる。しかし、そうでないところは時間をかけてもな
かなか締結できない。

契約書とは、もめたときに備えて準備するものだが、米国は厳密である。米国
企業は、米国の政策を盾に変えられないと主張することがしばしばある。

こうした状況は米国だけではなく、韓国も同様である。当社はこうである、国
としてこうであるという主張をする。
III-26

裁判も日本にするのか、米国にするのか、あるいは中立国の英国(ロンドン)
にするかといった交渉がある。さらに米国は州による違いもあるし、陪審員制
度もある。

産学連携の共同研究における知的財産取扱の考え方は、米国の大学と欧州の大
学でも異なっている。
(c)国際産学連携への支援体制(組織、人員、予算)

本学の産学連携本部には、共同研究の新たな展開を目指す産学連携研究推進部、
知的財産の管理と活用を行う知的財産部、
大学発ベンチャー支援/企業教育を行
う事業化支援部がある。

共同研究は全体として研究者自身が自分で見つけてくるほうが多い。部局の研
究者が外国との共同研究をしたいとき、契約について知的財産部に持ち込んで
くる。産学連携研究推進部が案件を創出し、契約業務が知的財産部に引き継が
れる案件もある。
(3)大学における国際的な産学連携活動の実績と効果

本学では共同研究は契約書のひな形があり、それを使う限りは部局でそのまま
決裁することになる。このひな形は英文もあるが、外国企業との共同研究では
必ず修正することになるので、産学連携本部知的財産部を通ることになる。従
って、海外との共同研究はほとんどすべて産学連携本部が取り扱うと考えて良
い。

ライセンスは 2009 年度分の収入があった実施許諾及び譲渡契約が全体で 89
件であり、
増えていく傾向にある。
この中で海外のシェアは増えていくと思う。
法人化直後は国内中心に活動してきたこともある。特許収入の金額については
海外分だけを分けて集計していない。

国際産学連携は減ることはないだろう。
(4)大学の国際産学連携活動に対する参加者の評価
(a)大学内での評価(費用対効果、更なる取組への意志決定など)

予算面では厳しい。特許費用などが発生し、一昨年度からは外国出願費用も増
えているが、特許出願の蓄積できいてくる。より特許の活用を図る、あるいは
出願の精査が求められる。
(b)相手企業による評価(大学の選定理由、大学と産学連携を行うメリットなど)

産学連携でも複数の大学が同じ企業をねらってコンフリクトするようなこと
はない。
III-27
(5)大学において国際的な産学連携活動を促進するための各種取組
(a)営業力

欧米の大企業に大学のシーズを持っていくという取組も行っている。産学連携
本部の産学連携研究推進部は Proprius21 という仕組みを有しており、国内と
ともに海外向けにも東京大学のシーズを持っていこうとしている。
(b)海外の産学連携の下調べ

毎年欧米に調査に行き、先方の大学等での産学連携の現状やリスクを調査して
いる。相手国のことを知っておいたほうが絶対良い。

また、日本で欧米の大学の訴訟リスクに強い弁護士の先生に聞いたり、米国の
弁護士事務所に指導を受けたりしている。
(c)知的財産権の取り扱い(海外出願やライセンシングのポリシー、体制)

研究の成果特許の扱いについても日本は共有が多いが、米国はどちらかに帰属
させ、帰属先はすべて大学というものが多い。

共同研究に際して過去の知財(バックグラウンド IP)を無償で、フォアグラウ
ンド IP も無償で使わせるといった条件を要求されることがある。産学連携本部
の役割のひとつは、教員が特定企業に囲い込まれるのを避け、研究の自由度を
確保することである。
(6)大学において国際的な産学連携活動を行う上での課題
(a)学内の課題(組織・人員、制度・規則、意識・経験、など)

海外では本学の詳細を知らないところは多いので、どうやって情報発信をして
いくかが課題のひとつである。

外国との共同研究をするにあたっての大きな課題は専門人材である。法制度、
研究環境の違い等を考慮しつつ、いかに結びつけるかが求められる。

契約に限って言えば、東大にはいろいろな契約書のひな形がある。このひな形
通りであれば部局で対応できるが、英語になるとそれなりの英語力が必要とさ
れるので、部局での対応が困難になる。交渉が難航すると最後は電話、テレビ
会議も行うので、読み書きだけではなく、会話も求められる。そうなると人材
が限られてくる。

米国の特許法もよく知らないと訴訟に巻き込まれるので、訴訟等の専門知識も
必要である。米国の特許を巡るやり方を知らないと出来ないので、専門人材が
必要である。

法人化の直後、外部の人材を数多く登用したが、それでは人材が育たない。し
III-28
かし、若い職員を育成しようとしても、ローテーションで異動してしまう。せ
めてローテーションのタイミングを 5 年、できれば 10 年にできればよい。
(b)学外の課題(法制度、社会・文化、経済環境、など)

成果有体物の提供(マテリアルトランスファー)の契約は、どの国立大学も個
別に実施している現状がある。大学技術移転協議会(UNITT)の委員会でアカ
デミア間のマテリアルトランスファーの契約書の標準化の検討を行っている。
国立大学が情報交換しようという動きは法人化直後よりは進んでいるが、国際
産学連携については、そこまで至っていないように思われる。
III-29
1.3.2 東京大学産学連携本部(その 2)
実施日時
2011 年 2 月 10 日(木)16:00~17:10
実施場所
東京大学 産学連携プラザ
対象者(敬称略)
東京大学 産学連携本部 産学連携研究推進部長 寺澤廣一
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所 高谷、森
内容
東京大学における国際産学連携への取組について
受領資料
「Proprius21 価値創造型共同研究の創出」パンフレット(英・日)
概要

産学連携は「研究成果の社会還元」だけでなく「学術研究の深度化の契機」と位置づけており、国内外を
問わず世界トップクラス企業との連携を推進している。

トップクラスの海外企業であれば自国の大学と密な連携がある。その中で東京大学との連携を検討しても
らうためには、斬新な商品(新たな産学連携の枠組み:Proprius21)と粘り強い営業(相手企業の経営
層へ何度も渡航して直接交渉)が必要である。

直接的な成果(受入金額等)だけみれば国際産学連携は収支がマイナスであり、間接的な成果(学術研究
への波及等)を計る指標がないことが国際産学連携の課題である。
(1)東京大学における国際的な産学連携の位置づけ・ニーズ
(a)大学における国際的な産学連携の位置づけ(基本方針の有無)
(知的財産本部小蒲氏から基本方針を入手済みのため省略)
(b)大学が国際的な産学連携に取り組む狙い・ニーズ(目的・目標)

産学連携により大学の教育研究のバリュー(価値)を高めるという方針が本学
にはある。

産学連携は、大学のシーズと産業界のニーズのマッチング、つまり大学の研究
成果を社会に還元する活動であるが、それだけではない。技術移転だけでは、
大学の研究は現状の延長線上にしか発展しない。

企業の将来ニーズが何所に向かっているのかを企業とともに議論する中で、新
しい研究の切り口・方向性が見いだせるのではないか。産業界と大学が一緒に
なって新たな知見、イノベーションの駆動力となるような萌芽を生み出すこと
ができるのではないか。それこそが産学連携の目的ではないかと本学では考え
ている。

実際、産学連携は大学の研究力を深度化するために不可欠な契機である。産業
界のニーズを牽引力として、大学の研究力を一層高め、日本の競争力につなが
るようなソリューションを生み出すことを目指している。日本に貢献すること
III-30
=日本企業に貢献することではない。国内外の企業ニーズをもとに研究を深度
化し、国富につながるようなソリューションが生まれるのであれば、海外企業
/国内企業と区分する必要はないという考え方である。

濱田総長が掲げた「日本の旗艦大学」としてのミッションを東京大学は背負っ
ている。東京大学の産学連携は大学のミッションに対応するものであり、他の
大学であれば考え方が違って良いと思う。

そのため産学連携の相手先として、国内企業/海外企業を区別する発想は全く
ない。ただし国内企業と比較して海外企業との連携実績があまりに少なすぎる
ため、産学連携研究推進部としては海外企業との連携拡大にいま注力している。
(c)大学における国際産学連携の重点地域・重点国・重点テーマ

東京大学の研究力向上に貢献するような連携相手=世界トップクラスの企業
であれば国を問わず積極的に連携する。ただし、産学連携研究推進部として、
積極的に営業しているのは OECD 加盟国、特に欧米先進国である。①各業界
でトップ 10 に入るような企業を選ぶと結果的に欧米が多いこと、②IPR の契
約遵守の観点でもリスクが少ないことなどからあえて途上国のリスクを選んで
いない。

なおトップ企業だけでなく、先進的な R&D ベンチャー企業とも連携している。
そのような企業は大学としては見つけられないので、密な連携体制を築いてい
る EU 駐日代表部とコミュニケーションをとって、良い企業があれば紹介を受
けている。優良企業とは安心感をもって連携できる。例えば FP7 に参加して
いる企業であれば研究力も会社としての信頼度も違う。企業の与信というか、
リスクを冒してまでは連携したくないという考えである。

なお、営業しなくても(待っていても)声をかけてくる国・企業は勿論ある。
これについては妨げるものではないし、個々の教員が連携したいと言えば止め
るようなことは一切ない。ただ産学連携推進本部として自分達が積極的に推進
する相手は絞っているということである。
(2)大学における国際的な産学連携活動の実施体制
(a)国際産学連携の主な形態(共同研究、ライセンシング、研究者受け入れ、等)
(産学連携研究推進部は主に共同研究の案件化を担っている。
)

産学連携研究推進部の役割は「営業」
、つまり産学連携の案件をつくることに
ある。産学連携が始まる契機は、①教員からのボトムアップ、②産学連携研究
推進部からのトップダウンの 2 種類がある。①は、教員個人が特定の企業(研
究者)と学会等を通じてつながりがありそこから始まる案件である。これは教
員、専攻レベルで進めている。②が産学連携研究推進部の営業であり、ここで
III-31
は企業の将来課題
(通常は漠としており企業自身も十分に把握しきれていない)
に対してどういう知見が必要になるかを産学で一緒に研究するというアプロー
チをとっている。企業も自社の将来展望を踏まえて、どのような技術、切り口
が今後必要か、顕在化したいというニーズを有している。このようなニーズに
対して応える産学連携の仕組みとして、Proprius21 という新しい枠組みをソ
リューションとして提案している。

Proprius21 では「大学」であるということを前面に出していきたいと思って
いる。その意味で、企業には outsourcing/contract research(契約研究)
よりも collaboration を訴求している。実際、個々の教員が outsourcing で
も良いと言えば勿論、契約するが、学内のコンセンサス(合意)を得やすいの
は collaboration であり、Proprius21 はそこを強調している。

具体的には下図のような研究開発フェーズ(時間軸)と研究体制(コア=内製
~外注=アウトソーシング)の 2 軸で企業の課題をプロットし、
「東京大学と
いう知の集団と連携する領域があるだろう!」
という強いメッセージを伝える。
Inside company
collaborate
research
Proprius21の対象領域
Outsourcing/
Contract
Research
Rare?
Short term(~5年未満)
Middle term(5~10年)
None?
Long term(10年以上)
(b)国際産学連携の特徴(相手国、相手企業の属性、ニーズがある研究テーマ、等)

産学連携のテーマは国内企業、海外企業であまり違わない。大学としては、特
定領域に産学連携テーマが集中しないようには意識している。ただし、実際に
産学連携が難しいのは製薬業界とである。産学連携の時間軸が違うことと個別
教員と企業とのネットワークが強固であることが原因である。
これは国内/海外
企業に違いはなく、国内外の違いよりも業種の違いの方が大きい。
(c)国際産学連携への支援体制(組織、人員、予算)

産学連携本部の中で、営業(案件化)を担うのが産学連携研究推進部である。
産学連携研究推進部は最近、特に国際産学連携に注力している。産学連携研究
推進部で営業を担うのは 9 名の特任教授である。1 名(若手)をのぞき企業出
身者が担っている。
III-32

若手が 1 名いるのは人材育成のため。ただし、本気で産学連携を開拓できる人
材を育てようと思うのであれば「任期付き」のスタッフでは駄目だと感じる。
「特任」教授は任期付きが大原則であり、一定期間が過ぎるといなくなること
が前提である。本気で人材を育てたいのであれば任期無しのスタッフを確保し
ていくべきである。これは大学の問題なのか国の制度の問題なのかはわからな
い。

産学連携本部の基本方針であるが、個別の教員が産学連携を自ら実施するケー
スについては、教員から声がかからない限り、産学連携本部は特に動かない。
実際、産学連携には様々な形態(教員と個別に機密保持契約だけ締結したい等)
があり、全てを産学連携本部で担うというのは現実的ではない。教員個人ある
いは研究科・専攻レベルで産学連携が推進されているのであれば特に口は挟ま
ない。

ただし、海外企業との産学連携の場合、契約書の雛形が相手企業により修正さ
れることが多いので、結果的に産学連携本部に契約書の修分確認が回ってくる
ため産学連携本部が関与する割合が高いと言える。
(d)上記体制が整備されたきっかけ、経緯

東京大学でも、2007 年までは日本語でしか企業との共同研究契約書雛形が用
意されていなかった。そのことからも海外企業との連携実績が少なかったこと
が伺える。

2008 年頃から徐々に海外企業との接点が増えたこともあり、海外の産学連携
の実情を独自に調査した。その過程で国毎に産学連携の考え方が違うことを学
習し、それを踏まえて英文の共同研究契約書の雛形(テンプレート)を作成し
たのが 2008 年後半である。

まだ雛形ができて約 3 年であり、まだまだ実績が少ないという印象である。
(3)大学における国際的な産学連携活動の実績と効果
(別資料を参照。
)
(4)国際産学連携が大学にもたらした効果
(特になし)
(5)大学の国際産学連携活動に対する参加者の評価
(a)大学内での評価(費用対効果、更なる取組への意志決定など)

大学内で「国際産学連携」に対する逆風はあまり感じていない。1 年間、耐え
て(持ち出しで)取り組んで実績を出せば、各部局の教員の方々にも評価され
III-33
ている。

結局、産学連携は教員の研究へのモチベーションを高める契機だと思う。教員
にとっては産学連携で企業ニーズを踏まえれば、研究の深度化ができ、新しい
論文もかける。
(b)相手企業による評価(大学の選定理由、大学と産学連携を行うメリットなど)

海外企業に何故、東大が選ばれているのか、自分たちで評価できるだけの実績
を積んでいないのでわからないのが実状である。

ただ「トップダウンの提案をされたのは初めて」という企業のコメントでわか
るように、産学連携の枠組み自体が訴求力を持っているのではないかと思って
いる。
(6)大学において国際的な産学連携活動を促進するための各種取組
(a)営業力

日本の大学が国際産学連携を行う上で不利な点はやはり立地。地球の裏側のあ
る大学の情報は欧米先進企業には伝わらない。海外企業からの声がけを待って
いるだけでは駄目。とにかく訪問することにつきる。東京大学も海外事務所を
提携大学においているが、そこ経由で企業にアクセスするようなことはしてい
ない。直接、産学連携研究推進部のスタッフが海外企業を訪問する。その方が
早いし効果がある。相手企業の CTO クラスにアポイントをとって訪問して営
業している。
「地球の裏側からわざわざ来てくれる」となれば相手企業の印象も
違うし、企業のトップに会うことができる。そこで、東京大学の考える産学連
携のスキーム(Proprius21)を説明する。

東京大学が営業せずに黙って待っていても絶対に国際産学連携は増えない。本
学では各国のリーディング企業にターゲットを絞って直接訪問する。各国のリ
ーディング企業であれば、国内の大学と産学連携を既にやっている。そこに東
京大学が割り込んでいくのは相当大変で、訴求力のある提案が必要。

海外企業からみれば、東京大学であっても知名度が低い。名前くらいは知って
いるが何を研究しているのかはまったく知られていない。最初の頃、某海外企
業を訪問したときに「国内の大学と今の連携体制を築くのに 15 年かかった。
何故、いま地球の裏側の大学と連携しなければならないのか?」と言われてシ
ョックを受けた。そのあと研究者・研究テーマの visibility を高めなければ駄目
だと思い、英語での大学研究者プロフィールを作成し、提案書をつくって訪問
するようにしている。

勿論、訪問して終わりではない。その後、日本支社をフォローし、必要であれ
ば何度も足を運ぶ。最初から日本支社を訪問してもあまり意味がない。日本支
III-34
社で研究フェーズの意志決定ができることはまずないため。リサーチ機能に係
わる意志決定は本社にいかないと契約が進まない。実際、米国、ドイツ、英国、
オランダ、フィンランドなど年間 30 社は直接訪問して営業している。

ただし、企業と産学連携本部で案件が具体化しても、教員がやりたくなければ
強制はしない。実際、
「このテーマは NEDO のフレームで産学連携体制が構築
されており、海外企業と組むことはできない」といった場合がある。
(b)海外の産学連携の下調べ

渡航時には相手企業だけでなく地元大学も訪問し、その国の産学連携の文化・
習慣のようなものは調べるようにしている。その国の産学連携の「やり方」を
調べてからでなければ有効な提案ができない。

産学連携研究推進部としては、案件をつくるため、企業とのパイプラインを増
やして地道にコミュニケーションを増やして接点を縮めていく必要がある。
(c)商品力(新たな産学連携のスキーム提案)

Proprius21 では、企業の将来課題を産学で一緒に検討し、具体的な課題を抽
出、絞り込むことをしていく。FS(Feasibility Study)のため際締結するのは
NDA だけであり、案件が具体化した段階で、共同研究契約を別途締結する。
Prpprius21 では、企業ニーズにあった教員を(現在直面している領域だけで
なく周辺領域を含めて)選定し、グルーピングも行う。この仕組みは国内企業
を相手に東大で実績を積んだものであるが、同じ仕組みを海外企業に提案して
いる。

今では「いろんな大学と連携してきたが、このような魅力的なプロポーザルを
大学から受けたのは初めてだ」だと言われるようになった。海外でも産学連携
はボトムアップの案件ばかりのようである。Proprius21 のようなトップダウ
ンのスキームは海外でも通じる!という自信につながっている。

実際、国内企業、それもグローバル企業との連携で実績を積んでいるスキーム
(Proprius21 は 2007 年から実施)であり、海外企業でも通じるという思
いはあった。Global proprius21 といっても仕組みはまったく同じ。英語版
の Proprius21 のパンフレットを Global Proprius21 と呼んでいる。電話会
議、ビデオカンファレンスで行う以外は、国内企業とまったかわらない仕組み
でできる。

ただ大学も予算が厳しいので、案件が具体的になってくれば研究者を(大学の
予算で派遣するのではなく)invite してくれという。あるいは相手企業の研究
者を訪問させてくれとか。そこはケースバイケース。
III-35
(d)安全保障貿易管理上の取組(ポリシー、体制)

ノンホワイト国の企業との産学連携においては注意しているが、実際は契約締
結の際に細かく詰めることが多く、あまり問題にはならない。

安全保障上、実際に問題となりうるのは産学連携ではなく、留学生や受託研究
員といった人材交流の場面である。
(e)知的財産権の取り扱い(海外出願やライセンシングのポリシー、体制)

Proprius21 は FS(Feasibility Study)のため、その時点で IPR が創出され
ることはまずなく、NDA 締結のみという場合が多い。その後、共同研究契約
をする際には知的財産の取り扱いをどうするかが議論になる。実際、
Proprius21 の枠組みで議論を進めるのと同時平行で、本学の知的財産本部と
相手企業の法務が共同研究契約を詰めるのが一般的である。

(日本では Contract research(受託研究)で産まれた知的財産は大学のも
のというのが一般的な考え方であるが、海外企業は企業が全ての知的財産を要
求することが多いという意見に対して)それは国内企業でもあることであり、
国内企業よりも海外企業の方が知的財産を強く主張するといった傾向はない。
国内外の違いよりも企業毎の考え方の違いの方が大きい。
(7)大学において国際的な産学連携活動を行う上での課題
(a)学内の課題(組織・人員、制度・規則、意識・経験、など)

学内の課題というほどでもないが、Prprius21 のトップダウンの枠組みは、過
去の産学連携の踏襲ではない「未開の地」を歩んでいるということを肌身で感
じている。その価値を学内外に認めてもらうことが一番の課題である。

自分達、産学連携本部の活動を計る METRICS(指標)は何か自問自答してい
る。単純に技術移転の収支で言えば米国でも TLO の収入は限られた数件の契
約から産まれており本当に収支の面で産学連携部門が payable(採算がとれ
る)かは米国大学でもわからないという意見が大勢である。

産学連携本部は、innovation に貢献するとなると時間軸が長く、その成果(効
果)の範囲も多岐に亘るため十分に評価されないのではないかと悩むこともあ
る。大学の研究をエンカレッジして、イノベーションにつながる研究成果を生
み出す。これに対応する指標がない。
(b)学外の課題(法制度、社会・文化、経済環境、など)

産学連携に直接関係することではないが、欧州で話を聞くと科学技術のバイナ
ショナル(二国間)での交流条約が棚晒しになっているという。外務省の所掌
だが、文部科学省、経済産業省と関係ないわけではないだろう。科学技術外交
III-36
の領域であるが、国として関係がわるくなるとどうしても個別大学で産学連携
を進めようとしても妨げになる。そのようなことは国として責任を持って対応
するようにして欲しい。
III-37
1.3.3 ボーイング・ジャパン株式会社
実施日時
2011 年 3 月 4 日(金)16:00~17:00
実施場所
ボーイング・ジャパン株式会社
対象者(敬称略)
ボーイングインターナショナルコーポレーション
ボーイング・ジャパン 政府関係/渉外担当 ディレクター 小林美和
The Boeing Company
Boeing Research & Technology
Japan Enterprise Technology
Manager Steven E. Hahn
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所 高谷、須崎
内容
日本の大学との産学連携について
受領資料
(なし)
概要

産学連携は研究開発を目的とするものと、人材育成を目的とするものがあり、日本の大学とも両者を実施
している。

人材育成関連では、東京大学と連携して Externship とサマーセミナーを実施し、当社やエアラインの従
業員が講義等を行っている。マーケティングの話もしているが、学生にはショックだったようである。

寄附講座以外にもっと簡単に大学の人材育成に協力できる仕組みが欲しい。

契約等ではもっと柔軟な対応を期待したい。

大学には企業向けの情報提供資料を準備して欲しい。また、産学連携の窓口になる組織が重要である。

日本の大学には、企業と対等なパートナーとして扱う意識が不足しているが、世界における日本の位置づ
けを認識し、危機感を感じて欲しい。

防衛技術の取扱についても検討して欲しい。

海外企業が参画した産学官のモデルケースがあれば、海外企業へのメッセージとなるのではないか。

共同研究開発等には声がかかるが、参加しても国から資金を受ける段階になると外されてしまう。
(1)大学等との産学連携の経緯

産学連携を行う目的は大きく分けて 2 つある。1 つは研究開発を目的とするも
のであり、もう 1 つは人材育成であり、優れた人材を見いだす、あるいは当社
の社員を大学に派遣することである。
(a)研究開発の実績

研究開発については世界クラスの技術を求めており、地域ごとに担当者を配置
している。

東京大学とは R&D の協定を締結している。
III-38
(b)人材育成関連の実績

人材育成関連では、Externship とサマーセミナーの 2 つを実施している。東
京大学の航空宇宙工学科と 2010 年から連携をはじめた。大学側からの希望
があるため、Externship は次回も東京大学で実施する予定である。サマーセ
ミナーは、地方に行くほどニーズが強いので、別の大学で実施していきたい。

人材育成に関する産学連携の目的は、米国で実施するのであれば優秀な人材を
採用することとなるが、日本の場合は当社への就職に学生が距離感を持つため
か、なかなかそうはならない。一方で、学生の中でも中国人留学生はそうした
面で積極的であった。国による違いがある。

エンジニアの確保は世界的に難しい。当社の製造システムでは、世界中、あら
ゆる国にサプライヤーがいる。その中の 1 つである日本においても、いろいろ
な会社でエンジニアが不足すると当社も困る。

そのため、大学、高校、中学の段階から優秀な人材を育てていこうと考え、大
学と共同でカリキュラムを提供したり、講師を派遣してきたりしている。早い
段階から国際的に資金を投じているが、中国、インド等では実施してきていた
ものの、これまで日本では行ってこなかった。中国、インド等はこれから注目
される場所であり、当社も注目している。しかし、日本も大事であり、実際に
ビジネスの上でも良いパートナーである。その日本で、技術が若者に引き継い
で行かれるようにしたい。予算がないからといって何もしないのではなく、日
本でもできるものをやっていこうという考え方で実施することにした。

当社のサプライチェーンを構成する企業に就職してもらうことも大事だが、エ
アライン、政府に就職してもらうことも重要である。ステークホルダーに就職
した場合も、当社に対して良いイメージを持ってもらうことが重要である。

先例があるわけではなく、手探りで進めた。
1)Externship

日本では渉外担当が、CSR、UR(University Relations)を担当している。

Externship と呼ぶ連携では、当社の社員が 5 回の授業を行うと同時に、学生
が課題を議論するプロジェクトを実施している。

講義でエンジニアを目指している学生たちに、当社社員が肌で感じていること
を伝えている。エンジニアになればなるほど視野が狭くなるため、将来世の中
はどのようになっているかといった視点から考えはじめるよう、当社にいる先
輩から、
身近な立場からアドバイスする。
学生は狭い世界でものを見ているが、
飛行機を作るには、マーケティング等いろいろな観点を考慮して作っている。
大学では教えていないそうした観点を伝えたい。

学生にとって、マーケティングはショックだったようである。日本だけを見て
いるため、意見交換していると日本の航空産業に対して楽観的に考えているよ
III-39
うだが、世界では実は日本のプレゼンスが落ちている。これは航空宇宙産業か
ら見ても、それ以外から見てもあてはまることであり、学生の考えとギャップ
は大きい。世界から見た日本をメッセージとして伝えたい。

学生は普段ほとんど聞けない内容であるため、関心を持っているようである。
なお、授業は全て英語で行っている。
2)サマースクール

また、大学院生を対象として、2 日間のサマーセミナーを、実施している。講
師は当社社員と航空会社が務めている。サマーセミナーは東大で実施した。

サマーセミナーについては当社社員だけではなく、エアラインも参加している。
メーカーである当社だけではなく、利用者であるエララインの意見も話しても
らっている。メーカーである当社は顧客であるエアラインのニーズに応えて製
品を作っている。さらにエアラインはその顧客である乗客のニーズを考えてい
る。こうして乗客からメーカーまでのニーズの流れが理解できる。

エララインからも学生に伝えたいことはあるようで、ある企業は学生達に、す
ぐに日本企業に就職するのではなく、一旦海外に出てがんばって欲しいという
メッセージを伝えていた。
(2)貴社からみた大学等との産学連携の評価と課題
(a)研究開発
1)産学連携の役割

日本の大学は海外企業との産学連携の経験がなった。そもそも、日本の企業も
これまでは産学連携の必要がなかったのではないか。しかし、日本企業も金が
なくなってきたし、日本の大学も金がなくなってきた。

一方で、中国、インドが台頭してきている。企業には 1 社単独で進めなければ
ならないこともあるが、それでは太刀打ちできないものもある。日本企業も結
集していかなければならない。仲の悪い企業同士であっても一体として取り組
まなければならない。それをつなげるのがアカデミアであり、政府の役割だろ
う。

自らの研究開発が、当社と連携することによって実際に利用される可能性が生
じる。技術が日の目を見ることになる。これは大学も同じである。

産学連携を通じて、学生がもっと産業界と触れていくことが必要である。
2)契約の柔軟性

日本に限らないが、大学には企業が出来ることを理解して、契約等で柔軟な対
III-40
応を期待したい。契約の締結のために契約書を修正するには時間がかかる。
3)大学の情報提供

どこにどのような技術があるのか研究機関や個人にコンタクトしているが、見
つからないこともある。企業向けに分厚い資料を準備している大学があるが、
とても読めない。しかし、それすらない大学が有名大学も存在する。

冊子も良いが、東京大学の産学連携本部のような組織、スタッフがあり、話を
聞くことが出来ると良い。

全てを大学側の責任に押しつけるものではないが、せめて産学連携の窓口とな
る組織があることが重要である。
4)大学・大学研究者の産学連携に対する考え方

大学は企業に協力しろということではないが、日本の大学は、企業を自分と対
等なパートナーとして扱う意識が不足しているのではないか。

海外企業の立場から見れば、他に選択肢があり、日本の大学と産学連携しなく
ても良い。例えば、中国にも良い大学があり、人件費も安い。そうした世界に
おける日本の位置づけを認識し、危機感を感じて欲しい。
5)防衛関連技術の取扱

当社は売り上げの半分が民間で、半分が軍・宇宙関係である。したがって、大
学が軍事関係の研究を禁止していると、事業の半分が対象から落ちてしまうこ
とになる。

大学の方針として決めている大学があるが、そもそも政府の政策が変わらない
と大学の方針もかわる訳がない。

防衛分野にアレルギーがあるものと考えるが、dual use technology と呼ばれ
るものは多い。日本では出来なくても、欧州では喜んで協力してくれる。世界
における日本の位置づけを考える必要がある。
6)国の研究開発資金

海外企業に研究開発拠点を日本に持ってきて欲しいといっても、国の研究費を
海外企業に出すことが出来るか。基本的には出さない方針であろう。

当社の場合でも、いろいろな共同研究開発に参加を求められるが、いざ国から
の助成を受けるとなると外されてしまう。日本企業が国から金をもらい、当社
はその企業と共同で研究するくらいしかない。産学官連携をして、コンソーシ
アムで応分の金を出し合っても海外企業は知的財産が得られないのでは不利で
ある。
III-41
7)産官学連携のモデルケース作り

産学のコーディネートが難しいところは官が出て行く必要があると思うが、そ
こは不足しているのではないか。
産学官連携のモデルケースを提示して欲しい。
良い例を見せなければ誰もついて行かない。

海外企業も参加した良い産学連携のケースを作らなければ、海外企業は日本に
進出しないのではないか。課題を明らかにしてモデルケースで検証すべきであ
る。そうしたモデルケース作りには当社としても協力したい。海外企業へのメ
ッセージになると考える。
(b)人材育成関連

インターンシップでは交通費も含めて金を出して学生に勉強をさせることに
なる。当社の社員ではないものの、当社に入り込むのでコンピュータのアクセ
ス権を与えるといったことも必要となる。しかし、これにはセキュリティの問
題が生じうる。そこで、Externship という形態をとっている。

寄附講座で大学にカリキュラムを設けている企業もあるが、これには相当の金
額が必要となる。もっと企業に参加して欲しいのであれば、寄附講座よりもっ
と金がかからない緩やかな仕組みを考えた方がよいのではないかと感じる。

大学側から企業側に出来ることを聞いて実施できる柔軟性が必要である。東京
大学との連携も当社で実施できることを提示して受け入れてもらった。

別の大学で当社が講義を担当しているが、年に 1 回の 90 分授業では何も見え
ない。東京大学での Externship は 5 回実施したためにいろいろなものが見え
た。

アメリカ的といえば、そうかもしれないが、社員も意気に感じており、若者と
接して、自分の考えていることを伝えることに喜びを感じている。
(3)その他

英語版の報告書が欲しい。
III-42
1.4 その他
1.4.1 九州大学知的財産本部
実施日時
2010 年 12 月 11 日(月)13:30~15:00
実施場所
九州大学箱崎キャンパス
対象者(敬称略)
九州大学知的財産本部
国際産学官連携センター サブリーダー コーディネーター 猿渡映子
国際産学官連携センター コーディネーター 末次宏成
国際法務室 国際法務/安全保障輸出管理担当 佐藤弘基
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所 高谷徹
内容
国際産学連携について
受領資料
大学等産学官連携自立化促進プログラム【機能強化支援型】中間評価インタビュー資料
知的財産本部資料
「国際的な産学官連携~ご検討される九州大学教職員の皆様へ」
知的財産本部国際産学官連携センター資料
組織対応型連携事業のご案内
九州大学における安全保障輸出管理
九州地域大学輸出管理担当者ネットワーキング開催案内
概要

国際産学官連携ポリシーを施行し、研究・教育活性化をミッションとして、国際受託・共同研究を目指し
ている。大学の戦略としてアジアを重視している。

共同研究も分野によっては国際化は避けられない。国内由来の成果を海外企業に移転すべきかは、ケース・
バイ・ケースで判断している。

知的財産本部の中に、国際産学官連携センターと国際法務室が設けられ、国際的な産学官連携の推進、契
約法務、安全保障輸出管理を担当している。

現在の実績としては、
「東アジア環境研究機構」の推進支援、台湾工業技術研究院(ITRI)との連携、ネパ
ール政府(科学技術省)との連携、グラミングループとの連携、オランダとのゲームを起点とした連携が
挙げられる。

国際産学連携を進めるためには海外での知名度に課題があるため、学学連携をして、その先の企業との結
びつきを作るようにしている。

安全保障貿易についても規程・要項を整備し、教員個人ではなく組織として対応出来るようにしている。

日本と競合する韓国、台湾からの共同研究やライセンスの問い合わせがあるが、ケース・バイ・ケースで
判断するしかない。

国際産学連携の担当者にはノウハウが蓄積されているが、担当者の雇用の安定化が必要である。
III-43
(1)貴機関における国際的な産学連携の位置づけ・ニーズ

2009 年に「九州大学国際産学官連携ポリシー44」を施行したが、これが最終
決定とは考えておらず、検討しつつ進めている。

ミッション
九州大学国際産学官連携の原則は以下である。
・国際貢献
・研究・教育活性化
目的
・国際受託・共同研究
・海外技術移転
・人材交流
原則
・Win-Win モデル
・連携推進と法令順守、国益とのバランス確保
戦略
・海外の組織とのネットワーク形成
・アジア重視

九州大学にとってアジア地域は重点地域であり、自治体とも協力して九州を国
際的なゲートウェイにしようとしている。

国際産学連携をどのように大学の中で位置づけていくかは難しい問題。費用対
効果でいえば、どの大学でも知的財産本部はコストセンターであり、本学も例
外ではない。海外からの資金調達が目的なら費用対効果からライセンシングだ
けを行うことになるだろう。しかし、実際には教育、研究、社会貢献などすべ
てやっている。

もっとも望ましい形は国際産学連携をすることによって教員のプレゼンスが
上がり、研究も進むことである。最終的な目標は共同研究であり、ライセンシ
ングのみの事例は多くない。外国の企業へのライセンシングは技術が生じた段
階で課題になる。

医薬系は研究も企業もマーケットもグローバル展開しており、国内だけをとら
えていても限界が出ている。また、教員の研究内容によっては日本で実証実験
できないものがある。
たとえば、
赤道直下の地域の太陽光を使って行う研究や、
風車の研究がある。さらに、日本と法制度が違うため、日本では時間がかかる
臨床試験を国によってはスピーディーに展開できる。

このように、分野によっては国際的にならざる得ないため、いかに大学として
それに対する体制を持っているかが課題となる。学内に国際産学連携に対応出
来る体制を作れば研究の可能性は増える。逆に、海外とおつきあいしないと言
ってしまうと教員の研究には限界が生じる。

国内由来の成果を海外企業に移転すべきかは、ケース・バイ・ケースで判断し
ている。
44
http://imaq.kyushu-u.ac.jp/unic/ja/pdf/kokusaipolicy090717.pdf
III-44
(2)貴機関における国際的な産学連携活動の実施体制

知的財産本部の中に、国際産学官連携センター(UNIC)と国際法務室が設け
られている。国際産学官連携センターは国際的な産学官連携の推進を担当して
おり、センター長兼務 1 名、コーディネーター4 名+兼務 1 名、スタッフ 1
名、アシスタント 2 名である。国際法務室は契約法務、安全保障輸出管理を担
当しており、室長 1 名、コーディネーター1 名+兼務 1 名となっている。

国際産学官連携センターとして立ち上がったのは 2007 年であり、以前は企
画部門に国際担当者 2 名の体制だった。

当本部は学内を国際化するために危機管理機能、事務機能、翻訳作業も行って
いる。大学教員が学学で交流していたり、国内に支店や法人を持つ海外企業と
連携をしたりしている。こうした場合の契約支援について担当している。法務
などの体制も出来た。

国際産学官連携センターと国際法務室は文部科学省の事業費で活動している。

知的財産本部は事務機能と連動しているので、理工系がある伊都キャンパスで
はなく、箱崎キャンパスにある。ただし、アソシエイトによっては伊都キャン
パスで週に何回か勤務している。

単なる産学連携の窓口ではなく、教員と各コーディネーターが一緒に仕事をす
る中でいろいろな課題が出てくる。いろいろな方面での調整が実務として発生
する。たとえば、1 つの研究(契約)にいろいろな分野を混ぜるのではなく切
り分けて、この共同研究(契約)ではこの分野を対象とする、といった調整も
民間企業とも話しながら進めている。知的財産の活用の方法についても、国別
の知的財産の文化を理解して、研究する教員に研究テーマの国際的な価値を伝
える、
発信できることが求められる。
国の受託研究で教員がリーダーとしても、
相手国の研究者や国との調整が必要で、研究だけではなく、会議で議事録を作
成することも必要である。契約事務でも産学連携、知財とは関係ないものも多
い。

国際産学連携という業務の中だけに特化していてはならない。広く研究支援と
言うところから見なければならない。プロジェクトベースではリサーチ・アド
ミニストレーターが求められている。

問い合わせを受けるのがインターンシップ。本学では留学生課が対応するべき
ものだが、海外企業に本学の学生を送りたいといったときに仲介依頼を受ける
ことがある。海外の大学が日本の企業にインターンシップをするときに仲介の
相談をしている。AtoZ ではないが、紹介したり、つなげたりしている。直接
つなげるようにはしている。

本学の知的財産本部は、ローテーションで異動する事務系の職員と、教員/研
究者として雇われている企業出身者、博士取得者のコーディネーター等が一体
になって活動している。

事務と専門職のコミュニケーションには、同じフロアで働くのがよい。本学は
III-45
ワンフロアの建物に引っ越したのでうまくいっているのはないか。
(3)貴機関における国際的な産学連携活動の実績と効果
(出所)谷川徹「九州大学の国際産学官戦略、実績について-アジアを中心として-」2009
<http://www.ryutu.inpit.go.jp/seminar_a/2009/pdf/20/D4/D4-04.pdf>

工学、農学(バイオ系)、医歯薬、デザインの国際産学連携が多い。デザイン
は他の分野と組んで国際連携している。産学連携をしている教員が大学で何割
かと言えば、3 割くらい。国際産学連携をするのはさらにその 1 割であろう。
同じ教員が複数回契約している。

現在の実績としては、本学の国際プロジェクト拠点で 2009 年 4 月に設置し
た「東アジア環境研究機構」の推進支援、台湾工業技術研究院(ITRI)との連
携、ネパール政府(科学技術省)との連携、グラミングループとの連携、オラ
ンダとのゲームを起点とした連携が挙げられる。

アメリカ、カナダ、アジア、ヨーロッパから研究の要望が来ているが、東アジ
アが多い。本学はアジア指向であり、2002 年に上海交通大学と契約した。中
国に対しては大学ベースのつきあいをしている。ただし、上海交通大学との連
携は、国際産学官連携センターが設立される以前の 2002 年 12 月の事例で
あり、現時点で改めてクローズアップするべき内容とは考えていない。

中国はマーケットであるが、日本の企業が単独ではなかなか展開しづらい。し
かし、そうした際に、大学はニュートラルな立場で関与できる。JETRO から
受託した「先導的貿易投資環境整備実証事業(J-Front)
」では、九州電力と本
学が連携し、九州電力が事業を展開した例もある。深刻な電力不足に悩む上海
市を対象に省エネルギー化推進システム導入プロジェクトを実施し、上海市政
III-46
府に提案書を提出した。この結果、九州電力は上海の工場への省エネ改善シス
テム導入プロジェクトを受注した。

中国への技術移転では製氷器の事例がある。上海交通大学からの相談で、中国
の漁船に載せる海水製氷装置の技術を持つ日本企業を紹介し、2005 年に中国
で合弁事業を立ち上げた。しかし、これは製品化までいったものの、マーケッ
トベースでは成功できているとはいえない。企業の海外展開を支援する場合に
も、大学としては企業に技術を移転した後の支援ができないところが課題を感
じる。

アジア地域は、途上国や新興国が主であり、途上国に向けた産学連携とは、日
本にある特に先端ではない技術だが、途上国には使える技術を移転することが
中心となる。また、日本では実施しにくい研究のフィールドがあり、アジアの
地域で実証実験することもある。例えば、医療系の治験や、実証実験の環境が
その地域にしかない場合がある。

ネパール政府との連携は農学分野であり、マテリアルの授受を行っている。そ
こで、有体物管理センターを設置し、研究の試料、マテリアルを保管している。
(4)貴機関の国際産学連携活動に対する参加者の評価

海外企業との産学連携の場合、先方から送られてくる契約書は日本より分厚く、
その時点で教員から嫌悪感を抱かれる場合も多い。

日本の現地法人の担当者と進めていたが、最後に報告書を英語で書いてくださ
い、と言われて教員が困ることもある。

国際産学連携において、当本部がコーディネーターとして参画して対応してい
ることに対しては教員からも評価されている。

ただし、教員としては研究を早く進めたいが、契約交渉は数ヶ月から 1 年かか
るため、契約が長引く。そのため、大学教員からは、契約作業で足かせを課し
ているのではないかという受け止められ方をされることもある。しかし、外為
法など法令の遵守も求められているため、手助けの場面は非常に増える。

学内の事務的な体制についても、すべて英語で回せるかというと発展途上であ
る。そこを当本部が担っているものと学内では受け止められている。
(5)貴機関において国際的な産学連携活動を促進するための各種取組

国際産学連携をしようとした場合、相手の企業とダイレクトに共同研究ができ
ればベストだが、本学は海外ではプレゼンスが低いという課題がある。海外企
業へのライセンシングや海外企業との直接の共同研究は、展示会に出展するな
どいろいろ試みたが難しいのが現状である。そこで、各国の在日商工会議所、
領事館、大使館を通じて、そのネットワークでの学学連携をベースにして、さ
らにその先にいる企業との連携を目指している。また、海外の大学と連携をし
III-47
ながら、情報交換をしながら、そのネットワークを活用して進めている。既存
の研究者、国の機関などネットワークを使って、その先の企業と結びつけるこ
とを考えている。まずは海外の(企業ではなく)大学とつながりを構築してい
る。

オランダのゲーム企業との連携事例では、オランダ自体がゲーム産業に注力し
ていることと、本学がデザイン分野に強いことから成立したものであり、在日
オランダ大使館での紹介による。

安全保障貿易について、本学では 2010 年 4 月から一元管理する体制を整え
ており、モノの輸出、提供を管理している。九州大学安全保障輸出管理規程、
九州大学安全保障輸出管理手続要項を 2010 月 4 月 1 日に施行した。

教員が個人的に実施するのではなく、管理をきちんとした上で、組織である九
州大学を輸出者とする。輸出管理責任者は知財部長が兼任している。教員から
海外に出したいというものを部局に挙げ、部局長が確認し、知財部(輸出管理
統括部署)が扱う。経済産業省の許可も九州大学として許可を得る。そうする
ことで教員個人に過度な責任問題が発生することを避ける。

学内では説明会を開催し、パンフレットを配布している。学内への説明は、コ
ンプライアンスの一貫として行っている。

全国の大学は経済産業省から輸出管理を求められているが、どうしてよいかが
分からない。自分の大学だけ安全でもいけないので、広くその知識を共有しよ
うと言うことで九州の各大学とのネットワークを構築して議論している。20
名程度集まる。

何が基礎研究かは難しい。経済産業省から基礎研究になりうるものはないと考
えてくれ、とも言われる。学学でも製品化に結びつかないものは良いが、そう
でないものは基礎研究ではない。産学連携はすべて基礎研究ではなくなる。大
学として対応を決めるが、技術の話になると難しい。

法律が想定しているのは国外に出るものすべてであり、相手国がホワイト国か
どうかではない。

企業にも何社かインタビューしたが、企業なら輸出管理部署、管理部を通して
からしかモノが外に出ないのでそれができるが、大学はなかなかそれが出来な
い。

教員に説明する度に留学生に対してものを教えるな、ということか、と質問を
される。留学生に教える場合、教科書を使って教えているなら公知であるため
問題ない。しかし、博士課程の学生は研究をして論文にする。論文指導の技術
提供を行うことになる。

輸出の業務は安全保障輸出だけではない。当本部に任せると輸出の業務が終わ
るわけではない。経済産業省のガイダンスは、外為法の別表 1 について述べて
いるが、大量破壊兵器ではないが、試薬、麻薬、高価なものなどを対象とした
通常の「貿易管理」もある。その他、検疫、税金の問題もある。
III-48
(6)貴機関において国際的な産学連携活動を行う上での課題

液晶や材料系は、韓国、台湾の企業から直接教員にコンタクトがある。しかし、
これらの分野は日本にとっても大事な部分である。本学は水素研究にも注力し
ているが、これも産総研と一緒に実施しているものであり、いわば国の肝いり
の研究である。海外の機関から共同研究やライセンスの問い合わせを受けるが
その場合、どこまで出すか。中核ではなく周辺のものなら良いかなど、個別に
手探りの状態である。研究のスタートアップ段階であれば、幅広く対応してい
るが、研究後に成果が出れば模索しながらケース・バイ・ケースで判断するし
かない。

国際産学連携の契約では国内の契約書のパターンが使えない。柔軟性、選択肢
を増やしていくことが課題である。

国際産学官連携センター、国際法務室の担当者はプロジェクトとして雇われて
いる。こうした業務は担当者にノウハウがたまっていくが、担当者の雇用の安
定化が必要である。
(7)その他

本学と共同研究をしている海外企業の紹介は難しい。台湾の ITRI なら紹介可能、
ゲームも現在は契約途中で難しい。

報告書をとりまとめたら見せて欲しい。
III-49
1.4.2 早稲田大学産学官研究推進センター
実施日時
2011 年 1 月 26 日(水)10:00~11:15
実施場所
早稲田大学
対象者(敬称略)
早稲田大学産学官研究推進センター課長 山本 健一郎
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所 森、橋本
内容
国際産学連携について
受領資料
早稲田大学研究活動紹介、早稲田大学産学官連携推進センター(承認 TLO)パンフレッ
早稲田大学産学官研究推進センター 兼 研究戦略センター 會沢 洋一
ト、安全保障輸出管理の手引き
概要

文部科学省「産学官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム)
」の「国際的な産学官連携活動の推進」に採
択され、国際産学連携の体制整備を行っている。一方、すでに教育拠点を持つアジア(中国、韓国、台湾、
シンガポール)でも海外展開を行っている。

国際産学連携の実績は金額ベースで全体の 1 割未満である。始まる契機は、大学教員が海外の学会発表を
行った際に構築される人的ネットワークにある。

海外企業からの問い合わせは多いが、具体的な成約に結びつかないことが課題であり、現地でネットワー
クを持ち案件化ができるコーディネーターの獲得・育成が解決策となりうる。
(1)国際的な産学連携の位置づけ・ニーズ

文部科学省の「産学官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム)
」の「国際的
な産学官連携活動の推進」45に採択され、国際産学連携の体制整備を行ってい
る。なお、この事業の中間報告書が出ており、それを見れば国内大学の国際産
学連携の問題が俯瞰できる46。

本学の国際戦略として、教育・研究・産学連携で一体となってアジア地域への
展開を目指すという明確な方針がある。もともとアジア各国(中国、韓国、台
湾、シンガポール)に配置していた教育拠点を産学連携でも活用する(=コー
ディネーターを配置する)という戦略を進めており、中国、シンガポールでは
産学連携活動を始めたところである。もともと拠点がない国・地域に産学連携
のためだけに新たに展開するのは非効率という認識がある。勿論、拠点がない
国にも広げたいという思いはあるが、
大学として無理がない範囲で行っている。

本学は教育面で留学生 8,000 人という数値目標を掲げており、日本社会も大
学自身もグローバル化が不可避という認識である。海外の競合大学がグローバ
45
文部科学省「産学官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム)
」実施機関一覧
(http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/08071402.htm)
46
大学等産学官連携自立化促進プログラム【機能強化支援型】中間報告書
(http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/1295939.htm)
III-50
ル化する以上、教育・研究・産学連携すべてを国際化する必要がある。

目標については、今は体制整備に注力しており、成果目標は設定していない。

重点テーマは、環境、エネルギー、ロボット/機械、IT、材料、電池、スマート
グリッド、電気自動車。上記は海外企業が日本の大学に対して興味を持ちやす
い分野である。ライフサイエンス分野、農学(食糧)分野も関心が高い分野で
はあるが、本学が医学部、農学部を持たないため着手しがたい領域となってい
る(医学部に近い領域として、東京女子医科大学と連携して取り組んでいる医
療機器開発は、重点テーマの 1 つでもある)
。
(2)国際的な産学連携活動の実施体制

受託研究よりも共同研究が主である。MTA(Material Transfer Agreement)
で研究試料(マテリアル)を提供することも良くある。

国際産学連携先としては、中国は政府系の NGO、韓国はサムソン、LG 等と
の連携実績がある。

北京大学によると中国では「日本の高度成長は産学連携が上手くいったことが
背景にある」という認識があり、日本の大学の産学連携の仕方、技術を教えて
ほしいという話が多い。
(実際、当時は日本で産学連携はほとんど行われていな
かった(大学が輩出した人材が高度成長を支えたのは事実であろうが、産学連
携ではない)ので正確な認識とは言えないのだが。
)

国際産学連携への支援体制は、前述の文部科学省委託事業において整備を進め
ている。具体的には、国際知財への対応、輸出管理規定の整備、MTA 規定の
策定などである。

文部科学省委託事業を受けて「国際産学官連携本部」を立ち上げたが、委員会
としてのバーチャルな組織であり、現実の組織としては産学官研究推進センタ
ーが該当する。

産学官研究推進センターは、課長、課員 4 名、派遣 4 名、外部人材 15 名(契
約担当 4 名、知財・技術移転担当 10 名、輸出管理担当 1 名)である。外部
人材 15 名の大半は非常勤で、実質的には 7.5 名で運営している。

文部科学省の産学官連携コーディネーター事業を通じて派遣されたコーディ
ネーターもおり、すべてが大学の持ち出しではない。

現地コーディネーター(駐在員)はシンガポール、中国(北京)に 1 人ずつ配
置している。特に中国は今後の重要さを鑑みて、文部科学省の委託事業による
雇用から大学雇用に切り替えた。

現地コーディネーターに期待する役割は、人脈を活用した現地企業や現地公的
研究機関との橋渡しである。実際、中国のコーディネーターは中国人で、中国
の役所に勤務していた経験を持つ。具体的な成果として成約につながることを
期待している。
III-51
(3)国際的な産学連携活動の実績と効果

国際産学連携の実績は、金額ベースで民間企業からの年間受入額(約 10 億円)
のうち、国内企業が 9 割以上、海外企業が 1 割未満(2009 年度で 6 千万円
弱)である。海外企業の日本支社との産学連携は国内企業に含めている。外国
の企業と直接契約は少ない。

国際産学連携が始まる契機は、大学教員が海外の学会発表を行った際に構築さ
れる人的ネットワークが主であり、国際産学官連携本部が案件を立ち上げる事
例は少ない。

国際産学官連携本部への問い合わせから始まった産学連携の事例として、海外
企業が特定の研究分野で共同研究をしたいという話が国際産学官連携本部にあ
り、その研究分野にマッチする本学の複数の教員をアサインして共同研究を始
めた例がある。

国際産学連携の実績自体が少ないため、大学にもたらした効果といえる程のも
のはまだない。当事者以外(周辺地域、地元企業等)にもたらす効果として、
将来的には海外企業と日本企業との橋渡しを本学が行えることを理想としてい
る。ただし、実際のところ本学を含め日本の大学は中小企業との結びつきが弱
く、海外企業と結びつける相手となる国内企業がいない。ただし、大学発ベン
チャー企業であれば海外市場への販路を求める部分があり、大学としても海外
企業を仲介しやすいため、可能性はあると見ている。
(4)国際産学連携活動に対する参加者の評価

学内の国際化が進むことで、全学的な国際リテラシーは向上していると思うが、
国際産学連携に好影響を及ぼしているとは言いがたい。

もともと研究推進部と国際部はあまり連動していなかったが、文部科学省の委
託事業では国際産学官連携本部と国際部との連携を進めることとなった。

産学連携の相手企業からは、知的財産の取り扱いについての不満を聞く。自身
の主張が日本の大学に受け入れられないことへの不満や、事務処理への不満な
どがある。ただし、これらはお互い様な面がある。
(5)国際的な産学連携活動を行う上での課題
(a)知的財産

海外企業と国内企業で研究フェーズの違いはないが、知的財産の点で違いがあ
る。日本企業は大学との共有が多いが、海外企業はおおむね全ての知的財産権
を要求する。支援部門として最も気を使う部分である。

実際にどう対応するかは案件によって異なっており、また、判断は現場教員が
決めている。大学としては勿論、知的財産を持ちたい思いがあるが、現場教員
III-52
の判断を最優先にしている。教員への問い合わせから始まる国際産学連携が多
いので、国際産学連携に対する教員の反発はない。

不実施補償も含めて案件によって異なる。企業が一時金で払うことで了承する
こともある。教員によっては(一時金ではなく)ランニングロイヤリティーを
欲しいという方もいる。

上記のような知的財産関連の事務処理は手間暇がかかるが、国際産学連携を阻
害する要因にはならない。
(b)コーディネートを担う人材

海外企業からの問い合わせ(引合)は幸いにして多く、特に中国では本学のブ
ランドがあることに起因している。ただし具体的な成約に結びつかないことが
多い。

解決策は優秀なコーディネーターをいかに確保するかである。技術がわかるバ
イリンガルで、海外に自由にいける人、海外企業と交渉できる人というのが求
める人物像である。

ドイツの商工会議所がドイツ企業を数社率いて本学の見学会(マッチング)を
実施したことがある。その後、問い合わせはあったが成約に至っていない。

本学の場合、学則上、事務部門に教員を置くことができない。また教員は大学
院、学部で授業を持たなければならないため、時間的な制約を抱えている。国
際産学官連携本部のスタッフとして、研究活動をしていた人で学内の教員と対
応に話ができ、海外企業と話をして具体的な案件にできる人材を必要としてい
る。国立大学では産学連携本部に教員が配置されていることがうらやましい。
(c)国としての魅力

社会全体のグローバル化や企業を惹きつける魅力、たとえば日本で研究開発す
れば税金(法人税)を免除する、役所の手続きが早いなどを取り組むべき。本
当に政府として国際産学連携を増やしたいと思っているのであれば、税制や事
務手続の緩和を行った特区をつくるべきである。国際産学連携は大学単独では
どうしようもない部分もある。

例として、シンガポールは世界中から企業、大学が集まっており、場としての
魅力があると言える。
(ただしシンガポール政府の研究費を獲得するためにはシ
ンガポールの機関に所属する必要があり、成果が出るとロイヤリティがシンガ
ポール企業になっており、これが阻害要因で進出しづらいと言う企業があると
も聞く。
)東京は海外から見て魅力が高く、日本はシンガポール以上に国土があ
るので、もっと投資してもよい。
III-53
III-54
2. 海外先進事例インタビュー記録
2.1 ドイツ
2.1.1 フラウンホーファー研究機構 日本代表部
実施日時
2011 年 1 月 17 日(月)10:00~11:10
実施場所
フラウンホーファー研究機構 日本代表部
対象者(敬称略)
Dr. Lorenz GRANRATH
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所 須崎、大木
内容
フラウンホーファーにおける国際産学連携について
受領資料
Annual Report 2008
フラウンホーファー日本代表部「産業にイノベーションを」
概要

フラウンホーファー(FhG)では、研究資金の多くを契約研究により獲得している。全体の 1/3 程度が
産業からの委託研究となっている。通常は連携先としてドイツ国内の企業を優先する。一方で海外(アジ
ア)のマーケット獲得は魅力的であり、海外企業との連携で獲得した研究成果等がドイツの中小企業にも
還元されると説明している。

ビジネスユニットを構築して営業的な活動をするなど、民間を含めた契約研究の獲得に力を入れている。
海外企業との連携に当たっては、訪問による現地調査や最新トピックのセミナーを実施するなどの能動的
な働きかけを実施している。

産学連携の効果としては、学術研究と企業向け研究の相互作用による新たな知見の獲得が挙げられる。海
外展開の目的としては、研究資金のマーケット拡大も挙げられる。

企業の委託研究を実施するに当たっては、学術研究と異なる企業向けのマインドを研究者が持つことが重
要であり、その点の教育が必要である。一方、契約研究が主であることから、学術的な研究があまりでき
ない状況にあり、その点が課題と言える。
(1)産学連携に関するドイツと日本の違い

一般に、日本の公的研究機関における研究財源は公的な資金がほとんどである。
また、大企業が独自に研究所を保有し研究活動を実施している。

一方、ドイツでは、一般に中規模の企業が多く、企業が研究活動を自前で実施
することは困難であるため公的研究機関との連携を必要としている。
そのため、
ドイツ企業と FhG との契約研究は、比較的小規模のプロジェクトが多い。
(2)FhG における国際的な産学連携活動、体制、経緯等

FhG では、1960 年代に戦略として海外展開を開始した。発端は米国の研究
プログラムに FhG が参加したことである。その後、欧州を中心に拡大、現在
III-55
ではアジア、米国、ロシアに進出している。アジアにおける FhG が獲得した
研究資金の半分は、日本における研究が占めている。

海外でのオフィス展開は、必ずしも FhG の本部(HQ)が決めるのではなく、
傘下の研究所で必要性があれば個別に進出する。

FhG の契約形態としては、契約研究が基本であり、ライセンス形態はほとんど
ない。企業による成果の利用は個別契約ごとに調整する。一般には、通常実施
権は委託研究費用に含まれるが、独占実施権には追加支払いが発生する。

各研究所の研究資金は HQ から配分されるものと、各研究所が独自に外部資金
を獲得するものがある。ポイントは、研究所が独自に獲得する外部資金が減る
と、HQ からの配分も減る仕組みとなっている。

従って、各研究所は外部資金獲得に注力することになり、外部資金の取得は、
FhG 内で強く奨励されている。研究分野ごとにビジネスユニットを設置し、顧
客獲得を行っている。
(3)FhG における国際的な産学連携活動の狙い、実績、効果

FhG における公的研究、民間研究の全てのプロジェクトはナレッジの向上に繋
がっている。産学連携の一番の効果は、得られるナレッジである。

FhG と民間企業との共同研究を実施する場合、まずはドイツ国内の企業を検
討する。一方でアジアのマーケットの獲得は魅力的である。
“FhG のようなド
イツの公的資金が投入されている機関による海外企業への研究開発支援に対し
て、ドイツ国内では批判が生じるのではないか”という質問に対し、FhG とし
ては、FhG が海外企業との連携で得られた研究成果やマーケットの獲得がドイ
ツの中小企業にも還元されるものであると説明している。

FhG 全体の研究テーマ数は非常に多いが、具体的なテーマ数は言えない。

FhG 全体の研究予算の年間総額はおよそ 14 億ユーロである。連邦政府からの
研究資金は 4.3 億ユーロであり、FhG の研究資金の土台となっている。その
他の資金は契約研究による受託資金である。受託資金のうち、4.5 億ユーロが
産業からの委託研究により賄われている。

FhG が民間企業との連携に熱心と言っても、その研究資金の多くは公的資金で
あり、それは増加傾向にある一方、民間企業からの資金は停滞気味である。

FhG における国際的な産学連携活動を促進するための各種取組

FhG の海外における連携先(委託研究の発注元)は、FhG 自らが企業へ訪問
するなど現地での主体的な活動により獲得する。
フットワークは重要であるが、
簡単に上手く行くわけではない。

FhG では、毎年 6~7 回程度、海外でセミナーを実施している。最近では、ナ
ノテク、マイクロマシン、ソーラーエネルギー等をテーマにしたセミナーを行
っている。

FhG の研究者と企業の研究者との人材交流はあまりない。契約企業の研究者は
III-56
基本的に自分の企業で活動する。FhG の研究者は必要に応じどこへでも訪問す
る。
(4)FhG における国際的な産学連携活動を行う上での課題

「アカデミックな研究」と「企業からの委託研究」では、研究者のマインドが
異なる点に留意する必要がある。
「企業からの委託研究」を実施する上では、研
究者のマインドを企業向けに合わせる必要があり、そのための研究者の教育が
必要である。一方で、これは FhG だからできることであり、ドイツの大学で
は FhG のような企業との連携は難しいだろう。

FhG では、企業や政府からの契約研究が主体であるため、アカデミックな研究
があまりできないことが、研究者としては課題となっている。
(5)その他

FhG のスタッフは 17,000 名、研究者数は 3,200 名である。研究者以外の
スタッフの大部分は技術スタッフである。

FhG とドイツ国内の大学とのつながりは、技術的な知見の交換等が中心である。
一方、海外展開にあたり、当該国の大学との関係は特に必要としていない。例
えば、韓国での活動において、韓国の大学とのつながりはない。
III-57
2.1.2 フラウンホーファー研究機構 本部
実施日時
2011 年 2 月 10 日(木)9:15~11:15
実施場所
フラウンホーファー研究機構 本部、ESK 研究所
対象者(敬称略)
Ms Marianne Hoffmann(本部), Mr Torsten Nyncke(本部), Dr. Mike Heidrich
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所 荒木
内容
フラウンホーファー研究機構における国際産学連携について
受領資料
プレゼンテーション資料、Annual Report 2009
(ESK), Dr. Dirk Eilers(ESK)
概要

FhG は「社会に役立つ実用化のための研究」をテーマに、国内外のアカデミアと企業の橋渡し研究を行う
欧州最大級の応用研究所である。

2009 年度の研究費の総額は 16.5 億ユーロであり、うち 14 億ユーロが委託研究によるものである。
2009 年度の委託研究費のうち、約 3 割(382 百万ユーロ)が EC、連邦政府及び州政府からの研究費、
4 割弱(407 百万ユーロ)が産業界からの研究費、約 3 割(424 百万ユーロ)が競争的資金によるプロ
ジェクト経費となっている。また、委託研究費の約 10%が海外企業からの資金である。

国際的な産学連携活動における FhG の知的財産権に関する基本方針は、すべての知的財産権の所有者と
なることである。

国際プロジェクトの獲得は、国内プロジェクトの獲得と比べて時間や費用がかかる。それでも国際的な連
携に取り組むのは、最先端の技術を獲得し、中国やインドのような将来の主要市場に備えるためである。

同じ言語圏の国や地理的に近い国との連携は様々な利点がある。また、EU 内の連携においては、第 7 次
フレームワークプログラム(FP7)を活用することができるため連携はしやすい状況にある。一方で、日
本や中国、インドネシア等のアジア地域では環境や条件の異なる研究ができるという魅力がある。例えば、
アジア地域で発生する感染症に関する研究や、ナノテクノロジーのようなアジア地域が優勢の技術には魅
力がある。すなわち、我々にとってまず重要なのは相手先の国ではなく、興味のある研究を追求すること
である。相手先の国はその結果決まることである。
(1)国際的な産学連携の位置づけ・ニーズ

FhG は「社会に役立つ実用化のための研究」をテーマに、国内外のアカデミア
と企業の橋渡し研究を行う欧州最大級の応用研究所である。

FhG では 1970 年代から徐々に国際化が進んできたこともあり、国際的な産
学連携はごく自然な研究活動の一部となっている。政府の国際化の取り組みよ
りも歴史は長い。

FhG の国際化が加速した契機は、1990 年代に米国に最初の海外での研究所
を設けたこと、
及びその後 FhG の本部に国際部門を設けたことと考えている。

FhG における国際連携の目標は、委託研究のプロとしてのポジションを維持改
善すること、研究の質を高めること、世界中から優秀な人材を獲得すること、
European Research Area のドライビングフォースとなること、及び地球的
III-58
規模の社会的課題に共に取り組み持続的発展を支援することにある。

国際プロジェクトの獲得は、国内プロジェクトの獲得と比べて時間や費用がか
かる。それでも国際的な連携に取り組むのは、最先端の技術を獲得し、中国や
インドのような将来の主要市場に備えるためである。地球的規模の課題の解決
は、世界のベストパートナーとの連携を通じてのみ実現するものである。国際
的な連携は経済的な動機によるものではない。

同じ言語圏の国や地理的に近い国との連携は様々な利点がある(
(3)を参照の
こと)
。
また、
EU 内の連携においては、
第 7 次フレームワークプログラム
(FP7)
を活用することができるため連携はしやすい状況にある。
一方で、
日本や中国、
インドネシア等のアジア地域では環境や条件の異なる研究ができるという魅力
がある。例えば、アジア地域で発生する感染症に関する研究や、ナノテクノロ
ジーのようなアジア地域が優勢の技術には魅力がある。すなわち、我々にとっ
てまず重要なのは相手先の国ではなく、
興味のある研究を追求することである。
相手先の国はその結果決まることである。
(2)FhG における国際的な産学連携の形態、体制等

FhG には、機能の異なる 4 種類の海外拠点、すなわち研究所(100%現地法
人)
、研究施設(センター)
、事務所(代表部とも呼ばれる)及びシニアアドバ
イザーがある(以上、規模の大きい順)
。

FhG が初めて進出する地域で顧客層が明確でない場合は、事務所の開設の前に
シニアアドバイザーを置き、
ビジネスチャンスの可能性を探ることとしている。
事務所には窓口としての機能はあるが、研究機能はない。大型のプロジェクト
を受注することになった場合には、研究機能を持たない事務所を発展させ、研
究施設や 100%の現地法人(フラウンホーファー研究機構の 100%子会社)
の研究所を設けることで、現地においてより密着した連携を実施することとし
ている。

現在、ドイツ国内には本部及び 60 の研究所(40 カ所)が、米国及びオース
トリア、イタリア、ポルトガルには研究所が、シンガポール及び中国には研究
施設がある。また、日本、韓国及びインドネシア等には事務所がある。今後の
ビジネスチャンスを広げるため、ドバイ等の中東地域にも事務所等を設けてい
る。

FhG の海外拠点の責任者として、現地の人材を配置すべきか、ドイツでの就業
経験のある人材を置くべきかは判断がつきかねる状況である。実態としては、
FhG の職員やドイツ国内での就業経験者で、かつ設置国出身の人材を海外拠点
の責任者としてあてるケースが多い。

FhG が他国において、合弁での研究所の設立や本社機能を持たせることは、連
邦政府からの資金提供を受けている以上(ドイツ国内への納税を行う必要性か
ら)難しい。
III-59

FhG は IP の確保を重視しており、他国におけるジョイントベンチャーの設置
を行わないこととしている。ジョイントベンチャーの設置を行うと合弁先との
IP のシェアを行うことになり、その IP に関してドイツ政府のコントロールが
きかなくなる可能性がある。

FhG の米国拠点では、産業界のみならず米国のトップクラス大学とも緊密に連
携することで、基礎的な内容を志向した研究も実施している47。

地元の中小企業との連携においては、FhG 側がテーマを考案し、テーマに賛同
する中小企業を募り、コンペ形式で連携先を決めることがある。
(3)国際的な産学連携活動の実績及び効果

2009 年度の研究費の総額は 16.5 億ユーロであり、うち 14 億ユーロが委託
研究によるものである。2009 年度の委託研究費のうち、約 3 割(382 百万
ユーロ)が EC、連邦政府及び州政府からの研究費、4 割弱(407 百万ユーロ)
が産業界からの研究費、約 3 割(424 百万ユーロ)が競争的資金によるプロ
ジェクト経費となっている。また、委託研究費の約 10%が海外企業からの資
金である(ドイツが海外に設けている現地法人を含めた場合には 16.6%であ
る)
。

国内外の相手先企業の 70%は、研究部門の整備が不十分な中小企業である。

委託研究の相手先は、金額が多い順に米国、オーストリア、スイス、日本の順
となっている。オーストリアやスイスとの連携が多い理由としては、同じドイ
ツ語圏の国で連携がスムーズにいくうえ、地理的にも近く連携にかかるコスト
が安いこと等が挙げられる。

日本は、ドイツと技術レベルが同等であり、互いに似た社会問題(高齢社会)
を抱えていることから共通言語で話すことができ、連携をスムーズに進めるこ
とができる。

本研究所が産業界から離れすぎないよう、国内外企業からの研究資金は委託研
究費の 4 割を目標としている。傘下の研究所における国内外企業との連携のモ
チベーションを上げるため、企業からの委託研究費が目標を上回った研究所に
は、連邦政府及び州政府からの研究費の一部を基盤的経費(ボーナス)として
支給するようにしている。

国際的な産学連携により、FhG は分野を超えて国際連携における経験や知識
等のノウハウを得ることができ、金銭的な利益も確保することができる。

国際的な産学連携により、相手先企業は FhG から、自身が持たない特定の分
野に関する知識や先進的な設備・機器の提供を受けることができる。

47
連携先の大学の学生は、将来の FhG の研究者になることがある。
大学との緊密な連携を図る体制はドイツ国内も同様である。さらにドイツでは、各地域にある FhG の研究所において所長
等がその地域の大学の教授を兼任するケースが多い。
III-60

FhG はドイツ国内の大学と海外企業を結ぶ仲介役としての意識はない。ただし、
ドイツの各地域にある FhG の研究所の所長等が大学の教授を兼任しているこ
とはある48。

ドイツ連邦政府が海外の大学や企業を直接誘致するということは聞かない。

産学連携にあたっての弊害や問題点は常に生じる。コミュニケーションの問題
が一番に挙がるだろう。結果がわからないプロジェクトに対して、顧客と目的
に照らし進めていく際の意見の食い違いをどう解消していくかということが挙
がる。
(4)国際的な産学連携活動を促進するための各種取組

国際的な産学連携活動における FhG の知的財産権に関する基本方針は、すべ
ての知的財産権の所有者となることである。知的財産権は常に、プロジェクト
開始前の顧客との交渉材料となる(同じことはライセンシングに関しても当て
はまる)
。

FhG における海外人材のリクルートは体系的ではない。海外研究者を何人雇用
すべきかという目標も特に決めている訳ではない。海外からの FhG への就職
希望者がいれば、その人材が他の研究者と比べて優秀かどうか、適正を見極め
ることとしている。

海外人材のリクルートにあたり、研究環境は常に最先端を保つようにしている。
すなわち企業の先を行く高性能の機器や設備を準備するよう心がけ、研究者を
惹きつけるようにしている。

FhG は国内外問わず、民間企業のような積極的なマーケティングは行わない。
FhG の海外へのプロモーションは、海外事務所や技術的なワークショップ、セ
ミナー、論文、プレスリリース、イベント、
(FhG が)エクセレンスであるイ
メージを発信することにより行われている。
(5)国際的な産学連携活動を行う上での課題

FhG 自身が抱える課題としては以下が挙がる。
 FhG は未だドイツの国の機関であり、すべての研究者が優れた英語のスキル
を持っている訳ではない。
 FhG は 100%資金提供を受けている機関ではない。そのため、プロジェク
トは実費に基づき計算される必要があるし、顧客に対する値引きも許される
ものではない49。
48
49
教授への着任にあたっては、大学からオファーがある場合も少なくないとのことであった。
コスト感覚に関しては、ドイツとインドの技術者の違いについて例を挙げていた。ドイツの技術者は常にハイテク技術の開
発に注意を払い「どの機能が付加できるか」と尋ねるのに対し、インドの技術者は「どの機能が本当に必要で、どのようにす
III-61

FhG 外の機関(顧客)が抱える課題としては以下が挙がる。
 FhG は時にアウトカムに結びつく「研究」を売っているのに対し、顧客はし
ばしば製品や結果を期待する。
 文化の違いや異文化間コミュニケーション、相手企業との距離や交通費も問
題になることがある。
(6)その他

研究所全体の研究費は年間 16.5 億ユーロである。国内に 60 の研究所(40
箇所)
、18,000 名の雇用者を抱える。雇用者の大半は研究者及び技術者であ
る。

ICT、ライフサイエンス、マイクロエレクトロニクス等 7 つの研究グループを
抱える。

FhG においてこれまでに最も多い特許権収入は、MP3 圧縮アルゴリズムの発
明によるものである。

FhG の所長はハイテク戦略等政府の政策立案プロセスに携わる有識者の一人
である。そのような意味では、政府の施策と FhG の研究活動とは密接に関連
している。

FhG の身分は半ば公務員の様な形態であることから、給料は高いとは言えない。
ドイツ国内の優秀な学生は、より高い給料を払うドイツ大手企業に就職するケ
ースもある一方で、FhG の業務内容に興味を持ち集まってくる学生も多い。
ればコストを最も削減できるか」と尋ねるというものである。
III-62
2.1.3 ミュンヘン工科大学
実施日時
2010 年 2 月 11 日(金)9:30~11:30
実施場所
ミュンヘン工科大学
(Technische Universität Münchenhit:TUM)
研究・イノベーションオフィス TUM ForTe
(TUM - Forschungsförderung & Technologietransfer50)
対象者(敬称略)
Dr. Alexandros Papaderos(Head of Patent and Licensing Office)
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所 荒木
内容
ミュンヘン工科大学における国際産学連携について -ミュンヘン工科大学
受領資料
ミュンヘン工科大学組織図
Dr. Thomas Aulig(Project Manager GIST-TUM ASIA)
概要

国際的な産学連携において金額、件数共に最も多い形態は委託研究である。次に多いのが共同研究である。

昨年度、本大学が産業界から得た資金は 95 百万ユーロである。国内外企業との契約件数は、昨年度の新
規契約分で約 700 件であり、うち国外の企業との契約は約 20-30%を占める。ここ数年産学連携が増え
ているのは、企業側のオープンイノベーションへの対応であると考えられる。

産学連携の約 9 割は、企業のマネージメント部門から大学の研究者に直接話が来る。

産学連携の中心を担うのは組織ではなく研究者である。産学連携においては、産学の研究者同士の興味が
一致するかどうかがまず重要であり、本大学では研究者がその企業と連携するかどうかを決める。相手先
の国はその結果で決まる。

国際的な産学連携において重視していることは、研究の質が高いかどうかということである。本大学の研
究者は企業の研究部門よりも高い質の研究を行う専門家集団である。

海外の大学との大型共同プロジェクトの実施や、海外に本大学の拠点を設けて研究実績をあげることで、
世界に対する本大学の認知度が上がり、大学、企業問わず連携相手が増えていくという好循環が生まれて
いる。

ドイツの大学教授は日本の大学教授とは大きく異なる。ドイツの大学教授は産業界出身の者が多く、海外
経験も豊富で、学長からも独立している。
(1)国際的な産学連携の位置づけ・ニーズ

TUM は国内外の企業との連携において長年の歴史がある。例えば、TUM と
シーメンスとは 100 年以上の連携の実績があり、学内に研究所を構える GE
などとの連携実績も長い。研究者間におけるお互いの研究や事業等への興味か
ら、機関同士の戦略的なアライアンスへと繋がってきた。産学連携は国内か国
外かを問わず、ごく自然な研究活動の一部となっている。

産学連携の中心を担うのは組織ではなく研究者である。ドイツでは、研究者に
は「選択」の自由と「決断」の自由が与えられていると言われている。産学連
50
英語名 Office for Research and Innovation
III-63
携においては、
産学の研究者同士の興味が一致するかどうかがまず重要であり、
本大学では研究者がその企業と連携するかどうかを決める。相手先の国はその
結果で決まる。

グローバル化が進む昨今においては、学生や研究者の国際ネットワークの形成
や海外からの優秀な人材の獲得が国際的な機関間の連携にも繋がっていると考
えられる。注目している海外の地域としては、米国(MIT 等)や欧州(チュー
リッヒ工科大等)がまず挙げられるが、中国、インド等のアジア地域も魅力的
である。
(2)TUM における国際的な産学連携の形態、体制等

国際的な産学連携において金額、件数共に最も多い形態は委託研究(contract
research)である。次に多いのが共同研究である。

研究テーマは機械工学や情報学、生物学等、挙げられないほど多岐にわたる。

産学連携の約 9 割は、企業のマネージメント部門から大学の研究者に直接話が
来る。産業界出身者が多い本大学では、研究者同士の個人的な繋がりから産学
連携に発展することもある。きっかけは学会、会議、ワークショップ、シンポ
ジウム等様々である。

本大学の研究者の所属学部は様々であり、産学連携に際しては学内の多くの部
門が関わるため、産学連携の調整窓口は存在しない。通常、学長を筆頭とする
会議(Präsident Büro=President office)で審議される。双方のトップの話
し合いのもとで決まることも多い。

産学間の人の行き来に関しては、大学の博士課程の学生が、博士論文の執筆の
ため企業に行くこともあれば、企業の社員が産学コーディネーターとして大学
に来るケースもある。

TUM FoRTe(うち Division2:Technology Transfer)の役割は、技術移転
に関わる案件をサポートすることである51。FoRTe では、学内で生まれた IP
の企業への技術移転をサポートする他、TUM 発の IP に基づく企業のスピンオ
フやスタートアップ支援も行っている。このオフィスだけではカバーできない
ため、TUM Legal Office(技術移転にかかる法的問題を取り扱う)や TUM
発の IP を商品化する企業(Bayerische Patentallianz GmbH)
、gate と呼ば
れるビジネスインキュベーター(州の非営利)の力も借りている。

51
エアバス等 EADS 傘下の企業(計 8 社)とのアライアンスにおいては、親会
FoRTe は、国内外の研究を推進しサポートする部署(Division 1:Research Support/Excellence Initiative)と、技術
移転に関わる案件をサポートする部署の 2 つから構成される。うち、Division 1 では連邦政府の進めるエクセレンス・イニ
シアティブ(本大学への資金提供は年間約 130 万ユーロ(5 年間)
)や国際共同プロジェクト等を扱う。このうち、サウジア
ラビア王立大学(KAUST)との共同プロジェクトは先方からの提案によるもので、重要な資金源にもなっている。その他、
シンガポールに設けている TUM の拠点(GIST)におけるプロジェクトマネジメント等も行っている。Division2 について
は本文参照。
III-64
社である EADS と包括契約を結ぶことで、傘下の企業とのプロジェクトをよ
りスムーズに進めることとしている。
(3)国際的な産学連携活動の狙い、実績、効果

昨年度、産業界から得た資金は 95 百万ユーロである。国内外企業との契約件
数は、昨年度の新規契約分で約 700 件であり、うち国外の企業との契約は約
20-30%を占める。ここ数年産学連携が増えているのは、企業側のオープンイ
ノベーションへの対応であると考えられる。

連携相手の規模の内訳は、大企業と中小企業(ここでの中小企業とは 10000
人以下の企業を呼んでいることに注意)が約半数ずつであり、従業員 300 人
程度以下の小規模企業は約 1 割にとどまる。小規模企業は研究予算が少なく、
本大学へのコンタクトを恐れている。

シーメンスとは 100 年以上の連携の実績があり、学内に研究所を構える GE
などとの連携実績も長い。他、アウディや BOSCH 等の大企業とも長期間にわ
たり連携している。

国際的な産学連携において重視していることは、研究の質が高いかどうかとい
うことである。本大学の研究者は企業の一研究部門員としての意識はなく、企
業の研究部門よりも高い質の研究を行う専門家集団である。

産学連携において国内外を意識していないものの、実績ベースでは国外よりも
国内企業や地元企業との連携が多くなっている。

国際的な産学連携が周辺地域にもたらす直接的な効果はほとんどない。しかし
ながら、
地元の研究者が海外の最先端の研究に触れ、
研究のトレンドをつかみ、
ノウハウを蓄積し、大学が名声を得るという間接的な効果はある。

国際的な産学連携において、本大学の学生が連携先の企業に就職するケースが
ある。

サウジアラビア王立大学(KAUST)との大型共同プロジェクトの実施や、海
外に本大学の拠点を設けて研究実績をあげることで、世界に対する本大学の認
知度が上がり、大学、企業問わず連携相手が増えていくという好循環が生まれ
ている。

TUM GIST(ドイツ科学技術研究所(シンガポール)
)の設立及びその効果に
ついて
 本大学は 2002 年に、シンガポール政府及びドイツ政府のサポートを受け
て、ドイツとしては初めてシンガポールに研究所(GIST)を設立した。この
拠点は研究機能のみならず教育機能も備えている。シンガポール政府が進め
る国際戦略により、インド、マレーシア、インドネシア、シンガポール等様々
な国籍を持つ学生や研究者が一同に集まるので、学生や研究者間の国際ネッ
トワークが構築されていく。これは大変魅力的である。
III-65
 シンガポールは、かつては英国の植民地でありその影響を引きずっていたが、
シンガポールにドイツの拠点を設けることで、今後は英国以外の欧州の国々
との関わりも増えていくと考えられる。本大学としては今後も、この研究所
を国際的な教育及び産学連携の拠点として活用する予定である。
 シンガポールに拠点を設けたことがきっかけとなり、シンガポール内外の大
学との共同研究や企業からの委託研究が増え、シンガポール政府からも共同
プロジェクトの提案をもらうようになった。
 シンガポール政府は水、エネルギー、環境等の領域別に MIT、UC Berkley、
チューリッヒ工科大、ヘブライ大学等の海外の大学を誘致する施策を実施し
ており、本大学にも声がかかった。その結果、昨年、シンガポール政府、ナ
ンヤン工科大学との共同で研究所(TUM Create)を設立することができた。
TUM Create ではシンガポール政府の資金提供を受け、今年 3 月から電気
自動車や搭載するバッテリーの開発等を開始する予定である。お互いの興味
さえ一致すれば、大学や企業を問わず連携することを検討中である。

ドイツの法律では、国際的な産学連携を行う場合においても、本大学が IP を必
要とする人から一部を報酬として受け取る権利を持つ。ロイヤルティーについ
ても別途交渉するのが普通である。しかしながら、各国の法令の違いで調整が
つかず国際的な産学連携が成立しないことがあり、産学連携における一つの弊
害となっている。

過去に、米国国防総省から提案を受けた際に、カルチャーの違い及び様々な要
因で連携が成立しないことがあった。
(4)国際的な産学連携活動を促進するための各種取組

TUM が海外の大学に認知されるようになったのは担当部署(Alumni(同窓
会)
)によるところもあるが、一番宣伝効果があるのは大学生や大学 OB であ
る。

連邦政府の進める各種プログラムで関連するものがあれば、研究者に知らせ、
活用してもらうのも TUM FoRTe の役割である。

安全保障貿易管理に関わる各国の法令について、特に国内の大学等と共有した
りすることはない。ここ 10 年程度、安全保障貿易管理に関わる大きなトラブ
ルは起きていない。

教授のリクルートは国内で行うことが基本となる。ただし、国内であっても、
採用される研究者は産業界や海外などで多くの経験を積んでいる。重要なこと
はトップの研究者を連れてくるということなので、国内外を意識する訳ではな
い。採用にあたっては、本大学の教授が他の研究者をリクルートし、学長に推
薦することもある。在職中の教授の果たす役割も大きいといえる。
III-66
(5)国際的な産学連携活動を行う上での課題

国際的に開かれた企業との連携は容易である。一方、大学との連携に慣れてい
ない、経験不足の企業との連携においては障害が生じることがある。
(6)その他

TUM は 1868 年に設立された大学で、ドイツの中では比較的新しい。名前こ
そ「工科大学」ではあるものの、1970 年代には医学部も創設され、現在では
13 の広範囲にわたる学部から構成されている。

計 25000 名の学生のうち、女性の比率は約 3 割を占める。理系大学の中で
は女性の比率が多い。また、全学生の約 18%が留学生であり、日本の留学生
の比率は少ない(正確な数字は不明)
。

2009 年度の大学の予算は約 950 百万ユーロで、うち企業を含む第三者から
の収入(Third-party income)は約 220 百万ユーロである。1999 年以降
における外部からの資金調達の総額(171 百万ユーロ)のうち、企業からの
収入は約 40%(84 百万ユーロ)となっている。

TUM は特にこの 5~6 年で教育の国際化が進んだ。学生の国際交流について
は、ボローニャプロセスがきっかけとなり、現在では EU 圏外、すなわちカナ
ダやブラジルなどの多くの海外の大学との交換留学が可能になっている。機関
同士だけでなく学生同士の情報交換が多くなった。

本大学のあるバイエルン州はドイツの中ではハイテク企業が最も集まる州で
ある。

ドイツの大学教授は日本の大学教授とは大きく異なる。ドイツの大学教授は産
業界出身の者が多く、海外経験も豊富で、学長からも独立している。自校出身
者の割合は少ない。

ミュンヘンにあるドイツ博物館(国立の科学技術博物館)の創設者は本大学の
教授であった。現所長も本大学の教授である。
III-67
2.1.4 Fujitsu Asia Pte Ltd
実施日時
2011 年 1 月 28 日(金)18:00~19:00
実施場所
Fujitsu Asia Pte Ltd,
31 Biopolis Way, #02-25 Nanos, Singapore 138669
対象者(敬称略)
Fujitsu Laboratories and R&D Division 藤田 省三
実施者
株式会社三菱総合研究所 須崎
内容
富士通における国際産学連携について
受領資料
(なし)
(1)当該大学との産学連携の経緯

DNA を使ってタンパク質を計測するという当方のアイデアに基づいてミュン
ヘン工科大学との共同研究がスタートした。このため、大学側にも該当する技
術がほとんど存在しない段階からのスタートとなった。大学に当社研究者を派
遣し、材料を持ち込んで新しい現象を探索するフェーズから共同研究を開始し
た。こうした取り組みの結果として、これまで知られていない画期的な現象を
捉える計測方法で研究成果が生まれた。

当社から研究資金を提供し、大学側も国や州のファンドを投入し、マッチング
形式で研究を遂行したと理解している。

今後の事業化もドイツで行う予定であるが、ドイツではアーリーステージの民
間投資が米国のように活発ではないため、ドイツ連邦政府・州政府によるアー
リーステージの研究支援に期待している。
(2)ミュンヘン工科大学との産学連携の評価

タンパク質の計測に使える全く新しい計測法を作るというアイデアに同意を
もらって進めたため、希望する方向性で研究の展開が進められた。

ドイツの大学院生は当該研究資金から給与を支給され、そのテーマに係わる研
究を進めるなかで博士論文を書くことになる。このため、共同研究に対して大
学側がきちんと成果を出してくれる体制を取りやすい。

双方が異なる専門性のチームであったため、単独では得られないようなユニー
クな現象を発見し、それを制御する技術を完成することができた。
(3)産学連携を促進/阻害する外部環境

研究室の姿勢にも依存する可能性があるが、共同研究テーマに対して、優秀な
大学院生を専属で配置して、一緒に成果を出そうとする積極的な姿勢には好感
III-68
がもてる。

しかし、日独の思考の違いや文化的な問題で苦労した点も多い。

知的財産の取り扱いについては、共同研究がスタートした時点から徐々に大学
側の知財管理方針が変化してきたため、契約更新時の交渉は難航した。また、
職務発明の取り扱いを定めた法律があり、共同研究契約を開始した当初は、枠
組の理解が難しかった。
(4)その他

ドイツ人はロジカルに納得するまで動きださない国民性があり、新しい現象を
探索する初期のフェーズでは、研究への動機付けに悩んだことがある。
III-69
2.2 シンガポール
2.2.1 Economic Development Board(EDB)
実施日時
2011 年 1 月 28 日(金)10:45~12:00
実施場所
Economic Development Board
対象者(敬称略)
CHEN Guan Yow, Assistant Head, New Technologies
実施者
株式会社三菱総合研究所 須崎
内容
シンガポールにおける国際産学連携について
250 North Bridge Road, #28-00 Raffles City Tower, Singapore 179101
受領資料
概要

EDB は主に大企業(多国籍企業含む)に対応しており、SPRING が主にシンガポールの中小企業に対応
している。EDB では在シンガポールの多国籍企業とのインタラクションが多い。外国の大企業に対して露
出を増やすことが重要である。

国際性はシンガポール経済における必然であり、あえて国内外を意識する必要を感じていない。シンガポ
ールに拠点があり経済活動をしている限り、地元資本か外資かは関係がない。これは産学連携においても
同様のスタンスである。

2000 年代からは知識・イノベーション集約型事業に重点を置き始めた。研究開発を推進するための制度
やインフラの整備を進めてきている。

シンガポールにおいては、様々な財務奨励策、税制優遇策が取られている。企業の国籍を問わず、シンガ
ポールに登記している企業であれば支援の対象となる。

産学連携のキーワードとして「産業界へのレレバンス(関連性)
」
、すなわち産業界でどれだけ活用可能な
研究か、という視点が入ってきた。
(1)EDB について

Economic Development Board(EDB:経済開発庁)は、シンガポールの
グローバルビジネスセンターとしての地位を高め、
国内経済を発展させるため、
戦略の立案および実行を主導する政府機関。主に、海外投資の誘致、産業構造
の発展、ビジネス環境の整備を重点としている。

EDB の活動目的は極めてシンプルであり、究極的にはシンガポールの GDP の
成長と雇用創出である。そのために、海外投資の誘致、産業構造の発展(新成
長分野の探索)
、ビジネス環境の整備、を中心に活動している。

EDB の組織は以下の通りである。企業からアプローチしやすい(窓口が分か
りやすい)よう、産業開発については業界ごとの組織となっている。
III-70
出所:http://www.edb.gov.sg/edb/sg/jp_jp/index/about_edb/organisation_structure.html
図 2-1 EDB の組織図

1960 年~70 年代、シンガポールでの高い失業率を背景に、海外からの投資
受け入れに本腰を入れるようになった。

EDB は主に大企業(多国籍企業含む)に対応しており、SPRING が主にシン
ガポールの中小企業に対応している。

EDB では在シンガポールの多国籍企業とのインタラクションが多い。シンガ
ポール国籍の大企業はほとんどなく、製造業で規模が大きいところは外国企業
の OEM を行っていることが多い。したがって、国としてもどうしても外国の
大企業に対して露出を増やすことが重要という位置づけになる。なおシンガポ
ールには約 7,000 の中小企業および約 3,000 箇所の外国企業のオフィスがあ
る。

アジア諸国の中ではシンガポールは人件費が高騰してしまい、国際競争力の点
ではこれはデメリットである。しかし、アジアにおける地理的な中心、交易の
中心であることは変りない強さである。欧米・日本からアジアに進出する拠点
としてふさわしい国であると考えている。

シンガポールには金融業などの産業が強いイメージがあるが、製造業は GDP
の約 20%を占める重要な産業である。政府としては今後も製造業が 20%を
維持することを計画している。たしかに理系離れの減少はシンガポールにもあ
III-71
るが、シンガポールでは将来の経済計画に従って産業別の雇用者数を計算し、
大学の学科別定員なども算出しているので、ある程度こうした現象にコントロ
ールはかけられる。

国際性はシンガポール経済における必然であり、あえて国内外を意識する必要
を感じていない。シンガポールに拠点があり経済活動をしている限り、地元資
本か外資かは関係がない。これは産学連携においても同様のスタンスである。

ただし、中小企業と大企業の区分は重要である。大企業と中小企業では必要と
する支援が異なる。
(2)海外企業向けインセンティブ

シンガポールにおいては、様々な財務奨励策、税制優遇策が取られている。こ
れらは必ずしも海外の企業のみを対象としているわけではないが、企業の国籍
を問わず、シンガポールに登記している企業であれば支援の対象となる。
表 2-1 財務奨励策(シンガポール登記企業(=外資企業でも可能)が対象)
スキーム
給付内容
支援対象
イノベーション開発スキ
助成金支給: 製品、プロセス、アプリケーシ
製品、プロセス、アプリケー
ー ム ( IDS: Innovation
ョンの技術革新を支援するために費用の一部
ションの技術革新に携わる
Development Scheme) を助成金として支給する。
適格プロジェクトの費用には、人材、設備、知
シンガポール登記企業を対
象とする。
的所有権、専門的サービスの費用が含まれる。
企業向け研究開発インセ
助成金支給:
研究開発センターの設立
研究開発事業活動を行うシ
ンティブ・スキーム(RISC:
and/or 先端技術分野における社内研究開発能
ンガポール登記企業を対象
Research
力推進のために費用の一部を助成金として支
とする。
Incentive
Scheme
for
Companies)
給する。
適格プロジェクトの費用には、人材、設備、知
的所有権、専門的サービスの費用が含まれる。
新 技 術 事 業 助 成 金
助成金支給: 新技術、産業用研究開発、専門
事業活動として新規能力の
(INTECH: Initiatives in
知識の応用における人材開発費用の一部を助
開発もしくは導入を行うシ
New Technology)
成金として支給する。
ンガポール登記企業を対象
とする。
表 2-2 税制優遇策
スキーム
優遇策
支援対象
製造業向けパイオニア・イ
適格事業活動による事業収益の免税
製造業
適格事業活動による事業収益の免税
サービス業
ンセンティブ
サービス業向けパイオニ
ア・インセンティブ
グローバル統括本部
III-72
開発・拡張インセンティブ
適格事業活動による増収分に対する減税(5%
製造業
( DEI:
または 10%)
サービス業
Development
and
Expansion
地域統括本部/国際統括本
Incentive)
部
知的所有権ハブ
投 資 引 当 金 ( IA:
資本控除 100%に加え、適格設備投資 30%も
製造業
Investment Allowance) しくは 50%控除
ホールディング・カンパニ
保有株数 50%以上、保有期間 18 ヶ月以上の
持ち株制度のある地域統括
ー認定税制(*注)
認定子会社の株式譲渡益の確保
本部/国際統括本部
財務管理センター・インセ
適格サービス・事業活動による収益、手数料、
財務管理センター
ンティブ(FTC: Finance
利息、配当に対する 5%もしくは 10%の減税
& Treasury Centre Tax
財務管理事業活動に充てる銀行融資・系列企業
Incentive)
融資利息に対する源泉徴収税の免除
認定ロイヤルティ・インセ
先端技術・知識の入手にかかるロイヤルティ費
製造業
ン テ ィ ブ ( ARI:
用に対し、源泉税率 0%もしくは 5%減税
知的所有権ハブ
認定海外ローン・インセン
生産設備導入費用借入金の融資利息について、
製造業
ティブ(AFL: Approved
源泉税率 0%、5%もしくは 10%減税
Approved
Royalties
Incentive)
Foreign Loan)
IP 買 収 による 損 金償 却
合法的かつ経済的な IPR の取得に対して償却期
(S19B)
間 5 年を認める
知的所有権ハブ
低価格で買収された IPR については EDB の認
可を要する
R&D コストシェアリング
R&D コストシェアリング費用に対して償却期
製造業
に よ る 損 金 償 却
間 1 年を認める
知的所有権ハブ
(S19C)
(*注)ホールディング・カンパニー認定税制は 2006 年 2 月 17 日に 5 年間の期限付きで制定された。申請
期間は 2011 年 2 月 16 日をもって終了。
(a)研究開発関連の所得税税額控除策
1)研究開発税額控除の概要

シンガポール国内で実施した研究開発の費用に関し、150%の税額控除

既存事業に関連のない分野も対象となる(新規事業立ち上げのための研究開発
等)

研究開発税額引当金: 研究開発への投資を奨励するための優遇税制。年間の
課税対象額のうち$300,000 までの 50%までの額を引当金として計上可能。
翌年に研究開発費が増加した場合、課税対象から相殺できる。

スタートアップ企業向け研究開発優遇策: 設立後 3 年までの研究開発集約的
スタートアップ企業であり、損失を計上した企業を対象にした制度。通常、損
III-73
失を計上している場合、税額控除の効果がないことから、損失分の一部額を給
付 金 と し て 優 遇 。 最 大 S$20,250 が 給 付 さ れ る 。 研 究 開 発 費 を 年 間
S$150,000 以上支出していることが条件。
2)研究開発税額控除の適用を受けるための条件

シンガポール国内で行っている研究開発であること

除外対象にあたらないこと(除外対象の例:品質管理や日常的な素材検査、社会学・人文学研究、機械的
なデータ収集、市場調査)

研究開発活動の種類、実施の理由、研究の性質が適格であること

研究開発活動の種類: 科学技術分野における体系的研究、調査、実験

実施の理由: 新たな知識の獲得、あるいは製品またはプロセスの創出・向上

研究の性質: 新たな製品やプロセスの創出・向上;技術的リスクを伴う
(b)海外企業の本部機能誘致方策“Headquarters Award”

シンガポールに企業の本部機能を誘致するための制度

シンガポールに本部設置後、
3~5 年間、
法人税の優遇税率 15%(通常は 17%)
が適用される。

雇用する技能職の割合・数、払込資本の額、役員の最低平均給与等の条件があ
る。
(3)シンガポールにおける産学連携

シンガポールは狭い国土(東京 23 区とほぼ同規模)に約 500 万人の国民を
擁する小国であり、資源も少ないことから、その産業はグローバルマーケット
で常に競争力をもっていることが必要である。したがって将来を見据えて主要
な産業を常に変化させてきた。
表 2-3 年代ごとの主要産業の変化
年代
時代背景及び主要産業
1960 年代

騒乱と経済不安定の時代。

GDP は低く、インフラや資本が不足の状態。

雇用創出のため労働集約型産業の誘致を開始。工業化計画は、衣類、繊維、玩具、木製品、
カツラの工場生産で開始。
1970 年代

技術集約型産業への移行。産業が急速に発展し、産業基盤が拡大。

コンピューター部品、コンピューター周辺機器、ソフトウェアパッケージ、シリコンウエ
ハーなども生産されるようになり、エレクトロニクス産業への新規投資や製品多様化へと
つながった。多国籍企業が研究開発業務を開始。

人材育成のために主に海外企業とのパートナーシップを構築。海外研修として若年労働者
の海外派遣等を実施。
III-74
1980 年代

資本集約型産業とハイテク産業の時代。

研究開発、工学設計、コンピューター・ソフトウェアサービスなどの知識集約型事業への
転換。EDB はパソコン、プリント基板、ディスクドライブの製造を重要な新興産業ととら
え、この分野の企業誘致に励んだ。
1990 年代

ハイテク産業のニーズに応えるため、日本、ドイツ、フランスと共同で技術学院を設立。

サービス産業が経済の第 2 の柱に。

企業は、バリューチェーンの向上を目指し、テクノロジーの利用を強化。

製造業は引き続き重要であり、EDB は、化学、エレクトロニクス、エンジニアリングとい
った主要産業をさらに重視。

医薬品、バイオテクノロジー、医療技術産業を含む、バイオメディカルサイエンス業界の
育成も開始。
2000 年代

イノベーション、知識、研究開発を重視。

知識・イノベーション集約型事業への関心を強化。

知的財産権の保護を強化してその法制度を整備した結果、現在、知的財産保護においてア
ジアでトップの地位を確立している。

国の研究開発政策に基づいた、国の研究・イノベーション戦略を策定、整備、実施するた
めに、2006 年、国家研究財団(NRF:National Research Foundation)を創設。こ
れまでのほとんどの研究開発は、環境・水資源技術、バイオメディカルサイエンス、イン
タラクティブ・デジタルメディアが中心。

2000 年代からは知識・イノベーション集約型事業に重点を置き始めた。研究
開発を推進するための制度やインフラの整備を進めてきている。

たとえばシンガポールにおける製薬関連の研究開発は、海外からも近年注目さ
れるようになっているが、まだ 10~12 年の歴史しか無い。産業としての発
展はまだまだこれからである。

こうした背景から、産学連携のキーワードとして「産業界へのレレバンス(関
連性)
」
、すなわち産業界でどれだけ活用可能な研究か、という視点が入ってき
た。

これまで主に製造業の人材輩出に力を入れてきたポリテクニックおよび ITE
(Institute of Technical Education;技術教育機構)でも、より知的な研究
開発に力をいれるようになってきている。一方で大学は 15 年ほど前から教育
のみならず研究開発に力をいれるようになってきた。

シンガポールの大学生がアメリカでインターンをするようなケースも相当あ
る。しかも経費を大学が支出していることもある。

大学等アカデミアの所管は教育省であるが、教育省であっても最終的な目的は
シンガポール経済へのインパクトを念頭においている。この点では EDB と教
育省で産学連携に関する対立はない。

シンガポール内には海外の大学の拠点が複数ある。例えばアメリカ・マサチュ
ーセッツ工科大学(MIT)やドイツ・ミュンヘン工科大学など。こうした大学
拠点があることも、国際的な産学連携を進めるためにはメリットがあるのかも
しれない。
III-75

シンガポールの大学の研究費は現在はほとんどが政府から支出されているが、
将来的には大学が自ら資金を獲得することを期待している。
III-76
2.2.2 Science and Engineering Research Council(SERC)
実施日時
2011 年 1 月 27 日(木)10:00~11:30
実施場所
Science and Engineering Research Council(SERC)-A*STAR
Fusionopolis, Coherence Room, Level 13, Connexis North Tower
1 Fusionopolis Way, Singapore 138632
対象者(敬称略)
SEAH Sim Yong, Assistant Head(Industry Development), SERC
HO Yew Wee, Head, Industry Development, SERC
LIM Yen Shi, Asssistant Head, SERC
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所 須崎
内容
A*STAR、SERC における国際産学連携について
受領資料
プレゼンテーション資料 「Agency for Science, Technology and Research
(A*STAR), Science and Engineering Research Council(SERC)
」
概要

海外の大企業との研究開発は、その研究成果や研究プロセスからシンガポールの中小企業の技術レベルを
底上げするという重要な貢献をしている。

2009 年度において A*STAR SERC 研究所では 245 の企業と 268 のプロジェクトで研究開発連携を
遂行した。連携企業には多くの多国籍かつ大規模な企業が含まれる。

SERC 傘下の研究所と企業との連携には、1)研究協力、2)研究所内ラボ、3)コンソーシアム及び官民
連携の 3 つの形態がある。

産学連携を高いレベルで進めていくために、良い研究(Good Science)を続けていくことは当然の前提
である。ただし、企業は特許やましてや論文には直接興味を示さない。企業が持っている課題をいかに解
決できるかこそが価値である。
III-77
(1)A*STAR および SERC について
A*STAR
Chairman: Mr Lim Chuan Poh
Managing Director: Prof. Low Teck Seng
JCO
SERC
(Science and
Engineering
Research
Council)
DSI, I2R,
ICES, IHPC,
IME, IMRE,
SIMTECH
(Joint Council
Office)
研究機関
BMRC
(Biomedical
Research
Council)
BII, BTI, GIS,
IBN, IMB,
IMCB, SICS
AGA
ETPL
(A*Star
Graduate
Academy)
(Exploit
Technologies
Pte Ltd)
研究機関数: 14
研究者数: 約2,200名
(出身国 50カ国以上)
図 2-2 ASTAR 組織図
(a)SERC のミッション

ミッション: 基礎研究及び応用研究から生じた知的・人的資本の活用により、
経済的価値を確保すること。

対外プログラムにおいては、特定テーマの能力を支援し、外部の経験を活用。

重点は、中期(5~10 年)から長期(10 年以上)の産業志向の研究開発。産
業向け研究開発能力の構築・強化・定着を図る。また、人的・知的・産業的資
本を開発することも重視している。

産業との協力においては、主に多国籍企業や中小企業との研究協力、技術ライ
センスを行っている。
(b)SERC 傘下の研究所

SERC には、7 つの研究所が設置されている。研究者数は 1,332 人おり、そ
のうち 819 人が博士号を有する。7 つの研究所は次の通り。
設立年
機関名
1989
Singapore Institute of Manufacturing Technology(SIMTech)
1991
Institute of Microelectronics(IME)
1996
Data Storage Institute(DSI)
1997
Institute of High Performance Computing(IHPC)
1997
Institute of Materials Research & Engineering(IMRE)
2002
Institute for Infocomm Reserch(I2R)
2002
Institute for Chemical & Engineering Sciences(ICES)
III-78
(c)A*STAR の概要

A*STAR は、シンガポールにおいて世界的な科学研究を振興し、活力のある
知識基盤経済に向けた人材を育成することに重点をおいた政府機関である。

A*STAR には、SERC(科学と工学)の他、バイオ系の BMRC という 2 つ
の研究会議(Research Council)があり、各研究会議に 7 つずつの研究所が
帰属している。合計約 2,200 人の研究者(その国籍は 50 カ国以上)が所属
している。

このように A*STAR では自前の研究者を抱えているが、アカデミア(大学)
や学生との共同研究も行っている。

学際的な研究の中には SERC と BMRC が共同で実施するプロジェクトもある。
SERC と BMRC の連携を促進するために A*STAR 内に Joint Council
Office(合同会議)を設けている。

知的財産については、A*STAR の技術開発セクションである ETPL(Exploit
Technologies Pte Ltd.)が管理する。SERC の研究所では、2009 年に 148
の特許出願及び 1,558 の論文が創出された。
(2)A*STAR SERC における産学連携

SERC 傘下の研究所と企業との連携には、1)研究協力、2)研究所内ラボ、3)
コンソーシアム及び官民連携の 3 つの形態がある。

研究協力
個別の A*STAR 研究所との特定のプロジェクトを実施するもの。

研究所内ラボ
A*STAR 研究所内に企業のラボを設置し、高額なラボ設置費用や各種施設投資をすることなく、すぐに研
究を開始できるメリットがある。

コンソーシアム及び官民連携
多くのエキスパートが関与する応用研究開発や技術ロードマップの作成などが含まれる。

研究所と企業が 1 対 1 で実施する共同研究等については、A*STAR 本部は介
入しない。

SERC 傘下の複数の研究所が関与するプロジェクトについては A*STAR 本部
が各研究所間の調整役を務める。

研究所は産業分野毎にまとまっており、学問分野毎に研究組織がつくられがち
な大学と異なる。この点では A*STAR の研究所のほうが産業界からアプロー
チがしやすいものと考えられる。
III-79
(a)研究協力の事例
1)事例:Alcatel-Lucent との協力

2009 年 6 月、SERC の Institute of Microelectronics(IME)と、
Alcatel-Lucent 社の研究部門である Bell Labs が、研究協力契約を締結。コ
スト効率の高い、次世代高データ速度通信ネットワークに向けた先進光通信技
術の開発を行う。
2)事例:Tera-Barrier Films における協力

2009 年 8 月 、 A*STAR の Institute of Materials Research and
Engineering(IMRE)から新たにスピンオフして設立された企業である
Tera-Barrier Films Pte Ltd は、Applied Materials 社のベンチャーキャピ
タ ル 部 門 ( ベ ン チ ャ ー フ ァ ン ド ) で あ る Applied Ventures, LLC が
Tera-Barrier Films 社に戦略的投資を行うことを発表。当該ファンドの活用に
より、有機太陽電池やフレキシブルディスプレイ等の製品寿命を大幅にに延長
できる、耐湿性薄膜の開発・製造を行う。
(b)研究所内ラボの事例

A*STAR の ICES(Institute for Chemical & Engineering Sciences)内に、
三井化学、Dystar Singapore Pte Ltd(繊維染色剤等の製造企業)
、Syngenta
Asia Pacific Pte Ltd(農薬製造、種苗育成等を行う企業)のラボを設置した
実績がある。

A*STAR の IMRE(Institute of Materials Research & Engineering)内に、
Zyvex Asia(精密機器の自動製造装置製造企業)、Quantum Precision
Instruments Asia Pte Ltd(ナノテクノロジーを使ったセンサー等の製造企
業)のラボを設置した実績がある。
(c)コンソーシアム及び官民連携の事例
1)事例:A*CAR Consortium

自動車産業と研究開発コミュニティが携わる、自動車研究における駆動関連技
術の進展・革新に向けたコンソーシアム。

自動車産業におけるシンガポールの世界的競争力の強化を図る。

技術向上及び人材育成を通した地域サプライヤー産業を育成する。

重点: 自動車の安全、インフォテイメント、エレクトロニクス、精密工学・
材料、電気自動車

参加企業: Bosch(自動車部品、システム等製造企業)
、Dou Yee(半導体、
III-80
データストレージ等製造企業)
、GP Batteries(電池製造企業)
、CEI、Infineon
(半導体等製造企業)
、Info Wave(情報通信技術企業)
、ST Kinetics(特殊
車両システム企業)
2)事例:Aerospace Consortium

イノベーション推進のため、シンガポールの航空宇宙産業と研究開発コミュニ
ティとを交流させるコンソーシアム。

産業と研究機関との研究開発協力を通して経常的に技術を投入することによ
り、地域の航空宇宙産業の競争力・成長を維持することを目的としている。

重点: 先進材料、計算モデリング・ダイナミックス、検査・非破壊試験、情
報通信、製造工程・自動化

参加企業: Boeing, Bombardier, EADS, Honeywell, Pratt & Whitney,
Rolls-Royce, SIA Engineering Company, ST Aerospace, Bodycote,
Rösler, Sonatest, Addvalue Technologies, Flight Focus, RESEM, Sunny
Instruments Singapore, TruMarine

参加研究機関: シンガポール国立大学、The University of Manchester,
Imperial College London, Nanyang Technological University, The
University of Warwick, Cranfield University
(3)国際的な産学連携について

2009 年度において A*STAR SERC 研究所では 245 の企業と 268 のプロ
ジェクトで研究開発連携を遂行した。連携企業には多くの多国籍かつ大規模な
企業が含まれる。

共同研究を行う相手企業についてはシンガポールの企業か他国籍の企業かで
違いはない。その企業がどれだけシンガポールの経済発展に貢献できるか、と
いう点で相手先を選んでいる。

シンガポールには多くの中小企業があり、これらの企業は国際水準で見ると技
術レベルが決して高くない。海外の大企業との研究開発は、その研究成果や研
究プロセスからシンガポールの中小企業の技術レベルを底上げするという重要
な貢献をしている。

政府(EDB;経済開発庁)が外国企業と A*STAR の仲介役となってくれるこ
とが多い。

産学連携先の中小企業(主に在シンガポールの企業)は共同研究について検討
することすらハードルが高いことが多いため、コンソーシアム等にできるだけ
参加しやすくなるよう心がけている。

シンガポールは、その地政学的なポジションから国際的なビジネス展開をする
企業、特にアジアでそのプレゼンスを高めたい企業には魅力的な拠点であると
III-81
考えている。外国企業や外国人が多いことも、海外企業が拠点をシンガポール
に設置しやすい要因だろう。
(4)研究の質・研究人材確保について

産学連携を高いレベルで進めていくために、良い研究(Good Science)を続
けていくことは当然の前提である。ただし、企業は特許やましてや論文には直
接興味を示さない。企業が持っている課題をいかに解決できるかこそが価値で
ある。

シンガポールでは必要な研究人材(PhD 保有者など)が不足しているため諸外
国から研究者をつれてくることが重要である。特に新しい分野の研究を開始す
るときには年間 3 ヶ月程度、当該分野で著名な大学研究者にシンガポールに滞
在してもらい、研究を指導してもらう。

才能ある人材を確保することが重要である。A*STAR では内部に Graduate
Academy という組織をもち、ここで海外を含めた有能な人材を研究教育機関
に呼び込むための奨学金等の施策を展開している。
(5)研究者の交流

A*STAR 研究者とアカデミアの交流として、大学の研究者に対して A*STAR
研究所の非常勤講師のポジションを提供している。これは大学で遂行されてい
る最先端の研究内容にキャッチアップすることが目的である。

産業界でのニーズを把握するために企業研究者との交流も重要である。企業の
研究者が A*STAR の研究者に転職することも多い。特に世界的な大企業の研
究者はグローバルな市場で転職を検討している。
III-82
表 2-4 参考:SERC 所管の研究所の産学連携事例
国
機関名
オーストラリ
BioChip
ア
Pte Ltd
時期
概要(分野等)
2007/2
シリコンナノワイヤ技術に基づく高
A*STAR
の連携機関
Innovations
IME
感度バイオチップの開発
EVG Group
2009/6
エレクトロニクスパッケージングに
IME
カナダ
Bombardier
2010/2
航空宇宙産業における設計・製造
SERC
中国
Shanghai
2009/6
エレクトロニクスパッケージングに
IME
関する研究開発。
Sinyang
Semiconductor
関する研究開発。
Materials Co Ltd
フィンランド
Silecs Oy
2009/6
エレクトロニクスパッケージングに
IME
関する研究開発。
フランス
Alcatel-Lucent
2009/6
次世代高データ速度通信ネットワー
IME
クのための先進工学研究
ドイツ
Bosch
2007/9
運転技術等の向上
SERC
Infineon
2009/9
自動車部門における技術推進・イノベ
SERC
ーション
Rsler
2010/2
航空宇宙
SERC
Water
2008/6
薄膜バイオリアクターの稼働を中心
IHPC
Maradin Technologies
2009/2
Siemens
technologies
イスラエル
とした流体力学研究所の設立
Ltd
携帯用の電磁気マイクロミラーデバ
IME
イスの共同開発
イタリア
Accent S. P. A
2009/2
ローパワーRF 機器開発
IME
日本
Unisantis
2007/12
世界初の 3 次元トランジスター開発
IME
旭硝子
2009/6
エレクトロニクスパッケージングに
IME
フジクラ
2007/12
次世代光学部品の開発
IME
富士通
2010/2
ペタスケールコンピューティングの
IME
Electronics
(Japan)Ltd
関する研究開発。
共同開発
Fujitsu Asia Ltd
2007/5
シンガポール初のストレージエリア
DSI
ネットワーク(SAN)アカデミー設
立
Hitachi Asia Ltd
2005/8
ハードディスクドライブのイノベー
DSI
ションに向けた研究開発
三井化学
NEC
2004/9
SCHOOT
2010/4
Components Corp
Panasonic
Electronic
複数の研究開発プロジェクトでの連
ICES
携
IMRE
ウェファー製造等、広範囲の分野に関
SERC
する研究開発
2008/6
Devices Co., Tld
ライフサイエンス応用向けプラット
フォーム技術の共同開発
III-83
IME
Seiko Instruments Inc
2010/4
ウェファー製造等、広範囲の分野に関
SERC
する研究開発
オランダ
Philips
2008/11
次世代テレビプログラムに関する連
I2R
携
Shell Hydrogen BV
2006/10
水素貯蔵における課題解決に重要と
ICES
なりうる新材料の性質に関する研究
European Aeronautic
シンガポール
2007/1
航空宇宙コンソーシアムでのレーザ
Defence and Space
ープロセシング、非破壊試験、先進ロ
Company(EADS)
ボティクスの研究
AddValue
SERC
2010/2
航空宇宙
SERC
2009/6
エレクトロニクスパッケージングに
IME
Technologies
ASM
Technology
Singapore Pte Ltd
CBL Data Recovery
関する研究開発。
2010/2
Technologies(S)Pte
新たなデータストレージメディアに
DSI
影響を与える問題への対応
Ltd
Charterd
2009/6
Semiconductor
エレクトロニクスパッケージングに
IME
関する研究開発。
Manufacturing Ltd
Chartered
2006/11
Semiconductor
ファインピッチパッケージング技術
SERC
の最適化
Manufacturing
Ciba
Chemicals
Specialty
2007/2
Industries
分析試験、製品開発、訓練プログラム
ICES
の支援
(Singapore)Pte Ltd
(Ciba)
Cubic Micro Design
2008/3
無線通信システムの広域的設置に必
IME
要となるRFトランシーバーブロック
の開発
Disco
Hi-tec
2009/6
Singapore Pte Ltd
Dou Yee
エレクトロニクスパッケージングに
IME
関する研究開発。
2008/9
自動車部門における技術推進・イノベ
SERC
ーション
EADS
Innovation
2008/2
航空宇宙技術
SERC
2010/4
ウェファー製造等、広範囲の分野に関
SERC
Works Singapore
EPCOS Pte Ltd
する研究開発
EVVO Media
2008/11
データマイニング技術等の開発
I2R
Finisar Corporation
2008/5
プラスチック製光ファイバー技術の
IME
共同開発
GLOBALFOUNDRIES
2007/10
Singapore Pte Ltd
GLOBALFOUNDRIES
貫通電極(TSV)パッケージングソ
IME
リューションの開発
2010/4
Singapore Pte Ltd
ウェファー製造等、広範囲の分野に関
する研究開発
III-84
SERC
Gluco
Stats
system
2009/5
Pte Ltd
非侵襲性血糖モニター機器を実現す
IME
る技術の開発
Health
STATS
2007/11
International Pte Ltd
Ibiden Singapore Pte
ワイヤレスシグナルコンディショニ
IME
ング ASIC の開発
2009/6
Ltd
エレクトロニクスパッケージングに
IME
関する研究開発。
IDI Laser Services
2008/2
航空宇宙技術
SERC
Infineon Technologies
2009/6
エレクトロニクスパッケージングに
IME
Asia Pacific Pte Ltd
Infineon Technologies
関する研究開発。
2008/5
Asia Pacific
無線通信、高速エレクトロニクス、電
IHPC
磁両立性等の研究
Kinergy Ltd
2009/6
エレクトロニクスパッケージングに
IME
関する研究開発。
Mediacorp
2007/1
Technologies Pte Ltd
Motorola
スケーラブル映像符号システムの研
I2R
究および導入
2008/11
次世代テレビプログラムに関する協
I2R
力
National
Instruments
2007/1
Singapore Pte Ltd
総合プロセスアナリティカルテクノ
ICES
ロジー(iPAT)の研究(新しい品質
保証・工程管理技術)
Nepes Pte Ltd
2009/6
NXP Semiconductors
2009/6
エレクトロニクスパッケージングに
IME
関する研究開発。
Singapore Pte Ltd
Oki
Techno
エレクトロニクスパッケージングに
IME
関する研究開発。
Centre
2007/4
RF トランシーバ IC の中核部分開発
IME
2008/11
次世代テレビプログラムに関する協
I2R
Singapore
PGK Media
力
Resem
Technologies
2009/2
Pte Ltd
航空宇宙技術(航空機機体の先進材料
SERC
等の開発)
Rofin-Baasel
2008/2
航空宇宙技術
SERC
2008/5
無線通信、高速エレクトロニクス、電
IHPC
Singapore
Rohde
&
Schwarz
Systems
and
磁両立性等の研究
Communications Asia
SiMEMS Pte Ltd
2008/2
シリコンナノワイヤ技術を基盤とし
IME
た高感度バイオチップの開発
SIA
Engineering
2008/2
航空宇宙技術
SERC
on
2010/4
ウェファー製造等、広範囲の分野に関
SERC
Company
Systems
Silicon
Manufacturing
する研究開発
Company Pte Ltd
Singapore
2008/5
Technologies Kinetics
無線通信、高速エレクトロニクス、電
磁両立性等の研究
III-85
IHPC
STATS ChipPAC Ltd
2007/10
貫通電極(TSV)パッケージングソ
IME
リューションの開発
ST
Electronics
(
Info-Comm
2008/5
無線通信、高速エレクトロニクス、電
IHPC
磁両立性等の研究
Systems)
Sumitomo
Bakelite
2009/6
Singapore Pte Ltd
Sunny
エレクトロニクスパッケージングに
IME
関する研究開発。
Instruments
2009/2
Singapore
航空宇宙技術(航空機機体の先進材料
SERC
等の開発)
Symmatrix Pte Ltd
2006/6
ネットワークストレージ製品の立ち
DSI
SysEng
2010/4
自動車技術
SERC
Tru-Marine Pte Ltd
2009/2
航空宇宙技術(航空機機体の先進材料
SERC
上げ
等の開発)
United
Test
and
2007/10
Assembly Center Ltd
Vestas
Technology
2008/5
R&D Singapore
Zentek Technology
貫通電極(TSV)パッケージングソ
SERC
リューションの開発
無線通信、高速エレクトロニクス、電
IHPC
磁両立性等の研究
2008/11
次世代テレビプログラムに阿kんす
I2R
る協力
スウェーデン
Radi Medical systems
台湾
UMC
2007/7
低消費電力、低電圧回路の試験
IME
2006/10
精密高周波数ノイズモデリングソリ
IME
A. B.
ューションの開発加速
スイス
Physical Logic – Bio
2006/11
MEMS の開発
IME
Bodycote
2010/2
航空宇宙技術
SERC
Rolls-Royce Group
2007/1
航空宇宙コンソーシアムでのレーザ
SERC
Research Pte Ltd
イギリス
ープロセシング、非破壊試験、先進ロ
ボティクスの研究
アメリカ
Sonatest Limited
2008/2
航空宇宙技術
SERC
Boeing
2007/1
航空宇宙コンソーシアムでのレーザ
SERC
ープロセシング、非破壊試験、先進ロ
ボティクスの研究
Brocade
2005/4
エンドユーザ及びソリューションプ
Communications
ロバイダー向けストレージエリアネ
Systems, Inc.
ットワーク(SAN)ソリューション
DSI
ラボ(SSL)の設立
Compass Technology
2009/6
Company Ltd
エレクトロニクスパッケージングに
IME
関する研究開発。
COPAN Systems
2007/11
Corning Incorporated
2006/4
ストレージシステムの省エネルギー
DSI
技術、効率化技術の研究
セラミクス等の素材の応用に関する
研究
III-86
ICES
Coventor Inc.
2010/4
ウェファー製造等、広範囲の分野に関
SERC
する研究開発
Finisar Corporation
2008/5
ストレージエリアネットワーク
DSI
(SAN)に関する教育・訓練の提供。
GT Industrial LLC Co.
2009/2
航空宇宙技術(航空機機体の先進材料
SERC
等の開発)
IPG Photonics
2009/2
Intellisense Software
2010/4
航空宇宙技術(航空機機体の先進材料
SERC
等の開発)
ウェファー製造等、広範囲の分野に関
SERC
する研究開発
Lightwire, Inc.
2006
超高速デバイス製造に向けたシリコ
IME
ン光通信技術の共同開発
Media Cart Ltd
2007/10
RFID を使ったショッピングカートの
IME
開発
PhotonIC Corporation
2009/8
エネルギー高効率高速光通信コンポ
IME
ーネントの開発
Pratt & Whitney
2007/1
航空宇宙コンソーシアムでのレーザ
SERC
ープロセシング、非破壊試験、先進ロ
ボティクスの研究
Tango systems Inc
2009/6
エレクトロニクスパッケージングに
IME
関する研究開発。
Tango systems Inc
2010/4
ウェファー製造等、広範囲の分野に関
する研究開発
III-87
SERC
2.2.3 Biomedical Research Council(BMRC)
実施日時
2011 年 1 月 27 日(木)11:40~12:40
実施場所
BMRC-Industry Partnership Office
Centros Building, #08-01, 20 Biopolis Way, Singapore 138668
対象者(敬称略)
CHIA Hsin Ee, Head, Singapore Institute for Clinical Services, BMRC
KOH Mingshi, Head, Governance, Planning & Strategy, BMRC
実施者
株式会社三菱総合研究所 須崎
内容
シンガポールにおけるバイオ分野の国際産学連携について
受領資料
なし
概要

BMRC 傘下の 7 つの研究所に所属する約 2,000 人の研究者のうち、外国人が約半数を占める。この分野
ではシンガポールが後発であることから、徐々に増えてきているとは言え国内だけではまだ人材が供給で
きない。

バイオ研究で重視されているキーワードは「レレバンス」である。アカデミックな研究内容が産業界のニ
ーズにいかに関連しているかという視点であり、商業化を見据えた研究評価の視点である。

シンガポールにおけるバイオ研究全体としては、ようやく研究の出口、すなわち産業界とのつながりを意
識し始めたところといえる。

バイオポリスのようなクラスターにおいて、セミナー等で関連する研究者との人的ネットワーク形成し、
自身の研究テーマに関心を持ってもらうという活動が重要である。
(1)BMRC の概要

Biomedical Research Council(BMRC)は、シンガポールにおける生物医
療分野の公的研究開発活動の支援、監督、調整を行う組織である。
(2)バイオ分野の研究開発の位置づけ

バイオメディカルサイエンスは、シンガポールにおける第 4 の産業の柱として
バイオ分野の研究開発戦略として、まず 2001 年~2005 年にかけて、生物
医療分野における基礎研究の基盤を整備した。研究施設、研究インフラを整備
した。続く 2006 年~2010 年では、第 2 フェーズとして、基礎研究能力を
引き続き構築していくと同時に、臨床研究及びトランスレーショナルリサーチ
の能力強化を図った。現在までに、治験、実験研究がようやく開始されたとい
うところである。また、重点領域におけるトランスレーショナルリサーチに重
点を置いたコンソーシアム・イニシアティブも開始した。これにより、生物医
学研究の戦略的領域において総合的な発展ができるよう、国内の資源を活用す
ることができる。さらに 2011 年~2015 年では、産業へのインパクトおよ
び国民の健康への貢献が期待されており、まさに産学連携を強力に推し進めて
III-88
いく必要がある時期に突入している。これまでの 10 年で培ってきた基盤を土
台とし、3 つの主要領域に焦点を置く。3 つの主要領域とは、
(1)経済的成果
拡大のための産業による参加拡大、(2)成長の見込みが高い、課題志向型
(mission-oriented)プログラムへの集中、
(3)シームレスな統合・トラン
スレーションを主な競争上の強み(competitive advantage)に、としてい
る。
臨床研究
バ
イ
医薬品
薬
創
オ
イ
メ
ー
ジ
医療技術
ン
グ
・バイオプロセシング
・バイオプロセシング
・創薬化学
・創薬化学
・ゲノミクス、プロテオミクス
・ゲノミクス、プロテオミクス
・分子生物学、細胞生物学
・分子生物学、細胞生物学
・バイオエンジニアリング・ナノテクノロジー
・バイオエンジニアリング・ナノテクノロジー
・計算生物学
・計算生物学
・免疫学
・免疫学
臨
床
胞 バイオテクノロジー
研
ヘルスケアサービス
細
究
及び
幹
及び
バイオロジックス
サービス提供
トランスレーショナルリサーチ
(3)BMRC 研究所の産学連携

国
BMRC 所管の研究所の産学連携事例
機関名
時期
概要(分野等)
A*STAR の連
携機関
オーストラリ
BioChip
Innovations
ア
Pte Ltd
ベルギー
GlaxoSmithKline
無血清バイオリアクタープロセスの
最適化
2009/1
Biologicals SA
中国
BTI
Shanghai
無血清バイオリアクタープロセスの
ETC
最適化
Bio
卵巣ガン研究
IMCB
Corporation
フランス
Humalys
2009/1
抗体を使った治療法の開発加速
SIgN
ドイツ
Carl Zeiss
2009/9
計測装置に関する人材育成および応
IBN
用支援
Siemens
Medical
2007/8
最新画像技術を使った臨床研究
BMRC
東京化成工業(株)
医薬品合成、創薬、医薬品製造に関す
IBN
( Tokyo
る新規触媒の開発
Solutions
日本
chemical
Industry Co.)
III-89
スイス
Cytos
腸内ウイルスの抗体開発等
SIgN
イギリス
GlaxoSmithKline
人工染色体工学システムを使った多
IMCB
Research
&
重遺伝子ターゲティング
Development Limited
アメリカ
Eli Lilly
タンパク質アルギニン-N-メチルトラ
IMCB
ンスフェラーゼの特性評価
サンプル作成、リアルタイム PCR を
IBN
行う小型デバイスの開発
国内連携(シ
Curiox
Biosystems
IBN における生物医療試験のための小
IBN
ンガポール企
Pte Ltd
型分析機の開発
Dyamed biotech Pte
疾病検出のための総合自動診断機器
IBN
Ltd
の開発
ETPL
スクリーニングに利用する化学ライ
ETC
業)
Forma Therapeutics
ブラリーの構築
Lilly Singapore Centre
2009/2
脳腫瘍幹細胞を利用した創薬
SICS
脳、異種移植腫瘍モデルにおける医薬
SBIC
for Drug Discovery
Merck & Co. Ltd
品の影響を画像化する定量的方法の
開発

Merlion Pharma
抗菌薬の研究
ETC
Olympus
組織画像技術の開発
IBN
具体的には SICS(シンガポール臨床科学研究所)における臨床研究、トラン
スレーショナル研究が積極的に展開されている。また、バイオ分野の特徴とし
て、医者と BMRC 研究所との共同研究が多いと感じる。

シンガポールにおけるバイオ研究全体としては、ようやく研究の出口、すなわ
ち産業界とのつながりを意識し始めたところといえる。一方、一般的な科学技
術分野を対象とする A*STAR SERC 所管の研究は随分成熟してきており、産
学連携の歴史も長い。

シンガポールにおけるバイオ研究を行う日本の機関として、バイオポリスに入
居している早稲田大学が存在感を示している。セミナー等いろいろな場面で顔
を出しているようだ。こうした人的ネットワーク形成の努力により自身の研究
テーマに関心を持ってもらうという活動の重要性を感じている。

理化学研究所も一時期存在感を示していたが、実際の共同研究の開始など、
「次
のステップ」には進めていないようである。特定の研究機関とつきあうよりも
アジア全体とオープンに付き合っていきたいとの意向もあると聞いているが、
詳細はわかっていない。

シンガポールにおけるバイオ分野の研究者として優れた人材が生まれつつあ
る。しかし研究ネットワークの形成が弱く、個人の研究力に頼っている状況と
認識している。

バイオ分野でパートナーシップを求めている企業(国籍問わず)はシンガポー
III-90
ルにたくさんある。こうした企業と A*STAR 研究所・研究者を橋渡しする役
割が必要であると痛感している。

現在のシンガポールにおけるバイオ研究で重視されているキーワードは「レレ
バンス」である。これは、アカデミックな研究内容が産業界のニーズにいかに
関連しているかという視点であり、商業化を見据えた研究評価の視点である。
この関連性をいかに高めていけるかというのが大きな課題になっている。

バイオ分野の研究は国際的な競争市場であり、国際的な研究コミュニティに対
してシンガポールの強さを示していかないと、特に国際的な大企業から相手に
してもらえない。

アカデミアの研究からスピンオフ創業するベンチャー企業は、シンガポールの
バイオ分野ではまだ成功例が非常に少ない。むしろ、既存の中小企業の技術レ
ベル、研究開発レベルをあげることをサポートするほうが有効だろうと考えて
いる。

BMRC 傘下の 7 つの研究所に所属する約 2,000 人の研究者のうち、外国人が
約半数を占める。この分野ではシンガポールが後発であることから国内だけで
人材が供給できない。ただし、最近はシンガポール出身の若い研究者が多数輩
出されてきている。
III-91
2.2.4 シンガポール国立大学(National University of Singapore:NUS)
実施日時
2011 年 1 月 28 日(金)16:00~17:30
実施場所
National University of Singapore, NUS Enterprise
21 Heng Mui Keng Terrace, Level 5
Singapore 119613
対象者(敬称略)
Tricia CHONG, Associate Director, Advance Materials, Industry Liaison Office
Cindy LIM, Manager, NUS Enterprise
Murugesan SETHU, Manager, Industry Liaison Office
SU Chun Wei, Manager, Industry Liaison Office
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所 須崎
内容
National University of Singapore における国際産学連携について
受領資料
An Overview of National University of Singapore
概要

シンガポール国立大学の産学連携窓口である NUS Enterprise 傘下に設置されている Industry Liaison
Office(ILO)には主に、
(1)企業との連絡窓口として産学連携の促進、
(2)知的財産の管理、商用化を
図る役割がある。

NUS の各研究所、研究センターでは、設立後 5 年間経過すると経済的に自立することが求められるため、
必然的に外部資金の獲得に熱心になり、そのひとつの手段として産学連携活動も熱心になる。

産学連携に熱心と思われる教員は全体の 20%程度である。残りの 80%の教員は、産学連携を大学から要
請されることで自身の研究を邪魔されたくない、という心理である。しかし、この 20%の教員で産学連
携の成功事例を積み上げていくことで、残りの 80%の教員にも産学連携の重要性が伝わっていくと考え
ている。

大学と企業を結びつける役割は ILO が担っているが、実際には政府機関である経済開発庁が企業(主に大
企業や国際的な企業)に大学を紹介してくれるケースが多い。

NUS の海外オフィスが国際的な産学連携開始の契機となることもある。

起業教育の一つとして、地元企業を対象とした集中インターンシップ(iLEAD; innovative Local
Enterprise Achievement Development)を実施している。これは、NUS の学生に地元のスタートア
ップ企業にインターンとして働き、シンガポールにおける起業家が直面している問題に触れる、という機
会を提供するものである。
(1)シンガポール国立大学(NUS)について

14 学部(faculty)
・スクール

研究所/研究センター: 94 カ所

大学事務局: 32 部署

学内学生寮: 10 カ所

教員数: 1,950 人

研究者数: 1,450 人
III-92

学生数:合計 約 31,200 人
 学部 約 24,100 人
 大学院 約 7,100 人

年間予算: 11 億シンガポールドル(約 715 億円)
(S$1 = 65 円で計算)

医学校(Medical School)
: 2校

大学ランキング(QS World University Rankings)
 世界第 31 位(2010 年)
 アジア第 3 位(2010 年)
(2)シンガポール国立大学(NUS)の産学連携窓口である NUS Enterprise について

NUS の学長の直下に配置されている、研究技術担当、学術担当、事務担当と
ならんで、NUS Enterprise の CEO が位置づけられている。
理事会
常任委員会
理事会
学長
評議会
学長代理
(研究・技術担当)
副学長
大学国際連
携担当

副学長
研究戦略担
当
学長代理 兼 学務部長
(学術担当)
副学務部長
教育担当
副学務部長
教育人事担
当
学長代理
(事務局担当)
副学長
人事担当
CEO
NUS Enterprise
副学長
キャンパス整
備担当
NUS Enterprise は、シンガポールの経済発展のために NUS の研究・自在リ
ソースを活用して企業活動を支援する役割を担っている。

NUS Enterprise 内部には、産業リエゾンオフィス(ILO)
、海外カレッジ、起
業センター、法人サービス、事業部門に分かれている。
III-93
NUS Enterprise
NUS 海外カ
レッジ
産業リエゾン
オフィス
NUS 起業セン
ター
法人サービ
ス
事業部門
- NUS Press
– NUS
Extension
(NEX) - NUS
Technology
Holdings
(NTH)
- Strategy &
Biz Dev
- MarComm
- Finance
- IT
Secretariat
(a)NUS Industry Liaison Office(ILO)の役割

ILO には主に、
(1)企業との連絡窓口として産学連携の促進、
(2)知的財産の
管理、商用化を図る役割がある。

企業との連絡窓口として以下の活動を行っている。
 企業との戦略的関係を築き研究協力しうる案件を特定する。
 教員や研究センターと密に連絡し NUS の専門的研究や知的財産類の最新状
況を常に把握する。
 外部との協力全般における交渉を主導的に実施する。

知的財産管理においては、知的財産を評価した上で保護し、活用し、産業に寄
与している。なお、NUS の研究成果のうち、より産業界に寄与できる可能性
を高めるために追加的な研究が必要なものもこのオフィスが探索する。

産学連携として、
「研究協力」
「受託研究」
「コンサルティング」の主に 3 つの
メニューが用意されている。各メニューの相違点は以下の通り。
研究協力
受託研究
コンサルティング
研究の性質
実用志向の研究
応用研究・開発
応用研究・開発
契約
企業・大学間での研究協力
企業・大学間での受託研究
企業・研究者間でのコンサ
契約(RCA)
契約(CRA)
ルティング契約(CA)
企業、大学、政府による共
企業および政府による資
企業による資金
同資金配分
金
研究種別
共同研究
共同研究または大学によ
知的財産所有権
大学または企業
資金配分、財源
研究者によるコンサルテ
る研究実施
ィング
企業
企業
制限付き/公表権なし
公表権なし
あるいは共同所有権
公表権
評価・保護の対象
III-94
補償(indemnity)
保証(warranty)
企 業 が 大 学 に 補 償
企 業 が 大 学 に 補 償
(indeminify*)
(indeminify)
大学からの保証はなし
大学からの保証はなし
研究者が補償・保証
場合によっては研究者が
保証する必要あり
*大学に何らかの損害等が生じた場合に、企業が大学の責任を免除し、損害等を補償。

海外カレッジは、アメリカ・スタンフォード大学、アメリカ・ペンシルベニア
大学、スウェーデン王立工科大学。ストックホルム商科大学、中国・上海商業
ハブ、中国・清華大学、インドハイテクハブなどにおいて、実験的に起業教育
を実施しているプログラムである。

起業センターは、起業教育、スタートアップ起業の支援、ハイテクイノベーシ
ョン、学術・応用研究、ベンチャー政策提言などを行っている。

法人サービスは Enterprise の戦略立案等を担当している。

事業部門では、ニュースリリース、公開講座、大学の研究シーズを利用した創
業支援会社(民間企業)などの各事業を担当している。
(3)NUS における産学連携について

NUS では 1992 年から当時 INTRO(Industry Technology & Relations
Office)というオフィスが工学部イノベーションセンターに設置されたのが、
産学連携の組織的支援の始まりである。

産学連携件数(概数)は 2008 年に累計 400 件だったものが 2011 年には
累計 700 件近くまで増加する見込みである。

産学連携に熱心と思われる教員は全体の 20%程度である。残りの 80%の教
員は、産学連携を大学から要請されることで自身の研究を邪魔されたくない、
という心理である。しかし、この 20%の教員で産学連携の成功事例を積み上
げていくことで、残りの 80%の教員にも産学連携の重要性が伝わっていくと
考えている。

現段階では教員評価の KPI(主要評価指標)として産学連携の活動を示す内容
は含まれていないが、含めるかどうか常に議論にはなっている。

NUS の各研究所、研究センターでは、設立後 5 年間経過すると経済的に自立
することが求められるため、必然的に外部資金の獲得に熱心になり、そのひと
つの手段として産学連携活動も熱心になる。

NUS の海外オフィスが国際的な産学連携開始の契機となることもある。例え
ば NUS の学生が開発したモバイルセキュリティソフトは、マカフィーや、マ
イクロソフトといった国際的な企業と共同開発プロジェクトになったが、これ
ら企業との最初のコンタクトは NUS の海外オフィスであった。

大学と企業を結びつける役割は ILO が担っているが、実際には政府機関である
経済開発庁が企業(主に大企業や国際的な企業)に大学を紹介してくれるケー
スが多い。また、シンガポールの中小企業とのパイプ役は同じ政府でも
III-95
SPRING が担当している。いずれの機関も大学とは異なり、産業別に組織が分
かれているため、大学から特定の業界にアプローチしたい場合にも連絡が取り
やすい。
(4)起業教育としてのインターンシッププログラム

起業教育としては前出の海外カレッジプログラムに加えて、地元企業を対象と
し た 集 中 イ ン タ ー ン シ ッ プ ( iLEAD; innovative Local Enterprise
Achievement Development)を実施している。これは、NUS の学生に地元
のスタートアップ企業にインターンとして働き、シンガポールにおける起業家
が直面している問題に触れる、という機会を提供するものである。

「iLEAD」プログラムでは、実践と理論との調和のとれた教育を実施している。
プログラム参加者は、柔軟に NUS のモジュール 2 つまでに登録することがで
きる。協力企業に対しては、1 週間の通常就業時間のうち 8 時間までの自由時
間に充てるよう強く推奨している。iLEAD の参加者には、技術系の起業を学ぶ
「Technopreneruship(TR)
」というモジュールの履修を強く勧めている。
 海外研修 Overseas Exposure
◇ 7 ヶ月半のインターシップの最終段階で、iLEAD 参加者は 2 週間の海外
研修に参加する。海外研修の目的は、様々なネットワーキングセッション
や企業訪問を通じて海外の起業文化に触れることである。
 プログラム修了後
◇ iLEAD で得た経験を通じ、参加者は起業家精神を養い、成熟した躍動感を
持った人物に成長するよう期待されている。NUS Enterprise では学生に
対し、起業家としての道を歩めるよう常に支援を行っている。

iLEAD プログラムを経験した卒業生は、プログラム参加中に他の参加者と築
いた強い絆を通じて、OB 会を結成している。こういったプログラム修了者も
シンガポールの起業家文化促進に寄与している。
(5)その他

優秀な研究者を獲得するためには、高い給与と十分な研究費をパッケージで提
供することが重要であるが、その見返りとして、NUS では後継者を育成する
ことを条件にしている。
III-96
2.2.5 NanoFrontier Pte Ltd
実施日時
2011 年 1 月 28 日(金)13:45~15:00
実施場所
NanoFrontier Pte Ltd
Innovation Centre Block 1, Unit 206, 16 Nanyang Drive, Singapore 637722
対象者(敬称略)
Ivan Goh, Business Manager, NanoFrontier Pte Ltd
Whye Kei, Director, Business Development(Future Health Care), Nanyang
Innovation & Enterprise Office(NIEO), Nanyang Technological University
実施者
株式会社三菱総合研究所 須崎
内容
NTU-NanoFrontier における国際産学連携について
受領資料
概要

NanoFrontier は、大学の研究者および施設を活用し、技術の商用化をビジネスの柱としている民間企業
であり、100%ナンヤン工科大学(NTU)が出資している。

最近になってナノテクからバイオメディカル分野に対象がシフトした。これは大学上層部の判断によるも
ので、2013 年に NTU にメディカルスクール設置されることもあり、今後は医工連携が重要と認識され
たためである。

EDB および SPRING と密接に連携しており、企業からの研究資金で不足する場合には追加的なプロジェ
クトファンド確保を支援する。

近年では、中国企業からの引合いが非常に増えている。インドも中国ほどではないが増えている。
(1)NanoFrontier Pte Ltd の概要

大学の研究リソース(専門家および施設)を活用し、技術の商用化をビジネス
の柱としている民間企業であり、100%ナンヤン工科大学(NTU)が出資し
ている。特にアーリーステージのナノテク技術を対象に、コンセプト証明
(POC)
、価値証明(POV)を必要とする企業向けのビジネスを 2004 年 10
月から展開してきた。

大学の研究者や研究グループによる委託研究・共同研究と、大学発技術を利用
したベンチャー企業のインキュベーションを展開してきた。

最近になってナノテクからバイオメディカル分野に対象がシフトした。これは
大学上層部の判断によるもので、2013 年に NTU にメディカルスクール設置
されることもあり、今後は医工連携が重要と認識されたためである。これから
は医療機器等の産業分野を見据えて活動することになるが、これまでの研究プ
ロジェクトの計画・マネジメントノウハウを最大限活用していく。
(2)NanoFrontier による産学連携支援

クライアント企業のニーズを発掘し、学内で最適な研究者・研究グループを見
III-97
つけ出し、成果、費用、スケジュールなどの観点でプロジェクト化を支援する。

EDB および SPRING と密接に連携しており、企業からの研究資金で不足する
場合には追加的なプロジェクトファンド確保を支援する。

NTU の研究リソースを用いたナノ分野の産学連携において、当社を介するこ
とは必須ではない。産業界と強いコネクションを持つ一部の研究者は直接企業
とやりとりをして研究を進めている。

研究によっては、実際に研究プロジェクトがスタートした後のプロジェクトマ
ネジメントも行う。

大学に対しては施設利用料を支払ってもらう。

クライアント企業は多国籍大企業も、中小規模のシンガポールの企業もある。
一般的に、中小企業では研究開発リソースが限られていることもあって、産学
連携に関しては失敗できないという態度・成果に過剰に期待するという傾向が
ある。一方で多国籍大企業では、通常潤沢な研究開発費用を持っており、はっ
きりした研究成果のイメージを予めもっていることが多い。

近年では、中国企業からの引合いが非常に増えている。インドも中国ほどでは
ないが増えている。

これまでの 18 ヶ月で 3~4 の国際的な企業から、および 2~3 の地域企業と
の委託研究・共同研究を実施した。

研究成果としての知的財産については、NIEO(Nanyang Innovation and
Enterprise Office)が管理する。大学と企業の共有が基本形だが、交渉によっ
て企業に独占実施権を認めることもある。大学への実施料収入は、50%が発明
者に、50%が大学本体に配分される。
III-98
2.2.6 シンガポール経営大学(Singapore Management University:SMU)
実施日時
2011 年 1 月 28 日(金)9:00~10:30
実施場所
Singapore Management University
Level 9, Room 9-2, 81 Victoria Street, Singapore 188065
対象者(敬称略)
Desai Narasimhalu, Director, Institute of Innovation and Entrepreneurship
Marcus Lee, Director, Institute of Service Excellence
Christopher Chow, Director, International Trading Institute
実施者
株式会社三菱総合研究所 須崎
内容
SMU における国際産学連携について
受領資料
Institute of Service Excellence at Singapore Management University(プレゼン
テーション資料)
SMU Institute of Innovation & Entrepreneurship(冊子)
概要

SMU で産業界、特に多国籍の大企業と連携を行っている理由はそこで得られた知見を最終的にシンガポ
ールの中小企業に伝えることで経営を改善し、シンガポール経済に貢献するためである。

SMU の Institute of Service Excellence(ISE)はサービス業のレベル向上のために設置された機関で、
ベンチマーキング及び比較分析、研究、産業界の関与の 3 つをキーフォーカスとしている。

ベンチマーキングにおいては、シンガポールの主要サービス企業(国籍は問わない)約 100 社の顧客満
足度についてアンケート調査、インタビュー調査などによるベンチマーキング調査を実施している。

産業界の関与としては、ISE は産業界で実際に活躍している人材との直接的な交流を重視しており、フォ
ーラム、対話、リーダーシップ研修・上級特別クラスなどの場で、企業経営の現実に触れる機会を多数用
意している。

SMU の Institute of Innovation and Entrepreneurship(IIE)は、学生および教職員がイノベーショ
ンや起業家文化を創出し、育成することを目的に設置された。また、発明者のアイディアの商業化を支援
する役割を担っている。

中小企業向けのインターンシップでは、学生が企業においてイノベーションプロセスを根付かせてくると
いうミッションも与えられており、学生・企業双方にとってのメリットがあるプログラムとなっている。
(1)SMU の概要

設立年: 2000 年

学科、教科: 6 つのスクールで構成。

School of Accountancy(会計学)

Lee Kong Chian School of Business(経営学)

School of Economics(経済学)

School of Information Systems(情報システム)

School of Law(法学)
III-99


School of Social Sciences(社会学)
Institutes: SMU には、全学横断的な活動を行う “institutes” が 6 つ設置
されている。教育・研究を行う組織、訓練を目的とした組織などがある。
名称
概要
Behavioural
Sciences
Institute(BSI)
様々な社会的・組織的・文化的状況における人間の行動に関する科学的知識の
創出、発信、応用を行う学際的な研究所。
Financial
Training
Institute
金融関連(コーポレートバンキング、ファンドマネジメント、プライベートエ
@SMU
クイティ等)の訓練・評価プログラムを実施する組織。
Capital
アジアにおける人的資本管理能力を高めることを目的に設立。シンガポール労
(FTI@SMU)
Human
Leadership
Institute
働省(Ministry of Manpower)が SMU と共同で設置した。
(HCLI)
Institute of Innovation &
SMU や社会全般にイノベーション文化、起業コミュニティを育てることを目
Entrepreneurship
的とした組織。
(詳細は後述)
Institute
of
Service
シンガポールにおけるサービスの水準の向上、優れたサービスの文化の振興を
Excellence at SMU(ISES) 目的に、Singapore Workforce Development Agency(WDA:雇用訓練
庁)と SMU が共同で設置。
International
Trading
貿易に関する教育・訓練を提供する組織。コンサルティングサービス等も提供
Institute @SMU(ITI)
している。大学内にこのような組織を設置するのは国内初。
Sim Kee Boon Institute
シンガポールや周辺国の経済に戦略的に重要な分野についての金融経済学、計
for Financial Economics
量経済学を推進する。金融経済学において産業に負うようでき、実務的側面を
at SMU(SKBI)
持つ学術研究を実施。

教員、学生数
 教員数: 293 人(フルタイム)
 学生数: 学部(undergraduate) 6,721 人、大学院(postgraduate)
615 人(2010 年 9 月時点)

学位:
 Undergraduate: Bachelor of Accountancy(BAcc)
、Bachelor of
Business Management(BBM)
、Bachelor of Science(Ecoomics)
、
Bachelor of Science(Information Systems Management)
、Bachelor
of Laws(LLB)
、Bachelor of Scocial Sciences(BSocSc)
 Postgraduate:
◇ 修士: Executive Master of Business Administration、Master of
Business Administration(MBA)
、
Master of IT in Business(Financial
Services)
、Master of Professional Accounting、Master of Science
in Applied Economics、Master of Science in Applied Finance、
Master of Science in Wealth Management、Master of Science in
Economics(Research)
、Master of Science in Finance(Research)
、
III-100
Master of Science in Management(Research)
、Master of Science
in Operations Management(Research)
◇ 博士: PhD in Economics、PhD in Information Systems、PhD in
Business(Finance)
、PhD in Business(OBHR)
、PhD in Psychology

特徴: シンガポール初の公立経営大学。教育方式は米国ペンシルバニア大学
の Wharton School をモデルにしている。
(2)SMU における産学連携について

産業界、特に多国籍の大企業と連携を行っている理由はそこで得られた知見を
最終的にシンガポールの中小企業に伝えることで経営を改善し、シンガポール
経済に貢献するためである。

近年では産業をバリューチェーンで捉えて個別の企業だけでなく業界全体の
付加価値を上げる戦略を検討するケースが多い。そのため、これまで以上に産
学連携の機会が増えてきている。

実務に近い学問分野であることから、産業との連携は大学にとって必然であり、
研究内容についても産業界に貢献できるものであることが必要である。教員の
多くは企業勤務の経験者である。また大企業の経営者にアドバイザーになって
もらっているケースも多い。

産学連携にあまり積極的ではない教員・研究者もいるが、大学としては研究の
自由確保の観点から無理強いはしていない。しかし大学が産業界とのつながり
を強く持っていることによりビジネススクールとして優秀な教員・研究者を呼
び込めていることも事実である。
(3)ISE(Institute of Service Excellence)における産学連携

ISE はシンガポールにおいて GDP の 75%弱を占めるサービス業のレベル向
上のために設置された機関で、以下の 3 つ(ベンチマーキング及び比較分析、
研究、産業界の関与)をキーフォーカスとしており、いずれも実際のサービス
業界との連携が重視された活動となっている。
 ベンチマーキングおよび比較分析
◇ シンガポールの主要サービス企業(国籍は問わない)約 100 社の顧客満
足度についてアンケート調査、インタビュー調査などによるベンチマーキ
ング調査を実施している。サービス業を交通、教育、金融、観光など 8 の
サブセクターに分類し、各社のスコア、各サブセクターのスコアを算出し
ている。
◇ これらの調査は国から研究費用を受けて実施し、実名入りで公開されてい
III-101
る。
 研究
◇ 学術研究やベンチマーキング調査で得た手法当を活用して、個別のサービ
ス業界の企業からの委託調査を実施している。
◇ 2008 年 4 月から 2011 年 1 月までの活動として、企業個別の顧客満足
度調査実績が 12 社、企業への定期レポート実績が 120 件である。
◇ 調査の方法も学術的な文献調査が主体のものから、エスノグラフィー(民
族誌)的なフィールドワークまで様々な手法が用いられており、常に新し
いサービス戦略や実践するためのアプローチを研究している。
 産業界の関与
◇ ISE は産業界で実際に活躍している人材との直接的な交流を重視しており、
フォーラム、対話、リーダーシップ研修・上級特別クラスなどの場で、企
業経営の現実に触れる機会を多数用意している。これは、産業界での知識
と SMU での研究の相乗効果を狙ったもので、企業経営者にサービス向上
という事業戦略を啓発し、最終的にシンガポールにおけるサービス業の発
展を図るためである。
◇ 定期的なフォーラム等を含む数多くのイベントが開催されており、研究
者・学生だけでなくサービス業界の関係者の交流という意味も大きく、産
学両方にメリットがある。
◇ 2008 年 4 月から 2011 年 1 月までの開催実績は以下の通りである。

国際会議:2 回

顧客満足度調査発表イベント:6 回

産業フォーラム/円卓会議:7 回

上級特別クラス:2 回

役員室プレゼンテーション:100 回

主要メディアによる報道:213 回

国際的な産学連携
◇ サポートの対象となるサービス業の企業の国籍は問わない。ただし、シン
ガポールで事業を行なっている起業でシンガポール経済に影響を与えてい
ることは必須である。
(4)Institute of Innovation and Entrepreneurship

Institute of Innovation and Entrepreneurship(IIE)の概要: IIE は、SMU
の学生、教職員が、コミュニティとの連携を通してイノベーションや起業家文
III-102
化を創出し、育成することを目的に設置された。また IIE は、発明者のアイデ
ィアの商業化を支援する役割を担っている。質が高く力強いスタートアップ企
業創出も目指している。

IIE は、その特徴・機能を「ASPIIRE」と表現している。これは、特徴の個別要
素の頭文字をとったもの。
A
Acceleration(加速 — ベンチャー企業のさらなる成長、海外進出等を支援)
S
Sandbox(滑り止め – 事業開始前の資金調達に有用となる試作品製作用の資金を支援)
P
Promotion(促進 – 起業関連のインターンシップ、交流会、研修等)
I
Incubation(インキュベーション – ベンチャー企業のインキュベータを運営)
I
IP Management Office(知財管理 – 学生や教職員の創出した知財の保護や運用)
R
Research(研究 – 共同研究開発の支援)
E
Education(教育 – 起業家を目指す者を対象に追加的に(通常の授業とは別に)教育・訓練を提供)

上記の「Research:研究」について、共同研究開発の形態には、主に次の 4
種類がある。
種別
概要
Academic Affiliate
国内外の高等教育機関との連携。連携相手先の教育機関の知的財産を商業化する。
Programme
Enterprise Affiliate
地元の大企業、政府系企業、多国籍企業等が会員となり会費を支払い、様々な特典を
享受できるプログラム。特典には、SMU の学生のインターンとしての雇用、著名人・
教員による講演・セミナー・会議等への参加、従業員の学位プログラムへの参加など
がある。
(享受できる特典は、会員の種別によって異なる。
)
SME Affiliate
主に中小企業が参加。SMU の学生がインターンとして中小企業に派遣される。
Research Affiliate
SMU に所属しない者で、新たに起業するアイディアと意思のある者が参加し、IIE の
ネットワークや支援を活用できるプログラム。事業開発、会計、投資家の紹介、市場
分析、資金調達等などの分野がある。
(5)SME Affiliate Program

シンガポールの中小企業向けに 5 日間のイノベーションマネジメント研修を
実 施 し て い る ( “Active Innovation Management ( AIM ) training
programme”)
。研修に必要な費用は政府から拠出されるため企業側の経済的
負担はない。非常に人気の高いプログラムであるが、質を保つために毎年 20
社にしか提供されないので、中小企業といっても極めて意識の高い企業のみが
その受講対象として選抜される。

中小企業向けのインターンシップも行っている。これは一般的なインターンシ
ップとは異なり、学生の企業での就労体験だけでなく、学生が企業においてイ
ノベーションプロセスを根付かせてくるというミッションも与えられており、
学生・企業双方にとってのメリットがあるプログラムである。市場調査を学ん
III-103
だ学生が最も効果が高いとされているが、
どのような学生でも参加申請できる。
(6)Enterprise Affiliate

大企業などを中心に優れた企業で本プログラムの意図に賛同する企業にはア
フィリエイトメンバーになってもらっている(例:P&G)
。
(7)その他

アフィリエイトコーナーという活動では、特定分野の技術や特許を保有するよ
うな発明に長けた研究者(シンガポールに限らず、イギリス、オーストラリア
など含む大学教授等)と、起業が得意な人材をマッチングする場を提供してい
る。これまでの 1 年半ほどの活動で、24 の起業にかかわり、約 50 のスター
トアップ企業への支援も行った。

「イノベーション・ラボ」では学生がチームを組み、企業のニーズを反映した
プロトタイプの制作を行い成果を競う。これまで 60 近くのプロジェクトが対
象となり、そのうち 5~6 のプロジェクトについては次の実証ステージに進む
という実際のビジネスと同じ開発過程を経験させている。
III-104
2.2.7 ナンヤン・ポリテクニック(Nanyang Polytechnic:NYP)
実施日時
2011 年 1 月 27 日(木)14:30~16:00
実施場所
Nanyang Polytechnic, Campus Centre, Blk A, Level 5
Meeting Room A.514
対象者(敬称略)
Edward Ho, Deputy Principal(Development)
Aik Meng Fong, Senior Consultant
Lexius Oh, irector, Industry Services
Valdew Singh, Director, Centre for Technoloy Innovation & Commercialization
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所 須崎
内容
Nanyang Polytechnic における国際産学連携について
受領資料
プレゼンテーション資料 “Window to Innovation & Enterprise @NYP”
概要

1980 年代はポリテクニックに進学する生徒は約 5%だったが、現在では 40%にまで増加している。

理事会やアドバイザリーコミティー経由で、産業界からのインプットがあり、産学協同プロジェクトなど
を通じた緊密な産学連携を実施している。

大学とは異なるポリテクニックとしては、産業界に役に立つことが証明できない研究は実施する意味が無
いと考えている。産学連携の目的は収益を得るためではなく、獲得した技術を主にシンガポールの中小企
業に伝承することにより、シンガポール企業の技術レベルの底上げを図ることである。

シンガポールの中小企業は、EDB が発行する研究開発バウチャーを利用して、NYP との共同研究を進め
ることもある。

国際的な企業(主に大企業)とシンガポールの企業(主に中小企業)は、NYP として特に区別して扱うこ
とはない。ただし、中小企業は研究開発に使えるリソースが限られているため、ニーズを聞き出したり、
共同研究の可能性を提案するために NYP 側からアプローチすることが多い。

大学ほど先端分野の研究をしない代わりに、産業界が現実に持っている課題を常に把握していないといけ
ない。そのスピードについていかないと、最先端の技術を持つ世界中の企業から相手にされなくなり、そ
こから得られた成果をシンガポールの企業に還元できない。

ポリテクニックにおける産学に近い教育・トレーニングを支えているのは、政府によって、様々なステー
ジ(試作品段階、POC(コンセプト証明)段階、POV(価値証明)段階、シードファンディング段階)
のファンディングである。これらは NRF(National Research Fund)や、A*Star 傘下で中小企業向け
機関の SPRING、教育省が提供しているものが多い。

シンガポールの企業は、価格競争ではすでに中国の企業に対して勝ち目がないことは明らかであり、例え
ばクリーン&グリーン技術など高付加価値技術の獲得に熱心になってきている。
(1)シンガポールにおけるポリテクニックの教育

ポリテクニック教育は、1950 年代にシンガポール産業化プログラムを支える
教育制度として誕生したもので、技術開発や急激に変化するシンガポール経済
に歩調を揃えている。1980 年代はポリテクニックに進学する生徒は約 5%だ
ったが、現在では 40%にまで増加している。
III-105

産業界で必要とされるマンパワーを養成することに焦点が当てられており、応
用・開発志向のトレーニングを実践している。通常は 2 年間で幅広い基礎を身
につけ、3 年目に特定分野について学ぶ。

理事会やアドバイザリーコミティー経由で、産業界からのインプットがあり、
産学協同プロジェクトなどを通じた緊密な産学連携を実施している。また、産
業界と業務を遂行するためのスタッフの能力開発も実施している。

シンガポールには 5 つのポリテクニックがあり、合計約 72,000 人が学んで
いる。通常のディプロマは 3 年のフルタイムで得られるが、パートタイムで 1
~4 年の様々な期間で学習できるプログラムがある。

ポリテクニック毎に多少の相違はあるが、主な教育分野は以下のとおり
1.工学
2.IT&通信
3.建造環境(built environment)
4.ビジネス・金融
5.化学・ライフサイエンス
6.健康科学
7.メディア
8.デザイン
9・海洋科学
10.人文化学

ポリテクニックの教育・トレーニングレベルは相当向上している。最近は PhD
を保有する教員が増えていることもその現れである
(以前はいなかった)
。
また、
ポリテクニック卒業後、海外の大学に進学する者もいるが、1 年目は免除にな
ることが多い(場合によっては 2 年目も免除になるケースもある)
。ポリテク
ニック卒業後、シンガポールの大学に進学する者はわずかだが、エンジニアリ
ング等の基礎知識やツール使用経験があるため、他の学生よりも優秀と評価さ
れているようである。
(2)NYP おける教育

NYP には 3 つの大きな役割があり、その一つが産学連携である。

教育・トレーニング
 産業界の現実の環境を再現した教育・トレーニング
 知識の補強・スキルセットの向上

産学連携・パートナーシップ
 産業界においてイノベーションを促進し、課題解決能力を先鋭化させる
 高付加価値サービス、カスタマイズされた課題解決の提供
III-106

人材能力開発
 人材・技術に投資して、産業界で必要とされている研究を続ける

NYP には、7 つのスクールがあり、45 種類のフルタイムディプロマ、15,000
人のフルタイムの学生、1,350 人のフルタイムのスタッフがいる。

シンガポール経済の変化に合わせて、教育内容も変化してきた。具体的には、
設立当初の精密工学から、応用製造技術・電機・IT、情報通信・デザイン、バ
イオ・化学・製薬・デジタルメディア、ナノテク・生物学・デジタル精密製造
技術と新しい分野に進んでいる。

教育分野の内容及び量(時間)については、政府により厳密に管理されており、
学校側の裁量は少ない。政府が経済予測・計画に照らした産業分野毎の就業数
予測をたて、そのために必要な分野毎の学生の数がマクロ的に決められる。ま
た、政府の方針で産業のシフトが計画されると、既存の仕事につく者が新しい
産業に就けるよう、
ポリテクでの特別コンバージョンプログラムが計画される。

NYP には分野毎に合計 30 以上の技術センターやラボがあり、学術研究から
生まれた成果を産業界が望む商業化につなげるために、特定の企業向けの試作
品制作などを行っている。

一方、クラスターコミュニティーでは、技術開発からマーケットまでのバリュ
ーチェーンで見た技術開発を複数の企業メンバーとともに進めている。
例えば、
IT のセンター(Centre for IT Innovation; CITI)では、マイクロソフト、IBM、
オラクルなど国際企業に加え、シンガポールの地元企業や、政府機関、金融機
関などもメンバーとなっている。
(3)
NYP の産学連携について

創立者の一人が EDB(経済開発庁)出身ということもあり、最終的にはシン
ガポール経済に貢献することが NYP の役割である。そのためポリテクニック
設立の目的の一つに産学連携が掲げられており、当たり前のミッションとして
認識されている。基礎研究も対象となる大学とは異なり、産業界に役に立つこ
とが証明できない研究は NYP では実施する意味が無い。

産学連携の目的は収益を得るためではなく、産業界の具体的な課題解決のため
のチャレンジを通じて技術を獲得し、その技術をシンガポールの主として中小
企業に伝承することにより、シンガポール企業の技術レベルの底上げを図るこ
とであるといえる。したがって、どんな共同研究のオファーも受けるわけでは
なく、パートナーや案件の内容を精査して選定する。

これまで手がけていない分野の研究に進出する場合には、その分野に通じた企
業にパートナーになってもらって研究を開始することが多い。

シンガポールの中小企業は、
EDB が発行する研究開発バウチャーを利用して、
NYP との共同研究を進めることもある。
III-107

ポリテクニックにおける産学に近い教育・トレーニングを支えているのは、政
府によって、様々なステージ(試作品段階、POC(コンセプト証明)段階、
POV(価値証明)段階、シードファンディング段階)のファンディングである。
これらは NRF(National Research Fund)や、A*Star 傘下で中小企業向
け機関の SPRING、教育省が提供しているものが多い。特に NRF の POC は、
大学であるかポリテクニックであるかに関係なく優れたテーマにしか提供され
ないが、NYP ではこれを 2 年連続で獲得しており、研究レベルの高さを物語
っている。
(4)
国際的な産学連携について

国際的な企業(主に大企業)とシンガポールの企業(主に中小企業)は、NYP
として特に区別して扱うことはない。ただし、企業の規模で見て、中小企業は
研究開発に使えるリソースが限られているため、ニーズを聞き出したり、共同
研究の可能性を提案するために NYP 側からアプローチすることが多い。もっ
とも、企業へのアプローチは NYP が一から行うわけではなく、企業のニーズ
情報に長けた EDB(経済開発庁)が具体的な企業の紹介や、企業間の連携の
仲介役を果たすことも多い。

大学ほど先端分野の研究をしない代わりに、産業界が現実に持っている課題を
常に把握していないといけない。IT 産業など変化が早い分野はなおさらである。
そのスピードについていかないと、最先端の技術を持つ世界中の企業から相手
にされなくなり、
そこから得られた成果をシンガポールの企業に還元できない。

シンガポールの企業は、価格競争ではすでに中国の企業に対して勝ち目がない
ことは明らかであり、例えばクリーン&グリーン技術など高付加価値技術の獲
得に熱心になってきている。
(5)
その他

研究人材として、例えば PhD 保有者はシンガポール全体で必要な数を賄えて
おらず、外国から来てもらっているのが現状である。

シンガポールが国として研究開発に重みを置くようになったのは最近であり、
やっと研究インフラが整ってきたという段階である。例えば海外企業の研究開
発拠点をシンガポールに誘致するための方策など、今後、知識ベース経済を進
める中で研究開発をどう位置づけていくかが課題である。

シンガポールではポリテクニックのレベルが上がっているため、逆に大学に対
してアカデミアとしてのより先端的な研究での強さを示すことが求められてき
ている。
III-108
2.2.8 Fujitsu Asia Pte Ltd
実施日時
2011 年 1 月 28 日(金)18:00~19:00
実施場所
Fujitsu Asia Pte Ltd,
31 Biopolis Way, #02-25 Nanos, Singapore 138669
対象者(敬称略)
Fujitsu Laboratories and R&D Division 藤田 省三
実施者
株式会社三菱総合研究所 須崎
内容
富士通における国際産学連携について -シンガポール・A*STAR 研究所
受領資料
(なし)
概要

モノクローナル抗体の代替をめざして自社開発した修飾型 DNA アプタマーの基本技術をベースに、シン
ガポールにラボを移転し、当地の研究機関との共同研究ならびに事業開拓を進めている。現在は具体的な
研究機関との共同研究が締結され、共同作業が開始された段階である。

連携先の研究機関の選定にあたっては、研究機関の所在ではなく、まず当方の望む基本技術の強化に資す
る成果が得られそうかという点を重視した。

海外の研究者を訪問して話をすると、当方に実績があるかないかに係わらず、着想が面白ければ、その技
術と組み合わせた応用研究や実用化の可能性について話が広がる。日本の研究者の場合、このような幅の
広がる議論ができない人が多いという印象がある。
(1)当該研究機関との産学連携の経緯

モノクローナル抗体の代替をめざして自社で開発してきた修飾型 DNA アプタ
マーの基盤技術が整い、研究開発と並行して事業開拓を進めるフェーズに入っ
ている。

日本にあったラボをシンガポールに移転し、シンガポールの研究機関との共同
研究、ならびに日本とシンガポールでの事業開拓をめざした活動をしている。
基盤技術にある程度目処が立ったため、新しい研究パートナーを見つけて実用
化に近づけるための共同研究を行なうことを考えていたものである。

新しい研究パートナーは広く海外を含めて検討してきた。すでに、シンガポー
ル(A*STAR)側が我々の新しい技術に対して強い関心を示し、共同研究をス
タートしていたことから、人脈形成などが進んでおり、その後シンガポールへ
の進出を選んだ大きな要因の一つとなった。

我々の技術の具体的な内容は、アミノ酸を共有結合させた DNA を素材として、
モノクローナル抗体に代わる分子プローブを開発するものである。診断薬など
に応用することを想定し、国内ではトライアルの受託開発ビジネスを開始して
いる。シンガポールでは、当面、A*STAR 研究機関との共同研究という位置
づけであるが、近い将来、受託開発ビジネスをシンガポールでも展開したい。

シンガポールでは、A*STAR 配下の多くの研究機関によりバイオ分野の研究
III-109
開発が進められており、研究成果の蓄積も増えてきている。研究成果を活用し
てビジネスにいかに繋げていくかが、シンガポールでは重視され始めている。
我々の技術は、研究機関の基礎研究の成果を応用する過程を支援するツールと
なると考えている。

具体的な研究機関との共同研究のフレームワークはすでに合意されており、ラ
ボの立ち上げを行ってきた。共同研究の契約面での交渉も終わっている。

数年以内には、事業化の可否を判断できる段階に進むことをめざしている。

研究実務を担当するもの(PI 以外)は今後、シンガポールで採用する予定だが、
シンガポール国内での研究人材の獲得は今後の課題である。シンガポールでは
雇用が流動的で、事業の展開縮小に応じて雇用を調整することができる。事業
立ち上げフェーズでは重要な要件であると考えている。
(2)当該研究機関との産学連携の評価

共同研究先には、シンガポール政府側が費用を支出している。費用は A*STAR
ETPL(Exploit Technologies Pte Ltd)が拠出元と認識している。公的な研
究ファンドであるが、
その募集はいつでも応募できるフレキシビリティがあり、
意思決定のスピードが高い点が評価できる。

一方で契約内容の調整は日本と同様に慎重に時間をかけて進められる印象で
ある。

連携先の研究機関の選定にあたっては、当方の有する基盤技術の強化につなが
る成果が得られそうかという点を重視した。
研究機関の所在は重視しなかった。

日本の大学や公的機関の研究者は専門分野を深めていくことは得意であるが、
例えば他分野とのコラボレーションや、学際的な研究に展開していくことはあ
まり得意でないという印象を受けている。

シンガポールは小国で資源もないため、変化に適応しないと生き残れないとい
う切迫感が国全体に高く、研究展開に対しても意欲的な試みがどんどん進めら
れている。バイオ分野への研究投資は 2003 年のバイオポリス設置で加速さ
れ、現在では世界的な認知度が高い。これまで投入した研究資金を回収するた
めの実用化の推進が今後の課題である。
(3)産学連携を促進/阻害する外部環境

ラボの移転で研究機器を日本から輸出する際、シンガポールがホワイト国(規
制対象の例外となる国)ではないため、外国為替及び外国貿易法(第 48 条等)
の手続きが複雑だった。研究装置によっては、法令解釈の上で規制対象になる
懸念があったため、輸出を断念してシンガポールで新規購入した例がある。た
だし、シンガポールでは研究機器は全て海外からの輸入品である。

共同研究で生じる知的財産は、想定するビジネスの足かせにならないことが重
III-110
要である。シンガポールとの共同研究交渉では、当方のビジネススキームに合
致する形で成果を切り分けることで合意ができた。知的財産の帰属をめぐる交
渉において、A*STAR は柔軟に交渉に応じるという姿勢であった。
(4)その他

海外の研究者を訪問して話をすると、当方に実績があるかないかに係わらず、
着想が面白ければ、その技術と組み合わせた応用研究や実用化の可能性につい
て話が広がる。日本の研究者の場合、このような幅の広がる議論ができない人
が多いという印象がある。
III-111
2.2.9 早稲田大学研究戦略センター
実施日時
2011 年 12 月 21 日(月)10:00~12:00
実施場所
早稲田大学研究戦略センター
対象者(敬称略)
研究戦略センター:石山所長、松永、丸山
産学官研究推進センター:山本課長
研究推進部:酒匂
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所:森、須崎、大木
内容
シンガポールにおける国際産学連携について
受領資料
シンガポールにおける早稲田大学の活動状況(仮題)
Waseda BioScience Research Institute in Singapore(WABIOS)
世界的な「研究大学」へ―早稲田の挑戦(トライ)を演出する頭脳集団
世界的な R&D 拠点としてのシンガポール
概要

シンガポールはアジアの教育・産業・研究のハブとして、企業は勿論、大学も含めて世界中から先端知が
集まっており、先端情報の集積および連携の場となっていることが最大の魅力である。

研究インフラや医療機関との連携等、政府の支援政策が充実しており、また施策の決定等にスピード感が
ある一方、施策の方向性が政府方針により容易に変更されるなど、進出する際に留意すべき点がある。

国内大学が海外企業と連携する際には知財管理や安全保障貿易管理等の面で方針や制度が十分に整備され
ているとは言い難い面がある。国際産学連携について政府としての統一的な方針が示されれば大学として
は処理が容易になるが、画一対応になることも危惧される。
(1)早稲田大学のシンガポールの活動経緯

早稲田大学では「教育・研究のグローバル化推進」を中長期的な優先課題とし
て掲げており、シンガポールの研究拠点化もその一環として進めている。

バイオポリスへの誘致がシンガポール政府から直接大学(当時の白井総長、初
代 WOBRI 研究所長となる吉岡教授)にあったことが契機である。

進出に際し、大学独自で現地調査を実施した後、2004 年 7 月にオリンパス
(株)と共同で早稲田・オリンパスバイオサイエンス研究所 WOBRI(Waseda
Olympus Bioscience Research Institute)を開設した。2009 年 9 月から
は、WOBRI の後継となる、早稲田大学単独の研究所 WABIOS(WASEDA
Bioscience Research Institute in Singapore)52を設置した。

別途、アジア進出に関する研究体制整備として、科学技術振興調整費:アジア・
アフリカ科学技術協力の戦略的推進(国際共同研究の推進)53も活用した。こ
の科学技術調整費は当初は「中国・インド」
「情報通信」がテーマであったため、
52
53
http://www.waseda.jp/WABIOS/index_ja.html
「階層別分子動態可視化のための先端技術」
III-112
「なぜシンガポール」
「なぜバイオ」という反応が当初あった。

ただし、実験を含めた研究活動を実質的に行っている研究所を(シンガポール
に限らず)海外に常設したのは日本で初めての事例である。日本からは、理化
学研究所や情報通信研究機構がオフィスを出している他、慶應義塾大学が IT 分
野でシンガポールに進出しているが、現在でも早稲田のようなラボは他にない
のではないか。

シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)との間で研究者および学生の交流を
促進する旨の Memorandum of Intent(MOI)を締結し、A*STAR の研究
者と早稲田大学の学生を交換する等にも取り組んでいる。

現在は、シンガポールに進出している米国 Duke 大学、シンガポール国立大学
(NUS)とともに医学系大学院構想の実現を目指して大学間連携を行っている。
またデンマーク系のベスタス社はアジアの研究開発拠点をシンガポールに設置
しており、本学と NDA を締結し、産学連携の可能性(アジアにおける風力発
電展開の足がかりではないかと推測)を探っている。

このようにシンガポールの大学・企業に限らず、シンガポールに集まる世界中
の大学や企業と連携する場となっていることがシンガポールに大学、企業研究
所が進出する最大の理由である。最近はインドが医薬品分野に関心をもってい
る等、シンガポールにアジア各国の情報が集まってくる。
(2)シンガポールに進出する理由、メリット

シンガポール政府のバックアップ体制、整備された研究インフラ、医療機関と
の連携の容易さ、世界中からの人材集中と研究材料の入手可能性、英語が共通
語、といったメリットが挙げられる。
(入手資料に記載)

シンガポール政府の施策の決定はスピード感がある。ただ、その裏返しとして
施策の方向性が急転換することがあり、注意が必要である。具体例として、本
学が研究テーマをシンガポール政府に提案した際、事前の情報収集の際は「基
礎研究」であったはずが、
「エンジニアリング研究」に変更されていた例があっ
た。

実際、シンガポールに進出した企業ラボが、その後の政策転換もあり、クロー
ズしている例が複数ある。本学の一緒に進出したオリンパスも、研究所は残し
ているものの、人員は撤退した54。海外の例では、ジョンズ・ホプキンス大学
(JHU)がシンガポールに進出するはずであったが最終的には撤退した。この
背景には米国から見ればシンガポールが遠く、研究者がシンガポールに来るの
を嫌がったことが要因と聞いた。シンガポールへの進出は、組織として戦略的
なビジョンが必要である。
54
オリンパスの撤退した理由は不明だが、バイオポリスでオリンパスの最新の研究設備をアピールするという目標を達成で
きたという判断があったのかもしれない。
III-113

経済開発庁(EDB)等からの研究ファンディングは最近成果に厳しくなってい
る。いまでは四半期毎に報告書提出が求められる。

シンガポールは雇用創出のため、海外から外資を呼び込むため様々な優遇措置
を実施している55,56。ただ他国と比べて決定的な優遇策という感はない。大学
である本学の場合、
A*STAR からの研究助成があること等がメリットである。
A*STAR の研究助成は、課題公募型で申請するものである。事前にどのよう
な課題・テーマが適当か事前にインタビューがあり、研究代表者等の大枠があ
る程度決まった形で公募される。
(3)早稲田大学における国際産学連携の取組、課題

研究推進部、産学官推進センター、研究戦略センターの 3 つの部署が設置され
ている。
研究推進部
大学の管理部門の組織、多くの職員を配置、獲得した外部資金の管理、チェックを実
施。
産学官推進センター
産学官連携の活動が見えるように設置した組織、研究推進部の外局
研究戦略センター
教員組織

日本の知財を海外に移転してよいのか、またそれを一大学で決めてよいのかが
懸念されている。
国としての戦略があると確かに大学としては判断が楽である。
いまは本学には海外企業との連携に対する方針は今のところ無い。国内企業と
同じ条件である。教員の意向に依存している。

海外企業との直接の連携は難しい。大学として付き合いやすい企業とは連携し
ている。例えば、欧州の FP7 関連では連携している。一方、アジアは相手企
業が良く分からないことも多く、直接企業と契約することに躊躇してしまう。
相手国の大学と連携し、そこと連携している企業と連携する、というワンクッ
ションが必要と考えている。実際、中国企業とは中国系の NGO を挟む形で連
携するようにしている。
(4)安全保障貿易管理の取組

安全保障貿易管理については、2010 年 8 月に内規を作成した。国立大学で
はもっと早い時期に規定を作成しているのではないか。各大学では内部的な運
用方法を独自に設定しており、大学間の勉強会等を実施している。
55
シンガポールでは外国企業の誘致や産業振興を図る目的で様々な優遇措置が設けられている。これらの優遇措置は所得税
法( Income Tax Act )および経済拡大奨励法( Economic Expansion Incentives Act )に規定されており、そのうち
製造・サービス業を対象とした優遇措置の主な管轄当局は経済開発庁(EDB)である。
(出所:JETRO ウェブサイト[http://www.jetro.go.jp/world/asia/sg/invest_04/]
56
法人税制をはじめとして、シンガポールを拠点として海外展開を目指す内外企業に対して、多種多様な優遇措置と国際的
に競争力を高めるビジネス環境が整備されている。
(出所:JETRO ウェブサイト
[http://www.jetro.go.jp/world/asia/sg/invest_03/#block2])
III-114

シンガポールとは 8 月から運用を開始した。送付物のリストを事前に日本に送
付してもらい、該非判定書を元にチェックしている。

留学生については志願者について禁輸国、ユーザリストに該当しているかどう
かをチェックしている。

安全保障貿易管理に対応するため、企業から輸出管理系の専門人材を招聘して
いる。任期付常勤職員である。

現在、先生方の教育も行っている。

大学で国際産学連携をする場合の学内チェックリストのような機能は必要で
あり、戦略展開プログラムの 14 大学では当該機能を有している。
(5)国際産学連携に必要な政府の支援等

複数の大学が連携して国際連携をバックアップする体制も必要かもしれない。

知的財産についても、大学に残すのか、企業に提供するかは大学により、また
個別ケースにより方針が異なる。本学の場合は、国際産学連携で生じた知的財
産出願・維持管理については、その分野や展開する国の状況を考慮しながら、
柔軟かつ慎重に対応している。国全体として統一的なルールがあれば処理は容
易になるが、それは企業との連携が硬直的になるという悪い面もある。

国内の大学が海外で特許を取り、日本企業が海外でそれを使用する形態が望ま
しいとは思う。国内企業は日本の大学ではなく海外大学ばかりを見ているが、
日本の国益を考えた戦略を考え国内の大学の積極的活用を図る必要がある。
III-115
2.2.10 早稲田大学 WABIOS
実施日時
2011 年 1 月 25 日(火)15:00~16:00
実施場所
Waseda University Branch Office Singapore
Waseda Bioscience Research Institute in Singapore(WABIOS)
シンガポール バイオポリス Helios 棟
対象者(敬称略)
早稲田大学 国際部国際課
リージョナルマネージャー(東南・南アジア地域) 玉田 正樹
WASEDA Bioscience Research Institute In Singapore(WABIOS)
Principal Investigator, Associate Professor 酒井 宏水
Principal Investigator 鈴木 団
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所 須崎 彩斗、山野 宏太郎
内容
国際産学連携について
受領資料
概要

早稲田大学は「アジアの中の日本」を意識し、アジア諸国との連携強化をミッションとしている。研究・
教育機関として、ナンヤン工科大学とのダブル MBA プログラム、WABIOS におけるバイオ関連研究など、
アジアにおける存在感を高めている。

WABIOS におけるテーマとして、Neuroscience, Mechanobiology, Artificial red cell の研究を実施し
ている。Artificial red cells については、将来的には製薬会社と連携して実用化したいと考えている。

シンガポールの企業とも連携をして実用化できるようにしたいと考えている。

シンガポール政府からの研究資金も出口・応用に近い領域へシフトしているので、企業との連携は、ます
ます重要になっている。

A*STAR から WABIOS 経由で日本の早稲田大学の研究者紹介を依頼されることがある。

政府の対応が迅速なのは良いが、やや性急に過ぎるという面もある。短期間で大幅に方針を変えてしまう
ことがある。
(1)開始の背景

2003 年にシンガポール政府から早稲田大学に対し、シンガポールに研究所を
設置することの勧誘があった。2004 年に日本の企業との共同研究所(企業)
として 5 年契約で発足した。2009 年 3 月末でこの共同研究は終了したが、
2009 年 9 月より早稲田大学が単独で WABIOS を設立し、Neuroscience
のほか、Mechanobiology や Artificial red cells 等、バイオサイエンス系の研
究を実施している。
(2)研究体制

PI(Principal Investigator)は現在 3 名在籍しており、研究支援者 1 名、事
務員 1 名が在籍している。また、現地採用のポスドク、実験補助員、インター
III-116
ンシップ学生など計 7 名も在籍している。

PI は 3 人とも日本人であり、PI の下にアジア系を中心とした外国人研究員で
構成されている。

PI 以外に日本人研究者は在籍していない。国際的な人材交流を目的ともしてい
るので、日本人を極力派遣しなかったためである。

外国人研究員との研究マネジメントでは、ある程度は研究時間を守らねばなら
ないと感じる。むやみに長時間の研究を強いることはできない。

本当はシンガポール人を研究員として採用できればよかったのだが、必ずしも
そうはできない。
(3)研究面での活動・連携の状況
(a)産学連携の実績

産学連携という意味では、まだ十分に成果が出ている段階ではない。

各所から見学者なども来るが、産学連携ということまで進展した例は、まだな
い。企業ニーズとの対応という意味ではまだまだと思っている。

TLO を経由して、中国・インドの企業などが関心を示しているという話はあ
るが、シンガポールの企業についてはまだない。まだ産学連携を実施する段階
には至っていない。

テーマの一つとして、Artificial red cells(人口赤血球)の研究を実施しており、
将来的には製薬会社と連携して実用化したいと考えている。現在も日本企業と
共同研究レベルの取組はあるが、
実用化まで協力してもらえるかの保障はない。
シンガポールの企業とも連携をして実用化できるようにしたいと考えている。

シンガポール政府からの研究資金も出口・応用に近い領域へシフトしているの
で、企業との連携は、ますます重要になっている。
(b)人材交流の状況

A*STAR とも人材交流を図ろうと考えている。A*STAR 傘下の研究所と、研
究者交流を図ろうと検討を行っている。

バイオポリス内には日本企業関連の組織も多く、日本人も多い。以前に、日本
人若手研究者で交流会を実施したら、30~40 人くらい集まった。交流会をき
っかけに共同研究も展開しつつある(人工血液について、シンガポール国立大
学生体工学部および医学部との共同研究が開始された)
。

例えば、富士通研究所などもバイオポリスに拠点を設置しているし、「ファー
マロジカルズ・リサーチ社」
(中外製薬、バイオスター・リサーチ社(三井物産
の子会社)
、実験動物中央研究所によるジョイントベンチャー)は同じフロアで
研究をしている。
III-117
(c)知的財産の取り扱い

当所は早稲田大学の研究所であるので、ここでの発明は早稲田大学のものとな
る。シンガポール政府資金も投下されていないので、政府に成果を奪われる心
配はない。

シンガポールにおける特許出願について、シンガポール国内への特許出願につ
いては特に制約はない。一方、シンガポール国内居住者による発明に関し、シ
ンガポールを第一国とする出願以外の外国を第一国として出願しようとする場
合には、シンガポール政府に対し、外国出願許可申請を行う義務がある。

バイオポリス居住者による発明に基づく知的財産権取得についての制約は無
い。
(4)教育面での活動・連携状況
(a)大学との連携状況

ダブルディグリープログラムなどの形で、シンガポールの大学との連携は既に
行われている。

シンガポール国立大学とは学部レベルでのダブルディグリーを実施している
が、理工系の学生が来た事例はまだない。これらは交換学生の制度で実施して
おり、早稲田大学との間で同数の学生を派遣・受入している。

ダブルディグリー、ダブル MBA の制度共に、準備に 2 年程度かけている。

ダブルディグリーとなると、双方の大学で授業を受けることになるので、両大
学で実施される授業の対応関係や単位互換などについて、常に調整が必要とな
る。

ポリテクニクはインターンシップに積極的であり、当所でも数名受け入れてい
る。
(b)シンガポール政府からの支援可能性

当所は、元々日本の企業との共同での現地法人(企業)として活動していたた
め、教育機関としては認められておらず、A*STAR からの支援は受けられな
かった。ただし EDB からの支援は受けていた。

現在は早稲田大学単独の機関になっているが、教育機関として認定されるには、
授業の実施や学生の在籍などの条件が必要であり、これらを満たすことは現状
でほぼ不可能である。

現在は、日本の大学の支店という位置づけ(企業と同等の扱い)であり、
A*STAR からの資金援助は受けられない。
III-118
(5)シンガポール政府の対応・政策
(a)A*STAR との接触

A*STAR などから、早稲田大学の窓口として調査先のコンタクトパーソンの
紹介を依頼されることがある。

一度、A*STAR の担当者が訪問してきて、
「何か手伝えることがあれば、何で
も相談して欲しい」
と言われた。
非常に積極的に活動をしている印象を受けた。
(b)政府方針の転換

近年、基礎研究分野の政府予算が 30%もカットされている。また、グラント
への申請書には、共同研究者として、かならず企業名を書くように指導されて
いる。

政府方針が開発・応用研究支援の重視に変わったため、基礎研究に携わってい
る研究者が帰国してしまっているという事例も見られる。政府の対応が迅速な
のは良いが、やや性急に過ぎるという面もあるのではないか。短期間で大幅に
方針を変えてしまうことがある。

日本では文部科学省が主要な研究資金配分元であるが、シンガポールでは経済
開発庁が主要な配分元になっている。その意味でも、早急な成果を求めすぎて
いるのではないかと思う。

製薬などにおいても、研究から製品化に至るまでの時間が非常にかかるので、
投資を十分回収できていないのではないかという意識が、シンガポール政府に
あるのではないか。
(c)外国人の受け入れ

シンガポール人に「国際的」といっても、なかなか理解されない。彼らにとっ
てはそれがあまりにも「当たり前」のことなのだと思う。

一方で、近年外国人を多数受け入れ過ぎたため、シンガポール人からは反感を
受けているという側面もあるようだ。

最近「外国人比率が 6%低下した」という報道もなされている。少し減ったよ
うではあるが、依然として外国人比率は高い。

しばらくシンガポールに滞在していると PR(永住権)を取得の誘いが政府か
らある。

雇用者側としては、賃金水準が上がるため PR は取らないで欲しいというのが
正直な所である。
(6)シンガポールの労働市場

やる気のある人材が多いと感じる。ポリテクニク出身者が働きながら大学で学
III-119
士を取得し、さらに修士課程にまで通っているような人材もいる。

一方で、給与が月 100$違うだけですぐ転職してしまうなど、転職に対する
抵抗が極めて低い。シンガポール全体で賃金が上昇を続けているので、目移り
してしまうのではないか。

4 月が契約の区切りなので、労働者とはその少し前に契約更新の交渉が行われ
る。賃金水準に配慮をしないままだと、直ぐに転職されてしまう恐れがある。
III-120
2.3 中国
2.3.1 上海交通大学
実施日時
2011 年 2 月 21 日(月)14:00~15:30
実施場所
上海交通大学 Xuhui Campus 曹兆敏教授室
対象者(敬称略)
上海交通大学科学技術発展研究院副院長 曹兆敏教授
実施者
株式会社三菱総合研究所 亀井
内容
上海交通大学における国際産学連携について
受領資料
概要

上海交通大学には、国際的な連携を所掌する管理部門として、
「国際合作&交流処」と「国際科学合作処」
を設置

上海交通大学では、助教授から教授に昇進する場合には、いったん海外に出る必要がある(昇進の条件と
なっている)
。

大学の使命は、その研究成果を企業に移して経済の発展に寄与することであると認識。

企業が欲しているものは、単一のテーマではなく、総合化(複合化)したものである。

企業との連携に関して、実情は大企業が中心。

相手国別に見ると、日本が 35%、米国が 35%、欧州が 20%、その他が 10%程度。
(1)国際的な産学連携活動の実施体制について

上海交通大学には、国際的な連携を所掌する管理部門として、
「国際合作&交
流処」と「国際科学合作処」57を設置している。
57
「国際科学合作処」に該当する組織は、上海交通大学のウェブサイトを参照したところによると、
「科学技術発展研究院 国
際合作辨公室」
(International Cooperation Office)である可能性が考えられる。
http://kejichu.sjtu.edu.cn/s/3/t/2/p/2/c/14/d/81/list.jspy;
http://en.sjtu.edu.cn/research/international-cooperation-office
III-121
出所: 上海交通大学 www.sjtu.edu.cn/zdh/zzjg.htm
図 2-3 上海交通大学組織図

前者は、学術交流のための人的な交流を支援する部署であり、後者はプロジェ
クトベースの科学研究の交流を支援している部署である。

前者は、交流相手として大学などの研究機関であり、後者が主として企業相手
である(本調査の趣旨の所掌は、
「国際科学合作処」である。
(a)「科学技術発展研究院 国際合作辨公室」の主な担当内容58

58
学内各組織の国際研究協力プロジェクトに関する申請・管理。
出所: http://kejichu.sjtu.edu.cn/s/3/t/2/p/2/c/14/d/81/list.jspy;
http://en.sjtu.edu.cn/research/international-cooperation-office
III-122

海外の大学、研究機関、企業、その他国際機関等が運営する科学研究ファンデ
ィングへの申請・管理。

海外の大学、研究機関、企業、その他国際機関との国際研究協力プロジェクト
に関する交渉、調整、管理。

主な国際研究プロジェクトの調整、計画、プロジェクト管理等

科学技術に関する国際研究協力に向けた情報管理システムの整備・管理。

海外に赴任する教員に関する承認手続き等。

科学技術協力に関する管理規則等の制定。
(2)国際産学連携実績
(a)相手先59

GE、GM、Honeywell、Siemens 等
(b)特許出願数(上海交通大学)
年
特許・実用新案・意
国内順位
匠出願数(*1)
特許出願数
国内順位
特許登録数
国内順位
(*2)
2004
829
2
791
1
302
2
2005
1,093
2
1,049
1
401
2
2006
875
3
841
2
572
1
2007
914
3
875
3
665
1
2008
1,102
3
1,061
3
577
3
(*1)原文「Number of Patents Applied」
。中国の「専利法」
(特許法)における「専利」には特許、実用
指南、意匠が含まれる。
(*2)に別途「invention patents」の項目があることから、ここには専利法における特許以外の出願も含ま
れると推測される。
(定義、中国語原文資料は不明のため、確認できていない。
)
(*2)原文「Number of Invention Patents」
。
(c)研究資金
年
2005
2006
2007
2008
2009
金額(人民元)
110,000
118,400
127,541
165,491
174,837
日本円換算(*1)
1,430,000
1,539,200
1,658,033
2,151,383
2,272,881
(*1)人民元 = 13 円で計算
出所:Shanghai Jiao Tong University, Research, Overview,
<http://en.sjtu.edu.cn/research/overview/>
59
出所: http://icae.sjtu.edu.cn/CnPages/CNADetail.aspx?NID=106
III-123
(3)海外連携を目指す目的(産学連携に限らず、海外との連携が盛んな理由)

基本的に上海は、国際的にオープンな都市である。この点はよく認識して欲し
い。上海交通大学の研究スタッフは、海外から帰ってきた人材が多い。皆、世
界の一流を目指しており、このためには世界との連携が必要だと考えている。
これが第一の理由。

上海交通大学では、助教授から教授に昇進する場合には、いったん海外に出る
必要がある(昇進の条件となっている)
。このため、基本的に、教授は海外と
のコネクションを持って着任する。これが海外との連携が促進される第 2 の理
由。

上海交通大学は、中国で NO1 の工科大学であると自負している。しかしなが
ら、基礎研究部門に関しては弱いとも認識している。このため、海外の一流の
研究室(実験室)と組む必要性を感じている。
(4)海外の企業との連携の姿勢

海外の大学との連携の重要性は言うまでもない。さらに、大学の使命は、その
研究成果を企業に移して経済の発展に寄与することであると認識している。す
なわち、上海交通大学では、産学連携を大学の使命(のひとつ)と捉えている。

産業展開を推進するために、上海交通大学は、
「エネルギー研究院」
(能源研究
(Med-X 研究院)
、
「バイオ-X」
(Bio-X 研究院)
、
「ナ
院)
、
「メディカル-X」
ノ-X」60という研究組織を作った。

企業が欲しているものは、単一のテーマではなく、総合化(複合化)したもの
である。
「-X」とは、たとえば「ナノ-X」では、ナノテクを用いた新エネルギ
ー技術の開発、などのような複合技術を取り扱うことを明示したものである。

企業との合作(共同研究)は、人材の交流や研究テーマの共同実施などである。

企業との連携に関して、実情は大企業が中心である。中小企業は、スポットで
の協力が多い。

海外の企業との連携に関しては、
相手国別に見ると、
日本が 35%、
米国が 35%、
欧州が 20%、その他が 10%程度である。
(日本を除く)アジア地域との連携
は少ない。
60
上海交通大学ウェブサイトによると、
「微納科学技術研究院(Research Institute of Micro/Nano Science and
Technology)
」があり、それを指していると考えられる。 http://www.sjtu.edu.cn/zdh/zzjg/zsdw.htm;
http://mnri.sjtu.edu.cn/
III-124
表 2-5 上海交通大学の産学連携実績61

AREVA T & D Group との国際協力に合意

Teradyne 社(エレクトロニクス、テレコム産業およびインターネット産業向けの自
動検査装置(ATE)の世界大手メーカー)と共同で半導体試験研究所を設置。

Breaking Point Systems 社(米国のネットワークテストソリューションプロバイダ
ー)と戦略的協力協定締結。

日本とは、パナソニック、NTT、オムロン、三菱重工業、日立製作所、トヨタ
自動車と連携している。材料やセンサ技術などのエレクトロニクスに関するも
のが多い。
(a)エネルギー研究院62

組織概要: エネルギーの利用、新エネルギー研究、総合型研究機構の設立を
目的として設立。学内におけるエネルギー研究の強化、学際的研究、学内外の
資源活用、産学連携の促進、等を行っている。過去 5 年間で配分された研究資
金(科研経費)累計は 2 億元(約 26 億円;1 人民元 = 13 円で計算)以上。
出所: http://energy.sjtu.edu.cn/departments.htm
図 2-4 エネルギー研究院の組織図
61
http://en.sjtu.edu.cn/research/cooperation/international#scientific_research
62
http://energy.sjtu.edu.cn/index.htm
III-125

人員構成
 中国工程院院士 2 名
 長江計画特聘教授63 3 名
 教授 45 名
 副教授(準教授) 70 名
(b)Med-X 研究院64

組織概要: 医学、工学、物理学に関する学際的研究を行う。2007 年設置。

人員構成
 中国科学院院士 4 名
 教授 5 名
 その他教員 5 名
(c)Bio-X 研究院65

組織概要: ライフサイエンスにおける学際的研究を行う。2005 年に設置。
( 1996 年 設 置 の Neuropsychiatric and Human Genetics Group
(NHGG)と 2000 年設置の bio-X Life Science Research Center を統
合した。
)

国際産学連携の実績(相手先企業)
 Roche Pharmaceutical Ltd.(2003 年開始。双極性うつ秒、統合失調症
の感受性遺伝子に関する研究。
)
 AstraZeneca Pharmaceutical Inc.(2000 年開始。精神疾患等の感受性
遺伝子に関する研究。
)
63
科学研究及び教職に従事している満 45 歳以下の国内外の学者。中国政府が取り組む海外人材呼び戻し政策として行って
いる「長江学者奨励計画」のもと選定される。当該計画は、国内外の優秀な学者を中国の高等教育機関に招致し、国際的なト
ップレベル人材を養成することを目的とした計画である。
http://www.spc.jst.go.jp/edct_talent/callingback/callingback_01.html
64
http://med-x.sjtu.edu.cn/
65
http://www.bio-x.cn/cindex.asp
III-126
図 2-5 Bio-X 研究院の組織図

人員構成
 院長(中国科学院院士)
 博士課程指導教員 10 名
 修士課程指導教員 5 名
 その他(兼任等) 24 名
 その他研究人員
10 名
 その他技術人員
27 名
 ポスドク
5名
 事務局
5名
III-127
(d)微 納 科 学 技 術 研 究 院 ( Research Institute of Micro/Nano Science and
Technology)66

組織概要: ナノ科学技術の基礎研究及び応用研究を行う。MEMS、ナノバイ
オ医薬、ナノエレクトロニクス、ナノデバイス等の研究を実施。
図 2-6 微納科学技術研究院の組織図

人員構成
 中国科学院院士 1 名
 中国科学院兼職院士
2名
 長江学者 1 名
 校特聘教授 1 名
 教授 14 名
 副教授(準教授) 14 名
 博士課程指導教員 10 名
 兼任博士課程指導教員 4 名
66
http://mnri.sjtu.edu.cn/
III-128
(5)海外の企業との連携の評価

オムロンは、上海交通大学の隣に研究所を創った。連携の意義を感じているか
らであると推測している。
(6)海外企業との連携のインセンティブ

日本の文部科学省に相当する教育部には国際交流の部門があり、そもそも海外
との共同研究プロジェクトを重視している。
(注)平成 20 年 7 月 (括弧内は 2008 年 3 月末現在の年齢)
出所: 外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/kokka.html
図 2-7 中国国家機関 組織図
III-129
表 2-6 教育部の組織
現地語表記
英文表記
日本語表記
办公厅
General Office
弁公庁
政策法规司
Department of Policies and Regulations
政策研究・法制整
備司
发展规划司
Department of Development and Planning
発展企画司
人事司
Department of Personnel
人事司
财务司
Department of Finance
財務司
基础教育一司
Department of Basic Education I
基礎教育一司
基础教育二司
Department of Basic Education II
基礎教育二司
职业教育与成人教育司
Department of Vocational and Adult Education
職業教育と成人教
育司
高等教育司
Department of Higher Education
高等教育司
教育督导团办公室
Office of National Education Inspectorate
教育監督指導事務
室(弁公室)
民族教育司
Department of Ethnic Minority Education
民族教育司
师范教育司
Department of Teacher Education
師範教育司
体育卫生与艺术教育司
Department of Physical, Health and Arts Education
体育衛生と芸術教
育司
思想政治工作司
Department of Moral Education
思想政治工作司
科学技术司
Department of Social Sciences
科学技術司
社会科学司
Department of Science and Technology
社会科学司
高校学生司
Department of National Universities
高等教育司
直属高校工作司
Department of College Student Affairs
直轄大学工作司
学位管理与研究生教育司(国
Department of Postgraduate Education(Office of
学位管理と大学院
务院学位委员会办公室)
the State Council Academic Degrees Committee)
生教育司
语言文字应用管理司
Department
言語文字応用管理
语言文字信息管理司
Department
of
Language
Planning
and
Administration
司
of
Language
Information
言語文字情報管理
Management
司
国际合作与交流司(港澳台事
Department of International Cooperation and
国際協力・交流司
务办公室)
Exchanges ( Office of Hong Kong, Macao and
Taiwan Affairs)
出所:中華人民共和国 教育部司局机构设置
<http://www.moe.gov.cn/publicfiles/business/htmlfiles/moe/moe_2156/200807/36533.
html>
Ministry of Education of the People's Republic of China
<http://www.moe.gov.cn/publicfiles/business/htmlfiles/moe/moe_2798/200906/48874.
html>
Science Portal China, 中国教育部
< http://www.spc.jst.go.jp/organization/org_07.html>
III-130
図 2-8 教育部 国际合作与交流司
(The Department of International Cooperation and Exchanges)
表 2-7 教育部 国际合作与交流司の主な役割・機能

中国の教育部門における外交に関する指針・政策の策定、関連法規制の起草。

中国と外国間の教育における協力・交流の管理、調整、監督。

中国から海外への留学生、海外から中国への留学生に関する指針・政策の策定、管理。

外国人向け中国語教育に関する計画、調整、指導

中国が外国に提供する教育補助プログラムならびに外国が中国に提供する教育教育補助プログラムの管
理。

外国人教師雇用に関する事務、大学による外国時教師選定における監督

教育協力・交流に関する機構・プログラムの審査、承認、行政的管理。

在外中国大使館・領事館における教育関連組織運営への指導

香港、マカオ、台湾に関し、教育交流の政策策定、運営、調整、監督。

上海交通大学には、大学の中に海外との共同プロジェクトのための基金がある。
人的な交流もこれで行っている。
III-131
(7)海外の企業との連携のために工夫していること

一般的に、企業が欲しいものと大学の研究との間には距離がある(下図)
。
大学
産業界
↑
ここを誰がやるのかが問題!

上海交通大学では、これを実施するために、
「先進産業技術研究院」を作った。
ここでは、教育や基礎研究は行わない。産学連携のみを行っている。上記の破
線の○を狙ったものである。現在、15 のプロジェクトが進められている。大
学としては、特別のプログラムと位置づけており、通常の大学の評価システム
とは独立させている。大切な技術を育てるという姿勢である。1,000 人規模の
部隊を作ることを目指している。
(a)先 進 産 業 技 術 研 究 院 ( Advanced Industrial Technology Research Institute
(AITRI)
)67

AITRI の概要: 上海交通大学と上海市閔行区とが共同出資して設立した独立
機関。新エネルギー、先進製造技術と新材料、デジタル情報技術、ヘルスケア
の 4 分野を重点としている。

AITRI の主な機能:
 「橋」
、
「リンク」
: 産業技術の統合を促進し、技術革新、大学、企業間を
結びつける。
 産業技術の「加速器」
: 将来の市場への注目、中核技術・主要技術への集
中、技術的隘路の克服、産業開発の主導。
 新技術の「インキュベーター」
: 潜在的市場需要を検討し、未来のハイテ
ク研究開発を考慮、新産業の成長を促進。
 革新的人材の「ゆりかご」
: 技術、マーケティング、マネジメントに通じ
た学際的な人材育成。革新的人材、新世代の起業家の集積地を目指す。
67
出所: http://aitri.sjtu.edu.cn/
III-132
図 2-9 AITRI 組織図
表 2-8 先進産業技術研究院における研究プロジェクト
プロジェクト(大
プロジェクト名
概要
新能源项目(New
国家能源海上风电技术装备研发中心(The
上海交通大学における風力発電研究の関連
energy project)
Wind
分野を統合し、学際的研究を実施し、風力
項目)
Power
Research
Center
発電に関する国家重点的技術課題の解決を
(WPRC)
)
図 る 。 企 業 合 作 委 員 会 ( Enterprise
Cooperation Committee)
、国際合作委員
会
(
International
Cooperation
Committee )、専家委員会(Academic
Committee)が設置されており、WPRC
における活動を指導している。
国家能源智能电网(上海)研发中心
現時点では中国唯一のスマートグリッド研
( National Energy Smart Grid R&D
究開発拠点。総投資額 2.8 億元。風力ター
Center)
ビン、ハイブリッドエネルギー貯蔵、マイ
クロネットワーク等の設備が整備されてい
る。
生物医药项目
(詳細不明)
(Bio-pharmacy
project)
数字信息项目
信息内容分析技术国家工程实验室
情報セキュリティマネジメントに関する主
(
(National Engineering Laboratory of
要技術を研究。当該プロジェクトへの投資
Digital
projects)
Information Analysis)
額は 43.99 百万元。
数 字 电 视 国 家 工 程 研 究 中 心 ( National
デジタルテレビの研究を実施。上海交通大
Engineering Research Center of Digital
学と、上海高清数字科技产业有限公司
Television)
( Shanghai High Definition Digital
Technology Industry Co., Ltd)
、清華大
学、工业和信息化部电子工业标准化研究所
(Electronics Standardization Institute
of Ministry of Industry and Information
III-133
Technology)
、主要デジタルテレビ企業等
が共同で設立。
TFT 关 键 材 料 及 技 术 国 家 工 程 实 验 室
先進 TFT-LCD の研究開発を学際的に、産
( TFT-LCD
and
業との緊密な連携により実施。国内の TFT
Engineering
液晶産業のイノベーション能力や競争力の
Technology
Key
Materials
National
Laboratory)
強化を図る。
最新入驻项目
信息内容分析(国家工程实验室)
(情報量分
(詳細不明)
(
析)
New
Research
大唐电力及核电专项[大唐発電及び原子力
projects)
発電プロジェクト]
第二代超导带材开发[第二世代超伝導テー
(詳細不明)
(詳細不明)
プ材料開発]
数字造船[デジタル造船]
(詳細不明)
汽车电子(汽车电子国家工程实验室)[自動
(詳細不明)
車エレクトロニクス(自動車エレクトロニ
クス国家技術実験室)]
大功率风力发电装置(华锐风电联合研发中
(詳細不明)
心)[高効率風力発電装置]
电动汽车绿色校园实验网[電動自動車グリ
(詳細不明)
ーンキャンパス実験ネットワーク]
智能电网上海研发中心(国家能源研究中心) (詳細不明)
(上記 New energy project
[スマートグリッド研究センター]
内の「国家能源智能电网(上海)研发中心」
と重複の可能性あり。
)
*プロジェクト名称の中国語表記、英語表記は公式ウェブサイトから記載。[ ]内の日本語表記は、翻訳ソフト等
による仮訳を参考のために記載。具体的な参加企業については不明。
(出所:
先进产业技术研究院, 项目入驻, http://aitri.sjtu.edu.cn/xmrz.php; Advanced Industrial
Technology Research Institute, Research projects, http://aitri.sjtu.edu.cn/en/xmrz.php)
(8)「国内企業を優先しろ」という批判はないのか?

質問の趣旨が分からない。上海交通大学には、学部生が 2 万人、修士・博士課
程合わせて 2 万人、留学生が 5 千人いる。若干古いデータであるが、これらの
卒業生の約 1/3 は米国を主とする海外に出て行く。約 1/3 が外資系企業に就
職する。残りの 1/3 が公務委員や国内の研究所などに行く。質問の批判を受け
る前に、
「上海交通大学は、卒業生の 2/3 を海外や海外企業に送っており、海
外のための大学か」
と批判されるであろうが、
そんなことは聞いたことがない。

基本的に、上海は国際的にオープンなところである。
III-134
2.3.2 清華大学
実施日時
2011 年 3 月 3 日(木)9:00~11:15
実施場所
清華大学(Tsinghua University)
対象者(敬称略)
Overseas R&D Management Office Vice Secretary General Lu Lei
実施者(敬称略)
経済産業省 産学官連携推進研究官 能見 利彦
(科研院海外項目部、校企合作委員会海外部)
NEDO 北京事務所 所長 後藤 雄三
NEDO 北京事務所 Cui Run Ying
株式会社三菱総合研究所 大木
内容
国際産学連携について
受領資料
なし
概要

清華大学では、国内外との産学連携を積極的に推進し、成果を挙げている。産学連携を推進する理由は、
研究の産業化による社会貢献、大学の研究レベルの向上などである。産学連携は、清華大学における教育
の原点である。

中国の産業界では、従来の海外企業から委託された製品製造・加工だけでなく、独自のキーテクノロジを
開発し産業化したいというニーズがあり、清華大学との連携で活路を見出そうとしている。

清華大学の研究予算のうち、国内外企業からの委託資金が大きな割合を占めている。委託資金の一部は研
究者の給与となり、研究者が産学連携を進めるインセンティブの一つとなっている。

清華大学の産学連携の担当組織は、校企合作委員会である。同委員会と企業が組織的に連携を進めること
により、大規模なプロジェクトを実施する。

海外企業との連携は、国内と比較すると比率は小さいが、600 プロジェクト/年、5000 万ドル/年程
度を遂行している。優れた分野を有する企業を選定対象としている。企業から大学にアプローチしてくる
ケースが多い。

「千人計画」で招聘した研究者(多くは中国人研究者)は、研究レベルの向上や国際連携において大きな
役割を果たしている。特に、施一公博士の帰国により、生物・医薬系において、欧州企業との連携が促進
されている。

海外企業から見た清華大学の魅力は、先端的な研究開発が可能である点、中国への市場展開を見据えた技
術開発が可能である点、が挙げられる。
(1)清華大学における産学連携の位置づけ・ニーズ
(a)産学連携全般について

清華大学は、教育者が 3,000 人程度、学生数が 30,000 人程度(内半数が大
学院生)在籍している。大学の運営資金は 30 億元程度である(2 年程前の情
報とのことだが、信頼性低い)
。

清華大学では、国内外における企業との連携が盛んに行われている。国内企業、
海外企業との連携数は、中国の大学の中で最も多い。
III-135

清華大学において、産学連携は教育の原点として位置づけられる。清華大学は、
昔から産業化を重視してきた。科学研究を社会・企業における応用につなげる
ことを教育方針として掲げている。

産業界における産学連携へのニーズが多い。国内企業は、研究能力のある大学
と組んで、産業化につなげたいという考えを持っている。

国内企業との共同研究では、基礎研究も応用研究もある。業種は製造業が多い。
生産ラインの各コンポーネントにおけるキーテクノロジについての研究を行っ
ている。

中国の製造業は、ハイテク製品の製造について、海外企業から委託を受けて加
工するだけになっており、企業が独自の価値を産み出すことができないことが
課題となっている。海外企業から買うだけでは進歩がないという意識がある。

大学の優秀な研究者に委託し、製造設備において必要不可欠なキーテクノロジ
を開発しようとしている。チップ等の中心的な技術を独自に開発するための研
究を行っている。
(b)国際的な産学連携について

海外企業との連携は 1990 年代からスタートした。学生・人員の交流からス
タートし、2000 年に入ってからこうした交流が大きくなり、大規模かつ本格
的な交流に発展した。

国際的な産学連携の目的は、大学の研究レベルの向上である。また、海外企業
との連携により視野を広げることができる。

海外企業との共同研究は基礎研究が多い。分野としては、エネルギー環境、IT
(最近は減少傾向)
、生物・医療・バイオが多い。

海外企業の連携先としては、ある分野において優れていることを重視しており、
企業規模は関係ない。

海外企業の連携先の国は、特にターゲットを定めているわけではない。4~5
年前は米国と日本の比率が高かったが、ここ 3~4 年は欧州との連携が増加傾
向にあり、全体の 1/3 を占めるようになった。後述する施一公博士の帰国の影
響である。
(2)産学連携活動の実施体制

科研院は、大学の管理部門の一組織であり、科学研究のプロジェクトを所管し
ている。科研院の下には、以下の 4 種類のプロジェクトがある。
 国家予算によるプロジェクト
 企業からの委託プロジェクト
 海外プロジェクト
 専門プロジェクト(具体的な内容は非公開)
III-136

校企合作委員会は、産学連携の担当部署であり、その下には国内部と海外部が
設置されている。国内部は、中国内企業との連携、海外部は海外企業との連携
に関する業務を実施している。国内部と海外部の人員は 50~60 人程度であ
り、各部の業務と委員会の業務を兼務している。

例えば、Lu Lei 氏は、70%の時間は海外部の業務(日本との連携関連)
、30%
の時間は委員会の業務(打合せ参加等)に充てている。
(3)産学連携活動の実績と効果
(a)産学連携に関する資金動向

大学の運営費は 30 億元程度(上述と同じ、参考値)
、研究予算は 36 億元
(2010 年)
。両者には重複がある。研究予算は、毎年変動がある。

運営費は、国家予算、学費、企業からの委託費、研修等による収入等が含まれ
る。外部からの委託費が最も大きな割合を占めるが、50%には満たない。

研究予算の中では、国内外企業からの委託費が 50%を越える。

企業からの 1 プロジェクト当りの委託費は、
小さいものでは 10 万~20 万元、
大きいものでは数千万元、複数年で 1 億元を越すこともある。

企業からの寄付金により大学の建物を建てるケースがある。一番多いのは香港
の実業家からの寄付であり、数千万から 1 億元程度の寄付を得る。日本企業か
らの寄付もある。建物一つに必要な資金の 7~10%程度を負担するケースが多
い。

企業からの資金の動向としては、共同研究費は右肩上がりであるが、寄付は年
によって異なる。国内と海外を比べると、国内企業からの資金の方がはるかに
大きい。

校企合作委員会の予算は、大部分は大学の運営費であるが、会員企業からの会
費も得ている。イベントは主に会費で賄っている。

企業からの委託費のうち、間接経費として 30%をとっている。間接経費は、
プロジェクトに関連する電気・ガス・水道費用、設備費用、データベース費用
等が該当する。また、プロジェクトに係る技術者等の人件費も該当する。一方、
大学の管理部門、校企合作委員会等の人件費は該当しない。
(b)国際的な産学連携の実績

多国籍企業 500 社の内の 1/4 と連携している。また、その中の上位 50 社の
内の 20 社と連携している。

ここ数年の海外企業との連携実績は、600 プロジェクト/年、5000 万ドル
/年程度となっている。
III-137
(4)産学連携を促進するための各種取組
(a)取組の概要

産学連携の取組は、政府の法令、省令、政策を踏まえ、大学内部で統一された
方針のもとに行われている。

代表的な取組は、産学連携促進のための組織を設置したことである。組織を設
置したことにより、産学連携を進めるための人員を確保すると共に、国が実施
すべき政策の研究を実施し、国にインプットする。
 例えば、技術移転、特許、予算支援等に関する政策を作成する。
 政策の例としては、新技術を研究し実用化された場合に、大学が受益者とな
る政策が挙げられる。大学は、得られた収益のうちの一定比率を研究者に還
元する。
(b)産学連携の進め方

企業との連携の進め方としては、企業と校企合作委員会による組織的な調整に
よるものが主である。

企業から同委員会にアプローチするケースと、同委員会が企業にアプローチす
るケースの双方がある。

大学と企業が組織的に調整することで、大規模なプロジェクトを立ち上げるこ
とができる。

企業が特定の研究者にアプローチするケースもあるが、それほど多くは無い。
また、その場合、プロジェクトの規模は小さい。

インターネットを通じて、企業から研究者や校企合作委員会にコンタクトして
くるケースがある。

海外企業との連携においては、海外企業から清華大学にアプローチしてきて、
調整を開始するケースが多い。清華大学から積極的に海外企業を探すケースも
あるが、比率としては少ない。

産学連携のプロジェクトは、校企合作委員会で審査・許可を行う。プロジェク
トが開始されれば、担当する研究者を中心に、契約どおり遂行する。委員会は、
プロジェクトの進捗について打合せ等により確認する。
(c)産学連携に関する研究者のインセンティブ

大学の研究者(教授等)の給料は 1 万元程度であり、その内 3,000~4,000
元は国家予算である。その他は、産学連携等のプロジェクトの予算、各種手当
てから賄う。

プロジェクト予算の 10%は、研究メンバーで使用できる。プロジェクト予算
の使用方法は、大学が決まりを定めている(例えば、教授が受け取る金額等が
III-138
定められている)
。政府プロジェクトの場合は、研究者の給料にはできない。

研究者の給料の 2 割程度が、プロジェクトの予算から賄われており、研究者に
とって産学連携を実施するインセンティブの一つとなっている。しかし、収入
面のインセンティブが最も重要な要素ではない。

プロジェクト予算は、学生にも提供される。

各種手当てには、住宅手当、積立金、交通費、食事手当、新聞手当等、様々な
名目があり、政府や大学から支給される。

清華大学は、政府の技術イノベーションシステムの中で重要な位置づけとなっ
ている。研究者にとっては、自分の成果がそのシステムの中でどのように位置
づけられ、産学連携を通じて社会に貢献できるかが重要であり、インセンティ
ブとなっている。
(d)海外からの人材の招聘

海外からのハイレベル人材を招聘する政策として「千人計画」が実施されてい
る(2008 年開始)
。海外に行って成果を挙げた中国人が、主な対象となって
いる。清華大学にも十数人が来ている。

施一公博士は、成果大学卒業後、米国に渡り Johns Hopkins 大学で博士号を
取得、Princeton 大学の終身教授となった。2008 年、千人計画により清華大
学生命科学院の教授となり、大きな働きを果たしている。

学生の育成、ハイレベルな研究能力、国際連携への影響、が顕著な成果である。
国際連携では、特に BAYEAR 社、ROCHE 社との連携を進めた。

同博士にとっては、収入の観点では米国の方が魅力的であったと考えられるが、
中国で大きな成果を挙げており、人生としては中国に帰国して良かったのでは
ないか。
(5)国際産学連携活動に対する参加者の評価

清華大学と連携している日本企業としては、トヨタ、日立、東芝、三菱重工、
富士通、日産、松下、サンヨー、ダイキン、IHI 等が挙げられる。

海外企業が清華大学を連携先に選ぶ理由としては、以下の 2 つが考えられる。
 先端的な研究開発を行う研究者がいる。キーテクノロジの研究を活発に行っ
ている。
 中国は大きなマーケットである。海外企業が市場展開するためには、中国に
相応しい技術を開発する必要がある。
(6)国際的な産学連携活動を行う上での課題

海外企業との連携は、概ね順調に進んでいる。

様々なレベルの問題はある。例えば、各国の法制度、文化の違いにより生じる
III-139
問題はあるが、話し合いにより解決できる。

日本政府や企業の特徴としては、以下が挙げられる。
 習慣が中国と似ている。
 しっかりと調査する。慎重に行動する。
 小さいことから開始する。
 遂行がしっかりしている。
 重要人物やトップの決断があれば、スムーズに事が進む。担当者レベルから
調整を開始すると難しいように感じる。

欧米の特徴としては、以下が挙げられる。
 オープンなイメージ。
 独立性、自主性が強い。
 考え方が異なる場合、代替案を出して解決しようとするなど、柔軟性がある。
(7)その他

日本と中国の間で、対話のメカニズムを構築すべきである。双方の共通点や相
違について継続的に議論すべきである。
III-140
2.3.3 国内大手重工メーカー
実施日時
2010 年 12 月 14 日(月)17:00~17:50
実施場所
三菱総合研究所 MR-I 会議室
対象者(敬称略)
大手重工メーカーA 社(技術企画担当者)
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所 森、須崎、大木
内容
清華大学とのる国際産学連携について
受領資料
(なし)
概要

A 社と清華大学の共同研究は積極的に実施されており、最近のテーマ数は年間 50 件程度に上っている。
包括的な契約を結んでいる。

清華大学は地に足のついたものづくりの研究において着実な成果を出している点に大きな魅力がある。コ
スト意識、成果に対する意識が高く、英語が堪能な点も大きなメリットである。また、距離が近い点や、
研究予算が安価な点も魅力である。

年間行事に CTO が参加し、また奨学制度を提供するなど、良好な関係を維持している。
(1)清華大学との連携の概況

2002、2003 年頃に共同研究が開始された。

研究テーマ数は、毎年 10 数件程度、最近では年間 50 件程度となっている。

共同研究を実施する他の海外大学と比較してもテーマ数は多い。

契約形態は、清華大学と A 社との間の包括契約に加え、個別研究テーマ毎にも
契約を交わす。
(2)共同研究の進め方

年間に 3 回の行事(年度初めの契約時、中間報告、最終報告)が設定されてお
り、A 社側からは CTO が出席している。

研究テーマの選定においては、A 社のニーズを提示し、成果が出せるかどうか
を精査する。選定段階で精査することが研究の成功に繋がっていると考えられ
る。

研究テーマは広範囲だが、製品化に直結するテーマではなく、要素技術までブ
レークダウンしたものとなっている。しかしながら、その研究が製品に繋がる
イメージは双方で共有している。

A 社から学生向けの奨学制度等を提供している。
_______________________(以下、個人的見解)_______________________
III-141
(3)清華大学選定の理由

製造業のニーズに合致した研究を実施している。すなわち、先端技術だけでな
く、ベーシックな“ものづくり”の研究で着実に成果を出している。

中国では“ものづくり”の研究がきちんと評価されているのではないか。諸外
国でも基本的にはものづくり研究が評価されているように思える。

研究活動にスピード感がある。

担当する教員、学生に成果を出そうという意欲が感じられる。

日本と距離が近いこともメリットである。国内出張感覚で訪問可能である。

研究資金も欧米と比較して安価である。

良好な人材がいれば採用したいという考えもある。現在、清華大学出身の社員
が数名程度いる。

教員、学生とも英語が堪能であり、外向けの意識が高い。契約も英語である。
(4)清華大学との共同研究における留意点等

輸出管理規制への対応は検討している。研究テーマは個別の要素技術にブレー
クダウンされており、
また規制対象外の範囲であることを個別に確認している。
(5)国際産学連携を進める上での日本の大学の課題・意見

民間企業のニーズに対してアンテナを高くするべきである。日本では先端技術
の研究に力が入っており、基盤研究の環境が整っていないと感じる。

海外企業から見た日本の大学の魅力が何なのか、どの程度の魅力があるのか考
えてみることも重要である。

民間企業との交流を行い、企業ニーズに触れることが重要である。

海外契約に対する知識やサポートが不足しており、課題である。

利益に対する意識が薄いことは課題である。技術的な話をする上でも、根底に
はコスト感覚が共通している必要がある。

研究をビジネスライクに行う意識が欠如している。成果に対する意識が相対的
に薄く、改善が必要である。
III-142
2.4 韓国
2.4.1 韓国大手電機メーカー
実施日時
2011 年 3 月 18 日(金)10:00~11:00
実施場所
株式会社三菱総合研究所
対象者(敬称略)
韓国大手電機メーカーA 社(元役員)
実施者(敬称略)
株式会社三菱総合研究所 森、吉村、須崎
内容
韓国メーカーからみた日本の大学について
受領資料
外資系企業からみた日本の大学教育のあり方
概要

同社はグローバル企業であり、研究面では世界トップクラスの大学としか産学連携は実施しない。基礎研
究には殆ど投資せず、5 年以内に事業化が見えたものに委託研究(アウトソーシング)で連携するのが代
表例である。

億円単位の研究費を出すのは米国の大学のみで、米国の大学教員だけが「事業家」として対等なパートナ
ーとなり得ると判断している。韓国内を含む米国以外の国との産学連携は、情報収集が目的の少額なもの。

日本では材料分野で東北大学くらいしか連携候補とならない。また日本の大学研究は商品化までの距離が
ありすぎる。

研究よりは教育において大学との連携を重視しており、海外の天才的な学生への奨学金や韓国内の大学等
への投資は非常に多額を投入している。
(1)企業における産学連携の方針

A 社は世界で競争するグローバル企業であり、研究面では世界トップクラスの
大学としか産学連携は実施しない。

産学連携形態は、共同研究ではなく委託研究(アウトソーシング)であること
が多い。

億円単位の研究費を出すのは米国の大学のみである。その理由は米国の大学教
員だけが「事業家」であり、同社と対等なパートナーとして連携できるためで
ある。

韓国を含む米国以外の国の大学との産学連携は、
「情報収集」が目的の少額な
ものである。ただし、その場合も世界トップクラスにしか研究費は出さない。
(2)日本の大学等との産学連携の経緯

日本で世界トップレベルと言えるのは限られており、同社が産学連携を行って
いるのは、東北大学に材料分野で研究費を出すくらいである。
III-143
(3)企業からみた日本の大学等との産学連携の評価

日本の大学教員の研究は商品化までの距離がありすぎる。同社は基礎研究には
研究費を殆ど投資しない。5 年年以内に事業化が見えない限り、投資はしない
というスタンスである。
(4)企業からみた日本の大学等との産学連携の魅力

正直なところない。日本は市場としての魅力も失いつつあり、同社内で、日本
は重要な国と見なされなくなっている。
(5)日本の学等との産学連携を促進/阻害する外部環境

おそらく大学教員が最大の問題であろう。米国の大学のようにビジネスとして
研究をマネジメントできる教員が増えなければ難しい。
(6)その他

A 社は、研究面よりも教育面において大学との連携を重視していると言える。

教育の面では、韓国内の大学等への投資も大きい。
(a)海外の天才的な学生への奨学金

実際、海外の天才的な学生(博士課程、ポスドク)に対する奨学金として多額
の投資を行っている。

投資した人材が同社に入社してくれるか否かは関係なく、将来の世界トップレ
ベル研究者との人的ネットワークを重視している。

同社の奨学金を得た学生が将来、別の国で重要なポジション、例えば各国の国
際標準化の担当者になれば、国際的な規格・標準策定の場において同社に有利
に働く可能性がある。そういった点まで考慮してトップ人材への投資を惜しま
ない。
(b)社内大学の設立

もともと非正規の社内大学を運営していたが、外部の大学校と産学連携協定を
結び、最近、韓国政府に正規の大学として承認された。

最高の施設設備を同社が用意し、同社事業部の精鋭達が教員となって教えるこ
とで、同社の現業にすぐに適用できる人材の輩出を狙っている。

同社内から選抜された優秀な社員のみが入学を許される。教育費用は全学会社
負担である。候補者は上長の推薦を受け、筆記と面接試験をパスしてから予備
学校教育を履修し、最終評価に合格して始めて入学が許可される。

入学後は 1 年 3 学期制(夏冬休みなし)
、年 6 回の中間・期末試験、週 2 回
III-144
のレポート提出などハードワークが要求される。

年間で学士、修士、博士を合わせて約 60 名が乙行する。
(c)社外大学との連携

韓国内の複数の大学(10 大学以上)に同社が求める教育プログラムを開発・
運用するための教育費を投資している。

各大学が開発したプログラム(カリキュラム)の評価は同社が行い、同プログ
ラムを履修した学生はインターンシップの採用時に優先される予定である68。

ポイントは投資先の大学がソウル国立大学のようないわゆる韓国内のトップ
レベル大学ではない点である。一つにはトップレベル大学は同社の求める教育
プログラムを提供することに抵抗感があると思われるためで、もう一つはまた
トップレベル大学から獲得できない優れた才能を持つ人材を中堅大学から発掘
するためである。
68
同社は韓国内で入社するのがもっとも難しい企業の一つであり、そのインターンシップは競争倍率が非常に高い。
III-145
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