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もっとガスを、 そのためにもっと熟練技術者を
JOGMEC 調査部 池ヶ谷 清貴(編者) アナリシス もっと石油を 、もっとガスを 、 そのためにもっと熟練技術者を ― 日本の対応策は? ― SBC ワークショップより 石油・天然ガス探鉱・開発業界において、今後の最大の問題はなんだろうか。 マスコミ等でも報道されているとおり、資源ナショナリズムの拡大につれ、困難になっている産油国 での事業の実施と一般には考えられるだろう。しかし、業界ではそれよりも深刻な問題は「熟練技術者 の不足」ととらえている。 世界的に石油の生産が比較的容易な陸上、浅海の埋蔵量枯渇が進んでおり、いわゆるイージーオイル が縮減していることから、今後の探鉱事業は高度技術が必要で自然条件の厳しいカナダ・アラスカ等の 極地域、水深500m以上の大水深域か、または、政治的制約条件のきつい産油国で、その国の技術では 対応が困難な高度技術の必要な事業が主流となることが想定されている。つまり、業界では、「もっと 石油を、もっとガスを、そのためにもっと熟練技術者を」ということになり、上流熟練技術者の不足は 企業存亡にかかわる重要な問題となる可能性がある。 日本では、石油の自主開発比率を2030年までに引き取り量ベースで現在の17%から40%程度にすると いう「新・国家エネルギー戦略」が2006年5月31日に経済産業省より示され、業界を挙げてこの目標達 成に取り組むなか、この上流熟練技術者不足問題の解決は避けては通れない問題であり、早急な対策が 望まれるところである。 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)は、この喫緊の課題について業界の問題意識を高め、 対策案を検討する参考となるようにさる2008年1月16日(水)機構東京カンファレンスルーム(TCR) 大会議室において、こうした人材問題のエキスパートであるSchlumberger Business Consulting(SBC しょうへい 以下「同社」 、後述同社紹介参照)を招聘し、その講演(下記講師参照、専門家4名)を主体とするワー クショップを石油鉱業連盟の協力を得て開催した。 ワークショップは、まず、 (1)世界の石油・天然ガス 面している。 の人材資源に関するベンチマーキング(同社によるプレ ただし、状況を分析すると、「現在の問題」と「将来 ゼンテーション)、(2)日本の現状(日本側によるプレ 想定される問題」が若干異なることから、それぞれの対 ゼンテーション:三井石油開発(株)佐々木顧問、機構 応策を講じることが効果的である。 技術センター 大野部長)、(3)取り得る選択肢とその 考察(同社によるプレゼンテーションと参加者による ・現在の問題:アロケーション(配分)の問題 ディスカッション)と進み、最後に(4)次に取るべき 現在、世界の技術者は需要量・供給量を数でとらえれ 方策(同社と参加者によるディスカッション)、そして ば決して不足といえる状況にはない。しかし、そのアロ 同社による取りまとめという順序で行われた。 ケーションには、大きな問題がある。つまり、世界には、 技術者の供給に余力がある地域(新興国)と供給が不足 このワークショップの大要は以下のとおりである。 している地域(先進国)が存在している。 世界の上流熟練技術者は不足がちな上に、老齢化が急 <対応策> 速に進行しているため、若い世代の優秀な技術者の大量 当然のことながら、この技術者の再配置により現在の 確保が喫緊の課題となっているが、その獲得には、同業 供給問題の克服は可能である。 のみならず、他の産業との競争もあり、困難な状況に直 また、日本では石油公団解散に伴い、業界技術者の連 27 石油・天然ガスレビュー アナリシス 携・配置を調整する機関がなくなったため、ある企業の 本稿は、ワークショップとその後提供された同社資料 有する人的余力で、別の企業の人的不足を補うことが困 に基づき、編者が作成したもので、同社の好意により資 難な状況になっている。 料等については本誌への掲載が認められたものである。 ここに改めて同社に謝意を表する。 ・将来想定される問題 ただし、本稿の取りまとめは機構により行われたもの 将来的に憂慮すべき問題は、先進国では大学の学部改 であり、解釈の問題等もあり、文責は編者にある。 革により、石油技術関連の学部廃止が見られることであ り、その傾向がさらに続けば数的不足も将来は想定され る。また、当該学部からの業界への就職率にも問題が生 [ 講師紹介 ] アントワーヌ・ロスタンド(Mr Antoine Rostand) じる可能性がある(ワークショップでは、世界では SBCグローバルマネージングダイレクター。 M&A、日本では石油公団解散に伴い、業界全体が縮小 Schlumberger Semaコンサルタント&システム統合副社長、EDS 均衡型に動いたことから、大学側の採用の希望に応えら フランス副社長、AT Kearneyパートナーを務める。コンサルタン れず、関連学部廃止が行われることになったとの認識で トとしては、エネルギー、テレコミュニケーション、公共部門での あった) 。 大規模なコンサルタントとシステム統合の組織の管理、欧州石油・ <対応策> 天然ガス企業への資産ベースモデルの本社機能についての定義づけ 従来の学部生の採用については、産業の将来性をア のアドバイザー、欧州の石油・天然ガス企業に対して研究開発業務 ピールし、継続的雇用の約束、育成姿勢・教育システム に関するアドバイザーなどに従事。 の整備(オンザジョブ・研修)を行う必要がある。 今まで雇用実績のない他の理工系学部の卒業生につい ピエール・ビスミュート(Mr Pierre Bismuth) ても雇用を検討し、対応可能な育成プログラムを構築す Schlumberger人材資源シニアアドバイザー。 る必要がある。 Schlumbergerの人事部門に27年間在籍。人材の多様化や報酬制度 外国人雇用については、マネジメントを対象とするよ のプロジェクトに携わる。Schlumberger Technologiesのカリ うな積極的登用とそのための教育・訓練のインフラ整備 フォルニア、東京のオフィスで従事経験あり。 が必要である。 女性雇用については、一定数の雇用拡大と企業側の受 け入れ態勢の整備が必要である。 エリック・ジャンヴィエール(Mr Eric Janvier) 欧州、CIS、アフリカ、中東地域ダイレクター。 Cambridge Technology Partnersの南ヨーロッパ副社長、 同社は日本については、産官学共同によりフランスの McKinsey & Companyのパートナーを歴任。大手欧州上流オペ IFP(後述:編者作成による概要)のような石油産業の レーター、アフリカ国営石油会社の組織再編などに従事。 技術向上のための研究開発・教育訓練機関の設置を検討 するように推奨した。同社はこのような機関の設置は大 ピアーズ・トンゲ(Mr Piers Tonge) 学側にとっては、優秀な石油技術者の開発・育成と教育 アジア地域ダイレクター。 の観点から、そして企業にとってもリクルートの可能性 17年間にわたりエネルギーとコンサルタント業界で従事。Arthur の拡大と歓心を喚起させるために必要だとした。さらに D. Littleでシニアマネージャーを歴任。大手国際石油企業等に対し 同社はこの日本版IFPの設立のための調査に着手し、機 アジアでの上流、天然ガス、LNG、精製および操業上の戦略やアジ 構をその主体とすることを推奨した。 アNOCの上流ビジネスの再編などに従事。 まず、本題に入る前に、本ワークショップのキーファ なビジネスコンサルタントをはじめとする優良企業出身 クターである同社を紹介する。 の経験豊富な130名を超えるコンサルタントを擁し、 同社は、過去にExcellent Companyという著作により、 ヒューストン、ロンドン、パリ、シンガポール、ジャカ その名を高めた世界で唯一の優れた電気検層技術を有す ルタ、クアラルンプール、メキシコシティにオフィスを る親会社Schlumbergerの数十年にわたる石油・天然ガ 展開している。 ス上流分野における経験と技術に関する深い専門知識の 人材と能力開発についての石油技術者の需給に焦点を 蓄積を基に2003年に設立され、McKinsey、ADLのよう あてたベンチマーク化で、2005年には世界の上流技術者 2008.5 Vol.42 No.3 28 もっと石油を、もっとガスを、そのためにもっと熟練技術者を の2大学会の一つであるSPE*1の参照モデルとして採用 され、そのエキスパートとしての地位を確立した。毎年 同様の調査を続け、2007年はIHS Energy、PFC Energy、John S.Heroldとの共同調査(85の大学と38の 企業を対象にヒヤリング)を実施した(図1)。顧客は 50%が産油国国営石油会社、残りは国際石油企業と独立 系企業という状況で、産油国・民間企業等の人材管理、 採用、技術能力向上、ナレッジマネジメント等の分野で のアドバイスにより、これの顧客から高い評価を得てい る。 ― 日本の対応策は? ― SBCワークショップより Information on Supply Participating Companies Panel of 85 universities worldwide (through global network of Schlumberger recruiters) Information on Demand 38 companies data, representing a panel of: -66,000 Petrotechnical Professionals ("PTPs") -More than 30 mboepd 5 Supporting data to complete and extrapolate the panel 2 1 Research and analysis from Schlumberger, Herold and PFC 2 2 (注)Petrotechnical Professionals=Geologists, Geophysicists & Petroleum Engineers 出所:SPE 2007 benchmark focused on 図1 Supply & Demand of PTPs and has become the SPE reference. 1. 産業のベンチマーキング (1)将来の制約要因 量候補地へのアクセス36%となっており、意外に少ない 図2は、同社が図1に示した世界の石油・ガス探鉱開 結果となっている。以下政治的問題24%、その他24%、 発企業(以下「上流企業」)に対して「将来の事業の制 最後に商品価格のボラティリティ8%となっている。 約となる最大の問題(その克服に企業を挙げて全力で取 り組むことが必要な問題)とは何か」を尋ねた結果を示 (2)石油技術関連学部卒業生の状況 したものである。ここで、注目されるのは、一般に上流 このように将来の問題と考えられている世界の石油技 事業の障害として広く考えられている産油国ナショナリ 術者の現状(労働市場)の供給源はどうなっているか。 ズムによる埋蔵量・生産量候補地へのアクセスではなく、 図3のグラフは、その主たる供給源である2005年現在の 「石油技術者の不足」について調査企業の80%が問題視 大学の石油技術関連学部卒業生数と上流企業の採用予定 したことである。そして次が資機材等の不足64%であ 数を示したものである。グラフから世界全体では数の上 り、次に、コストインフレ52%、4番目に埋蔵量・生産 で供給(卒業生数)が需要(企業の採用予定数)を約3,000 % Companies citing constraints 100% Major deficit Major excess 80% -3,400 2,500 -8,400 60% 40% 1万 6,500 9,900 2,500 -8,500 20% 0% People Equipment Cost inflation Access to Governmental Other acreage issues 出所:SEB Enskilda Constraints and Challenges 図2 for the Oil and Gas Industry Volatility in Commodity prices 出所:SBC O&G HR Benchmark 2005 Ample supply of Petrotechnical 図3 Graduates in the world but many needed relocating *1:米国石油技術者協会(The Society of Petroleum Engineers)の略称。1913 年にAIME(American Institute of Mining, Metallurgical & Petroleum Engineers)の1構成機関として創設されたが、1984年12月独立組織となった。当初はローカルな存在だったが、現在は、世界的な技 術者の協会となっている。本部はテキサス州ダラス市にあり、2008 年1月の会員数は7万9,300 名(内学生1万8,700名)で、115カ国を超える国に メンバーがいる。日本にも SPE 日本支部が 1975 年に設立され、2008 年1月の会員数は 282名となっている。SPE は石油と天然ガス資源開発に 関する技術情報の収集、広報、交換および本産業に携わる個人の技術能力の維持、向上に寄与することを主目的に設立され、年次総会・地域別 会議の開催、機関誌(Journal of Petroleum Technology) ・会報・技術論文・各種教本などの出版、講習会の開催などの幅広い活動分野を持つ (JOGMEC石油・天然ガス用語辞典とSPEホームページ他より)。 29 石油・天然ガスレビュー アナリシス 人ほど上回り、そのまま2015年まで推移しているため、 予定数および実績を示したものである。2005年の調査で 不足はしていないように見える。しかし、地域別に見る は、石油技術者の新卒採用数は当初の4,000人から2010 と2005年現在の供給過剰はアジア(中国を主体とする) 年に2,000人増の6,000人程度を想定していたが、現在の1 の1万6,500人、中南米の9,900人、欧州2,500人、アフリ バレル100ドルを超える油価上昇による業界の好景気を カ2,500人となっており、供給不足が中東では8,500人、 反映してか、原油の需要見通しが前々年と大きく変動す 米国では8,400人、ロシアでは3,400人となっている。世 るとは思えないが、2007年の調査では2005年の4,000人 界的な分布状況には偏りがあり、技術者を移転させる等 から2006年に一気に6,000人増の1万人に達し、2010年ま の施策が必要な状況にあると言える。 で安定的に概ね1万人の新卒採用数を継続する方向に計 おおむ 画は変更されている。 (3)技術者の業務経験 次に卒業後に企業等に進んだ世界の技術者の状況であ ところで、この石油技術者採用計画の前提である大学 卒業生数の将来見通しはどうなっているのだろうか。 る。この業界では技術者の経験は非常に重要で、一人前 と見なされるまでには分野にかかわらず、10年程度の実 Global Demand for Petrotechnical Professionals * 務経験が必要と考えられている。図4は2005年時点の技 Comparison between Recruitment taegets of G&G and PE 2005-2010** 術者の経験年数を基に作成されたものである。 12,000 10,000 8,000 Number of PTPs(equivalent) 6,000 4,000 2,000 0 2005 2006 2007E Demand as per 2005 Benchmark 2005 Years of E&P experience,as per 2005 standard (注)PTPs:Petrotechnical Professionals 出所:SBC O&G HR Benchmark 2006 In 2005,the industry recognised 図4 the demographic challenge (The Big Crew Change) 2008E 2009E 2010E Demand as per 2007 Benchmark *Petrotechnical Professionals=Geologists,Geophysicists & Petroleum Engineers **China excluded, Service companies excluded 出所:2005 and 2007 Schlumberger Business Consulting O&G HR Benchmark Globally, E&P industry has sharply 図5 increased PTP recruitment targets and still plan to sustain it (5)大学の卒業生供給増は遅々 この図から、現在の世界の石油技術者の多くは、20年 図6は、2006年から2010年の間に企業が計画する石油 から30年の経験を有する熟練技術者であり、経験不足に 技術部門の新卒採用予定数と、大学が計画する関連学部 よる問題はほとんど想定されない状況にある。しかし、 卒業生予定数を図に示したものである。左側の図に見ら この熟練技術者が退職する時期には、以後の年代の技術 れるように、企業のジェオフィジシスト(地球物理学専 者数が極端に少ないことから、将来は業務経験の不足に 攻の技術者)およびジェオロジスト(地質学専攻の技術 より、事業遂行に影響が生じ、深刻な問題となる可能性 者)の新規卒業生に対する採用予定数は2006年に約5,000 も考えられる。 人、2010年も約5,000人を計画しており、他方、大学の このように石油技術者にかかわる現在の状況を見てみ 関連学部卒業予定数は2006年に約8,000人、2010年に約 ると、石油開発業界が将来の最大の問題として石油技術 9,000人の計画となっている。これだけを見ると供給(卒 者の不足をとらえている理由が理解でき、喫緊の問題と 業生)が需要(企業の採用人数)を上回っており問題は して対処する必要があることが理解できる。このため早 ないように思われる。しかし、同社では、この卒業生の 期の雇用拡大と現在の若手技術者のスキル向上が必要と 上流業界への就職率を従来の調査実績等から約60%と推 なっている。 測している。この推測が正しいとすれば、企業側の需要 が満たされるかどうかは微妙な状況にあると言えよう。 (4)上流企業の石油技術者の新卒採用計画 また、ペトロリアムエンジニア(石油工学専攻の技術者) 図5は、この将来の問題に対処するため、世界の上流 については企業の採用予定数が2006年に約5,000人、 企業が計画している石油技術者のリクルート (新卒採用) 2010年にも約5,000人となっており、他方、大学の関連 2008.5 Vol.42 No.3 30 もっと石油を、もっとガスを、そのためにもっと熟練技術者を ― 日本の対応策は? ― SBCワークショップより 学部卒業予定数は2006年に約9,000人、2010年に約1万 石油産業の成長性が悲観され、技術者が大量に解雇さ 人が見込まれている。同社は、この分野では上流業界 れた過去と最近のピークオイル論から想定される末期 への就職率を約80%と予想しているため、前述のジェ 的産業(サンセット)のイメージを払拭し、環境に優し オフィジシストおよびジェオロジスト予定数の獲得に く、有用な明るい将来性のある産業というような新たな 比べれば、問題が生じる可能性は少なくなっている。 イメージ構築を図る必要があると考えられる。こうした この傾向は優秀な学生を輩出する大学でもそれ以下の なか、優秀な卒業生を獲得するためには、何が必要とな 大学でもほぼ同様と推測されている。 るのだろうか。 ふっしょく このように将来の大学卒業生の獲得は同業 のみならず、過去の雇用実績がある他の産業 (金融・建設・化学等々)も加わり、激烈な ものになることが予想される。 ちなみに20年前は業界では石油技術者が あふれており、人減らしに苦労していた時 Geosciences* Global Supply vs. Demand 2006-2010 Petroleum Engineers* Global Supply vs. Demand 2006-2010 12,000 12,000 10,000 10,000 8,000 8,000 Actually entering E&P** 期がある。この整理を促進したのが、1998 6,000 6,000 年の英BPの米Amoco買収に始まる多数の 4,000 4,000 M&Aによる統合・合理化であり、以後長き 2,000 にわたった技術者等の人員整理はほぼ完結 した。今の学生たちはこの解雇された技術 者を親とする世代であり、親の世代の技術 者をやめさせた業界という悪印象も就職に 二の足を踏ませる大きな要素となることが Actually entering E&P** 2006 2007E 2008E 2009E 2010E Demand for Geologists & Geophysicists Total Supply of Geologists & Geophysicists Net Supply of G&G(60% entering E&P industry) 2,000 2006 2007E 2008E 2009E 2010E Demand for Petroleum Engineers Total Supply of Petroleum Engineers(PE) Net Supply of PE(80% entering E&P industry) *85 universities selected by Schlumberger worldwide(China excluded) **Schlumberger estimates:60% of Geosciences graduates enter E&P industry, 40% enter other industries;80% of Petroleum Engineering graduates enter E&P industry, 20% enter other industries 出所:2007 SBC O&G HR Benchmark 予想される。特に現代の学生はインター ネットを通じた情報に敏感な世代であり、 The global supply of graduates 図6 appears to meet the Industry's needs 2. 対応策 (1)技術者の不足の克服 とキャリアディベロップメント、そして仕事のやりがい が卒業生を引きつけるのに有効であることが分かる。産 ①卒業生獲得の手段・方法 業イメージについては前述の暗いイメージを払拭すると 図7は、卒業生に就職先の選定理由を尋ねたアンケー ともに、上流産業の将来性を強調し、理解を得ることが トの結果である。この図によれば、産業/会社イメージ 必要と考えられる。ワークショップにおいては参加者か what are the main factors that attract Graduates to your company? Majors Independents NOCs ら、日本国内においては、イメージ戦略に広告企業を利 用し、良好な産業イメージ形成のために、幼稚園児レベ ルも想定した早期のPR活動が必要ではないかとの意見 Career Development Career Development Career Development Job scope/ responsibility Job scope/ responsibility Job scope/ responsibility Industry/ company image Industry/ company image Industry/ company image Package Package Package 置く企業が多いように思われるが、実際の状況はどうだ Lifestyle issues Lifestyle issues Lifestyle issues ろうか。 出所:SBC O&G HR Benchmark 2006 図7 Industry image, career development and job responsibilities are the main factors attracting Graduates 31 石油・天然ガスレビュー も述べられた。 ところで、業界のイメージとしてタフで泥臭いことか ら、当初から女性の獲得を断念し、男性の獲得に重点を ②石油専門家の女性を引きつけることが勝利への戦略と なり得る 図8は、企業内で女性の石油技術者が技術者全体に占 アナリシス める割合を上記2分野に分けて調査した結果である。横 (2)技術者の育成 軸は各企業の石油技術者総数に占める女性の比率を企 このため同社は、現状の企業の訓練・研修が進歩的(革 業ごとに無記名で示してある。アンケートに応じた企 新的)企業・従来型企業の二つのタイプに分け、それぞ 業全体の平均を見ると石油技術者の総数に占める女性 れどのように行っているかを比較している。 の比率は、1割にも満たないことが分かる。一方、個別 企業に目を転じると、企業によっては、ジェオフィジ ①研修への投資 シストおよびジェオロジストの分野で、女性技術者の 図9は2006年の同社による調査で、新卒と中堅の石油 比率が自社の技術者総数の3割にも及んでおり、またペ 技術者に対するタイプ別研修費用の比較である。新卒の トロリアムエンジニアの女性技術者の比率についても2 技術者に対し、進歩的企業が約8,000ドル、従来型(保 割を優に超える企業のあることが分かる。このことか 守的)企業が約5,000ドル、中堅の技術者には進歩的企 ら、女性雇用の拡大を図ることが技術者不足を克服す 業が約6,000ドル、従来型企業が約4,000ドルという投資 る手段として有効であることが分かる。ちなみに同社 傾向にあることが分かった。いずれの場合も進歩的企業 の親会社であるSchlumbergerの日本支社では女性技術 がより多く研修に投資を行っており、さらに新卒の育成 者の比率は2割とのことであり、日本国内でマレーシア プログラム期間でも、進歩的企業の45カ月に対し、従来 国籍の女性技術者を育成した経験もあるとのことで 型企業は15カ月と短期にとどまる傾向のあることが分 あった。 かった。つまり、進歩的企業は従来型企業に比べ、時間 ワークショップでは、女性・外国人を雇用する企業 も資金も多く投じ、より研修・育成に力を入れている。 は開かれた国際的イメージがあり、学生から好意的に また、ノンオペレーター企業(石油開発プロジェクトに とらえられると考えるとの声が多数であった。 おいて、オペレーターを務めていない企業)は人材獲得・ 教育に熱心でない傾向にあるとのことであった。 Female G&G among companies 2% 1% 5% 5% 24% 24% 24% 22% 20% 18% 16% 16% 16% 15% 13% 13% 12% 11% 10% 9% 9% 30% Female PE among companies 25% 18% 15% 13% 12% 12% 11% 10% 10% 10% 9% 8% Weighted 8% 7% average 9% 5% 4% 4% 2% 1% 0% 0% 0% (注)companies on the right bar chart do not correspond vertically to the companies on the left bar chart 出所:SBC O&G HR Benchmark 2006 Attracting female as PTP can be a 図8 winning strategy ③その他 その他、従来の関連学部の学生だけではなく、他の理 ところで、同社は、石油技術者の早期自立のために従 来の教室内での講義形式による研修だけではなく、IT による自学自習およびベストプラクティスの履修とベテ ラン技術者による現場での実地訓練・知識の伝承等々の ブレンド学習*2による研修方法が効果的であると推奨し ている。その実施状況も同社の調査では進歩的企業の 78%に対し、従来型企業では27%という傾向にあること が判明している。 Annual Training costs per Graduate($) Annual Training costs per Mid-career($) Weighted average by number of PTPs Weighted average by number of PTPs Innovatives companies Innovatives companies Conservatives companies Conservatives companies 工系の学生等を対象として雇用の可能性を探ることが想 定される。 だが、企業がこのような手段により、技術者の不足と いう第1の課題を克服できたとしても、この獲得した技 術者を将来のベテラン技術者の不足に対応できるように 育成するという第2の課題に対処する必要がある。 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 出所:SBC O&G HR Benchmark 2006 Innovative companies invest more on 図9 training than Conservative companies *2:ブレンド学習のSBC定義。従来の教室ベースだけの研修ではなく、競争的な育成を目指すため種々の方式(トレーニング、eラーニング、コー チング、知識シェアリング)をブレンド(混合)し、育成プログラムの中に組み込むと同時に、さらに競争的能力を高めるため、特殊な役割を 担う指導者(メンター、トレーナー、コーチ)によって指導・訓練を受ける。さらに専用システムを通じ、この育成過程のモニタリングを行い ながら研修を行っていく方式のこと。 2008.5 Vol.42 No.3 32 もっと石油を、もっとガスを、そのためにもっと熟練技術者を What have been the primary drivers of PTPs productivity in the last 5 years? At what scale is Knowledge Management used in the company? Type of Company Business process improvement/ redesign 56% Innovative Conservative 50% Technology and processes are short term Organisation & drivers to increase productivity of the 5 to 15 company structure year-experienced PTPs 33% 11% Not utilized ― 日本の対応策は? ― SBCワークショップより 11% Large scale 出所:SBC O&G HR Benchmark 2006 46% Application of technology 42% Competency development/ training programs 42% Organisation is an enabler for technology and business process improvements Traning provides benefits at long term 出所:SBC O&G HR Benchmark 2006 In all cases, Knowledge Management Beyond competency development, 図10 in needed to fast-track knowledge 図11 companies must focus on technology, transfer process improvement and organisation が46%(組織変更は技術と業務プロセスの改善を間接的 ②ナレッジマネジメントの使用状況 に助成するものとなる)、次に技術の応用・使用が42% また、同社は、どのような場合でもナレッジマネジメ (技術とプロセスは、5~15年の業務経験の石油技術者 *3 ント が早期の知識移転に有用と考えている。図10に の生産性を向上させるための短期的なドライバーとな 示されているナレッジマネジメント未使用のケースは進 る)、同じく能力開発とトレーニングプログラムが42% 歩的企業が11%、従来型企業では33%で、大規模に使用 (トレーニングは長期の恩恵をもたらす)となっている。 しているケースは進歩的企業が56%、従来型企業では 11%という結果で、ここでも進歩的企業が従来型企業よ ④技術の効果の評価:技術は飛躍的に石油技術者の りも導入に熱心な傾向にあることが分かった。 生産性を改善する ところで、このように技術者個人の能力を育成する複 このように、企業を挙げて注目される熟練技術者の 合的な手段を推進する一方、 「何が過去5年 間において石油技術者の生産性を押し上げ る主因(ドライバー)となったか」という アンケートにより、企業にはこの手段の推 In which areas of business has technology had the biggest impact on PTPs productivity? Seismic imaging Increase and organization of Data management Petrel and similar 進のために、 さらに実施すべきことがあり、 それを行っていることが判明した。 86% Simulation software Giant Reservoir simulation Computing hardware power for larger, more realistic models that run many times faster allowing multiple runs and evaluations 3Dgeological models that better integrate with flow models-moving towards shared earth model Technology for uncertainty analysis Real time down hole pressure and phase rate data Surface controlled chokes - intelligent well completions 64% ③企業の変革(組織・プロセスの改善) Petrel and similar Horizontal well technology Stochastic modeling Management Pressure Drilling 57% 50% その実施すべきことは、技術・プロセ スと組織の改善に焦点を合わせるという ことであり、図11がアンケートの結果を 示したものである。業務プロセス改善ま たは再構築が大きかったとする企業が 50%、以下組織・企業構造と答えた企業 Exploration Reservoir Management Development Drilling & Completion 出所:SBC O&G HR Benchmark 2006 Technology has significantly 図12 improved PTPs’productivity *3:ナレッジマネジメントとは、個人の持つ知識や情報を組織全体で共有し、有効に活用することで業績を上げようという経営手法。この場合の知識・ 情報とは単なるデータである「形式知」だけではなく、経験則や仕事のノウハウといった、普段はあまり言語化されない「暗黙知」までを含ん だ幅広いものを指す。これからの企業経営の重要な要素となると言われており、米国を中心に、対応を急ぐ企業も増えつつある。ナレッジマネ ジメントを浸透させることにより、個人の能力の育成や、組織全体の生産性の向上、意思決定スピードの向上、業務の改善や革新の場の提供が 実現できるとされている。ナレッジマネジメントとは、単なるコンピューターシステムの名称ではなく、システムを利用して業務プロセス全体 を改善することを指している。すなわち、その導入には、個人の知識を組織の知識として生かす仕組みと、知識の共有・適用・学習により新た な知識を創造できるプロセス、そのプロセスを継続できる文化・環境・システムなどが必要とされる。現在運用されている事例では、グループウェ アなどの共有型文書管理ソフトを用いて、営業日報のように個々人が日々蓄積していく文書を組織全体で共有し、事例や方法論についての議論 の場を設けたり、過去の事例を検索できるようにすることによって実現している。人間における視覚の優位性を利用し、多次元、多要素で理解 しにくい情報を、見える形で表現し、理解しやすくさせるもの。原理的にはグラフや図画であるが、ナレッジマネジメントではCGを利用した立 体的で動的な画像を使って表現するケースが多い。石油業界でもスーパーメジャーをはじめとする大企業では3次元、4次元の物理探査技術等で 使用されている(出所:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』他)。 33 石油・天然ガスレビュー アナリシス 養成であるが、企業として、実際に事業のどの分野の 技術が、熟練技術者の生産性に大きな影響を与えたと 評価しているかを示したのが図12である。ここでは、 企業の86%が探鉱(物理探鉱イメージング、データ管 理の組織と増加)、64%が埋蔵量管理(シミュレーショ ンソフトウェア、巨大埋蔵シミュレーション等)を挙げ、 以下57%が開発(水平坑井、ストキャスティックモデ リング等)、50%が掘削と仕上げという評価をしている ことが分かった。 このように企業が技術に重きを置き、新たな技術者 の確保に血道を上げる必要がある一方、自社の技術者 の離職を押しとどめる必要があることはいうまでもな い。それでは「なぜ、技術者は、離職するのか」。 ⑤離職の理由 図13にあるように国際石油企業(IOCs)では「報酬 よりもキャリア向上の機会を求める」、国営石油企業 (NOCs)では「キャリア向上よりも報酬を求める」と いう傾向にあることが分かった。ただし、こうした理 What are the key reasons for PTPs leaving the company? IOCs Lack of career advancements Uncompetitive Package Lifestyle issues Moving to selfemployment NOCs Uncompetitive Package Lack of career advancements Lifestyle issues Moving to selfemployment 出所:SBC O&G HR Benchmark 2006 PTPs leave IOCs for career opportunities 図13 rather than compensation While in NOCs package is critical 由は単に順序が逆というだけであり、企業はこの双方 について対策を講じることが必要である。また、企業 Do you “ rehire ” (as consultants) your PTPs who retire? では管理職・マネジメントが高給となる傾向にあるが、 技術者からは役職ではなく技術力について貢献度に応 48% Used じた評価を望む声が多く、マネジメント並みの給与ま で検討対象とする必要があろう。 ⑥企業の半分が退職した石油技術者を雇用 Considered but not yet implemented 32% 20% Not considered ところで、前提となっている将来の熟練技術者の退 職者であるが、図14には再雇用の実績が示されている。 企業の48%が既に退職者の再雇用をした実績があり、 導入を検討中の企業も32%ある。そして、未検討の企 業はわずか20%に過ぎない状況にある。 出所:SBC O&G HR Benchmark 2006 図14 Half of companies hire retired PTPs ⑦適切な助言者(指導者)としてのシニアの石油技術者 また、このような退職者も含め、シニアの石油技術 者をコーチとすることが彼らの活用に有用な手段とな ると考えられる。図15は、企業において有用と思わ れる適切な助言指導計画を導入する際の主要な障害に ついての調査結果である。筆頭に挙げられているのが 時間の不足で63%であり、以下構造(習慣)の欠如 44%、シニアスタッフにとっての意識・動機の欠如 25%、助言者(指導者)となる経験者の不足19%となっ ている。 What are the main barriers for implementing a successful mentoring program in your company? Lack of time 63% Lack of structure Lack of motivation and implication from the senior staff Lack of experienced staff 44% 25% 19% 出所:SBC O&G HR Benchmark 2006 Focusing Senior PTPs on mentorship 図15 is a useful way to leverage them 2008.5 Vol.42 No.3 34 もっと石油を、もっとガスを、そのためにもっと熟練技術者を ― 日本の対応策は? ― SBCワークショップより 3. 対策実施後の効果:全ての施策を講じた後の経験値曲線の変化 図16は、同社による上記の新卒の獲得、 Number of PTPs(equivalent) 研修の充実等の全施策を実現させた場合の Co Competency Development & Knowledge management 図4に示した経験年数別の石油技術者数を 示す曲線を右側(熟練度がより深い)に大 Technology & Process Retention Semi-retirement 2010 きくシフトさせることが可能になるとの想 After recruitment 定図である。 2005 Demographics of the average US-based company in 2005 0 10 20 30 40 Years of E&P experience, as per 2005 standard 出所:SBC O&G Survey 2006, SBC analysis Rehiring former employees as mentors 図16 extends the experience curve 4. 同社のまとめ (1)世界 トップし、関連学部も消滅する等の事態につながった。 世界的に見て上流産業には、将来性を感じさせる明る このため、その他の関連学部を有する大学との採用関係 い企業イメージの構築と、将来の石油技術者に、業界へ も従前のような良好な関係とは言えないこと、また、世 の職業選択を促すような明確なキャリアディベロップメ 界的な技術者の不足から、野球のメジャーリーグに対す ントを想定させる総合的・包括的な人員獲得(HR)計画 るような志向が同じ業界内で芽生え、日本企業ではなく について大幅な改善を行うことが抜本的に必要である。 外国企業を選択するような傾向が生まれてきていること このため、SPE、AAPG(American Association of 等もあり、日本国内でも雇用の確保は容易ではない状況 Petroleum Geologists:米国石油地質家協会)をはじめ にある(このような事情から日本国内の総数約2,500人 とするすべての技術者協会を通じ、可能性のある全石油 の技術者数の維持は、困難なものと思われる。国内技術 技術者の調査を継続的なリクルートの努力とその維持に 者は50代が多数を占めていることもあり、現状維持の より続けることが必要である。また、上流企業は、学生 ためには、年に30人以上をコンスタントに雇用する必 の雇用への強い誘因となるような最高水準の先進的なト 要がある。特に油層工学系と設備関係には大きな問題が レーニングプログラムを導入することが必要である。 生じる可能性がある。さらに「もっと石油を、もっとガ ・短時間での意思決定が可能な熟練石油技術者養成のた スを、そのためにもっと技術者を」という図式から言え めに競争的な開発プログラムを導入し、可能な限り ば、1,000人以上の技術者の増員が必要となることも十 それを加速させることが必要。 分想定され、そのためには年に50人以上を毎年雇用す ・上流産業における石油技術者のさまざまな経歴・進路 を基に雇用後の可能性について明示することが必要。 ることを想定してもおかしくはないと思われる)。 さらに、石油・ガスの供給に貢献するという日本の社 会に安心と安定をもたらす産業の重要性を強調し、社会 (2)日本 的に理解を得ること、金銭的に豊かな経済的地位を技術 一方、日本については世界的なM&A問題に巻き込ま 者のために確保・維持すること、また、上流産業が将来 れることはなかったものの、石油公団の解散等があり、 にわたり存続し、発展する産業であるとアピールするこ 政策的な指針が変わったことから業界が雇用に慎重な姿 と、等々により企業イメージを大幅に改善することが必 勢になり、大学の関係学部の卒業生採用が約10年間ス 要である。 35 石油・天然ガスレビュー アナリシス ・そして、大学・私企業・政府の関係組織すべてが参加 現在、IFPのミッションは拡大し、環境・輸送・エネ し、「日本企業の活動に必要な石油技術者の供給増・ ルギー分野におけるより効率的・経済的・清浄(クリー 確保を図ること」を目的とする打ち合わせ(ミーティ ン)かつ持続可能な素材と技術の開発を目的としている。 ング)を早急に企画し、その資金供給手段と支援・ IFPは、長期的観点から公共部門での人材育成と産業に 助成手段も含めて検討することが必要である。 対する革新的技術の提供をめざしている。 ・日本の大学は、国際的プロジェクトスキルの要求に応 IFPの全人員は1,745名で、1,067名が研究者(管理職、 じることが可能な、有用な石油技術者を増員するた 技術者)であり、管理者レベルの技術者の概ね半数につ めに、日本の企業が操業中の産油国出身のエンジニ いては博士号を有している。 アに日本への興味を持たせるよう関与すべきである。 企業は、そのために大学への寄付または助成のため のファイナンス、更には講師派遣等が必要であり、 1.研究・開発部門 (1)Technology Business Units 大学と連携・アライアンスを行い、インターン制度、 研究・開発では、下記の3つのTechnology Business トレーニングの方法も検討すべきである。これによ Unitsが、研究開発プログラムを策定し、実行している。 り、企業・大学での技術教育と探鉱・開発の現場を また、このUnitで産業への技術適用可能性について調整 含めた上流技術研究のすべての段階において日本の している。 石油技術者を国際化する試みも同時に行うことが可 ・探鉱―生産 能になる。 ・精製―石油化学 ・機構は、企業間でさまざまに競合するなかで石油技術 ・駆動系(自動車等)のエンジニアリング 者を効果的に配置・配分する調整ができる組織とし て、旧石油公団と同様の役割を担うことが必要であ (2)Research Divisions り、これが日本国内の技術者の効果的配置のために 現在、IFPにはResearch Divisionが11グループあり 最も有用となる。 全グループが結集して、専門的科学技術を発揮できる ・日本企業は、世界中の最高の実績例(ベストプラクティ 体制になっている。高度な科学的技術水準と研究結果 ス)をレビューし、日本の技術者の国際的水準を高 の質とその維持を保証している。また以下の広い分野 めるために、シンポジウムへの参加・受け入れ等を のバランスについても保証している(IFPではその豊 継続的に実施することが必要である。 富な人材から、地質・地化学、物探、油層工学、精製 ・またナレッジマネジメントシステムの使用がコーチン エンジニアリングにおいて、実際の研究・開発業務を グ、助言方式に加え、石油技術者の世代間の知識の in-houseで行うこともあるが、主として外部(国内、 効果的移転・継承を促進する。 国外の石油、自動車業界等)との共同研究という形を とる場合が多い)。 最後に、上記の日本の課題を克服するために大学に ・基礎的技術と技術の適用 とっては、優秀な石油技術者の開発・育成と教育の観点 ・経験的アプローチとモデル化 から、そして企業にとっても同様にリクルートの可能性 ・内的・外的パートナーシップの実施作業 の拡大と歓心を喚起させるため、機構は、フランスの IFPの強みはこの統合的構造のもとで産業をにらん IFPのような有用な研究開発・教育訓練機関の設立調査 だ実用的研究と基礎的研究を結びつけられるところに に着手し、その主体となることを推奨する。 ある。IFPはエネルギー・輸送・環境の分野において 以下は参考のためにIFPの概要を編者がHP等のデー 世界でも有数の研究開発センターである。IFPはその タより作成したものである。 組織の性格上から特許取得を志向しており、現在まで に4万を超える特許をフランスおよび世界で得ている。 【参考:IFPの概要】 そのうち、1万2,652の特許については現在も効力のあ 1944年にIFP(Institut Francais du Pétrole:以下「 る特許となっている。この特許の活用はIFPの子会社 IFP」)はフランス石油産業の技術向上のため研究・開 ISIS(International du Services Industriels et 発とエンジニアの訓練を行う研究・開発・教育訓練機関 Scientifiques)が持ち株会社となっている各分野の専 として設立された。このため、大きく研究・開発部門と 門企業(Technip、CGG、Geoservice等)の活動を通 教育訓練部門に分かれている。 じて関係業界で活用されている。 2008.5 Vol.42 No.3 36 もっと石油を、もっとガスを、そのためにもっと熟練技術者を ― 日本の対応策は? ― SBCワークショップより 現在、IFPは、以下の五つの戦略的研究を優先事項 プログラムは、フランス国内、国外で以下のように として実施中である。 実施されている。 ①温 室効果ガスに対抗するCO 2の捕捉・輸送と地下 貯蔵 ②バ イオマス、天然ガス、石炭そして水素を対象と した輸送燃料の多様化 (1)フランス国内 ・修士号特別プログラム18(内8は英語) 毎年450名の卒業生(Industry Oriented(英語あり) ③省エネで環境に優しい自動車の開発 370名、Research Oriented 80名(仏語のみ))を出 ④化 学・精製技術を用い大容量の環境に優しい輸送 している。プログラムにより若干異なるが探鉱、 燃料と合成化学製品の生産 ⑤石 油・ガスの未開発埋蔵量の探鉱と開発のために 必要な発明と技術の提供(より遠く、より深く、 より効率的、より長期に利用可能な) 石油工学、プロジェクト開発、精製、石油化学、 内燃機関、経営学、石油経済学に関する講義を行っ ている。 ・博士号取得プログラム 150名の博士履修生受け入れが可能な施設を有して このうち、⑤についての最近の主な研究状況として、 いる。現在、55名が受講中である。また、60年の 以下の事項が挙げられている。 歴史での博士論文は1,000にも及んでいる。 ・中東型の断層(ネットワーク)対象のキャラクタ ライゼーションの実施、 ・Totalと協力したアンゴラ大水深鉱区Girassolのモニ ・対外セミナー 企業等に就業中の技術者に対し、教育・訓練のた めに毎年1,000コースを実施している。 タリングスタディー、 ・Schlumbergerの協力で生産予想に関する油田の不 確実性管理のためのソフトウェア(Cougar)を販売 ・CO 2 の封入ケースも含んだ非在来型油田の開発シ ミュレーション開発 ・Totalと協力してで地下5,000m以深の掘削による生 産性向上のための研究(アルジェリアのSonatrach のBerkine basinの評価にも使用) (2)海外 ・インターナショナルプログラム スクールとパートナーシップを結んだ国(アルジェ リア、アンゴラ、イラン、ナイジェリア、マレー シア、ロシア)で、毎年100名程度の受講生を対象 に実施している。 ・大学との提携 スクールは、米国(Colorado, Oklahoma, Texas 2.教育・訓練 A&M等)、英国(Imperial)、ロシア、カナダ、ノ IFPは、IFP School(ENSPM Formation ルウェー、フランスの多くの大学とも提携し、ス Industrie:Ecole Nationale Superieure du Petrole et クールと提携大学双方のディグリー(学位)が得ら des Moteurs=1954年設立。以下「スクール」)におい れるジョイントプログラム等を行っている。 て石油・ガス産業及び自動車産業に関し、理・工学系 卒業者を対象とした専門教育・訓練を実施している。 上記のプログラム修了者の就職率はほぼ100%で、毎 スクールの教育・訓練実施体制は、常勤の教授が40 年50カ国の80を超える企業に就職している。この結果、 名、講師が400名(関連産業界から派遣)、他に100名以 現在では100カ国を超える国に1万1,000人の卒業生によ 上のIFPの研究エンジニアとなっている。学生は、 る人材ネットワークを築いている。 1955年~1985年117~154人という状況から、近年は、 1995年304人、2005年524人と急増している。このうち 3.情報提供サービス 約50%が外国人で40カ国以上から参加している。ま IFPは、エコノミクス・技術・科学分野の第一級の情 た、50~70におよぶ企業(BP、Cepsa、Eni、 報を政策決定者、科学コミュニティ等に提供するために ExxonMobil、NIOC、PDVSA、Pemex、Petrobras、 インフォメーションセンター(図書館)を設置している。 Repsol YPF、Shell、Schlumberger、Saudi Aramco、 8万冊の蔵書と1,100の定期刊行誌の閲覧が可能となって Sonatrach、Total、Valero、他化学、自動車会社)が いる。最新の研究開発についてはその概要を適宜紹介 学生の60~80%を派遣または研究に補助を行うことに するため、オンラインあるいはCD-ROMによるデータ より助成しているとのことである。 提供も実施。205の出版物、国際科学ジャーナル152は 37 石油・天然ガスレビュー アナリシス 上記ISISのデータベース上に公開されている。この他、 ・Advisory Board:17名 Oil & Gas Science and Technologyを隔月誌として発刊 産業代表9名(Shell、Total 2名、Gaz de France、 している。 Schlumberger、CEPSA、BP、Technip、ルノー) と有名大学および研究機関代表の4名ならびに卒業 4.運営経費 生代表の4名(シーメンス、プジョー、Total、Esso IFP全体の運営経費は2億9,940万ユーロで内訳は、国 で勤務中)で構成されている。 家予算から1億6,750万ユーロ、ソフトウェア等の売上げ ・Executive Committee:13名 収入および特許料から9,840万ユーロ、子会社等(Technip General Managementが3名(Chairman&CEO、執 等)の配当から2,660万ユーロとなっている。国家予算 行副社長 2名)、Business UnitsのDirector 5名 については、消費税の石油製品(軽油、ディーゼル、ガ (探鉱・生産担当、精製化学担当、エンジニアリン ソリン)に係る税金の一部が充てられている。 グ担当、教育・訓練担当、産業開発担当)および Executive Member 5名(HR・科学・金融・Lyon 5.管理組織 部署・戦略的使用(deployment)担当)により構 スクールの管理組織は、以下のように、Board of 成されている。 Directors → Advisory Board → Executive Committee となっており、アドバイザリーグループとしてScientific Boardを有している。 ・アドバイザリーグループとしてScientific Board: 15名 フランスを筆頭に英国、ノルウェー、イタリア、 ・Board of Directors:14名 ベルギー、オランダ、米国、ドイツの大学教授他 関係業界代表 9名(Total、Shell、Gaz de France、 教育訓練機関関係者によって構成され、研究開発 CGG-Veritas)とIFP社内代表 2名および政府代表 プログラムの策定や実施状況について学術的見地 3名(産業省、大蔵省、教育省)で構成されている。 から助言が行われている。 編者から一言 SBCの報告は、世界の上流熟練技術者の欠乏が間近 中核の油田サービス業を行い、さらにそのような地域 に迫った危機であることをよく示していると思われ、 に研修センターや研究所等を開設し、重要人物との人 産官学の一体となった取組が早急に望まれるところで 脈を築くのに成功してきたとのこと。また、ロシアに ある。 おいては、三つのロシア企業を買収し、従業員も1万人 残念ながら、対策に画期的なものというわけにはい を優に超えながら、その名高い名称を表に出さないこ かないが、種々の対策の組み合わせが重要と思われる。 とで、ExxonMobil、BP、Shell等と異なり、ロシア側 特に女性技術者の雇用については、男性的な職場のイ との軋 轢を回避する一方、ロシアの大学に所属する研 メージにより、リクルート活動に消極的ととられるこ 究者200人に資金を援助すること等により、最も優秀な とは得策とは思えない。男性的な職場のイメージが強 技術者を獲得することに成功しているとのこと。日本 い軍隊で、米国では世論の変化もあり、戦闘任務に携 では、知名度が低いときに200名もの技術者雇用に成功 わる人に占める女性の割合が1983年のグレナダ侵攻時 していること等々の実績をもつ企業であることから、 には2%だったものが、1989年のパナマ侵攻では4%に。 その子会社である同社は日本企業に多くの有意義な示 そして2005年には14%にも達している状況である。ま 唆をもたらすことが可能なコンサルタントのなかの1社 た、SBCでは、親会社であるSchlumbergerがメジャー と考えられよう。 あつれき も活動できないサウジアラビアやメキシコ等において、 2008.5 Vol.42 No.3 38