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スライド タイトルなし

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スライド タイトルなし
1.連星のリスト
赤経
(2000.0)
赤緯
(2000.0)
等級
(A)
等級
(B)
口径
(cm)
0h 49m.1
+57°49′
3.45
7.51
4
うお
2h 02m.0
+02°46′
4.18
5.21
7
ιCas
カシオペア
2h 29m.1
+67°24′
4.64
6.89
10
5423
αCMa
おおいぬ
6h 45m.1
–16°43′
–1.46
8.49
25
5
6175
αGem
ふたご
7h 34m.6
+31°53′
1.94
2.92
6
6
7724
γLeo
しし
10h 20m.0
+19°51′
2.22
3.47
4
7
8119
ξUMa
おおぐま
11h 18m.2
+31°32′
4.32
4.79
8
8
8630
γVir
おとめ
12h 41m.7
–01°27′
3.48
3.50
25
9
9413
ξBoo
うしかい
14h 51m.4
+19°06′
4.74
6.90
小
10
10157
ζHer
ヘルクレス
16h 41m.3
+31°36′
2.90
5.53
20
11
10417
36 Oph
へびつかい
17h 15m.3
–26°36′
5.05
5.08
小
12
11005
τOph
へびつかい
18h 03m.1
–08°11′
5.24
5.94
8
13
11046
70 Oph
へびつかい
18h 05m.5
+02°30′
4.20
5.99
5
14
11635
ε1 Lyr
こと
18h 44m.3
+39°40′
5.00
6.10
5
15
11635
ε2 Lyr
こと
18h 44m.3
+39°40′
5.23
5.47
5
16
12880
δCyg
はくちょう
19h 45m.0
+45°08′
2.91
6.33
6
17
14636
61 Cyg
はくちょう
21h 06m.9
+38°45′
5.22
6.04
小
18
15270
μCyg
はくちょう
21h 44m.1
+28°45′
4.78
6.09
10
19
15971
ζAqr
みずがめ
22h 28m.8
–00°01′
4.31
4.51
7
No
ADS
星名
星 座
1
671
ηCas
カシオペア
2
1615
αPsc
3
1860
4
・ADSは、R. G. Aitken の “New General Catalogue of Double Stars” の番号を示します。
・赤経・赤緯は、Alan Hirshfeld and Roger W. Sinnott “Sky Catalogue 2000.0” Vol. 2 の
値を採用しました。
・星の等級は、W. S. Finsen and C. E. Worley “Third Catalogue of Orbits of Visual Binary
Stars. 1970” の値を採用しました。
・口径は、連星を分離して見るのに必要な望遠鏡の口径で、天文年鑑(2004年版)の値
を採用しました。
−1−
2.連星について
2004年10月27日
五藤光学研究所 児玉光義
1.はじめに
月のない夜、外に出て空を見上げると、たくさんの星々を見ることができます。無数の星
々の中には、肉眼では一つにしか見えないものが、望遠鏡で眺めると、二つあるいはそ
れ以上の星に分かれて見えるものが少なくありません。そのような星を重星といい、2個な
らば二重星、3個ならば三重星、4個ならば四重星、それ以上ならば多重星と呼びます。
この重星の中には、たまたま同じ方向にあるために接近して見えるものがあり、これを「光
学的重星」または「見かけの重星」といいます。また、物理的な関係で、伴星が主星のま
わりを一定の周期で回っているものは「連星」と呼ばれ、望遠鏡で分かれて見える「実視
連星」と、分光器ではじめて連星と分かる「分光連星」とがあります。連星の星のうち、明る
い方を主星、暗い方を伴星といい、主星をA,伴星をB, C ・・・ と表します。
2.実視連星
実視連星の発見は、二重星観測の結果です。W.ハーシェルに始まり、ウイルヘルム・フ
ォン・ストルーベの系統的な観測によって著しく進展しました。ウイルヘルムの事業は、そ
の子オットー・ストルーベが継承し、また、アメリカのバーナードの献身的な研究によって、
19世紀から20世紀の始めにかけて、二重星は観測天文学の一領域を作りました。
3.二重星のカタログ
二重星の系統的な観測に一生を捧げて、この方面の研究開拓の基礎をつくったのは、ジ
ョージ・ウイルヘルム・フォン・ストルーベ(1793-1864)で、1822年に、Catalogus 795 stllarum duplicium, Dorpat, 1822 を出しましたが、彼はさらに1824年11月から1827年2月まで
の間の129夜に120,000個の星を検査して、2112個の二重星を発見し、これは1827年に、
Cata-logus Novusとして刊行しました。これらの星がストルーベ星で、”∑”の記号で表され
ます。∑星の角距離と位置角の測微計による測定結果は Mcnsurae Micrometricae で、
1837年に刊行されました。また、∑星の 1830.0年元期に対する正確な位置は Positiones
Mediae として 1852年に出版されました。
1838年、ロシア帝室によってプルコワ天文台が設立され、W.ストルーベが初代台長となり
ましたが、二重星の観測は依然として同天文台でつづけられ、さらにその事業はウイル
ヘルムの子オットー・ウイルヘルム・フォン・ストルーベ(1819-1905)によって引き継がれま
した。オットーが発見した二重星の総数は約550個で、そのカタログは1850年に刊行され
ました。これを普通 Pulkowa Catalogue といい、それらの星がプルコワ星で、”Ο∑”の記
号で表されます。(Ο∑は Otto Struve の頭文字をギリシャ文字で表したものです)。二重
星の名称として、∑、Ο∑の記号を付してあるのは、ウイルヘルムとオットー・ストルーベ
のカタログに属する二重星です。
現代における二重星天文学は、シェルボーン・ウェズレー・バーナム(1838-1921)に負うと
ころが多く、写真観測もまた彼に始まります。彼は始めシカゴの一速記者でしたが、アマ
チュア天文家として二重星の観測に献身し、1873年の Catalogue of Eighty-one Double
−2−
Stars Discovered with Six inch Alvan Clark Refractor を最初の業績として、以来半世紀
の間、ディアボーン、ワシュバーン、リック、ヤーキースの各天文台で活躍し、ついに二重
星天文学の第一人者となりました。彼が新しく発見した二重星は 1340個に達し、多くの
二重星カタログを発表しています。最も代表的なものは、A General Catalogue of Double
Stars within 121°of the North Pole, Carnegie Institution of Washington, 1906. です。バ
ーナムが発見した二重星はバーナム星で、”β”の記号が付けられています。
その後の二重星天文学界では、R. G. エイトケンが有名です。彼の二重星のカタログは、
New General Catalogue of Double Stars within 120°of the North Pole, Carnegie
Institution of Washington, 1932. で、これは北極から南緯30°に至る9等級までの二重
星 17180 を含んでいます。現在、いろいろな二重星のカタログに見られる ADS 番号とい
うのは、実はこのカタログの番号のことです。
4.二重星の光度
二重星は、肉眼では一個の星として見えますから、光度は両分星の光量の和に相当しま
す。しかし、望遠鏡で二重星として分離して見たときには、光度も別々に与えなければな
りません。分星の各光度 m1, m2 と全体の光度 m との間の関係は、ポグソンの光度定義
から容易に求めることができます。
いま、光度 m1, m2, m に相当する光の量を、それぞれ J1, J2, J とすれば、
J1/J0 = 10-0.4m1
J2/J0 = 10-0.4m2
J/J0 = 10-0.4m
ここに J0 は m = 0 に相当する光量です。然るに、
J = J1 + J2
これに上の関係を代入すれば、
10-0.4m = 10-0.4m1 + 10-0.4m2
あるいは、
m = m1 ‐ 2.5log{ 1 + 10 0.4(m1-m2) }
(1)
また、逆に m と分星の光度差 m1 ‐ m2 = Δm から m1, m2 を求めるには、
m1 = m + 2.5log( 1 + 10 0.4Δm )
(2)
とします。
5.二重星の観測
二重星で観測するのは、主星に対する伴星の位置角と角距
離です。位置角は、主星から北極に向かう方向を 0°とし、東
(90°)、南(180°)、西(270°)を経て360°まで測ります。
角距離は、主星と伴星の視距離のことです。
昔は、ポジションファイラーマイクロメーター(線測微計)によっ
て測定しましたが、インターネット望遠鏡ではCCDカメラで撮
影した画像を測定すればよいでしょう。
−3−
二重星を分星に分離して見ることができるかどうかは、もちろん望遠鏡の性能によります。
点光源の恒星を望遠鏡で見た時の像には、光の回折干渉によって明暗のリングが生じま
す。二重星の両分星を分離して見ることができる最小限度は、主星の回折像の第一の暗
リングに、伴星の像が入ったときと考えられます。両分星の中心距離は、望遠鏡の口径に
逆比例し、光の有効波長に比例しますが、焦点距離には関係しません。この距離は、望
遠鏡の分解能と呼ばれています。W. R. ドーズによれば、
分解能=11.6″/D
という経験式によって表されます。ここで D は cm で測った望遠鏡の口径を意味し、この
式を「ドーズの限界」といいます。
望遠鏡の性能表
ただし、ドーズの限界は、おおよその標準を与えるもので、実際に二重星を分離して見る
ことができる角距離は、両分星の光度差によって異なります。T. Lewis によれば、
光度がほぼ等しい明るい二重星: 12.2″/D
(6等以上で等級差が 1等以内)
光度がほぼ等しい暗い二重星 : 21.6″/D
(6等以下で等級差が 1等以内)
光度が等しくない二重星
: 41.9″/D
(等級差が1∼5等の場合)
光度が著しく異なる二重星
: 91.4″/D
(等級差が 5等以上の場合)
ということです。従って、両分星の光度差が大きければ大きいほど、分離して見ることが難
しくなります。また、観測者の熟練の度合いによっても、分離して見える限度は著しく異な
ります。例えば、ドーズの限界によれば、口径が 91 cm の望遠鏡の分解能は約 0.13″で
すが、エイトケンのような老練な観測家になると、角距離が 0.09″までの二重星を測定で
きたと言われています。
−4−
6.連星の軌道要素
観測から見かけの楕円軌道がわかれば、それをもとに真の軌道を決定することができま
す。軌道要素は、惑星などの要素と同じように、P、n、T、e、a、i、Ω、ω で示されます。
しかし、太陽に対する惑星の運動ではないので、準拠する面と起点を別にとらなければ
なりません。
P (公転周期)
: 主星に対する伴星の公転周期を年単位で表したもの。
n (伴星の平均年運動): 伴星の運動方向にそって測った、伴星が一年間に動く平
均の角度(360°/P)。
T (近星点通過の時) : 伴星が近星点を通過する年。
e (軌道の離心率)
: 伴星が描く楕円軌道の離心率。
a (軌道の半長径)
: 伴星が描く楕円軌道の半長径。角度の秒で表す。
i (軌道面傾斜角)
: 軌道面と天球面との挟角。
Ω(昇交点の位置角) : 軌道面と天球面の交点の内、伴星が遠ざかる方の位置角。
ω(近星点引数)
: 軌道面にそって昇交点から近星点まで測った角度。
7.連星の位置推算
軌道要素が与えられれば、それをもとに、将来における伴星の位置角と角距離を求める
ことができます。
いま、位置角をθ、角距離をρ、求める年を t とすれば、
n = 360°/P
M = n ( t ‐ T ) = E ‐ e sin E
R = a ( 1 ‐ e cos E )
tan ( v / 2 ) ={( √1 + e ) / (√1 ‐ e )}tan( E / 2 )
tan (θ- Ω)= tan ( v + ω) cos i
ρ= R cos ( v + ω) sec (θ - Ω)
によって位置角θと角距離ρを求めることができます。
ここで、M は平均近点角、R は動径、E は離心近点角、v は真近点角です。
8.連星の質量
実視連星では、真の軌道を天球上に投影したものから軌道要素を算出します。従って、
軌道の大きさ(相対軌道の半長径 a )は、見かけの角度として得られますから、軌道決定
は完全にはできません。従って、ケプラーの第三法則、
a3
P2
=
G
4π2
( M1 + M2 )
−5−
(3)
によって質量を計算することもそのままではできません。実視連星の場合、視差 p が分か
れば、見掛けの半長径 a″と p から真の a が得られます。従って、この a と周期 P を(3)
式に代入すれば、連星の全質量 M1 + M2 は計算できます。
いま、視差を p″とすれば、p″、a、a″の間の関係は、
a=
a″
(4)
A.U.
p″
です。(4)を(3)に代入すれば、M1 + M2 として
M1 + M2 =
4π2
(
GP2
a″
p″
)
3
(5)
しかし、これは連星の全質量ですから、両分星の質量を別々に知るには、質量比、従っ
て、両分星の重心に対する軌道半長径の比を知らなければなりません。即ち、
M1
M2
=
a2
,
a = a1 + a2
a1
質量比を知る一つの方法は、両分星の固有運動を精密に測定することです。シリウスや
プロキオンが良い例で、この場合共通重心は直線運動をするので、分星の固有運動は
蛇行運動をすることになります。従って、両分星の蛇行運動を分析することによって、質
量比を導くことができるのです。いま、その方法を具体的に説明します。
連星の主星を A 、伴星を B とします。A と B の固有運動を別々に観測するために、連星
とは関係のない第三の星 C と比較するのが便利です。C は単独の星ですからもちろん固
有運動は直線的です。いま、A を原点として、B と C の角距離と位置角をそれぞれ
(ρ, θ)と(ρ′,θ′)とします。この時、A を通って位置角 (θ0) と (θ0 + 90°)の方向
を、x 軸と y 軸とする直交座標系における B, C の座標 ( x, y ) と ( x′, y′) は、
x = ρcos (θ- θ0 ),
y = ρsin (θ- θ0 )
x′ = ρ′cos (θ′- θ0 ),
y′ = ρ′sin (θ′- θ0 )
となります。他方、
μ≡
MB
MA + MB
M2
≡
M1 + M2
とおけば、AB の共通重心 O の座標は(μx, μy )です。ところで、この共通重心に対す
る C の固有運動は直線でなければなりません。故に C 運動は、
x′ – μx = a0 + a1 ( t – t0 )
y′ – μy = b0 + b1 ( t – t0 )
}
(6)
で表されます。ここで a0, a1, b0, b1 は定数、t0 は適当に選んだ t の起点を意味します。
−6−
適当な時間間隔と置いて、充分精密に数回のわたって ( x, y ) と ( x′, y′ ) を測定すれ
ば、(6)を解くことによって、未知数 a0, a1, b0, b1 と質量比μを決定することができるはず
です。
この方法を使えば、周期も、その他の軌道要素も必要なく、質量比を求めることができま
す。もちろん、第三の星 C を複数採り、それらの平均を取れば、さらに精密な値が得られ
ます。
9.分光連星の軌道要素
多重連星の場合、主星や伴星が分光連星である場合が多いので、分光連星の軌道要素
について簡単に説明しておきます。
星の視線速度は、ドップラー効果によって知ることができます。即ち、星のスペクトル線の
波長を静止標準スペクトルの波長と比較し、標準スペクトルに対する波長の偏位を知り、
観測者に対する視線速度を計算します。分光連星は、この視線速度が周期的に変化す
ることによって認められます。時間に対する視線速度の変化の様子を曲線として表したも
のを「視線速度曲線」あるいは単に「速度曲線」といいますが、分光連星の軌道要素は、
この視線速度曲線を基にして求められます。しかし、昇交点の方向(実視連星の場合の
Ω)や軌道面の傾斜角 i がわからないので、通常、下記のように表されます。
P
: 周期
T
: 近星点通過の時
K1
: 視線速度曲線の振幅の半分の値
V0
: 連星系全体の視線速度
e
: 離心率
ω
: 近点引数
a1sin i
: 軌道半長径 a と軌道面傾斜角 i は分離できない
f(M2, M1) : 質量関数
10.個々の連星の説明
−7−
10.1 カシオペア座η星(ηCas=ADS 671)
α= 0h 49.1m ( 2000.0 ) δ= + 57°49′
3.45等,黄色 : 7.51等,紫色
発見 : ウイリアム・ハーシェル 1779年 8月17日
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 34.76°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 480年
1889.6年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 268.59°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 11.9939″ Ω (昇交点の位置角) ・・・ 278.42°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 0.75°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.497
カシオペア座のη星は、α星とγ星の間にあるよく知られた周期が480年の連星です。
2005年の位置角は319.37°、角距離は13.03″です。角距離の最大は2125年の14.76″
最小は2370年の4.96″です。2000年以降10年間の位置角と角距離は下記の通りです。
180°
カシオペア座η星
の軌道図
2350
2400
270°
90°
2300
2450
2250
2000
2200
2050
2100
2150
0°
Dorrit Hoffleit “The Bright Star Catalogue” Yale University Observatory, 1982. によれば
視差 p″= 0.176″ですから、軌道半長径 a″から実際の軌道の大きさを計算すると、
a=
軌道半長径 a″
視差 p″
=
11.9939
= 68.1472 AU
0.176
となり、太陽系でいえば、海王星の軌道の2倍よりも少し大きく、冥王星の軌道の2倍より
も少し小さいことがわかります。しかし、軌道の離心率が e = 0.497 と大きいので、
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 34.2781 AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 102.0164 AU
となります。
また、全質量 M1 + M2 は、a と P から直ちに計算できます。即ち、
M1 + M2 =
a3
P2
=
68.14723
4802
−8−
≒
1.4 ◎
また、質量比は、Paul Couteau 著 A. H. Batten 訳 の“Observing Visual Double Stars” に
よればμ= 0.39 ですから、主星 M1 と伴星 M2 のそれぞれの質量は、
M2
μ=
、
M2
0.39 =
M1 + M2
1.4◎
M2 = 0.39 × 1.4◎ = 0.55◎、
M1 = 1.4◎ - 0.55◎ = 0.85◎
従って、太陽よりも少し小さい主星の周りを、太陽の半分ほどの伴星が、最も近づいたと
きでもは、太陽から海王星までの距離よりも少し遠く、最も離れたときは、太陽から冥王星
までの距離の3倍弱という、壮大な軌道で回転していることが分かります。
ところで、連星は、主星に対する伴星の位置(位置角と角距離)を観測するので、太陽の
周りを1個の惑星が回っているようなイメージを持ちます。しかし、連星の場合は、主星と
伴星の質量差が太陽と惑星ほど大きくないので、実際は、下図のように共通重心の周り
に楕円軌道を描いて互いに回転することになります。
180°
カシオペア座η星
の軌道図
2100
2200
主星
2400
270°
2300
共通重心
2000
2000
90°
2300
2400
左の図は、地球から見たときの「見掛けの
軌道」です。軌道要素からも分かるように、
軌道の昇交点の位置角Ωは 278.59°で
真横に近く、軌道の傾斜角 i は34.76°で
すから、主星の方が向こう側に i だけ倒れ
ていることになります。従って、地球から見
ると、一見、主星も伴星も円軌道を描いて
回転しているように見えます。
伴星
2200
2100
0°
180°
右の図は、軌道の真上から見たように変換
したものです。主星も伴星も共通重心の周
りに、互いに楕円軌道を描いて回転してい
ることが分かります。
2100
2200
2400
270°
主星
2300
90°
共通重心
2000
2000
2400
2300
伴星
2200
2100
0°
−9−
しかし、このように軌道がはっきりしてきたにはごく最近のことです。発見されてからしばら
くは、もっと違った軌道が考えられていました。
カシオペア座のη星が連星であることを最初に発見したのは、ウイリアム・ハーシェルで、
1779年 8月17日のことです。その時の伴星の角距離は 11.09″で、位置角は概略 70°
でした。彼は、1780.52年にも角距離を11.46″と観測しましたが、しかし、1782.45年に至
るまで位置角の測定はしていません。また、1803年に位置角を 70.8°と観測しましたが、
その時は角距離を測定しませんでした。最初に位置角と角距離の両方を測定したのは、
ベッセルで1814年のことです。彼の位置角はほぼ正しいものでしたが、角距離はその後
のストルーベの観測よりもかなり小さくなっています。ストルーベ以後、ηCas は多くの観
測者によって観測されるようになりました。
T. J. J. See 著 “Researches on the Evolution of the Stellar Systems” volume 1, 1896. に
掲載された、当時の軌道要素と軌道図を以下に示します。
昔の軌道図
≪昔の軌道要素≫
P
T
a
e
i
ω
Ω
n
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・
(近星点通過の時) ・・・
(軌道半長径) ・・・・・・・
(軌道離心率) ・・・・・・・
(軌道傾斜角) ・・・・・・・
(近星点引数) ・・・・・・・
(昇交点の位置角) ・・・
(平均年運動)・・・・・・・・
195.76年
1907.84年
8.2128″
0.5142
45.95°
217.87°
46.1°
1.83899°
観測の数が少なく、測定の精度もあまり高くなかったので、このような軌道になったものと
考えられます。現在の軌道に当時の軌道を重ねてみると、その様子がよく分かります。
カシオペア座η星
の軌道図
180°
1900
1850
270°
90°
昔の軌道図
1800
1950
現在の軌道図
0°
−10−
10.2 うおα星(αPsc=ADS 1615)
α= 2h 2.0m ( 2000.0 ) δ= + 2°46′
4.18等,白色 : 5.21等,黄色
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 142.24°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 720年
2060.0年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 200.62°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 2.655″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 9.59°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 0.50°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.60
くじら座の首の上で、2匹の魚を結んでいるリボンの結び目にあたる連星で、周期は 720
年です。2005年の位置角は258.33°、角距離は1.43″で、これからは次第に見にくくなり
ます。角距離の最大は2394年の4.17″で、最小は2075年の0.98″です。2000年以降10
年間の位置角と角距離は下記の通りです。
180°
うお座α星
の軌道図
270°
2050
2000
2100
2700
2650
2150
2600
2550
2500
2450
2400
90°
2200
2250
2300
2350
0°
BS カタログによれば、視差 p″= 0.005″ですから、実際の軌道の大きさは、
a=
a″
=
p″
2.655
= 531 AU
0.005
というとてつもなく大きな連星系です。
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 212.4 AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 849.6 AU
また、全質量は、
M1 + M2 =
a3
P2
=
5313
7202
= 288.81 ◎
と巨大です。しかし、残念ながら質量比がわかりませんので、個々の質量は算出できませ
ん。
−11−
10.3 カシオペア座ι星(ιCas AB=ADS 1860)
α= 2h 29.1m ( 2000.0 ) δ= + 67°24′
4.64等,白色 : 6.89等,黄色
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 132.0°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 840年
1550年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 299.0°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 2.27″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 6.3°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 0.42857°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.40
カシオペア座のι星は、δ星とε星を結んで、ε星の方に2倍ほど伸ばしたとことにある
四重連星です。Aに対するBの周期は 840年です。2005年の位置角は 228.91°、角距離
は2.53″で、比較的見易い位置にあります。角距離の最大は2106年の2.70″で、最小は
2368年の0.94″です。2000年以降10年間の位置角と角距離は下記の通りです。
カシオペア座ι星
の軌道図
2100
180°
2200
2000
2800
270°
2300
2700
90°
2400
2600
2500
0°
BS カタログによれば、視差 p″= 0.023″ですから、実際の軌道の大きさは、
a=
a″
2.27
=
p″
= 98.6957 AU
0.023
となり、太陽系でいえば、冥王星の軌道の2.5倍の大きさの、巨大な連星系です。
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 59.2174 AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 138.1740 AU
また、全質量は、
M1 + M2 =
a3
P2
=
98.69573
8402
= 1.36 ◎
です。しかし、残念ながら質量比がわかりませんので、個々の質量は算出できません。
−12−
10.4 おおいぬ座α星(αCMa=ADS 5423)
α= 6h 45.1m ( 2000.0 ) δ= - 16°43′
- 1.46等,白色 : 8.49等,黄色
発見 : オルバン・G・クラーク 1862年 1月31日
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 136.53°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 50.090年
1894.130年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 147.27°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 7.500″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 44.57°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 7.1870°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.5923
シリウスは、おおいぬ座の1等星で全天で一番明るい恒星です。周期が 50.09年の連星
で、2005年の位置角は111.05°、角距離は6.75″で、これから次第に見易くなります。角
距離の最大は2023年の4.11.28″で、最小は2043年の02.54″です。2000年以降10年間
の位置角と角距離は下記の通りです。
おおいぬ座 180°
α星の軌道図
2000
2005
2045
2010
270°
90°
2015
2020
2040
2025
2035
2030
0°
BS カタログによれば、視差が p″= 0.378″ですから、実際の軌道の大きさは、
a=
a″
7.500
=
p″
= 19.8413 AU
0.378
となり、太陽系でいえば、天王星の軌道とほぼ同じ大きさです。
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 8.0893 AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 31.5933 AU
また、全質量は、
M1 + M2 =
a3
P2
=
19.84133
50.0902
≒ 3.14 ◎
また、質量比μ= 0.33 ですから、
M2 = 0.33×3.14◎ = 1.04◎、
M1 = 3.14◎ - 1.04◎ = 2.10◎
−13−
従って、太陽の2倍くらいの主星と、太陽と同じくらいの伴星が、太陽から天王星までの距
離と同じくらい離れて回っていると考えられます。しかし、主星と伴星の質量差が2倍程度
ですから、実際は、下図のように共通重心のまわりに互いに楕円軌道を描いて回転して
いることになります。
180°
おおいぬ座α星
の軌道図
2000
主星
2020
2030
2005
2040
2045
共通重心
2010
270°
90°
2010
2015
2000
2020
2040
2025
2035
2030
伴星
0°
白色矮星(超高密度星)の発見
恒星の絶対光度を縦軸にとり、スペクトル型を横軸にとって星々をプロットした図のことを
『ヘルツッシュプルング・ラッセル図』(以下HR図と記す)といいます。
〈 ヘルツッシュプルング・ラッセル図 〉
〈 シリウスの固有運動 〉
(Russell, Dugan and Stewart “Astronomy” より)
−14−
この HR図において、主系列に属するものが全恒星の大半を占めていて、巨星や超巨星
は、右上、つまり絶対光度が高く温度が低い方から主系列に流れ込むような様相を示し、
主系列の星に比べればはるかに数の少ない星々です。1920年頃までは、早期スペクトル
型の星で、絶対光度が G, K, M 型の矮星と同じように低いものは存在しないと考えられ
ていました。ところが、「全く想像もしなかった新種の恒星」が発見され、それが HR図に登
場して、これまでほぼ間違いないと信じられていた従来の恒星進化論を根本から覆すこ
とになりました。それだけではなく、質量光度関係にも従わない孤立的な存在で、この新
発見の星は、今日では『白色矮星』と呼ばれています。
はじめて白色矮星が発見された星は、おおいぬ座のα星シリウスとエリダヌス座ο2星の
伴星です。これらの星が「これまで全く想像もしなかった新種の恒星」だという理由は、単
に早期スペクトル型の矮星ということだけではなく、驚くべき高密度の星だということにあり
ます。その真相が、特にシリウスの伴星で、次第に明らかになってきたプロセスは、現代
宇宙物理学史上、最も興味ある出来事の一つです。
おおいぬ座のα星シリウスは、全天で最も明るい恒星で、その光度は – 1.46 等級です。
連星の研究が天文学界の重要な研究テーマになっていた19世紀の20年代に、当時の大
望遠鏡をもってしてもシリウスは1個の恒星としか見えず、だれもこの星が連星であるとは
思いませんでした。
ところが、1834年、F. W. ベッセルがこの星の固有運動を詳しく研究したところ、それが直
線運動ではなく、これまで見たこともない蛇行運動をすることを発見しました。その10年後
の1844年に、彼は同様の現象をプロキオンの固有運動にも発見しました。
このような現象の解釈は、運動の法則に照らして考えれば明らかです。つまり、シリウスは
実は単独の星ではなく、おそらく見えない暗黒の伴星を持つ連星で、両分星はその重心
の周りに楕円運動をしていて、連星系全体として空間を走っているから、重心は直線運
動をするけれども、シリウスも伴星も楕円運動をしながら進むことになり、従って、見えてい
るシリウスだけがゼンマイを引き伸ばしたような固有運動をするように見えることになる。こ
れがベッセルの解釈で、もちろん今日の科学からみても正しく、こうして彼はフンボルトに
送った有名な手紙に、
(プロキオンとシリウスは純粋な連星系であり、いずれも見ることのできる星と見えない星
から成ることの確信を固めた。光るということが宇宙にある物体の必然的な性質だと考え
る理由は少しもない。無数の星々が見えるということが、他にも無数の見えない星々があ
ることに反対する論拠とはならない。)
と書いています。
このベッセルの予言が一般に行き渡らなかったのか、観測が信用されなかったのか、当
時の天文学者たちにあまり注目されませんでした。1857年になってようやくC. H. ペーテ
ルスがベッセルの予言を信じ、シリウスの固有運動に関する観測材料を収集整理して軌
道を計算し、以下の要素を得ました。
近星点通過 = 1791.431年
平均年運動 = 7.1865°
−15−
周 期 = 50.01年
離心率 = 0.7994
しかし、まだだれも実際に伴星を眼視的に発見することはできませんでした。さらに1861
年に、T. H. サホードはペーテルスの研究を再検討し、計算をやり直して、1862.1年の位
置角を83.8°と予言しました。つづいてA. アウヴェルスは精密に軌道を決定し、両分星
の質量比も計算して、問題の余地のないことを明らかにしました。しかし、アウヴェルスの
研究結果の発表前に、オルバン G.クラークは、1862年1月31日ディアホーン望遠鏡の新
しい18インチ( 45cm )の対物レンズでシリウスを観測し、サホードの予報位置角の近くに
かすかな伴星を発見しました。そことき彼は、
”Why, father it has a companion!”
と叫んだといわれています。
その後、1864年に発表されたアウヴェルスの軌道要素は、
P
T
a
e
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 49.399年
(近星点通過の時) ・・・ 1843.275年
(軌道半長径) ・・・・・・・ 2.331″
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.6148
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 47.14°
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 18.91°
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 61.96°
また、その後発表された T. J. J. See の軌道要素と軌道図を以下に示します。
P
T
a
e
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 52.20年
(近星点通過の時) ・・・ 1893.50年
(軌道半長径) ・・・・・・・ 8.0316″
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.620
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 46.77°
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 131.03°
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 34.3°
n (平均年運動) ・・・・・・・ - 6.89655°
T, J, J, See “Researches on the Evolution of the Stellar Systems” vol. 1, 1896.
−16−
ところで、距離がわかれば見かけの光度から、その星の出す光の全量を計算することが
できます。しかし、一つ一つの星について計算するのは非常に手間がかかり、また、光の
強さは光度として表すのが便利ですから、全ての星を一定の標準距離にして、見かけの
光度をこの標準距離に換算します。このようにして得られた光度を、『絶対光度』あるいは
『絶対等級』といいます。標準距離は、便宜上10パーセク(視差がちょうど1″の距離)に
選びます。見かけの光度を m 、視差を p″、星の距離を D (パーセク)とすると、絶対等
級 M は、
M = m ‐ 5logD + 5 = m + 5log p″+ 5
で表されます。
従って、シリウスA, B の絶対等級は、
MA = - 1.46 + 5log 0.378″+ 5 = 1.43等
MB = 8.49 + 5log 0.378″+ 5 = 11.38等
となります。
1914年、W. S. アダムスは、ウイルソン山天文台の 口径60 インチ(1.5m)の反射望遠鏡で
シリウスの伴星のスペクトルを観測し、綿密に比較したところ、伴星のスペクトルはシリウス
に似ているが、連続スペクトルの菫色領域で光の褪せ方が、ほんのわずかだが急傾斜を
なすと発表しました。これに対して、数人の天文学者は、伴星の光の少なくとも一部はシ
リウスの反射によるものだろうと示唆しています。しかし、そのために伴星が白色ではない
ということにはなりません。その後、シリウスの伴星のスペクトルは F0 型と判定されました。
こうして、これまで HR図にはなかった白色で非常に真光度の低い星、つまり白色矮星が
発見されたのです。
ところで、単に白色で暗い星というだけなら問題はないのですが、先に求めた伴星の質
量を考えるとき、不思議なことがおこります。実際、シリウスと伴星では絶対等級が10等級
ほど違います。これは、10,000倍の光量の違いに相当します。もし、アダムスのスペクトル
観測が正しければ、両分星の有効温度、従って表面光度もほぼ同じでなければなりませ
ん。表面光度が同じで真光度が 10,000倍違うということは、全表面積がそれだけ違うこと
ですから、体積は 1,000,000倍違うことになります。ところが、シリウスの質量は太陽の 2倍
程度で、伴星の質量は太陽とほぼ同じです。従って、密度は 500,000倍も違うことになり
ます。このような密度の極端に違う2つの星が一つの連星系を作ることは、恒星進化から
見てどんなことになるだろうか? 1920年、 W. W. キャンベルが出した疑問は、このような
ものでした。
1924年、A. S. エデントンは、シリウスの伴星のスペクトルを F0とし 、それに相当する有効
温度を 8,000°として、絶対等級 11.3 から、この星の半径を 18,800km と算出しました。ま
た、質量として 0.85◎を採用し、密度を 61,000gr/cm3 と決定しました。そして、このような
高密度がはたして実在するかどうかは問題があり、充分な実証がなければ受け入れるこ
とはできない。もしこの高密度が真実であれば、一般相対性原理に基づく重力場理論に
よるスペクトル線の赤方偏位、即ちエデントン偏位は非常に大きなものにならなければな
らない。従って、この効果を測定することによって、問題はおそらく解決がつくであろうと
予言しました。
波長におけるエデントン偏位をドップラー効果に対応した視線速度に換算した値を
VE km/sec とすれば、VE は星の質量 M と半径 R 、または M と密度ρ(どちらも太陽を単
位とする)とにより、つぎのように表されます。
−17−
VE = 0.634
M
= 0.634 M2/3ρ1/3
R
この式に M と R(またはρ) の値を入れると、VE = 20km/sec となります。
W. S. アダムスは、早速ウイルソン山天文台の 口径100インチ(2.5m)の反射望遠鏡にシ
ングル・プリズムの分光器を取り付けて撮影した写真を詳しく調査したところ、全てのスペ
クトル線が波長に比例する確定的な赤方偏位を示していることを認め、その研究結果を
1925年に発表しました。
非常に微かなスペクトルですから、波長の正確な測定だけでも相当難しいのに、すぐ近く
に明るいシリウスがあり、その反射光のスペクトルが重なるので、これを分離除去して伴星
だけの正確な偏位を出すのは非常に骨の折れる厄介な作業でした。反射光の影響は、
連続スペクトルでは短波長の方に強く現れ、それとシリウスのスペクトルの吸収線が伴星
の吸収線と重なるために、波長のズレを小さくする効果をきたします。この効果を完全に
除去するのはほとんど不可能に近いのですが、アダムスはシリウスだけの連続スペクトル
と、シリウス+伴星の連続スペクトルの、それぞれの相対強度を記録微光量計で測定比
較するという、非常に巧みな分析をやってのけ、伴星だけのスペクトル線の偏位に相当
する視線速度として、Hβに対して + 26km/sec、Hγに対して + 21、その他いくつかの線
に対して + 22、平均 + 23km/sec を得ました。しかし、これはまだエデントン偏位だけでは
ありません。もし、空間にただ一つの星があるだけであれば、それがエデントン偏位なの
か、実際の視線速度なのかはわかりません。伴星のスペクトル線のエデントン効果がわか
るのは、シリウス系が連星だからです。それには、伴星がシリウスに対してどのような軌道
速度をもっていたかを知る必要があります。これは軌道要素から計算できますが、その値
はちょうど + 4.3km/sec でした。従って、実際のエデントン効果は、+23 – 4.3 = +19km/sec
波長では平均 + 0.32Åの赤方偏位でした。この値は、観測誤差の範囲で見事にエデント
ンの予言と一致します。
エデントンは、その著 “The Internal Constitution of the Stars” の中に、
(アダムス教授は、一つの石で二羽の鳥を殺した、彼はアインシュタインの一般相対性
原理の新しい実証を成し遂げ、また白金よりも2,000倍も高い密度の物質が可能である
だけでなく、実際にこの宇宙に存在するというわれわれの推測を確実にした。)
と書いています。
まとめ
最後に、シリウスの伴星の半径と密度を求めてみることにします。
白色矮星の場合、有効温度とスペクトル型の関係が主系列星のときと同じかどうかわか
りませんが、シリウスの伴星のスペクトル型 F0 に対する有効温度を 7,800°と仮定して
計算を進めることにします。
−18−
いま、有効温度を Te とし、実視絶対等級を Mvis とすると、恒星の半径 R は、
1
5900
log R =
–
Te
Mvis – 0.006
5
= 0.7564 – 2.276 – 0.006 = - 1.5256
∴ R = 0.0298◎ = 0.0298×696,000km = 20,740km
また、伴星の密度は、前述のエデントン偏位を求める式を変形して、
ρ=
M
1.04
=
3
3
R
= 39,299◎ = 39,299×1.411 = 55,451g/cm3
0.0298
因みに、エデントン偏位 VE は、
VE = 0.634
M
R
= 0.634
1.04
= 22.1km/sec
0.0298
となります。
このことから、シリウスの伴星を形作っている物質は、角砂糖1個分で人間一人分の重さ
があることがわかります。
S. W. Burnham “A General Catalogue of Double Stars” part 2, 1906.
−19−
10.5 ふたご座α星(αGem =ADS 6175)
α= 7h 34.6m ( 2000.0 ) δ= + 31°53′
1.94等,青色 : 2.92等,青色
発見 : J. ブラッドレィ と J. ポウンド 1719年
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 115.94°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 420.07年
1965.30年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 261.43°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 6.295″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 40.47°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 0.857°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.33
ふたご座のα星カストルは、双子の兄カストルの頭のところに輝く 1 等星です。昔から有
名な連星で周期は420.07年です。2005年の位置角は 57.06°、角距離は4.23″で、これ
から次第に見易くなります。角距離の最大は2065年の6.35″で、最小は2390年の1.85″
です。2000年以降10年間の位置角と角距離は下記の通りです。
180°
ふたご座α星
の軌道図
2350
2300
270°
2250
2400
90°
2000
2200
2150
2050
2100
0°
BS カタログによれば、視差 p″= 0.067″ですから、実際の軌道の大きさは、
a=
a″
=
p″
6.295
= 93.9552AU
0.067
で、冥王星の軌道の2.4倍の大きさの連星系です。
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 62.9500AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 124.9604AU
また、全質量は、
M1 + M2 =
a3
P2
=
93.95523
420.072
= 4.70 ◎
です。しかし、残念ながら質量比がわかりませんので、個々の質量は算出できません。
−20−
カストルは非常に興味のある多重連星系です。A, B 両分星が短周期の分光連星である
だけでなく、さらに AB から位置角が 164°の方向に 72″離れて 9等の C があり、これが
また短周期の分光連星となっています。従って、カストルは全体としては六重連星です。
実視連星カストルAB 系の軌道要素は、先に W.S Finsen and C. E. Worley の “Third
Catalogue of Visual Binary Stars, 1970” のものを掲げた。それによれば、周期は420.07
年ですから、1719年に発見されてからまだ軌道を一公転していないことになります。従っ
て、軌道のグレードも 3 (Preliminary)となっています。
分光連星であることが最初に分かったのは B 星の方で、1896年にプルコワ天文台の A.
Belopolsky が発見しました。この分光連星をカストルBb、または a1 Gem といいます。A
星の方は、1905年にリック天文台の H. D. Curtis が見付けました。これをカストルAa、また
は a2Gem といいます。Aa, Bb どちらも軌道要素は Curtis が決定しました。
実視等級
スペクトル型
P
T
K1
V0
e
ω
a1sin i
f(M2, M1)
:
:
:
:
:
:
:
:
:
:
カストル Bb
カストル Aa
2.85m
A0
2.928285日
2,416,828.057JD
31.76km/sec
-0.98km/sec
0.01
102.52°
1.279×106km
0.0097◎
1.99m
A0
9.218826日
2,416,746.385JD
13.56km/sec
+6.20km/sec
0.503
265.35°
1.485×106km
0.0015◎
カストルCが分光連星であることは、1920年に W. S. Adams と A. H. Joy が発見しました。
この分光連星は、1日より周期が短く、両分星のスペクトル線が測定できます。軌道要素
は、1926年に Joy と R. S. Sanford が決定しました。
カストル Cc
実視等級
スペクトル型
P
T
K1
K2
V0
e
a1sin i
a2sin i
M1sin3 i
M2sin3 i
:
:
:
:
:
:
:
:
:
:
:
:
9.0m
M1e
0.814266日
2,423,746.524JD
114.0km/sec
126.7km/sec
+ 4.3km/sec
0.0
1.276×106km
1.419×106km
0.63◎
0.57◎
ところで、この星は同時に食連星で、その光度曲線は van Gent によって測定されました。
この光度曲線を分析すると、両分星の光度、軌道半長径 a に対する半径の比、軌道傾
斜角 i を決定することができます。その結果、i = 86.4°、a に対する C と c の半径の比は
−21−
それぞれ 0.195 と 0.175 でした。
ところで、カストルは周期が約 3日、9日、20時間の 3つの分光連星からなる 六重連星系
ですが、系全体の規模や構造、質量分布などはどのようになっているのでしょうか。
まず、一番小規模な Cc 系から考えてみることにしましょう。食連星ということで i = 86.4°
が与えられていてしかも両分星の視線速度も測定されていますので、a1, a2, M1, M2 がす
ぐに計算できます。
a1 = 1.279×106 km、
a2 = 1.422×106 km
a = a1 + a2 = 2.701×106 km = 0.018AU = 3.88R◎
M1 = 0.63◎、
M2 = 0.57◎、
MCc = M1 + M2 = 1.20◎
C, c の半径 R1, R2 は前に与えた a に対する比から、
R1 = 0.195×3.88R◎ = 0.76R◎、
R2 = 0.175×3.88R◎ = 0.68R◎
ここで、1AU = 149.598×106 km、 R◎= 0.696×106 km
こうして見ると、カストルCc は、太陽に比べて、質量が約半分、半径がおおよそ 2/3 の
2つの星が、太陽の直径の約 2倍の距離を隔てて、約 20時間の周期で円軌道運動して
いる連星系であることがわかります。
つぎに、実視連星カストルAB系を考えてみましょう。軌道半長径 a と系全体の質量
MA+MB は M1+M2 として先に求めた通りです。しかし、残念ながら質量比がわからないの
で、そのままでは個々の質量を知ることはできません。そこで、質量光度関係から質量比
を推測してみることにします。H.N.ラッセルとC.E.モーアの質量光度関係の経験式は、
1
3
log M = - 0.0400 { Mbol + 2 log (
Te
) – 5.20 }
5200
ここで、Mbol は輻射絶対光度、Te は有効温度です。
ところで、A, B 両星ともスペクトル型は A0 ですから、有効温度も全輻射光度への補正も
同じではずです。しかも視差が同じですから、見かけの光度の差はそのまま絶対光度の
差になります。そこで、上の公式を A, B 両星に適用してそれぞれの辺を相引けば、
log
MB
MA
= 0.1200 ( mA –mB ) = 0.12 ( 1.94 – 2.92 ) = - 0.1176
MB : MA = 0.7627 ≒ 0.76
これを全質量 4.70◎で振り分けると、
MA + Ma = 2.67◎、
MB + Mb = 2.03◎
もし、この質量が近似的に正しいとすれば、周期がわかっているので、軌道半長径はケ
プラーの第三法則から決定することができます。
−22−
Aa系 : P = 9.218826日÷365.2422 = 0.025240年
a = ( P√MA + Ma )2/3 = ( 0.02524√2.67 )2/3 = 0.119AU
Bb系 : P = 2.928285日÷365.2422 = 0.008017年
a = ( P√MB + Mb )2/3 = ( 0.008017√2.03 )2/3 = 0.051AU
しかし、二つの系の質量分配は、i がわからないので決定できません。ところで、軌道面
の傾きが空間にランダムに分布していると仮定したときの sin3 i の平均値、つまり、最も確
からしい値は、sin3 i = 0.58905 ということですから、これを採用すれば、
Ma3 sin3 i
Aa 系 : f (M2, M1) =
Ma
( MA + Ma ) 2
3
=
( MB + Mb ) 2
3
=
MB + Mb
MB = 1.46◎、
= 0.15
Ma = 0.40◎
Mb3 sin3 i
Bb 系 : f (M2, M1) =
Mb
√0.0015◎
√0.58905
MA + Ma
MA = 2.27◎、
= 0.0015◎
= 0.0097◎
√0.0097◎
√0.58905
= 0.28
Mb = 0.57◎
最後に、AB系とCc系の関係ですが、Cc系はAB系と同じ視差( p″= 0.067″)で、固有
運動の方向と大きさ( μ= 0.198″)も共通です。従って、ABC は一つの大きな連星系で
す。しかし、Cc系の角距離が 72″もあるので、数100年程度の期間では軌道運動を認め
ることはできないと考えられます。いま、仮に i = 0 の円軌道と仮定しても、軌道半長径は
a = 72 ÷ 0.067 ≒ 1,000 AU となり、カストル系全体の質量を 4.7◎ + 1.2◎ ≒ 6◎ とす
れば、公転周期は P = ( 1,0003÷ 6 )1/2 ≒ 13,000年となります。
まとめ
①Aa系 : 質量が約 2◎と 0.4◎の 2つの星が、半径約 1/10AU、離心率 0.5の楕円軌
道を、 9日 5時間 15 分の周期で公転している。
②Bb系 : 質量が約 1.5◎と 0.6◎の 2つの星が、約 1/20AU離れて、ほぼ円軌道を 2日
22時間 17分の周期で公転している。
③AB系 : Aa系と Bb系は、互いに 420年の周期で公転していて、軌道の半径は約
94AU、冥王星の軌道の約 2.4倍、離心率は 0.33、全質量は 4.70◎です。
④AC系 : AB系から約 1,000AUはなれて Cc系があり、公転周期は 10,000年以上と考
えられます。
−23−
⑤Cc系 : Cc系は分光連星でしかも食連星ですから、その構造や質量配分を詳しく知
ることができます。質量が 0.63◎で半径が 0.76R◎の星と、質量が 0.57◎で
半径が 0.68R◎の星の 2つの星が、周期が 19時間 32.5分で、半径が 0.018
AUの円軌道上を公転している。
カストル六重連星系の模式図
Cc 系
Aa 系
Bb 系
−24−
10.6 しし座γ星(γLeo =ADS 7724)
α= 10h 20.0m ( 2000.0 ) δ= + 19°51′
2.22等,オレンジ色 : 3.47等,薄黄色
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 36.368°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 618.56年
1743.32年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 162.544°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 2.505″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 143.243°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 0.5820°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.8426
しし座のγ星は、ししの大鎌の先の方から 4番目、ししのたてがみのところにある周期が
618.56年の有名な連星です。2005年の位置角は 125.31°で、角距離は4.43″です。角
距離の最大は2064年の4.55″で、最小は2360年の0.38″です。2000年以降10年間の位
置角と角距離は下記の通りです。
しし座γ星
の軌道図
180°
2200
2250
2300
2150 2100
2050
2000
2600
2550
2500
2350
2450
270°
90°
2400
0°
BS カタログによれば、視差 p″= 0.022″ですから、実際の軌道の大きさは、
a=
a″
=
p″
2.505
= 113.8636AU
0.022
で、冥王星の軌道の約3倍の大きさの連星系です。離心率が非常に大きく、
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 17.9221AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 209.8051AU
また、全質量は、
M1 + M2 =
a3
P2
=
113.86363
618.562
= 3.86 ◎
です。しかし、残念ながら質量比がわかりませんので、個々の質量は算出できません。
−25−
10.7 おおぐま座ξ星(ξUMa =ADS 8119)
α= 11h 18.2m ( 2000.0 ) δ= + 31°32′
4.32等,黄色 : 4.79等,紫色
発見 : ウイリアム・ハーシェル 1780年 4月19日
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 122.65°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 59.840年
1935.170年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 127.53°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 2.530″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 101.59°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 6.01604°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.414
おおぐま座のξ星は、おおぐまの後ろの左足の爪にあたる星で、周期が 59.84年の連星
です。2005年の位置角は 242.84°、角距離は1.73″で、これから見易くなります。角距
離の最大は2035年の3.10″で、最小は2053年の0.85″です。2000年以降10年間の位置
角と角距離は下記の通りです。
おおぐま座ξ星
の軌道図
180°
2015
2020
2025
2030
2010
2035
2005
2040
270°
2045 90°
2000
2050
2055
0°
BS カタログによれば、視差 p″= 0.137″ですから、実際の軌道の大きさは、
a=
a″
=
p″
2.530
= 18.4672AU
0.137
で、天王星の軌道よりもわずかに小さい連星系です。
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 10.8218AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 26.1126AU
また、全質量は、
M1 + M2 =
a3
P2
=
18.46723
59.8402
です。
−26−
= 1.76 ◎
ξUMaは、ハーシェルが二重星の多くが連星であることを証明するために、両分星の相
対位置の変化を詳しく調査した 6個の連星のうちの一つです。また、ξUMaは、F. Savary
が自分の考えた軌道決定法を最初に適用した星で、従って、軌道要素の決定された第
一号です。
ξUMaは、非常によく観測された連星で、精密な位置測定は 1826年に W. ストルーベが
眼視的に行って以来、今日まで多くの観測データが提供されています。参考までに、観
測から描かれた軌道図を 2つ以下に示します。
T. J. J. See “Researches on the Evolution of the Stellar Systems” vol. 1, 1896.
S. W. Burnham “A General Catalogue of Double Stars” part 2, 1906.
−27−
軌道決定は、眼視観測の資料を基に 1905年に N. E. Norlund が行い、また、1923年に、
W. H. van den Bos が 2公転近くの眼視と写真の全ての観測を集めて計算しました。今日
では、始めに掲げた1967年に発表された W. D. Heintz の軌道が決定的とされています。
“The Bright Star Catalogue” Yale University Observatory, 1982. の視差 p = 0.137″を基
に計算した全質量は前述のとおりです。
ところで、1900年、W. H. Wright が A分星の視線速度が変化することを発見し、この星が
分光連星であることを明らかにしました。一方、Norlund は1905年に軌道要素を決定する
とき、その軌道が単なるケプラー運動だけでなく、約 1.8年の周期で不等性を示し、その
大きさは最大で 0.05″に達することを発見しました。Norlund はこの現象を眼に見えない
第3の星があるためだとしましたが、彼はそのときまだ Wright の分光学的発見を知りませ
んでした。
1908年に、Wright は視線速度の観測から周期を決定し、Norlund の算出した周期と一致
することを明らかにしましたが、さらに van den Bos が詳しい視線速度の研究から周期を
1.8321年と算出しました。こうしてこの連星は、眼視的に測微尺の測定で得られた最も短
周期の眼視連星となりました。この連星を現在、ξUMa Aa と呼んでいます。
ξUMa Aa の眼視軌道要素は 1966年に W. D. Heintz が、分光軌道要素は1928年に
W. H. van den Bos が決定しました。
ξUrsae Majoris Aa
眼視軌道要素
W. D. Heintz
分光軌道要素
W.H. va den Bos
眼視光度 = 4.32 m
P = 1.832年 = 669.14日
T = 1935.410
a = 0.055″
e = 0.56
ω= 326.0°
i = 86.3°
Ω= 326.0°
スペクトル型 = G5V
P = 669.18日 = 1.8322年
T = 2,418,582.0 JD
K1 = 8.0 km/sec.
e = 0.53
ω= 320.0°
V0 = - 15.0 km/sec.
a1 sin i = 62.2×106 km
因みに、眼視軌道要素の e とωは視線速度から決定した値を仮定したものです。眼視軌
道要素を見ると、軌道傾斜角 i が特に大きいことに気付きますが、van den Bos の精密な
観測によれば、食変光の兆候は見られないそうです。
ξUMa は、このようにして三重連星であることがわかりましたが、1918年になってリック天
文台の観測者たちは、ξUMa B の方も短周期の分光連星であることを発見しました。こ
の連星をξUMa Bb と表します。こうしてξUMa は全体として四重連星系を成しているこ
とがわかりました。Bb 系の分光軌道要素は 1931年に L. Berman の決定したものを下記
します。
ξUrsae Majoris Bb
分光軌道要素
L. Berman
眼視等級 = 4.87 m
P = 3.9805日
K1 = 5.00 km/sec.
e = 0.00
スペクトル型 = G0V
T = 2,425,000.000 JD
V0 = - 15.90 km/sec.
a1 sin i = 0.276×106 km
−28−
ところで、四重連星系ξUMa の全質量は、先に求めたように、
MAa + MBb = MA + Ma + MB + Mb = 1.76◎
ですが、この質量は四分星にどのように分配されているのでしょうか。MAa と MBb の質量
比は、Berman によれば 0.77 ですから、
MBb : MAa = 0.77
従って、
MA + Ma = 0.994◎、
MB + Mb = 0.766◎
となります。Aa 系は、眼視と分光両方の要素がわかっているので、A, a の質量を別々に
決定することができます。分光要素から質量関数を計算すると、
f ( Ma, MA ) =
Ma3
sin3 i = ( 10-6.98358 ) K13 P ( 1 ‐ e2 )3/2
( MA + Ma ) 2
= 1.0385×10-7×8.03×669.18×( 1 – 0.532 )3/2
= 0.0217◎
となります。これに、先に求めた MA + Ma = 0.994◎ と i = 86.3°を代入すると、
Ma3 = 0.0217×
∴Ma = 0.278◎、
( 0.994 )2
( sin 86.3°)3
= 0.021575◎
MA = 0.716◎
また、つぎのようにしても計算することができます。眼視要素の a1″ と視差 p から、
a1 =
a1 ″
=
p
0.055
= 0.4015 AU
0.137
これは、分光要素の a1 sin i に i = 86.3°を入れて求めた、
a1 sin i = 62.2×106 km = 0.41578 AU
a1 =
0.41578
= 0.417AU
sin 86.3°
と一致します。
そこで、MA + Ma = 0.994◎ と P = 1.832年から、ケプラーの法則に従って、相対軌道の半
径 a を計算すると、
a = a1 + a2 = ( 0.994×1.8322 )1/3 = 1.494 AU
−29−
これを上の a1 と比較すると、
Ma
MA + Ma
=
a1
a
=
0.417
= 0.279
1.494
Ma = 0.279×0.994 = 0.277◎
MA = 0.994 – 0.277 = 0.717◎
となり、視差を使わずに眼視・分光両要素から出した結果と、視差を用いて a1 を出し、ケ
プラーの法則によって a を計算し、その比較から得た質量比を用いた結果は、完全に一
致します。
また、MBb は軌道傾斜角がわからないので、質量を分配することはできません。質量関数
f は分光要素から 0.0000◎となります。従って、i がよほど小さくないかぎり、Mb は MB に
比べてかなり小さいと考えられます。
最後に、ξUMa Aa 系の 2005年 1月1日( MJD 53371 )から 669日間の軌道図を載せて
おきます。因みに、角距離の最大は 2006年2月28日の 0.078″で、最小は 2006年10月
10日∼11日の 0.002″です。従って、角距離が最大のときでも分離して見るには、口径が
1.5m 以上の望遠鏡が必要です。
おおぐま座ξAa 星
の軌道図
180°
2006年5月16日
2006年2月5日
2005年10月28日
2006年8月24日
2005年7月20日
270°
90°
2005年1月1日
2005年4月11日
0°
−30−
10.8 おとめ座γ星(γVir =ADS 8630)
α= 12h 41.7m ( 2000.0 ) δ= - 1°27′
3.48等,黄色 : 3.50等,黄色
発見 : J. ブラッドレィ と J. ポウンド 1718年 3月15日
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 146.05°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 171.37年
1836.433年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 252.88°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 3.746″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 31.78°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 2.1007°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.8808
おとめ座のγ星は、Yの字型に星が並んでいるところのちょうど、付け根に当たる周期が
171.37年の連星です。2005年の位置角は 236.37°、角距離は0.99″で、これからますま
す見にくくなります。角距離の最大は2090年の5.96″で、最小は2008年の0.38″です。
2000年以降10年間の位置角と角距離は下記の通りです。
180°
おとめ座γ星
の軌道図
2000
2170
270°
90°
2010
2160
2150
2140
2020
2130
2030
2120
2110
2040
2100
2050
2090
2080 2070 2060
0°
BS カタログによれば、視差 p″= 0.099″ですから、実際の軌道の大きさは、
a=
a″
=
p″
3.746
= 37.8384AU
0.099
で、冥王星の軌道よりもわずかに小さい連星系です。軌道の離心率が e = 0.8808 と非常
に大きいので、
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 4.5103AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 71.1665AU
となります。 また、全質量は、
M1 + M2 =
a3
P2
=
37.83843
171.372
です。
−31−
= 1.84 ◎
また、質量比は、Paul Couteau 著 A. H. Batten 訳 の“Observing Visual Double Stars” に
よればμ= 0.49 ですから、それぞれの質量は、M1 = 0.94◎、 M2 = 0.90◎ となります。
従って、実際は太陽よりわずかに小さい 2つの星が、ほぼ同じような楕円軌道を描きなが
ら、最も近づくときは太陽と木星の距離よりも近づき、最も離れるときは太陽と冥王星の距
離の 2倍近く離れながら、下図のように互いに回転していることになります。
おとめ座γ星
の軌道図
2050
2100
主星
2150
2000
2000
共通重心
2150
伴星
2100
2050
T. J. J. See, 1896.
S. W. Burnham, 1906.
−32−
10.9 うしかい座ξ星(ξBoo =ADS 9413)
α= 14h 51.4m ( 2000.0 ) δ= + 19°06′
4.74等,黄色 : 6.90等,紫色
発見 : ウイリアム・ハーシェル 1780年 4月19日
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 140.037°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 151.505年
1909.361年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 23.917°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 4.9044″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 168.100°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 2.37616°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.5117
うしかい座のξ星は、アルクツールスの東約 9°のところにある、色の対比のきれいな連
星です。主星は黄色、伴星は赤味がかった紫色で、ηCas や 70 Oph に非常によく似て
います。周期は 151.505年で、2005年の位置角は 313.20°、角距離は6.35″で、比較的
見易い位置にあります。角距離の最大は2129年の7.23″で、最小は2066年の2.12″で
す。2000年以降10年間の位置角と角距離は下記の通りです。
180°
うしかい座ξ星
の軌道図
2050
2060
2040
270°
2070
2030
2020
2010
2000
2150
2140
2130
2080
2090
2100
2120
2110
0°
1900年頃までは、弓形を描いただけでしたが、比較的正確な軌道が決定されました。
T. J. J. See, 1896.
S. W. Burnham, 1906.
−33−
90°
BS カタログによれば、視差 p″= 0.156″ですから、実際の軌道の大きさは、
a=
a″
=
4.9044
p″
= 31.4385AU
0.156
で、ほぼ海王星の軌道と同じ大きさの連星系です。軌道の離心率は e = 0.5117 と大きい
ので、
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 15.3514AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 47.5256AU
となります。 また、全質量は、
a3
M1 + M2 =
P2
=
31.43853
151.5052
= 1.35 ◎
です。質量比は、Paul Couteau 著 A. H. Batten 訳 の“Observing Visual Double Stars” に
よればμ= 0.46 ですから、主星 M1 と伴星 M2 のそれぞれの質量は、
M1 = 0.73◎、
M2 = 0.62◎
となります。従って、実際は太陽の 2/3 程度の 2つの星が、ほぼ同じような楕円軌道を
描きながら、最も近づくときは太陽と天王星の距離よりも近づき、最も離れるときは太陽と
冥王星の距離の 1.2倍近く離れながら、下図のように互いに回転していることになります。
180°
うしかい座ξ星
の軌道図
主星
2100
2000
2050
共通重心
270°
90°
2050
伴星
2000
2100
0°
−34−
10.10 ヘルクレス座ζ星(ζHer =ADS 10157)
α= 16h 41.3m ( 2000.0 ) δ= + 31°36′
2.90等,黄色 : 5.53等,薄青色
発見 : ウイリアム・ハーシェル 1782年 7月18日
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 131.4°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 34.385年
1933.350年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 291.0°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 1.369″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 228.2°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 10.4697°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.470
ヘルクレス座のζ星は、η星の南 7.3°で、ヘルクレスのお腹のところにあたる星です。
周期は 34.385年で、2005年の位置角は 222.85°、角距離は0.96″で、これから次第に
見易くなります。角距離の最大は2025年の1.59″で、最小は2002年の0.51″です。2000
年以降10年間の位置角と角距離は下記の通りです。
ヘルクレス座
ζ星の軌道図
180°
2010
2015
2005
2020
270°
90°
2025
2000
2030
0°
S. W. Burnham, 1906.
T. J. J. See, 1896.
−35−
BS カタログによれば、視差 p″= 0.102″ですから、実際の軌道の大きさは、
a″
a=
1.369
=
p″
= 13.4216AU
0.102
で、土星の軌道の 1.4大きさの連星系です。軌道の離心率は e = 0.47 と大きいので、
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 7.1134AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 19.7298AU
となります。 また、全質量は、
a3
M1 + M2 =
P2
=
13.42163
= 2.05 ◎
34.3852
です。質量比は、Paul Couteau 著 A. H. Batten 訳 の“Observing Visual Double Stars” に
よればμ= 0.41 ですから、主星 M1 と伴星 M2 のそれぞれの質量は、
M1 = 1.21◎、
M2 = 0.84◎
となります。従って、実際は太陽よりもわずかに大きな主星と、太陽よりもわずかに小さな
伴星の2つの星が、最も近づくときは太陽と土星の距離よりも近づき、最も離れるときは太
陽と天王星の距離ほど離れながら、下図のように互いに回転していることになります。
ヘルクレス座ζ星
の軌道図
180°
2010
2015
伴星
2005
2000
2030
2020
2025
270°
90°
共通重心
2050
2020
主星
2025
2005
2000
2015
2030
2010
0°
−36−
10.11 へびつかい座 36番星(36 Oph =ADS 10417)
α= 17h 15.3m ( 2000.0 ) δ= - 26°36′
5.05等,黄色 : 5.08等,黄色
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 99.18°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 548.7年
1643.48年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 90°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 13.91″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 93.64°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 0.6561°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.90
へびつかい座の 61番星は、さそり座の 1等星アンタレスの東約 9°の天の川の中にある
連星です。周期は 548.7年で、2005年の位置角は 145.15°、角距離は4.99″です。角
距離の最大は2120年の6.43″で、最小は2192年の 0.25″です。2000年以降10年間の
位置角と角距離は下記の通りです。
へびつかい座
36番星の軌道図
2400
180°
2450 2500
2000
2350
2300
2050
2100
2150
2250
270°
90°
2200
0°
BSカタログによれば、視差が p″= 0.188″ですから、実際の軌道の大きさは、
a=
a″
13.91
=
p″
= 73.9894 AU
0.188
で、太陽系の 2倍弱の規模の連星系です。軌道の離心率が e = 0.90 と非常に大きいの
で、
近星点距離 = a ( 1 – e ) =
7.3989 AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 140.5799 AU
となります。また、全質量は、
M1 + M2 =
a3
P2
=
73.98943
548.72
= 1.35 ◎
です。しかし、残念ながら質量比がわかりませんので、個々の質量は算出できません。
−37−
10.12 へびつかい座τ星(τOph =ADS 11005)
α= 18h 03.1m ( 2000.0 ) δ= - 8°11′
5.24等,薄黄色 : 5.94等,薄黄色
発見 : ウイリアム・ハーシェル 1783年 4月28日
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 59.32°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 280.03年
1829.00年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 49.78°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 1.494″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 63.04°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 0.718°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.718
へびつかい座のτ星は、ν星の北東約 2°のところにあるにある、周期が 280.03年の連
星です。2005年の位置角は 285.72°、角距離は1.61″で、これから小口径では次第に
見にくくなります。角距離の最大は2211年の2.07″で、最小は2112年の 0.24″です。
2000年以降10年間の位置角と角距離は下記の通りです。
180°
へびつかい座
τ星の軌道図
2150
2200
270°
90°
2250
2100
2000
2050
0°
T. J. J. See “Researches on the Evolution of the Stellar Systems” vol. 1, 1896.
−38−
10.13 へびつかい座 70番星(70 Oph =ADS 11046)
α= 18h 05.5m ( 2000.0 ) δ= + 2°30′
4.20等,黄色 : 5.99等,薄紫色
発見 : ウイリアム・ハーシェル 1779年 8月 7日
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 121.11°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 87.85年
1895.90年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 13.09°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 4.551″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 301.59°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 4.098°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.50
へびつかい座の70番星は、ちょうどへびつかいの右肩にあるβ星のすぐ東で、 4等星が
3個集まったところの一番東にある星です。周期が 87.85年という速さで有名な連星です。
2005年の位置角は 137.24°、角距離は4.98″で、角距離の最大は2024年の6.75″で、
最小は2077年の 1.54″です。2000年以降10年間の位置角と角距離は下記の通りです。
へびつかい座 180°
70番星の軌道図
2000
2010
2020
2030
2080
2040
270°
2050
90°
2070
2060
0°
T. J. J. See, 1896.
S. W. Burnham, 1906.
61 Cyg と同じような惑星に似た微小暗黒伴星が、偶然にも同じ年に 70 Oph に発見され
ました。実視連星としての軌道要素は、先に掲げたように 1950年 K. Aa. Strand によって
充分精密に決定されています。そこで、BS カタログの視差 p″= 0.201″から a と全質量
を計算すると、
−39−
a=
a″
4.551
=
p″
= 22.6418 AU
0.201
a3
22.64183
=
= 1.50 ◎
P2
87.852
また、Paul Couteau 著 A. H. Batten 訳 の“Observing Visual Double Stars” によれば、質
量比は μ= 0.42 ですから、それぞれの質量は、
MB
= 0.42
μ=
MA + MB
MA + MB =
MB = 0.42×1.50◎ = 0.63◎,
MA = 1.50◎ – 0.63◎ = 0.87◎
となります。
ところで、この星の軌道運動には古くからケプラー運動の外に、周期が 6年から 36年まで
の間の撹乱があるらしく、第三の分星によるものではないかと示唆されていましたが、そ
れを確かめるには観測の精度が足らず、むしろ眼視観測の系統的な誤差ではないかと
いうことで、問題が未解決になっていました。
T. J. J. See “Researches on the Evolution of the Stellar Systems” vol. 1, 1896.
Strand が軌道決定に用いた材料は、ポツダムとヨハネスブルグで撮影した 29枚の対物グ
レーティングを用いた精密なものでしたが、第三の分星の存在を支持するものではありま
せんでした。彼が用いた写真観測は、1915から1922年までと1931年から1935年までの短
期間のものだったからです。そこで、Dirk Reuyl と Erik Holmberg は、Strand の用いた資
料に、マコーミック天文台で観測された 33枚の対物グレーティング、64枚の視差観測プ
レート、合計 97枚の写真乾板上で総計 1,150個の測定を加えて精密な軌道解析を試み
ました。観測を整理した結果、各時期の観測平均位置と Strand の軌道要素から求めた
計算位置との差(Δ)は、第1表と第1図の通りです。
−40−
第1表
70 Oph AB の相対位置
−41−
第1図
70 Oph における第三分星の影響
第1図から明らかなように、系統的なΔの分布が見られることがわかります。しかし、これ
から軌道の離心率を出するまでには行きませんでした。そこで、Reuyl と Holmberg はそ
の軌道を円形と仮定して、Δをつぎのような形に表しました。
Δ = a sin b ( t – t0 ) + c + ( t – t0 )μ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ( 1 )
ここで、第一項は円形軌道に相当し ( b = 2π/P )、 c + ( t – t0 )μは Strand の軌道要素
に対する補正を意味します。
( 1 )式と第1図とを比較して、a, b と t0 の近似値を評価し、さらに( 1 )を微分して、その微
分補正を第1表の材料によって最小自乗法にかけます。こうして得られた定数の値は、
赤 緯
a = 0.015″± 0.002″
P = 17.9 ± 0.7年
t0 = 1925.6 ± 0.6
c = - 0.001″± 0.003″
μ= 0.0005″± 0.0002″
赤 経
a = 0.014″± 0.003″
P = 16.3 ± 0.9年
t0 = 1930.8 ± 0.4
c = - 0.011″± 0.002″
μ= 0.0000″± 0.0002″
これによって、見えない伴星 C を持つ系の重心に対する可視星の円軌道の半径は、約
0.015″、公転周期 17年が得られます。この半径は、70 Oph の視差 p″= 0.201″を用い
ると、0.075AU に相当します。しかし、これは重心に対する軌道で、相対軌道ではありま
せん。それを計算するには、C 分星がA, B どちらに付属しているか知らなければなりませ
ん。しかし、これは 61 Cyg と同じく、これまでの観測材料からは決まりません。A, B の軌
道速度そのものがわずか 0.15km/sec に過ぎず、とうてい C 星の影響が出せそうもないか
らです。
70 Oph の質量は、先に求めたように、MA = 0.87◎、MB = 0.63◎でした。そもで、C が A
に属するものと仮定して、AC 系の軌道半径を P = 17年と MA + MC = 0.87◎からケプラ
ーの法則に従って計算すると、
MA + MC =
a3
P2
=
a3
172
a3
=
289
∴ a (AC) = 6.3AU
−42−
= 0.87◎
従って、
MC
MC
=
MA + MC
=
0.075AU
= 0.0119
6.3AU
0.87◎
∴ MC = 0.0119×0.87◎ = 0.01◎
となります。
また、C が B に属すると仮定すると、
a3
MB + MC =
=
P2
a3
172
a3
=
= 0.63◎
289
∴ a (BC) = 5.7AU
従って、
MC
MB + MC
=
MC
0.63◎
=
0.075AU
= 0.0132
5.7AU
∴ MC = 0.0132×0.63◎ = 0.008◎
となります。
こうして、C の軌道はどちらの場合も木星の軌道よりも少し大きく、質量は木星の質量の
10倍から 8.5倍で、先の 61 Cyg C よりもさらに小さいことがわかります。
また、C 星の相対軌道の半径を視差から視距離に直せば、A または B に属するものとし
て、それぞれ 1.3″と 1.1″となります。従って、C は比較的明るい星で、A や B の光と混
じりあって区別がつかなくなるとは考えられません。それ故、C 星はほとんど光を出さない
暗黒星と見なければなりません。
これまで観測された連星系には、このような伴星を有するものはなく、そのため 70 Oph は
61 Cyg とともに、太陽系の惑星と同じような天体として注目の的となりました。しかし、三
重連星としての 70 Oph は、天体力学に非常に興味ある三体問題を提供します。AC また
は BC 系の軌道半径は 6.3AU と 5.7AU で、これは AB 系の軌道半径 22.6AU に比べて
無視できるほど小さなものではなく、むしろ匹敵する大きさです。従って、C の軌道は相
当不安定であり、周期や軌道の位置や形にも、相当大きな変化があると思われます。
−43−
10.14 こと座ε1 星(ε1 Lyr =ADS 11635 AB )
α= 18h 44.3m ( 2000.0 ) δ= + 39°40′
5.00等,白色 : 6.10等,白色
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 138°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 1165.6年
1152.4年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 165.7°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 2.78″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 29°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 0.3089°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.19
こと座のε1,2 星は、α星とζ星とで三角形を作り7×50 の双眼鏡で同じ視野に入り、オペ
ラグラスでも分離します。光度は4.7等と5.1等で、位置角は173°角距離は207.7″です。
ε1とε2はともに連星で、ε1(AB)は周期が1165.6年です。2005年の位置角は349.04°で
角距離は2.54″です。2000年以降10年間の位置角と角距離は下記の通りです。
180°
こと座ε1星
の軌道図
2400
2500
2300
2600
270° 2200
90°
2700
2100
2800
2000
2900
3100
3000
0°
BSカタログによれば、視差が p″= 0.021″ですから、実際の軌道の大きさは、
a=
a″
2.78
=
p″
= 132.3810 AU
0.021
で、太陽系の 3倍以上の規模の連星系です。軌道の離心率は e = 0.19 とちいさいので、
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 107.2286 AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 157.5334 AU
となります。また、全質量は、
M1 + M2 =
a3
P2
=
132.38103
1165.62
= 1.71 ◎
です。しかし、残念ながら質量比がわかりませんので、個々の質量は算出できません。
−44−
10.15 こと座ε2 星(ε2 Lyr =ADS 11635 CD )
α= 18h 44.3m ( 2000.0 ) δ= + 39°40′
5.23等,白色 : 5.47等,白色
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 120.5°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 585年
1644.5年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 92°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 2.95″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 17.4°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 0.6154°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.49
ε2(CD)は周期が585年の連星です。2005年の位置角は73.43°で、角距離は2.44″で
す。2000年以降10年間の位置角と角距離は下記の通りです。角距離の最大は2351年の
2.67″で、最小は2228年の0.76″です。2000年以降10年間の位置角と角距離は下記の
通りです。
180°
こと座ε2星
の軌道図
2350
2400
2300
2450
2500
2250
2550
270°
90°
2000
2050
2200
2100
2150
0°
BSカタログによれば、視差が p″= 0.021″ですから、実際の軌道の大きさは、
a=
a″
2.95
=
p″
= 140.4762 AU
0.021
で、太陽系の 3倍以上の規模の連星系です。軌道の離心率が e = 0.49 と大きいので、
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 71.6429 AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 209.3095 AU
となります。また、全質量は、
M1 + M2 =
a3
P2
=
140.47623
5852
= 8.10 ◎
です。しかし、残念ながら質量比がわかりませんので、個々の質量は算出できません。
−45−
10.16 はくちょう座δ星(δCyg =ADS 12880)
α= 19h 45.0m ( 2000.0 ) δ= + 45°08′
2.91等,白色 : 6.33等,青色
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 141.51°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 537.31年
1890.0年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 124.47°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 2.561″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 84.22°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 0.670°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.30
はくちょう座のδ星は、大きく広げた翼の北側の風切羽根のところにある連星です。周期
は 537.31年で、2005年の位置角は 215.10°、角距離は2.24″です。小口径の望遠鏡で
はちょっと難しい連星です。角距離の最大は2226年の3.04″で、最小は2408年の1.45″
です。2000年以降10年間の位置角と角距離は下記の通りです。
180°
はくちょう座
δ星の軌道図
2100
2050
2150
2000
2200
2500
2250
270°
90°
2450
2300
2400
2350
0°
BSカタログによれば、視差が p″= 0.030″ですから、実際の軌道の大きさは、
a=
a″
2.561
=
p″
= 85.3667 AU
0.030
で、これまた太陽系の 2倍以上の大規模な連星系です。軌道の離心率は e = 0.30 です
から、
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 59.7567 AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 110.9767 AU
となります。また、全質量は、
M1 + M2 =
a3
P2
=
85.36673
537.312
= 2.15 ◎
です。しかし、残念ながら質量比がわかりませんので、個々の質量は算出できません。
−46−
10.17 はくちょう座 61番星(61 Cyg =ADS 14636)
α= 21h 06.9m ( 2000.0 ) δ= + 38°45′
5.22等,橙色 : 6.04等,赤色
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 55.01°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 653.34年
1676.94年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 147.03°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 24.307″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 171.40°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 0.5510°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.4002
はくちょう座の61番星は、α星デネブの東南約 9°のところにある歴史的に重要で、また
興味ある連星です。1804年にピアジが素早い固有運動であることを見出し「飛ぶ星」と名
づけました。年間 5.22″という速さです。また、1838年にベッセルが初めて視差の測定を
行いました。周期は 34.385年で、2005年の位置角は 151.25°、角距離は30.54″です。
角距離の最大は2068年の32.22″で、最小は2292年の9.45″です。2000年以降10年間
の位置角と角距離は下記の通りです。
180°
はくちょう座
61星の軌道図
2150
2100
2200
2050
2000
2600
2250
2550
2500
270°
2300
90°
2450
2400
2350
0°
S. W. Burnham, 1906.
−47−
61Cyg は、先にも述べたように、視差が最初に測定された星で、 5.22等と 6.04等の比較
的明るい2つの星にわかれていることは、既にブラッドレーの時代から知られていました。
J. ハーシェルの引用によれば、1753.8年の位置角が54°36分で、角距離が19.628″で
あったということです。ハーシェルは、1822年までの約 70年間の測定を集めて得た相対
運動からは結論が出ませんでしたが、G. ピアッジや F. W. ベッセルの測定したこの 2つ
の星の固有運動が非常に大きいことから、この 2つの星が実際に連星であるとしました。
61Cyg AB の両分星の固有運動は正確には同じではありません。A. Auwers の観測によ
れば、A星の固有運動は位置角が 51.52°の方向に μ= 5.191″で、B星では 53.68°の
方向に μ= 5.121″です。そして、1830年以来、多くの観測がなされましたが、ABの相対
運動はほとんど曲率を示さない直線的なものでした。それにもかかわらず、C. F. W.
Peters は 1885年に軌道要素を計算して、
P = 782.6年、
a″= 29.48″、
e = 0.17、
と発表しました。しかし、そのときまで観測された軌道の弧の長さはあまりにも短く、しかも
曲率をほとんど示さないので、これによって軌道要素を計算しても、その結果は到底信頼
できるものではありませんでした。そのため、S. W. バーナムは、1905年になってもまだ
61Cyg は単なる見かけの二重星ではないのかという意見をほのめかしていました。ところ
が、ちょうど同じ年に Oesten Bergstrand は、それまでの観測材料で使用できるものを全
部集め、それに彼自身が 1899年から 1903年までに撮った写真観測を加え、それを分析
して、61Cyg の A, B 星が全く同じ視差を示すだけでなく、B は A に対して凹んだ軌道を
描くことを明らかにし、61Cyg 系が実際に連星であることを証明したのです。このことは、
1910年の F. Schlesinger と D. Alter の研究によって確かめられました。こうして、61Cygは
現在では、最も角距離の大きな、しかも連星系であることが確かめられた一つの例となっ
ています。
暫定的な軌道要素は、P. Baize (1927) と Alan Fletcher (1931) が計算しています。Baise
は図式方法によって、
P = 756年、
a″= 32.8″、
e = 0.013
と出しました。Fletcher は質量光度関係から評価して、全質量を 1.126◎と仮定し、特殊
な解析方法で、
P = 696.63年、
a″= 24.525″、
e = 0.404
を得ました。両者を比較すると、要素には大きな開きがあります。特に前者では、ほとんど
円に近い軌道であるのに対し、後者の軌道は著しい離心率を示します。このことから、こ
のような長周期の連星の軌道要素を、短い弧上の観測から決定することが如何に難しい
かをうかがい知ることができます。とにかく、61Cyg は非常に大規模な連星系であることは
確かで、軌道の平均実半径は 80から 100AU で、最小に見積もっても太陽系の 2倍以上
はあります。
ところで、61Cyg は戦時中、アメリカで “新太陽系の発見” として新聞やラジオのニュース
で騒がれた天体です。1943年、K. Aa. Strand は、ポツダム、リックおよびスプロール天文
台で得られた高精度の多くの写真観測を分析して、二体問題としてのケプラー運動から
周期的にズレることを発見し、これは眼に見えない第三の分星 61Cyg C があるということ
でなければ説明できないと結論しました。スプロール天文台で新しく決定した軌道要素は
P = 720年、 T = 1690、 a″= 24.554″、 e = 0.40
−48−
で、視差 p = 0.294″を用いると、全質量は、
MA + MB = 1.12◎
となります。ところで、実際に観測される A, B 両分星の相対運動は、上記の軌道要素か
ら周期的にズレます。これは、A, B のどちらか一方に見えない伴星 C が付いていて、そ
の系の重心が上記の楕円運動をするためで、そのズレから重心に対する可視分星の軌
道要素を出すことができます。もちろん A, B どちらに C が付属しているかはわかりませ
んが、その周期的な変化から Strand が決定した軌道要素は、
P = 4.9年、 T = 1942.0、 a″= 0.020″± 0.003″(平均誤差)、 e = 0.7
でした。ここで問題は質量分布です。A, B 両分星の光度とスペクトル型は、当時はそれ
ぞれ 5.57m, 6.28m および K6, M0 でした。そこで、理科年表からそれぞれのスペクトル
型に対応する輻射補正を求めると – 0.80m, – 1.2m となります。そこで、両分星の光度に
この輻射補正を加え、p = 0.294″を用いてA, B の全輻射絶対光度を計算すると、
MAV = 5.57 – 0.8 + 5 log 0.294 + 5 = 7.1m
MBV = 6.28 – 1.2 + 5 log 0.294 + 5 = 7.4m
となります。これを基にエデントンの質量光度関係のグラフから 1/3 log M を読み取ると、
1/3 los MA = – 0.079、と 1/3 log MB = – 0.087 となり、MA = 0.58◎、MB = 0.55◎を得るこ
とができます。
輻射補正(2004年版理科年表)
質量光度関係(統計的)
従って、MA + MB = 1.13◎ となり、前記の値 1.12◎ と観測誤差の範囲内で一致します。
しかもA, B の質量比がほぼ 1 ですから、観測からは C がどの星に付属しているかはわか
りませんが、C の質量 MC を決定するには支障はありません。つまり、C の属する系の全
質量は 0.56◎と考えてよく、そうすればこの全質量を用いて相対軌道の半長径は、
a=(
0.020″
0.294″
)×(
0.56
)
MC
これと公転周期 P = 4.9 年から、ケプラーの第三法則によって MC が計算できます。その
結果、
MC = 0.016◎
となります。
−49−
従って、C は A または B のまわりに a″= 0.70″( a = 2.4AU ) の軌道を描くことになりま
す。A または B の軌道運動速度を計算すると約 1km/sec となって、これでは分光連星と
して確かめることはできません。
MC = 0.016◎は、これまで知られている最小質量 0.18◎(クリューゲル60番星B ) よりも約
10倍も小さく、木星の質量のわずかに 16倍にすぎません。こうして Strand は、「暗黒な伴
星は極端に低い実質的発光量を有するに違いなく、星というよりはむしろ惑星と考えた方
がよい。こうして太陽系以外に惑星運動が発見された。」といっていますが、これがわれわ
れの太陽系以外に “新しく太陽系が発見された” というニュースになったものと考えられ
ます。
因みに、最初に掲げた W. S. Finsen and C. E. Worley “Third Catalogue of Vinary Stars”
1970. の軌道要素と、BS カタログによる視差 p″= 0.294″から実際の軌道の大きさを計
算すると、
a=
a″
=
p″
24.307
= 82.6769AU
0.294
となり、冥王星軌道の 2倍の大きさの連星系であることがわかります。また、軌道の離心率
は e = 0.4002と大きいので、
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 49.5896AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 115.7642AU
となります。 従って、この系の全質量は、
M1 + M2 =
a3
P2
=
82.67693
653.342
です。
−50−
= 1.32 ◎
10.18 はくちょう座μ星(μCyg =ADS 15270)
α= 21h 44.1m ( 2000.0 ) δ= + 28°45′
4.78等,白色 : 6.09等,青色
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 76.5°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 507.5年
1962.5年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 340.0°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 4.278″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 289.6°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 0.7094°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.58
はくちょう座のμ星は、はくちょう座の東端でペガスス座との境界線近くにある連星です。
周期は 507.5年で、2005年の位置角は 330.08°、角距離は1.03″です。小口径の望遠
鏡ではちょっと難しい連星です。角距離の最大は2252年の6.53″で、最小は2017年の
0.82″です。2000年以降10年間の位置角と角距離は下記の通りです。
はくちょう座 180°
μ星の軌道図
2350
2400
2450
270°
2100
2300
2250
2200
2150
90°
2050
2500
2000
0°
BSカタログによれば、視差が p″= 0.049″ですから、実際の軌道の大きさは、
a=
a″
4.278
=
p″
= 87.3061 AU
0.049
で、これはδCyg よりもさらに大規模な連星系です。軌道の離心率は e = 0.58 と非常に
大きく、
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 36.6686 AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 137.9436 AU
となります。また、全質量は、
M1 + M2 =
a3
P2
=
87.30613
507.52
= 2.58 ◎
です。しかし、残念ながら質量比がわかりませんので、個々の質量は算出できません。
−51−
10.19 みずがめ座ζ星(ζAqr AB =ADS 15971)
α= 22h 28.8m ( 2000.0 ) δ= - 0°01′
4.31等,黄色 : 4.51等,黄色
発見 : C. マイヤー 1777年
P
T
a
e
≪軌道要素≫
i (軌道傾斜角) ・・・・・・・ 131.25°
(周期) ・・・・・・・・・・・・・・ 856.0年
1957.6年
(近星点通過の時) ・・・
ω (近星点引数) ・・・・・・・ 55.12°
(軌道半長径) ・・・・・・・ 5.055″
Ω (昇交点の位置角) ・・・ 310.22°
n (平均年運動) ・・・・・・・ 14.12°
(軌道離心率) ・・・・・・・ 0.495
みずがめ座ζ星は、γζηπの作る Y 字形の中央の星できれいな連星です。周期は
856年で、2005年の位置角は 184.97°、角距離は2.24″です。天の赤道の近くで2004年
に歳差運動のため赤緯が丁度0°になります。角距離の最大は2265年の6.43″で、最小
は2833年の 1.77″です。2000年以降10年間の位置角と角距離は下記の通りです。
みずがめ座
ζ星の軌道図
180°
2050
2100
2150
2200
2250
2000
2850
2300
2350
270°
90°
2800
2400
2450
2500
2550
2750
2700
2650
2600
0°
BSカタログによれば、視差が p″= 0.022″ですから、実際の軌道の大きさは、
a=
a″
5.055
=
p″
= 229.7727 AU
0.022
というとてつもなく大きな連星系です。軌道の離心率は e = 0.495 と非常に大きく、
近星点距離 = a ( 1 – e ) = 116.0352 AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 343.5102 AU
で、主星と伴星の距離は、近星点で太陽から冥王星の 3倍、遠星点では何と太陽から冥
王星までの 8.7倍になります。また、全質量は、
M1 + M2 =
a3
P2
=
229.77273
8562
= 16.56 ◎
です。しかし、残念ながら質量比がわかりませんので、個々の質量は算出できません。
−52−
S. W. Burnham “A General Catalogue of Double Stars” part 2, 1906.
BSカタログによれば、視差が p″= 0.058″ですから、実際の軌道の大きさは、
a=
a″
1.494
=
p″
= 25.7586 AU
0.058
で、海王星の軌道の 8.5割程度の規模の連星系です。軌道の離心率が e = 0.718 と非常
に大きいので、
近星点距離 = a ( 1 – e ) =
7.2639 AU
遠星点距離 = a ( 1 + e ) = 44.2533 AU
となります。また、全質量は、
M1 + M2 =
a3
P2
=
25.75863
280.032
= 0.22 ◎
です。しかし、残念ながら質量比がわかりませんので、個々の質量は算出できません。
−53−
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