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アーカイブズのアクセスに関する欧州の方針
2011/10 アーカイブズのアクセスに関する欧州の方針 国立公文書館統括公文書専門官室公文書専門官 小原 由美子 おはら・ゆみこ はじめに 先 日 行 わ れ た 当 館 主 催 の 研 修 で、 諸 外 国 の 公 文 書管理の講義を担当したところ、多くの受講者か ら諸外国の公文書館の所蔵資料の公開原則につい て質問を受けた。「公文書等の管理に関する法律」 ブズのアクセスに関する方針を取り上げ、その内 容について概説したい。 1. 欧 州 評 議 会「 ア ー カ イ ブ ズ の ア ク セ ス に関する欧州の方針」について 欧 州 評 議 会 は「 人 権、 民 主 主 義、 法 の 支 配 の 分 (以 下「 公 文 書 管 理 法 」 と い う。) 施 行 後、 国 立 公 野で、国際社会の基準策定を主導する汎欧州の国 文書館等には、特定歴史公文書等の利用請求があっ 際機関」1 として 1949 年に成立した国際機関で、フ た場合、利用制限事由を除き利用させる義務が生 ランスのストラスブールに本部を置く。加盟国は じた。 法 の 施 行 に よ っ て、 国 立 公 文 書 館 等に お け 2011 年 8 月 現 在、EU 全 加 盟 国、 旧 ユ ー ゴ 諸 国、 る所蔵資料の利用の位置づけ、公開・非公開のルー ロシア、ウクライナ、トルコを含む 47 か国で、日 ルが変わったことから、この問題についての関心 本 は ア メ リ カ、 カ ナ ダ、 メ キ シ コ、 バ チ カ ン と 共 が 高 ま っ て い る よ う に 見 受 け ら れ る。 前 号 で は、 に「オブザーバー国」となっている。 「ICA30 年原則制定の背景」として、1968 年の国際 公文書館会議(International Council on Archives, 欧 州 評 議 会 で は、 こ れ ま で に 情 報 ア ク セ ス の 分 2 野で以下のような基準を策定している。 以 下「ICA」 と い う。) マ ド リ ッ ド 大 会 で 30 年 原 1)No R(2000)13 2000 年 7 月 13 日 アーカイ 則が採択されるまでの経緯や、イギリスにおける ブ ズ の ア ク セ ス に 関 す る 欧 州 の 方 針 50 年原則から 30 年原則への改正について取り上げ (Recommendation on a European policy on た。 諸 外 国 で は、 ア メ リ カ で 情 報 へ の ア クセ ス が access to archives) 市民の権利として法制化されるのとほぼ同時期に、 2)No R(2002)2 2002 年 2 月 21 日 公 文 書 の 政 府 の 透 明 性 を 維 持 し 説 明 責 任 を 全 う す る た め、 アクセスに関する勧告(Recommendation on 公文書の公開の促進及び公開制限の緩和が議論さ access to official documents) れ、 イ ギ リ ス を は じ め と す る 複 数 の 国 で、公 文 書 3)No R(2003)15 2003 年 9 月 9 日 法 的 部 門 の作成から 30 年が妥当な公開年限として法制化さ の電子文書のアーカイビングに関する勧告 れたこと、1968 年の ICA 大会の公文書のアクセス (Recommendation on archiving of electronic に関する決議でも 30 年という年限が明記され、30 documents in the legal sector) 年原 則 が 確 立 さ れ た こ と、 最 近 で は、 電 子 政 府 化 4)CETS No.:205 2009 年 6 月 18 日 公 文 書 の進展とともに 30 年という公開年限はさらに短縮 の ア ク セ ス に 関 す る 条 約(Convention on されつつあることを紹介した。 access to official documents) 本 号 で は、 海 外 の 公 文 書 の 公 開 に 関 す る 重 要 な 以下、最も公文書館に関係が深い 1)の「アーカ 基 準 と し て、 国 際 機 関 の 1 つ で あ る 欧 州 評 議 会 イブズのアクセスに関する欧州の方針」(以下「No (Council of Europe)が 2000 年に定めたアーカイ R(2000)13」という。)について、紹介していきたい。 64 アーカイブズ 45 号 な お、2) は 公 文 書 の 情 報 公 開 に 関 す る 勧 告、3) が勧告として採択した。勧告には法的拘束力は無 は法律で保存が義務づけられている文書が電子媒 いが、欧州評議会の最高意思決定機関である閣僚 体である場合の保存管理に関する勧告である。ま 委員会採択の方針として、加盟各国に影響力を持 た、 最 後 の 公 文 書 の ア ク セ ス に 関 す る 条 約 は、 つ。 ア ー カ イ ブ ズ の ア ク セ ス に 特 化 し た、国際機 2009 年にノルウェーのトロムソで採択された情報 関による初めての公式な国際標準と位置づけられ 公開に関する条約で、2)の勧告から発展したもの ている。 である。10 カ国以上の批准で発効することになっ ており、2011 年 9 月現在 11 カ国で署名され、内 3 3 カ国で批准されている。 No R(2000)13 に つ い て は、2005 年 に 欧 州 評 議 2. No R(2000)13 が定める原則 勧 告 の 内 容 は、 本 稿 末 尾 に 参 考 資 料 と し て 掲 げ る仮訳のとおりで、付録において具体的に用語定 会 出 版 か ら「 ア ー カ イ ブ ズ へ の ア ク セ ス: ア ー カ 義 と 11 の 原 則 を 定 め て い る。 ハ ン ド ブ ッ ク で は、 イ ブ ズ の ア ク セ ス に 関 す る 欧 州 の 方 針 No 原 則 の 内 容 を 分 析 し、 ⑴倫 理 的 原 則 ⑵手続的原 R(2000)13 の 実 施 の た め の ガ イ ド ラ イ ンに 関 す る 則 ⑶ 技 術 的 原 則 の 3 つ に 分 け て 内 容 を 説 明 し て ハ ン ド ブ ッ ク 」( 以 下「 ハ ン ド ブ ッ ク 」 と い う。) いる。以下、この分類に従って紹介する。 4 が出されている。 編者は長く ICA 事務総長を務め た Charles Kecskeméti と、ハンガリーのデータ保 ⑴倫理的原則 護及び情報公開の専門家で議会顧問を務めたこと 1 公文書へのアクセスは 1 つの権利である。 もある Iván Székely である。ハンドブックの構成 2 ア ー カ イ ブ ズ へ の ア ク セ ス 権 は 全 て の 利 用 は、No R(2000)13 の内容解説と、勧告実施のため のガイドライン、No R(2000)13 に沿った法令規則 が無い国においてこの方針を実施していくための ガイドライン、2000 〜 2004 年に行われた欧州にお けるアーカイブズのアクセスに関する調査結果等 からなる。以下の No R(2000)13 に関する記述は、 ハンドブックの解説に基づくものである。 1990 年代にベルリンの壁の崩壊、冷戦の終結を 者に与えられるべきである。 3 ア ク セ ス 制 限 は、 公 共 の 利 益 を 守 る た め に 必要である。 4 ア ク セ ス 制 限 は、 私 人 を 保 護 す る た め に 必 要である。 5 す べ て の ア ク セ ス 制 限 は 有 期 限 と す る べ き である。 6 公 開 を 制 限 さ れ た 文 書 へ の ア ク セ ス に つ い 経験した欧州では、東欧・中欧の民主化の過程で、 ては、全ての利用者に対して同じ条件が適用さ 共産主義政権下で迫害された人々への補償問題や、 れるべきである。 新しい民主主義国家の建設において、アーカイブ 公 文 書 管 理 法 第 16 条 で は、「 国 立 公 文 書 館 等 の ズ が 重 要 な 要 素 で あ る、 と の 認 識 が 広 まっ た。 共 長は、当該国立公文書館等において保存されてい 産主義時代は党が様々な記録を独占し非公開とし る特定歴史公文書等について ...(中略)... 利用の請 てきたことから、欧州評議会では旧共産圏の公文 求 が あ っ た 場 合 に は、 次 に 掲 げ る 場 合 を除き、こ 書 館 制 度 の 民 主 化・ 近 代 化、 特 に ア ー カイ ブ ズ の れを利用させなければならない。」としており、国 アクセスに関するルールの確立に取り組み、1994 立公文書館等の所蔵する特定歴史公文書等の利用 年から 1998 年にかけて、旧共産圏諸国を含む欧州 に つ い て、 具 体 的 権 利 と し て 規 定 し、 行政不服審 各国のアーキビストや歴史研究者、法律専門家た 査制度や行政訴訟の対象であることを明確にして ちが調査や議論を重ねた。アーカイブズのアクセ いる。本勧告においても、付録第 5 条において、 「公 スに関する欧州の方針案は 1997 年はじめに草案が 的 ア ー カ イ ブ ズ(public archives) へ の ア ク セ ス 欧 州 評 議 会 に 提 出 さ れ、 協 議 の 末 2000 年 7 月 13 は 1 つ の 権 利 で あ る。 民 主 主 義 の 価 値 を 尊 重 す る 日 の 第 717 回 閣 僚 代 理 会 合 に お い て、 閣 僚 委 員 会 政治システムにおいては、この権利は国籍、身分、 65 2011/10 肩書きを問わず、全ての利用者に与えられるべき 非公開期間を設ける場合を併記している。特定の である。」と明記している。(なお、public archives 非公開期間を設定する場合には「20 年から 30 年を は「 公 文 書 」 と 同 義 で あ る と 考 え ら れ る が、 本 勧 越 え な い 」 こ と と し て い る。 ま た、 公 文 書管理法 告の用語定義に小文字で始まる archives に関する にも利用制限事項として挙げられている国の安全、 定義があることから、小文字の archives について 公共の秩序に関する文書については、最長 50 年を は 全 て「 ア ー カ イ ブ ズ 」 と 訳 し、public archives 非 公 開 期 間 と し て い る。 個 人 情 報 に 関 し ては、情 は「公的アーカイブズ」と訳出した。) 報の内容ごとに年限を定めることとし、年限の設 勧 告 本 文 に は、 公 開 原 則 に つ い て は、 ア ク セ ス け 方 と し て、「 フ ァ イ ル 完 結 後 10 〜 70 年 」「 当 該 を制限する場合は無期限ではなく、制限期間を示 個 人 の 生 誕 か ら 100 〜 120 年 」 と い う 例 が 挙 げ ら して制限しなければならない、としているのみで れている。 特定の年限は明記されていないが、ハンドブック 我 が 国 の 現 状 に 照 ら し て み れ ば、 こ こ に 掲 げ ら に収録されている勧告のコメンタールの第 7 条に れた倫理的原則の 1から4については、公文書管 は以下のような記述がある。 理法の規定によって原則を満たしていると言えよ 一部の国々では、公的アーカイブズは特段の制 う。5については、同法第 16 条第 2 項に、利用を 限 な く 公 開 す る、 と 定 め、 ア ク セ ス の 権 利 を 制 制限すべき情報かどうかの判断においては「時の 限するのは、国の安全、外交政策、公共の秩序、 経 過 」 を 勘 案 す る、 と い う 規 定 が あ る も のの、利 個人のプライバシーの観点から秘密を維持する 用制限が有期限かどうかは、条文には明記されて 必 要 が あ る 場 合 の み と し て い る。 こ の 場 合、 一 いない。6については、第 24 条の「移管元行政機 般に適用される非公開期間は設けられていない。 関 等 に よ る 利 用 の 特 例 」 が 原 則 に 反 す る か 否 か、 このような事例があてはまらない場合には、歴 検討が必要だと思われる。 史 的 知 識 へ の 権 利 と、 国 家 の 利 益 や 個 人 の プ ラ イ バ シ ー の 保 護 と の バ ラ ン ス を 保 つ た め、 以 下 の よ う に、 適 切 な ア ク セ ス 制 限 の 期 限 の 範 囲 を 設けることも可能である。 a. 一般の非公開期間は、通常 20 年から 30 年 を越えないものとし、公開することにより国 家や個人の利益を害さない文書又は文書群に ついて、自動的に適用する。 b. 外交、防衛、公共の秩序の維持に関する文 ⑵手続的原則 1 ア ー カ イ ブ ズ へ の ア ク セ ス に 影 響 を 及 ぼ す 法 令 や 規 則 は、 互 い に 整 合 性 を 持 つ べ き で あ る。 2 公 的 ア ー カ イ ブ ズ へ の ア ク セ ス は 国 内 全 域 で同じ規則に拠るべきである。 3 全 て の ア ク セ ス 制 限 は 法 律 に 基 づ い て 行 わ れるべきである。 書又は文書群については、より長い非公開期 4 利 用 者 に は、 ア ク セ ス 制 限 の あ る 文 書 に 対 間を設けるが、通常 50 年を越えないものと し、アクセスの特別許可を求める権利、請求が する。 拒否された場合に不服申立てを行う権利が与え c. 私人に関する秘密にすべき法的措置、納 税、医療、その他の詳細事項を含む文書又は 文書群については、個別に非公開期間を設け る。(例えば、ファイル完結から 10 〜 70 年、 当該個人の生誕から 100 〜 120 年等) ここでは、加盟各国の法令の多様性に配慮し、公 られる。 5 ア ク セ ス や ア ク セ ス の 特 別 許 可 の 拒 否 は 書 面で行われなければならない ア ー カ イ ブ ズ の ア ク セ ス に 関 係 す る 法 令の例と し て は、 過 去 の 情 報 機 関 の 記 録 に 関 す る 法律、情 報 公 開 法、 機 密 法、 デ ー タ 保 護 法、 著 作 権 法 等 が 文書館等に移管された文書は原則公開として特定 挙げられている。アクセスの特別許可については、 の公開年限を定めないこととする場合と、特定の 通 常 は 公 開 が 制 限 さ れ て い る ア ー カ イ ブ ズ で も、 66 アーカイブズ 45 号 本人情報へのアクセス請求や、研究者が学術研究 目的で制限情報の利用請求を行う場合については、 特別許可を求める権利及び不服申立てを行う権利 を与えるべきである、と解説している。 公文書管理法施行の意義は大きいと言えよう。 3. 勧告の順守に関する 2000 〜 2004 年の 調査 欧州評議会では、勧告採択後、2000 〜 2004 年に ⑶技術的原則 1 公 文 書 や そ の 検 索 補 助 資 料 の 閲 覧 は 無 料 で 行われるべきである。 2 全 て の 検 索 補 助 資 料 は 利 用 者 が 利 用 可 能 な 状態にするべきである。 3 ア ー カ イ ブ ズ 関 係 機 関 は、 全 面 公 開 の 文 書 については、利用者の研究テーマに沿わないと かけて複数回調査を行い、加盟各国の勧告の実施 状況を調べ、その結果をハンドブックに掲載して いる。国立公文書館や専門団体、NGO 等を対象と した調査であるが、ここでは国立公文書館につい ての主な調査結果を紹介したい。 回答国:47 機関中 41 カ国 42 の国立公文書館が回答。 ア ル バ ニ ア、 ア ン ド ラ、 ア ル メ ニ ア、 オ ー ス ト 思われるものであってもアクセスを拒否しては リア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、ベルギー、 ならない。 ボ ス ニ ア・ ヘ ル ツ ェ ゴ ビ ナ、 ブ ル ガ リ ア、 ク ロ 4 利 用 者 は、 一 部 の み 公 開 で あ る 場 合 に は そ の旨通知されなければならない。 ア チ ア、 キ プ ロ ス、 チ ェ コ、 デ ン マ ー ク、 エ ス ト ニ ア、 フ ィ ン ラ ン ド、 ド イ ツ、 ギ リ シ ャ、 ハ 5 私的アーカイブズへのアクセスについても、 ンガリー、アイスランド、イタリア、ラトビア、 公的アーカイブズのアクセスに準じて規定を設 リ ヒ テ ン シ ュ タ イ ン、 リ ト ア ニ ア、 ル ク セ ン ブ けるよう努めるべきである。 ルグ、マルタ、モルドバ、オランダ、ノルウェー、 検索補助資料とは、台帳や索引、参考書のほか、 ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、 通常欧米の公文書館等で作られている記述式の目 サ ン マ リ ノ、 セ ル ビ ア・ モ ン テ ネ グ ロ、 ス ロ バ 録 等 を 指 し て い る。 こ れ ら に つ い て、 無 料 で 誰 で キア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、ス も 利 用 可 能 な 状 態 に す べ き で あ る、 と し て い る。 イス、トルコ、イギリス(abc 順) 目録等により資料の存在が明らかにならない限り、 ⑴勧告と国内法との整合性 利用者が利用請求を行うこともできないことから、 ◦国内法が全てに適合:22 ほとんど適合:12 アーカイブズのアクセスには目録等の整備が不可 一部適合:4 全く適合していない:0 欠なものとして勧告付録第 8 条に規定が設けられ ⑵関係法令 た。3 番目の項目については、一党独裁政治が行わ ◦アーカイブズ法:38 著作権法:38 れ て い た 中 欧・ 東 欧 諸 国 に お い て、 ア ー カ イ ブ ズ データ保護法:4 情報公開法:25 機関で事前に利用者から申請のあった文書の内容 機密法:27 を調査し、研究目的に合わない内容であれば閲覧 させないよう命じられていた過去に言及している。 私文書についても、公文書のルールに準拠した形 で公開規則を設けることが推奨されている。 ⑶アーカイブズ法等のアクセス規定から除外され ている機関がある国 ◦ 20 カ国(アンドラ、アゼルバイジャン、ベルギー、 ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、デンマー ク、フィンランド、ドイツ、ギリシャ、イタリア、 こ れ ら の 原 則 を 日 本 の 現 状 に 当 て は めて み た 場 ラ ト ビ ア、 リ ト ア ニ ア、 マ ル タ、 オ ラ ン ダ、 ノ 合、 全 て 適 合 し て い る か ど う か、 厳 密 な判 断 は 法 ルウェー、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、 律の専門家の手に委ねるが、公文書管理法の施行 スイス、イギリス) によって初めて原則を満たすことになった項目が 多い。アーカイブズのアクセスの観点からみても、 ◦議 会、 旧 情 報 機 関、 警 察 等 の 公 文 書 館が例外機 関となっていることが多い。 67 2011/10 ⑷アーカイブズ法の国内における有効性 ⑺検索補助資料 ◦アクセスに関する規定が国内の国家レベル、地 ◦公開制限を行っている所蔵資料を記述した検索 域 レ ベ ル、 地 方 公 共 団 体 レ ベ ル 等 で 共 通 で あ る 補助資料を作成していない国:16 カ国 国(すなわち国内で共通の規定を用いている国) : 一部について例外的に作成している国:6 カ国 29 カ国 ⑸非公開期間 ◦国立公文書館に永久保存のため移管された文書 に つ い て、 原 則 と し て 非 公 開 と す る 期 間 が 無 い ◦公開制限を行っている所蔵資料を記述した検索 補助資料を定期的に作成している国:15 カ国 その検索補助資料を制限なく利用可能な状態に している国:14 カ国 国:14 カ国(アルメニア、ベラルーシ、エスト ⑻不服申立て等 ニ ア、 フ ィ ン ラ ン ド、 イ タ リ ア、 ラ ト ビ ア、 リ ◦ 公 開・ 非 公 開 の 決 定 に 関 し て、 不 服 申 立てがで トアニア、モルドバ、オランダ、ノルウェー、ポ ルトガル、ロシア、スロバキア、スウェーデン) ◦原則として非公開とする期間を設定している国: 30 年:20 カ国(オーストリア、アゼルバイジャン、 ボ ス ニ ア・ ヘ ル ツ ェ ゴ ビ ナ、 ク ロ ア チ ア、 キ プ ロス、チェコ、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、 きる国:33 カ国 ◦ 公 開・ 非 公 開 の 決 定 に 関 し て、 訴 訟 を 起こすこ とができる国:35 カ国 おわりに No R(2000)13 についてハンドブックの記述をも ア イ ス ラ ン ド、 リ ヒ テ ン シ ュ タ イ ン、 ル ク セ ン と に 紹 介 し て き た が、 こ の 内 容 を 見 る と、欧州の ブ ル ク、 マ ル タ、 ポ ー ラ ン ド、 ル ー マ ニ ア、 サ 公文書館等では、特定の期間が経過するまで、アー ン マ リ ノ、 ス ロ バ ニ ア、 ス イ ス、 ト ル コ、 イ ギ カイブズを非公開としてきた国々があることがわ リス) か る。 前 号 で 紹 介 し た イ ギ リ ス も、 情 報 自由法が 10 年(アルバニア) 国立公文書館の所蔵資料に適用されることになっ 20 年(デンマーク) た 2005 年 ま で は、 原 則 作 成 か ら 30 年 を 経 過 し た 40 年(セルビア・モンテネグロ) 公文書を公開してきたが、今では情報自由法の下 100 年(ベルギー) ◦非公開期間を設定している国において、公開年 でより新しい公文書についても公開を進めている。 フ ラ ン ス で は、2008 年 に 文 化 遺 産 法 典 を 改 正 し、 限に達した文書を毎年システムにのっとって公 30 年としていた公開年限を廃止して、公文書は原 開している国:12 カ国 則ただちに公開とし、個別に設けていた例外的な ⑹公開制限事項 利 用 制 限 の 期 間 も 短 縮 し て、 例 え ば 外 交・国の安 ◦一般アクセス規則の例外として定めている事項 全 情 報 は 50 年、 個 人 の 医 療 記 録 は 出 生 の 日 か ら について 68 100 年又は死後 25 年としている。 国の安全:36 カ国 公 文 書 管 理 法 の 成 立 に よ っ て、 日 本 で も こ の 勧 防衛情報:33 カ国 告が定めるほとんどの原則を満たしている状態に 個人情報:33 カ国 なったが、利用制限情報の公開の時期については、 民間の経済的な利益に関する情報:23 カ国 利用者の側からもいろいろな意見が出ている。No 公務上の秘密:16 カ国 R(2000)13 が 今 後 の 議 論 の 参 考 に な れ ば 幸いであ 事務 ・ 事業に関する情報:14 カ国 る。 アーカイブズ 45 号 < 参考資料(著者仮訳)> 5 観的な方法で知り得ない限り、その国家は完全に 民主化されたとは言えないことを考慮し、 欧州評議会 閣僚委員会 憲法及び法的な枠組み、透明性と機密性の相反す アーカイブズのアクセスに関する欧州の方針につ る要求、及びプライバシーの保護と歴史情報への いての閣僚委員会から加盟各国への勧告 アクセスに対する世論は、各国ごとに認識が異な No R(2000)13 ることから、国内及び国際的なレベルにおいてアー 2000 年 7 月 13 日の第 717 回閣僚代理会合において、 カイブズのアクセスに関する問題が複雑であるこ 閣僚委員会が採択 とを勘案し、 閣僚委員会は、欧州評議会規程第 15 条 b の規定に 歴 史 学 者 の 学 問 へ の 願 い と、 歴 史 プ ロ セ ス 一 般、 基づき、 中でも 20 世紀の歴史のプロセスの複雑さをよりよ く理解したいという市民社会の願いを認識し、 欧州評議会の目的は加盟国間の緊密な連携を確立 することであり、この目的が文化的分野における 近年の欧州の歴史へのよりよい理解が、対立の回 共通の行動により追求し得るものであることを考 避に貢献し得ることを意識し、 慮し、 アーカイブズの公開に伴う諸問題の複雑さにかん 人権と基本的自由の保護に関する条約、特にその がみ、民主主義的価値と一致する共通の原則に基 第 8 条及び 10 条、及び個人データの自動処理に係 づく、アーカイブズへのアクセスに関する欧州の る個人の保護のための条約(ETS No. 108)にかん 方針の採択が求められたことを考慮し、 がみ、 加盟国政府が以下のために必要な対策と手段をと 公共機関が保有する情報へのアクセスに関する閣 るよう勧告する。 僚委員会から加盟各国への勧告 No R(81)19、及び 公共団体が保有する個人データの第三者への提供 ⅰ. 本 勧 告 に 示 さ れ た 諸 原 則 に 基 づ き、アーカイ に関する勧告 No R(91)10 にかんがみ、 ブ ズ へ の ア ク セ ス に 関 す る 法 制 を 採 択 す る こ と、 あるいは現行の法制をこれらの原則に沿ったもの 文化においてアーカイブズが貴重でかけがえの無 とすること。 い要素であることを考慮し、 ⅱ.本勧告を全ての関係する団体及び個人にでき る限り広く普及させること。 アーカイブズが人類の記憶を残すことを保証する ものであることを考慮し、 勧告 No R(2000)13 への付録 Ⅰ.定義 市民の歴史に対する関心の高まり、及び新たな民 ⒈ 本勧告の目的のため: 主主義における制度改革が進行中であること、そ a.「アーカイブズ」とは、以下の意味で用いる: して文書の作成においてかつて例を見ない規模の 変化が起こっていることを勘案し、 ⅰ. 小 文 字 の「a」 で 書 か れ て い る 場 合: 日 付、 形式や媒体を問わず、個人又は団体が業務の過 程で作成又は受領し、永久保存のため公文書館 国家において、その国民が自らの歴史の要素を客 等に移管した文書全体を指す。特に指定のない 69 2011/10 限り、本勧告は「公的アーカイブズ」、すなわ ⒋ 法令に定める公的アーカイブズへのアクセス ち公的機関で作成されたもののみを対象とす の た め の 基 準 は、 ア ー カ イ ブ ズ を 保 存 す る 責 務 る。 を 負 う 公 文 書 館 等 の 別 を 問 わ ず、 国 土 全 体 に 適 ⅱ.大文字の「A」で書かれている場合:アーカ 用されるべきである。 6 イブズの保存のための公的機関。 Ⅲ.公的アーカイブズのアクセスのための規定 b.「アクセス」とは、以下の意味で用いる: ⒌ 公 的 ア ー カ イ ブ ズ へ の ア ク セ ス は 1 つ の 権 利 ⅰ. 公 文 書 館 等 が そ の 保 存 し て い る 所 蔵 資 料 に で あ る。 民 主 主 義 の 価 値 を 尊 重 す る 政 治 シ ス テ ついて、利用者が利用できるようにする機能。 ム に お い て は、 こ の 権 利 は 国 籍、 身 分、 肩 書 き ⅱ.この機能の遂行。 を 問 わ ず、 全 て の 利 用 者 に 与 え ら れ る べ き で あ る。 c.「アーカイブズへのアクセス」とは、国内法に 準拠してアーカイブズ文書の閲覧ができるかど ⒍ アーカイブズへのアクセスは公文書館サービ う か を 意 味 す る。 こ こ で い う ア ク セ ス の 概 念 に ス の 機 能 の 一 部 で あ り、 ア ク セ ス に 対 す る 料 金 は、 特 定 の 契 約 の 下 で 派 生 製 品 を 作 る た め の 文 は課せられるべきでない。 書の利用は含まない。 ⒎ 法令は以下を規定すべきである: d.「利用者」とは、アーカイブズを閲覧する個人 を い う。 た だ し、 公 文 書 館 等 に 勤 務 す る 職 員 は 除く。 e.「保護される個人データ」とは、識別又は識別 a.公的アーカイブズの特定の制限を課さない公 開、又は b.原則的に非公開とする期間 7.1 この民主主義社会において必要とされる一般 可能な個人情報(データサブジェクト)のうち、 規則の例外として、以下の事案がある場合は、そ 法 や 規 則、 裁 判 所 が、 当 該 個 人 の 利 害 を 損 な う の 保 護 を 保 証 す る た め の 規 定 を 設 け る ことがで 恐れがあるため一般の利用に供することができ きる。 ないと判断するものをいう a.保護するに値する重要な公共の利益(国の安全、 外交政策、公共の秩序等) Ⅱ.法令・規則の規定 b.私生活に関する情報の公開に反対する私人 ⒉ 欧 州 各 国 に お い て、 ア ー カ イ ブ ズ の ア ク セ ス 7.2 原則的に非公開とする期間の例外については、 を統制する一般方針を規定する責任は立法府に 期 間 の 削 減 か 延 長 か に 関 わ ら ず、 法 的 根 拠 を 設 あり、従ってその方針は議会が定める法律によっ け る べ き で あ る。 公 開 か 非 公 開 か の 決 定 の 責 任 て規定されなければならない。実際の規定は、各 は、 国 内 法 に お い て そ の 責 任 が 特 定 の 公 文 書 館 国 の 法 体 系 に よ っ て、 法 律 か 規 則 か に 分 け ら れ 等 に 与 え ら れ て い な い 限 り、 文 書 作 成 機 関 か そ る。 の 監 督 機 関 に 課 せ ら れ る。 通 常 の 期 間 を 越 え て 非 公 開 と す る 場 合 は、 当 該 記 録 を 公 開 す る ま で ⒊ 公的アーカイブズのアクセスに関する法律及 の期間を予め規定すべきである。 び 規 則 は、 関 連 分 野、 特 に 公 共 団 体 の 保 有 す る 情報へのアクセス及びデータの保護に関する法 令との調整・整合を図るべきである。 70 ⒏ 検索補助資料はアーカイブズ全体について作 成 さ れ る べ き で あ り、 目 録 記 述 か ら 除 外 さ れ た アーカイブズ 45 号 も の が あ る 場 合 に は、 そ の 旨 注 釈 を 付 す べ き で の 特 別 許 可 を 与 え て も よ い。 利 用 者 に は、 一 部 あ る。 検 索 補 助 資 料 に 非 公 開 文 書 の 存 在 が 公 表 の ア ク セ ス の み 許 可 さ れ た こ と を 通 知すべきで さ れ て い る 場 合、 法 の 定 め る と こ ろ に よ り 保 護 ある。 さ れ る 情 報 を 含 ま な い 限 り、 利 用 者 が ア ク セ ス の 特 別 許 可 の 申 請 が で き る よ う、 そ の 目 録 を 容 易に利用可能な状態にしなければならない。 11. アクセスの拒否、又はアクセスへの特別許可 は、 書 面 で 通 知 さ れ な け れ ば な ら ず、 利 用 申 請 者 は 否 定 的 な 結 論 に 対 し 不 服 を 申 し 立 て、 最 後 ⒐ 所 管 機 関 か ら、 利 用 可 能 と な っ て いな い 文 書 へ の ア ク セ ス の 特 別 許 可 を 得 る た め の申 請 を 可 の 手 段 と し て 訴 訟 を 起 こ す 機 会 を 与 えられなけ ればならない。 能 に す る 規 則 を 設 け る べ き で あ る。 ア ク セ ス の 特 別 許 可 は、 こ れ を 求 め る 全 て の 利 用 者 に 対 し Ⅳ.私的アーカイブズへのアクセス て同じ条件の下で与えられるべきである。 12. 可能な限り、必要な変更を加えて、私的アーカ イ ブ ズ へ の ア ク セ ス に つ い て も 公 的 アーカイブ 10. も し 利 用 申 請 さ れ た 文 書 が 7.1 に 定 め る 理 由 に よ り 利 用 可 能 と な っ て い な い 場 合、 部 分 的 な ズ の 規 定 を 準 用 し て、 同 様 の 規 定 が 設 け ら れ る ようにすべきである。 ア ク セ ス あ る い は 一 部 を 消 し た 形 で のア ク セ ス 1 外 務 省 ホ ー ム ペ ー ジ の 説 明 に よ る。 ア ク セ ス 日:2011 年 9 月 4 日 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ce/ index.html 2 欧州評議会 ドキュメント・アーカイブズ部門ホームページより。アクセス日:2011 年 9 月 13 日 http://www. coe.int/t/dgal/dit/ilcd/Texts/Standards_en.asp 3 欧州評議会 公文書へのアクセスに関する条約 CETS No.:205 のホームページより。アクセス日:2011 年 9 月 13 日 http://conventions.coe.int/Treaty/Commun/ChercheSig.asp?NT=205&CM=1&DF=&CL=ENG 4 Kecskeméti, Charles, Iván Székely. Access to Archives: A Handbook of Guidelines for implementation of Recommendation No R (2000) 13 on a European Policy on Access to Archives. Council of Europe 5 ハンドブック p.51-54 収録のテキストをもとに訳出した。ハンドブックには併せて、Explanatory Memorandom, Commentary on the Provisions of the Recommendation が収録されている。 6 和訳では「公文書館等」とした。 Publishing, 2005. 71