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オンライン教育を推進する教育システム・組織

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オンライン教育を推進する教育システム・組織
地域分析
第53巻第 2 号
2015年 3 月
オンライン教育を推進する教育システム・組織
-UCF の現状を踏まえて一*
渡遺隆俊
I
はじめに
I
I 近年の日本における大学教育改革とオンライン教育
1 近年の日本における大学教育改革
皿
UCF におけるオンライン教育
1
UCF の概略
2 COL の概略
3 COL の特長
4
UCF におけるオンライン教育の現状
I
V オンライン教育を推進する教育システム・組織
1 IT&R の概略
2 IT&R の特長
v
結びにかえて
参考文献
[要旨]
日本の大学教育をめぐる論点は多々あるが、近年ではその「質的転換」ゃ「ガ
パナンス」の在り方が注目されている 。 他方、インターネ ッ トの普及にともない、
オンライン教育の一方法として MOOC (
M
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i
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eOpenO
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l
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n
eCourses )のよう
に国境を越え、 ICT を活用したオープンエデユケーションが注目を集めている 。
本稿は、日本における大学教育改革の現状を踏まえてオンライン教育について論
じるものである 。 オンライン教育の成功事例は多々あるが、その中でも先進的な
取り組みを展開している米国のセントラルフロリダ大学の事例を取り上げて、そ
れを推進する組織について考察する 。
[キーワード]大学教育改革、大学のガバナンス、オンライン教育
39
地域分析第 53 巻第 2 号
I はじめに
2001 年 7 月に発行された『平成 13 年版情報通信白書』は、同年(正確には
2000 年から 2001 年初旬にかけて)を日本の「ブロードバンド元年」と位置付け
た(総務省編( 2001 ))。それから 10 年以上が過ぎ、インターネットは社会的イ
ンフラとして、国民生活に必要不可欠なものとなっている。大学教育においても
例外ではなく、近年では MOOC (
M
a
s
s
i
v
eOpenO
n
l
i
n
eCourses )のように国境
を越え、 ICT を活用したオープンエデュケーションが注目を集めている。他方、
後述するように、日本における大学教育改革では、学士課程教育の質的転換、特
にアクテイブ・ラーニングの導入、 ICT を活用した双方向型の授業への転換や
教育システム改善が喫緊の課題となっている。
本研究は、このうち、 ICT を活用した教育としてオンライン教育に着目し、こ
れを推進するための組織の在り方や教育システムについて、米国のセントラルフ
ロリダ大学( University
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a:以下、
UCF )の事例を踏まえなが
ら考察する。
本研究の構成は、以下のとおりである。第 E 章では、近年の日本における大学
教育改革の現状について概説する。第 E 章では、米国におけるオンライン教育の
先進的事例として UCF の取り組みを紹介する。第 N 章では、オンライン教育を
推進する組織や運営体制について論じ、第 V 章ではまとめを記す。
I 近年の日本における大学教育改革とオンライン教育
1 近年の日本における大学教育改革
2012 年 8 月、文部科学省中央教育審議会は、「新たな未来を築くための大学教
育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答
申)」を取りまとめ、公表した (中央教育審議会(2012)) 。 このタイトルにある
ように、この答申は、「学士課程教育の質的転換の必要性とその方策 J について
論じたものである。ここでは非常に多くの論点や方策を示しているが、あえて重
要な l パラグラフを紹介するとすれば、問答申 p.9 の以下の記述であろう。
生涯にわたって学び続ける力、主体的に考える力を持った人材は、学生
からみて受動的な教育の場では育成することができない。従来のような知
識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、
一緒になって切瑳琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創
り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティ
ブ・ラーニング)への転換が必要である。すなわち個々の学生の認知的、
40
オンライン教育を推進する教育システム・組織
倫理的、社会的能力を引き出し、それを鍛えるディスカッションやディベー
卜といった双方向の講義、演習、実験、実習や実技等を中心とした授業へ
の転換によって、学生の主体的な学修を促す質の高い学士課程教育を進め
ることが求められる。学生は主体的な学修の体験を重ねてこそ、生涯学び
続ける力を修得できるのである。
この答申にある考え方は、 2013 年 5 月に公表された教育再生実行会議による「こ
れからの大学教育等の在り方について(第三次提言)」(教育再生実行会議(2013 ))、
同年 6 月に閣議決定された「第 2 期教育振興基本計画」などに引き継がれている 1a
前者では、国家戦略として直ちに取り組むべき方策として、「 1. グローバル化
に対応した教育環境づくりを進める」、「2. 社会を牽引するイノベーション創出の
ための教育・研究環境づくりを進める」、「3. 学生を鍛え上げ社会に送り出す教育
機能を強化する」、「4. 大学等における社会人の学ぴ直し機能を強化する」そして
「5. 大学のガバナンス改革、財政基盤の確立により経営基盤を強化する」の 5 項
目について提言がなされている。このうち、 3 においては、「大学は、課題発見・
探求能力、実行力といった「社会人基礎力」ゃ「基礎的・汎用的能力」などの社
会人として必要な能力を有する人材を育成するため、学生の能動的な活動を取り
入れた授業や学習法(アクテイブラーニング)、双方向の授業展開など教育方法
の質的転換を図る。また、授業の事前準備や事後展開を含めた学生の学修時間の
確保・増加、学修成果の可視化、教育課程の体系化、組織的教育の確立など全学
的教学マネジメントの改善を図るとともに、厳格な成績評価を行う」と提言され
ている。
後者は、高等教育のみならず、初等中等教育から生涯学習に至るまでの広範囲
におよぶ教育の現状、課題そして教育施策について記したものである。今後 5 年
間に実施すべき教育上の方策として、 4 つの基本的方向性(社会を生き抜く力の
養成、未来への飛躍を実現する人材の養成、学びのセーフティーネットの構築そ
して紳づくりと活力あるコミュニティーの形成)、 8 つの成果目標と 30 の基本施
策を掲げている。このうち、「社会を生き抜く力の養成における高等教育段階の
学生を対象にした取り組み」としては、「基本施策 8
立に向けた大学教育の質的転換」、「基本施策 9
学生の主体的な学びの確
大学等の質の保証」を挙げてい
る。さらに、「基本施策 8J を詳しく見ると、「生涯にわたり学び続け、主体的に
考え、どんな状況にも対応できる「課題探究能力 J を有する多様な人材を育成す
る」、「学生が主体的に問題を発見し、解を見いだしていく能動的学修(アクテイ
ブ・ラーニング)や双方向の講義、演習、実験等の授業を中心とした教育への質
的転換のための取組を促進する」、さらには「教育課程の体系化、組織的な教育
の実施、授業計画(シラパス)の充実、教員の教育力の向上を含む諸課題を進め
41
地域分析第 53 巻第 2 号
るための全学的な教学マネジメントの改善などの諸方策が連な っ てなされる「質
的転換のための好循環J の確立を図る」などの基本的な考え方を示している。
本研究の関心事であるオンライン教育に関係する記述としては、 「 学修環境整
備への支援」として、「ティーチング ・ アシスタント等の教育サポートスタッフ
の充実、学生の主体的な学修のベースとなる図書館の機能強化、 ICT を活用し
た双方向型の授業 ・ 自修支援や教学システムの整備 j 、「ICT の活用に関しては、
例えば、近年急速に広まりつつある大規模公開オンライン講座( MOOC による
講義)の配信やオープンコースウェア( OCW )による教育内容の発信など、大
学の知を世界に開放するとともに大学教育の質の向上にもつながる取組への各大
学の積極的な参加を促す J 、さらには「学生の思考を引き出す教科書等の教材や
教育方法の開発 ・ 研究など、教育に関する特色ある自発的な取組を支援する J と
記されている 。 加えて、「基本施策 12
学習の質の保証と学習成果の評価 ・活用
の推進」においても「ICT の活用による学習の質の保証・向上及び学習成果の
評価 ・ 活用の推進」がその取り組みとして掲げられ、 「 デジタルコンテンツの実
態に関する調査研究等を実施するとともに、その質の保証や普及 ・ 奨励を図るた
めの仕組みを構築し、平成 26 年度を目途に本格運用を開始する」、 「 民間団体と
地方公共団体等が連携して実施する ICT を活用した学習成果の評価や社会的通
用性の向上に資する取組( e ポ ート フォリオ、
e パスポ ート )を支援し、その成
果を普及する j と記されている 。
その後、同年 8 月には、文部科学省の科学技術 ・ 学術審議会、学術分科会・学
術情報委員会は、 「学修環境充実のための学術情報基盤の整備について(審議 ま
とめ) J を公表した(学術情報委員会(2013 )) 。 ここでは、オープンエデユケーショ
ンの流れが世界的に加速していること 、 反転学習の導入など授業スタイルの変化、
さらには先述した 「学士課程教育における質的転換の必要性」などを踏まえて 、 (1 )
コンテンツ、( 2 )学習空間、そして( 3 )人的支援の 3 つの観点から現状と課題
について論じている 。 オンライン教育の観点から、ここで示されている重要な点
をピックアップすれば以下の 3 点であろう 。
A )教材・授業等の電子的利活用
B )オンライン教育の体制整備
C )組織運営体制の見直し
以上のように、近年の日本における大学教育改革は、 「学生の能動的な活動を
取り入れた授業や学習法(アクテイブ ・ ラーニング) 、 双方向の授業展開など教
育方法の質的転換」 やそれを実現するための教育体制の改革が必要とされている 。
42
オンライン教育を推進する教育システム・組織
l UCF におけるオンライン教育
l
i
1 UCF の概略
UCF におけるオンライン教育について論じる前に、同大学の Web サイトに基
づいて 、これを簡単に紹介しておこう 2 0
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1963 年、フロリ ダ州立 ・ フロリダ工科大学( Florida T
として創設された UCF は、オーランド中心部から東に 13 マイル離れた郊外に
メインキャンパスを構えている。 2014 年現在、 12 のカレッジに約 61,000 人の学
生が学ぶ総合大学である 3 0
創設から今日まで、学生数の増大とともにメインキャンパス内の教育・研究関
連施設を拡充させつつ、フロリダ州内に 9 つのキャンパスを開設するなど、拡大
路線を歩んできた 。
1990 年代に入 って、新たな学部の開設とそれに伴って増大する学生数に よ っ
て、広大なメインキャンパスといえども、教室や駐車場の確保などの問題が顕在
化するようになってきた 。 そこで、「学生の着席時間を減らす J 観点から提唱さ
れたのが UCF におけるオンライン教育である 。 これは現在の同大学副学長( Vice
,CIO )であるジョエル・ハー
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Provost)兼情報最高責任者( C
トマン氏を中心として推進され、現在、その中心を担っているのが Center
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g (以下、 CDL )である 。
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2 COL の概略
次に、 CDL の Web サイトに基づいて、その成立を踏まえて簡単に紹介しよう 40
CDL の歴史は、 1996 年にさかのぼる 。 同年、学長室( 0白ce
eProvost)に
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属する学務担当者( Academic Affairs )は、オンラインコースの体系的開発のた
めの組織編成の計画と資金調達に関する特別プログラムを立ち上げた 。 翌年には 、
オンラインコースを開発するユニットが編成され、これが、現在の CDL である 。
CDL は、 UCF の情報と通信を包括的に計画・サポートす る Information
s (以下 、 IT&R)内に設置された 。 後述する ように、
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IT&R は、「図 書館( Library )」、「コンピュータサービス・遠隔通信 ( Computer
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J 、そして「教育リソース室(0伍ce o
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s& T
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)J の各ユニ ッ トから編成されて いたが、 CDL はこれ らの 姉妹ユニ ッ
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トとして設置された 。 現在で、は、これらのユニットによるコラボレーションによっ
て、 UCF におけるオンライン教育や学習の質を高めている 。
ここで、 CDL のミ ッションについて記しておこう。 CDL の Web サイトには、
「 CDL は、 UCF におけるオンラインラーニン グの 中心的担い 手として、遠隔教
43
地域分析第 5 3 巻第 2 号
育のポリシ一、戦略、そしてその実践の指導的役割を果たすことにある」と記さ
れている 。
さらに、このミ ッ ションを具現化するために、 CDL では以下の図 l
にある「プロセスモデル J を開発した D
ノ
\ にわ /
( 出所)
CDL の Web サイト
図 1
( httpゾI o
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e.
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u/about/mission/) よりヲ | 用 。
CDL のプロセスモデル
以下、この図 1 で構成されている各要素について簡単に記しておこう 。
(1 ) ポリシー・計画・ 基準・認定および報告
CDL は大学全体の分散学習( Distributed Learning)における関連施策とガイ
ドラインの制定やサポートを担当している 。 オンライン教育の成果(学生の成績
の認定) やオンラインコース、オンライン教育のプログラムの戦略的開発におい
ては、 学部、学科、そして大学執行部との協力が不可欠であり、これを実現する
ために様々なオンライン教育に関する情報をこれら関連部署に報告する 。 CDL
は、認定要件に従って教育を保証するために、またオンラインコースやプログラ
ムを共に戦略的に開発するために、学部、学科、大学管理職に報告する 。
(
2
) FD (
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c
u
l
t
yDevelopment)プログラム
CDL は、教員 がオンライン教育を実践する事前準備となる専門的開発プログ
ラムを提供している 。 具体的には IDL6543 や ADL5000 といったオンライン教育
のための FD プロ グ ラムが挙げられる 。
(3 )
コ ー スデザイン
CDL には専属のインストラクショナル・デザイナー( IDer)からなるチーム
44
オンライン教育 を 推進する教育 シ ステム・組織
を有している 。 このチームは、実際にオンライン教育を実践する教員のオンライ
ンコ ー スお よ びオンラインプログラムの設計や戦略への助言などを行い、教員と
ともにコ ー ス設計を行う 。
(4 )コ ー ス制作
オンラインコ ー ス制作に関して、教員のマルチメディア教材の作成に関する技
術的なスキルの有無に関わらず 、 これをサポ ー トする。
(5 )技術支援
一度、コースをデザインし、開発すれば、 CDL は終始サポートを提供し続ける 。
専門的な技術サポートは、教員や学生に上質なコース経験を提供する 。
(6)アセスメン ト
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s ( RITE )は、高等教育に
おける効果的な教育実践に関する研究活動を通じて、 UCF 教員をサポー ト する 。
ここでの研究成果は、 CDL の方針 ・ 政策の策定、 FD 、コース計画や開発、技術
サポートなど各部署へ情報提供される 。
CDL では 、 上述のようなミッションに基づいたプロセスモデルを実現するた
めに 6 つのチームを持っている。この概略を図 2 に示す。
(出所)
CDL 内部資料に基づき筆者作成 。
図2
COL のチ ーム 編成
45
地域分析第 53 巻第 2 号
この図にあるように、適切な分け方でないかもしれないが、 ( 1) 管理運営を担
う部門、( 2)オンライン教育の現場を担当する部門 、さらには ( 3 )アセスメン
トを担当する部門に大別できる。( 1 )については、「Strategy,
e&
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p
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C
InfrastructureJ および「Administrative ServicesJ の 2 つの部門が該当する 。 (2)
については、「Learning
n& Delivery」
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yJ 、「Course D
g
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Systems& T
そして「Instructional Resources」の 3 つの部門が該当する 。 最後に( 3 ) は「RITE
gE百ectiveness) J である 。
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(
上記(2 )に属する部門について触れておこう。
まず「Learning
的とした Learning
Systems& Technology」は、より教育効果を高めることを目
ManagementSystem ( LMS)上で作動する各種アドインソ
フトの開発、実装、メンテナンスを担 っ ている 。 加えて、オンライン教育システ
ム利用者への様々な技術的なアドバイス、
トラブルシューティングなどを担当す
る「 TechrangersJ というチームを有している 。 これは約 20 名の UCF の大学院
生 ・ 学部学生などからなるチームである 。
「 Course
yJ は、オンライン教育のコース 設計を担うインス
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n& D
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トラクショナル・デザイナー ( IDer )のチ ーム、 LMS の管理運用チ ーム、そし
て UCF でのオンライン教育のサポ ート 窓口である Online@UCF Support のチー
ムから構成されている 。
「Instructional Resources」は、教授法を開発するチームに加え、コンピュータ・
グラフィックスやビデオの制作・編集を担うチームから構成されている 。
3 COL の特長
次に、 CDL の特長について論じて行こう。図 2 で示したそれぞれのチームは、
専門知識 および技術を持 ったスタッフを擁している。 これにより、 CDL におい
ては、先のプロセスモデルを通じて、オンライン教育を推進する体制が構築され
ている 。 CDL の特長を見出すとすれば、以下の 6 点として示すことができる 。
A) 論じるまでもないが、明確なミッションステ ート メントを掲げ、それに
必要かつ適切なプロセスモデルに基づいて、組織的にオンライン教育の
推進を図 っ ていること 。
B) 全学的なオンライン教育の基盤である LMS を単に管理運営するだけで
なく、オンライン教育に関する Faculty
Development ( FD )プ ログラム
を持っていること 5 0
C) コースデザインの専門家であるインストラクショナル・デザイナー
(IDer)によ っ て、教材作成者(教員)が手がけるオンラインコースや
46
オンライン教育を推進する教育システム・組織
プログラム作成へのアドバイスを行う体制が整っていること 。
D) 教員のみで制作が難しいマルチメディア教材(コンテンツ)を作成する
スタッフや必要とされる機材等を備えていること 。
E) 学生や教員などオンライン教育の利用者に対する技術的アドバイスやサ
ポートを行う専門スタッフを配置していること 。
F) オンライン教育を推進するために、オンライン教育の効果を計測する研
究組織を有し、その評価を通じて、オンライン教育の更なる改善へつな
ぐしくみを備えていること 。
上記について簡単に補足説明をしていこう 。
A )については、図 l に掲げたプロセスモデルに対応するチームを配している
点が興味深\;) 0
B )については、 CDL が独自に開発したいくつかの FD プログラムを用意して
いる点を強調したい 。 具体的には、年間を通じてオンラインで開講されている
ADL5000 と 春 、夏そして秋の各セメスターで開講されている IDL6543 である 6 0
前者は、オンラインで教員自らのペースで進めるプログラムで、修了に 35 時間
を要する 。後者はオンラインと対面 ( セミナー)によって構成され、全 10 回、
80 時間を要するプログラムである 。
日本の大学では FD が義務化され、様々な
タイプの FD が展開されているが、オンライン教育に特化しつつ、定期的かつ継
続的な FD は筆者の知る限り皆無であろう 。 この意味において、 CDL における
FD プログラムは、オンライン教育に必要な研修機会の提供を通じ、教員の能力
開発にも貢献している 。
C )に関しては、 一般的な米国の大学について言えるかも しれないが、 ID er に
よ って コースデザインを行 っている点である。近年、日本においても教育におけ
る ID er の重要性が指摘されている 。 その現状については、やや古いデータであ
るが、長岡技術科学大学・メディア教育開発センター( 2007 )の第 2 章 にその調
査結果がある 。 これによれば、「平成 18 年度に国内で先進的に ICT 活用教育を行っ
ている 51 大学(国立 26 大学、公立 2 大学、私立 23 大学)を選出し、アンケー
ト調査を実施した結果において、「イ ンストラクショナ ル・デザイナーを配置し
ている」大学数は 6 (11 .8% )に留まっていた」とのことである 。 サンプル数が
少ないのでその解釈には注意が必要であるが、当時の日本の大学において、 ID e
r
はほとんど導入されていないことが記されている 。 日米間の ID er に対するニー
ズと歴史の差異が、そのまま表れている結果と解される 。 日本では 2000 年代に
入って、 ID er に関する書籍も出版されるなど、その関心は高まっているものの、
オンライン教育の提供教員が自ら ID er となってコース設計をするのには限界が
47
地域分析第 53 巻第 2 号
あろう 7。 コース設計の専門家を有している米国とそうでない日本では、オンラ
イ教育の成否に大きな影響を与えるものと推察される 。
D )に関しては、図 2 に示した Instructional Resources がマルチメディアコン
テンツ制作を担っている 。 ビデオ収録のスタジオ、編集機材をはじめ充実した設
備もさることながら、ここで強調すべき点は、先に記した ID er との連携のもと
で制作が進むことである 。 すなわち、教員、 ID er そしてマルチメディアコンテ
ンツ作成者が意見交換しながらコースデザインに沿ってコンテンツが作成され
る。
E )については、 CDL がミッションステートメントに基づいた全学的なオンラ
イン教育の中心的担い手であるばかりでなく、広い意味での教育機関であること
を指摘したい 。
オンライン教育の利用者に対する技術的アドバイスやサポートは、先に記した
ように Techrangers が担当している 。 繰り返しになるが、このチームには、専
属の職員に加え、現役の UCF 学生が勤務している。学生たちが様々なトラブル
に対応する中で、切瑳琢磨しながら専門知識を磨きうる環境になっている 。 なお
Techrangers は、サポートのみならず、「Tech Time」というイベントも定期的
に行っている 。 これは、 Techrangers のメンバーが、コンビュータ応用技術に関
する日頃の学習・研究成果を学内外に公開するものである 。 同チームの活動内容
を公開することで、これに関心を持った学生にチームメンバーとなってもらうね
らいもある。このイベント開催を通じ、チームメンバ ーである 学生たちの成長を
促すと同時に、「持続可能なチーム編成 J となるような工夫がなされている 。
4 UCF におけるオンライン教育の現状
これまで論じたように、 UCF では CDL を中心にオンライン教育を推進してき
た 。 この節では、この現状を知るいくつかのデータを示しながら論じて行こう。
最初に、図 3 は Student C
r
e
d
i
tHour (学生の履修単位数)を形態別に見たも
のである 。 この図において、 F2F は対面授業、 Web は Web ベースのフルオンラ
イン、 Reduced Seat は対面授業とオンラインのミックス(ブレンデイッドラー
ニング)そして Video は Video によるフルオンラインを意味する 。
この図 3 によれば、 Student
C
r
e
d
i
tHour は、年々増加傾向にあるが、当該期
間において F2F (対面授業)が 100 万単位と一定であるのに対し、 Web 、
ReducedSeat
そして Video のオンラインを利用した履修単位数は増加傾向にあ
ることが読みとれる 。 直近( 2012-13 年)のデータを示すと、 F2F が 987,280 、
Web が 287,568 、 Reduced Seat が 107,091 そして Video カ宝 126,390 であった。
同じデータを用いてこれらのシェアを示したものが、以下の図 4 である。
48
オンライン教育を推進する教育システム・組織
1600.
0
0
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ハハ
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9
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02
0
1
0
1
1 201112 2
0
1
21
3
F2F ・ Web
ReducedSeat
蝿 Video
(出所) CDL の内部資料に基づき筆者作成 。
図3
UCF における授業形態別 Student
C
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i
tH
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100%
90%
80%
70%
60%
so% I
40%
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8
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1
30%
20%
10%
0%
2
0
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50
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0
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60
7 2
0
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7
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0
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1
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1
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1
1
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2 2
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1
2
1
3
一 F2F ・ Web
ReducedS
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• V
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o
(出所) CDL の内部資料に基づき筆者作成 。
図 4
UCF における授業形態別 Student
C
r
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d
i
tHour
のシ工ア
最初に、 F2F のシェアの推移を見ると、 2005-06 年では約 85% のシェアを占め
ていたが、年々シェアは減少し、直近の 2012-13 年のシェアは約 66% まで落ち込
んでいる。これとは対称的に、 Web 、 Reduced Seat そして Video のオンライン
のシェアは軒並み増加傾向にある。特に Web のシェアは、 2005-06 年の約 10%
から 2012-13 年の約 19% へとほぼ倍増していることが読みとれる。 Reduced S
eat
のシェアは、 2005-06 年の約 4% から 2012-13 年の約 7% であり、比較的安定して
いる。 Video のシェアに関しては、年によってばらつきがあるものの、当該期間
内では概ね増加している 。 2005-06 年では約 1% と極めて少ないシェアであった
が、 2012-13 年では約 8% に達している。特に 2010-12 年以降は 8% 台を維持して
49
地域分析第 53 巻第 2 号
おり、同期間の Reduced Seat の 6% 台を 凌ぐ大きさである。
以上のように、 UCF においては、オンライン教育の実績を積み上げてきたこ
とがデータからも明らかであるが、その要因のーっとして、先に記した CDL に
よる IDL6543 や ADLSOOO の FD プログラムの実施が挙げられる 。 CDL の 責任
者であるトーマス ・ キャバナ氏に伺ったところ、 1996 年の CDL 設立から 2013
年夏のセメスターまでの期間中 、 IDL6543 で 1,137 名、 ADLSOOO で 559 名の教
員参加があったそうである 。
以上、 UCF におけるオンライン教育の現状について簡潔に述べてきた 。 次に、
このオンライン教育を推進する上部組織である IT&R について論じて行こう。
w
オンライン教育を推進する教育システム・組織
1 IT&R の概略
CDL はオンライン教育を推進する中心的組織であるが、先述のように上位組
織 IT&R に属している 。 IT&R の組織図を図 5 に示す 。
図 5 にあるように、 IT&R は、 「 図書館J 、「コンビュータサービス・遠隔通信」、
「教育リソース室」そして「 CDL」 によって構成されている。 IT&R は、これら
4 つのユニットを束ね、 UCF の情報と通信のリソースに関して包括的な計画と
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(出所)
IT&R の Web サイト( http ://itr.ucf.edu/units/index.asp )よりヲ|用 。
図 5
50
IT&R の組織図
オンライン教育を推進する教育システム・組織
策定サポートを提供している 。
2014 年現在、 IT&R の責任者は、先に 紹 介した同大学副学長兼 CIO であるジョ
エル・ハートマン氏である 。 以下、同氏に IT&R に関してインタビューする機
会を得たので、これについて記しておこう 8 0
1970 年代、現在の UCF 学長ジョン・ヒット氏がブラ ッ ドリ一大学(イリノイ
州)在職中に考案した組織が、現在の IT&R の原型だそうである 。 そこでは、
図書館、メディア、放送、コンビュータそして通信のユニ ッ トを 一 元的に管理す
る組織を編成した 。 当時よりジョエル・ハートマン氏を同大学 の CIO に据えて
いたという 。 両氏はその後、 1990 年代に UCF に移り、 CDL を除く「図書館」、 「 コ
ンピュータサービス・遠隔通信」、「教育リソース 室」 の 3 つのユニ ッ トからなる
IT&R を創設した 。 ここでのポイントは、これら 3 つのユニ ッ トが独立した組織
ではなく、副学長兼 CIO が束ねる IT&R とすることで、それぞれのユニ ッ ト間
でのコラボレーションを可能にし、業務遂行を円滑に行えることを狙いとしてい
る点にある 。 IT&R 傘下の各ユニ ッ ト問との連携も月 一 回のミーテ イ ングを通じ
て情報交換が行われる 。 また、各学部(教育・研究の現場)との連携においては、
学部長と CIO が定期的に意見交換を行うことで、 CIO を介した教育 - 研究現場
と IT&R の各ユニ ッ ト間の意思疎通が実現されている 。 ジョエル・ハートマン
氏の言葉を借りれば、「CIO の役割の 一 つは、 言葉をテクノロジーに翻訳し、テ
クノロジ ー を言葉に翻訳して、それぞれの組織(現場)に伝えること」だそうで
ある 。 つまり、教育・研究現場とテクノロジーの聞をとりもつ役割を担 っ ている
のである 。
2 IT&R の特長
以上、ジョエル ・ ハートマン氏へのインタビューの 一 部について記したが、そ
こで最も興味深か っ た点は、 CIO の職務として、情報技術を通じた教育、研究
および学内業務をいわば中央集権的に管理運営することが可能とな っ ている点で
ある 。 また、 CDL が IT&R のユニットとなることで、「図書館」の持つコンテン
ツ、「教育リソ ー ス室」による教室のビデオ撮影やオンライン教育に適した教室
の設備改善、そしてそれらを IT で支える 「コ ンビュータサービス・遠隔通信 J
が協力しながらオンライン教育を推進しうる体制とな っ ていることも、その組織
の特長であるといえる 。 オンラインコースないしはコンテ ン ツを教員 とともにプ
ロデユースする CDL 、マルチメディアを活用した教育を支援する「教育リソー
ス室」、これに「コンピュータサ ー ビス・遠隔通信 j を組み合わせることで、大
学での教育内容を電子化し、 学 内に配信するシステムが構成されている 。
さらに、興味深いのは、これらに「図書館」が加わ っ ていることである 。 IDL
51
地域分析第 53 巻第 2 号
6543 の受講や CDL の幹部であるフランチェスカ・ヨネクラ氏( CDL A
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DepartmentHead)に伺ったところ、「図書館」はオンラインコースの素材を提
供する場として機能しているとのことである 。
既に論文が電子ジャーナル化しているように、あらゆる書物が電子化されると
すれば、図書館は、インターネットの中にさえあればよいとなるかもしれない 。
やや飛躍しすぎる感は否めないが、大学の図書館は大学独自のコンテンツを持た
なければ、他大学図書館との差別化が難しくなるかもしれない 。 図 書館が大学独
自のコンテンツ(たとえば、オンライン教育用に作成された大学独自のコンテン
ツ)をスト ッ クし、大学図書館をポータルとして配信すれば、“世界にただ一つ
の図書館” とすることができる 。 今後、図 書館には、教員に対するオンライン教
育のコンテンツ素材提供という機能に加えて、学生に対してオンライン教育コン
テンツを発信するという機能をも持つ可能性がある 。 このように考えれば、図書
館は、教育・研究に必要不可欠なコンテンツを「情報の受発信J する中心となり
うる 。
教育現場の情報インフラを担う「教育リソース室」、「コンピュータサービス・
遠隔通信j そして教育コンテンツをプロデユースする「CDL」が連携することで、
大学独自の教育研究コンテンツが他大学図書館あるいは他大学との教育内容の差
別化をもたらすことを可能にすると考えられる 。
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結びにかえて
本稿は、 UCF の現状を踏まえたオンライン教育を推進する教育システム・組
織に関して論じてきた 。 最初に、近年の日本における大学教育改革の現状を示す
とともに、オンライン教育の体制整備について論じた 。 そこでは、「学生の能動
的な活動を取り入れた授業や学習法(アクテイブ・ラーニング)、双方向の授業
展開など教育方法の質的転換」やそれを実現するための教育体制を確認し、その
一 手法としてオンライン教育があることを論じた 。
次に、 UCF におけるオンライン教育の現状について論じた 。 その中心的担い
手である CDL は、明確なミッションステートメントとプロセスモデルを有して
いることに加えて、その特長を 6 点指摘した 。 2013 年現在、学生の単位取得数
のシェアは、対面授業が 2/3 、オンラインによる授業が 1 /3 となっている 。 UCF
のオンライン教育が一定の割合で教育プログラムに取り入れられている理由とし
て、「CDL が教育・研究機関としての役割を明示的に組み込んだ組織であること」
が挙げられる 。 たとえば、 CDL の主催するオンライン教育の FD プログラム
IDL6543 である 。 このプログラムは、オンラインで講座内容や、課題等が提供さ
52
オンライン教育を推進する教育システム・組織
れるが、スタ ッ フと参加教員が一堂に会して活発な意見交換を行う対面での講座
も設けられている 。 多忙な教員に配慮しつつ、受講する教員間の意見交換の場を
提供し、相互に学びあう工夫がなされており、オンラインと対面の特長を活かし
た講座と評される 。
さらに、 UCF のオンライン教育において特筆すべき点は、「他のユニットとの
連携を容易にする IT&R の存在」である 。 この IT&R は、オンライン教育を推
進するためのコンテンツ提供(「図書館」)、通信インフラの整備と運営(「コン
ピュータサービス・遠隔通信」)、オンライン教育に適した教室環境整備(「教育
リソース室」 ) を包括的に管理運営する組織である 。 オンライン教育の推進には、
CDL だけでなく、これらのユニ ッ トの連携が大きく貢献していると 考えられる。
さらに、この IT&R を束ねる副学長兼 CIO の存在も大きい 。 奇しくも、日本に
おいては、 2014 年 6 月に「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律」
が公布( 2015 年 4 月施行)された 。 そこでは、「戦略的に大学を運営できるガバ
ナンス体制を構築することが重要J と指摘され、「大学の組織及び運営体制を整
備するため、副学長の職務内容を改めること」が示されている 9 0
先述のように、近年では MOOC (
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学や国境を越え、 ICT を活用したオ ープンエデュケーションが注目を 集めている。
世界的に見れば、大学のみならず、あらゆる教育現場では ICT を活用したオン
ライン教育が積極的に展開されていると推察される 。 これに対し、日本において
は、大学教育においてオンライン教育が積極的に展開されているとは 言 い難い 。
たとえば、文部科学省が毎年実施している「学術情報基盤実態調査」の平成 25
年度の結果によれば、調査対象の国公私立大学 774 大学中、遠隔教育(インター
ネット等を用いた授業で、大学等において面接授業に相当する教育効果を有する
と認めるもの)実施大学数は、平成 24 年度で 271 大学(約 36% )にとどまって
いる ( 文部科学省(2014)) 100
オンライン教育を実施し、学生のみならず教員からも一定の評価を得るために
は、単にオンライン教育のシステム( LMS や CMS )を導入するだけでは不十分
であり、 IT&R のような全学的な組織編成に基づいた組織関連携のしくみ、 CDL
のようなオンライン教育のノウハウを教員に提供する機能とオンライン教育を評
価する機能を有した組織が必要であると考える 。
最後に、本稿では十分に検討していないが、以下の 3 点を指摘したい 。 まず、
日本ではコースデザインの専門家であるインストラクショナル・デザイナー
(IDer)がほとんどいない。 CDL では約 15 名の ID er が専任職員として配置さ
れていた。この確保は現在の日本では難しいと言わざるを得ない。オンライン教
育の設備もさることながら、これらオンライン教育に必要不可欠な人材確保は大
53
地域分析第 53 巻第 2 号
きな課題であろう 。 2 点目は、図書館司書の役割である 。 先のフランチェスカ ・
ヨネクラ氏へ のインタビューに よれば、図書館司 書 は、学生のみならず教員から
も多くの質問を受け、この成果が(オンライン)教育や研究に活かされていると
のことである 。筆者の知る限り、日本の大学では教員が積極的に図書館司書と連
携し教育研究を展開することは稀であろう。本研究を通じて、大学教育の中で、
図書館司書の役割が非常に重要であることを再認識したと同時に、大学において
も有能な図書館司書の活躍の場を広げる工夫が必要と思われる 。 このために、学
生や教員から司書へのアクセスをさらに容易にする工夫が必要であろう 。 最後に
3 点目であるが、 UCF では教室以外の学習スペースが豊富である点である 。最
近では大学内に「ラーニング・コモンズ」などをはじめ、学生が気軽に勉学でき
る学習スペースが設けられている 。 UCF では大学建物の廊下等にソファ一、テー
ブル、椅子、机を配した学習スペースが用意され、「教室以外での学びの場」が
提供されている 。 「教室以外」の学習スペースで、授業以外の時間において膝を
突き合わせた学生同士の学びの場を設けることにより、これまで以上に大学内で
の学習機会を学生に提供することができるであろう 。
参考文献
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ナルデザイン-j 北大路書房.
学術情報委員会 ( 2013 )「学修環境充実のた めの学術情報基盤の整備について(審
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教育再生実行会議( 2013 )「これからの大学教育等の在り方について(第三次提
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平成 25 年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業
委託業務成果報告書、
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未知の時代
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文部科学省( 2014)「平成 25 年度学術情報基盤実態調査」、 http:/ /
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長岡技術科学大学・メディア教育開発センター(2007)『学習者等の視点に立つ
た適切な e-Learning の在り方に関する調査研究』、文部科学省先導的大学改
革推進委託報告書、 http:/ /
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トラクショナルデザイン』ピアソン桐原、 2004 年)
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r (鈴木克明監訳『学習意欲をデザインする -ARCS モデルによるイ
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g (鈴木克明・岩崎信監訳『インストラクショナルデザインの原理』
北大路書房)
*本稿は、愛知学院大学「平成 25 年度在外研究員」として滞在した米国・セントラルフロリダ大学( UCF)
での研究成果の一部をまとめたものである 。 在外研究員として派遣を認めて頂いた本学・学部関係者
に加え、受け入れ大学であるセントラルフロリダ大学の関係者にも深く謝意を表したい 。 なお、本稿
中の URL は 2015 年 2 月 11 日にアクセスした情報に基づいている 。
1 「第 2 期教育振興基本計画」については、文部科学省 Web サイト
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keikaku/ を参照されたい 。
2 UCF
の Web サイト
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3 学部の構成や在籍者数に関しては、 http://
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5/ を参照された U 、 。 なお、
卒業生数は 235,000 名を超えている 。
4 CDL の Web サイト http:/Io
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5 UCF での Learning ManagementSystem (LMS) あるいは Course ManagementSystem (CMS )は
米国 Instructure 社の Canvas をベースとしている 。
6 IDL6543 をはじめ UCF におけるオンライン教育の詳細については、児島( 2012 )を参照されたい 。
7 たとえば、デイツク他( 2001 )、島宗(2004 )、ガニェ他( 2005 )、ケラー( 2009 ) そして稲垣 ・ 鈴木編
(2011 )などがある 。
8 ジョエル・ハートマン氏へのインタビューは、 20 1 4 年 l 月 14 日、同氏の UCF メインキャンパスオフィ
スにて約 2 時間行った 。 書くまでもないが、本稿に含まれるかもしれない全ての誤謬は筆者に帰する 0
9 文部科学省 Web サイト「校教育法及び国立大学 法人法の一部を改正する法律及び学校教育法施行規
則及び国立大学法人法施行規則の一部を改正する省令について(通知)」 http://www .mext.go.jp/a_
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10 この他、大学等における ICT を活用した教育に関する調査は、私立大学情報教育協会(2012 )や京都
大学( 20 14)を参照されたい 。
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