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小学校合唱指導に役立つ MIDIコンテンツの制作
学校における情報化促進のための教育ネットワーク ソリューション有効活用に関する研究 -小学校合唱指導に役立つMIDIコンテンツの制作- 研究の概要 情報教育研究グループでは,ピーチウェアの「コンテンツデータベース」の充実に重点を置いた研 究を行ってきた。本研究は,教育用コンテンツとして,小学校での合唱指導に役立つ MIDI コンテン ツに焦点をしぼり,その有効性を検証し,ピーチウェアに登録(公開)して学校教育に役立てること を目指したものである。そのための法的(著作権)な側面についても今年度中に調査・研究を行い, 次年度以降,予算(MIDI コンテンツ配信に係る使用料)の範囲内で MIDI コンテンツの追加制作(1 0曲程度)を行い,コンテンツデータベースの充実を図っていく。 なお,本文中の補助資料1~8については,CD 版の研究紀要又は,山梨県総合教育センターホー ムページに掲載されている。 キーワード MIDI コンテンツ 小学校合唱指導 特別活動 自主練習 IT活用 著作権 ピーチウェア 教育ネットワークソリューション Ⅰ 主題設定の理由 1 学校の情報化の側面から (国の施策(IT 新改革戦略)の側面については本グループ研究の全体計画を参照) 県の各機関および県立学校では数年前に教職員一人一人が専用に使える,いわゆる「一人一台パソ コン」(以下一人一台 PC)が整備され,ネットワークを利用するためのソフトウェア(以下ソフト) の整備や,電子文書・申請等の仕組みの整備も進んできている。しかし,小中学校で一人一台 PC が 整備されている学校は十分とまではいかず,既にコンピュータが整備済みの学校においても,ネット ワーク利用のためのソフト面での整備はこれからである。 町村合併により大きくなった市や町が抱える小中学校の数は増える中,予算節減の折り,ソフト購 入費等を精選する市や町は多いと思われる。学校で使われる教職員用コンピュータのソフトは,児童 生徒用コンピュータソフトを包含するような形で導入することが望ましいと考える。子どもたちが利 用するソフトを,教師が一人一台 PC で日常的に使えるようにすることは,国の施策の柱の一つであ る「教員のコンピュータ指導力の向上」を推進して行く上で無視できない環境であると思われる。研 修も必要であるが,日常的にコンピュータを利用する中で指導力の向上を図ることも必要である。 一人一台 PC の導入が進んで行く中で,導入されているソフトの種類からその利用形態を想像する と,教職員に要求されていることは,一般的(事務的)なコンピュータ利用やネットワーク利用に重 点が置かれているようである。教育機器としてのコンピュータや,他の教育機器とコンピュータの連 -1- 携といった,コンピュータ本来の多様な活用ができるようなソフト面での充実も必要である。コンピ ュータと教育機器は連携することで,より大きな教育効果が得られるものである。プロジェクター, デジタルカメラやビデオカメラ,イメージスキャナ,キーボード(MIDI 対応機器),顕微鏡,周辺機 器と呼ばれるものから,その他の機器も今のコンピュータでは連携が比較的容易に行える。このよう な使い方が一人一台 PC で実現できることが望ましいとともに,活用できる教員の指導力向上も必要 である。 2 小学校の合唱指導の実態から (図1)小学校1学年当たりの平均学級数による規模の分類 県内の小学校は,平成16年度学校基本調 10% 1% 学校数 査( 補助資料1 )によると,全208校中の 1学級以下 約半数が単級以下(6学級以下)の小規模校 2学級未満 であり,一部2学級(12学級未満)を含め ると全体の約2/3となる(図1)。このような, 47% 28% 小規模校が多い実態においては,全校や複数 3学級未満 4学級未満 学年で取り組む合唱指導は,ある学年の担任 5学級未満 (音楽主任)が主に担当することが多いと思 14% われる。また,必ずしも合唱指導(音楽)の 得意な教員が配置されているとは限らず,担当する教員の負担は大きい。そのため,臨時に地域の人 材等を活用した指導が行われることも多いようである。 Ⅱ 研究のねらい 作成した MIDI コンテンツを合唱指導の補助的なツールとして役立てるとともに,MIDI 演奏可能 なオルガンの本来的な利活用やコンピュータとの連携活用を通して,学校の情報化を進め,教育機器 活用面における指導力向上への一助とする。 また,センターホームページやピーチウェア等への登録を通して,それらの充実と利用促進を図る。 Ⅲ 研究の基本的な考え方 1 MIDIとは フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』(http://ja.wikipedia.org/wiki/)によると,「MIDI(ミ ディ,Musical Instrument Digital Interface)は,日本の MIDI 規格協議会(JMSC,現在の社団法人音楽 電子事業協会(AMEI))と米国の MMA (MIDI Manufactureres Association) により制定された,電子 楽器の演奏データを機器間でデジタル転送するための規格である。」とある。 MIDI によって機器等に送られるのは実際の音ではなく,楽譜に書かれてあるような情報(音程・ 長さ・強弱等,演奏指示の情報)の連なりである。わかり易く例えると,コンピュータや MIDI 対応 機器の中に色々な楽器の演奏者(MIDI 音源)がいて,その演奏者に命令する(伝える)演奏指示の -2- 情報(楽譜の情報)のまとまりを,コンピュータで扱える形式にしたものが MIDI ファイル(SMF: Standard MIDI File,ファイルの拡張子は mid)である。そのため,MIDI ファイルの大きさは,実際 の音や音楽を録音したファイル(拡張子が wav, wma, mp3 等のファイル)に比べて極端に小さい。し かし,同じ楽譜で演奏をしても,演奏者や楽器が異なると音が違って聞こえるように,MIDI によっ て演奏される機器(音源)によっては,再生音が違ってくる。 現在,MIDI は音楽制作の現場のみならず通信カラオケ,携帯電話の着信メロディ等で幅広く利用 されている。また,MIDI 規格の存在とコンピュータの普及により,趣味としての音楽制作(DTM) が一般化している。 2 小学校合唱指導について この研究で取り上げている「合唱指導」とは,小学校音楽科のカリキュラムに沿って行われる指導 というより,行事等における合唱指導のことを指しており,主に特別活動での指導を対象にしている。 単純な繰り返し練習の多い初期段階(音どり)では,子どもたちが自主的に,容易に練習に取り組め るような場所や環境を設定することにより,より短い時間で効果的な指導ができるのではないかと考 える。そのような環境をつくるためのソフト面でのツール(道具)として MIDI コンテンツを捉える。 当然,ハードウェアとしてのオルガン等の MIDI 対応機器は必須である。 音楽の副教材として各出版社から模範演奏 CD や伴奏 CD が有償または,無償で提供されてはいる が,児童に歌わせたい楽曲がすべて提供されているわけではない。それらがない場合には,教師が実 際に演奏してパート練習用の CD やカセットテープ等を作らなければならない。 このような状況の中で,教員の負担軽減及び,児童の合唱への意欲化を図るために本研究に取り組 んだ。 3 情報機器の活用面から 趣味としての音楽制作が一般化してきている現在,楽譜に対するある程度の知識があり,コンピュ ータの基本的な操作ができれば,音楽的な素養が十分なくても MIDI コンテンツの制作は容易にでき る。楽譜を見ながら一つ一つ音符を画面上の五線譜の上に置いていく操作そのものは簡単であるが, 学校現場の多忙さを考えると,このような根気のいる地道な作業を行うのは困難かもしれない。しか し,情報機器の活用面から,学校での MIDI 制作が普通に行われることを期待するとともに,機器活 用能力の向上という側面からも,この研究を役立てたい。 4 著作物の利用形態に係る許諾と使用料の面から 平成16年1月1日施行の著作権法改正法によって,第35条(学校その他の教育機関における複 製 )( 補助資料2 : http://www.houko.com/00/01/S45/048.HTM#s2) による著作権の制限が縮小され,学 習者による複製,遠隔地での授業への公衆送信等が著作権者等の許諾を得ずに行えるようになった。 その ガイドライン( 補助資料3 : http://www.pressnet.or.jp/info/seimei/35-guideline.pdf) が作成されてお り,許諾を得る必要があるかどうかはこのガイドラインで判断できるが,学校現場でより簡単に 判断できるフローチャート( 補助資料4 : http://www.jbpa.or.jp/35-flowchart.pdf) が日本書籍出版協 会のホームページに掲載されている。 許諾を得ずに学校現場で利用(複製)できる著作物の範囲が広がったとはいえ,次に挙げるような -3- 著作物の使用は第35条で認められる著作物の使用には該当しておらず,許諾が必要である。 ○学校のホームページにキャラクター,イラスト,新聞・雑誌記事などを掲載すること ○ 一 つ の ソ フ ト を 学 校 内 の LANで 共 有 す る こ と ○校歌を学校のホームページで流すこと ○学校のホームページからパッケージソフトをダウンロードできるようにすること これらは一例であるが,このように著作物の利用方法によっては,許諾を得たり,著作権料(使用 料)を支払わなければならない場合もある。コンピュータソフトについては,「ライセンス料」とし て知られているが,その他の一般的な著作物については,許諾を得たり使用料を支払ってまで,学校 で利用するという例はほとんどないのではなかろうか。 面倒な手続きや,料金がかかることで及び腰になってしまいそうであるが,著作物やその利用方法 が学校運営や教育上必要なものであれば,許諾を得たり使用料を支払ってでも利用したいものである。 そして,その費用を予算化することは,図書やソフト購入費を予算化することと同じであり,書籍購 入費程度の使用料であれば予算化し,許諾を得てより価値のある使い方をしたいものである。 市販されている本や CD の価格に含まれている著作権料(利用を限定した使用料)を意識して購入 することはほとんどないと思われるが,それらの著作物の利用方法や形態によっては,「利用方法や 形態に対する使用料を支払う」という意識が大切になってくる。様々な著作物がインターネット等で 容易に入手できる現在,このような意識改革は必要であり,児童生徒への指導でも生かしていかなけ ればならないと考える。 Ⅳ 研究の具体的目標 1 小学校の合唱指導に役立つ MIDI ファイルを制作し,子どもたちの自主練習等に役立てる。 2 MIDI 対応機器の活用を通して,コンピュータと連携した教育機器の活用を図り,学校の情報化 を進めていくための指導力の向上を目指す。 3 ピーチウェアの普及を進め,学校の情報化を推進する。 Ⅴ 研究の内容と方法 県内小学校の実態や,学校規模,関連機器の導入状況を考慮して複数学校に依頼した。西浜小学校 (6学級規模・約80名 ),中道北小学校(6学級規模・約200名 ),石和西小学校(12学級規 模・約360名)の3校にお願いし,MIDI コンテンツを利用した合唱指導の実践を行った。これら の規模(12学級以下)の小学校は全県下で約6割を占めている。 作成した MIDI コンテンツを配付し,試用した結果や感想を報告していただき,それらをもとにし てコンテンツの有効性を検証する。以下は研究の内容である。 1 MIDI ファイルの制作 2 研究協力校における実践(試用)と有効性の検証 3 MIDI コンテンツ配信に係る著作権についての調査 4 ピーチウェアの組織変更に伴う設定の更新 -4- Ⅵ 研究の結果と考察 1 研究の結果 (1) 制作した MIDI ファイルについて 研究協力校3校に音楽会,文化祭,卒業式等で取り組む合唱曲を報告していただき,それらの楽譜 をもとに,専用ソフト(finale 2006 日本語版)を使い,MIDI ファイルを制作した。 MIDI ファイルは専用ソフトを使うと容易に制作できるが,若干の音楽(楽譜)の知識と,時間が 必要である。市販の楽譜を見ながら画面上の五線譜に音符や記号を置いていくだけの単純作業である が,時間と根気が必要である。ワープロに例えると,マウスで一字一字文字を選んで入力するような ものである。楽譜をスキャナーで読み込んだり,キーボードから直接入力する方法もあるが,いずれ にしても修正が必要で,一つ一つ音符を入力した方が早い場合が多い。 協力校にあるオルガンの機種によってはパート毎に音量調節ができないものがあり,それぞれのパ ートの MIDI ファイルを制作することになった。また,MIDI ファイルの演奏に強弱が入ると,音ど りの練習で聞こえにくくなる(p:ピアノの部分)場合があり,強弱記号を除いたファイルも必要と なり,1曲について複数の MIDI ファイルを制作・配付した(表1)。 (表1)制作コンテンツ一覧 制作コンテンツ一覧 曲名 1 あしたがすき 作詞・作曲者 制作したMIDI(ファイル名) 新沢としひこ 作詩 あしたがすき_西浜小.MID 中田ひろたか 作曲 奥田 政夫 編曲 2 カリブ夢の旅 平野祐香里 作詩 カリブ夢の旅_西小.MID 橋本 祥路 作曲 カリブ夢の旅_西小_sop.MID カリブ夢の旅_西小_art.MID カリブ夢の旅_西小_強弱なし.MID カリブ夢の旅_西小_sop_強弱なし.MID カリブ夢の旅_西小_art_強弱なし.MID 田崎はるか 作詩 心の中にきらめいて_西小.MID 3 心の中にきらめいて 橋本 祥路 作曲 心の中にきらめいて_西小_sop.MID 心の中にきらめいて_西小_mez.MID 心の中にきらめいて_西小_art.MID 心の中にきらめいて_西小_強弱なし.MID 心の中にきらめいて_西小_sop_強弱なし.MID 心の中にきらめいて_西小_mez_強弱なし.MID 心の中にきらめいて_西小_art_強弱なし.MID 4 旅立ちの時 ドリアン助川 作詩 旅立ちの時_all.MID 久石 譲 作曲 旅立ちの時_sop.MID 奥田 政夫 編曲 旅立ちの時_art.MID 5 きみとぼくのラララ 新沢としひこ 作詩 きみとぼくのラララ_all.MID 中川ひろたか 作曲 きみとぼくのラララ_sop.MID 井口 モエ 編曲 きみとぼくのラララ_art.MID (2) 備考 西浜小学校湖畔親善音学会3・4年生発表 楽譜出典:音楽会歌と合奏(教育研究社) 石和西小学校校内文化祭5年生発表 全パートと各パート計3種類と 強弱記号をとったもの計3種類の合計6 楽譜出典:橋本祥路ベストセレクション(教育芸術社) 石和西小学校校内文化祭5年生発表 全パートと各パート計4種類と 強弱記号をとったもの計4種類の合計8 楽譜出典:橋本祥路ベストセレクション(教育芸術社) 中道北小学校卒業式 卒業生合唱 中道北小学校卒業式 在校生合唱 研究協力校における実践 これらのファイルをEメールやフロッピィディスクで各校へ送り,各校の実態に応じて,何枚かの フッロッピィーディスクにコピーし,子どもたちの音どりの練習等に活用していただいた。以下は各 学校毎の実践・感想の概略である。 ① 西浜小学校 ・MIDI 対応機器 YAMAHA SE7000 Ⅱ(オルガン) ・対象学年 3,4年生 計34名 -5- ・利用した時間 音楽の時間,学校裁量の時間・朝・放課後 ・練習期間 9月中下旬~10月 11月上旬に行われた湖畔親善音楽会への合唱練習のために利用した。各パート毎に音量を調節で きるオルガンなので,全パートが収録された一つの MIDI ファイルで練習に対応できた。 教師が指導の補助的な道具として使い,学校裁量の時間や朝の会の時間,放課後等を利用して練習 に利用した。二部合唱を指導する時に,担任が両方のパートを見ることは難しく,また,一つのパー トを指導する時に,指導と伴奏の両方をするのも難しい。そのような時にとても助かり,指導者が一 人で二人分の活動ができた。 ② 石和西小学校 ・MIDI 対応機器 YAMAHA SE4000(オルガン) ・対象学年 5年生 ・利用した時間 教科(音楽)の時間,特別活動の時間,朝学習の時間,朝・帰りの会 ・練習期間 9月下旬~10月上旬 計47名 石和西小学校では,運動会後の2~3週間の取り組みで,10月に行われた校内文化祭の発表曲練 習のために利用した。オルガンはパート毎の音量調節ができない機種であり,それぞれのパートの MIDI ファイルが必要であった。音楽の時間や,朝学習の時間,朝・帰りの会等の時間を使い,教師 が正確な音や和音を聞かせるための道具として使った。また,教師がいなくても自分達で音どりや合 唱練習をするために使ったり,伴奏者がテンポを一定にする練習にも利用した。 パート毎に音どりするのは待ち時間が長くなり時間の無駄だが,MIDI ファイルを使うことで児童 だけでも音どりの練習が繰り返しでき,とても良かった。給食の時間や掃除の時間にも曲を流して音 を覚えることができ,合唱指導には大変有効であった。 ③中道北小学校 卒業式で歌う合唱への取り組みのため,現時点では6年生のみの中間報告である。 ・MIDI 対応機器 YAMAHA SHK-1000(キーボード) ・対象学年 6年生 ・利用した時間 教科(音楽)の時間,朝の会 ・練習期間 1月中旬~ 計38名 中道北小学校では卒業式の合唱への取り組みに利用している。主に,音楽の時間を利用し,アルト パートの音程をとるために教師が補助的な道具として利用している。利用できるオルガンが少ないこ とが不便な点ではあるが,指導の目的によってパートが選べたり,パート練習の時に子どもたちが自 主的に練習できることが便利であった。 (3) 利用報告書から 各校の取り組みが終了した後,利用報告書(補助資料5)を提出していただき検証した。 各校の概要については(2)で触れたので,ここでは MIDI コンテンツを合唱指導に利用した時の便 利な点と不便な点についてまとめた。 ① 便利な点 -6- (指導者として) ☆ 指導者が,演奏が苦手な場合に便利である。 ☆ キーボードを弾くのが得意な児童がいない場合に便利である。 ☆ 指導者が,演奏に気を取られずに指導に集中することができる。 ☆ 指導の目的によってパートが選べる。 (具体的な指導・練習で) ☆ リピート機能を使ってたくさんの反復練習ができ,指導者が途中で指導したくなる場面でもひ たすら機械的に練習することができる。集中力を切らさないで続けられる。また逆に,機械的練 習で集中力が切れた場合には,観察が充分できているので,適切なタイミングで指導できる。 ☆ テンポの設定が自由なので,きちんとおさえたいリズムやメロディをゆっくりの状態から練習 できる。 ☆ キーを下げた状態から半音ずつあげて練習することで,無理のない,ひびく歌声を目指すこと ができる。 ☆ また,各パートのボリュームを調整できるで,他パートにつられずに歌える音量から次第に音 量を上げることで,自分のパートがしっかり歌えるようになる。 (各パートのボリューム調整は YAMAHA SE7000 Ⅱに依存した機能) ☆ 伴奏と同時にパートの音が取れる。 (日常の練習場面で) ☆ 休み時間等,いつでも気軽に誰でも誰とでも練習することができる。 ☆ 何度も聴くことでパートの音が取れるようになる。 ☆ 簡単に操作出来るので,児童だけでも練習ができ,パート練習の時など,子どもたちが自主的 に練習できる。(2校) ☆ 伴奏者の演奏が早くなったり遅くなったりしていたが,MIDI による自動演奏に合わせて演奏 することで,一定したテンポの伴奏ができるようになる。。 ② 不便な点 (指導・練習場面で) ★ 指導者やキーボードが弾ける児童が演奏した方が,練習の融通がきく。 ★ 音をとりにくいジャンプなどが入っている場合に,全部四分音符にして練習したり,リズムだ けで練習したり,というふうに,児童の状況に応じた細かな練習メニューは無理である。 ★ 楽譜の変更に対応できない。MIDI ファイルを音楽エディタに読み込んで編集し,新たに MIDI ファイルを作成しなければならないが,その作業は一般には困難。 (機器そのものの側面) ★ 楽器が重いので練習場所の移動がむずかしい(今年は4年が高音部,3年が低音部なので教室 対応ができたが,1クラスの中を複数パートに分ける場合など,練習が難しい)。 ★ 電気がないと使えない。 ★ そのオルガン等(MIDI 対応機器)がないと使えない。利用できるオルガンの数が少ない。 -7- (機器の機能的な側面) ★ 全体の合唱練習になると音が聞こえにくい。 ★ リピート機能が1ヶ所しか指定できないので,反復練習をしたい場所が複数あるときに,頭出 しと設定に多少の時間がかかってしまう。 ★ ③ 任意の小節にジャンプすることができない(始めから早送りしていかないとならない)。 教師・児童の感想から (教師の感想) ☆ 二部合唱を指導する時に,担任が両方のパートを見ることは難しいです。また一つのパートを 指導するときに,指導と伴奏の両方をするのも難しいです。そんな時にとても助かりました。指 導者が一人で二人分の活動ができました。 ☆ パートごとに音どりするのは,待ち時間が長くなり時間の無駄でしたが,MIDI データを使う ことで児童だけでも音どりが繰り返しでき,とても良かったです。給食の時間や掃除の時間にも 流して,音を覚えることができました。合唱指導には大変有効であったと思います。 (児童の感想) ☆ 人がいないのに勝手に音が鳴って楽しかった。 ☆ 繰り返して何回も練習できてよかった。 ☆ パートの音がわかった。 ☆ 係の子だけが操作しましたが,みんながしたがりました。 ☆ オルガンに触れる回数が増えました。 ☆ 伴奏と単音が同時に流れたり自分で伴奏をひきながら単音を流したりできて,とても便利でし た。特にアルトの人達は,使いやすかったと思います。 ☆ よかったことはパートごとに分かれてやる時、そのパートごとの音がでて歌いやすかったです。 それに流したい音が流れたりしてとても使いやすかったと思います。 (4) ① 著作権について MIDI コンテンツ制作に係る著作権について 本センターにおいて,合法的に MIDI を制作するためには,基になる楽譜がセンターになければな らない。協力校からいただいた楽譜のコピーから MIDI を制作し利用することは,著作権法第35条 で許される複製にはあたらないためである。そのため,本センターに当該楽譜があるかどうか確認し, ない場合は楽譜を購入した。 この調査を通して,音楽著作物に係る権利状況を調べるためのデータベース(図2)が存在するこ とが分かり,大変重宝したのでここで紹介しておく。 ② MIDI コンテンツ配信に係る著作権について JASRAC(日本音楽著作権協会)のホームページから同ネットワーク課の担当者に問い合わせを行 い,MIDI コンテンツ配信に係る著作権について調査した(補助資料6)。その結果,総合教育センタ ーは「非商用配信の場合で包括的利用許諾契約によるときの使用料早見表」の「地方自治体,非営利 団体,サークルなど」に分類され,本センターのホームページからダウンロード形式で配信する場合, 使用料が発生し,10曲まで年額使用料が50,000円(月額5,000円),以後10曲までご -8- とに同額が加算されることがわかった。 (補助資料7:http://www.jasrac.or.jp/network/side/hayami.html) MIDI コンテンツが配信できるようになるまでは,このような使用料のみでなく,許諾手続きに係 る書類の提出や,配信するホームページでの著作権表示等,様々な手続きが必要になってくる。金額 的には,ダウンロード可能期間を1カ月間だけに限定すれば,1曲(1ファイル)あたり500円程 度の使用料で配信できることになる。 (図2)作品データベース検索「J-WID」 (http://www2.jasrac.or.jp/eJwid/) MIDI コンテンツをダウンロード する小学校では,ガイドラインで許 された範囲での利用に限って権利者 に許諾を得ることなく利用可能とな る。来年度のことではあるが,多く の学校で利用していただきたいと思 う。 2 考察 (1) 目標1に関わって~協力校の実践報告から~ MIDI コンテンツの有効性について便利な点,不便な点を報告していただいた。その中で,まず, 第一に評価できる点は,指導する側の便利さである。指導者がキーボード等の演奏に長けていなくて も,また,キーボード等の得意な児童がいなくても,練習が効率よく行える点である。また,指導者 が演奏に気を取られずに指導に集中できる点も見逃せない良さであり,大変役立つコンテンツである。 第二に,指導・練習場面で,繰り返し反復練習が容易に行え,その様子を指導者が十分観察でき, 指導に役立てられることである。また,テンポやキーを自由に変えられるので,練習の成果を踏まえ ながら,児童の実態に応じた練習ができる点である。機種によっては,他パートの音量を変えること で,無理なく合わせ練習(他パートの音を聞きながら自分のパートを歌う)が行え,大変効果的であ る。 第三に,発達段階にもよるが,高学年になると指導者がいなくても,児童たちだけで自由に練習が できる点である。休み時間に個別に練習したり,朝・帰りの会などの時間を使ってクラス全体で練習 したり,給食の時間に聴くだけの練習でも成果があった。また,MIDI ファイルで自動演奏しながら, キーボード演奏も同時に行えるので,伴奏者(児童)の練習用にも大いに役立った。 練習の融通性や,児童の状況に応じた臨機応変な練習には無理があったり,MIDI 対応機器の機能 的な面や,機器そのものの不便なところもいくつか報告されている。しかし,上記の報告を総合する と,MIDI 対応機器があることは必須条件であるが,合唱指導に役立ち,児童が自主的に練習できる 場や環境を容易に作ることができ,練習に役立つことは確かである。 (2) 目標2に関わって 今年度の研究では,「学校での MIDI ファイル制作」という部分は研究内容に含まれていないが, 学校の情報化の進展に伴い,このようなコンピュータと連携した教育機器活用が多くの学校で実現で きるようになることを望んでいる。 今回,MIDI コンテンツの利用を通して,教育機器の機能をフルに活用すると,思いもよらない効 果や成果があったり,そのためにはコンピュータとの連携が必須であることに,協力していただいた -9- 先生方も気づいていることと思う。実際,画像系のコンテンツ(スキャナーやデジタルカメラ等で作 られるファイル)は制作が比較的容易であり,既に多くの学校でコンピュータと連携して利用されて いる。そのまま授業で使う提示資料にしたり,中には,プレゼンテーションソフト等を使って教材・ 教具として利用できるまでに作り込んでいる先生方も多いのではないかと思われる。 このような,コンピュータと連携した教育機器活用におけるポイントや,考え方の基本は,「コン ピュータで何ができるか 。」ではなく,基になっているアナログ的なコンテンツ(考え,アイデア, 教材・教具等と言い換えてもいいかもしれない)に ,「コンピュータがどう関わっていくと,それら が授業の中でより効果的に使えるか 。」という考え方である。そのためには,コンピュータとそれら コンテンツ間の橋渡しをするものとして,従来から使われてきている教育機器やデジタルカメラ等が 必要である。ネットワークもある面ではその一つであろう。 学校の情報化( IT 化)と聞くと,コンピュータやネットワークといった機器を連想しがちである が,それらと直接向き合うのではなく(直接向き合わなければならないリテラシー等の一面もあるが), 橋渡しをするもの(機器等)といかに連携させ,効果的に利用するかという視点から向き合っていく ことがより大切である。子どもたちの指導に直接関わる教師にとっては念頭に置かねばならないとと もに,実体験を伴う指導が重要な小学校においては,広い意味での情報教育を推進していく上で忘れ てはならない指導のポイントであろう。 小学校における,音楽に関わる教育機器とコンピュータとの連携という側面からの MIDI コンテン ツの利用研究であったが,このことをきっかけとして,より多くの先生方が画像のみでなく,音楽も 含めた「音 」(一般的な耳で感じる音)や「映像」の分野での教育機器とコンピュータ連携へと発展 的に取り組んでいただくことを願っている。 ○ ホームルームのオルガン設置状況調査から 県内小学校の MIDI 対応機器の導入状況を調査した結果,97%(202校)の小学校で各教室に オルガンが設置されており(図3),その中の36%(72校,全体の35%)が MIDI 対応のオル ガンであることが明らかになった(図4)。(図3)オルガン等の常設状況 (図4)自動演奏可能オルガンの有無 MIDI 対応のオルガンがあってこそ オルガン等の常設 1% の研究実践のように思われるが,合唱 自動演奏機能等の有無 1% 母数:208校 2% 母数:202校 練習用に特化した MIDI プレーヤーの 36% ような機器が,オルガンに比べ大変安 72 価で発売されており,利用できる。 128 また,コンピュータと拡声装置(外 202 63% 付けのスピーカー)があれば,音どり の練習に利用でき,ノートパソコンで 97% はい いいえ 無回答 はい いいえ 無回答 あれば,よりフレキシブルな利用がで きる。取り扱いや操作性は専用機器に劣るかもしれないが,MIDI 音源やプレーヤーソフトを別途導 入することによって,音質や機能の両面でより優れた機器として利用できる。MIDI プレーヤーソフ トには MIDI 音源付きのものもあり,Windows 付属の音源より質の良い音が出るので,コンピュータ をオルガン代わりに使う場合には利用価値がある。 (フリーの MIDI プレーヤーソフト:http://download.music-eclub.com/midradio/) 今年度の調査によると,小学校普通教室における MIDI 対応オルガンの設置率は35%であるのに - 10 - 対し,コンピュータの設置率は概ね65%(「普通教室の LAN 整備率」:平成17年9月30日現在 の県の調査(補助資料8)から推測)であり,コンピュータが MIDI 対応オルガンの約2倍という状 況である。LAN 整備率からの推測ではあるが,約130校余りの小学校で MIDI コンテンツが利用 できる状況にあり,より多くの学校での利用が期待できそうである。 (3) 目標3に関わって 今年度の研究は,コンテンツデータベースの充実を通してピーチウェアの普及を進めるという面で は,残念ながら寄与しない結果となった。しかし,研究グループ内で分担して行った,いわゆる「ピ ーチウェアの改定」は,その存在や名称を全県下の学校に知っていただいただけでも,普及の第一歩 になったのではないかと思う。次年度は,ピーチウェアを利用して MIDI コンテンツの配信を行い, その普及に寄与したい。ピーチウェア改定・普及に関わって行った研究の内容は下記のとおりである。 詳細については,グループ全体の研究担当である金井の報告の中で触れられている。 ① ピーチウェアの組織とその階層構造の大改定 ② 各組織の利用者の新規登録 ③ 提出/回収機能の試行(県下アンケートの実施)と,中学校及び,高等学校における実質的運 用 ○ ④ 提出/回収機能の利用者および,管理者マニュアルの作成 ⑤ ピーチウェアに関わる次年度研修会の企画と計画 小学校の公式ホームページの開設と管理についての調査から この調査は学校の情報化(情報発信)の側面から,小学校のホームページ管理の実態について調査 したものである。公式ホームページの調査(図5)によると,67%の小学校(139校)で開設し ている状況が明らかになった。定期更新の状況調査(図6)では,少なくても年1回の更新を行って いる学校は75%(105校)あるが,残りの24%の学校では更新されていない結果となった。 管理方法の調査(図7)によると,69%(96校)の学校で担当者を決めて管理しており,業者 に管理を委託しているのは5%である。 (図5)公式ホームページの有無 HPの有無 (図6)ホームページの定期更新 (図7)ホームページの管理方法 HP管理の方法 HPの定期更新(少なくても年1回) 母数:208校 1% 6% 1% 2% 5% 母数:139校 母数:139校 8% 24% 11 32% 10% 139 96 105 67% 69% 75% はい いいえ 無回答 はい いいえ 無回答 業者委託 決めていない その他 担当者 管理できない 無回答 これらの結果から,ホームページを開設し,かつ,管理もできている小学校は約半数の105校で あり,残りの半数(100校程度)は開設していなかったり,開設していても管理できない状況であ ることがわかる。ホームページ管理に係る人的な課題が潜んでいるようである。今後の情報教育研修 会の企画・計画に生かすべき課題であると思われる。 - 11 - Ⅶ 研究のまとめ 昨年度の勤務校で,卒業式への取り組みについて「合唱練習に割ける時間が十分とはいえない中で, いかに効果的な練習ができるか?」という,担任の先生からの相談があった。教室のオルガンという と,「電子オルガン」のイメージしかなかったので,MIDI ファイルを演奏できると聞いて驚いたと同 時に,一つの解決策が浮かんだ。練習する合唱曲の MIDI コンテンツを作り,子どもたちだけでも音 どりの練習ができるようにしたらどうだろうかと,担任の先生や子どもたちに利用していただいた経 緯がある。 本研究では規模の異なる複数の小学校で実践していただき,MIDI コンテンツが小学校における合 唱の指導や自主練習に役立つことが検証された。想定した主な利用方法は児童の自主的な練習場面で の活用であったが,児童の発達段階に応じた使い方を工夫していただいた。 また,伴奏者の練習にも効果的に利用できることが報告され,予想していなかった成果の一つであ る。先生方の創意工夫により,より効果的な活用ができることを願っている。 ○ 次年度へ向けて 当初の予定では,調査結果(補助資料9)をもとに,より多くの MIDI コンテンツを制作し,年度 内に県下各小学校へ配信する予定であったが,著作権の調査を行っていくうちに配信使用料やその手 続きについての難しさが明らかになり,準備期間を設けるためにも,来年度への研究課題とした。 小学校でよく歌われる歌の調査結果をもとに来年度は,10曲程度,計40ファイルをめどに,MIDI コンテンツを制作し,配信する予定である。表2は全体の,表3~5は各ジャンル毎のベスト10の 集計結果である。 また,ピーチウェアに関わり,次年度は ,「県教委←→教育事務所←→地教委←→学校」の縦の関 係における提出/回収機能の利用研究を検討しており,学校の情報化の推進に寄与していきたい。 (表2)全体のベスト10 № 1 2 3 4 5 6 7 8 8 10 (表3)音楽会の歌ベスト10 全 音 在 卒 曲名 48 14 15 19 この星に生まれて 47 1 4 42 旅立ちの日に 42 20 17 5 ビリーブ 27 2 2 23 広い世界へ 24 1 22 1 大空がむかえる朝 23 11 9 3 スマイルアゲン 21 0 1 20 巣立ちの歌 16 13 3 0 世界が一つになるまで 16 3 1 12 未来へ 14 1 1 12 3月9日 № 音楽会 曲名 1 20 ビリーブ 2 14 この星に生まれて 3 13 世界が一つになるまで 4 11 スマイルアゲン 5 9 君をのせて 6 8 翼をください 7 7 少年少女冒険隊 8 7 世界中の子どもたちが 8 6 赤い屋根の家 10 5 歌よありがとう (表4)卒業式での在校生の歌ベスト10 № 在校生 曲名 1 22 大空がむかえる朝 2 17 ビリーブ 3 15 この星に生まれて 4 9 スマイルアゲン 5 9 エール 6 9 さようなら 7 6 夢をあきらめないで 8 6 君に会えてよかった 8 6 また会う日まで 10 5 ウィズユアスマイル 全回答数 42 48 16 23 9 9 7 7 7 9 (表5)卒業式での卒業生の歌ベスト10 № 卒業生 曲名 1 42 旅立ちの日に 2 23 広い世界へ 3 20 巣立ちの歌 4 19 この星に生まれて 5 12 未来へ 6 12 3月9日 7 12 栄光の架け橋 8 10 マイバラード 8 9 旅立ち 10 7 ベストフレンド 全回答数 24 42 48 23 13 12 13 7 6 9 - 12 - 全回答数 47 27 21 48 16 14 13 13 10 10 参考資料・文献等 研究協力校 ・「教職研修資料」2006/6/15 No151号 (菱村幸彦(財)学習ソフトウエア情報研究センター理事長) ・「音楽会 歌と合奏2」 西浜小学校 校長 八野 耕一 石和西小学校 校長 早川 公仁 中道北小学校 校長 星野 孝大 (奥田政夫・教育研究社) ・「橋本祥路ベストセレクション」 研究協力員 (橋本祥路・教育芸術社) ・「Finale User's Bible」 (秋山公良・音楽の友社) 小林 広美 西浜小学校教諭 篠原 初美 石和西小学校教諭 宮本 千明 中道北小学校教諭 ・「学びの扉-アドミニストレーションガイド」 (NEC) ・フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」 平成18年度 山梨県総合教育センター 執 研修主事 (http://ja.wikipedia.org/wiki/) ・作品データベース検索「J-WID」 (http://www2.jasrac.or.jp/eJwid/) - 13 - 筆 者 渡邉 真史