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1.「死んでしまいたい」 過労自殺の電通社 員、悲痛な叫び

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1.「死んでしまいたい」 過労自殺の電通社 員、悲痛な叫び
松本地区労組会議データ File
通算 No.244
2016/10/31 松本地区労働組合会議 〒390-0811 長野県松本市中央 4-7-22 松本勤労会館内
Tel: 0263-33-9513/Fax: 0263-33-6000/Email: [email protected]
1.「死んでしまいたい」 過労自殺の電通社
員、悲痛な叫び
千 葉 卓 朗 、編 集 委 員 ・沢 路 毅 彦
2016 年 10 月 8 日 00 時 15 分 朝 日 デジタル
高橋まつりさんの遺影を掲げて記者会見する母親の幸美さん=東京・霞
が関の厚生労働省
広告大手、電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24)が、過労自殺だったとして労災認定された。
母親の幸美さん(53)は7日、厚生労働省で記者会見し、「労災認定されても娘は戻ってこない。いのちよ
り大切な仕事はありません。過労死を繰り返さないで」と訴えた。
電 通 の女 性 新 入 社 員 自 殺 、労 災 と認 定 残 業 月 105時 間
遺族側の代理人弁護士によると、高橋さんが配属されたのはインターネット広告を担当する部署だった。
自動車保険などの広告を担当し、クライアント企業の広告データの集計・分析、リポートの作成などが主
な業務だったという。
業務が大幅に増えたのは、試用期間が終わり、本採用になった昨年10月以降。部署の人数が14人か
ら6人に減ったうえ、担当する企業が増えた。月100時間を超える時間外労働をこなしたこともあり、高橋
さんは精神障害による労災認定の基準の一つを超えたと判断された。
電通では、社内の飲み会の準備をする幹事業務も新入社員に担当させており、「接待やプレゼンテーシ
ョンの企画・立案・実行を実践する重要な訓練の場」と位置づけている。飲み会の後には「反省会」が開か
れ、深夜まで先輩社員から細かい指導を受けていた。上司から「君の残業時間は会社にとって無駄」「髪
がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」「女子力がない」などと注意もされていたという。
「本気で死んでしまいたい」「寝たい以外の感情を失った」「こんなストレスフルな毎日を乗り越えた先に
何が残るんだろうか」。高橋さんはSNSなどで友人や母親に、仕事のつらさを打ち明けていた。
心配した幸美さんが電話すると、まつりさんは「転職するか休職するか、自分で決断する」と答えた。11
月には上司に仕事を減らしてもらうよう頼んでいた。幸美さんは「自分で解決してくれる」と娘を信じた。
昨年12月25日朝、まつりさんから幸美さんに「今までありがとう」とメールが来た。幸美さんが電話で
「死んではだめ」と呼びかけると、まつりさんは「うん」と答えた。それが、最後のやりとりになった。
■電通、再発防止を誓うも…
電通では1991年にも入社2年目の社員(当時24)が自殺。電通は当時、会社としての責任を認めなか
ったが、00年3月の最高裁判決は「会社は過労で社員が心身の健康を損なわないようにする責任があ
る」と認定。過労自殺で会社の責任を認める司法判断の流れをつくった。電通はその後、遺族と和解。責
任を認めて再発防止を誓った。
この裁判を担当したのが、高橋さん側の代理人を務めている川人博弁護士だ。川人氏は7日の会見で、
労働時間の把握がずさんだったり、上司の安全配慮に対する意識が十分でなかったりした可能性を指摘。
「企業責任は重大。抜本的な企業体質の改善が必要だ」と強調した。
「過労死・過労自殺のない社会をつくりたい」という遺族の願いから生まれた過労死等防止対策推進法
が2年前に施行され、7日には初の「過労死等防止対策白書」が閣議決定された。
しかし、過労死・過労自殺は後を絶たない。最近は高橋さんのような若い世代が、心の病で自ら命を絶
つケースが目立つ。
08年6月にはワタミグループの居酒屋で働く新入社員が自殺。月141時間の時間外労働があったとし
て、労災認定された。遺族が会社の法的責任を追及して提訴し、15年12月には会社や創業者の渡辺美
樹氏(現自民党参院議員)が法的責任を認めている。
川人氏は「防止法の成立後も、職場の深刻な実態が続いている。国と企業が過労死防止に全力で取り
組むよう心より訴えたい」と話した。(千葉卓朗、編集委員・沢路毅彦)
2.電通、染みついた鬼十則
給料もらってる」
「命を削って
高 野 真 吾 、大 内 奏 、編 集 委 員 ・沢 路 毅 彦
2016 年 10 月 28 日 05 時 00 分 朝 日 デジタル
午後10時過ぎに電通本社ビル(右)は一斉に消灯された=25日、東京都港区、林紗記撮影
バブル経済の終わりが近い1991年8月。電通に入社
して2年目のラジオ局(当時)の男性社員が自宅で自殺し
た。24歳だった。
電 通 社 員 「部 長 指 示 でウソ申 告 」残 業 140→100
時間
長時間労働でうつ病になったのが自殺の原因だとして、
遺族は電通の責任を問う訴訟を東京地裁に起こした。遺
族側は、深夜の退館記録などをもとに、男性が長時間労
働を強いられていたと主張。会社側は男性の自己申告による記録をもとに、「時間外労働が突出して多
いわけではない」「在館時間がすべて業務にあてられていたわけではない」などと反論した。
地裁判決は、男性が亡くなった8月に10回、前の月も12回、東京の本社を午前2時以降に退社してい
たと認定。こうした事実をもとに、「常軌を逸した長時間労働をしていた」として遺族の訴えを認めた。
裁判は最高裁まで争われ、2000年3月、電通に安全配慮義務違反があったと認定された。「長時間の
業務で疲労が蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは周知のところだ」「会社は労働
者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務がある」。初めてこう言い切った最高裁判決は「過
労死問題のバイブル」(岩城穣弁護士)になった。
電通は責任を認めて遺族と和解。再発防止に向け、「長年にわたって適正な勤務管理、長時間勤務抑
制、社員の健康維持のための取り組みを実施してきた」(広報部)と説明する。
しかし、14年6月に関西支社(大阪市)が、昨年8月には東京・汐留の本社が、違法な長時間労働をさ
せたとして労働基準監督署から是正勧告を受けていた。その4カ月後、男性と同じ24歳で新入社員の高
橋まつりさんが過労自殺した。
さらに、本社勤務だった男性社員が3年前に亡くなり、過労死を認められたと関係者は明かす。「全国過
労死を考える家族の会」の寺西笑子代表は「過労死を繰り返す企業には社会的な監視が必要だ」と憤
る。
違法な長時間労働が常態化していた疑いがあるとみて、東京労働局の「過重労働撲滅特別対策班(か
とく)」などが今月14日、本支社に抜き打ち調査に入り、刑事事件としての立件も視野に調べを進めてい
る。
「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……」。電通の4代目社長で、「広告の鬼」と
呼ばれた故吉田秀雄氏が1951年に書いたという10カ条の遺訓「鬼十則」の一節だ。長時間労働を助長
しかねない電通の企業風土を象徴する社員の心得として知られ、高橋さんの遺族側が問題視している。
「鬼十則」は今も、電通の社員手帳に残る。中堅社員の一人は「うちの哲学。入社研修で学んだし、一部
はそらんじられる」と話す。「良くも悪くも体育会系でタテ社会」の社風で、「花形の局では『1年の年次の違
いは海よりも深い』と言われている」という。
「命を削って給料をもらっているところはある。今回の過労自殺はひとごととは思えない」とも話した。
電通は17日、石井直社長名の社員向け文書で「当社が是認してきた『働き方』は、当局をはじめとする
ステークホルダー(利害関係者)から受容されえない」と言及。会社は、午後10時の一斉消灯と退館、午
後10時~早朝5時の深夜業務の禁止を社員に通達した。スタンドライトの点灯や社外での深夜業務も禁
じた。
25日午後10時過ぎ。本社の明かりは一斉に消えていった。しかし、社員の反応は冷ややかだ。ある中
堅社員は「パソコンを自宅に持ち帰って、こっそりとサービス残業することになるだけ。立件を何としても避
けようとしているようにしか思えない」と話す。
電通の労働組合も24日、会社の対策が「場当たり的なものになってしまう可能性がある。社員にしわ寄
せがいくことを懸念している」とのメッセージを組合員に出した。(高野真吾、大内奏、編集委員・沢路毅
彦)
◇「鬼十則」(吉田秀雄記念事業財団のHPより)
1.仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。
2.仕事とは、先手先手と働き掛けて行くことで、受け身でやるものではない。
3.大きな仕事と取り組め、小さな仕事は己れを小さくする。
4.難しい仕事を狙え、そしてそれを成し遂げるところに進歩がある。
5.取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは…。
6.周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
7.計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
8.自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。
9.頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
10.摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。
3.電通社員「部長指示でウソ申告」残業140
→100時間
大 内 奏 、編 集 委 員 ・沢 路 毅 彦
2016 年 10 月 26 日 22 時 00 分 朝 日 デジタル
1 過労自殺した新入社員の労災認定を受け、電通の本社に立ち入り調査
に入る労働基準監督官ら=14日、東京都港区、金川雄策撮影

25年前に若手社員が過労自殺し、責任を認めた電通。
再発防止を誓ったが、再び悲劇が起きた。教訓はなぜ
生かされなかったのか。
◇
「もう4時だ 体が震えるよ…… しぬ もう無
理そう。つかれた」
昨年10月21日早朝。広告大手、電通の新入
社員だった高橋まつりさんは、SNSにこんなメ
ッセージを残した。東京・汐留の本社ビルの入
退館記録などによると、この日退社したのは午
前3時38分。前日の午前8時56分に出勤して
から、19時間近くが過ぎていた。
その4日後。日曜日だった25日は午後7時2
7分に出社。28日午前0時42分に退社するま
で約53時間、ほぼ連続して社内にいた記録が
残る。11月5日にはこう書き込んだ。「タクシー
乗ったなり へろへろ」
この日の退社時刻は午前2時7分。前日から続けて17時間近く社内にいた。深夜勤務や休日出勤が続
いたこのころ、高橋さんはうつ病を発症したとみられる。
12月25日朝、都内の電通の女子寮で身を投げ、自ら命を絶った。24歳だった。
今年9月30日、三田労働基準監督署(東京)は高橋さんの自殺を労災と認めた。労基署が認定した1カ
月(10月9日~11月7日)の時間外労働は105時間。試用期間が終わり、10月に本採用になってから
倍以上に増えていて、仕事によって強い心理的負荷を受けていたと判断された。
労働基準法は、1日8時間、週40時間を労働時間の上限と定める。これを超えて時間外労働をさせる
には、労基法36条に基づいて労使が協定(36〈サブロク〉協定)を結び、労基署に届ける必要がある。電
通が届けていた上限は原則として月50時間。ただし、特別な場合には月100時間まで認められる。
電通では、社員が始業・終業の時刻を自己申告し、上司が承認することで労働時間を管理している。こ
の記録では、高橋さんの時間外労働は月50時間の範囲に収まっていた。労基署の認定とは大きな開き
がある。
電通は一方で、「フラッパーゲート」と呼ぶ出入り口を通ると、入退館時刻を自動的に記録するようにして
いる。1991年に入社2年目の社員が自殺し、再発防止策として導入したしくみだ。労基署はこの記録を
もとに、高橋さんが36協定の上限を超える長時間残業をしていたと認定した。
電通広報部によると、「入館と始業、終業と退館の間に1時間以上の開きがあった場合、理由を申告し、
上司が確認する」という。記録のずれが生じるのは、「ラッシュを避けるために早めに出社したり、終業後
にサークル活動や自己啓発活動をしてから退館したりするなど、私的な理由で残っているケースがある」
からだと説明する。
だが、30代の現役社員の説明は異なる。夜遅くまで残業したとき、私的な理由で会社に残ったことにし
て残業時間の申告を減らしているという。終業と退館に1時間以上の差があれば、「『(新聞やテレビなど
による)私的情報収集』『(忘れ物などの)一時的入退館』『自己啓発』などの理由をつけて申告する」とい
う。「勤務時間中の一部を働いていなかったことにして『中抜き』することもある」と明かす。例えば、午前1
時に仕事が終わって退館した場合、午後8時から午前0時の間は働いていないことにして申告する。
部長から「残業が100時間を超えないように処理して」と指示を受けているためだ。「ひどい月は140時
間は残業しているのが実態だが、ウソをついているので、システム上は残業時間が100時間を超えてい
ない」と打ち明ける。
「部長『君の残業時間の20時間は会社にとって無駄』」。上司に言われたとして、高橋さんがSNSに残
した言葉だ。高橋さんにも、「上司が実際より短い残業時間を記録するよう指示していたのではないか」。
遺族側はそうみている。(大内奏、編集委員・沢路毅彦)
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朝日新聞デジタル
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4.過労死ラインの残業80時間超、企業の2割で
初の白書
河合達郎
2016 年 10 月 7 日 20 時 32 分
朝 日 デジタル
厚生労働省は7日、過労死の実態や防止策の実施状況などを報告する「過労死等防止対策白書」を
初めてまとめた。2014年に施行された「過労死等防止対策推進法」が、過労死をとりまく状況の報告書
を毎年つくるよう定めたことを受けて作成したもので、15年度の状況をまとめた。
白書は280ページで、過労死や過労自殺の現状や防止策、残業が発生する理由などを説明。1980
年代後半から社会問題化し、91年に結成された「全国過労死を考える家族の会」の活動が同法の制定
につながったことにも触れている。
15年度に過労死で労災認定された人は96人、過労自殺(未遂を含む)による労災認定は93人。過労
死による労災認定は02年度に160人にのぼったが、14年ぶりに100人を割った。ただ、過労死・過労
自殺(同)をあわせた認定件数は近年、200件前後で高止まりしている。
企業約1万社を対象に15年12月~16年1月に実施(回答は1743社)し、5月に公表した調査結果も
白書に盛り込んだ。それによると、1カ月の残業が最も長かった正社員の残業時間が「過労死ライン」の8
0時間を超えた企業は22・7%。「情報通信業」「学術研究、専門・技術サービス業」では4割を超えた。
同法は、過労死の防止策を進める責任が国にあることを初めて明記。白書は「過労死の実態の解明に
は、業界を取り巻く環境や労働者側の状況など、多岐にわたる要因を分析する必要がある」と指摘し、労
働者約2万人に対する長期間の追跡調査や、長時間労働と健康に関する研究を始める計画も盛り込ん
だ。
追跡調査は幅広い業種の約2万人について、健康診断の結果と労働時間や仕事の負荷、睡眠時間、
運動習慣、飲酒や喫煙の有無などを10年間にわたって調べ、どのような要因が過労死のリスクになるか
を分析する。今年度中にも調査を始め、毎年の白書で経過を報告していく予定だ。
実験研究では、12時間のパソコン作業が循環器にどのような影響を与えるかを調べる。10年1月~1
5年3月に労災認定された事案のデータベース化も進めており、過労死の原因分析につなげる方針だ。
(河合達郎)
5.(子どもと貧困)困窮に疲れ、高校中退 バイ
ト・家事・弟妹の世話…すり減る意欲
2016 年 10 月 31 日 05 時 00 分 朝 日 デジタル
中学校で習う数学を支援施設の職員に教えてもらう少年(左)=さいたま市、
竹花徹朗撮影
生活保護世帯の子どもが
平均より高い割合で高校を
中退している。中退率は全
世帯平均の3倍に上る。背
景に貧困の影響を指摘す
る声があり、中退後の学び
直しや中退を防ぐための新
たな支援が始まっている。
10月中旬。中退や不登
校を経験した若者らが通う
さいたま市の自立支援施設で、少年(17)が数学の問題を解い ていた。
中学で習ったはずだが記憶はおぼろ。高校卒業程度認定試験(旧大検)を
めざすが、「道は険しいですね」とつぶやいた。
中学の時、父親の借金で自宅が差し押さえられ、両親が離婚。子どもを
引き取った母親は重いうつ病で働けず、生活保護を受けた。
少年は弟と妹の世話や家事を任された。国語や美術、社会の成績で「5」
を取っても見せる相手はおらず、誕生日もいつもと変わらない一日。「何も
かもどうでもよくなった」。絵画を学ぶ夢は心にしまい、うつ症状に苦しみ不
登校になった。卒業後は親元を離れ、自立援助ホームで生活。定時制高
校に入学したが3カ月で中退した。精神障害で生活が制限を受ける状態だ
と診断された。
昨春から支援施設に通い、職員や医師らから受験を勧められた。いろんな人と関わるうち、「自分も同じ
ように支援できる立場になりたい。それには学歴が必要」と考えるようになった。ただ自活できるほど貯金
はなく、「まず生活を安定させないと」ともがく。
文部科学省と厚生労働省の調べでは、2014年度の高校中退者数は5万3391人で、中退率は1・5%。
生活保護世帯の中退者数は2323人で、中退率4・5%だった。文科省が27日に発表した昨年度の高校
中退者調査(速報値)によると、中退理由のトップは「もともと高校生活に熱意がない」で13・1%。「経済
的理由」は2・7%だった。
貧困は主因でないようにも見えるが、花園大の吉永純(あつし)教授(公的扶助論)は「熱意の低下は貧
困と密接。貧困世帯で親が時間と精神的な余裕を持てない場合、子どもは物心両面で我慢する機会が
増え、意欲や自己肯定感が低くなりがちだ」と指摘。生徒の2割強が生活保護世帯という関西の高校の
女性教諭は「バイトや家事、きょうだいの世話で時間を取られ、勉強する気力を持てなくなり、中退する生
徒は少なくない」と話す。
■学び継続、支援探る
国は「子どもの貧困対策大綱」などで中退防止を掲げるが、対策には難しさもある。
昨年4月施行の生活困窮者自立支援法に基づく学習支援を行う自治体は423。そのうち、国が中退防
止策として推進する学習ボランティアらによる家庭訪問や定期的面談に取り組む自治体は157とまだ少
ない。ある自治体の担当者は「何が効果的かわからず、今年度は様子見」と話す。
中退を未然に防ごうという民間の動きもある。
大阪の認定NPO法人「D×P(ディーピー)」は、定時制や通信制高校で社会人らと生徒が語り合う企画
を続ける。「経済的に困難な状態にいたり、学校や家庭に居場所がなく孤立したりしている生徒も多い。
大人たちとのつながりを持つことで意欲を高めたい」と今井紀明理事長。大阪や東京、北海道などで延べ
約1400人の生徒と関わったという。
東京や神奈川、大阪などでは小中学校の学習内容を学び直す授業を受けられる高校がある。校内にカ
フェを設けてNPOのスタッフが相談にのる高校もある。
より早い段階での支援が効果的だとして、日本財団は5月、主に小学1~3年生向けの学習支援や食
事提供をする拠点を全国100カ所につくると発表した。1号拠点は11月に埼玉県戸田市に開設予定だ。
(石原孝、後藤泰良)
■貧困の連鎖、予防を
慶応大学の中室
牧子准教授(教育
経済学)の話 高校
中退で十分な技術
や知識が身につか
なければ、リーマ
ン・ショックのような
予期せぬ事態でリ
ストラなどの困難に
陥りやすい。家庭を
持っても、生活が不
安定で子どもの教
育にお金をかけら
れず貧困の連鎖が
起きうる。問題を放
置することの社会
的コストは大きい。
中高生になって問題が顕在化してから対応するケースは少なくないが、より幼い時から予防的に介入し、
継続した支援をしていく必要があるのではないか。
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