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スポーツ界における差別問題 -Discrimination Issue about Sports-
スポーツ界における差別問題 -Discrimination Issue about Sports指導教員 主査 1K03B168-7 堀内 智弘 宮内 孝知 先生 副査 石井 昌幸 先生 現在、欧州のサッカーリーグやアメリカ・メジャーリー ている。アメリカでの差別発生は、アフリカから連行され グでは数多くの国籍、人種が同居してプレーする。だがそ てきた黒人たちが、奴隷として扱われるようになったこと の一方で、欧州のサッカーでは人種差別的なヤジが日常的 に始まる。その後、奴隷制は廃止され、現在では差別を禁 に飛び交うなど差別問題は深刻化している。筆者は国籍や 止する法令が公布されている。しかし、差別が禁止された 人種の垣根を越えてスポーツが成り立っている現在にお 今も、黒人がショッピングへ行くと万引きに疑われて警備 いて、差別行為が横行していることに注目してきた。差別 員につけ回されるなど、白人は依然として強い偏見を持っ 問題は今後どのように対処されるべきなのか。ここでは、 て黒人に接している。 欧州、日本、アメリカの3地域のスポーツ現場で起こって 第 4 章では、 「差別を生む境界線」について検討する。 いる差別問題の実態と根源を明らかにし、この問題にどう 「差別を生む境界線」とは、一行為が「差別問題としての 立ち向かうべきか提言を行いたいと思う。 認識」を受けるために必要な条件を、境界線として定めた 第1章では、差別に関するキーワードを分類する。ここ ものである。「個人が行う差別」は、被差別者の主観的な で取り扱う差別問題は「国籍」、 「人種」 、 「民族」の3つに 解釈によって成立している。そのため、そこに本当に差別 定めることとする。続いて、ここで扱う差別を性格上、2 行為があったか根拠はあいまいである。一方、「社会が行 つに分類する。1つは、選手、サポーターという「一個人」 う差別」には、ある社会的な取締りがある特定のコミュニ が攻撃する「個人が行う差別」である。もう1つは、社会 ティーに所属した選手の活動を妨害しているという根拠 的な取り決めにより、特定のコミュニティーに属する人間 があるため、境界線は明確である。 の権利を侵害する「社会が行う差別」である。 第 5 章では、近年のスポーツ界の多人種・多国籍化につ 第 2 章では、スポーツ界で起こる差別実態について検証 いて論じる。差別問題が存在するにもかかわらず、スポー する。欧州のサッカー界で深刻化している差別問題は、試 ツ界が多人種、多国籍化するのはなぜか。それは、他人種、 合中にサポーターが浴びせる罵声など「個人が行う差別」 他国籍の選手の獲得が、チームを強化し市場を開拓できる である。差別は、黒人選手に対する「人種」差別がほとん というメリットが存在するからである。だが、外国人選手 どであった。日本のスポーツ界では、海外からやってくる の大量流入に対し、FIFA は「自国選手の保護と育成の必 外国人や国内で暮らす在日コリアンの出場や、記録を認め 要」のために外国人枠の縮小を図っている。外国人選手の ない「社会が行なう差別」が見られた。ここでは、 「国籍」 プレーする権利を守れば、自国の選手のプレーする機会が と「民族」を巡る差別問題がある。アメリカでは、黒人に 奪われる。一個人の権利の保護は、一個人の権利を侵害し 対する人種差別が継続的に行われてきた。かつては、黒人 てしまう現実がそこには存在する。 選手がメジャーリーグに参加できないなど「社会が行う」 終章では、今後のスポーツ界における差別問題がどう対 差別が平然と適用されていた過去がある。近年では、マグ 処されるべきかについての考察を行う。スポーツ現場にお ワイアとソーサの「健全な」本塁打競争が行われるなど差 ける差別問題の根源には、その国、地域の社会に根ざす 別問題がすでに過去のものとなったとする声もある。だが 人々が抱える潜在的な差別意識があった。この差別意識は 1部の競技を除けば、多くの種目は黒人選手が活躍できな その国、地域が歩んできた歴史の中で醸成されたものであ い環境が存在するのも事実である。 り、とても根の深いものとなっている。そのため、人々の 第 3 章では、差別を生み出す根源を分析する。欧州で起 中にある差別意識は容易に払拭されることはない。むしろ、 こる人種差別の根源は、イギリスなどの各国が植民地開拓 差別は存在して然るべきものと捉えるべきだ。被差別者は を進めていった中で生まれた「白人至上主義」の影響によ 障害者などの社会的弱者が存在するのと同様に存在し、保 るものである。日本人が「国籍」で差別する理由は、 「単 護しなければならない対象である。そのために、 「社会が 一」民族幻想にあると考えられる。在日コリアンに対する 行なう差別」から被害者を守る法整備が必要となる。 「差 差別は、彼らが日韓併合後に来日し、日本の敗戦と共に日 別をなくす」のではなく、 「差別の存在を認め」共存する。 本での市民権を失った歴史的推移が大きく影響を及ぼし これが、筆者の当問題に対する提言である。