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アクティブ・ラーニングの教材開発と ICT ICTの活用

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アクティブ・ラーニングの教材開発と ICT ICTの活用
アクティブ・ラーニングの教材開発と ICTの活用
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楠元町子(Ma
ch
iko KUSUMOTO)
1.はじめに
子どもたちが成人して社会で活躍する頃には、生産年齢人口の減少,グローバル化の進展や
絶え間ない技術革新等により,社会や職業そのものも大きく変化する可能性がある 1。それらの
現状を踏まえて、2014年 11月 20日、文部科学相は 2016年度全面改訂、2020年度本格実施
される予定の学習指導要領について、中央教育審議会に対して子どもが課題に対して主体的に
学ぶ「アクティブ・ラーニング」の充実の提案をした。文部科学省は、アクティブ・ラーニン
グを「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取
り入れた教授・学習法の総称」と定義している。
前回 2008年の学習指導要領改訂では、学力低下を招いたとされる「ゆとり教育」からの脱
却を図り、理科と算数・数学の学習内容や授業時間数の増加、すべての教科で習得型・活用型・
探求型の教育の推進が求められた。その結果 2012年度の P
ISA2では、数学的リテラシーが 7
位(前回 9位)、読解力リテラシーが 4位(前回 8位)、科学的リテラシーが 4位(前回 5位)
と前回 2009年の調査結果よりも上がり、一定の効果があったと思われる。一方、数学リテラ
シーに合わせて行われたアンケート調査では、生徒の数学への興味・関心の高さが世界 60位
で あ り 、「 数 学 を 学 ぶ と 将 来 の 生 活 に ど う 役 立 つ の か を 先 生 が 十 分 に 伝 え き れ て い な い 」 と
OECDの担当者からの指摘がある 3。
OECD 国際教員指導環境調査 4によれば、日本の教員は主体的な学びを引き出すことに対し
ての自信が低く、
「生徒に批判的思考を促せている」と答えたのは、34か国の平均が 80
.3%で
.6%であった。指導実践では「生徒が課題や学級の活動に ICTを用
あるのに対し、日本は 15
いる」では 34か国の平均が 37
.5%に対し日本の教員は 9
.9%と少ない。
日本の教育の課題は、学習内容と実生活のつながりの理解や批判的思考力を促す教育、 ICT
の活用が不足していることである。文部科学省は、21世紀に生きる子どもたちに必要な資質を
育成するために、アクティブ・ラーニングを重要な学習活動と認識し、
「現行学習指導要領で示
されている言語活動や探究的な学習活動,社会とのつながりをより意識した体験的な活動等の
成果や,ICTを活用した指導の現状等を踏まえつつ,今後のアクティブ・ラーニングの具体的
な在り方について」 5、考える必要を指摘している。
アクティブ・ラーニングに関して現在大学において多くの研究がなされており、主な研究と
してはアクティブ・ラーニングの定義と理論を明らかにし、実践的方法を述べた溝上の著書 6
『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』、大学での取り組みを詳細に分析した
河合塾編集 7の『アクティブラーニングでなぜ学生が成長するのか』や岩崎の著書 8『大学生の
学びを育む学習環境のデザイン』がある。高等学校の実践例としては、荒井の論文 9「アクティ
-1-
ブラーニングの方法をとり入れた社会科授業の内容構成とその実践」がある。ICTに関しては、
文部科学省が「ICTを活用した教育の推進に関する懇談会」10に多くの実践例を掲載している。
本論文は、アクティブ・ラーニングと ICTの活用が求められている社会的背景を考察し、そ
の授業例として「パネル・ディベート」
「タイタニック号の謎」
「あなたが裁判員だったら」
「日
経ストックリーグ」を示し、
「デジタル教科書」の活用と指導方法を明らかにする事により、21
世紀に生きる子どもたちに必要な力を育成できる授業を提案したい。
2.アクティブ・ラーニングと 21世紀型スキル
1世紀型スキル
1)アクティブ・ラーニングの定義
中央教育審議会(2012年 8月 28日)は「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向
けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」で、これからの学生に求
められる能力を育成するために「学士課程教育の質的転換」を求め、アクティブ・ラーニング
の重要性を次のように述べている。
「生涯にわたって学び続ける力、主体的に考える力を持った人材は、学生からみて受動的な
教育の場では育成することができない。従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、
教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に
成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・
ラーニング)への転換が必要である。すなわち個々の学生の認知的、倫理的、社会的能力を引
き出し、それを鍛えるディスカッションやディベートといった双方向の講義、演習、実験や実
技等を中心とした授業への転換によって、学生の主体的な学修を促す質の高い学士課程教育を
進めることが求められる。学生は主体的な学修の体験を重ねてこそ、生涯学び続ける力を修得
できるのである。 11」教員が持っている知識を一方的に教える講義式の授業から、学 生が授業
に主体的に参加し、問題発見力や問題解決力を育成する授業への転換を求めているのである。
アクティブ・ラーニングは現在多くの大学で取り入れられ、実践がなされているが、2020年
度学習指導要領の改訂では、初等中等教育でも取り入れられることが提案された。文部科学省
が定義するアクティブ・ラーニングの定義は、「教員による一方向的な講義形式の教育とは異
な り、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。 学修者が能動的に
学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力
の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグ
ループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニン
グの方法である。 12」アクティブ・ラーニングの授業方法は極めて幅広く、児童生徒 が何らか
の形で授業に参加すればアクティブ・ラーニングと言えることになる。
アクティブ・ラーニングが求められている背景には、
「学生が授業を熱心に受ける、学習に熱
心に取り組むだけでは済まず、それ以上のもの―たとえば、卒業後の仕事や人生に適応してい
くための技能・態度(能力)を育てているか―が、大学を含めた学校教育全体に課題として課
せられている。 13」すなわち、アクティブ・ラーニングの授業が、児童生徒にどのよ うな力が
-2-
育成でき、社会での生きる力に繋がるのか、明確にする必要がある。
2)社会的状況
経済産業省「社会人基礎力」14では、
「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために
必要な基礎的な力」とし、以下の能力を挙げている。
3 つ の 能 力 12
の能力要素
前に踏み出す力(アクション)
①主体性:物事に進んで取り組む力
~ 一 歩 前 に 踏 み 出 し 、失 敗 し て も 粘 く 取 り
②働きかけ力:他人に働きかけ巻き込む
組む力~
③実行力:目的を設定し確実に行動する力
考え抜く力(シンキング)
④課題発見能力:現状を分析し目的や課題を明らかにする力
~疑問を持ち、考え抜く力~
➄計画力:課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力
⑥想像力:新しい価値を生み出す力
チームで働く力(チームワーク)
⑦発信力:自分の意見をわかりやすく伝える力
~ 多 様 な 人 々 と と も に 、目 標 に 向 け て 協 力
⑧傾聴力:相手の意見を丁寧に聴く力
する力~
⑨柔軟性:意見の違いや立場の違いを理解する力
⑩情況把握力:自分と周囲の人々や物事との関係を理解する力
⑪規律性:社会のルールや人との約束を守る力
⑫ストレスコントロール力:ストレスの発生源に対応する力
また中央教育審議会では、「学士力 15」として以下の 4つを挙げている。
知識・理解
専攻する特定の学問分野における基本的な知識を体系的に理解
①多文化の異文化に関する知識の理解
②人類の文化、社会と自然に関する知識の理解
汎用的技能
知的活動でも職業生活や社会生活でも必要な技能
①コミュニケーションスキル
③情報リテラシー
態度・志向性
①自己管理力
④論理的思考力
⑤問題解決力
②チームワーク、リーダーシップ
④市民としての社会的責任
総合的な学習経験と創造的思考力
②数量的スキル
③倫理観
⑤生涯学習力
これまでに獲得した知識・技能・態度等を総合的に活用し、自らが
立てた新たな課題にそれらを適用し、問題を解決する能力
21世紀に生きる児童・生徒に必要とされる能力とは、人の話をよく聞き、自分の考えを適切
な言葉で相手に伝えるコミュニケーション能力であり、新たな問題を発見し、既存の知識では
解決できない問題を文化や生活環境が異なる人と解決していく問題解決能力である。
文部科学省は「ある事柄を知っているのみならず、実社会や実生活の中で知識・技能を活用
しながら、自ら課題を発見し、主体的・協同的に探究し、成果等を表現していけるよう、学び
の質や深まりを重視」 16し、アクティブ・ラーニングやそのための指導の方法の充実 を求めて
-3-
いる。アクティブ・ラーニングについて「内容的に薄っぺらい、ちょっとインターネットで調
べてまとめて、議論したり発表したりする」 17ことが多いという批判や、アクティブ・ラーニ
ングによって授業が遅れる、知識面が疎かになるという意見がある。教員は、教えるべき内容
を精選し教え、学習内容とディスカッションやプレゼンテーションを連動させ、児童・生徒の
活動場面では、自主性を重んじながら、議論や活動が深まるように適切な介入をすべきである。
中央教育審議会は、
「これからの学校教育を担う教職員の在り方について」18で、今後、教員
養成から採用・研修を通じて①主体的・協働的に学ぶ授業を展開できる力②各教科横断的な視
野で指導できる力③学校段階間の円滑な移行を実現する力が必要であるとしている。
教員を養成する大学としては、アクティブ・ラーニングの教育方法と ICTの活用能力を学生
に指導するのは極めて重要な課題である。児童・生徒に必要な知識を身に付けさせるとともに、
短時間で実施できるアクティブ・ラーニングを用いた授業を、言語活動、探求的な学習活動、
社会とつながりを持つ体験的な学習活動の具体例や ICTを活用した授業方法を示したい。
3.言語活動―討論を活用した教材―
1)パネル・ディベート
パネル・ディベートは、ディベートの二者択一方式の単純さ・現実遊離に限界を感じた吉田
によって提唱された 19。ディベートは、争点が明確となり焦点化した議論ができるが 、二律背
反の論題を予め設定する必要があり、パネル・ディスカッションは、複雑な視点から建設的に
考えることができる 20が、議論が拡散する危険性がある。パネル・ディベートは、デ ィベート
から「相対する二つの立場」の枠をはずし、パネル・ディスカッションの「異なる立場の代表
数名」を取り入れ、多面的に討論することを可能にした討論形式である。
パネル・ディベートもディベートも「立論・質問・反駁・結論」という基本形式や討論にル
ールがあること、判定されることは変わらない。パネル・ディベートの方法を下の表で簡単に
述べる。パネル・ディベートは、他のディベートよりも 1試合に参加する人数が多いので、短
表
(パネル・ディベート)
時間で試合ができ、50分の授業時
①
一つの論題について3~6の立場(班)に分かれる。
間内で 2 試合実施が可能である。
②
班員は論題と与えられた立場について話し合いをし、立
そのためパネル・ディベートの授
論、質問、結論を考える。
業は説明や班分けなどの事前指導
③
②に基づいて立論を行う。
で 1時間、パネル・ディベートの
④
質問者が他の班に質問する。
試合に 1時間で、合計 2時間で実
⑤
全員で自由討論をする。
施でき、通常の授業時間で十分対
⑥
結論を行う。
応できる。
⑦
審判はどの班がすぐれていたかを判定する。
パネル・ディベートの試合で、
5つの立場(A、B、C、D、E)を設定した場合は、以下のようにグループの席を配置する。席
の並べ方は二通りある。図①の場合、立論と結論を述べる人は質問する人と対面する形で座る。
図②の場合、立論、結論、質問する人は同じ場所に座る。
-4-
図 2の方法の方がお互いに顔を見て話すことができ、普通の会議に近い。
図①
図②
2)授業方法
大学3年生を対象とした「公民社会科教育法 1」の授業で、論題「TPP(環太平洋経済連携
協定)に日本は参加すべきか」でパネル・ディベートを行った。パネル・ディベートを実施す
る前に論題に対する解説として、自由貿易と保護貿易、 GATT
/WTO の多国間貿易体制、FTA
(自由貿易協定)や EPA(経済連携協定)を各国が結んでいる現状など基礎的な知識をプリン
トにまとめて配布し、説明した。
21世紀は、検索型の知識基盤社会と言われている。情報や知識は、誰でも直ちにインターネ
ットで得ることができる反面、情報へのアクセス方法を知ること、情報を取捨選択する能力が
極めて重要である。論題に対して、どのような資料が最低限必要かを理解させるためと、根拠
のある話し合いをさせるために、資料を用意し、資料の収集方法も説明した。
論題に対して、どのような立場の人がいるか考えさせ、 5つの立場(日本政府、輸出企業、
外国、消費者、農業従事者)を設定した。グループで話し合い、賛
成か反対か、意見を統一するように指示した。例えば外国の立場の
場合、中国と米国では日本の TPP参加に異なる意見と思われるの
で、どの国にするのか決めさせた。消費者も色々な考えの人がいる
と思われる ので、例え ば2人の小 学生の子ど もがいる専 業主婦な
ど具体的な消費者を想定させた。グループで、立論、質問、結論を
述べる人の役割分担をさせ、自由討論は全員で行うが、責任をもっ
て話す人を決めておくように指示した。パネル・ディベートの試合
は右のフォーマットにしたがって行った。
フォーマット
立論
2分 ×5
質問
2分 ×5
作戦タイム
2分
自由討論
5分
作戦タイム
2分
結論
1分 ×5
判定
パネル・ディベート実施後の感想としては、
「様々な立場に分かれて討論し、自分の立場だけ
でなく、他の立場の考え方も知ることが出来たので良かった。」
「皆で話す時間があり、他のデ
ィベートより緊張しなかった。」などパネル・ディベートの楽しさを述べる学生が多かったが、
「主張する時間が短く不完全燃焼であった。」など時間に制約があるディベートの欠点を指摘
する学生もいた。
「立論は根拠があると説得力がある。」や「TPPの理解が深まった。」、知識に
基づいて話す重要性に気付いたようであった。論題は話題性があり、私達が今考えなければな
らない問題から選び、多面的に論題に迫れるような立場の人を設定する工夫が重要である。
-5-
4.探求的な学習活動―タイタニック号の謎―
1912 年4 月10 日タイタニック号は、アメリカのニューヨークに向けてイギリスのサザン
プトンを出港し、
14 日の真夜中、北大西洋のニューファウンドランド沖で氷山に衝突し、沈没
した。乗船者2,208 名の中、1,517 人が死者となった。この海難事故については、現在でも沈
没の原因がすべて解明されたわけでなく多くの謎を残していることもあり、米国の『社会科教
育カリキュラム』にタイタニック号を教材とした探求学習が掲載されている 21。日本でも児童・
生徒の関心が高い教材であると考え、探求学習の指導法と教材開発を学ぶ目的で、教育学科3
年生を対象にした「社会科教育法Ⅱ」の授業で、以下の指導案に基づいて実施した。指導案の
作成にあたっては、『社会科教育カリキュラム』を参考にし、日本向けにアレンジした。
学習活動
指導上の留意点
・子どもたちの関心を高めるためタイタニック号の映画を見せる。
・1912 年4 月18 日付の日本の新聞のコピーを見せる。
なぜ、タイタニック号の悲劇は発生したのでしょう?氷山に衝
突したことはわかっています。しかし、それはなぜですか?
・タイタニック号が氷山に衝突して沈没し
たことに気付かせる。
・「 豪 華 客 船 タ イ タ ニ ッ ク 号 の 沈 没 記 事 の
見出しである」事を伝える。
・ノートに真実だと思う仮説を書くように
・タイタニック号はレーダーがなかったため。
指示する。
・船の設計に欠陥があった。
・その夜は視界が悪かった。・監視員は寝ぼけていた。
・選んだ仮説を発表させる。
・船は別の船会社によって爆破され、統制を失い、氷山に衝突した。 ・黒板に仮説を書く。
・会社間の競争が船長を焦らせた。
・情報を提示するごとに、仮説の変更、付
・自信過剰が船長を無謀にさせた。
け加え、修正をさせる。
次の情報から、仮説を検討してみよう
・①~④の情報を順番に提示し、得られた情報で自分の支持する仮
・情報から、仮説の検討ができなかったら、
次の発問をし、考えさせる。
説を検討するように指示する。
「なぜ救助船はもっと早く到着しなかっ
①船の設計とその夜の気象情報の資料を提示する。
②船長の経歴とタイタニック号の姉妹船の資料を提示する。
たのか。」「社会階級別にどんな相違があ
③当時の船舶間の通信や危機連絡の方法、氷山の資料を提示する。
ったのか。」
④船での社会生活、救命ボート、航路会社間の競争の資料を提示。
「救命ボートはなぜ足りなかったのか。」
・一つだけでなく多様な原因を結論の中に
結論をまとめよう。
「私はタイタニック号の悲劇が発生した中心的な理由は・・・・・・
組み入れるように促す。
だと結論を出しました。」
もし、この後どのような情報が得られた場合、自分の結論の再修
・
2008 年のタイタニック号に関する新聞記
事を提示する。
正が必要だろうか?
学生はタイタニック号の沈没の原因を「避難訓練がされていない、無線に注意を払わなかっ
た、救命ボートの個数の不備など乗組員の不注意、カリフォルニア号の乗組員も信号灯を確認
-6-
しても救助に行かなかったことから見て、イギリスという国全体で船の規則や心得がしっかり
していなかったと結論を出した。」など、乗組員の不注意や避難訓練の不足を指摘するのが多
かった。今後どのような情報があれば、訂正が必要かに対しては、
「何らかの理由でカリフォル
ニア号も窮地に立っていた」
「タイタニック号に欠陥があった」
「乗組員の中で階級に不満が持
つ者がいてクーデターを考えていた。」
「船員が当日どのように動いていたか記録が出てきた時」
など、様々な意見があった。
2008 年4 月、朝日新聞22は「タイタニック号が短時間で沈んだのは、鉄板どうしなどを結ぶ
鋲の品質が悪かったからだ。」という米国立標準技術研究所の金属学者の研究成果を掲載した。
このように、新たな情報が発見され場合、仮設は常に訂正される。この授業は複数の事実から
自分なりの仮説を立て、新たな情報を得たら、自分の主張を検証、修正し、裏付けのある主張
の重要性と物事の真実に迫る方法を学び、批判的思考力を育成することを目指している。
「批判的思考」とは、京都大学大学院教授楠見は次のように定義している 23。
「第1に証拠に
基づく論理的で偏りのない思考である。第2 に自分の思考過程を意識的に吟味する省察的で熟
慮的思考である。第3により良い思考を行うために目標や文脈に応じて実行される目標指向的
な思考である。」批判的思考において大切なことは、他人の発言を丁寧に聴き、情報を正確に判
断し、自分の考えに誤りや偏りがないか常に振り返ることであり、多くの情報に接している現
代人が物事を正しく判断するために必要な思考力である。
5.体験的な学習活動―社会とつながる教材―
1)あなたが裁判員だったら
平成 16年 5月 21日「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が,成立し,平成 21年 5
月 21日から裁判員制度が始まった。裁判員制度は、国民から選ばれる裁判員が刑事裁判に参
加する制度であり、6人の裁判員と 3人の裁判官がともに刑事裁判に立会い、被告人が有罪か
無罪か、有罪の場合どのような刑にするか判断する。平成 25年 12月までに、裁判員裁判で裁
判員に選ばれたのは、3
,489人である 24。学習指導要領でも「国民の司法参加」25が明記される
など児童・生徒が、国民の義務として裁判に参加する可能性もある現在、教材として扱うべき
であると考える。
日本の裁判制度について学習した後、裁判員裁判を扱った最高裁判所制作の DVD「審理」を
見る。DVD の内容は、地下鉄車内で、携帯電話で話をしている青年 Aに、妊娠中の妻と一緒
にいた青年 Bが注意した。青年 Bが妻とともに地下鉄を降りたところ、青年 Aが追いかけて
きて、駅の構内で青年 Bに殴るけるの暴行をし、去った。その後青年 Bは、青年 Aを追いか
けたが、再び Aから暴行を受け、ナイフで刺し殺害した。法廷で、検察官、被害者の母親、弁
護人、被告人がそれぞれの立場から意見を述べ、弁護人は正当防衛を主張し、検察官は懲役 8
年とナイフの没収を求刑した。審理 1日目、2日目は、審理後、裁判員は裁判官と評議室に移
動して、その日のおさらいや、翌日以降の予定の確認をする。審理 3日目は、評議を行い、判
決を出す。
-7-
授業は次の指導案に基づいて、実施した。
学習活動
指導上の留意点
・最近の裁判員裁判の新聞
・日本の裁判制度と裁判員制度を説明する。
記事を見せる。
あなたが裁判員に選ばれたら、どう思いますか
・面倒
・経験できて嬉しい
・時間がないので困る
・変な事件に巻き込まれないか心配
・断りたい
・国民としての義務だから仕方がない
・正当な理由があれば辞退
出来ることを説明する。
裁判員になって、事件を審理しましょう。
・裁 判 の 中 で 、難 し い 用 語 が
・ 「 審 理 」 の DVD を 視 聴 す る 。
①
審 理 1日 目( 起 訴 状 朗 読 、罪 状 認 否 、検 察 官 と 弁 護 人 の 冒 頭 陳 述 、証 拠 物 の 取
出てきたら説明する。
(正当防衛・執行猶予等)
り調べ、目撃者の承認尋問)
②
審 理 2日 目( 被 告 人 の 妻 の 証 人 尋 問 、被 告 人 質 問 、被 害 者 の 母 親 の 証 人 尋 問 )
③
審 理 3日 目( 検 察 官 の 論 告・求 刑 、被 害 者 の 母 親 の 意 見 陳 述 、弁 護 人 の 弁 論 、
被告人の最終陳述)
・自分の考えを理由ととも
③ ま で 視 聴 し た ら 、 DVD を 止 め る 。
に書くように指示する。
あなたが裁判員ならどのような判決にしますか
・一般的な事件と量刑の関
・プリントに自分の意見を書く。
・グループで話し合いをさせ、判決を決め、発表させる。
係を説明する。
・裁判員の判決の理由に着
裁判員が出した判決を比較しましょう。
・ DVD の 続 き を 見 て 、 裁 判 員 が 出 し た 判 決 を 確 認 す る 。
目するように指示する。
学生が出した判決は、これから生まれてくる子どものことを考えて執行猶予を付けるものが
多く、量刑としては「懲役 3年執行猶予 5年」が多かった。また、いかなる事情があろうとも
人を殺した以上、刑に服するのは当然であるとし、執行猶予なしの懲役 3年があり、懲役 7年
が最高であった。この事件に対して、裁判員が出した判決は懲役 5年であった。
裁判を教材とした授業としては、児童・生徒が裁判長、裁判官、裁判員、検察官、弁護士、
被告人、原告、証人の役割を演じ、判決を出す「模擬裁判」がある。今回は、DVDを使用する
ことにより、短時間で裁判の流れ、裁判員を経験することができ、授業時間に制約がある場合
や本格的に裁判を経験する授業を実施する前の導入として有効であると考える。
2)日経ストックリーグ―
(1)日経ストックリーグと経済学習
アクティブ・ラーニングを既に導入している高等学校の実践例 26としては、旅行や住宅、食
品など実在する大手企業から与えられた様々な「ミッション」、例えば「 20年後の『食のシー
ン』をデザインする」などのミッションに対し、高校生がグループに分かれて議論し、具体的
な提案をするなどがある。
政府は日本で起業が低調なことを問題視し、 2015 年度から小中学生を対象にした「起業家
-8-
教育」の導入を全国の学校に促す取り組みを始める。起業家教育は、総合学習の時間などを使
って模擬の「株式会社」を設立する体験をしたり、外部から起業家を呼んで話を聞いたりして、
子供たちの「起業家精神」を養うものである 27。経済産業省は、
「自ら考え、主体的に判断する
能力など、生きる力を養うことができる」と教育効果を期待している。
これらの試みは、直接社会とつながる教育であり、児童・生徒・学生の主体的行動を育成し、
キャリア教育にも極めて有効と考えられる。一方、大学におけるアクティブ・ラーニングの失
敗例 28によれば、
「教員の過剰介入」、
「いくつかのグループでは先導するリーダーがおらず、グ
ループワークが成り立たない。」
「企業と連携して商品開発を行った場合、商品のよい面ばかり
強調され、開発した商品の流通や販売に対する負担が考慮されていなかった。」
「連携した企業
の商品と他社の商品の比較が出来なかった。」などが挙げられている。
このことからも、発想の仕方や企業の在り方を学ぶ場合に、客観的に企業を分析する力、商
品価値を判断する力が求められ、どのような情報の入手が可能か、情報を選択し読み取る力を
学ぶことが重要であると考える。
日本経済新聞社が主催している日経 STOCKリーグを活用した経済学習を提案したい。日経
STOCKリーグは、中学生・高校生・大学生を対象にした株式学習コンテストで、世界、日本、
地域の未来社会を想像し、経済動向、企業動向、環境問題、地域活性、少子化問題など、各自
の問題意識から、投資したい会社や応援したい会社を考え、調査し、テーマにあったポートフ
ォリオを構築していく 29ものである。日経ストックリーグは例年 10月 1日から始まり、翌年
の 1月の第一週の金曜日にポートフォリオを提出する。学習活動は以下の 2つである。
①バーチャル株式投資。
3名以上 5名まででグループを形成し、グループごとに仮想資金 500万円が支給される。各
グループは、テーマに沿った企業を 10から 20の範囲で選択し、実際の時価に基づいてインタ
ーネットで株式売買シミュレーションを行うことができるシステムを用いて、ポートフォリオ
を作成、運用を体験できる。
②ポートフォリオ作成
ポートフォリオ構築のテーマを決めた背景や銘柄決定のプロセス、銘柄の情報、日経ストッ
クリーグに参加したことで学んだことをまとめる。
コンテストの評価はバーチャル株式の運用成績だけでなく、自主テーマによるコンテストも
あり、実際の株式投資の考え方を学ぶだけではない。企業の社会的、経済的価値を評価する力、
日本経済、世界経済の動向が株式市場にいかなる影響を与えるのかなど株式投資を通してリア
ルに学ぶのであり、経済、社会の仕組みと働きを理解する上で、極めて重要である。
(2)授業方法
日経ストックリーグを実施する前に、次のことを行う。
①財務諸表の読み方と ED
INETを使用し企業の情報の集める方法を説明する。
学生にとって身近な企業(例えば携帯電話、ゲーム会社)、テレビでよく知られた企業の中か
ら 5社ぐらい選択し、説明し、企業の経営状況が財務諸表に如実に表れていることを実感させ
-9-
る。企業の情報はインターネットで ED
INET(E
le
c
t
ron
i
cD
is
c
losu
re fo
rInves
to
rs
' Ne
two
rk)
を検索することで簡単に誰でも入手できる。ED
INETは金融商品取引法に基づく有価証券報告
書等の開示書類に関する電子開示システムの略称で、有価証券報告書・四半期報告書・親会社
等状況報告書などの開示書類を無料で閲覧できる金融庁の情報公開システムである 30。
EDN
ITの活用方法は、調べたい企業の有価証券報告書を検索して第一部企業情報から、
「主
要な経営指標等の推移」で売上高、当期純利益、純資産額、一株当たり株主資本等の主要な指
標を把握し、
「連結財務諸表等」から貸借対照表、損益計算書により売上高や収益の推移、自己
資本の充実などをチェックする。
②ホームページで企業情報を集める方法を説明する。
企業のホームページ上に掲載されている投資家情報( IR情報)から業績ハイライトや財務デ
ータ、決算説明資料などを調べることができ、会社概要や業務内容、取扱商品など詳しく知る
ことができる。
③新聞記事を一か月間スクラップする。
世界や日本の出来事で重要だと思う記事や、企業に関する記事をノートに貼り、短い要約文
をつける。できれば、グループ内で異なる新聞をスクラップすると良い。
日経ストックリーグの授業は、次のように行う。
①日経ストックリーグに参加する意義を各自考える。
②グループに分かれ、どのような社会にしたいのかを考え、テーマを決める。
③テーマに沿った企業を選択、 10以上 20未満の企業にしぼり仮想資金 500万円で株式を購入する。
④ポートフォリオを作成、運用を体験したことによる学習成果をまとめたレポートを作成する。
2009年からゼミの学生を参加メンバーとしてエントリーを行っている。3人~5人で 1グル
ープを形成し、ゼミの時間以外にもテーマに取り組み、企業研究をし、ポートフォリオを作成
している。その際、企業の情報を得るため、インターネットや社史の活用、過去の株価の推移
やプレスリリースのチェック、企業に直接電話をする、工場見学をするなど、企業を具体的に
多面的に理解するようにしている。
テーマとしては、
「医療を海外との架け橋に~持続可能な社会の実現に向けて」
「日本の真ん
中を応援~成長し続けよう!東海地方~」
「1919年創業企業新たな飛躍~100年の挑戦~」
「女
子高校生が日本の流行を作る!」「世界シェアナンバーワンの日本企業」などがある。
これらのポートフォリオを作成することで、学んだことは、
「成長している企業は、常に新し
いことに挑戦していたり、様々なジャンルに手を伸ばしていたりすることが理解できた。」、
「企
業に投資し、その企業の成長を願うことは将来の自分の生活を豊かにする道である。」、「企業
への投資は新たな、社会参加の形である。」、
「長寿企業には、独自の戦略と次の構造変化への対
応力がある。」などがあり、優良企業や成長企業から多くのことを学んでいる。
(3)小学校での取り組み
日経ストックリーグは中学生、高校生、大学生を対象としたものであるが、小学生でも取り
組むことは可能であると考える。実際に日経ストックリーグシステムを使用しなくても、バー
-10-
チャル株式購入は実践できる。また大切なことは、株式運用成績を上げることだけでなく、株
式投資を通して、生の実体経済の働きに対する理解と企業価値や企業の社会的貢献などを把握
することにある。日本経済の現在おかれている状況の中で、日本経済が成長し続けるため、誰
もが豊かな生活をおくるために、どのような企業が必要であるか、応援すべきかを考えること
が重要である。今後人口の減少、高齢化、環境への負荷、エネルギー問題など多岐にわたる問
題に対応すべき、イノベーションを持つ企業を各自が発見することに意義がある。
小学生に実施する場合は、次のように行いたい。
①どのような社会に住みたいか、各自考えさせ、発表させる。
②自分と同じような社会を目指している人とグループを作る。
③自分たちの願いを実践している企業、これからしてくれそうな企業を 5つ選ぶ。
教員が 30~50ぐらいの企業を選び、食品、家電、自動車、サービス等の業種別に提示する。
④インターネットで、選んだ企業のホームページを見て、サービスの内容、商品、経営方針を
調べる。調べた段階で、グループのテーマと会わないようであれば、変更する。
⑤グループのテーマ、選んだ企業名、その企業を応援したい理由を B紙 1枚にまとめて、発表
する。
6.ICT
(情報通信技術)の活用
1)ICTと学校教育
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ionand Commun
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logyの略で、本質的には ITと同じもの
ICTとは In
を指す。日本では、総務省・文部科学省では ICTを使用すると定められている 31。
文部科学省は平成 26年 8月に公表した「ICTを活用した教育の推進に関する懇談会報告書
(中間まとめ)」 32で、「「国際的に活躍できるように、実社会を生き抜く力として ICTを活用
して課題を解決する能力を有する人材を育成することが必要」とし、そのために教員に対して
「ICT活用指導力の向上を図る際には、教科等の指導において、児童生徒の学習意欲を高め、
知識・技能の習得や課題解決力の向上を図ることを意識しながら、ICTを効果的に活用する教
育方法の習得に取り組むことが重要 33」であるとしている。
ICTを活用した授業のためには、デジタル教科書、デジタル機器、ネットワーク環境の整備
が必要である。デジタル教科書とは、デジタル機器や情報端末向け教材のうち、既存の教科書
の内容と、それを閲覧するためのソフトウェアに加え、編集、移動、追加、削除などの基本機
能を備えているものをいう。教員が電子黒板等により提示して指導する指導者用デジタル教科
書と、子どもたちが個々の情報端末で学習する学習者用デジタル教科書に大別される 34。
デジタル機器としては電子黒板、プロジェクター、実物投影機、地上デジタルテレビ等の提
示用がある。ネットワーク環境の整備としては、
としては、1人一台の情報端末による学習を可能とする
ため、超高速の校内無線 LAN環境の構築が必要である。
。
学生の多くは、小学校、中学校、高等学校において電子黒板やデジタル教科書を使用した授
業を受けた経験がなかった。実際に、電子機器の操作になれることが必要であると考え、次の
-11-
ような授業を実施した。
2)デジタル教科書を活用した模擬授業
大学 3年生を対象にした「教育方法」の授業において、電子黒板、デジタル教科書、書画カ
メラを使用した授業を見せた後、学生をグールプに分け、模擬授業 10分を実施させた。英語
と社会(公民)のデジタル教科書を用意し、模擬授業では電子機器の操作になれることが目的
なため、デジタル教科書にある様々な機能をできるだけ使用すること、ホワイトボードを使用
して板書も行うように指示した。1グループ 5名で、英語、社会科どちらのデジタル教科書を
使用しても良いとし、2グループが社会科、3グループが英語を選択した。
模擬授業は 10分であったが、学生一人ひとりがデジタル教科書を使いこなせるように、2時
間準備時間をとった。また、模擬授業では、生徒が主体的に参加できる場面をできるだけ入れ
るように指示した。学生は模擬授業において英語では、教科書の問題をホワイトボードに映し
出し、直接生徒に答えを書かせたり、社会科では書画カメラで新聞記事を拡大表示し、生徒に
その記事をもとにディベートをさせるなど、生徒に活動させる場面を入れる工夫をしていた。
英語は、三省堂 CROWN Eng
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ish Commun
i
ca
t
ionⅡ指導用デジタル教科書で音声再生(現
t」
「S
low」に選択可能)、文字サイズや
在再生されている部分が赤色になり、スピードも「 Fas
行間の変更、単語カードの使用、ペン及びテキスト、スタンプを選択して、画面上に書き込み
などの機能がある。社会科は教育出版「デジタル教科書(中学社会公民)」で、ノートの表示
(授業前にポイントなどをノートにまとめ、授業中に表示)、教科書本文の拡大縮小や挿絵・写
真の拡大表示、教科書の内容に関する用語の意味の確認、画面にペンや図形ツールを使って図
や文字の書き込み、画面に作成した付箋やテキストメモを貼り付け、教材に関連した参考資料
の表示や動画の再生、画像の追加、マスクの使用(教科書紙面の指定した部分にマスクをかけ
て目隠しする機能)などの機能がある。
学生の模擬授業の感想から、英語や社会科のデジタル教科書の長所と短所を次の表にまとめ
た。
教科
長所
短所
英語のデ
・ネイティブの発音をすぐ聞け、アクセントや強弱まで
・書 く と い う 手 の 動 作 を 行 わ ず 、長 文 を
ジタル教
しっかり聴くことを促すことにより正しい発音が身に
流し、発声するだけでは、眠くなる。
科書
付く。
・生徒が授業に参加できる工夫が必要。
・発 音 を 目 で 追 っ て い け 、ブ レ ス の 箇 所 が 一 瞬 で 分 か る 。 ・教 師 の 発 音 と デ ジ タ ル 教 科 書 の 発 音 と
・人の声と音声を両方使うことでより頭に入りやすい。
・黒板に文を書くなどの先生の負担が減り、本当に大事
なポイントだけ、書いて説明できる。
・音 声 、写 真 、動 画 を 使 っ て の 授 業 の 方 が 生 徒 は 興 味 を 持
ちやすい。
・単語リストを簡単に出せる。スラッシュ機能がある。
-12-
違いすぎることが心配。
・ 英 語 の 発 音 を 流 す だ け な ら 、 CD で よ
い。
社会科の
・表やグラフを紙に拡大コピーする必要がなく、便利。
デジタル
・先生が実際にデジタル教科書に書き込みながら使用、
教科書
口頭で言われるよりも生徒にとってもどの部分が重要
・ 地 理 で は Goog
le マ ッ プ や ア ー ス の 機
能を使った方が便利である。
・社 会 科 で は 、デ ジ タ ル 教 科 書 よ り パ ワ
になっているか分かりやすい。
ーポイントを使用したほうが良い。
・下線を引いたり文の補足をしたりするのに、テキスト
・全 員 で 前 を 見 る だ け で 、 資 料 が 手 元 に
等を直接汚さない。
ない場合、集中力が持たない。
・授業の復習に、マスクの機能が便利。
参加学生 25名中、電子黒板を使用した経験がある学生は 4名、デジタル教科書を使用した
経験がある学生は 2名であった。デジタル教科書や電子黒板を使用せず、従来の授業のほうが
良いと答えた学生が 9人、使用したほうが良いと答えた学生が 16人いた。英語と社会のデジ
タル教科書を使用したため、比較ができ、全体的評価では英語にはとても有効であるが、社会
科はそれほどでもないという意見が多く出た。
英語のデジタル教科書では様々な機能について価値を見出し、特にネイティブの発音を聞け
る点に評価が高かった。社会科では、表やグラフの拡大など書画カメラでも十分できるためデ
ジタル教科書の評価が芳しくなかったと思われる。一方社会では「板書しながら説明したので、
より詳しく勉強できてよかった。」や、
「先生が教科書のまま板書したりするだけでつまらない
ので、インターネットを使用したりデジタル化すると面白くなりそう。」など、複数の電子機器
の活用や従来の授業方法と併用するなどすれば、デジタル教科書の利点を生かした授業が出来
るという意見もあった。
デジタル教科書に対する共通する評価は、紙やチョークの節約、本文を黒板に書き写す必要
がない、教師の負担が減り授業がスムーズに進行するという利点を挙げる一方、受講者の目が
疲れる、授業内容が記憶に残りにくい、操作が難しく、費用が掛かるなどの欠点を挙げていた。
授業で活用するためには、学生から「教師が電子黒板、デジタル教科書の操作を完璧に覚え
ることが重要である。」
「授業の構成をしっかり考える必要がある。」や「大事なポイントだけ板
書するなど、デジタル教科書と黒板を併用すると便利だと思った。デジタル教科書に沿って授
業すると、流れ作業みたいになり、先生の個性がなくなると思うので、使い方を工夫して授業
を進めるべきだ。」という指摘や「実際に見たり使ったりしたことがなかったので、色々な機械
を試すことができ、新たな授業方法を見つけることができ、良い経験になった。」の意見があっ
たことから、実際に ICTを活用した授業を行う準備になったと言える。
さらに学生はデジタル教科書には教科の特性に合わせた機能、つまり英語には正しい発音や
単語の理解に便利な機能があること、社会には黒板に資料を映し出すことにより、資料を共有
しみんなで考え、意見の交流を容易にする機能があることを理解し、授業のどこでデジタル教
科書を活用するのか、インターネットを活用したほうが良いのか、板書して理解を深めた方が
良いのか、授業構成を考える重要性に気付くことが出来た。
-13-
7 .おわりに
児童・生徒が授業に主体的に参加し、問題発見力や解決力、コミュニケーション能力を育成
するため、今回4つの学習活動と ICTを活用した授業方法を提案した。
「パネル・ディベート」は、複数の立場から討論することにより、社会は多様な人々により構
成され、さまざまな価値観の相違や利害関係があることを理解し、コミュニケーション能力と
問題解決能力を育成する。
「タイタニックの謎」は児童・生徒に関心の高い事例を映像で見せ、
複数の事実から各自が仮説を立て、新たな情報の提供で自ら仮説を修正し、真実を追求する批
判的思考力を育成する。
実社会と関係深い教材である「あなたが裁判員だったら」は、裁判員制度や判決の重みを理
解させ、様々な情報から自分の考えをまとめた後、他の人と意見を交流することで一つの結論
を見出す訓練となる。
「日経ストックリーグ」は、自ら選択して企業の株式をバーチャルで購入
し、その運用成績を競うものであるが、最も重要な活動ポートフォリオ作成であり、どのよう
な社会を望みテーマを決めたのか、なぜその企業に投資したのか、何を学んだのかをまとめる
ことにあり、現実の社会を理解し、生きる力の育成につながる教材である。
ICTを活用した授業を行うには、実際に電子黒板やデジタル教科書を使用した授業実践を数
多く行い、長所と短所を理解することが極めて重要である。ICTはスキルであり、それをどの
ように授業で効果的に活用するかは、教師がいかに教材研究を行うかにかかっている。「パネ
ル・ディベート」の試合方法は、電子黒板で説明したほうが分かりやすく、
「日経ストックリー
グ」では、企業を調べる時、グループごとに一台 iPadを配布し、みんなで見ながら相談する
など、アクティブ・ラーニングの学習方法において、 ICTは重要な役割を担っている。
アクティブ・ラーニングの学習活動を通して、学修者は能動的に課題にかかわり、自ら主体
的に問題点の把握を試みることができる。能動的な学習により相手の意見を丁寧に聴くと同時
に自分の考え方を論理的に述べる力を児童・生徒に育成する。学修者は双方向の授業により、
コミュニケーション能力、問題点の所在の発見と合理的な解決策を導く資質を身に付けるので
あり、能動的な学習の結果、主体的に考える能力を持った人材は、将来にわたって学び続ける
能力を自分のものとすることができると考える。
1中央教育審議会(第
95回)文部科学省配布資料「初等中等教育における教育課程の基準
等の在り方について」、2015年 1月 22日参照。
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2 OECD
(経済協力開発機構)が 2000年から 3年ごとに実施している「国際学習到達度
調査」で義務教育を終えた段階にあたる 15歳、日本の場合は高校 1年生が対象である。
2012年は世界 65か国と地域が参加した。
3 「国際学力テストはあがったけれど」解説委員会:NHK
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l2015年 1月 24日参照。
4 3
4か国・地域が参加する OECDの調査で、日本は中学校約 200校の校長、教員(非正
規含む)を対象にアンケート調査した。文部科学省「 OECD国際教員指導環境調査
(TAL
IS2013)のポイント」。
5 前掲「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」
。
-14-
溝上慎一『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』東信堂 2014年。
河合塾編著『アクティブラーニングでなぜ学生が成長するのか』東信堂、 2011年。
8 岩崎千晶編著『 大学生の学びを育む学習環境のデザイン』関西大学出版部、 2
014年。
9 荒井眞一「アクティブラーニングの方法をとり入れた社会科授業の内容構成とその実
践」札幌大谷大学社会学部論集、2014年、67
-83頁。
10文部科学省「ICTを活用した教育の推進に関する懇談会(中間まとめ)
」平成 26年 8月
29日。
11 平成 2
4年 8月 28日中央教育審議会「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に
向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」9頁。
12 文部科学省『用語集』
。
13 前掲『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』 4
6頁。
14 経済産業省 h
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.pd
f。
15 文部科学省「学士課程教育の構築に向けて」中央教育審議会答申の概要
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。
16 前掲中央教育審議会「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」
。
17 前掲『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』 1
42頁。
18 中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会「これからの学校教育を担う教職員
の在り方について(報告)」平成 26年 11月 6日。
19
吉田和志『ディベートを超えるパネル・ディベートを提案する』明治図書1997年。
パネル・ディベートは吉田が勤務する兵庫県立教育研修所の研修で 1995年ごろから実施
されていた。吉田はディベートの問題点として、現実遊離ぶり、討論の難しさ、全員が体
験するには時間数がかかる、ディベーターと他の生徒との意識の落差を挙げ、この問題点
がすべて「相対する二つの立場」に起因すると述べている。
20 藤森祐治「読みを深めさせる討議・討論―文学教材をめぐって―」
『高等学校国語科
新しい授業の工夫 20選〈第 3集〉』大修館、1994年、34頁。
21 W
a
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te
rC
.Pa
rke
r:訳藤井千春『社会科教育カリキュラム』株式会社ルック、 2009
年、180
-181頁。
22「低品質の鋲沈没早めた?」 『朝日新聞』2
008年 4月 16日、夕刊。
23 楠見孝「良き市民のための批判的思考」
『心理学ワールド( 61)』2013年 5頁。
24 最高裁判所「裁判員制度実施状況について(まとめ)
」2015年 1月 23日参照。
25 文部科学省『小学校学習指導要領解説社会編』平成 2
0年、9頁。
26 「生きる力を習得せよ」
『日本経済新聞』2014年 12月 26日、夕刊。
27 「起業家教育:小中学校で政府、来年度から全国拡大へ」
『毎日新聞』 2015年 1月 5
日。
28 「アクティブ・ラーニング失敗事例ハンドブック」文部科学省「産業界ニーズに対応
した教育改善・充実体制整備事業」平成 26年度東海A(教育力)チーム成果物
29日経 STOCKリーグホームページ h
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tp
:
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/manabow
.
com
/s
l
/ 2015年 1月 11日参照。
30「デジタル大辞泉」k
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.
jp
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rd
/ED
INET-445516 2015年 1月 23日参照。
31 西田宗千佳『デジタル教科書のゆくえ』TAC出版、2
012年、7頁。
32 前掲「ICTを活用した教育の推進に関する懇談会(中間まとめ)
」4頁。
33 同上、1
4頁。
34 文部科学省「学びのイノベーション事業実証研究報告書」平成 2
6年 4月 11日、163
頁。
6
7
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