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抄録集 - SQUARE - UMIN一般公開ホームページサービス用サーバ

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抄録集 - SQUARE - UMIN一般公開ホームページサービス用サーバ
抄録集
特別講演
Molecular Mechanisms Regulating Adrenal Androgen Production
William E Rainey
Department of Physiology, Medical College of Georgia, Augusta, Georgia USA
As opposed to the regulation of cortisol and aldosterone little is known regarding
the mechanisms that regulate the production of the so-called adrenal androgens,
dehydroepiandrosterone (DHEA) and DHEA-sulfate (DHEA-S). However it is clear that
these steroids are produced in the adrenal zona reticularis and not the zona
fasciculata. We and others have shown that the expression pattern of type II
3β-hydroxysteroid dehydrogenase (HSD3B2), cytochrome b5 (CYB5), and steroid
sulfotransferase (SULT2A1) play an important role in the production of adrenal
androgen. Specifically, adrenal production of DHEA-S is correlated with reticularis
expression of SULT2A1 and CYB5. In contrast, HSD3B2 has an inverse correlation with
adrenal androgen production likely due to its unique ability to remove precursors
from the pathway leading to DHEA. Using microarray, real-time RTPCR,
immunohistochemistry and HSD3B2 promoter analysis, we have shown that the NGFI-B
family of nuclear hormone receptors plays a critical part in the regulation of HSD3B2
transcription and may play an important role in the functional zonation of the adrenal
gland. Transient transfections into adrenal cells demonstrated that NGFI-B family
members enhance HSD3B2 reporter activity but have no effect on SULT2A1 or CYB5
promoter constructs. Deletion and mutational analyses of the 5 -flanking region
of the HSD3B2 gene identified a consensus NGFI-B response element (NBRE) that binds
NGFI-B in mobility shift assays. Infection of cultured human adrenal cells with
adenovirus-containing NGFI-B increases cortisol production and increased expression
of HSD3B2 mRNA. In primary cultures of adrenal cells, ACTH, an activator of HSD3B2
expression, rapidly induced levels of NGFI-B suggesting that ACTH may act through
NGFI-B to regulate HSD3B2 transcription. Immunohistochemistry and quantitative RTPCR
demonstrated that NGFI-B protein and mRNA are low in the reticularis compared to the
fasciculata. Taken together these results suggest that the functional zonation of
the adrenal cortex is in part due to zonal expression of key transcription factors
(NGFI-B) and steroidogenic enzymes (HSD3B2) that facilitate DHEA biosynthesis.
シンポジウム
「ステロイド の微量 測定̶現状と今後の課題̶」
S-1
ヒト組織中ステロイドホルモン測定の臨床的病理的有用性:ホルモン依存性癌を例に
鈴木
貴 1、三木康宏 2、赤平純一 2、笹野公伸 2
1.東北大学医学部保健学科病理検査学分野
2.東北大学大学院医学系研究科病理診断学分野
乳癌は代表的なホルモン依存性癌であり、増殖進展にエストロゲンが深く関与している。
ホルモンは受容体を介して作用するため、エストロゲン受容体 (ER)に関する研究が今まで
多くなされ、ER 阻害剤が乳癌内分泌療法の中心を担ってきた。一方エストロゲンは乳癌組
織中でアロマターゼ等により合成されている。近年開発されたアロマターゼ阻害剤は ER 阻
害剤を上回る臨床効果を示し、組織中ホルモン濃度も局所のホルモン作用を規定する重要
な因子である可能性が推察される。しかし組織中ホルモン濃度に関する研究は、受容体の
解析と比べ著しく立ち遅れているのが現状である。そこで今回我々は、乳癌における性ホ
ルモン作用を組織中ホルモン濃度の観点から解析した。非浸潤性乳癌組織では非腫瘍部よ
り活性型エストロゲン及びアンドロゲン (DHT) 濃度が有意に高く、浸潤性乳癌では非浸潤
癌よりも DHT 濃度が低い反面アロマターゼが亢進していた。乳癌組織中性ホルモン濃度は
受容体発現自体とは関連せず、DHT 濃度はアンドロゲン受容体陽性浸潤性乳癌において腫
瘍径や細胞増殖能と逆相関を示した。以上より乳癌では非浸潤癌の段階から性ホルモンが
活発に合成されており、浸潤癌ではアロマターゼの発現が更に亢進しアンドロゲンからエ
ストロゲンへの変換が強まること、また乳癌におけるホルモン作用を詳細に理解するには
受容体とホルモン濃度を合わせて解析することが有効であること等を明らかにした。
ホルモンが組織中で局所的に合成・作用するのであれば、既知のホルモン依存性癌以外
でも癌の発育進展にホルモンが関与している可能性がある。その例として肺癌組織中エス
トロゲン濃度に関する解析結果もお示ししたい。
シンポジウム
「ステロイド の微量 測定̶現状と今後の課題̶」
S-2
原発性アルドステロン症診断におけるアルドステロン微量測定の意義
佐藤文俊 1、森本
玲 1、石橋忠司 2、山下幸和 3、沼澤光輝 3、伊藤貞嘉 1
1.東北大学病院腎・高血圧・内分泌学科
2.東北大学病院放射線部
3.東北薬科大学薬学部臨床分析化学教室
<背景>アルドステロン産生腺腫(APA)の局在診断は容易ではない。高血圧患者の副腎に
は非機能性の副腎皮質結節が存在する頻度が高く、原発性アルドステロン症(PA)の診断
がついて、CT で片側副腎に腺腫を発見してもそれが実際にアルドステロンの過剰分泌の主
体であるかどうかの診断は副腎静脈サンプリング(AVS)に頼らざるを得ないのが現状であ
る。AVS で採血量が微量でもアルドステロンやコルチゾールの測定が可能であれば検査時
間の大幅な短縮につながる。
<方法>今回我々は、ピコリン酸エステル誘導体化法を活用した LC-エレクトロスプレー
イオン化(ESI)-タンデム質量分析(MS/MS)法(positive mode)によるアルドステロン、コル
チゾールの微量測定法を開発した。RIA 法、蛍光偏光免疫測定法(FPIA)による従来測定
法との相関を検討するために、すでに従来法で測定している PA 患者・非 PA 患者の血漿 100
検体について LC-ESI-MS/MS(選択反応検出:SRM)法で測定を行った。この研究は東北大学
医学部倫理委員会の承認を得て、患者の同意の下に行っている。
<結果>アルドステロンは 21 位水酸基をピコリン酸エステル、11-ヘミアセタールをエト
キシ基で保護すると単一な LC ピークが得られ、positive-ESI-MS において m/z 494 にプロ
トン化分子イオン([M+H]+)を与えた。[M+H]+を前駆イオンとする SRM 法により、内標準物
質(安定同位体標識化合物)を用いて血漿サンプルを測定した結果と、従来法との相関に
ついて報告する。
シンポジウム
「ステロイド の微量 測定̶現状と今後の課題̶」
S-3
血中および組織内エストロゲンと乳がん
岩瀬弘敬
熊本大学医学薬学研究部
乳腺内分泌外科分野 教授
閉経後女性においては卵巣機能低下により血中のエストロゲン濃度が低下している。し
かし、末梢脂肪内のアロマターゼにより副腎由来のアンドロゲンがエストロゲンに転換さ
れるため、閉経後においても乳腺組織内のエストロゲン濃度は血中に比べ比較的高く保た
れている。閉経後に肥満となった婦人においてはこの傾向はより顕著で、この群の乳がん
罹患リスクが上昇することが知られている。この場合、10 pmol/L 未満での微量な血中エ
ストラジオールが評価されており、乳がんのハイリスクを選別するためにも性ステロイド
の微量測定は重要である。
一方、臨床乳癌の 80%はエストロゲンレセプター(ER)、プロゲステロンレセプター(PgR)
が陽性であり、エストロゲン依存性の増殖を示す。アロマターゼ阻害薬は閉経後乳がんの
エストロゲン合成を抑制し、ER 陽性または PgR 陽性乳がんの増殖を抑制する。これは LHRH
アゴニストを併用することで閉経前患者にも適用しうる。さらに、最近ではステロイドサ
ルファターゼ(STS)阻害薬によりエストロゲンの合成をより強力に抑制することも検討さ
れている。これら薬剤の効果予測や評価においても乳腺組織内の性ステロイド微量測定は
有用と考えられる。
本シンポジウムでは、乳がん診療における血中および組織内の性ステロイド測定の臨床
的重要性について述べる。
シンポジウム
「ステロイド の微量 測定̶現状と今後の課題̶」
S-4
子宮内膜癌細胞におけるエストロゲン合成・代謝酵素の発現
成に対する間質細胞の影響∼
∼癌細胞のエストロゲン合
宇都宮裕貴 1、伊藤 潔 1、小林里香 1、高橋尚美 1、三木康宏 2、鈴木 貴 3、本間誠次郎 4、
林 慎一 5、笹野公伸 2、八重樫伸生 1
1
東北大学大学院 医学系研究科 産婦人科
東北大学大学院 医学系研究科 病理診断学分野
3
東北大学 医学部 保健学科 病理検査学分野
4
株式会社帝国臓器製薬メディカル 開発研究部
5
東北大学 医学部 保健学科 分子検査学分野
2
エストロゲンはその標的において強い細胞増殖作用を有しており、子宮内膜癌や乳癌
等のエストロゲン依存性腫瘍の発症および増殖・進展に重要な役割を担っていると考えら
れている。これまでにヒト子宮内膜癌の局所におけるエストロゲン合成・代謝機構の検討
を行い、局所におけるエストロゲン活性の調節に Aromatase, estrogen sulfatase (STS),
estrogen sulfotransferase (EST), 17β-hydroxysteroid dehydrogenase (17β-HSD) type
2 および type5 が深く関与していることを明らかにしてきた。今回、子宮内膜癌における
エストロゲン合成の key enzyme である Aromatase や他のエストロゲン合成・代謝酵素であ
る STS, EST, 17β-HSD type1, type2 および type5 に着目し、子宮内膜癌細胞を用いて間
質細胞との共存下における癌細胞中の諸酵素の変動を検討した。さらに癌細胞のエストロ
ゲン合成に対する間質細胞の影響を検討した。
用いた子宮内膜癌細胞は Ishikawa および RL95-2 で間質細胞は手術検体から分離した初
代培養細胞を用いた。そしてそれらを共培養しアロマターゼ活性や他のエストロゲン合
成・代謝酵素である STS, EST, 17β-HSD type1, type2 および type5 の発現を検討した。
さらに同じエストロゲン依存性腫瘍である子宮内膜癌と乳癌の局所におけるエストロゲン
制御機構の差異を比較検討し、臨床における新たな治療法の可能性に関して考察した。
シンポジウム 「ステロイドの微量 測定̶現状と今後の 課題̶」
S-5
加齢男性性腺機能低下症候群(LOH 症候群)∼フリーテストステロン測定の意義∼
宮川
康
大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学(泌尿器科)
加齢男性性腺機能低下症候群(LOH 症候群)
、いわゆる「男性更年期障害」は国際アンドロ
ロジー学会・国際加齢男性学会・欧州泌尿器科学会の 3 学会が A clinical and biochemical
syndrome associated with advancing age and characterized by typical symptoms and a
deficiency in the quality in serum testosterone levels. It may result in significant
detriment in the quality of life and adversely affect the function of multiple organ
system と定義しており、診断には総テストステロンによる基準値が設定されている。米
国では 2.0ng/ml 未満、ヨーロッパでは 2.31ng/ml 未満を性腺機能低下症とし、境界域(米
国:2.0 以上 4.0ng/ml 未満、ヨーロッパ:2.31 以上 3.46ng/ml 未満)ではフリーテストス
テロン値や生物学的活性テストステロン(バイオアベイラブルテストステロン)値などを
参考にすることを推奨している。一方、我が国では、LOH 症候群診断にフリーテストステ
ロン値を使用にすることが推奨されており、その基準値について、20 歳代の mean-2SD で
ある 8.5pg/ml を正常下限とし、さらに 8.5pg/ml 以上であっても 20 歳代の平均値の 70%で
ある 11.8pg/ml 未満までの症例は男性ホルモン低下傾向群と提案されている(
「日本泌尿器
科学会・日本 Men s Health 医学会公認 LOH 症候群診療の手引き」2007 年 1 月発刊)。本
発表では大阪大学附属病院男性更年期外来を受診した LOH 症候群患者 180 名のデータから、
この我が国のフリーテストステロンを用いた診断基準の妥当性、さらに LOH 症候群の諸症
状と各種テストステロン値の関連性を比較しフリーテストステロン測定の意義を検討する。
シンポジウム
「ステロイド の微量 測定̶現状と今後の課題̶」
S-6
コルチゾール迅速測定法の開発と副腎静脈サンプリングへの応用
米田
隆 1、唐島
成宙1、武田
仁勇1、井出上
公太郎2、民谷栄一3
1.金沢大学大学院 臓器機能制御学 内分泌代謝内科
2.石川県産業創出支援機構
3.大阪大学大学院 工学研究科精密科学・応用物理学専攻 応用物理学
原発性アルドステロン症の診断、治療法の決定には副腎静脈サンプリング検査(AVS)が必
要不可欠だが、多くの問題点がある。AVS とは左右の副腎静脈にカテーテルを入れ、採血
しアルドステロンを測定するというものである。採血量として 5ml 前後の血液が必要であ
る。副腎静脈は非常に細いため十分な採血量が取れないことや、使用しているカテーテル
も径の細いものを使用するため、カテーテル内で血液が凝固したりして、検査が失敗して
しまうことがたびたびである。 また、検査が成功したようにみえても、副腎静脈にはい
ろんな静脈からの血流がまざり採取した検体のアルドステロンが希釈され検体が不適切な
こともしばしばである。一般病院での AVS の適切な検体採取成功率は50%程度で ACTH 負
荷してもこの検査の成功率は75%程度である。AVS に非常に熟練した術者が検査を施行
しても、適切な検体採取成功率は95%程度である。検体が適切かどうかの判定には、同じ
副腎皮質から分泌されているコルチゾール濃度を測定しこの濃度が末梢血液の濃度より高
値であれば適切な検体と判定するが、この結果がでるのは数日後であり、不適切な検体と
判明した場合、再度、侵襲度の高い AVS をする必要がある。これらの AVS の問題を解決す
るにはごく少量の血液でその場ですぐに結果のでるホルモンの測定系の開発が求められて
いる。現在、血糖、電解質などの一般生化学検査においてはその血中濃度が mg/dl 程度で
あり迅速測定すでに臨床応用されているが、アルドステロンやコルチゾールなどの pg/ml
から μg/dl の血中濃度のもの測定は難しかった。共同研究者である大阪大学(前北陸先端
大学大学院)の民谷教授の研究グループはコルチゾール迅速測定に成功しており、われわ
れは、この技術を用い AVS に応用した成績について報告したい。
シンポジウム
「ステロイド の微量 測定̶現状と今後の課題̶」
S-7
ステロイドホルモン測定と標準化の問題点
小田桐恵美
東京女子医科大学、臨床検査科
ステロイドホルモンは RIA による測定法が確立してから、広く臨床応用されている。最
近は non-RI による測定法が応用され短時間で測定結果が報告されるようになった。日本ア
イソトープ協会主催のイムノアッセイコントロールサーベイはサーベイ回数 28 回を数え
る。この中にステロイドホルモンも5項目(コルチゾール:F、アルドステロン:A、テスト
ステロン:T、プロゲステロン:P、エストラジオール:E)含まれている。これらのステロイ
ドホルモンのキット内変動の CV は E 以外は 10%前後であった。しかし最近 10 年間のキッ
ト間変動の CV をみると F は 10%前後であるが A、T は 20~30%、P は 20~40%、E は 40~70%と
改善傾向が見られないまま推移している。F はステロイドホルモンの中で最もキット内変
動、キット間変動は良好である。しかしながら F 値を臨床基準の必須項目に取り入れてい
るサブクリニカルクッシング症候群の診断の際、デキサメサゾン負荷試験時に用いたキッ
トにより F 値が異なり診断困難な症例が多くみられることが問題となっている。このよう
にホルモン測定のキット間にばらつきがあることから測定値が共有できないことが多く、
ホルモン測定の標準化が久しく望まれてきた。標準化には標準品、基準測定法、認証標準
物質などの要素があるが、実際これらの統一化は簡単ではなく、イムノアッセイの場合さ
らに抗体の多様性の問題もある。平成 18 年度よりステロイドホルモンを含むいくつかのイ
ムノアッセイ項目の標準化への検討が日本標準化協議会(JCCLS)と産業技術研究所 (NMIJ)
の共同事業として開始され標準化のための調査と標準物質、純物質などの検討が行われて
いる。標準品を統一化することにより GH の標準化がほぼ成功したように、多くのイムノア
ッセイ項目で標準品の統一化の検討が共同で開始されたことは評価されるべきと思われる。
シンポジウム
「ステロイド の微量 測定̶現状と今後の課題̶」
S-8
LC-MS/MS による血液、組織および唾液中の微量ステロイドホルモン測定
本間誠次郎
帝国臓器製薬メディカル
ステロイドホルモンは分子量が270∼350と低分子で、わずかな立体構造の違いで
も認識できる抗体を利用して定量するイムノアッセイ法が開発され、臨床検査や臨床研究
などにおいて大きな成果を上げている。近年、臨床や基礎医学、環境、動物行動、文化人
類学など多分野の研究において、血液のみならず組織や唾液中の微量ホルモン測定が要求
されてきたが、イムノアッセイによる定量法では感度、不純物、マトリックスの違いによ
り、正確に定量する事が困難な場合が多くなってきた。このような状況下で我々が取り組
んでいる物理化学的な手法としての液体クロマトグラフィー‐質量分析によるステロイド
ホルモン微量法と試料の処理法について述べる。
1)
血液:ホルモン研究分野で遺伝子研究が盛んに行なわれ、マウスでの遺伝子発現
の確認や、女性更年期でアロマターゼ阻害剤の治療確認のための Estradiol 定量や、
女性での Testosterone の役割などのモニターが必要となっている。また、最近注目さ
れている生理活性の指標として血中非グロブリン結合ホルモン、バイオアベイラブル
Estradiol や Testosterone 測定が臨床現場から求められている。さらに、少量の血清
(200∼500μL)で 10 数種のホルモンを一度に分析し、ステロイド代謝酵素異常を含
む内分泌疾患の検査法も求められている。
2)
組織:ホルモン依存性の前立腺癌および乳がんの発症およびそれらの進行に、
Androgen や Estrogen などの性ホルモンの関与が知られてきているが、その詳細は不明
である。これらの疾患の悪性度と組織中のホルモン量との関連から、生検(1∼5㎎)
組織によるホルモン検査法が注目を浴びている。また、脳科学の進歩に伴い神経伝達
と中枢ステロイドの動態について脳科学分野で中枢ホルモンの測定が必須となってき
た。しかし、組織中の微量なホルモン定量(0.5pg 程度)は大きな壁となっている。
3)
唾液:心や体の発達と神経内分泌との関わりが注目されている。内分泌検査に加
え、生活および職場、職業の違い、地域差、人種などのホルモン濃度差の調査や霊長
類などでのホルモン行動研究分野では、試料として血液のモニターでは不十分な場合
や採取が困難な状況下で、分析試料として簡単で非侵襲的に採取できる唾液が注目さ
れている。しかしながら、唾液中のホルモン濃度(Estradiol で 0.1∼0.5pg/mL)は
血液の1∼5%ときわめて少ないのでより高感度な定量法が求められている。
4)
分析:これらの試料から微量なステロイドホルモンを破壊せずに、効率よく抽出・
精製ができる方法、更に高感度で測定するためステロイドの官能基を化学的に誘導化
する方法などについても述べる。
5)
LC-MS での分析:測定するステロイドホルモンの化学構造および性質の違いとイ
オン化法の条件および測定感度や特異性などについて述べる。
一般演題
演題番号 1-1
NR5A1 遺伝子異常(Ad4/BP)による精巣形成不全の 1 例
田島敏広 1、石津
桂 1、藤枝憲二 2
1.北海道大学大学院・小児科学分野
2.旭川医科大学小児科
NR5A1(Ad4/BP)はステロイド合成、副腎発生、性腺の発生などさまざまな遺伝子の転写
を制御するオーファン核内受容体である。
現在までに 7 名の患者においてこの遺伝子の異常が報告されている。副腎不全を示し、
精巣の形成異常を示す場合、また予想外ではあるが副腎は正常で、精巣の形成不全のみを
呈する患者が報告されている。
今回精巣の形成不全の患者において NR5A1(Ad4/BP)遺伝子を解析したので報告する。
症例
患者は 11 歳、女性。出生時より軽度陰核肥大に母が気づいていた。10 歳時陰核の大きさ
が増大してきたことで近医受診し、11 歳時精査目的にて入院となる。
二次性徴は認められなかった。膣、尿道口はそれぞれ別に開口していた。左鼠径部に 2cm
の腫瘤を触知した。右鼠径部には腫瘤は認められなかった。
染色体核型は 46,XY。内分泌学的検査では LH、FSH それぞれ 14.35 mIU/ml, 41.1 mIU/ml
と上昇していた。テストステロンは基礎値で 1.28 と上昇していた。 左鼠径部の腫瘤は精
巣と考えられた。また右腹腔内にも精巣様腫瘤が認められ、両側精巣摘出術を行った。
倫理委員会で承認を得た後、両親よりインフォームドコンセントを得た。既報の報告よ
り NR5A1(Ad4/BP)遺伝子にプライマーを設定し、各エクソン、イントロンについて PCRダイレクトシークエンス法にて解析をおこなった。
結果
エクソン 2 で T 塩基から G 塩基への置換をヘテロで同定した。この置換により 41 番目の
Val が Gly へと変異するものであった。現在その機能を解析中である。
D. 考案
今回副腎不全が認められず、
精巣の形成障害を起こした 46, XY 性分化異常症において NR5A1
(Ad4/BP)の V41G の変異を同定した。図 2 に示したが、この変異は DNA 結合に重要な第 1
番目の Zn フィンガー領域、P-Box 近傍に位置し、またマウス、ラット、牛、ヒトで保存さ
れているアミノ酸である。このことからこのアミノ酸置換は DNA 結合に影響を与えると推
察される。現在この変異体を構築し、その機能について検討を行っている。
いままで 7 例の NR5A1(Ad4/BP)異常症が報告されているが、3 例は重篤な副腎不全を示
し、このうち 2 例は 46, XY 核型で精巣が認められなかった。一方 4 例は 46,XY 核型で、
副腎不全は発症しておらず、精巣の形成障害を起こしている。今後精巣の形成障害患者に
おいて NR5A1(Ad4/BP)の異常の頻度をあきらかにしてゆく必要がある。
演題番号 1-2
末端肥大症、副腎皮質腫瘍及び直腸カルチノイドを合併し、低レニン性高血圧症を呈した
MEN I 亜型の 1 例
園田浩一朗、大江賢治、權藤重喜、渡辺哲博、坂本竜一、野村政壽、岡部泰二郎、
柳瀬敏彦、高柳涼一
九州大学医学研究院病態制御内科学
症例は 69 歳女性。65 歳頃から近医にて血圧 180-200/100mmHg 前後の難治性高血圧を指摘
され、精査の過程で右副腎腫瘍、血漿レニン活性低値を指摘された。二次精査と加療目的
で当科入院となった。所見では BMI 29.4、口唇部や鼻翼と手指・足趾の肥大を認め、血中
GH は各種負荷試験で高値を示し、ソマトメジン C(SmC)と尿中 GH の高値を認めた。下垂体
MRI にて増強効果の淡い領域を認め下垂体腺腫と考えられ、末端肥大症の診断に至った。
一方、ラシックス立位負荷試験では血漿レニン活性の抑制とアルドステロンの上昇を認め、
CT では右副腎部に低吸収域を認めた。原発性アルドステロン症が考えられたが、アルドス
テロンは基礎値が正常であった。また、消化管精査では直腸カルチノイドを認め、以上、
全身精査より MENⅠ亜型と考えられた。治療として腹腔鏡下右副腎腫瘍摘除術を施行した
ところ副腎皮質腺腫であったが、術後も高血圧は持続した。術後、スピロノラクトン投与
を基本に Ca 拮抗剤、ARB の追加投薬にて血圧の完全な正常化と血清 K の正常化を認めた。
GH および SmC の高値はソマトスタチンアナログにて改善した。DOC、B も正常であり、低レ
ニン血症の原因は不明であったが、反対側微小腺腫の存在や未知のミネラルコルチコイド
産生腫瘍など複数の鑑別診断が考えられた。若干の文献的考察を踏まえ報告する。
演題番号 1-3
Cushing 徴候に乏しく、画像上で左右差を認めた AIMAH の 1 剖検例
山元弘桜 1、早川伸樹 1、柿澤弘章 1、鈴木敦詞 1、織田直久 1 桐山諭和 2、安見和彦 2、
黒田誠 2、笹野公伸 3、伊藤光泰 1
1.藤田保健衛生大学医学部内分泌代謝内科
2.同病理部
3.東北大学大学院病理診断部
【症例】72 歳女性【現病歴】糖尿病、高血圧で近医加療中であったが、入院数ヵ月前から徐々
にうつ状態が強く外出困難となり、往診治療をうけていた。歩行困難、食欲低下、体重減少が悪
化し当院に搬送された。【現症】身長 160cm、体重 37kg。中心性肥満、満月様顔貌など Cushing
症候群に特徴的な身体徴候および男性化徴侯を有さなかった。
【経過】入院時、重度の神経因性
膀胱による腎後性腎不全、脱水による腎前性腎不全、肺炎を認めたが、尿路管理、補液、抗生剤
投与で改善した。入院時の画像検査で両側の副腎腫大を認めた。血液検査で血中コルチゾールは
45 48μg/dl と高値を示したが、ACTH は 11 14pg/ml と抑制が不十分であった。日内変動は消
失し、1mg、8mg デキサメタゾン抑制試験でコルチゾールの抑制を認めなかった。尿中コルチゾ
ールは 413 715μg/日、尿中 17OHCS は 18 20mg/日と高値、尿中 17KS は正常下限、血中 DHEA-S
は 11ng/ml と低値。画像検査では腹部 CT で左副腎に径約 6cm、右副腎に径約 2.5cm の腫大を認
め不均一に造影された。腹部 MRI でも同様な所見を示し、下垂体 MRI は明らかな腫瘍は認めなか
った。Cushing 症候群と診断したが、同時に汎血球減少を認め、骨髄穿刺を試行し骨髄異形性症
候群の併発と診断した。手術適応外と診断されたため、内科的に高コルチゾール血症の是正のた
めメチラポンおよびミトタンの投与を開始した。しかし、全身状態は徐々に悪化し、感染症の併
発もあり入院 53 日目に死亡、剖検が施行された。両側副腎は大小の結節に置換されており左右
差を認めた(左 71 g、右 18g)。ACTH 非依存性大結節性副腎過形成(AIMAH)と診断し、現在組織学
的に検討中である。【結語】Cushing 徴候に乏しく偶発腫として発見され、画像上で左右差を認
めた AIMAH の 1 剖検例を経験したので報告する。
演題番号 1-4
骨髄脂肪腫様変化を合併した black adenoma によるプレクリニカルクッシング症候群
森 栄作 1、塚本幸子 1、木村 崇 1、萩原英恵 1、玉那覇民子 1、田中公貴 1、臼井
田上哲也 1、島津 章 1、奥野 博 2、南口早智子 3、相羽元彦 4、成瀬光栄 1
健 1、
1.京都医療センター 内分泌代謝科
2.泌尿器科
3.研究検査科
4.東京女子医科大学東医療センター病理科
【症例】43 歳男性【主訴】左副腎偶発腫【既往歴】20 歳頃:高血圧、41 歳:耐糖能障害、
高脂血症【現病歴】左腰背部痛のため尿路結石疑いにて腹部 CT 実施し、左副腎偶発腫瘍を
認めた。【身体所見】身長 174.2cm, 体重 75.2kg, BMI24.8, 腹囲 88cm、BP140/88mmHg、脈
拍 81/整, クッシング兆候なし【検査所見】WBC 7000/μl (Eo. 5.6%)、肝機能、腎機能、
電解質異常なし、TG 211mg/dl、P-Glu 87mg/dl、Hb A1c 6.1%、75gOGTT:IGT<内分泌学的検
査>ACTH11pg/ml、コルチゾール 11.2μg/dl(23 時 10.6μg/dl)、DHEA-S52μg/dl、尿中遊
離コルチゾール 80.0μg/日、17-OHCS9.9mg/日、17-KS8.1mg/日<Dexa 抑制試験>1mg、8mg
とも抑制なし【副腎 CT】左副腎に 3 2cm の腫瘤。内部に低吸収部分と石灰化。右副腎は
萎縮【腹部 MRI】左副腎に脂肪成分を含む 29 16mm の腫瘤【経過】画像上は左副腎骨髄脂
肪腫、機能的に PreCS と診断。、泌尿器科にて腹腔鏡下左副腎摘出術を施行。【病理所見】
左副腎内部に 3x2cm 大の結節病変。褐色調で一部に黄色の脂肪織、嚢胞性病変を伴う。<
光顕所見>褐色細顆粒状∼小球状の lipochrome を有する副腎皮質緻密細胞の増殖を示す
腺腫。多発性に脂肪織の増殖巣を認め、リンパ球浸潤や造血像を含み、狭義の骨髄脂肪腫
様変化。悪性所見(-)【考察】骨髄脂肪腫様変化を伴った black adenoma による PreCS を経
験した。black adenoma とコルチゾール産生、骨髄脂肪腫様変化の関連性につき文献的考
察を加えて報告する予定。
演題番号 1-5
クッシング症候に対しミトタンとメチラポンの併用が有効であった副腎皮質癌の 1 例
玉那覇民子 1、塚本幸子 1、五百川仁見 1、萩原英恵 1、田上哲也 1、臼井 健 1、島津 章 1 、
成瀬光栄 1、本間桂子 2
1.国立病院機構京都医療センター内分泌代謝科
2.慶応義塾大学病院中央臨床検査部分離分析
副腎皮質癌の治療の基本は外科手術であるが、転移などから根治手術が不可能な症例では、
化学療法が治療の第一選択となる。化学療法としてはミトタンが用いられている。今回副
腎皮質癌の肺転移によりクッシング症候群を呈した症例に対し、ミトタンとメチラポンの
併用によりグルココルチコイド過剰分泌のコントロールが得られた症例を経験したので報
告する。【症例】49 歳、男性。平成 14 年 10 月、左下腹部痛を自覚したため近医受診。腹
部 CT にて副腎腫瘍を指摘され術後の病理検査の結果副腎皮質癌と診断。腫瘍摘出術後エト
ポシドによる化学療法を施行。H19 年 3 月、胸部レントゲンにて多発性の腫瘤を認め肺針
生検の結果副腎皮質癌の転移と判明。加療目的で当院紹介入院。入院時満月様顔貌などの
クッシング徴候を認めた。【経過】入院時の内分泌学的検査では、ACTH<5pg/ml と抑制、
コルチゾール(F) 30.4mg/dl 及び尿中フリーF 863.0mg/日と高値であった。23 時の血中F
30.6mg/dl であり日内変動は消失していた(唾液 F 0.568mg/dl)。入院後ミトタンの漸増治
療を開始した。ミトタン 6g/日まで増量にて転移巣からの F 産生は低下傾向を示したがコ
ントロールは不十分であったため、メチラポンの内服を追加したところ(ACTH 20pg/ml、F
9.1mg/dl、尿中フリーF 20.4mg/日、唾液 F 0.152mg/dl)と改善を認めた。また治療中に
おける尿中ステロイドプロファイルを GCMS 法にて測定したので合わせて報告する。肺転移
巣の腫瘍サイズは不変であり、多剤併用化学療法を検討中である。
【まとめ】クッシング症
候群を呈した副腎皮質癌症例の治療評価において、尿中、血中 F に加え、唾液中 F を測定
しその比較を行ったので若干の考察を加え報告する。
演題番号 1-6
高齢者副腎偶発腫瘍における内分泌異常の検討
田村嘉章1、足立淳一郎1、金原嘉之1、荒木厚1、沢辺元司 2、小野内常子 3、堀内敏行1,4
1.東京都老人医療センター内分泌科
2.病理科
3.帝京大学ちば総合医療センター
4.都立豊島病院内分泌代謝内科
【目的】高齢者においても最近CT検査によって副腎腫瘍が頻繁に見つかるようになって
きた。クッシング兆候がなくても、糖尿病または高血圧を合併し内分泌異常が潜在してい
る可能性がある。当院では剖検 7381 例中 111 例(1.46%)に副腎腫瘍が認められている。
外国のデータでも副腎偶発腫瘍は 0.7~5.8%との報告もあり我々と同じような頻度と考えら
れる。しかし実際にその何割に機能性副腎腫瘍を認めたかについては報告が少ない。今回
我々は、CT によって副腎偶発腫が見つかった10例の高齢者に対して副腎偶発腫瘍の入院
精査を行うことで内分泌異常の有無について検討した。
【方法】プレクリニカルクッシング
症候群(PCS)
、PA、褐色細胞腫などの疾患を鑑別するため、デキサメサゾン(DEX)抑制
試験、日内変動(6 時と 23 時)、ACTH、F(TOSOH、EIA)、PAC、PRA、 DHEAS、血中カテコラ
ミン測定を行った。【結果】10 例の平均年齢は 74.4 ± 7.0 歳、BMI は 24.0±4.8 kg/m2, 腫
瘍局在は右:左=7:3、男:女=4:6、 副腎腫瘍サイズは 17.2
6.0 mm。
DM
合併は 4 例、高血圧合併は 8 例と高頻度であった。DEX1mgでは 3 例が陽性であり、8m
gも行えた 8 症例では4例が陽性であった。両者が陽性を示したのは 3 例であった。DHEAS
は 345.8 ± 215.8 μg/dlであった。日内変動消失は 5 例にみられた。低カリウム血症、
PRA の抑制かつ PAC 高値例が 1 例みられた。カテコラミン異常症例はいなかった。【考案】
高齢者の副腎偶発腫瘍は、今回の内分泌検査結果から、自律性をもつPCS,PAなどの
内分泌疾患を合併している可能性が高く積極的に内分泌検査を行う必要があると考えられ
た。
演題番号 2-1
両側多発性微小アルドステロン産生腺腫に右副腎腺腫によるプレクリニカル・クッシ
ング症候群を合併した1例
田村尚久 1、江坂直樹 1、木村佳人 1、曽根正勝 1、福永康智 1、宮下和季 1、朴 貴典 1、
小山田尚史 1、澤田直哉 1、田浦大輔 1、犬塚 恵 1、園山拓洋 1、三上芳喜 2、笹野公伸 3、
中尾一和 1
1.京都大学大学院医学研究科内分泌代謝内科
2.京都大学医学部附属病院病理部
3.東北大学医学部病理診断学分野
症例は 56 歳の女性。1990 年頃、高血圧を指摘され内服治療を開始。2005 年 1 月、歩行中
に脱力発作を生じ、血清 K 3.5 mEq/L、血漿レニン活性(PRA) 0.2 ng/mL/h、血漿アルドス
テロン濃度(PAC) 10.9 ng/dL、腹部 CT にて径 15 mm の右副腎腺腫を認め、原発性アルドス
テロン症(PA)疑いにて同年 8 月入院。PAC に ACTH 依存性の日内変動を認め(PAC/ACTH:8
時 16.0 ng/dL/17 pg/mL, 23 時 5.3/<5)
、PRA は常に 0.5 以下、captopril 負荷 90 分後 PAC/PRA
比:44.7。副腎静脈サンプリングにて副腎静脈 PAC/F が負荷前:左 236/117、右 101/44、
ACTH 負荷後:左 1,120/126、右 1,320/160、dexamethasone (DEX)抑制 adosterol 副腎シン
チで集積に左右差なく、両側性アルドステロン過剰分泌による PA と診断した。1 mg およ
び 8 mg DEX 抑制試験で血清コルチゾール(F)が夫々3.0、3.5 と F の自律性分泌を認め、全
身性肥満、高血圧、耐糖能障害を示すが Cushing 症候群に特徴的な所見を認めず、DEX 非
抑制 adosterol 副腎シンチでは 右副腎優 位の集積を認めたため、右副腎腺腫によ る
preclinical Cushing 症候群(PCS)を疑い、腹腔鏡下右副腎摘除術を実施。腫瘍随伴副腎皮
質の萎縮を認め、F の自律性分泌は術後消失した。PA の所見は一旦消失したが、半年後に
再燃した。右副腎腺腫は 3b-hydroxysteroid dehydrogenase (HSD)および 17a-hydroxylase
陽性。随伴副腎に複数の微小腺腫を認め、3b-HSD は球状層で陰性、微小腺腫で陽性であっ
た。本症例は、両側副腎多発性微小アルドステロン産生腺腫による PA に、大型化した1つ
の腺腫により PCS を合併した興味深い症例と考えられた。
演題番号 2-2
原発性アルドステロン症の 2 症例:副腎静脈サンプリングの意義
塚本幸子1、玉那覇民子1、萩原英恵1、五百川仁見1、木村崇1、森栄作1、野村英生1、
内藤雅喜2、吉良友里2、姫野亜紀裕2、井原弘貴1、高橋綾子1、臼井健1、田上哲也1、
島津 章1、成瀬光栄1
1.国立病院機構京都医療センター内分泌代謝科
2.国立病院機構京都医療センター糖尿病センター
PA の機能的局在診断に選択的副腎静脈サンプリング(AVS)は有用であると考えらるが、検
査成功にも拘わらず治療方針決定に迷う例も少なくない。今回、治療方針に苦慮する 2 症
例を経験した。
【症例 1】50 歳、男性。健診で高血圧を指摘され降圧薬を投与されたが動悸、
下肢脱力が出現。ARR の上昇を認めたため PA 疑いで当科受診。降圧剤 3 剤服用中の血圧
109/74mmHg、K 4.5mEq/L、PAC 16.3ng/dl、PRA 0.4ng/ml/h、ARR 40.8。カプトプリル試験
と立位フロセミド試験は陰性、迅速 ACTH 試験は陽性。副腎 CT で副腎腫瘍を確認できず、
AVS での ACTH 負荷後の左副腎静脈 PAC 1500ng/dl、右副腎静脈 PAC 620ng/dl と左副腎から
の過剰産生を示唆。左副腎微小腺腫の疑い。
【症例 2】55 歳、男性。50 歳頃から高血圧、
高脂血症にて内服治療。ARR 上昇を認め PA 疑いで当科へ紹介。降圧剤 1 剤服用下にて血圧
131/81mmHg。K 4.1mEq/L、PAC 20.6ng/dl、PRA 0.5ng/ml/h、ARR 41.2。カプトプリル試験、
立位フロセミド試験、迅速 ACTH 試験はいずれも陽性であったが、生食負荷試験は陰性。副
腎 CT にて右副腎に 15 10mm 大の、造影効果に乏しい腫瘍を認めた。AVS での ACTH 負荷後
の左副腎静脈 PAC 2870ng/dl、右副腎静脈 PAC 2740ng/dl と両側副腎からの過剰産生を示
唆。両側 APA(左側は微小腺腫)または IHA の疑い。【考察】機能的に PA と診断した 2 例
を経験した。第一例は画像検査で腫瘍を認めず、AVS の ACTH 負荷後 1500ng/dl と境界値、
第二例は右副腎に腺腫を認めるが、AVS にて両側性に高値にて、手術適応を慎重に検討し
ている。
演題番号 2-3
術前MDCTにて副腎結節性病変を認めなかった原発性アルドステロン症の自験例に関する検
討」
森本 玲1、佐藤文俊1、村上 治1、宇留野晃1、阿部倫明1、種本雅之1、阿部高明1、
伊藤貞嘉1、高瀬 圭2、山田隆之2、石橋忠司2、高橋昭喜2、石戸谷滋人3、佐藤 信3、
荒井陽一3、鈴木 貴4、笹野公伸4
1.東北大学病院
2.東北大学病院
3.東北大学病院
4.東北大学病院
腎・高血圧・内分泌科
放射線診断科
泌尿器科
病理部
MDCTにて明らかな副腎結節性病変を認めないが、
副腎静脈サンプリング(AVS)により原発性アルドステロン症の局在診断を行い、
片側副腎摘出術により術後軽快の得られた2症例を対象に病態を考察する。
【症例1】36歳・男性 主訴:難治性高血圧症
基礎値 PAC 20.2 ng/dL・PRA 0.4 ng/mL/h・ARR 50.5
迅速ACTH負荷試験にてPAC頂値 37.0 ng/dL (コルチゾル20.33 μg/dL)を認める。
AVSにて左副腎由来のアルドステロン過剰分泌を認め、左副腎全摘術施行。
術後、降圧と共に、基礎値 PAC 5.3 ng/dL・PRA 0.6 ng/mL/h・ARR 8.8 へ低下。
【症例2】42歳・男性 主訴:難治性高血圧症
基礎値 PAC 23.1 ng/dL・PRA 0.6 ng/mL/h・ARR 38.5
カプトプリル負荷試験にて2時間値 PAC 12.9/PRA 0.4 = ARR 32.3
迅速ACTH負荷試験にてPAC頂値 35.2 ng/dL (コルチゾル28.29 μg/dL)を認める。
AVSにて左副腎由来のアルドステロン過剰分泌を認め、左副腎全摘術施行。
術後、降圧と共に、基礎値 PAC 6.6 ng/dL・PRA 0.4 ng/mL/h・ARR 16.5 へ低下。
演題番号 2-4
コルチゾール過剰産生を伴う原発性アルドステロン症の内分泌動態とその診断法の検討
大村昌夫 1、斎藤淳 2、正路由紀 2、吉村公一郎 2 、砂川一郎 2、松澤陽子 2、伊藤浩子 2、
西川哲男 2
1.横浜労災病院 健康診断部
2.内分泌代謝内科
【緒言】高血圧のスクリーニニングや画像検査で副腎疾患の発見が増加するとともに、原発性アル
ドステロン症(PA)とコルチゾール産生腺腫(CPA)合併例の報告が増加している。今回我々は
ACTH 負荷副腎静脈採血(ACTH-AVS)で診断が確定した PA と CPA 合併例のホルモン動態を検
討したので報告する。
【 方 法 】 PA154 例 、 CPA56 例 を 対 象 に 、 PA 、 CPA 、 両 者 の 合 併 例 の 内 分 泌 検 査 所 見 を
retrospective に検討した。
【結果】PA と CPA の合併は 14 例あり、その頻度は PA の 9%、CPA の 25%であった。PA で高値
を示す安静時アルドステロン濃度(25.2 4.1 v.s. 14.5
2.7, p<0.05)、カプトプリル負荷試験のア
ルドステロン-レニン活性比(65.8
8.7 v.s. 6.8
2.1, p<0.05)は、PA に比較し合併群で有意に
低値であり、PA で低下する安静時レニン活性(0.4
0.1 v.s. 1.2
0.3, p<0.05)、フロセミド立位
負荷後レニン活性(1.1 0.1 v.s. 2.5
0.6, p<0.01)は、PA に比較し合併群で有意に高値であっ
た。一方 ACTH 負荷試験のアルドステロン最大反応値-コルチゾール比(1.6 0.1 v.s. 1.5
0.2,
p=0.52)は、PA 群と合併群でともに高値で有意差はなかった。【考案】PA に CPA が合併すると PA
の診断が困難になるが、ACTH 負荷試験では診断が可能であった。CPA の 25%に PA を合併す
ることから、CPA では必ず ACTH 負荷試験を行ない、PA の合併が疑われる場合には ACTH-AVS
を行ないアルドステロンとコルチゾールの過剰分泌部位を診断することが必要である。
演題番号 2-5
原発性アルドステロン症の診断基準および治療法の検討(その 2)
日本内分泌学会
原発性アルドステロン症検討委員会
西川哲男、大村昌夫、佐藤文俊
柴田洋孝、高橋克敏、田辺晶代、田村尚久、齋藤淳
緒言:原発性アルドステロン症(PA)の診断および治療の臨床指針を確立する目的で、日
本内分泌学会並びに厚生労働省 副腎ホルモン産生異常に関する調査研究(藤枝班) の要
請にて本検討委員会が 2006 年 4 月に設立さた。現在までの検討結果を報告する。結果/考
案:1)スクリーニング:高血圧患者全例(降圧剤は、2週間 Ca 拮抗剤単剤あるいは更に
α-ブロッカー追加に変更して採血)を対象として、座位にて血漿レニン活性(PRA)・アル
ドステロン濃度(PAC)を測定する。判定基準として、ARR(PAC /PRA 比)>20であれば PA
を疑う。2)確定診断:さらに、検査を進める上で一般医家向けと専門医療機関向けの異な
る2種類の検査方法を提言した。一般医家向けには「カプトプリル負荷試験」を推奨する。
専門施設向けには「カプトリル負荷試験」に加えて、
「フロセミド+立位負荷試験」および
「生理食塩水負荷試験」を行い総合的に判断して PA の確定診断を行うよう提言した。3)
病変部位診断:CT 陰性の副腎病変もあり、積極的に副腎静脈サンプリングを行うべきであ
ると結論した。その診断基準(PAC の絶対値、PAC/F 比等)につき最終検討を行っている。
なお、診断指針の一部は内分泌学会ホームページにて公開中である。
演題番号 2-6
APA と IHA の鑑別におけるデキサメサゾン抑制下迅速 ACTH 試験の有用性について
余語宏介 1、沖
隆 1、飯野和美 1、山下美保 1、林
千雅 1、山下修平 2 、中村浩淑 1
1.浜松医科大学第二内科、
2.浜松医科大学放射線科
【目的】 近年、原発性アルドステロン症(以下、PA)は高血圧症患者の 5 10%を占める
と報告され、APA と IHA の鑑別や APA の局在診断に選択的副腎静脈サンプリング(以下、
AVS)が頻用されている。しかし、AVS は浸襲のある検査であり、また手技に熟練を要する。
PA 症例の中から IHA 症例を抽出することが出来れば、AVS を回避可能である。今回、デキ
サメサゾン 1mg 抑制下迅速 ACTH 試験(DEX-ACTH-T)について検討を行ったので報告する。
【方法】当院を受診し、PA と診断され AVS を施行されたアルドステロン産生副腎線腫(APA)
群 26 例と特発性アルドステロン症(IHA)群 19 例において、DEX-ACTH-T(0.30.60 分に採
血)を行った。(血清アルドステロンの 0、30、60 分、peak 値を A0、A30、A60、Apeak と
し、血清コルチゾールの 0、30、60 分値を F30、F60 とした。)A30、A60、A30/A0、A60/A0、
Apeak/A0、A30/F30、A60/F60 の 7 項目において、APA 群と IHA 群の比較・検討行った。
【結果(APA vs IHA, P 値)】各項目はいずれも両群間で有意差を認めたが、ROC 解析では。
A30:感度 47.4%、特異度 96.2%、A60:感度 36.8%、特異度 96.2%、A60/F60:感度 26.3%、
特異度 96.2%と3項目で IHA を抽出可能であった。
【考察】 今回、内因性 ACTH を抑制する目的で DEX1mg を用い、外因性 ACTH に対する A の
反応性による APA と IHA の鑑別を試みた。検討した 7 項目全てで APA 群と IHA 群との間に
有意差を認めた。いずれも APA 群と IHA 群とのオーバーラップ例が多かったが、A30、A60、
A60/F60 では感度 50%未満ながら特異度 96%で IHA を抽出可能であった。本来 AVS の必要の
ない IHA において、わずかの例ではあるが AVS を回避できる可能性が示唆された。DEX 抑
制試験によりクッシング症候群やサブクリニカルクッシング症候群の合併の有無を同時に
評価できることも大きな利点と考えられた。今後、更に感度を改善するために検討中であ
る。
演題番号 3-1
エンドトキシンショックモデルマウスにおける 11beta-Hydroxysteroid dehydrogenase
Type1,2 の動態
佐野伸一朗、李
仁善、斎
秀二、中川祐一、大関武彦
浜松医科大学小児科学教室
【背景】
内蔵肥満やインスリン抵抗性、糖尿病といった耐糖能異常に関する研究において
11beta-Hydroxysteroid dehydrogenase Type1(以下 11βHSD1)の肝臓や脂肪細胞におい
て重要な働きがあることが明らかにされつつある。しかし急性炎症期におけるこれらの酵
素の局所における発現動態はまだ十分に明らかにされていない。
今回我々は、Lipopolysaccharide(LPS)を用いたエンドトキシンショック状態のマウスを
作り 11βHSD1、11βHSD2 を中心にその発現を評価している。
【方法】
BALB/c adult mouse(male)に salmonella enterica 由来の LPS(0.03mg/g)を腹腔内注射
しエンドトキシンショックを引き起こさせ 60 分、240 分後に肝臓、腎臓を摘出。コントロ
ール群は同量の生理食塩水を投与。保存した組織の一部より mRNA を抽出し real-time PCR
で 11βHSD1、11βHSD2 の発現を評価した。
【結果】肝臓において 11βHSD1 の発現は 60 分よりも 240 分で発現が高く、腎臓において
11βHSD2 は 240 分より 60 分において発現が有意に高かった。
【考察】急性炎症初期に腎臓における 11βHSD2 の発現が高値になることにより腎でのステ
ロイド活性を抑えアポトーシスから腎を保護している可能性があり、肝臓では急性炎症後
に 11βHSD1 の活性を上昇させることにより肝での炎症を抑制する方向に働いている可能
性が考えられる。11ΒHSD1,2 の変化は組織にとってどのような意味があるのか更に研究を
進めていきたい。
演題番号 3-2
プレクリニカルクッシング病の下垂体マクロアデノーマ組織における 11b-hydroxysteroid
dehydrogenase type2 の発現に関する検討
1
1
1
1
2
3
4
海老澤高憲 、東條克能 、赤司俊彦 、田嶼尚子 、神尾正己 、沖 隆 、小野克彦 、
笹野公伸
4
1.東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科
2.東京慈恵会医科大学 脳神経外科
3.浜松医科大学 第二内科
4.東北大学病理診断学
プレクリニカルクッシング病(PCD)は、クッシング病(CD)と比較しマクロアデノーマを呈
することが多く、成熟型の ACTH に比べ、ACTH precursor を主に産生することが多い。我々
は、マクロアデノーマを呈する PCD において産生される ACTH precursor は、高容量(8mg)
のデキサメサゾン投与においても抑制されにくいことを報告した。一方、近年、CD におい
て 、 グ ル コ コ ル チ コ イ ド (GC) を 非 活 性 化 す る 酵 素 で あ る 11b-hydroxysteroid
dehydrogenase(11b-HSD) type2 が下垂体局所において強発現し、GC によるネガテイブフィ
ードバック作用が減弱していることが報告されており、11b-HSD が、CD の腫瘍形成・進展
に関与している可能性が示唆されている。
我々は、PCD と CD における GC によるネガテイブフィードバック作用の相違、ならびに
腫瘍形成・進展の相違が、11b-HSD type2 の発現と関係している可能性を考えた。正常下
垂体(剖検)3 例を対照として、プレクリニカルクッシング病(マクロアデノーマ)2例、
クッシング病(ミクロアデノーマ)2例、先端巨大症 3 例の下垂体組織における 11b-HSD
type2 の発現を免疫組織学的に検討し、GR ならびに ACTH との二重染色を行った。
現在までに、PCD の下垂体組織において、正常下垂体、CD と比較し 11b-HSD type2 の発
現を検討した報告はなく、PCD の病態生理を考える上で重要と考え、報告する。
演題番号 3-3
CYP11B1 多型と発現レベル
宗
中間表現型
疾病相関
友厚、山田亘子、廣田卓男、川地慎一、佐々木昭彦、諏訪哲也、武田 純
岐阜大学大学院医学系研究科内分泌代謝病態学分野
【目的】ヒトの生命維持に必須であるコルチゾール(F)合成の最終ステップを司る 11β水
酸化酵素(B1)をコードする遺伝子 CYP11B1 はアルドステロン合成酵素遺伝子のすぐ下流に
位置する。いずれの遺伝子異常もメンデル型高血圧疾患の原因となるため、高血圧や肥満
等との関連が示唆されてきた。今回 CYP11B1 の多型と、産生の場であるヒト副腎組織の B1
発現量さらに中間表現型や疾病との関連を検討した。
【方法】正常/アルドステロン産生/
クッシング症候群 (n=15/27/18)の副腎組織における B1 mRNA 発現量を real time PCR 法に
より定量(β2-microglobulin で補正)。同 cDNA サンプルのダイレクトシークエンスにより
検出した R43Q と+225G/A (Y75)両多型のヘテロ接合体サンプルを Msp I と Bfa I で処理し
アリル毎の mRNA レベルを測定。さらに計 1425 例(うち正常者 157 例で 24 時間蓄尿)を対
象に表現型との関連を検討。
【結果】B1 発現レベルはクッシング副腎腺腫で高い傾向
(P= .071)にあるも他は有意差無し。推定転写効率は、R43 アリルは Q アリルの 29
9 %( SD)、+225A アリルは G アリルの 56
17 %であったが、B1 発現レベルには遺伝型
による差は検出されず。中間表現型と考えられる尿中フリーF 排泄量は RR 遺伝型で低値(45
26 vs. QQ 61
38 µg/d, P= .027)。臨床的表現型に関しては、Q アリル頻度は正常
血圧対照(n=928)41.0%・高血圧患者(n=497)37.7%と有意な関連はなかったが、血圧値
は RR 型で高い傾向にあった。
【考察】ヒト生体内での推定転写効率は R43 アリルで明らか
に低く、中間表現型への影響も同様であった。しかし定常発現レベルに対する有意な
genotype 効果はなく、血圧ともむしろ逆に関連する傾向にあり、迅速なフィードバック
(ACTH ドライブ)の影響が示唆される。
演題番号 3-4
健常中高年男性への 25mgDHEA,6 か月投与試験
柳瀬敏彦2、高柳涼一2、名和田新1
1.九州大学大学院医学研究院
2.病態制御内科
[目的] 抗老化ホルモンとしての DHEA の補充療法に関する我が国の検討成績は極めて乏し
い。健常中高年を対象に 6 か月間の DHEA 補充療法を施行し、安全性や効果を検討した。[方
法]九州大学倫理委員会の承認下に 40 歳以上の健常中高年男性 7 例(平均年齢 55 歳)に
DHEA 25mg 服用投与を 6 か月間行い、副作用チェックと同時に脂質、糖、骨、動脈硬化関
連のマーカーの推移を検討した。[結果] 3 名において服用前、トランスアミナーゼの軽度
上昇を認めたが, 服用中に有意変動を認めず、1例で正常化した。PSA は正常範囲内の変
動を示し、2 例で軽度上昇、1例で低下を認めた。その他、副作用と思われる有意なデー
タ変動を認めなかった。DHEA25mg 服用後、全ての被験者において血中 DHEA、DHEA-S, Δ4-A
は若年に匹敵する十分かつ有意な上昇を認め、服用遵守が確認された。血中 T 並びに E2 値
の変動は個人差が大きく、全体として有意変動を認めなかった。脂質関連では LDL, HDL、
Lp(a)とも全体として有意変動を認めなかった。2 例において軽症糖尿病を認め、服用にて
1例では改善、1 例は不変であった。全体としての HbA1C 値には有意変動を認めなかった。
接着因子の可溶性 VCAM-1 は 12 週、24 週において全例低下を認めた
(有意差は 24 週のみ)
。
可溶性 ICAM-1, adiponectin, leptin またインスリン感受性指標の HOMA 指数、骨代謝マー
カーの osteocalcin 及び NTX には全体として有意変動を認めなかった。[結語] 25mgDHEA
の長期投与は中高年男性には十分量でかつ安全な補充療法と考えられる。可溶性 VCAM-1 の
有意低下を認め、抗動脈硬化機序との関連が示唆された。
演題番号 3-5
副腎皮質腫瘍組織における標的治療因子の免疫組織化学的検索
中村恵美
1,2
、佐藤文俊 3、森本
玲 3、鈴木 貴 4、笹野公伸 1、林
富2
1.東北大学 大学院 医学系研究科 医科学専攻 病理病態学講座 病理診断学分野
2.東北大学大学院医学研究科医科学専攻発生発達医学講座 小児外科学分野
3.東北大学大学院医学研究科医科学専攻内科病態学講座 腎・高血圧・内分泌学分野
4.東北大学 医学部 保健学科 検査技術科学専攻 臨床検査学講座 病理検査学分野
副腎皮質癌は発生頻度の低い腫瘍であるが、好発年齢はニ峰性を示し小児期にも発生のピ
ークが認められる。小児例の多くは機能性腫瘍であると報告されているが、診断までに時
間を要し進行した状態で発見される症例もみられ、外科的切除に加え術後療法が重要な役
割を果たすことが少なくない。しかし副腎皮質癌の特異的治療薬である mitotane は効果が
得られない症例も認められる上、特に小児においては副作用が重大な問題となる。このよ
うな事から、副腎皮質癌に対する新たな治療法の検討が必要であると考えられる。近年、
悪性腫瘍で過剰発現する因子を特異的に阻害する薬剤を用いた標的治療が行われるように
なり、幾つかの癌では臨床的効果が報告されている。そこで今回、副腎皮質癌における標
的治療の有用性の判定に重要となる標的因子の発現を良性腫瘍と比較し、検討することと
した。現在、副腎皮質癌 43 例および副腎皮質腺腫 43 例の 10%ホルマリン固定パラフィン
包埋標本を用いて、標的治療の対象となり得る特異的因子(VEGFA, VEGFR2, EGFR, HER2/neu,
p-ERK1/2, p-AKT, p-mTOR, p-p70S6K, p-S6RP, p-4EBP)の発現を免疫組織化学的に検索し、
検討を進めている。
演題番号 3-6
限局性前立腺癌症例における、病期予測因子としての治療前血清テストステロン値
の有用性
今本 敬、鈴木啓悦、高野
市川智彦
慎、川村幸治、神谷直人、小宮 顕、納谷幸男、
千葉大学医学部泌尿器科
【目的】限局性前立腺癌患者における病期予測因子として血清 PSA 値、Gleason score な
どが報告されている。今回われわれは、治療前血清テストステロン値の病期予測因子として
の有用性について検討した。
【方法】1998 年 3 月から 2004 年 3 月までに根治的前立腺全摘除術を施行し、かつ術前血
清テストステロン値を測定した限局性前立腺癌 82 例を対象とし、病理学的病期と治療前血
清テストステロン値との相関、および治療前血清テストステロン値と他の臨床的因子(年
齢・治療前血清 PSA 値・Gleason score・予後)との相関について検討した。
【結果】病期別では、pT2b 以下の organ confined cancer 症例における治療前血清テスト
ステロン値は 4.33 1.42ng/ml で、pT3-4、pN1 の nonorgan confined cancer 症例の 3.44
1.19ng/ml と比較して有意に高かった(p =0.0078)。治療前血清テストステロン値と年
齢・治療前血清 PSA 値・Gleason score・PSA failure との間には特に相関を認めなかった。
【結論】限局性前立腺癌患者において治療前の血清テストステロン値は病期予測因子とし
て有用である。また、PSA failure の予測因子としての治療前血清テストステロン値の有
用性は認められなかったが、今後さらに症例数、観察期間を増しての検討が必要と考える。
演題番号 4-1
早期産児の新生児・乳児早期の副腎皮質機能‐生後 1 週と 5 週の尿ステロイドプロフィル
による縦断的解析‐
本間桂子1、飛彈麻里子2、小山雄平1、4、三輪雅之3、有光威志3、倉辻言3、本間英和3、
北東 功3、村田 満1、池田一成3、長谷川奉延3
1.慶應義塾大学医学部中央臨床検査部
2.横浜労災病院新生児科
3.慶應義塾大学医学部小児科
4.三菱化学メディエンス
【はじめに】我々は、健常正期産児 50 例について生後 1 週と 5-6 週の尿ステロイドプロフ
ィルを縦断的に解析し、新生児早期から乳児早期にかけて副腎永久皮質束状層分泌は増加、
永久皮質球状層および胎生皮質分泌は増減あるが一定の傾向なしであることを明らかにし
た(第 41 回小児内分泌学会)。今回は早期産児について同様に縦断的解析を行ったので報
告する。【対象・方法】保護者の同意を得た早期産児 7 例(男 3 女 4、在胎週数 28-36 週、
出生体重 964-2828g、母体および児へのステロイド投与なし)について、生後 1 週(3-5 日)
および 5 週(28-32 日)に採尿し、ガスクロマトグラフ質量分析により尿中 cortisol・
aldosterone・pregnenolone 代謝物(以下 THE、THAld、16OHP5)を測定、mg/g creatinine
濃度を算出した。生後 1w と 5w の有意差を Wilcoxon の符号付順位和検定により検討した。
【成績】表 1 参照。【考察】今回の成績は、早期産児において新生児早期から乳児早期に、
束状層分泌は増加、球状層分泌は増加、胎生皮質分泌は減少を示唆する。すなわち束状層
分泌は正期産児と同様に増加することから、早期産児においても新生児期にストレス対応
能が著しく向上すると推測する。一方、球状層分泌が正期産児と異なり増加するのは、早
期産児に多く認める Na 喪失を補償するためと推測するが詳細は不明である。また胎生皮質
分泌が正期産児と異なり減少するのは、より残存率の高い胎生皮質が急速に退縮するため
と推測する。今後症例数を増し在胎週数別に解析予定である。
【表 1】 尿中代謝物
由来
1w
5w
p値
THE
束状層
1.9 (0.4-2.7)
7.3 (3.7-11.0)
0.018
THAld
球状層
0.16 (0.07-0.31) 0.65 (0.35-1.58) 0.018
16OHP5
胎生皮質
47.7 (0.8-103.1) 8.8(0.8-63.4)
0.028
中央値(範囲)(mg/g creatinine)および両群間の p 値を示す
演題番号 4-2
ピリジンカルボキシレート誘導体化を活用したステロイド類の LC-ESI-MS/MS による微量
定量法の開発
山下幸和、沼澤光輝
東北薬科大学
臨床分析化学教室
液体クロマトグラフィー‐エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(LC-ESI-MS/MS)
法によるステロイド分析では、無極性あるいは中性のステロイド分子を高感度で検出でき
るよう、種々誘導体化の開発が行われてきた。しかしながら、いずれの誘導化法も官能基
特異性が高く、複数の水酸基を合わせ持つステロイド分子のプロファイリングに適した誘
導体とは言えない。そこで、ESI-MS による検出の高感度化、汎用性を指向した実用的な誘
導体を検索した結果、ピリジンカルボキシレート誘導体、特にピコリン酸エステルが、ス
テロイド核の水酸基数にかかわらず、ESI-MS において一価のプロトン化分子イオンを基準
ピークで与えることを見出した。プロトン化分子イオンを precursor ion とする選択反応
検出(SRM)法は、正イオン検出- ESI/MS において、従来知られている誘導体より高い検
出感度を有し、微量な試料に対しても定量的な誘導体化が行えることを明らかにした。今
回演者らは、エステル の定量的合成法 と して知られている 2-methyl-6-nitrobenzoic
anhydride を試薬とする混合酸無水物法をステロイド水酸基へのピリジンカルボキシル基
の導入に用い、基本的なエステル化法、極微量での反応、試薬の除去法と生成したエステ
ルの安定性および ESI-スペクトルにおける挙動、ならびに生理的に重要な意味を持つ
estrogen 類や androgen 類およびそれらの代謝物の LC-ESI-SRM による微量定量への応用に
ついても合わせて検討したので報告する。
演題番号 4-3
LC-ESI-MS/MS によるヒト血清中ステロイド類の一斉同時分析法の開発
奥山光伸1、中川利沙1、本間誠次郎1、山下幸和2、沼澤光輝2
1.帝国臓器製薬メディカル
2.東北薬科大学 臨床分析化学教室
【目的】メタボリックシンドローム、更年期や多嚢胞性卵巣など複雑な内分泌の変調が現
れる疾患およびステロイド代謝酵素欠損症では、複数のステロイドを同時に測定すること
で病態がより明確になることがあり、ステロイドの血中プロファイルを把握することは疾
患の発症解明や治療効果の判定などに有用である。しかし、現在ステロイドの測定はほと
んどがイムノアッセイ法であり、一成分一測定系で行うため多成分の測定には多量の試料
を必要とする。また、用いる抗体の特性による交叉反応性および脂質やたんぱく質などに
よる非特異的な干渉があり、測定キット間および測定施設間での差が問題となっている。
そこで、我々は、液体クロマトグラフィ・エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析
法(LC-ESI-MS/MS)によるヒト血清中ステロイド類を短時間で一斉に同時分析する方法を
開発した。
【方法】ヒト血清 0.2 mL にそれぞれの内部標準物質を添加して溶媒抽出・精製後、酸無水
物法によるピコリン酸誘導体化を行った。得られた誘導体を固相抽出カラムで精製後、
LC-ESI-MS/MS による正イオン化法で 12 種のステロイドを同時測定した。
【結果および考察】すべての化合物で良好な直線性および特異性が得られ、再現性試験に
おいても満足できる真度および精度であった。性腺および副腎皮質由来ステロイドの一斉
分析が可能となったことで、内分泌検査や治療方針決定などの一助として広く臨床応用が
期待される。
演題番号 5-1
女性唾液中アンドロゲンの周期的変動と行動特性
坂口菊恵 1、本間誠次郎 2、奥山光伸 2、長谷川寿一 3
1.お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科・日本学術振興会
2.帝国臓器製薬メディカル
3.東京大学大学院総合文化研究科
女性の唾液中エストラジオール(E2)、テストステロン(T)および DHEA 濃度の性周期変
動および季節変動を明らかにし、女性の男性的行動を予測する上でいずれの指標が最も適
当かを検討することを目的とした。
調査は 62 名(18-24 歳)の性周期の安定した健康な女性を対象とした。参加者は排卵期
前後の 1 週間を含む 10 日間、起床後に唾液を採取し家庭で凍結保存した。唾液中の E2、T、
DHEA を LC-MS/MS を用いて一括測定した。排卵期前後の最高濃度をピーク E2 およびピーク
T 濃度と定義し、濃度上昇期以外の T 濃度の平均をベースライン T 濃度とした。行動特性
は、質問紙により攻撃性、同性愛傾向、短期的配偶戦略への指向性を尋ねた。
T および DHEA の濃度には顕著な季節変動が見られた。ピーク T、ベースライン T および
DHEA の平均濃度はいずれも冬期(12-2 月)において夏・秋期(6-11 月)よりも高値を示
した(ps < .0005, t 検定)。ピーク E2 濃度には季節変動は見られなかった。夏・秋期にお
いては月経中期の T のピークは不明瞭であり、平均 DHEA 濃度の高い女性は高い短期的配偶
戦略への指向性を示した。冬期はいずれの女性においても排卵期前後に T 濃度のピークが
見られ、またピーク時の濃度には大きな個人差が見られた。ピーク時の T 濃度の高さは、
女性の攻撃性、同性愛傾向、短期的配偶戦略への指向性の高さと関連していた。
女性の T 濃度の季節変動が DHEA 濃度の変動に影響されている可能性をはじめて示した。
また、ピーク時の T 濃度が最も行動の予測力が高いという先行研究の結果を追認し、これ
が季節による濃度変動に関しても当てはまることを示した。
演題番号 5-2
肥満を伴う 2 型糖尿病患者における 血中および唾液中コルチゾール・コルチゾンの
臨床的意義についての検討
松澤陽子 1、正路由紀 1、吉村公一郎 1、砂川一郎 1、伊藤浩子 1、齋藤 淳 1、
大村昌夫 2、西川哲男 1
1.横浜労災病院内分泌代謝内科
2. 横浜労災病院健康診断部
【背景】生体内でコルチゾン(E)をコルチゾール(F)に変換する酵素である 11β
-HSD(11β-hydroxysteroid dehydrogenase)type1 の活性が肥満者の脂肪組織において
亢進していることが近年明らかとなり、メタボリックシンドロームとの関連が注目さ
れている。
【目的】肥満を伴う2型糖尿病入院患者の血中および唾液中 F、E を測定し、
その臨床的意義について検討する。【方法】メタボリックシンドロームの基準を満た
す男性2型糖尿病入院患者 24 名、および男性健常者 18 名に対し、液体クロマトグラ
フィー・タンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いて血中・唾液中の Free F, E を測
定し比較した。患者群については同時に測定した各種の臨床的パラメーターとの相互
関係についても検討した。
【結果】患者群では、健常者群に比べて血中 F/E 比が高値
であった。患者群において朝食前の血中 F/E 比は、BMI およびレプチンと強い正相関
を示したが、皮下脂肪面積との相関が最も強く(r=0.697,p<0.001)、内臓脂肪面積や
アディポネクチン、各種インスリン抵抗性指標との間には相関がなかった。唾液中で
は、血液と違って F よりも E の濃度が高く、唾液腺に発現する 11βHSD-2 の影響を受
けていると考えられたが、F/E 比と皮下脂肪量との相関関係は唾液においても有意で
あった。また唾液中 F は血中レニン活性・アルドステロン濃度と正相関し、肥満に由
来する RAA 系の亢進との関連が示唆された。【考察】朝食前の血中および唾液中 F/E
比は、脂肪量の増加に伴う 11βHSD-1 活性の亢進を表現すると考えられた。
演題番号 5-3
副腎・下垂体疾患における唾液中ステロイドホルモン測定の有用性
聖マリアンナ医科大学
代謝・内分泌内科
加藤浩之、方波見卓行、小尾竜正、田中 逸
目的:副腎・下垂体疾患における唾液中ステロイドホルモン測定の有用性を検討するため,
夜間とデキサメサゾン(Dex)負荷前後の血中・唾液中コルチゾール(F),コルチゾン(E)濃
度を測定.対象:顕性Cushing 5例(下垂体性2, 副腎性3例),副腎性preclinical Cushing
症候群(PreCS)5例,非機能性副腎腺腫9例,C病術後1例,褐色細胞腫1例.方法:Dex 1mg,8mg
負荷はovernight法を用い,血中FはRIA法と液体クロマトグラフ・質量分析法(LC-MS/MS
法),唾液中F,EはLC-MS/MS法で測定.結果:血中FをRIAで測定した場合,朝と夜間の血中
Fと唾液中Fには副腎性CSの1例を除き良好な正相関(各々;r=0.485,p=0.025.r=0.529,
p=0.028)があり,Dex 1mg,8mg負荷後のFも同様の結果(各々;r=0.818,p<0.0001.r=0.923,
p<0.0001)を得た. Cushing病2例,副腎性CS 3例,PreCS 5例,それ以外の11例(N)での比
較では,朝と夜のFは血中・唾液中ともovert CushingがPreCS,Nに比し高値で,PreCSとN
に差はなし.唾液中EもFと同様の結果を得たが,夜間唾液中F/E比は他疾患に比し副腎性CS
で高値.Dex負荷後の血中F<5μg/dlの例で検討した場合,血中と唾液中Fの有意な正相関は
8mg負荷のみでみられたが,血中FをLC-MS/MS法で測定すると1mg負荷でも有意な正相関を
得た.考察:LC-MS/MS法によるF濃度測定はDex負荷にも応用可能で,唾液中のF,F/E比はF
の自律産生能やその代謝動態の評価解析に有用.
演題番号5-4
当院における尿中遊離コルチゾールの測定方法の妥当性と測定結果の信頼性の検討
高安
忍1,2、工藤真理子3、須田俊宏2
1.青森県立中央病院内分泌内科
2.弘前大学医学部内分泌代謝内科
3.青森県立中央病院臨床検査部
医療計量や医療検査機械システムにより得られる血液や尿等を用いた臨床検査による検
査データは多数の異なった原理に基づく測定方法(キット)が開発・利用されている。し
かしながらそのデータの評価に際しては、測定機器間、測定法間・施設間で基準範囲や測
定値に相違が存在し、相互に互換性が確保されていないため測定値の比較が困難な問題点
が挙げられる。その標準化には、基準測定法の設定、標準物質の設定、互換性の評価、基
準範囲の設定、生理的変動幅の設定、精度保証の維持などの要素がある。これらの問題を
是正するための取り組みとして、臨床検査用標準物質の研究開発や、イムノアッセイ検査
全国コントロールサーベイなどが行われている。
コルチゾールに関しては国際標準品が設定されていないが、RI法、non-RI法による何種
類かの測定において各社のトレーサビリティは同様の体系であり、社内の標準測定操作法
を使用している。各社の添付文書に記載された相関係数および傾きは良好な成績であり、
キット間の変動係数は約10%前後、また、プレクリニカルクッシング症候群の診断基準レベ
ルの低濃度域測定値にはばらつきが出る結果が報告されている。
今回われわれは当施設における測定方法の妥当性と測定結果の信頼性を確認する目的で、
検体として比較的安定である尿中遊離コルチゾールを試料として用い、同一試料において
同一測定試薬(ケミルミACS-コルチゾールⅡ)、測定機器(ケミルミADVIA Centaur)を用
いての異なる施設間での測定値の比較、また、同一試料においてRI法、non-RI法による測
定値の比較について検討したので報告する。
演題番号 5-5
アルドステロン測定キットの変更が原発性アルドステロン症の診断に及ぼす影響
福島県立医科大学
内科学第三講座
緑川早苗、橋本重厚、眞田寛啓、渡辺 毅
背景と目的 アルドステロン測定はレニン活性とともに原発性アルドステロン症(PA)
診断において根幹をなすもので、測定値の不統一はスクリーニングや診断結果に大きな影
響を及ぼすため、本邦では最近測定RIAキットが一本化された。これを受け当院でもキ
ットAからBに変更されたため、PAの診断に影響があるかを明らかにする目的で、同一
検体をこれら2つのキットで測定し、その相違を検討した。
方法 PA診断のために採血した、基礎値、カプトリル負荷試験、立位負荷試験、AVS
の検体(N=212)を、アルドステロンRIAキットであるキットAおよびBにて測定
した。
結果 キットAおよびBにおけるPACの間にはキットB=0.82 キットA+22.5(R2=
0.852)の有意な相関を認めるものの、ばらつきには一定の傾向を認めなかった。基礎値、
負荷試験などで用いられる測定範囲(PAC<250 pg/ml)ではキットB=0.89 キットA
+15.2(R2 =0.678)であり、同様の傾向であった。この結果、アルドステロンレニン比
が 20 以上から 20 以下に変化する場合、その逆の場合のいずれの例も存在することが判明
した。さらに、どちらのキットも測定の上限が 1600 pg/ml であり、AVSの検体は希釈の
必要が生じる。このため 10-20 倍希釈で測定したが、PAC500 pg/ml 以上での測定値は
キット間の差が大きく(キットB=0.80 キットA+54.3(R2 =0.584))、場合によって
は数百 pg/ml の相違があった。この場合、AVSの結果の解釈に相違が生ずる例があるこ
とが判明した。
考案 PAの診断にPAC測定は必須であるが、PACの変動要因として体位や食塩摂取
量ばかりでなく、測定キットによる相違も存在することが判明した。したがって、その測
定は複数回行って総合的に判断することが重要であると考えられた。またAVS検体にお
けるPACは希釈により測定され、測定誤差の大きい濃度における測定であることを考え、
その判定には絶対値のみならず、左右差の比較が重要であると考えられた。
演題番号 6-1
ヒト子宮体癌におけるエストロゲン刺激を介した癌―間質の相互作用の解析
松本光代 1,2、山口ゆり 3、清野祐子 3、畠山 篤 2、武井寛幸4、新倉
鈴木 貴 5、笹野公伸 5、八重樫伸生 2、林 慎一 1
仁 2、伊藤
潔 2、
1.東北大学医学部保健学科
2.東北大学医学部産婦人科
3.埼玉県立がんセンター・臨床腫瘍研究所
4.埼玉県立がんセンター・病院・乳腺外科
5.東北大学大学院医学系研究科病理診断学分野
【目的】ヒト子宮体癌はエストロゲン依存性の癌であるといわれている。腫瘍のエストロ
ゲン量は腫瘍局所の aromatase や 17β-HSD 等のエストロゲン産生・代謝酵素によって制御
されると報告されている。しかし産生されたエストロゲンの癌細胞に作用するといった報
告は無い。我々は間質細胞から産生されるエストロゲン刺激を視覚化する独自のレポータ
ー細胞を用いて子宮体癌間質細胞由来エストロゲン刺激を解析した。
【方法】手術検体から得た子宮体癌細胞をコラゲナーゼ処理後、初代培養した子宮間質細
胞 18 症例の Aaromatase と 17β-HSD type 2 の mRNA 発現量を real-time PCR を用いて検討
した。またエストロゲン刺激の存在を GFP の発現として視覚化するレポーター細胞である、
ERE (estrogen-responsive element)-GFP を安定導入した ER 陽性乳癌細胞、MCF-7 細胞と
18 症例の間質細胞を共培養し、GFP の発現率を検討した。
【結果】間質細胞における aromatase と 17β-HSD type 2 の mRNA の発現、さらにレポータ
ー細胞の GFP 発現率は各症例において個性があった。Aromatase と 17β-HSD type 2 のそ
れぞれの発現量と GFP 発現率(各症例の間質細胞由来のエストロゲン刺激)は相関を示さ
なかった。しかし GFP 発現量はアロマターゼインヒビターによって有意に減少した。
【考察】間質細胞由来エストロゲン刺激は 1 つの酵素に依存せず多くのエストロゲン産
生・代謝酵素によって制御されている。しかしながら、その産生には aromatase が強力に
関与していることが示唆された。
演題番号 6-2
乳癌における間質細胞の特性
山口ゆり 1、下岡華子 3、清野祐子 1、武井寛幸 2、黒住昌史 3、林慎一 4
1.埼玉県立がんセンター・臨床腫瘍研究所
2.埼玉県立がんセンター・病院・乳腺外科
3.埼玉県立がんセンター・病院・病理科
4.東北大学・医学部・分子検査学
乳癌の発生、進展にはエストロゲンのエストロゲン受容体(ER)を介したジェノミックな経
路のほかノンジェノミックな経路、リン酸化を介したリガンド非依存性の ER 活性化経路な
ど複数のシグナルカスケードが関与しているが、その制御は癌細胞をとりまく微小環境に
依存している。閉経後の乳癌では腫瘍周辺の間質細胞によるアロマターゼの発現が局所的
なエストロゲン産生の要因として知られており、ホルモン療法ではこれを標的としたアロ
マターゼ阻害剤が高い奏効性を示している。我々はホルモン療法の奏効性予測および微小
環境の機能を解析するためはじめに ERE-GFP レポーター細胞を用いて個々の症例について
間質細胞による ER 活性化能を検討し、間質の機能には症例によって大きな差異があること
を明らかにした。アロマターゼは成熟していない未分化な脂肪細胞で高く発現することが
知られているが局所のエストロゲン産生に関与する間質細胞の特性を個々の症例について
解析するため、単離した間質細胞におけるアロマターゼ遺伝子の発現や近年、微小環境に
おいて重要であることが報告された alpha-smooth muscle actin (alpha-SMA) の発現につ
いても解析した。一方、低分化の乳癌では間質細胞による ER 活性化能が低いことが判明し、
ERE を介さないシグナル経路による増殖促進機構が示唆されたため、乳癌組織の上清を用
いて液性因子を解析した。その結果、抗エストロゲン剤では阻害されない増殖促進活性を
認める症例が多くあること、低分化の乳癌ではこの活性が高く、抗体による解析から少な
くともその一部に HGF の関与することを明らかにした。
演題番号 6-3
閉経後乳癌モデルの乳腺腫瘍に対する新規ステロイドスルファターゼ阻害剤,TZS-2658 の
抗腫瘍効果
あすか製薬株式会社
薬理研究部
吉澤昌行、坂東浩二、布施朗子、藤井智仁、斎藤智之
閉経後に頻発する乳癌の多くはエストロゲン依存的に増殖する.閉経後乳癌組織において,
硫酸抱合体エストロゲンを脱硫酸抱合体に変換する酵素である steroid sulfatase(STS)
活性は高く,また,その基質となる硫酸抱合体エストロゲンの血中及び腫瘍中濃度は高い.
従って,STS 経路は閉経後乳癌の主要なエストロゲン産生経路と考えられる.そこで我々
は新規 STS 阻害剤,TZS-2658 の乳癌細胞及び乳癌モデル動物に対する抗腫瘍効果を検討し
た.TZS-2658 は MCF-7 細胞の STS 活性を強く抑制し,estrone sulfate(E1S)刺激による
MCF-7 細胞の増殖を用量依存性に抑制した.Nitrosomethylurea 誘発閉経後乳癌モデルラッ
トにおいて,TZS-2658 は E1S 刺激による乳腺腫瘍増殖をエストロゲンの枯渇した状態と同
様に,投与前の腫瘍体積以下まで著明に抑制した.この抗腫瘍効果に一致して,腫瘍及び
肝臓における STS 活性の強力な抑制が認められ,E1S 投与による血漿中 estrone 及び
estradiol 濃度の上昇が抑制された.これらの結果より,TZS-2658 がエストロゲン依存性
閉経後乳癌に有用な治療薬となる可能性が強く示唆された.
演題番号 6-4
乳癌における 17beta-hydroxysteroid dehydrogenase type12 の機能に関する検討
長崎修治 1,3、三木康宏 1、赤平純一 1、鈴木 貴 2、笹野公伸 1
1.東北大学大学院 医学系研究科 医科学専攻 病理病態学講座 病理診断学分野
2.東北大学 医学部 保健学科 臨床検査学講座 病理検査学分野
3.あすか製薬株式会社 研究開発統括本部 川崎研究所 安全性研究部
17beta-hydroxysteroid dehydrogenase(以下,17β-HSD)は,局所におけるステロイド
ホルモン合成において重要な役割を果たしている。現在までに 14 のサブタイプが見出され
ており,これらの発現パターンが乳癌などのホルモン依存性癌の進展に関与することが報
告 さ れ て い る 。 こ れ ら サ ブ タ イ プ の う ち type12 は 活 性 型 の エ ス ト ロ ゲ ン で あ る
Estradiol(以下 E2)合成の他,脂肪酸の de novo 合成にも関与すると報告されているが,
乳癌における主要な役割に関しては明らかとなっていない。
我々は乳癌における 17β-HSD type12 の生物学的な役割を検証する目的で,ヒト乳癌組
織を用いた免疫組織学的染色,DNA マイクロアレイ解析および乳癌組織中の E2 濃度の測定
を実施した。
免疫組織化学染色の結果,17β-HSD type12 の発現は乳癌患者の予後と有意に相関するこ
とを見出した。さらに,ER 陰性癌では ER 陽性癌に比較して,より予後が悪い傾向がある
ことを見出した。また DNA マイクロアレイ解析の結果と,組織中の E2 濃度を比較した結
果,17β-HSD type12 mRNA の発現と E2 濃度は相関しなかった。
以上のことから,17β-HSD type12 は乳癌組織において,ステロイドホルモン合成ではな
く主として脂肪酸合成に関与している可能性が高いと考えられた。
現在,17β-HSD type12 の乳癌細胞における機能をより詳細に検討するために,ER 陰性及
び陽性乳癌細胞を用いた siRNA によるノックダウン実験を実施中であり,これらの結果を
まとめて報告する予定である。
演題番号 6-5
大腸癌における Steroid sulfatase と Estrogen sulfotransferase の発現意義
佐藤龍一郎 1、2、鈴木貴 1、三木康宏 1、三浦康 3、片寄友 2、海野倫明 2、笹野公伸 1
1.東北大学病理診断学
2.東北大学肝胆膵外科
3.東北大学胃腸外科
【背景】ヒト大腸癌では女性で発生率が低く予後が良好な事や閉経後ホルモン療法が発生
頻度を低下させるという報告からエストロゲンの病因、病態への関与が示唆されてきたが、
その詳細は不明である。 一方 Steroid sulfatase (STS), Estrogen sulfotransferase(EST)
はエストロゲンの標的組織での活性化を制御する重要な酵素であるもののヒト大腸癌での
解析はまったく報告されていない。
【目的】ヒト大腸癌へのエストロゲンの関与を検討する
為エストロゲン合成酵素の局所における発現と、その予後に与える影響を解析する。【対
象・方法】1994∼1999 年に東北大学消化器外科及び宮城県がんセンター外科にて手術が施
行された結腸癌患者 287 症例(男性 166 症例、女性 121 症例 :平均年齢 66.4 才(男性
64.9 才、女性 68.4 才))を対象とした。STS, EST の発現は免疫組織化学法にて評価し、
Kaplan-Meier 法にて臨床予後に与える影響を検討した。【結果】STS は 174 例(60.6%)で
認められ、陽性症例は予後が悪い傾向が認められた(p=0.073)。EST は 122 例(42.5%)で
認められ、陽性症例は STS とは異なり予後が良い傾向が認められた(p=0.10)。STS-/EST+
群(44 例・15.3%)は、他の群と比較し、有意に予後が良好であった(p=0.001)。臨床病理
学的因子との検討では、この STS-/EST+群は、リンパ節転移陰性症例、T1,T2 症例、脈管侵
襲陰性症例、遠隔転移(̶)の症例と有意に相関関係が見られた。 【結語】大腸癌局所で
も E1 と E1S の転換が行なわれており、E1 の局所合成は大腸癌では生物学的悪性度を増大
させている可能性が示唆された。
演題番号 7-1
マウス前立腺分泌タンパク質のアンドロゲン応答性転写制御
藤本成明 1、丹下智子 2、岩瀬恵理 2、太田茂 2
1.広島大学・原爆放射線医科学研究所・ 組織再生制御
2.広島大学・医歯薬学総合研究科・薬学
【目的】 我々は、前立腺におけるアンドロゲン応答性遺伝子調節メカニズムを解明するた
め、マウス前立腺の分泌タンパク質を同定しその全容を明らかにしてきた。本研究では、
これら分泌タンパク質 mRNA のアンドロゲン応答発現様式を明らかにし、さらにそれに関わ
るプロモーター機構を解析する。
【材料と方法】10 週齢の雄 C57BL マウスに去勢およびテ
ストステロン(T)投与を行い、前立腺の各葉から RNA を抽出した後、遺伝子発現をリアル
タイム RT-PCR 法により定量解析した。またそれぞれの遺伝子上流域を luc 遺伝子へ導入し、
レポータージーンアッセイによりそのプロモーター機能を解析した。
【結果と考察】 1) マ
ウス前立腺タンパク質発現は、いずれも去勢により低下し T 投与により回復したが、特に
serine protease inhibitor KT3, PSP94, anterior gradient 2 お よ び experimental
prostatitis antigen 2 (EAPA2)の mRNA は T 投与により強く誘導された。2) それぞれの遺
伝子上流域(0.1∼1.4 kbp)に転写プロモーター活性が同定された。また、3) PSP94、EAPA2
の上流域は、アンドロゲン応答性に関与することが示された。前者については、アンドロ
ゲン応答配列(ARE)を介する転写制御と考えられたが、EAPA2 では他の転写メカニズムの関
与が示唆された。また、これらアンドロゲン応答性転写に対し、エストロゲン受容体系が
関与することも明らかになった。
演題番号 7-2
線維芽細胞成長因子受容体2と放射線、ドセタキセルの併用によるヒト前立腺癌細胞の増
殖抑制
亭島 淳、スイチノフ・ミルハット、石 光広、望月 英樹、安本 博晃、松原 昭郎、碓井 亞
広島大学大学院医歯薬学総合研究科 腎泌尿器科学
【背景】線維芽細胞成長因子受容体 2(FGFR2)の splicing variant である FGFR2IIIb
(R2IIIb)は、前立腺上皮細胞に発現し、間質細胞へのアンドロゲン刺激に応答し分泌され
た FGF-7/KGF のシグナルを介して前立腺の分化、増殖を制御していると考えられている。
一方で、前立腺癌がアンドロゲン非依存性の増殖能を獲得していく過程で、R2IIIb の発現
消失や低下が生じることが報告されている。
【方法】我々は、R2Ⅲb の発現を喪失したアン
ドロゲン非依存性ヒト前立腺癌細胞株 PC-3 に R2IIIb を導入し,安定発現させた細胞株を
用いて、R2IIIb 発現回復による増殖抑制効果、放射線や抗がん剤への感受性の変化につい
て解析した。【結果】R2IIIb 安定発現株ではコントロールの細胞株に比較して増殖速度の
低下、MAP キナーゼ経路活性化を介してのアポトーシスの誘導を認めた。R2IIIb の導入に
より、放射線照射およびドセタキセルによる増殖抑制作用に対する増強効果が認められ、
同時にアポトーシス誘導の増強がみられた。
【結論】FGFR2IIIb の発現回復はアンドロゲン
非依存性ヒト前立腺癌に対して増殖を抑制し、放射線あるいはドセタキセルによるアポト
ーシス誘導を増強することによる抗腫瘍作用の増強効果が認められ、再燃前立腺癌の治療
の手がかりとなる。
演題番号7-3
Guanine nucleotide binding protein-like 3はestrogen-related receptor γの転写活性
を阻害する
安本博晃 1、R.Y.Tsai2、亭島淳 1、2、松原昭郎 1、碓井亞 1
1.広島大学大学院・医歯薬学総合研究科・腎泌尿器科学
2. Center for Cancer and Stem Cell Biology, Alkek Institute of Biosciences and
Technology, Texas A&M Health Science Center, Houston, TX
(背景と目的)Guanine nucleotide binding protein-like 3 (GNL3L)は幹細胞に豊富に発
現する Nucleostemin のホモログである。Yeast では増殖に関与しているが、脊椎動物での
機能は不明であるため、その機能解析を試みた。(方法)①yeast two-hybrid 法にて GNL3L
に結合する蛋白をスクリーニングし Estrogen-related recptor γ(ERRγ)との結合を見出
した。②coimmunoprecipitation assay により相互作用を確認した。③マウス total RNA
を用いて Northern blot analysis を行い、GNL3L、ERRγ両 RNA の発現分布を解析した。④
ERR γ の 転 写 活 性 に 対 す る GNL3L 関 与 を Luciferase assay を 用 い て 検 討 し た 。 ⑤
coactivator Steroid receptor coactivator-1 (SRC1)との競合について binding assay な
らびに Luciferase assay にて解析した。(結果)①GNL3L は ERRγのみならず ERRα、ERR
βとも結合することが明らかとなった。②GNL3L は脳、腎、筋、眼で ERRγは脳、心、腎、
筋、眼で高発現していた。③GNL3L により ERRs の転写活性を阻害した。④その阻害作用は
SRC1 との競合によるものと考えられた。(結論)GNL3L は ERRs と SRC1 に競合的に結合し
その転写活性を抑制する。
演題番号 7-4
ヒト上皮性卵巣癌における Estrogen receptor beta isoforms の発現についての検討
鈴木史彦
1,2
、赤平純一 2、伊藤
潔 1、鈴木 貴 3、林
慎一 3、笹野公伸 2、八重樫伸生
1
1.東北大学医学部産婦人科
2.東北大学医学部病理診断学
3.東北大学医学部保健学科
卵巣癌はその発生・進展にステロイドホルモンが関わっていることが知られている。エス
トロゲンレセプター(ER)β には 5 つの isoform があることが知られているが、卵巣癌に
おける ERβ isoform の発現についての検討はこれまでに報告されていない。今回我々は上
皮性卵巣癌における ERβ isoform および 5 UTR に存在する exon 0K、0N の発現について
検討したので報告する。
対象は卵巣癌細胞株 15 株、正常卵巣表層上皮初代培養細胞(OSE)8 株および上皮性卵巣
癌組織 55 例、正常卵巣組織 6 例である。それぞれについて Real-time RT-PCR を用いて 0K、
0N、ERβ1、β2(βcx) 、β3、β4、β5 の mRNA 発現レベルを検討し、組織型等の臨床病
理学的因子との関連について検討した。
卵巣癌細胞株では、OSE に比較して 0N、ERβ1、ERβ2(βcx)の発現が有意に低下していた
(p<0.05)。対照的に、ERβ5 の発現は OSE に比較して有意に発現レベルの増加が認められ
た(p<0.05)
。さらに臨床検体でも細胞株同様の傾向が確認された。
卵巣癌においては ERβ isoform のうち特に β1、β2 が 5 UTR に存在する exon0N と共に
有意に抑制されており、卵巣癌の発癌・進展に関わっている可能性が示唆された。
演題番号 7-5
骨芽細胞に対する Steroid and Xenobiotic Receptor を介した Bisphenol A の作用
三木康宏 1、長崎修治 1、小野克彦 1、赤平純一 1、鈴木
貴 2、笹野公伸 1
1
東北大学大学院 医学系研究科 医科学専攻 病理病態学講座 病理診断学分野 1、
2
東北大学 医学部 保健学科 臨床検査学講座 病理検査学分野 4
内分泌撹乱物質は生殖器などに対して重要な影響をおよぼすが、性ステロイド標的組織で
ある骨組織においての検証はほとんど行われていない。我々はヒト由来骨芽細胞株 hFOB を
用いて、種々のエストロゲン作用を有する化合物の影響を報告してきた。その中で内分泌
撹乱化学物質であり、estrogenic compound であることが知られている Bisphenol A が SERMs
と同様に細胞増殖を促すことを見いだした。
本研究ではこの Bisphenol A の作用に注目し、
-7
さらなる検討を行った。Bisphenol A(10 , 10-6 M)は有意に hFOB の増殖を刺激したが、
エストロゲン受容体阻害剤の添加ではこの増殖作用を抑制できなかった。最近、ビタミン
K2 が steroid and xenobiotic receptor (SXR) を介して骨芽細胞様細胞に影響を及ぼすこ
とが報告された。hFOB において SXR 標的遺伝子である CYP3A4 プロモーターのルシフェラ
ーゼ(Luc)アッセイを行ったところ、Bisphenol A は 10-7 及び 10-6 M で Luc 活性を有意に
増加させた。また、hFOB に Bisphenol A を添加することによって、骨芽細胞様細胞での SXR
標的遺伝子とされている CYP3A4、TSKU 及び MATN2 の発現が増加することを定量的 PCR にて
確認した。実際のヒト骨組織を用いた SXR の免疫組織化学では、SXR の発現が骨芽細胞に
認められたが、同一標本の骨細胞及び破骨細胞にその発現は認められなかった。以上、内
分泌撹乱物質である Bisphenol A は、骨芽細胞に発現する SXR を介して骨組織に影響をお
よぼすと考えられた。
演題番号 8-1
ラット海馬におけるエストロゲン標的遺伝子の解析
竹尾愛理、池田和博、菱沼俊樹、堀江公仁子、井上 聡
埼玉医科大学・ゲノム医学研究センター・遺伝子情報制御部門
エストロゲンは、脳神経系を標的組織とし、脳の性周期や性行動、及びうつ病やアルツ
ハイマー病などの精神疾患に関わると考えられているがそのメカニズムの詳細は明らかに
されていない。エストロゲン受容体(ER)は視床下部に豊富に発現している。一方、海馬や
脳幹においても発現がみられ、記憶や学習、感情などに作用を及ぼすことが知られている。
脳におけるエストロゲンの標的遺伝子を探索する目的で、卵巣除去ラットを作製し、2 週
間後にエストロゲン(10 micro g/kg)を投与した 8 時間後の脳を海馬、脳幹、視床下部に分
けて mRNA を採取した。GeneChip Rat Neurobiology U34 Array を用いて、エストロゲン投
与により発現変動を示す遺伝子を検討した。これらの遺伝子をクラスターに分類し、解析
を行った。変化が観察されたエストロゲン応答遺伝子候補の発現量を定量的 PCR 法を用い
て 解析 し た 。 海 馬 にお い て エ ス ト ロ ゲ ン に よる 誘導 性 の 高 い上 位 3 遺 伝 子 で あ る
ectonucleotide pyrophosphatase/phosphodiesterase 2 (Enpp2) 、Insulin like growth
factor 2 (Igf2)、Insulin like growth factor binding protein 2 (Igfbp2)がエストロ
ゲン投与前と比較してそれぞれ 2.7、1.7、2.4 倍に増加していた。また、これらの遺伝子
は脳幹では発現が減少しており、視床下部では大きな変化は認められなかった。これらの
新たな脳部位特異的エストロゲン応答遺伝子は女性ホルモンの脳神経系における作用を媒
介していると考えられた。
演題番号 8-2
アロマターゼ遺伝子の脳特異的プロモーターに作用する転写因子の解析
本田伸一郎、原田信広
藤田保健衛生大学・医学部・生化学
齧歯類における脳の性分化の発現には、周生期に脳でエストロゲンが作用することが重
要である。アロマターゼは、脳内でエストロゲンを合成する機能を担う。我々は、本遺伝
子の脳特異的プロモーターに存在するシスエレメントのうち aro-B サイトに結合する核内
因子の一つとして Lhx2 を単離し、さらにそのコファクターとして DEAF1 を同定した。DEAF1
は Lhx2 の lim ドメインに結合し、プロモーター活性を増強する作用を持つ。これらの転写
因子がどの様なメカニズムで転写制御を行っているかさらに調べるため、DEAF1 をベイト
とした酵母ツーハイブリッド法を用いて胎生 17 日目の cDNA ライブラリーをスクリーニン
グしたところ、DEAF1 結合因子として Ubc9 が単離された。タンパク質相互作用の解析によ
り、Ubc9 は DEAF1 の C 末側の疎水性アミノ酸に富んだ領域と結合することが明らかとなっ
た。Ubc9 は SUMO 化反応における SUMO 結合酵素として働くことから、Lhx2 や DEAF1 に SUMO
化が生じる可能性が考えられた。Lhx2や DEAF1 の一次構造の解析により、これらのタンパ
ク質には、SUMO 化される可能性の高いコンセンサス配列が認められた。培養細胞系におい
て Lhx2 および DEAF1 の SUMO 化を検討したところ、DEAF1 タンパク質の SUMO 化は確認され
たが、SUMO 化された Lhx2 タンパク質は検出できなかった。このように、脳特異的アロマ
ターゼの転写制御と DEAF1 の SUMO 化の関連性は不明であるが、Lhx2、DEAF1 による本遺伝
子の脳特異的発現制御には Ubc9 が関与している可能性が示唆された。
演題番号 8-3
ヒト骨肉腫組織における性ステロイドホルモンの作用
土肥 修1、羽鳥正仁2、鈴木 貴4、小野克彦3、保坂正美2、赤平純一3、三木康宏3、
長崎修治3、井樋栄二2、笹野公伸3
1)東北公済病院整形外科、
2)東北大学整形外科
3)東北大学大学院医学系研究科医科学専攻病理病態学講座病理診断学分野
4)東北大学医学部保健学科検査技術科学専攻臨床検査学講座病理検査学分野
【目的】骨肉腫組織や骨肉腫培養細胞における性ステロイドホルモン・レセプターの存在
の報告はこれまでにも散見されるが、系統的な報告はなされていない。エストロゲン・レ
セプター(ER)、プロゲステロン・レセプター(PR)、アンドロゲン・レセプター(AR)のヒト
骨肉腫組織における存在とその役割を調べることを目的とした。
【対象と方法】生検ないし手術時に摘出した 28 例のヒト骨肉腫組織を用い、ER、PR、AR、
アロマターゼの存在の有無を免疫組織化学的に調べた。また、これら3つのレセプターの
発現が報告されている MG-63 ヒト骨肉腫培養細胞を用いて、骨肉腫細胞の増殖に対する性
ステロイドの影響を調べた。
【結果】ERβと PR は 28 例中それぞれ 23、24 例に見られた。AR は8例にのみ見られ、ER
αとアロマターゼはいずれの症例にも見られなかった。ERβと Ki-67 の標識率との間には
有意に正の相関が見られた。MG-63 の増殖はエストラジオール、プロゲステロン、デヒド
ロテストステロンによって有意に刺激され、これらのレセプター・ブロッカーである ICI、
ミフェプリストン(RU)、ヒドロキシフルタミドによって有意に抑制された。
【まとめ】性ホルモン、とくにエストロゲンおよびプロゲステロンはヒト骨肉腫細胞の増
殖において重要な役割を担っている。骨肉腫組織内にアロマターゼが存在しないことから、
循環血漿中の性ホルモン濃度が重要であると考えられる。この結果は臨床的に入手可能な
ER ブロッカー、PR ブロッカーを骨肉腫の治療に応用できる可能性を示している。
演題番号 8-4
非小細胞肺癌における組織内 Estradiol 濃度と Estrogen receptor 発現の関係
新井川弘道 1,2、鈴木
貴 3、三木康宏 1、鈴木 聡 4、近藤
丘 2、笹野公伸 1
1.東北大学医学部病理診断学分野
2.東北大学医学部呼吸器外科
3.東北大学医学部保健学科病理学分野
4.石巻赤十字病院呼吸器外科
これまで非小細胞肺癌(NSCLC)において Estrogen Receptor (ER)αおよびβ発現の報告が
多数みられるものの意義について不明な点が多く,また腫瘍増殖に大きく関与するといわ
れる Estradiol(E2)合成についての検討もみられない。今回,我々は NSCLC の診断で摘出
された肺葉を用い,肺癌部,非腫瘍部の組織内 E2 濃度を計測し臨床病理学的因子との関係
を検討するとともに、ERα,βを強制発現させた NSCLC 培養細胞株 A549 を用い、E2 添加に
よる腫瘍増殖と SERMs によるこれら増殖の変化を観察した.
(方法)原発性非小細胞肺癌
59 例(男性 33 例,閉経後女性 26 例)の腫瘍部および非腫瘍部における組織内 E2 濃度を
液体クロマトグラフィー・タンデム法にて計測.また ERα,β,Ki67 の発現をそれぞれ免
疫組織化学的に評価した.さらに ERα,βを強制発現させた A549 細胞株に 10pM-1nM E2 を
単独、あるいは 1μM Tamoxifen,Raloxifene を添加したうえで腫瘍の増殖変化を観察した.
(結果)組織内 E2 濃度は中央値で非腫瘍部 8.815pg/g,腫瘍部 20.35pg/g であり,いずれ
も乳腺組織に比較し低濃度であるものの,腫瘍部における有意な濃度上昇を認めた.また
免疫染色で ERα、ERβ陽性率はそれぞれ 53.3%, 88.3%であり、症例を ER 陽性,陰性の
2群に分けた場合,ERα、ERβいずれにおいても陽性群のみ E2 濃度と最大腫瘍径,Ki67LI
との間に有意な相関が認められた.また ERαあるいはβ陽性の A549 培養細胞にのみ E2 添
加による有意な腫瘍増殖変化が認められ、Tamoxifen,laroxifen によりこの増殖は抑制さ
れた.(結語)非小細胞肺癌では乳癌組織に比較し低濃度であるが組織内で E2 局所合成が
行われており, ERα,βいずれかを介して E2 濃度依存性の細胞増殖が行われている可能
性ある。またこの増殖変化は Tamoxifen,Raloxifene 等により抑制されることから、今後こ
れら SERMs が NSCLC の治療に有益である可能性が示唆された.
演題番号 8-5
無月経、頭痛を主訴に来院した 17α水酸化酵素欠損症を疑われた社会的女性
安田睦子 1、薬師寺史厚 1、下条正子2、長澤 薫3、上芝 元 4
1.東京都立墨東病院 内科
2.川崎社会保険病院 内科
3.虎ノ門病院 代謝内分泌科
4.東邦大学 糖尿病・代謝・内分泌内科
[症例]19 歳、女性 [主訴]頭痛、無月経 [現病歴]16 歳時に無月経のため近医受診され、
医師より子宮欠損と父親に告知されるが、父親の意思でそれ以上受診せず本人にも告知せ
ず放置されていた。2007 年 7 月、連日の間欠的な頭痛を認めるようになり、受診された病
院にて高血圧を指摘され 2 次性高血圧を疑われ当院に紹介となった。 [家族歴]両親共に
中年期からの高血圧、母親はフィリピン人女性、2 卵性で成長発達が正常と思われる双子
の同胞(姉)あり
[当院経過]初診時、高血圧(182/130)に加えて、無月経のエピソードの聴取と、身体的に恥
毛・腋毛の欠如、長身、浅黒い肌を認めた。また随時採血にて低 K 血症、ACTH 高値、F 低
値、PRA 感度以下であり、CT 画像所見上で子宮・卵巣様構造物を認めなかった。男性仮性
半陰陽と高血圧を認め、また F 低値であるが Addison 症状を示さなかった。鼠径には精巣
を疑わせる腫瘤は触知しなかったが、幼時期に鼡径ヘルニアの手術をしているという既往
があった。
以上により、17α水酸化酵素欠損症を疑う症例を経験したので報告する。
演題番号 8-6
エネルギー過剰状態での CRH 受容体の役割
九州大学医学研究院病態制御内科学
松原恵理、野村政壽、柳瀬敏彦、高柳涼一
視床下部ホルモンである CRH は、HPA 系を介するストレス応答に加え、中枢性、末梢性に
糖代謝・エネルギー代謝に関与することが示唆されている。CRH 受容体には 1 型(CRHR1)と
2 型(CRHR2)があり、それぞれリガンド特異性が存在し、CRHR1 には CRH が、CRHR2 には
urocortin2/3 が特異的に結合する。最近、Urocortin3-CRHR2 が膵β細胞に発現し、インス
リン分泌に促進的に作用していることが明らかにされた。一方、CRH-CRHR1 システムの糖
代謝における生理的意義は不明な点が多い。そこで今回我々は受容体遺伝子欠損マウス
(CRHR1KO)を用い、CRH-CRHR1 の糖代謝における機能解析を行った。糖負荷試験では CRHR1KO
と野生型で血糖曲線に差はなく、体重曲線にも有意差は見られなかったが、CRHR1KO でイ
ンスリン分泌が有意に低値であった。組織学的検討では CRHR1 は野生型マウス膵ラ氏島に
強発現が見られ、CRHR1KO で膵ラ氏島の発生・分化に異常は見られなかった。インスリン
含量も野生型と CRHR1KO マウス間で有意差は認めなかった。膵ラ氏島における CRH-CRHR1
のインスリン分泌における機能解析を目的に、単離膵ラ氏島を用いて in vitro の解析を行
ったところ、高グルコース存在下で CRH にインスリン分泌促進作用があることを見出した。
さらに高脂肪食下では、CRHR1KO の体重増加が有意に抑制され、食事性肥満ならびに脂肪
肝に抵抗性を示すことが明らかとなった。以上のことから、生体における CRH-CRHR1 シス
テムの機能の一つとして、高血糖・エネルギー過剰状態におけるインスリン分泌・エネル
ギーホメオスターシスに重要な役割をもつと推察された。今回の解析を通じてストレス社
会と肥満について考察したい。
演題番号 9-1
核蛋白 HEXIM1 によるグルココルチコイド受容体機能制御機構の解明
吉川賢忠、清水宣明、丸山崇子、森本幾夫、田中廣壽
1.東京大学 医科学研究所
2.東京大学 医科学研究所
先端医療研究センター 免疫病態分野
附属病院 アレルギー免疫科
【背景・目的】グルココルチコイド(GC)受容体(GR)の相互作用分子同定とその作用機
構の解明は、GC作用の生理学的理解や副作用を軽減した新規GC療法創成にとって重要な課
題である。HEXIM1は当初転写伸長促進因子P-TEFbの活性を阻害してクラスII遺伝子の転写
伸長反応を抑制するとされていたが、我々は最近GRに結合する核蛋白の探索過程で、HEXIM1
がP-TEFb非依存的に、GRとの直接結合を介してGR依存性転写を抑制することを報告した。
今回、HEXIM1のP-TEFb非依存的転写抑制作用の核内受容体選択性及びその制御機構を明ら
かにしたので報告する。
【方法】GRの各種変異体、MR、AR、RARa、PPARg、VDRとGST-HEXIM1
との相互作用をGST-pulldown法で、HEXIM1のGR、PPARg依存性転写に与える影響をHEXIM1
の野生型とP-TEFb非結合性変異体HEXIM1-(150-158A)を用いたレポーターアッセイで、GR
のGRE結合活性に与えるHEXIM1の影響をChIP assayで解析した。
【結果】HEXIM1はGRのヒン
ジ領域に結合した。HEXIM1はMR、ARに結合したが、他の受容体には結合せず、PPARgのヒン
ジ領域をGRのヒンジ領域に置換したキメラ蛋白には結合した。野生型HEXIM1はGR、PPARg
両者の転写を抑制したが、HEXIM1-(150-158A)はGRのみの転写を抑制した。HEXIM1はGRのGRE
への結合を阻害した。
【考案】HEXIM1のP-TEFb非依存的転写抑制作用は核内受容体選択性を
有し、ヒンジ領域を介した相互作用が重要である可能性が示唆された。また、HEXIM1によ
るGR依存性転写抑制機構にGRのGREへの結合を阻害する可能性が示された。
演題番号 9-2
HEXIM1 によるグルココルチコイド応答性遺伝子の発現誘導制御
清水宣明、吉川賢忠、丸山崇子、森本幾夫、田中廣壽
1.東京大学 医科学研究所
2.東京大学 医科学研究所
先端医療研究センター 免疫病態分野
附属病院 アレルギー免疫科
HEXIM1(hexamethylene-bis-acetamide-inducible protein 1)は、転写伸長促進因子 P-TEFb
(positive-transcription elongation factor b)と複合体を形成してその活性を阻害し、
クラス II 遺伝子の転写伸長反応を抑制する。一方、我々は HEXIM1 が GR (glucocorticoid
receptor)と結合し、その転写活性化能を抑制することを示した。本研究では、これら二つ
の HEXIM1 の機能が内因性遺伝子発現制御にどのように関わっているかを解析することを
目的とした。
HepG2 細胞において、P-TEFb 依存性の高いモデル遺伝子のひとつ cyp1a1 の 3-メチルコラ
ントレン添加による mRNA 発現誘導は、siRNA による HEXIM1 ノックダウンによって増強さ
れた。この時、HEXIM1 の過剰発現は cyp1a1 の発現増強を打ち消したが、P-TEFb との複合
体 形 成 能 を 欠 き 転 写 伸 長 反 応 に 直 接 の 影 響 を 及 ぼ さ な い HEXIM1 の 組 換 え 変 異 体
(159-167A)は効果がなかった。一方、グルココルチコイド応答性遺伝子の、sgk1、scnn1a、
atp1a1 のデキサメタゾンによる mRNA 発現誘導も HEXIM1 ノックダウンによって増強された
が、159-167A 過剰発現によって部分的に打ち消され、またこれら打ち消しの程度は遺伝子
ごとに差があった。
以上より、グルココルチコイド応答性遺伝子の発現誘導制御における HEXIM1 の転写伸長抑
制および GR 機能抑制の寄与は、それぞれの遺伝子特異的であると考えられた。
演題番号 9-3
グルココルチコイドホルモン標的遺伝子の包括的解析
岩崎泰正 1、次田誠 1、谷口義典 1、西山充 1、田口崇文 1、品原正幸 1、岡崎瑞穂 1、
中山修一 1、高尾俊弘 2、橋本浩三 1
1.高知大学医学部内分泌代謝腎臓内科学
2.高知大学医学部看護学科地域看護学
【目的および方法】グルココルチコイドホルモンは一般に「抗ストレスホルモン」として
理解されているが、具体的にどのような標的遺伝子を介して「抗ストレス」 作用を発揮し
ているのか、その実像は必ずしも明確でない。我々は培養細胞を用いた in vitro の条件
下で、各種カテゴリーに属する遺伝子の転写に対するグルココルチコイドの直接効果を包
括的に解析し、糖質コルチコイドの生体防御作用の全体像を把握しようと試みた。
【結果】
合成グルココルチコイドであるデキサメサゾン(Dex)はグルココルチコイド受容体 (GR) 依
存性に、1) 神経機能維持に関連した遺伝子 (グルタミン酸 NMDA サブユニットなどの受容
体)、2)血管平滑筋機能維持に関連した遺伝子 (ENaC, NHE, NKCC, NaKATPase などのイオ
ンチャネル)、3) 血管トーヌスを維持するレニン・アンジオテンシン (RAA) 系遺伝子 (ア
ンジオテンシノーゲン)、 4) カテコラミン合成酵素遺伝子 (PNMT, AADC) 、ならびに 5) 糖
新生系遺伝子 (PDK4 など) の転写活性を強力に誘導した。【結論】グルココルチコイドホ
ルモンはイオンチャネル発現を介した興奮性細胞(神経・血管平滑筋)の興奮性維持、RAA
系・カテコラミン系遺伝子発現を介した血圧維持、さらに糖新生系遺伝子発現を介した血
糖値の維持を介して、ストレス時における統合的な生体防御作用を発揮しているものと理
解される。
演題番号 9-4
変異グルココルチコイド受容体の機能解析
谷口義典 1、岩崎泰正 1、次田誠 1、中山修一 1、岡崎瑞穂 1、品原正幸 1、西山充 1、
高尾俊弘 2、橋本浩三 1
1.高知大学医学部内分泌代謝腎臓内科
2.高知大学医学部看護学科地域看護学
【目的】グルココルチコイド受容体 (GR) には野生型 (GRα) の他に GRβ, P, γ, A, B
など多数の変異型の存在が知られているが、各々の機能に関し詳細な検討は行われていな
い。今回我々は、グルココルチコイドによる転写促進ないし抑制作用における各変異の影
響を検討した。【方法】野生型 (GRα)、および N 端側変異(GR-B, Δ313-338)、C 端側変
異(GRβ, P, A)、DNA 結合領域の変異(GRγ)を有する各変異 GR の発現ベクターを作成
した。これらを内因性 GR を有さない細胞株 BE(2)C に一過性に導入したのち、デキサメ
サゾン(Dex)による転写促進ないし転写抑制作用を、Glucocorticoid-Response Element
(GRE)-Luc, Corticotropin-Releasing Hormone (CRH)-Luc をそれぞれ標的遺伝子とした系
を用いて評価した。【結果】1) GRαの存在下で Dex は GRE 依存性転写を促進、CRH 遺伝子
転写を抑制した。2) C 端側変異 GR (β, P, A)の存在下では、転写誘導・抑制の両効
果とも消失した。3) N 端側変異(GR-B, Δ313-338)では前者で転写誘導・抑制効果が消
失しているのに対し、後者では保たれていた。【結論】C 端側の変異 GR では受容体として
の機能が喪失しているのに対し、N 端側の変異 GR では変異の部位により転写機能に及ぼす
影響が異なることが示唆された。
演題番号 9-5
マウス Ad4BP/SF-1 遺伝子第 1 イントロンに存在する CpG アイランドの DNA メチル化状態の
解析
九州大学・大学院医学研究院・病態制御内科
白水 久男、岡部 泰二郎、権藤 重喜、松原 恵理、森永 秀孝、野村 政壽、柳瀬 敏彦、
高柳 涼一
Ad4BP/SF-1 (Ad4-Binding Protein/Steroidogenic Factor-1)は,副腎及び性腺の発生・分
化における重要な因子であると同時に,ステロイド合成関連遺伝子群の発現調節にも大き
くかかわっている。マウス Ad4BP/SF-1 遺伝子第 1 イントロンには約 2 Kb にわたる大きな
CpG アイランドが存在する。予測プログラムを用いた解析により,この大きな CpG アイラ
ンドは3つの CpG アイランドから成ることが判明した。同様の CpG アイランド構築がヒト
Ad4BP/SF-1 遺伝子にも存在し,配列においても高い相同性を示した。これまでに第 4 イン
トロンに胎児副腎特異的エンハンサー,第 6 イントロンに視床下部腹内側核特異的エンハ
ンサーが同定されており,これらの第 1 イントロン内 CpG アイランドも同様に Ad4BP/SF-1
遺伝子発現調節に関わっていることが予測される。その機構として DNA メチル化,ヒスト
ン修飾等によるエピジェネティック制御を介している可能性が考えられる。そこで,この
イントロン内 CpG アイランドの Ad4BP/SF-1 遺伝子発現調節への関与を調べる第一段階とし
て,メチル化感受性制限酵素消化/定量的 PCR,bisulfite シークエンシング法を用い DNA
メチル化について解析を行った。その結果, Ad4BP/SF-1 遺伝子発現レベルの異なるマウ
ス培養細胞間においてメチル化状態の違いが認められた。現在,副腎,性腺を含めたマウ
ス組織間での比較解析を進めている。本発表ではこれらの解析結果について報告する。
演題番号 10-1
エストラジオールの抗肥満作用―マウス脂肪細胞中 11 位水酸化ステロイド脱水素酵素の
抑制―
多河典子 1、湯田亮介 1、南谷恵里佳 1、益崎裕章 2、中尾一和 2、小林吉晴 1
1.神戸薬科大学 病態生化学
2.京都大学大学院 内分泌代謝内科
【目的】以前よりエストロゲンは抗肥満作用をもつことが,ヒトや実験動物で報告されて
いる.しかし,その詳細な機序については未だ不明である.一方,NADPH を補酵素として
細胞内でグルココルチコイドを活性化する 11 位水酸化ステロイド脱水素酵素(11β-HSD1)
は,脂肪細胞の分化過程で強力に発現誘導される.さらに,内臓脂肪組織での本酵素の活
性は内臓脂肪蓄積を基盤とした肥満代謝病の発症と密接に関係すると考えられている.今
回,我々は脂肪細胞中 11β-HSD1 に対するエストラジオール(E2)の作用を検討したので
報告する.【方法】脂肪細胞は,3T3-L1 成熟脂肪細胞およびマウス腸間膜脂肪組織より得
たものを用いた.また,脂肪細胞ミクロソーム(Mc)分画は常法に従い調製した.11β-HSD1
活性は,11-デヒドロコルチコステロンを基質とし,生成するコルチコステロンを HPLC 法
で測定し求めた.
【結果】脂肪細胞および Mc 中の 11β-HSD1 活性は E2(1∼100μM)によ
って用量依存的に抑制された.また,E2 添加 5 分後で約 20%の抑制が認められ,その抑制
はアクチノマイシン D,タモキシフェン,ICI 182,780 によって影響されなかった.また,
E2 は Mc(小胞体)のヘキソース-6-リン酸脱水素酵素活性やグルコース-6-リン酸トランス
ポーターには影響しなかった.一方,Mc を用い Lineweaver-Burk plot から E2 の阻害形式
を調べたところ,不拮抗阻害であった.
【結語】E2 は 11β-HSD1 活性を遺伝子を介さず,
直接酵素タンパクに結合し,抑制することが明らかとなった.この抑制作用はエストロゲ
ンの抗肥満作用機序の一つになっていると推察された.
演題番号 10-2
吸入ステロイド薬治療中喘息患者の糖代謝および脂質代謝に与えるラロキシフェンの影響
大月道夫 1、和泉真紀 1、森田真也 1、藤田きみゑ 2、宮武明彦 3、笠山宗正 4
1.大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科
2.滋賀県立大学人間看護学部
3.医療法人宮武内科
4.日本生命済生会附属日生病院総合内科
【目的】われわれは、吸入ステロイド薬(ICS)の治療を受けている閉経後女性の喘息患者
では骨密度低下を認めることを報告してきた。閉経は、骨密度低下のみならず糖・脂質代
謝の悪化にも影響するため、ICS 治療中の閉経後女性の骨粗鬆症に対する治療がこれら糖・
脂質代謝に与える影響について検討することは重要と考えた。
【対象と方法】骨量減少または骨粗鬆症と診断した ICS 治療中の閉経後女性喘息患者のう
ち、最近 1 年間にビスフォスフォネート製剤・女性ホルモンの治療歴のない 12 例(年齢 65 7
才)を対象とした。ラロキシフェン(60mg/日)および乳酸カルシウム(2g/日)を投与し 6、
12 ヶ月後の骨・糖・脂質代謝パラメータを測定した。
【結果】6、12 ヶ月後、尿 NTx は -16%、-26%(P=0.19)、OC は -24%、-36%(P<0.01)
、総
ALP は -15%、-25%(P<0.01)低下し、腰椎骨密度は 12 ヶ月後増加した(P<0.05)。T-chol
は、6、12 ヶ月後 -5%、-8%(P<0.01)、LDL-C は -10%、-13%(P<0.01)低下したが、TG と
HDL-C は変化を認めなかった。空腹時血糖・空腹時インスリン・HOMA-R は、6、12 ヶ月後
に -1%、-4%(P<0.05)・-13%、-28%(P<0.05)・-10%、-31%(P<0.05)低下した。
【結論】ICS 治療中の閉経後女性喘息患者において、ラロキシフェンは LDL-C を低下させ
インスリン感受性を改善させることが明らかとなった。
演題番号 10-3
塩誘導キナーゼ 2(SIK2)の高発現による雄特異的体重変動に関する研究
竹森洋1、村岡正章1、福島愛子1、岡本光弘2
1.医薬基盤研究所・代謝シグナル
2.帝塚山大学・食物栄養学科
塩誘導性キナーゼ SIK は高塩食負荷したラットの副腎に特異的に誘導されるタンパクリ
ン酸化酵素である。SIK は cAMP シグナルでも誘導され、cAMP で活性化される転写因子 CREB
の活性を負に制御するフィードバック分子であった。この抑制は転写共役因子 TORC のリン
酸化である。また、筋肉においては HDAC5 を同様にリン酸化依存的に抑制することで、結
果的に MEF2 を活性化させる。SIK には 3 種のアイソフォームが存在し、2 番目のアイソフ
ォームである SIK2 には臓器特異性がある。今回は SIK2 に着目して、その特異的臓器であ
る脂肪組織で高発現させることで、SIK の新たな役割解明を試みた。
脂肪細胞特異的プロモターaP2 に恒常的にリン酸化能を発揮する変異体 SIK2 を連結させ
トランスジェニックマウスを作成した。変異 SIK2 の発現は褐色脂肪細胞でのみ観察され、
TORC2 のリン酸化の亢進が観察された。このマウスは通常飼料で飼育するかぎり大きな体
重変動は観察されないが、高脂肪食を負荷すると雄でのみで体重増加率の有意な上昇が観
察された。この現象はインスリンの反応性に違いによるものと予想される。一方、培養細
胞を利用した系では、UCP-1 プロモターが cAMP と TORC2 依存的に制御されている知見を得
ている。そこで、cAMP シグナルを b3-アゴニストを用いて活性化させたところ、SIK2 トラ
ンスジェニックマウスの方がむしろ体重減少率が大きかった。再度、CREB 依存的な遺伝子
発現を再検討したところ、cAMP 分解酵素である PDE4 の発現の低下が観察された。PDE4 阻
害条件下では cAMP 依存的 UCP-1 の発現持続時間が長くなっており、SIK2 トランスジェニ
ックマウスの b3-アゴニスト依存的体重減少亢進と相関するものと予想される。現在、高
脂肪食依存的体重増加と cAMP 依存的な体重減少の性ステロイドの関与の検討を行ってい
る。
演題番号 10-4
GENE PROFILING OF THE RETICULARIS AND FASCICULATA ZONES OF HUMAN ADULT ADRENALS
Yasuhiro Nakamura1, Peter J. Hornsby2, Hironobu Sasano3, William E Rainey1
1.Department of Physiology, Medical College of Georgia, Augusta U.S.A
2.University of Texas Health Science Center U.S.A.
3,Department of Pathology, Tohoku University School of Medicine
The zona reticularis (ZR) of the adult adrenal produces androgens, including DHEA
and DHEA-sulfate. This contrasts to the zona fasciculata (ZF) that produces
glucocorticoid. The mechanisms causing this functional zonation remain unclear.
However, the recent development of high-density technology has provided an efficient
way of comparing the gene expression profiles between tissues. We used DNA microarray
to compare expression levels of 46 steroidogenic enzymes between ZR and ZF of the
human adult adrenals. Total RNA was isolated from 3 pairs of ZR and ZF samples,
respectively. Six transcripts were found to have a greater than 2-fold difference
in expression between ZR and ZF. Enzymes involved in androgen metabolism, including
aldo-keto reductase family 1, member C3 (AKR1C3) and cytochrome b-5 (CYB5) were
preferentially elevated in ZR. On the other hand, 3beta-hydroxysteroid dehydrogenase
type 2 (HSD3B2), which is needed for glucocorticoid production, was expressed at
7-times higher levels in ZF versus ZR. We also confirmed these results using real-time
PCR analysis (qPCR). In addition, we extended the analysis of the mRNA by examined
protein expression using immunohistochemistry. Protein expression for HSD3B2, CYB5,
and AKR1C3 confirmed the qPCR and microarray data. This study provides new
information on the differential expression of steroidogenic enzymes within the ZF
and ZR. Future studies will be needed to determine the role, particularly of the AKR1C3
in ZR steroidogenesis. However, gene profiling through microarrays should prove
essential in defining the candidate factors that regulate adrenal reticularis
production of DHEA.
演題番号 10-5
ヒト副腎細胞でのアルドステロン産生調節機構への LXR の関与
齋藤淳、末松佐知子、松澤陽子、伊藤浩子、大村昌夫、西川哲男
横浜労災病院
内分泌代謝内科
緒言:糖、脂質による代謝変動に核内受容体 LXR が中心的な役割を持ち、副腎内でのコレ
ステロールバランスに重要な調節を行っていると言われている。そこで、ヒト副腎細胞の
アルドステロン(Aldo)合成の律速段階である Cyp11B2 への LXR の関与につき検討した。
実験方法:原発性アルドステロン症の腺腫に付着した正常副腎から遊離細胞を調製し、KRB
バッフアー中で 2 時間培養を行った。 angiotensin II (AII) 等の刺激後培養液中の Aldo
の定量並びに Cyp11B2 の mRNA を定量的 RT-PCR で求めた。結果:1)LXR agonist である GW3965
刺激にて細胞膜コレステロールトランスポーターである ABCA1 は 5 倍程度の増加を認めた。
2)Aldo 産生は、LDL, ACTH, AII の各刺激にて増加した。また、GW3965 存在下では非存在
下に比較して各刺激にて Aldo 産生量は著しく増加した。3)GW3965 存在、非存在下ともに
LDL あるいは ACTH 刺激で Cyp11B2 の増加を認めた。一方、GW3965 存在下では AII 刺激に
て、非存在下時と異なり Cyp11B2 の低下を認めた。考案:ヒト副腎にて Aldo 産生調節に
LXR が関与する事が明確になった。すなわち GW3965 存在下の Aldo 産生は、基礎値並びに
各刺激時のいずれにおいても非存在下に比して増加したことより、LXR は Aldo 産生を
Up-regulate していると考えられた。しかし、Cyp11B2 の mRNA は、ACTH と AII とで異なっ
た挙動であることから、これらホルモンの細胞内伝達機構の差で LXR の本酵素への関与す
る機構が異なると考えられた。結語:ヒト副腎細胞のアルドステロン合成の switch-on off
に LXR が関与する事が明らかとなった。
演題番号10-6
Spironolactone, but not Eplerenone, Inhibits Steroidogenesis
Takashi Yamashita1, 2, Ping Ye2, David Pollock3, Hironobu Sasano1 ,William E Rainey2
1.
2.
3.
Department of Pathology, Tohoku University School of Medicine
Department of Physiology, Medical College of Georgia USA
Vascular Biology Center, Medical College of Georgia, Augusta USA
Introduction: The importance of mineralocorticoid receptor (MR) antagonists in the
treatment of cardiovascular disease has been confirmed by two recent clinical trials,
Randomized Aldactone Evaluation Study (RALES) and the Eplerenone Post-Acute
Myocardial Infarcation Heart Failure Efficacy and Survival Study (EPHESUS). Eplerenone
is an MR antagonist with a very low affinity for the MR compared with spironolactone in vitro,
but with a comparable bioavailability in vivo. Importantly, and in contrast with
spironolactone, eplerenone has very low affinity for other steroid hormone receptors, thus
reducing the risk of gynaecomastia and other side-effects. Further, there is report that
spironolactone can inhibit 17α-hydroxylase in bovine and ovine adrenal cells and pig
Leydig cells. Herein, we design this study to evaluate both spironolactone and eplerenone’s
effect on human adrenal cell steroidogenesis and finally to provide a better reference for
the clinical usage of these two medicines. Methods & Material: Human adrenal cortical
cell H295R was incubated with or without 10µM pregnenolone and a series of different
concentrations of spironolactone or eplerenone for 24 hours. Meanwhile, both medicines’
influence to steroidogenesis in H295R cell was also tested by incubating the cell with Ang II,
forskolin, with and without 30µM spironolactone or eplerenone. MR/MMTV-luciferase
receptor reporter system was used to conform Spironolactone and eplerenone’s
pharmacological effect in 293T cell. Cortisol and aldosterone concentrations in cultured
media are determined by ELISA. Results: There is a series of increasing effect of
spironolactone (0.1µM, 1µM, 10µM and 30µM) to inhibit cortisol (7%, 20%, 65% and 91)
and aldosterone production significantly after incubation in H295R cells. The same levels of
eplerenone do not have any inhibition effect. Treatment by pregnenolone does not change
this trend. Concolusion: Compare to spironolactone, eplerenone has similar bioavailability
but fewer side effects to steroidogenesis and therefore, should be the better choice for the
treatment of cardiovascular disease.
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