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(1) 「第51回下水道研究発表会」口頭発表セッション並びに ポスター発表

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(1) 「第51回下水道研究発表会」口頭発表セッション並びに ポスター発表
Vol.52 No.628 2015/02
下 水 道 協 会 誌
シリーズ・第 52 回下水道研究発表会へ向けて
(1)
「第 51 回下水道研究発表会」口頭発表セッション並びに
ポスター発表セッションの各賞を受賞して
平成 26 年 7 月 22 日(火)~ 24 日(木)に大阪ア
カデミアで開催しました「第 51 回下水道研究発表会」
につきましては、342 編の口頭発表があり、下水道研
そこで、受賞された方々に、論文作成のポイント、
また発表手法やパワーポイントの作成等、並びにポス
ター作成のポイント、また発表手法等につきまして執
究発表会企画運営委員会委員並びに座長各位の厳正な
る審査の結果、次の方々が「最優秀賞」
「優秀賞」を
筆していただきました(佳作を除く)
。
平成 27 年 7 月 28 日(火)~ 30 日(木)に、
東京ビッ
受賞されました。
また、16 編のポスター発表があり、厳正なる審査
グサイト会議棟にて開催致します「第 52 回下水道研
究発表会」において、口頭発表並びにポスター発表を
の結果、次の方々が「最優秀賞」「優秀賞」
「佳作」を
準備されております方々におかれましては、是非一読
していただければ幸いです。
受賞されました。
第 51 回下水道研究発表会 表彰者一覧(敬称略)
賞の区分
最優秀賞
口頭発表セッション
発 表 題 名
所 属
発表者氏名
下水再生水利用時におけるノロウイルスを対象とした定量
的微生物リスク評価
(独)土木研究所
安井 宣仁
東京都
大橋 永樹
東京下水道の国際展開について
~東京の技術と経験が世界に ! ~
優 秀 賞
斜坑管接続が連続する雨水増補幹線における排気対策に関 (公財)日本下水道
する調査研究
新技術機構
佐藤 公俊
下水道 BCP 策定による効果について
市川市
仙波 俊郎
メタウォーター㈱
西脇 淳也
北九州市
山口 英彦
東京大学大学院
佐藤 弘泰
横須賀市
中村 明
(公財)東京都
都市づくり公社
白井 史朗
東北大学
劉 媛
省エネ型高効率エアレータの深槽反応タンクへの適用
ベトナム・ハイフォン市における下水道技術交流
~ポンプ場の効率的な維持管理~
ポスター発表セッション
最優秀賞
管路内での間欠接触酸化による下水処理特性の評価
優 秀 賞
最終沈澱池における脱窒現象及び SRT とりん除去性能に
関する自治体共同調査
佳 作
下水道情報ライブラリー
「下水道の森」の設置と運営
酸素制御を利用した部分的亜硝酸化の実現と維持
( 60 )
Vol.52 No.628 2015/02
「第 51 回下水道研究発表会」口頭発表セッション並びにポスター発表セッションの各賞を受賞して
「第 51 回下水道研究発表会 口頭発表論文・最優秀賞を受賞して」
独立行政法人土木研究所
材料資源研究グループ リサイクルチーム
安 井 宣 仁
けた中期計画として、再生水利用の促進が掲げられて
1 .は じ め に
この度、第 51 回下水道研究発表会の口頭発表セッ
います。また、日本が幹事国となり「水の再利用」に
関する ISO(TC282)
(委員長:田中宏明・京都大学
ションにおいて、最優秀賞をいただきました。口頭発
表 342 編の中から選出されたこと受け、本研究の重要
大学院教授)国際規格作りが現在行われており、今後
益々、下水再生水の利用促進が期待されています。
性および社会的意義が非常に高いものであると改めて
認識しております。
このような経緯の中、今後、下水再生水の利用促進
今回、
「下水再生水利用時におけるノロウイルスを
対象とした定量的微生物リスク評価」と題して発表さ
のためには、再生水利用時の健康リスク評価が必要で
す。
せていただきました。本研究では、世界的な水問題解
本論文では、再生水利用時の病原微生物(NoV を
対象)に対する健康リスクを評価するために、Case
決に向け、今後、下水再生水の利用促進が望まれる中
で、
病原微生物の感染リスク管理が重要であると考え、
study として下水再生水を利用している A 再生処理
施設を対象に、再生処理プロセスごとの NoV 濃度の
下水試料から通年を通して検出されるノロウイルス
(NoV)をリスク評価対象の病原微生物とし、調査・
実態調査を行い、得られたデータを基に NoV に対す
る健康リスク評価を行いました。
研究を行いました。
今回、受賞した論文の概要などについて、以下に述
べます。
3 .研究の概略
2 .研究の背景
土木研究所材料資源研究グループ リサイクルチー
ムでは、下水汚泥を核とした「地域バイオマスの利用
促進」と下水処理水・再生水の「水系リスクの管理」
を基本的な柱とした、調査・研究を行っています。
「水
系リスクの管理」に関わる研究では、顕在化するウイ
ルス等の水系感染症の軽減に向けて、ウイルスを含め
た病原微生物の健康リスクの評価ならびに下水道にお
ける対策手法の確立に向けた研究を遂行しています。
また平成 22 年より、21 世紀型都市水循環系の構築の
ための水再生技術の開発と評価(JST、CREST、研
究代表 = 京都大学 田中宏明教授)という研究課題の
共同研究として「水の衛生学的評価とバイオモニタリ
ング」を実施してきています。本プロジェクトは都市
の水循環系が「一過型」から「カスケード型」水利用
へと変換され、都市の取排水量を減らし、水環境をよ
り安全で豊かにし、環境負荷も軽減できる都市水循環
システムの構築を目指すことを目的として、水循環利
用のための「新たな水処理システム」の開発と産出さ
れる再生水の評価を行っております。
平成 26 年に国土交通省より示された新下水道ビ
ジョンにおいて「
『循環のみち下水道』の進化」に向
本論文のポイントは、冬季の感染性胃腸炎の流行期
において、A 再生処理施設(図- 1)の各工程から得
られた NoV 濃度のデータを用い、定量的微生物リス
ク評価の 1 手法である障害調整生存年数(1 人 1 年当
たりの疫病負荷:DALY)を試算したことです。再生
水の利用形態として水洗トイレ用水を想定し(経口暴
露 1 回 0.02ml、年間 3 回)DALY 値を試算すること
でリスク削減に重要な再生処理プロセス
(重要管理点)
を 明 ら か に し ま し た。 具 体 的 に は、 各 処 理 工 程 の
NoV 濃度変動を考慮するために各採水ポイントにお
いて、24 時間の通日採水を実施し、NoV 濃度を測定
しました。測定結果から NoV 濃度分布と処理の除去
( 61 )
図- 1 再生処理施設の処理フローと採水箇所
生活
習慣
-5
燃焼による室内空気汚染
1.0×10
喫煙
9.2×10
飲酒
7.6×10
高血圧
6.2×10
肥満
4.1×10
運動不足
4.0×10
果物や野菜不足
1.5×10
-3
-3
-3
-3
-3
-3
* 出典: GLOBAL HEALT H RISKS Mortality and burden of disease attributable
Vol.52 No.628 2015/02
to selected major risks, WHO (2009)
下 水 道 協 会 誌
【図表一覧】
図- 2 各
Case における 1 人 1 年あたりの疫病負荷(DALY)
図-1再生処理施設の処理フローと採水箇所
図-2各Caseにおける1人1年あたりの疫病負荷(DALY)
表- 1 各健康影響被害における健康リスク
表-1 各健康影響被害における健康リスク
変動を算出し、想定される Case1 ~ 4(詳細は図- 2
参照)の処理が不十分であった場合の NoV の感染リ
スクを試算しました。
健康影響被害
障害調整生存年数(DALY)とは
環境
汚染
障害調整生存年数とは、疾病や障害(本研究では
NoV の摂取による健康障害)による時間損失を単位
として、損失の重み付けや標準平均余命を勘案して計
算される数値で、1DALY は完全に健康な 1 年の寿命
生活
習慣
損失を表しています。下水再生水の明確な DALY 値
の基準はありませんが、WHO では飲料水の基準値と
して 10-6 DALY/ 人・年と設定しており、下水再生水
を農業利用する際は飲料水の基準値の 10-6 DALY を
提唱値としております。参考までに WHO の 2009 年
の報告による、日本を含む西太平洋地域先進国におけ
る各種の DALY 値を表- 1 に示します。
以下に本論文の主な結果を示します。
1. 生物膜ろ過のみでは NoV の除去は不十分であっ
た。
(図- 2 の Case4)。
2. 生物膜ろ過の後段に、オゾン処理及び塩素消毒を
順に用いた場合、WHO 提唱値(10-6 DALY)を
達成した。(図- 2 の正常運転時)
3. 消毒プロセスの機能が不十分な場合(図- 2 の
Case2 ~ 4)では、
「正常運転時」に比べ約 1,100
~ 1,500 倍ほどリスクが上昇すると試算され、消
毒プロセスが重要管理点であることが明らかと
なった。
4. 水洗トイレ利用時における衛生学的安全性を担保
する上で、A 再生処理施設では、塩素注入率や残
留塩素および接触時間等の消毒効果に影響を及ぼ
す因子のモニタリングが重要であると考えられ
た。
不衛生な水を摂取
健康リスク
(DALY/人・年)
-4
4.2×10
-3
大気汚染
1.1×10
燃焼による室内空気汚染
1.0×10
喫煙
9.2×10
飲酒
7.6×10
高血圧
6.2×10
肥満
4.1×10
運動不足
4.0×10
果物や野菜不足
1.5×10
-5
-3
-3
-3
-3
-3
-3
* 出典: GLOBAL HEALT H RISKS Mortality and burden of disease attributable
to selected major risks, WHO (2009)
技術が確立されておらず、NoV の定量評価は分子生
物学的手法であるリアルタイム RT-PCR 法で行って
いるため、感染性のある NoV を直接評価することが
できません。本研究では、NoV の遺伝子量の定量値
を用い健康リスク評価を行っており、実際の感染性を
考えた際、試算結果における DALY 値よりも小さく
なると考えられ、より安全側を考慮した試算結果であ
る点に留意が必要です。
今後、下水処理水の再生水利用における目標値につ
いての議論とともに、実際のウイルス感染性を考慮し
た精度の高いリスク評価手法の構築が必要であると考
えられます。
謝 図-2各Caseにおける1人1年あたりの疫病負荷(DALY)
辞
本実態調査を実施するにあたり、A 下水再生処理
施設の管理者ならびに関係各位には多大な協力を得た
ことを感謝申し上げます。また第 51 回下水道研究発
表会にて最優秀賞の授与にあたり、研究発表会関係各
位に御礼申し上げます。
4 .今後の課題について
現在、NoV は細胞培養や動物感染試験で培養する
( 62 )
Vol.52 No.628 2015/02
「第 51 回下水道研究発表会」口頭発表セッション並びにポスター発表セッションの各賞を受賞して
口頭発表論文・優秀賞
また、国土交通省、下水道グローバルセンターなど
また、国土交通省、下水道グローバルセンターなど
の関係機関とも連携・協力して進めています。
の関係機関とも連携・協力して進めています。
口頭発表論文・優秀賞
東京都下水道局総務部
東京都下水道局 総務部
理財課財政調査担当係長
理財課財政調査担当係長
大橋 永樹 大 橋 永 樹
11
.はじめに
はじめに
このたび、第
「東
このたび、第5151回下水道研究発表会において、
回下水道研究発表会において、
「東
京下水道の国際展開について~東京の技術と経験が世
京下水道の国際展開について~東京の技術と経験が世
界に!~」
と題する発表に対し優秀賞を頂戴しました。
界に!~」
と題する発表に対し優秀賞を頂戴しました。
このような賞をいただき大変光栄に感じております。
このような賞をいただき大変光栄に感じております。
東京下水道では、約
東京下水道では、約45年前に国際展開に係る基本的
年前に国際展開に係る基本的
な考え方を整理し、その後、
「東京都下水道事業 経営
な考え方を整理し、その後、
「東京都下水道事業
経営
計画
2013」
(平成24
24年度策定)において、国際展開
年度策定)において、国際展開の
計画
2013」
(平成
推進体制と取組の 33つの柱を公表しました。
の推進体制と取組の
つの柱を公表しました。
本発表は、これに基づく東京下水道としての国際展
本発表は、これに基づく東京下水道としての国際展
開の取組に関する成果をまとめ、発表したものです。
開の取組に関する成果をまとめ、発表したものです。
以下に発表の概要についてご説明します。
以下に発表の概要についてご説明します。
2 東京下水道の国際展開の目的について
2.東京下水道の国際展開の目的について
東京下水道は、様々な都市機能が高度に集積した首
東京下水道は、様々な都市機能が高度に集積した首
都の下水道事業を通じて培った技術とノウハウを活か
都の下水道事業を通じて培った技術とノウハウを活か
し、国際展開に取り組んでいます。その目的は、
「下水
し、国際展開に取り組んでいます。その目的は、「下
道施設が未整備又は整備されていても十分に機能が発
水道施設が未整備又は整備されていても十分に機能が
揮されていない国や地域などの課題解決に寄与するこ
発揮されていない国や地域などの課題解決に寄与する
と」
、そして「下水道関連企業の海外展開を後押しする
こと」
、そして「下水道関連企業の海外展開を後押し
ことで、東京ひいては日本の下水道事業の活性化と産
することで、東京ひいては日本の下水道事業の活性化
業力の強化に貢献すること」です。
と産業力の強化に貢献すること」です。
3 国際展開の推進体制について
3.国際展開の推進体制について
東京都下水道局では、
監理団体である東京都下水道サ
東京都下水道局では、監理団体である東京都下水道
ービス株式会社(以下、
「TGS」
)と連携し、東京下
水道として一体的に国際展開を推進しています(図-
サービス株式会社(以下、
「TGS」)と連携し、東京下
1)
。当局は行政としての立場で、TGSは民間企業の
水道として一体的に国際展開を推進しています(図-
立場で必要な支援や後押しを積極的に行っています。
1)
。当局は行政としての立場で、TGS は民間企業の
TGSが民間企業としての特性を活かし、個々の案件
立場で必要な支援や後押しを積極的に行っています。
に対し機動的に対応できることが大きな特徴です。
TGS
が民間企業としての特性を活かし、個々の案件
に対し機動的に対応できることが大きな特徴です。
東京都下水道局
国内民間企業等
一体的対応
提案・入札等
東京都下水道
サービス(株)
海外下水道事業
体
4.国際展開の具体的取組
4 国際展開の具体的取組
以下に、東京下水道の国際展開に係る取組の成果を
以下に、東京下水道の国際展開に係る取組の成果を
紹介します。
紹介します。
⑴ 海外インフラ整備プロジェクトなどの推進
(1)海外インフラ整備プロジェクトなどの推進
これは、東京下水道の技術や経営ノウハウなどを活
これは、東京下水道の技術や経営ノウハウなどを活
用し、相手国・
地域のニーズに応じた下水道施設整
用し、
相手国・ 地域のニーズに応じた下水道施設整備
備計画の提案や技術指導などを行うものです。また、
計画の提案や技術指導などを行うものです。また、海
海外において PPP 手法などにより、下水道施設の建
外においてPPP手法などにより、下水道施設の建設
設から維持管理までの一括受注を目指す国内企業への
から維持管理までの一括受注を目指す国内企業への支
支援も行っています。
援も行っています。
具体例として、マレーシアでの下水道整備プロジェ
具体例として、マレーシアでの下水道整備プロジェ
クトがあります。
これは、平成 22 年に、
TGSを介し
クトがあります。これは、平成
22 年に、TGS
を介し
て住友商事株式会社から同国でのプロジェクト形成の
て住友商事株式会社から同国でのプロジェクト形成の
協力依頼があったのがきっかけです。これを受け、現
協力依頼があったのがきっかけです。これを受け、現
地調査等を行い、東京下水道がこれまで培ってきた技
地調査等を行い、東京下水道がこれまで培ってきた技
術と経験で、マレーシアの抱える課題の解決に貢献で
術と経験で、マレーシアの抱える課題の解決に貢献で
きると判断し、本プロジェクトに対して技術的な支援
きると判断し、本プロジェクトに対して技術的な支援
を行うこととしました。
を行うこととしました。
平成 25 年 12 月には、住友商事株式会社と現地企業
平成 25 年 12 月には、住友商事株式会社と現地企業
MMCのコンソーシアムが、限られた用地を最大限活
MMC のコンソーシアムが、限られた用地を最大限活
用できる深槽式反応槽をはじめとした東京下水道の技
用できる深槽式反応槽をはじめとした東京下水道の技
術やノウハウを盛り込んだ技術提案書をマレーシア政
術やノウハウを盛り込んだ技術提案書をマレーシア政
府に提出しました。
府に提出しました。
下水道研究発表会の時点では、プロジェクト実現に
下水道研究発表会の時点では、プロジェクト実現に
向けた交渉が進められていましたが、昨秋には、マレ
向けた交渉が進められていましたが、
昨秋には、
マレー
ーシア政府とコンソーシアムの間で契約合意に至り、
シア政府とコンソーシアムの間で契約合意に至り、現
現在は、当該コンソーシアムが、下水道管、ポンプ施
在は、当該コンソーシアムが、下水道管、ポンプ施設
設から1日約20万立方メートルの下水処理能力を持つ
から 1 日約 20 万立方メートルの下水処理能力を持つ
下水処理場にいたるまでの下水道システム全体を整備
下水処理場にいたるまでの下水道システム全体を整備
するプロジェクトを進めています。
するプロジェクトを進めています(図- 2)
。
図-2 プロジェクト対象地区の場所
1 東京下水道における
図-1図-
東京下水道における国際展開の推進体制
国際展開の推進体制
図- 2 プロジェクト対象地区の場所
( 63 )
Vol.52 No.628 2015/02
下 水 道 協 会 誌
⑵ 個別技術の海外展開
催されることが決定しています。当局では、日本下水
これは、現場の創意工夫から生まれ、高度な技術に
よって確立した東京発の技術である、水面制御装置、
道協会などの関係団体とともに、同会議の開催準備を
進めています。
SPR 工法、フロートレス工法などの海外展開を推進
するものです。
合流式下水道の改善を図る水面制御装置は、
ドイツ、
韓国及び米国の企業とライセンス契約を締結してお
り、既に海外 14 か所で設置されています。下水道管
の更生工法である SPR 工法は、これまでにシンガポー
ル、韓国など 13 か国で 9 万 6 千メートル施工されて
います。また、大地震の際、マンホールの浮上を抑制
するフロートレス工法は、ニュージーランドの企業に
対して技術供与の支援を行っており、現地で試験施工
がなされています(写真- 1)
。
写真- 2 海外政府高官による
再生水造水施設の視察
5.今後の取組について
東京下水道では、上述のとおり国際展開の様々な取
組を行っています。今後の取組については、当面、現
在展開しているマレーシアでのプロジェクトを成功さ
写真- 1 フロートレス工法現場視察の様子
⑶ 人材交流と情報ネットワークの強化
これは、海外からの視察受入等の人材交流を通じ、
下水道維持管理技術の普及などに貢献するものです。
海外からの視察や研修の受入では、アジアを中心に
毎年数千人が東京の下水道施設を訪れており(写真-
2)
、平成 24 年度は、36 の国と地域から 2,533 人の受
入実績があります。
この他、米国水環境連盟(WEF)の年次総会や、
国際水協会(IWA)の関連会議に職員が参加し、論
文発表や意見交換を行うことを通じ、情報ネットワー
クの強化を図っています。
なお、2018 年 IWA 世界会議・展示会は、東京で開
せることを第一に進めていきます。東京下水道の技術
やノウハウを現地に導入し、確実に根付かせていきた
いと考えています。また、引き続きあらゆる機会を捉
え、東京発の技術やノウハウの PR に努めていきます。
東京下水道は、
下水道業界のトップランナーとして、
関係機関等と連携し、施策を着実に進めることで、世
界の水環境の改善に寄与するとともに、日本の下水道
事業の活性化と産業力の強化に貢献していきます。
謝辞
最後になりましたが、本件は、東京都下水道局及び
監理団体である東京都下水道サービス㈱による、東京
下水道としてのこれまでの国際展開の成果をまとめ、
発表したものです。関係者の皆様に、この場を借りて
御礼申し上げます。
また、下水道事業をここまで育て、東京そして日本
の技術を海外で通用するレベルにまでしてくださった
先輩方のご努力に感謝いたします。
―・―・―・―・―・―・―
( 64 )
Vol.52 No.628 2015/02
「第 51 回下水道研究発表会」口頭発表セッション並びにポスター発表セッションの各賞を受賞して
口頭発表論文・優秀賞
口頭発表論文・優秀賞
公益財団法人
公益財団法人
日本下水道新技術機構
日本下水道新技術機構
研究第二部
研究第二部
佐藤公俊
佐 藤 公 俊
1 .はじめに
1.はじめに
このたび、第 51 回下水道研究発表会口頭発表セッ
このたび,第 51 回下水道研究発表会口頭発表セ
ションにおいて、
“斜坑管接続が連続する雨水増補幹
ッションにおいて、” 斜坑管接続が連続する雨水増
線における排気対策に関する調査研究”と題して発表
補幹線における排気対策に関する調査研究“と題し
した論文で優秀賞を頂きました。本発表は、2 カ年を
発表した内容で優秀賞を頂きました。本発表は,2
掛けて、大深度(地表面下約 20m)での斜坑管接続
カ年を掛けて,大深度(地表面下約
20m)での斜坑
方式について、これまで知られていなかった水理特性
管接続方式について,これまで知られていなかった
及び排気特性を水理模型実験で検証・検討したものの
うち、排気特性やその対策を中心に取りまとめたもの
水理特性及び排気特性を水理模型実験で検証・検討
です。
したもののうち,排気特性やその対策を中心に取り
まとめたものです。
(2)模型の概要
⑵ 模型の概要
模型再現範囲は、段波の遡上や満管移行時等の急
模型再現範囲は、段波の遡上や満管移行時等の急激
激な空気塊の移動を考慮した排気対策、斜坑管によ
な空気塊の移動を考慮した排気対策、斜坑管による連
る連行空気量を考慮した上流側での排気対策、会合
行空気量を考慮した上流側での排気対策、会合部での
部での圧縮空気塊発生の可能性、人孔部への管内エ
圧縮空気塊発生の可能性、人孔部への管内エアの急激
な排出や水面搖動の可能性の検討が可能となる範囲を
アの急激な排出や水面搖動の可能性の検討が可能と
設定した。
(図- 1 の点線囲い部)
なる範囲を設定した。
(図 1 の点線囲い部)
模型縮尺は、流れと空気の挙動の再現性の確保、施
模型縮尺は、流れと空気の挙動の再現性の確保、
設規模等を踏まえ 1/23.75 とした。水理模型の模式図
施設規模等を踏まえ 1/23.75 とした。水理模型の模
を図- 2 に示す。
式図を図 2 に示す。
2.発表の概要
本発表の概要を簡単に説明します。
図
2 2 水理模型の模式図
水理模型の模式図
図-
2.発表の概要
本発表の概要を簡単に説明します。
⑴ 調査背景及び目的
⑶ 検討結果
現在、広島市が整備を進めている A 増補幹線(図
(1)調査背景及び目的
- 1)では、既設幹線から増補幹線への流入接続方式
として、複数箇所で斜坑管接続方式が採用されている。
現在、広島市が整備を進めているA増補幹線(図
しかし、斜坑管は排気が集中すると、空気や水が逆流・
1)では,既設幹線から増補幹線への流入接続方式
噴出するというリスクを有しているため、同方式を採
として,複数箇所で斜坑管接続方式が採用されてい
用する場合には、これらの対策を考慮した専用の排気
る。しかし,斜坑管は排気が集中すると,空気や水
施設等の対策が必要となる。そこで本研究では、A
が逆流・噴出するというリスクを有しているため、
増補幹線における排気施設の必要性を確認するため、
同方式を採用する場合には、これらの対策を考慮し
A 増補幹線の一部区間を再現した水理模型実験を実
た専用の排気施設等の対策が必要となる。そこで本
施し、必要な安全対策を提案するとともに、その対策
研究では、A増補幹線における排気施設の必要性を
効果を確認した。
確認するため,A増補幹線の一部区間を再現した水
理模型実験を実施し,必要な安全対策を提案すると
ともに,その対策効果を確認した。
図- 1 A 増補幹線の概要
(
図 1 A増補幹線の概要
(3)検討結果
1)原案形状の検証と原因の考察
1)原案形状の検証と原因の考察
原案形状での各整備段階における流況を検証した結
果、現在供用開始されている施設では、斜坑管からの
原案形状での各整備段階における流況を検証した
水塊と空気の顕著な噴出現象は生じない。しかし、将
結果,現在供用開始されている施設では,斜坑管か
来整備と進めると、流量ハイドロがピークとなる付近
らの水塊と空気の顕著な噴出現象は生じない。しか
で幹線が満管になると残留空気が滞留し易く、斜坑管
し,将来整備と進めると,流量ハイドロがピークと
からの顕著な水塊と空気の噴出現象が生じる可能性が
なる付近で幹線が満管になると残留空気が滞留し易
あり、原案形状は以下の 3 つの課題を有していること
く,斜坑管からの顕著な水塊と空気の噴出現象が生
が判明した。
じる可能性があり,原案形状は以下の
3 つの課題を
①下流ポンプ場からの段波遡上により残留空気が圧縮
有していることが判明した。
され水塊及び残留空気が噴出する。
②段波遡上後、幹線内の残留空気が動水圧により圧縮
①下流ポンプ場からの段波遡上により残留空気が圧
され水塊及び残留空気が噴出する。
縮され水塊及び残留空気が噴出する。
③斜坑管内に残留している空気が動水圧により圧縮さ
②段波遡上後,幹線内の残留空気が動水圧により圧
れ水塊及び残留空気が噴出する。
縮され水塊及び残留空気が噴出する。
2)
対策案の検討と効果検証
③斜坑管内に残留している空気が動水圧により圧縮
以上の課題を踏まえ、複数の対策案について水理模
され水塊及び残留空気が噴出する。
型実験で効果検証を行い、最適案を決定した。
2)a)最下流に位置する斜坑管への対策
対策案の検討と効果検証
以上の課題を踏まえ,複数の対策案について水理
最下流に位置する斜坑管は、その下流側の増補ポン
模型実験で効果検証を行い,最適案を決定した。
プ場までの区間に滞留した空気が、段波の遡上等によ
り逆流し排気が集中する危険箇所と言える。
a)最下流に位置する斜坑管への対策
そこで、図- 3 に示すような垂れ壁を直下に設置し
最下流に位置する斜坑管は,その下流側の増補ポ
て移動する空気を捕捉し、排気人孔で排気するものと
ンプ場までの区間に滞留した空気が,段波の遡上等
した。施設規模は、最下流斜坑管直下の 2 箇所に垂れ
により逆流し排気が集中する危険箇所と言える。
壁及び排気人孔を設置するとことで、水塊及び空気の
そこで,図 3 に示すような垂れ壁を直下に設置し
噴出を解消することが可能となった。
て移動する空気を捕捉し,排気人孔で排気するもの
とした。施設規模は,最下流斜坑管直下の 2 箇所に
65 垂れ壁及び排気人孔を設置するとことで,水塊及び
)
空気の噴出を解消することが可能となった。
Vol.52 No.628 2015/02
下 水 道 協 会 誌
排気口となり、人孔飛散等の甚大な被害を生じる可能
性があり、このような水理模型実験で排気対策を検討
することは有用であることを確認した。
また、広島市において今後、2 工区、3 工区を整備
するにあたり、必要となる対策を提示することで、今
後の事業実施に有用な情報提供を行うことが可能と
なった。
3.論文作成及び論文発表について
今回の受賞は、論文と発表の両面からの審査による
ものですが、論文作成及び論文発表にあたり留意した
事項は以下のとおりです。
⑴ テーマ選定
研究を行った複数あるテーマのうち、以下の事項を
図- 3 垂れ壁の概要
b)上流側に連続する斜坑管への対策
斜坑管は流入量と同程度の空気が連行されることか
ら、上流側に連続する斜坑管では、これらの連行空気
重視しテーマを決定した。
➢ 簡易な創意工夫で効果が向上する技術
➢ 対策を行うことで安全性が向上する技術
➢ 将来的に需要が高まると予想される技術
が圧縮され水塊及び空気が噴出する可能性がある。こ
の対策として、図- 4、図- 5 に示すように、各斜坑
管の上下流側に空気孔付き(φ 100mm)垂れ壁を設
置することで、水塊及び空気の噴出を解消することが
可能となった。
⑵ 論文作成
限られた原稿 3 枚(A4)の紙面の中で、背景から
結論までのロジックが繋がっているかを重視しなが
ら、簡潔にポイントを掻い摘んで整理した。
また、投稿前には、業務関係者以外の方にも査読を
依頼し、客観的な意見を反映した。
⑶ 論文発表
プレゼンテーション資料は、極力小さい文字等は避
け、動画を活用するなど会場の聴講者に解りやすい資
料づくりを心掛けた。発表は、自分が会場内で一番内
容を周知しているんだと言い聞かせ、自信を持って発
表した。
4.おわりに
今回の成果は、今後、施工条件が厳しく斜坑管接続
方式を採用せざるを得なくなった際に、留意すべき重
要な事項を提示できたと自負しております。
同様のケースでお困りの際に、この成果を有効活用
して頂ければ幸いです。
図- 4 空気孔付き垂れ壁の概要
図- 5 対策工の配置イメージ
⑷ まとめ
斜坑管接続は施工性に優れる一方で、斜坑管自体が
謝辞
最後になりましたが、このたびは、優秀賞を授与頂
き、誠にありがとうございました。下水道研究発表会
開催従事者、座長、質問等頂いた皆さまに厚く御礼申
し上げます。
また、本論文の連名者でも有り、論文発表にも理解
を頂きました広島市様、模型製作をフォロー頂いた㈱
建設技術研究所様に改めてこの場を借りて心より感謝
申し上げます。
( 66 )
Vol.52 No.628 2015/02
「第 51 回下水道研究発表会」口頭発表セッション並びにポスター発表セッションの各賞を受賞して
口頭発表論文・優秀賞
とが判明しました。このような課題を各部門の職員が
共通認識を持つことができたため、本市下水道が抱え
る課題の全体像が明らかとなり、何から解決していく
べきかが共有されました。
2 点目は、水害や雪害などへの転用です。本計画を
市川市 水と緑の部
河川・下水道計画課
検討段階において、平成 25 年 10 月の台風 26 号や、
平成 26 年 2 月の記録的な大雪時に、災害対応業務が
仙 波 俊 郎
1 .はじめに
発生しました。この時は、公共交通機関の麻痺により
今回、「下水道 BCP 策定による効果」について研究
発表させていただいたところ、口頭発表部門で優秀賞
職員の参集に影響が生じただけでなく、20 年ぶりの
大規模な浸水被害や記録的な積雪により、職員の災害
をいただき、素直に驚きと喜びを感じています。
ここに至るまでの経緯について簡単に紹介させてい
対応能力の不足が大きな課題となりました。このよう
な困難な状況における職員の参集、必要となる資材の
ただきますと、私は市川市役所に入庁して 18 年目に
あたる昨年の人事異動によって初めて下水道業務に携
調達や機材の取り扱い等については、本 BCP を通じ
て下水道以外の災害対応にも転用できる可能性があり
わることとなりました。下水道について、一から学ば
ます。
なくてはと思っていた矢先、「自治体 BCP の策定にあ
わせて下水道 BCP を策定せよ」とのトップダウンが
見方を変えれば、大規模地震より発生頻度が高い水
害や雪害での対応において生じた課題を、本 BCP に
下りてきました。しかも突然のことに予算化をしてお
らず、直営作業という過酷な条件によって文字通り手
フィードバックさせることで、本計画の精度や実効性
の向上につながることが期待されます。
探り状態で作業を進めることとなりました。
下水道の計画、整備、管理の 3 部門の職員を集めて
このような下水道 BCP の策定プロセスを通じて、
下水道業務全体のリスクマネジメントに大きな影響を
の検討作業は、当初、とてつもなく大変になるものだ
及ぼしました。
と相当の覚悟をしていました。しかし、実際に検討作
業を進めていくと、立場は違えども同じ目的意識を
3.口頭発表のポイント
持った前向きな職員の協力によって想定外に円滑に進
みました。
当初、論文作成にあたっては、このような直営作業
による合意形成についてまとめようと思っていまし
た。しかし、検討プロセスを見つめ直すうちに、ここ
に多くのお宝が隠されていることに気付きました。こ
私 が 発 表 し た 部 門 は 特 定 課 題 セ ッションである
「BCP・リスクマネジメント」でしたが、既に多くの
自治体でより精度の高い計画が策定されているなか、
手作りの計画について報告するのは些か気後れしてい
ました。
そこで、直営作業による検討プロセスによって、災
のような経緯により、今回の研究発表会では、お宝、
つまり本市下水道業務全体のリスクマネジメントに影
響するような副次的な効果について述べさせていただ
くことになりました。
害時の対応能力の向上といった本来の成果とは別に、
職員の危機管理意識の向上につながるような効果が得
られたという切り口で報告をさせていただきました。
既に全国的な問題となっていますが、本市において
も人口減少や都市基盤の老朽化など、行政課題が山積
する中において、下水道施設の耐震化など十分なハー
ド対応はなかなか出来ない状況にあります。このよう
な状況下においては、被害を最小限にとどめていくた
め、
職員の災害対応能力の向上などが有効となります。
そういう点からも、本 BCP の策定による効果につい
て、お伝いできたかと思います。
裏話となりますが、今回、市川市から下水道初心者
が一人で大阪アカデミアに向かったのですが、極度の
不安と緊張を払拭させるために発表冒頭で少しウケを
狙ったのですが、完全に外してしまって、残る 9 分
30 秒をどう説明したか覚えてないくらい頭が真っ白
になってしまいました。でも、実はこの空白の時間が
受賞の評価ポイントだったかも…と勝手に考えている
ところです。
2.発表の概要
下水道 BCP の検討プロセスによって、災害時の対
応能力向上といった本来の成果とは別に、大きく 2 点
の副次的な効果が得られました。
1 点目は、検討作業で抽出された弱点の顕在化と共
有化です。作業段階では予想以上の課題が抽出されま
した。例えば、本市の管路の台帳は、耐震化が図られ
ていない庁舎に紙ベースで保管しているため、仮に、
被災した場合には、被災状況の調査等に多大な時間を
要するだけでなく、応援職員が派遣された場合におい
ても、円滑な支援活動の着手に繋がらないことが判明
しました。
また、老朽化が著しいポンプ場は電力供給の停止に
は対応できるものの、上水道の供給停止により、非循
環系の冷却装置が故に機能不全に陥る可能性があるこ
( 67 )
見方を変えれば、大規模地震より発生頻度が高い水害や雪害での対応において生じ
た課題を、本BCPにフィードバックさせることで、本計画の精度や実効性の向上に
つながることが期待されます。
さらに、このような下水道BCPの策定プロセスを通じて、下水道業務全体のリス
Vol.52 No.628 2015/02
クマネジメントに大きな影響を及ぼしました。
下 水 道 協 会 誌
4.おわりに
私は下水道業務の経験が浅いため、関係者の皆様に
は大変申し訳ないのですが、下水道研究発表会がこの
ような盛大なものだと思ってもみないなか、私のよう
と思いますが、今回の受賞を糧に乗り越えていきたい
と思います。
先般、国土交通省から改めて下水道 BCP の早期策
定について示されたところでありますが、本市のよう
な新参者の発表が優秀賞をいただいたことは本当に恐
縮の極みです。しかし、市川市の取り組みが客観的に
このような評価をいただいたことは、今後の本市の下
水道経営に向かって大いなる励みとなりました。
本市の下水道は、外環道路等の道路事業に合わせて
整備を進めてきた千葉県の流域下水道幹線が間もなく
供用開始となることから、未普及対策が再び大きく動
き出そうとしています。しかし、これに合わせて老朽
化対策、浸水対策そして地震対策が求められるなど、
多くの行政課題が山積するなかで下水道施設に求めら
れる役割はますます多様化していきます。このような
状況の下、途中で心が折れそうになることがあろうか
な自治体においても、直営作業でも計画が策定できた
ことや、それによる十分な成果が挙がっておりますの
で、今後、全国で BCP の策定が加速することを願っ
ております。
謝辞
最後になりましたが、下水道研究発表会関係者、座
長をはじめ拝聴いただいた方やご助言をいただいた
方、そして本市下水道 BCP 策定メンバーなど全ての
皆様にこの場を借りて心より感謝申し上げます。
―・―・―・―・―・―・―
( 68 )
Vol.52 No.628 2015/02
「第 51 回下水道研究発表会」口頭発表セッション並びにポスター発表セッションの各賞を受賞して
口頭発表論文・優秀賞
エネ効果が高いことを確認しました。酸素移動効率が
高いことから、必要な酸素量を供給するための曝気風
量を従来方式から大幅に削減でき、曝気ブロワ等の送
メタウォーター株式会社
プラントエンジニアリング事業本部
水再生技術部 第二グループ
風エネルギーの削減や設備の縮小ができると考えま
す。
また、駆動装置が槽上に設けられており、水中部の
撹拌翼や散気体については、反応タンクの汚水流入を
西 脇 淳 也
1 .はじめに
止めずに槽上への吊上げ点検・再設置ができることか
この度、第 51 回下水道発表会「省エネ型高効率エ
アレータの深槽反応タンクへの適用」と題する発表に
ら、維持管理が容易であることを確認しました。
以上から、深槽反応タンクへ本省エネ型高効率エア
ついて、口頭発表論文・優秀賞を頂き、大変光栄です。
近年、下水処理施設の消費動力量に占める割合が大
レータを適用することは、下水処理施設の消費動力削
減、維持管理性の向上のために、今後有効な手段の一
きい曝気ブロワ、脱臭ファン等の送風動力の削減が大
きな課題となっています。従来、好気タンクで生物処
つになると考えます。
理に必要な酸素供給や汚泥沈降防止の曝気撹拌は、送
3 .論文作成・口頭発表のポイント
風機から散気装置へ供給される空気により行われてお
り、臭気処理を含め、送風機が占める電力消費量は非
限られた発表時間の中で、いかに分かりやすく資料
を取りまとめ説明するかを心掛けました。
常に大きいものとなっています。
そこで、下水反応タンク設備の送風エネルギーの削
各種性能検証結果を説明するにあたり、装置の特長
や槽内流動状況を把握頂くと分かりやすいと考え、冒
減を目指し、従来方式の 2 ~ 3 倍の酸素移動効率を有
する省エネ型高効率エアレータを新たに開発しまし
頭の装置概要の説明の中に装置図だけでなく、装置の
動きが分かる動画を盛り込み、説明を行いました。ま
た。
た、各種性能検証結果グラフは、清水実証値と汚水実
2 .発表の概要
証値を全グラフ共通の色で表現し、一目で分かりやす
いように結果を取りまとめました。
本装置については、2011 年度に清水検証結果に基
づき、
(公財)日本下水道新技術機構 建設技術審査証
明を取得し、その後、京都市伏見水環境保全センター
殿の深槽反応タンク 1 区画に汚水実証設備を建設し、
約 1 年間の汚水運転を実施しました。その長期運転性
能と維持管理性の検証結果について発表いたしまし
説明のポイントを整理し、時間内に収まるように、
かつ重要なポイントが印象に残りやすいように、何度
も発表練習を行いました。
発表後、多くの方から技術的な質問を頂き、本発表
内容に興味をもって頂けたのではないかと感じていま
す。
た。
本装置は、水槽容積及び汚水・清水によらず、従来
方式の 2 ~ 3 倍となる 40 ~ 70%の酸素移動効率を有
し、好気運転時、嫌気運転時ともに、汚泥沈降防止に
必要とされる 0.1m/s 以上の底部流速が得られること
を検証しました。従来機種と比べて、撹拌動力を好気
運転時は約 60%、嫌気運転時は約 80%削減でき、省
4 .おわりに
今回発表致しました汚水実証試験にあたり、汚水実
証フィールドを提供頂き、多大なるご協力を頂きまし
た京都市上下水道局の皆様、伏見水環境保全センター
の皆様、ならびに本省エネ型高効率エアレータの開発
にご尽力された皆様に感謝の意を表します。
―・―・―・―・―・―・―
( 69 )
Vol.52 No.628 2015/02
下 水 道 協 会 誌
口頭発表論文・優秀賞
北九州市 上下水道局
下水道部 施設課 維持係
山 口 英 彦
1 .はじめに
この度、「第 51 回下水道研究発表会 口頭発表セッ
ション」におきまして、優秀賞を授与いただき、厚く
写真- 1 ポンプ場現地調査
御礼を申し上げます。このような賞を頂き、大変、驚
いております。
・維持管理は、故障・トラブル等があったら対応する
という事後保全で行われ、機器点検等は行われてい
今回の研究発表会では、北九州市の国際技術協力活
動のひとつである「ベトナム・ハイフォン市における
ない
・維持管理に関する資料の整備状況は、運転日誌はあ
技術交流~ポンプ場の効率的な維持管理」について、
るが、設計資料、運転マニュアル、図面、機器台帳、
発表させて頂きました。限られた期間での慣れない海
外業務でしたが、度重なる交流の中で、ハイフォン市
点検簿、故障及び修繕履歴簿はない
・現地の実務者に維持管理の概念が欠落していた
の皆さんと信頼関係を築くことができ、多くの良い経
験を積むことが出来ました。
・ポンプ場が機能停止となっても、市民生活にとって
大きな問題ではないという雰囲気があった
2.本技術交流の背景
・点検を行っていないので、状況によっては人身事故
や火災の危険性がある
ベトナム・ハイフォン市は人口約 190 万人を有する
以上の課題を改善するための対策として、①維持管
ベトナム第 3 の都市であり、ベトナム北部の国際港湾
都市として発展しています。日系工業団地などが集積
理ガイドラインの作成はワークショップ形式の採用に
より現地実務者と共同で行うことで現地実務者の議論
し、本市地場企業の関心も高いことから、北九州市と
ハイフォン市は、平成 21 年に 5 年間の友好・協力協
定を締結し、下水道分野においても、ハイフォン市の
下水道事業を担うハイフォン下水道排水公社(以下、
SADCO)と「下水道分野における技術協力・交流に
関する覚書」を平成 22 年 11 月に締結しました。
参加を重視する、②作成した維持管理ガイドラインを
モデルポンプ場で試行することで水平展開を容易にす
る、方針としました。また、議論の際は、ブレインス
トーミングの手法を取り入れる事で、一方的な講義に
比べより理解を深める事を狙いました。
ワークショップでは先ず、
「維持管理ガイドライン」
ハ イ フ ォ ン 市 の 年 間 降 水 量 は 1,650mm か ら
1,800mm 程度ですが、市街地の雨水排水能力が低い
ため床上浸水等の被害が頻発しています。また下水処
理場が未整備のため汚水は全て公共用水域に直接放流
され、河川や海域の水質悪化が懸念されています。こ
れを受け、現在実施中の円借款を活用した都市整備事
業の一環として、ハイフォン市初の下水処理場の建設
に着手したところです。このため、供用開始時に下水
処理場の運転や維持管理を担う事となる SADCO 職
員の人材育成が、喫緊の課題となっていました。
これを受けて、将来の下水処理場の維持管理を考慮
し、現地ポンプ場の維持管理を目的とした「維持管理
ガイドライン」の作成を目標として活動を開始しまし
た。
の完成イメージを提示しました。これを用いて実務者
が理解しやすいように ①維持管理の目的、②点検項
目・整備基準の考え方、③機器台帳、④トラブル対処
法、⑤将来的な展開、という構成で議論を進めました。
具体的な様式や台帳等の作成は、北九州市が実際に使
用しているものをサンプルとし、現地の実務者が実情
にあった形に作り変えるという方法で実施しました。
最後に、ガイドラインの素案の段階で、モデルポンプ
場において実務者と本市職員が共同で実作業を行い、
ガイドラインの内容確認を行うこととしました(図-
1)。
以上の活動の結果、①整備基準に基づく点検で故障
の早期発見が出来るようになり常に良好な状態を保つ
事を意識するようになった、②緊急時の対処方法をマ
ニュアル化する事で迅速な対応が可能となり対処ノウ
ハウを蓄積する仕組みができた、③関係者で成果を共
有することが出来る様になり誰もが同じレベルで作業
可能となった、④技術交流で習得した技術やノウハウ
を他のポンプ場や新下水処理場も視野に入れて水平展
開していく方法を確立した、等の成果を得ることが出
3.発表の概要
平成 24 年 5 月にハイフォン市を訪問し、ポンプ場
維持管理の状況を現地調査し、以下の点を把握しまし
た(写真- 1)
。
( 70 )
Vol.52 No.628 2015/02
「第 51 回下水道研究発表会」口頭発表セッション並びにポスター発表セッションの各賞を受賞して
研究会」を、
年 4 回開催しています。この活動の中で、
データの分析、プレゼンテーション資料の作成、実際
の発表から質疑応答など、一連の作業を年に最低 1 回
は経験することが出来ます。今回の下水道研究発表会
での発表についても、事前に発表練習を行った際に多
くの指摘を受けたことで、本番の準備を充分に行うこ
とができ、今回の優秀賞の受賞に繋がったと感じてい
ます。
以上の様な経験から発表に際し、私が特に気を付け
た点は、①プレゼンテーション資料は実際に行った業
務の通りの順番で作成し説明だけでなく理解もしやす
い内容とする、②想定質問や回答を多く作成し本番の
質疑応答を活発なものとする、
などです。今回は特に、
ハイフォン市での活動に一緒に参加した本市の職員に
図- 1 ワークショップ実施フロー
想定質問について多くの意見を貰い、たくさんの回答
を用意して本番に臨むことができ、更に発表の場で多
来ました。私個人としては、技術協力終盤に現地ポン
くの御質問を頂いたおかげで、大変有意義な議論が出
プ場を訪れた際に、整理整頓が実施されたり、点検簿
や故障報告書が作成されているのを確認し、通常業務
来たと感じています。
とは違った達成感を得ることが出来ました。また活動
を通して、我々自身にとっても維持管理が重要である
5.終りに
本市とハイフォン市とのポンプ場の維持管理に関す
ことに改めて気付かされ、真摯に考える切っ掛けとな
りました。これらの経験は、本市が受入れている海外
研修生向けの国際研修のテキストにもフィードバック
させており、研修講師を担当する我々職員の知識の底
上げにも繋がっています(写真- 2)
。
る技術協力は、今回の活動で一旦、終了することとな
りました。しかし、姉妹都市であるハイフォン市は現
在も下水道整備を進行させており、本市も下水道に関
する技術協力を継続的に実施していこうと考えていま
す。平成 26 年 8 月に採択された JICA 草の根技術協
写真- 2 実演指導の様子
我々の活動を含め、北九州市とハイフォン市との友
好・協力協定は昨年で 5 年の期限を迎えましたが、こ
れまで活発な交流を重ねて良好な関係を築いてきたこ
とから、平成 26 年 4 月、現在の関係をさらに発展さ
せた姉妹都市協定を締結するまでに発展しました。
4.発表について
私の所属する下水道施設担当部署では、安定的かつ
持続的に下水道事業を運営していくうえで不可欠とな
る人材の育成に取り組んでいます。取り組みの手法と
しては、日常業務で発生する課題の解決や継承すべき
技術やノウハウの抽出を目的に、水処理・汚泥処理や
新技術導入、事業の事前・事後評価などを対象とした
分科会に分かれて研究・検証を行い発表する「水処理
力事業「ハイフォン市下水道維持管理能力向上プロ
ジェクト」の実施に向けた覚書を、本年 10 月に本市
上下水道局と SADCO との間で締結したところです。
これを受けて今後は、「下水道管渠の効率的な維持管
理」についても「ポンプ場の維持管理」と同様に、ガ
イドラインの作成に取り組む予定です。
私にとっても今回、初めて下水道技術研究発表会に
参加し、海外での業務について発表したことは、大変、
良い経験となりました。発表に臨むに当りハイォン市
での活動について改めて見直し、
整理することができ、
本当に下水道技術研究発表会に参加して良かったと感
じています。今後は、再度の参加を目標に、日常業務
の中で発表に値するようなテーマを発掘できる様に、
意識して行きたいと思います。
謝辞
最後に、発表を聞いてくださった皆様、御質問を頂
いた多くの皆様に感謝を申し上げます。特に、質疑の
際の議論を活発なものにして頂いた、座長の日本下水
道事業団 藤本 裕之 様には改めて御礼を申し上げま
す。また、本活動で成果を得ることが出来たのは、本
市の下水道をこれまで築いてこられた多くの先輩方や
関係者の皆様のおかげと感謝しております。
( 71 )
Vol.52 No.628 2015/02
下 水 道 協 会 誌
「第 51 回下水道研究発表会」ポスター発表・最優秀賞を受賞して
東京大学大学院 新領域創成科学研究科
社会文化環境学専攻
佐 藤 弘 泰
1 .は じ め に
この度の受賞にあたり大変光栄に感じております。
発表のタイトルは、
「管路内での間欠接触酸化によ
る下水処理特性の評価」であり、管路内で下水を処理
するという研究です。東京大学と積水化学工業株式会
社(以下積水化学)の共同研究であり、積水化学の松
坂勝雄および松原善治が主として浄化機能を付与した
新型下水管の開発と試験装置の設計・製作を担当し、
東京大学の庄司仁および私が水質分析や浄化機構の解
析を担当しました。また、当日発表は私でしたが、ポ
スターデザインは主に庄司によるものです。今回の下
水道研究発表会ではこのポスター発表に加え、松坂か
ら「管路内での間欠接触酸化による下水処理技術の開
発」という口頭発表をしました。4 名の代表として、
受賞にあたっての謝意を述べさせていただきます。
主たる成果は「流すだけで下水を浄化できる新型下
水管が開発された」という点につきます。新型下水管
は管長 1 メートルあたり 10 〜 20g /日の BOD を除
去でき、また、実際その程度の量の酸素が下水管内で
消費されていることを確認したというのが主要な結果
です。一人当たりの BOD 負荷を管長 5m 前後で処理
できる性能に相当します。しかも、酸素を供給するた
めに動力は用いません。
講演集に収録されている論文では、有機成分の分子
量分布の変化について主として報告しておりますが、
会場での説明では主に新型下水管で導入した浄化の原
理と、この技術のもつ可能性について説明するよう心
がけました。ここでもそれら 2 点について紹介させて
いただきます。
2 .下水管内での水質浄化の原理
今回評価した新型下水管は図- 1 のような二段構造
になっており、流下性能を確保するための流下部の下
に水質浄化を促進するための浄化部が設けられていま
す。また、流下部の側面には穴が開けられており、流
下部内の水位が上昇するとそこから浄化部に水が溢れ
図- 1 新型下水管の構造
るようになっています。下水は、流量が少ない時には
流下部のみを流下し、また、流量が多くなった時だけ
流下部から溢れて浄化部に入りさらに下流へと流下し
ていきます。流量が少なく溢流がないときには、浄化
部は湿潤ではあるものの水のない状態になります。
下水管にもっとも求められる流下性能は流下部によ
り確保されます。粗大物が下水管に入ってきたとして
も、基本的には流下部を流下します。
一方浄化は浄化部に仕込まれたスポンジ担体に生息
する微生物の働きによります。スポンジ担体があるた
めに、通常の下水管の管壁よりも多くの微生物が管内
に生息することができます。しかし、微生物を保持す
るだけでは浄化を進めることはできません。微生物に
酸素を十分に供給し、下水に含まれる BOD を分解さ
せる必要があります。新型下水管では、微生物への酸
素供給のために、次に述べる二つの原理を利用してい
ます。
一つ目は、下水が流下部から浄化部に落ちるときに
水と空気が接触する面積が大きくなりますから、それ
によって空気中の酸素の水中への溶解が促進されま
す。つまり、物理化学的な再曝気効果です。いわば、
散水ろ床を平たくしたようなものです。
もう一つの効果は、
発表の表題にも使われている
「間
欠接触酸化法」の原理です。間欠接触酸化法というの
は我々の造語ですが、微生物を下水と空気に交互に晒
すことで下水中の有機物を微生物の働きにより酸化分
解しようというものです。浄化部のスポンジ担体に生
息する微生物は、流量が多いときには流下部からの溢
( 72 )
Vol.52 No.628 2015/02
「第 51 回下水道研究発表会」口頭発表セッション並びにポスター発表セッションの各賞を受賞して
流により下水に接触しますが、流量が低下し溢流がな
くなると管内の空気にさらされます。微生物が下水に
接触している間に下水中の有機物を摂取してくれれ
ば、下水は浄化されます。しかし、その時には除去さ
れた有機物の大部分は微生物の体内あるいは細胞内に
蓄積されているにすぎません。一方、下水の流量が低
下すれば、スポンジ担体は空気に直接さらされますか
ら、空気中の酸素が速やかに微生物に供給されるよう
になります。そうなると、微生物は体内・細胞内に蓄
積した有機物を酸化的に利用できます。間欠接触酸化
法という名称は、微生物を下水と空気に交互に接触さ
せることからきています。
間欠接触酸化法は全く新しい下水処理の原理という
わけではありません。というのは、回転円板法は微生
物膜を下水と空気に交互に接触させています。また、
微生物による有機物の蓄積を活用した活性汚泥法は、
セレクター付活性汚泥法やコンタクトスタビライゼー
ション法、嫌気好気式活性汚泥法など知られています。
新型下水管では、すでに知られている原理を間欠接触
酸化法としてあらためて捉え直し、下水管内での下水
流量の変動に対して応用しました。
3 .下水管内での下水浄化の将来性
下水管を流すだけで下水を処理できたら…。そんな
「もしも」のことを考えるのは早すぎるかもしれませ
んが、ポスターではそこも強調しました。特に強調し
たのは水循環への寄与です。
下水管内を流下する下水の水質は今日よりも格段に
良くなるでしょうから、サテライト処理場に求められ
る性能は大幅に低減されるでしょう。そうなれば、サ
テライト処理場の建設費が低減し、あちこちにサテラ
イト処理場が建設され、処理水の再利用が促進される
だろうと考えられます(図- 2)。サテライト処理場は、
要求される水質に応じて沈殿または凝集沈殿+消毒程
度の簡易なものから膜分離活性汚泥法や紫外線消毒、
オゾン処理といった高度な技術まで様々なものと組み
合わせることができるでしょう。下水を中継するため
のポンプ場を廃してそのかわりにサテライト処理場を
設けて処理水を放流すれば、ポンプ代の節約にもなり
ます。
電力を必要としない点、また、下水処理場がなんら
かの事情で稼働停止に陥った場合にも下水管内でそこ
そこの処理が行われるので緊急処理の負担を軽減でき
る点も、日本の置かれている状況にあっています。ま
た、近い将来のことを考えれば人口減少により一人あ
たりの管路長は増加すると考えられます。
バイオマスエネルギーの回収に向かなそうな点は弱
点として挙げられますが、バイオマスエネルギーの回
収が技術的に不利な地域では有望な選択肢の一つにな
ると期待できます。
また、発展途上国の大都市に下水道を導入するとき
にも、最初は末端部の管と簡易な処理施設の建設、そ
して経済力がついてきたら遮集管の建設や処理場の
アップグレード、というように段階を追って導入する
ことができます。下水管内での処理は電力を必要とし
ないという点も、発展途上国に向いています。
4 .終 わ り に
今回、下水管内での下水浄化という前例のない技術
提案をあたたかく受け入れていただけたのは、災害リ
スクやエネルギー制約、人口減少といった多くの課題
が突きつけられている裏返しであるとも思います。通
常の発想だけでは対応しきれないから、これまでと違
う新しい発想が求められているのでしょう。そこにう
まくはまったのかもしれません。
振り返ってみれば、2011 年 3 月に東日本大震災が
発生し、その後ある会議で図- 3 の絵を紹介したとこ
ろ、同様の発想をしていた積水化学の方が目にして、
それがきっかけとなって共同研究に発展しました。ま
た、偶然にも研究室近くのコミュニティプラントに装
置を設置させていただくことができ、今回発表した
データを取得することができました。本当に、多くの
方々に支えられ、また、偶然にも助けられて、ここま
で来ることができたと思います。特に、共同研究で一
緒に取り組んでいる積水化学、研究を支えてくださっ
た味埜俊教授、また、コミプラでの実験を許可してく
ださった流山市駒木台第二自治会のみなさまに謝意を
表したいと思います。
しかし、まだほんのスタート地点です。原理の詳細
な解明も、また、実際に敷設して浄化能力を確認する
のもこれからです。実現を目指して新しい分野の開拓
を続けたいと考えています。
図- 2 下水管内での下水浄化による
水循環の促進
図- 3 当初のアイディア
( 73 )
Vol.52 No.628 2015/02
下 水 道 協 会 誌
ポスター発表・優秀賞
めました(表- 1 参照)
。
⊿ C = Kd・
V
Xr
・
・・・
(1)
Qo
R
Qo
横須賀市 上下水道局
施設部 水再生課
Qo-Qw
Co
中 村 明
Qr
1 .はじめに
このたび、第 51 回下水道研究発表会ポスターセッ
ションにおきまして、優秀賞を頂きましたことを大変
Qr, Ce
光栄に思います。本研究は、福岡県、福岡市および横
須賀市の 3 自治体の共同研究になります。これら自治
体の下水処理場における共通点として、放流先が閉鎖
性水域であるということが挙げられ、いずれの処理場
においても窒素及びりん除去が共通課題となっており
ます。
このような背景のもと、運転条件等の異なる様々
な処理場で観測されたデータを比較・検討することか
ら本研究はスタートしました。
2.研究概要
本研究では、生物学的窒素除去法の設計や運転管理
において、これまで定量的に扱われてこなかった最終
沈殿池やそれを含めた返送汚泥系における脱窒現象
(以下、終沈脱窒と記す。)について検討しました。ま
Qo
Qo-Qw
た、生物学的りん除去法における処理水りん濃度や処
Co
理の安定性が必ずしも満足できないことを経験してき
Qr V, Xr
たことから、SRT や嫌気槽へ流入する
NO3-N 濃度と
りん除去性能の関係についても基礎的な検証を試みま
した。
Qw, Xr
Qr,「下水道施設計画・設計指針
Ce
終沈脱窒については、
V, Xr
△C
Qw, Xr
図- 1 終沈脱窒モデル
表- 1 モデルで使用する記号
Qo、Qr、Qw:‌それぞれ流入、返送汚泥、余剰汚
泥の流量 m3/ 日
Co:終沈流入水の NO3-N 濃度 mg/L
Ce:返送汚泥中の NO3-N 濃度 mg/L
△C
(= Co−Ce)
:終沈脱窒濃度 mg/L
V :終沈脱窒領域の容積 m3
Kd:内生脱窒速度定数 mgN/gSS/ 時
Xr:返送汚泥濃度
(RSSS)
mg/L
R
(= Qr/Qo)
:汚泥返送比
Kd 
△C
V
Qo
1
Xr/R
図- 2 式(1)の図解
と解説」
(以下、指針と記す。)の循環式硝化脱窒法に
おいて、終沈を含む返送汚泥系での脱窒の可能性が記
載され、
調査により別途決定できるとなっていますが、
式(1)は図-2に示すように、横軸に
現状では脱窒量を定量的に定める知見は十分とは言え
Xr / R 、縦軸に△Cをプロットすれば、
ないと思われます。一方、りん除去施設では、終沈脱
原点を通る直線となり、 Kd  V Qo は勾配
窒の結果として返送汚泥中に残留する NO3-N は嫌気
となります。 図-2のプロットによって
槽へ持ち込まれ、その濃度によってはりん放出を阻害
することが指針に記載されています。このことから、
今回のデータが直線近似とみなすことが
りん除去の安定性は終沈脱窒と関連付けて検討するこ
できれば、式(1)が成立すると考えられま
とが有効と考え、りん放出を阻害する返送汚泥中の
す。SRT が 15 日以下の施設について、式
NO3-N 濃度についても検討しました。本研究では検
討結果の一般性を確認するため、
流入水質、施設構造、
(1)による整理結果を図-3に示しますと、おおよ
図- 3 RSSS/R と終沈脱窒
運転条件等が異なる複数の処理施設を対象とする必要
そ式(1)に沿って分布していると判断されます。
式(1)は図- 2 に示すように、横軸に Xr/R、縦
があることから 3 自治体の共同調査(施設数は 10 処
終沈脱窒の定量化により、嫌気槽へ流入する
濃度が推定できることから、生物学
軸に△NO3-N
C をプロットすれば、原点を通る直線となり、
理場 15 池)として実施しました。
的りん除去の安定化に寄与する運転操作も可能になることが期待できると考えています。
Kd・V/Qo は勾配となります。図- 2 のプロットに
よって今回のデータが直線近似とみなすことができれ
⑴ 終沈脱窒モデルについて
ば、式(1)が成立すると考えられます。SRT が 15
本研究では、反応槽末端と返送汚泥中の NO3-N 濃
(2) SRT とリン除去性能について
日以下の施設について、式(1)による整理結果を図
度の差を終沈脱窒濃度△ C と定義し、図- 1 に示す
AO
法施設について、硝化促進と硝化抑制の
- 3 に示しますと、おおよそ式(1)に沿って分布し
終沈脱窒モデルから終沈脱窒濃度を表す式(1)を求
運転条件に分け、SRT と処理水 T-P の関係を
( 74 )
調査したところ、いずれの場合でも SRT が指
針記載の推奨値に近い条件においてリン除去
は概ね良好でありました。
一方、指針では A2O 法の SRT に関し活性汚
について、式
調査したところ、いずれの場合でも SRT が指
針記載の推奨値に近い条件においてリン除去
に示しますと、おおよ
針記載の推奨値に近い条件においてリン除去
は概ね良好でありました。
は概ね良好でありました。
ると判断されます。
一方、指針では
A2O A2O
法の法の
SRTSRT
に関し活性汚
一方、指針では
に関し活性汚
、嫌気槽へ流入する NO3-N 濃度が推定できることから、生物学
泥のリン含有率との関係において、図-4の白黒でプ
泥のリン含有率との関係において、図-4の白黒でプ
する運転操作も可能になることが期待できると考えています。
Vol.52 No.628 2015/02
「第 51 回下水道研究発表会」口頭発表セッション並びにポスター発表セッションの各賞を受賞して
ロットされた実績が掲載されていますが、本研究の施
ロットされた実績が掲載されていますが、本研究の施
針に掲載される SRT より短い場合にりん除去に良好な
理水 T-P の関係を 針に掲載される SRT より短い場合にりん除去に良好な
結果をもたらしていることが分かりました。
場合でも SRT が指 結果をもたらしていることが分かりました。
また、施設 A2 において、汚泥返送による NO3-N の嫌気
においてリン除去
また、施設 A2 において、汚泥返送による NO3-N の嫌気
槽への流入がりん除去に及ぼす影響について調査したと
槽への流入がりん除去に及ぼす影響について調査したと
25
20
1.0
25
処理水T-P
20
15
15
10
0.5
10
1.0
0.5
5
05
1.5
処理水T-P mg/L
促進と硝化抑制の
おいては同図の色塗りでプロットする結果が得られ、指
おいては同図の色塗りでプロットする結果が得られ、指
返送汚泥中NO3-N
返送汚泥中NO3-N1.5
嫌気槽PO4-P
嫌気槽PO4-P
処理水T-P
30
30
処理水T-P mg/L
設 A2法+風量制御による窒素除去を行っている)
(AO 法+風量制御による窒素除去を行っている)
に
設 A2(AO
に
嫌気槽PO4-P、
嫌気槽PO4-P、
返送汚泥中NO3-Nmg/L
返送汚泥中NO3-Nmg/L
いて
0.0
1
2
3
4
0 0
0.0
0嫌気槽流入水NO3-N mg/L(計算値)
1
2
3
4
嫌気槽流入水NO3-N mg/L(計算値)
図-5
嫌気槽流入水 NO3-N が
ころ、図-5に示す結果が得られました。横軸に示す嫌
図- 5 ‌嫌気槽流入水 NO3-N がりん除去に‌
りん除去に及ぼす影響
図-5
嫌気槽流入水 NO3-N が
及ぼす影響
おいて、図-4の白黒でプ 図- 4 A2O 法における SRT 分布
りん除去に及ぼす影響
気槽流入水(初沈流出水と返送汚泥の混合液)中の
嫌気槽流入水NO3-N1.5mg/L
0.7
が高くなれば、りん放出は減少し、処理水 T-P がNO3-N
0.5mg/L
以下を目標にした汚泥返送比
れていますが、本研究の施
0.6
の操作範囲の上限
嫌気槽流入水NO3-N1.5mg/L
0.7
が高くなれば、りん放出は減少し、処理水
T-P
が
0.5mg/L
を超過する回数が増えていました。図-5より、処理水 T-P
0.5
以下を目標にした汚泥返送比
る窒素除去を行っている)
に
返送汚泥中NO3-N
0.6
ていると判断されます。
1.5
30
の操作範囲の上限
0.4
嫌気槽PO4-P
の目標値を
0.5mg/L
とすれば、
嫌気槽に流入する
NO3-N
は
を超過する回数が増えていました。
図-5より、
処理水
T-P
処理水T-P
0.5
25
0.3
終 沈 脱 窒 の 定 量 化 に よ り、 嫌 気 槽 へ 流 入 す る
ロットする結果が得られ、指
0.4
20
1.0
0.2
1.5mg/L
程度以下が望ましいと考えられます。嫌気槽に流
の目標値を
0.5mg/L
とすれば、
嫌気槽に流入する
NO3-N
は
NO3-N
濃度が推定できることから、生物学的りん除
短い場合にりん除去に良好な
0.3
0.1
15
去の安定化に寄与する運転操作も可能になることが期
入する
NO3-N は、初沈流出水と返送汚泥の混合割合、即ち
0.0
0.2
1.5mg/L
程度以下が望ましいと考えられます。嫌気槽に流
10
0.5
が分かりました。
3
4
5
6
7
8
9
待できると考えています。
0.1
汚泥返送比と返送汚泥中の
NO3-N 濃度で決まるので、嫌気
5
返送汚泥中NO3-N濃度 mg/L
入する
汚泥返送による NO3-N
の嫌気NO3-N は、初沈流出水と返送汚泥の混合割合、即ち
0.0
0
0.0
槽へ流入する
NO3-N
として
を目標にした汚泥返送 図-63 返送汚泥中
4
5
6NO3-N
7 濃度
8
9
0
1
2
31.5mg/L
4
⑵ SRT とリン除去性能について
ぼす影響について調査したと
汚泥返送比と返送汚泥中の
NO3-N 濃度で決まるので、嫌気
を考慮した汚泥返送比
返送汚泥中NO3-N濃度 mg/L
嫌気槽流入水NO3-N mg/L(計算値)
処理水T-P mg/L
汚泥返送比
汚泥返送比
ころ、図-5に示す結果が得られました。横軸に示す嫌
気槽流入水(初沈流出水と返送汚泥の混合液)中の NO3-N
嫌気槽PO4-P、
返送汚泥中NO3-Nmg/L
SRT に関し活性汚
AO 法施設について、硝化促進と硝化抑制の運転条
得られました。横軸に示す嫌
図-5
NO3-N がを目標にした汚泥返送
返送汚泥中
濃度
図- 6 ‌図-6
返送汚泥中
NO3-NNO3-N
濃度を考慮した‌
槽へ流入する
NO3-N嫌気槽流入水
として 1.5mg/L
件に分け、SRT
と処理水 T-P の関係を調査したとこ
りん除去に及ぼす影響
を考慮した汚泥返送比
汚泥返送比
送汚泥の混合液)中の NO3-N
いと考えられます。嫌気槽に流
汚泥返送比
ろ、いずれの場合でも SRT が指針記載の推奨値に近
嫌気槽流入水NO3-N1.5mg/L
0.7
減少し、処理水 T-P がい条件においてリン除去は概ね良好でありました。
0.5mg/L
以下を目標にした汚泥返送比
0.6
の操作範囲の上限
一方、指針では
A2O 法の SRT に関し活性汚泥の
ました。図-5より、処理水
T-P
0.5
4 の白黒でプロッ
0.4
ば、嫌気槽に流入する リン含有率との関係において、図-
NO3-N は
0.3
トされた実績が掲載されていますが、本研究の施設
0.2
A2(AO 法+風量制御による窒素除去を行っている)
0.1
水と返送汚泥の混合割合、即ち
においては同図の色塗りでプロットする結果が得ら
0.0
3
4
5
6
7
8
9
れ、指針に掲載される
SRT より短い場合にりん除去
NO3-N 濃度で決まるので、嫌気
返送汚泥中NO3-N濃度 mg/L
に良好な結果をもたらしていることが分かりました。
図-6 返送汚泥中 NO3-N 濃度
.5mg/L を目標にした汚泥返送
また、施設 A2 において、汚泥返送による
NO3-N
を考慮した汚泥返送比
の嫌気槽への流入がりん除去に及ぼす影響について調
査したところ、図- 5 に示す結果が得られました。横
軸に示す嫌気槽流入水(初沈流出水と返送汚泥の混合
液)中の NO3-N が高くなれば、りん放出は減少し、
処理水 T-P が 0.5mg/L を超過する回数が増えていま
した。図- 5 より、処理水 T-P の目標値を 0.5mg/L
とすれば、嫌気槽に流入する NO3-N は 1.5mg/L 程度
以下が望ましいと考えられます。嫌気槽に流入する
NO3-N は、初沈流出水と返送汚泥の混合割合、即ち
汚泥返送比と返送汚泥中の NO3-N 濃度で決まるので、
嫌気槽へ流入する NO3-N として 1.5mg/L を目標にし
た汚泥返送比と返送汚泥中の NO3-N の関係を図- 6
に示します。返送比を 0.6 とすれば、返送汚泥中の
NO3-N は 4mg/L 以下が管理目標値になり、仮に処理
水の NO3-N が 10mg/L 程度のときは、終沈脱窒とし
て 6mg/L がりん除去安定化の為に必要になると判断
されることとなります。
3.ポスター作成と発表について
ポスター作成にあたりましては、見やすいことを第
1 に考え、サイズをできるだけ大きくするようにしま
した。また、多岐にわたるデータをなるべくわかりや
すく整理し、構成するよう心掛けました。
ポスター発表では、こちらの方から積極的にお声掛
けをし、なるべく多くの方とディスカッションさせて
頂けるよう心掛けました。おかげさまで、たくさんの
方からご質問を頂き、とても有意義なディスカッショ
ンが出来たと思っております。
4.おわりに
最後になりましたが、本研究に当たりご指導を賜り
ました九州共立大学の森山克美名誉教授、共同研究者
である福岡県、福岡市の皆様に、この場をお借りし厚
く御礼申し上げます。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
( 75 )
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