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亜酸化窒素システム

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亜酸化窒素システム
大成建設技術センター報
第37号(2004)
土壌通気による汚染大気中のNOx浄化技術に関する研究
-東京都目黒区大坂橋における汚染大気実証実験結果-
小柳 聡*1・樋口 雄一*1・伊藤 雅子*1・副島 敬道*2
Keywords : nitrogen oxides, soil-filtering, activated carbon, microbial decomposition, oxidizing materials
窒素酸化物,土壌通気,活性炭,微生物分解,酸化材
1. はじめに
しか性能を発揮せず、除去能力も極めて低い。各浄化方
式の概要を表-1 に示す。
近年、大都市圏を中心として、窒素酸化物(NOx)
除去性能と耐久性から費用対効果(汚染物質1gあた
や浮遊粒子状物質(SPM)等による大気汚染が深刻化
りの除去費用)を考慮すると、土壌通気方式も他方式と
している。筆者らは、年々高まる大気浄化技術へのニー
同等の効果を得ることができると考えられる。
ズに応えるために、低コストで低環境負荷の浄化技術の
当社は、東京都建設局沿道整備課公募の「大規模交差
確立を目指し、土壌通気と微生物分解技術を組み合わせ
点におけるNOx・SPM除去設備実験」を東京都目黒区大
た大気浄化システムの研究開発を行っている。
坂橋で実施しており、浄化システムの耐久性や性能向上
大気浄化の方法には土壌通気方式以外に、脱硝装置
と電気集塵機を組み合わせた方式や、酸化チタン
の検討を行っている。本報では、実証実験およびカラム
試験で得られた実験結果について報告する。
1)
(TiO2)等の光触媒による方式が知られている 。しか
し、前者は汚染物質の除去能力は高いが、初期建設費や
2. 土壌通気法による大気浄化方法
維持管理費が割高になる傾向があり、後者は維持管理費
はかからないが、反応に紫外線が必要なため、日照時に
汚染大気中に存在する窒素酸化物(NOx)は、ほとん
どが一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO2)から構成
されている。その他、亜酸化窒素(N2O)や四酸化二窒
表-1 大気浄化方式の分類とそれぞれの特徴
Feature of purification method of air pollution caused by
automobile exhaust emissions
め本研究では NO、NO2 のみを対象とした。表-2 に、大
浄化方式
坂橋自動車排気ガス測定局(以下、自排局と呼ぶ)によ
除去原理
電気集塵機で帯電させ
たSPMを電極へ付着させ
て除去する
脱硝装置のフィルター
孔にNOxを吸着させて除
去する
TiO2(酸化チタン)を
塗布したパネル面に発
生する活性酸素で、NOx
およびSPMを反応させ結
晶化させる
コスト
設置費用、
維持費用と
も最も割高
送風機を使用して土壌
槽へ通気させ、土壌水
分へNO2を溶解、土壌間
土壌通気方式 隙へSPMを吸着させる
NO除去方法は、各社独
自に開発中
設置費用、
維持費用と
も電気集塵
機よりも安
い
電気集塵+
脱硝装置方
式
光触媒方式
設置費用は
材料費のみ
維持費用は
パネルの定
期的洗浄の
み
特徴
3つの方式の中で
は、除去量が最も
大きい
集塵機の電極や
フィルターのメン
テナンスが必要
活性酸素を発生さ
せるには紫外線が
必要なため、日照
時のみの稼動
除去量は最も少な
い
パネル洗浄が必要
素(N2O4 )等も含まれるが、それらは比較的微量のた
る NOx 計測値の1時間平均値の1日平均値(2004 年3
月)と、環境基準値を示す。表-2 に示すように、NO2
は環境基準値よりわずかに上回る程度で最大 0.07ppm
の1日平均値が測定されている。一般に NO は NO2 の
表-2 大坂橋自排局計測による NOx 濃度1時間値の1日
平均値範囲(2004 年 3 月)と環境基準値
Range of daily average NOx concentration of hourly NOx
concentration measured at Osakabashi (March 2004)and
environmental standards
土壌を一旦設置す
れば、給水等のメ
ンテナンスは必要
だが、数年にわ
たって浄化が可能
大坂橋自排局測定値
種類 (2004年3月の1時間値の1日
平均値の範囲)
*1 技術センター土木技術研究所地盤・岩盤研究室
*2 技術センター技術企画部企画室
41-1
環境基準値
NO
0.02~0.23ppm
(制定されていない)
NO2
0.02~0.07ppm
1時間値の1日平均値が0.04~
0.06ppmの範囲内またはそれ以下
土壌通気による汚染大気中のNOx浄化に関する研究
2~3倍の濃度で存在しており、表-2 でも1日平均値
する。システムの浄化性能を継続するためには、土壌水
が最大 0.23ppm と、NO2 の最大濃度の約3倍となってい
分中の NO3-(一部 NO2-)溶解量が飽和に至る前に、何ら
る。NO の健康への影響は、評価が困難なため数値化さ
かの方法で除去する必要がある。土壌水分中の NO2 を
れていないが、血液中に溶解し中毒作用を起こすことが
除去する方法として、筆者らは微生物の硝酸呼吸を利用
確認されている。また、時間経過に伴い NO は空気中の
する方法が有効であると考えた。微生物の中には、有機
O2 によって NO2 に酸化されることを考慮すると、浄化
物を取り入れ、NO3- (NO2-)を無害な N2 と CO2 に分解す
の必要性があると考える。
る硝酸呼吸を行うものが多く存在する 4)。微生物の硝酸
また NO と NO2 は化学的性質が大きく違い、表-3 に
呼吸を利用した NOx 浄化法の概要を図-1 に示す。微生
示すように、NO は水に難溶性であるが、NO2 は易溶性
物の硝酸呼吸は好気的な環境下では行われないため、
である。したがって、土壌通気法において NO2 は土壌
NO3-の分解を促進するには、嫌気的な環境が必要である。
水分への接触により除去可能であるのに対し、NO を同
このため、酸素が供給される通気中の土槽中での NO3-
方法で除去することは困難である。
分解は困難である。そこで本システムでは、通気ガスか
ら NOx を除去する浄化土壌とは別に微生物分解槽を設
置し、浄化土壌内の NO3-を含んだ浸透水から NO3-を分
表-3 NO と NO2 の化学的性質の相違
Differences in chemical characteristics of
NO and NO2
種類
色
臭気
水溶性
NO
無色
無臭
難溶
NO2
赤褐色 刺激臭
解除去する方式とした(図-2)
。
3. 実証実験
易溶
3.1 実証実験方法
東京都目黒区大坂橋に設置した浄化システムを写真-1
このため、オゾン(O3 )やプラズマによる酸化装置
に示す。
を土壌通気槽の入口経路に設置し、NO を NO2 に酸化さ
せて土壌水分へ溶解させるシステムが用いられている
2),3)
。
一旦土壌水分へ溶解した NO2 は、ほとんどが硝酸イ
オン(NO3-)へ(極少量溶解した NO は NO2-へ)変化
NO
酸化
気
相
極少量
溶解
写真-1 大坂橋の浄化システム
View of purification system at
Osakabashi experiment site
NO 2
溶解
液
相
NO2-
また、浄化システムの模式断面図を図-2 に示す。浄
NO 3-
有機物
微
生
物
分
解
槽
土槽面積1m2
汚染大気
浄化大気
活性炭層‥NO、
NO2を吸着除去
給水用チューブ
(定期的に給水)
t=20 cm
送風機
微生物
浸透水
浄化土槽
浄化土壌層‥NO2
を土壌水分に溶解、
SPMを間隙に吸着
排出
t=80 cm
浸透水
(NO3-が溶解)
N2
CO2
微生物
分解槽
集水して
微生物分解槽へ
図-1 溶解した NOx 浄化法の概要
Outline of purification of dissolved NOx
図-2 浄化システムの模式断面図
Cross section of purification system
41-2
排
水
大成建設技術センター報
第37号(2004)
化土槽は縦 1m×横 1m×深さ1mの土槽内に、浄化用
度の経時変化)に示す。NOx の測定は、一般大気測定
の土壌を厚さ 80cmに、活性炭を厚さ 20cmに層状に
用の高感度 NOx 計(化学発光方式)を使用した。
システムの運転条件を以下に示す。
配置した構造である。
・処理風量…100m3/h/m2
沿道の大気を送風機により土槽下部から土槽を通気さ
せる際に、NO2 を土壌水分へ接触させて溶解、大気中よ
・浄化土壌の体積含水率…20~40%
り除去を行う。
・モニタリング期間…2004 年 1 月 26 日~2 月 24 日
また、上記方法では除去できない NO は、浄化土槽上
120
用した活性炭の性状を表-4 に示す。
100
除去率 (%)
部に活性炭層を設置することで吸着、除去を行った。使
表-4 活性炭の性状
Characteristics of activated carbon
used for test
項目
形状
比表面積
細孔容積
細孔半径
かさ比重
NO2
80
60
40
NOx
20
0
性状
粒状
1400m2/g以上
0.684 ml/g
15 Å
0.4
NO
0
5
10
NO入口
0.2
濃度 (ppm)
活性炭に水分が吸着し NO の吸着を阻害するためである。
NO出口
0.1
100
NOx除去率(%)
0
60
NO除去率
NO除去率
40
NO2除去率
NO2 除去率
0
40
5
10
15
20
経過日数 (日)
25
30
図-5 NOx 濃度の経時変化
Change in concentration of NOx at
Osakabashi experiment site
20
30
NO2入口
NO2出口
0
80
20
30
0.3
35%を超えると急激に NO の除去率が低下する。これは、
10
25
図-4 NOx 除去率の経時変化
Change in removal rate of NOx at
Osakabashi experiment site
使用した活性炭は、図-3 に示すように、含水率が
0
15
20
経過日数 (日)
50
含水率(%)
図-3 活性炭の含水率と NOx 除去率の関係
Relationships between removal rate of NOx and
water content of activated carbon
50
含水率(%)
40
浄化用土壌は、保水性に富む赤玉土に、透気性を確
保するために中粒軽石を混合した。また、通気に伴い土
30
20
10
0
0
壌の水分が蒸発するため、浄化土槽と活性炭層の間に給
10
20
30
40
経過日数
水管を設置し、水分の供給を行った。浄化土槽を通過し
図-6 活性炭含水率の経時変化
Changes in water content of activated
carbon
た NO3-を含む水は微生物分解槽へ送られ、微生物の硝
酸呼吸により NO3-を除去した後に排水する。
実験期間中の入口濃度は、図-5 に示すように、NO2
3.2 実証実験結果
本浄化システムを用いて、連続通気実験を行った結果
は 0~0.2ppm までの範囲で変動が激しいものであった
を図-4(NOx 除去率の経時変化)および図-5(NOx 濃
が、濃度によらず NO2 除去率はほぼ 100%を維持してい
41-3
土壌通気による汚染大気中のNOx浄化に関する研究
た。NO の入口濃度は 0.1~0.3ppm の範囲で NO2 と同様
汚染大気の流速は、線速度 9.95cm/s(単位面積あたり
に変動していたが、運転開始から 20 日間経過までは 60
の処理風量 358m3/hに相当する)に調整して試験を実
~80%の除去率を維持していた。ただし、20 日以降は
施した。通気開始初期の段階では、材料への吸着により
図-6 に示すように活性炭の含水率が 40%程度まで上昇
NO と NO2 両者が減少していたが、点線丸部分で示すよ
したため、NO 除去率は急激に低下している。活性炭の
うに、通気開始 400 時間以降、出口 NO2 濃度が入口
含水率が増加する原因は、浄化土槽及び通気空気に含ま
NO2 濃度を上回る場合があり、酸化材の酸化効果を確認
れる水分が、通気により活性炭層に送り込まれるためで
することができた。現在、特殊酸化材を浄化土槽の入口
ある。現在、すでに活性炭層を浄化土槽からかさ上げす
部に組み込み、酸化能力および耐久性について確認中で
る改良を施し、性能を確認中である。
ある。
3.3 浄化性能改善の検討
4. まとめ
NO の除去性能の高度化を図るため、特殊酸化材によ
東京都目黒区大坂橋において、土壌通気法と微生物分
り NO を NO2 へ酸化させて NO2 として除去する方法に
ついて検討した。酸化方法の検討試験の概要を図-7 に、 解機能を組み合わせた NOx 浄化システムの運転を行っ
た。その結果、NO2 の 100%、NO の 70~80%を除去可
試験結果を図-8 に示す。
NOx計
出口濃度
計測
上昇すると NO 除去性能が低下することが判明したため、
現在は、活性炭層に水蒸気が接触しにくい構造に改造す
るとともに、活性炭に頼らない特殊酸化材を用いる方法
ガラスカラム
φ4cm
現地汚染
大気
能であることを確認した。ただし、活性炭層の含水率が
特殊
酸化材
コンプ
レッサー
トラップ瓶
の検討に着手し、性能を確認中である。
また、今後微生物による硝酸の分解を持続させる条件
の把握、処理風量の増加を行い、費用対効果の向上を図
流量計
りたい。
NOx計
入口濃度計測
謝辞
「大規模交差点における NOx・SPM 除去設備実験」は、
トラップ瓶
東京都建設局沿道整備課の公募実験であり、関係各位よ
図-7 特殊酸化材の試験概要
Evaluation tests scheme for
special oxidizing materials
り貴重な御意見を賜った。ここに記して謝意を表する。
参考文献
0.250
0.200
濃度(ppm)
0.150
入口NO
入口NO
入口NO2
入口NO2
0.100
出口NO
出口NO
0.050
出口NO2
出口NO2
1)環境庁大気保全局自動車環境対策第一課・第二課:道路沿
道における大気汚染の実態と対策の状況,資源環境対策
Vol.35 No.6,pp533~538,1999
2)佐藤紳一郎ほか:土壌を用いた大気浄化システムの実用性
に関する調査,pp47~70,1998
3)山口修一,春日一吉:土壌による大気浄化システムの高効
率化に関する研究,土木学会第 58 回年次学術講演会,
pp515~516,2003
4)副島敬道,伊藤雅子,今村聡,寺尾宏:透過性地下水浄化
壁工法による硝酸性窒素汚染地下水の原位置浄化実証試験,
大成建設技術センター報第 36 号,pp39-1~39-6,2003
12
0
16
0
20
0
24
0
28
0
32
0
36
0
40
0
44
0
48
0
52
0
0
40
80
0.000
(0.050)
経過時間(h)
図-8 特殊酸化材の試験結果
Experiment results using special
oxidizing materials
41-4
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