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型技術9月号 ProCAST 最新機能と活用方法の提案 pdf
特集 最新のシミュレーション/CAE を活用した 短納期・高品質な金型づくり 部品成形 製品事例 5 鋳造解析ソフトウェア「ProCAST」の 最新機能と活用方法の提案 日本イーエスアイ㈱ 伊藤 近年、コンピュータ技術の発展に伴い、ダイカスト の数値シミュレーション技術はコスト削減、開発プロ セスの加速および新製品のマーケットへのリードタイ 彰宏* ダイカスト金型の 熱サイクルシミュレーション ム短縮の一助として一般的に受け入れられるようにな ダイカストは高精度の寸法精度をもつ金型に溶融金 っており、特に充填ゲートといった鋳造方案を含めた 属を圧入して短時間に大量に鋳造製品を量産する方法 金型設計に広く活用されている。その際、冷却管の配 であり、そのため鋳造、型開き、型冷却、型閉じとい 置やブロー、スプレー冷却を考慮した金型温度制御は うサイクルを短時間の間に何度も繰り返すことになる。 主要な設計項目であり、重要な検討項目である。 高品質の製品を安定して製造するためには、冷却方法 ダイカストで製造される製品は、部位により厚さが も考慮して金型温度分布を安定化することが必要とな 異なり形状が複雑である。そのために生じる大きな熱 り、その一連のサイクルにおける熱履歴と安定した温 勾配が不均一な変形を引き起こし、結果として金型や 度分布を予測することは、金型温度コントロールとい 製品にゆがみが生じて金型の疲労寿命を短くする原因 う観点で重要である。 となっている。 図 1 は、ダイカストにおける熱サイクルプロセス 現在鋳物メーカーは、特に部品の軽量化というマー の再現を行った結果である。温度分布コンターおよび ケットニーズに後押しされる形で金型構造への高い要 金型表面から奥行き方向の各点における温度履歴をプ 求が求められており、金型の温度コントロールへの基 ロットしたところ、高温の鋳物から熱を受け取る金型 礎的な評価が必要不可欠な技術として求められてい 表面の温度が最も高く、金型内部ほど温度が下がる様 る。 子が確認できる。本プロセスでは鋳造型開き後、スプ 本稿では、金型熱サイクルの定常状態の温度場の評 レー冷却により金型表面から急冷されており、これら 価、金型の熱による変形を考慮した製品の最終形状の の熱サイクルを受けて各点の温度が上昇、下降を繰り 予測、鋳造欠陥や金型疲労寿命の計算といった課題に 返している。最初のサイクルで受けた熱の影響で 2 対して、ESI Group の鋳造シミュレーションソフト 回目のサイクルでは 1 回目よりも温度が高くなって ウェア「ProCAST」の金型設計技術に対するアプロ おり、次のサイクルでも徐々に温度が上昇しているが、 ーチを紹介する。 おおむね 5 回目のサイクル以降はピーク温度が一定 となって、金型温度が安定することが確認できる。 図 2 は、最終サイクルでの型開きからスプレー冷 * Akihiro Ito:技術本部 VM ソリューション部 部長 〒160−0023 東京都新宿区西新宿 6−14−1 TEL(03) 6381−8490 062 却中の金型内表面温度分布を示している。同図より、 型開き直後は高温となっている金型内表面がスプレー 効果により冷却されていることがわかるが、t=50 sec 特集−最新のシミュレーション/CAE を活用した 短納期・高品質な金型づくり 440.0 温度 (℃) 412.0 384.0 356.0 328.0 300.0 272.0 244.0 216.0 188.0 160.0 Y 132.0 104.0 76.0 X Z 48.0 20.0 59mm 29mm 19mm 14mm 9mm 6mm 0mm(表面) 400 350 温度 (℃) 300 250 200 150 100 50 測定点の金型表面からの距離と 各位置における温度の時間変化 0 0 75 150 225 300 375 450 525 600 675 750 825 900 975 1,050 時間 (sec) 図 1 金型熱サイクル解析結果 420.0 393.3 366.7 340.0 313.3 286.7 260.0 233.3 206.7 180.0 153.3 126.7 100.0 73.3 46.7 20.0 冷却時間 冷却時間 t=20sec t=30sec 冷却時間 冷却時間 t=50sec t=70sec 図 2 最終サイクルにおけるスプレー冷却の効果 と 70 sec での温度分布はさほど大きな差が認められ 計変更のリスクを最小限に抑えて、トータルのコスト ず、この間におけるスプレー冷却の効果は限定的であ および納期の削減が可能である。 ることを示している。 このように金型温度履歴を事前に予測することで金 型の冷却性能、冷却管の配置、冷却プロセスの最適設 定を検討することが可能となり、事後の金型改修や設 ダイカスト金型および 製品の変形応力予測 ダイカストでは同一の金型で大量の製品を製造する 型技術 第 31 巻 第 10 号 2016 年 9 月号 063 ため、上記のような製造サイクルの中で繰り返し熱履 化学成分を入力することで温度依存の材料データを計 歴を受けることになる。基本的には加熱による膨張、 算により求めることができる Thermodynamic data- 冷却による収縮が繰り返されることになるが、部位に base を活用できる。 よって昇温速度、冷却速度が異なり、高温では塑性変 また Penalty 法による接触の取扱いに加え、熱的 形を受けることになるので、各部位における熱履歴に には変形解析結果が逐次変化していくのに対応して、 応じて変形・応力が蓄積、変化していく。変形が大き 製品熱収縮に伴って接触圧が大きくなった場合を考慮 くなると製品形状誤差の原因や金型間のギャップによ した接触圧力依存の熱伝達や、熱収縮に伴って製品− るバリの原因となるため、また残留応力が高くなると 金型間にギャップが形成された場合を考慮したギャッ 割れや欠損などの問題が発生するので、金型に付与さ プ距離依存の熱伝達が自動的に設定される機能を有し れる熱的影響を考慮して変形、応力状態を予測・評価 ている。 しコントロールすることが望まれる。 図 3 に金型と製品の応力解析を実施した例を示す。 有限要素法による鋳造シミュレーションソフトウェ 製品熱収縮時の金型との干渉により金型の方にも高い ア ProCAST では湯流れ、凝固解析と同時に応力変 応力が発生していることが確認でき、これにより変形 形解析を実施することが可能である。これは金型や製 も生じていることが確認されている。特にダイカスト 品の変形応力解析を湯流れ凝固解析と同一モデルで実 金型による熱サイクルを受けると金型の残留応力およ 施できるため、マッピングなど異なるモデル間でのデ び変形の蓄積により、製品形状も設計形状からの誤差 ータ授受に伴う誤差や作業の煩雑さを排除して、一貫 が生じることが予想される。したがって、事前に製品 したモデルによる鋳造プロセス評価が可能である。ま のみではなく金型の応力分布、変形予測を行うことは、 た、湯流れ中の熱応力を同時にシミュレーションでき 製品品質および形状精度を一定許容内にコントロール ることから、より正確なプロセスのシミュレーション するために有用な情報を提供することになる。また、 が可能であり、より詳細な検討が必要な状況において これにより必要な金型剛性についても検討することが は、必要不可欠となるポテンシャルを秘めているもの でき、必要最小限の金型サイズ、厚みなどを事前予測 と考えられる。 することで材料費低減の検討も可能である。 製品および金型の熱応力解析を行うには、熱弾塑性 図 4 にシリンダーボアの変形解析結果を示す。高 または熱粘弾塑性モデルによる取扱いと製品−金型間、 い真円度が要求されるボアにおいて変形量の定量的な 金型−金型間などの接触問題の取扱いに加えて、温度 予測評価技術は重要であり、これには金型の熱応力変 依存の材料物性データが必要となる。ProCAST では 形挙動の影響を含めて評価する必要がある。上述と同 様、製品形状精度をコントロールするうえで、試作前 の段階においてシミュレーションから有益な情報を得 ることができれば、試作回数を低減し、コストを抑え ながら最終変形を抑制するプロセスをシミュレーショ ン主体で検討することが可能となる。 ダイカスト金型の疲労解析 ProCAST では、製品のみならず金型の変形応力を 弾塑性、粘弾塑性モデルにより計算することが可能で ある。ある鋳造条件における金型の応力分布は、金型 設計において有用な情報を提供してくれるが、実際に は上述のように繰返しの熱履歴を受け、局所的に膨張 収縮を繰り返すことになる。その結果、過度に応力集 中を受ける部位は耐久性の観点で極めて厳しい環境に 図 3 製品および金型の変形応力解析結果 064 さらされることになり、金型全体の平均的な挙動や代 特集−最新のシミュレーション/CAE を活用した 短納期・高品質な金型づくり 0.1000 0.0867 0.0733 上段 0.0600 0.0467 0.0333 0.0200 0.0067 -0.0067 中段 -0.0200 -0.0333 -0.0467 -0.0600 -0.0733 下段 -0.0867 -0.1000 cm 図 4 ボアの変形結果 金型欠陥 発生位置 図 5 金型熱疲労予測と実製品での金型欠損の比較 表値では表現できない可能性が高い。ProCAST 応力 解析ではプロセス中に応力、ひずみ変動幅に基づく Coffin−Manson 則による低サイクル疲労予測および ダイカスト方案設計の 金型データへのフィードバック Basquin 則による高サイクル疲労予測が可能である。 ダイカスト金型は鋳造方案の検討を終えた最終的な 図 5 は、ProCAST による金型熱疲労予測と実製 形状として設計・製造されるが、方案検討時には最終 品モデルでの事例を示したものである。シミュレーシ 的な製品形状は CAD データとして存在しているもの ョンにより高い主応力が認められる部位で、疲労耐久 の方案データが存在せず、データ変更が容易でない場 性が著しく低い値として予測されていることが確認で 合も多い。そこで ESI Group では、図 6 で示すよう きる。この部分に対応する製品部の写真を確認すると、 なダイカストにおけるゲート形状の 2 次元スケッチ 薄肉部の間に金型がかじられて剥離、欠損してしまっ をもとにした 3 次元方案データの作成を支援するツ ている様子が確認でき、金型の耐久性が低い部分であ ールとして「SALSA 3D」を提供している。図 7 で ることを示している。 示すようにダイカストのさまざまな方案形状の作成が 型技術 第 31 巻 第 10 号 2016 年 9 月号 065 図 6 2 次元図面からの 3 次元方案形状作成ソフトウェア「SALSA 3D」 図 7 SALSA 3D による方案形状作成例 可能であり、このソフトウェアで作成されたデータは れてきたテーマのように受け取られるが、ProCAST IGES データにエクスポートできるので、鋳造解析用デ の開発当初から想定されてきたものも多く、長年の研 ータとしての活用だけでなく、解析検討によって得ら 究などをベースとして蓄積されてきた技術が今、実用 れた最終方案データを金型設計図面に反映させること 化してきた感がある。 で、金型作製工数の削減に役立てられる可能性がある。 ☆ また、方案設計用ツールの開発、導入など、より実 プロセスへのシミュレーションの適用を念頭においた 開発を進めていることもあり、以前から先進的な取組 金型技術に対する鋳造シミュレーションソフトウェ みとしてコンピュータシミュレーションの金型技術へ ア ProCAST の適用に関して、幅広い範囲への適用 の適用まで考慮に入れたアプローチを取り続けてきた 事例と可能性について述べた。これらの技術は、近年 ProCAST の技術が、さらなる新機能開発と併せて鋳 のコンピュータの高速化や熱力学データベースの充実 造技術者の技術開発ツールとして実用的に活用いただ などの技術発展により、実用的なレベルでの活用が着 ける環境が整いつつあると感じられる。この技術が真 目されるようになり、結果的に比較的最近取り上げら に鋳造技術改善の一助となれば幸いである。 066