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「洗う」を科学する最新の動向

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「洗う」を科学する最新の動向
第47回SCCJセミナー
「洗う」を科学する最新の動向
~ 洗浄剤のモノ作りと機能評価で知っておきたいこと ~
2016年2月23日(火)
きゅりあん
品川区立総合区民会館
日本化粧品技術者会
ご 挨 拶
より良い化粧品を創るために必要なさまざまな技術情報の提供、 さらには化粧品業界全体
の発展を目指し取り組んで参りました SCCJ セミナーも今回で 47 回目を迎えることとなりました。
これもひとえに皆様のご支援の賜物と心より感謝申し上げます。
本セミナーは時宜を得た企画を目指しテーマ選定を行っており、 今回は「洗浄 ・ 洗う」をテーマ
として取り上げました。 セミナータイトルとして、 「洗う」を科学する最新の動向 ~ 洗浄剤のモノ作
りと機能評価で知っておきたいこと ~ と題し、 洗浄メカニズムの基礎から実践的な製剤化技術
や評価方法といった幅広い内容で構成いたしました。 今回のセミナーでは大学から 1 名の先生、
また、 化粧品業界からは 5 名の方々、 さらに業界外からも講師をお招きし、 さまざまな分野の
研究や最新の技術動向について広くお話しいただきます。
午前の部にて、 横浜国立大学の大矢勝先生に 「汚れの種類別の洗浄メカニズム」 について
解説していただいた後、 泡の物性評価 ・ クレンジング料 ・ クリーム状水性洗顔料 ・ やさしい
洗浄 ・ 拭き取りシート化粧料といった幅広い製剤分野について、 業界内の講師による解説をし
ていただきます。 最後に、 業界外の分野から温水洗浄便座のウォシュレットの誕生秘話 ・ 技術
イノベーションについてご講演いただきます。 また、 プログラムの最後には、 本セミナーの特色
でもあるフリーディスカッションの場をご用意しております。 講師の皆様に直接質問し、 議論する
ことで聴講するだけでは得られない新たな知識や皆様の業務に役立つヒントをお持ち帰りいた
だけると思います。
本セミナーは製剤開発業務に関わる方はもちろんのこと、 製品の企画などの化粧品開発に
関する幅広い業務に携わっている方々にもお役に立てるものと考えております。 本セミナーが
皆様の今後の研究や製品開発のお役に立てることができれば主催者として喜びに堪えません。
最後に、 ご多忙にかかわらず、 本セミナーの講演を快くお引き受けくださった大矢先生、
並びに業界内外の講師の皆様方に厚く御礼申し上げます。
日本化粧品技術者会 セ ミ ナ ー 委 員 会
委員長 植 田 光 一
第 47 回セミナー担当 工 藤 大 樹
石 川 博 文
尾ノ上 弘 典
作 山 秀
寺
内
友
広
飛
田
和
彦
<スケジュールと目次>
<総合司会 工藤大樹 (ポーラ化成工業㈱)>
時 間
題 目 ・ 講 師
10:00 - 10:05 開会の挨拶 セミナー委員長 植田光一
<座長 作山秀 ( ㈱マンダム)>
10:05 - 10:55 汚れの種類別の洗浄メカニズム
1
横浜国立大学教授 大矢勝 先生
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10:55 - 11:35 洗浄料の泡評価 ~ レオロジー測定によるアプローチ ~ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 11
太陽化学㈱ カスタマーサービスセンター 小山匡子 氏
11:35 - 12:40
昼 食 休 憩
<座長 石川博文 ( ㈱ノエビア)>
12:40 - 13:20 クレンジングオイル・リキッドの相平衡制御による
機能・感性価値の両立 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 21
㈱資生堂 グローバルイノベーションセンター 渡辺啓 氏
13:20 - 14:00 クリーム状水性洗顔料の処方設計について ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 29
ポーラ化成工業㈱ 開発研究部 スキンケア開発室 竹山雄一郎 氏
14:00 - 14:40 頭皮・毛髪にやさしい洗浄 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 37
ライオン㈱ ビューティケア研究所 森部利江 氏
14:40 - 14:50
休 憩
<座長 寺内友広 ( ㈱ナリス化粧品)>
14:50 - 15:30 フェイス用拭き取りシート化粧料の有用性について ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 47
㈱マンダム 技術開発センター 嶋田格 氏
15:30 - 16:20 ウォシュレットの誕生秘話とイノベーションの歴史 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 55
TOTO㈱ ウォシュレット開発第二部 松井実 氏
<座長 工藤大樹 ( ポーラ化成工業㈱)>
16:30 - 17:40
フリーディスカッション
17:40 - 17:45 閉会の挨拶 セミナー副委員長 石井博治
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MnO4䠉 + 8H+ + 5e䠉→ Mn2++4H2O
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HNO3 +3H+ + 3e䠉→ NO + 2H2O
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HNO3 +H+ + e䠉→ NO2 + H2O
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O3 + 2H+ + 2e䠉→ O2+ H2O
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Cl2 + 2e䠉→ 2Cl䠉
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Br2 + 2e䠉→ 2Br䠉
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I2 + 2e䠉→ 2I䠉
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H2 → 2H+ + 2e䠉
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CO + 2H2O → 4H+ + CO32䠉 + 2e䠉
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Load
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Image of dirt
(Before processing)
Quantitative
analysis of dirt
Calculate
Multiple regression function
(transformation to Y value)
Cutting off
Load image of dirt
Color inversion
Eliminate effect of
substrate color
Image of dirt
(After processing)
Yes
Calculate Y value
Perform image prosseing?
No
Acquire one
pixel(RGB value)
Detail
Calculation
Calculate ΣK/S value
ᅗ ⏬ീศᯒࡢィ⟬ࣇ࣮ࣟ
Calculate K/S value
Exit all the pixels?
No
Yes
㸶 ࠾ࢃࡾ࡟
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᭱᪂Ὑίᢏ⾡⥲ぴ⦅㞟ጤဨ఍ ᭱᪂Ὑίᢏ⾡⥲ぴ⏘ᴗᢏ⾡ࢧ࣮ࣅࢫࢭࣥࢱ࣮
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- 13 -
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G'(t) [Pa]
80
5 min
0 min
60
40
150Pm
10 min
20
0
0
10
20
Time [min]
30
20 min
40
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G' 3 (Pa)
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40.2
0.2
1.1
B
111.3
30.4
8.1
33.8
0.9
3.7
C
81.5
33.9
6.3
33.0
1.4
2.9
D
116.6
26.7
8.6
32.6
䠉
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21.0
39.1
2.7
18.9
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- 14 -
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- 15 -
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- 16 -
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- 17 -
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- 18 -
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9) ➨ 61 ᅇࣞ࢜ࣟࢪ࣮ウㄽ఍(2013) Ⓨ⾲␒ྕ 1E02
10) ➨ 62 ᅇࣞ࢜ࣟࢪ࣮ウㄽ఍(2014) Ⓨ⾲␒ྕ 3D02
- 19 -
- 20 -
クレンジングオイル・リキッドの相平衡制御による機能・感性価値の両立
Fulfilling a mutually exclusive functional and sensitive values by controlling the
phase behavior of cleansing oil and liquid
資生堂グローバルイノベーションセンター、横浜市都筑区早渕 2-2-1
Shiseido Global Innovation Center, Hayabuchi 2-2-1, Tsuzuki-ku, Yokohama, JAPAN
渡辺 啓
Kei Watanabe
1. はじめに
クレンジング(メーク落とし)に求められる重要な特徴は、「メークの落ちの良さ」と洗い流し後の「さっぱ
り感」である。しかしながら、これらの特徴はトレードオフの関係にあるため、成分の配合量調整などの試
行錯誤法では両立することが難しい。本講演では、これらの特徴を両立したクレンジングオイルの開発
事例を紹介しながら、トレードオフ関係の解決に有用な相平衡研究の方法論を述べる。
このようなトレードオフ関係を解決するためには水/油/界面活性剤系の相平衡研究が有用である。相
平衡研究とは「相」、すなわち単一または複数成分が構成する巨視的に均一で安定な状態に着目し、同
一の相が生成する組成範囲(領域)を求め、相の微視構造や性質を明らかにすることなどを目的とした
基礎研究である。化粧品の成分と関係の深い水/油/界面活性剤系においては、会合体(自己組織体な
どと呼ばれることもある)などが研究対象となる相である。
この研究を化粧品開発へ応用するための代表的な方法論としては、主に以下の 2 つがある。まず第 1
に、会合体の性質を生かした化粧品を構築することがあげられる。第 2 に相が生成する範囲を示した図、
相平衡図上でプロセスを解析することがあげられる。ここでプロセスとは化粧品を製造するための製造
工程やお客さまが使用する場面における組成の変化などがあたる。
本講演では第 1 の事例として、バイコンティニュアスミクロエマルション相を活用したクレンジングリキッ
ドの開発について、第 2 の事例として、お風呂場で濡れた手で使用でき、非常にさっぱりと洗い流せるク
レンジングオイルの開発について述べる。
- 21 -
2.クレンジングにおけるトレードオフ関係の本質
クレンジングとは皮膚や口唇、まつげなどに付着したメーキャップ製品を取り去るという化粧行為であ
る。メーキャップ製品の構成成分は、疎水化粉末、樹脂、染料、油分などであり、主に油への溶解性、分
散性が高い。一方、お客さまがクレンジング製品に期待する「さっぱりさ」を実現するためには、クレンジ
ングした部位に油が残存しないことが重要である。
我々が検討を実施したころに市場に存在したクレンジング製品の剤型について、現在も販売が継続さ
れている剤型を中心に界面科学的に課題の本質を再度、見直してみる。
クレンジング製品は界面活性剤型と油性型に分類される。界面活性剤型としては界面活性剤ミセル水
溶液を基剤とするローションや水性ジェルなどのタイプがあげられる。ローションに配合できる界面活性
剤は親水性であるため、メーキャップに対する乳化分散作用が十分ではなく、メーク落とし効果に課題が
存在した。ローションタイプに高分子を加えて増粘したものが水性ジェルタイプで、中間的な HLB を有す
る自己乳化型の液状界面活性剤を分散質として配合できるためローションタイプに比べややメーク落と
し効果は高い。また、これら界面活性剤型は基剤中にほとんど油分を含まないため、さっぱりとした良好
な使用感を与える。
一方、油性タイプについては油分の溶解・分散作用を利用するため、メーク落とし効果は充分である。
O/W クリームタイプはマッサージにより油滴が合一してメークと接触するというメカニズムのため、なじみ
が若干遅く、残留油分によって「さっぱりさ」が不足するという課題があった。オイルタイプは油分に少量
の親油性界面活性剤を逆ミセル溶解したものである。油分に極性油を混合すると中間的な HLB の界面
活性剤が配合できるようになるが、水で洗い流してもさっぱりしないという課題は解消できていなかった。
メーキャップが油性であり、洗い流しに用いるのが水であるので、油性と水性の性質を合わせ持つこと
が理想である。しかしながら、水ベースに配合できるのは親水性界面活性剤が中心で、油ベースに配合
できるのは親油性界面活性剤が中心、という傾向が既存製品の技術にはある。これらの事実は試行錯
誤による成分の配合量調整から脱却して抜本的研究開発をする必要性があることを示している。
表 1 メーク落としのバリエーション
界面活性剤型
油性型
アイテム
ローション
水性ジェル
O/W クリーム
オイル
組成
界面活性剤
自己乳化型
高内油相比
逆ミセル油溶液
(エタノール)
液状界面活性剤配合
非イオン乳化系
水溶液
高分子増粘系
メーク落ち
さっぱり感
なじませ中
良好
良好
メーク
皮膚
皮膚
皮膚
皮膚
洗い流し後
Oil
- 22 -
3.トレードオフ関係の解決事例1
ミセル水溶液相 バイコンティニュアス相 逆ミセル油溶液相
油
~バイコンティニュアスミクロエマ
水
ルション相を用いたクレンジングリキ
ッドの開発~
(1)
相平衡研究活用の考え方
前述のトレードオフ関係を解決す
Hydrophilic
るため、水と油の両方が連続的なチ
Balanced
Lipophilic
図 1 HLB とミクロエマルションの構造
ャンネルを構成している特異なバイ
コンティニュアス型のミクロエマルション(ME)相をメーク落としに用いることを試みた。
バイコンティニュアス ME 相は光学的に等方性で、完全に透明な溶液である。界面活性剤の親水性-
親油性バランス(HLB)が釣り合った条件で生成する。水および油の両方が連続の構造を有しているた
め、水性物質および油性物質の両方と親和性を有しており、クレンジングとして利用した場合に前記のト
レードオフ関係を解決することが期待できる。すなわちメーク落ち、洗い流しの両方が良好な性質が期待
できると考えられた。
(2) HLB の調整によるミクロエマルション相の調製
界面活性剤として POE(8モル)グリセリルモノイソステアレート(PGMI)、油分として高分子シリコーン
の溶解性が高い環状シリコーンである
を用い、相平衡図を活用してバイコンテ
ィニュアス相を調製した手法を以下に紹
介する。
PGMI35%エタノール水溶液への DC
の可溶化領域を図 2 に示す。相図では
エタノール濃度を変化させることで系の
HLB を調整している。エタノールを加え
ない場合、溶液は DC を可溶化すること
ができないが、エタノールの添加により
透明な可溶化領域が出現した。エタノ
ール濃度を低下させるに従い、黒丸で
示される飽和可溶化量は増加し、5%程
度で急激な増加を示し、最大値となっ
Concentration of ethanol / %
デカメチルシクロペンタシロキサン(DC)
0
W / O emulsion
5
HLB
composition
10
Clear
solution
(Solubili20 zation)
15
O / W emulsion
25
30
0
5
10
15
Concentration of DC / %
20
図 2 環状シリコーン DC の 35%PGMI エタノール水溶液への可溶化
領域。温度変化を用いず、エタノール濃度を変化させることで HLB を
調整した。エタノール濃度を低下させると、HLB は親油側に変化し、
DC 可溶化量が急激に増加する。
た。
- 23 -
この可溶化挙動を参考に、エタノール 15%水溶液/PGMI/DC 擬似 3 成分系の相図を作成した(図 6)。
相図中に 3 種の透明な低粘度 1 相領域が得られた。水頂点から水-活性剤軸上に伸びるミセル水溶液
相、活性剤頂点付近で少量のエタノール水および DC を含む活性剤溶液、そして水頂点付近から相図の
中央方向に広がるミクロエマルション相が見出された。
PGMI
Surfactant solution
0
1
Lamellar liquid crystal
“Bi-continuous” phase
R
water
oil
0.5
Q
P
2-phase
0.5
S
Multi phase
Micellar solution
1
0
0.5
15% Ethanol aq.
1
0
DC
図 6 エタノール 15%水溶液/PGMI/DC 擬似 3 成分系の 25℃における相平衡図。油を可溶化したミクロエマルション領域
を、顕微鏡による倍率 25 倍での観察により検討した。
水性ジェルタイプはメーク落とし効果が不十分であり、
残存するファンデーションおよび口紅が明らかに観察
された。一方、オイルおよびバイコンティニュアスタイプ
はメークの落ちが良好であり、残存するメーキャップは
ほとんど確認できなかった。
洗い流し後の「さっぱり感」は皮膚上の残存油分量
と大きく関わっていることから、オイル、水性ジェルお
よびバイコンティニュアスタイプを使用した直後の油分
P<0.01
P<0.01
10
5
0
Gel with
thickener
ションおよび 10%含む口紅に対する、メーク落とし効果
n=12
Oil type
高分子シリコーンを 3%含む W/O リキッドファンデー
15
“Bi-continuous”
(3) メーク落としとしての性能評価
Relative amount of remaining oil
on the skin
がエタノール水頂点から相図中央に向かって得られた。
量をシーバメーターにより測定した(図 4)。オイルは水
図 4 各種メーク落としを使用後の皮膚上に残存する
性ジェルタイプと比較し残存油分量が有意に多く、これ
油分量の比較。
は基剤由来の油分と考えられた。また、バイコンティニ
ュアスタイプは油分として 15%の DC を含むにも関わらず、残存油分量は油分を全く含まない水性ジェル
タイプと同等であり、同基剤が非常に洗い流しやすい性質を有していることが示された。
- 24 -
非常に良い
良い
ファンデーションとのなじみの速さ
伸びの良さ
洗い流し中のさっぱりさ
洗い流し易さ
油っぽさ
べたつき
みずみずしさ
さっぱりさ
つっぱり感
うるおい
ファンデーションの落ち
マスカラの落ち
アイライナーの落ち
口紅の落ち
0
*
*
*
*
普通
悪い
非常に悪い
*
*
*
*
*
20
40
60
80
100
図 5 一般パネルによる官能テスト結果(女性パネル 60 名、5 日間連用)。*は有意に過半数が良いまたはやや良いと
回答したことを示す。メーク落とし効果とさっぱりさというバイコンティニュアスタイプの特徴がはっきり認識されてい
る。
一般パネル 60 名による使用テストの結果(図 5)、本メーク落としが目的とした「さっぱり感」と「メーク落
ちの良好さ」がはっきりと認識されていることが示された。バイコンティニュアスメーク落としは、トレードオ
フを両立する基剤であることが示された。
このような特性にはバイコンティニュアス相のダイナミックで、かつフレキシブルな特性が寄与している。
即ちメークとの接触においては油チャネルを配向させ、洗い流し時には水のチャネルを配向させ、それ
ぞれのクレンジング過程に最適なミクロ構造をとることにより、特徴的な挙動を発揮すると考えられる。
4.トレードオフ関係の解決事例 2
~相平衡図を用いたプロセス解析によるクレンジングオイルの高性能化~
(1)
相平衡研究活用の考え方
クレンジングオイルは主に炭化水素油、エステル油と界面活性剤からなる逆ミセル型マイクロエマル
ション相から構成される。つまり、クレンジングオイルは相平衡図上では油/界面活性剤軸上に位置す
る。課題である洗い流し時には水が混ざることで組成は相図上で水頂点側にシフトする。このプロセスに
おいて、洗い流しに最適な会合状態を生成させることができれば、メーク落とし効果が高く、洗い流しや
すく非常にさっぱりするメーク落としが可能になると考えられた(表 2)。
つまり、本研究の狙いは「水の添加」によって C のように性質を変化させ、メーク落とし効果が高く、洗
い流しやすいメーク落としを開発することにある。
- 25 -
表 2 新規クレンジングオイルの開発の方向性
タイプ
油性タイプ
界面活性剤タイプ
アイテム
クレンジングオイル
ローション
水性ジェル
メーク落とし 1. メ ー ク と 良好なメーク落とし効果
プロセス
中程度のメーク落とし効果
のなじませ
(水の添加)
2. 洗い流し
界面活性剤が形成する
A
C
B
洗い流し難く、さっぱりしない
洗い流しやすく、さっぱり
逆ミセル油溶液
ミセル水溶液
ミセルの構造
それぞれのプロセスに最適な会合状態は、「メークとのなじませ」については逆ミセル油溶液、「洗い流
し」についてはミセル水溶液である。本研究では、「メークとのなじませ」時には逆ミセル油溶液であり、
「水の添加」によって両連続のバイコンティニュアスマイクロエマルション相を経由して、「洗い流し」時に
はミセル水溶液となるよう構造が変化する特異な系を構築することを具体的な設計の方向性とした。
(2) 相平衡図を用いた新規クレンジングオイルの設計
前述の通り、擬似 3 成分系の相平衡図上で、
クレンジングオイル処方は界面活性剤/油軸上
Bicontinuous structure
に存在する。「洗い流し」過程において水を添加
すると、組成は水頂点方向にシフトする。従来
処方においては、望ましい会合体(逆ミセル油
PGMI/ISA
(5/1)
0
1
I2
C
Bicontinuous
phase
B
Lamellar
phase0.5
溶液、ミセル水溶液相)の領域は非常に小さか
LC
present
った。従来処方に水を添加したときには、O/W
L
L
C
D
乳化(白濁溶液)あるいは高粘性のキュービック
1
液晶相などに変化し、これが洗い流しやすさに
課題があった理由と考えられた。そこで、O/W
乳化領域を縮小させるため、界面活性助剤(コ
サーファクタント)としてイソステアリルアルコー
ル(ISA)を混合し HLB を調整した。さらに、ポリ
B
0
Water
0.5
A
II
O/W
0.5
0
1
LP/CIO/AQ (7/3/0.6)
図5 新規クレンジングオイルの相平衡図
望ましい会合体は塗りつぶされた領域で生成してい
る。組成 A は水を添加すると望ましい領域のみを通過
して水頂点へと至る興味深い組成である。
オキシエチレン-ポリオキシプロピレンランダ
ム共重合体(AQ)を少量油相に添加したところ、液晶相が消去された。
これらの結果、図 6 に示すような、望ましい会合体が相図のほとんどの領域を占める特徴的な相平衡
図が得られた。逆ミセル油溶液相およびミセル水溶液相が相図の中央方向に拡大した結果、2 つの領域
がラメラ液晶相を挟んで非常に接近した形状の相平衡図となった。
最も興味深いことは、相図中の組成 A に水を添加すると、B、C、そして D へと、望ましい会合体の領域
のみを通過しながら水 100%(水頂点)まで組成変化が生じることである。様々なキャラクタリゼーションの
結果、B においてはラメラ液晶相、C においてはバイコンティニュアスマイクロエマルション相を形成して
いることが確認され、目指した相平衡図が得られたことがわかった。
- 26 -
(3) 新規クレンジングオイルの性能
相平衡図上の組成 A をクレンジングオイルとして活用し、パネルテスト(N=60)により性能を確認した。
その結果、「洗い流しやすさ」が「非常に良い」または「良い」と回答したパネルは全体の 87%であり、目標
とした使用感触が実現できていることが明らかになった。また、「メーキャップの落ち」に関しても、充分に
満足な回答が得られた。
「洗い流しやすさ」について、良好な結果が得られた
界面活性物質(界面活性剤+界面活性助剤)の量と、
「さっぱりさ」と関連の深い「洗い流し」後の皮膚上の残
存油分量の関係について図 7 に示す。界面活性物質の
総量が増えるに従い、皮膚上の残存油分量は低下する
傾向が認められたが、界面活性物質の総量が 36%のと
きに極小となった後は再度上昇した。この結果について、
相平衡図と対比させると、極小を与える界面活性物質
量と、水が添加された場合に望ましい領域のみを通過
40
** (p<0.01)
Relative Amount of Residual Oil
理由について検討した。クレンジングオイルに含まれる
* (p<0.03)
30
20
10
0
0
20
40
Concentration of (PGMI+ISA)
する界面活性物質量は完全に一致した。界面活性物
質量が少ないときに残存油分量が多いのは、「洗い流
し」時の水の添加によりクレンジングオイルが O/W 乳化
60
/ %
図 7 界面活性物質量の皮膚残存油分量に
与える影響(N=10)
状態に変化するためである。乳化状態においては、油分は数十μm の大きな油滴として非平衡状態で
一時的に保持されているに過ぎず、皮膚への再付着が起こりやすく洗い流しにくくさっぱりとしない。一方、
最適化された界面活性物質量(組成 A)のクレンジングオイルに水を添加した場合に生成するミセル水
溶液においては、油分は数十から数百 nm 程度のミセル粒子に平衡的に取り込まれており、再付着が起
こりにくく非常に洗い流しやすくなる。また、界面活性物質量を 36%以上に増加させたにもかかわらず、残
存油分量が増加してしまうのは、水の添加により、洗い流しにくい高粘性の液晶が生成するためである。
従来のクレンジングオイルでは HLB の調整が充分になされていないため、O/W 乳化領域が大きく、マ
イクロエマルション領域が小さい。仮に、O/W 乳化領域を避けるために界面活性剤を大量に含ませたと
しても、高粘性の液晶が生成してしまうため、「洗い流し」の良好なものを調製することは困難であった。
望ましい会合体が相平衡図上の広い領域を占める成分の組み合わせ、および、あらゆる水希釈率にお
いて望ましい会合状態を維持する組成を見出すことが、「メークとのなじみ」が良好で、「洗い流し」が容
易な、技術的なトレードオフを解消したメーク落としの開発には不可欠であると言える。
- 27 -
5.おわりに
本稿では配合量の調整などの試行錯誤法では難しいトレードオフ関係解決のために、相平衡研究を
活用する方法について述べ、具体的なミクロエマルション型洗浄剤(クレンジングリキッド、クレンジング
オイル)の開発事例について紹介した。
相平衡図を化粧品開発に活用することは、スピードが求められる現在の開発現場においては必ずし
も最適な手法ではない場合もある。しかし、本稿で紹介したように、お客さまの化粧行動に伴う組成変化
に基づく特性変化を解析する、課題を解決することが期待できる会合体を演繹的に組み立てる、などの
場合には非常に強力な手法である。
クレンジングには様々な基剤バリエーションがある。これらは主要なお客さまである女性の生活やトレ
ンドの変化に対応すべく基剤が進化してきた結果である。例えば、鏡台から洗面所へ、そしてお風呂場
へとクレンジングの場面は変化した。また、働き続けることが当たり前になり、時短ニーズが高まった結
果、シート含浸タイプ、ダブル洗顔不要のポンプタイプなども登場してきている。
未来のクレンジングを考えるうえでは、お客さまの属性の変化(例えば低年齢層、男性など)を考慮す
ること、メーキャップの流行をとらえること、さらにライフステージごとのお客さまの気持ちの変化を見通す
ことが重要になる。そして得られたニーズの仮説に対して、適切な方法を選択して、開発スピードと機能・
感性価値の向上を両立させることで、継続的にこたえていくことが重要と思われる。
6.参考文献
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など
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- 30 -
- 31 -
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Mild Washing Technologies for the Hair and the Scalp
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- 37 -
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- 43 -
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- 44 -
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㸰 㸧 Imakawa G.,Exog.Dermatol.,3,81-98(2004)
㸱 㸧 Kawai M et al., J.Soc.Cosmet.Chem.,35,147(1993)
㸲 㸧 ሷ ᑼ ௚ 㸪 ⢝ ᢏ ㄅ 㸪 30(4)㸪 410(1996㸧
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㸴 㸧 ᮏ ዲ 㸪 Cosmetic Stage,4,35 (2010)
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㸯 㸮 㸧 S㸬 D㸬 O͂ Conner㸪 J.Invest㸬 Dermatol.,105,96-99(1995)
㸯 㸯 㸧 ୕ Ꮿ 㸪 ⾲ 㠃 㸪 47(12)㸪 23(2009)
㸯 㸰 㸧 B. Cabane, R. Duplessix, J. physique, Vol. 43, 1529 (1982)
ࠊ
㸯 㸱 㸧 M.Miyake,Y.Kakizawa,Colloid Polymer Sci.,280,18(2002)
㸯 㸲 㸧 ୕ Ꮿ 㸪 Pharm tech Japn,31,10,87-91(2015)
㸯 㸳 㸧 ᒣ ⦩ 㸪 FragranceJournal,26(5),86㸦 1998㸧
㸯 㸴 㸧 ᯽ ஭ 㸪 J.Soc.Cosmet.Chem.Jpn,47(1),3(2013)
㸯 㸵 㸧 ⰼ ཎ , FragranceJournal,38(11),39㸦 2010㸧
㸯 㸶 㸧 J. A. Swifts, J. Microscopy, 204(3), 203 (2001)
㸯 㸷 㸧 ᯽ ஭ , ➨ 58 ᅇ ࢥ ࣟ ࢖ ࢻ ཬ ࡧ ⏺ 㠃 ໬ Ꮫ ウ ㄽ ఍ ㅮ ₇ せ ᪨ 㞟 , 154 (2005)
- 45 -
- 46 -
フェイス用拭き取りシート化粧料の有用性について
Effects of the application of facial cleansing wipes
嶋田
格
Tadashi Shimada
株式会社マンダム
技術開発センター
Technical Development Center, Mandom Corporation
1. はじめに
近年、男性生活者の間では、身だしなみ意識の高まりから携帯性や簡便性に
優れるフェイス用拭き取りシートの使用が拡大している。男性の皮膚特性は、
女性に比べ皮脂の分泌量が高いといわれており
1)
、過 剰 な 皮 脂 に よ る と 考 え ら
れるベタつきやギラつきも男性にとっては普遍的な肌悩みとなっている
2)
。フ
ェイス用拭き取りシートの主な使用目的は、これらの悩みを解消するものであ
り、洗顔料の代替として使用されることが多い。しかしながら、フェイス用拭
き取りシートの使用者が男性主体であるためか、顔肌に対する拭き取りの効果
については、全く調べられていない。
そこで本講演では、拭き取りシート化粧料の有用性を明らかにするため、洗
顔料との洗浄力比較、並びに継続使用による顔肌への影響について調べたので
紹介する。
2.男性の肌特徴
2 -1 加 齢 差 ・ 男 女 差
男 性 の 加 齢 に よ る 皮 膚 特 性 を 確 認 す る た め 、9 月 に 1 0 歳 代 ~ 6 0 歳 代 の 健 常 男
性 5 8 名 を 対 象 に 、 角 層 水 分 量 、 経 表 皮 水 分 蒸 散 量 ( 以 下 T E W L )、 皮 脂 分 泌 量 の
測 定 を 行 っ た 。 ま た 、 皮 脂 の 男 女 差 を 確 認 す る た め 、 8 月 ~ 9 月 に 男 性 20 歳 代
( 2 0 ~ 2 9 歳 )、 女 性 2 0 歳 代 ( 2 1 ~ 2 9 歳 )、 男 性 4 0 歳 代 ( 4 0 ~ 4 9 歳 )、 女 性 4 0
歳 代 ( 40 ~ 49 歳 ) 各 16 名 ず つ 計 64 名 を 対 象 に 、 前 額 部 の 皮 脂 分 泌 量
( S e b u m e t e r:C + K E l e c t r o n i c G m b H )と 皮 脂 中 に 含 ま れ る 遊 離 脂 肪 酸( 以 下 F A 、
C14~ C30)及 び ト リ グ リ セ リ ド( 以 下 TG、C45~ C67)を 、LC/Q-TOFMS 分 析 に よ
り組成別に定量した。
加 齢 に よ る 影 響 に つ い て は 、角 層 水 分 量 、T E W L 値 と も に 年 齢 と の 明 確 な 相 関
は 認 め ら れ な か っ た 。こ れ は 、女 性 と 同 様 で あ っ た
3)
。皮 脂 分 泌 量 と 年 齢 と の
関 係 に つ い て は 、女 性 で は 30 歳 前 後 を ピ ー ク に そ れ 以 降 急 激 に 減 少 す る
- 47 -
3)
の
に 対 し 、 男 性 で は 、 50 歳 代 で も 顕 著 な 減 少 は 見 ら れ な か っ た (図 1)。
また、同性間の皮脂量の年代差はいずれも有意差が認められず、男女間では
顕 著 で あ っ た( 図 2 )。F A 、T G の 組 成 を 比 較 す る と 、い ず れ も 男 性 の 平 均 値 が 女
性 よ り も 高 く 、 女 性 平 均 値 に 対 す る 男 性 平 均 値 は 、 飽 和 FA で は 2.8 倍 、 各 TG
で は 2.1~ 2.6 倍 で あ っ た の に 対 し 、 不 飽 和 FA は 5.6 倍 と 男 女 の 差 異 が 著 し く
大 き か っ た ( 表 1 )。
不 飽 和 FA は 、 細 胞 間 脂 質 膜 に 対 す る 物 理 的 作 用 に よ っ て 水 分 透 過 を 亢 進 し 、
バリア能を低下させる
4)
、あ る い は 不 全 角 化 を 誘 発 す る
4)
という報告があり、
男 性 の 肌 で 起 こ る 皮 膚 状 態 の 悪 化 は 、過 剰 な 不 飽 和 F A が 原 因 の 一 つ で は な い か
と考えられた。
図 1
男 性 の 皮 膚 計 測 値 ( 角 層 水 分 量 、 TEWL 値 、 皮 脂 量 )
**
**
**
**
Tukey-Kramer 法
**:p<0.01
図 2
皮脂量の男女比較
表 1 皮脂中の組成別分析値
男女比(男性の平均値/女性の平均値)
不飽和
FA
飽和
FA
高度不飽和
TG
トリ不飽和
TG
ジ不飽和
TG
モノ不飽和
TG
飽和
TG
5.6
2.8
2.6
2.1
2.2
2.2
2.2
- 48 -
(b)
(a)
洗顔前:
r=0.464(p<0.05)
洗顔後:
r=0.686(p<0.01)
洗顔前:
r=0.418(p=0.08)
洗顔後:
r=0.097(p=0.68)
図 3
(a)皮 脂 量
2 -2 . ギ ラ つ き 現 象
(c)
洗顔前:
r=0.655(p<0.01)
洗顔後:
r=0.589(p<0.01)
ギラつきスコアとの関連性
(b)皮 膚 色 明 度 ( L*) (c)キ メ 体 積 率
5) 6)
健 常 男 性 2 0 名 を 対 象 に 、洗 顔 直 後 の 皮 脂 が 少 な い 状 態 と 皮 脂 が 多 く 分 泌 さ れ
た状態で、写真撮影と各皮膚計測を行った。ギラつきは、等間隔に設定したギ
ラつきレベル基準画像(1~7)を基に評価した。皮脂が多い洗顔前では、皮
脂量とギラつきスコアとは正相関が認められたが、皮脂が少ない洗顔後では、
ギ ラ つ き ス コ ア の 個 人 差 は 非 常 に 大 き か っ た ( 図 3 a )。 他 の 皮 膚 特 性 と ギ ラ つ
き ス コ ア と の 相 関 性 を 確 認 す る と 、 皮 膚 色 明 度 と 負 の 相 関 が 見 ら れ ( 図 3 b )、
皮 膚 表 面 の キ メ 体 積 率 ( 図 3c)と 負 の 相 関 が 認 め ら れ た 。す な わ ち 、皮 膚 色 が
暗く、キメ細かさがなくなるほど、ギラつきは目立つという結果であった。
皮 脂 量 も 含 め た こ れ ら の ギ ラ つ き 要 因 の 重 み を 、重 回 帰 分 析 に て 解 析 す る と 、
ギラつきへの影響度の大きさを示す標準偏回帰係数の値は、皮脂量増加要因が
0 . 4 6 5 、キ メ の 不 明 瞭 化 要 因 が 0 . 3 5 2 、皮 膚 色 明 度 の 低 下 要 因 が 0 . 3 6 7 で あ っ た 。
皮脂量が最も大きな要因であったことは確かだが、他の 2 要因も、ギラつきの
発生に寄与していることが示された。
3.拭き取りシート化粧料の有用性
7)
3.1.肌への即時的影響評価
2 0 ~ 3 0 歳 代 の 健 常 男 性 を 対 象 と し て 、1 1 月 お よ び 7 月 に 試 験 を 実 施 し た 。被
験 者 を 3 群 に 分 類 し 、 右 半 顔 に 、 第 1 群 ( 15 名 ) は 洗 顔 料 に よ る 通 常 の 洗 顔 、
第 2 群 ( 1 4 名 ) は 含 浸 液 を 含 ま な い ド ラ イ シ ー ト ( D R W )、 第 3 群 ( 1 5 名 ) は 多
価 ア ル コ ー ル を 含 む 保 湿 シ ー ト( MWW)に よ る 拭 き 取 り を 実 施 し た 。な お 、 3 群
と も に 、左 半 顔 に は 標 準 シ ー ト( S W W )を 使 用 し た 。サ ン プ ル の 処 方 を 表 2 に 示
す 。 ま た 標 準 シ ー ト 、 ド ラ イ シ ー ト 、 お よ び 保 湿 シ ー ト は 、 コ ッ ト ン 100% 、
- 49 -
表 2
シート化粧料の中味組成
図 5
表 3
モデル洗顔料の中味組成
測定タイミング
目 付 け 30 g/m 2 、 サ イ ズ 20 cm×20 cm の 不 織 布 を 用 い た 。 標 準 シ ー ト と 保 湿 シ
ー ト は 、 1 枚 あ た り 4.5 g の 含 浸 液 を 含 浸 さ せ た 。 洗 顔 料 は 、 脂 肪 酸 石 け ん を
主 体 と す る 処 方 と し た ( 表 3 )。
測 定 項 目 は 、 皮 脂 量 、 角 層 水 分 量 、 TEWL、 Visia ( Canfield) を 用 た ギ ラ
つきスコア
5) 6)
( GLA) と し た 。 測 定 の タ イ ミ ン グ を 図 5 に 示 す 。 シ ー ト 化 粧
料 の 拭 き 取 り 方 法 は 、 各 箇 所 5 往 復 と し た 。 計 測 は 、 21°C、 50%RH の 恒 温 恒 湿
室 内 で 行 い 、 計 測 前 に 20 分 以 上 の 馴 化 時 間 を 設 け た 。 な お 、 初 期 か ら 24 時 間
後までは、洗顔、髭剃り、拭き取りシートの使用など全てのスキンケア行動を
禁止した。
シート化粧料の拭き取り行為による洗浄効果と肌への作用を調べるために、
モデル洗顔料での洗顔、液を含まない不織布、及び、種類の異なる 2 種類のシ
ート化粧料による拭き取りの 4 種の清浄行為を比較した。皮脂の多い前額部で
は、洗顔料と標準シートの拭き取りで、皮脂残存率は同等であり、シート化粧
料 の 洗 浄 効 果 の 高 さ が 明 ら か に な っ た ( 図 6 a b )。 た だ し 、 頬 部 で は 、 洗 顔 料 の
方が皮脂残存率は低く、洗浄効果が高かった。この異なる結果は、頬部におい
て、部位の特性上、多量の水を使って擦り洗いされために洗顔料の皮脂除去効
果が高かったと考えられる。いずれの部位においても、ドライシートに関して
- 50 -
図 6
各 種 洗 浄 方 法 に よ る 皮 脂 残 存 率 比 較 ( 使 用 後 /使 用 前 )
a)ほ ほ
b) 前 額 部
図 7
*0.01<p <0.05
***p <0.001
paired t test
SWW を 基 準 と し た 各 種 洗 浄 方 法 に よ る ギ ラ つ き レ ベ ル
( 各 洗 浄 < 使 用 後 -使 用 前 > /SWW< 使 用 後 -使 用 前 > )
*0.01<p <0.05
paired t test
(b)
(a)
図 8
各 種 洗 浄 方 法 に よ る 皮 膚 計 測 値 比 較 ( 使 用 後 -初 期 )
a)皮 膚 コ ン ダ ク タ ン ス 値
*0.01< <p <0.05
b) TEWL 値
**0.01<p <0.001
paired t test
は、標準シートと比較して皮脂残存率は有意に高く、また、保湿シートの皮脂
残 存 率 は 標 準 シ ー ト と 同 等 で あ っ た( 図 6 a b )。こ れ ら 3 種 類 の シ ー ト 化 粧 料 に
は、同じ不織布を用いていることから、効率の良い皮脂除去効果を得るために
は、拭き取り行為だけでなく、含浸液が必要であることが分かった。図 7 に前
額 部 で の SWW を 基 準 と し た 各 種 洗 浄 方 法 に よ る GLA 変 化 量 の 比 を 示 す 。 各 サ ン
プル適用後のギラつきレベルの変化量は、ドライシートでのみ標準シートの変
- 51 -
化量より有意に高く、洗顔、保湿シートは標準シートと同等であった。
シート化粧料を使用した時の即時的な肌状態の変化を解析した。頬部の皮膚
コ ン ダ ク タ ン ス 値 の 変 化 量 を 図 8 a に 示 す 。洗 顔 で の 変 化 量 は 標 準 シ ー ト の 変 化
量よりも有意に低かった。ドライシートに関しては、標準シートと有意な差は
見られなかったが、保湿シートは標準シートよりも有意に変化量が高かった。
TEWL の 変 化 量 に 関 し て は 、 ど の 群 も 標 準 シ ー ト と 各 サ ン プ ル と に 有 意 な 差
( 顔 面 左 右 の 差 ) は 無 か っ た ( 図 8 b )。
肌への作用について、皮膚コンダクタンス値の変化から、洗顔を行なった後
は角層水分量が低下するのに対し、標準シートによる拭き取りは、使用直後の
角層水分量を低下させないことが示唆された。また、保湿シート使用後の皮膚
コンダクタンス値が標準シート使用後よりも上昇したのは、含侵液の処方中に
含まれる多価アルコールの保湿効果によるものと考えている。拭き取り行為で
あっても含浸液に配合される成分の特性が肌状態へ影響することが示された。
エタノール水溶液とわずかな界面活性剤のみで処方された標準シート使用後お
よびドライシート使用後の皮膚コンダクタンス値が上昇した結果については、
奥田ら
8)
が 1 回の洗顔料による肌の洗浄によって、アミノ酸および細胞間脂
質が流出するのを確認していることから、洗顔料による洗顔では過剰に洗い落
と さ れ て し ま っ た NMF が 、 標 準 シ ー ト の 拭 き と り で は 適 度 に 残 り 、 角 層 水 分 量
が保たれている可能性がある。シート化粧料による摩擦が肌のバリア機能にど
の 程 度 影 響 す る か 、T E W L 値 を 指 標 に し て 調 べ た 結 果 、拭 き 取 り 行 為 前 後 で は 変
化がなく、ドライシートを含むフェイス用拭き取りシート化粧料による一回の
拭き取り行為がバリア機能に及ぼす影響は少ないことが明らかになった。
3.2.継続使用による肌への影響評価
フェイス用拭き取りシート化粧料の使用による皮膚コンダクタンス値の上昇
が一過性のものなのか、あるいは保湿効果を有するのかについて、4 週間のシ
ート化粧料の継続使用により検証した。
2 0 ~ 4 0 歳 代 健 常 男 性 3 4 名 を 対 象 と し て 、1 月 に 試 験 を 実 施 し た 。被 験 者 全 員 、
指定の方法にて、1 日 1 回の洗顔料による通常の洗顔を行なった。標準シート
の 使 用 を 1 日 に 2 回 使 用 す る 群 ( 使 用 群 ) 17 名 、 使 用 し な い 群 ( 未 使 用 群 ) 17
名の 2 群に分け、標準シートを顔全体に使用した。これを 4 週間継続し、試験
中は、評価部位である頬の髭剃りや、化粧水の使用など全てのスキンケア行動
を 禁 止 し た 。測 定 は 、角 層 水 分 量 、T E W L と し た 。評 価 に 用 い た シ ー ト 化 粧 料 は 、
シート化粧料使用時の肌への即時的影響評価に準じて行った。また、4 週後に
肌 の 状 態 に つ い て 簡 単 な ア ン ケ ー ト 調 査 を 実 施 し た 。内 容 は 、
「肌が乾燥してカ
- 52 -
(b)
20
control
group
0
-20
subject
group
++
++
-40
ΔTEWL value (Δg/m2・h)
Δskin conductance (ΔμS)
(a)
-60
***
-80
***
-100
0w
2w
control
group
4
subject
group
2
0
-2
**
-4
4w
図 9
0W
2W
4W
継続使用による皮膚計測値
a)皮 膚 コ ン ダ ク タ ン ス 値
++
6
0.01< p < 0.05
**0.001<p <0.01
図 10
b) TEWL 値
Tu k e y - K r a m e r t e s t
***p <0.001
paired t test
継続使用後のアンケート調査
サ カ サ し て い る 」 の 項 目 に つ い て 、 初 期 か ら 「 と て も 改 善 し た 」、「 改 善 し た 」、
「 ど ち ら で も な い 」、「 悪 化 し た 」、「 と て も 悪 化 し た 」 の 5 段 階 評 価 と し た 。
その結果、未使用群では皮膚コンダクタンス値が有意に低下した一方で、使
用 群 で は 低 下 が 抑 制 さ れ た ( 図 9 a )。 試 験 時 期 が 大 気 の 乾 燥 す る 冬 季 で あ っ た
ことから、未使用群では皮膚内の水分が奪われやすい環境下にあったと考えら
れる。これに対し、1 日 2 回の標準シートの使用は、大気中に奪われた水分を
適 宜 補 て ん し 、皮 膚 の 乾 燥 を 防 い だ と 推 察 さ れ る 。TEWL 値 は 、使 用 群 の 2 週 目
か ら 4 週 目 で 差 異 は あ り 、バ リ ア 機 能 改 善 の 傾 向 が 観 察 さ れ た( 図 9 b )。な お 、
4 週間後のアンケート調査から、標準シートの連用使用によって、皮膚状態は
悪 化 が 抑 制 さ れ た だ け で な く 、 よ り 改 善 さ れ た 可 能 性 が 考 え ら れ る ( 図 1 0 )。
4.おわりに
男性の悩みであるベタつきやギラつきは、過剰な皮脂を除去する洗浄だけで
な く 、保 湿 を 主 と し た ス キ ン ケ ア 行 為 に よ る 肌 キ メ の 改 善 が 重 要 と な る 。ま た 、
- 53 -
男性は、皮脂中の不飽和脂肪酸量が多いことから肌あれの予防には適宜、これ
を除去する必要もある。
近年、男性の洗顔行為が一般化し、化粧水等の保湿剤の使用率も向上してい
る 。し か し な が ら 、男 性 特 有 の 皮 脂 量 の 多 さ か ら 、1 日 1 ~ 2 回 程 度 の 洗 顔 で は 、
ベタつきやギラつきなどの不快感を 1 日中予防するには不十分と言える。その
ため、これらの解消には、都度の洗浄・保湿が必要となるが、外出先において
は、このようなスキンケア行為が困難な場合も多い。
フェイス用拭き取りシート化粧料は、かねてより認識されていた皮脂や汚れ
の除去効果だけでなく、含浸液に保湿成分を添加することによって保湿効果を
コントロールできる可能性がある。簡便かつ手軽に使用できる拭き取り化粧料
は、リフレッシュ効果も高く、使用動機が高い剤型であることから、男性のス
キンケア行為のツールとして、今後、重要なものとなると考えられる。
5. 引用文献
1) 今 山 修 平 , 宮 地 良 樹 , 松 永 佳 世 子 , 宇 津 木 龍 一 , ス キ ン ケ ア を 科 学 す る ,
南 江 堂 , 91( 2008)
2) 山 口 あ ゆ み , 森 俊 裕 , Fragrance J, 41(3) , 21-28( 2013)
3 ) 熊 谷 広 子 ,渡 辺 弘 子 ,神 津 登 志 枝 ,野 口 ひ ろ み ,高 橋 元 次 ,J . S o c . C o s m e t .
Chem., 23, 9-21 (1989)
4) 飯 田 年 以 ,勝 田 雄 冶 ,猪 俣 慎 二 , Fragrance J,32( 3) ,41-47( 2004)
5) Yamaguchi A, Onishi K, Kuriyama K, J. Soc. Cosmet. Chem., 44, 118-125
( 2010)
6) Yamaguchi A, Onishi K, Proceedings of the 10th Asian Societies of
Cosmetic Scientists, Seoul 6-8 April, 38-39 ( 2011)
7) 嶋 田 格 , 齋 藤 ( 大 塚 ) 香 織 , 高 石 雅 之 , 臼 倉 淳 , 山 口 あ ゆ み , 藤 田 郁 尚 ,
清 水 真 由 美 , J. Soc. Cosmet. Chem. , 48(4) , 306-311( 2014)
8) 奥 田 峰 広 , 吉 池 高 志 , 日 皮 会 誌 , 110, 2115-2122( 2000)
- 54 -
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第 47 回 SCCJセミナーテキスト
2016 年2月23日 印 刷
2016 年2月23日 発 行
発行人
日本化粧品技術者会
セミナー委員会
委員長
植田 光一
東洋ビューティ㈱
副委員長 石井 博治
味の素㈱
栗山 健一
小林製薬㈱
委 員
青野 恵
ライオン㈱
石川 博文
㈱ノエビア
石田 一弘
㈱コーセー
里中 研哉
岩瀬コスファ㈱
今井 健仁
ホーユー㈱
寺内 友広
㈱ナリス化粧品
尾ノ上弘典
東色ピグメント㈱
寺﨑 克彦
牛乳石鹸共進社㈱
小又 昭彦
㈱資生堂
吉武裕一郎
オッペン化粧品㈱
工藤 大樹
ポーラ化成工業㈱
久留戸真奈美
㈱エフシージー総合研究所
・フジテレビ商品研究所
作山 秀
㈱マンダム
髙橋 和久
㈱日本色材工業研究所
飛田 和彦
味の素㈱
早瀬 基
花王㈱
事務局
〒224-8558
神奈川県横浜市都筑区早渕 2-2-1
㈱資生堂 リサーチセンター 内
TEL 045-590-6025
FAX 045-590-6093
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