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2010~2030 年の中国経済成長動向 に関する研究

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2010~2030 年の中国経済成長動向 に関する研究
個別報告一
2010~2030 年の中国経済成長動向
に関する研究
張立群
目
次
内容要約 ........................................................................................................ 1
はじめに ........................................................................................................ 8
第1章
中国経済の成長モデル:国際比較と総括....................................... 10
第 1 節 中国経済の核心建設期の特徴及び主要な成果..........................................11
第 2 節 中国経済の放射型発展期の特徴 .............................................................. 12
第2章
現在の中国経済が位置する発展段階とその特徴に関する分析....... 15
第 1 節 中国の特殊な経済発展の道のりから見た、経済発展の現段階の特徴..... 15
第 2 節 国際比較から見た中国の経済発展の現段階 ............................................ 19
第3節 中国の現在の発展段階に対する基本的判断............................................. 24
第3章
第1節
第2節
第3節
第4節
第5節
第6節
第7節
第4章
中国の現在及び将来の経済発展の主要条件に対する比較分析 ....... 25
需要条件の分析........................................................................................ 25
賃金条件の分析........................................................................................ 29
労働力条件の分析 .................................................................................... 29
技術条件の分析........................................................................................ 31
経済体制条件の分析................................................................................. 32
対外開放と経済の安全に関する条件の分析............................................. 33
資源環境面の条件の分析 ......................................................................... 33
2010~2030 年の中国経済成長の将来性展望................................. 35
第 1 節 2010~2020 年の経済成長の将来性展望 ................................................... 35
第2節 2020~2030 年の経済成長の将来性展望 ................................................... 37
内容要約
2010~2030 年の中国の経済成長動向に関する研究の主な結論は、以下の通
りである。
1.中国経済はすでに工業化、都市化が加速する発展段階
に突入している。
経済発展の段階を正しく判断するには、中長期的な経済成長動向を把握する
ことが非常に重要である。経済の発展段階を判断する場合、1 人当たりの所得
水準を基準とするものがあれば、工業化の程度を基準にするものもある。また、
経済の近代化を離陸の準備、離陸、成熟への前進段階と3つの大きな段階に区
分するものもある。我々は、工業化と都市化は経済の近代化の主柱であり、こ
の立場から経済の発展段階の特徴を描写し把握するのが、かなり物事の本質に
触れると共に、理解もしやすくなると考えている。中国がすでに工業化、都市
化の2つが加速する段階に突入しているという判断の主な根拠は、以下の通り
である。
(1)中国はすでにかなり潤沢な物的・技術的基盤を備えている
中国は建国以来半世紀を過ぎ、特に改革開放以降の模索と実践により、社会
と経済には偉大な歴史的意義を有する段階的変化がもたらされた。1952~2009
年の 57 年間において、中国経済は年平均 8.09%の成長を持続した。2010 年の
場合、GDP のおおまかな統計データと当該年の為替レートで計算すると、中国
人の 1 人当たり平均 GDP は 4400 ドル前後に達し、世界銀行の基準に基づくと、
すでに中高所得国家の水準に達している。
(2)中国はすでに消費構造が産業の高度化を推し進める段階に突
入している
計画的に資源を集中的に分配する方式を通じて、中国は比較的速く工業化、
都市化の物的技術的基盤を構築し、農業国から工業国へと転換する重要なステ
1
ップを踏み出した。こうした基礎の上に、改革開放は順調に市場メカニズムを
導入して資源分配を行い、自由競争による市場環境を通じて、10 数億の人々
の知恵と創造力を存分発揮し、生産と消費の関係に合理的で良好な相互作用を
生み出した。また、生産要素が産業間の配分と組み合わせにおいて絶えず最適
に調整された。更に、核心経済と外周経済が体制改革において絶えず交流・融
合し(計画経済時代に形成された国有経済、都市経済と非国有経済、農村経済
との間の交流と融合)、生産と消費の関係が調整されて、中国経済は消費構造
の高度化が産業の高度化を推し進める過程に突入し、工業化、都市化の速度が
全面的に加速している。
(3)中国はすでに工業化の中期段階に突入している
中国の産業構造、製造業の実力及び輸出構造から見て、中国はすでに工業化
の初期段階から工業化の中期段階に突入しているとみなすことができる1。主
な根拠としては、第一に、農産物の全体量は急速に増加しているが、第一次産
業と農業の生産額の割合が明らかに低下している。第二に、人口が 3 億増加し
ている状況の下、農業労働者の割合が 1978 年の 70.5%から 2007 年の 40.8%に
まで減少している。第三に、すでに比較的完備された工業システムが構築され
ており、製造業の能力が高い。第四に、輸出量が急増する中で、農産物等の第
一次産業製品が、輸出商品構成に占める比率が大幅に低下している。経済構造
の変動において、基本的需要が満たされている状況から徐々に消費の高度化と
需要の多様化に適応する流れとなっている。これは工業化が加速する段階にお
ける特徴である。
H.Chenery(チェネリー)らが提起している工業化段階の段階区分の
基準では、為替レートを 1998 年のドルで換算すると、工業化の初期の一人当たり平均 GDP は 1200~
2400 ドル、中期は 2400~4800 ドルで、後期の段階は 4800~9000 ドルとなる。この方法に基づいた場
合、中国はまだ工業化の中期に突入していない。購買力平価法に基づいて 1998 年のドルで換算した場合、
工業化の初期は一人当たり平均 GDP が 3010~5350 ドル、中期は 5350~8590 ドルで、後期の段階は 8590
~11530 ドルとなる。この方法に基づいた場合でも中国は工業化の初期に位置する。私は、中国経済の
発展と工業化のプロセスはそれ自身の特殊性を有しており、構造的に H.Chenery の基準とは大きな偏差
が生じていると考える。こうした基準は中国の工業化のプロセスの実際的状況を正確に反映できないの
で、中国の実際的状況に合う基準を選択すべきであり、H.チェネリーが区分した工業化の段階にあまり
とらわれるべきではない。
1世界銀行のエコノミストである
2
(4)中国はすでに経済の離陸段階に突入している
世界各国の近代化の歴史を見ると、主要な先進国の経済の近代化は、いずれ
も離陸の準備、離陸期、成熟への前進段階といった 3 つの段階を経験している。
国際的に見れば、中国はすでに離陸の準備を終え、経済の離陸期に突入してい
る。世界銀行の H.Chenery(チェネリー)らが行った各国の工業化の特徴に対す
る分析によると、経済の離陸期において、一般的に比較的多くの経済成長の加
速を促す条件が蓄積される。この条件には以下のものが含まれる。消費構造の
変化、中間需要の変化が国内需要の急速な増加を後押しする。資金と労働力供
給が增加する。経済成長の不均衡が産業構造の変動をもたらし、資金、労働力
が産業間で活発に再構成される。持続的成長をサポートする物的技術的基盤が
備わり、全要素生産性を高めることをサポートする制度及び社会的環境が形成
される。安定した開放的な国際環境が備わり、輸入代替と輸出主導による戦略
が貿易構造の変化を推し進め、比較優位な産業への転換を促進する等である。
これに対し、アダム・スミス(1776)、アーサー・ヤング(1928)、楊小凱(2001)
を代表とする経済学者は、経済成長が一旦離陸期に突入すると、市場の大きさ
と分業の発展との間の相互作用により、収穫逓増効果が発生し、この効果の内
在的促進によって、経済の離陸がスタートすると、経済成長の潜在力が尽きる
まで持続し続けると指摘している2。
2.中国は持続的に工業化、都市化を加速推進する条件を備えてい
る
(1)市場の潜在的需要が巨大である
消費構造は持続的に高度化し、最終消費需要も急速に拡大を持続する。所得
の持続的な増加に支えられて、家庭用における乗用車普及は急速に進み続けて
おり、都市の住宅需要もまた急速に拡大し続けている。人口の都市部への大量
移動が、更にその他の各市場の消費需要を持続的に増加させる(都市住民の 1
人当たり平均消費支出は農村住民の 3 倍である)。産業間の関連性が高まり、
2
内発的経済成長における主流の理論は、こうした収穫が逓増する効果が規模の経済によるものとしなけ
ればならないとしている。こうした理論には益々多くの疑問が投げかけられている。
3
中間需要も急速に拡大する。
(2)比較的豊富な資金的条件を有している
住民の所得が持続的に相当な速度で増加し、住民の貯蓄率も依然としてかな
り高い水準を維持する。また、企業の資金と財政資金も急速な増加を維持する。
更に、中国経済の高度成長が多額の外資の流入を呼び続ける。
(3)比較的豊富な労働力条件を有している
今後数十年後の中国の総人口(香港、アモイ特別行政区、台湾は含まない。
以下同じ)は、依然として増加し続ける。2010 年と 2020 年の総人口は、それ
ぞれ 13.6 億人、14.5 億人前後に達する。また、2030 年の総人口は約 15 億人
に達する。2010-2030 年の間、労働年齢人口は膨大な規模を保持することに
なる。2015-2016 年において、15-64 歳の労働年齢人口 10.1 億人のピークに
達し、その後 2030 年まで約 10 億人を維持すると予測されている。
(4)一定の技術的保障がある
国際分業に全面的に参入する状況において、今日の世界の主要な生産技術を
参考にし、使用することができる。特にニューエコノミーに関する最新の技術、
及び省エネ環境保護分野の最新技術を応用することができる。中長期の科学技
術の発展計画綱領の実施、導入・消化吸収・リノベーション、中国独自のイノ
ベーション等のセルフ・イノベーション活動に伴い、更に多くの重要な技術と
コア技術が提供されるようになる。
3.将来的発展において一連の厳峻な課題に直面している
(1)資源環境面での情勢が厳峻である
長期にわたり、中国は経済の高度成長を持続すると同時に、非常に高い資源
環境の対価を支払っている。土地、淡水、鉱物資源、生態環境の許容能力は更
に脆弱になっている。工業化と都市化が全面的に加速する状況は、資源に対す
る需要と環境に対する負担を更に大きくしている。資源の節約、環境保護に対
4
する取り組みが大きな成果を上げていない中、資源環境の状況と工業化・都市
化のスピードがシーソー関係になっている。資源環境問題は、中国の中長期的
な経済・社会的発展を制約する最大の要因の1つである。
(2)体制メカニズムの弊害が際立っている
これには主に以下のようなものがある。政府が資源分配に直接関与する現象
が依然として多過ぎる。税収の体制が規範化されておらず、金融体制も不健全
である。要素と資源の価格体系が不合理で、土地資源の分配も規範性と長期的
に効果のある管理制度を欠いている。政治分野の改革が経済分野の改革に遅れ
ている、等である。計画経済体制から市場経済体制への移行は大きな変革であ
り、深刻な利害の対立に突き当たるほど、改革の難易度が高くなる。既存の体
制的欠陥が克服されても、また新たな体制的矛盾が生まれ、新たな摩擦と一定
の混乱が生じる可能性がある。体制メカニズムの弊害は、中長期的に経済・社
会を健全に発展させる上で深刻な潜在的問題となっている。
(3)コア技術における優位性に欠け、総合的競争力は高くない
中国の工業、特に製造業は、コストや技術・機器のレベル等の面において、
国際的な先進レベルとは大きな格差が存在している。国際分業と競争において
は、やはりローテク製品と労働集約型製品に依存している。中国の人的資源の
構造は不合理であり、熟練労働者、技術者、中高級人才が占める割合が比較的
低い。経済のグローバル化と知識経済による衝撃の下、積極的に技術を消化吸
収し、絶えず自己のイノベーション能力を高めることができるかどうかが、将
来の経済・社会の成長動向を決定する重要な要素の1つとなっている。
(4)人口の高齢化が速い
中国は現在すでに、先進国に起きている人口の高齢化問題を抱えている。経
済発展の水準がかなり低く、人口の基数が非常に大きい状況の下、人口が急速
に高齢化し「豊かにならないうちに老いる」といった新たな問題が起きている。
5
人口の年齢構造は今後 20 年内に成年型から急速に老年型に移行する。これは
世界的にも稀なことである。人口の急速な増加と高齢化社会の急速な到来、余
剰労働力と年金負担の増加、更には国家財政の不足と社会保障制度の不備は、
深刻な社会問題となる可能性がある。
中国は過去のいかなる時期と比べても、また経済の離陸を達成したいかなる
国と比べても、より有利な条件を有する状況の下、急速な経済の離陸期に突入
した。また、中国は過去のいかなる時期と比べても、経済の離陸を達成したい
かなる国と比べても、より複雑な条件を抱えながら急速な経済の離陸期に突入
している。このため、中国の今後の経済発展には、非常に大きな不確定性が存
在している。重要なのは、こうした課題にうまく対処し、試練を受け止め、状
況を有利に導き、問題を解決できるかどうかにある。
4.現在から 2030 年までに、中国はおよそ2つの経済の発展段階
を経験することになる。
(1)2020 年までは工業化・都市化が加速する時期となる
この時期に、中国経済は大きな構造変化のエネルギーを蓄積する。この構造
変化には、消費構造、産業構造、都市・農村構造、貿易構造、地域構造等の多
くの領域が含まれる。構造変化は、経済の持続的成長を推進し、工業化と都市
化の全面的加速を促し、都市における大規模な「ハード」建設が工業・製造業
の規模の持続的で急速な拡大を推し進める。経済発展と資源環境の関係、工業
化と都市化の関係、消費構造と産業構造の関係、産業と都市地域空間の配置、
国内経済と国際経済との関係等を調整する面において、多くの新たな矛盾、新
たな問題に直面し、近代化のプロセスを総合的に加速させる上で最も重要な時
期となる。発展が比較的順調であった場合、2020 年までに基本的に工業化が
完了する。李善同と何建武の計算によると、この時期の GDP の年平均成長率は
7.5%前後、2020 年の 1 人当たり平均 GDP は 7358 ドルに達すると予測される。
産業別の付加価値の構成は(第一次・第二次・第三次産業の順に列挙、以下同
様)。順に 5.7%、47.1%、47.2%で、工業の GDP に占める割合が安定するよ
うになる。また、産業別の就業構造については、順に 28.9%、28.9%、42.2%
6
となる。更に、都市化率は 56.5%に達する。
(2)2030 年までに工業化の進行は緩やかになり、都市化進行の加速が
継続する経済の発展段階となる
2020 年までの経済発展を基礎として、中国の工業化・都市化の成長モデル
が基本的に確立される。各方面の構造変化が最も激しい時期は基本的に終わり、
経済発展の安定性が明らかに高まり、経済成長の水準が若干低下する。産業構
造の高度化、製造業の水準の向上、成長モデルの転換、都市のソフト環境(管
理、サービス等)の急速な発展、等が最も際だった注目点となる。李善同と何
建武の計算によれば、GDP の年平均成長率は 7%前後となり、2030 年には 1 人
当たり平均 GDP が 13217 ドルになると予測される。また、産業別の付加価値の
構成(第一、二、三次産業の順に配列、以下同じ)については、順に 3.5%、
45.6%、50.9%となる。更に、産業別の就業構造については、20.6%、31%、
48.4%となり、都市化率は 64%前後に達すると予測される。
7
2010~2030 年の中国経済成長動向に関する研究
はじめに
中国は建国以来半世紀を過ぎ、特に改革開放以来の模索と実践により、社会
と経済には偉大な歴史的意義を有する段階的変化がもたらされた。1952~2009
年の 57 年間において、中国の GDP は年平均 8.09%の成長を維持し(物価の要
素は除く。この内、1952~1977 年の年平均成長率は 6.15%、1978~2009 年の
年平均成長率は 9.9%)、1 人当たり平均 GDP は年平均 6.2%伸びた(この内、
1953~1977 年の年平均成長率は 3.8%、1978~2009 年の年平均成長率は
8.74%)。2010 年について、当該年の為替レートを基準にして計算した場合、
中国の 1 人当たり平均 GDP はすでに 4000 ドルを突破している。半世紀にこれ
だけの発展と成果を獲得したことは、世界的にも前例がない。新中国が建国さ
れた当初は非常に貧しく、国力は疲弊した状況にあった。改革開放以前の国民
経済は厳しい状況に直面していたが、そうした状況はすでに根本的に変化して
いる。徐々に国力をつけ、経済体制は健全化し、対外的な開放度が絶えず高め
られ、社会的事業が急速に発展する一方、独自の歴史・文化・伝統を保ち続け
る中国は、現在、東アジアで着実に立ち上がりつつある。
特殊な国情、特殊な歴史的背景の下、中国経済の近代化は独特のモデルを形
成しており、我々はそれを「核心放射型」経済成長モデルと呼んでいる3。現
在、中国はすでに基本的に核心建設を完了しており、また「核心建設」から「放
射型発展」への移行過程も完了している。市場による資源の分配を基礎として、
中国は目下、比較的全面的持続的に発展を加速させる過程に突入している。中
国は、工業化、都市化、市場化、国際化において大きな成果を収めている。付
加価値ベースで計算した場合、工業の GDP に占める割合は 17.64%から 42%に
上昇し(1952~2008 年)、第二次産業の GDP に占める割合は 20.88%から 48.6%
3
「核心放射型」経済成長モデルには、「核心建設」と「放射型発展」の2つの時期が含まれる。「核心
建設」とは、計画経済の方式によって資源を集中的に分配し、比較的小さな範囲において工業化と都市
化の中核を構築することを指す。また、
「放射型発展」とは、市場経済に移行した後、市場メカニズムを
通じて資源の均等分配を完了し、核心経済から外周経済に対して、次々と輻射的にダイナミズム作用を
与え、それによって工業化、都市化、市場化、国際化を全面的に完了させるモデルのことである。
8
に増加した。また、第一次産業の占める割合は 50.5%から 11.3%に低下した。
更に、都市人口の総人口に占める割合は 13%から 46.6%に増加した(1953~
2009 年)。社会主義市場経済体制は基本的に確立し、全面的な対外開放の局面
がすでに形成されている。将来に向けて、中国は労働力、資金、技術の面で比
較的良い条件を有し、また大きな国内市場を有している。同時に、中国は資源
環境面からの増大する圧力、国内経済発展の不均衡、人口の高齢化、及び国際
的政治経済環境における不確定要素等の重大な問題に直面している。各種の主
要な要素と世界の先例を総合的に分析すれば、現在から今世紀中葉において、
中国経済は、第二次世界大戦後に若干の国家において示された「キャッチアッ
プ型」の発展4を続けるだろう。経済は高度成長を持続し、産業別の生産額の
構成、就業構造、都市化率、国民の消費構造と水準等は、急速に先進国に接近
するという特徴を有するようになる。予測によると、2010~2020 年にかけて、
中国は依然として工業化と都市化の「2つの急成長」が存在する時期にあり、
経済は年平均 7.5%前後の成長率を有し、工業の GDP に占める割合はある時期
まで増加した後、徐々に下降に転じる。また、重化学工業の占める割合は引き
続き増加するが、この内のエネルギー消費が最も突出した原材料工業の占める
割合が安定するようになる。2020 年までに、基本的に工業化の目標が達成さ
れ、都市化率が明らかに高まり、56%程度に達するようになる。1 人当たりの
平均 GDP については、7358 ドルに達する見込みである。2020~2030 年、中国
は工業化が相対的に安定する中、都市化が依然として加速する「1つが安定し
1つが加速する」時期となり、経済は年平均 6.2%前後の成長率を保ち、工業
の GDP に占める割合が低下する。重化学工業の工業に占める割合は安定し、原
材料工業の重化学工業に占める割合が明らかに低下する。また、労働力が工業
とサービス業に急速に移転し、人口の都市への移動が加速する。2030 年には、
1 人当たり平均 GDP は 1 万ドルを超え、都市化率は 64%程度にまで高まる。
4
第二次世界大戦以降、日本、韓国、ブラジル、シンガポール、台湾、香港などの若干の国・地域にお
いて、経済の急速な発展、工業化の急速な推進が行われ、米国などの先進国との格差が急速に縮小した。
私達はこれを「キャッチアップ型」発展と呼んでいる。中国の計画経済の時期に提起された「英米に追
いつく」といった概念とは、その成長モデル、発展効果の面において明らかに異なっており、区別が必
要である。
9
第1章
中国経済の成長モデル:国際比較と総括
新中国の誕生を起点とし、世界の主要な先進国における経済の近代化のプロ
セスと比較することは、中国の経済近代化における特殊性を正しく認識し、国
際的経験を参照し、中国の今後の経済社会の成長動向を把握する上で、非常に
重要である。
中国の経済近代化の起点は非常に低い。2000 年のドルベースで計算した場
合、1952 年の中国の 1 人当たり平均 GDP はわずか 61 ドルであった。これに対
し、米国が産業革命を完了し工業の近代化をスタートさせた時期(およそ 1860
~70 年代)、1870 年の 1 人当たり平均 GDP は 726 ドルで、日本が工業の近代化
をスタートした時期(およそ 1880~90 年代)、1885 年の 1 人当たり平均 GDP
は 475 ドルであった。このことは中国が過去 100 年にわたり貧しく脆弱であっ
たこと、戦争によって破壊された後に経済の近代化に着手することの難しさを
十分に示している。
その一方で、中国には先進国が当時備えていなかった条件がある。第一に、
世界に社会主義制度と計画経済体制が登場した。第二に、多くの利用可能な技
術的成果を有している。第三に、中国は世界一の人口大国である。これらの特
殊な条件が中国の非常に低い近代化の起点と組み合わさり、必然的に「核心放
射型」の経済近代化モデルが形成された。すなわち、非常に低い経済発展レベ
ルにおいて、計画経済体制を利用して必要な資金、技術、人才、物資を集中さ
せ、比較的小さい範囲において近代的な工業システム及びそれとセットになる
都市経済が構築された。こうした段階が完了すると、生産力の発展と体制メカ
ニズムとの矛盾が計画経済体制から市場経済体制への転換を推進した。体制が
転換する中、市場による資源分配のメカニズムによって、必然的に工業製造シ
ステムと都市経済等の近代的核心経済の放射作用が十二分に発揮されるよう
になり、その放射作用によって経済構造の変化と経済全体の水準の上昇がもた
らされた。こうした近代化のモデルは、世界の主要な先進国における近代化プ
ロセスと明らかに異なっている。こうした特殊な近代化のプロセスに対する分
析は、核心建設期と放射型発展期の2つの時期に分けて行うことができる。
10
第1節
中国経済の核心建設期の特徴及び主要な成果
世界の先進国における経済の近代化プロセスと比較した場合、中国の核心建
設期の主な特徴として、以下の 3 つが挙げられる。
1.市場を通じない資源分配方式。中国の核心建設期は、新中国建国後から
改革開放前の時期に集中している。この時期の経済資源分配において採用され
たのは、中央が計画的に分配する方式であり、それは核心建設における基本的
な制度で、体制的保障であった。先進国における経済の近代化プロセスとは、
市場を通じた資源の分配であり、それは主に価格メカニズムと競争メカニズム
を通じて、要素が各産業に自然に分散するようになっている。このため、計画
経済型の核心建設といった現象は起こり得ない。
2.経済の全体水準が生産額の構造変化に遅れている。1952~1978 年におい
て、中国の産業別の生産額構成に劇的な変化が生じた。1978 年と 1952 年を比
較すると、第一次産業の占める割合が 50.57%から 27.9%へ下降し、第二次産
業の占める割合が 20.23%から 47.9%に上昇した。また、第三次産業の占める
割合は 29.2%から 24.2%に下降した。経済構造の面からみた場合、中国には
すでに工業・製造業によって主導される経済成長モデルが形成されていたが、
1978 年の中国の 1 人当たり平均 GDP はわずか 165 ドルであった。再び世界の
主要先進国の状況を見てみると、第二次産業が GDP に占める割合が中国の 1978
年とほぼ同じ時期の場合、米国(1944 年、第二次産業の占める割合は 37%)
の 1 人当たり平均 GDP は 15961 ドル、英国(1950 年、第二次産業の占める割
合は 47%)の 1 人当たり平均 GDP は 12076 ドルで、日本(1974 年、第二次産
業の占める割合は 46%)の 1 人当たり平均 GDP は 12079 ドルであった。これ
と比べると、中国の産業構造には大きな変化が生じ第二次産業の占める割合も
急速に増加してはいたが、経済全体の水準の上昇速度は非常に遅いものであっ
た。
3.就業構造と都市化率が明らかに産業構造の変化に遅れていた。1952~1978
年において、中国の就業構造は第一次産業の占める割合が 83.5%から 70.5%
に下降し、第二次産業の占める割合が 7.4%から 17.4%に増加した。また,第
三次産業の占める割合が 9.1%から 12.1%に増加した。更に、都市化率が
11
12.46%から 17.92%に上昇した。若干の変化はあったものの、明らかに生産
額構造の変化より遅れている。世界の主要先進国における第二次産業の占める
割合と中国のそれが大体に等しい時期において、対応する就業構造を見ると、
米国(1940 年)の場合、第一次産業が 20.5%、第二次産業が 31.7%、第三次
産業が 47.8%で、都市化率は 56.5%であった。また、日本(1974 年)の場合、
第一次産業が 19.8%、第二次産業が 34%、第三次産業が 46.2%で、都市化率
はが 53.3%であった。
表 1 就業構造及び都市化率の比較 %
国名
年度
第一次産
第二次産
第三次産
業
業
業
都市化率
第二次産業の生
産額の割合
米国
1940
20.5
31.7
47.8
56.5
37
日 本
1974
19.8
34
46.2
53.3
46
中国
1978
70.5
17.4
12.1
17.92
47.9
資料:パラグラフの世界史統計(2003 年、中国語版)、中国統計年鑑(2006 年)に
おける関連データに基づいて整理。
以上の特徴は、核心建設に欠かせない体制面における条件を示していると共
に、核心建設によって必然的にもたらされる全体の発展水準の低さと構造の急
速な高度化、工業化と都市化に参加する人口が比較的少ない、等の特徴を反映
している。多数の低所得人口、農村人口と近代的な都市経済の併存は、必然的
に巨大な発展の潜在力を秘めている。こうしたことが放射型発展期のいくつか
の主要な特徴を決定している。核心建設期に獲得される最も主要な成果は、比
較的独立した完備された工業製造システム、及び関連する都市システムが構築
され、経済の近代化に必要となる物的技術的条件が準備されることである。
第2節
中国経済の放射型発展期の特徴
改革開放以来、中国は社会主義市場経済体制に移行し、中国の経済体制と運
行メカニズムは世界の主要先進国における経済近代化の条件と同じものにな
り始めている。とはいえ、中国経済の近代化の道は依然として特徴的である。
12
それは主に、市場によって資源分配が行われる条件の下、計画経済体制下で形
成された要素の配置構造に極端な再構築が行われ、工業・製造システムや都市
システム等の近代的核心経済から次々と放射型ダイナミズムが発せられるよ
うになったことで、核心経済と外周経済との間に絶えず相互作用が引き起こさ
れ、経済構造に急速な変化が発生しつ続け、経済の持続的発展が促進されるよ
うになったためである。
放射型発展期における経済発展の特徴としては、主に以下の 3 つの側面が存
在する。
1.生産と消費の関係が合理的に調整され、良好な相互作用が生じる。経済
の持続的な急成長と所得分配制度の改革、都市部・農村部住民の所得の急速な
増加に伴い、活発な消費活動が農業と農村経済の外周経済を牽引し、それがま
た工業と都市経済の核心経済を牽引する。それにより、農業、軽工業、重工業
の割合が合理的に調整されて生産構造の変化が引き起こされ、社会生産の急速
な発展のために、徐々に旺盛となる最終需要を生み出す。また、核心経済は社
会的生産発展を推進する高効率なエンジンであり、消費の増加に対し、核心経
済は農産物原料と先進技術を大量に吸収すると共に、産業連携を通じて外周経
済の発展を推し進める。それにより工・農業の関係と都市部・農村部の関係が
密接になり、絶えず拡大する消費市場も満たされる。生産の発展は就業と所得
を増やし、消費のさらなる増加を促し、生産と消費の間には徐々に良好な循環
が形成されるようになる。
2.生産要素の産業間の分配と組み合わせが絶えず最適に調整される。核心
経済を基礎とする社会的生産力は、消費市場に合わせて絶えず調整・拡大する
活動であり、それは生産要素の再分配に示される。中国経済の市場化の程度が
絶えず高まるのに伴い、市場価格メカニズムと競争メカニズムが生産要素の配
置において更に重要となっている。豊富な労働力という優位性は、市場を通じ
て示される。労働力の農業から非農業産業への急速な移転は、産業別就業構造
の調整と都市化率の上昇を促進している。
市場経済条件の下では、社会的生産の総量と構造的変化は、根本的に消費需
要及び構造的変化によって決定される。消費構造の変化が産業の高度化を引き
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起こすと共に、産業に内在する物的・技術的連携が資金・技術集約型産業の発
展を推し進める。市場を通じた資源分配の結果、消費構造が高度化する。それ
に伴う産業の発展として、先ず労働集約型産業が挙げられる。そこでは労働力
資源の優位性が発揮される。また、就業の増加、所得の増加も消費構造の高度
化を効果的に促進する。このため、生産要素の分配構造の調整、産業別の就業
構造の変化、都市化率の上昇の主柱は、消費構造の高度化に伴う生産構造の変
化ということになる。
3.核心経済と外周経済が体制改革の中で絶えず交流し融合している。計画
経済体制から市場経済体制への移行は、核心経済がその巨大な放射力を放出す
るための重要な条件である。核心経済は国有経済を主とし、外部の農業・農村
経済は集団・個人経済を主としている。市場化改革が進むのに伴い、核心経済
と外周経済の市場環境の下での競争と協力は、異なる所有制の間の融合を促進
し、公有制経済を主体として多様な所有制経済が共に発展する局面を形成して
いる。同時に「都市が農村を牽引し、工業が農業を補完する」戦略の確立と戸
籍制度の改革により、都市と農村を隔てる制度的・政策的障壁が徐々に打破さ
れている。こうしたことはすべて、核心経済の放射力による牽引作用をよりよ
く発揮させ、核心経済と外周経済の融合と共栄を促進し、中国の国情に合った
経済の近代化の道を歩む上で、明るい見通しとなるものである。
市場を通じた資源分配の下、将来の中国経済の放射型発展期の終結は、生産
要素の各経済領域における均衡のとれた分配でなければならない。現代の経済
成長理論によれば、それは十分な就業が実現された均衡成長を意味する。つま
り工業化や都市化の動きに加わらない余剰労働力を留めておいてはならない。
こうした観点から見た場合、中国経済の放射型発展期は、まだかなり長い期間
にわたり継続するであろう。つまり、産業別の生産額構造と就業構造がほぼ調
和し、かつ都市と農村の余剰労働力が基本的に解消される時期が、中国経済の
放射型発展期が終了する目印ということになる。要するに、本論でいう放射型
発展期とは、中国が比較的特殊なモデルで工業化、都市化、市場化、国際化を
達成する時期ということになる。
14
第2章
現在の中国経済が位置する発展段階とその特徴
に関する分析
中国経済の発展段階の特徴を分析するにあたっては、中国経済の特殊な発
展過程について考察すると同時に、国際的な比較にも注意を払い、異なる角度
から総合的な考究を行わなければならない。
第1節
中国の特殊な経済発展の道のりから見た、経済発展の現段
階の特徴
放射型発展期に入って以降、経済発展には2つの重要な段階が現れた。すな
わち、生産と消費の関係を調整する段階及び消費構造の高度化が産業の高度化
を促進する段階、の2つである。現在は後者の段階に位置している。
1.生産と消費の関係を調整する段階
この段階はおおよそ 1978~1995 年にあたる。大きな特徴は、生産が需要の
増大に追いつかず、品不足が恒常的に存在していたことである。市場調整によ
り、物価が比較的速く上昇し、投資が急速に伸び、生産能力が迅速に向上した
ことで、やがて生産は消費に適応し、需要を満たすことができるようになった。
すなわち生産と消費との関係調整が完成したのである。これは、核心建設期か
ら放射型発展期への移行に際して必ず経る第一歩である。生産と消費がかみ合
わなければ、核心経済から経済全体への放射状の作用もあり得ない。
この段階においては、要素の分配構造にも活発な変化が現れる。生産の消費
に対する適応は、生産構造の「重」から「軽」への調整となって現れた。これ
は同時に労働集約型産業の迅速な発展と農村部の余剰労働力の移動を促進し、
これにより第一次・第二次・第三次の各産業の就業構造が変化し、都市化率が
上昇した。1978~1995 年において、第一次産業の就業比率は 70.5%から 52.2%
へと下降、第二次産業は 17.4%から 23%に上昇、第三次産業は 12.1%から 24.8%
に上昇し、都市化率は 17.92%から 29.04%に上昇した。
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生産構造の重から軽への転換はまた、単位 GDP 当たりの資源消費量を著しく
引き下げた。2005 年のデータで計算すると、鉄金属の製錬及び圧延加工業、
非鉄金属の製錬及び圧延加工業、非金属鉱物製品業(セメント等)、化学原料
及び化学製品の製造業等重化学工業の工業付加価値額1万元当たりのエネル
ギー消費量は標準石炭換算で 5.67 トン、これは食品、紡績等軽工業の 6.79
倍である。1995 年を 1978 年と比べると、工業生産額に占める軽工業の割合は
42.7%から 46.7%に上昇し、重工業の割合は 57.3%から 53.3%に下降している。
これと同時に、GDP1万元当たりのエネルギー消費量も標準石炭換算で 15.68
トンから 7.16 トンに下降している。ただし、1978~1995 年の期間、恒常的な
品不足により市場競争が充分に行われず、企業は節約を重視せず、高投入・高
消耗・高成長の粗放型成長方式が広く行われていたために、エネルギー及び鉱
物資源の消費がある程度増加し、構造転換によってもたらされた省エネ・省資
源の効果を部分的に相殺していた点には注意しなければならない。
2.消費構造の高度化が産業の高度化を促進する段階
この段階はおおよそ 2001 年から始まり、現在もまだ続いている。中国経済
が生産と消費の関係調整を終えた後の 1995~2000 年は、消費構造が高度化す
る前の準備の時期であり、継続的な市場の需要不足と経済の冷え込みがもたら
された。各種の条件が成熟するにともない、2001 年ごろ、個人消費の構造が
衣・食・用中心の消費から住・交通条件の改善へと高度化する。これはまた個
人の所得水準と購買力がワンランク上がったことを意味していた。所得の増加
に支えられ、個人消費の構造は、基本的な生活が満たされている「温飽型」か
ら生活水準の向上を求める「小康型」へと転換を始めた。このような消費構造
の高度化に牽引されて、就業構造、都市と農村の構造、資本と労働力の構造に
内包されていた巨大な変化の潜在力が持続的な放出を開始し、経済の近代化が
継続的かつ急速に推進される時代に突入した。
食品、紡績、家電等の製品に比べ、住宅や自動車の生産は重化学工業原材料
に対する需要が大きい。これは必然的に産業構造の激烈な変化を引き起こした。
すなわち、食品、紡績、家電等の消費財生産を支える構造から住宅、自動車等
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の製品生産を支える構造への転換である。この調整にともない、生産構造は再
度、軽工業から重工業へと転換した。2005 年を 2001 年と比べると、工業付加
価値額に占める食品、飲料、紡績、化学繊維等軽工業の割合は 13.36%から
10.89%に下降、鉄金属及び非鉄金属の製錬、化学原料及び化学製品の製造等重
化学工業が占める割合は 12.87%から 16.76%に上昇した。このことは次の三つ
の変化を引き起こした。
第一に、第二次産業(工業及び建築業)が産業別の生産額構成に占める割合
が再び上昇した。2001~2005 年に第二次産業の比率は 45.2%から 47.5%へと上
昇したが、1978~1995 年の期間には 47.9%から 47.2%へと下降していた。これ
は、構造の重型化と同時に、工業の急速な発展という傾向が顕著であり、経済
成長において主導的役割を果たしていることを示している。また、中国経済の
近代化が、依然として工業化を主とする時期にあることをも示している。
第二に、都市化の進行が加速した。2001~2007 年の間に、都市人口は 4.8
億人から 5.9 億人へと 1.1 億人増加した。都市化率は年平均 1.21 ポイントの
上昇で、1978~1995 年の年平均上昇幅を 0.515 ポイント上回っている。主な
原因は、工業構造の重型化が、工業化と都市化の関係を緊密にし、工業化が加
速すると同時に都市化も推進されたことである。
第三に、余剰労働力の移動方式が変化したことである。生産と消費の関係を
調整する段階にあっては、余剰労働力の移動は主として農業から労働集約型軽
工業への移動であり、それは都市部の企業への就業も、農村における「土を離
れても郷里は離れず、工場に入っても都市には入らず」方式による郷鎮企業へ
の就業も含んでいた。生産構造の軽から重への変化は、工業・製造業の資本・
技術集約度を著しく高め、2005 年のデータで計算すると、鉄金属の製錬及び
圧延加工業、非鉄金属の製錬及び圧延加工業、非金属鉱物製品業等重化学工業
業界の 1 人当たり資産額は、食品、紡績等軽工業の 2.65 倍に上った。同時に、
工業の雇用能力がこれに応じて低下した。2005 年を 2001 年と比べると、第二
次産業が産業別の生産額構成に占める割合は 2.3 ポイント上昇しているが、産
業別の就業構成に占める割合は 1.5 ポイントの上昇にとどまっている。これは
1978~1995 年の変化(第二次産業が産業別の生産額構成に占める割合は 0.7
17
ポイントの下降、産業別の就業構成に占める割合は 5.6 ポイント上昇)と比べ
ると対照的である。指摘しておかなければならないのは、2001~2005 年にお
ける第二次産業就業比率の上昇は、労働集約型製品の輸出が相当に増大したこ
とである。国内市場の競争が激しく、労働就業の圧力が大きいという状況の下
で、紡績、家電等労働集約型製品は国際市場へと目を向け始め、中国の WTO
への加盟もまたこの転換を大きく後押しした。国外市場の需要が増加を続け、
労働集約型産業の規模が更に拡大したことで、第二次産業の就業はある程度増
加した。もしこの要素がなければ、工業・製造業構造の重型化が就業の増加に
与える影響は更に増加したと考えられる。一方、都市化の急速な進展につれて、
都市に依拠した第三次産業の発展が促進され、余剰労働力を吸収する新たな領
域が形成された。2001~2005 年、第三次産業への就業比率は年平均 0.925 ポ
イントの伸びを示し、1978~1995 年の年平均上昇率を 0.18 ポイント上回った。
第一の変化と第二の変化を結びつけて考えると、生産額から見た産業構造の
変化と就業からみた産業構造の変化との間には相互影響、相互制約の関係があ
ることがわかる(これはペティ=クラークの法則が存在することの証明でもあ
る)。第二次産業は、生産額構成に占める割合は上昇したが、就業力は低下し
た。また、工業構造の高度化が都市化の歩調を速め、第三次産業に発展の場を
提供した。こうなると就業圧力のもとで第三次産業が必然的に発展を加速し、
第二次産業の生産額比率上昇の趨勢をある程度抑制する。
第四に、構造の重型化がエネルギー消費量を増大させたことである。2001
~2005 年、GDP1万元当たりのエネルギー消費量は標準石炭換算で 4.77 トン
から 5.11 トンに増加した。
以上の分析から、消費構造の高度化が産業構造の高度化をもたらした後、中
国の工業構造の変化はより深い水準に移り、産業と経済発展に対する影響がよ
り深くなったことがわかる。これと同時に、将来の経済発展の主な特徴も明ら
かになった。それは、消費構造の高度化が工業化と都市化をもたらすこと、工
業化と都市化は相互に推進すること(住宅と交通の改善は都市建設の加速を促
すだけでなく、工業規模の拡大と内部構造の複雑化をももたらす。工業の発展
と都市の発展は相互に依存し、相互に推進する)、都市の発展が第三次産業の
18
発展を促進し、人口の都市及び第三次産業への移動が就業構造の変化を支える
こと、工業、建築業、サービス業が共に発展することで、産業別の生産額構成
の調整が進み、また就業による構成の調整も促進されること、工業化と都市化
のダブル加速、である。これらが中国経済近代化の新たな特徴となる。
第2節
国際比較から見た中国の経済発展の現段階
世銀アトラスのレートにより換算すると、中国の 2007 年の 1 人当たり GNI
は 2330 ドルで、低中所得国5に列せられている。中国の産業構造、製造業の実
力及び輸出構造から見て、中国はすでに工業化の初期段階から中期段階に入っ
た6と考えていいだろう。その主な根拠は、第一に、農産物総生産量の急速な
増加を前提に、第一次産業及び農業の生産額比率が明らかに下降していること
である。1978~2007 年、農業の発展は著しく、農産物生産は長期的な供給不
足を脱し、総生産量は基本的に需給の均衡を保て、豊作の年には余裕が出るほ
どになるという、歴史的な変化をとげた。同時に、第一次産業付加価値額の割
合は 28.1%から 11.3%に下降した。第二に、総人口が 3 億人増加する中、農業
労働者の割合は 1978 年の 70.5%から 2007 年の 40.8%へと減少している。第
三に、比較的整った工業体系が打ち立てられ、製造業の能力がかなり強化され、
科学研究能力及び技術水準も徐々に向上し、国民経済に相当程度の技術と生産
設備を提供できるようになっていることである。また、交通、運輸、通信施設
も徐々に整い、経済成長にとって有益なインフラ条件を創出している。工業の
成長もめざましく、構造調整及び科学技術の進歩が更に顕著になり、ハイテク
世界銀行の 2007 年の定義によれば、一人あたりの国民総所得(GNI)の額によって次のように分けら
れる。905 ドル以下は低所得国、906-3595 ドルは中低所得国、3596-11115 ドルは中高所得国、11116
ドル以上は高所得国。
5
6世界銀行チーフエコノミストであったホリス・チェネリーらが提起した工業化段階の区分基準によれば、
為替レートで 1998 年のドルに換算すると、工業化初期は一人あたり GDP が平均 1200~2400 ドル、中
期は 2400~4800 ドル、後期発展段階は 4800~9000 ドルとなる。この区分では我が国はまだ工業化中
期に入っていない。購買力平価で 1998 年の米ドルに換算すると、工業化初期は一人あたり GDP が平均
3010~5350 ドル、中期は 5350~8590 ドル、後期発展段階は 8590~11530 ドルで、この計算でも中国
は工業化初期段階に入る。しかし、中国の経済発展及び工業化のプロセスは独自の特殊性を有しており、
経済構造上もチェネリーの基準とは比較的大きなずれがある。従ってこの基準が中国の工業化プロセス
の実際状況を正確に反映することができないことは明白であり、中国の実情に合った評価基準を選択す
べきで、チェネリーの区分による工業化段階にこだわるべきではない。
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産業は工業のみならず経済全体の成長を牽引する重要な力となり、需要の変化
に対する工業生産の適応性も強化され続けている。第四に、農産物等の第一次
産品は、輸出量が急速に増加しているにもかかわらず、輸出商品の構成に占め
る割合は大幅に低下している。1980 年から 2007 年の間に、第一次産品の割
合は 50.3%から 5.05%へと下降、工業製品の割合は 49.7%から 94.95%に跳ね
上がった。ハイテク製品の輸出はゼロから出発して輸出総額の 29%を占める
に至った。中国経済の構造変化は、主として、基本的な需要を満たすものから、
消費水準の向上と需要の多様化に適応するものへと転換する傾向にある。これ
は工業化が加速段階に入ったことを示す新たな特徴である。
世界各国の近代化の歴史を見ると、主要先進国の経済の近代化はだいたいが
離陸の準備、離陸期、成熟への前進段階の三段階を経ている。1820 年以降、
ヨーロッパと北米の経済成長が加速し、世界の主要先進国は続々と離陸の準備
を終えて離陸期へと入り始めた。その出発点の水準は、英国が 1830 年に 740
ドル(2000 年現在のドル、以下同じ)米国が 1870 年に 726 ドル、日本が 1900
年に 622 ドルである。呼応する産業構造や製造業の水準から見て、当時これ
らの国はみな工業化の初期段階にあった。
以上の状況を総合すると、中国は現在、離陸の準備を終え、すでに経済の離
陸の段階に入っているとみなすことができる。世界銀行のチェネリーらによる、
各国の工業化の特徴に対する分析は、以下のように述べている。離陸段階にあ
っては、一般に、経済の比較的迅速な成長を支える比較的多くの条件が蓄積さ
れている。たとえば以下の点である。消費構造の変化や中間需要の変化が国内
需要の急速な増加を支えている。資金及び労働力の供給が増加する。経済発展
の不均衡が産業構造の変動及び資金、労働力の産業間における活発な再編をも
たらす。供給の持続的な成長を支える物的・技術的基礎が備わり、全要素生産
性の向上を支える制度及び社会環境が整っている。安定した開放的な国際環境
があり、輸入代替及び輸出主導戦略が貿易構造の変化を推進し、比較的有利な
変化を促進している、等。スミス(1776)、ヤング(1928)、楊小凱(2001)を
代表とする経済学者たちは、経済成長が離陸段階に入れば、市場の大きさと分
業の変化との間に相互作用が働き、収穫逓増効果が生まれ、この効果による内
20
在的促進によって、経済の離陸は始まるや、潜在力を使い果たすまで成長を続
ける、と考えている7。チェネリーらの研究は更に、先進国と途上国では工業
化の道のりが異なる、としている。その主な違いは、1つは、途上国は先進国
の進んだ技術を利用し、より大きな構造変化の潜在力を掘り起こすことができ
る点である。もう1つは、途上国の実践から見て「離陸の落とし穴」が存在す
ることである。たとえば貧富の両極分化と消費の不足、巨額の対外債務、国内
経済の重要部門が外資に支配されていること、不十分な市場競争、経済効率の
低下、国内の政局不安等である。
中国が位置する発展段階について判断し、将来の成長動向を展望する際、第
二次大戦後に経済の離陸を成功させた国と成功させていない国とを比較する
ことには特に注意を払うべきである。
第二次大戦後離陸に成功した国で、とくに際だっているのは日本と韓国であ
る。成功しなかった国としてはブラジルが代表的と言えるだろう。もちろん日
本を途上国に列することはできないが、その大戦後の復興と飛躍の背景や特徴
は、現在の中国の発展状況と似たところがある。
コラム 1:現在の中国の発展水準、産業構造、就業構造、都市化率の特徴と
1950 年代の日本の経済離陸時との比較
中国の現在の状況と 1950 年代の日本の経済離陸時の状況はよく似てい
る。1955 年の日本の 1 人当たり GDP は 1540 ドル(2000 年現在のドル、
以下同じ)、2005 年の中国は 1502 ドルである。都市化率から見ると、1955
年の日本は 35.8%、2005 年の中国は 43%である。産業別の生産額構成(第
一次、第二次、第三次産業の順)から見ると、1955 年の日本は 23%、31%、
46%、2005 年の中国は 12.6%、47.5%、39.9%、産業別の就業構成から見る
と、1955 年の日本は 43%、22.8%、34.2%、2005 年の中国は 44.8%、23.8%、
31.4%である。
具体的な発展条件から見ると、1955 年の日本経済は戦前の水準を回復し、
外国の先進技術を導入する道を開き、国内消費は比較的速やかに拡大し、国
7
内生的経済成長の主流理論は、この収穫逓増の効果を規模の経済に帰している。この理論に疑問を呈す
る声は更に増加している。
21
内の高貯蓄率が高投資成長を保障し、大量の農業労働力が移動した(日本の
農業就業人口は、1955 年には 1768 万人であったのが、1970 年には 886 万
人に減少、農業労働力の移動は 1000 万人近くに上った。これは 1970 年の
全就業人数のほぼ五分の一にあたる)。このように、当時の日本は需要、資
金、技術、労働力等多くの面から、工業化、都市化のために速やかに条件を
整えた。これらはいずれも中国の現在の状況と似通っている。
コラム 2:現在の中国の発展水準、産業構造、就業構造、都市化率の特徴と
1960 年代の韓国の経済離陸時との比較
中国の現在の状況と 1960 年代の韓国の経済離陸時の状況は比較的似てい
る。韓国は 1967 年に重化学工業主導の工業化段階及び経済離陸の時代に入っ
た。このときの 1 人当たり GDP は 1479 ドル(2000 年現在のドル、以下同
じ)、産業別の生産額構成(第一次、第二次、第三次産業の順)は 32%、27%、
41%、産業別の就業構成は 65.5%、8.8%、25.7%、都市化率は 28%であった。
発展水準から見ると、韓国と 2005 年の中国は比較的近い。産業構造、就業構
造、都市化率から見ると、当時の韓国は 2005 年の中国より明らかに低い。1960
年代、韓国は工業化資金の基本的な蓄積を終え、政府は資金及び資源を結集
する比較的強い能力を備えていた。また、大量の余剰農業労働力が存在した。
外向型経済モデルが基本的に確立され、国際的な資本と技術に依拠した経済
発展が可能であり、これを基礎として、政府の政策を通じていくつかの大企
業が形成され、経済成長の物的・技術的基礎が固められた。国内需要と国際
需要が結びつき、需要の比較的速やかな増加の構造が形成された。発展条件
と成長モデルから見ると、当時の韓国と現在の中国との差はかなり大きい。
しかし、需要、資金、技術、労働力供給、構造転換の潜在力、物的・技術的
基礎等経済離陸を支える条件から見ると、当時の韓国と現在の中国の状況と
は比較的近いと言える。
コラム 3:現在の中国の発展水準、産業構造、就業構造、都市化率等の特徴
と 20 世紀ブラジルの経済離陸時との比較
ブラジルの経済離陸の「陥穽」は中国にとって高度に警戒するに値する。
ブラジル経済は 1956 年以降、比較的速やかな成長期に入ったが、全体の水
22
準はかなり低く、1960 年の 1 人当たり GDP は 451 ドル(2000 年現在のド
ル、以下同じ)であった。ブラジルが現在の中国とほぼ同じ水準に達したの
は 1973 年である。当時の 1 人当たり GDP は 1523 ドル、産業別の生産額
構成(第一次、第二次、第三次産業の順)は 11.7%、35.4%、52.9%、産業
別の就業構成は 40%、16.1%、43.9%、都市化率は 55.8%であった(産業構
成と都市化のデータはすべて 1970 年のもの)。当時ブラジルでは重化学工
業が工業に占める割合が急上昇し、1970~1973 年の間に、重化学工業が工
業生産額に占める割合は 48%から 52.8%に上昇した。こうした面での特徴
はいずれも現在の中国に比較的近いが、経済離陸の条件の面ではかなり大き
な違いがある。ブラジルは 300 年以上に渡って植民地であったという基礎
の上に立って工業化を進めるため、必然的に代替輸入からスタートした。こ
れと同時に高関税保護と内向型成長モデルが形成されたこともブラジル企
業の競争力を大幅に弱める原因となった。また、国内産業の水準を引き上げ
るため、ブラジル政府は外部の資金と技術を大量に導入し加工製造業を発展
させる政策をとった。しかし、国内工業の水準が低かったため、導入した産
業を国内産業とうまく融合させられず、工業・製造業が自主発展能力を欠き、
経済が外資に支配される程度が高まってしまった。ブラジルの、資金を集中
して国内工業を発展させるやり方、及び農村における土地の私有化が、少数
の大地主に土地が集中する結果を招いたことが都市と農村の格差と収入格
差を目に見えて拡大させ、国内消費を抑制し、ひいては深刻な社会矛盾を生
じさせた。このような状況の複合的な影響のもと、ブラジルは経済離陸の水
準に達して以降、経済成長を維持することが困難になった。1980 年以後、
多くの南米国家と同様に、ブラジルも「失われた十年」の苦境に陥る。1981
~1983 年、経済は深刻な衰退に陥り、国内総生産の成長率はそれぞれ-
4.3%、0.8%、-2.9%、公的対外債務総額は 613.9 億ドルにまで増加した。
1984 年からブラジル経済は緩慢ながらも回復に向かったが、ハイパーイン
フレーションからの脱却は遅々として進まず、1989 年のインフレ率は
1973%にまで達し、公的対外債務は 1150 億ドルにふくれあがり、経済離陸
失敗の教訓は極めて深刻であった。
23
以上の分析を総合すると、全体的に見て現在の中国は国内需要の成長潜在力
が大きく、資金、技術、労働力の供給条件は比較的良好で、経済成長の物的・
技術的基礎は比較的厚く、経済構造の転換と全要素生産率の向上の潜在力もか
なり大きく、分業の深化、市場の細分化、制度の刷新により形成された収穫逓
増効果が比較的明らかであり、国際競争力も当時のブラジルより強い。こうし
た有利な条件は日本や韓国の経済離陸時の起点と条件に比較的近い。したがっ
て、中国が高速離陸を成功させる可能性はかなり大きいだろう。同時に、中国
が多くの厳しい挑戦に直面していることも、はっきりと見ておかなければなら
ない。それは主に、資源環境の制約が甚だしいこと、国内経済の発展が不均衡
であること、利害の対立が比較的複雑であること、国際政治経済環境の不確
定・不安定要素が増加していること等である。これらの処理を誤れば、中国も
途上国、とくにブラジルのような離陸失敗の落とし穴にはまることになるだろ
う。我々はブラジルの教訓を高度に重視し、かつこれを中国の経済発展の最悪
の予測とし、この結果を避けるべく努力しなければならない。
第3節
中国の現在の発展段階に対する基本的判断
以上の、中国経済発展の回顧と総括、及び国際比較を通じて提起された、経
済発展段階を判断するいくつかの概念について統一しておく必要がある。我々
は工業化と都市化が経済近代化の本筋であり、この角度から経済発展の段階的
特徴を描写し把握すれば、比較的深く、また理解しやすいのではないかと考え
る。そこでこの概念を用いて中国の経済発展の段階的特徴を描き、またこの概
念を用いて将来の経済発展も展望してみたい。前述の分析から、現在の中国は
工業化と都市化の両方が加速する経済発展段階にあると言える。その主な根拠
は、第一に、国際比較からわかるように、工業化中期と経済離陸段階における
非常に重要な特徴は、工業化と都市化の加速的な推進であること。第二に、中
国経済発展史の回顧と総括からわかるように、中国は現在すでに放射型発展期
の、消費構造の高度化が産業の高度化を促進する段階に入っていること。消費
構造の高度化が産業構造の高度化を促進すると、必然的に工業化と都市化の進
行が全面的に加速される。これは近年の経済発展においてすでにはっきりと現
24
れている。
第3章
中国の現在及び将来の経済発展の主要条件に対
する比較分析
中国の経済発展が位置する段階と起点について分析した後は、将来の経
済・社会発展の趨勢を正確に把握し、更に経済発展を支える主要な条件につい
て分析する必要がある。
本研究では、経済発展を支える主要な条件を以下のようなものと考える。市
場の需要(その中心は消費需要)、供給の増加を決定する基礎、この中には物
的・技術的基礎及び資金、労働力、技術等の要素の保障が含まれる。それから、
体制の刷新、社会の安定と秩序、資源環境、国際政治経済環境等である。工業
化と経済成長に関する理論及び中国の特殊な成長モデルから将来の経済発展
の潜在力を判断する際、特に重要な意味を持つのが以下の点である。第一に、
工業化、都市化を継続的に推進する潜在力。第二に、資金、労働力等の要素を
各産業に再配置する潜在力。第三に、労働力供給の潜在力。第四に、消費水準
向上の潜在力。もしこれらの面で先進国と比較的大きな差があるなら、中国の
経済発展はかなり大きな潜在力を備えていると判断できる。
第1節
需要条件の分析
市場経済という条件の下で経済発展の趨勢を判断するには、まず将来の需
要の伸び、とくに最終消費需要という潜在力に立脚しなければならない。「供
給はそれ自ら需要を作る」というセーの法則から言えば、需要は経済発展の必
然的結果であり、経済発展によって決定される。しかし、中国の経済発展の道
のりや主要先進国の経済近代化の道程を見ると、需要は常に経済発展に重大な
影響を与えている。指摘すべきことは、消費需要であれ投資需要であれ、その
変化は経済発展と密接に関連しているとともに、自らの規律をも有しているこ
とである。そのうち消費需要の増大は消費構造の変化の影響を大きく受け、投
資需要の増大は産業構造の変化の影響を大きく受ける。
25
1.消費構造は比較的速い変化を継続し、最終消費需要は比較的
速い拡大を続ける
その主な根拠は次の通りである。第一に、中国の経済近代化の程度を総合
的に判断すると、将来の中国経済は大きな発展の潜在力を有しており、かつ比
較的速い成長を維持し、国民の所得も比較的速い伸びを続けると考えられる。
消費は所得の関数であり、所得が成長すれば必然的に消費構造の高度化と消費
需要の拡大が推進される。第二に、中国の都市・農村構造はまだかなり大きな
変化の潜在力を有しており、人口の都市部への大規模な移動を引き続き促進す
るだろう。農民から市民への変化は消費需要の増加を加速すると思われる。第
三に、工業化、近代化を完了した国と比べると、中国国民の消費水準は未だか
なり低く、消費構造におけるエンゲル係数も比較的高い。2005 年の中国都市
部住民のエンゲル係数は 36.7%、農村部住民は 45.5%。日本は 1983 年で
26.49%、米国は 1960 年で 24.8%であった。また、1983 年の日本は、1 人当
たり平均住宅面積が 32.9 平方メートル8、1 世帯当たりの平均自動車所有数が
0.69 台、米国は 1960 年現在、1 世帯当たりの平均自動車所有数が 1.28 台、
全国の住宅総数は 8039 万軒(マンション及び一戸建て)で、これは 2.83 人
に 1 軒の割合である。2007 年の中国都市部の家庭では、1 世帯当たりの平均
自動車所有数が 0.06 台、平均住宅面積が 27 平方メートル(2006 年、戸籍人
口で計算)で、これは 1983 年の日本の 1/11.5 及び 82%にすぎず、住宅と水
道光熱設備の質にも大きな隔たりがある。1960 年の米国と比べれば、その差
は更に大きい。都市化の進行と都市人口増加の要素を勘案すると、自動車、住
宅方面の需要潜在力は一段と大きくなる。第四に、日本の経験から見て、経済
の急成長の持続は所得分配の格差を縮めるであろう。1960 年当時、日本の都
市部の最低所得家庭の所得は最高所得家庭の 34.1%であったが、1970 年には
46%に上がった。高度成長は就業と所得の増加を促進し、膨大な中間層を生
み出した。1967 年の総理府が行った「国民生活に関する世論調査」によれば
「中流意識」を持つ日本国民は約 90%に上っている9。日本の発展過程を鑑み
年は一人当たり 24.7 平方メートルである。この数字は、
建築面積と使用面積を 1:0.75 で換算したものである。
9 『現代日本経済』
、橋本寿郎、長谷川信、宮島英昭著、戴暁芙訳、上海財経大学出版社 2001 年版。
8日本の住宅の統計は使用面積で表示し、1983
26
て中国の将来の都市人口増加、工業及びサービス業での就業増加、及び政府公
共サービス水準の逐次向上、公共製品数の不断の増加等を考えると、中国国民
の所得格差は、経済の急成長が持続する中で縮小する傾向にあると考えられる。
これは消費の成長を積極的に支持するであろう。第五に、永続的所得の概念か
ら見ると、経済の急成長の持続を背景として、若者世代の将来の所得増加に対
する期待は更に強くなり、新たな生活を求める情熱は更に激しくなるだろう。
これは消費の増加を有力に後押しする。第六に、消費のライフサイクルから見
ると、高齢化にともない、現在は家庭における蓄積を重視している世代が、や
がてその蓄積を積極的に使う時期がやってくる。社会保障の水準が徐々に向上
していることを考えると、自分自身の消費のほか、子や孫のための消費もあり、
その使用額はより大きくなると考えられる。これも消費を積極的に支える要素
である。これらの要素を総合すると、将来の中国は、消費構造の高度化の速度、
消費需要の成長速度、いずれも速いと考えられる。日本の発展過程もこのこと
をよく証明している。1955 年以降、人口の都市への集中と、都市部の戦争に
よる破壊からの復興に連れて、日本の住宅建設は急速に成長し、大規模な都市
住宅建設が住宅を中心とする新たな産業を牽引した。テレビ、洗濯機、電気冷
蔵庫の「三種の神器」が登場、家庭用品分野における革命を強力に推し進め、
消費の成長を促進した。
また、1965 年以降、小排気量の経済的な車が急速に家庭に浸透した。日本
ではこうした要素が組み合わさって高成長に呼応した高消費が生まれた。もち
ろん、時代が違うので、中国の都市部ではすでに家電製品が普及しているが、
都市化の加速と所得水準の向上にともない、中国でも住宅や自動車、それに新
たな電子情報製品が消費者のターゲットとなるであろうし、消費構造の高度化、
消費需要の増加も必然的に加速し続けるであろう。以上の分析に基づき、2010
年から 2030 年の住宅及び自動車の保有量の変化を予測すると以下のようにな
る。
27
表2 都市と農村の住宅建築面積予測
1 人当たり住宅面積
住宅建築面積(億 m2)
(m2/人)
年
都市部
農村
都市部
農村
合計
2010
30.0
32.5
195.8
229.8
425.7
2020
35.0
38.0
294.4
231.4
525.8
2030
39.0
41.5
378.4
207.4
585.8
注:住宅建築面積=1 人当たりの住宅建築面積×人数
自動車保有状況予測(保有量は万台、普及率は台/千人)
自動車
年
自家用車
自家用車の
保有量
普及率
保有量
普及率
割合(%)
2010
8700
64.8
2871
21.4
33.0%
2020
18000
128.6
7920
58.5
44.0%
2030
24459
166.4
13110
89.2
53.6%
2.産業間の関連度が高まるに連れて、中間需要が速やかに拡大す
る
中間需要は経済部門間の直接あるいは間接の相互投入と使用を反映する。
中国は消費構造の高度化が産業の高度化を促進する段階にあり、工業・製造業
構造の高度化の歩調も比較的速い。これはその内部の関係を複雑にし続け、そ
れに連れて各部門間の直接・間接の投入も増加するであろう。日本経済の高度
成長期、投資が投資を促進する現象が現れた。民間企業の設備投資が機械製造
業と材料工業の発展をもたらすと同時に関連投資の増大をもたらし、急成長を
支持する重要な要素となった。将来、中国の産業の高度化も大量の設備投資を
もたらし、技術の進歩を促進すると同時に、旺盛な中間需要を生み出すと予測
される。
以上の分析をまとめると、中国の将来の経済発展の需要条件は比較的良好と
28
言える。
第2節
資金条件の分析
国民経済計算の角度から見ると、貯蓄=投資の公式に基づき、投資率で貯
蓄率を表すことができる。改革開放政策実施以降、中国の貯蓄率は一貫して高
水準を維持し、少数の年を除いてほぼ 35%以上を保っている。消費構造の高
度化が産業の高度化を牽引する段階に入ってからは、貯蓄率は更に上昇し、
2005 年には 42.6%に達している。社会の総貯蓄には、政府貯蓄、企業貯蓄、
個人貯蓄が含まれるが、中国では個人貯蓄が主である。個人貯蓄の中でも銀行
預金が主であり、これが中国の投資資金の主要な源である。個人貯蓄は将来も
比較的高水準を維持すると思われる。その主な理由は以下の通りである。第一
に、所得の速やかな上昇が持続する。第二に、住宅・交通条件の改善を主とす
る生活の質の向上には購買能力の蓄積が必要である。第三に、中国の社会保障
制度はまだ完全とは言えず、市場リスクが比較的大きいため、リスクに備えて
一定の貯蓄が必要である。第四に、将来、投資分野は次第に開拓され、経済の
持続的な急成長と結びついて、投資回収率は比較的高くなる。このため、さま
ざまな方法による個人の貯蓄と投資が増加する。第五に、供給増加潜在力が比
較的強いことから、将来の物価は長期にわたり比較的低い値上げ幅を維持する
と予測される。低インフレ率は貯蓄の増加を助長する。このほか、工業建設、
インフラ建設、都市建設等多方面の巨大な投資需要も、資金回収率の上昇を通
じて貯蓄の増加を促進するであろう。最後に、中国経済の高成長性は引き続き
大量の外資の流入を呼び、経済発展に資金源を提供するであろう。
ただし、高齢化社会の貯蓄率には低下傾向があることには、もちろん注意し
なければならない。しかし、上述の要素と比較すると、その影響はさほど大き
くはない。以上の分析をまとめると、中国の将来の経済発展の資金条件は比較
的良好と言える。
第3節
労働力条件の分析
今後数十年、中国の総人口(香港・マカオ特別行政区、台湾は含まない、
29
以下同じ)は増加状態を維持する。1980~90 年代の第三次ベビーブームの影
響で、今後十数年、20~29 歳の出産適齢期の女性の数が小さなピークを迎え
る。また、9000 万人以上の 1 人っ子が続々と出産年齢に達し、政策における
出産水準がある程度向上する。この2つの要素があいまって、出生率はある程
度回復し、出生数もある程度増加すると見込まれる。これに基づく予測では、
2010 年と 2020 年の人口総数はそれぞれ 13.4 億人と 14 億人、2030 年の人口
総数は 14.5 億人前後に達する。2010~2030 年の期間、生産年齢人口は膨大
な規模を維持する。2015~2016 年、15~64 歳の生産年齢人口は 10.1 億人の
ピークに達し、以後 2030 年まで 10 億人前後を維持する。15~59 歳の生産年
齢人口は 2013 年に 9.32 億人のピークに達し、2020 年まで 9.3 億人前後を維
持する。2005 年の中国の就業者数は 7.58 億人で、そのうち第一次産業が 3.4
億人、第二次産業が 1.8 億人、第三次産業が 2.38 億人であった。主要先進国
の工業化と都市化を完成した時期の産業就業構成を見てみると、第一次産業就
業数の比率がいずれも 10%以下である。10%で計算すると、中国の 2030 年
の生産年齢人口は 9 億人を維持していると考えられ、第一次産業就業者数は
9000 万人前後になる。中国の 2005 年の第一次産業就業者数を起点とし、こ
れが生産年齢人口にシンクロして増加すると仮定すると、2030 年の第一次産
業就業者数は 4.03 億人になる。すなわち、2030 年に工業化・都市化をほぼ完
成した時の就業構成を実現するためには、第二次・第三次産業に 3 億人以上を
移転させなければならない。近年、都市部では年平均 1000 万人分前後の職場
が新たに生まれている。経済規模の拡大という要素を考慮し、将来は年平均
1500 万人分増加するとして計算すると、都市自体の労働力の年間増加数 800
万人を差し引き、42 年かけてようやく 3 億人を移転させることができる。こ
れは 2030 年までは、労働力の供給過剰問題が一貫して際だっており、中国の
経済発展における労働力供給条件は比較的良好であることを示している10。
一方、中国にはすでに先進国の問題に属する高齢化問題が出現している点に
10
ある研究によれば、人口のボーナスを得られる期間はおそらく長くて 10 年で、適齢労働力の増加率は
すでに鈍り、労働力総数の過剰と構造的な矛盾が徐々に顕著になる現象とが併存するという。いわゆる
「人口ボーナス」とは、適齢労働人口の比率の高さが経済成長に貢献している状態を指す。従って、人
口ボーナスと労働力供給の潜在力とは別の概念である。総人口における適齢労働人口の割合の変化と、
適齢労働力の絶対数と経済発展の需要とは、相対的に独立した2つの問題である。我々の分析は、適齢
労働力の供給潜在力は非常に大きいと考えられる。
30
も注意しなければならない。経済発展の水準がまだ比較的低く、人口基数が大
きい状況で人口の急速な高齢化が進む「未富先老」という新たな矛盾が生じて
いる。人口の年齢構成が 20 年の間に青年型から急速に老年型に移行する現象
は、世界でも稀である。人口の急速な増加と高齢化社会の前倒しの到来、労働
力過剰と養老負担の増加、更には国の財力不足と社会保障制度の不健全、これ
らは深刻な社会問題となる可能性がある。
第4節
技術条件の分析
中国は発展途上国として、国際分業の体制に全面的に参加している状況に
あり、世界の主要な生産技術、とくにニューエコノミー関連の最新技術や省エ
ネルギー・環境方面の最新技術を運用することができる。このことは、中国が
先進国の歴史を参照して工業化と都市化を実現する助けとなるだけでなく、先
進国が工業化と都市化を実現した時よりも高い水準に到達することを可能に
する。広大な国内市場とセルフ・イノベーションの向上という要素を考慮すれ
ば、将来の中国の経済発展の技術条件は比較的良好であると言える。
しかしその一方で、ブラジルの経験を教訓に、技術条件における問題点にも
目を向けなければならない。とくに、この方面で生じた問題が引き起こすであ
ろう深刻な結果について、予見しておかなければならない。総体的に見れば、
中国経済の国際競争力はまだ比較的弱く、先進国の経済及び科学技術との格差
は多くの面で拡大している。中国の化学技術投資が GDP に占める割合は明ら
かに先進国より低く、多くの先端技術と重要なコアテクノロジーの自主開発能
力が弱く、国民経済と社会の情報化の水準も世界の平均水準より低く、先進国
には更に遅れている。こうした分野では他国に後れを取りがちである。中国の
工業、とりわけ製造業は、コストや生産設備といった面で国際的な先進水準と
の間にかなり大きな隔たりがある。企業の競争力は比較的弱く、国際的な分業
と競争の中で、中国は依然ローテク製品と労働集約型製品を主としている。中
国は人的資源の構成が合理的ではなく、熟練労働力、技術労働者、中・高級人
材の割合が低めである。経済のグローバル化と知識経済の衝撃のもと、導入し
た技術を積極的に消化吸収し、イノベーション能力を向上させ続けることがで
31
きるか否かが、将来の技術要素の供給が保障を得られるか否かを決する鍵であ
り、将来の経済成長の動向を決する鍵の1つでもある。もしコアテクノロジー
やキーテクノロジーの分野で他国に押さえられている局面を速やかに打開で
きなければ、経済離陸の態勢が相当程度制約され、複雑な経済・社会問題が引
き起こされるだろう。この方面で中国はやはり重大な試練に直面している。
第5節
経済体制条件の分析
改革開放が進行するにともない、中国では社会主義市場経済体制が急速に
築かれた。社会主義市場経済体制に呼応した所有制度の構造と所得分配制度も
次第に形成され、商品市場と生産要素市場の体系も基本的にできあがった。現
在、社会主義市場経済体制は完成に向けて着実に進んでおり、鍵となる各分野
の改革が進行し、計画経済の核心部分に対する改革という難関に挑んでいると
ころである。国有企業改革、金融体制改革が深化し、財産制度を基礎とする市
場経済の各基本制度の整備が加速し、財政・税務体制改革及び中央政府と地方
行政機関の関係の調整等を含む、政府機能の転換と政府の自己改革も積極的に
推進されている。これにより、中国の市場経済体制は完成へ向けて進み、その
公平な競争を通じた発展促進・節約促進・技術進歩促進の作用が、更に充分に
発揮されると予測される。同時に、政府と市場の関係も更に協調を強め、中国
の経済発展の実践と各市場経済国の実践を総括し、それを踏まえて、政府と市
場がより合理的に結びつくモデルが築かれるであろう。中国経済発展の管理体
制と運行メカニズムは改善を続け、これが経済発展に新たな活力と動力を継続
的に注入し、経済の健康、安定、持続的な成長によりよい体制的保障を提供す
ると考えられる。
しかし、計画経済体制から市場経済体制への移行は奥深い変革であり、深い
水準での利害対立に突き当たるほど、改革が難しくなることもよく見ておかね
ばならない。従来の体制の欠陥を克服しても、新たな体制の矛盾が現れ、新た
な摩擦とある程度の混乱が生じるであろう。全体的に見ると、経済体制と運行
メカニズムは完成されつつあるが、依然として道は遠く任務は重く、不確定性
が高い。これを確実に把握しなければ、経済離陸の態勢を変えることになるだ
32
けでなく、社会の調和と安定にも影響を及ぼすことになるだろう。
第6節
対外開放と経済の安全に関する条件の分析
中国は開放型経済を更に発展させ、国際経済システムに全面的に加入し、資
金、技術、資源、市場、制度の刷新、管理経験等多くの面でグローバル化がも
たらす利益を享受する。これは国内企業と関連産業の競争力向上を利するもの
であり、産業の合理的な高度化を促進し、中国の発展空間を拡大させるだろう。
しかし、注意すべきことは、経済のグローバル化に積極的に参与することは、
発展のチャンスがもたらされると同時に新たなリスクに直面することにもな
るということである。いかにして、国内の体制と観念を国際ルールに適応させ、
経済の発展を促進すると同時に、国家経済の安全を護るか。これは新たな重大
な試練となるであろう。南米や東南アジアの一部の国がこの面で深い教訓を与
えてくれる。
第7節
資源環境面の条件の分析
中国が工業化と都市化の加速期から安定期へと移行するにはまだ数十年の
時間が必要である。住宅と自動車を消費の中心とする消費構造の高度化は、重
化学工業の迅速な発展をもたらすだけでなく、住宅と自動車の消費自体が高エ
ネルギー消費、高排出という特徴を招く。これは必然的に資源と環境に対する
圧力を増大させ続ける。たとえ技術の進歩と制度の刷新によって経済成長モデ
ルの転換を促し、エネルギー消費と汚染物質の排出強度を低下させても、エネ
ルギー消費は相当長期にわたって増加を続け、主要汚染物質の排出総量は抑制
されたとしても絶対量は依然相当大きなものとなる。
長期にわたり、中国は経済の急成長を維持すると同時に、高すぎる資源環境
の代価を支払ってきた。粗放型の成長方式によって土地、淡水、鉱物資源及び
生態環境の許容能力は更に脆弱になっている。中国は 1 人当たりの資源量が不
足し、ほとんどの資源で 1 人当たりの占有量が世界の平均水準を下回っている
にもかかわらず、資源消費量あるいは自然資産損失量では世界のトップに位置
している。中国の 1 人当たりの鉱物資源量は世界の 1 人当たり占有量の 1/2 に
33
すぎず、1 人当たり耕地面積は 1953 年の 2.82 ムーから 2005 年の 1.4 ムー(す
なわち 0.1 ヘクタールに満たない)に減少し、世界の平均水準の 40%にも達
していない。優良耕地は全耕地の 1/3 にすぎず、予備耕地資源は 2 億ムー前後
あるが 60%以上は水源が不足しているか生態の脆弱な地区に分布しており、
開発を制約する要素が多い。中国の 1 人当たりの淡水資源量は世界の平均水準
の 1/4 で、水消費量は世界一、全世界の用水総量の 15.4%を占めている。全国
660 あまりの都市のうち 60%が給水不足、110 の都市が重度の水不足で、2030
年には深刻な水不足の国に入るであろう。2007 年の全国的な環境品質は総じ
て好転の趨勢にあるが、楽観は許されない。地表水汚染は依然として深刻で、
七大水系は総体的に中度の汚染、沿岸海域は総体的に軽度の汚染、華北・東北・
西北地区の地下水の採掘強度は依然として高く、地下水の水位は依然として主
に下降趨勢にある。一部の都市の汚染も依然かなり激しく、2007 年の二酸化
硫黄排出量は 2468.1 万トン、煙塵排出量は 986.3 万トン、工業粉塵排出量は
699.0 万トンで、2006 年と比べると、それぞれ 4.7%、9.4%、13.5%下降した
ものの、総量規模は依然極めて大きい。全国の廃水排出量は 556.7 億トンで前
年より 3.7%増加、COD 排出量は 1381.8 万トンで前年より 3.2%下降、アンモ
ニア性窒素排出量は 132.3 万トンで前年より 6.4%下降している。全国の地級
以上の都市(地、州、盟の政府所在地を含む)の空気の質は、国の一級基準に
達したものが 2.4%、二級基準が 58.1%,三級基準が 36.1%、三級基準以下が
3.4%である。以上の状況から、省エネルギー・排出量削減の取り組みは一定
の効果を上げているものの、資源と環境の圧力は依然として非常に大きく、高
要素投入、高資源消費、高汚染物質排出、低技術水準という「三高一低」の経
済成長モデルを根本的に改めることができなければ、環境全体の質はいっそう
悪化し、経済発展の持続は難しくなるであろう。これは中国の将来の経済発展
が直面するもう1つの厳しい試練である。
以上の分析をまとめると、中国の経済発展は巨大な潜在力と比較的良好な条
件を備えているが、同時に一連の厳しい挑戦にも直面している。中国は過去の
いかなる時期よりも、また経済離陸を実現した他のいかなる国よりも有利な条
件のもとで、経済の加速・離陸段階に入った。また、過去のいかなる時期より
34
も、また経済離陸を実現した他のいかなる国よりも複雑な条件のもとで、経済
の加速・離陸段階に入った。このため、中国の将来の経済発展には大きな不確
定性が存在する。成功の鍵は、よりよく挑戦に対処し、試練を受け止め、情勢
に応じて有利に導き、問題を解決することができるかどうか、である。
第4章
2010~2030 年の中国経済成長の将来性展望
これまで述べた中国経済成長の基本モデル、現時点の発展段階、発展の起点
及び今後の経済発展の主要な条件に基づいて分析すると、中国経済の発展の展
望を二段階に分けることができる。
第1節
2010~2020 年の経済成長の将来性展望
発展の起点及び発展の条件から考えると、現在から 2020 年までの時期は、
中国経済の加速・離陸段階のなかで、最も発展の速度が速く、様々な矛盾や問
題点が比較的集中しやすい時期である。最も可能性が高い状況は以下のような
ものである。国内外の政治環境に大きな変動がなく、個人消費構造の高度化が
持続的に速い速度で進み、国際収支が徐々に均衡に向かい、内需と外需の構成
が合理的に調整される。人民元の為替レートが安定に向かい、輸出入の構造が
一層最適化される。技術の導入と消化・吸収が持続的に進み、セルフ・イノベ
ーション能力が向上し、製造業のイノベーションと水準アップを後押しする政
策システムが段階的に整備され、サポート体制が更に強化される。農村と都市
間、地域間の体制の垣根が一層取り払われ、農村と都市間、地域間の労働力の
移動が更に自由になり、労働力市場は次第に規範化される。サービス業の就業
と発展を後押しする政策が次第に整備され浸透する。政府職能の積極的な転換
により、資源の分配に対する直接的な関与が更に減少し、公共サービスの水準
が上がる。就業の拡大、所得の増加と国民全体が発展の成果を享受できる状況
が徐々に形成され、社会全体が調和と安定を維持する。重点領域及び重要な段
階の改革が大きく前進し、社会主義市場経済体制が整備される。買い手市場の
環境下で競争ルールの健全化が進み、市場の秩序が一層規範化され、取引コス
トは次第に削減され、競争が企業の生産コスト削減や技術の進歩に与える促進
35
作用は更に強くなる。資源価格はほぼ妥当な価格体系となり、環境保護に関す
る政策体系は一層整備され、その効果が更に顕著になる。競争がコスト削減や
技術の進歩に与える促進作用と、資源・環境利用コストの引き上げにより、高
要素投入、高資源消費、高汚染物質排出、低技術水準といういわゆる「三高一
低」の経済成長モデルが速い速度で転換される。2010~2015 年の資源税税率
は基準状況から 10%引き上げ、2010 年から炭素税を導入し、その税率は CO21
トン当たり 10 元から開始し徐々に 50 元まで引き上げることとする。2010~
2030 年のエネルギー利用効率は基準状況より平均1ポイント引き上げ、炭素
税収入は主に企業のエネルギー効率の改善やハイテク業界のイノベーション
に対する税制上の優遇措置等に使われる。2010~2020 年の全要素生産性の成
長率は過去 25 年の趨勢、すなわち全体で 2%前後の水準を維持するものと仮
定する。
上記の状況設定の下で、以下の判断を下すことができる。消費構造の高度化
が引き続き速い速度で進み、国内市場は拡大する。資金、技術、労働力の供給
条件も良好で、工業化・都市化への移行が全面的に加速する。社会主義市場経
済体制のメカニズムが更に整備され、競争の継続的な強化、経済成長モデルの
速やかな転換、経済発展の質の向上、産業内分業と市場の細分化が更に進む。
産業間における生産要素の最適な分配が活発に進み、農業労働力の第二次産業、
第三次産業への移行、及び農村人口の都市への移動が速やかに進行する。これ
らの動きは、比較的急速に個人収入を増加させることになり、消費構造の高度
化を持続的に支えることになる。資源・環境に関する政策や対策は、生産コス
トを引き上げる一方、環境保護技術の発展を促し、経済成長の速度をある程度
抑制することになる。
2010~2020 年の中国の GDP 年平均成長率は 7.5%前後となり、2020 年の
1 人当たり GDP は 7358 ドルに達する。産業別の成長率(第一次、第二次、
第三次産業の順、以下同じ)は、5.7%、47.1%、47.2%、産業別の就業構成
は、28.9%、28.9%、42.2%、都市化率は 56%前後である。
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第2節
2020~2030 年の経済成長の将来性展望
この時期の経済発展の展望を分析するには、起点とする状況が大変重要であ
る。簡潔にするために、2020 年に最も出現する可能性の高い状況を起点とし、
展望の分析を続ける。この起点の状況下で、中国経済には以下の特徴が現れる
であろう。第一に、経済発展は基本的に資源や環境の制約に適応しており、先
進国が経験した 1972 年の石油危機以降の変化は出現しない。第二に、大国で
ある中国の国内事情と豊富な労働力資源が、2020~2030 年の期間には明らか
な労働力不足が起こらないことを決定づけている。しかし就業適正年齢人口の
伸び率が緩慢になるにつれて、就業圧力が緩和され、経済成長は労働生産率と
全要素生産性の向上に一層頼ることになる。前述の、最も出現する可能性の高
い状況に基づき、2020 年の時点における中国の産業別生産額の構成と就業構
成とを、いくつかの先進国がかつて経験した状況と比較して表 3 に示した。
表3
中国の 2020 年時に最も出現の可能性が高い状況と日本、米国の同時期との比較
生産額構成%
状
況
就業構成%
第 一 次 第 二 次 第 三 次 第 一 次 第 二 次 産 第三次産
産業
最も可能性
産業
産業
産業
業
業
5.7
47.1
47.2
28.9
28.9
42.2
日本1970年
9
44
47
19.8
34
46.2
米国1944年
8
37
55
19.7
30.4
49.9
の高い状況
表中のデータからわかるように、日本、米国と比較すると、2020 年の中国
の第一次産業の労働力の割合は依然として高い。推定されるデータによると、
この時中国の第一次産業の労働力総数は依然として 3.14 億人に達し、農業労
働力及び農村人口の工業、サービス業への移動、及び都市への移動人口は依然
として膨大である。第三に、中国の 2020 年までの経済発展の中で、人民元は
変動相場制の状態にあることが予想される。2020 年以降の中国には、日本が
1970 年以降に経験した為替相場の大幅な引き上げによる問題が出現すること
はないであろう。
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これらの差異から、中国は 2020~2030 年の時期には工業化が相対的に安定
し、都市化が速やかに推進され、経済の加速・離陸段階にあると考えることが
できる。労働力の供給にまだ余裕があり、産業競争力が段階的に高まるという
基盤があり、中国経済は引き続き高い伸び率を維持するだろう。非農業就業人
口と都市人口が大量に増加し、所得が増加すると同時に、衣類、家電、電子情
報製品、自動車、住宅等の消費需要が持続的に増大し、工業の高い伸び率を維
持するための市場条件を提供することになる。比較的低水準の労働力コストと
徐々に最適化される輸出構造により、中国の労働密集型製品及び重工業・加工
製品は国際市場に占めるシェアを拡大していく。国内の製造業構造の調整も引
き続き中間需要の増加を推進する。以上を根拠として分析すると、最も出現可
能性が高い経済発展の展望は以下のような状況である。
2020 年の状況に基づき、国内外の経済・政治環境に引き続き大きな変動は
見られないと仮定する。個人消費と輸出は安定した伸びを示す。都市と農村の
人口移動の障壁は基本的に取り払われ、都市の公共サービスの水準は大きく向
上する。サービス業の就業拡大と発展を後押しする政策は一層整備される。資
源性製品の輸出制限政策は継続的に実施され、人民元の為替レートは小幅な値
動きにとどまる。資源性製品の価格は安定的に上昇し、環境保護政策体系はす
でに整備されつつある。技術の導入と消化・吸収の基礎の上に、セルフ・イノ
ベーション能力といくつかの産業の技術的優位が基本的に形成される。経済成
長モデルは引き続き積極的な転換を進め、TFP(全要素生産性)の寄与度は
2030 年に 45%に達する。この前提の下で、2030 年の中国経済の発展は以下
のように予測できる。
2020~2030 年の期間、中国の GDP 年平均成長率は 6.2%前後、2030 年の
1 人当たり GDP は 13217 ドル、産業別の成長率(第一次、第二次、第三次産
業の順、以下同じ)は、3.5%、45.6%、50.9%、産業別の就業構成は、20.6%、
31%、48.4%、都市化率は 64%前後となる。
以上の状況分析が示す通り、2020 年を起点として、起こりうる不確定要素
を考慮すると、2030 年には中国の 1 人当たり GDP は 10000 ドルを超え、産
業構造、就業構造、都市化率等の特徴から見て、中所得国の段階を過ぎ比較的
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成熟した発展段階に入ると予測される。ただし、人口と労働力移転の潜在力は
依然として現在の先進国を大きく上回っており、経済成長の原動力が比較的大
きいことから、先進国のポスト工業化時期の経済成長を上回る水準を維持する
ものと考えられる。
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