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小山紘一, 津谷喜一郎. 日本でのランダム化比較試験における封筒法の
日本薬学会第 128 回年会 , 横浜 , 2008.03.27 日本でのランダム化比較試験における封筒法の興亡 ○小山紘一 津谷喜一郎 1) 2) 1) 東京大学薬学部 2) 東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学 目 的 ランダム化比較試験 (randomized controlled trial: RCT) は、ランダム割振り (random allocation)を基本的構造とする。ランダム割付け (random assignment) の際にブラインディング(blinding 盲検化)が困難な場合、「封筒法」が用いられることがある。封筒法は、日本の 臨床試験において、いつからどの領域でどれくらい使われてきたのか? そこでの「ランダム化」はどのようなものか? 方 法 (1) 医中誌 Web(1983-2006) を用い、「封筒法」で検索した。検索日は、2008.1.17。 (2) 検索された 536 の文献のうち、22 文献を除外した。その内訳は、1) 情報が不十分な会議録が 19 文献(-1998: 16, 1999-: 3)、2) 原著論文 ではあるが RCT または準ランダム化比較試験(quasi randomized controlled trial: quasi RCT) の研究デザインタグがついていない 2 文献、 3) 封筒法の弱点を論じた 1 文献 である。 1) (3) 残り 518 論文を、年度別、領域別、RCT か quasi RCT かに分類した。RCT か quasi RCT かの分類は、1999 年以降は医中誌の研究デザイン のタグにしたがった。1998 年以前は抄録から、不明な場合は原論文を読み、JHES(http://jhes.umin.ac.jp/)の「ハンドサーチにおける RCT 採択の要点」の中の「4. 採択の判断のためのフローチャート」に基づいて行った。 結 果 (1) Fig.1 に、論文数の経時推移を RCT と quasi RCT に分けて示す。二峰性であった。第 1 の山(1983-2001)での RCT は 30%(125/422)、 第 2 の山(2002-2006)では 61%(56/92)と、近年の封筒法では、RCT の割合が高い。 (2) Fig.2 に、ICH 国際医薬用語集日本語版(MedDRA/J) を用いた領域別の頻度を示す。新生物が 21%(109/514)と最も多く、循環器障害(心 臓障害及び血管障害)が 15%(75/514)とつづく。 0 50 40 □ quasi RCT ■ RCT 30 20 10 0 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 20 40 60 80 100 120 1.感染症および寄生虫症 2.良性、悪性および詳細不明の新生物 3.血液およびリンパ系障害 4.免疫系障害 5.内分泌障害 6.代謝および栄養障害 7.精神障害 8.神経系障害 9.眼障害 10.耳および迷路障害 11.心臓障害 12.血管障害 13.呼吸器、胸郭および縦隔障害 14.胃腸障害 15.胆道系障害 16.皮膚および皮下組織障害 17.筋骨格系および結合組織障害 18.腎および尿路障害 19.妊娠、産褥および周産期の状態 20.生殖系および乳房障害 21.先天性、家族性および遺伝性障害 22.全身障害および投与局所様態 23.臨床検査 24.障害、中毒および処置合併症 25.外科および内科処置 26.社会環境 Fig.1 封筒法を用いた臨床試験の経時推移 Fig.2 MedDRA/J を用いた領域別頻度 考察と結論 (1) 封筒法は、新生物の領域を含め、80 年代、90 年代には「治験」を中心として広く使われ年間 40 論文を超えることもあった。しかし、不 適格例が多いこと 、信頼性が低いこと 、センター割付システムの開発、1998 年の ICH「統計ガイドライン」により廃れた。また、1998 年の「新 1) 2) GCP」全面施行、1999 年の治験論文の発表要件廃止により、治験そのものが減少した。2000 年代になり、EBM の興隆により非薬物を含め た非治験の RCT が行われるにともない再び用いられるようになったと考えられる。 (2) 今回の RCT と quasi RCT の判断は、 「ランダム化」、 「無作為化」などの用語の有無を主として行った。第 1 の山で「封筒法によって割付けた」 の記述が、第 2 の山で「封筒法によって無作為に割付けた」の記述が多かった。しかし、Medline の RCT の定義(1995)は、 「乱数表を用いたり、 コ ン ピ ュ ー タ で 作 成 し た り な ど の 数 学 的 な 手 法 を つ か っ て 行 う も の」 (Using mathematical techniques such as the use of a random 2) number table)である。定義に合致するのかどうかは、 「ランダム順番」 (random sequence) の作成方法が明示されていなければ判断できない。 「封筒法」が EBM に貢献するためには、CONSORT 声明に基づき「ランダム順番」の作成方法を明示することが必要である。 < 参考文献> 1) 国井康男 , 他 . 胃がん手術補助化学療法の研究(第1報). 電話法による無作為割付の利点並びに背景要因の検討 . 癌と化学療法 1989;16:349-355 2) 津谷喜一郎 , 他(編)EBM のための情報戦略 . 中外医学社 .2000. p. 32.p. 35