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論 説 個人請 丶労働者の保言蓋をめぐる解釈 ・ 立法の課題 一2006年ー

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論 説 個人請 丶労働者の保言蓋をめぐる解釈 ・ 立法の課題 一2006年ー
個人請負労働者の保 護をめ ぐる解釈 ・立法の課題
論
者 で は な い とす る雇 用 管 理 方 法 で あ り、本 来 な ら労働 者 に対 して負 うべ き
説
使 用 者 の 法 的責 任 を全 面 的 に 潜 脱 す る こ とが 可 能 な 究極 の手 段 とい う点 に
個 人請負労働者の保護 をめ ぐる解釈 ・立法 の課題
最 大 の特 徴 が あ る。1)
−2006年ILO雇 用 関 係勧 告 を手 が か りに
最 近 、 個 人 請 負 形 式 労 働 者 の 労働 組 合 か らの 団体 交 渉 をめ ぐる事 例 で 、
脇
田
労 働 委 員 会 の救 済 命 令 に対 して使 用 者側 が そ の取 消 を 求 め る行 政訴 訟 を提
滋
起 し、 東 京 地 裁 と東 京 高 裁 が、 「労 働 組 合 法 上 の 労 働 者 」 性 を否 定 して救
r
1問
題 の所 在
済 命 令 を取 り消 す 判 決 を相 次 い で 下 した こ とが注 目 され、 労 働 法上 の重 大
問 題 と して関 心 を集 め て い る。2)
以 下 、 使 用 者 責 任 潜 脱 とい う視 点 か ら労 働 法上 の 労働 者 、 と くに労 働 基
「個 人 請 負 」、 「名 目的 自営 業 者 」、 「名 ば か り事 業 者 」 等 と呼 ば れ る働 き
方 が 広 が っ て い る 。 そ の特 徴 は 、雇 用 で は な く、 請 負 や 業 務 委 託 の契 約 に
準 法 上 の 労 働 者 を め ぐる 問 題 点 を 中心 に 検 討 し、 今 後 の 課 題 を 考 察 した
1)萬
井 隆令 教 授 は、 主 著 『
労 働 契 約 締 結 法 理 』(有 斐 閣 、1997年)を
は じめ とす
基 づ く 「事 業 主」 の形 式 で働 くた め に、 形 式 的 に は、 労 働 基 準 法 や 労 働 組
る一 連 の 論 文 で 、 「労 働 契 約 締 結 の 法 理 」 の重 要性 を提 起 さ れ て き た。 本 文 で 指
合 法 上 の 「労 働 者 」 とさ れ ず 、 関 連 労 働 法 令 の 適 用 を受 け ない とい うこ と
摘 した経 営 側 の新 た な雇 用 管 理 方 法 を批 判 的 に検 討 す る と き、 萬 井 教授 の提 起 が
き わ め て 大 き な意 味 を有 す る こ と を再 確 認 で き る。 す な わ ち 、 第2次 大 戦 後 、 最
で あ る。 しか し、 実 際 に は、 そ の多 くが 、 雇用 契 約 や 労 働 契 約 で 働 く 「労
高 裁 を含 め 、 ほ ぼ 一 致 した 判 例 法 理 に よ っ て、 「自由 な解 雇 」 は 制 限 さ れ た。 一
働 者 」 と変 わ らな い就 労 実 態 や 労 働 条 件 で あ って 、 「労 働 者 」 よ り も劣 悪
方 、 使 用 者 の 「採 用 の 自由 」 につ い て は 、 学 説 、 判 例 で も、 こ れ を広 く認 め る 見
解 が 大 多 数 で あ っ て 、 違 法 ・不 当 な採 用 差 別 の 場 合 で あ って も 「採 用 を強 制 す る」
な労 働 条 件 で あ る こ と も少 な くな い 。
見 解 は、 萬井 説 以 外 に は き わ め て 少 数 で あ っ た 。 「採 用 の 自 由」 が 広 く認 め られ
第2次 大 戦 後 の 日本 で は、 労 働 ・社 会 分 野 の 法令 が 整 備 され る 中 で 、 そ
の 法 令 適 用 を 回 避 し、使 用 者 責任 を潜 脱 しよ う とす る人 事 管 理 政 策 が展 開
され る。 と くに 、解 雇 をめ ぐっ て は、 個 別 裁 判 闘争 の蓄 積 を通 じて、 判 例
法 理 に よ っ て 「解 雇 権 濫 用 法 理」 が確 立 し、 使 用 者 の 「解 雇 の 自 由」 が 否
定 さ れ、 解 雇 権 が大 き く制 約 され る こ と に な った 。 こ う した 常 用 雇 用 責 任
を は じめ とす る使 用 者 責 任 の拡 大 に対 抗 して 、 経 営 側 は、 新 た な雇 用 管 理
方 法 と して 、 ① 恒 常 的業 務 で の有 期 契 約 反復 更 新 、② 経 営 主 体 の変 更(営
業 譲 渡 、 分 社 化 な ど)、 ③ 間接 雇 用(派
遣 、 偽 装 請 負 な ど)の 利 用 な ど を
導 入 す る こ と に な っ た。 さ らに、 ④ 個 人 請 負 形 式 に よ る 「非 労 働 者 化 政
策 」 も、 そ う した雇 用 管 理 法 の一 環 と して位 置 づ け る こ とが で き る。 個 人
請負 形 式 に よ る 「非 労 働 者 化 」 は、 実 態 は労 働 者 で あ る者 を名 目上 、 労 働
(龍 法'11)43-3,140(1024)
る 法 的状 況 を背 景 に、 経 営 側 が新 た に 目指 した の が 、 「不 採 用 」 形 式 に よ る 「事
実 上 の 解 雇 の 自由 」あ る い は 「雇 用 調整 の 自由」 の確 立 で あ っ た 。 本 文 の① で は 、
契 約 更 新 が 解 雇 で は な く、採 用 で あ る こ とが 主 張 さ れ、 ② で は新 経 営 主 体 が 差 別
的 不 採 用 を して も 自 由 で あ る こ とが 主 張 さ れ た 。 ま た、 ③ で は 、 派 遣 先(受
入)
企 業 は、 派 遣(下 請)労 働 者 との 労働 契 約 関 係 の成 立(採 用)を 拒 否 した。 ④ で
は 、 実 態 が 労 働 者 と変 わ らな い 者 も形 式 上 、 労 働 者 と して採 用 で きる 自由 が あ る
とい え るか が 問 題 に な って い る。
2)新
国 立 劇 場 運 営 財 団事 件(東 京 地 裁 平20.7.31労 判967号5頁 、 東 京 高 裁 平21.3.25
労 判981号25頁)、INAXメ
ン テ ナ ンス 事 件(東
京 高 裁 平21.9.16労 判989号12頁)、
ビ ク タ ー サ ー ビ ス エ ン ジ ニ ア リ ング事 件(東 京 地 裁 平21.8.6労 判986号5頁 、 東 京
高 裁 平22.826労 判 号 頁)で
あ る。 これ らの 事 件 を き っ か け に、 労 働 法 上 の 労 働 者
性 を め ぐ っ て雑 誌 の 特 集 が 組 まれ て い る 。 鎌 田 耕 一 、 池 添 弘 邦 、 島 田 陽 一 、 水
口 洋 介 「座 談 会 労 働 者 性 の 再 検 討一
判 例 の新 展 開 と立 法 課 題 」 季 刊 労 働 法222号
(2008年4月)、p.27以
下 、 「労 働 者性 を め ぐる 闘 い(そ の1)」 労 働 法 律 旬 報1718号
(2010年4月)、 「『労 働 者 』 の 概 念 と団 結 権 を め ぐ る た た か い 」 月 刊 全 労 連165号
(2010年10月)等
参照。
(龍 法'11)43-3,141(1025)
論
説
個人請負労働者の保護をめぐる解釈 ・立法の課題
い。3)
門 の 労働 者 、 児 童 労 働 者 な どの 問題 を 集 中 的 に議 論 し、 多 様 に変 化 す る労
働 関係 の 中 に お い て 通 常 の就 労 ・雇 用 形 態 以外 の 労働 者 へ の保 護 を拡 張 し
よ う と努 力 して きた。
Ⅱ
I
LO2006年
「雇 用 関 係 勧 告 」
ILOは 、1997年 と1998年 に 「契 約 労 働(contractlabor)」
1I LO 「雇 用 関係 に 関す る勧 告 」
請 負 形 式 に よ る 労 働 者 保 護 に 関 す る 問 題 を 議 論 し、2003年 の 総 会 の 論 議
I
LO(国 際労 働 機 関)は 、1990年 代 半 か ら、デ ィー セ ン トワー ク(Decent
Work)を
を テ ー マ に、
テー マ に、 す べ て の労 働 者 が 公 正 な 労 働 条 件 と尊 厳 が 保 障 さ れ
と 決 議 を経 て、2006年6月 の 第95回 総 会 で 「雇 用 関 係 」 と い う テ ー マ で
「労 働 者 」 概 念 に つ い て 議 論 を行 い、 そ の 結 果 、 同年6月12日 、ILO雇 用 関
る 中 で 労 働 しな け れ ば な らな い とい う原 則 の実 現 の た め に努 力 を重 ね て き
係 委 員 会 で 「雇 用 関 係 に 関 す る 勧 告 」(Recommendation
た 。 そ して 、1998年 のILO第88次 総 会 で は、 雇 用 関 係 を前 提 に確 立 さ れ た
Employment
労 働 基 準 が 、形 式 的 雇 用 関 係 の有 無 と関 係 な く、 す べ て の労 働 者 に適 用 さ
され た 同 勧 告 案 は、 票 決 の 結 果 、 圧 倒 的 支 持 を得 て 採 択 され(賛 成329、
れ な け れ ば な らな い とい う基 本 原 則 を宣 言 して い る 〔
労 働 にお け る権 利 と
反 対94、 棄 権40)、 第198号 勧 告 と な っ た 。4)契 約 労 働 を め ぐる議 論 以 降 、
基 本 原 則 に関 す る 宣 言(Declaration
一 貫 して消 極 的 な 立 場 を見 せ て きた 日本 政 府 も最 終 票 決 で は 賛成 票 を投 じ
on Fundamental
Principles and Rights
at「Work)〕。
concerning the
Relationship)の 最 終 案 の合 意 に 達 し、6月15日 、 総 会 に上 程
た こ とは注 目に値 す る 。5)
ILO加 盟 国 は 、 す べ て 善 良 な 意 志 を持 っ てILO憲 章 が 定 め た 基 本 的 な権
同勧 告 は 、労 働 者 性 が 曖 昧 な就 労 者 の 広 が りを問 題 に して、 前 文 で次 の
利 に 関 す る 原則 を尊 重 して 実 現 しな けれ ば な ら な い責 任 を負 い 、 加 盟 国 が
点 を指 摘 して い る。 つ ま り、
批 准 の有 無 と関 係 な く、ILOの 基 本 条 約 につ い て は尊 重 す る必 要 が あ る。
4)ILO雇
具 体 的 に は 、① 結 社 の 自 由 と 団体 交 渉 権 の 実 効 的 承 認 、 ② す べ て の 形 態 の
強 制 ・強 要 に よる 労 働 の 廃 止 、 ③ 児 童 労 働 の 完 全 な廃 止 、 ④ 雇 用 ・職 業 に
用 関 係 勧 告 に つ い て は、International Labour Conference,Provisional
Record 21,95th session,Geneve,2006.お
よ び 同 総 会 に 向 け て のthe employment
relationship Report V(1),Report
を参 照 。 関 連 した論 考 と して は、 根 本 到
V(2A)等
「労 働 者 概 念 をめ ぐる 法 的課 題 と 国 際 動 向 」 月 刊 全 労 連165号(2010年10月)p.1
以 下 、 島 田 陽 一 「雇 用 類 似 の 労 務 供 給 契 約 と労 働 法 に関 す る覚 書 」、 西 村 健 一 郎
関 す る差 別 の廃 止 で あ る 。
これ を前 提 に、 最 近 数 年 間、ILOは 、 パ ー トタ イ ム 労 働 、 自営 労 働 者 、
移 住 労働 者 、家 内 労 働 者 、 派 遣 労 働 者 、協 同 組 合 の 労 働 者 、 非 公 式 経 済 部
他編 『
新 時 代 の 労 働 契 約 法 理 論 「下 井 隆 史 先 生 古 希 記 念 一』(信 山社 、2003年)
p.41以 下 、 ユ ン ・エ リム 「ILOの`雇 用 関 係'論 議 が 韓 国 の非 正 規 職 立 法 論 議 に与
え る示 唆 点 」(民 主 法 学 第28号 、2005年)〔(韓
国語)。
昭
「ILO
」(28
2005)〕、 チ ョ ・
イ ミ ョ ン 「ILO'雇 用 関 係 に関 す る 勧 告'の 主 要 内容 と示 唆 点 」(2006年8月8日)
3)労
働 者性 を め ぐる 最 近 の 主 要 な文 献 と して は 、鎌 田耕 一 編 著 『
契 約 労 働 の研 究 』
(多賀 出 版 、2001年)、
(特殊 雇 用 労 働 者 労 働 権 保 障 方 案 討 論 会 資 料)〔"ILO
西 谷 敏 「労 働 者 の概 念 」 『
労 働 法 の 争 点3版 』(2004年)、
川 口 美 貴 「労 働 者 概 念 の 再 構 成 」 季 刊 労 働 法209号(2005年)p.133以
下、柳屋孝
〕参照。
5)鎌
田耕一 編著 『
契 約 労 働 の 研 究 』 前 掲 書 、 脇 田 滋 、 注3)引
用論文、永 野秀雄
安 『
現 代 労 働 法 と労 働 者 概 念 』(信 山 社 、2005年)、 脇 田 滋 「「偽 装 雇 用 」 克 服 と
「ILO総会 『レポ ー ト』 と 日本 」 大 原 社 会 問 題 研 究 所 雑 誌581号(2007年4月)p.23
「労 働 者 」性 判 断ILO2006年
以 下参 照 。 なお 、 集 団 的労 働 関係 の主 体 とな る労 働 者 は、 この勧 告 で 問 題 と され
(2006年10月)p.4以
「雇 用 関 係 」 勧 告 を ふ ま え て 」 労 働 法 律 旬 報1634号
下 、 和 田肇 「第3章 労 働 契約 の 成 立 と当 事 者 」 西 谷 敏 ・根 本
到 編 『労働 契約 と法』(旬 報 社 、2011年1月)所
(龍 法'11)43-3,142(1026)
収p.55以 下 参 照 。
る雇 用 関係 の 存 在 が 不 明確 な者 と は 区別 され 、 そ れ ら を も含 む 、 は る か に広 い 範
囲 の労 働 提 供 者 で あ る 。 この 点 に つ い て は 、 後 述 す る(Ⅳ(3)〔5〕)。
(龍 法'11)43-3,143(1027)
論
説
個人請負労働者の保 護をめ ぐる解釈 ・立法の課題
【
表1】2006年
1.雇 用 関 係 存 在 に 関連 した法 令 等 に よる 労働 者 保 護 の必 要性
2.「
偽 装 雇 用(disguise
the
employment
relationship)」
I
LO雇 用 関係 勧 告 の概 要
Ⅰ雇 用 関係 にあ る 労 働 者 を保 護 す
る た めの 国内 政 策
慣 行 の 問 題 性
(権 利 ・義 務 が 不 分 明 、 雇 用 関係 偽 装 の試 み 、 法 解 釈 ・適 用 上 の 限界 と雇
① 雇 用 関 係 労働 者 の 効 果 的 保 護 の た
め に、 関 係 法 令 の 検 討 、 国 内 政 策 定 立 ・
な民 事 上 ・商 業 上 の 関係 へ の不 干 渉
雇 用 関 係 の存 在 の決 定
Ⅱ
⑨ 雇 用 関 係 の存 在 の 決 定 は、 当事 者
適用の義務
間 で の 契 約 に か か わ らず 、 業 務 の 遂 行
及 び労 働 者 の 報 酬 に 関 す る 事 実 に 第 一
② ① の 保 護 の 性 質 ・範 囲(国 際 労 働
基 準 を 考 慮 し、 国 内 法 等 で 定 め 、 効 果
義 的 に 従 う。
⑩ 雇 用 関 係 の存 在 の 決 定 に 関 し、 労
的 保 護確 保 に 明 確 か つ 十 分 な も の と す
る こ と)
働 者 ・使 用 者 の 指 針 と な る 明 確 な方 法
の促 進 。/
5.労 働 者 の 国 際移 動 と保 護 の必 要 性
③ 最 も代 表 的 な 使 用 者 ・労 働 者 団 体
との協 議
⑪ 雇 用 関係 の 存 在 の 決 定 を 容 易 に す
る た め の 可能 性 。
6.問 題 の 社 会 全 体 へ の広 が り
④ 国 内 政 策 に 含 む べ き措 置(a)雇
用 関係 の存 在 につ いて の効 果的確 定 ・
(a)雇 用 関 係 の 存 在 決 定 の た め の 広
範 な手 段 、(b)一 又 はそ れ 以 上 の 関 連
の6点 で あ る 。
被 用 者 と 自営 業 者 と の 間 の 区 別 に 関 す
る 指 針 、(b)偽 装 され た 雇 用 関 係 へ の
す る指 標 が 存 在 す る場 合 、 雇 用 関 係 が
存 在 す る と い う法 的 な推 定 、(c)使 用
そ し て、 勧 告 は、 表1の 通 り、 三 つ の 内容 に 分 け て定 め ら れ て い る。 す
対 処 、(c)あ
者 団 体 ・労 働 者 団 体 と の 事 前 の 協 議 の
後 、 一 般 的 又 は特 定 の 部 門 に お い て 特
用 関係 存 在 確 認 の 困 難 、 労働 者 が 当 然 受 け るべ き保 護 剥 奪)
3.「 偽 装 雇 用 」 に対 す る加 盟 国 の責 務(特
にぜ い弱 労 働 者 へ の 有 効 か つ
効果 的保護)
4.政 労 使 協 議 に よる政 策 の必 要 性
、
らゆ る 形 式 の 契 約 上 の 取
な わ ち、 「1・ 雇 用 関 係 に あ る 労 働 者 を保 護 す る た め の 国 内 政 策 」、 「Ⅱ
決 め に適 用 し得 る基 準 の確 保 、(d)保
護 に 責 任 を有 す る 者 の 確 定 、(e)関 係
雇 用 関 係 の 存 在 の 決 定」、 「皿
者 、 特 に使 用 者 及 び労 働 者 に 対 し、 雇
用 関 係 の 存 在 ・条 件 に 関 す る 紛 争 解 決
監 視 及 び実 施 」 で あ る。
Ⅱで は 、各 国 の事 情 に適 合 す る よ う に、 労 働 者 で あ る者
手 続 ・仕 組 み の 効 果 的 利 用 機 会 提 供 、
(f)雇 用 関 係 に 関 す る 法 令 の 遵 守 ・効
と労 働 者 で は な い 者 を区分 す る た め の 基 準 を法 律 で 定 め る こ と な どを求 め
果 的 適 用 確 保 、(g)裁 判 官 、 仲 裁 者 、
仲介 者、労働 監督 官等へ の関 連国 際労
この う ち、1と
て い るが 、 そ の 要 点 は 、① 自営 業者 と労働 者 を区 分 す る指 針 の 提 示 、 ② 真
の 法 的地 位 を 隠 蔽 す る偽 装 雇用 の 克服 と剥 奪 され て い る労 働 者 保 護 、 ③ 多
数 の 当事 者 が 関 連 す る 契約(間 接 雇 用)に お い て 、 労 働 者 保 護 の責 任 が 誰
にあ る か を確 認 し得 る基 準 の確 保 、④ 適 切 、 迅 速 、 簡 易 、 公 正 、 有 効 な救
済 制 度 、 ⑤ 紛 争 解 決 機 関(裁 判所 、 労 働 監 督 機 関 な ど)関 係 者 に対 す る 国
際 労 働 基 準 等 に つ い て の教 育 実施 で あ る 。
働 基 準 、 比 較 法 ・判 例 法 の 適 切 か つ 十
分 な訓練
⑤ 脆 弱 労 働 者(女 性 、 若 年 者 、 高 齢
者 、 非 公 式 経 済 、 移 民 、 障 害 者 等)に
批 准 の よ うに
通 じ て加 盟 国 に義 務 を課 す る も の で は な い 。 しか し、 関連 す る 基 準 を 設
定 して加 盟 国 の 国 内政 策 に対 す る指 針 を示 す もの で あ り、 ま た 、 国 際 的 に
はILOの 公 式 文 書 で あ って 、 雇 用 関係 に関 す る今 後 の 議 論 の 基 礎 とな る 点
(龍 法'11)43-3,144(1028)
依 存)の 明 確 な定 義 。
⑬ 雇用 関係 の存在 につ いての明確
な指 標 を 国 内 法 令 ・他 の 方 法 に よ っ て
定 義 す る可 能 性 。 指標 に 含 まれ る事 実 。
(a)業 務 遂行 関 連 と(b)報
酬関連
対 す る効 果 的保 護。
⑥ 加 盟 国 は、 次 の こ と を 行 うべ き で
ある。
⑮ 権 限の ある機関 は、法令 の尊重
と実 施 の 確 保 の た め 、 他 の 機 関 との 協
(a)女 性 の 労 働 者 が 多 い と い う性 差
の側 面へ の 特 別 の 注 意 、(b)男 女 平 等 、
力 を 通 じた措 置
す る 明確 な政 策 。
雇 用 関 係 勧 告 は 、 勧 告 で あ る か ら 、 条 約(Convention)が
⑫ 雇用関係 の存在 を決定 す るため
に適 用 さ れ る 条 件(例 え ば 、 従 属 又 は
⑭ 雇 用 関 係 の 存 在 ・条 件 に 関 す る
紛 争 解 決 は、 労 働 裁 判 所 そ の 他 の 裁 判
所 ・仲 裁 機 関 の 権 限 に属 す る。
関 連 す る 法 ・協 約 の よ り良 い 実 施 に 関
2 I LO雇 用 関係 勧 告 の意 義
定 の 労 働 者 を被 用 者 又 は 自営 業 者 の い
ず れ か で あ る とみ なす こ と。
⑦ 労 働 者 の 国際 的 な移 動 に お い て は 、
(a)移 民 労 働 者 に対 す る 効 果 的 保 護 、
移 民 労 働 者 の 不 当 な取 扱 い 防 止 の た め
の 適 当 な 措 置 、(b)他 の 国 に お け る募
集 の 場 合 、 労 働 者 保 護 を 故 意 に逸 脱 す
る不 当 な 取 扱 い ・詐 欺 行 為 の 防 止 の た
め の二 国 間協 定 。
⑯
国 内 の 労 働 機 関 等 に よ る、 雇 用
関 係 に つ い て の 実 施 計 画 ・手 続 の 定 期
的 監視 。 女性 の 占 め る割 合 が高 い職 業 ・
部 門 で は特 別 の 注 意。
⑰ 雇 用 関 係 を偽 装 す る 動 機 を 取 り
除 くた め の効 果 的措 置 。
⑬ 雇用 関係の範 囲 に関す る問題解
決 の た め の 団 体 交 渉 ・社 会 的 対 話 の 促
進。
Ⅲ 監 視 及 び実 施
⑧ 労 働 者 保 護 の 確 保 と と も に、 真 正
(龍 法'11)43-3,145(1029)
論
説
個人請負労働者の保護をめ ぐる解釈 ・立法の課題
で き わ め て 重 要 な 意 味 を 有 し て い る 。 ILO憲 章 第19条 に よ れ ば 、 加 盟 国 は 、
こ の勧 告9項 は、 「雇用 関 係(employment
relationship)の 存 在 に つ い で
定 期 的 に 問 題 と 関 連 す る 法 律 ・慣 行 の 状 況 を ILO事 務 総 長 に 対 し て 勧 告 の
の決 定 」 につ い て は、合 意 され た 契 約 の 名 称 や 形 式 に拘 わ らず 、① 業務 の
施 行 に 関す る報 告 す る義 務 を負 い 、I
LO事 務 局 は 各 国 の 報 告 を 基 に 勧 告 の
遂 行 と② 労 働 者 の 報酬 に 関す る事 実(the
履 行 状 況 を検 討 し て 必 要 な 措 置 の た め の 議 論 を 準 備 す る こ と に な っ て い る 。
と して 判 断す る こ と を求 め て い る。 これ を労働 者性 認 定 にお け る 「事 実優
雇 用 関係 勧 告 は、 そ の 適用 につ い て は、 加 盟 国 の任 意 に委 ね られ て い る
が 、 一 定 の 方 向 と基 準 を 提 示 し て お り、 関 係 者 は 、 勧 告 の 内 容 を 踏 ま え 、
そ れ に 沿 う方 向 で の 国 内 外 で の 議 論 を 求 め ら れ る こ と に な る 。6)
facts)を 第 一義 的 に(primarily)
先 の 原 則 」 と名 付 け る こ とが で きる。
つ ま り、 こ の 「事 実 優 先 の 原 則 」 は 、 当事 者 間 に、 「委 託 契 約 書 」 や
「請負 契 約 書 」 な ど、 雇 用 関係 を否 定 す る趣 旨の 契 約 や 約 定 な どが 書 面 で
I
LO雇 用 関 係 勧 告 は 、 全 体 と し て 、 個 人 請 負 形 式 に よ る 使 用 者 の 法 的 責
存在 す る と して も、 そ れ に よる の で は な く、① 業 務 遂 行 と② 労 働 者 の 報酬
任 回避 に対 抗 す る た め に、 労働 法 上 の保 護 を受 け る必 要 が あ る労 働 者 の 範
に 関 す る 事 実 を第 一 に考 慮 して、 当事 者 間 の 関係 が、 そ の 実 質 にお い て 雇
囲 を 広 げ よ う と し た も の と考 え ら れ る が 、 具 体 的 に は 、 次 の 三 つ の 原 則 を
用 関係 を 形 成 して い るの で あ れ ば、 関係 当事 者 は 、労 働 関 係 立 法 に よ る法
提 示 した点 に大 き な意 義 が あ る。
的 義務 を負 い 、 権 利 を有 す る こ とに な る。
(1)事
実 優 先 の 原 則(primacy ま ず 、ILO勧
告は
of the facts)
す な わ ち 、 雇 用 関係 の 存 在 は、 当事 者 の合 意 に よって 、 関 連 法 令 の 適 用
「事 実 優 先 の 原 則 」 を 確 認 し て い る こ と に 注 目 す る 必
要 が あ る 。 勧 告9項 は 、 「雇 用 関 係 に あ る 労 働 者 を 保 護 す る た め の 国 内 政 策
を実 施 す る上 で、 当該 雇用 関係 の存 在 に つ い て の 決 定 は、 当該 雇 用 関係 が
を排 除 す る こ とが で きない とい う点 で、 労 働 ・社 会 法 の 強 行 法 規 性 を確 認
す る もの で あ り、 同勧 告 の 中 で 最 も核 心 的 な内 容 で あ る。
日本 の 労働 基 準 法 第9条 も、 「こ の法 律 で 『
労 働 者 』 と は、 職 業 の 種 類 を
関 係 当 事 者 間 で 合 意 さ れ た 契 約 そ の 他 の 方 法 に よ る事 実 に 反 し た 取 決 め に
問 わ ず 、 事 業 又 は事 務 所(以
お い て どの よ う に 特 徴 づ け ら れ て い る 場 合 で あ っ て も 、 業 務 の 遂 行 及 び 労
金 を 支 払 わ れ る 者 をい う」 と規 定 して お り、 こ の勧 告9項 と の比 較 で は、
働 者 の 報 酬 に 関 す る 事 実 に 第 一 義 的 に 従 う べ き で あ る 」 とす る 。
① 「使 用 さ れ る 者 」 = 「業 務 遂 行 」、② 「賃 金 を 支 払 わ れ る者 」 = 「報 酬 」
英 文 は 、「9.For the purposes of the national policy of protection for workers
in an
such
employment
a relationship
performance
how
relationship,the
should
of work
the relationship
contractual
determination
be guided
primarily
and the remuneration
is characterized
or otherwise,that
may
have
of the existence
been
よ う に、 最 近 に な っ て 、事 実 で は な く、 当 事 者 の 合 意 に よっ て 同 規 定 の 適
by the facts relating to the
用 を排 除 で きる とす る 「任 意 規 定 」 的 な解 釈 が 判 例 、 学 説 に登 場 して い る
notwithstanding
contrary
agreed
between
arrangement,
the parties.」
で あ る。
6)チ
中 で、 勧 告9項 が 、 労 働 基 準 法 第9条 の 「強 行 規 定 」性 を再 確 認 させ る 点
は、 現代 的 に も大 きな意 味 を有 して い る と考 え られ る。
(2)雇 用 関係存 在判 定の指標(criteriaforidentifyingan employment relationship)
次 に、雇 用 関係 勧 告13項 は 、 「加 盟 国 は 、 雇用 関係 が存 在 す る こ とにつ い
ョ ・イ ミ ョ ン 「ILO雇 用 関 係 に 関 す る 勧 告 の 主 要 内 容 と そ の 示 唆 す る 点 」 前
掲 論 文p.12以
と い う事 実 を 踏 ま えた 労働 者 の 定 義 を示 して い る。 しか し、 後 で 検 討 す る
of
of the worker,
in any
下 『事 業 』 と い う。)に 使 用 さ れ る 者 で 、 賃
下
(龍法'11)43-3,146(1030)
て の 明確 な指 標 を 国 内 法令 又 は 他 の 方 法 に よ って 定 義 す る 可 能 性 を考 慮 す
べ きで あ る」 と し、 そ の指 標 と して、 次 の 事 実 が含 まれ得 る 、 と して い る。
(龍法'11)43-3,147(1031)
論
説
個人請負労働者の保護をめ ぐる解釈 ・立法の課題
こ こ で は、 一 定 の 労 働 者 性 につ い て の 指 標 に該 当 す る場 合 に は、 一般 的
(a)
① 他 人 の 指 示 と統 制 に よ り労 働 が 行 わ れ る こ と、
に 「法 的 推 定 」 を与 え、 一 般 的又 は特 定 の 部 門 の 特 定 の労 働 者 につ い て
② 労働 者 が 企 業 組 織 に統 合 され て い る こ と、
は 、 「み な し」 制 度 も導入 で き る と して い る点 で あ る。 日本 で の 労働 者 性
③ 専 らま た は 主 に、 他 人 の 利 益 の た め に労 働 が 行 わ れ る こ と、
認 定 をめ ぐる消極 的 判 例 は 、 労 働 者 性 を総 合 的 に 判 断す る と しなが ら、 労
④ 労 働 者 自 身 に よっ て(personally)労
働 者 で は ない 可 能 性 を示 す 指 標 に一 つ で も該 当 す れ ば全 体 と して の労 働
働 が 行 わ れ る こ と、
⑤ 契 約 の相 手 方 が 求 め た 、 特 定 の 労 働 時 間 ま た は特 定 の場 所 で 労働 が 行
わ れ る こ と、
者 性 を否 定 しよ う とす る傾 向 が あ る(後 述)。 こ れ に対 して 、ILO勧 告 は 、
そ れ とは 正 反対 に、(b)「 一 又 は それ 以 上 の 関連 す る指 標 が存 在 す る場 合 」
⑥ 特 定 の 期 間 また一 定 の期 間 、継 続 して 労働 が 行 わ れ る こ と、
に は雇 用 関係 存 在 につ い て 「法 的 な推 定 」 を与 え 、 ま た、(c)特
⑦(相 手 方 が)労 働 者 に待 機(worker'savailabihty)を
に は、 「み な し」 制 度 の 可 能性 も認 め て い る 。
求 め る こ と、
⑧ 労 働 を求 め る相 手 方 が、 道 具 、材 料 、機 械 を提 供 す る こ と、
定 の場 合
もち ろ ん、 「一 又 は そ れ 以 上 の 関 連 す る指 標 」 と い う こ と で あ る の で 、
(b)
論 理 的 に は 「そ れ以 上 」 の 可 能 性 もあ る が 、 勧 告 の趣 旨 か ら はす べ て の
⑨ 労 働 者 に 対 す る報 酬 が定 期 的 に支 給 され て い る こ と、
項 目 を 含 む も の で は な い(not
⑩ この報 酬 が 労働 者 の唯 一 の、あ るい は主 な収 入 の源 泉 とな って い る こ と、
と い っ て も最 も 重 要 と され る支 配(control)、
⑪ 食 事代 、住 居 、交 通 手段 、 あ る い は それ らの た め の費 用 を支 払 う こ と、
(dependence)、
⑫ 週 休 や 年 休 な どの権 利 が保 障 さ れ る こ と、
を前 提 に してい る と考 え られ る。 こ の 「法 的推 定 」 と い う要 請 か らは、 そ
⑬ 労 働 を求 め る相 手 方 が 交 通 費 を支 払 うこ と、
の 反 証 と して 、 「事 業 者 と言 え る の か 」 を検 討 す る こ とが 必 要 に な る と考
⑭ 労務 提 供 者 が 財 政 的 危 険(financial risk)を 負 担 しな い こ と
え られ る。 す なわ ち 、 事 業 者 と して 自 ら事 業 活 動 を し、 そ れ そ こか らの 利
(3)「 法 的推 定(legal presumption)」
と 「み な し(deeming)」
さ ら に、 同勧 告11項 は、 「加 盟 国 は 、 雇 用 関係 の 存 在 につ い て の 決 定 を
容 易 に す る た め 、 こ の勧 告 に規 定 す る 国 内政 策 の枠 組 み に お い て 、 次 の 可
能性 を考 慮 す べ きで あ る」 と し、 次 の3点 を挙 げ る 。す な わ ち 、
(a)雇 用 関係 の 存在 を決定 す るた め の 広 範 な手段 を認 め る こ と。
intended to be exhaustive)。 「そ れ 以 上 」
統 合(integration)、 従 属
財 政 的危 険(financial risk)等 の指 標 を含 む2、3項 目程 度
益 や 損 失 を 自 ら計算 す る こ とが で き る程 度 の事 業 活 動 を してい る と言 え な
い の で あ れ ば 、逆 に 、労 働 者 で あ る と推 定 す る こ とが 必要 とな る。7)
(4)「 二 分 法 」 の 採 用
ILO2006年 勧 告 の大 きな特 徴 は、 労 働 者 とそ れ 以 外 の 者 を 区別 す る 二 分
法 を採 用 した こ とで あ る。 この 点 につ い て は、 島 田教 授 は2003年 の段 階 で
(b)一 又 は そ れ 以上 の 関連 す る 指標 が 存在 す る場合 に は 、 雇 用 関 係 が存
在 す る とい う法 的 な推 定 を与 え る こ と。
(c)最 も代 表 的 な使 用 者 団 体 及 び労 働 者 団体 との事 前 の協 議 の 後 、 一 般
的又 は特 定 の 部 門 にお い て 特 定 の特 性 を 有す る労 働 者 を被 用 者 又 は 自営 業
者 の いず れ か で あ る とみ なす こ と を決 定 す る こ と。
(龍法'11)43-3,148(1032)
7)ILO,The
employment
No.198,2007.p.33オ
relationship:An annotated guide
to ILO
Reco㎜endation
ム ・ジ リ ョ ン 「特 殊 雇 用 労 働 者 の 労 働 権 保 護 方 案 一
立法議 論
を 中心 に」 全 国 不 安 定 労 働 撤 廃 連 帯 法 律 委 員 会
『法 を 通 じ て 覗 い て 見 る 労 働 者 闘
争 の 歴 史 と 非 正 規 職 』 〔(韓 国 語)
」
『
』〕p.291以
下。
(龍法'11)43-3,149(1033)
論
説
個人 請負労働者 の保護 をめ ぐる解釈 ・立法の課題
は あ る が、 当 時 のI
LOの 議 論 過 程 を紹 介 し、ILO
が 第 三 の カ テ ゴ リー の構
題 を提 起 す る こ と に な るか に つ い て、 主 に労 働 基 準 法 上 の労 働 者 を 中心 に
成 を 断 念 しな こ と を指 摘 して い る。8)
考 え て み る こ と に した い。
は結 果 的 に、2006年 勧 告 でILO
労働 者 と自営業 者 の間 に中 間的 カ テ ゴ
リ ー を 認 め る立 場 を排 除 し、 労 働 者 と 自営 業 者 の 「二 分 法 」 を採 用 した と
言 え る 。 そ の理 由 は 、 議 論 の 経 過 を詳細 に検 討 す る必 要 が あ るが 、 通 常 の
1 1985年 労働 基 準 法研 究会 報 告
労 働 基 準 法 上 の 労 働 者 概 念 を め ぐっ て は 、1985年12月19日 、 「労 働 基 準
労 働 者 に対 して、 労働 立 法 や 労 働協 約 の 拡 張 適 用 に よ って ほ ぼ 最 低 基 準 の
法 研 究 会 」(労 働 大 臣 の 私 的 諮 問 機 関)が
労 働 条 件 が 確 保 され て い る国(主
にEU諸 国 な ど)の 場 合 に は、 労 働 者 と
『
労 働 者 』 の判 断 基 準 につ い て」 が 、 現 在 に至 る まで 理 論 と実 務 の 双 方 で
類 似 の就 労 形 態 の者 に 、 労働 者 に確 保 され て い る労 働 条件 を拡 張 適 用 す る
大 きな役 割 を果 た して きた 。 同 報 告 は、 労 働 基 準 法 上 の 労 働 者 性 の 判 断 に
点 で 「中 間的 カ テ ゴ リー 」 を 認 め る こ とは 意 味 が あ る。 しか し、 労働 者 性
つ い て、 そ れ 以 前 の 行 政 解釈 や 裁 判 例 の傾 向 を総 合 的 に ま とめ た もの で あ
が 明確 な労 働 者 に さ え 、労 働 者 保 護 法 の定 め る 法 定 最 低 労働 条件 が不 十 分
るが 、 そ こ で は 、 人格 的従 属 を 重 視 しなが ら、 総 合 的 判 断 に よっ て 労働 者
に しか確 保 され て い ない 国(い わ ゆ る 「労 働 法 後 進 国 」)が 世 界 に は 少 な
性 を判 断す る こ とが提 示 され て い るが 、 こ の考 え方 は、 大 きな 異 論 や 意 見
くな い な か で 、 「中 間 的 カ テ ゴ リー 」 を設 け た 場 合 、 本 来 の 労 働 者 の 範 囲
の対 立 を生 む こ とな く、 通説 的 な もの と して、 現 在 も、 そ の 重 要性 は 基 本
が 縮 小 され 、 最 低 労 働 条件 さ え保 障 さ れ な い 「偽 装 雇 用 」 が拡 大 す る 危 険
的 に支 持 さ れ て い る と言 え る。9)
性 が あ る。ILO
は 、 こ う した世 界 各 国 の 状 況 を踏 ま えて 、 国 際 労 働 基 準 と
(1)使 用 従 属 性 に よ る判 断
ま と め た 報 告 「労 働 基 準 法 の
して は、 「二 分 法 」 が 適 当 で あ る と した と考 え られ る。 こ の 点 は、 い ま や
同 報 告 は 、 まず 、 雇 用 契約 、 請 負 契 約 とい った 契 約 形 式 で は な く、 「指
「労 働 法 後 進 国 」 に 転 落 した 日本 にお け る立 法 的 課 題 を考 え る 上 で き わ め
揮 監 督 」 と、 「報 酬 の 労 務 対 償 性 」 の 二 つ の 基 準 に注 目 し、 これ を使 用 従
て重 要 で あ る の で 、 後 で 再 論 した い 。
属 性 と呼 び 、 この 使 用 従 属性 に よ っ て実 質 的 に労働 者 性 判 断 をす る とい う
原 則 を次 の よ う に提 示 して い る。
第9条 は、 そ の適用対象
1.労働基準法
であ る「労働者」 を「
Ⅲ個人請負労働者をめぐる解釈論的課題
・
使用 され る者 で、 賃 金 を支 払 わ れ る者 を いう」 と」規定している.これ
以 上 の よ う に、ILO
は2006年 勧 告 で、 雇 用 関 係 の 存 在 決 定(労 働 者 性)
労働 者」 であ るか 否か 、 す な わ ち「労働者性」 の 有 無は
・
によ
「
使用 さ
れば、「
に 関 す る 重 要 な 国 際 労 働 基 準 を設 定 す る こ と に な っ た。 そ こで 、 同勧 告
れ る= 指揮監督 下の労 働」 と い う労 務 提 供 の形態 及 び「 賃 金 支 払」 と い う
が 、 日本 にお け る現 行 労働 法 の解 釈 をめ ぐって 、 どの よ うな解 釈 論 上 の 問
報酬 の労 務 に対 す る対償性 、 す な わ ち報 酬 が提供 され た労 務 に対 するも の
8)島
であ る 、か
ど うか と い うこ とに よ っ で判 断 され る こ とと な る。
田 陽 一 「雇 用 類 似 の 労 務 供 給 契 約 と労 働 法 に関 す る覚 書 」、 西 村 健 一 郎 他 編
『
新 時 代 の労 働 契 約 法 理 論 一下 井 隆 史 先 生 古 希 記 念 一』(信 山社 、2003年)所
収
p.44。 た だ、 島 田 教 授 は、 国 際 的 に は 統 一 的 な労 働 者概 念 の 捉 え方 が 困 難 と な っ
て い る とい う点 に 注 目 し、 第 三 の カテ ゴ リー の労 働 者 類 似 の者 の保 護 を提 起 して
いる。
(龍法'11)43-3,150(1034)
こ の二 つ の基 準 を総 称 しで、「使用従属性」 と呼 ぶ こ と とす る。
9)労
働省労働基準局編 『
労 働 基準 法 の問 題 点 と対 策 の方 向』(日 本 労 働 協 会 、1986
年)。
(龍 法'11)43-3,151(1035)
論
説
個人請負労働者 の保護 をめぐる解釈 ・立法の課題
(2)指 揮 監 督 、 報 酬 の 労務 対 償 性 を重 視 した総 合 的 判 断
ハ 、 そ の他
、
)
同 報 告 書 は、 使 用 従 属性 に つ い て の 二 つ の基 準 で判 断 で きな い 限界 的事
例 につ い て は、 次 の よ うに 「使 用 従 属 性 」 に加 え て、 「専属 度 」、 「収 入 額 」
等 の 諸 要 素 を も考慮 して総 合 判 断す る と して い る 。
(2)専 属 性 の 程 度
(3)そ の 他
(3)類 型 別 の具 体 的 基 準 設 定
2、 しか しな が ら、 現 実 には 、 指 揮監 督 の程 度 及 び態 様 の 多様性 、 報酬
1985年 報 告 は、 上 の判 断基 準 を具 体 的 な事 案 に適 用 した 場 合 の判 断 につ
の性格 の 不明確 さ等 か ら、具体 的 事 例 では 、「指 揮 監 督 下の労働」 であ る
い て例 示 し、 傭 車 運 転 手 の2事 例 と、 在 宅 勤 務 者 の2事 例 を挙 げて 、 そ れ ぞ
か 、「賃金支 払」 が 行 わ れて い る か と い うこ とが明確性 を欠 き 、 これ らの
れ の 具 体 的判 断 を示 して い る。 さ らに、1996年 、 労 働 基 準 法研 究 会 労働 契
基 準 に よ っ で「労働者性」の 判 断 を す る こ とが困難 な場 合 が あ る。こ の よ う
約 等 法 制 部 会 「労 働 者 性 検 討 専 門部 会 報 告 」 は、 手 間受 け大 工 と芸 能 員 に
な限 界的 事 例 に つ い では 、「使用従属性」 の有無 、 す な わ ち「 指 揮監督 下
つ い て 具 体 的 なケ ー ス検 討 を加 えて い る。
の 労 働」 であ る か、「報酬 が 賃金 と しで支 払 わ れ で い る」 か ど うか を判 断
さ ら に 、 厚 生 労 働 省 は 、2004年4月 介 護 保 険 法 施 行 以 降 、 訪 問 介 護 労 働
す る に 当 たり 、「専属度」、「収入額」等 の 諸 要 素 をも考慮して 、 総合 判 断
者 が 増 加 した が 、 ① 利 用 者 宅 で の 単 独 業 務 で 使 用 者 の 指 揮 監 督 が 及 び に
と考 え る。
くい こ と、 ② 労 働 法 令 に 関 す る理 解 不 足 の事 業 者 が多 い こ とか ら法 定 条
そ して 、 考 慮 す べ き諸 要素 に つ い て は、 報 告 書 は、 さ らに詳 し く次 の よ
件 の適 正 な確 保 に 欠 け る状 況 が あ る と し、2004年 、 「訪 問 介 護 労 働 者 の 法
す る こ と に よ って「労働者性」 の有 無 を判 断 せざるを 得 なもの
うな 判 断 基 準 項 目 を列挙 して い る 。
1、 「
使 用 従 属 性 」 に 関 す る判 断基 準
(1)「 指 揮 監 督 下 の 労働 」 に 関 す る判 断 基 準
定 労 働 条 件 の確 保 につ い て 」(2004年8月27日
付 基 発 第0827001号)と
いう
通 達 を 出 した 。 そ こ で は 、 「介 護 保 険 法 に基 づ く訪 問 介 護 の業 務 に従 事 す
る 訪 問 介 護 員 等 」 は、 「一 般 的 に は 使 用 者 の指 揮 監 督 の 下 に あ る こ と等 か
イ 、 仕 事 の依 頼 、業 務 従 事 の 指 示 等 に対 す る 諾 否 の 自由 の 有 無
ら、 労 働 基 準 法 第9条 の 労 働 者 に該 当 す る も の と考 え られ る」 と指 摘 し て
ロ 、 業 務 遂行 上 の指 揮監 督 の有 無
い る。10)
(イ)業 務 の 内容 及 び遂 行 方 法 に 対 す る指揮 命 令 の有 無
また 、 厚 生 労働 省 は、 「バ イ シ ク ル メ ッセ ン ジ ャー 及 び バ イ ク ラ イ ダ ー
(ロ)そ の他
の 労 働 者 性 につ い て 」(2007年9月27日
基 発0927004号)で
、総合 的に判断
(ハ)拘 束性 の有 無
して、 バ イ ク便 労働 者 は 労働 者 で あ る とい う通 達 を 出 した 。11)
(ニ)代 替性 の有 無 −指 揮 監 督 関 係 の判 断 を 補 強 す る要 素 −
(2)報 酬 の労 務 対 償 性 に関 す る判 断基 準
10)脇 田 滋 「ホ ー ムヘ ル パ ー の 労働 条件 の 改 善 をめ ざ して 一 『
訪問介護労働の法定
労 働 条 件 の確 保 につ い て』 を 手 が か りに」 『
月刊 ゆ た か な くら し』2004年12月
2、 「労 働 者 性 」 の判 断 を補 強 す る 要 素
(1)事 業 者 性 の有 無
イ 、 機 械 、 器 具 の負 担 関係
ロ、報酬の額
(龍法'11)43-3,152(1036)
号、
p22以 下 。
11)バ イ ク便 通 達 に は、 バ イ ク便 運 転 手 の 地 位確 認 や 賃 金 請 求 が 争 点 と な り、 そ の
労働 者 性 が 争 われ た ソ クハ イ事 件 も背 景 にあ っ た 。 労 働者 性 を認 めた 通 達 と は異
な っ て 、 東 京 地 裁2010年4月28日
判 決(労
判1010号25頁)は
、 バ イ ク便 運 転 手 に
つ い て は 、 労 働 者性 を否 定 して い る。
(龍法'11)43-3,153(1037)
論
個人請負労働者 の保護をめ ぐる解釈 ・立法の課題
説
(4)ILO勧 告 と労 働 基 準 法 研 究 会 報 告
以 上 の労 働 基 準 法 研 究 会 報 告 の 労働 者 性 判 定 につ い て の 「使 用 従 属 性 」
2消
極 的判 例 の特 徴
裁 判所 は 、 労 働 者 性 の判 断 につ い て、1985年 労 働 基 準 法研 究 会 報告 書 の
と 「総 合 的 判 断 」 を重 視 す る立 場 は 、労 働 行 政 の 実 務 だ け で な く、 労 働 裁
「使 用 従 属 性 」 と 「総 合 的 判 断 」 を 基 本 とす る解 釈 手 法 を原 則 的 に は支 持
判 にお い て も大 きな影 響 を与 え 、学 説 の多 く も これ を実 質 的 に支 持 す る見
して きた と言 え る。 しか し、 最 近 に な っ て、 労 働 者 性 を否 定 す る 消極 的 な
解 が 多 数 で あ る と言 え る。 た しか に、 この よ う に労 働 者 性 判 定 にお い て大
判 断 が 目立 っ て い る。 そ の な か で 、 特 徴 的 な判 断 を示 して い る 判例 の一 部
きな役 割 を果 た して きた 同報 告 は 、 契約 の 形 式 で は な く、 実 質 的 な労 働 実
を整 理 して指 摘 して み る 。
態 を重 視 す る点 な ど、ILO2006年
勧 告 と 内容 的 に 重 な っ て い る部 分 も少 な
(1)時 間 的 ・場 所 的拘 束 の重 視
くな い。 しか し、 同勧 告 と比 較 した と き、1985年 報 告 に は、 い くつ か の 問
題 点 と不 十 分 点 が存 在 して い る 。 そ の主 な もの は 次 の 通 りで あ る。
まず 、偽 装 され た 個 人 請 負 形 式 に よ る使 用 者 責 任 回避 を排 除 ・克服 して
まず 、 使 用 者 の 直接 の 監視 下 に な く、 時 間 的 拘 束 や場 所 的拘 束 を受 け な
い 事 業 場 外 労 働 者 に つ い て、 労 働 者性 を否 定 す る例 が 目立 っ て い る。 例 え
ば、 工 務 店 の大 工 仕 事 に従 事 して い た 、 い わ ゆ る手 間 請 け大 工 の負 傷 につ
労 働 者 を保 護 す る とい うILO
勧 告 が 強調 す る視 点 が 明確 で な く、 「中 立 的 」
い て 、 労 災 保 険 給 付 の 不 支 給 決 定 が 争 わ れ た事 例 で、 藤 沢 労 基 署 長事 件 ・
な 立 場 に と ど ま って い る こ とで あ る。
横 浜 地 裁2004年3月31日
判 決(労 判876号41頁)、 東 京 高 裁2005年1月25日 判
決(労 判940号22頁)は
、 そ の 労働 者 性 を否 定 し、 最 高 裁 も2007年6月28日
第2に 、勧 告 が 強調 す る 「事 実 」 を第 一 義 的 な も の と し、 当 事 者 の 合 意
や 約 定 を排 す る とい う 「事 実 優 先 」 とい う考 え 方 が勧 告 の よ うに は明 確 で
判 決(労 判940号11頁)で
、 「上 告 人 は 、作 業 の 安 全確 保 や近 隣住 民 に対 す
は な い。
る 騒 音 、振 動 等 へ の配 慮 か ら所 定 の作 業 時 間 に従 っ て作 業 す る こ とを求 め
第3に 、 日本 的 雇 用 慣 行 にお け る 「正社 員 」、 と くに 、 工 場 や 事 務 所 で 就
られ て い た もの の 、 事 前 にBの 現 場 監 督 に連 絡 す れ ば 、工 期 に遅 れ ない 限
労 す る者 を 「労 働 者 」 モ デ ル とみ なす 考 え 方 が 強 く、 時 間的 ・場 所 的 拘 束
り、 仕 事 を休 ん だ り、 所 定 の 時 刻 よ り後 に作 業 を 開 始 した り所 定 の時 刻 前
な ど人 的従 属 性 を過 度 に重 視 して 、 と くに 、 非 正 規 労 働 者 を 「労 働 者 」 概
に作 業 を切 り上 げ た りす る こ と も 自 由 で あ っ た」 こ とな ど を挙 げ て、 労 働
念 か ら除外 す る傾 向 を含 ん で い る こ とで あ る。
基 準 法 上 の労 働 者性 を否 定 して い る。
第4に 、 「労 働 者 」 と 「労 働 者 で な い 者 」 の 間 に、 「中 間 的 カ テ ゴ リー 」
'
同様 に、 傭 車 運 転 手 、 バ イ ク便 な ど につ い て も、 時 間管 理 の点 で労 働 者
が あ る こ とを容 認 し て お り、 「二 分 法 」 に よ っ て広 い 労 働 者 概 念 を 目指 す
に裁 量 性 が あ る こ と が 強 調 さ れ る傾 向 が あ る。 横 浜 南 労 働 基 準 監 督 署 長
勧 告 に反 す る と言 え る。
(旭 紙 業)事 件 ・最 高 裁1996年11月28日
判 決(労 判714号14頁)は
、使用従
第5に 、ILO
勧 告 は 、 具 体 的 な 労 働 者 性 の 指 標 を 挙 げ て 、 そ の い くつ か
属 性 と総 合 的判 断 とい う基本 を前 提 に して、 ① 運 転 手 が 、 トラ ック を所 有
に合 致 す れ ば、 労 働 者 と 「推 定 」 ま た は 「み な し」 とい う手 法 で 、 労 働 者
し自 己 の危 険 と計算 の 下 に業務 に従 事 して い た こ と、 ② 会 社 は業 務 の 遂 行
性 を判 断 す る とい う方 法 を示 して い るが 、 こ れ に対 して 、 労基 研 報 告 は、
に 関 し特 段 の 指揮 監 督 を行 っ て お らず 、 時 間 的、 場 所 的 な拘 束 の程 度 も一
判 断基 準 の一 般 的 な提 示 と、 特 別 な具 体 的 ケ ー ス の解 釈 例 を示 す と い う方
般 の 従 業 員 と比 較 して は るか に 緩 や か で あ る こ とか ら、 会 社 の指 揮 監 督 の
法 に と どま っ て い る。
下 で 労 務 を提 供 して い た と評 価 す る に は足 りな い。 ③ 報 酬 の支 払 方 法 、 公
(龍法'11)43-3,154(1038)
(龍法'11)43-3,155(1039)
論
個人請負労働者の保護をめぐる解釈 ・立法の課題
説
租 公 課 の 負 担 等 につ い て み て も、 労 働 基準 法 上 の 労 働 者 に該 当 し な い と し
頁)は
た 。 と くに 、 そ こ で は、 「運 送 とい う業 務 の 性 質 上 当然 に必 要 と され る運
演 基 本 契 約 更 新 拒 絶 を争 っ た事 例 で あ るが 、 判 決 は① 契 約 締 結 諾 否 の 自 由
送 物 品 、 運 送 先 及 び納 入 時 刻 の指 示 を して い た 以 外 に は 、 上 告 人 の 業 務 の
が あ る こ と、 ② 時 間 的 場 所 的 拘 束 も業 務 の 特 性 に よ る こ と、③ 稽 古 へ の 参
遂 行 に関 し、 特 段 の指 揮 監 督 を行 っ て い た とは い え ず 、 時 間的 、 場 所 的 な
加 は 従 で 本 番 出 演 が 主 で あ る こ と、 ④ 報 酬 に 労 務 対 価性 が な い こ と を挙 げ
拘 束 の 程 度 も、 一 般 の従 業 員 と比 較 して は る か に緩 や か で あ り」 と指 摘 し
て 出 演 契 約 は労 働 契 約 で な い と した。 この判 決 もILO勧 告 の 「事 実優 先 の
て い る点 が 特 徴 的 で あ る。12)
原 則 上 に 反 して い る と考 え られ る。
(2)当 事 者 の合 意 ・諾 否 の 自 由 の重 視
(3)正 社 員 との比 較
また 、 最 近 目立 っ て い る の は、 当 事 者 の 諾 否 の 自由 や 、 合 意 を重 視 す る
、 出演 基 本 契 約 に よ っ て オ ペ ラ公演 等 に 出演 してい た 楽 団 員が 、 出
次 に、 消 極 的 裁 判 例 に 目立 つ の は 、 労働 者 性 の判 断 につ い て、 一 般 の 従
業 員(正 社 員)と 比 較 して、 そ こか ら逸脱 して い る こ と を労 働 者 性 否 定 の
裁 判 所 の傾 向 で あ る。
旭 紙 業 ・横 浜 南 労 働 基 準 監 督 署 長 事 件 ・東 京 高 裁2004年11月24日
判決
根 拠 にす る傾 向 で あ る。 前 掲 の横 浜 南 労働 基 準 監 督 署 長(旭 紙 業)事 件 ・
は、 傭 車 運 転 手 に つ い て 、 労働 ・社 会 保 険 不 適 用 や 税 法 上 、 事 業 所 得 扱 い
最 高 裁 判 決 は、 傭 車 運 転 手 が 、 一般 の従 業 員 と比 較 して、 時 間的 、場 所 的
して い る 事 例 で あ るが 、 こ う した 「就 労 形 態 は、 これ をそ の ま ま認 め る こ
な拘 束 の 程 度 が は るか に緩 や か で あ る と して い る。 ま た、 東 京 地 裁2010年
と に つ い て は議 論 の 余 地 が ない で は な いが 、 法 令 に反 す る もの で も、 脱 法
4月28日 判 決(労 判1010号25頁)は
的 な もの で も な く、 巨 視 的 には と も か くそ の時 点 で は少 な く と も双 方 に利
つ い て の 総合 判 断 とい う手 法 を用 い なが ら、 具 体 的 な判 断 で は、仕 事 の 諾
益 が あ 」 り、 「当事 者 双 方 の 真 意 、 殊 に車 持 ち 込 み 運 転 手 の 側 の 真 意 に そ
否 の 自由 、 指揮 監 督 関係 、 報 酬 の労 務 対償 性 な ど、 い ず れ も消極 的 に判 断
う もの で あ るか ら、 これ を裁 判 所 と して は、 そ の ま ま一 つ の就 労 形 態 と し
して 労 働 者 性 を否 定 した。 しか し、 そ の 半 面 、 内 勤 者 で あ る所 長 につ い て
て認 め る こ と とす るの が 相 当 とい わ な くて は な らな い」 と して、 労 働 者 自
は 、 中 間管 理 職 と して労 働 者 性 を認 め て い る。 労 働 者 モ デ ル と して 「正 社
身 が そ れ を望 む こ と を根 拠 と して 是 認 し、 締 結 さ れ た契 約 形 式 や 当事 者 の
員 」 あ る い は 「内 勤 者 」 を前 提 に、 そ れ との比 較 とい う手 法 で あ るが 、 時
意 思 を重 視 す る考 え方 を示 して い る。 こ れ は、 使 用 従 属 性 と総合 的判 断 を
間 的 ・場 所 的 拘 束 で は一 定 の裁 量 が あ る と して も、 待 遇 面 で は、 は るか に
前 提 とす る他 の裁 判 所 の 判 断 枠 組 み か ら大 き く逸 脱 す る もの で あ る 。 と く
不 安 定 で 低 賃 金 の バ イ ク便 運 転 手 の労 働 者 性 を否 定 す る もの であ って 、 労
に 、 上 告 審 の最 高 裁 判 決(前 掲)と
働 者 保 護 とい う労 働 立 法 の 目的 ・趣 旨 に反 し、 現 実 的妥 当性 に大 き く欠 け
も異 な り、 労 働 者 と使 用 者 の合 意 を過
度 に 重 視 す る も ので あ り、ILO勧 告 の立 場 と大 きな 隔 た りが あ る。
新 国 立 劇 場 運 営 財 団 事 件 ・東 京 地 裁2006年3月30日
判 決(労
判918号55
、 バ イ ク便 運 転 手 に つ い て 使 用 従 属 に
た解 釈 とい う しか な い 。
(4)中 間 形 態 ・混 合 契 約論
個 人 請 負 労 働 者 の 労 働 法 上 の 労 働 者 性 を否 定 す る 最 近 の裁 判 例 の 中 に
12)最 高 裁 は 、 こ の よ うに 運 送 業 の 特 殊 性 を強 調 して 時 間 的拘 束 につ い て 消極 的 な
判 断 を した が 、 同 様 な レ ミ コ ン運 転 手 の事 例 で 、 そ の労 働 者 性 を否 定 した 韓 国 大
法 院判 決(2006.6.30大
法2004ト ゥ4688)と
が 一 定 の 影響 を与 え た と考 え られ る。
(龍法'11)43-3,156(1040)
類 似 した 判 示 内容 で あ る。 最 高 裁 判 決
は、 「中 間的 な契 約 」 ない し 「混 合 契 約 」 の存 在 を認 め る もの が見 られ る 。
例 え ば 、 「要 す る に、 車 持 ち込 み 運 転 手 は 、 こ れ を率 直 に み る 限 り、 労
働 者 と事 業 主 との 中 間形 態 に あ る と認 め ざる を得 な い 」 とす る もの(旭 紙
(龍法'11)43-3,157(1041)
論
説
個 人請負労働者の保護をめ ぐる解釈 ・立法の課題
業 ・横 浜 南 労 働 基 準 監 督 署 長 事 件 ・東 京 高 判1994年ll月24日(労
判714号
判 断 結 果 を 強制 して コ ン トロ ー ル す る との考 え方(内 容 コ ン トロ ー ル)に
16頁))、 「強 い て本 件 委 託 契 約 の 法 的 性 質 を い え ば,委 任 と請 負 の 性 格 を
立 つ 」 もの で あ り、 「雇 用 関係 法 の 一 層 の 『
任 意 規 定』 化 を承 認 す る もの
併 せ 持 つ 混 合 契 約 と して の性 格 を有 す る もの と理 解 す るの が 実 態 に即 した
と い え る 」 と消 極 的 判 例 を支 持 す る柳 屋 孝 安 教 授 の見 解 は、ILO
勧 告 とは
合 理 的 な 判 断 」(NHK西
正 反 対 の もの と言 え るで あ ろ う。13)
東 京 高 判2003年8月27日
東 京 営 業 セ ン タ ー(受 信 料 集 金 等 受 託 者)事
労働 判 例868号75頁)な
件 ・
どで あ る。
こ う した 中間 的 な契 約 を認 め る こ とは、 結 局 、 労 働 者 性 を否 定 す る こ と
につ なが って い る。
(2)ILO勧 告 に基 づ く指 標 の 導 入
ま た、 これ まで の85年 労基 研 報 告 や 裁 判 例 が 、 雇用 関係 の存 在 を実 態 に
よ っ て総 合 的 に 判 断 す る とい う と き、 そ の 基 準 に な る指 標 が 、ILO
勧告と
比 較 し た と き人 的 従 属 性 面 に偏 って お り、 しか も、時 間 的拘 束 や 場 所 的 拘
3I LO勧 告 と解 釈 論 の 課 題
以 上 、旧 本 に お け る 労 働 者 性 を め ぐ る 法 解 釈 論 の 現 状 を考 え る と、
2006年 勧 告 の 趣 旨か らは、不 十 分 な 点 が 少 な くな い と言 え る。 そ こ で、
ILO
束 を受 けて い る 点 が 過 度 に重 視 され て い る。
85年 労 基研 報 告 や 裁 判 例 と比 較 した と き、ILO
雇 用 関係 勧 告 は 、 は るか
に 幅 広 く、 労 働 者 に 対 す る判 断 の 指 標 や根 拠 を提 示 して い る。 す な わ ち 、
次 に、勧 告 の 趣 旨 を踏 ま え た解 釈 論 的 な課 題 を考 え てみ たい 。
勧 告 の 挙 げ る指 標 は、 「使 用 従 属 関 係 」 の 判 断 にお い て 日本 の 裁 判 所 の 最
(1)実 態 に よ る判 断 の徹 底
近 の 傾 向 に比 べ て 幅広 く、 労働 者 性 を積 極 的 に認 定 す る た め の指 標 を示 し
勧 告 は、 雇 用 関 係 の存
ILO
在 判 定 は 、 当 事 者 間 の 契 約 や 合 意 の形 式 と関
て い る と言 え る。 と くに、 「② 労 働 者 が 企 業組 織 に統 合 さ れ て い る こ と」、
係 な く、 労 働 関 係 の実 態 に よっ て判 断 さ れ る必 要 が あ る こ と、 そ の 判 断 基
「③ 専 ら また は主 に、 他 人 の利 益 の た め に労 働 が 行 わ れ る こ と」、 「④ 労 働
準 は変 化 す る労 働 関 係 に対 応 して調 整 され るべ きで あ る こ とを再 確 認 して
者 自身 に よ っ て(personally)労
い る。 た しか に、 日本 の裁 判 所 も、 労 働 基 準 法 上 の労 働 者 に該 当 す る か 否
者 の 唯 一 の、 あ る い は主 な収 入 の源 泉 とな っ て い る こ と」、 「⑭ 労 務 提 供 者
か の判 断 につ い て は、 契 約 形 式 が 民 法 上 の 雇 用 契約 か、 請 負 契約 か とい っ
が 財 政 的 危 険(financial risk)を 負 担 しな い こ と」 等 の 指 標 は、 こ う し た
た 形 式 で は な く、 そ の実 質 にお い て、 労 働 者 が事 業 ま た は事 業 場 で 賃 金 を
労 働 者 性 を積 極 的 に認 定 す る こ と につ な が る指 標 で あ るが 、 最 近 の 日本 の
目的 に従属 的 関 係 で 使 用 者 に労 働 を提 供 した の か否 か を判 断 しな け れ ば な
裁 判 例 で軽 視 な い し、 無 視 さ れ て い る 指 標 で あ る と指 摘 す る こ とが で き
ら ない と して い る。
る。
勧 告 の立 場 は
ILO
、 事 実 を 第 一 義 的 な もの と して、 当事 者 の 合 意 を重 視
働 が 行 わ れ る こ と」、 「⑩ この 報 酬 が 労 働
(3)人 的 従 属 性 をめ ぐる新 た な解 釈 の 試 み
す る こ と を排 除 して お り、 そ の 意 味 で は 明 らか に 強 行 性 を 前 提 に し て い
と くに、 注 目す る必 要 が あ るの は、 勧 告 が 、 それ らの 指 標 の 一 つ 以 上 に
る。 こ の 点 で は 、 「あ くまで 当事 者 意 思(契 約 の 自 由)を 尊 重 す る との ス
該 当 す る場 合 に は、 労 働 者 と推 定 す る こ とに してい る点 で あ る。 この 推 定
タ ン ス を 取 りつ つ 、 当事 者 意 思 の形 成 が 一 方 当事 者 の 意 思 の み 反 映 し て、
の 結 果 、 労 働 者 の 使 用 従 属 関係 に対 す る立 証 責 任 が緩 和 さ れ る こ と に な
他 方 当 事 者(労 働 者)の
自由意 思(真 意)に 基 づ い て い な い と客 観 的 に 考
13)柳 屋 孝 安 「雇 用 関係 法 に お け る労 働 者 性 判 断 と当事 者 意思 」西村 健 一 郎他 編 『
新
え られ る 場 合 の み 、 『契 約 自由 の 濫用 』 と して 、 就 業 実 態 に よ る客 観 的 な
(龍法'11)43-3,158(1042)
時 代 の 労 働 契 約 法 理 論 −下 井 隆 史 先 生 古 希 記 念 −』(信 山社 、2003年)所
収p.19。
(龍法'11)43-3,159(1043)
論
説
個人請負労働者の保護をめ ぐる解釈 ・立法の課題
り、 積 極 的 な 労 働 関係 の存 在 に対 す る判 断 が可 能 とな る 。85年 労 基 研 報 告
で は 、 一 般 的 な判 断 基 準 と し て は、 使 用 従 属 性 と総 合 的判 断 しか 示 され て
き くな る か らで あ る。14)
と く に、2006年ILO
勧 告 は 、 時 間 的 場 所 的 拘 束 に厳 格 に こだ わ らず 、労
い な い 。ILO
勧 告 の よ うな 「推 定 」・「み な し」 につ い て は必 ず し も明 確 で
務 とそ れ の 対 償 とい え る賃 金 の 交 換 を重 視 し、 い わ ゆ る 「経 済 的 従 属 性 」
は な く、 た だ 、 い くつ か の 具 体 的事 例 に つ い て の判 断例 が示 され て い る に
を示 す 指標 に労 働 者 性 判 定 で大 き な比 重 を与 え て い る。 裁 判 例 の なか で 、
過 ぎない。
NHK西
労 働 基 準 法 第9条 の 解 釈 に つ い て 、ILO
勧 告 が 示 す 「指 標 」 や 「推 定 」・
東 京 営 業 セ ン タ ー 事 件 は 、 ① や ③ の段 階 で 会 社 側 の 指 示 や 管 理 が
厳 格 で あ っ て指 揮 命 令 関 係 が あ る と考 え られ る事 案 で あ る が、 東 京 地 裁 判
「み な し」 とい う手 法 を踏 ま え て 積 極 的 に解 釈 論 を発 展 させ る こ とが 必 要
決 は、 「業 務 遂 行 時 問、 場 所 、 方 法 等 業 務 遂 行 の 具 体 的 方 法 はす べ て 受 託
で あ る と考 え る。 以 下 、 そ う した解 釈 の 試 み と して 、 と りあ えず 、 〔1〕指
者 の 自 由裁 量 に委 ね られ て い る上 、 業務 は 自由 で あ る」 と してお り、 指 揮
揮 命 令 の3段 階把 握 と、 〔2〕裁 量 労 働 の新 た な 考 え方 に つ い て論 じて み た
命 令 を主 に② の 業 務 遂 行 の 段 階 で しか捉 え て お らず、 指 揮 命 令 関 係 の 全 体
い
を見 ない もの で あ る。
。
,
〔1〕指 揮 命 令 の3段 階把 握
また 、 前 述 の 横 浜 労 基 署 長(旭 紙 業)事 件 で 、 最 高裁 判 決が 、 「会 社 は 、
使 用 者 の 指 揮 命 令 は、 一 般 的 に、 ① 業 務 内 容 の 指 示(仕
事 ・業 務 の種
運 送 とい う業 務 の 性 質 上 当然 に必 要 と され る運 送物 品 、運 送 先 及 び納 入 時
類 、 業 務 遂 行 方 法 、 労 働 密 度 、 品 質 の指 示 等)、 ② 業 務 遂 行 につ い て の 監
刻 の指 示 を して い た 以 外 に は 、業 務 の 遂行 に 関 し、特 段 の指 揮 監 督 を行 っ
督 ・指 示(作
て い た とは い え ず 、 時 間 的 、 場 所 的 な拘 束 の程 度 も …
業 監視 、 時 間 管 理 、 就 業 場 所 の指 定 、 服 装 の指 示 、 業 務 遂 行
方 法 の 変 更 指 示 等)、 ③ 業 務 完 成 につ い て の 検 査 ・指 示(業
承 認 ・修 正 ・補 正 の 指 示 、 評 価 等)の3つ
緩やかであ」 る
務遂行結 果の
と して 、 傭 車 運 転 手 が 「会 社 の指 揮 監 督 の下 で労 務 を提 供 してい た と評 価
の段 階 を 通 して実 現 す る と考 え
す る に は 足 りな い 」 とす る の は、 ② 業 務 の 遂 行 段 階 に偏 っ た 捉 え方 で あ
られ る 。 工 場 内 の 製 造 過 程 で は、 ① か ら③ の段 階 です べ て使 用 者 が 直 接 な
り、 指揮 命 令 の実 質 を見 誤 る もの で あ る。
関 与 をす るが 、 と くに② 業 務 遂 行 段 階 で の 監督 ・指 示 が 大 きな 比 重 を も っ
〔2〕裁量 労 働 につ い て の 新 た な考 え方
て い る。
また 、 労働 者 性 を 否 定 す る裁 判 例 で は、 労 務 提供 者 が、 時 間的 拘 束 を受
労 働 者 性 が 問題 に な る の は 、(a)使 用 者 に よる時 間 的 拘 束 が 難 しい 裁 量
的業 務 や 、(b)事
け ず 、 時 間管 理 に裁 量 性 が あ る こ とが 強調 さ れ る傾 向が あ る。 これ につ い
業 場 外 の 業 務 で 使 用 者 の 直 接 的作 業 管 理 が 難 しい 場 合
て は 、 この 点 を過 度 に 重 視 す る とい う問題 点 と、 近年 の情 報 技 術 や 産 業 構
等 が 多 い と考 え られ る。 こ う した 場 合 、 指 揮 命 令 に つ い て は、 ② の段 階 だ
造 の 急 激 な 変化 を考 慮 して い な い 問題 点 を指 摘 す る こ とが で きる。 た しか
け で な く、① と③ の段 階 を含 め て 全 体 と して 把 握 す るべ きで あ る。 なぜ な
に 労働 者 が事 業場 外 で作 業 し、 使 用 者 か ら直 接 の監 視 や業 務 指 示 を受 け な
ら、(1)労 働 関係 は継 続 的 関 係 で あ っ て、 ① か ら③ に至 る段 階 が幾 度 とな
い 雇 用 ・就 業 形態 が 増 え て い るが 、 現 実 に は、 事 業 内労 働 者 と大 き く変 わ
く反復 され るか らで あ り、(2)請
らな い 時 間 的管 理 を 受 け て い る現 実 を踏 ま えた 判 断 が 必 要 で あ る。
負 を偽 装 して 出来 高 制 や歩 合 給 な どに よ
る 労 務 指 示 が 行 わ れ る こ とか ら、 ① や③ の段 階 の もつ 意 味 が 実 際 的 に も大
14)脇 田 滋 「
雇 用 就 業 形 態 の 変 化 と指 揮 命 令 権 」 日本 労 働 法 学 会 編 『
講 座21世 紀 の
労 働法
(龍 法'11)43-3,160(1044)
第4巻
労 働 契 約 』(有 斐 閣 、2000年10月)所
収74頁 以 下 。
(龍法'11)43-3,161(1045)
論
説
個人請負労働者の保護をめぐる解釈 ・立法の課題
例 え ば 、 事 業 場 外 労 働 に つ い て の 労 働 基 準 法38条 の2第1項 、 第2項 は
(4)「 労 働 者 =正社 員」 論 か らの脱 皮
「み な し労 働 時 間 制 」 を規 定 し、 労 働 時 間 算 定 が 困難 で あ る場 合 の 算 定 上
労 働 者 性 判 断 に消 極 的 な判 決 に共 通 して み られ るの は 、一 般 の従 業 員 ま
の便 宜手 法 を許 す もの で あ る 。 しか し、 同 規 定 が 導 入 され た 、 事 業 外 労 働
た は 正社 員 との 比 較 を して 、 そ れ との 違 い を理 由 に傭 車 運 転 手 、 委 託 集 金
の 管 理 が 困難 で あ っ た 時代 と は大 き く異 な り、 現 在 で はGPSシ ス テ ム や 携
人 、 手 間 受 け大 工 等 の 「労 働 者 性 」 を否 定 して い る点 で あ る。 そ こで は、
帯 電 話 な どの情 報 端 末 が 当 時 と は比 較 に な らな い ほ ど普 及 し、 労 働 時 間 を
正 社 員 との比 較 か ら労 務 提 供 の違 い等 を 問題 に して、 主 に、 時 間 的 ・場 所
含 め た労 務 管 理 に活 用 さ れ て い る 。厚 生 労働 省 は 、 労働 者 の 自宅 で 行 わ れ
的 拘 束 が な い とい う要 素 や労 働 社 会 保 険 の適 用 が な い こ と を強 調 して 、労
る在 宅 勤 務(テ
レ ワ ー ク)・に つ い て、 ガ イ ドラ イ ン(2004年3月5日
働 者 性 を否 定 す る とい う論 理 が 目立 って い る。16)
第0305003号)を
示 して 、 情 報 通 信 機 器 を活 用 した 在 宅 勤 務 につ い て 、 労
基発
働 基 準 法 第38条 の2の 「み な し労働 時 問制 」 適 用 を容 認 す る こ と に な っ た
(2004年3月5日 付 基 発 第0305001号)。
こ う した 考 え方 に は、 大 き く二 つ の 問 題 点 が あ る。
まず 、 正社 員 が 、 「労 働 基 準 法上 の労 働 者 」 で あ る こ と は確 か で あ るが 、
そ の こ とか ら逆 に 「正 社 員 で な けれ ば 労 働 者 で は ない 」 と言 う こ とは で き
む しろ、 在 宅 勤 務 や事 業 場 外 労働 につ い て も、指 揮 命 令 が 同 時 的 に 可 能
な い 。 日本 的 雇 用 慣 行 で は正 社 員 が 、 時 間 的 ・場 所 的拘 束 を受 け 、 そ の程
とな っ て きた現 在 、 事 業場 内 労 働 の 場合 と大 きな 違 い な く使 用 者 の 指 揮 監
度 も、 きわ め て 強 い 。 い わ ゆ る過 労 死 認 定 基 準 を超 え る 月80時 間 以上 の法
督 下 に置 か れ て い る と言 え る 。 「事 業 場 外 労 働 」 も、 原 則 と して、 既 に 使
定 時 間外 労働 に従 事 す る例 も少 な くな く、 そ の 時 間 的拘 束 の 長 さが極 端 と
用 者 に よる指 揮 監 督 下 に 置 か れ て お り、 広 い 意 味 で 「事 業 場 内 労 働 」 化 し
も言 え る状 況 に あ る。 この よ うな異 常 と も言 え る時 間 的拘 束 を 受 け る正 社
て い る と考 え るべ きで あ り、 そ うで な い こ とが 明確 な 場 合 に の み 例 外 的 に
員 を比 較 の対 象 と して 、 労働 基 準 法 上 の 労働 者 性 を判 断 す る こ とは、 保 護
「み な し労 働 時 間制 」 を導入 で き る と考 える 必 要 が あ る。
を受 け るべ き労 働 者 の範 囲 を余 りに も限 定 す る こ とに帰 結 す る。
ま た、 現 行 法 制 度 で も、 時 間 的 裁 量 が大 きい 者 も労 働 者 と して 扱 う制 度
次 に、ILO勧 告 が 、使 用 者 の責 任 回避 と労 働 者 保 護 を重 視 して い るの と
が 存 在 して い る し、 漸 次、 そ の 範 囲 が 拡大 して い る 。 つ ま り、 労 働 者 性 を
正 反 対 の 判 断 手 法 で あ る。 す な わ ち、 日本 の非 正 規 雇 用 慣 行 が 、 労 働 者 に
前 提 に した、 専 門業 務 、企 画 業 務 を含 め て の 裁 量 労働 で あ る が 、 そ め 範 囲
対 す る使 用 者 責 任 回避 を 目的 に した、 世 界 に類 例 の ない ほ どに差 別 的 な雇
が 広 が っ て い る。 ま た 、 労 働 時 間 規 制 の 適 用 が 除外 され る 「管 理 監 督 者 」
用 慣 行 で あ る と い う点 の 認 識 が 欠 けて い る。 例 え ば、 非 正 規 労 働 者 を企 業
に つ い て も、 時 間規 制 は適 用 除 外 され る が 、他 の 労働 基 準 法 の 規 制 は適 用
内福 利 や社 会 保 険 加 入 の 対象 か ら除 外 す る こ と は、 差 別 的 な非 正 規 労 働慣
さ れ る こ とを前 提 に して、 「労 働 基 準 法 上 の 労 働 者 性 」 は認 め られ て い る。
行 で あ るが 、 逆 に、 そ う した 事 実 を労働 者 性 否 定 の判 断根 拠 に挙 げ る こ と
こ の 点 か ら も、 時 間 的拘 束 や 労 働 者 の 時 間 管 理 の 裁 量 性 を過 度 に重 視 す る
は、 非 正 規 労 働 者 の 差 別 を追 認 す る とい う問 題 が あ る こ と に加 えて 、 労働
べ きで は な い。15)
者 と して の法 的 保 護 か ら も排 除 す る とい う点 で 、 差 別 的 処 遇 を受 け る 非 正
規 労 働 者 を さ ら に不 公 正 な状 況 に 追 い や る もの で あ り、=二重 の 誤 りを含 む
15)芸 能 実演 家 に つ い て 、 広 い 裁 量 性 が あ る こ とを 指摘 し、 この 点 を 強 調 す る もの
と して 浜村 彰 「
芸 能 実 演 家 の 労 働 者 性 」 日本 労 働 研 究雑 誌48巻4号(2006年4月)、
p.60。 前 掲 、 「座 談 会 労 働 者 性 の 再 検 討 一
判 例 の 新 展 開 と立 法 課 題 」 季 刊 労 働 法
(龍法'11)43-3,162(1046)
222号 で の 水 口洋 介 弁 護 士 の発 言 。
16)横 浜 南 労 働 基 準 監 督 署 長(旭 紙 業)事 件 ・最 高 裁 判 決 前 掲 な ど。
(龍法'11)43-3,163(1047)
論
説
個人請負 労働 者の保 護をめ ぐる解釈 ・立法 の課題
論 理 倒 錯 した判 断 で あ る 。
の 労 働 ・就 業 形 態 に 関 す る 調 査 委 員 会 」 の 報 告 書 が 、 ① 自営 業 主 ・家 族
従 業 者 、 ② 契 約 労 働 、③ 家 内 労 働 、 ④ テ レ ワ ー ク、 ⑤NPO・
有償 ボ ラン
テ ィ ア、 ⑥ ワ ー カー ズ ・コ レク テ ィ ブ、 ⑦ シ ルバ ー 人 材 セ ンター 、⑧ ベ ン
Ⅳ 個人請負労働者保護をめ ぐる立法の課題
チ ャ ー企 業 、 ⑨ イ ン ター ンシ ップ を取 り上 げ て 検 討 して い る。 しか し、 こ
の 報 告 書 が 出 され た の は、 派 遣 対 象 業 務 の 原 則 自由 化 の た め に派遣 法 が改
(1)立 法 の 必 要 性
個 人 請 負 形 式 で 働 く労働 者 の 保 護 につ い て は、 こ れ ま で 検 討 して きた よ
うに 、 まず 、 労 働 基 準 法 第9条 、 労働 組 合 法 第3条 等 の労 働 者 の 定 義 を踏 ま
正 さ れ た時 期(1999年)で
あ り、 当時 の 政 策 に は、 使 用 者 の 偽 装 に よる責
任 回避 へ の 規 制 や 労働 者 保 護 とい う視 点 は 欠 落 して い た 。18)
え る と と もに 、 と くに 、ILO雇 用 関係 勧 告 の 趣 旨 に基 づ い て、 偽 装 さ れ た
ILO勧 告 以 後 、 政 府 ・厚 生 労 働 省 は、2009年 、 「個 人 請 負 型 就 業 者 に 関
個 人 請 負 形 式 を許 さ ない とい う視 点 を明 確 に し て法 解 釈 す る こが 必 要 で あ
す る研 究 会 」 を設 置 して 関連 の調 査 ・検 討 を 行 い 、2010年4月 、 同 研 究会
る 。 しか し、 個 人 請 負 形 式 の 利 用 に よ る使 用 者 責 任 の 回 避 は 、様 々 な職 種
は 報 告 書 を発 表 した 。 そ こで は、 個 人 請 負 型 就 業 者 が 近 年 、 増 加 して い る
で 、 ま た 、 次 々 と新 た な様 相 を もつ 、 実 に 多 様 な形 態 で 現 れ続 け て い る。
と し、 「この 中 に は、 実 態 と して雇 用 労働 と変 わ らな い 者 や、 自営 で あ る
と こ ろが く こ れ らに対 して 、 最 近 ま で の 日本 に お け る 労働 行 政 や 労働 裁判
もの の 雇 用 労 働 に近 い 実 態 を有 す る(雇 用 と 自営 の 中 間 と も言 える)働
の 動 向 は 、労 働 者 保 護 と い う点 で は、 きわ め て不 十分 で あ る。 む しろ 、既
方 の 者 が い る」 とす る。 そ して 、 労 働 法 に よ る保 護 を受 け る雇 用 され る労
に指 摘 した とお り、ILO勧 告 の趣 旨 か ら ほ ど遠 く、 使 用 者 責 任 回避 を 法 理
働 者 に比 較 して 、 「個 人 請 負 型 就 業 者 は基 本 的 に は各 種 労 働 法 に よ る保 護
的 に追 認 す る点 で、 後 退 的 、 消 極 的 な傾 向 を示 しつ つ あ る。 こ う した状 況
を 受 け る こ とが で き な い 」 た め 、 そ の実 態 を把 握 して、 「そ れ を踏 ま え た
の な か で 、ILO雇 用 関係 勧 告 を 日本 国 内 で 具 体 化 して 、 通 常 の労 働 者 が法
適 切 な措 置 を講 じる 」 た め に 「今 後 の 政 策 的対 応 の 方 向性 に つ い て 検 討 」
律 に よ っ て 受 け られ る 保 護 を、 個 人 請 負 労 働 者 に も拡 張 適 用 す る と と も
して お り、 注 目さ れ る 。 しか し、 この 報告 書 で も、 依 然 と して 、個 人 請負
に 、 偽 装 形 態 を排 除 して多 様 な使 用 者 責 任 回避 策 を効 果 的 に排 除 す る こ と
を求 め る労 働 者 側 の ニ ー ズ や 意 識 が あ る こ とが 強 調 され て い て 、労 働 行 政
を 目的 と した労 働 者 保 護 立 法 が 必 要 で あ る。
の基 調 は大 き く変 化 して い な い こ とに留 意 しな け れ ば な らな い。
と こ ろ が、 現 状 で は、 個 人 請 負 形 式 で就 労 す る 者 に つ い て 、 法 的 な 明確
な定 義 が な い。 ま た、 正 確 な統 計 上 の数 字 も存 在 して い ない 。 個 人 請負 労
働 者 の範 囲 を可 能 な 限 り広 く捉 え る、 公 式 的 な調 査 が 必 要 で あ る。17)
こ の 点 で は、 労 働 省 職 業 安 定 局(当 時)の
下 に設 け られ た 「雇 用 以 外
き
(2)立 法 の 目的
ま ず 、 個 人 請 負 が 、 本 来 で あ れ ば 労 働 者 と して の 保 護 を受 け られ る の
に 、 そ れ を 回避 し よ う とす る使 用 者 の 責任 回 避 の 脱 法 策 で あ る こ と を認 識
し、 そ れ へ の 効 果 的 な 対 策 が 立 法 の 目的 で あ る こ とを 確 認 す る 必 要 が あ
る。
17)専
門家 は 、既 存 の国 勢 調 査 な ど に基 づ い て100万 人 か ら120万 人 と推 定 して い る。
山田久 「
個 人 業 務 請 負 の 実 態 と将 来 的 可 能 性 一 日米 比 較 の 観 点 か ら 『イ ンデ ィ
ペ ンデ ン ト ・コ ン トラ ク ター 』 を 中心 に」 『日本 労 働 研 究 雑 誌 』566号(2008年)、
p.4以 下 。
(龍法'11)43-3,164(1048)
す な わ ち、 ①1970年 代 後 半 か ら労 働 法 ・社 会 保 障 法 拡 充 に よっ て 、 零 細
事 業 主 を 含 め て使 用 者 の 責 任 ・負 担 が増 大 した が 、 ② ① を 回避 す る た め
18)労 働省職業安定局編 『
雇用 レポー ト2000』(労
務行 政研究所、2000年)247頁以下。
(龍法'11)43-3,165(1049)
論
説
個人請負労働者の保護をめ ぐる解釈 ・立法の課題
に 、外 部 委 託 化 や 業 務 処 理 請 負 が 拡 大 し、1985年 、 労働 者 派 遣 法 が 制 定 さ
れ た が 、個 人 請 負 化 はそ う した使 用 者 責 任 回避 策 一種 とい う社 会 現 実 的 意
味 を有 して い る 。 さ ら に、 ③ 労 働 組 合 が 弱 体 化 し、 使 用 者 責 任 の 追及 が 弱
ま り、④ 労 働 裁 判 や 労働 法 学 にお い て 、 労 働 者 と使 用 者 間 の個 別 合 意 を重
視 して、 現 実 を正 当化 す る 傾 向 が 強 ま っ て い る こ とな どの状 況 を挙 げ る こ
とが で きる。19)
(3)立 法 の内 容
韓 国 の労 働 法研 究 者 で あ るユ ン ・エ リム博 士 は、ILO2006年 勧 告 が条 約
で は な く、勧 告 で は あ るが 、 「加 盟 国 に一 定 の 指 針 を提 供 す る水 準 の規 制
力 程 度 を もつ こ と に に な っ た 」 と指 摘 し、 韓 国 に お け る状 況 に対 応 して
「非正 規 立法 議 論 に与 え る示 唆 点 」 と して 、 次 の5点 を指 摘 して い る 。す な
わ ち、 ① 労 働 関 係 の事 実 に よ る雇 用 関係 の存 在 判 定 、② 偽 装 され た 雇用 形
す で に、 労 働 者 概 念 を め ぐる解 釈 論 の 限界 を 指 摘 し、 労 働 者 類 似 の 者 へ
の 保 護 を立 法 的 に解 決 す る見 解 が現 わ れ て い る 。 しか し、 雇 用 関 係 の 存 在
や 労 働 者性 が 明 確 な労 働 者 の 中 に も、 非 正 規 労 働 者 だ け で な く、 正社 員 で
さ え労 働 基 準 法 な どが 定 め る法 定 最 低 基 準 す ら守 られ て い な い 状 況 が 広
が って い る。 こ う した 日本 の現 状 を踏 ま えて 立 法構 想 を考 え る こ とが 必 要
で あ る。 こ の視 点 が な け れ ば、 本 来 、 労 働 者 と して 保 護 さ れ る べ き者 を、
態 に対 す る規 制 と監 督 、③ 労働 にお け る 基 本 的 権 利 の同 等 保 護 、④ 依存 ・
従 属 の 程 度 に よ る使 用 者 責 任 配 分 ・連 帯 責 任 負 担 、⑤ 結 社 の 自由 と団体 交
渉 権 で あ る 。21)
この 示 唆 点 は 、 韓 国 で の 状 況 を基 に した もの で あ るが 、 日本 の 問 題 を 考
え る上 で もほ ぼ 同 様 に有 効 で あ る と言 え る。 そ こで 、以 下 、 この ユ ン ・エ
リム博 士 の提 起 す る論 点 を参 考 に(④ は、 派遣 ・事 業 内下 請 な ど、 い わ ゆ
労働 基 準 法 以 下 の 水 準 で の劣 悪 労 働 条件 に追 い や り、 固 定化 す る 結 果 に な'
る 「三 面 関 係 」 を前 提 に した 示 唆 点 で あ る の で 、 以 下 の検 討 か ら は除 外 す
りか ね な い。 この 点 は重 要 で あ るの で、 後 で 重 ね て 論 じる こ とに した い。
る 。)、日本 の状 況 に対 応 して課 題 を考 え て み る こ とに した い。
また 、 こ の点 に つ い て は 、 韓 国 で 、 「特 殊 雇 用 」 労 働 者 の規 制 をめ ぐっ て
提 起 さ れ た 政 府 や 保 守 党 派 の 立 法 案 が、 逆 に 、 労 働 者 を抑 圧 す る狙 い を
もっ て い る こ とへ の 鋭 い 批 判 が提 起 さ れ て い る が 、 そ れ に 学 ぶ 必 要 が あ
る。20)
〔1〕事 実 に よる 雇 用 関係 の存 在 判 定
ILO勧 告9項 は 、 「雇 用 関係 に あ る 労 働 者 を保 護 す る た め の 国 内政 策 を 実
施 す る上 で、 当 該 雇用 関 係 の存 在 に つ い て の決 定 は、 当 該 雇 用 関係 が 関係
当事 者 間 で合 意 され た 契 約 そ の他 の 方 法 に よる事 実 に反 した 取 決 め に お い
て どの よ うに特 徴 付 け られ て い る場 合 で あ っ て も、業 務 の 遂 行 及 び 労働 者
の報 酬 に 関す る事 実 に 第 一義 的 に従 うべ きで あ る」 と して い る。
19)韓
国で も、1990年 代 末 か ら非 正規 雇 用 が急 に 増 加 して い くが 、 そ の 一 形 態 と し
て 、 日本 と も き わ め て類 似 した個 人 請負 形 式 の 非 正 規 雇 用 が増 え て きた 。多 くが
以 前 は直 接 正 規 雇 用 の 職種 の 労働 者 で あ っ た が 、 人 件 費 削 減 と雇 用 調 整 策 の 一 環
と して 個 人 請 負 形 式 に転 換 させ られ て い っ た。 これ に対 して、 レ ミ コ ン車 な ど大
型 トラ ック 運 転 手 、 ゴ ル フ場 競 技 補 助 員(キ
ャ デ ィ ー)、 保 険募 集 人 、 学 習 誌 教
師 な どが 、 労 働 組 合 を結 成 し、 自 らの労 働 条 件 確 保 と改 善 の ため に活 発 な活 動 を
開 始 した 。 これ に応 え て、 民 主 労 総 、 民 主 労 働 党 を中 心 に し た法 改 正 案 の試 み が
行われた。
20)オ
ム ・ジ リ ョ ン 「
特 殊雇用労 働者の労働権 保護 方案一
立 法 議 論 を 中心 に 」 前 掲
(注7)p.291以
下。
(龍法'11)43-3,166(1050)
現 行 法 で も、 労 働 基 準 法 第9条 、 労 働 組 合 法 第3条 、労 働 契 約 法 第2条 の
労 働 者 の 定 義 規 定 に は、 事 実優 先 を明 記 した勧 告9項 の 趣 旨が 含 ま れ て お
り、 そ の よ うに解 釈 され る必 要 が あ る。 しか し、 前 記 の よ うに 最 近 の 裁 判
所 が実 態 を重 視 す る とい い な が ら、 労 使 の合 意 や 契約 の形 式 に囚 わ れ る傾
向 に あ る こ とを 考 え る と、立 法 論 的 に は 、 「事 実 に第 二 義 的 に従 うべ きで
あ る(should be guided primarily by thefacts)」 とい う勧 告 の趣 旨 を法 律
21)ユ ン ・エ リム前掲論 文。
(龍法'11)43-3,167(1051)
論
説
個人請負労働者の保護をめぐる解釈 ・立法の課題
の 明 文 で規 定 す る こ とが 必 要 で あ る。 た と え ば、 労 働 基 準 法 第9条 、 労 働
〔2〕偽 装 され た雇 用 形 態 に対 す る規 制 と監 督
組 合 法 第3条 、 労 働 契 約 法 第2条 に、 「労 働 者 か 否 か は 、 業 務 の 遂 行 及 び労
日本 の 場 合 、 こ れ ま で 裁 判 や 労 働 委 員 会 で 争 わ れ た 結 果 、 事 実 上 従 属
働 者 の報 酬 に 関 す る事 実 を優 先 して判 定 しな けれ ば な らず 、 関 係 当事 者 間
労 働 を遂 行 して お り、 「偽 装 さ れ た 個 人 請 負 」 で あ る とい う こ とが 明 らか
で 合 意 され た 契約 そ の他 の 方 法 に よ る事 実 に反 して 労 働 者 で ない とす る約
に な っ て も、 労 働 者 が 、 これ を争 っ て 是 正 さ せ る に は 、 多 くの 時 間 と費
定 は す べ て 無 効 で あ る」 な ど、ILO勧 告9項 の 文 言 に対 応 した 条 文 を 追 加
用 が か か り、 手 続 き も複 雑 で あ り、 個 々 の 労 働 者 に とっ て は きわ め て 困
して規 定 す る必 要 が あ る。
難 で あ る。
さ らに、 個 人請 負 労 働 者 の 労働 者 性 判 定 に つ い て 、従 来 の 労働 基 準 法研
勧 告15項 は、 「権 限 の あ る機 関 は、 雇 用 関係 に関 す る法 令 の尊 重 と実 施
究 会 報 告 の 判 断 基 準 を発 展 させ て、 上 で紹 介 したILO勧 告13項 が 挙 げ る 一
を確 保 す る た め、 例 え ば、 労 働 監 督 機 関 に よ り、 又 は 労働 監 督 機 関 と社 会
定 の 指 標 の一 つ また は二 つ に 該 当 す る場合 に は 、労 働 者 で あ る と推 定 す る
保 障庁 及 び税 務 当局 と の協 力 を 通 じ、 この勧 告 に お い て考 慮 さ れ る様 々 な
こ とを 原 則 と し、 例 外 的 に、 事 業 者 で あ る と積 極 的 に立 証 で きな い 限 り、
側 面 につ い て の措 置 を とるべ きで あ る 」 とす る 。 労働 法 や社 会 保 障 法 上 の
労 働 者 性 を認 定 す る趣 旨 の 立 法 が 必 要 で あ る 。例 え ば 、 い わ ゆ る 業務 上 の
使 用 者 責 任 を 回避 す る 目的 の偽 装 形 態 に対 して は 、 関 連 した規 制 と監 督 機
疾 病 につ い て 、労 働 基 準 法 施 行 規則 別 表 第1の2(第35条
関 の相 互 協 力 が 必 要 だ と して い る の で あ る。
関係)が
、一定の
場 合 に業 務 上 疾 病 で あ る こ と を推 定 す る とい う場 合 を整 理 し、列 挙 して い
こ の よ う に 関連 す る行 政 機 関 が協 力 して、 規 制 と監 督 を行 う と い う ア プ
る。 また 、 職 業 安 定 法 施 行 規 則 第5条 は 、 適 正 な 請 負 の要 件 を四 つ 示 して
ロ ー チ は 現 実 的 で あ り、 非 常 に重 要 な 意 味 を持 っ て い る。 日本 の 現 実 は、
い るが 、 逆 に 、 そ の 四 つ の 要 件 の 一 つ で も欠 け れ ば 「偽 装 請 負 」=労 働 者
労 働 者 が 個 人 請負 と され た 場 合 、 そ れ を争 い、 是 正 を 求 め る ため に は、①
供 給 事 業 と判 定 さ れ る こ と に な る。 労 働者 性 判 定 につ い て も、 こ う した リ
労 働 基 準 法 、 最低 賃 金 法 、 労 災 保 険 法 な ど の適 用 に つ い て は労 働 基 準 監 督
ス トを作 る こ とが 有 効 な方 法 で あ る と考 え られ る。
署 、② 労 働 組 合 法 につ い て は労 働 委 員 会 に分 か れ て担 当機 関 に手 続 き をす
これ に 関 して 、ILOが 行 っ た 各 国 調 査 で は、 一 定 の場 合 、個 人 請 負 形 式
る 必 要 が あ る。 ま た、 ③ 社 会 保 険 各 法 に関 して は、 健 康 保 険 は健康 保 険 組
の 就 労 者 につ い て、 雇 用 関係 の存 在 を 「み な し」 ま た は 「推 定 」 す る法 制
合 か全 国健 康 保 険 協 会 、 厚 生 年 金 保 険 は 日本 年 金 機構 が 窓 口 に な るだ け で
度 を置 い て い る 国が あ る こ とが指 摘 され て い る。 例 え ば、 フ ラ ンス の労 働
な く、 ④ 税 金 につ い て は税 務 署 とい う よ う に① ∼ ④ の担 当 窓 口 が 分 か れ る
法 典 で は 、 商 業 代 理 人 は 、 「他 人 の計 算 で仕 事 をす る」 と きに は 労 働 者 と
が 、 相 互 の 連 絡 ・協 力 が ま っ た くな い。 余 程 の 専 門家 で あ れ ば と もか く、
認 定 され る し、 記 者 、 芸 能 人 、 モ デ ル な ど は、 一 定 の 要 件 を整 え た 場 合 、
一 般 の労 働 者 が 十 分 な知 識 な く、 これ ら多 様 な機 関 を相 手 に争 い 、 手続 を
労 働 契 約 で あ る と推 定 され て い る(フ
進 め る こ とは至 難 で あ る。
ラ ンス 労 働 法 典L761-2,L762-1,L763-
1,L751-1等;)。22)
労 働 法 上 、 使 用 者 責 任 を 回避 して 企 業 の危 険 と費 用 を労働 者 に転 嫁 す る
目的 の 個 人 請 負 形 態 の 活 用 を厳 し く規 制 す る と と もに、 現 実 を 踏 ま え て、
各 行 政 機 関 に よ る監 督 と相 互 の協 力 を前提 に 、 実 質 的 な労働 者 保 護 を 目的
22)島
田 前 掲 論 文 、 ユ ン ・エ リ ム 前 掲 論 文 参 照 。
(龍 法'11)43-3,168(1052)
(龍 法'11)43-3,169(1053)
論
説
個人請負労働者 の保護をめ ぐる解釈 ・立法の課題
とす る法 制 度 的 整 備 が緊 急 の課 題 と な っ て い る 。23)
き く、労 働 者 保 護 に逆 行 す る と考 え られ る。
〔3〕二 分 法 の 徹底
そ の理 由 は、 次 の5つ で あ る。
ILO雇 用 関 係勧 告 は、 労 働 者 と 自営 業 者 の 「二 分 法 」 を維 持 して い る 。
日本 で は、 判例 動 向 を反 映 して 、 学 説 や 政 府 当 局 の 中 に も、 労働 基 準 法
や 労働 組 合 法 が定 め る労 働 者 保 護 の 面 で 労 働 者 よ り劣 る水 準 の保 護 しか 受
① 各 種 の労 働 法 令 違 反 や使 用 者 責 任 の潜 脱 が 蔓 延 してい る 日本 の 雇 用 社
会 の現 実 を考 え る と、 曖 昧 な労 働 者 類 似 概 念 を法 的 に作 り出 す こ と は、 こ
う した現 実 の違 法 状 態 を逆 に追 認 す る こ と にな る。
け られ な い 「中 間 的 カテ ゴ リー 」 を新 た に設 定 しよ う とす る動 向 が現 れ て
②EU諸 国 の 労 働 組 合 が 、 未組 織 労 働 者 、縁 辺 労 働 者 の権 利 保 護 の 活 動
い る。 そ の 特 徴 は 、 ① 多 様 な労 務 提 供 形 態 とい う実 態 の広 が り と、 ② 外
に積 極 的 に取 り組 み 、 「第 三 の 中 間 的 カ テ ゴ リー 」 の 労 働 者 に ま で 労 働 協
国 にお け る 関連 制 度 に注 目 して 日本 へ の 導 入 を主 張 す る点 にあ る。 そ こ で
約 や 労 働 法 上 の 保 護 を拡 大 す る こ とに努 力 して きた の と異 な り、 日本 の 労
は、労 働 者 性 拡 大 に は 限界 が あ る と して 、解 釈 に よ る二 分 論 を批 判 し、 第
働 組 合 は正 社 員 の み の利 益 しか 守 ろ う とせ ず 、 多 様 な 「偽 装 雇 用 」 の 弊
三 の カ テ ゴ リー を立 法 的 に定 め る とい う提 案 で あ っ た 。鋤
害 排 除 を求 め る取 り組 み も少 な く労 働 条 件 を拡 張 適 用 す る慣 行 が 存 在 しな
しか し な が ら、 現 状 の 日本 の 雇 用 社 会 や 労 働 者 の 状 態 を前 提 に した ま
ま、 こ う した 「第 三 の 中 間 的 カ テ ゴ リー」 を認 め る こ とは 、 逆 に弊 害 が 大
23)本 来 、 労 働 法 上 の労 働 者 で あ る者 を個 人 請 負 や 名 目 的 自営 業 形 式 に した と き、
使 用 者 が 回避 で き る 法律 上 の責 任 を 多 岐 に 渡 っ て い る。 主 な も の を列 挙 して み る
と、① 労 働 法 、 社 会 保 険法 、 税 法 そ の他 に よっ て 強 制 さ れ る金 銭 的 負 担(労
災保
険 、 雇 用 保 険 、 健 康 保 険 、 厚 生 年 金 保 険 な どの 保 険 料 。 所 得 税 の 源 泉 徴 収 の 事 務
な ど)。 ② 雇 用 す る労 働 者 の 一 定 率 以 上 に つ い て 身体 障 害 者 お よ び 中 高 年 労 働 者
を雇用 す る 義 務(と
くに、 身 体 障 害 者 雇 用 促 進 法 に よれ ば、 この 義 務 を怠 る使 用
い 。
③ILO2006年 雇 用 関係 勧 告 は 「第 三 の 中 間 的 カ テ ゴ リー 」 論 を排 して 、
労 働 者 の 範 囲 を広 く捉 え る とい う点 で の 明確 な二 分 法 を志 向 して い る。 労
働 者 の 範 囲 を広 く捉 え て、 その 労 働 者 保 護 を拡 張 適 用 す る こ と に重 点 が あ
る と言 え る。
④ 注 意 す る必 要 が あ る の は、 「第 三 の カ テ ゴ リー 」 の 議 論 で は 、 請 負 形
式 の 労働 者 に つ い て 、 結 社 の 自由 や 団 体 交 渉 権 が あ る こ とが 強 調 され て お
者 に 身 体 障 害 者 雇 用 納 付 金 の納 付 を義 務 づ け て い る)。 ③ 労 働 基 準 法 、 最 低 賃 金
法 な どの 労働 者保 護 法 の 定 め る労 働 条 件 の最 低 基 準(賃 金 、 労働 時 間、 休 日、 休
暇 な ど)お よび労 働 憲 章(均 等 待 遇 、 中 間搾 取 の 排 除 な ど)の 遵 守 義 務 ④ 雇 用 に
らず 、不 明確 で あ る 。
⑤ 既 に 、1975年 の 「家 内 労 働 法 」 が 、 「第 三 の カ テ ゴ リー 」 を設 定 した
と もな う母性 保 護 の 実 施 と費 用 負 担 な ど(産 休 ・生 休 ・育 児 時 間 の 保 障 、 休 日労
働 ・時 間外 労 働 ・深夜 業 な どの 制 限 、 育 児 ・介 護 休 業 、 セ クシ ュ ア ル ハ ラス メ ン
が、 労 働 者 保 護 に ほ とん ど効 果 をあ げ る こ と な く、 む しろ 、 家 内 労 働 者 を
ト防止 義 務)。 ⑤ 労 働 者 に対 す る健 康 ・安 全 の 配 慮 義 務 お よび 労 働 災 害 ・職 業 病
余 りに も内容 の 乏 しい 労 働 者 保 護水 準 に固 定 化 させ る だけ で あ っ た。 と く
の場 合 の補 償 責 任 、⑥ 労働 基 準 法 に よ っ て使 用 者 に 義務 づ け られ る 労 働 者 の 雇 用
管 理 上 の責 任(労 働 者 名 簿 、 賃 金 台 帳 そ の 他 の調 整 ・記 入 ・保 存 、 就 業 規 則 の 作
成 と行 政 官 庁 へ の届 出 な ど)。 ⑦ 労 働 者 の 基 本 的 地 位 の 設 定 ・変 更 に 関 す る労 働
法 上 の 諸 原 則 の 遵 守(労 働 条 件 の 明 示 、 解 雇 予 告 、 人 事 権 の適 切 な 行 使 な ど)。
⑧ 雇 用 す る労 働 者 の代 表 者 との 団 交 応 諾 義 務 、 労 働 組 合 の 団結 承 認 義 務 。⑨ 労 働
組 合 と の 間 で締 結 され た 労働 協 約 の 適 用 な ど で あ る 。脇 田 滋 「
西 陣出機労働者 の
労 災 保 険 適 用 資 格 」 労 働 法 律 旬 報1053号(1982年8月)p.20以
下参照。
24)鎌 田 耕 一 編 著 『契約 労働 の研 究』 前 掲 書 、 島 田 陽一 「
雇 用 類 似 の労 務 供 給 契 約
と労 働 法 に関 す る 覚 書 」 前 掲p.27以 下 参 照 。
(龍 法'11)43-3,170(1054)
に 、集 団 的労 使 関 係 を背 景 に実 現 して い た 労 働 基 準 法 上 の 労 働 者 と しての
保 護 が む しろ大 き く後 退 した 、 京都 西 陣 出 機 労働 者 の例 を教 訓 とす るべ き
で あ る。25)
な お、 厚 生 省 は 、 健 康 保 険 につ い て 、 本 来 で あ れ ば、 日雇 形 式 の労 働 者
に 、 日雇 健 康 保 険 の 適 用 を進 め るの で は な く、 国 民 健 康 保 険 法 の 適 用 を進
25)脇 田滋 「西 陣出機 労働者 の労災保 険適用 資格 」前掲 。
(龍 法'11)43-3,171(1055)
論
個 人請負労働者 の保護 をめ ぐる解釈 ・立法の課題
説
め て 、 国 民 健 康 保 険 組 合 の 設 立 を進 め た。 また、 パ ー トタイ ム 労 働 者 に つ
も徹 底 して い るの で 、(b)非
い て は、 法 的 な明 確 な根 拠 な しに、1980年 の 内翰 で 、 通 常 の 労働 者 の 労働
に そ れ を、(c)労
時 間 の4分 の3を 下 回 る場 合 に は、 健 康 保 険 と厚 生 年 金 保 険 の 適 用 を除外 す
る とい うイ メ ー ジが 考 え られ る。 フ ラ ンス 、 イ タ リ ア、 ドイ ツな どの 諸 国
る こ と にす る な ど、 正 社 員=労 働 者 モ デ ル か ら外 れ る非 正 規 雇 用 を法 的 に
の状 況 は、 こ れ に近 い と考 え られ る。'
追 認 ・拡 大 し、 本 来 な ら、 労 働 者 と して保 護 す る べ き者 を、水 準 の 低 い保
正 規 労 働 者 と の格 差 や差 別 が 少 ない が、 さ ら
働 者 類 似 の 者 に まで 、 労働 者 の 労 働 条件 を拡 張適 用 させ
しか し、 こ う した 労働 条 件 の拡 張 適 用 慣 行 が 定 着 しな い ま ま、 む しろ 、
通 常 の 労 働 者 の労 働 条 件 が切 り下 げ られ 、後 退 させ られ て い る 日本 や 韓 国
護 で 「救 済 」 す る手 法 を繰 り返 して き た。26)
「中 間 的 カ テ ゴ リー 」 を 認 め て
を は じめ、 労 働 法 後 進 国 と言 え る国 で は、 第3の 「中 間 的 カ テ ゴ リー 」 の
い るが 、 そ こで は、 産 業 別 労 働 協 約 とそ の 拡 張 適 用 慣 行 の 定 着 に よ って 通
導 入 に つ い て は慎 重 に考 え るべ きで あ る。 日本 や韓 国 の場 合 、 と くに、 前
常 の労 働 者 に対 す る労 働 条 件 保 障 が 徹 底 して い る。 そ う した 労 働 条 件 を、
述 の よ う に 日本 の 裁 判 例 の傾 向 は、 労 働 者 性 につ い て、 きわ め て厳 し く限
個 人 請 負 形 式 な ど、 労 働 者 性 が不 明確 な 就 労 者 に も拡 張 適 用 す る とい う趣
定 す る 傾 向 が あ る。 他 方 で は、 労 働 者 性 が 明 確 な労 働 者 で あ っ て も、 雇 用
旨で 「中 間 的 カ テ ゴ リー」 の就 労 者 とい う概 念 を想 定 す る こ と に積 極 的 な
社 会 の現 実 で は 、 労 働 基 準 法 な ど法 律 に よ る最 低 労 働 基 準 さ え守 られ な い
意 味 が あ る と言 え る。 図(ア)「
労 働 者 」 範 囲拡 張 ・使 用 者 責 任 拡 大 型 イ
現 実 が あ る 。 また 、 正 規 労 働 者 と非 正 規 労 働 者 の格 差 も大 きい。 そ う した
メ ー ジ の よ うに 、(a)正 規 労 働 者 の 範 囲 が 広 く、 同一 労 働 同一 賃 金 の慣 行
中 で 、本 来 な ら労 働 者 と して雇 用 関係 が 判 定 さ れ るべ き者 が 、 偽 装 され た
EU諸 国 で は、 「準 労 働 者 」 な どの 第3の
個 人請 負 業 者 と され て お り、 最 低 労 働 基 準 を よ り切 り下 げ る動 向 にあ る こ
(ア)「 労 働 者 」 範 囲 拡 張 ・使 用 者 責 任 拡 大型 イ メ ー ジ
とを直 視 す る 必 要 が あ る。 つ ま り、 日本 や 韓 国 の状 況 は、 図(イ)労
働者
範 囲縮 小 ・使 用 者 責任 回 避 型 の イ メ ー ジ に近 い と考 え られ る。
(b)非 正 規 労 働 者 な ど
= 「労 働 者 性 」 認 定
(イ)「 労働 者 」 範 囲 縮小 ・使 用 者 責任 回 避 型 イメ ー ジ
(b)非 正 規 労 働 者 な ど
=「労 働 者 性 」 認定
(a)正 規 労 働 者 な ど)(c)(d)
=「 労 働 者 性 」 明 確
「
労働者性」不明確
拡大
(a)正規労働者など
=「労働者性」
明確
(c)労 働 者 類 似 の 者
=「 労 働 者 性 」 不 認 定
(d)自 営 業 者
=「 労 働 者 性 」 不 認定
26)竹 中 康 之 「
社 会 保 険 にお け る被 用 者 概 念 一健 康 保 険法 お よび厚 生 年 金 保 険法 を 中
心 に 」 修 道 法 学19巻2号(1997年3月)p.433以
下 、 阿 部 和 光 「パ ー ト労 働 者 へ の
厚 生 年 金 保 険 の適 用 拡 大 」 季 刊 労働 法218号(2007年6月)、p.128以
(龍法'11)43-3,172(1056)
縮小
(c)労 働 者 類 似 の 者
=「 労 働 者 性 」 不 認 定
(d)自 営 業 者
=「 労 働 者 性」 不 認 定
下、等参照。
(龍 法'11)43-3,173(1057)
論
説
個人請負労働者 の保護をめ ぐる解釈 ・立法の課題
ILOは 、 世 界 に は、 労 働 基 準 法 な どが 定 め る最 低 基 準 す ら守 られ て い な
い 国 が 少 な くな い と い う認 識 に基 づ い て 、 「三 分 法 」 は 適切 で は な く、 ま
うに す る措 置 が 必 要 だ とい う こ とが提 起 され て い る。28)
ILOは 、 家 内 労 働 者 につ い て、 「在 宅 形 態 の 労 働 に 関 す る条 約 」(第177
ず 、 労 働 者 の 範 囲 を広 く設 定 す る こ と を重 視 して 、 「二 分 法 」 を採 用 した
号)第4条1項
と考 え られ る。 日本 は、 経 済 的 にはOECDに
所 属 す る先 進 国 とさ れ て い る
特 殊 な性 質 及 び 、 適 当 な 場合 に は、 企 業 で 行 わ れ る 同一 又 は類似 の種 類 の
が、 労 働 法 的 に はILOの 条 約 の 批 准 も少 な く、 長 時 間 労 働 と非 正 規 雇 用 の
労 働 につ い て適 用 され る 条件 を考 慮 し、 在 宅形 態 の労 働 者 と他 の賃 金 労働
拡 大 とい う点 で韓 国 の 状 況 と共 通 して い る 。 しか し、 日本 の場 合 は 、 韓 国
者 と の 間の 待 遇 の均 等 を で きる 限 り促 進 す る 」 とす る。 同条2項 で は 、 「
待
よ りも労 働 組 合 の ス トラ イ キ に よ る抵 抗 も少 な く、 「労働 法 後 進 国 」 とい
遇 の均 等 は 、 特 に、 次 の 事 項 に 関 して 促 進 す る」 と して、 「(a)在 宅 形 態
う状 況 が よ り強 い 。 こ う した 中 で 、 まっ た く状 況 が 異 な る フ ラ ンス 、 イ タ
の 労 働 者 が 自 ら選 択 す る 団体 を設 立 し又 は こ れ に加 入 し及 び 当該 団 体 の 活
リア 、 ドイ ツ の よ う な 「中 間的 な カ テ ゴ リー 」 を導 入 す る こ とは 、 む しろ
動 に参加 す る権 利 、(b)雇
弊 害 が木 きい 。 まず は、(イ)の
上 の安 全 及 び健 康 の 分 野 にお け る 保 護 、(d)報
イ メ ー ジ を払拭 し、(ア)の
状 況 に近 づ く
こ とが 当 面 の 課 題 で あ る。
な お 、,2006年 のILO勧 告 以 前 に は 目立 っ て い た、 労 働 者 と 自営 業 者 の 間
で 「在 宅 形 態 の 労働 に 関 す る国 の 政 策 は 、在 宅 形 態 の 労 働 の
用 及 び職 業 に お け る 差 別 か らの保 護 、(c)職 業
障 に よ る保 護 、(f)訓 練 を 受 け る機 会 、(g)雇
め の 最 低 年 齢 、(h)母
酬 、(e)法
令上 の社会保
用 又 は労 働 が認 め られ る た
性 保 護 」 な ど の 基 本 的 な労 働 条件 につ い て 均 等 待
の 「中 間 的 カ テ ゴ リ ー」を 支 持 す る議 論 が 、同勧 告 の 後 、最 近 に な っ て 、か
遇 を定 め る こ と を求 め てい る。 実 際 に多 くの 国 で、 雇 用 関係 の存 在 に拘 わ
な り トー ン を落 と して い る が 、 それ は、 勧 告 の 内容 を踏 まえ る と き、 こ う
らず、 一定 の要 件 を満 た した場 合 に は 、 上 記 の 主 要 な三 つ の基 本 的 な権 利
した 保 護水 準 を下 げ る 「中 間 カ テ ゴ リー 」導 入 に は大 きな問 題 点 が あ る こ と
以 外 に、 母 性 保 護 、 労働 安全 、社 会 保 障 な どの 権 利 を拡 張 適用 す る た め の
を、 そ の 論 者 た ち が 意 識せ ざる を得 な くな っ た か らで あ る と思 われ る。27)
産 業 別 労 働 協 約 や 、特 別 立 法措 置 が導 入 され て い る。 例 え ば 、 イ タ リア で
〔4〕基 本 的 権 利 ・労 働 条件 の均 等 保 護
は、 家 内労 働 法 で 、 家 内労 働 者 に対 して 同 等 な保 護 を定 め て い る(1973年
さ らに重 要 な こ と は、 労 働 にお け る基 本 的 な権 利 につ い て は、 労 働 者 性
12月18日 法877号)。29)
が 明 確 で ない 個 人 請 負 形 式 の 労働 者 に つ い て も、 一 般 の 労 働 者 と差 別 な く
なお 、 ドイ ツで は、 経 済 的 に従 属 して勤 労 者 と同 じ よ うに社 会 的 保 護 必
同等 以上 に保 護 さ れ な けれ ば な らな い とい う点 で あ る。ILOの 議 論 の 過 程
要 性 が あ る者 と して一 定 の要 件 を整 え た場 合 、 団 体協 約 法 を適 用 して い る
で は 、① 団 結 権 と団 体 交 渉 権 、② 雇 用 お よび 職 業 上 差 別 を受 け な い 権 利 、
(ド イ ツ労 働 協 約 法 第12a条)。 フ ラ ンス で は 、 家 内労 働 者 と支店 支 配 人 な
③ 最 低 賃 金 な どの 基 本 的 な権 利 や 労 働 条 件 に お い て は、 請 負 形 式 の労 働 者
ど につ い て 、 商 品 提 供 者 に排 他 的 に依 存 しつ つ 、所 定 の価 格 で販 売 す る こ
も、雇 用 関係 が 確 認 さ れ て い る一 般 の労 働 者 と同 一 の保 護 を受 け られ る よ
と を負 担 させ られ て い る場 合 、 労 働 法 が 拡 張 適 用 さ れ る。30)
28)ユ
27)「 新 しい カ テ ゴ リー 」 を め ぐる最 近 の 議 論 につ い て は 、前 掲 「
座 談 会 労働 者 性
の再検討一
判 例 の 新 展 開 と立 法 課 題 」 季 刊 労 働 法222号 で の 鎌 田 、 島 田 両 教 授 は、
「新 しい カ テ ゴ リ ー」 に つ い て 、 以 前 よ り慎 重 な 見 解 を示 して い る 。(p.41以 下 参
照)。
(龍法'11)43-3,174(1058)
ン ・エ リム 前 掲 論 文 。
29)柴 山恵 美 子[訳]「
新 家 内労 働 保 護 法(家 内 労 働 保 護 に関 す る新 しい規 定 一 イ タ
リア 三 大 労組 の パ ン フ レ ッ トか ら)」 総 評 調 査 月 報10巻4号(1976年4月)p.2以
下。
30)島 田 陽 一 「雇 用 類 似 の労 務 供 給 契 約 と労 働 法 に 関 す る覚 書」 前 掲p.36以 下。 ユ
ン ・エ リム前 掲 論 文 。
(龍法'11)43-3,175(1059)
論
個人請負 労働者の保 護をめ ぐる解釈 ・立法の課題
説
whatsoeverで あ るか ら、 本 来 は、 「い か な る 区 別 もな しに 」 と訳 す る こ と
〔5〕結 社 の 自 由 と 団 体 交 渉 権
最 初 に あ げ た 、 最 近 の 東 京 地 裁 、 東 京 高裁 の 三 つ の 判 例 は、 結 社 の 自由
と 団 体 権 保 障 を 定 め るILO87号
条 約 や98号 条 約(日
本 政 府 も批 准)の
趣 旨
が 可 能 で あ り、 そ こで は、 雇 用 関係 の存 在 の有 無 を基 準 に して 、結 社 の 自
由 が 保 障 され る者 の 範 囲 を狭 く限定 して は な らな い と解 され る 。 さ らに 、
を ま っ た く理 解 せ ず 、 個 人 請 負 形 式 の 労 働 者 の 団 体 交 渉 権 を 否 定 す る 判 断
同 時 期 に採 択 され た 、 「団 結 権 及 び 団体 交 渉 権 に つ い て の 原 則 の 適 用 に 関
を 示 し て い る 。 し か し、 個 人 請 負 形 式 な ど 雇 用 関 係 の 存 在 が 問 題 に な っ て
す る条 約 」(第98号)は
い る 場 合 で あ っ て も、 労 働 を 提 供 す る 者 に と っ て は 、 結 社 の 自 由 と 団 体 交
団体 交 渉権(Right
渉 権 は 、 そ れ 自体 が 基 本 的 権 利 で あ り、 労 働 条 件 を 向 上 さ せ る た め の 手 段
、使 用 者 お よび使 用 者 団 体 との 対 抗 関 係 の 中 で の
to Organise and Collective Bargaining)の
保 障 を求 め て
い る か ら、個 人 請負 形 式 の 労 働 者 につ い て も、 同様 な 団体 交 渉権 が保 障 さ
れ る必 要 が あ る と考 え られ る。32)
と して 、 実 質 的 に保 障 さ れ な け れ ば な らない 。
再確 認 す る 必 要 が あ るの は、 こ の結 社 の 自由 と団体 交 渉 権 を保 障 す る こ
と が 、ILOが
求 め る 基 本 的 な原 理 に よ っ て、 雇 用 関 係 の 存 在 が 判 定 さ れ る
労 働 者 に 限 らず 、 そ の 存 在 に つ い て 不 明 確 な場 合 で あ っ て も、 同 様 に 保 障
※本 稿 は、 「科 学 研 究 費 補 助 金(基 盤 研 究(A))労
働 法 の結 成 原 理 に 関す る研 究 」(20243006)の
働 市 場 、 法 政 策 及 び労
成 果 の一 つ で あ る。
さ れ る必 要 が あ る と い う こ とで あ る。 す な わ ち、 個 人 請 負 形 式 で あ っ て
も、労 働 者 が 自身 が 選 択 した 組 織 に参 加 して、 集 団 的 に 活 動 で き る権 利 は
最 も基 本 的 な もの で あ っ て、 こ れ に 対 す る あ らゆ る 制 度 的 障 害 は撤 廃 さ れ
な け れ ば な らず 、 ま た 、 労 働 力 利 用 者 か ら の 妨 害 は 規 制 さ れ な け れ ば な け
れ ば な ら な い 。31)
ILO「
結 社 の 自 由 に 関 す る 条 約 」(第87号)は
、 ご く限 られ た 軍 隊 や 警
察 に所 属 す る 者 に つ い て の 例 外 を除 い て、 す べ て の労 働 者 が 自 ら選 択 し た
団 体 を 組 織 し 、 加 入 で き る 権 利 を 保 障 し て い る 。 つ ま り、 第2条 で は 、 「労
働 者 及 び 使 用 者 は 、 事 前 の 許 可 を 受 け る こ と な し に 、 自 ら選 択 す る 団 体 を
設 立 し、 及 び そ の 団体 の規 約 に従 う こ との み を 条 件 と して これ に 加 入 す
る 権 利 を い か な る 差 別 も な し に 有 す る(Workers distinction whatsoeveer,
shall have
and employers,without
the right to establish and,subject
only to
32)な
お、 韓 国 で は労 使 政 委 員 会 で 、 「特 殊 雇 用 労 働 者 」(個 人 請 負 形 式 の 労 働 者)
に 対 して 団 結 権 を保 障す る こ とが 検 討 され たが 、 そ こで は 、 団 体 設 立 や 交 渉 権 だ
け を認 め て 、ス トラ イ キ権 を認 め な い とい う議 論 が さ れ て い た。 これ に 対 して は 、
「結 社 の 自由 」 に は、 ス トラ イ キ権 が含 ま れ る とい うI
LOの立 場 を踏 まえ た 批 判 が
提 起 され て い る。 ユ ン ・エ リム 「ILOの`雇 用 関係'論 議 が 韓 国の 非 正 規 職 立 法 論
議 に 与 え る示 唆 点 」 前 掲 、 労 働 組 合 法 上 労 働 者 に つ い て、 労 働 基 準 法上 の 労 働 者
the rules of the organisation
choosing
without
previous
concerned,to
authorisation.)」
join organisations
of their own
と し て お り、 政 府 の 訳 文 で は
と同 様 に考 え て、 使 用 従 属 性 な ど に基 づ い た 限 定 的 な解 釈 を的 確 に批判 す る もの
と して は、 古 川 景一 「
労 働 組 合 法 上 の労 働 者
価 」 季 刊 労 働 法224号(2009年
春)p.165以
最 高 裁 判 例 法 理 と我 妻 理 論 の 再 評
下 、 西 谷 敏 「労 組 法 上 の 「労 働 者 」 の
「い か な る 差 別 も な し に 」 と さ れ て い る が 、 英 文 で は 、withoutdistinc廿on
判 断 基 準 一ビ ク ター サ ー ビス エ ン ジ ニ ア リ ン グ 事 件 に 関 す る東 京 高 裁 あ て 意 見 書
31)ユ
(2009年12月)」 労 働 法 律 旬 報1734号(2010年12月)p.29以
ン ・エ リ ム 前掲 論 文 。
(龍 法'11)43-3,176(1060)
下参照。
(龍 法'11)43-3,177(1061)
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