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Part1 2011年国連世界投資報告書:非出資型国際生産と開発

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Part1 2011年国連世界投資報告書:非出資型国際生産と開発
Part 1
2011年国連世界投資報告書:
非出資型国際生産と開発
国連貿易開発会議(UNCTAD)
投資傾向・問題部 部長
藤田 正孝
自国企業のグローバリゼーションの深化や、外国
企業の競争力を自国に取り入れたいと考える場合、
生産と、開発との関係について取り上げた。
金融危機以後、2008年、2009年と世界の海外直接
政府は、もはや貿易・投資政策を考えるだけでは十
投資は続けて減少し、2010年にはわずかながら増加
分ではなく、それを超えた政策が求められるように
に転じた。こうした弱含みの動きにはいまだに危機
なってきた。なぜなら、多国籍企業は海外市場への
の影響がうかがえるが、このような状況下にあって
財・サービス提供に際し、貿易と投資の2つのモー
も、非出資型の国際生産は増加傾向にあり、海外直
ドにとどまらず、ライセンス生産も含めたあらゆる
接投資の減少を補完している。本稿では、2010∼11
他の取引・生産モードを考慮に入れたうえで、自社
年の世界の海外直接投資動向と、この非出資型国際
の競争力と相手国の比較優位をもとに、生産・販売
生産の2点に焦点を当てたい。
の最適化戦略を構築するようになってきたからで
ある。
2010∼11年の投資動向
企業が自国からの貿易ではなく国際生産を選択す
る場合、通常は海外直接投資(FDI)を行って海外
2010年の対内直接投資世界総額は、前年比5%増
子会社を設立したり、相手国企業を買収したりして、
の1兆2400億ドルに達した。しかし、すでに経済危
財・サービスを提供する。当然その際、企業は出資
機以前の水準にまで回復した工業生産や貿易額と異
をすることでそうした会社の支配権を得て、生産活
なり、2010年の海外直接投資総額は、経済危機以前
動に従事する。こうした形態は従来、典型的な国際
の平均を15%、2007年の過去最高額を37%、それぞ
生産の形態であったといえよう。しかし、現在、必
れ下回る数値となった(図表1参照)
。
ずしもこのような出資型の投資を伴わずに、相手方
2011年下半期、先進国を中心に経済の不透明化が
企業の支配権を取得するケースが可能となっている。
進み伸びも鈍化してはいるが、今のところ報告書発
これは最近増えつつある「非出資型国際生産(Non-
行時点の予測に変更はない。2011年の海外直接投資
Equity Modes of International Production)
」と
額は、全体的には回復基調を維持しつつ、総額1兆
呼ばれる形態の国際生産で、2011年版の『世界投資
4000億ドルから1兆6000億ドルの幅で、経済危機以
報告書(WIR)
』は、この非出資型(NEM)の国際
前の水準を回復すると予測している。また、その後
2012.1
27
の海外直接投資総額は、2012年に1兆7000億ドル、
らに、投資先となり得る国々では、業界再編、緊縮
2013年に1兆9000億ドルに到達すると見込んでいる
財政措置の一環としての民営化、政府の民間企業支
(図表2参照)
。こうした予測の根拠としてあげられ
援措置の終了、新興国市場の成長などが、新たな投
るのは、5兆ドル以上といわれる過去に例をみない
資機会を創出するであろう。しかし、世界的な経済
規模の企業内部資金(現金や当座預金)
、低い資金調
危機に付随する経済環境の悪化や不確実性の高まり、
達コスト、株価の上昇などで、こうした要素で多国
先行き不透明な国際協調体制、政府債務危機の拡大、
籍企業の海外進出がいっそう促されるであろう。さ
先進国での財政不均衡、新興国での経済過熱などの
図表1 対内直接投資世界総額2005∼07年平均、
および07∼10年
図表2 世界の対内直接投資総額(2002∼10年実績と
11∼13年予測)
(十億ドル)
2,500
(十億ドル)
2,500
1,971
2,000
1,500
ベースライン
2,000
1,744
∼15% ∼37%
1,472
1,185
1,244
1,000
1,500
悲観的シナリオ
1,000
500
500
0
2005∼07年
平均
2007
2008
2009
2010(年)
2002 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
(年)
出所:UNCTAD『2011年世界投資報告書』
出所:UNCTAD 『2011年世界投資報告書』
図表3 地域別海外直接投資フロー額(2008∼ 10年)
地 域
世 界
先進国
途上国
アフリカ
ラ米・カリブ諸島
西アジア
南・東・東南アジア
南東欧・CIS
構造的に脆弱な小規模経済国注
後発開発途上国(LDC)
内陸開発途上国(LLDC)
小島しょ開発途上国(SIDS)
(参考:世界の FDIフローに占める各地域の割合)
先進国
途上国
アフリカ
ラ米・カリブ諸島
西アジア
南・東・東南アジア
南東欧・CIS
構造的に脆弱な小規模経済国注
LDC
LLDC
SIDS
注:重複は除外してカウント 。
出所:UNCTAD『2011年世界投資報告書』
28
2012.1
(単位:十億ドル、%)
対内直接投資
2008
2009
2010
対外直接投資
2008
2009
2010
1,744 1,180 1,249 1,910 1,170 1,316
965
600
589 1,540
858
923
653
506
589
310
264
332
73
60
55
10
6
7
204
139
176
82
47
84
92
67
59
40
18
12
282
238
299
178
193
230
125
74
71
60
49
61
65.3
55.0
50.9
5.7
4.2
10.2
32.3
26.6
26.0
3.1
0.5
1.8
29.3
28.2
25.5
1.8
3.9
8.4
7.7
4.6
4.4
0.9
0.2
0.3
55.4
37.5
4.2
11.7
5.3
16.2
7.2
3.7
1.9
1.7
0.4
50.8
42.9
5.1
11.8
5.6
20.2
6.3
4.7
2.3
2.4
0.4
47.1
47.2
4.4
14.1
4.7
23.9
5.7
4.1
2.1
2.0
0.4
80.6
16.2
0.5
4.3
2.1
9.3
3.2
0.3
0.2
0.1
0.0
73.3
22.5
0.5
4.0
1.6
16.5
4.2
0.4
0.0
0.3
0.0
70.1
25.3
0.5
6.4
0.9
17.5
4.6
0.8
0.1
0.6
0.0
【特集】世界と日本の海外直接投資動向
リスク要因が、今後も海外直接投資の回復を妨げる
しかしながら、途上国の中でも躍進する国々の一
可能性は残っている。
方で、世界で最も貧しいとされる国々への直接投資
海外直接投資の主要国として、新興国の台頭がま
は、引き続き減少している。アフリカ、そして後発
すます鮮明となっている(図表3、4参照)
。途上国
開発途上国(LDC)
、内陸開発途上国(LLDC)
、小
および移行国への直接投資額は、世界総額の半分を
島しょ開発途上国(SIDS)と称される国々への2010
超えた。生産拠点として、そして近年は消費市場と
年の直接投資額は減少した。こうした最貧国では資
して、途上国・移行国の存在感が増すに伴い、効率
本形成の大部分を海外直接投資に頼る国も多く、大
性確保型と市場確保型の双方の直接投資が増えつつ
きな懸念材料となっている。
ある。2010年の投資対象国上位20カ国のうち、半数
が途上国もしくは移行国であった。これらの国々か
産業別にみると、サービス部門での2010年の直接
らの直接投資も著しく増加し、2010年には前年比で
投資額は、前年に引き続き減少した。業種によって
21%増となった。これらの国はまた、世界の直接投
程度の差はあるものの、主なサービス産業すべて
資総額の29%の投資源でもあった。さらに、世界最
(業務サービス、金融、公益事業、運輸、情報産業)
大の投資国20カ国のうち、6カ国が途上国・移行国
で、直接投資額は減少した。金融機関が今回の危機
であった。
で最も影響を受けたこともあって、最も顕著に直接
図表4 世界の直接投資額(上位20カ国・地域、2009年と2010年)注
(1)対内直接投資
(単位:十億ドル) (2)対外直接投資
228
米 国(1)
153
106
ドイツ(3)
95
米 国(1)
中 国(2)
香港(中国)
(4)
69
52
ベルギー(17)
ブラジル(15)
26
38
英 国(3)
スイス(10)
46
日 本(4)
71
41
36
39
ロシア(7)
シンガポール(22)
中 国(6)
46
15
フランス(10)
オーストラリア(16)
サウジアラビア(11)
26
26
25
アイルランド(14)
インド(8)
スペイン(30)
23
21
20
カナダ(18)
ルクセンブルク(12)
メキシコ(21)
チ リ(26)
インドネシア(43)
5
0
ベルギー(156)
スペイン(23)
イタリア(16)
シンガポール(18)
韓 国(19)
30
19
15
15
13
13
20
2010年
2009年
ルクセンブルク(17)
アイルランド(13)
インド(21)
40
60
80
100
120
140
0
56
38
22
32
27
30
26
26
スウェーデン(14)
36
64
68
57
58
75
オランダ(12)
オーストラリア(20)
103
52
44
39
42
カナダ(9)
25
9
33
ロシア(8)
34
34
32
26
28
32
105
76
香港(中国)
(5)
48
ドイツ(6)
78
84
フランス(2)
62
24
(単位:十億ドル)
329
283
16
22
10
21
21
20
18
19
17
18
19
18
27
15
16
20
40
2010年
2009年
60
80
100 120 140 160 180 200
注 1:2010 年の直接投資額による順位。
注 2:国名の後の数字は2009年の順位。
出所:UNCTAD『2011年世界投資報告書』
2012.1
29
投資の減少をみたのは金融業であった。一方で、製
うな数字からは、多国籍企業がどこに投資をするかに
造業が直接投資に占める割合は増加し、新規投資お
よって、世界中に生み出される付加価値と輸出の金額
よび買収・合併案件の半分を占めた。製造業を業種
や流れが大きく変わることが示唆されている。
別にみると、金属、電子機器など景気の変動により
世界最大の多国籍企業(金融・保険業を除く)上
影響を受けやすい産業で、直接投資は減少した。製
位100社のうち、19社は国有企業である。今日、世界
薬などを含む化学産業の直接投資は堅調であり、食
には650社以上の国有多国籍企業があり注、推定で
品・飲料・タバコ、繊維・服飾、自動車等の業種で
8500社の海外子会社を世界に展開している。これは、
の直接投資は、2010年に回復基調に転じた。経済危
数としては多国籍企業すべての1%にも満たない少
機の影響が比較的軽微だった鉱業への直接投資は、
数であるが、2010年の世界の直接投資総額の約11%
原料・エネルギー資源の需要増にもかかわらず減少
に当たる1460億ドルの海外直接投資を行っている。
した。
先進国にも多数の国有多国籍企業が存在するが、世
界総数の過半数(56%)は、途上国・移行国の国有
多国籍企業が世界経済に占める比重をみてみると
企業である。国有多国籍企業は、第1次産業に集中
(図表5参照)
、多国籍企業の海外子会社による2010
していると思われがちだが(実際には8.6%)
、その業
年の売上げおよび付加価値は、それぞれ33兆ドルと
種は多岐にわたり、特にサービス部門に多くみられ
7兆ドルに達している。これら海外子会社による輸
る傾向がある。
出は6兆ドル超と世界の輸出総額の3分の1を占め、
本社を含めると多国籍企業が全世界の輸出総額に占
める割合は3分の2となる。また世界の多国籍企業は
本社・海外子会社を含め、世界総生産の4分の1に当
注:この数字はある程度の投資を行っている企業数であり、投資規模の小
さい企業は統計から漏れている。日本からは、国有多国籍企業として
以下の4社が含まれている。国際石油開発帝石(INPEX)
、石油資源
開発、日本たばこ産業(JT)
、日本電信電話(NTT)
。米国では当時
国有化されていたGMやAIGが含まれる。
たる16兆ドルの付加価値を生み出している。このよ
図表5 国際生産と海外直接投資の主な指標(1990 ∼2010 年)
名目値
(十億ドル)
項 目
年成長率、利益率変化
(%)
1990
2005∼07
平均
2008
2009
2010
1991∼
1995
1996∼
2000
2001∼
2005
2008
2009
2010
対内直接投資額
対外直接投資額
対内直接投資残高
対外直接投資残高
対内直接投資所得
対内FDIの利益率
対外直接投資所得
対外FDIの利益率
クロスボーダー M&A
海外子会社売上高
海外子会社付加価値額
海外子会社総資産
海外子会社輸出額
海外子会社雇用(単位:千人)
207
241
2,081
2,094
75
6.6
122
7.3
99
5,105
1,019
4,602
1,498
21,470
1,472
1,487
14,407
15,705
990
5.9
1,083
6.2
703
21,293
3,570
43,324
5,003
55,001
1,744
1,911
15,295
15,988
1,066
7.3
1,113
7.0
707
33,300
6,216
64,423
6,599
64,484
1,185
1,171
17,950
19,197
945
7.0
1,037
6.9
250
30,213
6,129
53,601
5,262
66,688
1,244
1,323
19,141
20,408
1,137
7.3
1,251
7.2
339
32,960
6,636
56,998
6,239
68,218
22.5
16.9
9.4
11.9
35.1
-0.5
19.9
-0.4
49.1
8.2
3.6
13.1
8.6
2.9
40.1
36.3
18.8
18.3
13.1
0.0
10.1
0.0
64.0
7.1
7.9
19.6
3.6
11.8
5.3
9.1
13.4
14.7
32.0
0.1
31.3
0.0
0.6
14.9
10.9
15.5
14.7
4.1
-11.5
-12.2
-14.3
-16.2
-11.4
0.2
-12.8
-0.4
-30.9
29.4
52.9
23.3
14.7
7.2
-32.1
-38.7
17.4
20.1
-11.3
-0.3
-6.8
-0.2
-64.7
-9.3
-1.4
-16.8
-20.3
3.4
4.9
13.1
6.6
6.3
20.3
0.3
20.6
0.3
35.7
9.1
8.3
6.3
18.6
2.3
GDP
総固定資本形成
特許権使用料・ライセンス料受取
財・非要素サービス輸出
22,206
5,109
29
4,382
50,338
11,208
155
15,008
61,147
13,999
191
19,794
57,920
12,735
187
15,783
62,909
13,940
191
18,713
6.0
5.1
14.6
8.1
1.4
1.3
10.0
3.7
9.9
10.7
13.6
14.7
21.5
10.7
8.3
31.9
-5.3
-9.0
-1.9
-20.3
8.6
9.5
1.7
18.6
出所:UNCTAD『2011年世界投資報告書』
30
2012.1
【特集】世界と日本の海外直接投資動向
途上国では2003年から2010年にかけて、平均で対
外直接投資額の32%が、国有多国籍企業による投資
であった。途上国の国有多国籍企業によるメガ投資
案件の数からも、これら企業群の影響力がうかがえ
よう。過去5年間、世界で100億ドルを超える投資案
件は6件あったが、そのうち4件(買収・合併1件、
新規投資3件)が、途上国の国有多国籍企業による
ものであった。国有多国籍企業による海外直接投資
累積残高の公式な統計はないが、これら企業群の累
積残高に占める割合は6%を下らないと推定されて
いる。
国有企業による海外直接投資が拡大した結果、ホ
図表6 海外直接投資に影響を与える国内政策の変更
(2000∼ 10年)
(%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
2000 01
02
03
04
05
自由化・促進
06
07
08
09
10(年)
規制・制限
出所:UNCTAD『2011年世界投資報告書』
スト国側でもさまざまな懸念が提起されるようにな
ってきた。当該企業が他国政府に所有されているこ
とからくる国家安全保障の懸念、統治や透明性に関
らない。国際投資協定の枠組みがどうあるべきか、今
する問題、当該企業が外国政府から低利資金や各種
後いっそう議論の深化が求められている。
援助を得て活動するために企業競争上、公平性を損
最近、国の産業政策が投資に影響を与えるケース
なうなどの問題だ。こうした懸念を軽減するために、
が増えている。産業政策と海外投資政策とは密接な
たとえばOECDのような国際的な場で協議が進んで
相互関係にあり、両者をどのように関与させながら
いる。
発展させられるかが重要なポイントとなろう。未成
熟な産業の保護であれ、戦略産業の育成であれ、あ
投資政策の傾向
る産業の成長を国が支え育てるのは当然許容される
べきことだが、その場合、当該産業のいくつかの企
各国の投資政策の傾向は、大筋では引き続き自由
業だけをピックアップして育てるというのは、多々
化と促進の方向にある。しかし近年、投資に関する
みられるケースではあるものの、間違った政策とい
諸般の規制策や行政手続きの数が増え、投資におけ
えよう。産業全体の育成という観点から、市場メカ
る保護主義のリスクも高まっている。2010年に絞っ
ニズムに即して、内外を問わず投資を差別しないこ
てみると、投資に影響を与え得る政策変更数149件の
とが重要だ。国内生産能力を強化しつつ、投資や貿
うち、3分の1は投資の自由化や促進とは逆の方向、
易の保護主義への傾倒を防ぐことが大切だ。この面
つまり規制を強化する方向の政策変更だった(図表
では国際的な協調と協力が求められている。
6参照)
。10年前、規制を強化する方向での変更はわ
ずか2%だったことを考えると、投資における保護
非出資型(NEM)国際生産
主義のリスクは高まっている。
非出資型(NEM)国際生産とは、多国籍企業がそ
2国間投資協定、二重課税防止協定、そして投資条
れぞれの国際バリューチェーン(価値連鎖)統括の
項を内包する協定(FTA、EPA等)などの国際的な
一環として、資本参加することなしに海外企業の事
投資協定は、現在6100件以上存在する。この数と煩
業に影響を及ぼしたり、あるいは実際に支配権を得
雑さは、国にも企業にも、扱いに無理が生じるシステ
て生産を行うことをいう。このような関与の形態と
ムと化してきている。それでもこうした国際協定の数
しては、製造委託、サービス・アウトソーシング、
は、世界の海外直接投資残高の約3分の2をカバーす
契約農業、フランチャイズ、ライセンス、そして管
るにすぎず、残り3分の1の残高をカバーするために
理契約などがあげられる。非出資型国際生産の場合、
は、さらに1万4000の新しい協定を結ばなければな
多国籍企業はパートナーとなる協力企業(例:海外
2012.1
31
で製品の組み立てを請け負う企業、ITサポートを提
業に関しては図表7参照)
。また、この2兆ドルとい
供する企業など)と事業契約を締結し、多国籍企業
う数字には非出資型国際生産とされるすべてが入っ
の有する技術やビジネスモデル、企業内市場での内
ているわけではない。たとえばモザンビークでは、
販機会などを軸に運営を行う。協力企業は提携相手
40万人規模の小作農業者が契約ベースで世界的な食
となる多国籍企業の世界的な生産ネットワークに組
品業界のバリューチェーンのもと、農業生産に従事
み込まれるが、多国籍企業側から出資を受けること
しており、そのほかにも110カ国以上の途上国で広く
はほとんどない。
契約農業が行われている。しかしこれらについては、
その実態と金額の推定が難しいため、本統計には入
世界中の企業バリューチェーンに広く組み込まれ
っていない。
たクロスボーダーの非出資型国際生産は各業界で高
このように、拡大しつつある非出資型国際生産は、
い伸びを示しており、2010年時点では少なくとも世
貿易や国際投資の流れを大きく左右する存在になり始
界で2兆ドル規模の売上げを達成している。推定の
めている。特に、途上国においては非出資型国際生産
内訳は、製造委託とサービス・アウトソーシングが
の占める役割と比重が先進国に比して高いということ
1.1兆から1.3兆ドル、フランチャイズが3300億から
もあり、開発面でも重要な影響を及ぼしている。
3500億ドル、ライセンスは3400億ドルから3600億ド
非出資型国際生産に携わる企業の形態と地理的な
ル、管理契約(または経営委託)は1000億ドルであ
分布の様相は、業界によって大きく異なっている。
る(国境を越える非出資型国際生産における代表産
たとえば、電子機器の製造請負企業やIT-BPOサービ
図表7 主な業種別にみた非出資型(NEM)国際生産関連諸指標(2010 年)
(単位:十億ドル、百万人)
NEM 関連の推定値
売上額
付加価値額
雇用者数
途上国での
雇用者数
契約生産:主な技術/資本集約型の産業
電子機器
自動車部品
製薬
230 ∼ 240
200 ∼ 220
20 ∼ 30
20 ∼ 25
60 ∼ 70
5 ∼ 10
1.4 ∼ 1.7
1.1 ∼ 1.4
0.1 ∼ 0.2
1.3 ∼ 1.5
0.3 ∼ 0.4
0.05 ∼ 0.1
200 ∼ 205
50 ∼ 55
10 ∼ 15
40 ∼ 45
10 ∼ 15
2∼3
6.5 ∼ 7.0
1.7 ∼ 2.0
0.4 ∼ 0.5
6.0 ∼ 6.5
1.6 ∼ 1.8
0.4 ∼ 0.5
90 ∼ 100
50 ∼ 60
3.0 ∼ 3.5
2.0 ∼ 2.5
330 ∼ 350
130 ∼ 150
3.8 ∼ 4.2
2.3 ∼ 2.5
5 ∼ 10
0.3 ∼ 0.4
0.1 ∼ 0.15
契約生産:主な労働集約型の産業
衣料品
履物
がん具
サービス・アウトソーシング
注
ITサービスおよびBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)
フランチャイズ
小売、ホテル、飲食(レストラン / ケータリング)
、他ビジネス
管理契約:主な産業
ホテル
15 ∼ 20
NEM 関連の推定値
フィー
関連の
売上額
17 ∼ 18
340 ∼ 360
関連の
付加価値額
ライセンス供与
クロス・インダストリー
90 ∼ 110
注:データ制約上、クロスボーダー売上額のみ推計しているため、NEMによる当該セクターの活動実態は上記値よりも大きいと推定される。海外子会
社によるホスト国での売上(たとえばインドで営業するIBMのインド法人向けサービス売上など)は除外。
出所:UNCTAD『2011年世界投資報告書』
32
2012.1
【特集】世界と日本の海外直接投資動向
ス(情報技術や業務プロセス・アウトソーシング)
Winstron(すべて台湾)と、Flextronics(シンガ
では、大規模経営の多国籍企業が中心であり、世界
ポール)が委託製造の世界最大企業10社に入ってい
でも比較的少数の地域に集中して立地している(主
る。衣服や靴のバリューチェーンでは、Li & Fung
要企業は図表8参照)
。衣服や靴などでは、製造請負
(香港)など途上国の多国籍企業が、主要ブランドと
企業は各国に多数の生産拠点をもつ大企業から、低
委託製造企業との間の仲介的な役割を果たしている。
コスト地域に立地する中小企業までさまざまで、世
サービス・アウトソーシング分野ではTCSとWipro
界中多くの地域に分布している。
(どちらもインド)がITで同様の地位を確立した。さ
いくつかの業種では、途上国の企業が業界を代表
らにブラジル、フィリピン、そして中国からも同様
する企業として世界展開を果たし、他の途上国へも
に多数の企業が台頭し始めている。しかし、自動車
進出を進め、結果的に南南関係が強化されている。
部品などの業種では、先進国の企業が依然、委託製
電子機器産業ではFoxconn、Quanta、Compal、
造業者として最大手である。
図表8 委託製造とサービス・アウトソーシングの代表的企業(2009 年)
(単位:十億ドル、千人)
企業名
売上額
雇用
者数
企業名
売上額
雇用
者数
電 子 機 器
Foxconn/Hon Hai(台湾)
Flextronics(シンガポール)
Quanta(台湾)
Compal(台湾)
Wistron(台湾)
59.3
30.9
25.4
20.4
13.9
611
160
65
58
39
Inventec(台湾)
Jabil(米国)
TPV Technology(香港)
Celestica(カナダ)
Sanmina-SCI(米国)
13.5
13.4
8.0
6.5
5.2
30
61
24
35
32
13.1
13.0
12.8
11.8
11.7
13
58
130
147
60
0.7
0.7
0.6
0.5
0.4
7
6
10
4
5
0.4
0.4
0.3
0.3
0.3
3
3
2
n.a.
n.a.
8.9
6.5
6.1
5.6
5.5
35
45
109
43
39
自 動 車 部 品
デンソー(日本)
Robert Bosch(ドイツ)
アイシン精機(日本)
Continental(ドイツ)
Magna International(カナダ)
32.0
25.6
22.1
18.7
17.4
Catalent Pharma Solutions(米国)
Lonza Group(スイス)
Boehringer Ingelheim(ドイツ)
Royal DSM(オランダ)
Evonik Degussa(ドイツ)
1.6
1.3
1.1
1.0
―
120
271
74
148
96
LG Chem(韓国)
Faurecia(フランス)
Johnson Controls(米国)
Delphi(米国)
ZF Friedrichshafen(ドイツ)
医 薬 品
9
4
6
4
―
Piramal Healthcare(インド)
Jubilant Life Sciences(インド)
ニプロ(日本)
Patheon(カナダ)
Fareva(フランス)
半 導 体
TSMC(台湾)
UMC(台湾)
Chartered Semiconductor(シンガポール)
Globalfoundries(米国)
SMIC(中国)
9.2
2.9
1.5
1.1
1.1
26
13
4
10
10
Dongbu HiTek(韓国)
VIC(台湾)
TowerJazz(イスラエル)
Samsung Electronics(韓国)
IBM Microelectronics(米国)
IT-BPO
International Business Machines(米国)
Hewlett-Packard(米国)
富士通(日本)
Xerox(米国)
Accenture(アイルランド)
38.2
34.9
27.1
9.6
9.2
190
140
18
46
204
NTT データ(日本)
Computer Sciences Corporation(米国)
Cap Gemini(フランス)
Dell(米国)
Logica(英国)
出所:UNCTAD『2011年世界投資報告書』
2012.1
33
開発への貢献と懸念
図表9 主要業種別:非出資型国際生産が世界全体の
雇用に占める割合(2010年)
14.2
衣料品
6.5∼7.0
非出資型国際生産は、国の発展に大きく寄与する
ことができる。実際に非出資型国際生産の付加価値
5.0
自動車部品
1.1∼1.4
が、国内総生産の15%に達する国もある。図表9お
よび前掲図表7にあるとおり、世界全体で推定1800
万から2100万の労働者が非出資型国際生産に従事し、
電子機器
4.0
1.4∼1.7
履物
3.9
1.7∼2.0
その大半は途上国での雇用である。電子機器、衣服、
靴、おもちゃなどの産業では、非出資型国際生産に
いる。これは途上国が世界の海外直接投資累積残高
0.8
0.4∼0.5
がん具
よる雇用や輸出のほとんどが、途上国で創出されて
雇用者数(世界全体)
非出資型生産関連の
雇用者数
0
2
4
6
8
10
12
14
16
(百万人)
出所:UNCTAD 『2011年世界投資報告書』
に占める割合(30%)や、輸出に占める割合(40%
弱)と比較しても、大きな割合といえよう。サービ
ス・アウトソーシングやフランチャイズといった業
界でも、非出資型国際生産は、途上国で大規模な雇
図表10 主要業種別:非出資型国際生産が世界全体の
輸出に占める割合(2010年)
用を実現し、全体として事業運営能力や他のスキル
の向上に寄与している。フランチャイズ方式ではビ
ジネスモデルの移転がなされ、労働者の訓練もごく
424.4
電子機器
220∼230
290.6
衣料品
180∼190
普通に行われている。
輸出面からみると、産業によっては世界の輸出総
224.3
自動車部品
60∼70
額の70%から80%が非出資型国際生産によるものと
なっている(図表10参照)
。先進国企業のバリューチ
ェーンに組み込まれるということは、途上国企業に
とっては、世界市場への扉が開放されるのと同じこ
74.5
50∼55
履物
16.5
10∼13
がん具
0
50
100 150 200 250 300 350 400 450
(十億ドル)
とだ。総じていえば、非出資型国際生産は、技術・
技能の普及や国内企業成長への貢献などを通して、
輸出総額(世界)
出資型生産関連の
輸出額
出所:UNCTAD 『2011年世界投資報告書』
生産能力の強化・構築を実現し、また途上国企業の
世界的なバリューチェーンへの参入を促すことで、
長期的な産業発展を支援することができる。
として、付加価値の低い事業運営から抜け出せなか
ったり、技術面での過度な外国依存が生じたり、長
しかし、途上国における非出資型国際生産の影響
期的な産業発展を阻害しかねない各種の要素も存在
については、懸念される点もある。たとえば、製造
する。さらに、非出資型国際生産は直接投資と異な
請負企業は強力な競争圧力下でコスト削減を強いら
ってサンクコストが小さいため、多国籍企業は協力
れる。特に労働集約型事業での委託製造の場合には、
企業を容易に変更でき、他国の業者に移りやすいと
労働条件が劣悪となりやすい。産業自体の季節要因
いった弱さもある。
や需要の変動でこうした傾向にさらに拍車がかかる。
また、非出資型国際生産が、社会・環境基準の制約
4つの政策
を回避するために悪用される可能性も否定できない。
最近では、過酷な労働条件から相次ぐ自殺者を出し、
非出資型国際生産ネットワークへの国内企業参画
化学薬品による職場環境汚染も報道された中国の
で得られる開発への貢献を最大化するには、適切な
Foxconn社の事例もある。また、途上国特有の課題
国内政策の策定と実行が決定的な重要性をもつ。賢
34
2012.1
【特集】世界と日本の海外直接投資動向
明な政策は、非出資型国際生産のもたらすリスクを
最小限に抑えることもできる。4つの主要な課題が
ある。
④負の影響への対処
非出資型国際生産がもたらす負の影響に対処する
には、まず、国内企業がリスクと利益を公平に共有
する契約を結べるよう、交渉力を強化することが重
①非出資型国際生産に関する政策は開発戦略全体に
要である。政府による業界別のモデル契約や交渉の
組み込まれるべき
ためのガイドライン設定などはこうした観点から有
競争優位のある「適切な産業」に非出資型国際生
効といえるだろう。非出資型国際生産を展開する多
産のメリットを享受させるためには、産業政策の全
国籍企業は往々にして支配的な地位に立つことから、
体的な開発戦略に、非出資型国際生産という要素が
取引先や競合他社に不利なかたちで、その市場支配
組み込まれるべきである。低コストの労働力はひと
力が濫用される可能性がある。したがって、非出資
つの競争優位ではあるが、長期的には、より高付加
型国際生産の促進政策は、競争政策とセットで設計
価値な産業育成を目指し、多国籍企業のグローバ
されるべきである。先に述べたように国内企業の生
ル・バリューチェーンを1段ずつ上に昇っていける
産能力を高めることで、長期的には、協力企業が低
よう、開発戦略による後押しが必要だ。特定の外国
付加価値生産から抜け出せなかったり、外国の技術
企業との契約事業にだけ集中して特化する段階から
やインプットに過度に依存してしまうおそれを回避
一歩進んで、多様化を図るべきという議論もある。
できることにもなる。そのほか、労働・環境基準の
順守、非出資型国際生産の急速な発展で大きな打撃
②国内生産能力の育成・強化
非出資型国際生産に関する国の政策の有効性を決
を受ける可能性のある伝統的な経済活動の保護など
といった面も、同様に留意されるべきである。
めるのは、多国籍企業と実際に提携できるだけの競
争力を保持する国内企業の多寡にかかっている。積
結 語
極的な起業支援政策、具体的にはベンチャー企業育
成策やビジネス・ネットワーキング促進策などは、
世界経済危機以降、海外直接投資の回復は遅い。
非出資型国際生産に参入し得る国内企業群の育成と
またその回復は不均衡であり、最貧困とされる国々
競争力強化に有効だ。職業訓練や専門研修によるス
は今でも「海外直接投資不況」下にある。世界の多
キルの育成に加え、起業に関する基礎知識を正規の
国籍企業は未曾有の資金をもちながら、世界経済の
教育システムに組み込むことも重要だ。地域が知識
安定化しない状況下で、いまだ投資には積極的では
と技術を習得し、技能を強化させて、技術クラスタ
ない。一方、各国の国内政策、国際投資政策も、必
ー形成を支援する技術政策も必要だ。また、非出資
ずしも適切なシグナルを企業側に送っているとはい
型国際生産への参入を試みる中小企業が円滑な資金
いがたい。国際生産には出資型・非出資型の両方が
調達の機会を得られることも重要となる。
入り交じって存在する。海外直接投資による生産と、
非出資型による国際生産は、その両者ともが国の成
③非出資型国際生産に関する諸制度の整備と推進
長にとって重要な構成要素である。後者はその全容
非出資型国際生産はビジネス・パートナーとの契
がまだつかみきれない部分もあり、政府にとって課
約関係に基づくものである。したがって、これらの
題は多い。しかし途上国にとっては、この非出資型
契約を規定する、明確で、確立され、かつ透明性の
国際生産の存在が、海外直接投資と同様に、グロー
高いルールの存在は、非出資型国際生産促進のため
バル経済と自国経済のさらなる統合化を図ろうとす
の重要な手段となる。また、投資振興機関はマッチ
る際の、大きな一助となることができる。このような
メーキングやアフターケアなどのサービスを通じて、
新たな発展のポテンシャルを大きく開花させるため
非出資型国際生産を推進することができる。
には、政府の賢明な政策決定が求められている。
2012.1
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