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第Ⅰ章「目をそむけないで」

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第Ⅰ章「目をそむけないで」
第Ⅰ章
知識・理論編
Ⅰ
Ⅰ
組 織 や個 人が 対 処で き ない 事 態が “危 機”
外 部 の支 援を 求 める の は当 然
第Ⅰ章は理論的な説明が中心なので、取捨選択して平時に学校・教育委員会関係者の普及
啓発教材に使ってください。危機発生時にも一部使うことがあります。ただし、CRT(ク
ライシス・レスポンス・チーム)を運用している県用です。この教職員ハンドブック全般に
おいて、県教育委員会、市町村教育委員会、教育事務所などを総称して「教育委員会」と称
し て い ま す 。 私 学 の 場 合 に は 、「 教 育 委 員 会 」 を 「 私 学 の 経 営 母 体 」 と読 み 替 え て く ださ い 。
教職員ハンドブッ ク1 .pdf
(第Ⅰ章は学校CRTテキスト R2.22から転載)
危機対応と 心のケア
こ の テ キス ト で は 、「 危機 対 応 」と 「 心 の ケア 」 を 次 のよ う に 区 別 して い ま す 。あ くま
で人為的な区別ですが、誰が担当するかで区別していますのでとても実用的です。
教職員 担当者
内 容
CRT 担当者
内 容
危機対応
校長をはじめとする主な管理職、
教育委員会職員
全体の指揮、記者会見、保護者会等
指揮担当隊員(隊長)
全体の 指揮、校長や教育委員会への
助言・交渉、マスコミ対応等
心のケア
クラス担任 、学年主任 、養護教諭 、
スクールカウンセラー等
子どもへの関わり全般
直接ケア隊員
一般教職員への助言・ケア、心理
教育、子どもと家庭へのケア等
学校危機のレベル
学校危機のレベルを段階分けしたのが次の表(抄)です。詳細は
事件規模
大 規 模
レベル
Ⅴ
Ⅳ
中 規 模
Ⅲ強
Ⅲ弱
小 規 模
Ⅱ
小規模以下 Ⅰ
事
案
→Ⅰ-2(1)ア
例
●大阪池田小事件
●佐世保市の小6殺害事件 ●光高校爆発物事件、数十人救急搬送
●校内での飛び降り自殺、目撃多数、学校に報道殺到
○親子心中事件、学校に報道多数
○自宅で自殺、学校に取材無し ●体育中に児童が倒れ、病院で死亡
○家族旅行中の交通事故で児童死亡 ●体育中に児童が大けが
あ くまで急性期 の学校全体の 衝撃度を表し ます。●学校 管理下
○学 校管理外
危機対応と 危機管理
このテキストでは、危機が発生してからの対応(おおむね1ヶ月間)を「危機対応」と呼
んでおり、予防策や研修など平時の備えを含めて「危機管理」と呼んでいます。
危機対応
平時の備え
( 事前行動 )
事後対応
平時への移行
( 新たな )平時への備え
危機管理
予兆
危機発生
- Ⅰ-1 頁-
教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
▽
Ⅰ-1では、(1)で被害の構造についてアウトラインを説明します。(2)では被害とその
反応や症状について少し詳しく説明するとともに、被害を受けた人への対応~ケアについ
て 解 説 し ま す 。 (3)で は 、被 害 を 受 けた 個 人 で は なく 、 学 校 とい う コ ミ ュニ テ ィ 全 体へ ど
うケアしていくかという視点から解説します。CRTについてはⅠ-3で説明します。
△
学 校における事故 ・事件と被害
ア 学校における事故・事件
考えたくない現実
次の表をご覧ください。いずれも、連日全国のトップニュースとなるような、学校管理
下の事故・事件です。複数の子どもたちが死亡したり怪我をするなどの直接被害を受け、
多くの子どもたちが惨劇を目撃し、衝撃が学校全体、保護者、地域社会にまで波及した事
案です。これほどではなくても、子どもが事故や事件の被害に遭うということは毎日のよ
うに発生しています。
2001.06.08.
2003.12.18.
2004.06.01.
2005.02.14.
2005.05.26.
2005.06.10.
大阪池田小事件
京都宇治小侵入傷害事件
佐世保市小6殺傷事件
寝屋川市小学教師殺傷事件
仙台市ウォークラリー事故
光高校爆発物事件
- Ⅰ-2 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
イ 被害の構造
「被害」や「ダメージ」と一口に言っても、実際にはいろいろ
な要素を含んでいます。症状や対処法が少し違ってきますので、
このテキストでは①~⑤に分けて考えることにします。ただし、
厳密な区別は不要です。
※ 二
次
被
害
④信頼の
喪失
③現実
①喪失 ②トラ 生活の
体験
ウマ ストレス
⑤ 元々の問題
①喪失体験(死別反応)
図 被害の構造
わが子を失った親の悲嘆はどれほどのものでしょうか。それが
不慮の死であればなおさらです。後悔と自責の念に苛まれ、しばしばやり場のない怒りが
自分と周囲の人へ向きます。うつ状態になることも多くあります。
喪失体験とト ラウマの区別
長期入院していた同級生が亡くなった場合は死別反応(悲しみ)ですが、トラウ
マ( 心的 外傷)にはな らないでしょ う。
逆に、全く知らない他人が殺されるのを目撃するのはトラウマとなりえますが、
自分 と無 関係の人が亡 くなっても喪 失体験(死別 体験)にはな らないでしょ う。
※厳密に は、後者の場 合でも、社会 に対する安全 感を「喪失」し ています。
②トラウマ(心的外傷)
トラウマとは、その時の「恐怖と戦慄」の記憶が焼き付いてしまい、本人の意志ではコ
ントロールできない形で、勝手に蘇ってきたりすることなどを言います。トラウマになる
程度は 被害程度 (表)と相関しますが、かなり個人差があります。
◆表
被害程度
<一部copy>
被害程度
説 明
被 直接被害 刺され る、監禁され る、性被害な ど。
害 被害未遂 目撃で あっても、自 分自身に危険 が迫った場合 は「被害未遂 」です。
例) 刃物を持った 不審者に追い かけられた。
例) クラスに侵入 者があり同級 生が切りつけ られたのを目 撃した。
例) 自分のすぐ近 くに車が突っ 込み、人が巻 き込まれた。
経
験
直接対応 救急蘇 生を行ったり 、遺体や鮮血 を直接扱うな どをここに含 みます。
目
撃
自分自 身に危険が迫 らない立場で 惨劇を直接目 撃することを 言います。
・TV で見たのは含 みません。 ・上記被害経 験は含みませ ん。
・火事 の目撃は含み ませんが、火 だるまの人や 焼死体の目撃 を含みます。
③現実生活のストレス
大災害では、避難所生活や経済的困窮などの現実的ストレスが加わります。
④信頼の喪失
教師の不祥事の発覚は、死別やトラウマにはならなくても、大人への信頼を失わせてし
まいます。もちろん、子どもは100%大人を信頼しているわけではありませんが、そこそこ
には大人を信頼していました。それが信じられなくなるわけです。これは広い意味での喪
失ですが、ここでは別記することにします。例えば学校の対応のまずさが報道されること
によって、保護者や子どもからの信頼を失うのもこれに含まれるでしょう。
これをあえて別記するのには理由があります。学校への信頼が無くなると、学校の中で
- Ⅰ-3 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
の心のケアができなくなってしまうからです。また、子どもが他人を信用できなくなり、
未来に希望を持ちづらくなってしまいます。トラウマや喪失といった激しいものではない
のですが、ボディブローのように人々から幸せになる力を奪っていきます。
▼
▲
⑤元々の問題
元々抱えていた問題のことで、背景にいじめがある場合がその典型です。事件とは無関
係の問題もあります。
二次被害
その後の不適切な対応によって傷を深めてしまうことを言います。周囲が「済んだこと
は 忘 れ な さい 」 と 言 う のは そ の 典 型で す し 、「 セカ ン ド レイ プ 」 や 「 メデ ィ ア ス クラ ム」
( 集 団 的 過熱 取 材 ) は よく 知 ら れ てい ま す 。( 二次 被 害 は② の み な ら ず、 ③ や ④ の要 素も
含まれることがあります 。)
個人差に注意
同じ事案であっても個人差が大きいことに注意しましょう。また、回復のスピードにも
差が出てきます。回復には周囲の対応の仕方が影響します。
被 害と被害者への 対応
少し詳しく解説し、その対応方法を考えてみましょう。
▽
ア 喪失体験
喪失体験
喪失には主に次の3つがあります。大災害ではこれらを一挙に失うことが起こりうるわ
けです。他にも、他者との信頼関係、社会への安心感・安全感などの喪失もあります。
モノ
コト
ヒト
…(例)家を失う
…(例)仕事を失う
…(例)家族を失う
死別
このテキストでは、喪失体験を親密な人の死に限定して使っています。モノやコトはあ
る程度やり直すことができますが、失われた命は二度と戻らないという点で、死別はモノ
やコトとは異なります。
喪失反応
事件の状況にもよりますし、個人差も大きいのですが、キュブラー・ロスの死にゆく人
たちのプロセスが1つのモデルになります。トラウマの場合には「恐怖と戦慄」の記憶に
よる侵入、回避、過覚醒が症状の中心となりますが、喪失の場合には、自責、怒り、抑う
つなどが主となります。
- Ⅰ-4 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
トラウマとの決定的違い
トラウマとは記憶の問題ですから、悲惨な記憶を消すことができれば、ある意味では解
決 で き ま す。 し か し 、「 愛す る 人 がい な い 」 とい う 喪 失 の現 実 は 消 し よう が あ り ませ ん。
この点がトラウマと喪失の根本的な違いです。もっとも、多くの場合に喪失とトラウマは
同居しています。
なお、トラウマとのもう1つの違いは、喪失(親しい人の死)そのものは、生きていく
上では避けては通れないという現実があります。
イ トラウマ
トラウマとは記憶の問題
トラウマは、ある体験がその人にとってその時と同じ恐怖や不快感をもたらし続ける現
象(体験)です。すなわち、まるで今もその被害にあっているかのような恐怖感を味わい
続けているのがトラウマです。
通常の「つらい記憶」は、頭の中で繰り返し繰り返し思いだしながら月日が経つにつれ
て消化してゆくことが可能です。ところが、トラウマ記憶の場合には、自らの意志とは無
関係に突然蘇る「フラッシュバック」という形が多く、消化ではなくて「再被害」体験を
繰り返していくわけです 。思い出すこと( 想起 )が記憶の処理に繋がらないのが特徴です 。
このように、トラウマは単なるいやな出来事の記憶とは違います。下の表のように区別
してみました。
いやな出来事
強いストレス
いやな記憶
想起により徐々に消化
自分で思い出せる
外傷的出来事(トラウマティックイベント)
外傷性ストレス(トラウマティックストレス)
外傷性記憶(トラウマ記憶)
想起により再被害体験を繰り返す
フラッシュバックにより記憶が侵入してくる
※ 「 外傷 的 出 来 事 ( ト ラウ マ テ ィ ッ ク・ イ ベ ン ト )」 と は 、 多 くの 人 に と っ て 強 い衝 撃 を も た ら すよ う な 、 日
常で は見られない 体験だけを指 します。
トラウマの深さ(心的外傷の重さ)
一般論としてつぎの傾向があります。子どもへの性的虐待が最も重いと考えられます。
①天災よりも 人災のほうが 傷が深い。
②1回限りの 被害(タイプ 1)よりも繰り 返される被 害(タイプ2) のほうが傷 が深い。
③大人になっ てからよりも 、子ども時代に 被害に遭う ほうが傷が深い 。
④性的被害は 心に深い傷を 残す。
タイプ1トラウマとタイプ2トラウマ
事故や事件のような1回限りの外傷体験によるトラウマ(タイプ1トラウマ)と、虐待や
DVやいじめのように1回限りではなく 、 長期間繰り返されるトラウマ ( タイ プ2トラウマ )
とがあります。このテキストで扱うのは単発のタイプ1トラウマです。
- Ⅰ-5 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
◆表
学童のタイプ1、タイプ2トラウマの例
単発(タイプ1)
継続(タイプ2)
学校管理下 校内、通学路等での事故、事件 いじめ
学校管理外 家庭等での事故、事件
虐待、DV (目撃)
PTSD症状
トラウマによる症状の中心がPTSD症状で、次の3種類があります。
①侵入と再体験: 今も被害を再体験し続けている状態です。本人の意志に関係なく、勝
手 に記憶が蘇りパニック になったり ( フ ラ ッシ ュ バ ッ ク)、こわい夢が 続いたり、子どもでは
被害に関連した遊び (ポスト ・トラウマテ ィック・プレ イ) を繰り返したりします。
②回避とひきこもり:再体験を避けるためにひきこもった状態です 。事件の話題を避け 、
事件を思い出させるような場所や人を避けようとします。記憶が曖昧になったり、元気が
なくなったり、ぼーっとしていたりします。生き生きとした感情が無くなった状態です。
子 ど も で は 退 行 ( 赤 ち ゃ ん 返 り ) が よ く 見 ら れ ま す ( ② に 含 め る べ き で は な い か も し れ ま せ ん が )。
③過覚醒と強い不安: 危険が去ったにもかかわらず、全周囲警戒態勢が続いている状態
です。何かに怯え、物音などにびくついたり、ちょっとしたことで急に怒ったりします。
当然眠れません。
○山中に潜む ( 回避 ) 兵士 。 常に 周囲を警戒 ( 過覚醒 ) して いるが 、 しばし ば敵兵に発見 されそうにな り 、
恐怖を味わう (侵入 )。
○あ るい は 、さ そ りの 箱に 閉 じこ め られ た 囚人 。じ っと動 かな いで (回避 )、 いつ さされ るか とびく びく し
ながら脂汗を 流している( 過覚醒)が、刺 されて恐怖を味 わう(侵入 )。
※ 子 ど も の場 合 、 ① ③ を「 元 気 そ うに し て い る 」、 ② を 「落 ち 着 い て いる 」 と 見 間違 える
ことがありますので、よく観察しましょう。
PTSD
①②③のPTSD症状が一定以上揃っており、かつ1カ月以上持続しており、トラウマ
体験への暴露が明白な場合に PTSD ( 心的外傷 後ストレス障 害; posttraumatic stress disorder ) と診断し
ます 。①③と②は一見逆の症状ですが 、両極端の症状を持つ不安定さが PTSD の特徴です 。
我が国で PTSD が広く知られるようになったのは、阪神・淡路大震災以降です。
ただし、トラウマによる症状はPTSD症状だけではありません。うつ状態となること
もしばしばです。大人であれば、外傷記憶を振り払おうとして、薬物やアルコールに溺れ
たり、過食、浪費、危険な挑戦などの嗜癖行動にのめり込むことがあります。子どもでは
体の症状 (頭痛、 腹痛、体がし んどいなど) を訴えることがしばしばあります。
トラウマの治療
トラウマからの回復を3段階に分けてみました。第1段階は安全な場所での安心感の確
保です。第2段階がトラウマ(外傷性記憶)の治療。そして第3段階が他者との対人関係
の再構築をするリハビリ段階です。
トラウマ記憶は、思い出そうとしてもうまく思い出せずに物語として語れません。ある
光景が静止画像で焼き付いたり、その時の音、臭い、ある言葉、痛み、動悸、恐怖感など
- Ⅰ-6 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
がバラバラに記憶されているからです。その反面、何かのきっかけで突然記憶が蘇り(フ
ラ ッ シ ュ バッ ク )、 生々 し い 恐 怖 を再 体 験 し てし ま う の です 。 こ れ を 自分 で 思 い 出し て語
れるようにする、つまり、通常の記憶にしていくことが、過去を過去にすることにつなが
ると考えられています。決して「過去を忘れて」ということではないのです。もちろん、
過去に無理矢理直面させることを強いてはなりません。強いられた体験は「被害」でしか
ありません。
近年、 EMDR(eye movement desensitization and reprocessing) な どトラウマに特異的な治療技法が編み
出 さ れ て い ま す 。 SSRI ( 抗 う つ 剤 の 一 種 ) を 中 心 に 、 ト ラ ウ マ に 対 す る 薬 物 療 法 に も 光 が 見
えつつあります。
ウ その他
現実生活のストレス
大災害では、避難所生活や経済的困窮などの現実的ストレスが大きくなります。食べ物
が十分で無かったり 、寒さが防げなかったりと 、直接体へのストレスもたくさんあります 。
症状も、血圧が上がったり、頭痛、不眠といった身体的な内容が多くなります。
衣食住をはじめとする、生活環境の改善が急務であり、身体面を中心とする保健活動の
中で、受け入れやすい形で支援を始める必要があります。直接的なこころのケアは求めら
れないことの方が普通です。
震災で家、仕事、家族を失い、避難所での辛い生活や加熱取材等々。被災者の大変さは
想像に難くありません。
さて、学校の事件・事故の場合、被害を受けて入院したとか、子どもが学校に行けず、
母親が仕事に出られなくなるなどの、具体的な環境変化は起こりえます。また、教職員は
いろいろな対処をしなければならず、強いストレスに曝されます。
元々の問題
元来、いろいろな問題を抱えている子どもは、普段からギリギリで何とかやっているの
で、事件のショックが加わると、限界を超えてしまうかもしれません。
学校に来ることができなるかもしれません。もっとも、反応の現れ方が普通の子どもと
違うこと(例えば、普段落ち着きの無かった子どもが大人しくなった)があり、見落とさ
れることがあります。
不登校や保健室登校、いじめの被害、虐待、近親者の死、発達の障害など、リスクのあ
る子どもたちに注意を向ける必要があります(ただし、緊急支援では元々の問題までケア
することはできません )。
△
二次被害
被害者が、その後の周囲の対応により、さらに心の傷を深めてしまうのを「二次被害」
と呼んでいます 。「セカンドレイプ」という言葉は聞いたことがあると思います。
○つぎのようなことをつい言ってしまいがちですが、二次被害をもたらせる危険が高いの
で、うっかり言わないように注意しましょう。
・「 怪我しなくて良かったね」 … 怪我 はし な かっ た けれど 恐怖 を感じ てお り、決 して 「良か った 」と
は言え ません。
・「 時間が解決するんだから」 …ト ラウマになる と、時間だけ では解決しませ ん。
・「 誰だって辛い経験はあるよ」 …こう言われ ると絶望的に なります。
・「 忘れなさい」 …忘れよ うとしても恐怖 が侵入してく るのがトラウ マです。
- Ⅰ-7 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
・「 どうして本気 で逃げなかったの? 」 … 犯人 で はな く 被害 者が 悪 いと い うメ ッ セー ジに な って し
まい、 自分を責める ようになりま す。
○辛い話を何度も聞かれるのは、再被害体験になるので、避けなければなりませんが、逆
に周囲が気を遣いすぎて話題を避けてしまうと 、話したいときにも聴いてもらえなくなり 、
被害者である自分の存在や被害の体験が否定されたことになります。
○警察の事情聴取においても、被害体験の想起が必要になるため、二次被害につながるこ
とがあります 。どうしても子どもの事情聴取が必要な場合には 、混乱している時期を避け 、
安心できる大人に付き添ってもらうなど、細心の配慮が必要になります。また、被害を受
け て い な くて も 、「 警察 官 か ら 聴 かれ る 」 と いう こ と で 子ど も が 罪 悪 感を 持 っ て しま うこ
とがありますので、この点でも配慮が必要になります。
○取材や報道による二次被害(子ども)には以下のような例があります。
・思い出したくないことを語らせられ、心の傷を深めてしまった、
・横道から知らない人3人が現れ 、突然マイクを向けられた 。逃げたら「 追いかけられ 」、
怖くて家から出られなくなった。
・学校の映像が何度も放送され、その映像が焼き付いてしまい、学校に入ることができ
なくなってしまった。
・ストロボの光で恐怖感が呼び覚まされるようになった。
・電話や呼び鈴が鳴り続き、これらの音で汗が噴き出すようになった。
・自分の意図とは異なる報道がなされ、周囲の非難を浴びた。
○専門家によるカウンセリングであっても、二次被害をもたらす可能性があります。
※周囲が配慮した「つもり」ではなく、最終的には子どもがどう感じたかが重要です。
エ 心と体に起こること
現 実 に は、 以 上 の こ とが 複 合 的 に起 こ り ま すか ら 、「 喪失 か ト ラ ウ マか 」 と い う議 論は
あまり有益ではありません。目の前にいる子どもの心と体に起こっていることをまず見極
めましょう
いわゆるPTSD症状 (狭義のトラウマによる症状)
①侵入と再体験
②回避とひきこもり
③過覚醒と強い不安
死別反応
・ショック、否認、自責、怒り、悲嘆、うつ
その他の症状・行動
・赤ちゃん返り
・体の症状
・薬物アルコール依存(大人)
- Ⅰ-8 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
「異常な事態への正常な反応」であると理解する
子どもが自分や他人の生命に関わるような衝撃的な出来事を体験したり、目撃したりし
た直後には、心と体にいろいろな反応や症状が出ることがあります。
これらは「衝撃的な出来事へのごく自然な反応や症状」であり、その多くは一時的なも
のです。しかし、その出来事が子どもにとって、あまりにつらく、また、適切な対応を受
けていないと反応が長引いたり、症状をこじらせてしまったりすることがあります。
こころだってケガをすることがある (巻末資料参照)
小学5年生を念頭に、衝撃的な出来事を体験した時に、心と体に起こることをまとめて
みました。
こころとからだにおこること
遊び・勉強
○遊びや勉強、好きだったことをするのに集中できない。
食べる・寝る
○食欲がない。○なかなか眠れない。
からだ
○頭が痛い。○お腹が痛い。○体がしんどい
こわい・不安
○こわがりになる。○寝ているときにうなされる。○こわい夢を見てとびおきる。
赤ちゃん返り
○一人でいるのをこわがる。○幼い子のように甘える。○一緒に寝たがる。
ぼーっ
○ぼーっとしている。○話をしなくなる。
ピリピリ
○物音にビクつく。○イライラする。○すぐに腹を立てる。
強がり
○まるで何もなかったかのように普通にふるまう。○急にはしゃぎだす。
悲しみと怒り
○自分を責める。○他人を責める
オ 周囲の大人の対応
(巻末資料参照)
まずは、周囲の大人が落ち着いていること
まわりの大人が落ち着いて子どもに接することで、子どもも落ち着きを取り戻していき
ます。しかし、大人が落ち着くということは、自分の気持ちをおさえることではありませ
ん。大人が自分の気持ちをおさえつけていると、子どもはそれを真似してしまいます。大
人 で あ っ ても 、 涙 が 出 たり 感 情 が こみ あ げ て きた り す る と きに は 、「 自分 は 、 今 こん なふ
うに感じている」と、子どもにわかる言葉で説明してあげてください。
- Ⅰ-9 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
子どもが話そうとしている時は、しっかり聞いてあげましょう
何度も同じ話を繰り返すかもしれませんが、話すことで頭の中が整理されます。もちろ
ん 話 し た がら な い 子 ど もも い ま す 。話 し た が らな い 時 に は 無理 に 聞 き 出そ う と せ ず 、「 話
したくなったらいつでも聞くからね 。」と伝えてあげてください。
正確な情報を伝え、うわさはやめましょう
事実をどの程度子どもにどう伝えるべきか悩みますが、きちんとした説明がないと、う
わさ話が広がり、いろいろな想像をさせ、かえって子どもを不安にさせてしまいます。
体の症状を訴えている時は、体への手当をしてあげましょう
「 発 熱 」「体 が だ るい 」 な ど の 体の 症 状 を 訴え て い る とき は 、 安 易 にス ト レ ス のせ いに
せず、体の症状の治療のために病院に連れて行くことが大切です。苦痛を和らげるととも
に、手当をしてもらうことで「守られている」という安心感を子どもに与えます。
ひとりぼっちにしないで、そばにいてあげましょう
小さい子のように甘え、一人になりたがらないときは、つきはなさないで、できるだけ
そばにいてあげてください。甘えることで心がいやされるので、たいていは徐々に落ち着
いてきます。しばらくは、幼い子のつもりで接してみてください。
子どもをしからない 強がっていても不安でいっぱいです
まるで何事もなかったかのように普通にふるまったり 、逆にはしゃぎすぎたりするので 、
驚かされることがあります。これは、悲しみやショックを子どもの小さな心で受け止める
ことができずに、それを打ち消そうと必死で抵抗しているのです。本当は不安でいっぱい
な の で す 。「 悲 し い ね 。」 と 気 持 ち を 代 弁 し て あ げ て く だ さ い 。 い い 言 葉 が 見 つ か ら な い
ときは、手を握ったり、背中をさすったりするなど、やさしく接してあげましょう。
ふだんの生活を保つことも大切です
予期せぬ出来事を体験すると、目に映る世界がそれまでとは違って見えてきます。だか
ら、学校も家庭も可能な限り普段どおりの生活になるようにしてあげてください。食事、
睡眠、勉強、遊びといった、いつもしていることは無理のない範囲で続けてください。こ
れは悲しみやショックを無視するのではありません。悲しみを中心にしながらも、日常生
活を保つことで回復していく力を低下させないためです。もちろんショックが強くて日常
生活を保つことができないことがあります。その場合は専門家(カウンセラーや医療機関)
に相談してください。
注)学校や周囲がまるで何もなかったかのように運営されると、遺族や重い被害を受けた
人にとって、自分とその体験が否定されたと映りかねません。配慮や説明が必要です。
葬儀への参加には配慮が必要です
葬儀に参加することは、みんなが悲しんでいる時にしっかり悲しむことで一つの区切り
がつきます。しかし、子どもによっては参加することがつらく、耐えられないことかもし
れ ま せ ん 。そ ん な と き には 無 理 に 参加 さ せ な いで く だ さ い 。「行 き た くな い と ち ゃん と言
えることも大切なこと」と伝えてあげてください。また、参加しないことで罪悪感をもつ
ことのないように「参加できなくても悲しい気持ちは伝わるよ。参加しないでもお別れで
きる方法を考えよう」と、一緒にお別れの仕方を考えてあげましょう。
- Ⅰ-10 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
子どもの心のケアのポイント
大人(教師や保護者)が子どもに向かい合うことが心のケアの土台です。ポイントをま
とめてみました。(安心、自信 、自由は、C APの「大切 な3つの権利」 です 。)
1.安心・安全の保証(安心)
・守られている、一人じゃない
・学校と家庭が落ち着いていること
・危ない、恐いところには近づかなくてよい
・無理の無い範囲で日常性を維持
2.正しい知識と対処法(自信)
・予測される反応と対処法
・異常な事態への正常な反応という理解
3.主体性とペースが守られること(自由)
・話したいことを聞いてもらえる
・話したくないのに根掘り葉掘り聞かれない
・自分なりの方法とペースが尊重されること
大人も自分の気持ちに向かい合おう
「子どもにどういう態度で接したら良いのでしょうか?」多くの教師の質問です。しか
し、その前に、自分の気持ちと向かい合うのが先です。教師自身の今の気持ちはどうなの
でしょうか?悲しい、腹立たしい、やるせない…。自分の感情を言葉にしてみましょう。
何を見、何をし、どんな体験をしたのでしょうか。言葉にしてみましょう。できたら、同
僚か専門家に聞いてもらいましょう。自分の体験(経験と気持ち)に向かい合うことで初
めて子どもに向かい合うことができます。
子どもの健康な力を信頼しよう
子どもは大人が守ってあげなければいけません。しかし、子どもは一方的に助けてもら
うだけの弱い存在ではありません。確かに今はショックを受け、弱っているかもしれませ
んが、他の子どもを慰めたり、時には大人を力づけてくれることもあります。
カ 教職員のメンタルヘルス
学校危機では教職員も強いストレスに曝されます。教師は「自分ががんばらなければ」
と、ついつい無理をしてしまいがちですが、自分が倒れてしまえば、子どもを守ることが
で き な く なり ま す 。「 とこ と ん 頑 張っ て 倒 れ る」 の で は なく 、 自 分 の 責任 が 果 た せる よう
に、個人で、また、組織として教職員のメンタルヘルスを守ることが大切です。
▽
①喪失とトラウマ
○担任教師にとって子どもが亡くなることは「喪失」体験であり、平均的な同級生よりも
大きなショックを受けることでしょう。本人もまわりの教職員もそのように認識しておく
必要があります。
○ 教 職 員 自身 が 被 害 を 受け た り 、 危う く 受 け そう に な っ た り( 未 遂 )、 蘇生 な ど の対 応を
したり、惨劇を目撃した場合には、教職員にトラウマが生じ得ます。
- Ⅰ-11 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
②代理受傷
○被害を受けた子どもの話を聞いたりすることで、教師自身がダメージを受けてしまうこ
とがあります。
③現実のストレス
○校長、教頭、当該担任教師、養護教諭など、矢面に立ったり、仕事が集中する教職員は
強いストレスに曝されます。
④信頼の喪失
○危機対応がうまくいかず、学校が信頼を失ってしまうと、ボディーブローのように教職
員からやる気を奪ってしまいます。
⑤元々の問題
○例えば、肉親の死から日が経っていない場合は、悲しみが重なってしまうことがありま
す。また、うつ病などの既往のある教職員は、過重な負担とならないような配慮が必要で
す。
自分でできるストレス対策
○いろいろありますが、ポイントを整理してみました。
<オリジナル>
①少し体を動かしてみよう
②休養と睡眠を意識してとろう
③無理のない範囲で日常生活(食事、睡眠、趣味など)を維持しよう
④誰かに自分の話を聴いてもらおう(秘密を守れる仲間や専門家)
④寝酒の量が増えないようにし、不眠が続けば受診を
学校としての対応
○個人できることには限界があります。例えば、負担が集中する当該クラスの担任教師に
は次のようにしてみてはどうでしょうか。場合によっては「ドクターストップ」もありえ
ます。
担任教師へのサポート
①担任でなければできないことに集中し、他の負担を軽減する
②他の教師が支援に入ることで、クラスへの関わりは手厚くする
③担任は専門家のサポートを受ける
△
- Ⅰ-12 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
学 校コミュニティーにおける心のケア
ここまでは個人レベルで見てきましたが、学校全体ではどうでしょうか。
ア 3種類の支援対象
教師、保護者、子ども
支援する側から見ると、ケアの対象には、教師、保護者、子どもの3つがあります。教
師は、ケアの担い手であるとともに、ケアの受け手でもあります。
子どもへの直接アプローチと間接アプローチ
子どもを最終的な支援対象者と見た場合に直接アプロ
保護者
子ども
ーチと間接アプローチがあります。
専門家による「心のケア」というと、大勢の子どもた
教 師
ちを順番にカウンセリングをしているイメージを持つか
もしれませんが、必ずしもそうではありません。
専門家
専門家はまず教師をしっかりサポートします。教師の
◆図 子どもへ直接か間接か
安定を図り、子どもへ適切な対応方法を身につけていた
だきます。また、学校を通して保護者の安定を図り、子どもへの適切な対応方法を伝えま
す。被害を受けなかったり目撃しなかった子どもたちの多くは、専門家が直接アプローチ
せずに間接アプローチで安定することが期待できるからです。
重症度による違い
次の3つのどれに近いかを見極める必要があります。
・本格的治療が必要な場合は外部の医療機関等を受診
・間接アプローチのみで不十分なら校内で専門家によるケア
( ただし、CR Tは応急処置のみ )
・間接アプローチ (教師や 保護者の適切 な対応) によるケア
イ 学校という「場」のケア
アの「直接アプローチと間接アプローチ」を少し言い換えたものです。
子どもを取り巻く環境
専門家による「場」のケアと「個」のケア
(学校)
子どもの年齢が小さければ小さいほど子どもを取り
巻く環境の影響が強くなります。
子どもを取り巻く教師(や保護者)の安定を図り、
子どもへ適切な対応をしていただくという間接アプロ
ーチが「場」のケアです。専門家が教室や保健室に入
「個」のケア
「場」のケア
ってサポートすることも「場」のケアと呼んで良いで
しょう。
学 校 の 中で こ う い っ た「 場 」 の ケア を す る こと に よ り 、「 個」 の ケ アの ウ ェ イ トを 減ら
- Ⅰ-13 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
すことが出来ます 。いくら「 個 」のケアをしても学校という「 場 」が安定しない限り 、
「個」
の ケ ア だ けで は 効 果 が 不十 分 と な りま す 。“ 衛生 状 態 を 改善 し な い 限 り、 次 々 に 発生 する
伝染病患者を個別に治療してもキリがない 。”と例えることが出来ます 。急がば回れです 。
▽
重症度による違い
重度
「個」のケアから始める
被害程度の軽いケースは「場」の
↑
(多くは外部の医療機関)
ケア中心で、必要に応じて応急処置
中度
「場」のケアを基本とし、「個」のケアを加える
としての「個」のケアを行えば良い
と考えられますが、被害程度の重い
↓
「場」のケアを中心とする
軽度
(専門家による個別ケアはあまり要らない)
ケースは「個」のケアが中心になり
ます。重いケースの場合は、学校に
来ることができない場合も多く、医療機関などで治療を受けることになります (カ ウン セラ
ーの 訪問というス タイルには限 界があります)。
▽
個別と集団
特に説明は要らないと思いますが、個別に行うものと集団で行うものとがあります。具
体的な支援内容で言うと、下記のようになります (ただし 、代表的なも ののみ)。
対 教職員
大
集
団 -
対 保護者
保護者会
中~小集団 心理教育(全教師)
心理教育
グループワーク
個別相談
個別相談
個
別
対 子ども
学年集会
クラス活動、保健室活動
グループワーク
個別相談
合同面接
ウ 学校の「中」か「外」か
学校でできる「こころのケア」の限界 -本格的治療は学校の外で!
学校は、子どもにとって「安心・安全」な生活の場であることが第1であり、本格的な
治療の場ではありません。治療のために学校本来の性格が変えられることはいいことでは
ないと考えられます。
本格的な治療は外部の医療機関などで行う必要があります。特に入院や薬物治療が必要
な場合は医療機関へかかることが不可欠となります。また、身体症状(頭痛、体調不良、
食欲不振、腹痛等)を訴える場合が多いため、最初は一般医療機関(小児科や内科など)
のほうがかかりやすいかもしれません。
心理カウンセリングについても、本格的なセラピーは学校内で行うことはできません。
外部で行うことのメリットは100%その人の立場に立ちやすいことです。逆に学校との連携
が図りにくくなることなどがデメリットとなります。
▽
学校内で専門家がケアする意味
学校の中では本格的なセラピーはできないのですが、学校との連携がとりやすいところ
がメリットです。クラスへの復帰(リハビリ)などで、クラスメートの協力を得るといっ
たことがやりやすくなります。
中か外かの二者択一ではなく、本格的な治療が必要であれば外部の専門機関でそれを行
- Ⅰ-14 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
い、学校という環境へのリハビリの部分を学校内で行うというのが良いでしょう。
▽
留意点
●学校内で継続的に心のケアを行う場合は、学校や教育委員会が専門家を確保する必要が
あります。
○学校への不信感があるような場合は、学校の提供する援助を利用してもらえないことが
あります。
○専門家によるケアだけでなく、授業など教師による日常活動の中で自然に行われるケア
が大切であることは言うまでもありません。
エ 中長期のケア
時期の区分
○このテキストでは以下のように区分します 。緊急対応の3日間がCRTの活動期間です 。
警察の事情聴取やマスコミの集中取材はこの間ですし、葬儀があればこの間に行われるの
が一般的です。3日というのが1つの区切りになります。
○いじめなどの背景の問題は 、時間が経ってから出て来ることもめずらしくはありません 。
○小さな事件であれば1カ月よりも前に、かなりの事件でも危機的状況はおおむね6週間
ぐらいで収まってきます。PTSDの診断基準が1カ月となっているのもこういったとこ
ろからでしょう。逆に言うと、6週間以内に落ち着かないケースについては、しばらく時
間がかかることが予測されます。
緊急対応
初期対応
3日
1週
中期対応
長期対応
1カ月
(2カ月)
アフターケアの人員
●目安をまとめてみました。レベル(→Ⅰ-2(1)ア)はあくまで急性期の危機対応のレベ
ルですから、4日目以降の心のケアの態勢とは必ずしも一致しません。あくまで目安とお
考えください。
<オリジナル>
◆表 アフターケアにおける派遣人数の目安(4日目から1週間)
レベル
教育委員会の支援 必要とするSC(スクールカウンセラー)
レベルⅣ
しばらく職員派遣 5人以上で毎日
レベルⅢ強 しばらく職員派遣 2~3人で毎日
レベルⅢ弱 必要時に職員派遣 2人ペアで週2回程度
レベルⅡ
必要時に職員派遣 1~2人で週2回程度
レベルⅠ
なし
SC非配置校は必要時
※4 日目以降とり あえずこれだ けの人員を確 保しましょう 。1週間以降 は状況を見て 判断します。
○ 「 場 」 のケ ア を し っ かり 行 う こ とで 、「 個 」の ケ ア の 必要 量 を 減 ら すこ と と 、 医療 機関
等で行うべき治療を学校の中で行わないことにより、効率的なケアを心がけましょう。
○危機対応(→Ⅰ-2)は可能な限り「短期決戦」をめざす必要がありますが、心のケア
は「短期決戦」というわけにはいきません。
- Ⅰ-15 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
個人差
○心のケアにおいては、学校コミュニティ全体と個別を分けて考えてください。
○回復に個人差があることに注意しましょう。少数の子どもは回復が遅れます。学校やク
ラスが普段通りに戻っても、長目のケアが必要な子どもがどうしてもでてきます。十分な
配慮をしないと、孤立を深めることにもなります。
○教師の間でも、事件のあったクラスとそうでないクラスとでは温度差が出てきます。
○ 個 人 差 への 配 慮 不 足 は二 次 被 害 につ な が り ます 。 多 数 意 見で は な く 、「1 番 つ らい 人の
ことを考えてあげる」という雰囲気を作り、保つことが大切です。心の痛みを経験したか
らこそできる配慮かもしれません。
長期ケアの保障は難しい
○長期ケアとは、1(、2)カ月以降のケアのことです。個別カウンセリングを中心に、
スクールカウンセラーが週1日でできるぐらいであれば、対応可能かと思いますが、それ
以上になると、特に地方では人材確保が難しいのではないでしょうか。
○大きな事件になると 、単に個別のカウンセリングだけではなく 、クラス活動のサポート 、
記念日や卒業式への対応、発生場所をどうするかなど、様々な課題があります。しかし、
こういった問題へ継続的にアドバイスできる専門家の確保は(特に地方の県では)困難な
のが実状です。
保 護者と 地域社会の役割
子ど も の 心 を 守る た め に 大切 な こ と は「 そ れ ぞ れ の責 任 を 果 たす 」「 自分の で きる こと
をする」ことです。子どもの心を守る第一線に立っているのは保護者であり、地域の方々
です。学校からは言いにくいことですが、学校・教育委員会や専門家に任せておけば良い
ということでは決してありません。
▽
推
薦
図
書
(第Ⅰ章)
藤 森 和美 編著 「学 校 トラウ マと子 どもの 心のケ ア 実 践編 学校教 員・養
護 教 諭 ・ ス ク ー ル カ ウ ン セ ラ ー の た め に 」 誠 信 書 房 , 2005年 . 2,600円 +
税
金吉晴編「心的トラウマの理解とケア
(専門家向け)
第2班」じほう,2006年.2,200円+税
- Ⅰ-16 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
被害とそれに対する「 心のケア 」についてはⅠ-1で解説しました 。今度は「 危機対応 」
という視点から見直します。CRTについてはⅠ-3で説明します。
学 校危機とは
危機の構造
ア 学校危機とは
危機とは
校内で殺傷事件などが起これば、学校は大混乱に陥ります。状況が十分つかめぬまま、
必死で対処しようとする矢先にマスコミが殺到し 、その対応で身動きができなくなります 。
そうこうしているうちに保護者からの問い合わせの電話が殺到しますが、適切な対応がで
きずに、混乱に拍車がかかり、保護者からの苦情の電話が鳴りやみません。二次被害が拡
大し、学校の対応のまずさを報道され、噂話が広がり、保護者と子どもの信頼を失い、訴
訟問題を抱えてしまいます。学校
◆図 危機の深刻化のモデル
は教育の場としての存在価値を失
い、教職員は自信を失ってしまい
(1次被害)
個人のダメージ
事 件 発 生
(2次被害)
ます。
「事件発生=危機」ではなく、
教育の場として機能しない
不適切な危機管理
連鎖反応的に深刻化するのが危機
の特徴です。図にまとめてみまし
信 頼 を 失 う
法 的 責 任
た。
このように、個人であれば「自
分 の 存 在 価値 」「 生 きる 意 味 」 な どに 疑 問 が 生じ 、 組 織 であ れ ば 「 組 織の 存 在 意 味」 が問
われかねない事態が危機と言えますが、このテキストではやや広くとらえ、 組織や個人が
「対処できない」と感じるような事態 を“危機”としています。
リーダーにとっての危機
○ 校 長 な どリ ー ダ ー に とっ て の 危 機と は 、「 判断 で き な い状 況 で 次 か ら次 へ と 判 断を 強い
られる」ことと表現することができます。
リーダーにとっての危機
・不十分な情報
・次に何が起こるかわからない
・考える時間すら無い
(・対応ノウハウを持たない)
このような状況下で
意思決定を強いられる
▽
○さらにこれに責任問題が絡んでくるため、迷いが生じてきます。
- Ⅰ-17 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
危機管理と危機対応
このテキストでは、危機発生直後からしばらくの事後対応を「危機対応」と呼び、未然
防止など平時の態勢を含めて「危機管理」と呼ぶことにしています。
学校危機のレベル分け
学 校 や 子ど も に 関 す る事 件 や 事 故は 毎 年 発 生し て い ま す 。地 震 の 震 度に 倣 っ て 、「 学校
への衝撃度」を段階にわけてみたのが次の表です。
レベルⅣは全国的に年1~2回の事案ですが、レベルⅢは各県毎年1回以上は起こるよ
うな事案です。多くの場合、学校に取材があります。
◆表
学校危機対応のレベル(新基準)
●学校管 理下
○学校管 理外
事件規模
レベル
事 案 例
Ⅵ ●北オセアチア共和国学校テロ
大 規 模
Ⅴ ●大阪池田小事件
●佐世保市の小6殺害事件(全国マスコミ殺到)
●寝屋川市教師殺害事件(〃)
Ⅳ ●仙台ウォークラリー事故、3人死亡、20人以上重軽傷(〃)
●京都宇治小侵入傷害事件(〃)
●光高校爆発物事件、数十人救急搬送(〃)
中 規 模
Ⅲ強 ●校内での飛び降り自殺、目撃多数、学校に報道殺到
●小学校のプールで水死、児童目撃多数、学校に報道殺到
Ⅲ弱 ●児童の列に車、1人死亡、2人怪我、目撃数名、学校に報道多数
○親子心中事件、学校に報道多数
-
小 規 模
Ⅱ ○親子心中事件、学校に取材無し~僅か (旧基準で はレベルⅢ )
○自宅での自殺、学校に取材無し~僅か
●体育中に児童が倒れ、搬送先の病院で死亡
○夏休み中に川での水の事故、複数児童目撃
小規模以下 Ⅰ ○家族旅行中の交通事故で児童死亡
○自宅で家族の自殺を児童が目撃
※特定個人・家族にとっての衝撃度ではなく、あくまで学校・学級の衝撃度(急性期)で段階を付けている
点に注意してください。学校・学級としてはそれほどでなくても、個人・家族にとっては大変な事案はいく
らで もありますか ら。
イ 平時と危機時
平時と危機時の区別
学校には「校務分掌図」のような組織図があると思います。これは平時における学校の
「日常活動」を効率よく行うための組織です。一部に機能不全箇所があったとしても、そ
れはそれで日々の活動は何とかなるものです。しかし、危機時には機能不全箇所が致命的
になりえます。エアバックが壊れていても、普段の運転には全く支障がありませんが、衝
突事故を起こしたときには生死を分けることになりうるのです。
危機時には、全体の指揮、記者会見、緊急保護者会などの「危機対応」と、動揺してい
る多くの子どもの「 心のケア 」という普段はあまり必要のない新たな対応が求められます 。
これらに対応できる態勢が必要となります。
- Ⅰ-18 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
▽
危機時の学校と教育委員会の役割
危機時に新たに発生する学校と教育委員会の役割をまとめてみました。
危機時の学校の役割
危機時の教育委員会の役割
心のケア ・教師を通しての関わりがまず第一
・スクールカウンセラーの追加派遣
・ 必要に応じてスクールカウンセラー
など専門家を確保する
や外部の医療機関を活用
日常活動 ・教師が本来の役割を果たす
・必要あれば臨時に教師を補充する
(日常活動の安定が心のケアの土台)
危機対応 ・管理職中心に取り組む
・十分な人数の職員を派遣し、
危機対応を支援ないし代行する
こころのケアの土台は危機対応
学校で侵入者による傷害事件などが発生すると、パニ
心のケア
2階
ックを起こした子どもへの対応に教師は奔走し、管理職
は殺到するマスコミの対応に忙殺され、こころに傷を受
けた子どもたちへ適切な対応がとれずに、二次被害が広
日常活動
1階
がってしまいます。
危機対応
基礎
危機対応がしっかりとなされ、学校の日常活動が安定
しない限り、心のケアはできないのです。震災の場合でも、生命の安全が守られ、食事な
どが提供されて、初めて心の問題を扱うことができるのです。
危機対応のポイント
1 )「平時モード」から「危機対応モード」に即切り替える。
2 )「危機対応」に必要な十分な人員を教育委員会等が即派遣する。
3 )「心のケア」などのために専門家の支援を受ける。
▽
危機が起こっているのに平時の方法で対応しよ
うとしているのをしばしば見かけます。
人間は自分のやり方でうまくいかないときに、
や り方を変えようとはせずに、自分のやり方で2
倍 、3倍頑張って乗り切ろうとします 。その結果 、
消 耗するばかりで、事態はどんどん悪くなるとい
う 「悪循環」や危機の「連鎖反応」を引き起こし
てしまうのです。
平 時 の
改善へ
対応方法
悪
化
危機時の
対応方法
◆図
改善へ
危機の悪循環・連鎖反応
危機対応と心のケア
学校管理職や教育委員会が中心になって対応するのが「危機対応」で、クラス担任、学
年主任、教育相談、養護教諭らが中心になって対応するのが「心のケア」と考えると良い
でしょう。人によって分け方が違うと困るので、このテキストでは、以下のように区別し
- Ⅰ-19 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
ています。あくまで人為的な区別です。
危機対応
[1]危機対応態勢と計画
心のケア
心のケア
[6]心のケア態勢と計画
[6]心のケア態勢と計画
状況把握、対応態勢確保、関係機関との連携、学
ケア 態勢とケア会 議、ケースの 統括等
[7]子どもと家庭へのサポート
[7]子どもと家庭へのサポート
校行事等の調 整等
[2]遺族への対応と喪の過程
[3]保護者への対応
気に なるケースへ の関わり、面 接、電話
[8]教職員へのサポート
[8]教職員へのサポート
PTAとの 協力、保護者 会、保護者向け 文書等
[4]マスコミ対応
[5]警察との連携と学校安全活動
教職員への教育、助言、ケア、クラスや保健室へ
のサポート、子どもへの伝え方、クラスでの喪の作
業等
△
危 機管理の基本方針
strategy
▽
危機管理では、基本方針をしっかり持っておくことが大切です。ここでは4つ(目的、
達成 目標、態勢、 流れ) に分けて説明します。
ア 危機管理の目的
危機管理の目的 ▽
○何のための危機管理・危機対応なのか「目的」をハッキリさせておく必要があります。
迷った時はこの原点に戻ることで、対応がふらつくことを防止します。例として4つに整
理してみました。特に説明は要らないと思います。
○これらは一般論ですから、実際に発生した危機に対しては、それぞれの特殊事情に応じ
て修正が必要になるかもしれません (もっ とも、 考え る余裕 もな いでし ょう が)。なお、これは学
校を主語にした場合の「目的」の例です。主語が教育委員会の場合は、少し表現が異なる
かもしれません。
△
危機管理・危機対応の目的(例)
1)子どもと職員の体と心を守る
2)教育など学校本来の機能を維持する
3)子ども、保護者、社会からの信頼を保つ
4)危機からも学び、プラスに変えていく
▽
○頭が混乱した時は 、「子どもを守る」という1つだけを考えましょう。
▽
組織本来の目的
○「危機管理の目的」以前に、組織本来の目的、使命、理念といったものが明確になって
いなければなりません。危機に直面したときに、全力を挙げて守らなければならないもの
が何なのかが明確になっているでしょうか。組織の運営が常にその優先順位を意識してな
されているでしょうか。平時の土台の上に危機管理は成り立つものです。
- Ⅰ-20 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
○ リ ー ダ ー に と っ て 、 こ れ は 「 信 念 」、「 信 条 」 と 言 っ て も 良 い 内 容 で 、 こ れ が 浸 透 し て
おれば、危機に直面したときに進むべき方向を示してくれます。
イ 危機管理の達成目標
アで述べた抽象的な4つの目的を、少し具体的な「達成目標」に書き換えてみました。
1 )子どもと職 員の体と心を守る
①子どもと職員の安全が守られる
②二次被害の拡大が防止される
③心に傷を受けた人に支援が提供される
2 )教育など学 校本来の機能を維 持する
④学校の日常活動が平常に運営される
3 )子ども、保 護者、社会からの 信頼を保つ
⑤お互いの信頼が保たれる
4 )危機からも 学び、プラスに変 えていく
⑥互いに気遣い、助け合う関係が育まれる
⑦危機管理態勢が向上する
▽
①子どもと職員の安全が守られる
初動において子どもの生命を守ることが最優先課題となります。
②二次被害の拡大が防止される
周囲の不適切な対応や報道などによる二次被害の拡大を防止します。
③心に傷を受けた人に支援が提供される
いわゆる心のケアですが、専門家が行うケアだけではなく、教師による日常的な関わり
も含まれます。
④学校の日常活動が平常に運営される
これが維持できなければ、学校はその存在意義を問われることになります。
⑤お互いの信頼が保たれる
教職員、子ども、保護者同士のある程度の信頼関係が保たれなければ、学校というコミ
ュニティは成立しません。
⑥互いに気遣い、助け合う関係が育まれる
②③④に関係しますが、このような雰囲気を作っていくことが大切です。
⑦危機管理態勢が向上する
今回の危機を検証し、より良い危機管理態勢を構築していきます。
△
- Ⅰ-21 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
ウ 必要な態勢(マンパワー)
▽ では、これらの目標に近づけるためには、どのような態勢が必要なのでしょうか。まず
は人員の「数 」。次に「質 」。そして、人員を有効に活かす「組織力」です。
マンパワー
1)数の確保
2)質の確保
3)組織力
学校の対応能力(エネルギー)
1)数の確保
心のケア
不足
○危機発生により、学校は本来
の 「 日 常 活 動 」 に 加 え 、「 危 機
100%
危機対応
対応」と「心のケア」という新
ダメージ 心のケア
たな対応を求められます(図
危機対応
右 )。 し か し 、 学 校 は ダ メ ー ジ
日常活動
日常活動
日常活動
により対応能力(エネルギー)
が落ちてしまうため、十分な対
応 が で き ま せ ん ( 図 中 央 )。 こ
平 時
危機直後
必要とされる対応
の状況で例えばマスコミが殺到
すれば、それにエネルギーを割かれ、心のケアの余力は無くなってしまうわけです。
○どれもこれも不十分な対応で効果が無く、新たな危機を産み出し、必要とされる対応は
増えてしまいます。一方、現場は疲弊していき、対応能力(エネルギー)は枯渇し、混乱
が広まるという悪循環に陥ります。頑張っても頑張っても事態はますます悪くなるという
のが「危機」です。
○悪循環に陥らないように、まずこの不足分のエネルギーを外から来た支援者(教育委員
会、自治体、専門家など)が一時的に補うことから始まります。
◆表 人手(量)を増やす方法
方 法
欠 点
活動時間を増やす
職員が消耗する
日常業務を縮小して振り向ける 学校本来の機能が低下する(当初はやむを得ないが)
外から人を送ってもらう
(即戦力にならないこともあるが)
△
緊急対応(3日間)における必要人数の目安
○「 消防車1台で大丈夫と思って行ってみたら火の勢いが強くてあわてて増援を求めたが 、
その間に被害が広がってしまった」ということにならないようにしましょう。最初に1人
2人を惜しんだために、後々大きなツケが回ってくる。危機とはそういうものなんだと考
えてください。
●教育委員会は、十二分な人数を派遣するとともに、当面必要な専門家を確保する必要が
あります。人数の目安は以下の通りです。
<オリジナル>
- Ⅰ-22 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
◆表 派遣人数の目安(当初の3日間)
レベル
教育委員会等派遣職員 ※ 小規模校の場合
レベルⅣ
常時4人以上の実務者
レベルⅢ強 常時3人以上の実務者
左記に加え
レベルⅢ弱 常時2人以上の実務者
1~2人追加
レベルⅡ
常時2人以上の実務者
レベルⅠ
必要に応じて
必要とする心の専門家
15人以上( CRT他 ※※ )
10人以上( CRT他 ※※ )
6人以上( CRT他 ※※ )
2人以上(SC)
1人以上(SC)
※
朝 か ら晩 ま で 実 務 を 行 う 職 員 の 数 で あ り 、視 察 や 協 議 に 訪 れ た職 員 な ど は 人 数 に含 み ま せ ん 。 教育 委 員 会 職
員以 外に、自治体 の事務職員等 も含みます。
※※
CR Tの他に、S C(スクール カウンセラー )、自治 体の保健師等を 含んだ人数で す。
▽
2)質の確保
○教育委員会は実務の出来る優秀な人材を危機現場に派遣する必要があります。
○CRTのような危機対応の経験を積んだチームの派遣を要請しましょう。
○助言や指導を受けながら、短期間で教職員をトレーニングする必要があります。
○もちろん、質の確保のためには、適材適所に基づく平時の研鑽が不可欠です。
▽
3)組織力
○数と質が確保されても、統制のとれた動きができなければ、混乱を招いてしまいます。
リーダーシップがとても重要になります(→Ⅰ-2(5)危機時のリーダーシップ )。
○また、日頃から組織的に動けるような態勢を作り、訓練をしておく必要があります。
○日頃から全教職員が危機に際しては的確な行動をとれるようにレベルアップすることが
理想なのですが、これはあまり現実的ではありません。まずは、中核メンバーのレベルア
ッ プ を 急 ぎま し ょ う 。 これ を 「 校 内危 機 管 理 チー ム 」( 危機 管 理 チ ー ム) と 呼 び ます 。危
機管理チームは平時から態勢作りや研修などに取り組みます。平時の危機管理チームは、
校長、教頭、教務、総務、生徒指導、教育相談、学年主任、養護教諭、スクールカウンセ
ラ ー な ど で構 成 さ れ る のが 通 例 で すが 、 役 職 にと ら わ れ ず に 、「 で き る人 」 を 集 めま しょ
う。過去にCRTと協働した経験を持つ教職員に加わってもらいましょう。
△
校内危機管理チーム(危機時)
(図)
○危機時の校内危機管理チームには、上記に教育委員会職員や必要に応じて当該クラス担
任などが加わります。その時々で構成メンバーは柔軟に考えてください。
○だいたいこのメンバーが集まったら 、それを「 校内危機管理チーム会議 」
( チーム会議 )
と 呼 び ま す が 、「 は じ め に 会 議 あ
り き 」 で は あ り ま せ ん 。「 会 議 で
合 意を得 て物事 を決める」という
校内危機管理チーム
平時の感覚は捨ててください。
○ 実際に は校長 室付近にいる幹部
危機対応本部
ケア会議
職員会議
特別対策チーム会議
教 職員数 名と教 育委員会職員で協
議 するこ とが多 く、これを「危機
教職員(各班)
対 応本部 」と呼 ぶことにします。
◆図 危機対応モードにおける組織図
○ 心のケ アのほ うは養護教諭、教
育 相談、 スクー ルカウンセラー、
当該担任・主任などが随時集まって相談することになりますので、これを「ケア会議」と
呼ぶことにします。
- Ⅰ-23 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
○全員が集まる「職員会議」を、短時間でも良いので、危機時には1日3回程度開きまし
ょう。ただし、テーマを絞って手短にしないと、貴重な時間を浪費してしまいます。もっ
とも、小規模校では 、「チーム会議」=「職員会議」になってしまうかもしれません。
○原因究明や再発防止策を求められることが多いので 、校長直属の「 特別対策チーム会議 」
(仮称)をスタートさせましょう。本格的な活動は1カ月後からです。
▽
エ 危機対応の流れ
危機管理の流れ(概念図)
○ まず、危機対応と心の ケアでは、時間のスピード
が 異なっていることを理 解してください。心のケア
には長期間必要です 。(右図 )。
○ 危機管理の流れ(フェ イズ)を下の図のように整
理 してみました。危機発 生により学校は即「危機対
応 モード」へ移行します が、その後“段階的”に平
時 に 戻 し て い く こ と に な り ま す 。( 危 機 発 生 以 前 に 「 予
心のケア
危機対応
3日 1週
◆図
兆」 がある場合は 、「事前 行動」が必要 になります 。)
1月
半年
学校の危機対応と心のケア
○ また、平時に戻るとい うのは「以前に戻る」のと
は少し違います。今後の危機対応を向上させるための態勢の見直しや研修、未然防止の取
り組みなど、以前よりは一歩進んだ「平時の備え」を目指す必要があります。
○「達成目標」への取り組みの度合いを流れに当てはめたのが下の表です。細かい点はケ
ースバイケースとなりますが、一般論として大枠を理解しておきましょう。
危機対応
事後対応
危機 発生
事後 対応評価、背 景調査、防止 策
平時への移行
危機管理態 勢見直し、研 修
平時の備え
危機管理
危機管理の流れ
◆図
◆表
新たな備え
危機管理の流れと達成目標
目的と達成目標
平
時
事後対応
移行期
平
時
初動 CRT
1)子どもと職員の体と心を守る
①子どもと職員の安全が守られる
②二次被害の拡大が防止される
③心に傷を受けた人に支援が提供される
2)教育など学校本来の機能を維持する
④学校の日常活動が平常に運営される
3)子ども、保護者、社会からの信頼を保つ
⑤お互いの信頼が保たれる
4)危機からも学び、プラスに変えていく
⑥互いに気遣い、助け合う関係が育まれる
⑦危機管理態勢が向上する
- Ⅰ-24 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
初動での数時間
発 生 直 後の 数 時 間 で は 、「 ① 子 ども と 職 員 の安 全 が 守 られ る 」 こ と を最 優 先 目 標と し、
学校の混乱、取材や事情聴取などによる 「②二次被害の拡大が防止される」 こと、迅速で
適切な対応により 「⑤お互いの信頼が保たれる」 ことが目標になると考えられます。
CRTの3日間
CRTが展開する場合の 3日間 はどうでしょう。こころのケア( ③ )については、CR
T は 応 急 処置 に な り ま すの で 、 線 が細 く な っ てい ま す 。 む しろ 、「 ② 二次 被 害 の 拡大 が防
止される」 ことがCRTの重要な役割となります。CRT展開中は平常な日常活動ができ
る状況ではありませんが 、復帰の準備が始まります( ④ )。報道被害や風評被害を軽減し 、
「⑤お互いの信頼が保たれる」 ことを重視します。信頼を失えば平常な日常活動も心のケ
ア も 困 難 とな っ て し ま うか ら で す 。起 こ っ た 事態 に 一 丸 と なっ て 対 処 する 中 で 、「⑥ 互い
に気遣い、助け合う関係が育まれる」 ようにしていくことが大切です。いわゆる「原因解
明と再発防止策」は必ずしも急ぐべきではないのですがが、これを求められますので、着
手する必要があります( ⑦)。
事後対応の1ヶ月間
事件の規模にもよりますが、おおむね 1カ月 あたりまでが「事後対応」の時期です。基
本的にはCRT展開中に取りかかったことを継承します。CRTでは応急処置しかできな
かった心のケア、つまり 「③心に傷を受けた人に支援が提供される」 ことが本格的に行わ
れるのがこの時期です。傷ついた人に配慮しつつも 「④学校の日常活動が平常に運営され
る」 こととのバランスをとります。
引き続き 「②二次被害の拡大が防止される」 ことと 「⑤お互いの信頼が保たれる」 こと
に 注 意 を 向け 、「 ⑥ 互い に 気 遣 い 、助 け 合 う 関係 が 育 ま れる 」 雰 囲 気 を保 ち ま し ょう 。心
のケアへの影響の少ない部分では「原因解明と再発防止策」の検討を続けます( ⑦)。
移行期
被害を受けたり目撃するなどしなかった子どもの多くは回復しているでしょうから、
「③
心に傷を受けた人に支援が提供される」 のは対象者が絞られてきます。いまだに苦しんで
いる子どもたちに配慮しつつも「 ④学校の日常活動が平常に運営される 」ようになります 。
そうすることで 「⑥互いに気遣い、助け合う関係が育まれる」 雰囲気を保ちます。
学校全体が安定してきていることを見極めて、再発防止のための背景調査などに本格的
に と り か かり ま す 。 ま た、 今 回 の 対応 に つ い ても 検 証 を 行 い、「 ⑦ 危 機管 理 態 勢 が向 上す
る」 ように務めます。
平
時
移行期がいつ終わるのかは明確ではありませんが、学校の日常生活は(メモリアルを除
き ) 全 く 平常 に 戻 っ て いま す ( ④)。た だ し 、平 時 に 戻 って も 心 の ケ アが 必 要 な ケー スが
若 干 残 っ てい る こ と を 忘れ な い で くだ さ い ( ③)。 こ の 人た ち へ の 配 慮を 忘 れ な いこ とが
「⑥互いに気遣い、助け合う関係が育まれる」 ことに通じます。より良い危機管理態勢の
構築、研修などを行い 、「⑦危機管理態勢が向上する」 ように務めます。
- Ⅰ-25 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
危 機対応の実際
tactics
▽
(2)の基本方 針を具体化したのが(3)です 。ここでは3つ ( 手段 、 編成 、 行動 計 画) に分けて
説明します。
ア 危機対応の手段
▽
手段と達成目標、目的の関係
図
このテキストでは、危機対応と心のケアの手段を次の[1]から[8]に分けています。これ
らは(2)イの達成目標と1対1では対応していません。無理矢理対応させると次の図のよう
に な り ま す ( 理 解 す る 必 要 は あ り ま せ ん が )。 た と え ば 、 [4]マ ス コ ミ 対 応 を 例に と る と 、マ ス
コミ対応に忙殺され本来の活動が阻害されるのを防ぐ(④)ために記者会見を設定し、取
材 に よ る 二次 被 害 を 防 止し ( ② )、 風評 被 害 を防 ぐ ( ⑤ )な ど 、 複 数 の目 標 を 含 んで いま
す。現場では具体的な「手段」を講じていくわけですが、本来の目的や目標を見失わない
ようにしましょう。
◆表
手段と目的、達成目標の関係 (少々 こじつけです が)
4つの目的
1)体と心
2)日常活動 3)信頼
4)プラス
7つの達成目標 ① 子 ど も ② 二 次 被 ③ 心 に 傷 を ④学校の日常 ⑤ お 互 い ⑥ 互 い に 気 ⑦ 危 機 管
と 職 員 の 害 の 拡 大 受 け た 人 に 活動が平常に の 信 頼 が 遣 い 、 助 け 理 態 勢 が
安 全 が 守 が 防 止 さ 支 援 が 提 供 運営される
保たれる 合 う 関 係 が 向上する
られる
れる
される
育まれる
8つの手段
[1]危機対応態勢と計画
[2]保護者への対応
[3]遺族への対応と喪の過程
[4]マスコミ対応
[5]警察との連携と学校安全活動 ○ 初動
[6]心のケア態勢と計画
[6]心のケア態勢と計画
[7]子どもと家庭
[7]子どもと家庭へのサポート
へのサポート
[8]教職員へのサポート
[8]教職員へのサポート
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
▽
学校危機対応実務における3つのポイント
図
もう少し実務的にまとめてみましょう。次の3つを覚えてください。
学校危機対応実務における3つのポイント
a)子どもの安全確保(初動 [5])
b)3つの優先課題(遺族 [2]・重度被害者、保護者 [3]、マスコミ [4])
c)情報管理 [1]
- Ⅰ-26 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
▽
a ) 子 ど も の 安 全 確 保 …初動での最優先課題
図
「 子 ど もの 安 全 確 保 」、特 に 生 命を 守 る こ とが 最 優 先 課題 で あ る こ とは 自 明 で すが 、 多
くの怪我人や病人が発生し、救急車が3台以上来る ような場合には、以下の事項に注意が
必要となります (実現 はなかなか困 難ですが)。
<copy>
子どもの安全確保
1)防御、避難、応急処置
2)校内でも搬送先(病院)でも大人が付き添っていること
・搬送された子どもへの対応 (携帯電話必携)
・校内にいる子どもへの対応
3)子どもの所在と安否を把握し、確実に保護者へ引き継ぐ
・子どもの所在と安否を把握
・保護者への連絡
・保護者からの問い合わせへの対応
・子どもを保護者に引継
▽
b)3つの優先課題
図
子どもの安全確保の次に、危機対応上優先すべきは次の3つです。①遺族や重度被害者
への対応は急ぎます。特に学校管理下の事案であれば、すぐに現地(病院等)に校長や担
任 は 向 か い ま し ょ う ( も ち ろ ん 、 そ れ が で き な い 状 況 も あ り 得 ま す が )。 ② 保 護 者へ の 対 応 (緊 急
保護者会等)や③マスコミ対応(緊急記者会見等)については、少し準備(情報管理)が
必要になります 。手分けして準備を始めましょう 。①②③のいずれも初日に集中しますが 、
どれも手が抜けません。
3つの優先課題
①遺族や重度被害者への対応
②保護者への対応(保護者会、PTA)
③マスコミ対応(記者会見)
- Ⅰ-27 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
▽
c)情報管理
図
目立たない活動ですが、危機対応においては、いかに正確な情報を迅速に集めるかが、
正しい判断のために不可欠です。また、風評被害や「隠している」と非難されないように
積極的な情報発信が求められます。
情 報 管 理
1 事実と推測・解釈とを明瞭に区別する(正確)
2 情報伝達では通常ルートのスキップを認める(迅速)
3 出せる情報と出せない情報を識別し 、出せる情報は積極的に出す( 情報発信 )
1 事実と推測・解釈とを明瞭に区別する(正確)
○尾ひれがどんどんついていく「伝言ゲーム」にならないように、事実を事実として正確
に 伝 え る こと が 重 要 で す。 特 に 、 第一 報 は 混 乱し て い る こ とが し ば し ばで す 。「 聞い たま
まを伝えます」と断って、そのまま連絡しましょう。それから、誤解を招く略語などは使
わないことです。
○ 情 報 は 100% 信 用 し な いこ と で す 。で き れ ば 、 別ル ー ト か らも 情 報 を 入手 し ま し ょう 。
○基本的に「情報は不十分」であるという認識を持ってください。判断に必要な情報の2
~3割と思ってください。不十分な情報の中で決断をしなければならないわけですから、
「もしも○○だったら○○する」という代替プランが必要となります。
2 情報伝達では通常ルートのスキップを認める(迅速)
○ 平 時の ルー トで 情 報を 上へ 上げ て いる と 、「 報道 で先 に知 る 」、「 知る前 に マスコ ミに聞
かれる」という事態を招きます。
●重要かつ緊急の情報は、通常の伝達ルート(中間段階)をスキップして責任者に伝えて
良いのだということを徹底しておきましょう。もちろん、直後にスキップした上司には伝
える必要があります。スキップされた上司が部下を叱責してはいけないのです。特に教育
委員会においてはこれを徹底しておかないと、情報よりも先にマスコミが殺到することに
なります。
○ 5 W 1 Hは 大 切 で す が、 そ れ に こだ わ っ て いる と 遅 れ ま す。 ま ず 一 言「 火 事 で す 」「 校
内で殺人事件です」という言い方のほうが速く伝わります。
○もちろん、事実と自分の判断は分ける必要がありますし、中間段階の人は「聞いた通り
を伝えます」と前置きして、そのまま伝えることが大切です。
3 出せる情報と出せない情報を識別し、出せる情報は積極的に出す(情報発信)
情報発信がとても重要です。b)の3つの優先課題に対処するための基礎となります。
以下にポイントをまとめてみました。情報管理がちゃんとできている組織はほとんどない
と言って良いでしょう 。完璧を目指す必要はありませんが 、ここがしっかりしていないと 、
労苦が報われないのです。
- Ⅰ-28 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
情 報 発 信 の 流 れ <オリジナル>
【危機管理班(情報担当)】
各種情報
(1)内部用事実
(支援者・教師共有用)
①事故・事件の概要 *統計データ
②対応経過
(③今後の計画)
文書や保護者会【保護者班】
(4)保護者への伝え方
(2)公表用事実
(保護者・マスコミ用)
(3)関係者の確認
各クラスや学年集会【子ども班】
(5)子どもへの伝え方
①事故・事件の概要 *統計データ
②対応経過
③今後の計画
①事故・事件の概要
②対応経過
③今後の計画
(通夜や葬儀のご案内)
記者会見と文書【報道対応班】
(6)マスコミへの伝え方
①事故・事件の概要
1)直後にどう伝えるか
①事故・事件の概要 *統計データ
②対応経過
2)クラスでどう伝えるか
②対応経過
③今後の計画
3)学年集会でどう伝えるか
③今後の計画
④専門家(CRT等)から
*統計データは、怪我の程度別人数、搬送・入院数、 ④専門家(CRT)から別文書で
「心と体の反応について」 出欠席・遅刻・早退数、保健室利用状況など。
「取材や報道へのお願い」
◆図
情報発信の流れ(概念図)
(1)内部用事 実
●現時点で学校 ・教育委員会 、専門家(CRTやスクールカウンセラー)で共有する 情報を文章化し ます。
①事故・事案の概要 ( *ケガ 人 、保健室利用者 、専門家 が面接 、欠席者などの 統計データ も )
②対応経過
(○月○日○ 時○分現在)
(2)公表用事 実 …そ の後 も毎日最低1 回は書き換え る必要があり ます
●(1)を元に 公表用に文章化 します。以下 の点から、内 容と表現をチ ェックしましょ う。
○プライバシ ーへの配慮が 十分なされてい るか ○遺 族の心情への配 慮がなされ ているか
○こころのケ アの立場から 問題ないか
○保 護者の立場から 問題がない か
○広く公表さ れた場合に問 題ないか
○一 部の人を責める ようでない か
●必要あれば 、「簡略版」も 作ります。
(3)関係者( 遺族他)の確認
●(2)公表用 事実(あるいは 、(4)(5)(6))につい て遺族や関 係者 の了解を得 ましょう。
○既に報道されていることや、教師や多くの子どもたちが直接見た事実については、了解がな
いと公表できな いわけではあ りませんが 、可 能な限り了 解を得ましょう 。
○当然、関係者 から聞いた情 報については関 係者の了解 無しには公表で きません。
●最初の確認ではできませんが、通夜や葬儀への教職員や子どもや保護者の参列についての意
向を確認する必 要があります 。意向が変わっ てくること があるので 、そ のつもりで 。
○関係者へ真っ 先にお知らせ しないと、他の 保護者やマ スコミを通じて 伝わること になります。
(4)保護者へ の伝え方(文書 や保護者会)
○保護者に先に 知らせ、子ど もにどう向かい 合ったら良 いかを示すのが 理想です。
○「報 道が 第一報 」とい うの もやむを得ま せんが、学校 側が積極的に情 報を出して 行かないと、
「隠蔽体質」と いうことで、 信頼を失い、う わさ話のほ うが真実味を帯 びてきます 。
● 文書には ①②③に加え、 ④専門家か らコメントをも らうと良いでし ょう(専門 家のチェックを )。
●③には、行事 の変更、今後 のケア態勢、葬 儀のご案内 なども入ってき ます。
(5)子どもへ の伝え方(クラ スや学年集会 で)
○教師がきちん と伝えないと 、子どもは想像 を巡らせ、 うわさ話が広が ります。
○もちろん、子 どもの理解力 やダメージ(特 に当該クラ ス)を考慮して 言い方を考 えます。
●公表用事実の ①を元に、子 どもにどう伝え るか、各ク ラスでメモを作 成します。
●学年集会等で 校長がどう話 すかもメモを作 成します( 3分以内でサラ リと )。
(6)マスコミ への伝え方(記 者会見と文書 )
●①②③につい て、保護者と マスコミへ伝え る内容は、 原則として同じ です。
● 正 確 に 伝 え て い た だ く た め に 、 な る べ く 文 書 を 用 意 し ま し ょ う 。( も ち ろ ん 、 文 書 と 口 頭 で は 若
干異なります 。例えば、文 書では死亡の事 実だけを伝え、 口頭で自殺と 伝えるという ように 。)
●CR Tか ら文書 を出す 場合 、学校とは別 の紙にし、立 場の違いを明白 にする必要 があります。
取材や 報道 へのお 願いの みな らず、ケアの あり方やCR Tの説明なども 必要あれば 加わります。
●想定質問に対 する予定回答 のメモ等も必要 です。
- Ⅰ-29 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
イ 必要な編成(班)
▽
班編成(役割)について
図
○学校本来の「日常活動」は平時の学校組織で対応しますが、危機によって新たに必要が
生じた「危機対応」と「心のケア」の「8つの手段」を効率よく分担して当たるための班
編制が次の図です。(まだま だ不完全なモデ ルで研究が必 要です 。) <オリジナル>
危機管理班
危機対応
本部
保護者班
( 校長 ・ 教頭 )
報道対応班
校内危機
管理チーム
職員会議
特別対策チーム会議
ケ ア
会議
総務・教務、生徒指導、事務長などを中心に
責任者の補佐、情報管理、日程調整、庶務統括
PTAとの連携、保護者会開催、遺族や被害児の
保護者への窓口
マスコミへの窓口、記者会見の準備・補助
学校安全班
生徒指導を中心に登下校の安全確保、警備、
警察との窓口
ケ ア 班
養護、教育相談、スクールカウンセラー等により
心のケアの統括
子ども班
各学年主任、担任を中心に子ども
への対応全般
教職員班
教職員へのサポート
原因究明や再発防止策の検討
▽
○全教職員はどこかの班に所属します。2つの班兼任のこともあります。特に所属のない
教職員は危機管理班に所属します。(報道対応班 と教職員班は 置けないでし ょう)
○小規模校の場合でも、2つの班を1つの班にするのではなく、教職員が2つの班を兼ね
るという形にしてください。班の構成を変えると、CRTとの協働がしづらくなります。
○ 役 職 名 では な く 、 教 職員 の 固 有 名詞 が 下 の 表に 明 記 さ れ (最 新 情 報 を更 新 )、 全教 職員
が自分の危機時の役割を知っていることが不可欠です。もちろん、研修が必要です。
<オリジナル>
◆表 校内危機管理チーム 分担例
班
担 当 (例)
所属職員 (例)
1 責任者
校長、教頭 *
危 2 危機管理班 危機管理担当 管理職 *
教務、総務、生徒指導、他教職員
機
情報担当
管理職 *
対
庶務担当
事務長
事務職員 *
応 3 保護者班
保護者担当
教頭 *
個別担当
*
協力教職員
4 学校安全班 学校安全担当 生徒指導
協力教職員 *、(警備員)
5 報道対応班 報道対応担当 校長、教頭、総務 *
報道窓口担当 *
協力教職員
心 6 ケア班
ケア担当
養護教諭
養護、教育相談、スクールカウンセラー
の
ケ 7 子ども班
学年担当
全学年主任
全担任教師
ア
8 教職員班
*印は 教育委員会職 員が入るとこ ろ(例)
校内危機管理チーム
「校内危機管理チーム」は、責任者、各班の担当などで構成します。危機時は、教育委
員会職員、必要に応じて当該クラス担任等を加えます。
- Ⅰ-30 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
手段と班の関係
手段(タテ)と班(ヨコ)とはだいたい1対1に近い関係にはなっています。
◆図
教職員活動メニューの2次元構造と階層構造
2 危機管理班
3 保 護者班
4 報道対応班 5 学校安全班 6 ケア 班
7 子ども班
8 教職員班
[ 1 ] 危 機 対 応 (1)状 況 把 握
態勢と計画
と情報管理
(2)危 機 対 応
態勢
(3)危 機 対 応
計画
(4)庶 務 の 統
括
[2]保 護 者
への対応
(1)保 護 者 へ
の伝え方
(2)保 護 者 会
とPTA
個別対応は
(4)(5)↓
[3]遺 族 へ
の 対 応 と
喪の過程
(3)遺族への対
応と喪の過程
ケアは (4)↓
[4]マ ス コ
ミ対応
クラスでの
喪の過程は
(2)
(2)↓
(1)マ ス コ ミ
対応の基本
(2)報 道 対 応
担当
(3)責 任 者 の
報道対応
(4)報 道 窓 口
担当
[5]警察と
の連携と学
校安全活動
(1)警 察 と の
連携
(2)学 校 安 全
活動
(3)生徒指導
[6]心
[6]心の
のケ
ケア
ア
態勢と計画
態勢と 計画
[[77]]子
子ど
ども
も
と
と家
家庭
庭へ
へ
の
サ
ポ
ー
の サ ポ ー
ト
ト
(( 11 )) 心
心の
の
ケア態勢
ケア態勢
(( 22 )) 心
心の
の
ケア計画
ケア計画
(4)気 に な る ケ
ースへの対応
(( 44 )) 気
気に
に
な
なる
るケ
ケー
ー
ス
へ
の
対
スへの対
応
応
(( 55 )) 相
相談
談
態勢
態勢
(5)相談態勢
[[88]]教
教職
職員
員
へ
の
サ
へ の サポ
ポ
ート
ート
(( 33 )) 保
保健
健
室
、
教
室 、 教育
育
相談
相談
(4)気
(4)気に
にな
なる
る
ケ
ケー
ース
スへ
への
の
対応
対応
(5)相談態勢
(5)相 談態勢
(1)子
(1)子ど
ども
も達
達
への伝
え方
への伝え方
(2)ク
(2)クラ
ラス
スで
で
の喪の
過程
の喪の過程
(3)活
(3)活動
動サ
サポ
ポ
ート
ート
(1)教
(1)教職
職員
員へ
へ
の助言
、ケ
ア
の助言、ケア
(2)教
(2)教職
職員
員へ
へ
の心理
教育
の心理教育
(3)活
(3)活動
動サ
サポ
ポ
ート
ート
[1][2][3]…; 手段、123 …;大項目(班 )、(1)(2)(3)…;中項目 (小項目は省 略)
△
- Ⅰ-31 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
operations
▽
ウ 主要行動計画
例えば、緊急保護者会を開くとすると、PTA役員との協議、保護者への連絡、校長の
話の用意、専門家の講話、文書作成、会場準備、車の誘導など様々な役割があります。保
護者班だけで取り組めることではなく、全校挙げて取り組む必要があります。役割の分担
と時系列での組み立てが必要になります。このような大がかりな「行動計画」には次の5
つがあります。
1)安全確保
直後に子どもの命を守り、安全を確認し、確実に保護者の元へ返すという一連の流れで
す。これだけは起こってから計画をたてる時間がありません。
2)喪の過程
遺族の意向を確かめながら、学校として葬儀への関わり方を決めていき、保護者へお知
らせし 、各クラスで子どもと準備をし 、葬儀へ参列します 。葬儀後も喪の過程( プロセス )
は続きます。
3)保護者会
PTA役員との協議、保護者への連絡、校長の話の用意、専門家の講話、文書作成、会
場準備、車の誘導などです。
4)報道対応
大きな事件の場合は何回も記者会見を開く必要があります。資料や文書の用意、想定質
問、会場の確保など準備が必要です。報道対応には現場の教職員(ケア班や子ども班等)
は直接関与しません。
5)学年集会
子どもへどう伝えるか、学校全体として、また各クラスごとにどうするかを協議し、学
年集会の時間割を組み、保健室や別室を用意するなど、綿密な準備が必要となります。
- Ⅰ-32 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
凡 例)
危 機対 応
心の ケア
skills
教職員 のみの活動(C RTのサポー ト外)
大項目(班)
8つの手段
1
[1]危機対応態勢と計画
責任者
[2]遺族への対応と喪の作業
[3]保護者への対応
[4]マスコミ対応
[5]警察との連携と学校安全活動
[6]心のケア態勢と計画
[6]心のケア態勢と計画
[7]子どもと家庭へのサポート
[7]子どもと家庭へのサポート
[8]教職員へのサポート
[8]教職員へのサポート
大項目(班) 8つの手段
2
[1]危機対応
危機管理班 態勢と計画
(=中項目)
中 項 目
(1)状況把握と
情報管理
(2)危機対応態勢の
確保
(3)危機対応計画
(4)庶務の統括
大項目(班) 8つの手段
3
[2]保護者
保護者班
への対応
[3]遺族への
対応と
喪の過程
[7]子どもと
[7]子どもと
家庭への
家庭への
サポート
サポート
▽
教 職員の 活動メニュー
中 項 目
(1)保護者への伝え方
(2)保護者会とPTA
(3)遺族への対応と
喪の過程
ア
イ
ウ
ア
イ
ウ
エ
ア
イ
ウ
ア
イ
ア
ア
イ
エ
ア
イ
ウ
(4)気になるケース
への対応
(5)相談態勢
ウ
エ
ア
イ
小 項 目
情報管理
被害状況把握
背景の問題
危機対応態勢の確保
チーム会議と職員会議
関係機関・団体との連携
リーダーへの助言
計画と行事調整
特定対応
継続的支援計画
庶務の統括
対応窓口
小 項 目
保護者への伝え方、文書
PTAとの協力
保護者会
ウ 保護者への心理教育
保護者会支援
遺族への対応
喪の過程(葬儀まで)
喪の過程(葬儀後)
ア 遺族支援
イ 特定支援
重度被害ケースへの関わり
ハイリスクケースへの関わり
面接相談
電話相談
- Ⅰ-33 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
大項目(班) 8つの手段
4
[4]マスコミ
報道対応班 対応
中 項 目
(1) マスコミ対応の基本
(2)報道対応担当
(3)責任者の報道対応
(4)報道窓口担当
大項目(班) 8つの手段
中 項 目
5
[5]警察との (1)警察との連携
学校安全班 連携と
学校安全活動 (2)学校安全活動
(3)生徒指導
大項目(班) 8つの手段
6
[6]心のケア
[6]心のケア
ケア班
態勢と計画
態勢と計画
中 項 目
(1)被害把握と
心のケア計画
ア
ア
イ
ア
イ
ア
イ
ウ
ア
ア
イ
ウ
ア
イ
ウ
(2)心のケア態勢
[8]教職員へ
[8]教職員へ
のサポート
のサポート
(3)保健室、教育相談
[7]子どもと
[7]子どもと
家庭への
家庭への
サポート
サポート
(4)気になるケース
への対応
(5)相談態勢
イ
ウ
エ
ア
イ
ウ
ウ
エ
ア
イ
ウ
エ
小 項 目
マスコミ対応の基本
マスコミへの伝え方、文書
記者会見
マスコミへの伝え方、文書
記者会見
報道窓口担当
過熱報道対策
校内立入制限・警備
小 項 目
警察との連携
イ 事情聴取
発生現場
校内立入制限・警備
登下校時等の安全確保
生徒指導
小 項 目
ア ケアの統括
被害程度把握
個別ケア計画
エ アンケート
ア 心のケア態勢とケア会議
スクールカウンセラー、学校医等
保健師等派遣職員
医療機関等
クラス活動とグループワーク
保健室活動
教育相談
ア 遺族支援
イ 特定支援
重度被害ケースへの関わり
ハイリスクケースへの関わり
面接相談
電話相談
訪問相談
保護者会支援
- Ⅰ-34 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
大項目(班)
7
子ども班
8つの手段
[8]教職員へ
[8]教職員へ
のサポート
のサポート
[7]子どもと
[7]子どもと
家庭への
家庭への
サポート
サポート
中 項 目
(1)子ども達への
伝え方
(2)クラスでの
喪の過程
(3)活動サポート
(4)気になるケース
への対応
(5)相談態勢
大項目(班) 8つの手段
8
[8]教職員へ
[8]教職員へ
教職員班
のサポート
のサポート
中 項 目
(1)教職員への助言、
ケア
(2)教職員への
心理教育
(3)活動サポート
ウ
エ
ア
イ
ウ
エ
小 項 目
子どもへの伝え方
イ 学年集会
喪の過程(葬儀まで)
喪の過程(葬儀後)
クラス活動とグループワーク
ア 遺族支援
イ 特定支援
重度被害ケースへの関わり
ハイリスクケースへの関わり
面接相談
電話相談
訪問相談
保護者会支援
ア
イ
ア
イ
ア
小 項 目
教職員への助言
教職員の個別ケア
教職員への心理教育
教職員のグループワーク
クラス活動とグループワーク
ア
ア
イ
ア
※具体的な活動内容は、教職員ハンドブック第Ⅲ章をで説明しています。
- Ⅰ-35 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
危 機時の リーダーシップ
危機対応は、校長と教育委員会のリーダーシップのありようでかなりの部分が決まって
しまいます。ここがうまく機能しない場合、教職員の努力も専門家のサポートも報われな
いという結果につながります。プロ野球における監督の重要性をイメージしてください。
▽
▽
ア リーダーにとっての危機
自らにとっての危機
○危機は、組織(学校や教育委員会)にとっての危機であるのみならず、リーダー自身に
とっての「人生の危機」となり得るものです。
○やはり自分がどんな責任を問われるのだろうかということが頭をよぎります。しかし、
起こってしまった事実を消すことはできません。特に学校管理下であれば何らかの責任を
問われるのは避けられないことです。
○「責任」が絡むと口が重くなりがちですが、多くの場合、あまりにも責任を認めようと
しないために、世間から追求されてしまい、失態を演じたのではないでしょうか。背景が
わからない場合にはどこまで責任があるかはわからないにしても、責任を逃れるつもりは
無いのだということを最初にはっきりと示しておくほうが誠実な対応になるのではないか
と思われます。
○起こってしまった事実は変えることができませんが 、今この瞬間から先をどうするかは 、
自分自身の手の中にあるのです。起こってしまった事実への責任から逃げない姿勢を明確
にするとともに、事後の対応で賞賛されるような積極的な行動に出ることが肝要かと思わ
れます。危機は転機となり得るのです。
守るべきものは何か
○危機の時ほど強い「信念」が必要です。組織や自分の立場がちらついている限りは思い
切った決断はできません 。
「 子どもたちにとって最善のことをするのだ 」と腹を据えた時 、
危機のただ中にあっても揺るぎない自分を取り戻すことができるのではないでしょうか。
○「事件=危機」ではなく、続いて起こる二次的被害、マスコミの殺到、保護者からの苦
情、風評被害、訴訟問題、教職員の疲弊、相互不信などで危機が深刻化します(→Ⅰ-2
(1)ア )。 結果 的 に 発 生が 防 げ ず 「事 後 対 応 」に な っ た にし ても 、 予測 され るこ れ らの 事態
に対しても起こってからの「事後対応」にならないように、先手を打ってリスクの軽減措
置をとる必要があります。そのためのリーダーではないでしょうか。
○危機が深刻化すると、組織や自分の立場はもちろん、子どもたちが安心・安全に学ぶ場
が破壊されてしまいます 。自分は果たしてどちらを守ろうとしているのでしょうか 。職員 、
子ども 、保護者 、世間がそのことを注目しています 。危機管理を「 組織を守ること 」や「 責
任を負わないですむこと」と取り違えないようにしたいものです。
常に前向き
○ 事 件 が 発生 し た 時 に 、「な ん で こん な こ と が起 こ っ て しま っ た の か 」と く よ く よす るの
で は な く 、ま ず は 「 こ れを ど う 乗 り切 る か 」、 次に 「 こ こか ら 何 を 学 べる か 、 こ れを どう
チャンスに活用するか」という、前向きの姿勢がとれるかどうかが重要です。部下の士気
にかかわるからです。
- Ⅰ-36 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
イ 危機時のリーダーのしごと
危機時のリーダーのしごとの中から大切と思われる3つを選んでみました。
<オリジナル>
危機時のリーダーのしごと
① 決断をする
② 責任をとる
③ 前戦に立つ
(平時は話 し合いによる 合意を優先)
(平時は責 任の所在が不 明なことも)
(平時は部 下を立てる)
▽
①決断をする
○平時においてはコンセンサスを得ることが重視されますので 、稟議や会議が重んじられ 、
リーダーが決断するという状況はそれほど多くは無いと考えられます。しかし、危機時に
はコンセンサスを得るための時間的余裕はなく、決断にスピードが求められます。誰かが
「よし、これで行こう」と号令をかけなければ、結論の出ない会議で貴重な時間を空費し
てしまいます。
○もちろん、可能な限り部下の意見に耳を傾ける必要があるのはもちろんのことですが、
コンセンサスが得られない場合には自分の責任で決断することがリーダーの役割となりま
す。
○リーダーの決断に対して部下がついてきてくれるのは、日頃の信頼関係によることは言
うまでもありません 。平時にしっかりとコミュニケーションをとっておく必要があります 。
②責任をとる
○平時にコンセンサスを重視することに慣れてしまうと、一歩進んで何かをしようとする
姿勢が希薄になることがあります。危機時には先手を打って対処していくことが重要で、
「様子を見る 」「起こったときに考える」という受け身的態度が最も危険なのです。
○「何かをして失敗することよりも何もしないほうがよい」という雰囲気では、部下が次
の一歩を踏み出せません。リーダーの「最終責任は私がとるから、しっかりやってくれ」
という一言が必要になります。
○リーダーが部下の失敗も含めて責任を負う姿勢を打ち出すことで、部下もリーダーに迷
惑をかけないように、慎重かつ大胆に行動するようになるのではないでしょうか。もちろ
ん、日頃の信頼関係がある程度できていることが前提になります。
③前戦に立つ
○「 指揮官は後方の安全な場所で指揮をとるべきだ 」と誤解をしている人を見かけますが 、
現地指揮官は“弾の飛んでくる”ところで指揮をとるものです。
○リーダー自らが矢面に立ち、子どもと部下を守ろうとする姿勢を示すことで、部下も子
どもと同僚とリーダーを守ろうと立ち上がるのではないでしょうか。もちろん、これも日
頃の信頼関係が基本となります。平時は部下を立て、危機時は自ら先頭に立つのが現場の
リーダではないでしょうか。
○具体的には、保護者会、記者会見、遺族や重度被害者(家族)への訪問などがこれに当
たります。かなりつらい局面が予想されます。
○保護者会で批判の矢面に立つからといって、保護者からの苦情の電話をトップが直接受
- Ⅰ-37 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
けるということではありません。対応窓口を設け、その苦労をねぎらいましょう。
○記者会見で矢面に立つからといって、マスコミからの電話をトップが直接受けるという
ことではありません。報道窓口担当を設け、その苦労をねぎらいましょう。
○遺族や重度被害者(家族)のところに訪問するからと言って、事務的な連絡をトップが
するということではありません。個別担当を決め、その苦労をねぎらいましょう。
動くのは部下
○どんなにリーダーががんばっても、一人で出来ることはわずかです。多くの部下がやる
気を出し、取り組まない限り、難局を乗り切ることはできないのです。
○プロ野球の監督と選手の関係をイメージしてください。監督は一人ですから、そのたっ
たの一人が全体を左右してしまいますが、最終的には選手に委ねるしかないのです。
△
▽
イ 判断を誤らないために
独断専行も必要になるとは言え、誤った判断に基づき、組織が一丸となって行動すれば
大変なことになります。もちろん、つねにベストな判断が下せるということもこれまたあ
り得ません。可能な限り大きなミスをしないように、そのリスクを下げるための対策が必
要になります。
多数意見が正しいとは限らない
○だからと言って、みんなの意見を聞いて多数意見に従えば大丈夫かと言えば、そうとも
言えないのが危機です。危機対応の経験があまりない人間が集まると、無意識的に「希望
的 観 測 」 のほ う に 流 れ てし ま い が ちで す 。「 部下 の 多 数 意見 に 従 う 」 では す ま さ れな いと
いう難しさがあります。
一人で決めるのは危険
○学校危機に対応するには、それなりの知識と経験を要します。しかし、レベルⅢ以上の
学校危機を経験したトップはそう多くないのが実状でしょう。
○しかも、悪いことに、危機時には次から次へと新しい事態が発生し、次々と判断を求め
られます。考える暇も与えてもらえません。こんな時には、人間は「現実感を無くす」こ
とでパニックを防ごうとします。まるで自分のことではないような、ちょっと離れて眺め
ているような感覚です 。「離人症状」と言って 、「解離」の一種です。
○確かに、パニックは防げるかもしれませんが、これでは的確な判断などできません。後
で「なんて答えたか覚えていない」ということもあります。危機時には、平時の判断力の
半分以下になると思っておきましょう。だから、一人で判断するのは危険です。
補佐役(ブレイン)が必要
○その場合は補佐役(ブレイン)が必要になります。危機対応に習熟した人間やCRTな
どの助言を仰ぎましょう。
○また、日頃からブレインとなる人材を育てておく必要があります。リーダーの言うこと
を賛成するだけでは困るわけで、第2、第3の代替案を考えてくれるブレインが本当は望
まれるのです。
○ そ の 上 で 、「 で は 、こ う し よ う 」と 決 断 し 、チ ー ム の その 方 向 に 向 け、 最 終 責 任を 負う
のがリーダーです。これは、責任を負う覚悟のある者にのみ認められた特権でしょう。決
断をすることにおいてリーダーは孤独です。
- Ⅰ-38 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
やり遂げる意思と柔軟さ
○間違いに気付けば、すぐに改めるという柔軟な姿勢がリーダーに求められます。
○一方で 、安易に方針をコロコロ変えるべきでもなく 、言うほど簡単ではありません 。
「ま
ずい」と気付いてあわてて方針を変えて混乱を招くより、多少方向性がずれていてもある
程度練った方針に沿って一丸となって進み、その中で軌道修正するほうが良い場合だって
あります。
○大切なのは、決めたことを貫徹する意思を持ちつつも、自分の判断に頑なにとらわれな
い柔軟性を持つことです。
○リーダーシップのあり方については膨大な書籍が刊行されていますが、危機時のリーダ
ーという点でつぎの2冊をお勧めします。
・ジェームズ・ウィット(FEMA元長官)他 「非常時のリーダーシップ 危機を乗り
切る9つの教訓」The Japan Times , 2003年(原著2002年 ),2400円+税
・佐々淳行 「平時の指揮官
1999年,524円+税
有事の指揮官
あなたは部下に見られている」 文藝春秋,
- Ⅰ-39 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
学 校危機対応システム
ア レベル別に見た学校危機対応
教職員(個人)レベルの対応(レベル0)
○学校では様々なメンタルヘルス上の問題が発生しており 、教職員が対応しています 。
「不
登校」や「子どもの親の死」などがその例です。担任教師だけではなく、2、3人の教職
員が協力して対処することもあります。
○専門的なケアが必要な事案では、スクールカウンセラーの助言を受けたり、直接面接し
てもらったり、外部の医療機関を受診してもらうなどします。これらは危機のレベル(→
Ⅰ-2(1)ア)に関係なく行われます。
スクールカウンセラー(SC)
▽
解説
配 置 ス ク ー ル カ ウ ン セ ラ ー 当 該 学 校 に 年 間 210~ 231時 間 を 週 一 回 か 二 回 勤 務 す る 体 制 で 配
置 されているも の。二人で分けて 勤務している 場合もある
拠点校スクールカウンセラー 当該配置校を中心として、同じ学区域の学校にも勤務するも
の。おおむね、中学校を拠点校として地域の小学校へ向かう場合が多い。時間数は状況に応じ
て いるが、年間 時間数は270時間
隣接地域スクールカウンセラー 当該学校と同じ市町などに配置されているスクールカウン
セ ラー。緊急時 には配置校の出勤 を振り返るこ とで対応でき る場合がある
臨時スクールカウンセラー 当該学校との関係がない、あるいは、配置校の勤務の振り替え
な どをせずに、 当該学校へ臨時に 入るスクール カウンセラー
学校(組織)レベルの対応(レベルⅠ)
○教職員個人のレベルでは対処に困難を感じるような事態となると、学校という組織を挙
げての対応が必要になります。例えば、体育の授業中に児童が大けがをしたという場合に
は、担任教師のみならず、養護教諭や管理職等も対応にあたることになります。このよう
なレベルⅠ(小規模以下)の事案であれば、おおむね学校中心の対応が可能でしょう。教
職員個人では危機と感じても、学校としては何とか対応できるレベルでしょう。
○心のケアが必要な場合、スクールカウンセラーが配置されておれば、一人でもおおむね
対処可能なレベルです (非 常勤なので、 緊急に対応で きるかどうか は別ですが)。
教育委員会レベルの対応(レベルⅡ)
○「体育中に子どもが倒れ、搬送先の病院で亡くなった」という事案の場合、校長は学校
だけの判断で対応することに不安を感じることでしょう。教育委員会 (私学 の場合は私学 の経
営母体)の職員に来てもらって支援・指導してもらうのが一般的でしょう。学校にとって
も「危機」を実感するレベルでしょう。
○心のケアにおいても、スクールカウンセラー1人では直後の対応が難しいことがあり、
教育委員会がスクールカウンセラーを臨時に派遣するなどの対応をします。多くの自治体
に何らかのこういった仕組みがあると思います。
- Ⅰ-40 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
教育委員会を超えたレベルの対応(レベルⅢ~)
○校内の自殺などレベルⅢ以上の事案では、緊急保護者会や記者会見などが必要となり、
それなりの人手を必要とします。教育委員会は速やかに必要人数を派遣する必要がありま
す。また、どう対処してよいのか、教育委員会にとっても「危機」を感じるレベルです。
○レベルⅢ以上では専門家が数人~十人以上必要になります。カウンセラーを緊急に派遣
する事業が多くの自治体にありますが、基本的にはレベルⅠ~Ⅱを念頭に置いており、レ
ベルⅢの事案で求められる 「 初日に数人以上 」 の専門家を派遣するのは ( 特に 地方の県では )
困難な場合が多いでしょう。仮にできたとしても、スキルを持った専門家の確保は困難で
あり、しかも、寄り合い所帯となるため、方針や互いの役割分担を協議するのに時間がか
かってしまいます。すぐに活動を始めるには、日頃から訓練をし、統制のとれた「即応チ
ーム」が必要になってきます。
イ 学校危機対応システム( レベルⅢ~ )
レベルⅢへの対応
○レベルⅢ以上の事案では、緊急保護者会、保護者向け文書作成、記者会見、学年集会等
々の対応が必要となります 。レベルⅢの事案は各県毎年1回以上は起こるような事案です 。
これにどのように対処したらよいでしょうか。つぎの3通りが考えられます。
1)危機が発生してから考える
2)事前に関係機関・団体と取り決め(危機対応システム)
3)即応チームが待機
1)危機が発生してから考える
○レベルⅢ以上の事案が発生すると 、公立校であれば教育委員会が即職員を派遣しますし 、
スクールカウンセラーの追加派遣などが必要になります。自治体が支援することがありま
す。しかし、事前に取り決めがないと、支援があったりなかったり、遅れたり、支援の中
身が毎回バラバラだったりします。危機が発生してから考えたのでは後手に回ります。
2)事前に関係機関・団体と取り決め(危機対応システム)
○そこで、あらかじめ関係機関・団体の協力態勢(人員派遣)などを決めておき、システ
ム化しておく必要があります。これが「危機対応システム」です。教育委員会による職員
派遣、臨床心理士会によるカウンセラー派遣、自治体による職員派遣などを決めておくの
です。教職員と、これら派遣スタッフが集まって、校長を中心とする「現地活動チーム」
が編成されることになります。
- Ⅰ-41 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
自
治
体
教育委員会
臨床心理士会
派遣
派遣
保健師・相談員
◆図
学校
派遣
配置スクールカウンセラー
派遣
追加スクールカウンセラー
現地活動チーム
現地活動チームの例(レベルⅢ以上)
○しかし、これは机上のシステムですから、実際に機能するかどうかの吟味が必要です。
派遣された職員に必ずしも十分な経験があるとは限らず、しかも、互いの意思疎通ができ
るまでに時間がかかってしまい、タイミングを逸してしまうことがあるのです。
3)即応チームが待機
○危機対応システムを機能させるには、以下の4つの条件が整っていることが必要です。
中核をなすのは緊急対応に特化した「即応チーム」の存在です。消防署のような常設チー
ムは無理なので、それぞれの本業(精神保健分野の専門職)を持っていていざというとき
に出動する消防団をイメージしてください。
(1)制度化
(2)確実性
(3)信頼性
(4)即応性
県システムに おける位置づけ
明確な限界設 定の中での確実 な派遣
スキルを持ち 統制のとれた専 門家チーム
24時 間受付と待機
ウ 即応チーム
福岡モデルと山口モデル
即 応 チ ーム に は 、「 福岡 モ デ ル 」と 「 山 口 モデ ル 」 が あり ま す 。 い ずれ の モ デ ルも 、教
職員等現地スタッフへのサポートを重視しています。
対象事案
メンバー
位置づけ
主 目 的
担当部局
福岡モデル (学校緊急支援)
レベルⅡ以下も対象となる
臨床心理士
スクールカウンセラー事業の延長
心のケア>危機対応
県教育委員会
山口モデル (学校CRT)
原則としてレベルⅢ以上
多職種の専門職
教育委員会から独立した外部チーム
危機対応>心のケア
県保健福祉部局
- Ⅰ-42 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
▽
福岡モデル(学校緊急支援)
従来より、臨床心理士会を中心に様々な学校緊急支援が行われており、系統的なものと
し て は 「 福 岡 モ デ ル 」( 2001年 ) が よ く 知 ら れ て い ま す 。「 福 岡 モ デ ル 」 に つ い て は 、 福
岡 県 臨 床 心理 士 会 編 「 学校 コ ミ ュ ニテ ィ へ の 緊急 支 援 の 手 引き 」( 金剛 出版 , 2005年 )を
お読みください。
山口モデル(学校CRT)
このテキストではCRTと呼ばれる「山口モデル」について解説しています。CRTは
2003年に山口県でスタートし、2005年には静岡県と長崎県でも活動を開始しています。こ
れらは県精神保健福祉センターが司令塔になっており、多職種チームです。
CRTは臨床心理士会の学校支援に代わるものではない
○臨床心理士会の場合、スクールカウンセラー活動の延長線上に学校緊急支援を位置づけ
ているので、スクールカウンセラーによるアフターケアとのつながりがつけやすいのが利
点です。
○CRTの場合は、3日間で1つの区切りをつけなければならないため、心のケアはあく
まで応急処置に限られ、継続的なケアは提供できません。また、小規模な事件には派遣し
ないなどの制約があります。したがって、CRTは臨床心理士会による学校支援に代わる
ものではありません。
CRTはレベルⅢ以上
○CRTは少々重装備であり、出動回数にはおのずと限界があります。レベルⅡの事案で
出動しないのはそのためです。レベルⅡの場合には、スクールカウンセラー2人ぐらいで
アフターケアも含めた支援できる方が望ましいと考えます。
○CRTは3日間だけですから、アフターケアのためにスクールカウンセラーなどの専門
家を派遣する仕組みが必要となります。3日目に引継が必要です。アフターケアの専門家
の確保は教育委員会の責務となります。
CRTが得意としない事案
○最初から腰を据えてじっくりと関わるべき事案は 、CRTが得意としない事案です 。
「最
大3日間でさっと引きあげる」という方式がかえって混乱を助長してしまう危険性もあり
ます。
○CRTが得意としない事案は次の通りです。ただし、出動対象となる場合もありますか
ら、必要を感じた時には情報センターへ連絡してみましょう。
- Ⅰ-43 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
<オリジナル>
◆小規模事案 (レ ベルⅡ以下) や個人被害事案
◆単発的でない事案
・虐待やいじめなどの継続的トラウマ
・伝染病による死亡などの亜急性事案
・児童の行方不明
◆背景の問題が重要となる事案
・家庭での自殺
・自殺未遂
・子どもによる加害
◆その他
・教師の不祥事
・災害
・翌日以降の派遣依頼
C RTとの協働
県単位の“学校”CRT
ア CRTとの協働における基本的事項
つぎの5つについてご理解ください。
1)CRTが「できないこと 」(限界)の理解
2)十二分なマンパワーとCRT撤収後のスクールカウンセラー等の確保
3)教職員ハンドブックの全教職員・教育委員会職員への配付
4)学校・教育委員会とCRTとの立場の違いの認識
5)プライバシーに配慮しつつも積極的な情報公開
1)CRTが「できないこと 」(限界)の理解
CRTは、実は「できないこと」が多いチームです。その多くは「3日間限定」に由来
します。1回限りの出動ではなく、今後もCRTを継続させていくためにやむを得ない制
約だとご理解ください。
▲3日間を超える支援
… 派 遣 は 最 大 3 日 間 で 、 延 長 す る こ と は あ り ま せ ん 。( 休 日 を 2 日 以 上 挟 む 場
合は 、活動休止日 をもうけるこ とがあります 。)撤収 後のサポート はしておりま せん。
▲ 継 続 的 な個 別 ケ ア
…3日間ということで、個別ケアは「応急処置」に限定されます。本格的な治療
や継 続的なカウン セリングを期 待されると 、行き違いの原 因となります 。医療機関等 を利用してく ださい 。
(C
RT に参加した個 人や機関が個 別にケースを 引き受けるこ とはしており ません 。)
▲遺族支援 …上記の理 由から、遺族 への支援は難し いことをご承 知おきくださ い。
▲ 背景 の問題 への対 応 … C R T は 急 に 起 こ っ た 出来 事 に よ る 影 響 へ の 対 応 を 主 と し て お り 、 例 え ば い
- Ⅰ-44 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
じめ問題のように、以前から抱えていた問題へ対処することはできません。したがって、こういった問題が
大き い場合、CR Tの支援効果 は限定的にな ります。
▲原因究明や再発防止に関すること …同上
▲加害の影響への対応 …CRTは 被害への影響 に対応しますが 、加害行為の 衝撃には対応 できません 。
▲ 学 校や 教育 委員 会 の態 勢が不 十分な 場合 …C R T は 助 言 や 支 援 を 行 い ま す が 、 学 校 や 教 育 委 員
会 が すべ き こ と を 肩 代 わり す る チ ー ムで は あ り ま せ ん し 、最 終 責 任 を 負 う 立場 で も あ り ま せん 。「 学校 内 に お
ける心のケアは学校・教育委員会の責任で行う」という基本姿勢と十分な人員態勢の上にCRTの支援があ
るとお考えください。また、翌日以降に派遣依頼された場合、すでに危機対応の時期を逸していると判断す
れば 出動しないこ とがあります 。
2)十二分なマンパワーとCRT撤収後のスクールカウンセラー等の確保
●教育委員会は、すぐに十二分な人員を派遣してください。最初の3日間の目安として、
レベルⅢ弱で2人、レベルⅢ強で3人、レベルⅣで4人です。これは朝から晩まで実務を
行う職員の人数です。小規模校であればさらに1~2人追加してください。CRTの活動
はこれを前提にしています(→Ⅰ-2 (2)ウ 必要な態勢 )。
●教育委員会は、CRT撤収後のスクールカウンセラー等を確保してください。4日目か
ら1週間の目安として、レベルⅢ弱では2人ペアで週2回、レベルⅢ強では2~3人で毎
日、レベルⅣでは5人以上で毎日です。撤収までに引継が必要です。CRTの支援はこれ
を前提にしています(→Ⅰ-1 (3)エ 中長期のケア )。
3)教職員ハンドブックの全教職員・教育委員会職員への配付
●教職員ハンドブック(全国版または各県版)を全教職員、教育委員会職員へ配付してい
ただきます。
※日頃の備えの善し悪しによってCRTの支援効果も異なってきます。火事にたとえるなら、日頃から火災
に備 えたマニュア ルの整備や、 消防車が到着 するまでの初 期消火訓練を しておく必要 があります。
4)学校・教育委員会とCRTとの立場の違いの認識
○いきなり「ショックを受けた子どものカウンセリングをお願いします」と言われること
がありますが、CRTは学校や教育委員会から派遣されるカウンセラーとは立場が異なり
ます。学校の傘下で活動しますので、学校が同意しない活動はできませんが、どのような
支援を提供できるかは、CRT側で判断させていただくことになります。
○また 、学校や教育委員会の方針に対して 、専門的立場から修正を求めることがあります 。
○CRTと学校や教育委員会の立場は異なります。保護者会や記者会見の席で、両者の見
解の差が出て来ることもありますが、必ずしも学校組織の擁護者ではないCRTを受け入
れていることで学校の「透明性」を保証することにもなります。両者が完全に一致してい
ると映ると、両者とも信用を失う危険が生じると考えられます。
5)プライバシーに配慮しつつも積極的な情報公開
● 子 ど も 、保 護 者 、 マ スコ ミ に 対 して 、「 出 せる 情 報 は 出す 」 と い う 積極 的 な 情 報公 開が
必要です。
○CRTの派遣を秘密にすることはできません。
○CRTの活動内容は「公式記録」という形で公開されることを、あらかじめご了承いた
だきます。
- Ⅰ-45 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
イ CRT受入準備
お願いしたいこと
(1)CRT専用控え室としてお部屋を1つ使わせてください
●協議や各種作業、食事や休憩など、控え室があるのとないのではCRT隊員の消耗度が
とても違いますので、よろしくお願いします。昼と夜で違う部屋でも構いません。
(2)電話・FAX、プリンター、コピー・印刷機等を使わせてください
(3)指揮担当(隊長、副長)以外の隊員の氏名、所属は公表しないでください
必要のないこと
(1)経費の請求をすることはありません。
(2)食事など身の回りの心配は要りません。
到着してから
●現地集合の場合、隊員はバラバラに到着します。最初の隊員が到着した時には、以下の
ようにお願いします。2番目以降の隊員が到着した時には、最初の隊員がいる所へご案内
ください。
1 )「今何が行われているか」と「本日の当面の予定」を伝えてください。
2)会議や協議が行われている場合には、到着した隊員から会議や協議の場へ同席させ
てください。
3)緊急保護者会、記者会見、全校集会などが行われている場合は、会場へご案内くだ
さい(後ろから様子を見ます )。
4)これらが無い場合には、CRT控え室へご案内ください。
取り決めの無い団体・個人の支援申し出は断るか保留する
●事件によってはいろいろな個人や団体が支援を申し出るかもしれませんが、あらかじめ
取り決めの無いものは 、申し出があっても学校内に入ることはお断りする必要があります 。
わからなければ、CRTが到着するまで保留してください。
● 教 育 委 員 会 ( 私 学 の 場 合 は 経 営 母 体 ) 職 員 、 ス クー ル カ ウ ンセ ラ ー ( 配 置 校 以 外 は 要 請 し た 場 合
のみ)、学校医、要請した自治体職員、CRT以外の支援者は入れないでください。
ウ 学校CRTの特徴
学校CRTとは
○学校CRTは、下記の特徴を備えた県単位の即応チームです。学校・教育委員会とCR
Tとのよりよい協働のために、CRTの特徴をご理解ください。
- Ⅰ-46 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
1)即日対応が原則で、3日間の緊急対応に特化している
2)教職員など現地スタッフへのサポートを主としている
3)学校や教育委員会から独立した県単位のチームである
4)多職種の専門家によるチームである
5)隊員は、指揮担当、直接ケア、補助業務の3つに区分される
1)即日対応が原則で、3日間の緊急対応に特化している
○危機対応は最初の3日間でほとんど帰趨が決まってしまいます。初日であればまだ流れ
を 変 える こと がで き るか もし れま せ ん。 CR T は ( 離 島 や 遠 隔地 な ど を 除 き ) 原 則とし てその
日のうちに現地で活動を開始できる即応チームです。したがって、発生直後に依頼されな
いと対応ができなくなります。
○ 発 生 か ら3 日 間 限 定 の緊 急 対 応 に特 化 し て いま す か ら 、「 心の ケ ア 」は 応 急 処 置の みに
限られます。本格的治療やアフターケアは別の資源を活用していただくことになります。
2)教職員など現地スタッフへのサポートを主としている
○CRTは教師をサポートし、教師の安定を図り、子どもへ適切な対応方法を身につけて
いただくことで、間接的に子どもたちの安定を図ろうとします。被害程度の軽い子どもた
ちの多くは専門家が直接対応せずとも教師を通した間接アプローチで安定することが期待
できるからです。
○学校における危機対応と心のケアの最終責任は学校や教育委員会にあります。この前提
の上にCRTの支援があります。
3)学校や教育委員会から独立した県単位のチームである
○CRTは学校や教育委員会の傘下で活動しますが、指揮下に入るわけではありません。
学校や教育委員会に対して、専門的かつ中立な立場から強く助言できるだけの独立性が必
要だからです。
○行政で言えば、教育委員会ではなく保健福祉部局が管轄していることが必要です。教育
委員会は支援者というよりも当事者になります。
4)多職種の専門家によるチームである
○医師、臨床心理士、精神保健福祉士、保健師、看護師など「多職種」の専門家チームで
す。
○ 行 政 の 職員 だ け で な く民 間 ( 身 分 は 非 常 勤 公 務 員 の こ と も あ り ま す ) の専 門職 も加 わ って いる
こ と が 大 切で す ( 県 に よ っ て 若 干 事 情 が 異 な り ま す )。 民間 が加 わる こ とで フッ トワ ー クが 良く
なり、透明性がより高くなります。
○CRTは多職種で、官民の多機関・多部局の専門職で構成されていますが、日頃の訓練
と出動でスキルとチームワークを磨いています (発足当初は無 理ですが)。
5)CRT隊員は、指揮担当隊員、直接ケア隊員、補助業務隊員の3つに区分される
○指揮担当隊員は、全体の指揮、校長や教育委員会との交渉、マスコミ対応などの危機対
応を担当します。
○直接ケア隊員は、教職員へのサポート、子どもや保護者へのケアを行います。
○補助業務隊員は、食事の準備、記録、文書作成など、CRT隊員をサポートします。
- Ⅰ-47 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
C RTの 活動メニュー
ア 学校CRTの概要
CRTの概要は以下の通りです。(○○県用に 差し替え)
名
目
対
称:○○県クライシスレスポンスチーム(通称“CRT ”)
的:学校危機へのメンタルサポート(緊急対応)
象:○○県内の 小中高等学校 に所属する子ども達の 多く が心に傷を受ける
可能性がある事故・事件等
依頼方法:校長または所轄の教育委員会からCRT情報センターへ電話で依頼
派遣隊員:CRTに登録されている専門職数名程度
派遣期間:最大 3日間 (アフターケアなし)
支援内容: 二次被害の拡大防止とこころの応急処置
①評価とケアプラン策定の手助け
②教職員への助言、サポート
③保護者への心理教育
④子どもと保護者への応急対応
⑤その他
運
用:○○県、○○○
情報センター: ○○○
- Ⅰ-48 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
▽
イ 学校CRTの活動メニュー
<オリジナル>
CRT支援メニュー
凡 例)
大
項
主 に指 揮担当隊員の 任務
目
主 に直 接ケア隊員の 任務
8つの手段(=中項目)
[1]危機対応態勢
と計画
①評価と
ケアプラン
策定の手助け
[2]保護者へ の対応
[3]遺族への 対応と喪の過 程
[4]マスコミ 対応
[5]警察との連携と学校安全活動
[6]心のケア
態勢と計画
[6]心 のケア態勢と計
画
[7]子どもと
家庭へのサポ
ート
[7]子 どもと家庭への
サポート
[8]教職員の
サポート
[8]教 職員のサポート
大
項
目
②教職員への
②教職員への
助言、
助言、
サポート
サポート
手段
中 項 目
[6]
[6] (1)被害把握と
心のケア計画
b
c
d
e
f
g
h
i
j
小 項 目
a 情報管理
被害状況把握 →②(6)b
背景の問題
危機対応態勢の確保
チーム会議と職員会議
関係機関・団体との連携
リーダーへの助言
計画と行事調整
特定対応 →④(1)b
継続的支援計画
教職員
2(1)
2(2)
2(3)
→ ③(1)(2) → ④(1)b、(2)
→ ③(3) →④(1)a
→ ⑤(1)
→ ⑤(2)
→ ②(6)(7)
→ ④(1)b、(2)
→ ②(1)(2)(3)(4)(5)
b
c
(2)心のケア態勢
[8]
[8] (3)教職員への助言、
ケア
(4)教職員への
心理教育
(5)子ども達への
伝え方
(6)クラスでの
喪の過程
(7)活動サポート
主に 補助業務隊員 の任務
b
c
d
a
b
a
b
a
a
b
a
b
c
小 項 目
a ケアの統括
被害程度把握
個別ケア計画
d アンケート
a 心のケア態勢とケア会議
スクールカウンセラー、学校医等
保健師等派遣職員
医療機関等
教職員への助言
教職員の個別ケア
教職員への心理教育
教職員のグループワーク
子どもへの伝え方
b 学年集会
喪の過程( 葬儀まで )
喪の過程( 葬儀後 )
クラス活動とグループワーク
保健室活動
教育相談
教職員
6(1)
6(2)
8(1)
8(2)
7(1)
7(2)
6・7・
8の
(3)
- Ⅰ-49 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
大
項
目
手段
中 項 目
[2] (1)保護者への伝え方
③保護者への
(2)保護者会とPTA
心理教育
心理教育
[3] (3)遺族への対応と
喪の過程
大
項
目
(2)相談態勢
項
c
d
a
b
c
d
小 項 目
a 遺族支援
b 特定支援 ←①(1)i
重度被害ケースへの関わり
ハイリスクケースへの関わり
面接相談
電話相談
訪問相談
保護者会支援
教職員
6・7・
3の
(4)
a
b
手段
中 項 目
[7]
[7] (1)気になるケース
への対応
④子どもと
④子どもと
保護者への
保護者への
応急対応
応急対応
大
教職員
3(1)
3(2)
d
a
b
c
小 項 目
a 保護者への伝え方、文書
PTAとの協力
保護者会
c 保護者への心理教育
保護者会支援
遺族への対応 →④(1)a
喪の過程( 葬儀まで ) →②(5)a
喪の過程( 葬儀後 ) →②(5)b
目
手段
中 項 目
[4] (1)マスコミ対応
⑤その他
[5] (2)警察との連携と
学校安全活動
小 項 目
a マスコミ対応の基本
b マスコミへの伝え方、文書
c 記者会見
d 報道窓口担当
e 過熱報道対策
a 警察との連携
b 事情聴取
c 発生現場
3(3)
6・7・
3の
(5)
教職員
4
5
CRT内部メニュー
凡 例)
大
主 に指 揮担当隊員の 任務
項
目
⑥共通業務
主 に直 接ケア隊員の 任務
中 項 目
(1)CRTミーティング
(2)タスクフォース
a
a
b
c
主に 補助業務隊員 の任務
小 項 目
CRTミーティング
タスクフォース
業務引継
教導
- Ⅰ-50 頁教職員ハンドブック
教職員、行政、精神保健専門家用
第Ⅰ章
知識・理論編
大
項
目
中 項 目
(1)隊長業務
a
b
c
d
a
b
c
d
a
b
c
d
⑦指揮担当
(2)副長業務
(3)準指揮担当
大
項
目
中 項 目
(1)内部メニュー
目
中 項 目
(1)補給支援(モノ)
⑧直接ケア
⑧直接ケア
大
項
小 項 目
代表、全指揮
人事管理補給
CRTミーティング総理
危機対応
隊長代行
指揮補佐
分隊長
( その他 )危機対応
隊長臨時代理
指揮補佐
分隊長
( その他 )危機対応
小 項 目
a タスクフォースリーダー
b 準指揮担当
⑨補助業務
(2)隊員管理(ヒト)
(3)任務支援(コト)
(4)指揮統制
(5)情報安全
小
a
b
a
b
a
b
c
d
e
a
b
c
d
e
a
b
c
項
目
庶務
補給
人事管理支援
健康管理
補助業務主任
CRTミーティング支援
実務支援
ケア支援
直接支援
隊長業務支援
指揮統制支援
分隊長業務支援
通信支援
準指揮担当
情報管理
IT管理
安全管理
- Ⅰ-51 頁教職員ハンドブック
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