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次世代海上遭難及び保安通信システム構築 に関する調査研究 報 告 書

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次世代海上遭難及び保安通信システム構築 に関する調査研究 報 告 書
次世代海上遭難及び保安通信システム構築
に関する調査研究
報
告
書
平成 20 年 3 月
独立行政法人
海上技術安全研究所
はしがき
本報告書は、国土交通省海事局より委託された海上技術安全研究所が実施した「次世代
海上遭難及び保安通信システム構築に関する調査研究」の平成 19 年度の成果をとりまとめ
たものである。
本研究の内容について質問・コメント等がある場合は、以下に連絡されたい。
吉田
公一:企画部
国際連携センター長
田淵
一浩:企画部
国際連携センター
福戸
淳司:運航・システム部門
運航支援・ヒューマンファクター研究グループ長
丹羽
康之:運航・システム部門
運航支援・ヒューマンファクター研究グループ
2
目
1
次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
調査研究の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
2
2.1
2.2
調査項目・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
国際会議出席及び調査報告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
添付資料1 LRIT システムの動向調査報告
添付資料2 船舶トラッキングサービスの動向調査報告
添付資料3 海上インターネット通信実船実験報告
添付資料4 インマルサット及びインマルサット以外の衛星系通信に関する調査報告
添付資料5 国際電気通信連合及び世界無線通信会議等に関する調査報告
添付資料6 INS の性能基準の仮訳
3
1
はじめに
現在の海上における遭難及び安全に関する世界的な制度である GMDSS(Global Maritime Distress
and Safety System)は、1980 年代の技術に基づいて構築され、1990 年代初頭に海上人命安全条約
(SOLAS 条約)付属書第 IV 章として採択された。そこでは、デジタル通信技術も利用されている
が、通信速度が極めて遅いものであった。その後、デジタル通信技術を中心に情報伝達技術は長足
の進歩を遂げ、通信速度が飛躍的に向上し、通信の確実性も大きく向上した。また、世界的なイン
ターネット及び携帯電話の出現と普及は目覚しく、現代の情報伝達の中核を担っている。
こうした中で、現状の GMSDD 遭難通信システムは通信技術としてはすでに旧式となっており、
他の分野ではもはや利用されていないものがある一方、遭難通信の誤報の原因ともなっている。
また、海上のテロに対応するため、船舶の保安のための警報装置が SOLAS 条約の改正により導
入されたが、今後、世界中の船舶の動向を補足するための長距離識別追尾(LRIT: Long-Range
Identification and Tracking)システムの導入が決定され、これらを含めて総合的な船舶保安通信シス
テムの確立が求められている。
遭難通信、海上安全情報通信及び船舶保安通信は、それぞれ別の機能として設定されてきたが、
現在の船舶は少ない船舶職員によって運航されており、これらを統合して船舶運航者に負担をかけ
ず、かつ使用しやすいシステムとして構築する必要がある。
従って、新世代の高速デジタル通信技術、インターネット技術の利用を取り込み、遭難通信シス
テムと保安通信システム、さらには航海支援システムへの統合を考慮した、ユーザーフレンドリー
で確実な新しい通信システムの構築が重要な課題となっている。本調査研究は、そのような次世代
の海上遭難及び保安通信システムの確立を目指し、その構想や実現の目途を明示することを目的と
して実施した。
4
2
調査研究の概要
2.1
調査項目
新世代の高速デジタル通信技術、インターネット技術を取り込み、遭難通信システムと保安通信
システム、さらには航海支援システムへの統合を考慮した、ユーザーフレンドリーで確実な新しい
通信システムの構想を策定し、これを国際的に実現するための IMO 等への提案の基礎となる資料
を得る。
2.1.1 海上遭難及び保安通信システムに関する調査
海上高速デジタル通信システム及びこれを取り入れた次世代海上遭難及び保安通信システム
に関する動向及び関連情報を調査し、これらのシステムの構想を抽出する。
2.1.2 高速デジタル通信の船舶への適用に関する調査
船舶間及び船舶と陸上間の高速インターネット通信実験を実施し、船舶の遭難警報・安全情報
通信への適用性及び利用可能性を調査及び検証する。
2.1.3 高度衛星通信システムの海上利用に関する調査
インマルサット及びインマルサット以外の衛星系通信の高速デジタル海上通信への利用可能
性を調査及び検討する。
2.1.4 船橋における遭難通信・安全情報設備及び航海機器設備の統合化に関する調査
高速海上デジタル通信システムと航海システムの統合化の可能性及び船橋におけるそれらの
配置及び技術開発の動向を調査する。
5
2.2
国際会議出席及び調査報告
2.2.1
海上遭難及び保安通信システムに関する調査
海上のセキュリティ(保安)を確保するための SOLAS 条約第 XI-2 章及び船舶及び港湾施設の
保安のための国際コード(ISPS Code: International Code for the Security of Ships and of Port Facilities)
は、2002 年 12 月に採択され、2004 年 7 月1日に発効した。これらの改正では、船舶自動識別装置
(AIS: Automatic Identification System)の搭載義務付けを前倒して実施し、さらに船舶警報通報装置
(SSAS: Ship Security Alert System)の搭載義務付けも盛り込まれた。
この SOLAS 条約改正には盛り込まれずに継続作業となっているものとして、長距離識別追尾
(LRIT: Long-Range Identification and Tracking)システムがある。LRIT は、船舶の動静を長距離か
ら捕捉するため、自船の ID と位置情報を旗国あるいは設立される機関に通報し、そこから入港国
及び沿岸国に情報を配信するシステムとして、米国が提案したものである。今までの議論の過程で
は、沿岸からどの程度離れたところから情報を発信しなければならないか(例えば、2000 海里、500
海里、200 海里)、船舶の位置情報を教えたくない沿岸国に対して情報配信を拒否する権利を旗国
に認めるか否か、などの問題について検討している。また、実現のためシステムの構築方法やその
費用負担方法についても検討が行われている。
これらの事項について、国際海事機関(IMO)の海上安全委員会第 83 回会議(MSC 83)の審議
内容の調査を行った。この結果を、添付資料1に報告する。
また、LRIT の類似システムであるカナダ COM DEV 社が、船舶自動識別装置(AIS)のデータを
衛星が取得するシステムを検討しており、その動向調査を実施した。その調査結果(COM DEV 社
プレゼンテーション資料)を添付資料2に示す。
2.2.2
高速デジタル通信の船舶への適用に関する調査
海上インターネット通信の適用について、検証の一例として、船−船間で無線 LAN を構築し、海上
インターネット通信実船実験を実施した。調査結果を添付資料3に示す。
2.2.3
高度衛星通信システムの海上利用に関する調査
高度衛星通信システムとして、現在運用されているインマルサット及びインマルサット以外の動
向調査を行った。調査結果を添付資料4に示す。
また、GMDSS 機器の利用周波数の管理は、国際電気通信連合(ITU)が行われており、平成 19
年度は、世界無線通信会議(WRC)が開催され、GMDSS 機器周波数の管理等の審議が行われ、そ
の動向を調査した。調査結果を添付資料5に示す。
2.2.4
船橋における遭難通信・安全情報設備及び航海機器設備の統合化に関する調査
IMO で現在検討されている船橋におけるシステムに関する事項は、統合化航法システム(INS)
と統合化ブリッジシステム(IBS)の性能基準の改正作業が行われており、MSC 83 において、INS
の性能基準の改正案が承認された。その仮訳を添付資料6に示す。
6
添付資料1
LRIT システムの動向調査報告
平成 19 年 10 月 3 日から 10 月 12 日まで、デンマーク王国コペンハーゲン市ベラセンターにお
いて開催された第 83 回海上安全委員会(MSC83)の LRIT の審議結果の調査報告を以下に記す。
LRIT 関係(議題 6 関連)
(1) 全体会議(3 日(水)・4 日(木))での議論
(イ)冒頭議長発言
(a) LRIT は 2009 年1月1日から運用されなければならないため、今次 MSC において
IDC、IDE の設立・運用に必要な全ての案件について決定されなければならない。
更に、MSC において全ての LRIT 調整者の業務に関し SOLAS 条約締約国と LRIT
調整者との間の合意を承認する必要があり、また技術的事項とシステム運用テスト
につき、MSC 83 と MSC 84 との間でどのように処理していくかを決定しなければ
ならない。
(b) 今次会合を建設的なものとするため、①締約各国の NDC、RDC、CDC の設立につ
いての意志を確認し、②各締約国の LRIT 情報の提供と必要な情報量について、ど
のような計画を有しているかについて、明確な理解が不可欠である。そのため事務
局から本件に関する質問状を作成し回章しているところであり、未だ回答していな
い国については、今次会合中に提出することを要請する。
(c) また議論のポイントを明確にするために、MSC として財政上の問題点と IDC、IDE
設立の提案の意図を明確にする必要があり、それらを提案した当事者から更なる情
報提供を要請することも考えている。
(d) 本件の根幹に関わる事項については、この全体会議において全て俎上に上げ議論し
WG に作業を指示することとしたい。よって、提出ペーパーの背景や関連事項も適
宜紹介していただき、また提案文書に対するコメントも各国から聴取することとし
たい。
(e) 本件に係る様々な事項を検討するに当たり、次の順番で議論していくことを提案す
る。
(i)全体的なコメント
(ii)締約国の意向
(iii)LRIT システムの実施時期
(iv)安全及び環境保護の目的での LRIT 情報の活用
(v)上架中又は修理中の船舶からの LRIT 情報の送信
(vi)LRIT 中間会合の検討結果(MSC が要請されている事項の検討)
・費用問題
・IDC 及び IDE 設置問題
・LRIT システムについての新たなマイルストーン
・MSC 84 までの作業事項
・LRIT 調整者の責務
-1-
・必要となる各種契約雛形
・中間会合の結果必要となった他の事項
(vii)LRIT システムの技術面でのアドホック作業部会の検討結果
(viii)COMSAR 11 での検討結果
(ix)IDC と IDE の設立
(x)LRIT データ配信計画
(f) 議長提案の上記(e)の議論の順番については、各国から特段の意見もなかったことか
ら了承され、以後、この順番で議論された。
(ロ)全体的なコメント
議長から、本件に関する全体的なコメントを求められたことから、我が国から①LRIT
システムが早期に構築されることは望ましい、②しかし経費及び課金制度の詳細が不確
かであることから予算上の準備が困難な状況にある、③今次会合において課金制度を含
む懸案の解決に期待する、旨発言した。
(ハ)締約国の意向
LRIT 情報使用に係る見積もり及びデーターセンターの設立に関し文書を提案してい
る米、加、印、露、豪からそれぞれ提案文書の概要説明が行われた。引き続き、事務局
から、LRIT 質問票の回答を取りまとめた MSC 83/WP.9 の概要説明があり、①現時点で締
約国の 13%に満たない 22 カ国からしか回答がきていないこと、②NDC 設立を考えてい
る国が 8 カ国、RDC 設立を考えている地域が複数、NDC を他国も利用できるよう解放す
ることを考えている国も複数、IDC 利用を考えている国が1つ(シンガポール)である
ことが紹介された。
これに対し、ウクライナより NDC を設立予定であり、黒海周辺の国々に対しサービス
提供が可能であることが紹介され、ポルトガルより、EU 議長国として、EU は RDC 設立
を承認したこと、これにより世界の船腹量の 25%に当たる EU 国籍の船はトラッキング
できることとなり、右は LRIT システムの予定通りの実施に大きく貢献すると確信してい
ることが表明された。
最後に議長から、未だ回答を提出していない国々に対し、MSC として同回答を今次会
合中に提出するよう要請がなされた。
(ニ)LRIT システムの実施時期
イランより、実施のためには十分な準備時間が必要であり、混乱を避けるためにも実
施時期を延期すべきと提案文書(MSC 83/6/8)の説明がなされ、中国より、未だ技術的
問題が解決されていないため、NDC 設立のための国内手続きを進めることに困難を生じ
ていること、そのため質問状への回答もできない状況にあることが報告され、LRIT シス
テムの安全性と効果的運用を確保するため、イラン提案に賛成する旨表明された。
これに対し、イタリアは「賽は投げられた」として反対、ポルトガルも予定通りの実
施が不可欠として延期に反対し、パナマより、今の状況でうまくいくのかどうか不安が
あるとしつつ、事務局に対し、手続き的に延期は可能か否か確認したいとの発言がなさ
-2-
れた。
これを受け、事務局から、MSC 81 で採択された SOLAS 条約改正は 2007 年7月1日
まで反対通告がされなかったことから 2008 年1月1日をもって効力を生じることとな
っていること、仮に今から現 SOLAS 条約改正の実施開始日の改正手続きを取ったとして
も、手続きに相当時間を要する(条約改正案を作成した上で、その採択のために6ヶ月
以上前に回章する必要があり、その上で条約改正案をMSCで採択。採択された改正案
はさらに反対通告のために回章され、その後効力を発することとなる。
)ことから、結局、
当該改正の効力発生を阻止できないこと、すなわち、法的手続き上、現段階では延期は
困難な状況にあることが説明された。
これを踏まえ、スペイン、アルゼンチン、米国、トルコ、オランダ、ロシア、チリ、
マーシャル諸島、ナイジェリア、マルタより、実施時期延期に反対が表明され、最終的
に、MSC として現在のスケジュールに則って作業を行うことを決定した。
(ホ)安全及び環境保護の目的での LRIT 情報の活用(MSC 83/6/10)
提案国を代表して、ポルトガルより、EU/EC として LRIT 情報を安全及び環境保護の
目的で活用することはシステムの有効活用の点からも有益である旨提案内容の説明がな
され、我が国から、LRIT 情報の利用拡大は LRIT システムの持続的運用に資するとして
賛成した。これに続きロシア、韓国、ナイジェリア、ドミニカ、バヌアツ、オーストラ
リア、南アフリカも提案に対し支持する旨の発言がなされた。
パナマより、本件は MEPC でも検討されるべきであること、また LRIT 情報は各国の
領海を超えた沿岸から 1,000 海里の海域まで入手可能であり、右は海洋法条約の規定と齟
齬を生じているという懸念が表明され、チリより、活用範囲を広げることについては賛
成し MEPC での検討を MSC から求めるべきとの発言がなされた。
マーシャル諸島からは、反対はしないが、まずはセキュリティへの活用を第一として
整備するのが先決で、現段階でセキュリティ以外のことを検討するのは時期尚早と表明
された。
これらを踏まえ、議長は、MSC として本件提案を支持する、パナマとマーシャル諸島
のコメントはテイクノートし、WG に対し本件に関する MSC サーキュラー案の作成を指
示する、と総括した。
これに対しパナマから、議長総括には反対しないが、活用範囲の拡大が SOLAS 条約附
属書第 V 章の当該規定と矛盾するのではないかと指摘されたところ、議長より、今まで
の議論において大多数は矛盾と考えていないと考えられるが、これについても WG で検
討することが可能とされた。
(へ)上架中又は修理中の船舶からの LRIT 情報の送信(MSC 83/6/17)
ギリシャより提案文書に沿って説明がなされた後、我が国、ポルトガル、ポーランド、
シンガポール、パナマ、バハマ、ジャマイカ、トルコ、イラン、イタリア、スペインが
提案を支持した。
しかしながら、韓国、バヌアツより、LRIT のスイッチオフの例外を無制限に広げるこ
-3-
ととなることに懸念が表明され、デンマークより旗国、入港国がそれぞれ同時に実施す
ることが必要で、WG において具体的にどう実施するのか、LRIT の性能要件を改正する
必要があるか否かについて議論すべきとの発言がなされた。
インドネシアからは、提案に賛成するがその手続きについて、いつ、どのような状況
の時とするのか、また右を航海日誌に記入することを含めその手続きについても検討す
べきと発言がなされた。
これらを踏まえ、具体的な手続きと該当する状況を明確にするため、本件を WG で議
論することとなった。
(ト)LRIT 中間会合の検討結果(費用問題について)
中間会合議長から提案文書に基づき概要が説明され、引き続き、米国より提案文書
(MSC 83/6/5)に基づき課金・請求に関連する考え方が説明された。
これに対し、我が国から、LRIT システムを誰にでも公平で経済的に運用させるために
は、システムのいかなる関係者、締約国、或は船舶に対しても不適切な負担をさせるべ
きでない旨発言し、ロシアからは、IDC は現段階では必ずしも重要ではないこと、既に
複数の国が NDC や RDC の構築を表明していることから、最低限 IDE 運用のための費用
問題が解決できれば、LRIT システム開始への大きな第一歩を踏み出せることが指摘され
た。
ブラジルは、船舶に課金しないことがシステムを持続的に運用するための要であると
発言し、中国は ISWG では課金の基礎となる額に各 DC が 0.5 ドルを超えない範囲で課金
できるとしているが、DC の運用に係る費用は DC 毎に違うことから、もっと柔軟性を持
たせ、妥当な儲けを認めるシステムとすべきであると発言した。
パナマより、費用問題に関し沈黙している国々が相当数あり、今ここで IDE の費用負
担について検討するのは時期尚早であること、また、本来この費用問題はここにいる全
体会議出席者皆で議論すべき事項であり、WG では人数の関係から出席できない者が生
じるのは不適当であるとの発言がなされた。
キプロスからは、WG においては、課金方法についていろいろなオプションの中から
最適なものを選択すれば良いとの発言がなされ、ボリビアは、LRIT システムは有効なシ
ステムであることから利用者が支払うのが道理であり、船側が支払うのも選択肢として
あるのではないか、と発言した。
マルタはパナマの意見に対し、WG での作業結果は全体会議に提出され、その全体会
議において再度議論できることから、貴重な時間を浪費せずに WG で議論すべき、と述
べ、シンガポールがこれを支持した。
最終的に、議長は全体会議こそが MSC の意志決定の場所であり、本件も WG で議論し
た後、再度、全体会議で議論することとなる旨述べ、本件を WG に送ることを決定した。
(チ)LRIT 中間会合の検討結果(その他)
WG は次の事項について、中間会合報告書記載内容をノートし、WG の検討事項とす
ることを決定した。
-4-
(a)IDC 及び IDE 設置問題
(b)LRIT システムについての新たなマイルストーン
(c)MSC 84 までの作業事項
(リ)LRIT 中間会合の検討結果(関連)
IMSO より提出文書(MSC 83/6/7, MSC 83/6/13)に基づき説明がなされ、文書に記載
された経費額については、今後の MCS での検討・決定如何によって相当の減額が見込ま
れる旨の説明がなされた。
これに対しポルトガルから当該減額される経費の見込みを IMSO に質問したが、IMSO
は MSC の決定が減額に大きな影響を与えるとしたのみで、具体的な減額経費は明らかに
しなかった。
バハマからは、本システムは検討の初めから船舶に対する財政的負担を新たに設けな
いと決定していると念押しした上で、システム運用に係る経費削減を図り早期開始を促
進するため、①沿岸国の LRIT 情報入手最大範囲である 1,000 海里の縮小、②一日4回の
発信回数の減少など、を検討すべきと指摘された。
議長からは、バハマ提案については既に決着した事項であり全体会議ではこれ以上検
討せず、必要に応じ WG において検討することを指示した。
ギリシャから提出文書 MSC 83/6/7 の必要経費に係るパラ 21、22 についての確認が求
められたが、ロシアから、これら IMSO 提出文書は基本的に INF ペーパーであり、各国
は本文書の詳細についていろいろ質問があるだろうが、ここ全体会議では議論せず WG
で検討させるべきとの発言がなされ、結局、議長は本件詳細の検討を WG に付託した。
また、①必要となる各種契約雛形及び②中間会合の結果必要となった他の事項につい
ては、各国から何らコメントがなかったため、全体会議はそれぞれをノートした。
(ヌ)LRIT システムの技術面でのアドホック作業部会の検討結果
アドホック作業部会議長より、提出文書(MSC 83/6/1)に基づき概要が報告され、これに
対し、キプロスより、①技術仕様書の書きぶりをIMO用語にそろえるべき、②IDEへのア
クセス権及びデータの分配を決定するのはLRITコーディネーターではなくMSCである
べき、③技術仕様書は誰に送付されるものかとコメントがなされ、作業部会議長より③
について、右はIDE設立に関する契約を結んだ機関であると回答された。
委員会議長は、今次MSCでの承認のためWGに対し本件技術仕様書の最終化を付託し
た。
(ル)ロシア提案文書(MSC 83/6/12)の検討
ロシアから提案文書に基づき、①LRITシステム構築はステップ・バイ・ステップの思
想で行うべき、②まずはIDEの構築が大切、③ロシアはIDEのバックアップ機能を担う用
意がある旨説明がなされ、これに対し各国から特段のコメントもなく、WGで更に検討さ
れることとなった。
(ヲ)COMSAR 11での検討結果報告
-5-
特段のコメントもなく同報告をノートした。
(ワ)IDCとIDEの設立
本件に関連する提案文書毎に、提案国から概要説明を行い適宜議論されたところ、当
該結果以下のとおり。
(a) イラン提案文書(MSC 83/6/9)
IDE、IDCの運営は国際機関が担うべしとのイランの提案に対し、ポルトガルはIMO
が定めた機能要件を満たしシステムが適切に保護されデータの秘匿性が確保される
限り、国際機関に限定する必要はないと反対、これにガーナが賛成した。結局、イ
ランへの賛同は得られず、否決された。
(b) 事務局文書(MSC 83/6/add.1)
事務局から、IDE、IDC設立に関する提案の手続きを説明の上、これに基づき提案
があったものはLRIT企業体のみであり、右はIMSOの評価も実施されているとの説明
がなされた。
(c) マーシャル諸島提案文書(MSC83/6/6;LRIT企業体の提案)
マーシャル諸島より提案概要が口頭で説明されたところ、ロシアから、システム
概要に関する只今の口頭説明は、提出文書の記述と異なるため、マーシャル諸島に
対しJペーパーとして改めて変更点等を明らかにすることが要請された。
これに対し、マーシャル諸島は、IDE、IDCの開発検討の段階で提案文書の一部記
述に修正を施している旨認めた上で、財政面の情報の詳細も明らかにした文書を提
出することを了解した。
議長は、本件は、後日、全体会議でも再度検討されることから、当該Jペーパーは
WGのみならず出席者全員に事前に配布することを指示した。
また、クック諸島から、①マーシャル諸島提出文書の内容は極めて商売上の提案
(commercial proposal)の色彩が強く、本来であればINFペーパーで然るべき、②本
件に関しマーシャル諸島はIMO事務局と詳細な交渉をしているが、事務局はSOLAS
締約国を代表して話しができるのかと疑問が呈され、これに対し、マーシャル諸島
からは、LRITコンソーシアムは営利団体であり、独立したIMO、IMSOとの間で商売
上の交渉を行うことに問題はない旨、また事務局からも、事務局として法手続き上
必要なアドバイス等を行っているのみで、事務局としてマーシャル諸島との間で何
一つ取り決めた事項はないと反論された。
(d) IMSO文書(MSC 83/6/11;LRIT企業体提案の評価結果)
IMSOから提出文書について概要が説明された後、キプロスから①中間会合では
IMSOはSOLAS条約の規定と性能要件の観点からプロポーザルの評価を実施すると
定められたのに対し、なぜ今回「技術仕様」に関する評価も加えているのか、②パ
ラ9で技術面の評価として“appear to be satisfactory”としているが右はどういう意味
-6-
か、③パラ11で財政面の評価を“affordable”としているがどういう意味か、との質問
がなされた。
これに対し、IMSOからは、①「技術仕様」に関する評価は行っていない、②IMSO
としては技術面の公汎かつ詳細に渡る評価は実施していないことから当該評価は正
確な記述である、③誰が適当かという観点からの評価であり、完全ではないにしろ
我々が今できる範囲で十分な評価である、と回答がなされた。
ロシアは、IMSOの評価に関しては何も質問はないとしながらも、改めてマーシャ
ル諸島の口頭説明に関し、右がシステムの根幹をなすシステム設計、財政面の部分
で提出文書と大きく異なっており、これはLRITプロジェクト全体を変えてしまうも
ので、口頭ではなく文書によって当該変更は明らかにされるべきと主張し、これに
ギリシャが賛同した。
議長は、マーシャル諸島が大きな変更を原案に施したことから、現時点ではIMSO
ペーパーへのコメントを各国は出しづらい状況にあるとして議論を切り上げWGで
の検討に付した。
(e) 米国提案文書(MSC 83/6/3)
米国から提案文書の概要が説明され、これに対しクック諸島から、米国の提案は
本件プロジェクトを前進させ期日までの運用を確保するものとして評価する旨の発
言がなされた。
議長は、WGに本件を検討しMSCに対しとるべき措置を勧告することを指示した。
(f) WGの設置((MSC 83/J/4/Add.1)
事務局が作成したWGのTORに対し、ロシアからIDEの構築は今次MSCとして最低
限やり遂げるべき事項であり、右をTORに明記すべきとコメントがあり、議長はそ
の趣旨でTORを修正するよう事務局に指示した。
その結果、「ロシア提案(MSC 83/6/12パラ6-8、9.2)を検討しその対応を勧告す
る」との原案に、「IDEがLRITシステムの中核をなす要素であることを認識し」が
挿入された。
(2)WGでの議論
(イ)IDC、IDEの設立
(a) マーシャル諸島提出のLRIT企業体提案の検討
LRIT企業体から、IDCを利用する国については、登録料として船舶1隻あたり100
ポンドを支払えば、その後の費用は発生しないこと、位置通報にかかる通信費用は
企業体においてカバーするとの説明があった。この案に対しパナマが大きな関心を
示したが、ニュージーランドから、本提案にはIMSOが必要とするオーバーヘッドコ
ストが含まれていない点が指摘された。
また、企業体からさらに新規の提案としてIDCを設けずIDEのみでシステムの運用
を開始する案(各国の登録費用は3,500ポンド、そのほか情報交換費用が発生)が提
示され、本提案についての議論が進められた。本件審議の中での主要な発言は次の
-7-
とおり。
(i) 本件新規提案は正式な提案ではなく、各国適切な検討がなされていないこと
(スウェーデン)
(ii) 本件新規提案事項については、IMSOによる評価が行われていないこと
(スウェーデン)
(iii) 本件新規提案がビジネスモデルとして適切に機能するかどうか不明なこと
(ロシア)
(iv) いずれにしても本件企業体からの提案については、他の検討対象となる提案が
なく、適正な検討ができないこと(トルコ)
終日に及ぶ審議の後、議長からの提案として、
(i) 企業体によるIDEのみによるLRITの構成を受け入れるか否か
(ii) 上記が否決された場合に、米国の緊急代替提案によるIDEの設置を検討するか
否か
(iii)米国の緊急代替提案の審議結果として、同提案を受け入れるか否か
につき、各国の意向をそれぞれ問いただすこととなった。
議長からは WG での表決であることから正式な投票ではないとの説明があったも
のの、企業体提案に賛同した場合は、SOLAS 締約国として企業体と契約し必要な経
費を支払う意思表明と同意であるとのコメントがなされ、そのような条件では意思
表明できないとする国が多数を占めたものの、半ば強引に表決が行われた。
(出席者所感:議長・事務局側が上記のようなコメントを付しながら表決に望ん
だ背景としては、金曜日の審議状況から企業体提案が受け入れられる余地は少ない
と判断し、速やかに米国提案を受け入れて LRIT の立ち上げにつなぎたいとの意向が
あったように見受けられた。このような議長・事務局の意向を汲み取った反米国姿
勢の中国・イランを中心に度重なる質問、意見表明等が延々と続き、午前中に予定
された表決は午後に持ち越されることとなった。
)
表決では、議長が各参加国名を読み上げ、各国がそれぞれ企業体提案(IDEのみで
システムを構築)を受け入れるか否かを表明することとなった。
結果として、カナダ、キプロス、フランス、アイルランド、インド、イラン、シ
ンガポール、米国、タンザニアが企業体提案を支持したものの、パナマ、バハマ、
マルタ、ギリシャ、ブラジル等40数カ国、全体の80%以上が不支持となったことか
ら、マーシャル諸島を通じて提案された企業体によるシステム構築については否決
された。我が国は、ロシアが提示したように本提案がビジネスモデルとして将来的
に機能するのかどうか不明なこと等から支持できないことを表明した。
(b) 米国の緊急代替提案によるIDEの設置・運用の検討
マーシャル諸島提出のIDE提案に十分な支持が得られなかったため、米国による暫
定IDEの設置・運用についての検討に移った。中国、イランが本米国提案は、LRIT
調整者となるIMSOによる評価を受けていないので審議すべきではないとの論陣を
-8-
張ったものの、WGが与えられたTORに従い米国の提案を検討すべきとの意見が多数
を占め、審議されることとなった。
我が国は、そもそも正式に提案文書(MSC 83/6/3)として提出されているもので
あり審議することが当然であるとの考えの下に審議の実施を支持した。
その後、米国より、米国はIDEを無料で提供すること、これは暫定的なものである
ことから、自由競争の原理に基づき適当な企業体が早期に実施できるよう各国は努
力を継続しなければならないことが説明された。
米国提案に対する若干の質疑応答がなされた後、すぐに米国によるIDEの設置・運
営についての表決が行われ、イランが反対、サウジアラビア、南アフリカ、エジプ
ト、アンゴラが意思保留したものの、他の圧倒的賛成によりWGとして受け入れ、全
体会議に対して受け入れるべきとの勧告がなされることとなった。
(c) LRIT企業体の新たなIDC構想提案の検討
マーシャル諸島を通じてLRIT企業体から、提案文書MSC 83/6/6とは異なる新たな
IDC(小規模IDCであることからミニIDCと呼ばれた)の構想提案がなされ、このミ
ニIDCをめぐり議論が再度進められた。提案されたミニIDCの概要は以下のとおり。
(i)
既存のシステムを利用することから初期投資の必要なし
(ii)
参加国は登録料として1隻当たり12.5ポンドが必要
(iii) 位置通報1回につき25セントの経費
(iv)
位置通報料はデータの販売により補填
イランから本案はIDCではなくCDCであること、マレーシア等からなぜ再度IDCに
つき議論するのかといった意見が出されたが、議長・事務局側から、米国の緊急代
替提案を議論する前に全ての可能性を議論したいとの説明があり、半日以上が本案
の審議に当てられた。
その結果、WGとして本提案を検討すべきものとして全体会議に報告するかどうか
について表決することとなり、南アフリカ、シンガポールから時期尚早、提案とし
て遅すぎるなどの意見が出されたものの表決が強行された。結果として本案を全体
会議 に報告することについては大多数により否決された。
(d) 米国の緊急代替提案によるIDCの設置の検討
引き続き、米国提案の緊急代替策としてのIDCの設置・運用についての審議を実施
した。イランから、本案は参加国に通信費用の支払いを求めていることから、IDCの
要件を欠き、CDCではないかとの指摘がなされ、米国からも確かにその指摘は正し
い面もあるとのコメントがなされた(しかしながら、議場外で米国に確認したとこ
ろ、米国としてはIDCという名称にこだわっている面が見受けられた)
。
米国から、本IDCを利用する意向のある国を知りたいとの発言があり意向調査が行
われたものの、現段階において利用の意思表明を行った国はなかった。
このことから、WGの意思としては、LRITシステムの構築に当たり、現段階ではIDC
の設置の必要はなしという結論に至った。
なお、事務局から、アンケート等の結果として、50以上のNDC、RDC等の設置が
-9-
現在検討されているとの報告があった。
米国は、引き続き同国のNDCをRDC、CDCに拡張可能なこと、イランよりNDCを
検討中だがRDCともなりうること、マーシャル諸島、オーストラリア、南ア、韓国、
ブラジル等がRDC、CDCの設置意向を表明した。
(ロ)アドホック作業部会議長文書(MSC 83/6/1)添付の技術仕様書(案)の検討
本文書に添付されている各技術的仕様書(案)については、小規模WGが別途組織さ
れ、文章をIMO文章にするといったエディトリアルな修正が行われたが、この修正作業
の中で、Annex 4「LRITの経費と費用請求にかかる技術的事項の標準」に関しては、技
術的事項のほか多分に政策的事項を含んでいるとの指摘から再度WGにて審議すること
となり、その際には、本件についてはMSC決議等の形で全体会議において決定できるよ
うに事務局で文書の形態を検討した上でWGに諮ることとなった。
(ハ)ギリシャ提案文書(MSC 83/6/17)によるドック中等の LRIT の発信停止の検討
審議の結果、事務局にてMSC決議(MSC.210(81))
「LRITの性能基準及び機能要件」
の改正案を作成することとなった。
(ニ)新規のマイルストーンの検討
MSC 84までの処理事項などが審議され、事務局等を中心に全体会議報告案が作成さ
れることとなった。
(ホ)事務局文書(MSC 83/6/2)LRIT中間会合報告書の検討
広範囲にわたる本報告書について各種の議論が行われた。これらは「LRITに関するガ
イダンス」としてMSCサーキュラーにて回章すべく審議をすすめたものの、時間的制約
から引き続きMSC 84にて審議されることとなった。
今回議論された主な事項は次のとおり。
(a)
RDC/CDC内において船位通報のコストを支払わない国にどう対応するかとの中
国からの問題提起について、議論の結果、IDCの設置を見送った現在、RDC/CDC
に参加する国は必要な経費を払う義務があるとの意向が示された。
(b)
各DCは、通信コストのX%(10%を念頭)を上乗せしてデータ料金を設定でき
るとする中間会合の結論に対し、10%では少なすぎるとの意見が多く出され、
「公
平で合理的な」%の上乗せが認められるべきとの結論に至った。しかしながら、
データ料金は、通信料の2倍を超えてはならないとされた。
(c)
IMSO等から米国に対して、緊急代替提案に基づき米国が設置・運用するIDEにつ
いて、一時的な運用ではなく引き続き正式なIDEとして運用してはどうかとの提案
がなされたが、米国は、本件についての回答を控え、現在一時的な代替案として
の運用のみを検討しているとした。
(d)
LRITデータについては、LRITシステムの外部において、各国が情報を自由に共
有できるとする中間会合報告に対して、中国が強硬な反対意見を提出し、大きな
議論となった。議論の当初、中国は完全に孤立していたものの、粘り強い説得の
- 10 -
結果、EU各国が順次中国に同意を示すに至り、自由な情報共有に係る記載そのも
のが記述されないこととなった。
(ヘ) 経費の検討
カナダ・オーストラリアから、通信経費を低減するために船舶の位置通報を1日4回
から2回にしてはどうかとの提案がなされ、議論は紛糾した。これまでの長い議論の結
果として1日4回とされていることから簡単に回数を減らすべきではないとの意見や
LRITシステムはまだ運用されていないことから、ひとまず1日2回から運用開始し
ては(同じ理由から1日4回から開始)との意見等が出されたものの、大勢の意向は1
日2回へと傾いたように見えた。
しかしながら、議長は本件について、WGとしての結論を出すこととはせず、全体会
議への議長レポートの中に、「複数の国から船位通報回数の低減につきコメントが出さ
れ、議論の結果、本案に賛成し通報回数を減らすべきとするグループと従前からの決定
に従って運用を開始すべきとするグループに意見が分かれた。」旨を記載することとし
た。
(出席者所感:船位通報回数の変更は、MSC決議である「性能基準及び機能要件」の
改正のみならず、多くの事項に影響を与えることから、事務局側としては、現時点での
方針の変更を望んでいないように見受けられた。
)
(ト)IMSO の LRIT 調整者機能の検討
審議冒頭から、前回のIMSO総会におけるIMSO条約の改正採択に際して留保を表明し
た米国(米国はMSC 82においてもIMSOがLRIT調整者となる件に対して留保を表明)に
対してIMSOが不満を表明するという展開となった。
米国からは、LRIT調整者としての業務を執り行うIMSOとサービス契約を結ぶ用意は
あるものの、
「性能基準及び機能要件」に記載されている以上のことで収益を求めてい
るIMSOとの間で業務契約を結ぶ意思はないとの発言があった。
議長からは、LRIT調整者の役割は「性能基準及び機能要件」に明確に記載されている
とのコメントがなされた。
カナダよりIMSOに対して10万ポンドの献金を検討中との発言があり、ノルウェーよ
りカナダと同様な検討をしていること、また、キプロスからも献金を検討したいとの発
言があった。
(3)全体会議(12日(金))での議論
WG議長より、WGでの議論を総括して説明がなされ、特にIDEの検討に際しては参加各
国から意見を十分聴取した上で最終的には投票(vote)という形を取らずにWGとしての勧
告を取りまとめたことを強調され、また、今回のWGの時間的制約から、課金法等につい
てまとめたLRIT関連ガイダンス(Annex 4)を最終化できなかったため、次回MSC 84に持
ち越すこと、他方、性能要件の改正案(Annex 5)については、今後、システム構築作業を
行う上で重要なため、今次MSC 83で採択することが要請された。
- 11 -
(イ)WGでの手続きについて
中国より、WGでのIDE、IDCを選択する手続きに関し、①これまでIMOではコンセン
サスによる決定を重視してきたのに対し、今回、IDE、IDCを選択する際には、各国毎に
意見を求め最終的には投票によって決めたこと、②その決定の過程でマーシャル諸島の
提案をWGの段階で取り下げた点に問題があるとし、IMOでの決定は議論を通じたコンセ
ンサスによってなされるべき、と表明された。
同様に南アフリカからも、WGでマーシャル諸島の提案を取り下げることはできず、規
則に則って議事を進めるべきであったとの発言がなされた。
これらに対し、WG議長からは、時間的制約とWGに出席した全ての国が本件検討に参
加できるよう意向調査(polling)を実施したものであり、IDE、IDCについては今次MSC
で決定すべき事項であることからWGとして最終的な勧告を纏めるために必要かつ公平
な手続きであったこと、マーシャル諸島の提案については、WG出席者から十分な支持が
得られなかったため選択肢から外したものであることが説明された。
更に事務局より、今回、WGでは各国の意志を確認するために行われたということであ
るが、IMOの手続き規則では「決定」は多数意見で行われることとなっており、決定に
必要な投票は規則に則った作業であることが指摘された。
議長より、中国、南アフリカ、WG議長、事務局のコメントをMSCの報告書に明記す
ることが提案され、了解された。
(ロ)その他のコメント
リベリアより、旗国が1日4回の通報を入手し管理するという考え方は、各国が相当
数の情報を買うことを前提に定めたものであるが、買い手である各国の意向から考える
と、旗国が入手した情報の4分の3は活用されない無駄な情報と推定できることから、
1日4回の通報頻度を変更するか、他のシステムを考えるべきであり、SOLAS締約国は
事務局に対しよりよい資金体制構築のため更に詳細な情報を提供すべきであること、及
び船位通報回数を1日4回から2回に低減することも一つの解決策と考えられることが
指摘された。
これに対し、バハマ、マーシャル諸島、マルタ、パナマがこれを支持したが、ポルト
ガル、ギリシャより本件を検討するのは時期尚早であり、まずは運用させて必要な調査
を行うべきとの発言がなされた。
また、バハマからは、現在のシステムでは多くはLRIT情報の利用者でない旗国がたく
さん払って情報を買い取る仕組みであり、情報を必要としている沿岸国の本システムへ
の関与が不十分であることが指摘された。
IMSOからは、IMSOのLRITコーディネーターとしての役割について今回のWGでの議
論でも認識の違いが明らかになったことから、次回MSC84においてその点が明らかにな
ることを希望する旨のコメントがなされた。
韓国より、本年末までにNDCを立ち上げること、今後のIMOでの議論に積極的に参加
していく予定であることが紹介された(なお、韓国に議場外で確認したところ、本年度
までに完成するのはソフトウェアのみであり、ハードウェアの整備は来年行うとのこと
であった)。
- 12 -
シンガポールからは、暫定IDEを提供する米国に謝意が表されるとともに、改正SOLAS
条約に基づき持続可能なIDE、IDCを構築する必要があること、そのためには、例えば運
用開始から通報1件毎に小額の課金を付加し、IDE、IDC運用のための基金を創設するの
も一案であること指摘された。
(ハ)WGからの要請事項の検討
MSCはWGから要請のあった次の事項をそれぞれ審議し決定した。
(a)採択したもの
(ⅰ)安全・環境保全目的のLRIT情報の活用に関するMSC決議案(Annex 1)
(ⅱ)性能要件の改正案(Annex 5)
(ⅲ)暫定IDEの設立に関するMSC決議案(Annex 6)
アルゼンチンは国内関係機関の了解が必要として留保した。
(b)承認したもの
(ⅰ)LRITシステムの実施計画案(Annex 2)
(ⅱ)アドホックグループに関するTOR(Annex 3)
(c)是認したもの
事務局が修正した上で技術仕様とプロトコールを回章すること
(d)ノートしたもの
(ⅰ)持続可能なLRITシステムの早期構築に関するWGでの議論
(ⅱ)IMSOのLRITコーディネーターとしての役割に関するWGでの議論
(ⅲ)LRIT構築のための種々の合意モデルに関するWGの議論
(ⅳ)ロシアのIDEバックアップに関する議論
(ⅴ)IDEとIDCの設立と運用に関する議論
(ⅵ)IDCの設立を行わないとするWGでの議論
- 13 -
添付資料2
船舶トラッキングサービスの動向調査報告
現在の衛星サービスは、それぞれ、GPS位置情報を取り込んで、定期的に移動体の現
在位置を通報する位置情報サービスも提供している。
例を挙げると、
・ インマルサット
・ イリジウム
・ グローバルスター
・ アルゴス
などである。
なお、電話やFAX、データ通信ができる端末とは別に、トラッキング専用の発信機端
末を提供し、移動体に簡易に取り付けて移動体を追尾することができるサービスを提供し
ているものもある。
グローバルスター用トラッキング発信機の例
また、上記の他にも、船舶向けVSATサービス事業者の中にも、トラッキングサービ
スを提供しているものもある。(SeaMobileなど)
さらに、最近になり、衛星AISの提供を計画している事業者があることも判明した。
これはカナダのCOMDEV社がカナダ政府の補助金を得て開発に成功したものであり、
小型軽量なナノサットを低軌道に打ち上げ、船舶に搭載が義務付けられているAIS信号
を衛星によって受信するものである1 。IMOが全世界的に導入を計画しているLRIT
(Long-Range Identification and Tracking)の構成要素としても期待でき、今後のサービス提供シ
ステムの構築方法等につき、留意する必要がある。
COMDEV社が計画中資料を付録として添付する。
1
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添付資料3
海上インターネット通信実船実験報告
平成 18 年度の報告では、海上インターネット通信実船して、船−陸間の無線 LAN を構築
し、データ通信の実現性があることを確認した。今年度は、2船間で無線 LAN を構築し、平
成 19 年 9 月、瀬戸内海伊予灘において、その通信能力の調査する実海域実験を実施したの
で、以下に報告する。
実験概要(詳細は付録資料を参照)
本実験は、海上技術安全研究所と大島商船高等専門学校との共同研究として実施したも
のである。実験に利用した船舶は同校が所有する練習船「大島丸」
(228 トン)と小型船「す
ばる」(14 トン)である。
通信測定
Windows の dos プロンプトでの ping コマンドを拡張したフリーソフト"ExPing"と、ネッ
トワーク性能測定ツールのフリーソフト"Iperf"(TCP と UDP プロトコル転送時における帯
域幅を測定することができる)で測定した。
停泊時での準備実験(平成 19 年 9 月 7 日、山口県大島郡周防大島町、大島商船桟橋)
準備実験として、2船が約 110m 離れた停泊状態で、用意した 2 種類の無指向性アンテナ
(3 段コリニアと 8 段コリニア)とアンテナ高さをパラメータとして、実海域実験時と比
較するための基本的なデータを取得した。
実験結果として計測された帯域幅は 300∼500kbps であった。
実海域実験(平成 19 年 9 月 19 日、瀬戸内海伊予灘)
以下の4パターンを実施
①2船を 150m 離した状態での同航
②2船を 1,000m 離した状態での同航
③船首横切り距離が 150m になる横切り
④再接近距離が 150m となる反航
2船とも船速は約 12 ノットで運航した。
結果
①②同航については、船間距離(150m と 1,000m)によらず、500kbps 前後の帯域幅を確保
できた。
③横切りについては、船首横切り時においては、400kbps 以上の帯域幅を確保できた。
④反航については、2船が約 1km 離れた計測開始時は 200kbps の帯域幅であったが、再接
近点では、400kbps 以上の帯域幅まで上昇した。
すばるの船速を 24 ノットに上昇させ、2船の距離を徐々に離した実験では、2.9 マイル
(5km 以上)離れた地点でも 100kbps 以上の帯域幅を確保していることを確認した。
その他考察・特記事項等
利用したルーターがやや旧式のモデルであったため、最新のモデルを利用することによ
り、通信距離の長距離化、帯域幅の上昇が見込まれる。
また、指向性アンテナを用いることにより、2アンテナの向きが向き合う状況を作れれ
ば、通信距離の長距離化、帯域幅の上昇が見込まれる。また、指向性アンテナを複数本利
用する方法もあり得る。
途中、すばるの旋回時においては、通信が途切れる場合があった。今回は無指向性アン
テナの組み合わせであったものの垂直方向の指向性が存在するため、船体の傾きとアンテ
ナ特性を踏まえて、利用するアンテナを決定する必要がある。
AIS との比較
AIS の帯域幅は 9600bps のため、無線 LAN の通信能力ははるかに優れているが、AIS の場
合は、50km 以上も電波が届く場合もある。
無線 LAN では AIS の様に、岬の陰にいる船との通信はできない点に留意する必要がある。
過去に実施した船陸間の実験では、間に他船の横切りにより通信が途切れることが確認さ
れている。
AIS の欠報同様、パケットロスも実験結果では見られるため、その品質にも留意が必要
である。
海上無線LAN通信実験内容
停泊実験(事前実験)
– 日時:2007年9月7日(金)
– 目的:運航実験時の各船アンテナ高の決定
通信距離の確認
– 使用船:大島丸、疾風、すばる
– 内容:Ping、Iperf
実運航実験
– 日時:2007年9月19日(水)
– 目的:運航時の船間通信品質の調査
(速度12ノット、同航移動・横切り移動・対航の3種類)
– 使用船:大島丸、すばる
– 内容:Ping、Iperf
12ノット=時速22.224km(大島丸最高速度)
1
【補足】”すばる“最高速度は24ノット
無線LAN 構成機器
■使用ルータ
RTB2400(ルート(株))
■使用アンテナの種類
無指向性アンテナ(2種類)
3段コリニア
8段コリニア
規格 小電力データ通信
システム
周波数 2.4GHz帯
空中線 10mW/MHz(最大)
電力
変調速 2Mbps
度
伝送距 最大5km(RTB)
離
E面半値角 23°
E面半値角 9°
2
大島丸
•
•
•
•
•
•
•
全長
LENGTH(O.A.)
41.00m
垂線間長さ LENGTH(P.P)
38.00m
型幅
BREADTH(MLD.) 7.60m
型深さ
DEPTH(MLD.)
3.50m
吃水
DRAFT(MLD.)
3.00m
総トン数 GROSS TOONAGE 228TON(トン)
主機関
MAIN ENGINE
ヤンマ-MF29-UDT1
1,300ps×370rpm×1台
• 速力(試運転最大)SPEED
13.69KNOT(ノット)
• 航行区域 CLASS
近海区域
• 定員
COMPLEMENT
56名
3
すばる
• 総トン数 GROSS TOONAGE 14TON(トン)
• 速力(試運転最大)SPEED 28KNOT(ノット)
• 定員
COMPLEMENT
24名
4
停泊実験(準備実験)
大島丸
はやて
すばる
大島丸
疾風
すばる
大島丸からすばる桟橋を望む
5
停泊実験の結果
• 実験結果:
– 300~500kbpsの帯域幅の確保を確認
‹運航実験時のアンテナの高さを決定
‹船間の距離を決定
6
運航実験(1/2)
• 停泊実験(2007年9月7日(金)実施)より,各
船のアンテナの高さと船間距離を決定
150m
12ノット
12ノット
すばる
大島丸
アンテナは2段分の高さ
3段コリニア: 2段分の高さ
(3段コリニアアンテナのみ)
8段コリニア:1段半分の高さ
【補足】”高さ“はアンテナマストの高さで,1段は1mである.
実際の高さは,アンテナマストの高さ+船の高さ
7
運航実験(2/2)
• 実験の種類(同航,横切り,反航の3種類)
1km
1km
150m
船首横切り距離
150m
150m
1km
12ノット
すばる
12ノット
大島丸
8
大島丸実験航路
9
運航実験風景
同航実験(大島丸から見たすばる)
同航実験(すばるから見た大島丸)
横切り実験(大島丸から見たすばる)
横切り実験(すばるから見た大島丸)
10
同航実験時のレーダ画像
11
Ping応答時間(データサイズ1472Byte)
実施
回数
失敗
回数
失敗
率(%)
最短
時間(ms)
最大
時間(ms)
平均
時間(ms)
実験番号
実験内容
大島丸
すばる
[追加1]
移動中
3段
3段
300
0
0
58
245
70
[実験1-1]
同航150m
3段
3段
100
0
0
58
245
72
8段
3段
100
0
0
227
422
244
[実験2-1]
備考
[追加2]
移動中
8段
3段
490
35
7.1
56
424
151
[実験3-1]
同航1km
8段
3段
100
0
0
58
420
76
1472byte
[追加3]
8段
3段
100
0
0
51
387
79
736byte
[実験4-1]
3段
3段
100
0
0
231
421
244
2.2
58
416
72
[追加4]
移動中
3段
3段
275
6
[実験1]
横切り
8段
3段
251
5
2
116
419
243
[追加5]
移動中
8段
3段
331
2
0.6
90
595
242
[実験1]
反航
8段
3段
239
6
2.5
57
308
73
[追加8]
帰港中
8段
3段
239
222
92.9
88
816
280
1.
2.
3.
3段-3段の方が品質が良い
8段-3段の方が品質が良い
データサイズ1472byteと736byteの結果は,大差なし
横切り・反航: 同航と比較するとロス率は増加するが,2.5%以下であるため通信品
12
質は問題ないと考える.
同航150m:
同航1km:
Iperf実験(同航) -tcp,udp
Iperfのデフォルトサイズを使用(バッファサイズ8kbyte, TCP Windowサイズ 64kByte)
TCP実験
アンテナ
実験
内容
実験番号
同航
150m
実験1-1
実験2-1
同航
1km
実験3-1
実験4-1
大島丸
すばる
大島丸側(クライアント)
Interval
(sec)
Transfer
(kbytes)
すばる側(サーバ)
Bandwidth
(kbits/sec)
Interva
l(sec)
Transfer
(kbytes)
Bandwidth
(kbits/sec)
3段
3段
10.3
531
413
10.1
531
418
8段
3段
10.3
528
412
10.1
528
417
8段
3段
10.3
528
411
10.2
528
416
3段
3段
10.3
477
371
10.2
477
375
Iperfのデフォルトサイズを使用(バッファサイズ1470byte)
UDP実験
実験
番号
アンテナ
実験
内容
実験1-1
同航
150m
実験2-1
実験3-1
同航
1km
実験4-1
大島丸
大島丸側(クライアント)
すばる
Interval
(sec)
すばる側(サーバ)
Transfer
(kbytes)
Bandwidth
(kbits/sec)
Interval
(sec)
Transfer
(kbytes)
Bandwidth
(kbits/sec)
Loss
(%)
3段
3段
10.2
1.3MByte
1.0Mbits/sec
9.4
593
506
55
8段
3段
10.2
1.3MByte
1.0Mbits/sec
9.3
581
450
55
8段
3段
10.1
1.3MByte
1.0Mbits/sec
9.3
580
499
55
3段
3段
10.1
1.3Mbyte
1.0Mbits/sec
9.3
565
489 13 50
Iperf実験(同航) -tcpのみ表示
Iperfのデフォルトサイズを使用(バッファサイズ8kbyte, TCP Windowサイズ 64kByte)
TCP実験
アンテナ
実験番号
実験
内容
実験1-1
同航
150m
実験2-1
実験3-1
同航
1km
実験4-1
大島丸
すばる
大島丸側(クライアント)
Interval
(sec)
Transfer
(kbytes)
すばる側(サーバ)
Bandwidth
(kbits/sec)
Interva
l(sec)
Transfer
(kbytes)
Bandwidth
(kbits/sec)
3段
3段
10.3
531
413
10.1
531
418
8段
3段
10.3
528
412
10.1
528
417
8段
3段
10.3
528
411
10.2
528
416
3段
3段
10.3
477
371
10.2
477
375
„距離の違い
¾結果に差はあまり見られなかった
„アンテナの種類
¾距離1kmの場合,8段-3段の方がよい結果が生じた.これ
は,アンテナ利得の違いによるものと思われる.
14
Iperf実験(同航) -udpのみ表示
Iperfのデフォルトサイズを使用(バッファサイズ1470byte)
UDP実験
実験
番号
アンテナ
実験
内容
実験1-1
同航
150m
実験2-1
実験3-1
同航
1km
実験4-1
大島丸
大島丸側(クライアント)
すばる
Interval
(sec)
Transfer
(kbytes)
すばる側(サーバ)
Bandwidth
(kbits/sec)
Interval
(sec)
Transfer
(kbytes)
Bandwidth
(kbits/sec)
Loss
(%)
3段
3段
10.2
1.3MByte
1.0Mbits/sec
9.4
593
506
55
8段
3段
10.2
1.3MByte
1.0Mbits/sec
9.3
581
450
55
8段
3段
10.1
1.3MByte
1.0Mbits/sec
9.3
580
499
55
3段
3段
10.1
1.3Mbyte
1.0Mbits/sec
9.3
565
489
50
„距離の違い
¾結果に差はあまり見られなかった
„アンテナの種類
¾距離150mの場合,3段‐3段の方がよい結果が生じた.
¾距離1kmの場合,8段-3段の方がよい結果が生じた.
15
横切り実験
開始
すれ違い
(最接近)
終了
Ping(1472bytes)
239msec
238msec
242msec
TCPクライアント
(大島丸側)
Interval 5.2sec
Transfer 264kbytes
Bandwidth 406kbits/s
5.2
264
407
5.2
264
404
TCPサーバ
(すばる側)
Interval 5.1sec
Transfer 264kbytes
Bandwidth 413kbits/s
5.1
264
414
5.1
256
403
1km
1km
船首横切り距離
150m
【Memo】”すばる“が旋回して方向
を変更する際に,通信品質が下がる.
PingはTimeOutとなった.
大島丸
16
反航実験(1/2)
開始
すれ違い
(最接近)
終了
Ping(1472bytes)
62ms
65ms
69ms
TCPクライアント
(大島丸側)
Interval 7.4sec
Transfer 184kbytes
Bandwidth 199kbits/s
5.2
264
403
5.2
264
404
TCPサーバ
(すばる側)
Interval 7.2sec
Transfer 184kbytes
Bandwidth 204kbits/s
5.1
264
410
5.1
264
410
150m
150m
反航
追抜き
大島丸
17
反航実験(2/2) – 追い抜き
すばる
同航しながら,追い抜き
24ノット以上
開始【1km】
終了
TCPクライアント
(大島丸側)
Interval 5.2sec
Transfer 224kbytes
Bandwidth 343kbits/s
5.3
256
385
TCPサーバ
(すばる側)
Interval 5.1sec
Transfer 224kbytes
Bandwidth 351kbits/s
5.1
256
399
すばる
【1km先】
反航実験後,帰港時にどこまで通信可能か否かの確認
24ノット
開始 11:17:25 時点
11:22:30時点 終了 11:25:29時点
【2.9マイル先】
TCPクライアン
ト
(大島丸側)
Interval 5.2sec
Transfer 264kbytes
Bandwidth 406kbits/s
5.9
200
272
6.1
88
116
150
m
追抜き
12ノット以上(最速24ノット)
大島丸 12ノット
18
添付資料4
インマルサット及びインマルサット以外の衛星系通信に関する調査報告
1
最新の船舶向け衛星通信サービスの概要
1−1
静止衛星系 MSS
1−1−1
インマルサット(Inmarsat)
衛星の数: 第2世代衛星(I-2)×4機、第3世代衛星(I-3)×5機、
第4世代衛星(I-4)×2機(+1機(2008 年4月打上予定))
(以上全て静止衛星)
使用周波数:L バンド
サービスの概要
インマルサットは、国際機関として設立され、長い間、GMDSSサービスの担い手
として国際海運社会に貢献してきたが、1999年に完全に民営化され、英国の民間企
業となった。かつての国際機関としての役割は、別途設立された国際移動衛星機構(I
MSO)に引き継がれ、IMSOがインマルサット株式会社の黄金株を保有しGMDS
Sサービスが継続的に提供されるよう監督する役割を担っている。
インマルサットは、これまでの3世代にわたる衛星群に加えて、高速ブロードバンド
通信「BGAN」を提供するため、第4世代衛星(I−4)をこれまでに大西洋及びイ
ンド洋上空に打上げた。太平洋上にも2008年中に打上げる予定になっており、この
打上げが成功すれば、最大492KbpsでのIP通信が極地方を除く全地球上で利用
可能となる。
I−4衛星による船舶向けBGANサービスは、
「フリートブロードバンド(FBB)」
と呼ばれており、すでに2007年11月からサービスが開始され、432Kbps通
信が可能なFB500端末と256Kbps通信が可能なFB250端末がすでに複数
のメーカー(JRC,トラーネ・トラーネ等)によって市場に投入されている。
なお、FBB端末には、遭難通信の発信などのGMDSS機能は付加されていないた
め、SOLAS条約適用船舶は、これまでとおり、GMDSS対応端末(Inmarsat-B, C)
を別途搭載しなければならない。
インマルサットが現在提供しているサービスは以下のとおりである。
-1-
船舶用
・ Inmarsat-B (Voice/Fax/Telex/64K Data)
・ Inmarsat-C (Telex)
・ Inmarsat-D+ (Data(トラッキングサービス))
・ Inmarsat-Fleet
(Voice/Fax/Telex/128K Data)
・ Inmarsat-Fleet Broadband (Voice/Fax/SMS/432K Data)
陸上用
・ Inmarsat-M(Voice/Fax/2.4K Data)
・ Inmarsat-Mini-M (Voice/Fax/2.4K Data)
・ Inmarsat-M4(Voice/Fax/64K Data)
・ Inmarsat-BGAN(492K Data)
航空用
・ Inmarsat-Aero(Voice/Fax/64K Data)
・ Inmarsat-Aero Mini-M(Voice/Fax/2.4K Data)
・ Inmarsat-Swift Broadband(Voice/Fax/432K Data)
衛星携帯電話
・ IsatPhone(Voice(Satellite + GSM)/2.4K Data)
なお、インマルサットが創設以来提供してきたアナログ通信を基本とする Inmarsat-A
サービスは、2007年12月をもって全世界一斉に停止された。
また、インマルサットは、2006年9月にインドネシアの衛星携帯プロバイダーで
あるエイシス(ACeS)との提携を発表し、エイシス衛星(ガルーダ衛星)でもインマルサ
ットI−4衛星でも動作する IsatPhone を開発、インマルサットがガルーダ衛星を含む
衛星及びネットワークの運用、サービスの卸売販売、製品及びサービス開発を担当し、
エイシスがMSSの販売を担当することに合意したと発表した 1 。 I−4衛星による
IsatPhone は、2007年夏より、インド洋衛星及び大西洋衛星市場に投入されているが、
この結果、今後、エイシスは、インマルサットの Distribution Partner としてインマルサ
ットサービスの販売会社となり、ガルーダ衛星の後継機は打ち上げないものと見られて
いる2。
1
2
http://www.telecomasia.net/article.php?id_article=1762
http://www.acesinternational.com/corporate/index.php?fuseaction=News.read&type=1&id=04092006170000
-2-
さらに、インマルサットは、米国の衛星携帯プロバイダーであるMSV(Mobile Satellite
Venture)とも提携した3。両社は、双方のサービスに接続可能なハイブリッド端末を開発
し、両社の L-Band スペクトラムを有効に活用することで合意しており、事実上の合併に
近いと見られている4。
陸上地球局(LES)運用体制の再編
これまで、インマルサットの陸上地球局(LES)は、我が国のKDDIのように主
要各国の国際電気通信事業者が運用してきたが、第4世代衛星からは、インマルサット
による直営体制となった。名称もSAS(Satellite Access Station)と変更され、オ
ランダ、イタリア及びハワイ(建設中)に設置される。これに伴い、LESの運用業者
は、大きく再編されている。
海岸地球局(LES)を運用していた主要各国の国際電気通信事業者は、DP
(Distribution Partner)と呼ばれ、日本ではKDDIがこれに相当しており、かつては
非常に多くのLESオペレーターが主要各国に存在していた。しかしながら、国際電気
通信事業の各国における民営化・規制緩和などを背景にM&Aによる再編が急速に進め
られ、2008年1月現在、インマルサットの売上の45%を占めるストラトス社(カ
ナダ)5と40%を占めるビザーダ社(フランス)6の2社寡占体制となった。残りの15%
部分にKDDI、Singtelその他中国、韓国、イスラエル等の旧LESが含まれ
ているが、インマルサット社に対する価格交渉力の低下から各社は非常に厳しい営業を
強いられ、これらの中には、資産の売却、事業の譲渡等により、市場から撤退する事業
者も出現している。
また、インマルサットは、CFA(Commercial Framework Agreement)により、エンド
ユーザーへの販売が禁止されているが、これが2009年4月以降はこの束縛から解放
されるため、ストラトスを2009年4月に買収し、垂直統合を実施する見込みである。
この買収プロセスは、極めて複雑であり、インマルサットの金融子会社が投資ファンド
のCIP(Communications Investment Partners)に資金を融資し、ストラトスをCIP
が買収、この融資にあたり、インマルサットがストラトスを買収できるオプションが付
与されているため、この行使期間である2009年4月から2010年12月までの間
3
4
5
6
http://www.rcrnews.com/apps/pbcs.dll/article?AID=/20071221/FREE/409569342/1014/free
http://www.skyterra.com/media/press-releases-view.cfm?id=158&yr=2007
ストラトス(加)は、これまでに BT 航空海上事業(英)や Xantic(旧 Station 12+旧 Telestra)(蘭)等を買収した。
France Telecom Mobile Satellite Communications(仏)及び Telenor Satellite Service(諾)が APAX パートナーによる買
収され、ブランド名が Vizada に変更された。
-3-
に行使された場合にこの垂直統合が成立する仕組みである7。このCIPによるストラト
ス買収は、すでに米国FCC等8でも承認され、全ての法的問題がクリアされている。9
国内事業者
日本国内で総務省から包括免許を取得し、電気通信事業者としてインマルサットサー
ビスを国内向けに提供している事業者は、KDDI と日本デジコム(JDC)のみである。もと
もと KDDI の前進である KDD の公社事業として20年以上前に始められたものであったた
め、長い間 KDDI による独占体制となっていたが、2007年1月にベンチャー企業の JDC
が免許を取得し、2社体制となった。
なお、両社の他にも、海外旅行者向けや外国船籍の船舶向け等にサービスを提供する
中小の販売業者は日本国内にも多数存在する。
1−1−2
スラヤ(Thuraya)
衛星の数:
静止衛星3機
使用周波数:
Lバンド
サービス概要
スラヤは、アラブ首長国連邦の企業が運営する衛星携帯事業者であり、アジア∼欧州
までをカバーしている。日本をカバーする第3世代スラヤ衛星(Thuraya-3)も2008
年1月15日に打ち上げられ10、現時点では最も小型軽量の衛星携帯端末 SO251011も投入
し、インマルサット最大の競合サービスとして、アジア・ヨーロッパ地域を中心にサー
ビスを展開している。
7
8
9
10
11
http://www.tmfassociates.com/Stratos.pdf
http://www.stratosglobal.com/aboutStratos/page-aboutStratos_newsroom_newsItem.cfm?newsID=335
http://www.stratosglobal.com/aboutStratos/page-aboutStratos_newsroom_newsItem.cfm?newsID=336
http://www.thuraya.com/content/thuraya3.html
http://www.thuraya.com/content/thuraya-satphone.html
-4-
(カバーエリア(上記はスラヤ2号衛星まで。3号衛星では日本までカバーエリアが広がる予定。))
スラヤは、主力の衛星携帯サービス以外に、船舶・航空用のサービスも次のとおり提
供している。
衛星携帯
・ Thuraya Phone(Voice/Fax/9.6K Data)
高速データサービス
・ Thuraya DSL (144K Data)
船舶用
・ Thuraya Marine (Voice/Fax/9.6K Data)
航空用
・ AirSatCom (Voice/Fax/9.6K Data)
専用線サービス
・ Dedicated Lease(常時専用線),
On-Demand Lease(オンデマンド専用線)
スラヤは、インマルサットと提携し、Thuraya DSL と同じサービスを Inmarsat Regional
BGAN として、OEM 提供してきたが、インマルサットが I-4衛星を打上げ、独自に BGAN
サービスを始めたことに伴い、この提携関係を解消した。このため、Inmarsat Regional
BGAN サービスは、2008年12月をもって終了される。
販売業者
-5-
スラヤのサービスは、世界110カ国に分散する販売代理店によって提供されている。
なお、日本国内でサービスを提供するためには、総務省の包括免許を得なければならな
いが、現在までのところ、免許を取得した事業者はない。
ただし、一部の業者(KDDI/JDC など)は、海外における使用を前提として販売してい
る。
1−1−3
MSV
衛星の数(予定):
静止衛星2機(2009∼2010 年打上)
使用周波数:
Lバンド
Mobile Satellite Venture(MSV)は、米国とカナダの企業が提供を予定している衛星
携帯サービスである。北米大陸に500本のスポットビームを提供し、小型軽量端末で
地上波ネットワークを併用(「ATC」と呼ばれる。)したハイブリッドサービスを提供
することが予定されている。また、同社は、官公庁向けにプレス・トーク機能のついた
端末を開発し、官公庁の業務用通信を主マーケットとしてサービスを計画している。
2009年∼2010年の打上げを目標に衛星はすでに建造されているが、2007
年12月21日、MSV は、インマルサットとの提携に合意したと発表した12。
両社の合意内容の概要は以下のとおりである。
・ 北米大陸において両社に割り当てられたスペクトラムを再配分し、連続的なス
ペクトラムを形成し、成長する衛星(MSS)/地上(ATC)のハイブリッドサ
ービスにより、ブロードバンド需要に応えていくこと。
・ 両社の次世代衛星(I-4/MSV1/MSV2)のパラメータを調整し、スペクトラ
ムの効率を向上させ、有害な干渉から MSS と ATC の運用を保護すること。
MSVは、上記のようにインマルサットと提携することに合意しているが、各種報道の
とおり実質的なインマルサットによるMSVの買収と見られている。
1−1−4
エイシス
エイシス(Asia Cellular Satellite(ACeS))は、アジア地域に静止衛星によるセルラ
12
http://www.skyterra.com/media/press-releases-view.cfm?id=158&yr=2007
-6-
ー携帯電話を提供する目的で、1995年に設立された企業である。インドネシアに本
社を置き、衛星の名前は「ガルーダ衛星」として知られる。
エイシスは、上記のように東南アジアを中心とした強力なスポットビームを浴びせる
ことにより、これまで、小型衛星携帯(下記参照R190)でも通話できるサービスを
提供してきた。
(R190)
しかしながら、2006年9月にインマルサットとの広範囲な提携で合意し、ガルー
ダ衛星でもインマルサットI−4衛星でも動作する IsatPhone を上記のR190を改良
して開発、インマルサットがガルーダ衛星を含む衛星及びネットワークの運用、サービ
スの卸売販売、製品及びサービス開発を担当し、エイシスがMSSの販売を担当するこ
-7-
とに合意したと発表した13。 I−4衛星による IsatPhone は、2007年夏より、イン
ド洋衛星及び大西洋衛星市場に投入されているが、この結果、今後、エイシスは、イン
マルサットの Distribution Partner としてインマルサットサービスの販売会社となり、ガ
ルーダ衛星の後継機は打ち上げないものと見られている14。
1−1−5
MTSAT
衛星の数:
静止衛星2機
使用周波数:
Lバンド
国土交通省航空局および気象庁によって、航空機の航行・管制を支援し次世代の航空
保安システムの一翼を担う航空通信ミッションと、気象衛星「ひまわり 5 号」の後継と
しての気象観測ミッションを併せ持った「運輸多目的衛星 (MTSAT : Multi-functional
Transport Satellite) 」が、これまでの「ひまわり」と同じく東経 140 度の静止軌道上に予
備機を含め 2 機が投入されている。15
MTSAT は、1999 (平成 11) 年 11 月 15 日の H-II ロケット 8 号機の打ち上げ失敗
により太平洋の藻屑と消え、代替の MTSAT-1R は製造に遅延をきたした挙句に製造元
である米国 Space Systems/Loral 社の経営破綻で納入が遅れに遅れ、更には打ち上げ用の
H-IIA ロケットも 2003 年 11 月 29 日の 6 号機打ち上げ失敗 (このときのペイロード
は情報収集衛星 2 機) により 1 年 3 ヶ月にわたりフライトが中断、ようやく納入され
た MTSAT-1R も 1 年近く種子島で保管を余儀なくされる、と御難続きであった。
2005 (平成 17) 年 2 月 26 日、H-IIA フライト再開第 1 号となる 7 号機により、よ
うやく MTSAT-1R は打ち上げに成功、「ひまわり 6 号」と命名されました。その後、
2006 (平成 18) 年 2 月 18 日には H-IIA 9 号機により MTSAT-2 が打ち上げられ「ひま
わり 7 号」となった。
また、MTSAT 自体の管制業務および航空機と地上の航空管制施設との間のデータ通
信中継を行う地球局として、茨城県常陸太田市と神戸市西区の 2 ヶ所に「航空衛星セン
ター」が新たに整備された。神戸航空衛星センターは、当初の MTSAT-1 打ち上げの前、
1999 年 4 月に開所、常陸太田航空衛星センターは、MTSAT-2 の運用開始に先立って
2003 (平成 15) 年 1 月に開所した。神戸局は、MTSAT-1R の、常陸太田局は、MTSAT-2
13
14
15
http://www.telecomasia.net/article.php?id_article=1762
http://www.acesinternational.com/corporate/index.php?fuseaction=News.read&type=1&id=04092006170000
http://naritama.org/report/mlit_hitachiota.html
-8-
のメイン地球局として運用される。当然、両センターが相互にバックアップする運用体
制となっており、どちらの衛星も、どちらの局からも同様に管制が可能となっている。
なお、「ひまわり」と言うと世間一般には気象衛星とのイメージが強いこともあり、
常陸太田や神戸の地球局を「新しい気象衛星の基地局」と解釈する向きもあるが、「航
空衛星センター」の名称が示すとおり、常陸太田・神戸両局が担当するのは航空ミッシ
ョンのみであり、MTSAT 気象ミッション用の地球局は、従来の「ひまわり」シリーズ
から引き続き埼玉県清瀬市にある「気象庁気象衛星センター」が使用されている。ただ
し、衛星自体の監視・制御業務は、航空衛星センターにて行われている。
航空衛星センターでは、東京航空局、大阪航空局のそれぞれの局管内の航空機と地上
とのデータリンクを確保し、航空機の位置情報を管制機関に伝えると共に GPS 補正情報
を航空機に提供することで、精度の高い航空管制と航行支援を実現させている。
航空衛星通信システム(AMSS)
AMSS は、MTSAT の通信衛星機能であり、VHF や HF に依存した航空通信の通信品質
を格段に向上させ、データ通信により、気象データ、NOTAM(航空情報)そしてフ
ライトプランなどを機上のFMS(飛行管理システム)に直接送信するも可能とするも
のである。
また、AMSS は、インマルサット航空衛星通信システムと相互運用性が確保され、イ
ンマルサット第3世代衛星と同様のスポットビーム6つで日本を含む北太平洋をカバー
しているため、既存の Aero-I や Aero-H+などのインマルサット航空機局のユーザーも
MTSAT が利用できる。
上記のとおり、MTSAT の AMSS は、インマルサットと相互運用性が確保されている
が、東経 140 度を中心としたカバレッジなので、特にアジアベースのフライトについて
衛星切り替わりによる通信途絶の可能性が低いこと、福岡 FIR(Flight Information Region)
内における航空機からの通信料(データ・音声)については無料(上記以外の通信につ
いては SITA 社が有料の通信事業を行う。)となること、インマルサットにアクセスでき
る衛星通信装置に MTSAT の情報を登録するだけで MTSAT にアクセスが可能であり、新
たなハードウェアが不要なこと、などのメリットがある。
衛星航法補強システム(MSAS)
MSAS は、地上に設置された受信局で GPS 信号を受信し、信号に含まれる誤差を補正
するための GPS 補強情報を作成し、MTSAT を経由して航空機に提供する航法システム
-9-
である。
補強情報には、
①
GPS 衛星ごとの誤差情報(ディファレンシャル補正機能)
②
GPS 不具合情報(インテグリティ機能)
③
GPS と同等の信号(レンジング機能)
などが含まれており、これらを利用することで GPS 測位の精度(Accuracy)・完全性
(Integrity)、利用可能性(Availability)及び継続性(Continuity)が飛躍的に向上し、極
めて高い安全性が要求される航空機運航においても主要な航法手段として利用すること
ができるようになった。
MSAS は、GPS 信号のモニター局(GMS(札幌・東京・福岡・那覇))、MTSAT の
位置を測定するための標定局(MRS(神戸・常陸太田・ハワイ・オーストラリア))及
び GPS 補強情報を作成する航法統制局(MCS(神戸・常陸太田))から構成されており、
GMS と MRS で測定された情報から補強信号が MCS で作成され、MTSAT 経由航空機へ
提供されている。
航空衛星センターでは、全ての試験を完了し、平成 19 年 9 月 27 日に試験信号から正
式な信号への切換を行い、MSAS の供用を開始した。
なお、MSAS は、海外の衛星補強システム(米国の WAAS 及び欧州の EGNOS)とも
相互運用性が確保されている。
監視システム
これまでの航空機の監視システムでは、地上に設置されたレーダーによって、そのサ
ービス域内の航空機の位置をリアルタイムで捕捉し、太平洋上などのレーダーサービス
履域外では航空機からの音声による位置通報によって航空機の位置を確認していた。
これに対し、CNS/ATM システムでは測位衛星であるGPSを利用して自分の位置を測
定した結果を、MTSAT 経由で管制機関に送る自動従属監視(ADS :Automatic Dependent
Surveillance)によりレーダーのサービス域外となる洋上等においても航空機の位置を監
視することができる。
この機能により航空機位置精度の改善とパイロット・管制官のワークロード軽減が図
られ、最適飛行コースの選択などが可能となっている。
- 10 -
1−1−6
テレスター
衛星の数(予定):
2機(2008∼2009 年)
使用周波数:
Sバンド
Terrestar 社16は、米国及び欧州にてSバンド静止衛星と地上系によりIPベースの移動
体通信サービスの提供を計画している事業者である。
同社は、北米大陸及び欧州大陸を静止衛星によって広範にカバーし、高速データ、高品
質音声及びインターネットアクセスを全ての欧州各国に提供するとともに、防災時の危機
管理通信サービスを提供する計画である。
特質すべき点は、同社のサービスへ接続するために、専用のハンドセットが必要ない点
である。同社は、専用のチップセットを携帯電話、ラップトップPC、PDAなどに組み
込ませることにより、チップセットのパテント料を売上とするビジネスモデルを計画して
いる。同社のチップセットは、衛星サービス、GSM、UMTS、HSDPAなどを広範
にサポートする予定である。
1−1−7
ICO
衛星の数(予定):
静止衛星1機(2008 年)
中軌道衛星10機(2009∼2011 年)
使用周波数:
Sバンド
ICO17は、米国にて衛星系(MSS)/地上系(ATC)のハイブリッドサービスをS
バンドで提供することを計画している事業者である。古くは、1990年代インマルサッ
トの子会社として高度約2万Kmで地球を周回する中軌道衛星(MEO)10機で衛星携
帯電話サービスの提供を計画していたが、イリジウムやグローバルスターの倒産と同様に、
ICOも1999年に連邦破産法11章を適用し、倒産した。その後、2000年に新会
社としてスタートし、2005年には、静止衛星(GEO)1機を当初のMEO衛星群に
加えることを発表18、MEO(10機)+GEO(1機)のコンステレーションにより、サ
ービスを提供する計画である。
GEO衛星の打上げは、2008年初頭に、MEO衛星の打上げは、2009年∼20
16
17
18
http://www.terrestar.com ,
http://www.terrestarglobal.com/
http://www.ico.com/
http://www.spaceref.com/news/viewpr.html?pid=16756
- 11 -
11年にかけて予定されている。
ICOは、衛星系/地上系のハイブリッドサービスにより、音声、データ、動画、イン
ターネットサービスを携帯端末にて米国内で提供する予定である。
1−1−8
ワイドスター
衛星の数:
2機
使用周波数:
Sバンド
NTTドコモが、2機の静止衛星を使用して、日本国内及び日本沿岸約200海里に向
けに提供しているサービスである。
音声、FAX、及び、4800bps(Up)/64Kbps(Down)のパケット通信サービスが提供されて
いる。
現在のところ、船舶通信や防災用として用いられている例が多いが、地上系の携帯電話
と比べ、データ速度が遅いこと、カバーエリアが日本に限られていること、などが大きな
問題点である。
1−1−9 メガ・ウェーブ・マリン
我が国の衛星オペレーターである JSAT が、内航船舶向けに提供しているサービスである19。
「Mega Wave Marine」は、下り回線のみ JSAT の固定通信用の Ku バンド静止衛星を使用
19
http://www.jsat.net/release/20080131-1.html
- 12 -
し、最大3Mbps までの高速データ通信を可能とするものである。
しかしながら、上り回線については、船舶に既設のワイドスターまたはインマルサット
を使用するため、上り方向のスピードは、確保されない。
1−1−10
(参考)欧州MSS
欧州では、Sバンドを地域移動衛星サービスに割り当てることとし、そのサービス事
業者を2009年に決定することとしている。現在では、上記で述べたテレスターと
Eutelsat/SES Astra 連合がこれに手を上げており、双方、様々な提案をしている模様。
テレスターは、上記のとおり、チップセットを活用したサービスを提案しているが、
Eutelsat/SES Astra 連合は、衛星 TV と衛星携帯のハイブリッドサービスを提案している
模様20。
20
http://www.bloobble.com/objects/presentations?itemid=826
- 13 -
1−2
周回衛星系 MSS
1−2−1
イリジウム
イリジウムは、66個の低軌道周回衛星によって衛星携帯通信を提供する事業者である。
当初は、77機の周回衛星を利用する計画であったため、原子番号77にあやかり、イリ
ジウムと名づけられたが、コスト削減のため、66機に変更された。1998年に運用を
開始したが、地上の携帯電話の普及などに押され、需要が予想通り伸びなかったため、1
999年に破産した。しかしながら、米軍によって細々と使用されつづけた後、6万人の
加入者が得られれば採算がとれるモデルに修正され、2001年に民間向けのサービスを
再開した。日本でも、2005年6月1日から㈱KDDI ネットワーク&ソリューションズ
がビジネスを再開している。
イリジウムの最大の特徴は、①衛星間通信が行われているため、ゲートウェイ局と携帯
端末が衛星からの見通し範囲内にない、大洋の真ん中などでも通信が可能であること、②
衛星それ自体に交換機能が持たれているため、端末―端末通信は、衛星折り返しにより通
信できること、などである。
また、大量の通信を処理しなければならない静止衛星と比べ、66個の衛星にトラフィ
ックを分散できるため、衛星が小型化できる点も特徴である。
提供されているサービスとしては、
① 音声通信
② 回線交換によるデータ通信
・ ダイヤルアップ方式
・ 直接インターネット方式
③ パケットによるデータ通信
であり、携帯電話端末や船舶用端末などが用意されている。
1−2−2
グローバルスター
サービスの概要
グローバルスター衛星システムは、地上 1,400km を周回する48機の低軌道衛星から構
- 14 -
成される衛星携帯電話サービスである。イリジウムと異なり、衛星間通信を行わないため、
衛星からの見通し範囲内に地上ゲートウェイと携帯端末の双方が入らなければならないが、
現在、世界25ヶ所にゲートウェイが設置されており、北米・南米・欧州・ロシア・中国
等でサービスが展開されている。今年、シンガポール(SingTel)とゲートウェイを設置す
る契約が成立したため、東南アジア地域も来年より、広範にカバーされる予定。日本付近
では、韓国及びロシア(ウラジオストック)にゲートウェイが設置されている。
使用周波数は、C バンド(ゲートウェイ⇔衛星)、S バンド(衛星⇒端末)及び L バンド
(端末⇒衛星)である。
C
-Band
C-Band
6875-7075 MHz
k
in
-L
n
w
Do
KS
k
se R LIN
r
in
e
E
v
-L
p
Re FEED
U
rd
wa
r
Fo
Globalstar
Gateway
LL-Band
-Band
Re
ve
1610-1626.5 MHz
rs
e
U
Fo
Up
SE
rw
R
-L
LI
ar
in
N
k
d
KS
Do
wn
-L
in
k
C
-Band
C
-Band
C-Band
C
-Band
SS-Band
-Band
5091-5250 MHz
2483.5-2500 MHz
サービスとしては、双方向サービス(デュプレクス:電話/データ/FAX など)と端末
- 15 -
からの発信のみの片方向サービス(シンプレックス:データ(トラッキングなど)のみ)
が提供されている。韓国ゲートウェイを利用した場合、双方向サービスは東京付近でゲイ
ンが低く、通話困難であるが、片方向サービスは日本全域が広範にカバーされ、太平洋を
含む日本全土がカバーエリアに入る。
なお、2006年後半より、S バンド出力の低下が著しくなっており、双方向サービスに
支障が発生しているが、片方向サービスは、L バンドしか使用しないため、現在のところ問
題ない。
グローバルスター社の歴史
グローバルスター社は、1999年に設立されたが、地上の携帯電話網の発達に押され、
2001年11月、連邦破産法11条による保護を申請し、事実上倒産した。(参考:イ
リジウムは、1998年にサービス開始、1999年8月に倒産している。)
2004年4月、テルモキャピタルが倒産した旧グローバルスター社の資産を買収しサ
ービスを再開、2006年4月に負債200百万米ドル(5年ローンなど)及び株主資本
200百満米ドル(テルモキャピタルより)を調達、2006年11月には、IPO により1
28百万米ドル(1株75米ドルにて750万株を売却)を調達した。これらの資金は、
第一世代衛星のスペア及び第二世代衛星の打上げ、並びに、地上設備の更新等に当てられ
ている。
1−2−3
オーブコム
オーブコム衛星通信サービスは、地上約 800km の軌道上の 30 機の低軌道周回衛星(LEO)
を利用したデータ通信サービスである。地上から 3 万 6000km の遠距離にある静止衛星に比
べ簡易・小型な通信機・アンテナで通信が可能な点が特徴である。
山岳地に設置された多数の設 備・計測機器や、車両・ 船舶などにオーブコム通信端末
を接続することにより、位置情報(位置情報は GPS 衛星から取得します)や稼動情報、計
測器のデータなどを送ることができ一元管理が可能になる。
端末から発信されたデータはオーブコム衛星・コントロールセンター経由、インターネ
ットもしくは専用線を通じ、メールで届けられる。逆の流れで端末への メッセージの送信
や設定変 更のコマンド送信も可能である。電子メールの形式を利用しているため、既存の
- 16 -
設備で簡易に通信が実現できる。21
(オーブコム端末・アンテナの例)
1−2−4
アルゴス
アルゴスは 1970 年代に、CNES (フランス国立宇宙研究センター)、NOAA (米国海洋大気
局)および NASA (米国航空宇宙局)の協力により開発され、フランスと米国の協力により、
長期間にわたって維持・運営されてきた衛星システムである。地上約 1,000 Km の極軌道衛
星により構成されているが、衛星上の処理装置はフランスが提供し、衛星自体は米国(気
象衛星)が提供するという仕組みにより運用されている。2002 年 12 月には、アルゴス衛星
装置を搭載した環境観測技術衛星 ADEOS-II が、我が国の JAXA(宇宙航空研究開発機構)
によって打ち上げられ、アルゴスの運営機関に日本も加わることになった。しかしながら、
2003 年 10 月 25 日に ADEOS-II の太陽電池パドルに起電力の急激な低下が発生し、衛星が
機能不全に陥り、同 31 日に運用は断念された。
21
http://www.orbcomm.co.jp/service/index.html
- 17 -
アルゴスは、401MHz 帯の周波数を使用し、地球環境に関するデータを収集するシステム
として、すでに 20 年以上に渡って、さまざまな環境データを世界中の研究者に利用されて
きた。移動式あるいは固定式の観測装置(プラットフォーム)から送信された観測データ
は、衛星から地上受信局、さらにデータ処理センターに転送され、解析・処理された上で、
ユーザーに配信される。アルゴスの大きな特徴は、プラットフォームからのデータを受信
するのと同時に、その位置を特定できることである。極軌道衛星のため、カバー範囲は全
世界である。
アルゴスの運用実務、システム管理、広報普及などについては、CNES の子会社であるフ
ランス CLS 社が担当している。
日本では同社の総代理店である(株)キュービック・アイが、ユーザー窓口となって、
アルゴスのサービスを提供している。
1−2−5
コスパス・サーサット
コスパス・サーサット・システムは、40 カ国以上もの国が加盟している政府間機関「コ
スパス・サーサット」(本部:カナダ・モントリオール)によって運用されている国際的
な捜索救助衛星システムであり、1979 年に米国、ソ連、カナダ及びフランスの 4 カ国の宇
宙機関によって締結された覚書(MOU)によって構築されたものである。
4 カ国の宇宙機関の協力が様々な協力によって準備が進められた衛星システムは、1982
年に最初の衛星が打上げられて以来、数々の遭難者の救助に貢献し、1988 年には、上記の
4 カ国が正式に「国際的なコスパス・サーサット計画協定」22を締結し、世界唯一の公的な
22
協定では、米国、カナダ、フランスが、「サーサット衛星」の衛星プラットフォーム、レピーターユニ
- 18 -
捜索救助衛星システムとして改めて認知された。
海や空の分野での捜索救助を促進するため、国際海事機関(IMO)や国際民間航空機関
(ICAO)では、船舶が沈没した場合や航空機が墜落した場合に自動的に衛星に向けて救助
信号を発射する発信機(ビーコン(詳細後述))の搭載を国際条約で船舶や航空機に義務付け
るなど、主として船舶や航空機の捜索救助に活用されている。
初期の衛星システムは、地上約 1,000 キロメートルの低軌道で地球を周回する低軌道衛星
(LEOSAR)のみによって構築されていた。この低軌道衛星システムは、ビーコンから発射
された電波(121.5MHz や 406MHz)のドップラー効果を計測し、ビーコンの位置を計算す
るものである。
しかしながら、低軌道衛星による計測は、誤差が大きく、また、衛星がビーコン上空に
飛来するまでに最悪2時間程度の時間を要するなどの問題が指摘されたため、1990 年代後
半には、ビーコンの信号自体に GPS23計測位置を挿入し、地上3万6千キロメートルの赤道
上に見掛け上静止している静止衛星(GEOSAR)によって信号を中継するシステムも加え
られた。
また、2005年から、GPS(米)/ガリレオ(欧)/グローナス(露)衛星等をバス
として利用した約 20,000km の軌道を回る中軌道衛星(MEOSAR)の構築も始まっている。
MEOSAR は、LEOSAR ならびに GEOSAR と比べて次のような特徴を持っている。
・ 遭難位置検出に TDOA ならびに FDOA を使用する。
・ TDOA(Time Difference of Arrival):4 つの衛星に到達するビーコンからの電波
の時間差を測定する。
・ FDOA(Frequency Difference of Arrival):4 つの衛星に到達するビーコンからの
電波の周波数差を測定する。
・ 地上基地局からビーコンへの通信チャネル(RLM: Return Link Message)を備え
ている。
ット、プロッセッサー及びメモリーユニットをそれぞれ提供すること、ソビエト連邦(当時)が、「コス
パス衛星」を提供することが合意された。
23
「GPS」は、米国の測位衛星システムであるが、今後、打上げが予定されている他の測位衛星システ
ム(欧州「ガリレオ」、ロシア「グローナス」等)も含む概念として、本報告書では使用するものとする。
- 19 -
MEOSAR は、2005 年から実験を開始し 2012 年に完成する予定となっている。これが実
現すると衛星が増えるため、ビーコン信号を拾うまでの時間が短縮されるため静止衛星に
比較して低出力でも衛星に到達する可能性が出てくると共に、RLM が用意されているため、
新たなアプリケーションの開発が行われる可能性がある。
発信機(ビーコン)には、大きくわけて3種類あり、船舶用のものを EPIRB(Emergency
Position Indicating Radio Beacon)、航空機用を ELT(Emergency Locator Transmitter)、個人
用を PLB という。
ビーコンから発射された緊急通報は、下記のような流れにより、国際的に構築されたネ
ットワークによって、最寄の救助隊に伝達され、救助活動が行われる仕組みとなっている。
- 20 -
1−3
VSAT サービス
船舶向け VSAT サービスとは、Ku バンド(1.2/1.4GHz)及び C バンド(6GHz)といった
もともと固定通信用(Fixed Satellite Service(FSS))に割り当てられた周波数帯の衛星
を複数使用し、海洋向けにサービスを提供するものであるが、FSS は、もともと陸上通信用
の衛星であるため、海洋部分をカバーする衛星があまりないことが最大の難点である。し
かしながら、一時期、旅客機向けにブロードバンドサービスを提供していたコネクション・
バイ・ボーイング(CBB)用に打ち上げられた太平洋向け衛星(GE-23)など、海を中心と
したビームを持つ衛星なども最近打ち上げられ、また、我が国の JSAT によっても2009
年にインド洋をカバーする衛星も打ち上げられる予定である。船舶向け VSAT サービス事業
者は、これら海洋をカバーする複数の衛星のトランスポンダーをリースしてネットワーク
を構築し、これに様々な付加価値を加えるなどしてサービスを提供している。
これらのサービスは、インマルサットなどと比較して、アンテナが非常に大きく(Ku バ
ンド用のもので約 1.2m、C バンド用のもので約 2.4m)かつ高額である点が難点であり、オ
イルリグやガスリグ、大型客船など、あまり広範囲に移動しないプラットフォームや巨大
船に客層は限定されていたが、最近では、Ku バンド衛星によるサービスカバレッジが拡大
しており、Ku バンド用のアンテナ(1.2m)であれば貨物船等にも搭載可能であるため、一部
の外航商船にも利用が拡大している。
サービス内容は、500K∼2M の高速ブロードバンド通信(ベストエフォート型/専用線型
など多種類あり)やTV、VOD、トラッキングサービスなどプロバイダーにより様々で
ある。
船舶向けVSATサービスは、Radio Regulation では、ESV(Earth Station on Vessel)
と呼ばれており、その利用海域に制限がある。Resolution 902 によると Ku バンドについて
は沿岸125Km、C バンドについては沿岸300Km に使用制限があり、電波の発射につい
ては、沿岸国の同意が必要ということになっている。このため、日本においても総務省が
中心となり、各国と2国間協定を制定すべく努力が行われているが、実際には、日本船籍
の外航船舶は、約100籍程度しか存在せず、その多くが、パナマ等の便宜置籍船となっ
ているため、便宜置籍船国と各沿岸国が相互協定を締結しなければならず、非常に困難な
状況となっている。
なお、船舶向け VSAT サービスのエンドユーザー価格は、サービスのスピードによるが約
30万∼100万円の間で提供されている模様。従量課金システムのインマルサットと異
- 21 -
なり、料金が月額固定料金制であるところが、最大の差別化要因である。
次のいずれのサービスも、MTNやCapRockを除き、比較的新しいものであるた
め、搭載隻船の数は、現時点では各サービスとも約200隻から300隻程度である。
1−3−1
SeaMobile
SeaMobile(本社:シアトル、社員:210人、売上65百万 US ドル)は、1987年
に設立された MTN(Maritime Telecommunication Network)を2006年に買収し、MTN のサ
ービスを拡大する形でビジネスを展開している。
船舶向け VSAT サービス事業者の中では、老舗にあたり、搭載隻数も400隻に近い。
Ku バンドと C バンドの双方を提供しており、C バンドについては、インテルサットのグロ
ーバルビームを使用し、北極・南極以外の全ての海域をカバーしている。
なお、同社は、VSAT 通信事業者「MTN」(マイアミ)の他、コンテンツ事業者「Wave
Entertainment Network」(シリコンバレー)、インマル・イリジウム事業者「GEOLINK」(パ
リ)がグループを組織している。24
24
http://www.thedigitalship.com/powerpoints/sing07/Brent%20Horwitz,%20MTN.pdf
- 22 -
(Ku バンド・カバーエリア)
(C バンド地域ビームによるカバーエリア)
(C バンドグローバルビームによるカバーエリア)
- 23 -
1−3−2
Eutelsat/SpeedCast
欧州最大の固定衛星サービス事業者である Eutelsat25と Asiasat の子会社である SpeedCast
がローミングサービスにより提携して、全世界的な船舶向け VSAT サービスを提供してい
るものである。
SpeedCast は、「SeaCast」26のブランドで、高速インターネット(ダウンリンクで2Mま
で)、ライブ TV、ビデオ・オン・デマンド、GSM携帯中継、社内LAN用VPN、動画
送信、リモートセンシングなどを提供しており、これらのサービスは、船舶が、Eutelsat 及
び SpeedCast のカバーエリア内のどちらを航行している場合でも利用可能。
25
26
http://www.eutelsat.org/news/newsletter/maritime_0509.pdf
http://www.speedcast.com/products/industry/seacast.asp
- 24 -
1−3−3
VIZADA
VIZADA27は、旧フランス・テレコム・モバイル・サテライト・コミュニケーションズと
旧テレノア・サテライト・サービスが合併後、社名が変更された企業であり、インマルサ
ット・イリジウム・スラヤなどの MSS の再販事業を中心として実施しているが、旧テレノ
アが提供していた船舶向け VSAT サービス事業も引き継いでおり、すでに約600隻28もの
搭載隻船舶を有することから、業界最大手と言われる。
Wavecall by Vizada29のブランド名によって、次のとおり、北米・南米・欧州・太平洋など
を Ku バンド衛星によりカバーしているが、C バンドサービスは提供していない。
27
28
29
http://www.vizada.com/
Northern Sky Research
http://www.vizada.com/818_1
- 25 -
- 26 -
1−3−4
Radio Holland
Radio Holland30は、オランダに本社を置く、老舗の船舶通信事業者であるが、2007 年 6 月
に「Connector by Radio Holland」のブランドにより、船舶向けVSATサービス事業への参
入を発表した31。
同社は、世界50ヶ所にあるサービス拠点を強みにして、グローバルにサービスを提供
し、常時接続のインターネット接続、音声通話などを提供している。
カバーアリアは、以下のとおりであり、Kuバンド及びCバンドサービスを提供してい
る。
Connector by Radio Holland・・・Ku バンド
30
31
http://www.radioholland.be/
http://www.radioholland.be/News/Radio_Holland_goes_broadband__CONNECTOR_by_Radio_Holland.aspx?rId=18
- 27 -
Connector by Radio Holland・・・C バンド
1−3−5
KVH
KVH社は、米国に本社を置く、衛星TV、衛星通信などを含む移動体通信関連機器メ
ーカーであるが、近年、通信サービスにも進出しており、インマルサットや船舶向けVS
ATサービスも提供している。
同社の船舶向けVSATサービスは、「TracPhone V7」32と呼ばれるが、最大の特徴は、
Viasat 社製のモデムにより、スペクトラム拡散通信方式を採用し、60cm程度の小さなア
ンテナでもサービスが提供できることにある。これまでに述べたVSAT事業者は、主と
してSCPC方式を採用し、使用モデムも iDirect 社製のものが主流であった。しかしなが
ら、スペクトラム拡散通信方式は、障害物等にも強く、アンテナも小さくできるメリット
があるが、非常に広い周波数帯域を必要とし、衛星トランスポンダーの使用に要するコス
トが高いデメリットもある。
現在は、北大西洋を中心としたカバーエリアによりサービスを提供しているが、近い将
来、太平洋においてもサービスを提供する計画を有している。
32
http://www.thedigitalship.com/powerpoints/sing07/Mads%20Ebbesen,%20KVH.pdf
- 28 -
1−3−6
CapRock
CapRock Communications 社33は、1981年に設立されたMTN(現SeaMobile)
と並ぶ米国の海上VSATサービスプロバイダー老舗で、これまで、主として、オイルリ
グやガスリグといったオフショアプラットフォームを中心とした顧客層にサービスを提供
してきた。昨今は、船舶向けVSATサービスが急速に成長する中、オフショアプラット
フォームのみならず、「SeaAccess」34のブランドにより、外航船舶に対してもサ
ービスを拡大している。
KuバンドとCバンドにより、ブロードバンドインターネットなどを提供しており、カ
バーエリアは次図のとおりである。
33
34
http://www.caprock.com/
http://www.thedigitalship.com/powerpoints/sing07/Pal%20Jensen,%20Caprock.pdf
- 29 -
CapRock カバーエリア
1−3−7
インテルサット
インテルサット35は、世界最大の固定衛星通信サービス事業者であるが、2007年7月
に「Intelsat Maritime」36のブランドにより、船舶向けVSATサービスに参入した。サービ
スは、Schlumberger 社が再販し、エンドユーザーに提供する37。
同社は、保有するCバンドグローバルビームにより、両極を除く、全世界に対して、サ
ービスが提供している。
Intelsat Maritime のカバーエリア
35
36
37
http://www.intelsat.com/
http://www.intelsat.com/services/telecom/Maritime.asp
http://www.intelsat.com/press/news-releases/2007/20070619.asp
- 30 -
1−3−8
シュルンベルジェ
Schlumberger38は、1920年代にフランスで創業された石油探査技術のパイオニアであ
る。「石油が出るところ常にシュルンベルジェあり」と言っても過言ではないほど、世界
中の油田でビジネスを展開している。
同社は、このような石油関連のサービスの一環として、衛星通信サービスも提供してお
り、石油採掘船や石油プラットフォーム向けのVSATサービス39を提供している。衛星等
は、ニーズに応じて適宜使用しており、標準化されたサービスメニューのようなものは存
在しない。
なお、同社は、独自の衛星通信サービスの他、1−3−7にて述べたインテルサットの
船舶向けVSATサービスの再販も行っている。
1−3−9
SingTel
SingTel40は、シンガポールに本拠を置く、アジア地域最大の電気通信事業者であ
る。インマルサット、イリジウム、グローバルスターなど主要なモバイルサテライトサー
ビスを再販している他、独自の船舶向けVSATサービス41も2007年より開始した。
同社の船舶向けVSATサービスは、現在は、同社が保有する衛星「APSTAR V」42及び
「ST-1」43により、C バンドによりアジア太平洋地域を対象に提供されているが、将来は、
大西洋地域にもサービスを拡大する予定と言われている。
38
39
40
41
42
43
http://www.slb.com/content/services/index.asp?
http://www.thedigitalship.com/powerpoints/DSAthens/AlistairGroveWhite,SchlumbergerInformationSolutions.pdf
http://welcome.singtel.com/default.asp
http://business.singtel.com/satellite/products/solutions/mobile/core_solutions/singtel_maritime_vsat_features_n_benefits.asp
http://business.singtel.com/satellite/products/solutions/fixed/satellite_products/apstar_v_map_cband.asp
http://business.singtel.com/satellite/products/solutions/fixed/satellite_products/st1_map_cband.asp
- 31 -
SingTel Maritime VSAT のカバーエリア
1−3−10
Global Marine Communications(GMC)
GMC44は、2007年に設立された、キプロスに本拠を置く、船舶向けVSATサービ
ス事業者である。
Kuバンド衛星を使用し、HughesNetとよばれる陸上向けのVSATサービス
の海上版として提供されている。
カバーエリアは、次図のとおりである。
GMCのカバーエリア
44
http://www.globalmarinecommunications.com/index.html
- 32 -
1−3−11
ストラトス
ストラトス45は、カナダを本拠とする通信事業者であり、インマルサット、イリジウム、
グローバルスターなどのモバイルサテライトサービスを中心にサービスを提供している。
特にインマルサットに関しては、全世界のインマルサット売上の45%を占めるなど、最
大の再販事業者として知られる。
同社は、「StratosItek」46のブランド名により、陸上向け及び船舶向けVSATサービス
もKuバンド及びCバンドにより提供しており、カバーエリアは以下のとおりである。
StratosItek のカバーエリア
1−3−12
SeaBand
SeaBand47は、フロリダに本拠を置く、船舶向けVSATの専業事業者である。C
バンド及びKuバンドにより、サービスを提供し、インターネット、VoIP、VPNな
どの他、船舶トラッキング、コンテナトラッキング、衛星TVサービスなども提供してい
る。
45
46
47
http://www.stratosglobal.com/
http://www.stratosglobal.com/documents/factsheets/stratosItek_brochure_overview_a4.pdf
http://www.seabandsat.com/products-and-services-from-seaband.htm
- 33 -
添付資料5
国際電気通信連合及び世界無線通信会議等に関する調査報告
1. 国際電気通信連合の概要
国際電気通信連合(ITU; International Telecommunication Union)は、国際連合(UN;
United Nations)の一機関で、国際的な周波数の分配や電気通信の標準化を行っている。加盟
国は 2006 年 3 月現在 190 カ国で、スイス連邦ジュネーブ市に本部がある。
組織としては、最高意思決定機関である全権委員会議(PP、4 年毎に開催)の下に、大きく
分けて、電気通信標準化部門(ITU-T)
、無線通信部門(ITU-R)
、電気通信開発部門(ITU-D)
があるが、ここでは無線通信部門(ITU-R)について概要を説明する。
ITU-R は、無線通信規則(RR; Radio Regulations)の改正を行う世界無線通信会議(WRC;
World Radiocommunication Conference)と研究課題の設定と勧告の承認を行う無線通信総会
(RA; Radiocommunication Assembly)があり、共に3∼4年毎に同時期、同場所にて開催さ
れるのが通常である。また、関連した委員会や会合として、無線通信規則委員会(RRB; Radio
Regulations Board)、会議準備会合(CPM; Conference Preparatory Meeting)、無線通信研
究 委 員 会 (SG ; Study Groups) 、 お よ び 無 線 通 信 ア ド バ イ ザ リ ー グ ル ー プ (RAG ;
Radiocommunication Advisory Group)がある。
2007 年 10 月に開催された無線通信総会(RA)にて、無線通信研究委員会(SG)の構成の見直
しが行われ、2011 年に開催が予定されている世界無線通信会議(WRC-11)までの研究体制を次
のようにすることが決定された。
•
Study Group 1 (SG 1) : 周波数管理の原則・手法、共用、監視
•
Study Group 3 (SG 3) : 電波伝搬
•
Study Group 4 (SG 4) : 衛星業務(移動衛星業務、測位業務、放送衛星業務、
固定衛星業務)
•
Study Group 5 (SG 5) : 地上業務(移動業務、固定業務、アマチュア業務、無
線測位業務)
•
Study Group 6 (SG 6) : 放送業務
•
Study Group 7 (SG 7) : 科学業務
また、各 SG の下には、作業部会が幾つか設けられるが、海上移動業務関係は SG5 で扱わ
れ、その作業部会と担当分野は下記のようになっている。
1
•
Working Party 5A(WP5A) : 陸上移動業務(IMT を除く)、アマチュア及びアマチ
ュア衛星業務
•
Working Party 5B(WP5B): 海上移動業務(GMDSS を含む)、航空移動業務、無線
測位業務
•
Working Party 5C(WP5C): 固定無線システム、固定及び陸上移動 HF システム
•
Working Party 5D(WP5D) : IMT システム
すなわち、海上移動業務関連の作業部会は、WP5B となっている。
2. 世界無線通信会議 WRC-07 の概要
世界無線通信会議は、無線通信規則(RR)を改正する会議で、通常 3∼4 年毎に開催される
ITU で最大の会議であるが、直近では 2007 年 10 月から 11 月にかけて WRC-07 が開催された。
その概要は次のとおりである。
2.1
会議日時、場所、出席者
•
日時
: 2007 年 10 月 21 日 ∼ 11 月 16 日
•
場所
: スイス連邦ジュネーブ市、ジュネーブ国際会議センター(CICG)および ITU
本部
•
2.2
出席者 : 164 か国、約 2,800 名
議題
WRC-07 の議題は表 1 のとおりであるが、海上移動業務に関連する議題としては、
議題 1.13、
議題 1.14 および議題 1.16 の 3 つであった。
表1
WRC-07 議題一覧
議題番号
内容
議題 1.1
脚注からの自国の国名の削除
議題 1.2
科学業務及び気象衛星業務の分配
議題 1.3
9GHz 帯の無線標定業務の一次格上げ及び科学業務の追加分配
議題 1.4
IMT-2000 の高度化及び IMT-2000 後継システムの周波数関連事項の検討
議題 1.5
航空用テレコマンド及びテレメトリの追加分配
議題 1.6
航空移動(R)業務の周波数追加分配及び民間航空通信システム近代化の為の衛星の分配
2
議題番号
内容
議題 1.7
1.6GHz 帯における移動衛星業務と宇宙業務及び移動業務との共用条件の検討
議題 1.8
28/31GHz 帯及び 47/48GHz 帯の高高度プラットフォーム局に関する共用条件の検討
議題 1.9
2500∼2690MHz 帯の宇宙業務と地上業務との共用条件の検討
議題 1.10
付録第 30B 号に関する規則の見直し
議題 1.11
放送衛星からの 620∼790MHz 帯の地上業務の保護の検討
議題 1.12
衛星ネットワークの調整手続の見直し
議題 1.13
短波帯の分配の見直し
議題 1.14
GMDSS に関する規則の見直し
議題 1.15
135.7∼137.8kHz 帯のアマチュア業務のニ次分配
議題 1.16
海上移動以外のための海上移動業務識別(MMSI)のための規則の検討
議題 1.17
1.4GHz 帯の固定衛星業務とその他業務との両立性の検討
議題 1.18
17.7∼19.7GHz 帯における高傾斜角軌道衛星の電力束密度制限の見直し
議題 1.19
広帯域衛星システムのための周波数の特定
議題 1.20
能動業務の不要発射からの地球探査衛星(受動)業務の保護
議題 1.21
宇宙業務の不要発射からの電波天文業務の保護
議題 2
無線通信規則に参照により編入された ITU-R 勧告の参照の現行化
議題 3
世界無線通信会議の決定に伴う無線通信規則への必然の変更の検討
議題 4
決議・勧告の見直し
議題 5
無線通信総会からの報告の検討
議題 6
無線通信研究委員会が緊急の措置をとる必要のある議題の特定
議題 7.1
無線通信局長報告の検討
議題 7.2
将来の世界無線通信会議の議題
2.3
審議体制
WRC-07 では表 1 のように 28 の議題があり、Committee1(COM1)から Committee7(COM7)の
7つの委員会で審議された。
その内、海上関係の議題は Committee 4 (COM4) が担当し、COM4 には WG4A、WG4B、WG4C
の 3 つの WG (Working Group) が設けられ、海上関係は WG4C で扱われた。また WG4C には更
に下記の4つの SWG (Sub Working Group) が設けられ、各議題の検討が行われた(図 1 参照)。
•
SWG4C-1.13 : 議題 1.13 関係 - 新 HF デジタル通信の導入を考慮した 4∼10MHz 帯周
波数配分の見直し
•
SWG4C-1.14 : 議題 1.14 関係 - GMDSS 規則の見直し
3
•
SWG4C-1.15 : 議題 1.15 関係 - 135.7∼137.8kHz のアマチュア業務への 2 次分配
•
SWG4C-1.16 : 議題 1.16 関係 - MMSI 資源の管理及び船上装置以外への MMSI の割当
Plenary
COM1
COM4
WG4A
WG4B
WG4C
SWG4C-1.13
SWG4C-1.14
SWG4C-1.15
SWG4C-1.16
COM7
図 1 WRC-07 の審議体制
3. 2007 年世界無線通信会議(WRC-07)における海上移動業務関係の結果
WRC-07 における海上移動業務に関係する 3 つの議題の結果は次のとおりである。
3.1
議題 1.13
短波帯の分配の見直し
本議題は、周波数適応システムの使用(決議 729)、海上移動業務への新デジタル通信の導
入(決議 351)、HF 放送業務への周波数追加分配等を考慮して、4∼10MHz 帯の全業務に対する
周波数分配を見直す(決議 544)もので、各業務分野(海上移動業務、固定業務、陸上移動業務、
放送業務、アマチュア業務)及び各国の利害が複雑に絡んでいる。
基本的な論点としては、放送業務に対して 4∼10MHz 帯で合計 350∼800kHz の追加分配を
認めるかどうかであり、もし認めるとすると、その周波数資源は固定業務および陸上移動業
務の帯域が候補とされ、必然的に固定業務および陸上移動業務の移転先の周波数資源確保が
問題になる。
CEPT(欧州諸国)は、放送業務への追加分配を強く主張し、固定業務および陸上移動業務
の移動先候補として、海上移動業務の周波数帯でチャンネルが規定されていない帯域を候補
として提案した。これに対し、APT(日本を含むアジア・太平洋諸国)、CITEL(米州)および
RCC(ロシアを中心とした電気通信地域連邦)は、4∼10MHz 帯は既存業務で込み合っていると
して放送業務への追加分配に強く反対し、両者は激しく対立したが、最終的には、放送業務
へ追加分配をしないことを CEPT が受入れたことから、RR 第 5 条の周波数分配は現状維持と
4
なり、決議 544 は削除されることとなった。
また、決議 351 関連で、海上移動業務として附録第 17 号の改訂を行うかどうかが審議さ
れた。CEPT は放送業務への追加分配を背景に、4∼25/26MHz 帯全般の改訂を提案したのに対
し、APT は 4、6MHz 帯のみの改訂を、CITEL は WRC-07 では改定せず、次回 WRC-11 での改訂を
それぞれ提案した。議論の結果、CEPT 以外は附録第 17 号全般の改訂を行うための検討が不
十分であることから、今回は附録第 13 号の参照記述を削除するに留め、全体的な改定は次回
WRC-11 の新議題として検討を行うこととなった。
3.2
議題 1.14
GMDSS に関する規則の見直し
本議題は、旧遭難安全通信を規定している附録第 13 号を削除し、必要事項を GMDSS の遭
難安全通信を規定している RR 第Ⅶ章に移すと共に、船上備付書類の簡素化や電子化、およ
び関連規則の見直しを行うこと、ならびに、VHF 帯周波数利用効率改善のための新技術の導
入を検討するもので、審議結果は次のとおりである。
3.2.1
遭難通信手順
附録第 13 号に記述されている旧遭難通信のうち、VHF 音声による遭難通信手順が RR 第Ⅶ
章第 32 条に統合された。RR 第 32 条に DSC による遭難通信と VHF 音声による遭難通信の両方
を記述するに当たり、
「distress alert」
、
「distress call」
、
「distress message」、
「distress
alert relay」、「distress call relay」等の用語が混在することとなったため、理解しやす
くするためにそれらの用語の定義が第 32.1 条に追加された。また、遭難警報のキャンセル方
法として、ITU-R 勧告 M.493-12 から導入された DSC によるキャンセル手順が利用できる場合
はそれに従う、という記述が盛り込まれた。
3.2.2
緊急・安全通信手順
附録第 13 号に記述されている緊急・安全通信の内、VHF 音声による手順が RR 第Ⅶ章第
33 条に統合された。ここでも、
「urgency announcement」、
「urgency call」、
「urgency message」
という用語を理解しやすくするために、その定義が第 33.XX 条として追加された。
3.2.3
2182kHz 遭難通信手順
附録第 13 号の削除に伴い、2182kHz での遭難安全通信手順を記述した新決議[COM4/3]∗1
が作成された。内容的には附録第 13 号の記述と同様である。
∗1
WRC-07 の後に行われた CPM11-1 で、決議 354 と採番された。
5
3.2.4
無線従事者証書
GMDSS 用無線従事者証書について第 47 条に規定されているが、附録第 13 号の削除に伴い、
非 GMDSS 用証書の規定が第 47 条に追加された。
3.2.5
VHF CH70 の保護
VHF 帯の DSC による遭難安全通信チャンネルである CH70 の保護のため、RR 第 5 条の 148
∼223MHz 帯周波数分配表で 156.4875∼156.5625MHz 帯 (CH70 を中心に上下 37.5kHz のガード
バンドを設定)を海上移動業務専用に区分けする案を APT と CEPT が提案していたのに対し、
CITEL からは 156.5125∼156.5375MHz 帯 (CH70 を中心に上下 12.5kHz でガードバンドなし)
を海上移動業務専用にする提案があった。この帯域は、現在内陸で固定業務および陸上移動
業務でも使用されているため、その継続使用を認めるための脚注を付けることでは意見の相
違はなかったが、ガードバンドを設けるかどうかが議論された。
CITEL は、ガードバンドを設けることにより、固定業務および陸上移動業務での使用に制
限がかかることから周波数使用効率の低下になると当初主張したが、海上移動業務へ妨害を
与えないことを条件に固定業務および陸上移動業務にも割当が可能とする APT 提案の脚注を
受け入れ、最終的には APT 提案の脚注 5.226bis から対象国名を削除して、その内容を脚注
5.227 とし、ガードバンドを設けることで合意された。
3.2.6
船上備付書類
船上備付書類の簡素化と電子化のために、RR 第 20 条と附録第 16 号の改訂が行われた。
RR 第 20 条では、現在 List Ⅳ(海岸局リスト)、List Ⅴ(船舶局リスト)、List Ⅵ(無線
標定局及び特殊業務局リスト)、List ⅦA(コールサイン及び MMSI リスト)の他、マニュアル
2 冊を船上備付書類として要求しているが、今回、List ⅣとⅥを統合して新 List Ⅳ「海岸
局と特殊業務局リスト」とすること、および List ⅤとⅦA を統合して新 List Ⅴ「船舶局と
MMSI リスト」とすることとなった。
また、附録第 16 号で船上備付を規定している List は今まで4つであったが、RR 第 20
条の改訂に基づいて List は 2 つとなり、電子媒体でも良いこととなった。さらに、上記リス
トの統合化とオンライン情報システムの見直しに当たり、ITU-R 事務局が内容の検討と作業
を行うための新決議[COM4/10]∗2が作成された。
3.2.7
附録第 15 号の改訂
IMO MSC83 で AIS-SART の性能基準が採択されたことと、それに関連して SOLAS 改正案が
∗2
WRC-07 の後に行われた CPM11-1 で、決議 356 と採番された。
6
承認されたことを受け、AIS-SART で使用する周波数として、AIS1、AIS2 の 2 つのチャンネル
が付録第 15 号(GMDSS で使用する周波数)の表 15-2 に追記された。
3.2.8
附録第 18 号の改訂
CH75、CH76 は船舶局用のシンプレックスチャンネルであったが、海岸局でもシンプレッ
クスとして使用可能となるように改訂された。
また、脚注 o) は、新技術のために使用できるが、そのシステムは AIS の検出に妨害を与
える可能性を排除するようにすることというように改訂された。すなわち、本脚注は VHF デ
ータ通信等の新技術を導入するためのチャンネルとして使用できるが、その場合 AIS に妨害
を与えてはならないことを明記したものである。
さらに、脚注 p) として AIS1、AIS2 のチャンネルは移動衛星業務で船舶からの AIS 信号
の受信に使用できるという記述が追加された。
3.2.9
その他の関連条項
附録第 13 号の削除、及び List の統合化による名称変更等に関連して、多数の条項や附
録類の修正が行われた。
また、RR 第 54.2 条でデジタル選択呼出しを規定しているが、この条項から旧選択呼出し
装置の記述を削除し、現在の DSC のみの記述に修正されたが、参照勧告としてカナダから
ITU-R 勧告 M.541-9 と M.493-9 を義務参照とすべきという提案があった。
これに対して、ITU-R
勧告 M.493 の最新バージョンは-12 であり -9 は既に廃止されていること、-12 を義務参照と
するとこれに適合した製品が現時点で存在しないこと、ITU-R 勧告 M.493 を義務参照にした
場合、現存設備までそのバージョンに更新しなければならなくなること等が考慮された結果、
ITU-R 勧告 M.541-9 は義務参照となったものの、ITU-R 勧告 M.493 は最新バージョンに従うこ
ととし、非義務参照扱いとすることとなった。
3.3
議題 1.16
船舶搭載用以外の海上移動業務識別(MMSI)のための規則の検討
本議題は、船舶搭載用以外の無線設備に海上移動業務識別(MMSI)を付与するための規則
及び運用上の規定を検討するもので、審議結果は次のとおりである。
MMSI については RR 第 19 条第 6 節に規定されているが、捜索救助(SAR)航空機、航法支援
装置(AtoN)、母船の付随船への MMSI 割当を可能にするために、ITU-R 勧告 M.585-4 の内容を
RR 第 19 条に記述する方法(Method A)と、RR 第 19 条には ITU-R 勧告 M.585-4 の内容を記述せ
ず、ITU-R 勧告 M.585-4 を参照する方法(Method B)の 2 つが提案されていた。
7
CEPT は複数の規定を参照しなくて済むとして Method A を支持したのに対し、
APT と CITEL
は RR 第 19 条の改訂は WRC でなければ行えないため、Method A を採用した場合、ITU-R 勧告
M.585-4 の改訂があると不整合が生じるとして Method B を支持し両者が対立した。
しかし、今回メキシコより、ITU-R 勧告 M.585-4 で規定している MMSI の体系は局種が少
ないとして局種を増やすための MMSI 体系を提案すると共に、その内容を RR 第 19 条に記述す
べき(Method A)という提案があった。その審議において MMSI 体系の改訂は、まず SG レベル
で検討すべきで、その結果 ITU-R 勧告 M.585-4 が改訂される可能性があることから、Method B
を採用すべきとの意見が大勢を占めた。その結果、CEPT が譲歩して Method B を受け入れた
ことから、Method B により RR 第 19 条の改訂が行われた。従って、RR 第 19 条には MMSI 体系
の詳細は記述せず、ITU-R 勧告 M.585-4 を義務参照する形となっている。
3.4
無線通信規則改正内容のまとめ
海上移動業務関係の 3 つの議題に関連して改正された無線通信規則の条項等と、その主
な改正内容は表 2 のとおりである。
表 2 WRC-07 での改正概要(海上移動業務関係)
条項等
主な改正内容
第4条
附録第 13 号参照の削除
第5条
VHF CH70 の保護等
第 15 条
附録第 13 号参照の削除
第 19 条
ITU-R 勧告 M.257-3 参照の削除、List 名称の修正等
第 20 条
タイトルの変更、ITU Service Publication List の統合化等
第 28 条
List 名称の修正
第 30 条
附録第 13 号参照の削除等
第 31 条
List 名称の修正
第 32 条
VHF 音声による遭難通信手順を統合
第 33 条
VHF 音声による緊急・安全通信手順を統合
第 34 条
VHF EPIRB の記述削除、406MHz EPIRB の ITU-R 勧告の明確化
第 41 条
附録第 13 号参照の削除
第 47 条
附録第 13 号の無線従事者証書規定の取込み
第 50 条
List 名称の修正
第 51 条
モールス周波数の削除、付録第 13 号参照の削除等
第 52 条
モールス周波数の削除、附録第 13 号参照の削除、2182kHz 遭難通信での新決議
8
条項等
主な改正内容
([COM4/3]∗1)の参照
第 54 条
ITU-R 勧告 M.257-3 参照の削除、M.541-9 義務参照化、及び M.493 の非義務参照
化
第 55 条
無線電信通信をモールス無線電信通信に修正
第 56 条
List 名称の修正
第 57 条
附録第 13 号参照の削除
附録第 13 号
削除
附録第 14 号
附録第 13 号参照の削除
附録第 15 号
附録第 13 号参照の削除、AIS-SART 用周波数 AIS1、AIS2 の追加等
附録第 16 号
船上備付書類の簡素化、電子化等
附録第 17 号
附録第 13 号参照の削除
附録第 18 号
12.5kHz 間隔チャンネル使用に関する NOTE の追加、AIS1、AIS2 チャンネルの航
空機での使用及び衛星移動業務での受信を認める脚注の修正、追加
附録第 19 号
削除
決議[COM4/3]*1
2182kHz 遭難通信手順を規定する新決議
決議[COM4/10]∗2 MMSI 等データベース登録に関する新決議
決議 18
附録第 13 号参照の削除、関連機関の追加等
決議 331
旧遭難通信手順の第Ⅶ章への統合に関連する修正
決議 339
List 名称の修正
決議 340
削除
決議 353
削除
4. 次期世界無線通信会議(WRC-11)の新議題
2011 年に開催される予定の次期世界無線通信会議(WRC-11)の議題として 33 項目が承認
されたが、海上移動業務に関連する新議題としては次の 4 つがある。
1) 議題 1.9
附録第 17 号の改訂 (決議 351 改)
HF データ通信の導入を考慮した 4∼25/26MHz 帯の分配見直し
2) 議題 1.10
船舶及び港湾の保安システム (新決議[COM6/10]∗3)
AIS、移動衛星業務等を考慮した保安システム
3) 議題 1.14
∗1
∗2
∗3
VHF 帯を使用した無線探知システム (新決議[COM6/14]∗4)
WRC-07 の後に行われた CPM11-1 で、決議 354 と採番された。
WRC-07 の後に行われた CPM11-1 で、決議 356 と採番された。
WRC-07 の後に行われた CPM11-1 で、決議 357 と採番された。
9
30∼300MHz 帯を使用したスペースデブリの検出のための VHF レーダシステムで、VHF
帯の遭難安全周波数や AIS の周波数に影響する可能性があることから注意が必要。
4) 議題 1.23
415∼526.5kHz 帯における約 15kHz 幅のアマチュア業務への二次分配
NAVTEX の周波数に影響する可能性があるので注意が必要。
∗4
WRC-07 の後に行われた CPM11-1 で、決議 611 と採番された。
10
添付資料6
INS の性能基準の仮訳
統合化航法システム(INS)のための性能基準
(MSC.252(83))
1
統合化航法システムの目的
1.1 統合化航法システム(INS)の目的は、地形、交通、および環境での危険を避けるために、
機能を統合し増強して航海の安全を強化することである。
1.2 機能と情報を結合し、統合することによって、INS は、航海の安全性と船舶の推進を、計
画し、監視し、あるいは制御をする操作者に「付加価値」を提供する。
1.3 完全性監視は、INS の固有の機能である。
INS は、いくつかの情報源からの入力を評価し、危険な状況およびシステム故障とこの情報の
完全性の劣化の、タイムリーな警戒通報を示す情報を提供するために、それらを結合し、航海
の安全を支援する。
1.4 INS は、正しく、タイムリーで、十分で、明確な情報を使用者に呈示する。そして、これ
らの情報とともに、INS とこの情報に接続している他の機器内のサブシステム、および二次的
な機能を提供する。
1.5
INS は、モードと状況認知を支援する。
1.6 INS は、人的要因を考慮に入れることによってそれを確実にしようとする;
安全で迅速な航海を強化するために操作者の作業負担を能力内に維持し、一時の彼らの限界を
補償し航海者の能力を補う。
1.7
INS は、特定の使用環境で、使用者と与えられた作業に適切に実証できることを目指す。
1.8 警戒通報管理の目的は、モジュール C で指定される。
2
範囲
2.1 航海作業
2.1.1 INS は、それぞれの情報源、データー、および 1 つの航海システムに組み込まれる表示
器を含む、例えば「航路計画」、「航路監視」、「衝突回避」
、「航行制御」、「航海状況およびデー
ター表示」、および、「警戒通報管理」のような航海作業から成る。
これらの作業は 7 項に記述される。
2.1.2 INS は、操作卓が多機能表示を統合するならば、少なくとも以下のような航海作業/機
能に定義される。
・「航路監視」
・「衝突回避」
そして、(INS は)手動あるいは自動航行制御機能を備えてもよい。
2.1.3 他の義務的な作業
2.1.3.1 警戒通報管理は、INS の一部である。警戒通報管理と要件はモジュール C で規定され
1
る。
2.1.3.2 この性能基準の 7.5.2 項で規定される手動制御の航行制御データーの提示は、INS の一
部である。
2.1.4 他の航海作業/機能もまた、INS で統合してもよい。
2.2
操作卓
2.2.1 作業は、多機能「操作卓」として定義され、割り当てられ、操作者によって運用される。
2.2.2
INS の範囲は、統合される作業の数と種類に依存して、異なるかもしれない。
2.2.3
INS の、構成、使用、操作、そして、表示は以下の状態に依存する:
・航行中、錨泊中、および係留中の船
・異なる海域における手動および自動航行制御
・計画された所定の航海と特別な操船。
3
この性能基準の適用
3.1 この性能基準の目的
3.1.1 この性能基準の目的は、航海用機能と情報の適切で安全な統合を支援することである。
3.1.2 特に、この目的は、
・船上の独立型航海機器に代わって、INS の装備と使用ができること。そして、
・統合処理のための安全な手順を推進する。
そして、航海機能、データー、および機器の、
・包括的な統合と、
・部分的な統合
の両方。
3.1.3 この基準は、機関によって採択された個々の性能基準の INS 機能要件を補う
3.2
作業への適用
3.2.1 この性能基準は、第 2.2 項で言及されることが結合される航海作業のうちの少なくとも機
能/機器のシステムに適用できる。
3.2.2 更なる作業が統合されるならば、この基準の要件は INS で実装されるすべての付加的な
機能にあてはまらなければならない。
3.3 この基準のモジュール
3.3.1 これらの性能基準は、必要であるならば、個々の構成のために、そして、拡張のために
備えられなければならないモジュール式の概念に基づく。
3.3.2 この基準は、4 つのモジュールを含む:
・モジュール A、航海情報の統合のための要件、
・モジュール B、作業に関連した構造に基づく INS のための運用/機能要件、
・モジュール C、警戒通報管理の要件、そして、
・モジュール D、図書要件。
3.4 モジュールの適用
この性能基準は、次のように、すべての INS に適用できる:
2
3.4.1 モジュール A、C、D、そして、モジュール B のうちの 6 項と、8 項から 13 項までは、
どんな INS にでも適用できる。
3.4.2 さらに、INS に組み込まれるそれぞれの作業のために、INS は以下の双方が果たされな
ければならない。
・モジュール B の 7 項で指定さるそれぞれの作業の要件、そして、
・表 1 で指定された個別の機器の性能基準に関連するモジュール。
表 1
INS 作業および機能
(この基準の項目番号)
衝突回避(7.4)
航路計画(7.2)
航路監視(7.3)
トラックコントロール(7.5.3、および
8.6、8.7)
3.5
INS に統合する作業のための特定の機器基準の追加適用し
うるモジュール。
機器基準で指定していない場合は、このモジュールはこの基
準の付録で指定される。
レーダー性能基準( MSC.192 (79) ) (付録 3 で指定するモジュ
ール)
モジュール A:センサーと探知
モジュール B:操作要件
モジュール C:設計と技術要件
ECDIS 性能基準( MSC. 232 (82) )
モジュール A:データーベース
モジュール B:操作と機能要件
トラックコントロール性能基準 MSC 74(69) Annex 2 (付録 4
で指定するモジュール)
モジュール B:操作および機能要件
航海用機器としての INS の受け入れ
3.5.1 この基準は、SOLAS 第 V 章 19 規則の下の他の手段と同等な航海機器の若干の搭載要
件に代えるものとして INS の受け入れを許しても良い。
この場合、INS は以下に適応しなければならない
・これらの性能基準、そして、
・表 2 に指定される機器性能基準の適用できるモジュールで、これらの性能基準に 関連した
作業のために。
表 2
INS に適用することがで
きる項目
レーダーシステム
ECDIS
ヘディングコントロール
システム(HCS)
トラックコントロールシ
ステム (TCS)
INS に適用する内容
この文書の付表で指定する特定の機器基
準の適用しうるモジュール
レーダー性能基準(MSC.192 (79) ) (付録
3 で指定するモジュール)
モジュール A:センサーと探知
モジュール B:操作要件
モジュール C:設計と技術要件
航路計画(7.2)
ECDIS 性能基準 (MSC. 232 (82) )
航路監視(7.3)
モジュール A:データーベース
モジュール B:操作および機能要件
航行制御データー (7.5)また 決議 A 342(改正) –MSC 64(67) 付録 3
は航海状態とデ−ター表示
(7.7)
航行制御データーとトラッ トラックコントロール性能基準 MSC
クコントロール (7.5.3 お 74(69) 付録 2 (付録 4 で指定するモジュ
よび 8.6、 8.7)
ール)
モジュール B:操作および機能要件
作業と機能
(この基準の項目番号)
衝突回避 (7.4)
3
AIS データーの提示
音響測深儀
EPFS
SDME
衝突回避 (7.4)
航行制御データー (7.5)
航路監視 (7.3)
航行制御データー(7.5)また
は航海状態およびデーター
表示 (7.7)
航行制御データー(7.5)また
は航海状態およびデーター
表示 (7.7)
MSC. 74 (69)付録 3
MSC. 74(69) 付録 4
GPS 決 議 A.819(19) 、 改 正 性 能 基 準
MSC112(73)、あるいは、GALILEO 決
議 MSC233(82)、あるいは、GLONAS
決 議 MSC53(66) 改 正 性 能 基 準
MSC113(73)
MSC.96(72)
3.6 警戒通報管理の適用は、モジュール C で指定される。
3.7 他の関連した基準
3.7.1 ワークステーションの設計、配置、および装備はこの性能基準の対象としないが、MSC/
Cir. 982 では対象とされる。
4 定義
この基準の目的で、付表 1 での定義を適用する。
モジュール A
5
情報の統合
航海情報の統合のための要件
5.1 インターフェースとデーター交換
5.1.1 INS は、接続されたセンサーと情報源からのデーターを結合し、処理し、評価しなけれ
ばならない。
5.1.2 INS 内の、および接続されるセンサーおよび情報源との情報交換の有用性、有効性、お
よび完全性は監視されなければならない。
5.1.3 データー交換の損傷は、独立したいかなる機能性にも影響を及ぼしてはならない。
5.1.4 INS 内(入出)のインターフェースは、適切なデーター交換とインターフェースの国際
標準に適合しなければならない。
5.1.5 インターフェースはこの基準のモジュール C に記述する警戒通報管理の要件に適合し
なければならない。
5.2 精度
5.2.1 INS データーは、機関によって採択された適用可能な、精度および分解能に適合しなけ
ればならない。
5.3
有効性、合理性、潜在性
4
5.3.1 有効性
5.3.1.1 有効性確認で失格したデーターは、関連した性能基準が具体的に無効なデーターの使
用を許すケースを除き INS でこれらのデーターに依存している機能のために使われてはなら
ない。
このデーターに依存しない機能に副作用があってはならない。
5.3.1.2 INS で使用される一つの機能に必要なデーターが、無効か、あるいは利用できない場
合は、警告が与えられなければならない。
INS で実際に使用されないデーターのために、無効か、あるいは利用できない場合は、これは、
少なくとも注意として示されなければならない。
5.3.2 合理性
5.3.2.1 INS によって使用、あるいは分配されるデーターを受け取りあるいは引き出されたデ
ーターは値の合理性の程度のために確認されなければならない。
5.3.2.2 合理性確認に失格したデーターは、INS によって使われてはならない。そして、これ
らのデーターに依存していない機能に影響を及ぼしてはならない。
5.3.3 潜在性
5.3.3.1 INS 内のデーター潜在性(データの即時性と反復率)は、関連した性能基準で指定さ
れる機能性を劣化させてはならない。
5.4 一貫した共通参照システム(CCRS)
5.4.1 データーの整合性(一貫性)
5.4.1.1 INS は、情報のすべてのタイプのために「一貫した共通参照システム(CCRS)」を適
用して、異なるタイプの情報がシステムの関連部分に分配されることを確実としなければなら
ない。
5.4.1.2 データーの情報源のデーターの詳細と、そのようなデーターの処理方法の詳細が、INS
内の他の用途のために、備えられえていなければならない。
5.4.1.3
CCRS は、INS のすべての部分が同じ情報源から同じタイプのデーターが提供され
ることを確実にしなければならない。
5.4.2 一貫した共通の参照点
5.4.2.1 INS は、すべての位置に関連した情報のために、一つの一貫した共通の参照点を使わ
なければならない。
距離と方位の計測の一貫性のために、推薦される参照場所は指揮所でなければならない。
明確に示され、明らかに識別される場合は、代わりの参照点が使われても良い。
代わりの参照点の選択は、完全性監視のプロセスに影響を及ぼしてはならない。
5.4.3 限界値の一貫性
5.4.3.1 INS は、監視と警戒通報機能のための限界値の一貫性を支援しなければならない。
5.4.3.2 INS は、実行可能な場合に、 INS の異なる部分によって一貫した限界値が使われる
ことを、自動的な手段で確認しなければならない。
5.4.3.3 船橋当直員によって、INS の他の部分で設定された限界値と異なった限界値を入力し
た場合は注意が与えられても良い。
5.5 完全性監視
5.5.1 データーの完全性は、使用され、あるいは表示される前に自動的に監視され、確かめら
れなければならない。
5.5.2 できれば、情報の完全性は、少なくとも独立した 2 つ以上のセンサーあるいは情報源に
由来するデーターでの比較によって確かめられなければならない。
5.5.3 INS は、利用できるセンサーや情報源から完全性監視の最も正確な方法を選ぶために手
動か自動の手段を備えなければならない。
5.5.4 完全性監視のために選ばれるデーターのセンサーと情報源の明確な指示が提供されな
ければならない。
5.5.5 INS は、もし、完全性の証明ができないか失格ならば、警告を与えなければならない。
5
5.6 データーのマーキング
5.6.1 データーは、それらの入力データーに依存する機能の要求に適するかどうかを決定する
ために、情報源と、有効性、合理性確認および完全性監視の結果で、マークされなければなら
ない 。
5.7 センサーと情報源の選択
5.7.1 INS は、複数のセンサー/情報源が利用できる場合は、利用者が選択可能な、センサー/
情報源の二つの選択モードを備えなければならない;手動センサー/情報源選択モードと自動の
センサー/情報源選択モード。
5.7.2 手動センサー/情報源選択モードでは、INS のために、個々のセンサー/情報源を選ぶこ
とが可能でなければならない。
より適切なセンサー/情報源が利用できる場合は、これは示されなければならない。
5.7.3 自動センサー/情報源選択モードでは、INS のために、最も適切なセンサー/利用できる
情報源は自動的に選ばれなければならない。
さらに、自動的に選ばれることから手動で個々のセンサー/情報源を除外することが 可能でな
ければならない。
モジュール B
6
統合化航法システムのための作業関連要件
操作要件
6.1 INS の設計は、その中の取り入れられる航海機能を安全で効率的に実行しようとする際
に、船橋当直員および水先人の作業負担を緩和しなければならない。
6.2 統合は、すべての動作状況の下で、船橋当直員と水先人が船舶を安全に操縦しようとする
際に実行される作業を促進するために、INS が使われ、構成されるところの作業に依存するす
べての機能を備えなければならない。
6.3 INS のそれぞれの部分は、機関によって採択された、すべての適用できる性能基準の要求
を含む要件に従わなければならない。
6.4 INS に接続している機器の機能は、それらの、性能基準に加えて現実的で合理性のある動
作の機能を提供する。そして、そのような付加機能の故障は、これらの基準の要件の下で INS
の性能を劣化してはならない。
6.5 INS への個々の機器の機能の統合は、機関による個々の機器のために指定された要件を下
回る性能劣化となってはならない。
6.6 警戒通報は、モジュール C にしたがって起動され提示されなければならない。
7
INS のための作業と機能要件
7.1 一般
7.1.1 INS の構成はモジュール式でなければならなくて作業指向でなければならない。
INS の航海作業は、
「航路計画」、
「航路監視」、
「衝突回避」、
「航行制御」
「航海状態とデーター
表示」、そして、「警戒通報管理」として分類される。これらの各々の作業は、それぞれの機能
とデーターから成る。
7.1.2 INS のすべての作業には、同じ電子海図データーと航路、地図、潮流情報のようなそ他
6
の航海データーベースを使わなければならない。
7.1.3 電子航海海図(ENC)が利用できるならば、それらが INS の共通のデーター情報源と
して使われなければならない。
7.1.4
INS にそれぞれの作業が組み込まれるならば、7.2-7.5 と 7.7 を適用する 。
7.2
「航路計画」作業
7.2.1 義務機能とデーターに関連する ECDIS 性能基準
INS は、ECDIS 性能基準のモジュール A および B に指定される航路計画機能とデーターを備
えなければならない。
7.2.2 航路計画の処置
INS は、可能であれば、機関で採択された(1)適用し得る航海計画の処置を備えなければならな
い。
7.2.3 追加の義務的機能
INS は以下の方法を備えなければならない
・航路計画の管理(保存および書き写し、読込み、読出し、文書化、保護)
・計画された竜骨下余裕を基に、危険に対する航路チェックを持つ
・INS で可能ならば、旋廻半径、回頭角速度(ROT)、転舵および進路変更点、速度、時間、ETA
に基づく、航路計画の、立案、修正、および動的確認
・INS で可能ならば、気象情報に対する航路計画の立案と修正
7.3 「航路監視」作業
7.3.1 ECDIS 性能基準関連の義務的な機能とデーター
INS は、ECDIS 性能基準のモジュール A および B に指定された航路監視機能とデーターを備
えなければならない
7.3.2 追加の義務的機能
INS は以下の手段を備えなければならない。
・任意に、位置監視と物標識別ができるように、自船に対する航海対象物、制約、および危険
を示すために、海図上にレーダー映像データーの重畳の描写
・竜骨下余裕の設定値と実際値との間の差の決定および竜骨下余裕警報の始動
・緯度、経度、船首方位、COG、SOG、STW、竜骨下余裕、ROT(計測あるいは船首方位の
変化から算出した)の現在値の英数文字表示。
・AtoN の AIS 報告
そして、トラック制御が INS に組み込まれるならば、
計画されたトラックを含むことが可能でなければならない。そして、トラックと操船に関連する
データーの監視と表示を備えなければならない。
7.3.3 オプション機能
航海用目的のために、海図表示上の他の航路関連情報の表示ができる。 例えば、
・追跡したレーダー物標と AIS 物標
・AIS バイナリーと安全関連メッセージ。
・船員海中転落と SAR 活動の始動と監視(捜索救助と船員海中転落モード)
・NAVTEX
・潮汐及び海流のデーター
・気象データー
・流氷データー
7.3.4 捜索救助モード
7.3.4.1 できるならば、航路監視表示上に“捜索救助”状態のためにあらかじめ決められた表示
モードを表示する、単純な操作者の指揮でアクセスできる選択が可能でなければならない。
7.3.4.2 捜索救助モードでは、重畳された、測地系(捜索計画の参照として使用される地理的な
7
位置、線、あるいは範囲)、検索のために最も見込みがある最初の地域、検索開始点、そして、
彼が定義したトラック間隔で操作者が選ぶ(四角の検索パターン、セクター捜索パターン、あ
るいは平行トラック捜索パターン)検索パターンのグラフィック表示が提示されていなければ
ならない。
7.3.5 船員海中転落モード
7.3.5.1 できるならば、あらかじめ決められた、
“船員海中転落”状態のための表示モードを航
路監視表示上の一操作で、操作者の指揮によるアクセスができる選択が可能でなければならな
い。
7.3.5.2 船員海中転落モードでは、操作者が選択可能な船員海中転落モード活動のグラフィック
表示が提示でなければならない。
7.3.5.3 船員転落位置は単純な操作者の操作によって記録できなければならない。
7.3.5.4 海流を考慮にいれて、緊急の捜索手順は表示上でできなければならない。
7.4 「衝突回避」作業
7.4.1 義務的な機能とデーターに関連するレーダー性能基準
INS は、レーダー性能基準のモジュール A および B で指定する衝突回避機能とデーターを備
えなければならない。
7.4.2 付加的な義務的機能
7.4.2.1 ディスプレイベースは、ENC データベースオブジェクトの、MSC. 232(82)で指定され
るより少ない情報を示すことが可能でなければならない。
7.4.2.2 物標結合と物標データー統合
複数のセンサー/情報源からの物標情報(レーダーと AIS;、2 台レーダー・センサー)が 1 つの
操作卓上に提供される場合:
・物標結合の可能性は、相互の監視のために、そして、同一物標の複数のシンボル提示を避け
るために備えられていなければならない、
・AIS とレーダー物標の結合は、決議 MSC192(79)と MSC191(79)の要件に従わなければなら
ない
・警戒通報に関係して起きる物標(例えば CPA/TCPA)のために共通の基準が使われなければ
ならない。
7.4.2.3 物標識別子
特色のある同一の物標識別子が、すべての INS 表示器に使われなければならない。
複数の情報源からの物標が 1 つの表示に提示できる場合は、識別子は必要に応じて変えられな
ければならない。
変えられた物標識別子は、すべての INS 表示提示のために使われなければならない。
7.4.2.4 連結されたレーダー信号
一つの表示器に複数のレーダー情報源から、結合されたレーダー信号を表示しても良い。
この付加的な機能の故障は、主要なレーダー情報源として選ばれた提示を劣化させてはならな
い。
主要な情報源とその他は、そのように示されなければならない。
7.4.3 任意の機能
任意に、以下の情報の表示が成されてもよい
・実比率の船舶シンボルおよび CPA/TCPA と船首航過 距離(BCR)/船首航過 時間(BCT)
・INS の共通のデーターベースからの海図データー:航路に関連したオブジェクト層
7.5 「航行制御」作業
7.5.1 一般
船の主な動きの手動および自動制御を支援するために、INS は以下の機能性を備えなければな
らない:
・船の主要な動きの手動制御のためのデーターの表示
8
・船運動の自動制御のためのデーターの表示
・外部からの安全に関連したメッセージの提示と取扱い
7.5.2 手動制御のための航行制御データーの提示
7.5.2.1 船の主な動きの手動制御のために、INS 航行制御表示は、少なくとも、以下の情報の
表示ができなければならない:
・竜骨下余裕(UKC)あるいは UKC 状況、
・STW、SOG、COG
・船位
・船首方位、ROT(計測あるいは船首方位を変えたことから算出される)
・舵角
・推進力データー
・潮流と流程、風方向と速度(真あるいは相対、もしできれば操作者によって選択可能)
・舵または船速制御の駆動モード
・次の航路への 転針点への時間と距離
・安全関連メッセージ(例えば AIS 安全関連バイナリーメッセージ、NAVTEX)
7.5.3.1 船舶の主要な動きの自動制御のために、INS 航行制御表示は、少なくとも、そしてデ
フォルトとして以下の情報の表示ができなければならない:
・手動制御のためにリストされるすべての情報
・転舵点までの時間と距離。少なくとも、関連した早期変針限界のあと
・次のセグメントへの、設定半径と、実半径又は回頭角速度
7.5.4 航行制御データーは、以下の提示をしなければならない
・デジタルで、そして必要に応じてアナログ形式(例えば、船のシンボルの周辺またはその上
にミミック要素、論理的配置)
・適用できるならば、それらの設定値も
・適用できるならば、そして必要に応じて、パラメーターの傾向を示す、来歴の提示とともに
7.6 「警戒通報管理」作業
7.6.1 適用、運用要件、及び警戒通報に関連する要件は、この性能基準のモジュール C で指定
される。
7.7 「航海状態とデーター表示」作業
7.7.1 義務的なデーター表示機能
INS は、以下のデーター表示機能を備えなければならない:
・モードと状態情報の提示
・船舶の静的、動的、及び航海に関連した AIS データーの提示
・船の実運動データーをその設定値と共に提示
・AIS 安全関連やバイナリーメッセージ、NAVTEX のような、受信した安全関連メッセージの
提示
・INS 構成の提示
・センサーと情報源情報の提示
7.7.2 義務的なデーター管理機能
INS は、以下の管理機能を備えなければならない:
・関連したパラメーターの設定
・AIS 送信のための、AIS 自船のデーターとメッセージの編集
7.7.3 任意のデーター表示機能
INS は、必要に応じ、以下の表示を備えなければならない:
・潮汐と潮流のデーター
・気象データー、流氷データー
・航行制御と航路監視および AIS 物標データーの更なるデーター
9
8
8.1
INS 操作卓のための機能要件
作業卓の数
8.1.1 船橋の操作卓の数は、INS に組み込まれる作業に依存する。
それは、すべての統合した作業の、同時の操作と提示を支援しなければならない。
8.1.2 作業卓の数の要求を指定するために、SOLAS V/19 の搭載要件で義務化される必要なバ
ックアップ装備を考慮に入れなければならない。
8.2 操作卓には、以下の、それぞれの作業が INS の部分であるならば、
・航路監視
・衝突回避、
・航行制御
が備えられなければならない。
8.3 追加の作業
以下の作業のために、
・航路計画
・航海状態とデーター表示、そして、
・警戒通報管理
の手段が、8.2 項で言及した作業を操作するための少なくとも 1 操作卓に、または、船橋当直
員と水先人の選択により少なくとも他の付加的な操作卓に備えられなければならない。
8.4 遠隔航路計画
「航路計画」の作業ために、別の遠隔操作卓が備えられても良い。
8.5 操作卓への作業の割当ては、すべての航海状況を支援するために 十分に柔軟でなければ
ならない。
そして、作業しているチームと操作者の役割の認知を支援するために十分に単純でなければな
らない。
操作卓の作業の選択は、単純な操作者の操作によって可能でなければならない。
8.6 トラック制御
トラック制御の作業が、INS で実行される場合は
8.6.1 計画された航路は、操作卓で視覚的に表示することができなければならない。
・「航路監視」、あるいは、
・「衝突回避」
8.6.2 この作業の制御と操作は、以下のために操作卓を通して可能でなければならない。
・「航路監視」、あるいは、
・「衝突回避」
8.7 自動制御機能
8.7.1 制御のある操作卓
ただ一つの、明らかに示された操作卓だけは、自動の機能を管理していなければならない。
そして、1 つの操作卓だけは、いつでも制御指揮を受け入れるよう指定されなければならない。
それは、明らかでないならば、船橋当直員と水先人に操作卓がこれらの機能を管理しているこ
とを明らかに示されなければならない。
8.7.2 操作卓から制御を引き継ぐことができなければならない。この場合パラメーターは維
持されなければならない。
10
8.7.3 選択された制御機能に関連する情報は、操作卓で少なくとも一つの操作者の指揮で連続
表示が可能でなければならない。そして、自動制御機能起動するか、切替えるときに提示され
なければならない。
8.7.4 オーバーライド
8.7.4.1 INS の操作モードや故障状態に関係なく、INS の外部あるいは内部から一つの操作者
の操作で、あらゆる自動化機能をオーバーライドあるいはバイパスすることができなければな
らない。
8.7.4.2 INS は、すべての始動の条件を考慮して、適切なメッセージと意図された操作者の操
作の後にのみ、自動の機能を回復しなければならない。
9
INS の表示器のための機能要件
9.1 一般
9.1.1 INS は、機関によって採択された(2)提示要件に従わなければならない。
9.1.2 すべての重要な情報は、明瞭に、そして、連続的に表示されなければならない。
付加的な航海情報は、この性能基準の主要な作業による表示のために必要な、重要な情報を、
覆い隠してはならないが、不明瞭にするか、質を落して表示されることがある。
9.1.3 I NS は、センサーから得られるデーターを表示することができなければならない。
9.1.4 情報は、モードを含むその情報源(センサーデーター、計算結果、または手動入力)、計
測単位と状態の指示と共に表示されなければならない。
9.1.5 機器で可能な重要な情報の表示と更新は、安全に関連する機能と同様に、機器の動作に
よって禁止されてはならない。
9.2 デフォルト表示構成と操作モード
9.2.1
INS は、標準化の表示で船橋当直員と水先人に、それぞれの操作卓で、航路監視、衝
突回避、および航行制御の作業のためのデフォルト表示構成を示さなければならない。
この構成は、航海を通して最初の作業を開始するとき操作者の単純な操作でアクセスできなけ
ればならない。これらの表示構成のために基本の要件は、付表 6 に示される。
9.2.2 INS は、大洋、沿岸、制限海域(水先区、停泊港、停泊地)の操作モードを備えなけれ
ばならない。
9.2.3 使用者が決める表示モード
INS には、あらかじめ決められた、または操作者が設定した航海作業に最適な表示モードを備
えることが推薦される。
9.2.4 作業を 1 つの操作卓から他に切替えるとき、現在の表示構成は維持されなければならない。
9.3 モードと状態認知
9.3.1 使用中の操作モードは、船橋当直員と水先人に明らかに示されなければならない
9.3.2 使用中のモードが通常のモードでないならば、 INS のために必要な機能を完全に実行
するために、これは明らかに示されなければならない。
通常のモード以外のモードの例は、以下の通りである。
・INS が、完全にはすべての機能を実行することができるというわけでない場合の劣化状態モ
ード
・「点検モード」
・シミュレーションモード
・訓練(精通化)モード
・または、INS が航海のために使うことができない場合の他のモード。
9.3.3 システムが劣化状態にあるならば、船橋当直員と水先人が故障の本質とその影響力を理
11
解することができるように十分にはっきりさせなければならない 。
9.3.4 INS は、自動化の稼動状態と、統合された構成要素、システムあるいはサブシステムを
示さなければならない。
9.4 情報表示
9.4.1 全システム構成と利用できる構成、及び使用中の構成を表示することが可能でなければ
ならない。
9.4.2 INS は、データーのタイプ、情報源、及び有効性を表示する手段を備えなければならな
い。
9.4.3 INS は、機能のタイプと有効性を表示する手段を備えなければならない。
9.4.4 INS は、装置識別とその有効性を表示する手段を備えなければならない。
9.4.5 船とシステム関連パラメーターと設定は、要求あり次第表示されなければならない。
10
人間機械インターフェース(HMI)
10.1 一般
10.1.1 INS の,HMI 設計と装備のために MSC/Circ. 982、および IMO で採択された SOLAS V
章の適用における指針が考慮に入れられなければならない。
10.1.2 統合したグラフィックと英数字表示および制御機能は、一貫した人間機械インターフェ
ース(HMI)哲学と実施を採用しなければならない。
10.1.3 INS の設計と実行は、訓練を受けた使用者が簡単に操作することが確実でなければなら
ない。
10.2 システム設計
10.2.1 システムの設計と航海表示器の計画は、すべての動作状況の下で、安全に船舶を操縦し
ようとする際に、船橋当直員と水先人によって実行される作業を促進しなければならない。
10.2.2 機器の構成とワークステーションの情報の提示は、すべての動作状況の下で操作者に
よって観測または監視できなければならない。
10.2.3 システムの設計は、操作中に、一人の、一箇所の間違えの可能性を避けるために、人為
的過誤の危険度を最小にしなければならない。
10.2.4 システムの操作は、安全な航海の作業から注意をそらすものを避ける設計がされなけれ
ばならない。
10.3 表示
10.3.1 情報は、異なるサブシステムで、あるいはそれらの間で、一貫して提示されなければ
ならない。標準情報提示、シンボル、および符号化は、MSC. 191(79)によって使われなければ
ならない。
10.4 入力
10.4.1
INS は、要請される手動入力がシステムを通して一貫していて、簡単に実行されるこ
とができるように、設計されなければならない。
10.4.2 INS は、基本の機能が簡単に操作できるように設計されなければならない。
10.4.3 システムに対する複雑かエラーを起こしやすい相互作用は避けられなければならな
い。
10.4.4 意図しない結果を引き起こすかもしれない手動入力のために、INS は、受理する前に
確認を要請しなければならない。したがって合理性確認を備える。
10.4.5 誤ったデーターまたは制御入力を防ぐために、対話方式と手入力でのチェックが備え
られなければならない。
10.4.6 可能な場合は、"UNDO"機能を備えなければならない。
12
11 INS のバックアップ要件と冗長性
11.1 一般
11.1.1 INS 内の故障の場合に安全航海を確実にするために適切なバックアップ措置を備えなければ
ならない。
11.1.1.1 INS の、ネットワークの故障を含む、一部または機能の故障の場合、可能な限り、機関によっ
て採択された個々の機器に指定された最小限要件の個別の部分同士あるいは機能別に作動可能で
なければならない。
11.1.1.2 バックアップ措置は安全に INS 機能を引継ぐことが可能でなければならない。そして INS 故
障が重大な状況にならないことを確実にしなければならない。
11.1.2 一箇所の作業卓の故障は SOLAS の搭載要件で義務付けられた機能の欠損となってはな
らない。
11.1.3 一箇所の作業卓の故障の場合は少なくとも一つの作業卓は、作業を引継がなければな
らない。
11.1.4 一つのハードウェア構成の故障または欠損は、INS 作業のいずれかの欠損につながって
はならない。
・航路計画
・航路監視
・衝突回避
・航行制御
・航海状態とデーター表示
・警戒通報管理
トラックコントロールが INS の機能の場合、これは船首方位制御あるいは自動操舵の二重化を
要求するものではない。
11.1.5 INS は、(可能であれば)主要構成の運用をバックアップ構成が自動的に引継ぐことができなけ
ればならない
11.2 ハードウェアの冗長性
11.2.1 必要な航海センサー/情報源のバックアップ
以下の、INS のセンサー/情報源のために、INS の承認されたバックアップが可能でなければな
らない。
・電子測位装置
・船首方位計測
・船速計測
・レーダー
・海図データーベース
12
システム故障とフォールバック(代替)装備
12.1 INS は、故障の後、重要な情報と機能の可能性を、適切なフォールバック装備の使用を
通して支援しなければならない。 (12.7 参照)
12.2 動作復元
フォールバック措置の使用の後、操作者による確認でのみ、正常動作に戻されなければならな
い。
12.3
センサーの故障または変化
12.3.1 センサーの故障または変化は、急激に制御指令あるいは操縦不能に結びついてはなら
ない。
13
これは、いくつかの情報源からの情報を使用する適切な完全性確認によって果たされても良い。
12.3.2 センサーあるいは情報源の故障の場合、システムは警戒通報と、できれば、代わりのセ
ンサーか情報源を示す備えがなければならない。
12.3.3 もし、センサーあるいは情報源が必要な船舶の状態あるいは自動制御機能の航海データ
ーを提供することができない場合は、失われた情報を、できるだけ実際的な推測手順で提供し
なければならない。
12.4 システム関連パラメーターの保存
すべてのシステム関連のパラメーターと設定は、INS 構成で保護された方法で保存されなけれ
ばならない。
12.5 故障への自動応答は、結果として、警戒通報に付随する他のどの構成にも最も安全な結果
にならなければならない。
12.6 警戒通報管理
12.6.1 システム故障は、モジュール C で記述する要件にしたがって警戒通報しなければならな
い。
12.6.2 警戒通報管理と航海システムとセンサーの間のシステム通信の故障は、中央警戒通報管理
HMI によって警告として示されなければならない。
12.6.3 警戒通報管理のシステム故障、あるいは警戒通報管理と航海機能。情報源、あるいはセンサ
ーの間のシステム通信の損失は、個々の航海機能、情報源/センサーの警戒通報告知性の損失に至
ってはならない。
12.7 航海情報の故障のためのフォールバック
12.7.1 航海情報の故障と最低限の基本操作を維持するために;
・故障した入力情報の永続的表示とフォールバックの稼動
・警戒通報管理の夫々の動作の稼動
・関連するフォールバック措置のリスト、が提示されなければならない。
12.7.2 航路監視
12.7.2.1 INS は、海図上に、船の船首基線上でなく、自船の位置と対地モーションのベクトル
を表示しなければならない。
12.7.2.2 対地進路と速度情報の故障
INS は、自船の位置と船首方位線を表示しなければならない。
12.7.3 衝突回避
以下の故障の場合、
・船首方位情報
・対水速度情報
・対地進路および船速情報
・船位入力情報
・レーダー映像入力情報
・AIS 入力情報
INS は機関によって採択されたレーダー性能基準の運用モジュールで定義されるように作動し
なければならない。
12.7.4 船首/トラック制御
個々の性能基準に指定された、適用し得る制御機能の要件を適用しなければならない。
14
13
技術要件
13 一般
13.1.1 決議 A.694(17)の関連した必要条件を満たすことに加えて、INS はこれらの性能基準
の要件に従わなければならない。
13.1.2 INS のハードウェアの故障を監視し表示するための手段を備えなければならない。
故障の場合は、警戒通報が与えられなければならない。
13.2 ハードウェアあるいはプロセッサのための要件
13.2.1 センサー
13 .2.1.1 センサーまたはその一部が、単なる生データーを INS に供給するだけならば、これ
は INS の一部ではない。
13.2.1.2 センサーからの生データーの処理は INS の一部である。
13.2.1.3 情報源が INS の機能を実行する場合は、これらの機能とインターフェースは、これら
の性能基準の関連した部分に従わなければならない。
13.2.2 アクチュエーターとコントローラー
アクチュエーター、コントローラー、あるいはその一部が、データーまたは指令を受けるだけ
で、この基準の要求による INS の他の機能を実行しないならば、INS の一部ではない。
13 .3 ソフトウェアのための要件
13 .3.1 運用ソフトウェアは、妥当な、航海および通信機器に関連する国際標準の要件を満た
さなければならない。
13.4 供給電源のための要件
13.4.1 他の IMO 要件の結果として、INS の部分に適用する供給電源の要件は、そのまま適用
されなければならない。
13.4.2 位置、船速、船首方位および深度のためのセンサーを含む INS には、次のように供給
されなければならない:
.1 主電源、および、不意の遮断を防ぐ備えの局部の配電盤を通して自動切換えのあ
る非常用電源から;そして、
.2 45 秒以上の継続時間の間の補助電源から。
13.5 電源中断と遮断
13.5.1 電源中断後、INS の完全な機能性は、すべてのサブシステムの回復後可能でなければ
ならない。INS は、電源回復後、個々のサブシステムの回復時間を延ばしてはならない。
13.5.2 電源中断では、INS は、電報源の回復で、現実的なように、使用中の構成を維持し、
自動動作を維持しなければならない。自動制御機能は、操作者による確認のみで元に戻されな
ければならない。
13.6 通信プロトコル
13.6.1 可能な場合、標準化されて承認された通信プロトコルが使われなければならない。
13.7 装備
13.7.2 INS は、MSC/Circ.982 および機関によって採択された SOLAS V 章 15 規則の適用に関する
妥当な指針を考慮に入れて装備されなければならない。
--------------------(1) A.893(21)
(2) MSC.191(79)、SN/Circ.243
15
モジュール C 警戒通報管理
14 目的
14.1 警戒通報管理の目的は、INS 内での警戒通報の取扱い、配信、および提示を助長することであ
る。
15 適用
15.1 航海の安全を強化するために、これらの性能基準は、INS とそれに付随する個々の運用/機能モ
ジュールとセンサー/情報源モジュールでの警戒通報の処置の要件を備える。
15.2 警戒通報管理は、船橋当直員が、船舶の安全な航海に万全の注意を向けることができるように、
そして、船舶の安全な航海を維持するために必要な行動でどんな異常な状況でもただちに確認する
ために、優先性、分類、取扱い、伝達、および警戒通報の呈示を調和させる。
15.3 これらの性能基準は、どんな異常な状況の情報源の即時の識別、そして、異常な状況の理由と、
船橋当直員が取るべき必要な行動の意思決定を支援するために HMI 警戒通報管理を規定する。
15.4 警戒通報管理で規定した警戒通報管理構成と受認概念は、冗長で余分な可聴可視警報告知に
よる船橋当直員の不必要な注意力散漫を避ける。
15.5 警戒通報管理は、SOLAS 規則 V/15 の適正なアプリケーションをサポートしなければならない。
15.6 性能基準のモジュールの構造は、船橋の更なる警戒通報を含み、船橋警戒通報管理のための
性能基準の開発のために、拡張性が保たれる。
16 適用
16.1 この性能基準は、INS とその付随する個々の動作的/機能的なモジュールおよびセンサー/情報
源モジュールの範囲内で、どんな航海援助にでも適用できる。
16.2 この性能基準に加えて、INS 警戒通報管理は、機関の関連する要件(3)にしたがわなければならな
い。
16.3 この性能基準の 19 項および 20 項に記述する基準の一般原則は、現実的である限り、船橋にお
けるすべての警戒通報提示に適用できなければならない。
17 定義
この基準の目的には、付表 1 の定義を適用する。
18 一般要件
18.1 警戒通報管理は以下を備えなければならない。
・船橋当直員どんな異常な状況の存在にも注意を引くために用いられる手段
・船橋当直員が、その状態について確認して対応することができる手段
・船橋当直員と水先人が、複数の異常な状況を取り扱われなければならない場合にケースの
異なる異常な状況の緊急性を評価するための手段
・船橋当直員が警告告知を取り扱うのを可能にする手段。 そして、
・分散されたシステム構成で一貫した方法においてすべての警告関連した状態を管理する
手段
18.2 できれば、注意を必要とする一つの状態に複数の警戒通報があってはならない。
18.3 警戒通報管理は、最低限として、INS の構成あるいは INS に接続された航海用機器のための性
能基準のために機関によって採択された性能基準によるすべての警戒通報を取り扱うことができなけ
ればならない。
警戒通報管理は、同一の方法において、INS で構成されるあるいは INS に接続される航海機器他のす
べての警戒通報を取り扱う能力を持たなければならない。そして航海の安全に重大なすべての警戒通
報と合体しなければならない。
18.4 警戒通報管理の論理的な構造と警戒通報の取扱いの概念は、警戒通報の数、特に高い優先
16
度レベルの警戒通報を最小にする能力を備えなければならない。
( 例えば、INS の内の冗長概念からの知識を用いて、航海用状況、運用モード、あるいは稼動中の航
海機能に対して、本来の警戒通報に必要不可欠な物を評価する)
18.5 中央警戒通報管理 HMI は、少なくとも、航海と操船ワークステーション上に備え船橋当直員が取
扱う事ができることが可能でなければならない。
18.6 警戒通報の音声告知は、警告を生成し、原因を提示している機能か意思決定支援のための告
知に関連した情報に直接割り当てられる操作卓または表示器で、船橋当直員の指針の目標とされた
精度を強化しなければならない。
例えば、衝突回避機能が備えられる場合、衝突回避警報は、ワークステーションに提示され受認でき
なければならない。
18.7 警戒通報がいくつかの場所で表示されることができて、システムは実行可能であるように、いか
に警戒通報が表示され、消音され、受認されたか統合化システムのどの一つの構成要素ででも認めら
れように一貫していなければならない。
19 優先性と分類
19.1 警戒通報の優先性
19.1.1 警戒通報管理は、下記に挙げる 3 つの優先度で区別しなければならない:
・警報
・警告
・注意
19.1.2 “警報”は、船橋当直員によって即時の注意と操作を必要としている状況を告げなければなら
ない。
19.1.3 “警告”は、状況が変わったことを告げなければならならず、すぐに危険でないが操作をしない
と、危険になるかもしれない、予防の理由のために提示されなければならない。
19.1.4 “注意”は、警報または警告状態には至らないが、まだ注意を必要とし、状況または与えられた
情報の状況が正常でない状態を船橋当直員が知るための提示でなければならない。
19.1.5 必要な警戒通報、または、船主、製造業者、または他の当局によって提案された、分類の基準
を使って第一の優先度レベルに割り当てられなければならない。
19.2 警戒通報の分類の基準
19.2.1 警報の分類の基準
・あらゆる危険な状況を避け、船舶の安全な航海を維持するために船橋当直員の即時の操
作が必要な状態
・または、未受認の警告から警報として格上げ
19.2.2 警告の分類の基準
・船橋当直員が、すぐに危険ではないがいずれ(危険)になる条件に気づくための、予防の
理由のための即時の注意を必要とする条件または状態
19.2.3 注意の分類の基準
・状況または与えられた情報が正常でないことで、まだ注意を必要とする状態の認知
19.3 警戒通報の種類
19.3.1 警戒通報は、INS で扱う警戒通報のために 2 つの種類に分けられなければならない:
19.3.1.1 種類 A の警戒通報
種類 A の警戒通報は、機能に直接割り当てられた、警戒通報に関連した条件の評価のための意思決
定支援として必要な警戒通報を発している操作卓でのグラフィック情報(例えばレーダー、ECDIS)の
警戒通報として指定される。
種類 A の警戒通報は、以下を示す警戒通報を含まなければならない。
・衝突の危険
・乗揚げの危険
19.3.1.2 種類 B の警戒通報
17
種類 B の警戒通報は、意思決定支援のための付加的な情報が必要でない、中央警戒通報管理 HMI
で提示できる情報に基づく、警戒通報として指定される。
種類 B の警戒通報は、種類 A に属さないすべての警戒通報
19.4 INS のため、および個々の性能基準のための、警戒通報の種類と階級は、付表 5 に示される。
20 警戒通報の状態
20.1 一般
20.1.1 警報と警告の提示は、船舶航海表示装置上の、航海関連情報提示の性能基準で定義される
(MSC.191(79))。
20.1.2 警戒通報の状態は、警戒通報管理、INS とその付随する個々の動作的/機能的なモジュールお
よびセンサー/情報源モジュールのために明確でなければならない。
20.2 警報
20.2.1 警戒通報管理は、それぞれの個々の警報の異なる告知状態で区別しなければならない:
・未受認警報
・受認警報
20.2.2 警報状態が検知された場合、それは未受認警報として示されなければならない:
a)可聴信号(視覚の警報告知付き)の始動;
b)船橋当直員が警報状態についての説明と確認を可能にするための十分な詳細のメッセー
ジを提供。
c)言葉で、少なくとも英語の出力が付くことがある
20.2.3 未受認警報は、在来のすでに受認されたものと明らかに区別できなければならない。
未受認警報は点滅光と可聴信号によって示されなければならない。
20.2.4 単独あるいは言葉と混合して使われるかどうかに関係なく、警報可聴信号の特性は 警告のた
めに使われる可聴信号と間違えるような可能性があってはならない。
20.2.5 一時的に警報を止めることが可能でなければならない 。
警報が 30 秒の間受認されなければ、可聴信号は再起動しなければならない。あるいは性能基準の要
件で指定されるように。
21.2.6 未受認への可聴信号(もし一時的に消音されなければ)と可視信号は、機器の性能基準で規定
される場合を除いて、警報が受認されるまで続けなければならない。
20.1.2.7受認警報は、連続点灯によって示されなければならない。
20.2.8 受認警報のための視覚信号は警報状態が修復されるまで続かなければならない 。
20.3 警告
20.3.1 警戒通報管理は、それぞれの個々の警告の異なる告知の状態を区別しなければならない:
・未受認警告
・受認警告
20.3.2 警告状態が検知された場合、それは未受認警告として示されなければならない:
a)可聴信号(視覚の警告告知付き)で始動;
b)船橋当直員が警告状態についての説明と確認を可能にするための十分な詳細のメッセー
ジを提供。
c)言葉で、少なくとも英語での出力が付くことがある
20.3.3 未受認警告は、在来のすでに受認されたものと明らかに区別できなければならない。
未受認警告は点滅光と可聴信号によって示されなければならない。
20.3.4 警告が発せられたとき、可聴信号が与えられなければならない。単独あるいは言葉と混合して
使われるかどうかに関係なく、可聴警告信号の特性は警報のために使われる可聴信号と間違えるよう
な可能性があってはならない。
20.3.5 未受認のために、可視状態は、機器の性能基準で特に指定される以外、確認されるまで続か
なければならない。
20.3.6 受認警告は、連続点灯によって示されなければならない。
18
20.3.7 受認警告のための視覚信号は警告状態が修復されるまで続かなければならない 。
20.4 注意
20.4.1 注意は、連続点灯によって示されなければならない。
注意のためには受認は必要ではない。
20.4.2 注意は状態が修復されたあと自動的に取り除かれなければならない 。
20.4.3 メッセージは、船橋当直員が注意状態についての説明と確認ができる十分な詳細の提供がさ
れなければならない。
20.5 警戒通報エスカレーション
20.5.1 未受認警報は、可能であれば、個々の機器性能基準の要件によって指定される時間の後に、
船橋航海当直警報システム(BNWAS)に転送されなければならない。
未受認警報は、可視・可聴を維持しなければならない。
20.5.2 未受認警告は、個々の機器の特定の要件、あるいは、使用者の決める時間か 60 秒の要求に
応じて警報の優先度に切替わらなければならない。
20.5.3 警戒通報エスカレーションは、個々の性能基準の警戒通報エスカレーション要件にしたがわな
ければならない。
21 INS 範囲内の警戒通報の一貫した提示
21.1 INS 内の、警戒通報の一貫した提示と数を減らした高優先度警戒通報の提示を確実にするため
に、
.1 高順位警戒通報の数を減らすために、航海機能、センサー、情報源によって生成されて
いる、警戒通報は、できる限り、INS のシステム知識による評価の後に提示されなければなら
ない。
.2. 警戒通報の優先度は、この性能基準の関連した項目に従って定義される。
.3 INS のシステム知識による評価の後、システムに関連した警戒通報は、生成され提示され
なければならない。
.4 警戒通報を発しているセンサー/情報源または機能(システム)は、説明と意思決定支援
のために、できるだけ、警戒通報メッセージに関してユーザーサポートのための情報を含む
警戒通報メッセージの警戒通報関連情報を提供しなければならない。
.5 意思決定支援と使用者指針に関する付加的な情報が、INS のシステム知識で可能なら
ば、この情報は警戒通報メッセージに含まれなければならない
.6 警戒通報情報を提示している HMI は、警戒通報を発しているセンサー/情報源または機
能(システム)および INS のシステム知識で加えられる部分によって提供される警戒通報メッ
セージを提示する能力を持たなければならない。
21.2 種類 A の警戒通報の可聴告知は、警戒通報を生成している機能に直接割り当てられた操作卓ま
たは表示器で稼動しなければならない。
22 中央警戒通報管理 HMI
22.1 すべての種類 B の警戒通報は、警戒通報管理 HMI で表示されなければならない。
22.2 中央警戒通報管理 HMI は、「総合警戒通報」(すなわち、機能を提示している操作卓上の多くの
警戒通報が存在することを示す 1 つの警戒通報)としての種類 A の警戒通報を表示するという可能性
を提供しなければならない。
例えば、衝突回避のために、 1 つの警戒通報は、操作卓上で存在している複数の危険な物標警戒通
報の存在を示さなければならない。
22.3 中央警戒通報管理 HMI は、告知する手段と、船橋当直員の注意をひく警報と警告を指示する手
段を提供しなければならない。
22.4 中心警戒通報管理 HMI は、種類 A の警戒通報を除いて、個々の機器の可聴警戒通報告知に
代える能力を持たなければならない 。
19
22.5 中央警戒通報管理 HMI は、すべての警戒通報を確認して、警戒通報を発している機能またはセ
ンサー/情報源の即時の識別を可能にすることが許さなければならない。
22.6 中央警戒通報管理 HMI は、異なる階級の警戒通報メッセージが明らかにそれぞれの区別ができ
るために設計されなければならない。
22.7 警戒通報メッセージは、できれば、意思決定のための援助で完全でなければならない。
警告の説明または判定理由は、要求によって可能でなければならない。
22.8 種類 A の警戒通報を除いて、中央警戒通報管理 HMI は、警報と警告が適切な状態評価された
か、そして、意思決定が行えるように、操作者の一つの操作によって警報と警告の即時に受認(消音)
を可能にしなければならない。
22.9中央警戒通報管理 HMI は、同時に、少なくとも 20 件以上の直近の事故/故障を示すことができな
ければならない。
22.10 警戒通報管理 HMI が、船橋当直員の注意を必要するすべての有効なメッセージを含まないよう
なものならば、それが、注意を必要としている更なる付加的な有効なメッセージがあるというはっきりして
明確な指示でなければならない。
22.11 付加的な有効なメッセージにアクセスは操作者の一つの操作によって可能でなければならな
い。
22.12 操作者の一つの操作によって警報と警告のそれぞれのカテゴリーにおいて最も高い優先度の警
戒通報を含んでいる表示に戻ることが可能でなければならない。
22.13 可聴警戒通報の消音
22.13.1 中央警戒通報管理装置に接続されたすべての可聴警戒通報は、中央卓の一つのボタンか
ら一時的に消音することが可能でなければならない。
22.13.2 可聴信号は、警戒通報が警報と警告のために 20 項で指定された時間以内の受認がされな
かったならば再起動しなければならない。
22.14 種類 B の警戒通報履歴リスト
22.14.1 操作者が操作し得る警戒通報履歴リストは、警戒通報管理 HMI によって提供されなければな
らない。
22.14.2 種類 B の警戒通報が修復されるとき、メッセージは、警戒通報が起き、受認され、そして修復
された日付と時刻の警戒通報履歴リストに含まれるすべてが保たれなければならない。
22.14.3 警戒通報履歴リストのメッセージは、時系列で表示されなければならない。
22.14.4 警戒通報履歴リストへのアクセスと稼動警告表示への復帰は、一つの操作者操作によって可
能でなければならない。
22.14.5 システムは、警戒通報履歴リストがアクセスされていて、表示されているときはっきりして明確
な指示を備えなければならない。
22.14.6 システムは、それが新しい警報または警告状態を検知したとき自動的に稼動警告表示に戻ら
なければならない
22.14.7 中央警戒通報管理 HMI は、警戒通報履歴リストで警戒通報の検索と識別を支援しなければ
ならない。
22.14.8 少なくとも 24 時間警戒通報履歴リストの内容を保存することが可能でなければならない。
23 受認と取消し場所
23.1 受認
23.1.1 警報と警告の受認は、適切な状況評価と意思決定支援が実行されることができる、HMI(操作
卓)でのみ可能でなければならない。
24 警戒通報管理の自己監視
24.1 警戒通報管理とシステム間のシステム通信、および警戒通報を起動しているセンサーは監視され
なければならない。
24.2 設備は、警戒通報管理と、警報と警告を起動しているシステムおよび情報源/センサー間のシステ
20
ム通信を含む警戒通報の機能試験のために作られていなければならない。
24.3 警戒通報管理は、故障と機能(システム)とセンサーの損失のための、警戒通報能力を持ってい
なければならない。これらは警戒通報 HMI で指示されなければならない。
25 警戒通報に関連した通信のためのインターフェース要件
25.1 警戒通報に関連した通信の一部となる、すべての接続されたセンサーとシステムは、通信が統
括されたシステム(固有のシステム概念)で行われない限りにおいては、標準化された通信概念にした
がわなければならない。
25.2 通信プロトコルは、この基準で記述する配信された機能を実行できなければならない。
特に、これは以下を含む:
25.2.1 すべての関連した警戒通報と、付随する品質情報の送信;
25.2.2 警報元の構成要素あるいは機能が判別、同様に、異なる時間(シリアル)に同じ装置から起こる
警戒通報元間さらに、同時に同じ装置からの異なった条件を示す警戒通報の間での差異を認めること
ができるように、警戒通報源の識別の送信;
25.2.3 警戒通報が消音された受認された装置、そして、それもまた消音/受認される警戒通報源の装
置間での受認と消音信号の送信;
25.2.4 一方または双方向での信号が損なわれることを(完全に信頼できる送信または適切な再送信
によって)避ける送信メカニズム;
25.2.5 いつでもどんな警戒通報状況でも、そして、どんな警戒通報状態の接続を断ったあとも、INS シ
ステムの構成要素の一貫した再接続ができるメカニズム;
25.2.6 一般に、警戒通報に関して、完全な INS で整合性がもてるメカニズム。
26 警戒通報管理でのシステムの統合
26.1.1 INS で取り入れられるすべてのシステムとセンサーは、警戒通報管理の一部でなければならな
い。
26.1.2 以下の機器システムがもし装備されているならば、できるだけ警戒通報管理を取り入れなけれ
ばならない:
・船首方位情報システム
・船首方位/トラック制御システム
・電子測位システム(EPFS)
・船速および航程計測機器(SDME)
・物標追尾機能を有するレーダー
・ECDIS
・AIS
・音響測深装置
・早期警告のための関連する機関警報
26.1.3 以下の機器とシステムが装備されるならば、警戒通報管理に接続していなければならない:
・船橋航海当直警報(BNWAS)
----------------------------(3) 決議 MSC.128(75)、MSC.191(79)
21
モジュール D 図書要件
27 取扱い説明書
27.1
操作のマニュアルは以下を含まなければならない:
・INS の全体的な機能記述
・機能の冗長概念と可能性
・可能性のある故障とシステムに対するそれらの影響の記述(例えば故障分析の一
部を用いて)
・警戒通報のための限度の調整のための指針
・異なる参照場所を使うことの関連性
・それぞれのデーターの規約と共通の参照の詳細:軸の姿勢、回転、CCRP の参照場
所
・外部センサーまたはサブシステムによって提供される完全性監視とそれらの必要
な設定の詳細
・有効、疑わしい、そして無効データーをマークするための仕組みの詳細
・自動制御機能(例えば船首方位、トラックまたは速度)を備えている INS のために、
復帰モードを使った、外部のオーバーライドあるいはバイパス装置の詳細
27.2 装備マニュアルは、 INS が、機関によって採択されたすべての要件に合致するような
装備ができるような十分な情報を含まなければならない。
27.3 装備マニュアルには以下を含まなければならない:
・INS を構成する、情報源、構成要素、および相互接続の詳細
・データー入力と出力のインターフェースと接続の詳細。そして、INS の外部と
接続されるセンサーの、相互接続図とインターフェースの詳細 I。
・INS が自動制御機能(例えば船首方位、トラックまたは速度)を備えている場
合には待機の航海士警報を含む、警戒通報の受認と取消しのための設備の装備と接
続の説明。
・電源供給装置の詳細;
・機器の物理的な配置とメンテナンスに必要な空間の推薦
・自動制御機能(例えば船首方位、トラックまたは速度)を備えている INS のた
めに、復帰モードを用いて外部オーバーライドあるいはバイパス装置の装備と接続
の詳細。
・そして、もし、舵角、船首方位、推進力データー(例えば推力、プロペラピッチ)
が INS ワークステーションに提示されていない場合は、必要な詳細。
28 システム構成に関する情報
28.1 INS の製造業者またはシステム・インテグレーターはシステム構成に関して、可能なら
ば、以下の情報を申告しなければならない:
・基本的なシステム構成
・相互接続ブロック図(ハードウェア)
・情報源識別
・オーバーライド
・制御(操作卓)の優先度
・データー流れ概略図とその解釈
・デフォルトの状況
・予備の装備
・冗長装備
22
・特定の INS(一機種概念のための)の SOLAS V/19 の要件を満たす範囲の説明。
その他、検査官のために役立つ資料(他の手段としての要件満たす証明のような)
29 故障分析
29.1.1 故障分析は、INS 機能レベルで 、INS のために実行され、文書化されなければならな
い。
故障分析は、INS が「フェイルセイフ」原則で設計されることを確かめなければならない。
そして、統合したシステムの一部の故障は、故障した部分に直接依存している部分を除いて、
他の部分の機能性に影響を及ぼしてはならない。
30 船上精通化資料の備えのための、機器製造業者への指針
船上精通化訓練を可能にする資料が INS に備えられなければならない。
船上精通化資料は、すべての構成、機能、限界、制御、表示器、警戒通報、および INS の指示
を説明しなければならない。
船上精通化資料の供給のための機器製造業者に対する指針と推奨は、付表 2 に示す。
23
付表 1 定義
・付加価値
個々の機器のための性能基準の要件に加えて、INS によって提供される機能性と、情報。
・警報
警報は警戒通報の最も優先度の高いものである。船舶の安全航海を維持するために、船橋当直員に
よって即時の注意と操作を必要とする条件。
・警戒通報
警戒通報は異常の状態と注意を要する条件の告知である。警戒通報は警報、警告、および注意の 3
つの優先度に分けられる。
・警戒通報通告
警戒通報の可視と可聴の提示。
・警戒通報履歴リスト
過去の警戒通報を見ることができるリスト。
・自動制御システム
船首方位、トラックまたは他の制御システムを含むこともある、自動的な制御システム。
・警戒通報管理
船橋における警戒通報提示の、監視、取扱い、伝達、及び提示の調和規則の概念。
・自動制御機能
自動の船首方位、トラック、あるいは船速を制御する機能または他の航海関連制御機能。
・分類 A の警戒通報
警戒通報関連条件を評価するための意思決定支援として、操作卓で、警戒通報の必要性を生成して
いる機能に直接指定された、グラフィック情報での警戒通報。
・分類 B の警戒通報
中央警戒通報管理 HMI で提示できる情報の他に、意思決定のための付加的な情報が必要でない警
戒通報
・注意
警戒通報のもっとも優先度の低いもの。
情況の異常な状態または与えられた情報にまだ注意が必要だが、警報や警告条件を保証しない状態
の認知。
・衝突回避
衝突を避けるために、他船と対象物を探知しプロットする航海作業。
・一貫した共通参照システム
サブシステムおよび INS 範囲内の二次的な機能に、そして、可能ならば、他の関係のある機器に、一
致して参照しなければならない備えの、データーと情報の、捕捉、処理、保管、監視と配布のためのサ
ブシステムまたは INS の機能。
・一貫した共通の参照点
一貫した共通の参照点(CCRP)は、例えば、物標距離、方位、相対進路、相対速度、CPA または
TCPA が参照されるようなすべての平面計測のための自船の(表示)位置である。
一般的には船橋の指令所。
・劣化状態
故障の結果によるシステムの機能性の低下
・重要な機能
関連の操作使用の要求で、それが可能であるために欠くことのできない機能。
・重要な情報
関連機能のための要求で、それが可能であるために欠くことができない情報。
・外部安全関連情報
SOLAS V 章でリストされた機器あるいは NAVTEX を通して航海の安全の船に関する 船外から入手し
たデーター 。
24
・故障分析
ある項目について、可能性と、原因と、潜在的あるいは実際の故障の結果を、確認し分析析をするた
めに、図表と公式を含む、論理的、組織的な試験。
・人的要因
機関の規定に従って訓練を受けた、利用者の作業負担、能力、および限界。
・人間と機械インターフェース(HMI)
操作者と相互に作用するシステムの一部である。
インターフェースは、使用者が、機械、装置、およびシステム(そのシステム)と相互に作用する手段の
総称である。
インターフェースは、使用者がシステムを制御できるような入力する手段を備え、そして、システムが、
利用者に知らせるための出力を備える。
・指示
警戒通報管理の一部ではなく、通常の情報と状態の表示。
・統合化航法システム
INS は、少なくとも以下の作業を実行する合成航海システムである:
衝突回避、航路監視、しこうして、操作者が計画し、監視し、船の安全航海を推進する「付加価値」を
提供する。INS は、SOLAS 第 V 章第 19 規則のそれぞれの部分と、SOLAS 第 V 章第 15 規則の適切
な適用を支援する。
・完全性
タイムリーで、完全で明確な方法において、指定された精度の範囲内で使用者に情報を提供する INS
の能力、そして、用心して使われなければならないか使用してはならないときの、指定された時間内の
警報と指示システム。
・部分統合
「航路監視」「衝突回避」の作業を網羅しない小規模の統合化。
・船員海中転落モード
船員が海中に転落した事故が起きたあとの船の捜索活動のモード。
(救助器具、例えば救命ブイ、救命ベルトの放出、進路反転操船実施など。)
・多機能表示
同時に、あるいは、一連の選択可能なページを介して、INS の一機能より多くの情報を提示することが
できる一つの視覚の表示装置。
・モード認知
サブシステムを含む INS の、INS の表示またはワークステーションでの提示と指示によって支援される、
制御、動作、および INS の表示の、現在の稼動に関する航海者の認識。
・航行制御データー
手動および自動制御のための情報を備える作業、および、手動制御と自動制御のための関連する限
界の設定が作業卓においてできる。
・一機種概念
複数の数の SOLAS の義務的な機器の機能を統合することによって 1 種類の機器と認められる機器。
・操作モード
海域に応じた操作のモード。
・操作/機能モジュール
航海システムのための操作的/機能的要件からなるモジュール。
・データーの合理性
データーのタイプそれぞれのデーターの値が正常の範囲にある品質の総称。
・航路監視
予め計画された航路と海域に関連した、自船位置の連続監視の航行作業。
・安全関連自動機能
船舶または乗員の危険に直接影響する自動の機能。たとえば物標追跡。
・捜索と救難モード
捜索と救難活動に参加する船の運用のための表示モード。
25
・センサー
それ自身の表示、処理、および制御の有無にかかわらず、動作中のシステムあるいは INS へ適切な情
報を自動的に提供している、航海援助(計測機器)。
・センサー/情報源モジュール
センサー/情報源要件でなるモジュール。
・単純操作者操作
あらゆる必要なカーソル動作を除外して、2 回を超えない、ハードキーあるいはソフトキー操作による手
順、あるいは、プログラムされたコードを使用している音声による操作。
・単一操作者操作
あらゆる必要なカーソル動作を除外して、1 回だけの、ハードキーあるいはソフトキー操作による手順、
あるいは、プログラムされたコードを使用している音声による操作。
・状況認知
状況認知は、提供される航海と技術的な情報の、状況に対するタイムリーな反応のために必要な、彼
らの意味の理解と彼らの状態の近い将来の予測、航海者の認識である。
状況認知は、モード認知を含む。
・情報源
データーまたは情報(例えば海図データーベース)を生成し、動作中のシステムまたは INS に自動的に
情報を提供している、装置または場所。
・システム警戒通報
機器故障または欠損(システム故障)に関連した警戒通報。
・システム・インテグレーター
INS がこの基準の要件に適合することを確実とすることに対して責任がある組織。
・システム位置
少なくとも二つの測位センサーからの出力から INS の中で計算された位置。
・操作卓
どんな航海作業を表示して操作する可能性を備えている専用の制御を有する多機能表示。
操作卓は、ワークステーションの一部である。
・トラック
地表に対応した通路。
・トラックコントロール
トラックに沿った船の動きの制御。
・船体の主要操船
船体の、縦方向、横方向、および回頭移動。
・警告
船橋当直員によって、直ちに注意または操作を必要としない条件。
警告は、船橋当直員に、すぐに危険でないが操作がされないならば、そうようになるかもしれない、状
況変化の認知をさせる予防の理由のための提示である。
・ワッチドッグ
ソフトウェアとハードウェアが正常に稼動しているかを規則的な間隔で監視するシステム。
・ワークステーション
すべての装置、機器、および装備品を伴う、 特定の作業を成し遂げるための、コンソールを含む、す
べての仕事に関連した項目の組合せ。
船橋のためのワークステーションは、MSC/Circ.982 で規定される。
26
付表 2
船上精通化資料の備えのための機器製造業者への指針
1 一般
1.1 安全性と環境の保護に関連した任務に取り組んでいる人員には、彼らの義務のために適切な理解
を与えられることは、国際的な安全管理規約(ISM)の必要条件である。
1.2 この過程を援助するために、INS 機器製造業者またはシステム・インテグレーターが使用者の船上
理解の基礎として、船舶操作者によって使われることがある適切なトレーニング資料を提供することが
義務づけられる。
1.3 資料は、機関の規範教科 1.32 “統合化航法システムを含む統合化ブリッジシステムの操作”に基
づく陸上教育に出席して INS の使用において一般的な訓練をした船橋航海士によって使われることを
意図するものである。
1.4 精通化資料の意図は、それが INS の構成と操作の方法を理解する手早い手段を伝えなければな
らないということである。
INS の使用に関する一般概念は、これらが必要以上に精通化訓練の時間を増やす資料の部分になる
ことを要求しない。
1.5 資料は、実際の機器と船舶に装備された(システム)構成を表すようなもので構成されなければなら
ない。
2 INS のための船上精通化訓練
2.1 精通化訓練の狙いは、具体的に装備された INS の構成、機能、限界、制御器、表示器、警戒通
報、及び指示を説明することである。
2.2 それは、INS の一般的な使用の訓練をしたが、船上機器に不慣れな、当直航海士が、速く装備さ
れたシステムを知ることができなければならない。
2.3 それは、最も短時間に完了できる効果的な精通化訓練を成すことが強調されなければならない。
これは、プロセスが正しく完了される可能性を最大にするのを助ける。
2.4 典型的なシステムにおいて、INS 精通化訓練で資格を与えられた使用者のために 30 分以上かか
らないことが期待される。
この時間は、主な相互接続された機能性(例えばレーダーや ECDIS)に精通するに必要な時間を含ま
ない。
2.5 精通化は、いろいろな形式によることができる。
以下は、実例であるが、他の効果的な訓練の方法は許容できる:
・船上でのコンピュータを基礎においたもの
このような訓練は、また、別の場所(例えば、乗船する前に、新しい使用者のノート・コンピューター上
で)にも適切かもしれない
・装備された INS のトレーニング形態
・トレーニング・ビデオ(テープ、ディスクまたは固定メモリーで)自習マニュアルで支援
・独立型自習訓練マニュアル
2.6 網羅されるべき話題は、下記の第 3 項にリストされる。
2.7 INS の機能は、論理的にトップダウン記述に分類されなければならない。
2.8 精通化資料は、操作説明書とは置き換えない。
適切な参照は、資料内で作ることができる。
より詳細な操作の詳述をするか、大きい図を参照する場合には、これは有益かもしれない。
2.9 稀な使用、あるいは、非重要な機能のために、それは、精通化資料にそれらの全部に含まれるよ
り、取扱い説明書の関連項目の参照にのみ必要である。
理想的には、資料は、使用者にこれらのセクションを、適当な、より便利なところまでスキップできるよう
にという指示の機能に対して用意される。
2.10 精通化は、通常の船橋操作手順の環境の範囲内で、最も使われる。
これらの手順は、通常、船の操作マニュアルか同等の文書に含まれる。
27
3 精通化訓練枠組み
3.1 一般記述
3.1.1 備えられている自動制御(もしあれば)の識別を含むトップレベルの機能性記述から始めなけれ
ばならない。
3.1.2 INS を形成する接続された機器の、通常の使用者が必要とする操作(メンテナンスでない)レベ
ルで記述されなければならない。
この記述はブロック図形式もあり得る。
3.1.3 人間機械インターフェースの記述を含む操作の一般的な原理が説明されなければならない。
動作の自動のモードが備えられているならば、これらの一般的な記述もまた必要である。
3.1.4 すべてのワークステーションと他の表示器と制御の物理的な場所は確認されなければならな
い。
3.1.5 CCRS と共通の参照点の識別は記述されなければならない。
複数の点が定義されるならば、使用したいすべての個々の参照点はどの点が選ばれているかを示さ
れる方法の説明と共に記述されなければならない。
3.1.6 すべての航海パラメーターのために、センサーが実用不可能になった場合は、手動あるいは自
動バックアップと代替シーケンスは、説明されなければならない。
3.1.7 輝度、照度、色と日/夜色彩設計のような基本的な表示制御をセットすることについての指示さ
れなければならない。
3.2 動作の詳細(通常の状況)
3.2.1 記述される機能は、以下のような INS の部分と、INS で制御できるいかなる船の機能すべてのシ
ステムとサブシステムを含まなければならない:
・航海サブシステム
・舵制御
・推進力制御
3.2.2 装備される INS のタイプに従い、以下の特定の情報は、伝えられなければならない:
・TCS 機能のような自動制御が含まれる場合の動作の詳細
・使用中のモードの切替といかに手動操作に戻すかの使用方法
・以前にどのような構成にあったとしてもそれからの表示にすばやく戻すための説明を含むすべての
ワークステーションと他の INS 機器の主/トップレベル表示にアクセスする方法。
・非制御可能な表示器(装備された構成の範囲内で含まれるならば)に関する表示された情報の記
述(例えば基本的な指令表示)
・可能な航路計画とチェック機能
・可能な航路監視機能
・もし装備されていれば、BNWA 機能の動作
3.2.3 必要に応じて、それぞれの機能のために、以下の情報は、含まれなければならない:
・機能名
・機能記述
・メニュー構造と表示された情報の記述
・操作者制御の記述
・必要な手動入力情報。もしあれば。
・使用者が設定可能な表示器と他のデーターを使用者選択へ形成する方法の記述。
たとえ、使用構成が精通化資料の一部として含まれる必要がある重要な機能でないと考えられるとし
ても、速く『賢明な』デフォルトに戻る方法は伝えられなければならない。
・モード指示を含む警戒通報と指示の記述。
警報と警告を受け入れることの手続き的な操作は、以下の 3.3 項に含まれる。
・潜在性、完全性と精度データーのアクセス
3.3 動作の詳細(異常と非常時の状況)
3.3.1 以下の情報が含まれなければならない:
・いかなる自動のモードが使われてはならないか、あるいは特定の制限または注意を持って使われな
28
ければならないかの状況の詳細
・主要な故障警報と警告の識別
・以下を含め、警報と警告、他の重要な故障、指示、あるいは事故に直面したあとに続く、INS に含む
処理:
(i)より小規模の自動化または手動操作の、モードへの復帰
(ii)非常事態を引き起こしているか悪化させている、機能の非常時の不能。
付表 3:レーダー性能基準(決議 MSC.192(79))のモジュラー構造案
Paragraph
of MSC.
Module 192(79)
Contents
A
A1
5.1
5.3.3.1-3
5.3.4
5.6
A2
5.2
5.3
5.3.1.1
5.3.1.2
5.3.1.3.1-4
5.4
5.5
A3
5.8
5.9.1
7.1.1 part
7.1.2
7.3
7.4
7.5
B
B1
Sensor and Technical Requirements
Sensor and Signals
Frequency
Signal processing
SARTs and radar beacons
Roll and pitch (Detection)
Target detection, discrimination and accuracy
Range and bearing accuracy
Detection
Detection in clear conditions
Detection at close ranges
Detection in clutter conditions
Minimum range
Range and bearing discrimination
Design and Installation
Radar availability delay
CCRP and off-set compensation
Design for maximum availability
Record operational hours
Transmitter mute over preset sector
Antenna
Radar system installation
Operational Requirements
Display and operation
2
Application
5.3.2
5.7
5.9.2-5.9.4
5.10
5.11
5.12
5.13
5.14
5.15
5.16
5.17
5.18
Table 1: Screen size
Gain and anti-clutter functions
(Means for) Radar performance optimization and tuning
Radar measurements - CCRP
Display range scales
Fixed rings
Variable range markers
Bearing scale
Heading line
EBLs
Parallel Index lines
Remote measurement of range and bearing
User cursor
29
5.19
5.20
5.21
5.22
5.23
5.35
7.6.2
B2
2
Application
5.24
5.25
5.26
5.27
5.28
5.29
5.30
5.31
Azimuth stabilization
Display mode of the radar picture
Off-cantering
Ground and sea stabilization
Target trails and past positions
Integrating multiple radars
Target simulation for training
Target information (tracking and AIS)
5.34 para1
6.1
6.2
7.2
7.6.1
Table 1: Screen size
Presentation
Target (radar) tracking and acquisition
AIS reported targets
AIS graphical presentation
AIS and radar target data
Operational alarms
AIS and radar target association
Trial manoeuvre
Chart and route overlay
Display of maps, navigation lines and routes
Display of charts
Failure, back-up and fallback arrangements
Picture freeze alarm
Signal or sensor failure
Design to facilitate simple fault diagnosis
Backup and failure arrangement
Ergonomic Criteria
Presentation of alarms
Operational controls
Display presentation
Display device requirements
(General:) Design for simple use by trained person
8.1
8.2
8.3
Interfacing
Input data
Input data integrity and latency
Output data
5.3.1.3.5
5.3.3.4
6.3
7.1.3
Documentation
Degradation in performance
Basic aspects of signal processing
Instructions and documentation
Routine servicing and restricted life components
B3
5.32
5.33
B4
5.34.1
5.34.2
7.1 part
9
B5
C
D
30
付表 4:トラックコントロール性能基準(決議 MSC.74(69)Annex 2)のモジュラー構造案
Module
B
B1
B2
B3
B4
C
Modular structure with paragraphs of Track control PS (MSC. 74(69))
Operational Requirements
Functionality
5 Operational requirements
Operation
6 Ergonomic criteria
Connection to sensors
7.1 Sensors
Failure, back-up and fallback arrangements
8 Fall-back arrangements
Interfacing
7.2 Status Information
7.3 Standards
付表 5:警戒通報の分類
既存の個々の性能基準の警報と指示の転送要件の目的のために、INS性能基準内の、警戒通報の3
つの優先度階級の中に、個別の性能基準の警報はINS性能基準で警報と警告として警報の2つの階
級に細分される。
Source
INS
表 1:この性能基準で指定される INS 警戒通報の分類
Cause
Alarm Warn. Caut. Categ. A
System function lost
X
Integrity
verification
not
X
possible(5.5.5)
Invalid
information
for
X
functions in use (5.3.1.2)
Invalid
information
for
X
functions not in use (5.3.1.2)
Different thresholds entered
X
(5.4.3.3)
Loss of system communication
X
(12.6.2)
Categ. B
X
X
X
X
X
X
表 2: 個々の機器の性能基準で指定される警戒通報のための INS の分類
Source
Cause
Alarm Warn. Caut. Categ. A Categ. B
Failure or reduction in power
X
X
Heading supply
control
Off head alarm
X
X
systems
Heading monitor (deviation
X
X
from second heading source)
Early
course
change
Track
indication (track control via
X
X
control
waypoints)
systems
Actual
course
change
X
X
indication
Wheel over line (actual
course change indication not
X
31
X
acknowledged)
1) alarm
2) backup navigator alarm
Failure or reduction in power
supply
Position monitor
Heading monitor
Sensor
failure
(heading,
position, speed)
1) alarm
2) backup navigator alarm
Cross-track alarm
Course difference (heading
deviates from track course)
Low speed alarm
Positioning system failure
Crossing safety contour
Deviation
from
planned
route - off-track alarm
Area with special conditions
-cross the boundary
ECDIS
Approach to critical point
Different geodetic datum
System malfunction
(system
Malfunction
of
backup device)
Target capacity
CPA/TCPA alarm
Acquisition/activation zone
RADAR/AIS
Lost target alarm
Failure of any signal or sensor in
use
HDOP exceeded
No calculation of position
Loss of position
GNSS
Loss of differential signal
Differential corrections not
applied
Differential integrity status
Depth below keel alarm
Echo
Failure or reduction in power
Sounder
supply
Gyro
System fault
Compass
Malfunction
Bridge
watch
Power supply failure
alarm
X*: は利用者による選択
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X*
X*
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
32
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
付表 6 – デフォルト表示内容
9.2.1 項で要求される, INS が以下の基本動作設定として示すべく、航路監視と衝突回避作業の
ためのデフォルト表示
「航路監視」作業
Function
Display category
Setting
ECDIS Standard display
Selected sea area
Around own ship with appropriate off-set
Range
3 nm
Orientation
True motion, north-up
Manual updates
If applied
Operator’s notes
If applied
position sensor
GNSS (system position provided by INS)
Past track
On
Selected route
Look-ahead time
Last selected route, including route parameters
6 min
「衝突回避」作業
Function
Setting
Band
X-band, if selectable
Gain and anti-clutter functions
Automatically optimized
Tuning
Automatically optimized
Range
6 nm
Fixed rings
Off
VRMs
One VRM on
EBLs
One EBL on
Parallel Index lines
Off or last setting, if applied
Display mode of the radar picture
True motion, north-up
Off-centering
Appropriate look-ahead
Stabilisation mode
Ground stabilization
Target trails
On
Past positions
Off
Radar target tracking
Continued
Vector mode
Relative
Vector time
6 min
Automatic radar target acquisition
Off
Graphical AIS reported target display
On
Radar and AIS Target fusion
Operational alarms (except
warnings)
On
collision
33
Off
Collision warnings
Display of maps, navigation lines and
routes
Display of charts
34
On (limits CPA 0.5nm; TCPA 12 min)
Last setting
Off
Fly UP