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『分子生物学』
2011/4/27 第一薬科大学 3年生 iPS介さず神経幹細胞に 米研究所、マウスで成功 『分子生物学』 第4回 分子生物学教室 担当:荒牧弘範 (H23.4.27) iPS介さず神経幹細胞に 米研究所、マウスで成功 • マウスの皮膚から神経細 胞のもとになる神経幹細胞 を、iPS細胞(人工多能性 幹細胞)を介さずに作ること に、米グラッドストーン研究 所などが成功した。 • iPS細胞を使わないため、 がんになるリスクを減らせ る可能性がある。 • 神経幹細胞は増やしやすく 、複数の種類の神経細胞を 作り出せるので、幅広い応 用が期待できるという。 iPS介さず神経幹細胞に 米研究所、マウスで成功 • 神経幹細胞ができる際に 必要なたんぱく質を加え て培養したところ、皮膚 細胞はiPS細胞にはなら ず、そのまま神経幹細胞 になった。 • ディンさんは「ほしい細胞 を作るには、培養の方法 や期間などが大きなカギ を握っていることが証明 できた」としている。 iPS介さず神経幹細胞に 米研究所、マウスで成功 • 成功したのは、米グラッド ストーン研究所のシェン・ ディン主任研究員ら。 • 京都大の山中伸弥教授 がiPS細胞を作るのに使 った四つの遺伝子をマウ スの皮膚細胞に導入した 後、薬剤を使って遺伝子 が働く時間が短くなるよう 工夫した。 iPS介さず神経幹細胞に 米研究所、マウスで成功 • iPS細胞を介さずに、必要な細胞を直接作る技 術は「ダイレクト・リプログラミング」と呼ばれ、世 界中で開発競争が活発だ。 • 神経幹細胞を直接作る研究に取り組んでいる岡 野栄之慶応大教授は「今回の研究は、遺伝子の 組み合わせを見つけるのではなく、培養条件を 変えるだけで、シンプルなのが特徴だ。自分たち も同じコンセプトで、再生医療への応用を目指し 、移植実験を含めて研究中だ。近く、論文を発表 したい」と話した。 1 2011/4/27 2 遺伝子の複製と保持 DNAの複製 A (p 16) DNA合成のエラー ` ` ` 互変異性体による塩基対形成 DNAの複製で正しい娘鎖が合成される機構は塩基の相 補性に依存している。 DNAポリメラーゼは時々、間違ったヌクレオチドを挿入 する。 これは塩基の互変異性による場合がある。 ` ` d DNAの校正 (p20) ` 通常アミノ型に偏っているが、アミノ型が正しくチミンと塩 基対を形成するのに対して、イミノ型ではシトシンと塩基 対を形成する。 塩基のアミノ-イミノ互変異性 塩基のケト-エノール互変異性 互変異性体による塩基対形成 互変異性体による塩基対形成 シトシンのイミノ型はグアニンではなくアデニン チミンのエノール型はアデニンではなくグアニン と塩基対を形成する。 ` ` OH O ここが変わる N HN N N H NH 2 シトシン チミン N ケト型グアニン (正常型) N H NH 2 N N エノール型グアニン dGはdTと結合できるようになる。 2 2011/4/27 互変異性体による塩基対形成 ` アデニン,シトシンのイミノ型への互変異性 ` グアニン,チミンのエノール型への互変異性 ` おおよそ10-4〜10-5の頻度で起きている。 DNAの校正 ` ` DNAポリメラーゼは自身の3'→5'エキソヌクレアーゼ活性で下の図のよう に誤りを訂正する。 この校正(proof-reading)機構により、大腸菌における複製の間違いは108 〜1010に1回程度に抑えられる。 コラム ` ` ` ` 娘鎖に結合した後で平衡が元に戻ることで誤った塩基対 (ミスマッチ)が生じる。 多くのDNAポリメラーゼは1回の反応毎に正確性を確か める校正(プルーフリーディング)といわれる機構を持っ ている(図2・12)。 ② ` 組換え機構 (p22) 遺伝子は生物がその生物であるための根源であるから 複製は忠実に行われなければならないが、実際には DNAが再配列され遺伝子の組換えが起こる。 生物進化 遺伝子がまったく変化せずに受け継がれるものであった ら、生物は進化しない。 遺伝子の組換えと突然変異は、生物進化の原動力とな る。 a 相同組換え 3 2011/4/27 染色体の相同組換え ` ` 有性生殖する生物は、通常父親由来の染色体と母親由 来の染色体を1組ずつ持っており、それぞれの染色体に その生物に必要な遺伝子が全て含まれているので、各 細胞には性染色体を除いて同じ遺伝子が2組ずつ存在 する。 同じ遺伝子で占められるふたつの染色体を相同染色体 といい、通常の体細胞分裂では、それぞれが複製されて 新しい細胞に等しく分配され同じ細胞が2つになる。 染色体の相同組換え ` ` 生殖細胞の減数分裂における複製では、相同染色体の 同じ遺伝子が染色体間で部分的に入れ替わる相同組換 え(図2・13)が起こるため、配偶子の遺伝子にはほぼ無 限の組合せがあり、同じ親の子でも全く同じ遺伝子を持 つ可能性はほとんどない。 相同組換えは、通常の体細胞分裂でも起こり得るが、減 数分裂の際には特に高頻度で起こる。 相同組換え機構(図2・14) ` ` 相同組換え機構(図2・14) ` ` この構造は、相同組換え 機構の提唱者の名前から ホリディ構造といわれる。 ここからは2通りのことが 起こる。 減数分裂の際に対合した 相同染色体二本鎖(a)の それぞれ一方の鎖の同じ 位置にニックが入り(b)、 切断された鎖がもう一方 の二本鎖に侵入して交差 する(c)。 侵入した鎖はリガーゼに よって相手側で結合する とともに、交差点が容易 に移動する(d)。 相同組換え機構(図2・14) ` それぞれ初めにニックが 入った鎖と同じ鎖が切断 され(黒印e、f)、結合する と(g)、一部がヘテロ二本 鎖になるがその前後は変 化しない(h)。 4 2011/4/27 相同組換え機構(図2・14) ` 一方、初めのニックと反対 側の鎖が切断され(青印i 、j)結合すると(k)、ヘテロ 二本鎖を介して以降の染 色体DNAが入れ替わり(l )、相同組換えが起こる。 図2-14 相同組換え機構 コラム ` ` 動く遺伝子。細菌の染色体上のある位置から別の任意 の位置へ自由に移動する DNA 単位。薬剤耐性決定遺 伝子をもつものが多く発見されている。 減数分裂における染色体の分配はランダムに起こるた め、相同組換えがなかったとしても、23対の染色体をも つヒトの配偶子の染色体には、223=800万通り以上の組 み合わせがある。 b 遺伝子の転位 ` トランスポゾン ヒトの配偶子の多様性 相同組換えと異なり、染色体の塩基配列に全く相同性の ない部分に転位するDNA配列があり、トランスポゾンと いう。 b 遺伝子の転位 ` ` 細菌,酵母,トウモロコシ,およびショウジョウバエなどで 広く分布しています.しかしながらプラスミドやファージの ように自分自身では複製することができません トランスポゾンは、大腸菌のプラスミドのように染色体と 独立した存在ではなく、染色体に組み込まれているが、 染色体内あるいは染色体間の異なる座へ移動する。 Tn3:アンピシリン耐性,Tn5 :カナマイシン耐性, Tn10 :テトラサイクリン耐性の遺伝子を運んでいる。 5 2011/4/27 トランスポゾンの種類 トランスポゾン自体はDNAの配列である。 その転写産物のRNAから逆転写されたDNAが転位する もの。 RNAを介するトランスポゾン(レトロポゾン)は真核生物 にしか存在しない。DNAは元の位置に残る。 2. DNAが直接転位するもの。 DNA型トランスポゾンは原核生物にも真核生物にも存 在する。 ` ` 多くのトランスポゾンは両端に逆方向繰り返し配列があ り(図2・15a)、転位を行う酵素(トランスポザーゼ)によっ て認識されて染色体から切り出される。いくつかのトラン スポゾンではその間にトランスポザーゼの遺伝子を持ち 、更に薬剤耐性因子など他の遺伝子を含むものもある。 ` そのため、転位したトランスポゾンの両側には標的部位 の同方向繰り返し配列ができ、この特異的な配列からト ランスポゾンが転位してきたことが分かる。 1. ` ` ` トランスポゾンから複製されたDNAが転位するもの トランスポゾン自体が切り出されて新しい場所へ転位するもの トランスポゾンが挿入される基本的な反応機構(図2・15 )は、標的部位(この場合AATTC)の両鎖が切断され(b) 、それぞれ突出した一本鎖(c)に切り出されたトランスポ ゾンが結合した後(d)、標的部位の隙間が埋められる(e )。 トランスポゾンが存在する理由 トランスポゾンを用いて遺伝子をノックア ウトした変異株を用いるクローン化の方法 ` ` ` 培養細胞などに感染力のない変異株をスクリーンする。 変異株DNAをベクターに導入して、トランスポゾンが組 みこまれた遺伝子をクローン化する(トランスポゾンの抗 生剤耐性を指標とする)。 トランスポゾンが挿入された部位をDNAプローブとして 親株の遺伝子をクローン化し、遺伝子の解析を行う。 6 2011/4/27 ポイント • • • • • • • 今日の誕生花 スイレン(睡蓮) DNAの複製では、二本鎖それぞれの塩基配列を元にして新 しいDNAが二組できる。 DNAの合成には方向(5’→3’)がある。 新しいDNAの片方は連続的に合成され、もう一方は不連続 に合成される。 DNA複製に関わる酵素は原核生物と真核生物で異なるが、 複製の基本的な機構は同じである。 DNAポリメラーゼだけではDNAの複製はできない。 線状DNAの複製では、末端に複製されない部分がある。 遺伝子であるDNAは、変化することなく子孫へ伝えられなけ ればならないが、自然に起こる変化が生物の多様性や進化 に必要である。 純潔・清浄・甘美・清純な心・信仰 B DNAの損傷、変異とその影響 SBO 遺伝子の変異(突然変異)について説明できる 突然変異 ` ` ` 突然変異とは親と異なる形質が子に現れること。 染色体の組換えによる転位、挿入、欠失、逆位、重複は ある程度の長さのまま変化するので、遺伝子自体が変 化していなければ、生理機能への影響は少ない。 遺伝子DNA塩基配列へのヌクレオチドの挿入や欠失は より深刻である。 1 突然変異 ヌクレオチドの挿入や欠失 ` DNAの遺伝情報は3塩基ごとにアミノ酸へ変換されるの で、3の倍数の挿入、欠失でない限り(その確率は低い) 以降のアミノ酸は3塩基の読み枠がずれて(フレームシ フト)全く異なるアミノ酸へ変換されてしまう。 7 2011/4/27 塩基置換変異 ` サイレント変異 挿入や欠失ではなく、ひとつの塩基が他の塩基に置換し た場合(塩基置換変異)には、アミノ酸を規定する遺伝暗 号が変わってしまうことがある。 ミスセンス変異 鎌状赤血球貧血症 ヘモグロビンβ遺伝子 CCT GAG GAG 5Pro 6Glu 7Glu 点突然変異 CCT GTG GAG 5Pro 6Val 7Glu ` その場合でも運がよければできあがったタンパク質の機 能への影響が少ないこともあるが、多くの場合に変異し たタンパク質は正常な機能を持たない。 保因者: 中央アフリカ黒人 40% 米国黒人 9% *マラリアに対し抵抗性 ナンセンス変異 ` 塩基置換によって終止コドンへ変わってしまうと、そこで タンパク質の合成が停止してしまい、途中までの不完全 なタンパク質しかできない。 8 2011/4/27 遺伝暗号の特徴 サイレント変異 縮重 ミスセンス変異 ` コドンの3文字目が置換し た場合には運がよければ アミノ酸が変わらないこと もある。 ` これらは、変異がタンパク質のアミノ酸配列をコードして いる領域に起こった場合の変化である。 ヒトの場合で遺伝子の98%以上を占めるタンパク質をコ ードしていない領域でも、1塩基の変異(点突然変異)が 生理機能が正常でなくなることがある。 遺伝子発現の調節やmRNAのスプライシングの変化 ` ` ひとつのアミノ酸をコードする遺伝暗号が複数存在する 場合(縮重)もある。 1文字目が置換した場合 にはほとんど、2文字目 が置換した場合には必ず 他のアミノ酸へ変わる。 ポイント ` ` ` ` ` ` 2 損傷の種類 ` ` DNAの塩基は自然状態でも損傷しており、通常は細胞 の持つ機能によって修復されている。 化学物質や放射線などによって損傷の頻度は格段に高 くなり、突然変異を起こす。 ` ` ` ` ` 脱プリン反応 アルキル化 脱アミノ反応 ピリミジン二量体 その他 DNA の突然変異によって、タンパク質のアミノ酸配列が 変わってしまうことがある。 タンパク質をコードしていない領域の変異でも、細胞の 機能に影響する。 DNAの損傷とは、核酸塩基の化学的な変化によって、 正しい塩基対がつくられなくなることである。 塩基の変化は通常でも起こるが、食品中に含まれる化 学物質や環境汚染物質、紫外線、放射線によって変異 する頻度が高くなる。 a 脱プリン反応 ` ` ` プリン塩基とデオキシリボ ースの間のN-グリコシド 結合はピリミジン塩基の 場合より解裂しやすい。 これはプロトンによって更 に促進される。 ヒトの細胞では1個あたり 1日に1万以上のプリン塩 基が脱離していると推定 されている。 H+によるアデニン、グアニンの切断 9 2011/4/27 b アルキル化 ` ` プリン塩基はピリミジン塩基に比べてアルキル化反応を 受けやすい。 アルキル化された塩基は誤った塩基対を形成する。 プリン(ピリミジン)塩基 → プリン(ピリ ミジン)塩基の変化(トランジション変異) ` O6-メチルグアニンは複製の際にシトシンではなくチミン と塩基対を形成する(図2・ 16a)。次の複製までに修復さ れないとG-C対であった箇所がA-T対に変異してしまう。 突然[点]変異 ` トランジション ` ` ` プリン塩基→プリン塩基の変化 or ピリミジン塩基→ピリミジン塩基の変化 トランスバージョン ` ` プリン塩基→ピリミジン塩基の変化 or ピリミジン塩基→プリン塩基の変化 b アルキル化 b アルキル化 ` また、N7-メチルグアニン(図2・16b)はN-グリコシド結合 ` が解裂しやすく、脱プリン反応を起こす。 ` 細胞内の通常の成分にもアルキル化剤があり(生体成 分のメチル化は珍しい代謝反応ではない)、ヒトの細胞1 個あたり毎日数十万の塩基のアルキル化が起こってい ると考えられているが、正常な細胞では複製までに修復 される。 しかし、環境中のアルキル化剤が体内に入ると修復機 構が追いつかないため、これらは突然変異を引き起こし 、発がん性がある。 10 2011/4/27 c 脱アミノ反応 ` 図2-17 核酸塩基の脱アミノ反応 ヒト染色体の長さでは1日に数百程度と頻度は低いが、 水分子によって塩基のアミノ基がケト基へ変化すること がある。 ` ` ` c 脱アミノ反応 d ` ` ` ` ` ` アデニンはヒポキサンチン へ変化する。 ` アデニンがヒポキサンチン へ変わった場合には、塩基 対を形成する相手がチミン ではなくシトシンになってし まう ピリミジン二量体 細胞が紫外線に暴露されると、DNA鎖中の隣り合ったピ リミジン塩基間に結合ができてダイマー(ピリミジン二量 体)が生じる。 チミンとシトシン、シトシンとシトシンの間にもダイマーは 生じるが、チミンとチミンの間に生じるチミンダイマー(図 2・18)が最も一般的である。 A-T対だったAがHになることでH-C対を経てG-C対へト ランジション変異してしまう。 食品に含まれる亜硝酸や、環境汚染物質のNOXは細胞 中で亜硝酸となり、強い脱アミノ化性を示すため、これら によって変異を起こす頻度が高くなる。 d ピリミジン二量体 ` チミンにはアミノ基が存在し ないので脱アミノ反応はしな い シトシンはウラシル グアニンはキサンチンへ ピリミジンダイマーの生成は高頻度で起こり、日光に暴 露された皮膚細胞では毎秒数十個のチミンダイマーが 生成すると考えられている。 ピリミジン二量体があるとDNAの複製はそこで停止して しまい、細胞は分裂できずに死滅してしまうので、原核生 物にも真核生物にもピリミジンダイマーを修復することが 目的の酵素が存在する。光回復酵素、乗り越え修復 e 変異を起こす他の要因 ` 有機化合物を燃焼した際に生じるベンツ[a]ピレンなど の多環芳香族炭化水素や、タンパク質を焦がした時にト リプトファンから生じるTrp-P-1などは、薬物代謝酵素シト クロムP450によって活性な化合物となり、核酸塩基(特 にグアニン)に共有結合した付加物となる。 11 2011/4/27 ベンツピレン ` ベンゼン環が5個縮合した化合物で分子量252,融点179 度の淡黄色個体。炭素化合物の不完全燃焼で微量生 成する。自動車の排気ガス、コールタール、たばこの煙 中にごく微量含まれている。発がん性が高く、体の中で 図のように変換されて遺伝子と結合する。 放射線による突然変異の主な要因 ` 軌跡に生じるヒドロキシラジカルなどの活性酸素やフリ ーラジカルによるDNA鎖の切断、DNA-タンパク質架橋 の形成、核酸塩基の修飾などである。 ` また付加物とならない場合でも、これらを含む平板状の 化学構造を持つ分子は、DNA二重らせんのはしご状の 塩基対の間に容易に入り込む(インターカレーション)。 付加物もインターカレーションもDNA構造を歪め、隣の 塩基対が除去されたりヌクレオチドが挿入されるために 、このような化合物は変異原性、発がん性を示す。 ポイント • • • • DNA の突然変異によって、タンパク質のアミノ酸配列が 変わってしまうことがある。 タンパク質をコードしていない領域の変異でも、細胞の 機能に影響する。 DNAの損傷とは、核酸塩基の化学的な変化によって、 正しい塩基対がつくられなくなることである。 塩基の変化は通常でも起こるが、食品中に含まれる化 学物質や環境汚染物質、紫外線、放射線によって変異 する頻度が高くなる。 12