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SAE 2013 Aerotech Congress and Exhibitionに参加して

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SAE 2013 Aerotech Congress and Exhibitionに参加して
工業会活動
SAE 2013
Aerotech Congress and Exhibitionに参加して
1.はじめに
KHIは今回初めて、ロボットを使った摩擦
革新航空機技術開発センターでは、海外の
溶接の展示(写真2参照)を行った。
革新的な最先端技術の調査や技術課題の研
また研究発表は、IHI 2件、KHI 2件、およ
究、そしてその結果の発信など、新たな活動
び三菱航空機 1件の合計5件であった。
(詳細
を 行 っ て い る。今 般 そ の 一 環 と し て、SAE
は後述)
2013 Aerotech Congress and Exhibitionに参加し
たので、その概要を報告する。
研究発表は、マスター課程の院生から大学
教授、コンサルタント、企業技術者、とさま
ざまな発表者により行われるが、企業技術者
2.SAE 2013 Aerotech Congress and
からのプレゼンテーションも多く、全体の質
Exhibition 概要
は高く感じた。このため、日本からの参加者
このイベントは2年ごとに開催されており、
もあり、会員の皆様においては次回の参加を
今回は、モントリオールのPalais des congress
検討してはいかがかと思う。
de Montrealにて、
9月24日∼26日の3日間開催さ
れた。前日の23日にはホストであるBombardier
研 究 発 表 の 一 例 と し て 紹 介 し た い の は、
社の施設見学が用意されていた。その名前が
PW 社 の GTF(Geared Turbo Fan)の Chief
示すように航空技術に関する研究の発表と展
Engineer Michael Winter 氏 に よ る「Aero
示会が同時に開催されており、研究発表総数
Propulsion Green Future」である。初飛行が成
は480件以上、展示会の出品者は約100社に
功したBombardier C Seriesに搭載されたエン
上っている。
ジンについて全体が俯瞰できるものであっ
日本からは、KHI、IHI、および三菱航空機
の3社が参加していた。
写真1 会場の外観
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た。
エンジン単体であれば16%の燃費の節減で
写真2 KHIの展示ブース
平成25年11月 第719号
あるが、さらなるGreen Aviationの実現のため
工場内はよく整理整頓されており、大変き
には、①Engineに関してはBigger Fan/Smaller
れいで騒音は少ない。また楽な姿勢で作業が
Core、②革新的な機体設計、③Manufactural
できるように器材(スタンド等)が配置され
Hydrocarbon Drop in Fuel (Biofuelを含む)の3
ていた。工場内の表示はBombardier社の世界
点が必要とのことであった。
に展開するすべての工場で共通とのこと。製
造設備に関しては金属翼の製造と組み立ての
3.Bombardier Dorval工場 見学
ため目新しいものは特に見かけなかった。
Bombardier Challenger組立工場(本社)は
モ ン ト リ オ ー ル 国 際 空 港 に 隣 接 し て お り、
会社内共通の言語はフランス語または英語
Challengerシリーズ(300、605型)の組み立て
ではあるが、ここではフランス語とのこと。
および605シリーズの主翼の製造が行われて
ただし、各工場または委託先から納入される
部品が組み合わされるが、仏語、英語の混合
いる。
Bombardier社は、以下の4社を買収統合し現
は気にならないとのことであった。ちなみに
当工場内の表示はすべてフランス語でバイリ
在に至っている。
ンガルとなっていない。
Canadair社(1986年)
Short Brothers社
(1989年:ベルファスト(北アイルランド))
製造ラインでは工程が終了した機体が次の
Learjet 社(1990年:ウィチタ(米国))
工程に移動する。工程を担当する作業者はそ
De Havilland Aircraft of Canada
の作業エリアに留まり同じ作業を担当する仕
(1992年:トロント)
組みとなっている。各作業エリアには製造番
2012年の売り上げは1.7兆円で、航空8,600
号が記載(ラベル)されたコンテナー(大小
億(51%)、鉄道ほか8,100億(49%)であり、
あり)に、その工程で必要な部品が入れられ
ビジネス機は航空売り上げの過半数で4600億
集められている。
円となっている。
機体もそう大きくはない(全長20m程度)
2013年は、179機のデリバリー、343機の受
注がある。(1USD=100円)
ので、自動車の製造ラインに見られる部品の
Just in Timeに近い印象を受けた。
写真3 Dorval工場外観
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工業会活動
Challengerの総生産は958機、300と航続距離
講演。Cシリーズは現在15ヵ国、388機の受
延長型である605は別々の製造ラインで作業
注があり、CFRPを主翼、胴体後部、垂直
が行われている。組み立てに平均18ヵ月かか
尾翼、水平尾翼に使用し12,000ポンドの軽
るが、顧客との調整で短縮は可能とのこと。
量化を図った。
605のラインの半分相当部分では主翼の製造
またPW GTF1500による低燃費や、MEA
が行われていた。
(More Electric Aircraft)も考慮した電動ブ
作業場ごとに、ボードにQC活動の掲示物
レーキを採用、Advanced Flight Deck、Side
(日本語のQC:KAIZEN、MONDAITEN、GE
StickによるFBW、等の新技術を採用した。
の6シグマ等)が掲示されていた。改善の優
新設計の機体の形状と2列+3列の席の配
先順位を明確にするために、作業ごとにThree
置でシートの幅が広く取れ、乗客にとって
Priority Itemsとして三点のみを記載させてい
も快適であるとのこと。初飛行の映像も紹
た。
介されたが、GTFのエンジンの騒音が低い
Pre Flight DepartmentはAvionicsやAuto Pilot
ことが印象的であった。
関連の点検および調整を行う部署で、10機程
度が配置されており、ここでそれらの作業が
5日間かけて実施される。
ま た、可 動 式 の 壁 を 隔 て た ス ペ ー ス に
②Principal Military Deputy Assistant Secretary
of the Army(Acquisition, Logistics, and
Technology)
and Director, Acquisition Career
Delivery Centerが設けられており、顧客への引
Management LTG William N Phillips 氏
き渡しが行われる。4機の機体がここでデリ
「STEM:Sustaining Today, Inspiring
バリーを待っており、セレモニー用の椅子、
Tomorrow's Youth」
機体出入り口につながる赤絨毯などが用意さ
米国陸軍の人材育成と資材調達に関して
れていた。なお、605のベース価格は23億円
の講演が行われた。軍では多くの研究者が
程度(23百万ドル)、顧客の仕様により10億
活躍しており、単に武器・航空機に関する
円程度増えることもあるとのことであった。
研究だけではなく、例えばマラリアのワク
チンの開発はソマリア駐在軍に役に立って
前回のSAE 2011はツールーズにて、エアバ
いる。優秀な研究者を育てるには、STEM
ス社がホストとなって開催され、A380組立工
(Science, Technology, Engineering, and
場の見学ツアーが計画されたためかBoeingか
Mathematics)が大切であり、大学(Army
らの参加者も多数であったとのこと。今回の
Research Labでの研究)
・高校(Army Outreach
Bombardier社工場見学にも企業からの参加者
Education System)からも優秀な学生を支援
が多かった。
する仕組みがあり、さらに科学が好きにな
4.SAE 2013 Aerotech Congress and
る。
るように小学生に向けての啓蒙も行ってい
Exhibition
(1)基調講演の概要
陸軍のこれからの研究課題については非
①Bombardier Cシリーズ VPのRob Dewar 氏
常に明快な説明があり、以下のポイントが
「Bombardier C Series:Change is in the air!」
説明された。
9月16日のCシリーズの初飛行を受けての
・Manned unmanned teaming(MUMT):有
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平成25年11月 第719号
人機と無人機の最高のコーディネーショ
現在開催中(2013年9月24日∼10月4日)の
ン、運用の柔軟性
ICAO第38回総会で、次回総会(2016年)ま
・Gray Eagle:無人機がIOT
(Initial Operational
Testing)を完了
・Multiyear Procurement:UH60MやCH47F
の複数年契約による経費削減
・Future Vertical Lift(FVL)
:Future Vertical
Lift(FVL)機の研究(Tiltrotor、Advanced
でに、MBM(Market Based Measurement:
経済的手法)に至るRoadmapが決められれ
ば望ましい。CO2削減に関しては、①新技
術(新 機 材・バ イ オ 燃 料)、② 運 航 方 式、
③施設(空港施設・新管制方式)、④MBM(排
出権売買等)の4つの柱から対応する。
Rotor、Compound Rotor)
・Degraded Visual Environment Mitigation:
なお、ICAO第38回総会で決議されたCO2
視界不良時の対策(Sensor、Cue、Flight
削減案については、次のニュース記事を参
Control)
照されたい。
・M i n i a t u r e U n m a n n e d A e r i a l V e h i c l e
(MUAV):昆虫のような超小型無人機
・Improved Turbine Engine Program(ITEP)
:
ヘリコプター用エンジンの燃費向上
(25%)、
軽量化、低価格化
③ATAG(Air Transportation Action Group)
Executive Director Paul Steele 氏
「Securing Our License to Grow - Shifting
Paradigms for a Sustainable Aviation Future」
民間航空の現状と将来の展開についての
講演。世界全体の航空業界の売り上げは
220兆円、5,660万人の雇用を創出しており、
国に例えるならばGDP19位に匹敵する規模
である。
今後20年間に3,400機の新型民間機が市場
に出回り、2030年の売り上げは690兆円を
見込んでいる。航空路も欧米を中心とした
航空温室ガス規制で合意
国連専門機関、20年までに導入
【ニューヨーク=共同】
国連専門機関の国際民間航空機関(ICAO)
は4日、カナダ・モントリオールで開いた総会で、
航空機から出る温暖化ガスの削減策を2020年ま
でに導入することを決めた。排出量取引など市
場 メ カ ニ ズ ム に 基 づ く 仕 組 み を 設 計 す る。
ICAOは、温暖化をめぐるこうした対策への国
際的な合意は主要産業界では初めてとしてい
る。
具体的な内容は今後ICAO加盟各国間の交渉
を経て作成し、次回16年の総会で決定する。AP
通信によると世界全体の二酸化炭素排出量の中
で航空産業が占める割合は2%未満だが、発展
途上国を中心に拡大を続けている分野のため、
対応を急ぐ。
ICAOのロベルト・コーベ理事会議長は今回
の決定を「航空産業が多国間の話し合いにより
温暖化対策に取り組む上で、歴史的な前進」と
評価した。
(出所:日本経済新聞 WEB版 2013.10.05.より)
ものから、アジアと中東、アジアと南米と
等を結ぶ路線に推移し、これらの乗客の増
(2)日本からの参加者の研究発表
加が予想される。中国では2016年までに82
①IHI 技術開発センター 制御技術部
の空港が新しく作られる。
油圧技術グループ 担当部長
森岡 典子 氏
一方、航空機によるCO2の排出に関して
は2050年までに半減(2005年と比較)する
ことが求められている。
「More Electric Architecture for Engine and
Aircraft Fuel System」
Engine Gear Box で 駆 動 さ れ て い る Fuel
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工業会活動
Pumpを電動に換えると同時に機体の燃料タ
ンク内にあるBoost Pumpも電動化し、機体
Fuelシステム全体を革新する提案である。
「Power and Thermal Management for Future
Aircraft」
独 立 し た 装 備 品 で あ る APU(Auxiliary
Power Unit)、EPU(Emergency Power Unit)、
②IHI 基盤技術部 電子技術室 室長
ECS(Environmental Control System)及び
大依 仁 氏
TMS(Thermal Management System)を統合
「Power Management System for the Electric
してPTMS(Power and Thermal Management
Taxiing system incorporating the More
System)とすることにより、構成品の共有
Electric Architecture」
化、統合を行い、装備品の容量及び重量を
電動モーターによるTaxiingの提案という
削減する。
よりも、むしろRegenerative Fuel Cell(RFC)
を 機 体 電 源 シ ス テ ム に 組 み 込 ん だ Flight
Phase全体を通じてのシステムマネージメン
ト概念の提案である。
②Mirko Jakovljevic, TTTech. Computertechnik
AG
「Generic Fly-by-wire Architectures and
Systems with TTP」
③KHI 航空宇宙カンパニー 生産技術部 Fly-by-wire シ ス テ ム に 重 要 と な る リ ア
生産技術課 瀬川 周平 氏
ルタイム性を確保するためにTTP(Time
「Development of a Drill bit f or CFRP/
Triggered Protocol)を採用し、よりシンプ
Aluminum-Alloy Stack:To improve Flexibility,
ルなネットワーク環境を構築することに
Economical Efficiency and Work Environment」
よって、ソウトウエア開発を容易にする。
CRFPとアルミ板材を合わせた部分の穴
あけ作業を改善するために、独自の形状と
材質のドリルの刃先を開発した。
③Enno Vredenborg, Frank Thielecke, Hamburg
University of Technology
「Thermal Management Investigations for
このほか、スケジュールが調整できず聴講
はできなかったが、以下2氏の研究発表があっ
Fuel Cell Systems On-Board Commercial
Aircraft」
現在捨てている燃料電池からの発生熱を
た。
④KHI航空宇宙カンパニー 生産技術部
生産技術課 主事 岡田 豪生 氏
客室の温度維持用熱源として利用すること
によって機体内部の熱を効率的に利用する
「Assembly Study of Refill FSSW」
方法を考案し、熱容量(エネルギー)の面
⑤三菱航空機 営業部 から実現可能性を調査している。
マーケッテンググループ 戦略チームリーダー 小川 太郎 氏
「Market Trend and Forecast」
④Masa Hirvonen, Honda Aircraft Company Inc.
「H o n d a J e t S y s t e m s I n t e g r a t i o n a n d
Development」
(3)海外からの参加者の研究発表
①Evgeni Ganev, Mike Koerner, Honeywell
International Inc.
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ホンダジェットでは専用の地上試験装置
(ASITF:Advanced System Integration Test
Facility)を製作し、機体の試験に使用して
平成25年11月 第719号
いる。このASITFは高度なシミュレーショ
の Aerotech Congress and Exhibitionを知ってい
ンが可能であり、従来フライト試験で行っ
ただき、是非いろいろな意味で利用していた
ていた項目の一部を地上で行うことがで
だければと思う。
き、実フライト試験の時間を削減できる。
例えば、前日のBombardier工場見学会には、
⑤Neno Novakovic, Milorad Manojlovic,
United Technology Aerospace Systems
日本からの参加者や他のメーカーからも多数
参加しており、同業者間では普段実現しえな
「Power Dissipation Optimization Process in
い貴重な機会を活用していた。また、研究発
Aircraft Secondary Power Distribution
表に関しては、国際経験のために社歴の比較
Systems」
的若い担当者に発表を行わせる会社もあっ
航空機の電気化を推進するために、電源
た。
の二次側(負荷側)の接続をネットワーク
化し、SSPC(Solid State Power Controller)
技術セッションの発表は各30分程度であっ
に よ る 配 電 部(PDU:Power Distribution
たが、既に決まっている事項の現状報告だけ
Units)により最適な制御を行う。
ではなく、将来的な構想、思案中の事項など
海外メーカーあるいは研究者が検討中の情報
⑥Avraham Ardman, Bombardier Aerospace
を得ることができ、日本企業にとっては海外
「More Electric Demonstrator Project Update」
動向を知る絶好の機会であった。また、質疑
ボンバルディア社では電気化を推進し、
応答時間もあり、さらに発表後に意見を交換
エンジン抽気は全廃、油圧系は降着装置(主
することも可能であった。日本にいては海外
脚)のみ残し、その他は電気化する。降着
メーカー等の担当者と意見交換できる機会は
装置用の油圧系は主脚付近にのみ配置する
ほとんど無く、このような機会を利用して幅
ことにより、現状の油圧系より大幅に軽量
広く人脈を広げることは非常に有効だと考え
化する。
られる。今回の海外調査なども含め、いろい
ろな機会を通じて広報し、今後の更なる活動
5.所感 航空工業会の国際連携
や参加を促して行きたい。
当初は日本からの参加者(社)があること
な お、隔 年 で SAE Aerospace Systems and
も知らず、最終の詳細なプログラムで5件の
Technology Weekが開催されており、次回は
研究発表と展示を知った次第である。参加者
2014年9月23日∼25日に米国シンシナティで
に伺うとSAEのイベントには以前から参加し
開催されることになっている。
ていたとのことであり、会員の皆様にもSAE
〔(一社)日本航空宇宙工業会 技術部部長 杉田 明広、飯島 澄〕
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