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リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート 2011年版
エチレングリコール エチレングリコール 別 名:1,2-エタンジオール、グリコール、1,2-ジヒドロエタン、1,2-ヒドロキシエタン、エチレンジ ヒドラート、グリコールアルコール PRTR 政令番号:対象外 (旧政令番号:1-43) 番 C A S 構 造 号:107-21-1 式: ・エチレングリコールの多くは、ポリエステル繊維や PET ボトルなどをつくる PET(ポリエチレンテレフタレ ート)の原料として使われています。この他、凍結防止のために塗料や車の不凍液に含まれたり、農 薬にもエチレングリコールが含まれているものがあります。 ・2009 年度の PRTR データでは、環境中への排出量は約 3,700 トンでした。主に事業所から排出された り、農薬や塗料の使用に伴って排出されたもので、大気中へ排出されたほか、河川や海、土壌中へも 排出されました。 ■用途 エチレングリコールは、常温で無色透明の、水に溶けやすい液体で、揮発性物質です。その多 くは、ポリエステル繊維や PET(ポリエチレンテレフタレート)の原料として使われています。 PET は、折り曲げに強く、香りを逃がさないなどの特徴があるため、PET ボトルとして飲料容器 への使用が急増しています。使用済み PET ボトルのリサイクル活動が進められており、回収品の 大部分は直接樹脂のままポリエステル繊維や PET シートなどに再生されますが、PET を化学分解 してエチレングリコールなどを回収する方法も開発されています。 この他、エチレングリコールは、染料や香料の原料や、窯業の成形助剤に使われたり、凍結防 止用に水性塗料や自動車の不凍液に添加されています。エチレングリコールの水溶液を散布する ことによって、航空機の凍結防止や着氷防止が行われています。また、有効成分の飛散を防ぐた めに、エチレングリコールが配合されている農薬やシロアリ防除剤もあります。身のまわりでは、 ゲル状の保冷剤のうち冷蔵庫で冷やしても硬くならないタイプには、エチレングリコールが入っ ているものがあります。 ■排出・移動 2009 年度の PRTR データによれば、わが国では 1 年間に約 3,700 トンが環境中へ排出されたと 見積もられています。主に中小の事業所を含む燃料小売業や窯業・土石製品製造業などの事業所 から排出されたり、農薬・シロアリ防除剤や塗料の使用に伴って排出されたもので、大気中へ排 出されたほか、河川や海、土壌中へも排出されました。また、家庭からも農薬や塗料の使用に伴 い、わずかですが排出されました。この他、自動車整備業や化学工業などの事業所から廃棄物と して約 7,000 トン、下水道へ約 210 トンが移動されました。 1157 ■環境中での動き 環境中へ排出されたエチレングリコールは、大気中では化学反応によって分解され、1~2 日で 半分の濃度になると計算されています 1) 。水中に入った場合は、容易に微生物分解されると考え られます 1)。 ■健康影響 毒 性 ラットに体重1 kg当たり1日180 mgのエチレングリコールを16週間、餌に混ぜて与えた実 験では、腎臓でシュウ酸塩の沈着(結石の原因のひとつ)や尿細管の障害が認められました2)。こ の他、ラットにエチレングリコールを2年間、餌に混ぜて与えた実験では、腎臓障害に基づく尿中 へのシュウ酸塩結晶の排せつが認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合の NOAEL (無毒性量)は、体重1 kg当たり1日40 mgでした1)。 また、20 人の男性に 1 日平均 3~67 mg/m3 の濃度のエチレングリコールを含む空気を 30 日間吸 入させた実験では、臨床検査や心理学的検査において影響が認められませんでした 2)。 なお、エチレングリコールはかすかな甘味があるため、イヌやネコが飲み込む事故も少なくあ りません。 体内への吸収と排出 人がエチレングリコールを体内に取り込む可能性があるのは、飲み水や呼 吸によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、さまざまな代謝物に変化し、尿に含まれ て排せつされます。エチレングリコールを飲んだ人の例では、24~48時間後には尿中や組織中に エチレングリコールは検出されなかったことから、エチレングリコールは比較的早く、体内で変 化していると推測されます1)。エチレングリコールの腎臓障害などの毒性は、代謝物によって生じ ると考えられていますが、それぞれの代謝物の詳細な役割はわかっていません1)。 影 響 食物や飲み水を通じて口からエチレングリコールを取り込んだ場合について、環境省の 「化学物質の環境リスク初期評価」では、腎臓などへの影響が認められたラットの実験結果に基 づいて、無毒性量等を体重 1 kg 当たり 1 日 7.1 mg としています 2)。最近の水中濃度について測定 データが得られておらず、人の健康への影響は評価できていません。 呼吸によって取り込んだ場合について、この環境リスク初期評価では、人に対する臨床検査結 果などに基づいて、呼吸によって取り込んだ場合の無毒性量等を 4.1 mg/m3 としています 2)。大気 中濃度について測定データが得られておらず、人の健康への影響は評価できていません。 なお、 (独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク 評価書」では、口から取り込んだ場合について、尿中へのシュウ酸塩結晶の排せつが認められた ラットの実験における NOAEL と河川水中濃度及び魚体内濃度の推計値を用いて、人の健康影響 を評価しており、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています 1) 。また、 同評価書では、呼吸から取り込んだ場合の NOAEL 等は得られていませんが、上記の評価に呼吸 からの取り込み推計量を加えて評価し、この場合も、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすこと はないと判断しています 1) 。 ■生態影響 環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、ミジンコの繁殖阻害を根拠として、水生生 1158 エチレングリコール 物に対する PNEC(予測無影響濃度)を 0.42 mg/L としています 2)。河川や海域の水中濃度につい て最近の測定データが得られておらず、また過去の測定結果も測定地点数が限られたデータであ るため、水生生物への影響は評価できていません。 なお、 (独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク 評価書」では、ミジンコの繁殖阻害を指標として、河川水中濃度の推計値を用いて水生生物に対 する影響について評価を行っており、現時点では環境中の水生生物へ悪影響を及ぼすことはない と判断しています 1) 。 性 状 無色透明で粘りのある液体 臭気はほとんどない 揮発性物質 水,アルコール,エ ーテルなどに溶けやすい 生産量 3) 国内生産量:約 580,000 トン (2009 年) 輸 入 量:約 2,100 トン 輸 出 量:約 180,000 トン 排出・移動量 環境排出量:約 3,700 トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%) (2009 年度 事業所(届出) 33 大気 44 PRTR データ) 事業所(届出外) 46 公共用水域 30 非対象業種 19 土壌 26 移動体 - 埋立 - 家庭 2 事業所(届出)における 排出量:約 1,200 トン 業種別構成比(上位 5 業種、%) 燃料小売業 28 窯業・土石製品製造業 26 繊維工業 20 化学工業 13 熱供給業 4 事業所(届出)における 移動量:約 7,200 トン (届出以外の排出量も含む) 移動先の内訳(%) 廃棄物への移動 97 下水道への移動 3 業種別構成比(上位 5 業種、%) 自動車整備業 38 化学工業 29 電気機械器具製造業 12 産業廃棄物処分業(特別管理産業廃棄物処分業を 含む) 鉄スクラップ卸売業 PRTR 対象 - 選定理由 環境データ 公共用水域 1159 6 2 ・化学物質環境実態調査:検出数 2/24 検体,最大濃度 0.002 mg/L;[1986 年度,環境 省]4) 底質 ・化学物質環境実態調査:検出数 0/24 検体(検出下限値 0.006 mg/kg);[1986 年度, 環境省]4) 適用法令等 ・大気汚染防止法:揮発性有機化合物(VOC)として測定される可能性がある物質 ・海洋汚染防止法:有害液体物質 Y 類 注)排出・移動量の項目中、「-」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。 ■ 引用・参考文献 1)(独)製品評価技術基盤機構・ (財)化学物質評価研究機構「化学物質の初期リスク評価書 Ver.1.0」 ((独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託事業、2007 年公表) http://www.safe.nite.go.jp/risk/files/pdf_hyoukasyo/043riskdoc.pdf 2)環境省「化学物質の環境リスク初期評価第 3 巻」 (2004 年公表) http://www.env.go.jp/chemi/report/h16-01/pdf/chap01/02_2_4.pdf 3)化学工業日報『15911 の化学商品』 (2011 年 1 月発行) 4)環境省「平成 21 年度版(2009 年度版)化学物質と環境」(化学物質環境実態調査)化学物質環境調査結 果概要一覧表 http://www.env.go.jp/chemi/kurohon/2009/shosai/4_2.xls ■ 用途に関する参考文献 ・ (独)製品評価技術基盤機構・ (財)化学物質評価研究機構「化学物質の初期リスク評価書 Ver.1.0」 ((独) 新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託事業、2007 年公表) http://www.safe.nite.go.jp/risk/files/pdf_hyoukasyo/043riskdoc.pdf ・化学工業日報社『15911 の化学商品』 (2011 年 1 月発行) ・医学書院ライブラリー「検査と技術」32 巻 9 号 http://ej.islib.jp/ejournal/1543100724.html 1160