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陰嚢内悪性腫瘍(PDF)

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陰嚢内悪性腫瘍(PDF)
陰嚢内悪性腫瘍
陰嚢内に発生する悪性腫瘍のうち、精巣を除いた、精巣上体悪性腫瘍、精索悪性腫瘍、
陰嚢壁悪性腫瘍および精巣鞘膜悪性腫瘍について記述する.
目
次
精巣上体悪性腫瘍 ................................................................................................................................2
精索悪性腫瘍 ........................................................................................................................................3
陰嚢壁悪性腫瘍 ....................................................................................................................................4
精巣鞘膜悪性腫瘍 ................................................................................................................................5
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精巣上体悪性腫瘍
精巣上体の腫瘍は極めて稀でありその
殆どが良性腫瘍である.人口動態統計によ
れば[1)]、1979 年から 2007 年の 19 年
間の本邦における精巣上体悪性新生物に
よる死亡者は 32 名である.臨床的には、
1987 年に山下ら[2)]は、本邦の精巣
表1:精巣上体腫瘍
病理診断
横紋筋肉腫
細網肉腫
平滑筋肉腫
紡錘細胞肉腫
円形細胞肉腫
肉腫
癌
セミノーマ
リンパ腫
中皮腫
奇形種
例数
11
4
4
1
1
2
15
4
4
2
1
表2:精巣上体腫瘍年齢
年齢
0-9歳
10-19歳
20-29歳
30-39歳
40-49歳
50-59歳
60-69歳
70-79歳
80歳以上
不明
例数
6
10
8
4
2
7
1
3
1
2
上体腫瘍報告例 233 例を集計しているが、そのうち悪性腫瘍は 48 例である.この悪性腫瘍
48 例の病理学的診断を表1に示す.これでみると腺癌が最も多いが、肉腫は全て併せると
22 例となる.そのほかセミノーマやリンパ腫もみられる.
年齢分布では 10 代が最も頻発しているが、50 歳代にももう一つピークが見られる(表
2).患側は右側 24 例、左側 16 例、両側 1 例および不明 3 例で右側に多い傾向がある.
文
献
1)厚生労働省大臣官房統計情報部編:昭和51年ー平成 19年 人口動態統計,厚生統
計協会,東京,1978ー2009
2)山下朱生、亀井義弘、藤田幸利:原発性副睾丸腫瘍の 2 例 西日泌尿、49:1233-1235,1987
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精索悪性腫瘍
精索に悪性腫瘍が発生することは非常にまれなことである.人 表1:原発性精索悪性腫瘍
口動態統計[1)]によれば記載の開始された 1979 年から 2007
年までの 19 年間に本邦での精索悪性新生物による死亡者は 50
例である.原発腫瘍については、廣野ら[2)]が 1973 年に本
邦報告例 52 例を集計しており、その病理学的診断を表1に示す
病理診断
肉腫
横紋筋肉腫
平滑筋肉腫
脂肪肉腫
繊維肉腫
脂肪繊維肉腫
混合腫瘍
胎児性癌
上皮性悪性腫瘍
例数
12
10
5
3
2
1
3
1
2
が非上皮性悪性腫瘍が大半を占めるが、なかでも横紋筋肉腫が
極めて多い.
表2:被転移精索腫瘍
原発巣
例数
被転移性精索腫瘍については、加藤ら[3)]が本邦報告例 肺
食道
84 例を集計しておりその原発巣を表2に示す.原発巣は胃、大 胃
大腸
肝
腸、および膵の消化器が圧倒的多数である.
胆
膵
前立腺
精巣
腎
腎盂尿管
膀胱
不明
計
2
1
40
12
2
1
9
3
2
7
3
1
1
84
%
2.4
1.2
47.6
14.3
2.4
1.2
10.7
3.6
2.4
8.3
3.6
2.4
2.4
文
献
1)厚生労働省大臣官房統計情報部編:昭和51年ー平成 19年 人口動態統計,厚生統
計協会,東京,1978ー2009
2)廣野晴彦、川井 博、淡輪邦夫:精索脂肪腫-文献的考察を中心に-臨泌、
27:585-593,1973
3)加藤久美子、鈴木弘一、佐井紹徳、村瀬達良、小林陽一郎:陰嚢水腫を伴った胃癌精
索転移の1例.泌尿紀要、45:895-861,1999
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陰嚢壁悪性腫瘍
陰嚢壁腫瘍は陰嚢内に発生した腫瘍のうち精巣、精巣上
体腫瘍を除き陰嚢皮下組織から精索鞘膜外側(但し精巣鞘
膜を含まない)に発生する腫瘍とされている[1)].
陰嚢壁悪性腫瘍は非常に稀で、1984 年に野口ら[1)]
表1:陰嚢壁悪性腫瘍
肉腫
脂肪肉腫
平滑筋肉腫
繊維肉腫
悪性繊維組織球腫
網内細胞腫
癌腫
4例
5例
4例
3例
1例
1例
2例
陰嚢壁腫瘍として 59 例を集計してい
が、このうち悪性腫瘍は 18 例に過ぎな
い.これ以降中島ら[2)]の悪性組
織球腫の 1 例、右田ら[3)]の平滑
筋肉腫の1例と尾畑ら[4)]の陰嚢皮
下原発の平滑筋肉腫 1 例が報告されて
いる.これらの 21 例の組織分類を表1
に示すが、肉腫(特に脂肪肉腫)が圧
倒的に多数であり、癌腫は 2 例である.
陰嚢壁悪性腫瘍の年齢は 6 歳から 72 歳
で平均 50.9 歳である[1ー4)].21 症例の年齢分布を図1に示すが、50-59 歳にピーク
がみられる.
陰嚢壁悪性腫瘍の治療としては、精巣を含めた広範な切除が 10 例に、腫瘍切除が 9 例に
なされ、試験開腹に終わったものもある[1-4].手術に化学療法や放射線療法を併用
したのは 7 例であった[1ー4)].
文
1)野口正典、中山
献
稔、野田進士、江藤耕作、谷村
晃:陰嚢壁に発生した malignant fibrous
histiocytoma のⅠ例-陰嚢壁腫瘍の本邦 56 例の統計的観察-
2)中島一彰、向井
嚢原発の Malignant
3)右田
日泌尿会誌 75:138-145,1984
稔、山崎義和、日浦利明、長尾孝一:広範な腹膜播種を呈した右陰
Fibrous Histiocytoma の1剖検例.千葉医学、60:121-125,1984
敦、宮本純治:陰嚢壁原発の平滑筋肉腫
臨泌、60:223-225,2006
4)尾畑紘史、作間俊治:陰嚢平滑筋肉腫の1例.西日泌尿、70:503-505,2008
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精巣鞘膜悪性腫瘍
精巣鞘膜(tunica vaginalis testis)は精巣被膜の外側から精巣上体および精索を包み込む
腹膜由来の膜であり、ここに悪性腫瘍が発生することは極めて稀である.近年アスベスト暴露
に関連して悪性中皮腫の報告が多くみられるので、ここでは悪性中皮腫を中心に記載する.
悪性中皮腫は中皮細胞が存在する組織から発生するが、主として胸膜、腹膜、心膜、お
よび精巣鞘膜などから発生するとされているが、精巣鞘膜からの発生は最も頻度が低い.
岸本ら[1)]は中皮腫と確定診断しえた 214 例の発生部位の内訳は、胸膜 186 例(86.9%)、
腹膜 24 例(11.2%)、心膜 1 例(0.5%)、精巣鞘膜 1 例(0.5%)および部位不明 2 例(1.9%)
と報告している.
本邦における精巣鞘膜発生悪性中皮腫は 2004 年に黒川ら[2)]が 21 例を集計している
が、これ以降やこの集計に含まれない原著報告は 8 例あり 29 例が報告されている[3)ー
10)].これら 29 症例を表1に示す.
表1:本邦精巣鞘膜悪性中皮腫報告例
報告者
Eimoto
水尾
Yamanishi
奥谷
報告年 年齢 患側
主 訴
1977
35
左 陰嚢内腫瘤
1981
27
左 陰嚢腫大
1984
34
右 陰嚢内腫瘤
1988
53
陰嚢内腫瘤
正井
佐藤
後藤
河合
河合
Kamiya
浜屋
Kuwabara
須山
寺山
中村
Umekawa
若杉
1988
1988
1989
1989
1989
1990
1991
1991
1992
1993
1994
1995
1995
69
60
74
48
58
32
55
60
83
68
27
67
70
右
右
左
右
右
右
右
右
左
右
右
右
右
陰嚢内腫瘤
陰嚢腫大
陰嚢腫大
陰嚢腫大
陰嚢腫大
陰嚢腫大
陰嚢腫大
陰嚢水腫
陰嚢痛
陰嚢腫大
陰嚢腫大
陰嚢腫大
陰嚢内腫瘤
町田
石津
大谷
Kanazawa
堤
Fujisaki
島田
1997
1998
1998
1999
2000
2000
2000
18
67
68
68
30
32
64
左
右
左
両
左
右
右
陰嚢腫大
陰嚢腫瘤
鼠径部腫瘤
鼠径部腫瘤
陰嚢腫大
陰嚢腫大
陰嚢腫大
黒川
Sawada
Shimada
2003
2004
2004
35
48
64
右 陰嚢腫大
右 陰嚢腫大
右 陰嚢腫大
Ikegami
溝口
2008
2008
67
70
右 陰嚢腫大
左 陰嚢腫大
手 術
精巣摘除
高位精巣摘除
高位精巣摘除
高位精巣摘除
鼠径リンパ郭清
高位精巣摘除
高位精巣摘除
高位精巣摘除
高位精巣摘除
陰嚢水腫根治術
高位精巣摘除
高位精巣摘除
高位精巣摘除
精巣上体切除
高位精巣摘除
高位精巣摘除
高位精巣摘除
高位精巣摘除
後腹膜リンパ郭清
陰嚢水腫根治術
陰嚢水腫根治術
陰嚢水腫根治術
陰嚢内容全摘除
高位精巣摘除
精巣摘除
高位精巣摘除
腫瘍切除
高位精巣摘除
高位精巣摘除
高位精巣摘除
腫瘍切除
高位精巣摘除
高位精巣摘除
化療
放治
有
有
有
有
有
有
有
有
有
有
有
予後
文献
1.5月生
2
12月生
2
6月生
2
15月死
2
12月生
2年生
15月死
21月生
4月生
5月生
不明
60月死
不明
不明
6月生
8月死
不明
2
3
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
15月生
22月生
不明
13年生
20月生
3年生
8月生
2
2
2
4
2
5
6
無
有
無
3月生
72月生
18月生
2
7
8
無
無
無
無
26月死
3月生
9
10
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年齢は 27 歳から 84 歳(平均 53.5 歳)で患側は右側 19 例、左側 8 例、両側 1 例及び不
明 1 例であった.主訴としては陰嚢腫大、陰嚢内腫瘤と陰嚢腫瘤が最も多く 25 例、鼠径部
腫瘤が 2 例および陰嚢痛と陰嚢水腫が各 1 例であった.治療は先ず外科的治療が行われて
いるが、高位精巣摘除術と精巣摘除術が 21 例、高位精巣摘除術に後腹膜腔リンパ廓清術を加
えたもの 2 例、陰嚢水腫根治術が 4 例および陰嚢内容全摘除術と精巣上体切除術が各 1 例
であった.追加治療は記載のある症例では、化学療法と放射線治療の療法を行ったもの 4
例、化学療法単独 3 例、放射線治療単独 1 例およびあえて追加治療を行わなかったと記載
されているもの 3 例である.予後は記載のあるのは 24 例である、観察期間は 3 月から 13
年迄であるが死亡例は 6 例で、その内最長生存期間は 60 月であり、この結果からみると予
後は極悪とはいい得ない.
また精巣鞘膜に発生する中皮腫には、良性悪性の境界病変とみられる高分化乳頭状中皮
腫の報告もみられる[11)].
この他の精巣鞘膜発生悪性腫瘍としては、47 歳左陰嚢腫脹を主訴に来院、超音検査で左
精巣および精巣上体に異常なく、左陰嚢内に均一な液体貯留をみとめた.CT では精巣鞘膜
の肥厚をみとめ、悪性腫瘍を否定できなかったが、本人の承諾を得られず、陰嚢水腫根治
術を行い組織学的に精巣鞘膜に腺癌をみとめ、後日、左陰嚢皮膚を含め左陰嚢内全摘術お
よび左浅鼠径リンパ節郭清術を行い、組織学的には精巣鞘膜に瀰漫性に癌が存在したが精
巣、精巣上体及び精索には癌は存在せず摘出リンパ節も陰性であった、精巣鞘膜原発の腺
癌の報告も見られる[12)].この症例は術前の検査で転移を示す所見はなく、術後の補
助療法も行わず 11 月再発転移をみとめていない[12)].
また、45 歳が左陰嚢の無痛性腫脹を主訴に受診.腫瘍マーカーは全て陰性、MRI で左精
巣と離れて 23mm の腫瘤を認め、腫瘍切除術を行い組織学的に精巣鞘膜原発の高分化脂肪
肉腫と診断された1例が報告されている[13)].この症例は、腫瘍切除だけで 12 月再発
転移なく生存している[13)].
文
献
1)岸本卓巳、井上康輝、武島幸男、玄馬顕一、青江啓介、加藤勝也、藤本伸一:臨床病
理学検討による中皮腫死亡例の診断制度の解析研究(平成 19 年度厚生労働省研究).産業
医学ジャーナル、31:4-7、2008
2)黒川陽子、杢尾康洋、大古美治、斉藤竜一、村井哲夫:精巣固有鞘膜悪性中皮腫の一
例.泌外、17:801-804,2004
3)佐藤 明、宇多弘次、高谷直知、門脇照雄、石井徳味:陰のう水腫細胞診で認められ
た微少精巣悪性中皮腫の1例.日臨細胞会誌、27:1034-1039,1988
4)Kanazawa S, Nagae T, Fujiwara T, Fujiki R, Mukai N, Sugihara Y, Yamaguchi N, Ohtani H,
Higami Y, Ikeda T, Tsunoda T :Malignant mesotheliom of the tunica vaginalis testis Report of
acase. Surg Today,29:1106-1110,1999
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5)Fujisaki M,Tokuda Y,Sato S,Fujiyama Matsuo Y,Sugihara H,Masaki Z,:Case of mesotheliom
of the tunica vaginalis testis witrh characteristic finding on ultrasonography and magnetic
resonance imaging. Int J Urol,7:427-430,2000
6)島田聡子、鈴木康彦、神田 修、酒井陵子、中島琴美、松尾知加子、柚木浩良、小野
謙三:精巣鞘膜に発生した悪性中皮腫の一例.陶生医報、13;803-806,2000
7)Sawada K, Inoue K, Ishihara T, Kurubayashi A, Moriki T, Shuin T :Multicystic malignant
mesotheliom of the tunica vaginalis with an unusually indolent clinical course. Acta Urol Jpn
50:511-513,2004
8)Shimada S,Ono K,Suzuki Y,Mori N,:Malignant mesothelioma of the tunica vaginalis testis: A
case with predominant sarcomatous component. Path Int,54:930-934,2004
9)Ikegami Y,Kawai N,Tazawa K, Hayashi Y, Kohri k,:Malignant mesothelioma of the tunica
vaginalis testis related to recent asbestos. Int J Urol 15:560-561,2008
10)松崎香奈子、中島敏彦、加藤智則、木藤宏樹、溝口研一、赤倉功一郎、井上 泰:
精巣鞘膜に発生した悪性中皮腫の1例.泌尿紀要、54:629-631,2008
11)河野真司、宮崎 薫:精巣鞘膜に発生した高分化乳頭状中皮腫の1例.診断病理、
22:180-183,2005 (良悪不明)
12)村木淳郎、橋本伸一、森田辰男、小林 裕、中村昌平、徳江章彦:精巣鞘膜に発生
し CA19-9 抗原陽性を示した腺癌の1例.日泌尿会誌、86:1398-1401,1995
13)Hakariya T, Furukawa M, Iwasaki S, Saitoh Y :Liposarcoma occurring in the tunica
vaginalis :A case report. Nishinihon J Urol,71:483-486,2009
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