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エストロゲン様作用物質・フェノールレッドによってもたらされる - J

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エストロゲン様作用物質・フェノールレッドによってもたらされる - J
杏林医会誌 38 巻 2・3 号 37 〜 50 2007 年 9 月
原
著
エストロゲン様作用物質・フェノールレッドによってもたらされる
乳癌細胞 MCF-7 の遺伝子発現レベルの変動
権 藤 秀 樹
土 屋 克 巳
阪 井 哲 男
永 松 信 哉
脇 坂 晟
杏林大学医学部生化学教室
(2004.9.1 受付)
要
旨
乳癌細胞の増殖に対するエストロゲンの作用機序を解明するためのモデルとして,乳癌細胞
(MCF-7)培養系にエストロゲン作用を有するフェノールレッドを加えて,その遺伝子発現に及ぼす
影響について遺伝子発現アレーを用いて解析した。フェノールレッド添加 MCF-7 細胞培養系と非添
加培養系とを作成した。それぞれ系についての対数増殖早期と晩期の 2 つの時期において細胞を回収
して mRNA を抽出した。この mRNA から,逆転写酵素を用いて[33P]⊖ 標識 cDNA プローブを作成し,
ナイロン膜上の cDNA 発現アレーとハイブリダイゼーションを行った。その結果を ANOVA で解析
したところ,アレーに存在する 1176 遺伝子のうち危険率 3%で,フェノールレッド添加と培養期間で
交互作用ありとされた遺伝子は 31 個であった。フェノールレッドによる影響が見られたのは,シグ
ナル伝達関連遺伝子群では,HTR1D,proenkephalin B,ACHE で発現が増大し,COMT では抑制
がみられた。転写関連遺伝子群では,relB,TEF1 で発現の増大が,BARD1,IRF2 では低下がみら
れた。この様な遺伝子発現レベルの変動は,フェノールレッドの細胞増殖促進作用を示すものと推定
される。
緒
言
の 0.001%で,抗エストロゲン薬として臨床上使用されて
いるタモキシフェンによって,この結合は阻害されるとい
再発乳癌患者の胸水中から得られ確立された MCF-7 細
う8)。乳癌細胞におけるエストロゲンの作用機序を遺伝子
胞は,エストロゲンレセプター(ER)陽性の細胞系であ
発現レベルで解析することは,乳癌治療戦略上,極めて有
る1)。この細胞は,継代培養によっても ER を保持するこ
用であろう。MCF-7 細胞に対するフェノールレッドの影
。エストロゲン様作用を持つ物質に
響を,クロンテック社のナイロンメンブレンアレイを用い
とが知られている
2,
3)
よって著しく細胞増殖速度が亢進されることから,内分泌
て遺伝子レベルで明らかにすることを試みたので報告する。
撹乱物質,いわゆる環境ホルモンの同定に用いられてい
材料と実験方法
る4⊖7)。そこで我々は,乳癌に対するエストロゲン様作用
を有する物質の作用機序を遺伝子発現レベルで解明する事
1)試料と試薬
を目的として,エストロゲン様作用物質によってもたらさ
東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターより提供
れる MCF-7 細胞の遺伝子発現レベルの変動を測定した。
された MCF-7 細胞は二群に分け,1 × 105/ml から 10%
細胞培養の際に pH 指示薬として培地の中に加えるフェ
FCS 加 DMEM 培地で継代培養した。一群はフェノール
ノールレッドには,エストロゲン様作用があると言われて
レ ッ ド 添 加 DMEM 培 地(phenol red concentration;15
いる8⊖10)。この物質は,MCF-7 細胞のエストロゲンレセプ
mg/l) で培養し,もう一群はフェノールレッド非添加
ターに対して作用するが,その親和性はエストラジオール
DMEM 培地で数代培養した。それぞれの系列で,経時的
Key words :
MCF-7, phenol red, microarray, gene expression, signal transduction, HTR1D
38
権 藤 秀 樹 ほか
杏林医会誌 38 巻 2・3 号
Fig.1 Cell growth curve of cultured MCF-7 cell. 1 × 105/ml MCF-7 cells were cultured in DMEM medium with(-■-)or without(-●-)phenol red with
time progression at 37 ℃ under 95 % humidified air and 5 % CO2. The cells
were harvested in the early(arrow head)and the late logarithmic phase(arrow). Each phase was defined as a certain day that the number of the cells in
these two conditions had reached almost same number.
にヘモサイトメーターで細胞数を測定し,増殖曲線を描い
た(Fig. 1)。phenol red 添加培養 MCF-7 細胞の viability
は,early log phase では 96%,late log phase では 94%で,
USA)の Atlas Pure RNA Labeling System を使用した。
その他の一般的な試薬は特記しない限り,和光純薬(株)
(大阪)製を使用した。
phenol red 非添加培養群においては,early log phase で
DNase および RNase を含まない精製水には GIBCO Ul-
は 96%で,late log phase では 97%であった。これらの
tra Pure Distilled Water DNase, RNase Free.(Invitrogen
曲 線 を 元 に し て 最 大 増 殖 度 の 約 10 % 程 度 の early log
Corp., Grand Island, NY, USA)を使用した。cDNA の作
phase 細胞群と同じく 90%以上の late log phase 細胞群に
成 お よ び DNA ア レ ー に は BD Atlas cDNA Expression
分けた。フェノールレッドを添加して培養した群は,ear-
Human 1.2 Nylon Membrane Arrays を使用し,[α-33P]
ly log phase を第 3 日(細胞数約 6.2 × 10 個),late log
dATP は Amersham Bioscience(Piscataway, NJ, USA)
phase を第 8 日(細胞数約 8.6 × 10 個)とし,フェノー
から購入した。ハイブリダイゼーションの際に用いた
ルレッド非添加群は,early log phase を第 6 日(細胞数
sheared salmon testes DNA は Sigma-Aldrich(St. Louis,
5
6
約 8.6 × 10 個),late log phase を第 10 日(細胞数約 9.0
Mo, USA)の製品を使用した。組織の破砕にはガラス製
× 106 個)とした。継代培養した MCF-7 細胞を再び上記
ホモジェナイザーを使用した。cDNA と array のハイブリ
5
の日数で培養したのち,スクレイパーを用いて細胞を剥離,
ダイゼーションにはガラスボトルを使用した。RNA 抽出,
回収して直ちに RNA を抽出した。
およびハイブリダイゼーションに関する器具は,RNase
2)試薬と器具
Free Spray(Continental Laboratory Products, San Di-
回収した細胞からの RNA 抽出,および poly A を有す
ego, CA, USA)で処理後,乾熱滅菌したものを使用した。
る mRNA の 分 別 に は BD Biosciences(Palo Alto, CA,
サーマルサイクラーは Takara PCR Thermal Cycler Per-
Abbreviations : CAM-PDE1A, calcium/calmodulin-dependent 3', 5'-cyclic nucleotide phosphodiesterase 1A ; CDK5, cell division protein
kinase 5 ; HTR1D, 5-hydroxytryptamine receptor 1D receptor ; ACHE, acetylcholinesterase ; SLC2A1, solute carrier family 2 member 1 ; RAP1B, ras-related protein RAP1B ; EBI3, cytokine receptor EBI3 ; EDNRA, endothelin receptor type
A ; HSP27, 27-kDa heat shock protein ; tnk1, tyrosine kinase tnk1 ; PRKAR2A, cAMP-dependent protein kinase type II
alpha regulatory subunit ; GSK3-beta, glycogen synthase kinase 3 beta ; HEK, human embryo tyrosine-protein kinase
1 ; EAR3, v-erbA related protein 3 ; erbB2, erbB2 proto-oncogene ; ZYX, zyxin 2 ; relB, transcription factor relB ; TEF1,
transcriptional enhancer factor ; COMT, membrane-bound and soluble catechol-O-methyltransferase ; ITGAL, integrin
alpha L ; ICAM2, intercellular adhesion molecule 2 ; PCNA, proliferating cyclic nuclear antigen ; TGF-beta3, transforming growth factor beta 3; B-MYB, MYB-related protein ; BBARD1, BRCA1-associated ring domain protein 1 ; IRF2,
interferon regulatory factor 2.
2007 年 9 月
乳癌細胞の遺伝子発現の変動
39
sonal を使用した。ハイブリダイゼーションオーブンには
Atlas Array メンブレン,熱変性させた標識 cDNA プ
TAITEC の HB-100 型 Hybridization Incubator を 使 用 し
ロ ー ブ(100μl 中 に 1⊖10 × 106dpm),sheared salmon
た。ハイブリダイゼーション後の分析には Fujifilm Imag-
testes DNA,および製品中に含まれている ExpressHyb
ing Plate BAS-MS2025, Fujifilm BAS2000 Imaging Scan-
溶液 7 ml をハイブリダイゼーションボトルに入れ,68℃,
ner,Fujifilm Array Gauge Ver. 1.2 ソフトウェアを使用
7 rpm で回転させて 16 時間,ハイブリダイズした。その後,
した。
0.3MNaCl,0.03M クエン酸ナトリウム,1% SDS を含む
3)RNA の抽出
洗浄液を用いて,68℃ 30 分間の洗浄を,4 回繰り返した。
Clontech 社の Atlas Pure Total RNA Labeling System
洗浄したメンブレンを食品保存用ラップで包み,Imaging
を用い,付属のマニュアル(Atlas Pure Total RNA La-
Plate を用いて 48 時間露光し,Fuji film BAS2000 イメー
beling System User Manual(Protocol #PT3231-1, Ver-
ジアナライザーで現像した。
sion #PR14550). BD Biosciences Clontech, Palo Alto, CA,
測定結果は,Fuji film Array Gauge Ver. 1.2 を用いて
USA.)に従って RNA の抽出,採取を行った。簡単に記
解析し,Local Standard を用いて全データをノーマライ
すと以下のとおりである。培養細胞に変性溶液を加え,氷
ズした。各遺伝子の発現度を,フェノールレッド非添加群
上でガラス製ホモジェナイザーを用いて磨砕して,4℃,
(以下 NP 群,Fig. 2),添加群(以下 P 群,Fig. 3)それ
970g で 5 分間遠心して沈査を除き,上清にフェノール溶
ぞれの,early log phase と late log phase の 4 群における
液を加えて混和,さらにクロロホルム溶液を加えて混和し
分散の統計学的有意差を重複測定分散解析(ANOVA)で
た後,遠心分離にて上清を回収した。この操作を計 3 回行
検討した。また,Expression Rate(ER)を P と NP の両
い,得られた上清にイソプロパノールを加えて遠心して
群においてそれぞれの条件により,(late log phase におけ
RNA を回収,80%エタノールで洗浄して乾燥させ,DN-
る発現度/early log phase における発現度)として算出し,
ase RNase free water に溶解した。抽出した RNA は,ア
さらに ER(P)/ER(NP)比を Differential Ratio(D-Ratio)
ガロースゲルゲル上で電気泳動を行い,18S と 28SrRNA
として求めた。
の二本のバンドを確認して,DNA の混入のないことを確
認した。
4)PolyA+ RNA の分離
結
果
1)MCF-7 細胞の増殖曲線
同様に付属のマニュアル(BD Atlas cDNA Expression
フェノールレッド添加,および非添加培地における
Arrays User Manual (Protocol #PT3240-1, Version
MCF-7 細胞の増殖曲線を Fig. 1 に示す。フェノールレッ
#PR25790). BD Biosciences Clontech, Palo Alto, CA,
ドを添加して培養した群(P 群)は,early log phase が第
USA.)に従って行った。前段階で得られた RNA10-50μg
3 日( 細 胞 数 約 6.2 × 105 個,viability 96 %),late log
に,同キットに含まれている biotinylated oligo dT を 1 μl
phase が 第 8 日( 細 胞 数 約 8.6 × 106 個,viability 94 %)
加えて,サーマルサイクラーを用いて 70℃で 2 分間加温後,
となり,フェノールレッド非添加群(NP 群)は,early
ストレプトアビジン結合マグネッティック・ビーズの一定
log phase が 第 6 日( 細 胞 数 約 8.6 × 105 個,viability
量を加えて,室温で 25 分間振盪した。その後,マグネッ
96%),late log phase が第 10 日(細胞数約 9.0 × 106 個,
ティック・セパレーターで液層を除去し,1 × wash buf-
viability 97%)となった。P 群では NP 群に比べて early
fer でよく洗浄してマグネッティック・ビーズに結合した
log phase における増殖が比較的遅く,NP 群では増殖曲
polyA -RNA を精製した。
線の立ち上がりが遅いが,一旦増殖が加速されると急激に
+
5)cDNA Probe の作成
製品中の CDS Primer Mix 4 μl を,3 μl の RNase free
water に懸濁した polyA+-RNA 結合ビーズに加え,65℃
細胞数の増加が見られた。
2)遺伝子発現のドット・マトリックス・パターン
Atlas Array 上にある全 1176 個の遺伝子は,1 グループ
で 2 分間加熱したのち,5 × Reaction Buffer 4 μl,dNTP
14 × 14 遺伝子群が 6 グループ配置されており,上段左か
2 μl,100m MDTT 0.5μl,[α-33P]dATP 5 μl,MMLV
ら右へ A,B,C 群,下段左から右へ D,E,F 群とする。
Reverse Transcriptase 2 μl を混合したマスターミックス
A 群には主に腫瘍遺伝子と cell cycle-regulating kinase が
13.5μl を加えてよく混和し,サーマルサイクラーで 50℃,
配置されている。B 群には G タンパク群と細胞内キナー
25 分間の加温を行った。加温終了後,polyA+-RNA 結合
ゼ関連遺伝子,C 群には DNA ポリメラーゼとアポトーシ
ビーズに 10 × Termination Mix を 2 μl 加えて混和した後,
スに関する遺伝子がある。D,E 群には転写関連遺伝子と
製 品 に 同 梱 さ れ て い る NucleoSpin extraction Spin Col-
細胞接着因子が,また F 群には growth factor とサイトカ
umn を用いて,放射活性 cDNA probe を精製した。
インの遺伝子が搭載されている。Fig. 1 の矢印で示した 4
5)ハイブリダイゼーション
点について前述の専用ソフトで解析した遺伝子のドットマ
40
杏林医会誌 38 巻 2・3 号
権 藤 秀 樹 ほか
a
b
Fig.2 Gene expression of MCF-7 cell monitored on a microarray. Radiation scans are represented in a
pseudocolor scale correspond to expression levels that are high in order of blue, green, orange, red.
The array contains 1176 human cDNAs. Radiation probes were prepared by labeling mRNA from
MCF-7 cells in early log phase that cultured without phenol red.(a)early log phase,(b)late log
phase.
a
b
Fig.3 Gene expression of MCF-7 cells cultured with phenol red.(a)early log phase,(b)late log phase.
トリックスを Fig. 2 と Fig. 3 に示す。数値化された遺伝
示す(遺伝子名の略語の記載は省略する)。発現が 2 倍以
子発現度を階層化して色で表したもので,青,黄緑,橙,
上に増大した遺伝子は,NP 群では 8 遺伝子,P 群では 15
赤 の 順 に 発 現 度 が 高 い。NP 群(Fig. 2) で は early log
遺伝子見られた。一方,0.45 倍以下に減少したものは前者
phase は遺伝子の発現増大は少なく,late log phase にな
では 28 遺伝子,後者では 20 遺伝子見られた。培養により
ると急激に発現が亢進した遺伝子が増えていた。一方,P
発現が増大する遺伝子は P 群で多く,また発現が減少す
群(Fig. 3)は総じて early log phase より遺伝子発現が高
る遺伝子は NP 群で多かった。フェノールレッドの有無に
いものが多く,late log phase に至ってさらに発現が亢進
関わらず培養により発現が増大する遺伝子,あるいは減少
する遺伝子が認められた。
するものはそれぞれ HSP27, TMSB4X および JAK3 であっ
3)フ ェ ノ ー ル レ ッ ド 添 加 お よ び 非 添 加 培 養 に よ る
MCF-7 細胞の遺伝子発現の変動
early log phase と late log phase の遺伝子発現を測定し
た(表中太字)。
4)発現変動の ANOVA 法による重複分散分析
このようなフェノールレッドの細胞増殖に及ぼす影響を,
てその平均値を比較し,前期に比し後期において遺伝子発
さらに詳細に解析する目的で遺伝子発現度の培養前後の変
現が 2 倍以上に増大したもの,および 0.45 以下に減少し
化をフェノールレッド添加,および非添加の両培養系につ
た遺伝子を,培養液中にフェノールレッドを加えた場合と
いて ANOVA 法によって解析した結果を次に示す。
加えないで培養した場合に分けて,Table 1 と Table 2 に
上記の 4 群間で,重複分散分析(ANOVA)を用いて統
2007 年 9 月
乳癌細胞の遺伝子発現の変動
Table1
Changes in gene expression level after incubation of MCF-7 cells in the medium without phenol red
Gene
Ratea
pb
Role of the Gene
3.3
2.9
2.5
2.4
2.1
2.1
2.0
0.45
0.44
0.44
0.44
0.43
0.43
0.43
0.43
0.43
0.43
0.43
0.43
0.43
0.42
0.42
0.41
0.41
0.41
0.41
0.39
0.39
0.39
0.39
0.37
0.37
0.36
0.36
0.35
0.35
**
Cell Cycle Proteins
Transcription Factors
Heat Shock Proteins
Extracellular Communication
Oncogenes
Aspartic Proteases
Oncogenes
GTP/GDP Exchangers
Transcription Factors
Transcription Factors
Bcl Family
Cell Signaling Proteins
Cell Signaling Proteins
CDK Inhibitors
Transducers
Extracellular Communication
Symporters & Antiporters
Transcription Factors
Adenylate/Guanylate Cyclases
ABC Transporters
Protease Inhibitors
Apoptosis Proteins
Kinase Network
Transducers
Cell Signaling Proteins
Oncogenes
Kinase Network
Transcription Factors
Transcription Factors
Oncogenes
Cell Adhesion Receptors
Interleukins
Interleukins
Cell Signaling Proteins
Transducers
Transducers
PFDN4
RPL6
HSP27
TMSB4X
c-jun
CTSD
c-fos
oligophrenin 1
CADB
HLF
BCL2L2
HTR1A
neurexin III alpha
PAX3
FRAP
follistatin-related protein
peptide transporter 1
OTF2
HPDE4A6
ABC8
acrosin
CAP3
JAK3
NTRK3
NET
EAR3
PKCA
GABPA
transcription elongation factor SII
erbB2
ITGA6
IL3
IL4RA
proenkephalin B
IKAP
ALK
*
41
: p < 0.05
**
: p < 0.01
*
**
ns
ns
ns
*
ns
ns
**
*
*
ns
ns
ns
**
ns
ns
ns
**
ns
*
ns
ns
*
**
*
**
ns
**
ns
**
ns
*
*
ns
ns : not significant
a. the change in the gene expression level after the incubation
b. the p values derived from Student's t-test
計処理を行った。その結果,フェノールレッドの添加と,
たもので,この数字が 1 より小さいとき,フェノールレッ
培養期間に交互作用があった遺伝子は,p < 0.01 では 11
ド添加群での発現量が非添加群よりも低い,すなわちフェ
個,p < 0.03 では 31 個,p < 0.05 では 57 個であった。今
ノールレッド添加により,当該遺伝子の発現が抑制される
回は p < 0.03 で交互作用ありとされた遺伝子について検
ということを示し,逆に 1 よりも大きい場合は,当該遺伝
討した。
子の発現がフェノールレッドの添加によって増大するとい
これらの 4 群における変動を D-Ratio で示した。方法の
うことを意味する。p < 0.03 で交互作用ありとされた遺伝
項でも示したが,これはフェノール含有群における当該遺
子について classification ごとに,D-Ratio の値と遺伝子名
伝子発現度の培養による変動率を同非含有群のそれで除し
を列挙した(Table 3)。
42
杏林医会誌 38 巻 2・3 号
権 藤 秀 樹 ほか
Table2
Changes in gene expression level after incubation of MCF-7 cells in the medium with phenol red
Gene
Ratea
pb
Role of the Gene
CREB2
ADORA1
HSP27
parathymosin
CDKN1A
TMSB4X
ACT
NT3
TMSB10
GNAS1
TNFSF5
GSK3-beta
GADD153
fli1
ACHE
bystin
ost
ICAM2
MMP11
CYP2C9
glutaredoxin
AMPK
prohibitin
KRAS2
MMP14
IL2RA
JAK3
FLT3LG
B-MYB
NAD(P)H dehydrogenase
XPC
SCYA5
IGFBP1
semaphorin
ITGAL
TGFB
4.8
2.8
2.6
2.6
2.5
2.4
2.4
2.4
2.3
2.3
2.1
2.1
2.1
2.0
2.0
0.45
0.45
0.44
0.44
0.44
0.44
0.44
0.43
0.43
0.43
0.42
0.42
0.41
0.41
0.41
0.39
0.37
0.37
0.35
0.28
0.28
*
Transcription Activators
Death Receptors
Heat Shock Proteins
Communication Proteins
CDK Inhibitors
Extracellular Communication
Protease Inhibitors
Cell Signaling Proteins
Cytokines
Transcription Factors
Death Receptor Ligands
Kinase Network
Apoptosis Proteins
Transcription Activators
Cell Signaling Proteins
Cell Adhesion Proteins
Cytokines
Cell Adhesion Receptors
Oncogenes
Xenobiotic Metabolism
Xenobiotic Metabolism
Kinase Network
Oncogenes
Oncogenes
Metalloproteinases
Interleukin Receptors
Kinase Network
Apoptosis Proteins
Oncogenes
Stress Response Proteins
DNA Damage Repair
Cytokines
Cytokines
Cell Adhesion Receptors
Cell Adhesion Receptors
Cytokines
*
: p < 0.05
**
: p < 0.01
ns
**
*
ns
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
ns
*
ns
**
*
*
*
*
ns
ns
ns
ns
**
*
**
ns
ns
ns
**
ns
ns : not significant
a. the change in the gene expression level after the incubation
b. the p values derived from Student's t-test
フェノールレッド添加によって発現が増大した遺伝子,
も発現度が高く,平均値で約 1.8 倍であったが,late log
すなわち D-Ratio が 1 より大きい遺伝子は,p < 0.03 で交
phase では逆転し,P 群の発現度は NP 群のそれの約 2.4
互作用ありとされた 31 個の遺伝子のうち,20 個(64%)
倍になっていた。P 群の late log phase での発現度は ear-
であった。
シグナル伝達因子関連の遺伝子では 4 つの遺伝子が交互
ly log phase の 2.1 倍になっており,NP 群では約 0.5 倍で
あった。つまりこの ACHE 遺伝子の D-Ratio は 4.09 となり,
作用ありとされたが,D-Ratio が 1 以上であった遺伝子は
フェノールレッドによって遺伝子発現が増大することが示
3 つであった。そのうちの 1 つである ACHE(acetylcholin-
さ れ た。proenkephalin B の 遺 伝 子 発 現 度 は,P 群 で は
esterase)は,early log phase では NP 群の方が P 群より
early log phase から late log phase を通してほとんど変化
2007 年 9 月
乳癌細胞の遺伝子発現の変動
Table3
43
Differences in the expression level of the genes in the MCF-7 cells with or without phenol red.
Gene Group
n
D-Ratio a ≧ 1
valuec
Adenylate/Guanylate Cyclases
17
CAM-PDE1A
2.37
Cell Cycle-Regulating Kinases
33
CDK5
1.38
113
HTR1D
proenkephalin B
ACHE
2.41
2.64
4.09
CD4 antigen
1.75
Cell Signaling Extracellular Communication Proteins
Cell Surface Antigens
8
Cell-Cell Adhesion Receptors
34
DNA Polymerases
21
Facilitated Diffusion Proteins
11
SLC2A1
1.76
G Proteins
20
RAP1B
1.92
Growth Factor & Cytokine, Chemokine Receptors
88
EDNRA
EBI3
3.21
1.53
7
HSP27
1.05
Intracellular Kinase Network Members
17
tnk1
PRKAR2A
GSK3-beta
1.55
2.28
4.47
Intracellular Transducers, Effectors & Modulators
38
HEK
1.72
Oncogenes & Tumor Suppressors
94
EAR3
erbB2
2.45
3.75
Other Intracellular Transducers, Effectors & Modulators
13
ZYX
1.7
Transcription Activators & Repressors
86
relB
TEF1
1.91
2.62
Heat Shock Proteins
Other Stress Response Proteins
Total
6
606
20
D-Ratio < 1
Value
COMT
0.51
ICAM2
ITGAL
PCNA
0.58
0.44
0.56
TGF-beta3
0.51
B-MYB
neogenin
c-fos
0.37
0.48
0.4
BARD1
IRF2
0.37
0.39
MPV17
0.58
11
a. D-Ratio, Differential Ratio, the values obtained from the Expression Rateb in the gene expression level in MCF-7 cells
cultured with phenol red divided by that cultured without phenol red. The smaller the ratio indicates the higher the
increment of the expression level of the gene in the cells cultured with phenol red. b. The Expression Rates were calculated by the expression levels in the cell harvested in the late log phase divided by those obtained in the early log phase.
c. Value is the calculated actual value of D-Ratio.
はないが,NP 群では late log phase にかけて,約 1/3 に
にかけて,P 群の発現度にはあまり変化はないのに対し,
減少した。このため D-Ratio は 2.64 であった(Fig. 4)。
NP 群は約 0.5 倍に低下していた。このときの発現度は,
HTR1D(5-hydroxytryptamine receptor 1D receptor)で
P 群 の 0.7 倍 で あ っ た。D-Ratio は 1.91 と な っ た。TEF1
は,NP 群では時間経過とともに,遺伝子発現度が約 0.6
(transcriptional enhancer factor)でも early log phase で
倍に低下したが,P 群では逆に低下はみられず,1.3 倍程
は,NP 群の遺伝子発現度は P 群よりは高く,約 1.2 倍で
度の増大にとどまっていた。D-Ratio は 2.41 であった(Fig.
あるが,late log phase では NP 群の遺伝子発現度は,約
5)。
1/2 に減少し,逆に P 群の遺伝子発現度は 1.2 倍に増大し
転写調節に関与するアクチベーターの遺伝子群では,4
つの遺伝子が交互作用ありとされた。そのうち 2 つが
たので late log phase では,P 群の遺伝子発現度は NP 群
の約 2.1 倍になっていた。D-Ratio は 2.62 を示した。
D-Ratio が 1 より大きいものであった。RelB(transcription
ここで,フェノールレッド添加培養群での発現が非添加
factor relB)の発現度は,early log phase では NP 群の方
培養群の発現より大きかった遺伝子名を列挙すると,次の
が高く,P 群の約 1.4 倍であった。しかし,late log phase
通りである。
44
権 藤 秀 樹 ほか
杏林医会誌 38 巻 2・3 号
Fig.4 Effect of phenol red on the expression of proenkephalin B gene. Total RNA extracted from MCF7 cells cultured with(■)or without(●)phenol red were transcripted to[33P]-labeled cDNA
probes by the reverse-transcription and the probes were hybridized with Nylon-membrane
cDNA expression array at 68 ℃ for 16 hrs. The arrays were analyzed by an Image Analyzing
System. Results expressed on the figure indicate the mean +/- SD in triplicates.
Fig.5 Effect of phenol red on the expression of HTR1D gene. The procedure of the experiment and
symbols are same as indicated in the legends to Fig. 4
CAM-PDE1A,CDK5,HTR1D,proenkephalin B,
現度であるが,late log phase では 0.7 倍に減少し,NP 群
ACHE,CD4 antigen ,SLC2A1,RAP1B,EBI3,EDN-
の約 0.8 倍となった。NP 群では late log phase には early
RA,HSP27,tnk1,PRKAR2A,GSK3-beta,HEK,
log phase の 1.5 倍の発現度を示している。その結果,D-
EAR3,erbB2,ZYX,relB,TEF1 であった。
Ratio は 0.51 となった。
D-Ratio が 1 より小さい遺伝子は,交互作用ありとされ
た 31 個の遺伝子のうち 11 個(36%)認められた。
転写因子アクチベーター BARD1(BRCA1-associated
ring domain protein 1)の遺伝子発現は,early log phase
Extracellular Communication Proteins で あ る COMT
に お い て は,P 群 は NP 群 の 2.1 倍 で あ っ た。late log
遺伝子は,early log phase では P 群は NP 群の 1.6 倍の発
phase では,P 群は early log phase での発現度の約 0.5 倍
2007 年 9 月
乳癌細胞の遺伝子発現の変動
45
Fig.6 Effect of phenol red on the expression of BRAD1 gene. The procedure of the experiment and
symbols are same as indicated in the legends to Fig. 4
に減少した。一方,NP 群では,逆に発現度が約 1.6 倍に
レッドの濃度は,通常よく用いられる市販の DMEM 培地
増大した。そのため,NP 群は P 群の発現度の 1.3 倍となっ
に含まれている濃度とした。より低濃度等についても検討
ていた。D-Ratio は 0.37(Fig. 6)。また,IRF2(interferon
する必要があるが,低濃度では変動が明瞭にならないこと
regulatory factor 2)遺伝子は early log phase における P
が予想されたので,実験の性質上,今回は行うことができ
群 の 発 現 度 が NP 群 の 約 1.8 倍 を 示 し て い る。late log
なかった。
phase ではそれが逆転し,NP 群の発現度が P 群の約 1.4
まず,同一培養系の早期と晩期の遺伝子発現に着目した
倍になっていた。P 群と NP 群の遺伝子発現度は,それぞ
Table 1,2 についてであるが,フェノールレッド添加培
れ early log phase の発現度の,約 0.6 倍,1.6 倍になって
養群においてアポトーシスに関連する遺伝子が 2 つ挙げら
いた。D-Ratio は 0.39 であった。
れているが,一つは抑制されているが有意ではなく,もう
フェノールレッド添加によって発現の抑制がみられた遺
一つは 2.1 倍に発現が亢進しており p = 0.01 であり有意と
伝 子 を 列 挙 す る と,COMT,ITGAL,ICAM2,PCNA,
考えられる。フェノールレッドによってアポトーシスは抑
TGFB3,B-MYB,c-fos proto-oncogene,neogenin,
制されると思われたが,この分析では逆の結果が示唆され
MPV17 protein,BARD1,IRF2 であった。
た。また細胞シグナルに関する遺伝子では,NP 群では
考 察
ヒト乳癌のうち約 2/3 がエストロゲンレセプター(ER)
late log phase で発現が亢進した遺伝子はなく抑制された
遺伝子が 4 つあり,P 群では抑制された遺伝子がなく亢進
しているものが 2 つ認められいずれも有意であると考えら
が陽性であるといわれている 。エストロゲンが高い親和
れた。フェノールレッドによって細胞の代謝回転が亢進し
性でもって,リガンド誘導性の核内レセプターである ER
ていると考えられる。細胞接着因子はいずれの系でも抑制
11)
に作用する ため,ER 陽性乳癌細胞はエストロゲン存在
されており亢進したものは認められなかったが,NP 群で
下においては,細胞増殖速度が亢進すると考えられる13,14)。
は 4 つの遺伝子が抑制されておりそのうち 3 つが有意で
本実験系においては,エストロゲン様作用を有するといわ
あった。フェノールレッドによって細胞の遊走能が亢進す
れている化学物質,フェノールレッドが,細胞増殖速度を
ることが予想される。これは後述の ANOVA でも認めら
亢進させることが考えられた。通常,MCF-7 細胞などの
れた現象である。
12)
ER(+)の細胞を培養する際には,FCS 中のエストロゲ
本実験におけるフェノールレッドによる影響は,あくま
ンを非動化する操作を行うが,今回の実験では行わなかっ
でフェノールレッド非添加培養群というコントロールとの
た。FCS に微量に含まれるエストロゲンの影響は対照群
比較である。フェノールレッド添加培養群での早期と晩期
にも生じており,本実験においては,それらの誤差を差し
の遺伝子発現の差は認められなくても,フェノールレッド
引いた,フェノールレッドの影響のみによる遺伝子変動を
非添加培養群の晩期では遺伝子発現が低下している場合も
表した結果が得られているものと考えられる。フェノール
ある。したがって,フェノールレッド添加,非添加群の培
46
権 藤 秀 樹 ほか
杏林医会誌 38 巻 2・3 号
養細胞それぞれの,培養早期と晩期の計 4 群について解析
現は,予後不良が示唆される因子である31)。癌組織は,正
を 行 う こ と が 重 要 で あ る。 次 に こ れ ら 4 群 に つ い て,
常細胞よりも糖代謝が活発である理由の一つと考えられ
ANOVA 法による重複分散分析を行った結果について考
る32)。D-Ratio は 1.76 であり,フェノールレッドの影響に
察する。
よって遺伝子発現が増大しているということは,これらの
p < 0.03 では交互作用ありとされなかった遺伝子でも,
報告を裏付けるものであると考えられる。
p < 0.05 では 57 遺伝子もあるのですべてを列挙すること
HSP27 は,文字通り熱ショックや中毒,酸化ストレス
はできない。その一つの指標として Differential Ratio(D-
に反応して増加すると言われる33)。リン酸化された HSP27
Ratio)を設定した。D-Ratio が 1 以上,つまりフェノール
の蓄積は,細胞がストレスから回復してきたことを意味し
レッドによって遺伝子発現が増大したものが 20 個,その
ている34)。フェノールレッドによってこの遺伝子の発現度
反対に D-Ratio が 1 より小さい遺伝子は発現が抑制された
が増大しているということは,フェノールレッドという外
もので 11 個であった。このようにフェノールレッドによっ
部因子による刺激によって,本遺伝子の発現が増大し,そ
て発現が増大した遺伝子が約 65%と多かったが,一方で
の結果,細胞がアポトーシスに陥りにくく,より増殖に有
約 35%の遺伝子では,その発現が late log phase では低下
利な状態にあることを示すものと考えられる。
tnk1 は,胎児の発育には欠かせない物質であり,臍帯
することが明らかになった。
1)フェノールレッドによって遺伝子発現が増大した遺
血や骨髄,白血病細胞系列に認められるが,成人の組織で
は,精巣,前立腺,卵巣,小腸でしか認められないとい
伝子
CAM-PDE1A は,cAMP を水酸化して 5'-AMP に変換
う35)。この遺伝子の発現が増大するということは,細胞分
する酵素で,セカンドメッセンジャーの調節に用いられる
裂が活発であることを示唆すると思われるが,tnk1 遺伝
酵素である 。
子と乳癌との関係を指摘した文献は,検索した範囲では存
17)
本アレー上に存在する 22 の G タンパクに関する遺伝子
のうち,RAP1B 遺伝子が交互作用ありとされた。D-Ratio
は 1.92 で,フェノールレッドによりその発現が増大する
在しない。この tnk1 の発現増大は,注目すべき結果と考
えられる。
現在,乳癌に対して臨床使用されている分子標的薬とい
ことが示唆された。細胞が外的刺激を受けると,G タンパ
われる trastuzumab は,一部の乳癌細胞に過剰発現して
クが活性化され,次いで前出の PDE(phosphodiesterase)
いるといわれる HER-2/neu 遺伝子の,遺伝子外部分のモ
が活性化されて,cAMP/cGMP の濃度を下げ,細胞膜の
ノクローン抗体で,過剰発現を抑制する。この HER-2 は
Na チャネルを閉じる。RAP1B は,PKA(cAMP-dependent
膜受容体型チロシンキナーゼである12)。今回の実験におい
kinase)を介してリン酸化される18,19)。フェノールレッド
て,HER-2 /neu 遺伝子は p < 0.03 レベルにおいて交互作
はこれらの経路に作用することによって,外部からの刺激
用ありと認められ,D-Ratio は 3.75 で,フェノールレッド
を抑制しつつ,内部的には細胞増殖機能を活性化している
によりその発現が増大していた。フェノールレッドのよう
ことが推定される。
な外的因子には,このチロシンキナーゼ情報伝達系を活性
HTR1D は , 神経伝達物質であるセロトニンの受容体で,
G タンパクと結合しており,cAMP や IP3 を調節し,主
化する作用があると考えられる。
cAMP-dependent protein kinase は,二つの regulatory
に中枢神経,および末梢神経に認められる 。D-Ratio は
subunits(R)と二つの catalytic subunits(C)より成り立っ
2.41 と,フェノールレッドによってその発現が増大してい
ている36)。C サブユニットがホルモン刺激に反応して,タ
ることを示しているが,乳癌との関係については,検索し
ンパク質のセリン / スレオニン残基をリン酸化するが,R
た範囲では報告はみられなかった。しかし,乳癌と同じく
サブユニットが細胞の機能面を調節していると言われてい
ホルモン依存性腫瘍である前立腺癌の細胞系列に,HTR
る37)。本アレー上に搭載されている遺伝子は PRKAR2A
のサブタイプである,5-HTR1A と 1B が発現しており,
であり,R サブユニット部分の遺伝子である。D-Ratio は
さらにこのアンタゴニストによって細胞増殖が抑えられた
2.28 で,フェノールレッドによりその発現が増大している
ことは,興味深い知見である21)。
ことが確認された。細胞増殖亢進による,活発なシグナル
20)
ACHE は,神経伝達物質であるアセチルコリンを分解
伝達を反映しているものと思われる。
して不活化する酵素であるが,白血病 22)や卵巣癌 23)の細
GSK-3 は数種類の基質に作用するプロテインキナーゼで
胞にも認められることが報告されるようになり,近年,乳
あ る が, そ の 中 に 先 述 の PRKAR2 も 含 ま れ て い る38)。
癌組織にも認められることが報告されている 。
GSK-3 遺伝子の D-Ratio は 0.22 であり,フェノールレッド
24)
SLC2A1 はグルコーストランスポーターであり,消化
によって cAMP-dependent protein kinase を介したシグ
管 25,26)をはじめ,肺 27,28),膀胱 29,30)などの癌組織にも発現
ナル伝達が活発化していることを示唆する重要な知見と考
が報告されている。乳癌組織にも認められ,本遺伝子の発
えられる。因みに,GSK-3 はチロシンキナーゼによって活
2007 年 9 月
乳癌細胞の遺伝子発現の変動
47
性化され,MAP キナーゼによって不活性化されるとい
表面の TGF-βⅡ型受容体を持たないからである。乳癌細
う39)。
胞の増殖機序に重要な役割を果たす成長因子であるだけに,
細胞質内に存在する転写因子である rel は,シグナル伝
興味深いところである。
達を受けると核内に移動して,κB に相当する部位に結合
BRCA1 は腫瘍抑制遺伝子で,その変異は家族性乳癌に
,relB(I-rel)は p50 と二量体を形成して DNA
関係するものとして有名であるが 55),この遺伝子の産生す
するが
40)
との結合せず,NF κ B による転写を阻害する 。
41)
TEF-1 は, 筋 細 胞 に 多 く 見 ら れ る 転 写 促 進 因 子 で,
るタンパク質は,細胞周期のチェックポイントを監視する
重要な物質である。BARD1 は BRCA1 誘導性のアポトー
M-CAT モチーフに働きかけて転写を促進する42)。乳癌発
シスを,ユビキチンリガーゼを付加することで阻止してい
,今回の我々の実験
る56)。D-Ratio が 0.37 と,フェノールレッドによって遺伝
でも,フェノールレッドによる癌細胞増殖に関与している
子発現が著しく抑制されているが,アポトーシスを阻止す
ことも考えられる。
ることで,細胞増殖に有利に働くことが考えられる。
生に関与しているとの指摘もあり
43,
44)
2)フェノールレッドにより遺伝子発現が抑制される遺
伝子
COMT は,カテコラミンをメチル化して代謝する酵素
結
論
フェノールレッドが MCF-7 培養細胞に与える影響を,
である。COMT 活性の低下,あるいは COMT 遺伝子多型
増殖速度と cDNA アレーにおける遺伝子発現の差異をあ
と乳癌発生率の増加は古くから指摘されている45,46)。その
わせて検討した。その結果,フェノールレッドは細胞増殖
理由として,エストロゲンの代謝産物である,カテコール
速度を亢進させると考えられ,転写因子,およびシグナル
エストロゲンの代謝が COMT によって行われるため,こ
伝達に関する遺伝子群に影響を与えることが示唆された。
の酵素の活性の低下が,エストロゲンによる腫瘍発生を促
本法はデンシメトリーによる検証を行っており,半定量
すと指摘されている47)。D-Ratio は 0.51 であることから,
的なものである。今回は別法による定量は実施できなかっ
フェノールレッドには COMT の発現を抑制して腫瘍増殖
たが,今後の研究課題としたいと考えている。
を助長することを示すものと考えられる。
ITGAL(LFA-1) は 細 胞 膜 に 存 在 す る 糖 蛋 白 で,
ICAM-1(intracellular adhesion molecule)と結合する細
胞接着因子である48)。本アレーでは,ICAM-2 が有意差あ
りとなっているが,同じインテグリン受容体に作用する。
この二つの遺伝子は,フェノールレッドにより,発現が著
しく抑制されているが,細胞分化を抑え,細胞増殖に傾い
ているものと思われる。細胞接着因子の現象は,細胞の遊
動性を高めるものと考えられる。
正常乳腺細胞は,autocrine や間葉系組織からの paracrine によって増殖する。これらのホルモンにはエストロ
ゲンをはじめ,アンドロゲン,プロラクチン,IGF-1,2,
EGF,TGF-αなどが含まれる49⊖51)。一方,TGF-βは乳腺
上皮細胞の増殖を抑制すると言われている52)。本実験系に
おける TGF-β3 の D-Ratio は 0.51 で,フェノールレッド
によってその遺伝子発現が抑制されており,細胞増殖亢進
のために合目的であるように思われる。しかし,既報 52)に
よれば,エストロゲンは MCF-7 細胞からの TGF- βの分
泌 を 促 進 さ せ る と い う。TGF-βは,EGFR(epidermal
growth factor receptor)の存在下で,血管内皮細胞を安
定化させることで血管新生を促進し,腫瘍の増大の一因で
あるとも考えられている 53)。フェノールレッドがエストロ
ゲン受容体に作用することは先述のとおりであるが,遺伝
子レベルで観察すると実際のエストロゲンとは,作用に差
異があるのかもしれない。一説によれば,MCF-7 細胞は,
TGF-βによる,成長抑制に抵抗性であるという54)。細胞
文
献
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権 藤 秀 樹 ほか
杏林医会誌 38 巻 2・3 号
J Kyorin Med Soc 38:37—50,2007
The Alternation In Cell Proliferation Potency and the Differential Gene Expression
in MCF-7 Cell Induced by the Administration of Phenol Red
Hideki GONDO, Katsumi TSUCHIYA, Tetsuo SAKAI,
Shinya NAGAMATSU, and Akira WAKIZAKA
Department of Biochemistry II, Kyorin University School of Medicine
To clearify the mechanism of breast cancer prolifera-
with or without phenol red at the level of p < 0.03. In
tion under the influence of estrogen, we adopted a model
the signal transduction-related genes, the expressions of
system of MCF-7 cell line and phenol red in culture.
HTR1D, proenkephalin B, and ACHE gene were up-regu-
MCF-7 cells were cultured with or without phenol red
lated, and COMT was down-regulated in the presence of
and harvested in the early logarithmic phase and in the
phenol red. Concerning the transcription activators, the
late logarithmic phase. From these specific four groups
expressions of relB and TEF1 were reinforced by phenol
of cells were extracted mRNA. The obtained mRNA
red, while BARD1 and IRF2 gene were contrarily re-
specimens were transcripted to [ 33P]-labeled cDNA
pressed. These changes in gene expression, especially in
probes, which were hybridized to cDNA array arranged
the cellular signaling and transcriptional regulator ap-
on a nylon membrane. In the 1176 genes on the array
pear to be one of the cause of the malignant exacerba-
analyzed by ANOVA, thirty one genes were significantly
tion of the cancer.
different with each other between the two cell cultures
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