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2 - 内閣府経済社会総合研究所

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2 - 内閣府経済社会総合研究所
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内閣府経済社会総合研究所委託事業
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第 3 章 事例研究2「フランス fnac 社のケース:
「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
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国際間にまたがるサプライ・チェーン・マネジメント」
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:プロセス整備と組織間関係の形成
第二段階(
2006 年 10 月-2007 年 9 月)
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2006 年は、デジタル・カメラの世帯普及率が
50%に近づき、市場全体としては横ばいの
460 万台となった
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が、ハイ・ズーム、デジタル一眼レフといった商品カテゴリーが大幅に伸びた。
2007 年には、500 万台の市
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場規模に達した。市場が拡大するにつれ、各企業は価格下落という厳しい状況に直面していた。
2006 年 9 月、
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fnac と Panasonic
の会議が、ドイツで行われた。この際の議論のポイントは、販売、在庫、欠品率、リード
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タイムという面より反省した上で、サプライチェーンの仕組みを自動補充(AA: Automatic Availability)か
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ら、販売数量予想値を加えたシステム(CPFR: Collaboration Planning Forecasting and Replenishment) へ
の変更の必要性についてであった。
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図 3-4: Panasonic と fnac 間の CPFR システム
Panasonic からの商品説明も、これまでのようなパソコン上のプレゼンテーションではなく、具体的なサン
プルを基に意見交換を行うように変更した。fnac からの情報も、コンセプト的なものではなく、他社動向を
踏まえた上での製品の競争力評価や売れ筋モデル、画素数、LCD 画面の大きさなど、製品トレンドについて
もオープンなものとなった。情報共有を通じて、年間の販売ターゲット、週次季節係数、プロモーション案を
具体化するようになった。出された案を基に、広角、ハイ・ズーム、手振れ防止機能を搭載した Panasonic の
2007 年春モデルが出来上がったのである。
こうしたさまざまな会議を通じて構築されたサプライチェーンの仕組みにより、fnac と Panasonic の間で
合意した販売ターゲットをベースに、日本の製造工場と自動補充システムを直結し、fnac への供給優先権を
世界トップレベルに上げていく CPFR の自動補充システムが 2006 年 10 月からスタートした。これによって、
新モデルの切り替え時期に関係なく、年間の欠品率を 2%前後(当時の fnac の平均は 10%前後であった)にコ
ンスタントに抑えることが出来るようになった。加えて、先行確定注文のリードタイムも、 2ヶ月から 1ヶ月
に、4ヶ月先の数量確保も可能になった。2006 年 10 月以降、Panasonic のデジタル・カメラは必要なときに
必要なだけ供給されるため安心して販売できるという信頼感が fnac 内に生まれ、店舗店員も消費者に対して
製造業研究会 2009 年度報告書
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第 3 章 事例研究2「フランス fnac 社のケース:
「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
国際間にまたがるサプライ・チェーン・マネジメント」
積極的な販売活動が行われるようになった。2006 年 11 月、fnac は、25 歳から 60 歳までの fnac 会員を対象
に、デジタル・カメラの色、デザイン、機能についてのグループ・インタビュ−を実施した。その結果、色展
開と薄型でスタイリッシュなデザイン性が購買意思決定上、重要な要因となることが分かった。
この調査結果をもとに、商品に関する会議が 2006 年 11 月末に行われた。会議では、2007 年上期の戦略とし
て、fnac より、LumixFX12K とキャリングケース SD 1 GO を組み合わせたパッケージ化の要望が出た。fnac
パックと呼ばれるパッケージ化された流通ブランド製品の提案であった。Panasonic からも、店舗販売店員向
けに製品のデモンストレーションの仕方や販売促進用の器具を具体的に提案した。こうして 2007 年春新商品
導入に向けた協働販促活動の基本的方向性・枠組みが決定していった。
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Panasonic と fnac 間の CPFR システムの需要予測事例
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さらに 2006 年 12 月、サプライ・チェーンの仕組みについて、週次レベルでのよりスムーズな仕入れ台数決
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定を支援するために、情報を可視化する IT ツール(Web 上の検索)が Panasonic から fnac に提案された。こ
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のツールを図 3-4 に示しているが、Panasonic の販売計画と fnac の実需計画の相違や販売見通しと実績の差異
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推移をリアルタイムで確認するためのものであった(図 3-5 に需要予想の事例を示している)。Panasonic は、
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過去の fnac
実需データ、2 年分の履歴を分析し、季節性などを加味して年間の週次ベースの変動率、トレンド
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性、広告・販促・価格調整等による増販のパターンを把握等の需要予測の精度を上げる仕組み作りを強化して
いった。このように、生産から流通に至るサプライチェーンの構築を通じて、両社の信頼関係は更に深まって
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このように、fnac と Panasonic は、2005 年から 2007 年にかけて、サプライチェーンの構築のために、双方
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の情報を共有した後で、異なる組織間で同じ意味付けが出来るよう、会社、および、担当者間の置かれている
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状況、課題等について多くの公式・非公式な意見交換の場を設け、頻繁に双方向のコミュニケーションをとる
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よう心がけた。その間、情報交換としての会議を 54 回、行ってきた(2005 年:上期 22 回、下期 10 回、2006
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年:上期
9 回、下期
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回)
。このようにして構築されたサプライチェーンの仕組みの結果、広角、ハイ・ズー
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ム、手振れ防止機能を搭載した
2007 年、春モデルが 400 ユーロ以上の高価格にも拘わらず、発売後
4ヶ月間、
フランス市場でトップ・シェアとなった。
Panasonic としては初めてのことであった。こうして
2007 年度の
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fnac への販売台数は、
20 万台を越えるようになった。
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第 3 章 事例研究2「フランス fnac 社のケース:
「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
国際間にまたがるサプライ・チェーン・マネジメント」
3-6
製品評価の仕組みと顧客への開示
fnac と Panasonic は、国際間にまたがる自動発注システムの限界を感じ、実需創造のための新たな仕組みを
構築した。1台売れれば1台作って追加するという、自動発注の仕組みでは製品ライフサイクルが短く、しか
も、価格変動の激しいデジタル・カメラでは上手く機能しないことを両社は感じていた。そこで、両社が考え
たのは、予測を入れたサプライ・チェーンの仕組みであった。Panasonic は、サプライチェーンの予測確率を
上げる必要性があり、そのためには、実需を発起するための更なる仕組みが必要と強く感じていたのである。
そこで再認識されたのが、fnac が持つ製品評価とその結果を公表する Dossier の仕組みであった。本章では、
fnac が発売前に行う製品評価とその評価結果を消費者に開示する仕組みが市場シェアに大きな影響を与えるこ
とを説明する。次に、高い市場シェアを獲得することが発注数量の予想確率の向上につながり、欠品・在庫率
の改善につながることを示す。
3-6-1
製品評価システムと市場シェア
fnac は、1950 年代の会社創業以来、自社で販売する製品の評価を行い、その結果を Dossier という冊子を
発刊し消費者に公開している。評価対象となる製品数は、年間、1,500 にも及ぶ。この Dossier は年に2回、
それぞれ 2,000 万部、発行される。製品評価は、消費者の視点に基づいた実用的な項目が設定されており、最
終的に4つ星を最高得点にした星の数で評価される。こうした評価は、納入企業よりプロトタイプの提供を受
け、評価される。発売前に製品評価を行うために、製品の売れ行きに大きな影響を与えている。
この評価システムが市場に与える影響を確認してみよう。図 3-6 は、2004 年下期より 2008 年上期の期間内
に、日本企業 5 社、韓国企業1社の合計 6 社が星を獲得した製品数の推移と、その期の市場シェアが示されて
いる。市場シェアは、GFK 社のフランス市場調査結果より、企業別の星の数の製品数は各年の Dossier より
抽出した。図より、Panasonic と Canon が4つ星の製品を多く獲得していることが分かる。こうした星の数
は, 製品の販売実績とどのような因果関係があるのであろうか。図より明らかなことは、fnac から高い評価を
受けることにより、製品認知度が高まり、実需が発起されることである。その結果、高い評価を受けた製品の
市場シェアが上っている。
2003 年のフランス市場への参入時から 2005 年までは、Panasonic は fnac の注文以前に見込みで生産を決
め、ドイツにある配送センターでヨーロッパ市場への在庫管理を行っていた。一方、デジタル・カメラ市場は
成長期にあり、市場拡大とともに機種数、数量、市場投入タイミングの予想が重要な案件になってきた。旧製
品から新製品への切り替えは、製品開発と生産の間で一義的に決められる問題である。しかし、fnac とのサプ
ライ・チェーンが構築され、こうした意思決定にも fnac の意見は大きな影響を与えるようになった。
具体的には、fnac の製品評価結果が製品開発の質を高め、売れる製品が市場投入される確率が上がることに
より、Panasonic の生産現場での在庫が削減された可能性が考えられる。このように、精度が高い市場情報を
反映させた新製品は、市場投入前後の需要の推定確率が上がり、欠品、在庫の問題が解消されるのではないか
と考えることができるのである。
fnac は、流通企業として2つの特徴ある仕組みを有している。まず、販売する製品を自社独自の視点で評価
し消費者に独自のカタログ(Dossier)を作成・公開し、さらに、自社の会員に対して優良製品を特別な価格
で提供する仕組みである。Panasonic は、フランス市場に参入した 2003 年当初は、製品開発プロセスとして
自社内部で評価した売れ筋製品を導入していたが、それは、フランス市場独自の顧客要求を正確に把握する手
段がなかったためである。そこで、fnac の持つ評価システムへの同期が極めて有効であると考え、2005 年よ
り、fnac の評価の中では最高ランクである4つ星を獲得することを製品開発の重要課題とした。そのために
Panasonic 製品開発エンジニアの fnac 担当者とのミーティング回数の増加、fnac のさまざまな部門のマネー
ジャーを日本の製品開発・生産現場に招き、試作段階の製品に対する意見交換の機会を積極的に増やすことに
より、Panasonic、fnac ともに、製品開発段階において顧客満足度を向上させる仕組みが出来上がっていった。
製造業研究会 2009 年度報告書
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第 3 章 事例研究2「フランス fnac 社のケース:
「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
国際間にまたがるサプライ・チェーン・マネジメント」
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12.62 %
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図 3-6: fnac の評価と市場シェア
製造業研究会 2009 年度報告書
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29
内閣府経済社会総合研究所委託事業
第 3 章 事例研究2「フランス fnac 社のケース:
「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
国際間にまたがるサプライ・チェーン・マネジメント」
このような経緯を示したのが表 3-1 である。表 3-1 は図 3-6 のうち、Panasonic の部分について焦点を当て
たものであり、こうした取り組みが行われた 2005 年から 2007 年にかけて、Panasonic のデジタル・カメラが
fnac の評価によって獲得した 4 つ星と3つ星製品の機種数の推移と、Panasonic 内の在庫日数、欠品率、製品
リードタイム、市場シェアを対比させたものである。Panasonic の製品の 4 つ星獲得数は、2005 年からの3
年間で 6、9、12 機種へと増加するとともに、市場シェアは大きく増加している。さらに、在庫日数、欠品率、
製品リードタイムといった生産に関わる指標も大きな改善が進んでいることが分かる。つまり、マーケティン
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グ、製品開発、生産を同期化させることにより
Panasonic と fnac が構築するサプライ・チェーンの精度が高
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められた結果、市場シェアの拡大につながったと考えることができる。
䈫䈮䉋䉍䇮䈠䉏䈡䉏䈱ળ␠䈫䈠䈱䉟䊮䉺䊐䉢䉟䉴䉕൮฽䈚䈢⚵❱䈱⢻ജ䈏ᩰᲑ䈮㜞䉁䈦䈢䈱䈪䈅䉎䇯㩷
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表 3-1:
製品開発と生産の関係 (Panasonic
データ)
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2007
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3
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ᓟᦼ
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19.5
22.6
16.0
22.3
5
೨- ᦼ
7
ᓟ
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8.0
5.4
11.0
5.4
2.1
1.4
16.0
13.0
10.3
6.7
6.7
6.7
1.8
2.8
5.5
9.9
14.9
14.7
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䎖䎑䎜䎃䎈
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䮎䯃䮆䯵䎃
3-2: リードタイム・在庫・欠品率の推移(
fnac データ)
䬽ਥ૕
ᰳຠ₸ 䎋䎈䎌䎃䯴䰒␠䯵
㩷 䰂䯺䭍䬷䭐䎃
㩷 㩷 㪽㫅㪸㪺 䉕ਛᔃ䈮䇮㪧㪸㫅㪸㫊㫆㫅㫀㪺 䈫᭴▽䈚䈢䊂䉳䉺䊦䊶䉦䊜䊤䈱䉰䊒䊤䉟䊶䉼䉢䊷䊮䈮䈧䈇䈩⸥ㅀ䈚䈢䇯ᧄ
fnac のマーケティングと
Panasonic の生産は、製品開発革新を通じて同期化されたことを示した。それ以
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䰂䯺䭍䬷䭐䎃
外にも、市場情報を通じて、fnac のマーケティングは Panasonic の生産と直接、同期化されている。表 3-2
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は、2005 年以前、
2006 年、2007 年に行われた fnac と Panasonic の製品発注の仕組みの変遷を表したもので
䊐䊤䊮䉴䈮䈍䈇䈩䉅䇮䊊䉟䊌䊷䉴䊃䉝䉇ኅ㔚㊂⽼ᐫ䈫䈇䈦䈢䊂䉞䉴䉦䉡䊮䊃᏷䈏ᄢ䈐䈇ᵹㅢ䈱ᄁ਄䈏
䉬䊷䉴䈮䈧䈇䈩䇮એਅ䈱ੑ䈧䈱ⷰὐ䉋䉍䉁䈫䉄䈩䈇䈐䈢䈇䇯㩷
ある。この表には、
fnac の在庫日数、欠品率、製品リードタイムが示されている。結果として、実需発生後、
િ䈶䈩䈇䉎䈫䈇䈉੐ታ䈏䈅䉎䇯䈖䈉䈚䈢ਛ䈪䇮䊂䉳䉺䊦ኅ㔚⵾ຠ䈱䉋䈉䈮䇮ᣂ⵾ຠ䈏ᰴ䇱䈮Ꮢ႐䈮ᛩ
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Panasonic より
fnac 店舗へ製品が納入されるまでの日数(受発注リードタイム)は、
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౉䈘䉏䉎䉋䈉䈭⵾ຠ䈱ㆬᛯၮḰ䉕㘈ቴ䈏ᜬ䈩䈭䈒䈭䈦䈩䈇䉎䈫䈇䈉⃻⁁䉅䈅䉎䇯㪽㫅㪸㪺
䈲䇮ഃᬺᒰᤨ䉋
䊐䊤䊮䉴䈮䈍䈇䈩䉅䇮䊊䉟䊌䊷䉴䊃䉝䉇ኅ㔚㊂⽼ᐫ䈫䈇䈦䈢䊂䉞䉴䉦䉡䊮䊃᏷䈏ᄢ䈐䈇ᵹㅢ䈱ᄁ਄䈏
幅に改善されることになった。製品リードタイムの改善の結果、在庫が減り、欠品率が改善されたことにより、
䉍⾈䈦䈩䈲䈭䉌䈭䈇⵾ຠ䉕౏⴫䈜䉎䈫䈇䈉ᶖ⾌⠪䈱┙႐䈎䉌⵾ຠ䉕⷗ᭂ䉄䉎䈖䈫䈮䉋䉍䇮㘈ቴḩ⿷
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市場シェアの拡大につながったことが表より読み取れる。従来、公開できなかった情報、つまり、
fnac は発
ᐲ 㪈㪇㪇㩼䈫䈇䈉⚻༡ℂᔨ䉕ታⴕ䈚䈩䈇䉎䇯䈖䈉䈚䈢⵾ຠ䈱ㆬᛯ䈮㑐䉎ᖱႎ䉕ឭଏ䈜䉎䈖䈫䈲䇮ᵹㅢડ
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注する直前の週の POS データを、また、Panasonic は新製品の内容や投入時期を互いに開示することにより、
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コミュニケーション機会が増大し両社が入手する情報量も飛躍的に拡大したため、サプライ・チェーンの能力
ᐲ 㪈㪇㪇㩼䈫䈇䈉⚻༡ℂᔨ䉕ታⴕ䈚䈩䈇䉎䇯䈖䈉䈚䈢⵾ຠ䈱ㆬᛯ䈮㑐䉎ᖱႎ䉕ឭଏ䈜䉎䈖䈫䈲䇮ᵹㅢડ
が強化されたのである。マーケティングと生産は、市場情報の相互開示によって信頼感が醸成されたことによ
り、実需発生から店舗配送を 7 日で結合した。情報の相互開示によって高められた信頼感により、欧州配送セ
製造業研究会 2009 年度報告書
30
内閣府経済社会総合研究所委託事業
第 3 章 事例研究2「フランス fnac 社のケース:
「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
国際間にまたがるサプライ・チェーン・マネジメント」
ンター経由というバッファー的な役目を排除し、直接、マーケティングと生産を結合することにより、それぞ
れの会社とそのインタフェイスを包含した組織の能力が格段に高まったのである。
3-7
まとめ
fnac を中心に、Panasonic と構築したデジタル・カメラのサプライ・チェーンについて記述した。本ケース
について、以下の二つの観点よりまとめていきたい。
まず、一つ目の重要な観点は、fnac の持つ、製品を評価し発信する仕組みとその能力である。フランスにお
いても、ハイパーストアや家電量販店といったディスカウント幅が大きい流通の売上が伸びているという事実
がある。こうした中で、デジタル家電製品のように、新製品が次々に市場に投入されるような製品の選択基準
を顧客が持てなくなっているという現状もある。fnac は、創業当時より買ってはならない製品を公表するとい
う消費者の立場から製品を見極めることにより、顧客満足度 100%という経営理念を実行している。こうした
製品の選択に関る情報を提供することは、流通企業の基本機能である。こうした基本を、しっかりとした取組
のなかで実行している点が、本ケースの重要な点である。販売員の製品知識も浅く、メーカーから派遣される
販売員に売り場を任せる日本の家電量販店や、店舗の多くをテナントに任せるデパートと比べて、fnac の製品
を評価する仕組みは本当に良い製品を提供したいという強いメッセージを発している。こうした経営理念に共
感する固定顧客に支えられ、fnac はフランスでは、最も信頼される企業となった。
二つ目は、デジタル家電製品のように非常にライフサイクル短い製品の欠品・在庫率の改善にいかに取り組
んだのかという視点である。生産地と消費地の間にバッファーとして中継地を設け、そこに大量の在庫を持ち
ながら消費地の欠品を防ぐという仕組みは、特に、デジタル家電製品のように製品ライフサイクルが極めて速
く、なおかつ生産に手間のかかる製品では上手く機能しない。その対策として、製品の販売傾向を反映した経
験則を活かした自動発注システムのような仕組みを作る必要があるが、自社製品の販売数量が伸びなければ経
験則を築くことができないというジレンマがあった。この点に着目することにより、POS データなど販売情
報の共有だけではなく、fnac が持つ製品評価の仕組みにより、販売数量の予想確率を上げるという機能が付加
され、精度の高いサプライ・チェーン・マネジメントが実現したのである。つまり、製品開発プロセスを製品
評価プロセスに同期することにより、マーケティングの段階での製品評価の精度が上がり、それにより実需が
発生し、新製品投入タイミングを含めた製品流通の経験則が明示化できるようになり、適正な在庫日数、欠品
率、製品リードタイムが決まり、結果として市場シェアの拡大につながったのである。
製造業研究会 2009 年度報告書
31
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第4章
事例研究3「太陽光発電ビジネスの勃興」1
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松本 陽一2
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地球環境問題への関心が高まり、再生可能エネルギーが脚光を浴びている。再生可能エネルギー(
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energy)とは化石燃料や原子力とは異なり、自然環境から持続的に採取できるエネルギーのことである(日経
BP 社、2009 年)。再生可能エネルギーの源としては太陽、地熱、潮汐力などがある。太陽光発電は、太陽エ
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ネルギーを源とする再生可能エネルギーである。
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図 4-1: 再生可能エネルギーの種類
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太陽は膨大なエネルギーを発している。場所や時間によって一定ではないものの、地球上における太陽エネ
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ルギーの強度は 1 平方メートルあたり約 1kW(キロワット)である。地球の断面積は約 1 億 2700 万平方キロ
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メートルなので、地上に達する太陽エネルギーは約 127 兆 kW、1 時間あたり 127 兆 kWh になる(太陽光発
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電技術研究組合編著、
1998 年、10 頁)。国際エネルギー機関(
)の推定によれ
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ば、2007 年の世界のエネルギー供給量はおよそ
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トン換算のエネルギー量)である。石油
1 トンの熱量を 1 千万 kcal とすると、これは約 139 兆 kWh となる。
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全世界のエネルギー供給量は極めて大きいけれども、それは地球に降り注ぐ太陽エネルギーの
2 時間分にもは
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るかに満たない量である。
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この太陽光発電において、1990 年代後半から 2000 年代前半まで、日本はほぼ一貫して世界をリードしてき
た。図 4-2 は主要国の太陽光発電の導入量の推移を示している。
1995 年から 2003 年まで日本は太陽光発電の導
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入量で世界第 1 位だった。累積の導入量でも 1997 年にアメリカを抜いて世界第 1 位になった。ところが 2004
年以降、ドイツが急激に導入量を伸ばし、日本を逆転した。直近(2008 年)の導入量を見ると、日本はイタ
リア、アメリカ、韓国、スペインにも逆転された。累積の導入量では 2005 年にドイツが世界第 1 位になった。
企業の競争にも大きな変化があった。太陽光発電を担う最重要部品は太陽電池である。太陽電池が太陽光を
受けて電力を発する。この太陽電池の分野では世界的に日本企業が競争優位を誇ってきた。日本のシャープは
2000 年から 7 年連続で生産量世界首位だったものの、2007 年にその座を明け渡した。代わって世界首位の座
1 本ケースはクラス討議の教材として松本陽一(神戸大学経済経営研究所)が作成した。個別企業の経営の優劣ならびに各国の制度の
優劣を例示することを意図したものではない。
2 神戸大学経済経営研究所 講師
32
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内閣府経済社会総合研究所委託事業
「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
第 4 章 事例研究3「太陽光発電ビジネスの勃興」
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図 4-2: 主要国における太陽光発電導入量(年ごと)の推移
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についたのはドイツのQセルズ社(
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)である。日本にはシャープの他にも京セラ、三洋電機、三菱電
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機などの有力企業があるものの、軒並み順位を落としている。2008 年、国内第 2 位の京セラは世界第 6 位と
なり、世界上位 5 社にはアメリカのファースト・ソーラー、中国のサンテック・パワー、台湾のモーテック・
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インダストリーズが名を連ねている(表
4-1)。
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簡単にまとめると、太陽光発電に対する注目度が高まり、各国で太陽電池の需要が急拡大する中にあって、
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その普及を先導してきた日本および日本の太陽電池メーカーの国際的な存在感が低下している恐れがある。一
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体どのような経緯で日本は太陽光発電の先進国となり、そして今なにが起こっているのだろうか。
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表 4-1:
⴫ 太陽電池の上位メーカー
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2003 ᐕ
2004 ᐕ
2005 ᐕ
2006 ᐕ
2007 ᐕ
2008 ᐕ
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㧔323.57㧕
㧔428.30㧕
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㧔388.23㧕
㧔570.40㧕
2
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㧔105.07㧕
㧔160.61㧕
㧔252.50㧕
㧔362.10㧕
㧔504.00㧕
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㧔84.77㧕
㧔141.61㧕
㧔180.00㧕
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㧔497.50㧕
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㧔155.00㧕
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㧔384.00㧕
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出所:
『日本経済新聞』の世界シェア調査をもとに作成。括弧内の実数は生産量、単位はメガワット。サンテックはサンテック・パワー、
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ファストソはファースト・ソーラー、モーテックはモーテック・インダストリーズの意。網掛けは日本の企業。
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製造業研究会 2009 年度報告書
33
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内閣府経済社会総合研究所委託事業
「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
第 4 章 事例研究3「太陽光発電ビジネスの勃興」
4-2
太陽光発電のしくみ
太陽光発電は、太陽の光を受けた太陽電池が電力を生み出すことで成り立っている。太陽電池として広く使
われているのがシリコンを用いたタイプである。中でも多結晶シリコン太陽電池は単結晶シリコン太陽電池
よりも安価に製造できるために、最も多く使われている。その他、電卓や時計に使われてきたのがアモルファ
スシリコン太陽電池である。アモルファスシリコンや微結晶シリコンを用いた太陽電池(薄膜シリコン太陽電
池)はガラスや金属などの基板のうえに薄膜状のシリコンを成長させて作る。単結晶や多結晶といった結晶タ
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イプの太陽電池に比べてシリコンの使用量が 100 分の 1 程度に抑えられるほか、液晶ディスプレイのように大
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規模生産が可能なので低価格化しやすいというメリットがある。
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それ以外に、シリコンを用いないタイプの太陽電池の研究開発や実用化も進められている。複数の元素を用
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いた化合物半導体太陽電池はその代表例である。CdTe(カドミウム・テルライド)は、かつて公害を引き起
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こしたカドミウムを用いているために日本で生産している会社はないものの、アメリカではファースト・ソー
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ラーが手がけている。
CIGS(銅・インジウム・セレン)系の太陽電池は日本の昭和シェル石油の子会社であ
る昭和シェルソーラーや本田技研工業の子会社であるホンダソルテックが取り組んでおり、量産がスタートし
ている。さらに有機薄膜太陽電池や色素増感型太陽電池などの、次の世代の有望技術についても研究が進めら
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れている。
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出所:太和田、2008 年、124 頁、図 2 を部分的に筆者が変更。
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図 4-3: 太陽電池の種類
太陽電池の代表的な性能指標に「光電変換効率」がある。これは、受けた光のエネルギーのうち太陽電池が
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電力に変えることができる割合を表している。単結晶シリコンでは
20 %を超える製品がある。多結晶シリコ
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ンはそれよりやや劣って
15∼18 %程度である。アモルファスシリコンは 7∼10 %程度である。微結晶シリコ
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ンはアモルファスシリコンと組み合わせて多接合薄膜太陽電池にすることで
10 %程度の変換効率をえること
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ができる。CIGS 系太陽電池は 8∼12 %程度のものが市販されている(独立行政法人産業技術総合研究所太陽
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光発電研究センターのホームページを参照、2010 年 3 月 12 日閲覧)。CdTe の変換効率はおよそ 10∼11 %で
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ある。コストや変換効率などを考えると、最も優れた太陽電池の方式をひとつだけ選ぶのは難しい。
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太陽電池で生じた電気は直流(DC:Direct Current)である。普通の電気機器に使われる電気は交流(AC:
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Alternating Current)なので、これをインバーターで交流にしてから使う。日本の住宅用太陽光発電システム
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の場合、インバーターと電力網を保護するための連携保護装置がセットになったパワーコンディショナーを介
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して電気を直流から交流にする。連携保護装置は停電の際に太陽光発電装置と電力網とを遮断する機能などが
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ついている。これがないと、たとえば停電時に復旧作業を行おうとした作業員が太陽光発電からの電気によっ
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て感電する恐れがある。
製造業研究会 2009 年度報告書
34
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内閣府経済社会総合研究所委託事業
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「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
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第 4 章 事例研究3「太陽光発電ビジネスの勃興」
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交流にされた電気は家庭内の電化製品を動かす。それでも余れば電力会社によって買い取ってもらえる。そ
のため日本の住宅用太陽光発電システムには、買った電力量をはかる計器と売った電力量をはかる計器との二
つの電力量計が設置されている(図 3-4)。
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図 4-4: 日本の住宅用太陽光発電システム
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このように電力網に接続した太陽光発電システムを系統連携型と呼ぶ。それに対して、電力網に接続しない
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ものを独立型と呼ぶ。独立型のシステムは電力網の届かない離島や山間部に設置される。灯台や無線の中継基
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つに、後者は蓄電池が必要になる点がある。太陽光発電は昼間だけ発電する。その日の天気によって発電量も
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異なる。蓄電装置がなければ、よく晴れた日には発電しすぎて使い切れない電気がムダになり、雨の日には電
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4-3
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アモルファスシリコン太陽電池の発明と実用化
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太陽電池は 19 世紀には発明されていた。現在、広く使われているシリコン太陽電池は
1954 年にアメリカの
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原理を簡単に表している。
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出所:
(独)産業技術総合研究所太陽光発電研究センターのホームページをもとに作成。
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図 4-5: 太陽電池のしくみ
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製造業研究会 2009 年度報告書
35
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内閣府経済社会総合研究所委託事業
「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
第 4 章 事例研究3「太陽光発電ビジネスの勃興」
太陽電池には半導体を使う。既述の単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンといった太陽
電池の種類は、半導体として用いるものの種類である。半導体には n 型と p 型がある。簡単に言うと、太陽
電池は n 型と p 型を合わせて 1 セットにしたものである。これに太陽光が当たると、p 型は「+」が、n 型は
「−」が、それぞれ集まり、2 つの半導体の間に電圧が生じる。
「+」の電極となった「p 型半導体」と「−」の
電極となった「n 型半導体」に電線をつなげば電気を取り出すことができる。シリコン半導体の場合、p 型と
n 型とは、シリコンを精製するときに混ぜる物質(ドーパント)によって変わる。
1959 年には早くもアメリカの人工衛星バンガード 1 号に太陽電池が搭載された。日本でも 1958 年には日本
電気が東北電力の無線中継局に太陽電池を設置している。1959 年にはシャープが開発をスタートした。初期
の太陽電池は性能がまだまだ低く、極めて高価だったので、灯台や僻地の無線中継所など限られた場所で用い
られた。1970 年代になると、日本の人工衛星に国産の太陽電池が搭載されるようになった。
1970 年代初頭、エネルギー枯渇に対する関心は世界的に高まっていた。ローマクラブが『成長の限界』にお
いて資源の枯渇、人口増加、環境汚染のために人類が危機にあると警告していた(メドウズ、1972 年)。1973
年にはアメリカのニクソン大統領による第 1 次エネルギー教書が発表され、世界とアメリカのエネルギー見通
しが述べられた。それはエネルギーの問題とアメリカの安全保障に関する危機感に満ちた予測を含んでいた。
日本では 1973 年 5 月に工業技術院で長期の研究開発と多額の資金を投入したエネルギー開発を担当する部を
設置する必要性が議論されたり、7 月には資源エネルギー庁ができたりした。
1973 年のオイルショックは、石油資源が有限であることをまざまざと見せつけた出来事だった。1974 年に
は「新エネルギー技術研究開発計画」、通称「サンシャイン計画」が発足し、日本における再生可能エネルギー
の研究開発が本格的にスタートした。これは「エネルギーの長期的な安定供給の確保が国民生活と経済活動に
とって極めて重要であることにかんがみ、国民経済上その実用化が緊急の新エネルギー技術について、1974
年から 2000 年までの長期にわたり総合的、組織的かつ効率的に研究開発を推進することにより数十年後のエ
ネルギー需要の相当部分をまかないうるクリーンなエネルギーを供給することを目標とする」ものだった。こ
の重点的な開発項目として原子力を除く地熱、石炭のガス化と液化、太陽エネルギー、水素エネルギー技術
の 4 部門を挙げていた(「NEDOBOOKS」編集委員会、2007 年、80 頁)。1980 年にはサンシャイン計画の中
核的推進機構として新エネルギー総合開発機構(現在の独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
(NEDO 技術開発機構))が設立された。サンシャイン計画を中心として、日本では産官学が一体となって再
生可能エネルギーの利用技術の開発に取り組んできた。
当初、太陽エネルギーの利用方法は太陽熱が中心だった。1981 年には技術面と経済面の実証実験のために
香川県仁尾町にパイロットプラントを設置し、世界で始めて 1,000kW の発電に成功している。このプラント
はその後 2 年半にわたって発電実験を行い、1984 年 3 月に運転を終えた。この成果は海外の太陽熱発電に活
用されている。
変換効率の向上や大面積化など太陽電池開発にはさまざまな技術的課題があったものの、それらを突き詰め
て言えば、いかに安価なエネルギー源として使えるかという点が問題だった。サンシャイン計画発足当初の実
施計画では 2000 年までに太陽光発電システムの実質価格を 100 分の 1 にすることが謳われていた。当時は 1
ワットの電気を発電する太陽電池の価格が約 3 万円といわれていた。
低価格化の有望な技術として期待を集めたのがアモルファスシリコン太陽電池である。単結晶や多結晶のシ
リコン太陽電池と比べると、アモルファスシリコン太陽電池はシリコンの厚みを 100 分の 1 程度にできるた
め、高価なシリコンの使用量が少なくて済む。その上、真空中でガラスなどの基板の上にシリコンの薄膜を
形成することによって製造できるので、装置とガラス基板を大きくすることで大面積の太陽電池を造れるの
ではないかと期待されていた。アモルファスシリコン太陽電池は 1975 年にスコットランド・ダンディー大学
(Dundee University)のスペアー(Spear)らによる研究成果の発表と、1976 年のアメリカ・RCA 社のカー
ルソン(Carlson)らによる水素化アモルファスシリコン太陽電池の発明によって世界中の脚光を浴びた。日
本では大阪大学の濱川圭弘教授の研究グループや三洋電機の桑野幸徳氏らが 1970 年代初頭から研究を進めて
いた。サンシャイン計画では電子技術総合研究所で 1978 年から基礎研究がスタートし、1980 年からは民間企
業での工業化技術の開発プロジェクトが発足した。
製造業研究会 2009 年度報告書
36
内閣府経済社会総合研究所委託事業
「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
第 4 章 事例研究3「太陽光発電ビジネスの勃興」
この当時、アモルファスシリコン太陽電池を発電用に使うには最低でも 8∼10 %の変換効率が必要だと言わ
れていた。これは 1982 年に大阪大学濱川研究室と株式会社カネカによって成し遂げられた。発電用を目標と
し、技術的には大変な進歩をとげたアモルファスシリコン太陽電池だが、実用化は民生用機器への応用から始
まった3 。1980 年、三洋電機からアモルファスシリコン太陽電池を用いた電卓(アモルトン電卓)が発売され
大ヒット商品になった。さらに 1983 年にはカネカの新型アモルファスシリコン太陽電池を用いて、カシオが
厚さわずか 0.8 ミリメートルのカード型ソーラー電卓を発売した。このソーラー電卓「SL800」はニューヨー
ク近代美術館(MoMA)の永久所蔵品になっている。
再生可能エネルギーへの関心の高まりに伴って、日本ではさまざまな企業が太陽電池に注目していた。そこ
に電卓という応用製品が現れたことで、電卓用太陽電池事業への参入が相次いだ。三洋電機、京セラ、富士電
機、太陽誘電、コマツ電子、松下電器産業、シャープ、カネカといった企業である。そのため電卓用太陽電池
は一気に供給過剰になった。さらに台湾のシノナ社が安価な製品を販売したことも手伝って、価格はどんどん
低下した。最終的には三洋電機、京セラ、富士電機、カネカの 4 社が残ったものの、1980 年代の終わり頃にな
ると各社ともほとんど利益が出ない状況に陥っていた。
4-4
結晶シリコン太陽電池による太陽光発電の普及
太陽電池をはじめとする再生可能エネルギーは石油ショックをきっかけとしたエネルギー問題がもととなっ
て脚光を浴びた。ところが 1970 年代中頃から上昇していた原油の価格は 1981 年を境にして下降に転じた。
1980 年代の半ばにはほぼ 10 年前、つまり石油ショックが起きたころの原油価格に戻っていた。一方で、新た
な論点も浮上していた。地球温暖化である。1988 年には国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)の
共催によって「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が地球温暖化に関する科学的知見、環境・社会経済
的影響及び対応戦略の検討を開始した。そして IPCC の報告を踏まえて 1990 年 11 月に開催された第 2 回世
界気候会議は、先進国が二酸化炭素排出の抑制に向けて、今後 20 年間に温室効果ガスの排出量の安定化から、
さらに削減するための可能性を検討するという宣言を採択、1992 年に開催された国連環境開発会議において
「環境と開発に関するリオデジャネイロ宣言」と「地球温暖化防止条約」等が採択された(太陽光発電技術研
究組合編著、1998 年、46 頁)。
こうした動きに対応して、日本では 1990 年に総合エネルギー調査会が「長期エネルギー需給見通し」を、
電気事業審議会の需給部会が「電力供給目標」を決定した。この「目標」の中で太陽光発電は 2000 年度で 25
万 kW、2010 年度で 460 万 kW という目標値が示された。さらに同年、閣僚会議で「地球温暖化防止行動計
画」が決定された。
社会の大きな変化の中で、太陽電池による発電のための技術開発も着実に進められていた。現在、日本の住
宅に搭載されている太陽光発電システムで用いられているのは主に多結晶シリコン太陽電池である。単結晶シ
リコン太陽電池は高効率である反面、コストが高い。サンシャイン計画が発足したころ、単結晶シリコン太陽
電池の変換効率は 17 %程度まで向上していた。ただし製品に加工すると、その数値は 5 %程度にすぎなかっ
た。1980 年代にはいると量産モデルで 10 %を超えるまでに改善されていた。ある程度の大きさの結晶が簡単
な工法で製造できれば、性能はそれほど落とさずに安価な太陽電池が作れるのではないかという発想から生ま
れたのが、多結晶シリコン太陽電池である。この開発は日本、アメリカ、ドイツで行われた。単結晶シリコン
はシリコンの塊を薄くスライスして作るが、多結晶シリコンは単結晶シリコンの端材を溶かし、それを鋳型に
流し込んで、冷却を制御することで作られる。短時間で作る技術はドイツで開発され、日本でも採用された。
そして 1986 年ごろから実用化が開始された。1990 年には大面積(225 平方センチメートル)で 15 %を超え
る変換効率が得られるようになっていた(太陽光発電技術研究組合編著、1998 年、42 頁)4 。
3 8∼10 %の変換効率を実現したといっても、長期的な効率は、そこから 2 割程度減少してしまうため、電力用としてはさらに研究開
発を進める必要があった。
4 太陽電池の種類によってコストが異なるため、電力用に必要な変換効率は結晶シリコン太陽電池とアモルファスシリコン太陽電池と
で必ずしも一致しない。
製造業研究会 2009 年度報告書
37
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内閣府経済社会総合研究所委託事業
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「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
第 4 章 事例研究3「太陽光発電ビジネスの勃興」
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出所:太陽光発電協会のデータを用いて作成。縦軸はキロワット(kW)。
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図 4-6: 太陽電池の用途別出荷量の推移(1981∼1990 年)
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図 4-6 は 1981 年から 1990 年までの太陽電池の国内出荷に占める用途の変遷である。縦軸はキロワット(kW)。
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はじめのうち民生用の太陽電池の供給が拡大していったのに対して、
1988 年ごろから電力用の割合が増えは
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じめた。住宅用に多結晶シリコン太陽電池が用いられるようになると、アモルファスシリコン太陽電池とは異
なる企業が主流になりはじめた。シャープ、京セラ、三菱電機などである。
1980 年代末になると、多結晶シリコン太陽電池を使った家庭用の太陽光発電システムがいよいよ実用化の段
階にさしかかった。ところが、そこには 2 つの問題があった(「NEDOBOOKS」編集委員会、2007 年、88 頁)。
第 1 の問題が電気事業法である。電気事業法では 30 ボルト以上の発電機関を設置するには通商産業大臣(当
時)の許可が必要だった。さらに発電システムの管理のために電気主任技術者の資格も必要だった。太陽光発
電システムは火力発電所などと同じ扱いであり、これを自宅に設置したい人は、資格を取って、大臣の許可を
得なければならなかったのである。
第 2 の問題が太陽光発電システムの価格である。日本の住宅には平均すると 3kW のシステムを設置するこ
とができる。それまでの取り組みの結果として太陽電池の価格はかなり下がったとはいえ、1990 年代初め、
3kW のシステムの価格は約 600 万円だった。これでは高すぎて、よほどのお金持ちでなければ買えない。ま
た、太陽光発電のあり方も問題だった。当時、「太陽光発電システム」と言えば独立型のことだった。つまり
蓄電池が必要だった。ところが蓄電池は極めて高価だった。ただでさえ高価な太陽光発電システムに、さらに
高額の蓄電池を備えなければならなかった。そこで系統連携型システムが重要になる。これなら発電した電力
の余剰分は電力会社に流し(逆潮流あり)、夜間や天気の悪い日には電力会社からの電気を使うことができる
ので、蓄電池は不要である。実は日本では 1978 年に既存の電力系統と太陽光発電システムをどう連携させる
かという「太陽光発電システムの研究」がスタートしており、1986 年から 1988 年の間にサンシャイン計画の
一貫として神戸市の六甲アイランドで関西電力と電力中央研究所による実証実験が行われていた。
1990 年になると小規模太陽光発電や太陽光発電関連製品を住宅などに設置しやすくするために電気事業法
関連法令の一部改正や、電気用品取締法関連省令の一部改正が行われた。太陽光発電所は 500kW 未満のもの
は届出のみ、100kW 未満のものは届出も不要になった。電気主任技術者の配置も、500kW 未満の自家用発電
所では不要になった。また、1992 年には住宅などの太陽光発電を既存の配電線に連携し、その余剰電力を電
力会社が買い上げる(買い取り価格は電力料金とほぼ同じ)ことが決まった5 。
5 すでに 1978 年からアメリカでは自然エネルギーを利用した発電設備からの余剰電力を、回避可能コスト(その電力を購入しない場
合、その電力を生産するか、もしくは、他の供給源から購入する場合に要する電気エネルギーのコスト)で電力事業者が買い取ることを
義務づけた公益事業規制政策法(PURPA 法)がスタートしていた。この場合、電力会社によって異なるものの、一般に回避可能コスト
による買取料金は販売電力料金よりも安い。日本では買取料金を販売料金と同じと決めたので、米国の制度よりも太陽光発電システムの
設置者にとって有利な仕組みだった。
製造業研究会 2009 年度報告書
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内閣府経済社会総合研究所委託事業
「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
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第 4 章 事例研究3「太陽光発電ビジネスの勃興」
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これ以降、普及を見据えた資金補助政策も実施されていった。1992 年には公共施設に太陽光発電を設置する
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場合に、その総投資額の 3 分の 2 を国が負担するフィールドテスト事業が NEDO によって開始された。1994
年には個人住宅を対象として新エネルギー財団(NEF)が住宅用太陽光発電システムの設置に際して、設備費
用のおよそ 2 分の 1 を補助する「住宅用太陽光発電システムモニター事業」がスタートした。1997 年度から
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は、補助金総額を大幅に増額した住宅用太陽光発電導入基盤整備事業が始まった。
出所:太陽光発電協会のデータを用いて作成。
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図 4-7: 日本における太陽電池の出荷量の推移(1991 年以降)
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図 4-7 は
年以降の日本における太陽電池の出荷の推移を示している。縦軸の単位はキロワットである。
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1995 年ごろから電力用の太陽電池の出荷量は右肩上がりで伸び始めた。先述のとおり、こうして
1997 年には
累積導入量でアメリカを抜いて世界第
1 位になったのである。2000 年から 2001 年にかけて、いったん伸び
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が鈍化したが、
2005 年には
300 メガワットを超えている。ところが、
2006 年と 2007
年は出荷量が減少した。
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2005 年度をもって住宅用太陽光発電導入基盤整備事業は終了した。
2004 年度の補助金額は
1kW あたり 4.5 万
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年度は 2 万円と、補助金の金額自体は大きくないものの、補助金制度の終了が導入量の減少の引き
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金となった可能性は高い。
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なお、この間に価格の低下も進んだ。1990 年頃には 1kW あたり約 200 万円だったシステム価格は、1997 年
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度には 1kW あたり約 106 万円になった。1999 年度には約 93 万円と 100 万円を切り、2003 年度から 2007 年
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図 4-8 では日本における太陽光発電ビジネスのバリューチェーンを模式化している。太陽光発電システムを
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提供するのは太陽電池の開発を担ってきたエレクトロニクスメーカーなどで、システムを一括して住宅メー
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カーや中小の工務店などに納入する。住宅メーカーや工務店では、それぞれが個人の住宅向けに適切なシステ
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ムを設置する。太陽光発電システムを購入した各家庭では、そこから生まれた電力を自らが使い、余った分は
電力会社に売電するのである。
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ここで普及の中心的な役割を担っているのが住宅メーカーである。シェア第 1 位の積水化学工業(セキスイ
ハイム)をはじめとして、積水ハウス、パナホーム、大和ハウス工業といった企業が有力である。2008 年度
の販売実績では、積水化学工業 5800 戸、積水ハウス 2000 戸、パナホーム 1400 戸、大和ハウス工業 1300 戸
となっている(『週間東洋経済』2009 年 10 月 10 日号、53 頁)。積水化学工業による 2009 年までの累積導入
棟数は 7 万 5 千戸を超えている。これは発電容量でフランス 1 国を上回る規模である。セキスイハイムでは
1999 年に太陽光発電システムを標準装備した住宅を発売。2002 年からは「光熱費ゼロハイム」というコンセ
プトを発信し、販売棟数を伸ばしている。
製造業研究会 2009 年度報告書
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内閣府経済社会総合研究所委託事業
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「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
第 4 章 事例研究3「太陽光発電ビジネスの勃興」
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出所:筆者が作成。
図 4-8: 日本における太陽電池の出荷量の推移(1991 年以降)
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フィードインタリフ制度の導入
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日本において住宅用太陽光発電システムの普及がスタートしたころ、ドイツでも新たな試みが始まってい
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た。1990 年、ドイツでは再生可能エネルギーによって生み出された電力を送電会社が買い取ることを定めた
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法律(電力供給法:Stromeinspeisungsgesetz)が成立した6 。
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買い取り価格は一般的な電力価格に対して太陽エネルギーと風力が 90 %バイオマスなどが 65∼80 %と定め
られており、5 メガワットまでという上限も設定されていた。太陽光発電については、系統連携の実証を兼ねた
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1000 ルーフ計画(Thousand Roofs Programme)が 1990 年から進められた。これは 1kWp あたり 27000 ド
イツマルクを上限に連邦と州の基金が発電システムの導入コストを補助する制度である(
Kiefer & Hoffmann,
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1994; Hoffman, 2006
)7 。
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㧕߇ᚑ┙)市である。アー
地方自治体レベルでも重要な取り組みが行われていた。その先駆けがアーヘン(
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㧑ࡃࠗࠝࡑࠬ1991 年から太陽光
ヘン市では「ソーラーエネルギー促進協会(
Solarenergief?rderverein)」の求めに応じて、
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発電普及促進のための枠組みの検討を開始し、1994 年に新たな枠組み(アーヘン・モデル)をスタートさせ
た。このモデルの狙いは、システムの初期コストを補助するのではなく、永続的な運営に関わるコストを補助
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することだった。また供給サイドを刺激するのではなく需要サイドを刺激することに主眼が置かれていた。具
体的には、1994 年の段階で 1 キロワット時あたり 2 マルクで、20 年間にわたって太陽光発電による電力の買
い取りを送電会社に義務づけた。設備を導入することで 4∼6 %の投資利回りが確保できるように制度が設計
された。1993 年ごろ、市場での一般的な投資利回りは 5 %台だった。補助の原資は電力料金を引き上げるこ
とで賄ったものの、最大でも電力料金は 1 %までしか上がらないように制限を設けた8 。
アーヘン・モデルはミュンヘン、ケルン、ボン、ハンブルクといったドイツ各地の 50 箇所以上の都市に拡
がり、2000 年にはドイツ連邦で採用された 。それに伴ってアーヘン・モデルは 1999 年に失効した。当初から
連邦の制度にすることが、このモデルの目標だった。
こうしてドイツ連邦で 2000 年に成立したのが、再生可能エネルギー法(Erneuerbare Energien Gesetz)で、
フィード・イン・タリフ(Feed-in Tariff)制度、または固定価格買取制度と呼ばれている。この制度は、20 年
間にわたって送電会社に再生可能エネルギーの全量買い取りを義務づけた法律である。買い取り価格はエネル
ギー源ごと、システムの規模ごとに異なる。また、買い取り価格は将来のコスト低下を見込んで、システムの
設置年によって変わり、早く設置した設備ほど高額で電力を販売できる。この法律は 2004 年に改正され、電
力の買い取り価格が引き上げられた。それによって太陽光発電の需要は爆発的に増加した。
フィード・イン・タリフ制度によって急拡大したドイツの太陽光発電ビジネスは、日本とは異なる特徴を持っ
ている(図 4-9)。太陽光発電システムを設置する際には、卸(ディストリビューター)、プロジェクト設計(プ
6 ドイツでは電力の発電と送電は別会社が行っている。
7 1980
年代の前半には、ドイツで太陽光発電が注目されていたわけでは必ずしもなかったものの、1986 年に旧ソビエト連邦で起こっ
たチェルノブイリ電子力発電所の事故の後、安全な再生可能エネルギーとして太陽光発電が認識されるようになった。
8 当時、電力市場は自由化されておらず、送電は市営企業が行っていた。電力料金上昇の 1 %制限は数年後に撤廃された。
製造業研究会 2009 年度報告書
40
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出所:筆者が作成。
図 4-9: ドイツにおける太陽光発電ビジネスのバリューチェーン
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ロジェクト・デベロッパー)、設備設置(インストアラー)といった機能を担うものが必要である。これはプ
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ロジェクトの性質によって単独の企業が担う場合もあれば、それぞれ異なる企業が担う場合もある。いずれに
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せよ、こうした機能を果たす企業をシステム・インテグレーターと呼ぶ。太陽電池やインバーターのメーカー
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はそれぞれの機器を、このシステム・インテグレーターに納める。システム・インテグレーターは設置するシ
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ステムの条件から最適な太陽電池やインバーターを選び、システムをデザインする。彼らは顧客の要望に合わ
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せてシステムを設計・設置したり、あるいは自ら大規模発電所(メガソーラー)に適した土地を見つけ、シス
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テムを提案する。こうして設置されたシステムから生み出された電力は、いったん全て送電会社が買い取り、
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その代金が個人や法人、あるいは投資ファンドに支払われる。
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日本における太陽光発電ビジネスは発電システムというモノを売るビジネスであり、それを搭載した住宅を
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売るビジネスである。他方、フィード・イン・タリフ制度のもとでは、設置した太陽光発電システムによる
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20 年先までの投資利回りが計算できる。利回りは国が保証しており、太陽光発電を初めとする再生可能エネ
ルギーは安全で魅力的な投資対象になっている。ドイツにおける太陽光発電ビジネスは太陽光発電を用いた電
力販売システムを売るビジネスである。
フィード・イン・タリフ制度はスペイン・イタリア・ギリシャといったヨーロッパ各国をはじめとして世界
中に拡がる趨勢である。日本と諸外国とでは太陽光発電システムのあり方が異なる。図 4-10 はドイツ、スペイ
ン、日本の太陽光発電設置容量のうち、メガワット以上の大規模発電所が占める割合を示している。1990 年
代から普及をリードしてきた日本において、その主役となったのは家庭の屋根に設置する小規模なシステムで
ある。方や、ドイツは相対的に大規模発電所の割合が高い。そして、2006 年、2007 年と急激に設置容量を拡
大したスペインでは、設置容量のおよそ 6 割はメガワット以上の規模をもつ発電所が占めている。この大規模
発電所の企画・設置・運営といった場面ではシステム・インテグレーターが活発に関与している。
4-6
台頭する新興企業
急激な市場の拡大とともに、新たな有力企業がつぎつぎに現れている。太陽電池では、世界シェアの上位 5
社のうち 4 社が日本の企業と比べて相対的に新しい会社である。
2007 年にシャープから世界第 1 位の座を奪ったのがドイツのQセルズ社である。この会社は 1999 年に設立
され、2001 年から商業生産を開始した。2005 年にドイツで上場し、そのときに調達した資金は 4 億ドルに上
る。Qセルズは結晶シリコン太陽電池のセル特化型メーカーである。セルとは、シリコンの塊を薄くスライス
製造業研究会 2009 年度報告書
41
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内閣府経済社会総合研究所委託事業
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「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
第 4 章 事例研究3「太陽光発電ビジネスの勃興」
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出所:筆者が独自に作成。日本は 2007 年までの設置容量、ドイツとスペインは 2008 年までの設置容量。メガソーラーの発電容量は
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2009
年
5
月
30
日)
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図 4-10: 主要 3 カ国のシステムの内訳
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したもので、これをたくさん直接接続し、ガラスなどで封止したものをモジュールと呼ぶ。一般家庭の屋根に
載っているのは、このモジュールである。
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Qセルズはシリコンの塊を外部から調達している。太陽電池の需要が爆発的に増加したことで、原料となる
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シリコンの調達が難しくなったものの、同社はシリコンのサプライヤーと長期調達契約を結ぶことで、シリコ
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ンの安定的な調達に努めている。主な調達先は
REC、LDK ソーラー、Elkem
ソーラー、Timminco/BSI など
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である9 。ここまで順調に成長をとげてきたQセルズだが、近年は苦境に立たされている。2009 年 12 月期に
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は 14 億ユーロの最終赤字を計上するなど、経済危機を背景に業績が急激に悪化した。2010 年 3 月には創業者
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のアントン・ミルナー社長が辞任した。
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Qセルズに代わって
2009 年に世界シェア首位に躍り出たのがアメリカのファースト・ソーラーである。同
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社は 1999 年に設立され、
2002 年から商業生産を開始した。2006 年には NASDAQ に上場した。同社は CdTe
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型の太陽電池を生産し、低コストを武器に急激にシェアを高めてきた。
2008 年には
1 ワットあたり
1 ドルを切
るコストを実現した。CdTe 型は日本でも研究されていたがカドミウムを使うために開発を止めた経緯がある。
公害につながる恐れをファースト・ソーラーは独自のビジネスモデルで克服している。同社では使用済みの
CdTe 太陽電池の回収とリサイクルまで含むサービスを提供している。これは「pay as you go」という仕組み
で、同社のモジュール販売時に、顧客からリサイクル処理費用に見合った金額を受け取りファンドとして積み
立てている。このファンドは使用目的を特定した特定投資講座として保険会社が管理しており、ファースト・
ソーラーの経営状況とは無関係に運用される(櫛屋、209 年、136 頁)。
中国にも注目すべき有力企業が誕生している。それがサンテック・パワー(Suntech Power)社である。同
社は中国企業として初めて、2005 年にニューヨーク証券取引所に上場した。シリコン太陽電池モジュールを
販売しており、Qセルズと同じようにシリコンのサプライヤーと長期調達契約を結んでいる。2006 年には日
本のモジュール組み立て専業メーカーだった MSK を買収した。
サンテック・パワーの創業者である施正栄(シ・ジェンロン)はオーストラリアのニューサウスウェールズ大
学で太陽エネルギーの権威であるマーティン・グリーン教授に師事した研究者である。1991 年に博士号を取得
し、そのまま太陽エネルギーの研究に従事していたが、2001 年に帰国して起業した。2007 年から 2009 年にか
けて CB(新株予約権付社債)を発行し、2007 年と 2008 年には 5 億ドル、2009 年には 3 億ドルを集めて、積
極的に設備投資を敢行している。近年では太陽電池を販売するだけにとどまらないビジネスを模索している。
たとえば大規模プロジェクトの実現をサポートするための「プロジェクトファイナンスチーム」を組織し、金
融経験者を中心に人材を集め、顧客に対して資金調達の枠組みの提案や金融機関との交渉支援などを行ってい
る(『日経ビジネス』、2010 年 3 月 1 日号)。
9 シャープが世界第 1 位から転落した要因として、シリコン原料の調達失敗を挙げたレポートがある(
『日経ビジネス』、2008 年 2 月
18 日号)。
製造業研究会 2009 年度報告書
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「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
第 4 章 事例研究3「太陽光発電ビジネスの勃興」
世界第 5 位にランクインしているのが台湾のモーテック・インダストリーズ社である。この会社は 1981
年に計測機器メーカーとして創業したが、1997 年に太陽光発電事業部を設置し、2000 年には台湾初のシリコ
ン太陽電池メーカーとなった。2008 年からはシリコン・ウエハの自社生産をはじめるなど、垂直統合型の太陽
電池メーカーになろうとしている。 その他、製造装置メーカーによる「ターンキー・サービス」も注目すべ
き事例である。薄膜系太陽電池の製造原理それ自体は液晶パネルと同じである。量産化が進めば大幅なコスト
ダウンにつながる可能性があるため、日本のアルバック(ULVAC)やアメリカのアプライド・マテリアルズ
(Applied Materials:AMAT)、スイスのエリコン・ソーラー(Oerlikon Solar)といった会社が薄膜系太陽電
池の一貫生産ライン一式を納入するビジネスを行っている。装置を購入した会社は、スイッチを入れれば即、
薄膜シリコン太陽電池を製造できるという。台湾の半導体ファウンドリー大手 UMC の子会社であるネクスパ
ワー(NexPower)社はアルバックの装置を導入した。またインドの光ディスクメーカー、モーザーベア社の
子会社であるモーザーベアPV(Moser Baer Photovoltaic)社は AMAT の装置を導入している。アルバック
が液晶パネルの「第 5 世代」製造ラインを流用するのに対して、AMAT はより面積の大きな「第 8.5 世代」の
製造ラインを流用する。これら「ターンキー陣営」は変換効率の向上ではなく、単位面積あたりのコストを低
減することで、太陽光発電のコスト低下を狙っている。
4-7
エネルギーをめぐる新たな展開
電力産業では、これまで水力・火力・原子力という 3 つのエネルギー源を中心に大規模な発電所が建設され
てきた。ところが化石燃料の枯渇や地球温暖化によって太陽光や風力、燃料電池などの新たなエネルギー源を
用いた電力を効率よく組み合わせて使う必要性が高まっている。従来のエネルギー源は大規模発電所の設置が
可能な、需要地から遠く離れた場所に建設されてきた。ところが新しいエネルギー源は相対的に小規模な発電
設備であり、これらを有効活用するためには電力流通システムのあり方全体を変えていかなければならない。
次世代電力流通システムとして注目を集めている案のひとつが「スマート・グリッド」である。これは ICT
(Information and Communication Technology)を活用した制御装置で電力の流れを共有側、需要側の双方
から自動調整する電力流通システムの構想である。たとえば夏の暑い時間帯に多くの家や工場、オフィスが一
斉にエアコンを使うと電力需要は跳ね上がる。従来の送電網では、需要に合わせて火力発電所の発電量を増や
すしかないが、スマートグリッドでは電力需給が逼迫しているという情報があると、その情報をリアルタイム
に計算して制御し、送電できる電力量を調整する。あるいはエアコンを 25 度に設定していても 28 度程度まで
しか冷えないようにする。
スマートグリッドの効果を最大限に引き出すには電気の流れを制御する機器や部品、ソフトウェアが必要と
なる。関連企業は顧客や電力会社向けの製品・サービスの開発、提供に力を入れ始めた。IBM は電力使用量
や電気代がリアルタイムで分かる「スマートメーター」の製造で先行し、顧客に節電方法を指南するサービス
の提供をはじめた。アメリカの新興企業であるシルバー・スプリング・ネットワークス社は送電会社向けにス
マートメーターを納入しており、その規模はすでに数百万台にのぼる。インテルや GE、グーグルもこの分野
での事業拡大に意欲的である(『日本経済新聞』、2009 年 5 月 14 日;
『日経産業新聞』、2009 年 4 月 7 日)。
電力配電基盤と電気駆動自動車とを結びつける「Vehicle-to-Grid」
(電力網と自動車の接続、V2G と表記す
ることもある)の提案も注目に値する。これは再生可能エネルギー源による電力を電気自動車に充電して走行
するとともに、将来的には電気自動車の二次電池から電力を取り出して、住宅の家電を動かすという構想であ
る。太陽電池はその日の天気や昼と夜とによって発電量に大きな違いがあるので、それを何らかの手段によっ
て平準化する必要がある。そこで電気自動車を二次電池として使うことで、変動の大きな太陽電池の欠点を補
おうとしている(『日経エコロジー』2008 年 12 月号、29 頁)。また、たとえば自動車の屋根に太陽電池を設
置し、自動車に乗らないときに発電した分を販売することも可能になるかもしれない。こうなると電力会社が
これまで果たしてきた電力流通における独占的役割は、自動車メーカーや二次電池メーカーの台頭により大き
く変化する可能性がある。
製造業研究会 2009 年度報告書
43
内閣府経済社会総合研究所委託事業
「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」
第 4 章 事例研究3「太陽光発電ビジネスの勃興」
電力平準化のために、新たな蓄電池の開発も進んでいる。日本ガイシは NAS(ナトリウム硫黄)電池を生
産する世界で唯一のメーカーである。自動車などに使われる鉛蓄電池と比べると、同じ大きさで容量は 3 倍で
ある。この電池は日本ガイシと東京電力が共同開発した蓄電池で、日本ガイシではアラブ首長国連邦やフラン
スの電力大手 EDF から百億円以上の受注を獲得している。単に蓄電池を開発するだけでなく、日本ガイシは
NAS 電池を活用して電力の需給を調整するアンシラリー・サービスを推進している。
再生可能エネルギーを組み込んだ電力ネットワークの再構築については桑野幸徳氏が提唱する「GENESIS
計画」が興味深い。これは世界各地の新エネルギー電力(主として太陽光、副として風力)を、高温超伝導
ケーブルを用いて、超長距離・国際連携をも含む全世界的な地球電力ネットワークにまで拡大して連携する計
画である。インターネットが世界中で利用できるようになり、それに似たスマート・グリッド構想が現実味を
帯びてくると、「GENESIS 計画」の実現も近づいているように思われる。
全地球規模のイノベーションが起こりつつあるかもしれない中で、日米欧だけでなく新興国の企業を含む多
くのプレイヤーによって、熾烈な競争が繰り広げられている。エネルギー産業は、いったいどのような姿にな
るのだろうか。そして、誰がこの産業を制するのだろうか。
参考文献
Hoffmann, Winfried, ”PV solar electricity industry: Market growth and perspective,” Solar Energy
Materials & Solar Cells, Vol.90, pp.3285-3311, 2006.
Kiefer, K. and V. U. Hoffmann, ”Measurement and analysis programme within the Thousand Roofs
Programme,” Renewable Energy, Vol.5, Part I, pp.333-338, 1994.
櫛屋勝巳、
「プライス・リーダーの CdTe、光電変換効率 20 %目前の CIS 系」、
『太陽電池 2010:転換期を
迎える技術と市場』、日経BP社、2009 年、128∼139 頁(第 4 章第 4 節)。
メドウズ=ドネラ H、『成長の限界:ローマクラブ人類の危機レポート』、ダイヤモンド社、1972 年。
日経BP社、『環境経営辞典 2009』、日経BP社、2009 年。
太陽光発電技術研究組合編著、『太陽光発電:その発展と展望』、朝日新聞社、1998 年。
太和田善久、「カネカにおける新事業創出と R&D マネージメント」、『テクノとジーマネジメント』、2008
年第 2 号、フュージョンアンドイノベーション、2008 年、121∼138 頁。
製造業研究会 2009 年度報告書
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第5章
イノベーションマネジメント事例 DVD
本年度は、延べ 40 名を越える経営者、マネージャー、担当者のインタビューを収録し、50 日を越える現場
でのフィールドワークをこなしてきた。こうした取材を通じ、研究成果をまとめ、ビデオ(DVD)制作をお
こなった。以下、簡単に研究の内容を紹介する。
5-1
食品流通のエコポイント・システム − Crai 社、Pedon 社のケース(イ
タリア)
Crai 社はイタリアに 2,500 店舗を展開する食品流通企業である。イタリアは食文化の進んだ国であるが、食
品流通業は、いくつかの問題に直面している。一つは世界的な流通チェーン店のイタリア進出であり、さらに
は、食品などより排出されるごみ処理の問題である。こうした問題に立ち向かうため、Crai 社は、日常、誰
もが購入する食品の量り売りの仕組みとして、エコポイント・システムを展開している。効果は、パッケージ
の削減であり、約 70 万パッケージが節約された。消費者は、このシステムにより、約 20-70 %安く商品を購
入できる。しかしながら、エコポイント・システムの実現には、食品企業と共同で、新たなサプライ・チェー
ン・システムを構築する必要がある。本編では、食の安全、CSR、ボランタリー・チェーンといった日本では
なかなか接することのできない仕組みを学ぶことができる。
なお、ビデオ教材の製作にあたってはパルマ大学の Pellegrini 教授に監修をいただいた。
5-1-1
サービス・イノベーション事例 DVD「The Case of CRAI」
言語:日本語・英語
上映時間:37 分 44 秒
画面- 2: 監修者:Pellegrini 教授(パルマ大学)
画面- 1: タイトル
45
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画面- 3: CRAI のボランタリーチェーン構造
画面- 4: Eco-Point コーナー
画面- 5: 量り売りされたシリアル
画面- 6: Eco-Point(液体洗剤)
画面- 7: 量り売りされた洗剤
画面- 8: CRAI 本部:Bordoli 最高経営責任者
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