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映像マネジメント1 競争はコンテンツ市場の多様性をもたらすか?
2016/10/10 映像マネジメント 第2回:競争はコンテンツ市場を伸 ばすか?~メディア、映画~ 2016.10.3 大学院映像研究科 宿南達志郎 Part1:メディア寡占 • 田中辰雄「第10章:コンテンツ産業とメディア 寡占」 • テキストPP279‐ 1 2016/10/10 コンテンツ市場のキー要素 文化 人材 品質 競争/ 寡占 市場 規模 田中辰雄「第10章:コンテンツ産業とメディア寡占」『変貌する日本 のコンテンツ産業』河島伸子・生稲史彦編著、ミネルヴァ書房、 2013 競争促進有効説 「メディア産業が競争的ならコンテンツの競争力が強化 される」という仮説。 メディア間競争で良いコンテンツの売上が伸びる 良いコンテンツを制作する会社の業績が向上する クリエーターの賃金が上昇する 優れた人材がコンテンツ業界に集まる 更にコンテンツ業界が発展する 田中辰雄「第10章:コンテンツ産業とメディア寡占」『変貌する日本 のコンテンツ産業』河島伸子・生稲史彦編著、ミネルヴァ書房、 2013 2 2016/10/10 競争有効説の適合事例 • 映画制作 – メディアの寡占度が上がると制作会社の生産性 が下がる。 – =テレビ番組やアニメを放送局に納入する制作 会社よりも、ビデオや映画などを競争的なチャネ ルに納入する制作会社の方が生産性が高い。 • テレビ番組制作 – テレビ局が数多くあって競争している地域の制作 会社の方が、少ない地域の制作会社より生産性 が高い。 田中辰雄「第10章:コンテンツ産業とメディア寡占」『変貌する日本 のコンテンツ産業』河島伸子・生稲史彦編著、ミネルヴァ書房、 2013 • 映画流通(前田 第4章) – シネコンの普及が映画産業復活に貢献した。 – 複数の映画制作会社の作品が同時に上映され、 ヒット作品は上映期間が長い。 – 良い作品を作れば大きな収益が上げられる。 – 異業種の参入(テレビ局、出版社など)で更に競 争が激化し、それがプラスに働いた。 田中辰雄「第10章:コンテンツ産業とメディア寡占」『変貌する日本 のコンテンツ産業』河島伸子・生稲史彦編著、ミネルヴァ書房、 2013 3 2016/10/10 競争促進疑問説 「競争至上主義になると作品が低俗化し、質の低下に 伴い売り上げも減少する」という仮説。 投資規模が大きくなるとリスク回避に走る 続編や他社・他メディアでの成功作品に偏る オリジナル作品や創造的人材が軽視される 優れた人材がコンテンツ業界に集まらない コンテンツ市場が縮小していく 田中辰雄「第10章:コンテンツ産業とメディア寡占」『変貌する日本 のコンテンツ産業』河島伸子・生稲史彦編著、ミネルヴァ書房、 2013 競争疑問説の適合事例 • ゲーム産業(生稲 2012、第5章) – 投資規模が大きくなるとリスク回避的になり続編 が増える。 – 顧客層が広がらず、次第に飽きられ市場が縮小 する。 – 将来売れる可能性のあるアイデアや人材を引き 受ける余裕がなくなる。 田中辰雄「第10章:コンテンツ産業とメディア寡占」『変貌する日本 のコンテンツ産業』河島伸子・生稲史彦編著、ミネルヴァ書房、 2013 4 2016/10/10 • テレビ番組(ホテリング理論 1920) – 競争により作品の多様性が失われ、顧客離れを 招く。 – 異なった好みの顧客を引き付けるために、中間 的(似通った)作品が制作される。 – 長期的には平均と離れた好みを持つ顧客は番組 を見なくなる。 – 日本のテレビ局で編成や番組内容が似通ってき ていることが、視聴率の低下につながっている。 田中辰雄「第10章:コンテンツ産業とメディア寡占」『変貌する日本 のコンテンツ産業』河島伸子・生稲史彦編著、ミネルヴァ書房、 2013 Part2:日米の映画産業 • 前田耕作氏「映画産業の変貌における日米 の共通性と相違ー新規参入による『競争』と 参入障壁となる『寡占』ー」 • テキスト第4章 (pp97‐123) 5 2016/10/10 日米の映画市場の衰退と回復 • 米国:40億人(’46)⇒8.2億人(’71)⇒16.4億 人(’02) – 衰退期は大作映画中心 – 回復期は新規参入者による若手監督・中規模作 品 • 日本:11.3億人(’58)⇒1.6億人(’72)⇒1.2億 人(’96)⇒1.6億人(’01) – 回復期まで非常に長い期間 1.米国 • (1)トラストの崩壊と「撮影所の黄金時代」の 形成 – 最初のトラスト(MPPC):1908年~1918年 • 映画の撮影・配給・公開は許可制(料金徴収) • 1本15分に限定 • ハリウッドが長編映画を量産し脆弱化 – 第1次大戦後のトラスト(ハリウッド) • 8大メジャー(ビッグ5とリトル3) – 製作本数:65.7%、配給収入:94.9% • 2本立てで上映館をブロック・ブッキング • 独立系映画館の公開時期を遅延させる戦略 6 2016/10/10 • (2)パラマウント同意審決とテレビ放送の登場 – 反トラスト訴訟の地裁判決にビッグ5が同意 – ◆ブロック・ブッキングの禁止 – ◆興行部門の分離・・・1300の映画館を売却 – FCCの放送政策とその影響 • 大量の放送局認可(1959年には500超) • 3大ネットワーク(ABC, NBC, CBS)による市場支配を排除 • ◆番組の供給量不足を映画制作会社が補完 (放送番組の取引市場) 7 2016/10/10 (FCCルールの詳細) • フィンシン・ルール(1970) – 3大ネットワークが外部制作番組の配給/販売権と所 有権を持つことを禁止 – 自社制作番組を放送後一定期間で市場に放出義務 – 制作会社が力を持ちすぎたとの理由により、1993年、 廃止。 • プライムタイム・アクセス・ルール(1971‐1996) – プライムタイムの枠内の一定量は放送局外で制作す ることなどを定めた – 月~土のプライムタイム4時間のうち1時間以上は ネットワーク以外の番組の放送を義務付け • (3)撮影所システムの解体と新規参入者 – 2本立てから1本立て(大作)へ – カラー映画化、ワイド画面化でテレビと差別化 – ロケやセットを海外で(Runaway production) – ハリウッドの撮影所の空洞化 • プロデューサー・ユニット(ローテーション型)からパッ ケージ・システム(プロジェクト型)へ – exploitation型の量産が業界を活性化 • 低予算、若手人材、独立系制作会社 • ニューシネマ・・・卒業(‘67)など 8 2016/10/10 – 劇場の変化 • 都会から郊外へ(ドライブイン・シアターが22% にも) – マーケティングの変化 • 低制作予算、大広告宣伝、多数のスクリーン 同時公開 • four‐wall戦略・・・WBが’Billy Jack’で300万ドル • (4)1970年代におけるアメリカ映画産業の復 活とその後 – ①分離された製作部門で生じた新規参入と競争 – Godfather(‘72), Jaws(‘75)の大ヒット • Francis Coppra(32)、Steven Spilberg(27) – ニューシネマは、ベトナム戦争やアウトローなど を米国を舞台に描いた • 60年代の欧州、聖書、古典などへの偏重に反発 9 2016/10/10 – ②テレビ放送の成長を取り込む構造転換 – 独立系制作会社がテレビ番組を量産 – ③興行部門の競争と新規参入 – 拡大公開 • Godfather・・・原作がベストセラー。300館、$81百万。 • Jaws:・・・史上最高のTVCM。450館、$1.3億 – このBlockbuster戦略を超大作にも適用 • Superman(‘78) 2.日本 • (1)「撮影所の黄金時代」と寡占 – 4社を日活に統合(1912) • すぐに分裂し松竹や東宝も参入 – 日中戦争後に3社に統合(1939) • 検閲から「質的向上」へ – 第2次大戦後の競争と系列化 • • • • 東映(1951)、日活再開(1954)、5社で寡占的競争。 10代向け低予算中編「娯楽版」を年100本配給(東映) 直営館とブロックブッキング。日活も追随。 ⇒俳優、監督などを新たに輩出 10 2016/10/10 • (2)テレビ放送の特徴と独自の発展 – NHK普及率:10%(’58)→75%(’63) – 映画館入場者数は10年で3割以下に(3.1億人) – 在京キー局が全国の放送局を系列化 • (注)米では、ネットワークと放送局は分離 – 5社協定(一時的には6社)により監督・俳優の囲い込 み・・・劇場用映画の提供も停止 • 放送局を輸入か自社制作に追い込む • シンジケーション市場がなく制作会社がTV用映像で稼ぐこ とが困難 • 若手でなくベテラン・中堅が担う ⇒「映画館産業」に留まり、構造転換できず • (3)低迷期における製作面での新規参入 – 製作・配給本数を減らし、入場料を上げて興行収 入維持を図った(縮小均衡) – 人材登用できず、収益は更に悪化 • 大映の倒産(’71)、日活のロマンポルノ路線 – 製作の分離 • • • • 東宝の配給興行会社化(製作は子会社に)(’71) 独立系制作会社の新規参入(プロジェクト型制作へ) 角川書店の参入:大量CM、原作本と映画のセット販売 メディア企業も参入(南極物語[‘83]など) 11 2016/10/10 – 独立系制作会社と独立系プロデューサーの台頭 • 日活などが若い人材を輩出(1980年頃) • しかし、映画館とテレビ放送という流通チャネルの両輪 は、米国のようには拡大できず。 – ビデオレンタルの拡大による「映画館」産業からの 脱却 • • • • レンタル店:1000(’85)→1万(’88) ビデオソフト市場(4千億円)>興行収入(1.6千億円) ミニシアターによる映画館産業の競争促進 衛星放送、CATVにより映画産業全体は7500億円規模に ⇒パッケージと多チャンネル化の成長を取 り込む構造転換の進展 – 多様な新規参入者 • シネカノン(配給興行) • WOWOW(衛星放送) • アルタミラ(プロジェクト型) • 芸術系映画学科出身スタッフ – 製作委員会(1988ごろから) 12 2016/10/10 • (4)シネコンの登場と日本映画産業の復 活 – 3社が配給収入の98%を独占(1999) • 270本のうち66本(24%)が大手3社による配給、 ブロックブッキング。 • 新規参入者の収益機会が僅少、観客の選択肢 も少ない • 外国映画がフリーブッキングのため、上映館の 拡大や延長が容易だった。→洋画シェアは邦画 の2倍にも – シネコンによる観客数の拡大 • ショッピングセンター併設で、映画館なし地域をカバー • 外資系のシネコンが洋画のシェアを一気に高めた。 • 東宝と松竹もシネコン参入 – 2003年にヴァージンシネマズを買収(東宝) – シネコンの拡大による作品ニーズの増大 • 制作や配給に新規参入の余地が拡大 • ブロックブッキングの事実上解消。 • 上映スクリーンや期間の柔軟性が増し、大ヒット作品 が生まれやすくなった。 ⇒映画館産業としても成長に転じた 13 2016/10/10 3.競争と映画市場の拡大 (まとめ) • 米国:テレビ放送を映画の新たな流通 経路に – 地上波ネットワークの拡大:3⇒4 – CATV、衛星放送、パッケージ、ネット配信 – 経路別伸び(1980→2003) • 映画館 1.7倍、映画館以外 8.7倍 – 【参考:日本】(1958→2006)映画鑑賞時間 3倍 – 映画産業の構造改革は新規参入が原動 力 • 反トラスト政策が競争を促進し市場も拡大 • テレビ放送と共に映画産業も成長 – 放送と情報通信の規制緩和がコングロマ リット化を推進 • 米国メディア産業によるグローバル支配へ 14 2016/10/10 • 米国映画産業の成長要因 – テレビも映画も成長 – ①製作部門におけるIndiesの成長と、大手の再 編成 – ②流通経路としてテレビを確保 – ③FCCが放送局(3大ネット)による垂直統合型モ デルを阻止 – ④興行部門における新規参入と競争の進展 ⇒競争の促進(映画も放送も垂直統合型 を排除)が成長につながった • 日本の映画産業の成長阻害要因 – テレビ放送の成長は映画産業に還元されず • 政府の規制によりテレビ放送は寡占を維持 – テレビは成長、映画は衰退 – ①製作部門の競争が進展せず(1970年代まで) – ②テレビ局は垂直統合モデルで成長 – ③興行部門の構造転換はシネコンの発展後 (2003年以降) ⇒競争の排除(映画も放送も垂直統合型 を容認)が自壊につながった 15 2016/10/10 今日のミニレポート課題 • manaba+Rで以下のテーマからひとつを選択 し論じて下さい。締め切りは6日24時。 • ①「コンテンツ産業とメディア寡占」 • ②「日米映画産業の競争と寡占」 16