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説明事例集 - 日本プロジェクトマネジメント協会

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説明事例集 - 日本プロジェクトマネジメント協会
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 1
特定非営利活動法人
プロジェクトマネジメント
資格認定センター
説明事例集
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 2
Top
P2M とは何か
いま組織に求められる「使命達成型職業人」の育成
case study
CASE
光電子分野で競争力を発揮する
知識集積型メーカー成功例に見る P2M 思想
CASE
生き残りをかけた BPR を
プロジェクトマネジメント活用で円滑化
CASE
全社的な視点に立ったプロジェクトマネジャーのもと
着実に効果を上げるグローバル情報ネット構築
CASE
共通リソース確保とマトリクス体制導入で
複数顧客向けの同時カスタマイズに成功
CASE
空洞化が進む地域産業集積帯に求められる
プログラムマネジメントを活用した再生
CASE
PFI 方式への移行で高まる
ゴミ処理プラントでの P2M 活用
CASE
統合プロジェクト情報システムで
プラントの経済価値を最大化
1
2
3
4
5
6
7
プロファイリングマネジメントを活用し
生活価値創造企業へ転換した染色メーカー
CASE
WE‐NET プロジェクトに見る
複雑問題解決の P2M ロードマップ
9
説明事例集
●著者
財団法人エンジニアリング振興協会
プロジェクトマネジメント導入開発調査委員会
CASE
8
Contents
●発行
特定非営利活動法人PM資格認定センター(設立申請中)
〒105-0003 東京都港区西新橋1-4-6 CYDビル
TEL 03(3502)4441
FAX 03(3502)5500
URL http://www.enaa.or.jp/PMCC/
●編集
㈱エイチアンドアイ
●アートディレクション
㈱イーサイバー
CASE
10
同期並列型結合で実現を目指す
成層圏プラットフォームプロジェクト
●印刷
小堀グラフィックス㈱
●平成14年3月5日 第1刷発行 CASE
欧州 200 年の夢をわずか 8 年で実現させた
英仏海峡トンネルプロジェクト
CASE
PFI に求められる
ファイナンスマネジメントとリスクマネジメント
CASE
激動する IT 業界で
盤石の体制を築く B 社の PM 活用法
11
12
13
2
● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
本書の無断複写(コピー)
は著作権法上の例外を除き、
著作権侵害となります。
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 3
Project & Program Management for Enterprise Innovation
いま組織に求められる「使命達成型職業人」の育成
プロジェクトマネジメント導入開発委員会
委員長
千葉工業大学教授 小原重信
21 世紀は構造改革に生き残りをかけた競争社会になる。しかも、競争は国内だけでなく世界が
相手となるので「何が他社に対して優れているのか」など競争優位を見極める必要がある。行政、
大学、個人も「将来に向けて何をすべきか」具体的なテーマを選定し、確実に実行しなくてはなら
ない。
しかし、これまでの教育や資格制度は、あまりにも細分化された専門知識やスキルを重視してき
たため、「全体を見て、変化に対応する」という大局観と戦略的対応に欠けてきた。それが日本停滞
の最大の理由になっている。
こうしたなかにおいて、P2M(Project & Program Management for Enterprise Innovation)
ガイドブックとプロジェクトマネジメント資格制度は、社会的要請に応える画期的なものになる。
変革の推進に向けた新しい仕組みづくりの担い手を育成する、効果的で、唯一のものであるからに
他ならないからである。
価値を生み出す「あるべき姿」を追求
いま、行政、企業、大学が求めている21世紀の新社会の繁栄を実現できる新しいタイプの職業人とは
)
何か。
これまでの伝統的な職業人は、技術士、弁護士、会計士などに代表される、個別分野で問題を解決する
専門家であった。しかし、これから求められるのは、「広い視野と高い視点」で特定事業に関わる「プロ
ジェクトマネジメント」と複合事業に関わる「プログラムマネジメント」を取扱う知識体系を習得した
「使命達成型」の専門家なのである。そうした職業人は図表1にある3つのニーズに対応していくことに
なる。
そして、このような使命達成型の専門家
のために策定された「実践力」の内容を案
内する教育資料がP2Mなのである。
ここでいう「使命」とは問題解決やイノ
ベーションとほぼ同じ意味に解釈してよ
図表 1 使命達成型専門家が対応する 3 つのニーズ
あるべき姿を
追求する
成長する風土を
創る
新しい仕組みを
働かせる
「できない」ことを「できる」ようにする
プロジェクトマネジメント・プログラムマネジメント
い。多くの行政機関や企業では、現状や
「いまの姿」では限界があり、改革を求め
ている。経営管理者は価値を生み出せる「あるべき姿」への転換を考えている。まさしくP2Mを学習す
ることによって意識改革が起こって見方が変わり、「何が強みで大切か」を発見し、集中できるようにな
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
3
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 4
る(図表2参照)。その総合的な改革要求事項
が「使命」なのだ。
図表 2 P2M の導入による変革の内容
P2M 導入前
P2M による発想学習
P2M 導入後
価値が出せない
あるべき姿を追求
価値を出せる
使命達成型職業人とは、使命の意味を多角
的かつ多面的に理解して、現実可能な構想に
まとめた上で特定事業に展開、実行運営し、
問題発見
プロジェクトの形成・実現
問題解決
そして確実に価値を産出できる実践力を持っ
た人材を意味している。「あるべき姿」にも
目的、目標、デザインまで明確な事業もあれば、不明確で曖昧な事業もある。しかし、使命達成の事業運
営単位はプロジェクトである。要求指示が複雑な場合には、複数のプロジェクトマネジメントが実行され
ることになり、そこで全体を統合するプログラムマネジメントが必要になる。
持続して成長できる組織への変革
日本企業の強みの1つは、従業員の「ヤル気」であった。
図表 3 「あるべき姿」を創出する方程式 「ヤル気」は会社に大切なテーマを感じさせ、それを追求
﹁
あ
のる
実べ
現き
姿
﹂
させる機会を与えれば蘇生する。P2Mはその機会を創造
し、テーマを実現させる発想と方法をガイドしている。組
織の「風土」と個人の「ヤル気」によって、「あるべき姿」
が実現されることはよく知られている(図表3参照)。い
「受け入れ風土」
の状態
メンバーの
「ヤル気」
ま我々は、それを現状と比較してチェックする必要があろ
う。
P2M は先進企業の行動、実務
図表 4 あなたの会社は成長する組織か
をプロジェクトマネジメント効果
の視点から研究し、持続して成長
する組織風土に変える知識体系を
提供している。成長する組織には
図表4のチェックシートに記載さ
はい
②トップ戦略がプロジェクト化されてリーダーが決められているか?
→成長する組織では、トップが変化に敏感で、ミドルに対して頻繁に変革要求を出している
③リーダーはプロジェクトマネジメント資格を有しているか?
→成長する組織では、メンバーは要求を確実に実現する実践力を持っている
れたような10項目の共通した特
④全社的な学習が行われているか?
→成長する組織では、トップとメンバーはプロジェクトマネジメント
共通用語でコミュニケーションしている
徴がある。
⑤プロジェクトを通じてミドルが 2 週間に 1 度くらいの割合で話し合う機会を持っているか?
→成長する組織では、トップとミドルが気楽に創造的な変革に向けて相互啓発している
そのチェックの結果、「新しい
組織を作る」ことの重要性が明確
になったら、これまでのプロジェ
クトマネジメントにはない「仕掛
いいえ
①プロジェクトマネジメントが限定されて利用されていないか?
→成長する組織では、変革に対する全社ビジョン、教育、報償のインセンティブがある
⑥組織間でチームを組むことにマネジャーが抵抗を感じていないか?
→成長する組織では、横断的チームが日常化しているので、ラインマネジャーも支援する
⑦プロジェクトの経験が教育資料、データベースとして残されているか?
→成長する組織では、全社で事例研究を行い、失敗や成果を絶えず研究している
⑧全社でマトリクス組織を日常的に採用しているか?
→成長する組織では、メンバーがラインとプロジェクトを日常的にこなしている
け」が必要になってくる。その基
⑨業務とプロジェクトに区別して、従業員の満足度調査がされているか?
→成長する組織では、メンバーが
「この会社には面白いプロジェクトの仕事が多い」といっている
礎は、全体観から導き出された使
⑩組織横断的な 「カイゼン」 とは異なるプロジェクト提案制度を実施しているか?
→成長する組織では、メンバーがテーマを日常的に探しているので活気がある
命価値を最大化するための「4つ
の基本原則」(図表5)である。
もし、これまで「自社では変革ができない」と考えてきた経営管理者の方がいたら、次のことを再考し
てみていただきたい。
まず、これまで本当に全体像を捉えることができていただろうか。一部分、一分野へのこだわりが足枷
4
● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 5
Project & Program Management for Enterprise Innovation
になっているようなことはなかっただろうか。P2Mでは分析からスタートするのではなく、洞察力で見抜
いた使命全体を価値として認識するところから始まる。次に、プロジェクトを価値事業として定義してき
ただろうか。P2Mでは実業界で普及している価値分類、財務指標、価値評価の最新理論を導入している。
また、実行の開始から期待目標が達成できないプロジェクトを遂行してこなかっただろうか。プロジェ
クトには「実行すべき」「実行すべきでない」という優先順位と戦略思考が必要なのだ。さらに、規模や
複雑性に注目せずに、プロジェクトマネジメントを採用して失敗してはこなかっただろうか。
これまで工業化社会で築き上げてきた知的資産を伝承し、新しい環境に適応した「新しい仕組み」を作
り上げなければ、持続的成長は達成できない。その新しい仕組みの作り方がP2Mには体系的に解説され
ている。
時代が求める新しい職業ガイドとPM資格認定センターの誕生
次にプロジェクトマネジメント資格認定センター(以下センター)について紹介したい。
センターではプロジェクトマネジメント・スペシャリスト、プロジェクトマネジャー、プログラムマネ
ジメント・アーキテクトの使命達成型職業人を資格認定することになった。そのビジョンと活動は次の通
りである。
【1】21世紀社会に適合したビジョン
図表 5 新しい仕組みをつくる 4 つの原則
循環型社会に向けて自然、社会、人間活動の調和を維
持し、多様な環境変化をチャンスとして認知し、持続的
な成長を実現するために、社会が最も必要としている
「使命達成型職業人」の教育普及と職業専門人材の育成活
動を推進する。
【2】新しい人作りを目指すPM資格認定センター
センターは基本ビジョンに準拠して「経営革新のため
のプロジェクトとプログラムマネジメントガイド」であ
るP2Mによって、新しい時代の「人作り」を目的に以下
の4つの活動を推進する。
①P2Mに基く使命達成型の専門職業人を資格認定する。
①ゼロベース接近の原則
全体像を 「ありのままの姿」として理解し、既存概念や
分析法によらず、ゼロから出発して依頼者の価値を最大
限に理解し、シナリオに表現する姿勢に終始する。
②変化柔軟性の原則
不連続な状況変化には、できるだけ小さなプロジェクトに
分解して、スピーディーかつタイムリーに代替案、中断、
中止の方法を導入する。
③コンピタンス基盤の原則
独自の知識と有用な情報を結合して価値を産出するため
に中核能力に集中し、オープンなコミュニケーションの場を
デザインし、必要な知識を獲得して情報処理と一体化する。
④価値評価の原則
独自の知識と有用な情報を結合して価値を産出するため
に中核資産価値、イノベーション価値、ステークホルダー
調和価値、 知的資産価値は、 価値観、 市場、 競争、
技術革新に起因する状況変化のなかでマネジメントの重要
な指針となる。
この資格は経済産業省が支援する資格である。
②P2Mガイドを教育資料として領布する。このガイドは、日本の実務風土を反映させながら世界に向
けて初めて発信する内容が記述されており、フランス、イギリス、オーストラリアなどの専門機関が
水準の高さを認めている。
③P2Mの研修プログラムを策定、実施する。研修講師には資格認定者を対象候補とする。
④P2Mガイドを向上させる研究を推進する。センターはすでに日常的に研究を継続させ、その成果を
P2Mに追加し、内容の向上を図る。
本書は、P2M手法を具現している13のプロジェクト事例の具体的な内容を紹介している。そのプロ
ジェクトの推進や組織の変革手法は、読者の方々にとっても大変参考になるものとなろう。自社への
P2Mの活用・導入を、積極的にご検討いただきたい。
2002年3月
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
5
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 6
光電子分野で競争力を発揮する
知識集積型メーカー成功例に見る
P2M思想
世界で初めて射出成形によるプラスチック歯車を開発したA社。
いまでは知識集積型のメーカーとして欧米一流企業へ納品しているが、
その過程ではいくたの危機とそれを乗り越えるための変革が行なわれてきた。
納品先の海外移転で受注が半減
A社は金型技術と精密部品の知識を融合し、世界で初めて射出成形によるプラスチック歯車を発明した。
「軽い、錆びない、潤滑油がいらない」というメリットのあるプラスチック歯車は、まず携帯用目覚まし
時計の軽量化やタクシー料金のメーターなどに活用された。さらに、精密玩具を駆動させるマイクロモー
タや、自動車ワイパー、音響機器の駆動部品向けで大量の受注を得るようになった。しかし、音響機器メ
ーカーや玩具メーカーなど納入先の大企業がコスト削減のため海外に生産拠点を移したことから受注が半
減し、量産体制が重い負担としてのしかかるようになったのである。
欧米企業と取引きで求められた技術情報のデジタル化
そこでA社はシンガポールに進出し、日本企業に部品を供給する体制を構築したが、1980年代にな
ると、アジアの新興企業がビデオリールや音響関係のプラスチック部品分野に安値で参入し、また製品や
技術の陳腐化という危機に直面する。10分の1mm程度の精度では部品の差別化が難しく、ビデオリー
ルなどの標準部品や歯車でどんどん競争力が低下し、撤退を迫られるようになった。
ちょうどその頃、シンガポールに進出している米国企業からコンピュータ部品やメディア部品の試作品
の委託が舞い込んだが、部品のライフサイクルスピード、精度などの要件を充足することが新しい課題と
して浮上、欧米企業とのビジネスモデルに結実させるためには、品質の国際認定、部品精度のグレードア
ップ、新製品開発が
新たな克服テーマに
図表 1 A社の取組みの P2M 解釈
なった。一流の国際
検査機関の品質認証
スキーム
システム
サービス
電子部品事業への進出
顧客との電子通信
スピード対応
デジタル化、そして
欧米顧客の要件の充足
CAD/CAM生産
コスト、設計データ
スピードコミュニケ
超精度生産環境
一流国際検査認定
超精度品質維持
を獲得したものの、
高精度と技術情報の
ーションの実現が急
務となったのだ。
6
● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 7
P2M 説明事例集
社長の指示のもとでプロジェクトチームを編成
A社が電子精密部品分野に参入するためにはアナログからデジタルへの変革を加速させ、いっきょにミ
クロン単位の加工精度と新製品の開発に取り組まなければならなかった。A社の社長はプロジェクトチー
ムを編成した。
そして、ミクロン・サブミクロン単位の高精度の部品開発企業へと脱皮するため、製造部門に測定、設
計、加工、検査に加えてCAE/CAD/CAM支援環境を整備していった。蓄積データベースには製品デ
ータマネジメントであるPDAが連動され、レーザー干渉計による金属金型の表面の波面測定、研磨によ
らないワイヤーカット放電加工による金型加工などが、全てデジタル処理される体制が整えていった(図
表1参照)。
このデジタル変革によって、物的生産システムに知識変換システムが連動するようになった。CAE/
CADで作成される試作図面はネットワークで伝送され、欧米一流企業の顧客のコンカレント・エンジニ
アリングへの対応も可能とな
った。いくたの危機とたゆま
図表 2 知識集積企業の構造
ぬ変革によって、知識集積企
業へと変貌を遂げたのである
(図表2参照)
。
経営者
リーダーシップ
知識資源
知識獲得
情報収集
知識集積活動
知力による
変革リフレーミング
環境変化
危機
ビジネス創出
知的資本充実
こうした結果、機能プラス
チックによる超精度と絶対品
質の部品開発が達成された。
CD 用光ピックアップレンズ、
高輝度液晶バックライト、非
球面レンズ、光回折格子など
の新製品は、光電子の成長分
野でフルに競争力を発揮して
いる(図表3参照)。
知識集積活動は、知識供給、知的資本形成、知識獲得・創造、変革リフレーミングという4つの活動で継
続的成長を実現している。とりわけ危機における適応と変革プロセスの分析と類型化が重要である。
図表 3 A社の変遷
進化段階
製品精度
売上高(億円)
経常利益(億円)
草創期
1/10mm
1
0
充足期
1/100mm
20
2
量産期
1/100mm
40
8
海外進出
ミクロン
80
16
差別化期
サブミクロン
160
25
ナノ
250
30
グローバル期
A社の成功例に見られる生産変革や知識集積活動が、P2Mのなかでスキームの組み立てやナレッジの形成として捉えられている。
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
7
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 8
生き残りをかけたBPRを
プロジェクトマネジメント活用で
円滑化
従来のやり方を見直し、新たな仕組みを構築していくBPR。
その重要性は認識していても、失敗の確率が大きく二の足を踏むケースは意外と多い。
あるメーカーではプログラムマネジメントを導入し、成果を確実なものにしていった。
まずBPRの取組みをシナリオ化
あるメーカーで、企業競争力の向上のために従来の業務のやり方を見直し、新たな仕組みを構築する
BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)プロジェクトがトップダウンで実施された。
BPRは直接部門および間接部門を含めた業務プロセス全般が対象であり、それら全ての業務プロセス
を再構築するプロジェクトである。この取組みは規模が大きい上、期間も長期に渡る。また、実施すべき
施策も広範囲で、どのように取組めば効果を得られるのかが非常に掴みにくく、遂行が難しかった。
そこでこのメーカーはBPRの取組みをシナリオ化し、プロジェクト(施策)をアーキテクトしながら
組み立てることで、成果を確実にするプログラムマネジメントを実施していったが、この手法はまさに
P2Mで唱えているものである。
P2Mの具体的な活用ステップ
ステップ 1
BPRビジョンの構築
BPRを実施するためには、明確なビジョンの形成が必要である。その後のプロジェクトの方向性を決
めるための指針でもあり、プロジェクトの選択、優先順位づけの判断基準にもなる。このBPRにおいて
は「企業利益の向上(ファイナンスの視点)」「顧客満足度の向上(顧客の視点)」「変革のできる組織の
構築(内部プロセス&社内人材視点)」という3つの視点が最重点項目として合意された。
ステップ 2
プロジェクト(施策)の切り出し
BPRを実践するための施策として、様々な施策が上げられた。どの施策もあるべき姿と現状のギャッ
プを埋めるための効果的なものとして提案されただけに、施策自体に対する反対はほとんど聞かれなかっ
た。また、施策は「システムに関するもの」「プロセス・組織に関するもの」「人・育成に関するもの」
と大きく3つのタイプに分類され、それぞれ重要性を持っていた。
ステップ 3
BPR実施リスクの認識
だが、施策の重要性は認識されたものの、企業として全てを同時に実施できる体力はなかった。また、
BPRの成功の確率が50%以下であることもトップは十分に認識していた。収入に直結するプロジェク
トとの関係もあり、何を捨て何を取るかの判断に迷った。間違った選択は逆に企業体力を削ぎ、プロジェ
クトの失敗につながる危険性があったからである。
8
● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 9
P2M 説明事例集
ステップ 4
プロジェクト評価の実施
プロジェクトを正しく選択することは、BPRを成功させるために最も重要な事である。そのためには、
各プロジェクト(施策)の持つ効果とリスクを認識しなくてはならない。そこで、各プロジェクトは
BPRビジョンを前提に、企業に与える定性的および定量的な効果、そして実施における難易度からくる
実現リスクをプロジェクト評価基準とし、各プロジェクトを個別に診断しプロジェクトポートフォリオを
作成した。これにより、各プロジェクトの効果とリスクがマネジメントの共通理解として認識され、プロ
ジェクト選定は容易となった。
ステップ 5
プログラムプロファイリングの構築
BPRは、各プロジェクトの個々の実現だけにとどまると、その効果が限られる。プロジェクトの効果
を最大限引き出すためには、各プロジェクトの特性を見極めながら組み立てなくてはならない。プロジェ
クトの期間、規模、効果、内容、組織への影響度など、それぞれのプロジェクトの特性を理解した上で、
最初は期間が短く、リスクが低いものを最優先し、徐々に難易度が高いものを実施するように組み立てて
いった。
ステップ 6
戦略的プログラムの実施
プロジェクトはプログラムプロファイリングにしたがって遂行し、成果はできるだけ組織に喧伝し、関
係者の理解を深めるように実施した。同時に、変革に影響力を持つキーパーソンには変革研修やプロジェ
クトの参画の機会を増やしながら関係者を積極的に巻き込み、賛同者を増すように計画的にプログラムを
推進していった。
BPRの効果に対する理解が浸透
現在もプログラムは継続中であるが、成果は確実に現れている。初期の成功は関係者に自信を与え、同
時に組織に対してもBPRが効果あるものだと正しい理解を与えた。その影響は大きく、現在ではBPRに
賛同する人間も増え、組織として変わることに対しての抵抗はほとんどなくなった。以前では考えられな
いことである。
図表 BPR へのプロジェクトマネジメントの活用
システム関連施策
プロセス・組織関連施策
人・育成関連施策
16
①BPRビジョンの構築
②プロジェクト(施策)の切り出し
14
効
果
高 12
い
10
③BPR実施リスクの認識
④プロジェクト評価の実施
⑤プログラムファイリングの構築
⑥戦略的プログラムの実施
定
性
効
果
得
点
効
果
低
い
8
6
4
2
0
予想回収額
2
4
6
リスク低い
8
リスク得点
10
12
14
16
リスク高い
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
9
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 10
全社的な視点に立った
プロジェクトマネジャーのもと
着実に効果を上げる
グローバル情報ネット構築
連結会計制度の導入を機に、業務効率の改善も目的にグローバル情報ネットワークの
構築に乗り出した大手精密機械メーカー。しかし、カバーする範囲が広く、
プロジェクトマネジメントを活用し確実な成果を目指していくことになった。
要求された2年間で完了させる運営スキル
国内のある大手精密機械メーカーでは、会計制度の変更による連結会計制度の導入もあって、海外の営
業や生産の現地法人を結んだ大規模な情報ネットワークを構築し、同時に業務の再構築を進めながら業務
効率の向上を図ろうと計画していた。
従来だとこの種の情報システムの構築は、情報システム部門が中心となってユーザー部門の要求を仕様
書にまとめた上で開始する事が多かった。しかし、今回の計画に盛り込まれた業務再構築には、国内外の
営業の知識、生産管理の知識、会計管理の知識、それから情報技術に基づいた新しい組織全般を統合する
経営管理の知識などが幅広く求められていた。情報システム部門だけではカバーし切れない可能性が高か
ったのである。
このため社長直轄で全社から精鋭を集めたプロジェクトとして、まず全体のスキームを構築することか
らスタートした。そして、このプログラムマネジャーには、これらの知識に対する理解と、プロジェクト
を2年間で完了させる運営スキルが要求された。
3段階に分解されたプロジェクト
プロジェクトはP2Mでいう「プログラム」として捉えられ、全体の枠組みを明確にするスキームモデ
ル構築と、それを実行するシステムモデル構築、さらにはサービスモデルとしての実際のオペレーション
と3段階に分解され
た。そのアプロー
図表 1 3 段階に分解されたプロジェクトの内容
チの大枠は図表1
スキームモデル
システムモデル
サービスモデル
そして、スキー
ビジョン・目的の明確化
組織と責任体系の設計
トレーニング
ムモデル構築の最初
課題の抽出
運用体制への移行
に下記のことが明確
業務プロセスの
具体的設計
プロファイリング
にある通りである。
にされた。
システムの構築
スキームの構築
運用計画の策定
10
● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
プロジェクト評価と
モニタリング開始
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 11
P2M 説明事例集
①情報化投資の投資効果を明確にする(明確な効果の得られない投資は行わない)。
②販売業務、会計業務、生産管理業務の標準化を図り、地域ごとに統合する。
③標準化された業務をシェアードサービスの考えを導入することによって効率化し、営業管理部門、経
理部門、生産管理部門の生産性を2倍に上げる。具体的には業務処理速度のスピードアップと人件費
の半減を図る。
④情報システムはメンテナンスを考え、各地域ごとに独立し、地域間はシステムバスで連結する(図表
2参照)。
こうした考えのもとに、業務が再構築され、各地域ごとにシステムを構築しながら、新しい業務体系へ
の移行が始まった。スケジュールは予定通りに進行しており、当初の期待通りの投資効果が得られそうで
ある。これを受けて企業の競争力も向上し、企業価値の向上に貢献している。
図表 2 情報システムの概念図
欧州統括会社
東京本社
米州統括会社
経理業務
販売業務
経理業務
販売業務
経理業務
販売業務
地域販売
・
生産会社
地域販売
・
生産会社
地域販売
・
生産会社
地域販売
・
生産会社
地域販売
・
生産会社
シェアード
サービス
地域販売
・
生産会社
拡大かつ複雑化するプロジェクトマネジメントの範囲
この大手精密機械メーカーの取組みを見ても分かるように、新しい技術を利用しながらプロジェクトを
企画して、さらにその費用対効果を明確に算定しながら複雑な業務を取りまとめてスケジュール通りに遂
行し、最終的に企業価値を高めるというように、プロジェクトマネジメントの範囲が拡大かつ複雑化して
いる。
そうしたなかにおいて、プロジェクトマネジャーにはスキームモデルの構築から開始し、プロジェクト
として投資を完了させる第3世代のプロジェクトマネジメントの能力が要求されるようになった。実際に
今回のプロジェクトでは現業部門の経験が豊富な上、国際経験もあり、システムの構築も経験したという
数少ない人材がプログラムマネジャーとして登用されている。
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
11
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 12
共通リソース確保と
マトリクス体制導入で
複数顧客向けの同時カスタマイズに成功
複数の機器製品開発、複数顧客への同時カスタマイズ、ほぼ同時の納期という
厳しい条件のクリアーを求められた企業。以前、同様のプロジェクトで失敗した
苦い経験を持っていた彼らは、プログラムマネジメントの活用に目をつけた。
複数顧客への納期が同時という厳しい制約条件
複数の機器製品開発と、それら新製品をベースとした複数顧客への同時カスタマイズの実施という、大
規模プロジェクトを受注した企業があった。複数の顧客は新製品を通してデータの共通化を実現するとい
う目的を持っており、全ての顧客への納期のタイミングがほとんど一致しなくてはならないという厳しい
制約条件もついていた。
この企業では従来の縦割り組織での実施には限界を感じ、新たな手法として組織横断のプログラムマネ
ジメントの概念を導入して、プログラムの推進を実施したのである。
P2Mの具体的な活用ステップ
ステップ 1
プログラムリスクの認識
以前、今回と非常に似た形態でかつ規模が4分の1程度のプロジェクトを実施して、大失敗した経験を
この企業は持っていた。納期は遅れ、コストは採算割れを起こし、納品後に様々なクレームが発生して相
当の損失を受けたプロジェクトであった。それだけに同じ失敗の繰り返しを避けるため、これまでと違っ
た新しい取組みを必要としていたのである。
ステップ 2
実施コミットメントの獲得
この企業では、ライン組織を中心にプロジェクトを実施しているため、ラインにおいてプロジェクト間
の人的リソースの問題が多発し、プロジェクト遂行上の重要な問題となっていた。特に今回のプロジェク
トでは機器の設計リソースが最もクリティカルとなることが予想され、ここを改善しなければプロジェク
トの成功はありえないことが分かった。
そこで、関連する複数プロジェクトをプログラムと認識した上で、そのための独立した組織体を既存組
織から切り出してリソースを確保し、マトリクス体制を敷いてプログラムマネジメントを実施するという
提案を行なった。トップはこの提案を承認し、実施へ移されることになった。
ステップ 3
プログラムコミュニティ基盤の構築
そして、このプログラムは企業組織から切り離され、関連子会社の人員でプログラムに関わる人員も含
めて全て新しいビルに移った。これにより、人間系、情報系、文化系の基盤を網羅したプログラムを実施
するための密なコミュニティが形成、整備されたのである。このコミュニティの効果は大きく、プログラ
12
● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 13
P2M 説明事例集
ム遂行の重要な基盤となっていった。
ステップ 4
プログラムアーキテクチャの構築
設計の生産性を高めるためには、複数の機器製品に対するカスタマイズを効率的に実施することが鍵と
なる。そのため、設計部門はプロジェクトごとに人員を配置せず、機器製品ごとにチームを構成させ、機
器リーダを中心として複数顧客に同時に対応するというプログラムアーキテクチャを採用した。
またカスタマイズを効率化するために、各機器チームは徹底して標準仕様を整備し、それを中心に顧客
と交渉しカスタマイズ量を削減する戦略を実践した。
ステップ 5
マネジメントプロセスとシステムの構築
機器チーム間のギャプを埋めるため、各プロジェクトには設計プロジェクトリーダを配置させ、機器間
の統合マネジメントを実施する役割を担った。さらに、複数プロジェクトの同時並行処理がプロジェクト
相互の問題となることも事前にリスクとして認識していたので、プロジェクトオフィスを整備し、重要な
問題はここを中心とした問題解決サイクルで処理を行なった。加えて、プロジェクトでの問題や課題の早
期発見と迅速な対応を行うためにシステムを導入し、プログラム全体の可視化を行なった。
ステップ 6
戦略的プログラムの実施
全てのプロジェクトは極力フロントローディングで実施し、リソースはできるだけ前倒し、品質は上流
側で極力作り込み、下流での問題を最小限に食い止める方針を徹底しながら実施した。
クレーム発生せず、社内ベストプラクティスに輝く
こうした結果、プログラムは納期通りに完成した。その後、実際の運用にともなうクレーム対応のため
に数十名のスタッフが顧客ごとに配置された。通常はクレームが必ず発生し、その対応にスタッフは数ヶ
月もの間、顧客のサイトを離れることなくトラブル対応に当たらなくてはならなかったのである。
しかし、このシステムは運用となっても、全くといってよいほどクレームが発生しなかった。過去例を
見ないほどの品質が実現していたのである。運用対応のスタッフは拍子抜けしたが、企業としては大成功
で、予想以上の利益を上げ社内ベストプラクティスの表彰を受けたのだった。
図表 同時カスタマイズに向けて導入されたプロジェクトマネジメント
プログラム実施体制
①プログラムリスクの認識
営業
部門
②実施コメットメントの獲得
開発
部門
③プログラムコミュニティ基盤の確立
技術
部門
プ
ロ
グ
ラ
ム
へ
の
権
限
委
譲
プログラム
マネジャー
製品開発プログラム
共通リソース
PM
開発
プロジ
ェクト
プログラム方針決定
プログラム利益採算管理
プロジェクト間技術調整
プロジェクト間リソース調整
プログラム全体マネジメント
プロジェクト
オフィス
PM
PM
PM
PM
PM
PM
PM
顧客A向け
カスタマイズ
プロジェクト
顧客B向け
カスタマイズ
プロジェクト
顧客C向け
カスタマイズ
プロジェクト
顧客D向け
カスタマイズ
プロジェクト
顧客E向け
カスタマイズ
プロジェクト
顧客F向け
カスタマイズ
プロジェクト
顧客G向け
カスタマイズ
プロジェクト
営業
営業
営業
営業
営業
営業
SE
SE
SE
SE
SE
SE
SE
営業
SE
設計
設計
設計
設計
設計
設計
設計
設計
④プログラムアーキテクチャの構築
調整
PM:プロジェクトマネジャー
⑤マネジメントプロセスとシステムの構築
品質保証部
品保
品保
品保
品保
品保
品保
品保
製造部
生産
生産
生産
生産
生産
生産
生産
メンテナンス部
保守
保守
保守
保守
保守
保守
保守
⑥戦略的プログラムの実施
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
13
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 14
空洞化が進む
地域産業集積帯に求められる
プログラムマネジメントを活用した再生
生産コストの低い中国企業の追い上げを受けて、地域の産業を支えてきた
中核企業が急ピッチで海外へ生産拠点をシフトしている。
空洞化が懸念される地域の活性化を考えるに当たっては、P2Mの視点が鍵を握る。
日本のモノ作りの原点である地域産業集積帯
伝統的な日本の製造業は、企画、開発、製造、販売の基幹機能を全てグループ企業のなかにセットとし
て保有しながら安定的な生産を実現し、それを最大の「強み」としてきた。そして、その中核企業を中心
に、素材メーカー、部品メーカー、サービス企業などが密集する地域産業の集積帯が形成されてきた。こ
の「強み」はスムーズな供給という利便性もあるが、「デザインイン」といったグループ内での共通のコ
ンセプトのもとでの開発分担による情報シェアリング、リードタイム短縮、共通品質基準などをグループ
内企業全てに浸透させるメリットもあった。
つまり、地域産業集積帯は日本企業の「モノ作り」の原点として認識されてきたのである。グループ企
業内で中核企業を中心に、素材メーカー、部品
メーカー、サービス企業間の強い関係で競争力
図表 1 地域産業集積体の構造
を維持する発想そのものが、このビジネスモデ
中核企業
ルの特徴となっていた(図表 1 参照)。ただし
社内や系列で作る部品は、外部や系列外で作る
企画 開発 設計 生産 販売 流通
部品よりもコストが高いことが多い。組織のな
かでは競争原理が働かないことが大きな弱点に
協力企業
部品メーカー
サービス企業
なっていた。
中核企業の海外移転が及ぼす地域へのインパクト
2000年に入ると輸入品によるコスト競争が一層激化し、中核企業は新しいビジネスモデルの構築へ
対応せざるをえなくなった。その対応の1つが成長するアジア市場に目を向けて、アジアでの生産にシフ
トしていくことである。
中国の労働コストは日本に比べて25分の1であり、生産と市場その両面において魅力がある。事実、
2001年度にはテレビ、ビデオ、DVD、自動二輪などの分野で、中国の工業製品13品種中10品種がア
ジアの市場シェアで日本を抜いた。そのため、中国などアジアに生産拠点を移動し、国内工場を閉鎖する
大企業が急増している。日本経済新聞(2001年11月26日付)によると、2001年度だけでも69社、
124工場が閉鎖され、アジアに生産拠点を移す。
14
● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 15
P2M 説明事例集
このように大企業が移動すると地域産業集積帯が空洞化し、周辺の素材メーカーや部品メーカーはグル
ープ依存経営から脱却して、新しいビジネスモデルを自ら構築していかなくてはならない。そうした地域、
企業、部品メーカーはどう対応していったらよいのかを模索するなかで、プログラムマネジメントが求め
られるようになっている。
プログラムリーダーが示すべき3つのプロジェクト
中核企業においては自社の「強み」に経営資源を集中し、資本コストを上回る投資利益率を確保するた
めの洞察力が求められる。「モノ作り」における「モノ」とはプロダクトであり、「作り」とは生産プロ
セスである。「将来も価値を創り出す」のは、プロダクトなのかプロセスか、その価値構造への全体的な
判断が必要になってくる。「生産に競争力はない」と判断するか、「生産を捨てて製品をとる」か、新し
いビジネスモデル思考に基づいた企業改革プログラムの出発点となる。
当然、この中核企業の方向は、部品メーカーはじめ地域に大きな影響を与える。中核企業は新しいプロ
グラムリーダーとなり、P2Mによる「企画作り」のスキームプロジェクト、「仕掛け作り」のシステム
プロジェクト、「利用作り」のサービスプロジェクトによって、部品メーカーなどにも「将来が見える青
写真」を示すことが望ましい(図表2)。
例えば、「生産で将来も価値を創り出す」という場合には、相手先ブランドによる生産を行うOEMな
どで、「そっくり生産を引き受ける」ための生産受託会社を目指したスキームである。また単純労働型組
立では、高度なノウハウが要求される電子機器組立企業(Electronic Manufacturing Service,EMS)
のような仕掛けが必要になる。
一方「利用作り」では、顧客が要求する仕様を正確に理解したり、品質を保証するためのノウハウのデ
ータベース化へのプロジェクト作りが求められる。その地域では生産の高度化に対して、大企業定着のた
めの優遇税制、部品企業参画の促進、IT基盤の高度化整備などの行政支援も重要になってくる。
もし、「生産に競争はない」と判断した場合には、工場を売却してプロダクト中心の再編成になる。企
業にとって操業費、人件費、保守費など工場という資産を保有するために必要な資本コストが大きな比重
を占め、財務的な負担になってくるからである。もちろん、素材・部品メーカーは納入先を失い、そうし
たことで垂直統合が崩れ、オープンなファブレス企業へとビジネスモデルを転換させるリスクもある。
ただしこの場合も、
部品メーカーのリーダ
図表 2 中核企業による青写真の例
ーが汎用的なモジュー
ルを開発し、部品を越
えたモジュール生産で
スキームモデル
システムモデル
サービスモデル
企業価値を高める
EMS・モジュール生産
CRM(顧客関係マネジメント)
の導入
ROI( 投資利益率)
>資本コスト
工程圧縮・合理化
資金回収─投資
プロセス中心
自動化・CAM化
データベース
部品メーカー選別
品質検査の省力化
IT─CAD通信
部品メーカーやサービ
ス会社が集団化するの
に当たって、中核企業
の存在が重要なことは
間違いない。
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
15
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 16
PFI方式への移行で高まる
ゴミ処理プラントでのP2M活用
いま、ゴミ焼却施設の公設民営化を計画する自治体が急速に増加している。
企業とすれば、長期に渡ってリスクを抱えることになり、
経営全体を見渡した視点からのプロジェクトの立ち上げが求められる。
法規制が新たなプロジェクトを創設
国策として掲げられた資源循環型社会の形成と地球温暖化防止の観点から、廃棄物処理事業が大きな転
換点にさしかかっている。
日本国内においては、ゴミは衛生上の観点から焼却処理を大原則として今日に至っている。家庭から排
出される一般廃棄物は行政サービスの一環として行われているが、ダイオキシン問題を機にゴミ焼却施設
の環境が厳しく規制されることとなった。この結果、運営する自治体においては施設の整備や新規建設の
必要性が高まっている。
一方、これらの施設を建設する企業においては、環境規制をクリアすべく技術開発競争が始まり、さら
には資源循環型社会作りの考えに沿ったマテリアルリサイクル、サーマルリサイクル、ケミカルリサイク
ルなどが可能となる廃棄物処理技術が開発されるに至った。
また、企業の生産活動から発生する廃棄物や製品そのものにも、容器包装リサイクル法、家電リサイク
ル法、自動車リサイクル法等の各種リサイクル法の網が掛けられ、生産者責任において処理を義務づけら
れることとなった。
行財政改革は民間ビジネスを変える
昨今の不況による税収不足から、ゴミ処理行政に投入する資金が不足する事態に陥ってきた。資金の効
率運用と民間活力の利用の視点から、ゴミ焼却施設の公設民営化を計画する自治体が急速に増加する事態
となった。
従来の契約形態は性能発注に基づく一括請負契約で、自治体側の用意する発注仕様書に則り、設計・製
作・建設・試運転引渡しまでであったが、公設民営化に移行するに当たり、施設の操業から維持保守管理
もが請負企業のスコープへと変化してきた。企業の立場からは、従来は建設に関わる費用のみのリスクか
ら、施設稼働の約15年間もリスクを抱えることとなり、経営の観点からも応札の可否を迫られる事とな
った。
このため、いままではモノ作りと客先要求に見合った技術力で対応が可能であったが、経営的判断が要
求されるビジネスへと変化している。特に受注から施設運営までと長期に渡るプロジェクトとなることか
ら、企業経営に多大な影響を及ぼすビジネスへと変貌している。
16
● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 17
P2M 説明事例集
プログラムマネジメントの必要性
外部環境の変化は新たな技術を生み出すのとともに、企業経営においても変化を要求される。技術開発
プロジェクトは短期決戦へ、またゴミ処理施設建設プロジェクトは徐々に PFI(Private Finance
Initiative)方式に移行している。プロジェクトは長期化し、企業経営を根幹から揺さぶるような事業形
態に移行しているのだ。
行政側は事業全体のコスト削減と運営に絡むリスクをミニマムとする方式へ転換し、企業側はこの様な
変化に対して個々のプロジェクトの効率化と収益性の向上、リスクミニマムの経営手法が大きな課題とな
ってきた。複数のプロジェクトを管理して融合を図るとともに、個々のプロジェクトの取捨選択も重要な
経営判断となる。
ここにプログラムマネジメントの考え方が経営戦略上有効であり、導入されるに至っているのである。
図表 環境行政における企業経営と技術開発の位置づけ
環境規制強化
企 業
行政(自治体)
PFI(Private Finance Initiative)
事業
民 活
リスク分析
ゴミ処理施設の
更新プロジェクト
技術開発プロジェクト
プログラムマネジメントの実践
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
17
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 18
統合プロジェクト情報システムで
プラントの経済価値を最大化
エンジニアリング企業に対するニーズが変化している。
プラントの経済価値を最大限高めるライフサイクルマネジメントの観点が求められるようになった。
と同時に重要になっているのが、統合プロジェクト情報システムの構築なのである。
重要になるライフサイクルマネジメントの観点
今日のエンジニアリング企業は、単にプラントなどの建設を請け負い、納期通りに引き渡しすればそれ
で終わりという時代ではなくなっている。
納入したプラントがマーケットの状況や原料の性状に合わせて、最大経済価値を創出できる生産計画運
転状況を提供できるかといったP2Mで唱えているプロジェクトライフサイクルマネジメントの観点が重
要となる。設計の段階から顧客と綿密に連携し、設計情報とマーケット情報とを統括したプラント操業管
理システムを構築するなどの配慮が大切になっているのだ。
一方では、日々に進歩するIT(情報技術)をどうプロジェクトマネジメントに積極的に活用していく
かも大きな課題である。
短納期かつ高品質なエンジニアリングを遂行
こうしたなかX社では、設計、調達、建設の各種エグゼキューションプロセスと進捗、工程、予算、変
更管理などのプロジェクトマネジメントプロセスとを同一情報基盤上で統合的に支援するシステムを運用
している。
その狙いは、以下の通りである。
①より短納期で高品質なエンジニアリングを遂行する環境を実現できる。
②電子化された設計データを、そのまま顧客の運転管理、保守・保全管理に利用することにより、顧客
のプラントのトータルライフサイクルマネジメントに貢献する。
③顧客、ベンダー、サブコントラクター、ライセンサーとともに進めるコンカレントエンジニアリング
環境を実現し、真のグルーバルオペレーションを実現させる。
④顧客がプラント建設の工業化計画を進める際に充実した初期設計の設計ツールを駆使することで、短
期間に精度の高い実施の可能性および経済性の検討を行うことができ、その結果、顧客がプラント建
設の意志決定を迅速にすることが可能になる。
これらを実現する統合プロジェクト情報システムは、右図に示すような機能で構成されている。すなわ
ち各種設計支援、3次元CAD統合設計、エンジニアリングデータベース、資材管理、現場管理、ドキュ
メント管理(Electronic Document Management System, EDMS)とプロジェクトマネジメントを
18
● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 19
P2M 説明事例集
統合しており、基本設計、エンジニアリング、調達、建設とプロジェクトマネジメント業務が連携して運
用され、効果を十分に発揮している。また、オフィス支援機能としてはグループウェアが使われている。
様々な分野や組織でのプロジェクトに適用可能
このようなプロジェクトの作業全体を1つの情報基盤上で統合することで得られるメリットは大きい。
まずプロジェクト遂行に当たり、作業の流れに沿って上流の情報がマニュアルインプットを経ずにスム
ーズに次工程に引継がれる。また、その情報を自動的にインプットとして使うことにより、情報伝達の正
確さが飛躍的に改良されるとともに、工程の改善、設計マンアワーの時間短縮にもつながる。
これからは1社だけでプロジェクトを完成させる時代ではない。ジョイントベンチャーなどでのプロジ
ェクトが徐々に増えるであろうし、顧客やライセンサー、協力会社といったステークホルダー間での電子
情報コミュニケーションの必要
性がますます高くなる。このよ
図表 統合プロジェクト情報システムの例
うな情報交換をいかにスムーズ
に行うかも重要な課題である。
総合的には、エンジアニアリ
エンジニアリング
ング、情報技術とプロジェクト
マネジメントを統合することに
より、コスト、工程、品質、環
各種設計支援
境問題対応といったプロジェク
ト本体の目的をより高いレベル
において達成することが可能に
なりえると考えられる。
このような統合プロジェクト
情報システムの活用は、石油、
石油化学といったハイドロカー
ボンの分野だけではなく、医薬、
食品などの一般産業や製造業を
プ
ロ
ジ
ェ
ク
ト
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
3 次元CAD
統合設計
資材管理
含めた様々な分野や組織におけ
現場管理
るプロジェクトでも適用でき
エ
ン
ジ
ニ
ア
リ
ン
グ
デ
ー
タ
ベ
ー
ス
ド
キ
ュ
メ
ン
ト
管
理
る。さらにはサービスモデルプ
ロジェクトともいえる、納入済
みプラントのライフサイクルマ
建 設
調 達
ネジメント診断といった需要に
も対応することができるだろ
う。
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
19
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 20
プロファイリングマネジメントを活用し
生活価値創造企業へ転換した
染色メーカー
一時は倒産の危機に直面した染色メーカー。
その会社がいまではファッション、インテリア、自動車、住宅などへ事業領域を多角化し、
生活価値創造企業として好業績を上げるようになっている。
危機に直面した製造業に共通する4つの兆候
金融ビッグバン以降、半導体、家電、重機、自動車などの有力製造業が危機に直面し、再生に苦労して
いるケースは枚挙に暇がない。どうしてこのような事態に陥ってしまったのだろうか。
その最大の理由は、これまで成長力、収益力を維持してきた仕組みが、環境の変化によって成果を生み
出す力を失ったからである。現在も、ほとんどの企業が「経営戦略」「コストダウン」「カイゼン」「開発」
「リードタイム削減」「在庫削減」などで懸命に努力している。しかし、さしたる成果を得られないままで
いる。
そうした複数の企業を見ていると、共通する兆候に次のようなものがあることが分かってくる。
①変革といっても抽象的で、明確なテーマに絞られていない。
②テーマ化されていても、企業全体へ影響力が少ない。
③テーマに対する実行成果が上がっていない。
④実行後の評価や処遇が曖昧になっている。
果たしてこのようなかで、経営者の発想や意図は組織へ確実に浸透しているといえるのだろうか。
問題を明確に規定するプロファイリング
P2Mには、プログラムマネジメントの1つとしてプロファイリングマネジメントがある。プロファイ
リングとは「現状の複雑現象から見抜いた問題を明確に規定するプロセス」のことで、プロファイリング
マネジメントはミッションの内容を深く理解し、目的・目標の連鎖を創り、関係性分析で全体と部分の意
味、協力関係、利害関係をシナリオに展開する初期段階の総合管理である(図表1参照)。実現性調査や
模擬実験においても、このシナリオは慎重に検討される必要がある。
ここで特に重要なことは、経営者の全体観と将来への深い読みが全社使命、組織の使命として見えるよ
うにして、複数のプロジェクトとして統合されるようにすることである。
新しい情報ネットでエンドユーザーとの直接関係性を構築
この染色メーカーは、絹から合成繊維まで手がけてきた老舗企業である。問屋を通じて大手繊維メーカ
ーから繊維の供給を受け、染色の賃加工を長年に渡って続けていた。しかし、安い繊維製品が海外から大
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● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 21
P2M 説明事例集
量に入るようになって国内での染色
図表 1 プロファイリングマネジメントの流れ
に対する需要が激減し、一時は倒産
ミッション
表現
の危機に直面したのである。
その会社が、いまではファッショ
ン、インテリア、自動車、住宅、電
経営者の読み
プロファイリング
マネジメント
関係性分析
子、医療品に至る領域にまで事業を
多角化し、好業績を上げている。短
シナリオ展開
い期間において、なぜそのようなこ
とが可能となったのだろう。
倒産の危機に直面した当時、新しく経営者として就任した社長が時代性、環境変化、IT化の重要性を
見抜いた全体観を洞察し、「染色メーカーから生活価値創造への転換」という新しい企業価値を打ち出し
たのである。そのミッションは収益力のある成長事業を獲得し、環境変化を先取して下請け賃加工ではな
い自立事業へ変革する重要な意味を持っていた。
しかし、それだけでは抽象的である。
もともと、染色メーカーは流通の川上と川下両方に取引先を持っていた。つまり、流通分野で複雑な利
害関係を内包していたのである(図表2参照)。そこで、この古い利害関係を断って全体の仕組を変え、
エンドユーザーと接近して直接関係性を構築することで、生活価値商品を生み出せるようにしたのである。
ここで課題となったものが地方にある工場と東京の市場を直接リンクする手だてであり、その解決方法
として活用されたものがプロファイリングマネジメントだった。具体的なシナリオ展開は、コンピュータ
グラフィックインターフェイスを利用して染色、柄の個別注文を獲得する CADビジネスモデルであり、
ネットでデータを送信して驚くべき速さで製造するCAD、自動化、CAM、マーケティングの複数プロジ
ェクトとして策定され、実行に移されていった。
結果として、このプロファイリングマネジメントが斬新なファッションを次々と生み出し、さらにマー
ケティングプロジェクトによって住宅インテリアビジネス、自動車のインテリアビジネスまで展開された
のである。
図表 2 大転換した染色メーカーの経営
改革前
大手繊維
メーカー
改革後
問 屋
染色メーカー
問 屋
百貨店
生活価値企業
複合プロジェクト
ファッション
ファッション
エンドユーザー
自動車・住宅
エンドユーザー
エンドユーザー
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
21
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 22
WE-NETプロジェクトに見る
複雑問題解決の
P2Mロードマップ
ますます高まるエネルギー需要。その一方で枯渇が懸念される石油や天然ガス資源。
クリーンエネルギーの活用を目指すWE-NETプロジェクトの推進に当たっては
複雑な問題が絡み合っているが、その解決をP2Mで試みる。
クリーンエネルギー活用と温暖化防止を目指す
地球温暖化をはじめとする地球環境問題が顕在化し、環境負荷の少ないエネルギーの世界的規模による
導入が期待されている。しかし、石油や天然ガスは可採埋蔵量が40年程度といわれており、このような
化石燃料はいずれ近いうちに枯渇する。今後、価格の大幅な上昇も予想される。
一方、地球上には風力、水力、太陽熱などの再生可能なクリーンエネルギーが存在しているが、そのま
までは長距離輸送や貯蔵ができず、ほとんどが手つかずのままになっている。また、我が国は1997年
の京都COP3会議において、2008-12年までに90年比でCO2(炭酸ガス)の排出量を6%削減する
ことを宣言している。
WE-NETプロジェクトは、上記のような再生可能なクリーンエネルギーを水素などの輸送可能な形に
変換した上で、世界の需要地に輸送し、発電、輸送用燃料、都市ガスなどの広範な分野で利用するネット
ワークの導入を可能とするとともに、地球温暖化防止対策を図る事を目的とするものである。
全体使命の明確化からスキームモデル・プロジェクト構築へ
このように地球温暖化対策とクリーンエネルギーの経済的導入といった複雑問題を解決する手法を、
P2Mのプログラムマネジメントと照合する。右図はプログラムマネジメントにおいて、複雑事象をどの
ようにプロジェクトに展開して行くかの手法を示したロードマップである。
①ミッションの基盤―全体使命の明確化
全体使命とはプログラムの総合的な要求であり、基本政策や経営戦略に関する複合テーマを取り扱い、
内容の重要度や不確実性が高い要求指示である。この例では、世界経済の持続的発展のための安価なクリ
ーンエネルギーの確保がミッションであり、そのためには水素をエネルギー媒体としたネットワークを今
後10年以内に開発・導入しようというビジョンである。
②理念と洞察力
広い視野と高い視点は実務経験と横断的知識から生まれるが、プログラムマネジャーは理念を持ってい
る。この場合の理念とは、地球環境を悪化することなく、世界経済が持続的に発展させられるようにクリ
ーンなエネルギーを確保することである。そして洞察力とは、ほとんど使われていないクリーンな太陽エ
ネルギーをいかに有効に活用するかということであろう。
22
● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 23
P2M 説明事例集
③全体使命と使命記述書
全体使命とはプログラムの存在意義、ステークホルダー基本問題の記述、解決の方向性、関連領域の示
唆などを網羅している深い意味のある文脈、すなわちコンテキストを持ったプログラムへの達成目標要求
である。
④スキームモデル・プロジェクト
この使命記述書から具体的なプロジェクト群に展開されたものがスキームモデルである。
価値評価に使われる2つの「A」と5つの「E」
多くのスキームプロジェクトに分解されたプロジェクト群は、それぞれのプロジェクトマネジャーのも
とで遂行されるが、この時それぞれのプロジェクトは同一基準で評価されなければならない。また、各々
のプロジェクトは独自であっても、常にコンテキストに照らして全体使命を常に満足するものでなくては
ならない。
この価値評価は2つの「A」と5つの「E」により行う。つまり「Accountability」
「Acceptability」
「Efficiency」「Ecology」「Effectiveness」
「Earned Value」「Ethics」である。
プログラムの実行活動では、組織の内部・外部を問わずに問題解決を最優先させる。したがって組織の
縦断的な制約から人材を解放し、異質の人材が横断的にコミュニティーを形成することは、自己実現・自
己意欲・自己能力によって創造力を発揮するための基盤例となる。このコミュニティーの属性には
「Context」
「Creativity」「Collaboration」「Communication」「Contents」「Concentration」とい
う6つの「C」がある。
また、政策や規制の変更、代替技術の出現競争、市場の変化や経済的変動が契機となって、プロジェク
トやプログラムの進行は危機に直面したりする。このプログラムのように期限が10年にも及ぶと、その
可能性も高い。状況の変化によってプログラムの価値も変化するので、仕組みや選択を変更させ、長期的
に使命価値を保証することも重要である。
図表 WORLD ENERGY NETWORK(WE-NET)プロジェクトに見るプログラムマネジメント・ロードマップ
ミッション
ビジョン
・持続的発展のためのクリーンエネルギーの経済的確保
ププ
ロロ
フグ
ァラ
イム
リマ
ンネ
グジ
機メ
能ン
ト
の
・2012年までに、CO2排出量の6%削減
・化石燃料に換えて、水素エネルギー媒体として普及させる
複雑現象
問題発見
解決方法
・化石エネルギーの枯渇
・地球温暖化防止
・COP3京都議定書
・石油ガスの40年可採埋蔵量
・温暖化ガスの発生抑制
・再生可能エネルギーの存在
理念
・太陽エネルギー利用
・水力エネルギー利用
・地熱/風力エネルギー利用
・環境負荷低減
・CO2固化
洞察力
・持続的発見
使命記述
・エネルギーの存在
・未利用の豊富なエネルギー
・水素製造技術開発
・水素貯蔵輸送技術開発
・水素タービン技術開発
・水素自動車技術開発
・関連要素技術開発
水素製造技術開発プロジェクト
水素製造技術開発プロジェクト
水素タービン技術開発プロジェクト
水素自動車技術開発プロジェクト
関連要素技術開発プロジェクト
方策
・地球偏在エネルギーの利用
・水素を媒体として利用
(メタノール、アンモニア、ハイタン)
スキームプロジェクト群
豊かな経験、広い学識、全体を見る資質
プロジェクト
価値評価
5Eと2A、固有的資産評価、イノベーション評価、ステークホルダーの調和評価、知識資産評価
プロジェクト間
の関係構造化
全体機能、全体構造、全体操作性
知的資源
の一体化
組織に代わるコミュニティー、人間系基盤、情報基盤、文化基盤
プロジェクトの
不確実性
長期間プロジェクトに関わる社会的環境変化対応
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
23
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 24
同期並列型結合で実現を目指す
成層圏プラットフォーム
プロジェクト
成層圏で様々な実験を行う巨大飛行船「成層圏プラットフォーム」。
この開発に当たっては、多種多様な技術が用いられ、数多くの関係者が参加している。
そこで、不確実性を回避するために導入されたものが同期並列型結合である。
高度2万メートルの成層圏に浮かべる巨大飛行船
21世紀の高度情報通信技術の基盤整備、地球環境観測、災害監視の一役を担った成層圏プラットフォ
ームの研究開発は、総務省、文部科学省の合同プロジェクトとして1998年から研究が推進されている。
気象条件が比較的安定している高度約2万メートルの成層圏に通信機材、観測センサーなどを搭載した
無人の飛行船「成層圏プラットフォーム」を浮かべ、これを利用して通信・放送、地球観測などのミッシ
ョンを行うものである。飛行船の実用規模は積載するペイロード(貨物)が約1トン、全長が240メー
トル級となる。
飛行船の開発プロセスは、主要な要素技術開発確認のための試験機の開発と飛行試験を経て実用機に至
るが、すでに「ミレニアム・プロジェクト」の1つに選定されている。40メートル級成層圏滞空試験機
および60メートル級定点滞空試験機の開発をベースにして、技術実証機を経て実用機の実現を目指す計
画になっている(図表1参照)。
図表 1 成層圏プラットフォーム飛行船システムの開発プロセス
高度
(km)
成層圏プラットフォーム実用機
20
成層圏滞空試験
技術実用機
2003 年
15
成層圏
定点滞空試験
2004 年
10
5
0
放船模擬試験 2001 年
飛行船制御基礎試験 2002 年
船体株式 / 浮力制御システム試験 2001 年
地上運用技術試験 /(海上)回収技術試験
24
● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
ジェット気流
説明事例集本文 02.3.18 5:45 PM ページ 25
P2M 説明事例集
研究開発は両省傘下の研究機
図表 2 開発・推進体制
関などが中心となって、産官学
成層圏プラットフォーム開発協議会
(事務局:総務省・文部科学省)
連携をベースに技術連絡会議を
通じて、各分野での調整などを
研究開発評価部会
図りながら実施されている(図
表2参照)。
ミッションの特徴と期待され
地球観測部会
飛行船部会
通信・放送部会
る成果としては次のようなもの
がある。
まず通信・放送分野だが、地
上無線回線や衛星回線に比べ、
高い見通し率と少ない伝播遅延
時間という特徴を生かし、小型
の通信末端で広いサービスエリ
アにおける多量の高速通信が実
宇宙開発事業団
航空宇宙技術
研究所
海洋科学技術
センター
地球観測
ミッション機器
通信・放送機構
通信総合研究所
海洋科学技術
センター
飛行船システム技術
要素技術
現できる。一方、地球観測分野
追跡管制技術
通信放送
ミッション機器
技術連絡会議
では、特定地域の連続的な観
測・監視が高分解かつ高精度で
可能となり、気象予測や地球環境の変化が観測できるものと期待されている。
プロジェクトを重複させながらリードタイムを短縮
プログラムとは複数のプロジェクトが相互に関連して、1つの使命を達成する多形式結合であり、その
基本形式には、①逐次型結合、②サイクル型結合、③同期並列型結合──の3つがある。このプロジェク
トは③のプロジェクト結合といえる。
同期並列型結合は、複数の逐次型プロジェクトを重複しながら同時並行的に進行することにより、開発
や生産のリードタイムの短縮、コスト削減、解決要素発見の確率向上などを達成する場合に利用される結
合方式なのである。
ステークホルダー間の意識統一にも活用
複数の飛行試験機を開発する過程では、各々ブレイクスルーしなければならない技術開発課題、例えば
構造技術、打ち上げ・回収技術、太陽電池・燃料電池技術などが多い。このため、複数プロジェクトを同
時並列で進行させて、期間の不確実を回避することと、一方では技術面での不確実を排除するために一部
の重複を意図的に利用するプロセスになっているのだ。
飛行船の開発に軸足がある関係者と、早期にインフラとして利用可能なものを期待している関係者とい
うように、ステークホルダー間でも使命の展開には若干の温度差がある。成層圏プロジェクトを成功させ
るためにも、この意識の調整は必要不可欠であり、その解決にはプログラムマネジメントの手法を活用す
ることが望まれている。
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
25
説明事例集本文 02.3.18 5:46 PM ページ 26
欧州200年の夢を
わずか8年で実現させた
英仏海峡トンネルプロジェクト
20世紀最後のビッグプロジェクトといわれた英仏海峡トンネル。2兆円にも及ぶ
事業費を民間資金で賄ったため、可能な限り早く完成することが求められた。
そこでフルに活用されたものがP2Mで唱えられているコンセプトであった。
従来のプロジェクトマネジメントでは対応不可能
20世紀最後のビッグプロジェクトといわれた英仏海峡トンネルプロジェクトは、1986年2月に英仏
両政府による事業認可がなされ、同年5月に工事着工、’
94年5月に開業した。着工からわずか8年で欧
州200年の夢を実現させたことになる。
このプロジェクトの完成は、長大海底トンネル建設技術の確立とともに、新たな輸送システムにより、
EU(欧州連合)経済圏に極めて大きな影響をもたらす社会経済基盤事業であった。しかし、この大規模
で複雑な国際プロジェクトは、個別のプロジェクトで設定された特定の目標を効果的に計画、実行、管理
するという従来型のプロジェクトマネジメントでは対応することが難しくなっていた。
そこでP2Mに盛り込まれたシステムを計画するスキーム、システムを利用するサービスをプロジェク
トとして認識し、知識、ノウハウ、データ、仕組みなどを活用して、連鎖波及的に価値を追求するプロジ
ェクトサイクル結合による統合マネジメントが進められたのである(図表参照)。
トンネルをいかに早く掘るかが最大のテーマ
英仏海峡トンネルをめぐっては、過去にも再三に渡って政治的な中断が起きていた。こうしたことを防
ぐため、英仏両政府による直接財政支援は仰がず、トンネル建設工事の巨額の事業費(88億ポンド、約
2兆円、邦銀38行が融資に参加)は全て国際金融機関による民間資金だけで賄う方式が採用された。こ
のため支払い金利負担が莫大となり、早期に資金を回収するため「トンネルをいかに早く掘るか」という
高速施工の実現が最大のテーマとなった。
事業計画は多くのグループから提案された計画案について技術監査、審査コンサルタントによる検討評
価を行なった。その結果、ユーロトンネル社案(単線鉄道2本と中間にサービストンネル1本)が採用さ
れた。これによりプロジェクトの基本構想としての基本運営方針、基本要求仕様書、プロジェクト協働関
係、資金計画、環境問題・技術的リスクへの対応などが策定された。
厳しい条件を盛り込んだ異例の契約上の仕組み
長距離、高速掘進、大深度での使用など厳しい環境条件を満たすマシンの設計、製作、組立、運転保守
などに必要な高度な技術力の統合は日欧国際協力による実現を図った。
26
● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
説明事例集本文 02.3.18 5:46 PM ページ 27
P2M 説明事例集
プロジェクトのステークホルダー間の全体最適化の実現を図るため、工期・掘進目標達成に対する奨励
金ならびに納期の非遵守に対するペナルティー条項を設けた。そして、どのような理由があろうと、たと
えそれがサプライヤーの責任に起因しない場合であっても、所定の工期および目標が達成されなかった場
合には、いかなる相殺や求償を求めることはできないと定め、従来に例のない契約上の仕組みを設けた。
本来、サービスモデルとしては開業以降を対象とすべきであろう。しかし、ここでは、トンネル掘削開
始から開業に至る期間でのトンネル掘削システムの運用、保守ならびに地質・湧水など自然条件の変化へ
の対応、安全管理を通しての掘削技術、鉄道敷設に関するノウハウ、データなどによる海底トンネル工事
ノウハウの蓄積を対象とした。
こうした結果、わずか8年の工期で欧州念願の英仏海峡トンネルが完成した。
図表 プロジェクトライフサイクルの結合
サー
仏を ビス
つな ノウ
ぐ工 ハウ
事で を英
活用
スキームモデル
国際金融機関によるプ
ロジェクトファイナン
スの実現、2 国間協定、
日欧国際協力によるプ
ロジェクト
サービスモデル
海底トンネル工事ノウ
ハウ、英・仏・日の異
文化の相互理解
ce ,
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n
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F
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v
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t
i
統
In era ム
Op グラ 提供
プロ 力の
実践
システムモデル
高速・長距離掘進機の
ハード技術、大規模・
複雑な国際プロジェク
ト遂行ノウハイの蓄積
高度技術・金融・国
際調達・協業、日欧
国際協力によるシス
テムノウハウで新た
なサービスを提供
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
27
説明事例集本文 02.3.18 5:46 PM ページ 28
PFIに求められる
ファイナンスマネジメントと
リスクマネジメント
公共事業で積極的に活用されるようになったプライベート・ファイナンス・
イニシアチブ(PFI)。そのプロジェクトを立ち上げていく上でポイントとなるのが
ファイナンスマネジメントとリスクマネジメントなのだ。
長期プロジェクトで重要な資金調達のフレーム作り
公共事業(Public Sector Compartment, PSC)に民間のノウハウ、資金調達力などを活用したPFI
が積極的に導入されている。PFIは施設建設から維持運営管理までを委託される長期的なプロジェクトで
ある。そのプロジェクトを遂行するSPC(Special Purpose Company)にとってみれば、初期の段階
でP2Mで唱えるプロジェクト戦略マネジメント、ファイナンスマネジメント、組織マネジメント、リス
クマネジメントなどの概念を導入する必要がある。つまり、たとえ事業規模が小さい場合でも、PFI は
P2Mのプログラムマネジメントの領域に属するといえる。
PFIにおけるこれら個別マネジメントのなかでは、特にプロジェクトファイナンスマネジメントの重要
性が強調されている。事業契約を行うSPCが長期のプロジェクトで必要な資金調達のフレームを作るこ
とが重要である。その意味から、PFIはファイナンスマネジメントそのものといっても過言ではない。
プロジェクトファイナンスを実現するための事業性・採算性評価手法には、債務資本比率、ローンライ
フ・元利返済カバレージレシオ(Loan Life Debt Service Coverage Ratio, LLDSCR)、年度別・元
利返済カバレージレシオ(Yearly Debt Service Coverage Ratio, YDACR)などがあるが、これら計
算に用いるインプットデータのなかで、最も不確定要素となっているのがリスク調整費である。
ポイントとなる「リスク対コスト」の見込み
PFI 事業の経済性を評価する際、従来の PSC で行なった場合と PFI で行なった場合の LCC(Life
Cycle Cost)を比較して、VFM(Value for Money)評価を行うために用いられる概念図が図表1で
ある。初期投資である建設費や維持管理費を含めた運営費は、民間のノウハウを結集したPFIの方が安い
というのが一般通念であるが、この定量的根拠は明確でなく、議論の余地がある。
問題はリスク調整費である。PFI事業の実施方針において、これらは政治リスク、物価リスク、建設リ
スク、運営管理リスク、陳腐化リスクなど詳細に抽出され、公共側、民間セクター側のいずれが負担すべ
きか、いわゆる「星取表」の形で必ず掲載される。
PFI事業において、これら官民リスクをいずれが負担するかを決めることは非常に重要である。従来方
式の公共事業において、これらのリスクのほとんどはPSCが負担していた。しかし、建物や設備を含め
た従来のPSCがどの程度リスクを負担していたのかは、あまり定量的に把握されていない。これら、従
28
● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
説明事例集本文 02.3.18 5:46 PM ページ 29
P2M 説明事例集
来 PSC が負担していたであろうリスクを定量化し、
図表 1 PSC と PFI の VFM 評価の概念図
それに対してどの程度の「リスク対応コスト」をPFI
VFM
事業で見込んでおくかが、リスク調整作業の最も重要
リスク調整費
リスク対コスト
なポイントとなる。
支払利息
「リスクマトリクス」で
リスクの特性を把握
アドバイザ費用
税金・利益など
支払利息
運営費
運営費
リスク調整費の計測のプロセスにおいて、①物価リ
スク、②金利リスク、③資金調達リスク、④不可抗力
建設費
建設費
リスク(フォースマジュール)、⑤需要リスク、⑥運
PSC
営コストリスク、⑦デフォルトリスク──の7リスク
PFI
が行政サイドからPFI事業者に移転したと仮定する。
これらのリスクの特性について整理したものを「リスクマトリクス」と呼んでいる(図表2参照)。リ
スクの特性把握として必要となる項目は、リスクの顕在化頻度、リスク顕在時の被害額(あるいは修復費
用)、リスク顕在時の被害額分布である。各項目の設定例を次に整理する。
①顕在化頻度の設定例
リスクの顕在化頻度については、期間と確率によって設定される。例えば、「建設期間中に 1 回だけ
20%の確率で顕在化する」「運営期間中に毎年1回5%の確率で顕在化する」といったように設定する。
②顕在時被害額の設定例
リスクが顕在化した際の被害額については、最小値(楽観ケース)、最頻値(最も起こりうるケース)、
最大値(悲観ケース)によって設定される。例えば「100万円から1000万円の範囲で被害額が想定さ
れ、500万円の被害が最も起こりうる」のように設定する。
③被害額分布の設定例
リスク顕在時の被害額分布は、設定した被害額の最小値、最頻値、最大値がどのような分布となるか、
その分布形を設定したもの。一様分布、正規分布、三角分布などがある。
⑤英国におけるリスクマトリクスの設定方法
英国ではこのリスクマトリ
クスについて、PFIプロジェ
図表 2 リスクマトリクスの例
クトごとにリスクワークショ
顕在化頻度
ップを設置し、その検討結果
によって設定する方法が採用
されている。なお参加者は、
官民の専門家(行政サイドの
顕在時被害額(百万円)
被害額分布
期間
1 物価リスク
2 金利リスク
3 資金調達リスク
確率 最小値 最頻値 最大値
年1回
4%
年1回
1
5
9
正規
12%
2
5
8
正規
建設期間中1回
22%
15
25
45
一様
年1回
営繕担当、プロジェクト管理
4 不可抗力リスク
1%
5
25
200
一様
経験者、民間サイドのエンジ
5 需要リスク
運営期間中年1回 7%
6
10
14
三角
ニア、建築家、コストアナリ
6 運営コストリスク
運営期間中年1回 8%
2
10
22
正規
(偏分布)
ストなど)と、対象施設の利
7 デフォルトリスク
2%
20
50
200
三角
(偏分布)
年1回
用者などから構成される。
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
29
説明事例集本文 02.3.18 5:46 PM ページ 30
激動するIT業界で
盤石の体制を築くB社の
PM活用法
技術革新、グローバル化など様々な外部環境の変化に大きく揺れ動かされる
IT(情報技術)業界。そのなかで安定した基盤を誇っているのがB社であり、
その礎となったものがプロジェクトマネジメントであった。
すでに ’
70年代から始まっていた取組み
IT業界は1990年代後半から、未曾有の好況を呈していた。しかし、2001年前半になると一転して
深刻な不況に直面した。特に2001年9月の米国での同時多発テロ事件と、その後の国際情勢の緊迫化
を受けて、しばらくは業界としての再浮上は難しいものと見られている。
そのようななかにあって、堅調な業績を誇っているのがB社である。その背景には、ライバルに先駆け
てサービス(ソリューション)事業を中核とする企業に変身した同社自身の先見性と、それを支えた組
織・企業文化の変革があった。
サービス事業にプロジェクトマネジメントは不可欠であり、同社では ’
70年代からPMに取り組んでき
た。さらに ’
90年代中盤に入ると、PMを「コアコンピテンシー」と宣言し、PMの再編・強化を実施し
ながら事業展開を進めてきたのである。
’
90年代の前半、グローバル競争の激化、インターネットの普及、急速な普及によるITそのものの変化
などによって、IT業界全体は大いに揺れ動き、多くのIT関連企業がリストラクチャリングを余儀なくさ
れた。リエンジニアリング実施後、事業環境分析を行なったところ、これだけでは組織を変革するには十
分でなく、事業そのものを縦割りの組織からプロジェクト型に変革する必要性を識別した。
この命題を推進するためには、それまでどちらかというと単独事業ごとに脈絡を欠いて運用してきた
PMを再編し、全社にビジネス管理の動脈としてPMを活用させる必要を認識するに至ったのである。
PMの浸透に向けた仕掛け作り
しかし、ここに至るまでの道は決して平坦ではなかった。トップの不退転の決意を得るための地ならし、
抵抗勢力の説得、そして独走を防ぐチェック&バランス機能の発動などが必要であった。
この宣言から導かれたのは、①PM推進室を開設してPMのエクセレンスを追求、②全社一律のPMア
プローチの採用、③主要プロジェクトへのトップクラスのプロジェクトマネジャーの投入、④PM成果の
定量評価、⑤プロジェクトマネジャーとエグゼクティブの成果責任の明確化、⑥「PMコミュニティー」
の育成──であった。
トップマネジメントのPMへのコミットメントの証として、エグゼクティブ・ステアリング・コミティ
が結成された。このエグゼクティブ・ステアリング・コミティは、そこで決定されたことは事業部に必ず
30
● プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集
説明事例集本文 02.3.18 5:46 PM ページ 31
P2M 説明事例集
実施させる、トップポリシーを示す、PMの推進の媒体として各事業部のマネジメントとPM活用リーダ
ーに権限と責任を与える、抵抗を排除する、そしてPMがコア・コンピテンシーであるというメッセージ
を絶えず発信し続けるという任務を担っている。
明確にされた成果の基準
では、何をもってPM体系の成果が上がったかと見るかというと、次の3つで明確にされている。
①部下の指揮が的確で、品質、納期、コスト(QTC)と顧客満足を得てプロジェクトをデリバーでき
るPM人材を増やすこと。
②PMの運営手法とツール類は、プロジェクトの規模や特性ないしは顧客要求に合わせてテーラーメー
ドできる柔軟性を有していること。
③プロジェクトやプログラムの進捗・仕掛パフォーマンスをマネジメントや顧客がリアルタイムでモニ
ターできるマネジメントシステムが順調に機能すること。
PM推進室だけが張り切り、その一方でラインが黙々とPMに取り組んでいるようであると、全社PM
能力は向上しない。
そこで重要になったのは、ラインのプロジェクトマネジャーを組織してPMコミュニティーを作ること
であった。そのPMコミュニティーが大事にしていることは3点ある。
まず「ギブ・バック」と称して、各自の貴重な経験と知見をコミュニティーにフィードバックすること
である。次にナレッジの共有である。このために同社はメンター(育成の師匠)制度を設けている。3つ
目は良い成果を上げた社員を顕彰し、それなりの処遇をすることである。
これらの全社PM展開は順調に推移しているが、これで終わったわけではない。単独プロジェクト中心
の時代からプログラムの時代へと移行し、さらにプロジェクト・ポートフォリオ(エンタープライズPM)
の時代へ移行しようとしている。自社を取り巻く市場ダイナミックスに応じて、PMのエクセレンスを全
世界で追求していかなければならない。
また、PM体系・システムと上位のマネジメントシステムとの整合にも磨きをかけなければならない。
事業として見込みの無いものを何時まで維持していくことを許してくれるような時代ではない。撤退を決
断する基礎資料を与えるのもPM体系の課題である。最後に、トップのものであろうと、ミドルのもので
あろうと、メッセ
ージは一度発信す
図表 B 社の全社的なビジネス管理への PM 活用
れば事足りると考
1996年 トップマネジメントによる宣言
えるのは間違い
で、何度も同じこ
“Raising Project Management to a Core Competence"
とを繰り返して伝
“We become a PROJECT BASED business”
えないと従業員は
動かない。それは、
たとえ他社であろ
うと同じことなの
である。
PM推進室の開設と
PMのエクセレンスを
追求
主要プロジェクトへの
トップクラスの
プロジェクトマネジャーの投入
全社一律の
PMアプローチの採用
プロジェクトマネジャーと
エクゼクティブの
成果責任の明確化
PM成果の定量評価
「PMコミュニティー」
の育成
(注:一部 IPMC2001 より引用)
プロジェクト&プログラムマネジメント説明事例集 ●
31
説明事例集本文 02.3.18 5:46 PM ページ 32
社内研修などで活用する企業が続々誕生!
日本産業界の英知の結集ともいうべき日本版プロジェクトマネジメントを標準形式にして、高度な知
識情報社会で求められる「現状打破」の意識と必要な「実践力」を育成するP2M。21世紀型企業再生
のための画期的なプロジェクトマネジメント標準を網羅した本書を、社内研修、人材育成、資格認定試
験のテキストなどとして是非ご活用ください。
本書の構成
Ⅰ. プロジェクトマネジメントエントリー
Ⅱ. プロジェクトマネジメント
Ⅲ. プログラムマネジメント
Ⅳ. 個別マネジメント
第 1 章 プロジェクト戦略マネジメント
第 2 章 プロジェクトファイナンスマネジメント
第 3 章 プロジェクトシステムズマネジメント
第 4 章 プロジェクト組織マネジメント
第 5 章 プロジェクト目標マネジメント
第 6 章 プロジェクト資源マネジメント
第 7 章 リスクマネジメント
A4版・全405頁
第 8 章 情報マネジメント
用語解説付
第 9 章 関係性マネジメント
第10章
第11章
バリューマネジメント
コミュニケーションマネジメント
P2M「プロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイドブック」
購入申込書
FAX 03-3502-5500
購入冊数
財団法人エンジニアリング振興協会内
PM資格認定センター設立準備事務局 行
法人名/大学名
所 属/学 部
フリガナ
氏 名
住 所
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TEL No.
頒布価格:本体3,800円+消費税190円=3,990円 ※送料は実費負担でお願いいたします。
問合先
プロジェクトマネジメント資格認定センター設立準備事務局
〒105-0003 東京都港区西新橋一丁目4番6号 CYDビル
(財)エンジニアリング振興協会内
TEL:
03-3502-4441 FAX:
03-3502-5500
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