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村田 克1、秋山 茉莉2、篠崎 勇太2、名古屋 俊士1 (1早稲田大学理工

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村田 克1、秋山 茉莉2、篠崎 勇太2、名古屋 俊士1 (1早稲田大学理工
 図書館図書に付着した真菌に対する
防菌施工の効果の検証に関する研究
○村田 克1、秋山 茉莉2、篠崎 勇太2、名古屋 俊士1
(1早稲田大学理工学術院、2早稲田大学創造理工学部環境資源工学科)
(連絡先:東京都新宿区大久保3-4-1 51号館13階09室 Email: [email protected])
図書資料の付着カビ(真菌)について、抗菌剤「BV4」またはエタノールを用いた防菌施工の効果を検討した。図書館所蔵図書の表面に付
着する真菌は図書上面(天)に最も多く、次いで背表紙、小口、表紙の順に多く観察された。施工効果について特に噴霧処理ではエタノー
ルよりもBV4に大きな効果が認められた。汚染の度合いが大きい場合は、拭き取りの後にBV4の噴霧処理を施した場合に最も大きな効果
が認められた。図書資料の防菌施工については、抗菌剤BV4がエタノールと同等以上の効果を有することが示唆された。
1.目的
4.結果と考察
図書館書庫の図書に対して、抗菌剤BV4、またはエタノールを
用いた拭取および噴霧処理により防菌施工を行った際の、図書表
面の付着真菌に対する抑制効果を検討する。
防菌施工処理後の図書資料表面の付着真菌数を処理条件別に比
較したグラフを、図書表面の箇所ごとにそれぞれ図3∼図6に示
す。図3∼図6のブランク(無処理)を比較すると、各図書に付
着する真菌数は、図書上面である天においてどのセットでも特に
多く、次いで背表紙、小口、表紙の順で汚染されていた。また背
表紙の真菌数は図書によって大きく異なり、天よりも汚染されて
いる場合もあった一方で、小口や表紙における真菌数はほとんど
ゼロに近かった。
2.図書資料の除菌・防菌について
図書資料の微生物汚染については、真菌の繁殖により資料基材
を直接分解汚損したり、代謝物の残存から褐色の斑点(フォクシ
ングfoxing)が発生したりする劣化が知られている。また利用者
及び管理者に皮膚炎やじん麻疹、喘息、肺炎、アレルギーを引き
起こす可能性も指摘されている。
真菌に対して一定の抑制効果があったと考えられる。天や背表紙
において、拭取処理の液剤にBV4を用いた場合とエタノールの場
合とを比較すると、図3と図4から真菌増殖の抑制の度合いは変
わらなかった。しかし噴霧処理については、BV4を用いた場合の
方がエタノールの場合よりもコロニー数の減少が大きく、真菌増
殖が抑制されていたと考えられる。今回の実験では⑧エタノール
拭取+BV4噴霧の処理がもっとも菌数が少なく、効果が高いと考
えられた。
ブランクと比較して全ての処理条件において真菌数は減少し、
ほとんどの検体が10cfu以下に入っていたことから、どの処理も
このように真菌汚染された図書資料のクリーニング法として
は、資料表面を消毒用エタノールで拭き取る方法や、掃除機や刷
毛を使って汚れを除去する方法がある。一方、近年では総合的有
害生物管理 (IPM: Integrated Pest Management) の考え方が導
入され、被害の未然防止が図られている。
本研究に用いた薬剤BV4
(株式会社MUKINKEN製)は、資料表面
や書庫内環境へ散布することにより、菌
を不活性化する効果がある。図1にBV4
散布の様子を示す。本剤は非アルコール
系、非次亜塩素酸系の抗菌剤であり、原
材料に食品及び食品添加剤のみを用い、
人体への影響が少ないことを確認済みであ
る。
図3 施工条件別の表面付着真菌数(天)
図4 施工条件別の表面付着真菌数(背表紙)
図5 施工条件別の表面付着真菌数(小口)
図6 施工条件別の表面付着真菌数(表紙)
図1 BV4散布の例
3.方法
各図書への防菌施工処理として、液剤を用いた図書表面の拭き取りおよ
び図書表面への直接噴霧、もしくはどちらか一方のみを行うこととし、液
剤にはBV4またはエタノールを用いた。処理方法は無処理の場合を含めて
8条件であり、各方法を表1に示す。
まず大学内の図書館書庫に所蔵されていた図書について、同一の形態で
かつ目視により汚染度が同じような図書5冊ずつを1セットとして選び、
10セットを実験に供した。なお図書館職員によればこの書庫は、館内で
最もカビが発生しやすいとのことであった。
<凡例(図3∼図7)> ブランク:処理無し、E:エタノール、BV:BV4、両方:拭取後に噴霧
次に各セットの5冊の図書について、表2に示す順
序で防菌施工処理と表面付着菌の採取を行った。採取
箇所は表紙、背表紙、小口、天の4面について、スタ
ンプ法によってサブロー寒天培地(極東製薬工業株式
会社製 DDチェッカー)上に採取した。なお図書各部
の名称を図2に示す。また採取位置については予備試
験の結果、計測される真菌数は図書の同一面内の採取
位置による差より、図書による差のほうが大きいよう
であったため、図書の各面について中央部一箇所をそ
の面の採取位置とした。
なおエタノールを用いた拭取処理の場合は、図書表
面の色が拭取紙へ移り、拭取回数を重ねると明らかな
図書表面に色落ちが見られたが、BV4を用いた場合は
エタノールよりも色移りの程度が大幅に減っていた。
また図7に、各条件で採取された真菌の属につい
て、全体に対する割合を条件ごとに比較したグラフを
示す。ここで棒グラフの長さは全体に対する各属の比
率を示している。誤差を考慮して、図7において真菌
数の多い①ブランク、③エタノール噴霧、⑥BV4噴霧
の3方法で比較すると、各方法で真菌属の割合に大きな
違いがないと考えられる。これより両液剤ともに多く
の真菌に対して抑制効果があると考えられる。
図2 本の各部の名称
その後、菌を採取した培地をそのまま培養(26℃、
48時間)した後に目視でコロニー数 (cfu) を計測し、その条件の真菌数
とした。さらに顕微鏡観察などにより真菌の属ごとの抑制効果も簡易に検
討した。
図7 施工条件別の検出真菌属の割合
(括弧内の数字は総コロニー数)
また拭取、噴霧の処理作業が書庫内の空気環境へ及ぼす影響を調べるた
め、図書館書庫において各作業を行った前後でそれぞれ空中落下菌数の変
化を確認した。落下菌の測定にはサブロー寒天培地(同上)を用い、書架
上と床上との2箇所において1時間測定し、上記と同様に培養後に計数し
た。
表3 落下菌の測定結果
書架上
処理前
床上
処理後
表1 図書の防菌施工処理方法
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
条件
ブランク(無処理)
エタノール拭取
エタノール噴霧
エタノール拭取+噴霧
BV4拭取
BV4噴霧
BV4拭取+噴霧
エタノール拭取+BV4噴霧
エタノール
--拭取のみ
噴霧のみ
拭取後に噴霧
------拭取
BV4
--------拭取のみ
噴霧のみ
拭取後に噴霧
噴霧
表2 1つのセットの図書の施工順序(丸数字は菌採取)
処理および表面菌採取の順序
1冊目 無処理の状態で① → エタノール拭取+BV4噴霧後⑧
2冊目
エタノール拭取後② → エタノール噴霧後④
3冊目
エタノール噴霧後③
4冊目
BV4拭取後⑤ → BV4噴霧後⑦
5冊目
BV4噴霧後⑥
拭取
噴霧
処理前
処理後
さらに表3に拭取、噴霧処理前後における書架上及
び床上の落下菌の測定結果を示す。表3で各セルの写
真は26℃、48時間培養後の培地の様子を示し、数字は
その真菌コロニー数を表している。表3から、いずれ
の処理方法でも落下菌数は増加しており、特に噴霧処
理の前後で差が大きかった。噴霧による気流の発生が
周辺環境へ菌胞子を拡散させたことが考えられた。こ
れより真菌汚染の程度が特に大きい図書については、
噴霧よりまず拭取処理を施すことと、また各処理中お
よび後の環境に関しても、作業者や居室者のマスク着
用や、清掃が必要であると考えられる。
5.まとめ
図書表面の付着真菌については、天と背表紙の付着菌数が特に多い一方、小口と表紙については
ほとんど観察されなかった。これらの付着菌に対する防菌施工処理の効果を検討したところ、BV4
はエタノールと同様の効果を有することが示唆され、特に噴霧処理に関してはエタノールよりもBV4
の効果が大きいと考えられた。ただし噴霧だけでは汚染度合いの大きい場合には十分な効果が得ら
れず、拭き取り処理を行った後にBV4を噴霧した場合に最も大きい効果が得られた。なお噴霧作業
による随伴気流が周辺環境を汚染させる恐れにも留意する必要があると考えられた。本研究は株式
会社カルチャー・ジャパンおよび株式会社MUKINKENの協力によって行われた。
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