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PDF版 2.9MB - NIRA総合研究開発機構

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PDF版 2.9MB - NIRA総合研究開発機構
NIRA Seminar Report
NIRA
No.2005-01
2006
NIRA
6
2005 年度 NIRA 公共政策研究セミナー
ケーススタディの研究指導者および専門家ヒアリング講師
<敬称略、役職は開催時>
A) 構造改革-民と公の挑戦-
『官と民の役割分担 -新しい「公共」の形を求めて-』
研究指導講師
稲葉 陽二
日本大学法学部教授
コーディネータ
岡田 靖
学習院大学特別客員教授
専門家ヒアリング
I)
官製市場の改革と市場化テスト
八代 尚宏 国際基督教大学教授
II)
PPP の考え方と応用可能性
高橋 一浩 日本政策投資銀行金融企画担当審議役
PFI の現状とその実務
清水
社会起業家と構造改革
町田 洋次
III)
博 日本政策投資銀行プロジェクトファイナンス部課長
B) NPO が切り拓く新たな公共
『NPO が切り拓く新たな公共
-新たな地域ガバナンスの創造に向けた NPO 施策のあり方に関する実証的研究-』
研究指導講師
田中 敬文
東京学芸大学教育学部生活科学学科助教授
コーディネータ
服部 篤子
CAC-社会起業家研究ネットワーク代表
専門家ヒアリング
I)
NPO と自治体のパートナーシップ-子育て支援のあり方をめぐって
奥山 千鶴子 NPO 法人びーのびーの理事長
II)
NPO による政策提言活動
森嶋 伸夫 NPO 法人一新塾代表理事・事務局長
III)
自治体からみた NPO とのパートナーシップ
-千葉県市川市「市民活動団体支援制度」の事例
五十嵐 盛春 市川市市民生活部ボランティア・NPO 活動推進課長
講
義
公共政策概論
縣 公一郎 早稲田大学教授
知識集約型国際交渉の時代
猪口 邦子 上智大学教授
「政府」とは何か-大きさ、機能、評価の機軸
江崎 芳雄 NIRA 理事
経済財政運営と経済財政諮問会議
豊田 欣吾 内閣府大臣官房政策評価広報課長
政策評価Ⅰ、II
塚本 壽雄 早稲田大学教授
「官と民の役割分担 -新しい「公共」の形を求めて-」
研究体制
今井 透
滋賀県東京事務所 主任主事
佐藤 陽介
東京都水道局 主事
田口 薫
株式会社地域技術総合研究所 研究員
田中 啓之
衆議院調査局総務調査室 次席調査員
山根 淳一
鳥取県東京事務所 主事
(五十音順、役職は受講時のもの)
平成 17 年 9 月~平成 18 年 3 月
研究期間
(NIRA 公共政策研究セミナー 期間を含む)
執筆分担
はじめに
田中 啓之
第1章
田中 啓之
第2章
山根 淳一
第3章
今井
第4章
佐藤 陽介
第5章
田口
透
薫
i
目
次
はじめに ····································································· 1
第 1 章 無線周波数の分配・割当における政府及び市場の役割······················ 5
-指令統制型、市場型、コモンズ型の比較-
1.はじめに ································································ 5
2.無線周波数の分配・割当とは··············································· 5
3.各分配・割当方式の評価等················································· 5
3.1 資源配分の効率性 ····················································· 5
3.2 制度の透明性 ························································· 8
3.3 適応分野 ····························································· 9
4.関係する政策手段の適用方法··············································· 9
4.1 指令統制型 ··························································· 9
4.2 市場型 ······························································· 10
4.3 コモンズ型 ··························································· 10
5.日本の分配・割当制度の特徴··············································· 10
5.1 資源配分の効率性 ····················································· 10
5.2 制度の透明性 ························································· 11
5.3 電波利用料 ··························································· 11
5.4 欧米の制度との対比 ··················································· 11
6.まとめ ·································································· 12
7.おわりに ································································ 13
第 2 章 公共サービスのパブリックビジネス化について···························· 15
-公営企業の民営化の事例-
1.はじめに ································································ 15
2.パブリックビジネスという概念············································· 15
2.1 公共サービスのパブリックビジネス化に伴う問題 ························· 16
ii
2.2 公営企業とパブリックサービス ········································· 16
2.3 パブリックビジネスと公営企業の民営化 ································· 17
3.パブリックビジネス化の事例··············································· 18
3.1 事例1:山口市市営バスの民営化 ······································· 18
3.1.1 民営化に至る経緯·················································· 18
3.1.2 民営化···························································· 18
3.1.3 民営化の効果······················································ 19
3.2 事例2:札幌市市営バスの民営化 ······································· 19
3.2.1 民営化に至る経緯·················································· 19
3.2.2 民営化···························································· 21
3.2.3 民営化の効果······················································ 21
4.おわりに ································································ 22
第 3 章 美術館サービスのあり方 ··············································· 23
-神奈川県立近代美術館 PFI 事業を通して-
1.はじめに ································································ 23
2.神奈川県立近代美術館 PFI 事業の概要······································· 23
2.1 PFI の概要···························································· 23
2.2 神奈川県立近代美術館 PFI 事業 ········································· 23
3.スキーム構築の分析······················································· 24
3.1 スキーム構築の分析 ··················································· 24
3.2 神奈川県による美術館サービスの評価 ··································· 29
3.3 神奈川県立近代美術館における美術館機能の役割分担 ····················· 30
4.分析と評価 ······························································ 31
5.おわりに ································································ 32
第 4 章 水道事業の事業形態について ··········································· 35
1.序論 ···································································· 35
1.1 研究の背景 ··························································· 35
1.2 研究の目的 ··························································· 35
iii
2.わが国における水道事業の現状············································· 35
2.1 概要 ································································· 35
2.2 東京都の現状 ························································· 36
2.3 善通寺市の現状 ······················································· 36
3.諸外国の民営化事例について··············································· 36
3.1 概要 ································································· 36
3.2 イギリスの民営化事例 ················································· 36
3.3 フランスの民間委託事例 ··············································· 37
3.4 まとめ ······························································· 38
4. 民営化に関わる事業形態について ·········································· 39
4.1 概要 ································································· 39
4.2 経営委託方式 ························································· 39
4.2.1 コンセッション方式················································ 39
4.2.2 アフェルマージ方式················································ 39
4.3 運営委託方式 ························································· 40
4.4 株式会社方式 ························································· 40
4.5 まとめ ······························································· 41
5.わが国の水道事業における事業形態について································· 41
5.1 はじめに ····························································· 41
5.2 モニタリングについて ················································· 42
5.3 大規模事業体について ················································· 42
5.4 小規模事業体について ················································· 42
6.おわりに ································································ 43
第 5 章 コミュニティ・ビジネスにおける民と公の新たなかたち···················· 45
1.はじめに ································································ 45
2.コミュニティ・ビジネスと経済コミュニティ································· 46
3.コミュニティ・ビジネスの現状············································· 47
4.激変の中にある民と公の新たなかたち······································· 50
iv
参考文献 ····································································· 55
発行にあたって ······························································· 58
v
はじめに
田中
啓之
小泉内閣総理大臣は、第 164 回国会の施政方針演説(2006 年 1 月 20 日)において、
「私は、日本を再生し、自信と誇りに満ちた社会を築くため、
『改革なくして成長なし』
、
この一貫した方針の下、構造改革に全力で取り組んでまいりました。
(中略)、
「公共的
な仕事や公益の追求は、国だからできて民間では難しいという、これまでの考え方か
ら脱却し、役所より民間に任せた方が効果的な分野については、
「官から民へ」の流れ
を加速します。」と述べた。小泉内閣の高い支持率の継続、2005 年の衆議院総選挙の
結果から推測されるように、
「官から民へ」の方向性は多くの国民に支持されているも
のと考えられる。
「官と民の役割分担」には、「規律の在り方」(官が統制すべきか、市場メカニズム
に任せるべきか)に関するものと、「公共サービスの供給の在り方」(官が供給するべ
きか、民の供給に任せるべきか)に関するものに分けることができる。
「規律の在り方」については、規制緩和推進計画(1995-1997 年)
、規制緩和推進 3
か年計画 (1998-2000 年)、規制改革推進 3 か年計画 (2001-2003 年)、規制改革・民間開
放推進 3 か年計画 (2004-2006 年)等の中で着実に改革が推進されてきており、その具
体的な内容も、個別規制の緩和、事後チェックルールの整備、競争政策の強化、官製
市場の改革等、多岐にわたっている。大きな方向性は、
「官による統制から市場メカニ
ズムの活用、市場監視機能の強化」となっている。構造改革特区のような新しい制度
も創設されている。
「公共サービスの供給の在り方」については、
「民営化」
、
「官と民の連携」、
「民のイ
ニシアティブ」等がある。「民営化」では、「条件不利地域等での財・サービスの供給
(公益性)は今までどおり確保されるのか」等が大きな論点となる。これについて、
郵政民営化では、「市場に任せることによる効率性の向上により公益性は確保される」
とされた。
「官と民の連携」では、PFI (Private Finance Initiative) 、指定管理者制度、市
場化テスト、国有財産の民間利用要件の緩和等、制度が以前より整い、収益性や官民
のリスク分担の明確化についての関係者の意識も高まってきた。「民のイニシアティ
ブ」は、民が自らコミュニティの発展等に寄与し、公的役割を担っていく動きであり、
特定非営利活動促進法 (1998 年)等を背景に活発化し、人々の関心も高まっている。官
民分担の新しい姿であるといえる。
本報告書は、
「官と民の役割分担」に関する5つの事例分析から構成されている。
第 1 章「無線周波数の分配・割当における政府及び市場の役割-指令統制型、市場
1
型、コモンズ型の比較-」(田中論文)は、「無線周波数の分配・割当」について、政
府が自ら決定する指令統制型、市場の決定に委ねる市場型、排他的利用権を設定しな
いコモンズ型に分け、それぞれの効率性、適応分野等を分析している。
第 2 章「公共サービスのパブリックビジネス化について-公営企業の民営化の事例
-」
(山根論文)は、バス事業の民営化について、山口市、札幌市の例を取り上げ、公
共性と採算性の観点から、サービスの向上、地域経済への影響等を分析し、民営化に
おいて留意すべき事項をまとめている。
第 3 章「美術館サービスのあり方-神奈川県立近代美術館 PFI 事業を通して-」
(今
井論文)は、神奈川県立近代美術館における PFI を取り上げ、その事業スキームを、
インセンティブ、リスク分担、モニタリング等の観点から分析し、今後の博物館・美
術館サービスのあり方をまとめている。
第 4 章「水道事業の事業形態について」
(佐藤論文)は、水道事業への民の導入につ
いて、諸外国の実情について調査し、代表的な事業形態を経営委託方式、運営委託方
式、株式会社方式に整理するとともに、これらをふまえ、日本における事業形態の在
り方を東京都、香川県善通寺市を例に分析している。
第 5 章「コミュニティ・ビジネスにおける民と公の新たなかたち」
(田口論文)は、
コミュニティ・ビジネスという民のイニシアティブによるコミュニティの発展への取
組みについて、成功のための条件、環境整備の在り方等を分析し、
「公と民の新しいか
たち」を提案している。
「官と民の役割分担」について、総合規制改革会議は、
「規制改革の推進に関する第
2 次答申-経済活性化のために重点的に推進すべき規制改革-」
(2002 年 12 月)にお
いて、「公共財的性格を持つ財・サービスの供給、外部性、市場の不完全性、独占力、
自然(地域)独占、公平の確保といった『市場の失敗』があるとして、行政が関与す
ることが必要と判断された場合であっても、既存の政府部門と民間委託とのコスト・
品質面での比較、『政府の失敗』の考慮(経営努力や効率化のインセンティブの確保、
既得権益の排除等)等の視点に留意して、その手段・形態を選択するべきである。
」と
の趣旨をとりまとめている。この方向性を念頭に、以下では、実務家の立場から、
「官
と民の役割分担」に関する素朴な問題提起を行いたい。
第 1 は、
「『官から民へ』により提供される財・サービスの有限責任性が増すのでは
ないか」ということである。委託契約を詳細に定めれば、官と民が提供する財・サー
ビスに差はなくなり、雇用契約や就業規則等を詳細に定めれば、公務員と非公務員が
提供する財・サービスに差はなくなる。しかし、完備性のある契約は現実には難しく、
契約に定めがない事項が生じた場合に民に官の場合と同様な対応や責任を求めること
は難しい。もちろん、官であるが故に求められがちな過剰な配慮から開放されるとい
う面もある。
第 2 は、
「『官から民へ』を契機として官が担っている理由の再確認が可能となる」
2
ということである。自然(地域)独占なのか、公共財なのか、シビルミニマムなのか
等の再確認である。
「民営化や民間委託により提供される財・サービスのレベルが低下
するおそれ」の議論において着目すべきは、
「各個人の受けている個別の財・サービス
レベルの維持」ではなく、
「制度目的に照らして維持すべき財・サービスのレベル」で
あることに注意が必要である。もちろん、
「制度目的には含まれていないが結果として
実現しているもの」を、新たに「制度目的に含める」と再整理することは可能である。
第 3 は、
「『官から民へ』に伴い必要となる市場監視機能や消費者保護制度の強化が
充分に行われないおそれがある」ということである。市場メカニズムを活用する場合
には、これらの機能や制度の整備は不可欠である。しかしながら、市場監視機能の強
化には、
「過去不要であった支出であり民が負担すべき」との財政当局からの意見があ
ろう。消費者保護制度の強化には、
「規制強化は反対である、民に対し性悪説で対応す
べきではない」とする事業者からの意見があろう。漸進的な制度変更アプローチをと
ることも現実には必要となる。
第 4 は、
「政策分析における『効率性』と『所得分配の公正』の分析は容易でない面
がある」ということである。
「後者を個別の産業分野に閉じて考えることは適当でなく、
全産業の視点から考えることが重要である」というのが政策分析の基本であるとして
も、政策現場では、「個別産業における正の外部性(公益性)」と「全産業で考えるべ
き所得分配の公正」の区分に悩む場面がある。
本報告書は、実務家による分析であるという点に特徴がある。第 1 章から第 4 章ま
では官の側に所属する者が、第 5 章は民の側に所属する者が分析を行っている。各人
は、
「実務家としての問題意識」をベースにしつつ、可能な限り客観的な分析を試みて
おり、読者は、個別のケースを学ぶだけでなく、実務家の思考プロセスをも追うこと
が可能である。本報告書が「官と民の役割分担」を考える上で少しでも参考となれば
幸いである。
3
第1章
無線周波数の分配・割当における政府及び市場の役割
-指令統制型、市場型、コモンズ型の比較-
田中
1.
啓之
はじめに
「官と民の役割分担の在り方」には、「規律の在り方」(官により統制すべきか市場
メカニズムに任せるべきか)、
「財・サービスの供給主体の在り方」
(公的に供給すべき
か民間の供給に任せるべきか)等がある。本章では、前者について、
「希少資源の分配・
割当の在り方」を取り上げて分析を行う。具体的には、無線周波数の各種分配・割当
方式について、資源配分の効率性、制度の透明性等に着目して、その評価、適応分野、
関係する政策手段の適用方法等の分析を行なう。
2.
無線周波数の分配・割当とは
政府は、周波数帯域全体を細分化して用途や無線システム等を指定する「分配」
、分
配された周波数帯域において個別利用者に利用権を与える「割当」等の手段を用いて
周波数管理を行なっている。分配・割当の方式には、1) 国が排他的利用権者を決定す
る「指令統制型」
(従来から行われている方式)
、2) 市場において排他的利用権者を決
定する「市場型」
(例:周波数オークション、周波数の二次取引)
、3) 排他的な利用権
者を決定しない「コモンズ型」
(例:2.4GHz 帯の無線 LAN での利用形態)がある。
周波数オークション(市場型)は、1989 年にニュージーランドが最初に導入して以
来、米、英、独、豪等が導入1しているが、日本、仏、スウェーデン等は導入していな
い。なお、周波数利用に対する課金である電波利用料制度は、日本を含め、周波数オ
ークションを導入していない国においても、導入している例が多い。
3.
各分配・割当方式の評価等
各割当方式のメリット・デメリットを、資源配分の効率性、制度の透明性の観点か
ら評価し、適応分野を整理したものが図表 1-1 である。
3.1
資源配分の効率性
(1)
分配・割当能力
指令統制型は、政府による分配・割当能力の限界(分配・割当済みの周波数の返却
を求めることが難しいことを含む)という問題があるが、正の外部性(公益性等)に
対し強制力をもった対応(再配分、技術基準の改定等)が可能である。市場型は、市
場メカニズムの持つ効率性を活用できるが、周波数市場の不完全性(周波数オークシ
ョンにおける勝者の呪い、談合、用途分配の硬直化、周波数帯域の細分化等のおそれ
等)がある。コモンズ型は、混信回避技術により、異なる用途・利用者による周波数
の時間多重利用を実現しており効率性が高いが、技術的に採用が不可能な場合が存在
し、また、一旦コモンズ型を採用すると他の方式への変更が難しい等の課題がある。
5
図表 1-1 各分配・割当方式の評価、適応分野
評価の観点
効
分配・
率
割当能
性
力
指令統制型
・政府の能力の限界、
周波数の返却を求め
る難しさ
・強制力をもった対応
(再配分、技術基準
の改訂等)が可能
市場型
・市場メカニズムの持
つ効率性
・周波数市場の不完全
性(談合、用途分配
の硬直化、周波数割
当量の細分化等のお
それ)
電気通
信市場
の不完
全性へ
の対応
・事業者数の適切な設
定、市場監視、適時
な新規割当等により
対応(一定の対応が
可能)
正の外
部性へ
の対応
・分配・割当の優先、
公益義務の賦課等に
より対応(配慮が容
易)
負の外
部性へ
の対応
・排他的利用権の設定
により対応(効率面
での犠牲が大きい場
合多し)
・電波利用料により、
利用者に対するイン
センティブを付与
・余剰の国への帰属量
は課金額により変化
・劣る(比較審査の場
合)
外部性が大きく、周
波数の経済的価値が小
さく、環境変化が小さ
く、情報の非対称性(国
と利用者の間)が小さ
い分野
・事業者数の適切な設
定、市場監視、適時
な新規割当等により
対応(周波数の二次
取引により新規参入
が可能)
・公益義務の賦課等に
より対応(配慮が難
しい)
・高額な落札額等によ
る産業発展の停滞の
おそれ
・排他的利用権の設定
により対応(効率面
での犠牲が大きい場
合多し)
・周波数オークション
により、高い効率性
が期待できる
・余剰の国への帰属量
が大きい
・優れる
電波利
用に対
する課
金
制度の透明
性
適応分野(相
対的に優位
性が高い分
野)
コモンズ型
・時間的多重利用(排
他的利用権を設定し
ないために可能)の
持つ効率性
・技術的に採用が不可
能な場合が存在
・コモンズ型以外への
方式変更が難しい
・新規参入は随時可能
・公益義務の賦課等に
より対応(配慮が難
しい)
・混信回避避技術等に
より対応(効率面で
の犠牲小、混雑の問
題あり)
・電波利用料により、
混雑緩和のメリット
がある
・優れる
混信回避技術の導入
正の外部性が小さ
が可能であり、混雑等
く、周波数の経済的価
が重大な支障とならな
値が大きく、環境変化
い分野
が大きく、情報の非対
称性(国と利用者の間)
が大きい分野
筆者作成
6
(2)
電気通信市場の不完全性への対応
排他的利用権を設定する割当方法(指令統制型、市場型)は、電気通信市場(例:
携帯電話市場)において寡占が生じやすいことから、適切な参入事業者数の設定、市
場監視、適時な新規参入のための周波数の追加分配等が必要である(ただし、市場型
では周波数の二次市場により新規参入が可能)
。一方、コモンズ型は、排他的利用権を
設定していないので、このような問題は生じにくい。
(3)
正の外部性への対応
無線周波数の利用には外部性(財・サービスの供給や需要が市場を経由しないで他
の主体に影響を与えること)がある。正の外部性は、公益用途(公益性のある財・サ
ービスの提供を行う用途)や産業基盤性のある用途(関連産業への波及効果等のある
用途)で大きい。
例えば、前者には、気象レーダー(広く国民が気象に関する情報を得ることができ
る)
、放送(災害時等において広く国民が必要な情報を受け取ることができる)があり、
後者には、無線 IC タグ(物流産業等の効率化・高度化をもたらす)
、無線 LAN(各種
産業等の情報化を促進する基盤となる)等がある。後者には、動学的外部効果(新た
な技術や知識が生み出され、それが他の企業や産業にスピルオーバーし、その便益を
高めること)を含む場合がある。
外部性への対応方法には、「特定用途等の優遇」(例:重要通信専用の無線システム
への周波数分配・割当の優遇)と、「一般用途における公益的義務の賦課」(例:携帯
電話用周波数の分配・割当における重要通信の優先的取扱機能の提供義務の賦課)が
ある。
前者(特定用途等の優遇)は、「特定用途を他の用途と区別することの非効率」(特
定用途限定という汎用性の小さい無線システムの導入を強いる2ことによる利用コス
トの上昇、用途区分の設定に伴う分割損や需要変動に対する硬直性等)、「政府の判断
能力の限界」
(外部性の大きさ等の適切な判断等の難しさ)の問題もある。比較審査(指
令統制型において周波数の供給に対し需要が多い場合の審査方式の一つ)において、
過度に公益性等を重視すると、結果として私的総余剰が低下し、社会的総余剰の低下
につながるおそれがあることにも注意が必要である。
後者(一般用途における公益的義務の賦課)は、1) 特定用途を区別することによる
非効率が生じない、2) 全ての分配・割当方式(指令統制型、市場型、コモンズ型)に
おいて導入が可能である等のメリットがあるが、1) 外部性への対応として十分でない
可能性がある、2) コスト面で非効率となる可能性がある、3) 競争中立的でない(小規
模の事業者(利用者)では義務への対応が難しい場合がある)等のデメリットがある。
優劣の決定に当たっては、技術や市場環境の変化への対応の容易性等の面からの評価
も必要である。
前者(特定用途等の優遇)の具体的方法には、
「分配・割当量の優遇」と「電波利用
料額の優遇」がある。周波数需要が供給よりも大きいにもかかわらず市場価値(機会
7
費用)以下の電波利用料額しか課されていない場合、
「優遇」により、電波を利用して
生産するサービスに係る限界生産費用が下がり、その供給量が増大するという効果が
「周
生じるものの、投入財である周波数財と資本財には代替性がある3ために、前者は、
波数集約的な生産(電波利用)をもたらす」という負の影響(全周波数帯域での効率
性への負の影響)が生じる。後者は、分配・割当の優遇が伴わなければ、そのような
影響は生じない。
(4)
負の外部効果への対応
指令統制型や市場型は排他的利用権の設定により混信を回避しているが、コモンズ
型は無線局が自動的に混信のない周波数を選択して用いることにより混信を回避して
いる。コモンズ型では、混雑の発生や、コモンズの悲劇という負の外部性があり、遅
延等が問題となる通信サービス(例:音声通信サービス)には向かない面があるが、
技術進歩は著しく、コモンズ型の相対的な優位性は急速に高まってきている。なお、
指令統制型や市場型においても、混信回避技術等(例:隣接する無線局との混信回避
のための電力制御技術)の進歩の恩恵を享受するために、分配・割当、技術基準等を
適時に変更していく必要がある。
(5)
電波利用に対する課金
欧州における第 3 世代携帯電話の周波数オークションにおける落札金額の高騰は、
同サービスの開始を遅らせた4と言われている。欧州でオークションを導入している国
でも、ほとんどの分配・割当は指令統制型又はコモンズ型で行っており、かつ、電波
利用料額は周波数の機会費用よりも低く設定している5 ことから、仮に周波数オーク
ションでの落札金額が当該用途に関する周波数の機会費用に等しい額であったとして
も、「第 3 世代携帯電話サービスに対しては他の用途に比べて大きな負担を課してい
る」という面がある。
電波利用料(周波数オークションの落札額を含む)は、電波監理に必要な行政経費
への充当分を除き、社会的厚生の最大化の面からは、使途を限定しないことが望まし
い。ただし、周波数の返却促進のための補助金、電波の能率的利用の促進のための研
究開発等、周波数帯域量の実質的な増大の効果が見込まれる使途については、動学的
な外部性のメリットを享受する観点から、優先することが考えられる。
3.2
制度の透明性
指令統制型には、「比較審査における優劣の判断が難しく透明性に欠ける」(相対的
な評価の難しさ、複数の評価軸の重み付けの難しさ)という問題がある。
日本では周波数の二次取引は認められていないが、「2000 年の電波法改正で、営業
譲渡に伴って無線局免許を他者に譲渡できるようになった。」
(鬼木(2002); pp.47)との
指摘もある。企業買収や譲渡により周波数を獲得した利用者(事業者)と、新規割当
を待っている利用者(事業者)との間の公平性の問題、転売目的による周波数獲得が
8
排除できない可能性があるという問題もある。
3.3
適応分野
指令統制型は、政府の能力に負うところが大きい方式であり、国と周波数利用者の
間の情報の非対称性、環境変化の予測の難しさ、割当済み周波数の返却を求めること
の難しさ等から効率性が大きくならないという問題がある。すなわち、外部性が大き
く、周波数の機会費用が小さく、情報の非対称性(国と利用者の間)が小さく、環境
変化が小さい分野で優位性がある。外部性への配慮が容易、国が強制的な権限を維持
しているため強制的な執行(例:用途分配の変更)が可能という優位性もある。
市場型は、正の外部性への配慮の必要性が小さく、負の外部性が大きく、周波数の
機会費用が大きく(極端に大きい場合には落札額等の高騰のおそれがあり周波数の分
配量自体を見直す必要あり)
、情報の非対称性(国と利用者の間)が大きく、環境変化
が大きい分野で優位性がある。
コモンズ型は、技術的に採用可能であることが前提となるが、混雑等が重大な支障
とならず、正の外部性への配慮の必要性が小さく、電気通信市場における寡占等の問
題が大きい分野において優位性がある。
4.
関係する政策手段の適用方法
周波数の分配・割当に関する各種政策手段には、割当者数、権利付与期間、技術基
準、公益義務(例:エリアカバー率)
、電波利用料等がある。本節では、各分配・割当
方式において、これらの政策手段を用いて資源配分の効率性を向上させる方法につい
て分析する。
4.1
指令統制型
第 1 は、政府の能力の不足を補うことが可能なインセンティブ規制(例:電波利用
料、周波数の利用効率の高い利用者に対する割当上の優遇)の活用である。英国では、
無線電信免許料(電波利用料に相当)にインセンティブ課金を導入(1998 年)している。
「周波数帯域は限界価値が等しくなるように配分すべきであり、そのためには、周波
数 帯 域 の 使 用 に 係 る 機 会 費 用 に 応 じ た 額 を 課 金 す べ き 」 (NERA-Smith System
Engineering(1996))との考え方がベースになっている。
第 2 は、需要変動や技術環境等の環境変化や情報の非対称性に強い政策手段の採用
である。段階的な割当(例:一回の割当量の削減、権利付与期間の短縮、再免許条件
の詳細化)、過去の実績等の追加割当へのフィードバック、技術進歩や需要変動等に対
する拡張性のある技術の採用の義務付け等である。
第3は、政府の能力を補完するための分配・割当に関する各種評価方法の開発であ
る。具体的には、正の外部性(公益性等)や周波数の利用効率等に関する評価指標や
その活用方法等の開発である。
9
4.2
市場型
周波数オークションや周波数の二次取引等の適切な制度設計が重要である。勝者の
呪い、談合、権利付与期間の長期化に伴う弊害等が小さくなるように制度整備を進め
ていく必要がある。また、周波数オークションを実施する用途に対する周波数分配量
を適切に設定する必要がある(周波数分配量が他の用途に比べて少ない場合には、当
該用途に係る周波数の機会費用が大きくなり、オークションの落札金額が過大となる)
。
技術基準の設定においては、市場メカニズムが有効に機能するように工夫していく必
要がある。
4.3
コモンズ型
混信の自動回避技術等に関する適切な技術基準の設定が必要である。コモンズ型は、
参入退出の自由度が大きい(個別の無線局の監理コストが小さい)という特徴を有す
るが、電波利用料を賦課した場合には、混雑緩和のメリットが期待できる一方、電波
利用料の徴収等のための無線局監理コストが発生するというデメリットが生じる。す
なわち、課金方法の検討、料額の適切な設計が重要となる。なお、コモンズ型は、公
益的な義務の賦課が容易でない面があり、注意が必要である。
5.
日本の分配・割当制度の特徴
日本における周波数の分配・割当について、資源配分の効率性、制度の透明性等の
観点から整理する。
5.1
資源配分の効率性
日本は、市場型の分配・割当を導入していないものの、指令統制型、コモンズ型に
ついて、資源分配の効率性の向上に係る制度整備を行ってきている。具体的には、電
波の利用状況の調査・公表制度の創設(2002 年)、電波再配分のための給付金制度の
創設(2004 年)
、電波利用料制度への電波の経済的価値の反映(2005 年)等である。
なお、日本の電波利用料制度は、電波利用者のための共益的な事務に要する経費を、
電波の経済的価値等を考慮して按分して利用者に負担してもらうという制度となって
いる。2005 年の改正によりインセンティブ規制(電波の経済的価値の考慮)の考え方
が導入されたものの、
「機会費用相当の課金による資源配分効率の最大化」を目指して
いるものではない。なお、周波数利用者に対して公益性の義務(例:携帯電話事業に
おけるエリアカバー率)が課されている。
2005 年 10 月の電波法改正に係る国会審議において、政府は、
「周波数オークション
は、電波の有効利用インセンティブ、国家財政への貢献があるが、落札額の高騰によ
るサービス提供の遅れや情報通信産業の衰退のおそれ、免許期間を長期に設定せざる
を得なくなることからの硬直性等の問題点が指摘されており、こうした問題が諸外国
で現実に発生しており、総務省の研究会、パブリックコメントでも、その導入に関し
て慎重な意見が多かった。
」6との趣旨の発言をしている。
10
すなわち、日本の制度は、政府による統制を基本としつつ、制度の改善を目指して
いることに特徴がある。市場に委ねた場合の効率性との定量的な比較、電波利用料額
の引き上げによる効率性の改善度の定量的な評価等が検討課題である。
5.2
制度の透明性
日本における第3世代携帯電話用周波数の割当基準7には、絶対基準として 1) 運用
開始の時期、2) カバー率、3) 電波の能率的な利用を確保するための技術の導入等があ
り、絶対基準(要件審査基準)や比較審査基準として、1)「開設計画の適切性、計画
実施の確実性」
(技術的能力の充実、具体的な整備計画、財政的な基礎、保守管理体制、
障害時の対応体制、業務体制、エリア展開の具体的計画)、2)「混信の防止等」(優れ
た技術の導入、混信防止対策の充実、電波の能率的な利用を確保する技術の導入)
、3)
「電気通信事業の健全な発展と円滑な運営への寄与」
(計画が合理的かつ具体的、多様
化・高度化する利用者の需要への対応、その他の電気通信事業の健全は発展等への寄
与)が規定されている8。2000 年と 2005 年に実施された第3世代携帯電話の新規割当
では、いずれも申請数が参入枠数と同数であったため、比較審査は行われなかった。
参入枠数が事業者の行動に影響を与えている面があるとも言われている。
5.3
電波利用料
日本は、電波利用料の使途を電波分野に限定し、それに必要な金額を徴収(2006 年
度の歳入・歳出予算は 640.3 億円)している。使途は、無線局監理、電波監視、研究
開発、電波の再分配のための補償金、無線システム普及支援事業(過疎地等での携帯
電話の不感地域解消等)等、電波監理だけでなく、公益性の増大、産業発展に係るも
のに及んでいる。
5.4
欧米の制度との対比
米国は、周波数オークション導入の目的を、①新技術、新製品、新サービスの開発
を促進すること、②機会均等を確保し競争を促進すること、③周波数価値の一部を公
衆のために回収すること、④周波数の効率的かつ広範な利用を図ること、としている
(内閣府政策統括官(2002))
。
欧州は、EU として周波数の二次取引の推進等の方向性を打ち出しているが、周波数
オークション制度については、導入している国(英、独、蘭、ベルギー、オーストリ
ア、スイス等)と導入していない国(仏、西、フィンランド、スウェーデン等)が並
存している状況にある。欧州は、周波数の分配・割当制度の共通化よりも、
「欧州共通
の無線システム用の周波数確保による利便性向上と欧州産業力の強化」を優先して取
り組んでいるものと考えられる。
日本の携帯電話用周波数全体の機会費用を推定することは難しいが、1) 欧州におけ
る第3世代携帯電話用周波数のオークションによる落札額が、英では総額約 4.4 兆円、
独で総額約 6.6 兆円であったこと(通信白書(2003))、2) 米国においてオークションにか
11
けられた携帯電話用周波数の落札総額は 4 兆円を超えていること(電波有効利用政策研
究会最終報告書(2004))、3) ソフトバンクによるボーダフォン日本法人の買収(2006)の
総額は約 1.75 兆円であったと報道されていることから、
「兆円」の単位であるとの推
測することが可能であると考えられる。
6.
まとめ
指令統制型と市場型の優位性の判断ポイントは、
「外部性等(市場の失敗)への対応
のために市場型でなく指令統制型を用いること」による「効率性に与えるプラスの効
果」が、
「効率性に与えるマイナスの効果」を上回るか否かである。ただし、市場型で
も外部性等への対応が一定程度可能であることに注意が必要である。コモンズ型は、
技術的に採用可能な場合が限られるが、周波数利用効率が高く、電気通信市場におけ
る寡占等が生じにくく、利用者間(特に先行者と後発者の間)の公平性が高いという
優位性がある。
以下、関係する政策手段の適用方法等について述べる。
指令統制型は、外部性等が大きい分野では優位(「分配」については世界的にも指令
統制型が用いられている)であり、適用分野が縮小の方向にあるとしても、当面は継
続利用されるものと考えられる。このため、政策手段の高度化努力は重要であり、イ
ンセンティブ規制(電波利用料制度等)
、用途区分の大くくり化、段階的な分配・割当、
割当のための評価指標の整備等を適切に行なっていく必要がある。
市場型の大きな問題は落札金額等の高騰である。周波数オークションの対象とする
用途への周波数分配量(例:携帯電話への周波数分配量)が他の用途への分配量に比
べ過小である場合には、適切に設計されたオークションを用いたとしても、周波数資
源全体の分配・割当は効率的とは言えず、落札者に対し過大な負担をもたらしている
ことになる。すなわち、市場型は、適切な分配が行なわれていることを確認した上で
実施する必要がある。なお、市場型は、免許期間の長期化による周波数分配の硬直化
等のおそれがあり、一定程度の政府の裁量を確保しておくことが重要である。
コモンズ型は、技術進歩(混信回避技術等)とともに急速に優位性が拡大しており、
その利用の拡大が期待される。他の方式との望ましい並存割合の検討、混雑等への対
応策の検討等を充実していく必要がある。
正の外部性への対応方法には、
「外部性が強い特定用途等の優遇」と「一般用途に対
する公益義務の賦課(特定用途を設けない)
」等の方法がある。前者は、特定用途専用
の無線システムの導入を強いる非効率等があり、後者は、一律義務とすることの非効
率等がある。
「特定用途等の優遇」の具体的方法には、
「分配・割当量の優遇」と「電波利用料額
の優遇」がある。周波数需要が供給よりも大きいにもかかわらず、市場価値(機会費
用)以下の電波利用料額しか課されていない場合、投入財としての周波数財と資本財
には代替性があるために、前者は周波数集約的な利用を促進し、周波数帯域全体で実
現する効率性にマイナスの影響が生じるが、後者(分配・割当の優遇を行わないもの
12
とする)には、そのような影響が生じない。
指令統制型における電波利用料の料額の設定においては、利用者による投入財(周
波数財、資本財)の配分非効率が生じないように、周波数の機会費用(「分配」が適切
になされている場合のもの)に相当する額とするべきである。それが難しい場合には、
利用者が過度に周波数集約的な利用を行わないように周波数割当量を決定・管理すべ
きである。電波利用料は、電波監理に係る費用(周波数帯域量の実質的な拡大に資す
るものを含む)に配慮をした上で、電波資源が国民の財産であることをふまえ、国民
全体に資する形で利用していくべきである。コモンズ型への電波利用料の賦課を行う
場合には、混雑という外部性へのコントロール手段としての有効性の観点等から制度
設計を行う必要がある。
制度の透明性については、比較審査(指令統制型)に課題があり、分配・割当方式
の選択において大きな制約となる可能性があることに注意が必要である。
7.
おわりに
無線周波数の分配・割当の在り方(官が統制すべきか、市場に任せるべきか)は、
技術や市場の環境変化により変化してきている。本章では、各種分配・割当方式の適
応分野や関係する政策手段の適用方法について分析した。今後、公益用途への周波数
分配・割当上の優遇の効果、分配・割当における各方式の適切な並存方法等に関し、
定量的な分析等を行っていきたい。
1
電気通信業務用の周波数について導入しており、他の用途については、指令統制型、コモンズ型を用い
ている。
2 利用主体が一つの無線システムで公益目的の利用と非公益目的の利用を行うことは難しい。
3 例えば、同じ加入者数を収容する携帯電話サービスを行う場合、設置する無線基地局を多くすれば、投
入する周波数帯域量は小さくできる。
4 欧州において第3世代携帯電話のサービスが最初に開始されたのは 2003 年 3 月(日本では 2001 年 10
月にサービス開始)であった。
5 周波数の機会費用相当の電波利用料額の算出方法が難しく、また高額な料額を課すことの合意形成が難
しいという問題があり、先進的な取り組みを進めている英国においても、周波数の機会費用相当額よりも
小さい料額設定となっている。
6 2005 年 10 月 18 日の衆議院総務委員会における電波法改正案の審査における政府答弁。
7 無線局免許を受けるためには、電波法令上の要件を満足する必要がある。電気通信業務用無線局につい
ては、「無線局(放送局を除く。)の開設の根本的基準(総務省令としての効力)
」の第 3 条(電気通信業
務用無線局)により規定されている、①需要適合性、②計画の適切性と実施能力、③既存の無線局等の運
用への支障がないこと、④他の電気通信手段を利用する場合に比較した能率的かつ経済的であること、⑤
電気通信事業の健全な発達と円滑な運営への寄与、等を満足する必要があり、その具体的内容については、
無線システム毎に定められることが多い。
8 例えば、スウェーデンの第3世代携帯電話における比較審査における基準は、絶対基準として、①財政
的能力(financial capacity)、②技術的実現可能性(technical feasibility)、③商業上の能力(commercial
feasibility)として、比較審査基準として、①rapid roll-out と②nation –wide coverage であった。スウェ
ーデンは、能力を絶対基準とし、
「迅速なエリア展開」に重点を置いている。日本では、能力、エリア展
開スピード、電波の能率的な利用を確保する技術の導入等、多様な評価基準を置いていることに特徴があ
る。
13
第2章
公共サービスのパブリックビジネス化について
-公営企業の民営化の事例-
山根
淳一
1. はじめに
小泉内閣発足以来、国は構造改革の一環として、
「民間にできることは民間に」との
方針で小さくて効率的な政府の構築に取り組んでいる。平成 13 年 6 月に閣議決定され
た「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」においては、公
共サービスの提供について、市場メカニズムをできるだけ活用していくため、前述の
方針が示されている。
本来は、こうした「民営化」を実施すべきか否かの判断は資源配分の効率性という
基準によるべきものであるが、我が国の公的部門が巨額の負債を抱え、国・地方を通
じて極めて厳しい財政状況にあることの結果として喫緊の課題となっているのが実状
と言える。だが、そうであったとしても官民の役割分担を見直し、民間にできること
はできるだけ民間に委ねると共に、行政がやらなければならないことも徹底的に効率
化しようとすること自体は財政収支の如何に関わらず常に目標とされるべきものであ
ることは言うまでもない。
本稿では、その非効率性故に地方自治体の財政赤字累積の一因となっている公営企
業という問題を、パブリックビジネスとして民営化することで解決する方法を考察す
る。このために、パブリックビジネスの概念と公企業の関係を整理した後、実際に公
企業をパブリックビジネスとして民営化した二つの事例を検討し、その効果を吟味す
る。
2. パブリックビジネスという概念
公もしくは公益的組織が担ってきた公共サービスを民業化した「パブリックビジネ
ス」という概念がある。行政が中心となって公共サービスを供給してきた分野におい
て、業務の外部委託や、投資における民間資金活用による公共施設整備(PFI)・リー
ス事業、さらに事業自体の民営化の総称として「パブリックビジネス」は理解するこ
とができよう。
従来のパブリックビジネスは、単純業務や住民サービスの一部分の外部化が中心で
あったが、今後は指定管理者制度による公の施設管理の他、行政の内部事務委託、公
営企業の民営化などの新市場の拡大が予想される。
このようなパブリックビジネスはサービス産業として「民間にできることは民間に」
という流れの中で、住民サービスの向上、行政の効率化、地域における新たな産業や
雇用の創出に貢献することが期待される。
15
2.1
公共サービスのパブリックビジネス化に伴う問題
一般論として、公共サービスのパブリックビジネス化に伴う影響は次のように考え
られる。
・ サービスの向上が期待できる
・ 当該事業での雇用者数は増加する可能性がある。ただし、経営効率の向上を目指
す以上、すべてが公務員として処遇されていた公企業と比較すれば短時間雇用や
非正規雇用者が増加し、就業者の賃金所得総額は減少する可能性が高い
・ 地方財政の財政事情が支出減・税収増により改善される
・ 行政は、住民のニーズのより高い分野に資源投入することができるようになる。
特に地域経済への影響を考えてみると、
・ 地方のパブリックビジネスの就業者は域内住民が中心であるため、賃金総額の減
少は域内需要の減少につながる可能性が否定できない。
・ 財政支出が一定とすれば、公的企業維持のための支出の減少は他の施策への支出
の拡大となり、域内での公的支出総額は変わらない可能性がある。
・ 財政収支改善のために公的支出総額が減少しても、その結果として財政赤字の累
増が避けられれば、将来の住民の税負担が減少する。ことに地方交付金の削減が
避けられない国の財政状況を考えれば、こうした効果は無視できないであろう。
・ 域内に本社をおく企業であれば、税収も流出しない
・ サービス提供者が域外の企業の場合、税収や雇用の一部が減少する可能性がある
・ 民間の創意工夫が活かせる分野・業務でイノベーションが起これば、サービスの
品質が向上し、潜在需要が喚起され、パブリックビジネスマーケットそのものが
拡大する可能性がある。その場合、投資・消費の活発化が期待できる。
・ 域内の企業で、域外市場に参入する企業が出てくればさらに税収の増加、域内住
民の雇用増につながる。
2.2
公営企業とパブリックサービス
公共サービスのうち、包括的な事業として最もパブリックビジネスとしてイメージ
しやすいものは公営企業であろう。地方公営企業法を所管している総務省は、
「地方公
営企業の経営の総点検について」、「地方公営企業における行政改革の推進のための新
たな指針の策定について」等の通知を出しているが、その趣旨は、①サービス供給を
継続する必要があるか、②サービス供給自体は必要としても、それを地方公営企業形
態によって行なう必要があるか、③地方公営企業形態によるサービス供給の必要性が
あるとしても、民間的経営手法を導入し、経営の効率化・活性化を図る余地がないか
について、改めて検討すべきとしている点にある。
既に各公営企業においては、これまでも個々の具体的業務を契約によって外部委託
し、経営の効率化に努めてきている。しかし、近年の国の方針は「小さな政府」を構
築する観点から、社会経済情勢の変化や公民の役割分担の観点を踏まえ、公営企業の
16
存廃も視野に入れるとともに、存続すべき公営企業についても、徹底した経営の効率
化を行ない、さらに低廉かつ良質なサービスを目指すという公営企業の原点に立ち返
って、そのあるべき姿を追求しようとするものと考えられる。
2.3
パブリックビジネスと公営企業の民営化
パブリックビジネス化の1つの手段として民営化がある。民営化にあたっては、影
響を受ける利害関係者が多数存在することから、その実現は困難を極めることが多い。
一度民営化の決定をした後には、そこにトラブルが発生したとしても軽々に公営に戻
すことはできないことは当然であり、多くの利害関係者が納得する方法で民営化でき
るようあらかじめ十分に検討を進める必要がある。
民営化については、我が国よりも海外において盛んに取り組まれている。しかしな
がら、フィリピン共和国マニラ西地区の水道事業のように、コンセッション契約が破
棄される事態となったケースをはじめ、事前の検討が不充分であったことから民営化
まで到達できなかったケースも多数存在する。
民営化にあたっては、影響を受ける利害関係者が多数存在するため、慎重に検討し
なければ思わぬ困難に遭遇することとなる。
民営化に適した事業として、一般的には日々安定した料金収入がある事業があげら
れる。具体的に地方自治体の事業に当てはめてみると、運輸(バス、鉄道、道路、空
港等)、上下水道などが挙げられる。
ある事業について民営化の検討を開始した場合、必ずといっていいほど、公営企業
は営利を追求する民間には実施させられない、という意見と対立することとなる。す
なわち民間企業は、その性質上、利益獲得を目的としており、広く公衆のために活動
せず、不採算地域での業務を中止したり、料金を値上げしたり、サービスの質が低下
してしまう可能性が高いため、民営化は望ましくないと主張される。
こうした事態は民営化に当っての規制や、インセンティブの付与によって解決でき
る。例えば、不採算地域での活動の義務化と優遇税制をセットにするなどして、民間
企業の活動目的を公共サービスの使命と同方向に誘導する手法が挙げられる。
「民営化するだけで効率的な経営ができる」という幻想にとらわれて、民営化万能
説を唱える者も少なくないが、形式的に民営化することが目的となってしまうことも
考えられる。
民営化はパブリックビジネス化に伴う影響として考察したとおり、地方自治体の財
政状況の改善に寄与したり、より効率的で質の高いサービスを提供でき、公共サービ
スの向上につながることが考えられるが、民営化そのものはゴールではなく、あくま
でもこのような理想の状態を実現するための1つのツールに過ぎない。民営化の導入
にあたっては、何を目的として民営化するのか、また、どのような影響が地域経済に
及ぶ可能性があるのか、などを関係者が共通認識として納得することが必要である。
以下では、山口市と札幌市における公営バス事業の民営化によるパブリックビジネ
スの生成の過程とその効果を検討してみたい。
17
3. パブリックビジネス化の事例
3.1
3.1.1
事例1:山口市市営バスの民営化
民営化に至る経緯
昭和 18 年に民間バス事業3社を買収して開業した山口市営バス事業は、昭和 37 年
度には利用者数 1000 万人のピークに達したが、モータリゼーションの進展等によって、
利用者数は減少し、人件費の高騰等もあり、経営状態は悪化していった。
市は、昭和 41 年度から昭和 53 年度までは、地方公営企業法及び地方公営企業交通
事業の経営の健全化の促進に関する法律による財政再建団体の指定を受けた。また昭
和 54 年度からは、職員数 140 名を昭和 61 年度には 84 名まで削減するなどの自主的な
経営再建に取り組んだが、事業縮小に伴う収入等の減少等もあり、運賃収入で人件費
をまかなえない危機的な状況が続いた。そのため、昭和 60 年に取りまとめられた「山
口市行政改革懇談会」の意見書に基づき、市営バス事業を民間バス事業者に譲渡する
計画も検討されたが、労働組合サイドからの提案(全職員の給与 12%カット、ワンマ
ン手当の廃止、4 年間の定期昇給とベースアップの凍結)を受け入れる形で、昭和 62
年度から平成 7 年度までの 9 年間で健全化を進める「経営健全化実施計画」を策定し、
引き続き市営バスを存続させた上で経営再建に取り組むことになった。この計画に基
づく大幅な人件費の削減によって、市営バス事業の単年度収支は一時的に黒字に転じ
たが、利用者数の減少に歯止めはかからず、平成 3 年度には、累積した不良債務を解
消するため、車庫用地の売却も検討されたが、これも成功しなかった。
こうした状況の中、平成 9 年に市長は、バス事業のあるべき経営形態とその方策に
ついて、山口市自動車運送事業経営審議会に諮問し、平成 10 年 3 月に同審議会は「市
長は、市営バス事業の経営並びに事業体の危機的とも言える状況を把握し、本事業自
体の存廃如何を、速やかに決断すべきである。」との答申をとりまとめた。市当局は、
この答申を受け、庁内に交通問題対策協議会を設置して検討した結果、市営バス事業
について「もはや公営事業体としての存続は限界」であり、
「廃止し、他の事業者へ委
譲することが現実的であるとの結論に達した。
3.1.2
民営化
その後、移譲先となる防長交通(株)との基本合意を経て、平成 10 年 8 月末、市長
が市議会全員協議会において、市営バス事業の民間移譲を表明した。労働組合とは、
同年 10 月から 11 月にかけて 5 回の団体交渉を行い、市営バス事業の廃止について合
意した。そして、同年 12 月定例市議会において、市営バス事業廃止に係る関係議案が
可決され、平成 11 年 3 月 31 日に山口市営バスは 56 年間の歴史を終えた。
市営バスの移譲先としては、山口市内で運行している民間バス 4 社の中から、防長
交通(株)が選定された。この理由は、①山口市を含めた県東部一帯を営業エリアと
していること、②市内での営業路線が多く市営バスとの競合率も高いこと、③最も効
率的な経営を行なっていると考えられること、④民間バス事業者も経営の合理化を迫
られている中、市営バスを引き継ぐ意欲があったこと等とされている。
18
移譲に当っての市との防長交通(株)との基本合意の概要は次のとおり。
・ 一般乗合バス事業については、当面現行市営バスの路線、系統、便数を維持し、
定期観光バスについても、当面、現行運行路線を維持する。
・ 路線維持について、補助金等の収入を含め、経営努力を行なってもなお赤字とな
った路線については、協議の上廃止する。
・ 市営バスの正職員は引き継がないが、臨時職員等は概ね引き継ぐ。
・ 福祉優待乗車証制度は、現行制度で継続する。
・ 市営バス車両は買い取るが、宮野車庫は賃貸借する。
このほか、市は、防長交通(株)に対し、移譲に伴って必要となる車両改装や機器
の改修等に要する経費の支援として、1 億円の交付金を支出している。
事業移譲に伴う市営バス職員(平成 10 年度末時点で正規職員 26 名、
嘱託職員 20 名、
臨時職員 9 名の合計 55 名)の処遇については、市長部局への配置転換が 17 名、退職
が 38 名(防長交通へ再就職 21 名)となった。
市の自動車運送事業会計は、平成 9 年度末時点で約 17 億円の不良債務を抱えていた
が、10 年度において、保有土地や車両等の資産売却による約 13 億円の収入の他、一
般会計からの補助約 7 億円等によって精算した。
3.1.3
民営化の効果
1) 財政面
民間移譲による財政面の効果としては、移譲直前の平成 10 年度と 16 年度を比較し
た場合、10 年度に一般会計が自動車運送事業会計に支出していた約 3 億円の補助が不
要になる一方、生活バス路線維持の補助金が約 1200 万円増加したほか、新たに運行を
開始したコミュニティバスの運行委託費約 5800 万円が発生しているが、これらを差し
引いても単年度で約 2 億 2000 万円の効果が得られていると考えられる。移譲時には防
長交通(株)に対する 1 億円の交付金や、一般会計から自動車運送事業会計への約 7
億円の補助が一時的な負担として発生したが、この単年度効果額を考えれば、これら
の負担も十分回収できていると考えられる。
2) サービスの改善
また、移譲後の平成 11 年 10 月、
「山口市交通まちづくり調査研究委員会」が高齢者
や主婦等を対象に行なった調査によると、バスドライバーの応対について、
「ドライバ
ーの個人差はあるが、全般的には市営バスが防長バスに変わってから対応が良くなっ
たというのが利用者の評価」との結果が得られており、サービス向上面の効果も得ら
れているようである。
3.2
3.2.1
事例2:札幌市市営バスの民営化
民営化に至る経緯
昭和 5 年に市電を補完する形で誕生した札幌市営バスは、戦後、急速に発展した同
19
市において主要な公共交通機関かつ市民の足として発達した。しかし、都市の急速な
発展に、冬場の積雪等による道路容量の問題などが重なり、交通需要への対応が困難
となってきたため、市は、札幌オリンピック開催を契機に地下鉄を開業させ、以後、
これを市内の基幹交通とし、バスを効率的に連携させる公共交通ネットワーク作りを
進める政策に転換した。
この方針を受け、市営バス路線は、地下鉄の郊外駅までの輸送機関として再編され
るとともに、地下鉄の民間バス運行エリアへの建設・延伸に合わせ、いわば営業補償
的に順次民間バス事業者への移譲が行なわれた。また、モータリゼーションの進展等
もあいまって、市営バスの利用者は、昭和 50 年頃をピークに伸び悩み、その経営が悪
化したため、昭和 48 年度から 57 年度にかけて、地方公営交通事業の健全化の促進に
関する法律に基づく再建団体として経営健全化に取り組み、さらに平成3年には市営
交通 3 事業(地下鉄、路面電車、バス)を対象に、当時約 3000 人の交通局職員のうち
880 人を削減するなど大幅な合理化を内容とする「札幌市交通事業経営健全化計画」
を策定し、経営改善に取り組んだ。しかし、景気の低迷等もあり、市営バスの利用者
数の減少は、予想を上回るペースで進み、料金収入で人件費すらまかなえない状態が
続いた。
こうした状況を踏まえ、平成 11 年、市は「交通事業経営健全化計画」の「回復策」
を策定した。これは、市営バス事業規模の適正化を図るため、路線の一部を民間バス
事業者に移譲し、それまでの 63 路線から 41 路線に縮小するというものであったが、
あくまでも市営バス事業の存続を前提とした見直し計画であったため、市議会から市
営事業の存続を前提とせずに見なおすべきだとする強い指摘を受けた。そこで、市当
局は、
「回復策」における路線縮小を推進するとともに、市営交通の将来需要や収支見
通しについて、改めて民間調査機関に委託して調査・分析を行なうこととしたが、そ
の結果は、市営 3 事業すべてにおいて利用者数の減少が続き、収支好転も見込めず、
そのまま「交通事業経営健全化計画」及びその「回復策」を推進したとしても、経営
回復は見込めないという厳しい見通しであった。
この結果も踏まえ、平成 13 年には、市長の諮問機関として市営交通事業のあり方に
ついて審議してきた「札幌市営企業調査審議会」において、
「間近に迫った規制緩和の
時代においては、市民負担の少ない効率的な公共交通サービスを提供することが求め
られており、市営バス事業はすべて民営事業者に移譲せざるを得ない状況にあると判
断する。
」との意見書がとりまとめられた。そしてこの審議会と並行し、市当局におい
て市営交通の経営のあり方を検討する「交通事業経営改革会議」においても「現行市
営バス 46 路線の運行サービスを段階的に民営に移行し、平成 16 年度に市営バス路線
は廃止する」とした「交通事業改革プラン」が策定されたものである。
労働組合とは、交通事業改革プラン策定直後から交渉が開始され、事業存続の可能
性や職員の職の確保の具対策等を中心に交渉が重ねられた結果、平成 14 年に市営バス
事業の廃止について合意に至った。
そして、平成 15 年、平成 16 年に段階的に民間移譲され、札幌市営バス事業は廃止
20
された。
3.2.2
民営化
市営バス路線の移譲先となる民間バス事業者については、①地下鉄との乗り継ぎや
共通の乗車カード等各種制度を市営バスと共有していること、②市営バスの各営業所
を概ね運行エリアとし、生活路線も含めて運行を委ねることができることから、市内
の3民間バス事業者(北海道中央バス(株)、JR 北海道バス(株)、
(株)じょうてつ)
を選定し、移譲路線を概ねの運行エリアとしている事業者に対し、それぞれ不採算路
線を含め営業所単位で移譲することとした。
路線移譲にあたっての協議では、市営バスが提供してきたサービスを維持し、低下
させないことを基本としたため、運行コストの負担削減のための措置を行ない、移行
の円滑化を図るため、特に不採算な路線を有する 16 年度に移譲した路線を対象に平成
16 年度、17 年度の 2 ヵ年間、暫定的に財政措置を講じることとし、移譲した営業所に
係る営業費用が当該営業所における運賃収入を上回る場合には、予算の範囲内で市が
補助することとした。
路線移譲に伴う市営バス職員の処遇については、退職 492 名、局内異動 75 名、配置
転換 208 名となっている。
廃止直前の平成 15 年度末時点で、市営バス事業は、不良債務約 17 億円を抱えてい
たが、資産の売却等によって平成 16 年度にはこれをほぼ解消し、一般会計からの繰入
は最小限に止められている。
札幌市においては、今回の移譲以前から市営バス路線を民間に移譲してきた実績が
あったことから、市議会や市民に対しても、移譲自体についても理解はスムーズに進
んだようである。
3.2.3
民営化の効果
1) 財政面
本事例を財政上の効果の点から見ると、健全化計画回復策による移譲開始直前の平
成 11 年度においては、市営バス事業に対し、市の一般会計から約 32 億円の補助金を
つぎ込んでも、約 8 億円の最終損失となっていたところであるが、移譲完了後の 16 年
度においては、こうした負担が解消されている。したがって、移譲後の赤字路線に係
る民間バス事業者への補助金約 5 億円が新たな財政負担となるとしても、単年度で差
し引き約 35 億円程度の財政効果が得られているものと考えられる。
2) サービスの改善
また、移譲後、民間バス事業者が新たに女性客専用バスを導入したり、深夜バスの
運行を開始したことなどに対し、利用者の評価が得られているとのことであり、一定
のサービス向上面の効果も得られていると考えられる。
21
4. おわりに
社会経済情勢の変化の中で、行政に対してその改革を求める機運は年々強まってい
る。こういう状況を踏まえ、地方自治体においては行財政改革の推進に努めていると
ころであるが、住民からは必ずしも満足すべき評価が得られているとは言えず、引き
続き厳しい視線が向けられている。
このため、国は「地方公営企業の経営の総点検について」を、さらには、それぞれ
の地方自治体において全庁的な行政改革を進める観点から、
「新地方行革指針」を発出
し、より一層の行政改革を推進するよう指導している。
この指針では、特に公営企業については、①事務事業の再編・整理、廃止・統合、
②民間委託等の推進、③定員管理の適正化、④給与の適正化、⑤経費節減等の財政効
果の 5 項目に関する集中改革プラン(平成 17 年度からおおむね 21 年度までの 5 年間
の具体的な取り組みについて明記した計画)を 17 年度中に作成し、公表するよう指導
している。
本プランの作成・公表を踏まえ各自治体では各種の取り組みが進められているが、
特に民営化・民間的経営手法の導入については、民間譲渡を中心とする民営化が進ん
でいると思われる。
公共サービスの多くは、その性質上、地方自治体の監督と責任の下で行なわれるべ
き事業であり、一般の市場サービスとは異なり、単に消費者の選択と自己責任に任せ
ることにはいかないとこれまでは考えられてきた。しかし、サービスの内容を吟味す
れば、民間企業によってより効率的に、より質の高いサービスの提供が可能なケース
も少なくはない。もちろん、公共サービスを単純にパブリックビジネス化するだけで
は方法次第によっては、地域経済にマイナスの影響を与える可能性も否定できないこ
とは言うまでもない。
サービスの内容を検討し、効率性の基準から見て「民間にできることは民間に」と
の方針に基づき、市場メカニズムをできるだけ活用し、パブリックビジネス化を進め
ることは方向性としては間違っていない。しかも、従来の公営企業の多くが赤字体質
を脱却できずにいることを考えると、官民の役割分担を見なおし適切な民営化を推進
しながら、行政が提供すべきサービスについても徹底的に効率化することが喫緊の課
題となっていることは明らかである。その際に、地域経済に与える影響も十分に考慮
しながら、財政的な効果と地域経済に与える効果のバランスを見極めつつ、パブリッ
クビジネス化を進めていく必要がある。
22
第 3 章 美術館サービスのあり方
―神奈川県立近代美術館 PFI 事業を通して―
今井
透
1.はじめに
行政が提供する公共サービスのあり方をめぐる議論がかまびすしい。なかでも効率的
な行政を達成するための 1 つの手段と位置づけられる市場化テスト1は、国・地方自治
体でその導入が模索されており、公共サービスの提供に関する手法は多様性を増すばか
りである。一方、市場化テストの対象事業からは撤回されたものの、博物館・美術館も
当初その対象事業となっていた。また、2003 年の地方自治法改正による指定管理者制
度2において、博物館・美術館の管理者の選定が進み、そのあり様をめぐって住民運動
に発展している地域もある。現在、行政による博物館・美術館はそのサービスのあり方
をめぐって根本的に問われており、大きな転換期にあるといえる。
そこで今後のサービスのあり方を考えるべく、公共サービス提供の改革の1つの手法
である PFI 事業によって設立された神奈川県立近代美術館を取り上げる。まず、PFI 事
業の概要について述べ、次にその事業スキームについて分析する。そして、分析と評価
を行い、最後に博物館・美術館サービスの今後のあり方についてまとめることとする。
2.神奈川県立近代美術館 PFI 事業の概要
2.1
PFI の概要
PFI(Private Finance Initiative)とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の
資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法である。民間の資金、経営能力、技
術的能力を活用することにより、国・地方自治体等が直接実施するよりも効率的かつ効
果的に公共サービスを提供できる事業が PFI 手法で実施される。PFI の導入により、国・
地方自治体の事業コストの削減、より質の高い公共サービスの提供を目指すものと解釈
されるのが一般的である。
2.2
神奈川県立近代美術館 PFI 事業
神奈川県立近代美術館 PFI 事業は、1951 年にわが国における最初の近代美術館とし
て鎌倉に開館した神奈川県立近代美術館の新しい施設整備事業である。1984 年に建設
された別館に次ぐ 3 つ目の建物で、湘南海岸の中でもひときわ美しい葉山一帯に立地し
ている。神奈川県立近代美術館 PFI 事業は当初、展示面積と収蔵庫の拡充、図書室、講
堂などの不足設備の確保などの必要に応えるべく立案された。「民間資金等の活用によ
る公共施設等の整備等の促進に関する法律」
(以下、PFI 法)に基づいて PFI 事業として
実施され、伊藤忠グループが落札している。その後、伊藤忠グループは SPC(Special
Purpose Company、特定目的会社)である MOMA 神奈川パートナーズ(伊藤忠商事〔 マ
ネジメント〕 、戸田建設〔建設〕 、ハリマビステム〔維持管理〕 、センチュリー・
23
リーシング・システム〔機器リース〕の 4 社が出資)が建設・所有し、施設を県に賃貸
している。美術館としては全国初の PFI 事業である。
PFI 事業の範囲は、建設業務のほか、維持管理業務・美術館支援業務・備品等整備業
務である。レストラン・ミュージアムショップの運営も独立採算制で MOMA 神奈川パ
ートナーズが行っている。他方、美術館としての本来の業務(展覧会の企画運営・作品
の収集保管・調査研究など)は、従来どおり県が担うスキームである。
MOMA 神奈川パートナーズは、建物の容積率を法定の半分程度に抑え、緑被率を約
45%確保することで葉山の自然との調和を図っている。また、展示室の光環境を重視し
た設計になっており、エントランス・展示室・レストラン・ミュージアムショップなど
の施設をすべて 1 階に設置するなど来館者の動線にも配慮した構造になっている。
以上の事業スキームをまとめると、次のとおりである。
図表 3-1 事業スキーム
入館者
神奈川県
入館料
第一勧業銀行
直接協定
サービス提供
サービス料
日本政策投資銀行
融資
MOMA
設計会社
工事監理
実施設計
神奈川パー
トナーズ
付帯施設運営会社
付帯施設運営
(SPC) (代表企業)
VE 建設
伊藤忠商事㈱
維持管理
建設会社
維持管理会社
(独立採算)
料金
付帯施設利用者
システム運営
情報システム会社
(神奈川県資料より筆者作成)
3.スキーム構築の分析
3.1
スキーム構築の分析
本節においてスキーム構築の分析を行うが、その前に神奈川県立近代美術館 PFI 事業
の事業データおよびリスク分担表を併せて示す。
24
図表 3-2
神奈川県立近代美術館事業データ
●事業データ
事業名称
神奈川県立近代美術館特定事業
発注者
神奈川県
施設の種類・規模等
美術館整備
葉山新館施設整備業務(建設及びその関連業務、工事監理、VE実施に伴う設計変更
等)、葉山新館及び鎌倉館(本館及び別館)維持管理業務、美術館支援業務、備品等
整備業務、県への葉山新館施設賃貸業務、県への葉山新館施設所有権移転業務、
その他業務(道路法第24条に基づく自費工事による葉山新館のバスベイ・歩道整備)
PFI事業の概要
PFI事業の範囲
事業方式
BOT方式
事業形態
サービス購入型(レストラン、ミュージアムショップ、駐車場は独立採算型)
事業期間
30年(鎌倉館本館は13年間。鎌倉館別館は30年間)
会社・団体名
(財)日本経済研究所、アンダーソン・毛利法律事務所、㈱佐藤総合計画
実施方針の公表
平成12年7月28日
実施方針等に対する質問受付
平成12年8月10日~15日
PFIアドバイザー(公共側)
事業実施スケジュール
実施方針等に対する質問への回答 平成12年9月8日
特定事業の選定
平成12年9月18日
実施方針に対する意見招請
平成12年9月18日~22日
入札公告
平成12年11月14日
入札(提案書の提出)
平成13年2月2日
落札者の決定
平成13年4月3日
基本協定書の締結
平成13年4月26日
事業契約の締結
平成13年7月5日
直接協定の締結
平成14年3月27日
開館
平成15年10月11日
特定事業の選定段階でのVFM
PSC:8,778百万円、LCC:8,070百万円、VFM:708百万円
事業者の選定段階でのVFM
PSC:9,603百万円、LCC:6,882百万円、VFM:2,721百万円
VFM(Value for Money)
提案審査
民間事業者選定の方法
内、価格要素の割合
総合評価方式による一般競争入札
100点満点(サービスの対価の総額【配点85点】、事業の安全性【配点5点】、美術館
(施設・業務)の価値及びサービス水準の向上並びに周辺環境への配慮【配点7点】、
喫茶・レストラン、ミュージアムショップ、駐車場の運営内の向上【配点3点】)
85点
審査委員会構成(合計人数)
9人
内、学識経験者等
5人(一橋大学大学院商学研究科教授、鳥取大学教育地域科学部教授、法政大学工
学部教授、関東学院大学工学部助教授、横浜美術館長)
価格と定性面の評価方式
管理者(公務員)
3人(総務部次長、総務部技監、教育長教育部長)
その他(地元等)
1人(葉山町助役)
代表企業
伊藤忠商事美術館PFIグループ(現、MOMA神奈川パートナーズ)
構成企業
伊藤忠商事㈱(代表企業)、戸田建設㈱、㈱ハリマビステム、センチュリー・リーシン
グ・システム㈱、㈱ホテルオークラエンタープライズ
選定・落札事業者
(神奈川県資料より筆者作成)
25
図表 3-3
段階
リスクの種類
入札説明書リスク
契約締結リスク
許認可遅延リスク
建
設
段
階
○
○
○
○
○
○
○
法人税の変更に関するもの(上記以外のもの)
○
消費税の変更に関するもの
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
発注者責任リスク
工事請負契約の内容及びその変更に関するもの等
県が実施した測量・調査に関するもの
事業者が実施した測量・調査に関するもの(周辺家屋影響調
査、電波障害調査)
遺跡の広がりに関するもの
○
測量・調査リスク
設計リスク
県の提示条件、指示の不備・変更によるもの
○
応募リスク
応募費用に関するもの
資金調達リスク
必要な資金の確保に関するもの
用地取得リスク
建設予定地の確保に関するもの
計画・設計リスク
工事遅延リスク
工事が契約より遅延する、または完工しない場合
施工監理リスク
施工監理に関するもの
工事費増大リスク
県の指示による工事費の増大
○
○
○
○
○
○
○
○
上記以外の工事費の増大
○
要求仕様不適合(施工不良を含む)
○
施設損傷リスク
使用前に工事目的物や材料他、関連工事に関して生じた損害
○
物価リスク
インフレ・デフレ
○
金利リスク
金利の変動
下水道整備リスク
葉山新館にかかる周辺下水道の整備に伴う追加工事の発生
所蔵品異動リスク
鎌倉館等から葉山新館への所蔵品の移動に関するもの
計画変更リスク
○
○
○
サービスの対価の支払遅延・不能に関するもの
○
県の責めによる事業内容・用途の変更に関するもの
○
性能リスク
要求仕様不適合(施工不良を含む)
県の責めによる事業内容・用途の変更等に起因する維持管理
費の増大・減少
維持管理コストリスク
上記以外の要因による維持管理費の増大(物価・金利変動によ
るものは除く)
劣化による場合(葉山新館のみ・設計に起因するものを除く)
施設損傷リスク
事故・火災等によるダメージ(県の責めによるものを除く)
備品の更新について不都合が発生した場合(県の設置による
備品更新リスク
備品を除く)
修理費増大リスク
修理費が予想を上回った場合(大規模修繕を含む)
運
営
管
理
段
階
○
○
○
インフレ・デフレ
○
金利の変動
○
入場者リスク
入館制限を無視した入館者に関するトラブル
美術館施設(館内外)における事故・トラブル(設計ミス、指示ミ
ス等県の責めによるもの)
美術館施設(館内外)における事故・トラブル(上記以外の事業
者の責めによるもの)
入館料金の紛失・管理上の不備(当日のみ)
入館料リスク
所蔵リスク
図書閲覧リスク
付帯設備リスク
○
○
○
展示中の美術品の盗難・破損
○
展示会準備・後片付け作業中の美術品の盗難、破損
○
施設に起因する展覧会・作品のトラブル
施設に起因しない展覧会・作品のトラブル(県の責めによるもの
を除く)
所蔵中の美術品の盗難、破損
美術情報システムリ
スク
更新リスク
○
○
○
○
○
○
○
○
LAN・情報システムの構築・メンテナンスに関するもの
○
○
業務要求水準書に記載したレベルのもの
業務要求水準書を超えたレベルのもの
施設移管手続きに伴う諸費用の発生に関するもの、事業会社
の清算手続きに伴う評価損益等
○
○
図書閲覧室における盗難・破損(図書資料は除いた備品)
付帯施設(新館喫茶・レストラン、ミュージアムショップ、新館駐
車場)に関するもの
新館レストランの運営に関するもの
通常使用に関するもの
○
○
レストラン運営リスク
ミュージアムショップ運
ミュージアムショップの運営に関するもの
営リスク
駐車場運営リスク
新館駐車場の運営に関するもの
システムリスク
移管手続きリスク
○
○
金利リスク
展示リスク
移管
段階
○
○
物価リスク
美術館施設リスク
美術館支援リスク
△
○
性能リスク
支払遅延・不能リスク
維持管理リスク
事業者
○
許認可の遅延に関するもの(県が取得するものを除く)
土地及び建物所有に係る新税(税率含む)
新税以外の税率の変更に関するもの(固定資産税、建物所有・
維持管理に関するもの等
美術館の設置に対する住民反対運動・訴訟・要望に関するもの
等
住民対応リスク
上記以外のもの(調査・工事及び運営)に対する住民反対運
動・訴訟・要望に関するもの
社会リスク
工事に伴う水枯れにより周辺地域に影響を及ぼした場合
環境問題リスク
調査・建設段階における騒音・振動・大気汚染・水質汚染・臭気
に関するもの
VE提案リスク
VE提案に関するもの
民間事業者の責めに 事業者の事業放棄・破綻によるもの、事業者が提供するサービ
デフォルトリスク(事
よるもの
スの品質・利用しやすさが一定のレベルを下回った場合等
業の延期・中止リス
公共の責めによるも
ク)
県の債務不履行、当該サービスが不要となった場合等
の
フォースマジュールリスク
戦争、風水害、地震等
建設リスク
負担者
県
法人税の変更に関するもの(法人の利益に係るもの)
税制度変更リスク
計
画
・
設
計
段
階
リスクの内容
入札説明書の誤りに関するもの、内容の変更に関するもの等
選定事業者と契約が結べない、または契約手続きに時間がか
かる場合
PFIの議決契約が得られない場合、維持管理・学芸支援業務の
政治リスク
縮小・拡充等
法制度・許認可リスク 法制度・許認可の新設・変更に関わるもの
制度関連リスク
共
通
リスク分担表
○
○
○
凡例:負担者 ○主分担、△従分担
※「施設貸出しリスク」は「美術館施設リスク(上段)」に含む。
(神奈川県資料より筆者作成)
26
まず、平成 12 年 7 月の神奈川県立近代美術館新館(仮称)施設整備等事業実施方針
において PFI 事業の範囲が定められている。そこでは、
「本事業は、
『民間資金等の活用
による公共施設等の整備等の促進に関する法律』に基づき、事業者が新たに県立近代美
術館葉山新館を建設・所有し、維持管理業務・美術館支援業務を遂行し、また、既存の
鎌倉館についても維持管理業務を遂行することを事業の範囲とする。事業者は葉山新館
の維持管理業務・美術館支援業務(30 年間)の終了後、県に施設を無償譲渡する。な
お、展覧会の企画・開催、美術作品の収集・保管等の公立美術館としての運営業務は、
従来通り県が行う。
」
(下線は筆者による)とされており、具体的な美術館支援業務とし
て、「新館喫茶・レストラン運営業務、新館ミュージアムショップ運営業務、新館駐車
場管理運営業務、美術情報システム整備及び運用支援業務(システム設計、ホームペー
ジ作成、所蔵作品管理システム等)」が挙げられている。そして、注意書きにおいて、
新館喫茶・レストラン運営業務、新館ミュージアムショップ運営業務、新館駐車場は独
立採算であることが明記されている。県としては、この美術館支援業務であるレストラ
ン・ミュージアムショップ・駐車場において、民間事業者のインセンティブを引き出そ
うとする意図であることが読み取れる。
同年 9 月 8 日、実施方針公表後の民間事業者の質問に対する県側の回答が示されてい
3
る 。回答は多岐にわたるが、県と民間事業者の役割分担にかかる民間事業者の質問部
分を抜粋すれば次のとおりである(順不同)
。
民:葉山新館の年間来場者数は。
県:年間 15 万人程度と想定している。
民:「展覧会の企画・開催、美術作品の収集・保管等の公立美術館としての運営業務
は、従来どおり県が行う」とあるが、運営業務の範囲、責任と権限を、PFI 事業
者の「事業の範囲」と少なくとも同等以上の具体性をもって、この質問書の回答
として明示して頂きたい。
県:例えば、展示会準備・後片付け作業中の美術品の盗難・破損は県の責任、展示中
の美術品の盗難・破損は事業者の責任となっている。
民:レストラン・ミュージアムショップ・駐車場の運営業務を民間の独立採算で行う
と設定された背景および理由は。
県:独立採算で行うと設定した背景は、民間のノウハウが発揮できる分野であり、事
業の創意工夫により運営や施設内容についてより効率的な提案が期待される業
務であると考えているため。
民:新館喫茶・レストラン、新館ミュージアムショップ、新館駐車場は事業者が当該
収益により運営する独立採算とする。
」との記載があるが、これら 3 つの業務に
関して、県はどの程度の収入保証を行う用意があるのか。
県:県による最低保証を行うことは考えていない。
民:契約書で定められた要求水準が維持されないことが判明した場合は、サービスに
対する支払の減額を行う、と記述されているが、PFI 事業者が行う新館喫茶・レ
ストラン、新館ミュージアム、新館駐車場(すべて独立採算部分)の取扱いはど
27
のように考えるのか。
県:独立採算部分の運営については、サービスの対価に含まれておらず、サービスの
対価の支払の減額対象外であるが、モニタリングの対象にはしていきたいと考え
ている(モニタリングは行うが、独立採算部分の運営不適切であることをもって
サービスの対価の支払いを減額することはない)。詳細については入札公告時に
示す。
民:「葉山新館喫茶・レストラン、葉山新館ミュージアムショップ、葉山新館駐車場
は事業者の独立採算とする」とされているが、①各事業がそれぞれにおいてある
いはトータル事業として黒字化が必要なのか、②赤字でも差し支えなく、要は事
業者リスクであるのか。
県:独立採算部分については、民間事業者が利益を上げるようノウハウを活用してい
ただけると考えているが、質問の②のとおり事業者リスクであると考えている。
この時点での議論を整理すると、県の考え方は変化しておらず、レストラン・ミュー
ジアムショップ・駐車場は独立採算制によって、県が有しない民間事業者のノウハウを
生かした提案を期待していることが窺える。他方、民間事業者はどの参加企業が質問し
たか不明であるものの、県の企画展にあまりに左右されるレストラン・ミュージアムシ
ョップ・駐車場を独立採算制で運営することに関して強い危惧感を持っていることが質
問に端的に表れている。
質問回答を踏まえ、9 月 18 日に特定事業の選定が行われた後、11 月 14 日に入札公告
が実施され、入札説明書が公に示されている。これは同日に公表されている意見招請を
踏まえているものと想定されるが、美術館支援業務についてはレストラン・ミュージア
ムショップ・駐車場はこの時点でも独立採算制のままである。同日公表された意見招請
の結果は次のとおりである(順不同)
。
民:喫茶・レストラン、ミュージアムショップ、駐車場、といった施設について、実
施方針上は民間事業者の独立採算施設と位置付けられているが、民間事業者とし
ての採算制は極めて厳しい施設であるため、その運営費・維持管理費の一部また
は一定の割合をサービス対価に含める方向で検討をお願いしたい。
県:独立採算部分に係る運営業務については、収益が見込めるような工夫をお願いす
る。提案にあたっては、事業全体を勘案して提案を行っていただきたい。
民:独立採算による事業性が見出せない場合には、再度、最低保障、事業の撤退の交
渉の余地はあるのか。また、「独立採算部分の運営のみが不適正であることをも
ってサービスの対価の支払いを減額することはない」とあるが、当初計画・運営
していた独立採算施設について、事業採算上、レストラン規模の縮小やミュージ
アムショップの商品数削減を実施した場合にも、サービス対価の減額は行わない
ようお願いしたい。
。
県:入札説明書 43 ページ付属資料④4に示したとおりである(後述)
民:美術館支援業務のうち、葉山新館喫茶・レストラン、ミュージアムショップ、駐
車場は民間事業者の独立採算とするとあるが、本来、民間事業者は事業採算上、
28
効率的な収益を上げるために外部からの顧客取り込みや周辺居住者層、本美術館
との兼ね合いや前面道路、一色海岸との導線や配置、規模、年間を通じた商品構
成等詳細な検討をし、事業計画の立案、施設設計が行われる。しかし、本件は民
間事業者が提案をする上で下記阻害要因があり、前記 3 業務の取組み方を難しく
していると考えられる。
①本件は県側で実施設計を採用することが決定し、実施設計図面の意図・背景を
正確に把握できない。
②3 業務の効率的な収益が得られる提案(設計変更が伴う)を民間事業者が行っ
た場合にそれが県側の考えているコンセプトと相違していることが考えられ
る。
このような要因が考えられる状況下、前記 3 業務に独立採算を求められても県及
び民間事業者にとって良い結果にならないのではないか。
県:独立採算部分に係る運営業務については、収益が見込めるような工夫をお願いす
る。提案にあたっては、事業全体を勘案して提案を行っていただきたい。
この日、県の方針が明確に打ち出されたことにより、意見招請の結果を踏まえつつも、
美術館支援業務の部分は変更が加わることなく、入札説明書に伴う要求水準書が作成さ
れている。リスク分担表も原則として変更がないままである。
このことは民間事業者からみれば、県の要求するスキームに従って PFI 事業に応札し
なければならず、たとえ VE(Value Engineering)提案で民間事業者からみた見直し案を
提示することができたとしても、入札時または落札後の県との契約交渉の過程で県のス
キームの見直し・修正を民間事業者が要請することは困難であることを示している5。
また、逆に独立採算部分の運営業務が業務要求水準書を満たさないと県が判断した場
合、①改善措置を勧告し、改善計画書の提出を求める、②改善計画に沿ったモニタリン
グ、③①・②の手続きを繰り返す、④③の請求をしても改善されないと判断した場合、
契約の解除(解除の効果として、県は工事残額及び支払利息の 90%のみを支払う)と
いう一連のモニタリング手続きを定めている。これは、独立採算部分の運営がサービス
購入の部分にまで及び、民間事業者にとっては安易な事業運営は許されないスキームに
なっている。
ところで、VFM(Value for money)向上には直接的には必ずしも結びつかないがそれ
に寄与するものとして、伊藤忠グループは入札にあたり効率的な運営方法を模索してい
る。その結果が、①人員配置の弾力化(マルチジョブローテーション6)、②調理システ
ムの効率化、③関係者協議会7の設置として結実している8。
3.2
神奈川県による美術館サービスの評価
神奈川県は平成 16 年度に公の施設評価を実施しており、その中で神奈川県立近代美
術館も対象となっている9。一次評価として各部局による評価が行われ、項目別に 3 段
階で評価が実施される(3 が高評価である)。項目は、妥当性(県が設置運営する必然
性、社会経済状況や国・市町村・民間との役割分担などからみて、現在あるいは今後、
29
県の関わり方を見直す必要はないか)・効率性(事務の簡素化、コスト削減、一部事業
の委託化など、運営の効率性からみて、改善の余地はないか)・有効性(利用状況・利
用者意見からみて、
効果的な運営に向けて改善の余地はないか)
の 3 つの指標である10。
それによると、妥当性(施設の設置目的や県の関わり方が妥当であり、適切に運営し
ている)
・効率性(効率的に運営している)
・有効性(効果的に運営している)の 3 つの
指標とも 3 の評点がなされており、高い評点で県が認識していることが確認できる。
また、特記事項として、妥当性は「現在での美術館活動を継続し発展させていくには
高度な専門性・公共性が必須であり、県直営で運営していく必要がある」、効率性は「委
託可能な業務については維持管理業務として PFI 事業者に委託している」、有効性は「葉
山館の開館に伴い利用者は増加しており施設の有効性は高い」と記述されており、これ
らの評価を踏まえ、総合評価としてサービスの継続が妥当であるとされる A 評価がな
されている(A が高評価である)
。
二次評価(行政システム改革推進課長が案を作成し、行政システム改革調整会議が最
終評価)においても、
「現在 PFI 事業者に委託している施設であるが、学校行事や地域
との連携による利用者拡大や県民サービスの向上など、有効性・効率性を高める施設運
営に努力」と評価され、A 評価がなされている。また、入館者数も葉山館開館後に大幅
に増加している11。このことは、神奈川県として PFI 事業により設置目的を果たし、
サービス向上に寄与できたことを示している。
3.3
神奈川県立近代美術館における美術館機能の役割分担
一般的に、神奈川県立近代美術館をはじめとする美術館に必要とされる機能は、①調
査・研究、②収集・保存、③展示・公開、④学習交流(教育普及)、⑤情報提供、⑥管
理・運営の 6 つに大別されうる。その他の機能として、美術作品の保存・公開の場から
地域文化の創造の場へ、生涯学習機能の付与という機能についても併せて指摘すること
が可能である。
今までのスキーム分析を踏まえ、神奈川県立近代美術館 PFI 事業をこの 6 つの区分に
基づいて官民の役割分担を整理すれば、次のとおりになると考えられる。
図表 3-4 神奈川県立近代美術館における美術館機能の役割分担
機能
官
調査・研究
○
収集・保存
○
△
展示・公開
○
△
学習交流(教育普及)
○
情報提供
○
管理・運営
民
△
○
(筆者作成)
30
4.分析と評価
前節までの議論を踏まえ民間事業者の参画のメリットを検討すると、①PFI 事業の運
営ノウハウの蓄積、②PFI 事業の受注実績作り、③社会的貢献、④企業イメージの向上、
などが考えられる。しかしながら、独立採算の部分については明確な財務データ資料は
ないものの、コストセンターとして認識している発言もあり、実際には支出超過になっ
ていることが想定される12。
現在のスキームにおいては管理・運営は民間事業者が担っている。しかしながら、情
報提供などは官でなく民でも実践できる事業であり、美術館支援業務と一体となったス
キームであれば、さらに VFM が向上することが期待される。
行政が美術館サービスを提供する場合、民間事業者の活用を大幅に図り、同時に官の
インセンティブも働くスキーム構築が望ましい。建設・運営はサービス購入型であり、
入場者リスクは県が負担している。つまり近代美術の普及という政策目的の達成のため
に、採算は度外視している事業であると考えられる。これは県の政策目的に沿った企画
展は民間事業者ではできないのではないかという県の疑念が出発点となっている。それ
ゆえに美術館支援業務であるレストラン・ミュージアムショップは、できる限り民間事
業者のインセンティブを誘引するために独立採算制としている。また、建設・維持管理
費の支出を平準化(リース方式13の延長)することも目的の 1 つとなっている。
また、民間事業者はモニタリングの結果適切なサービスが供給されている限り、建
設・維持管理費において毎年 2 回所定の額を受け取ることができる。民間事業者もリ
スクの平準化を図れることがメリットといえよう(但し、経営努力をしなければ独立
採算施設の収益を向上させることは困難である)
。民間事業者からみれば県が良質な企
画展を企画し、来館者の増加が見込める事業が継続されない限りレストラン・ミュー
ジアムショップの売り上げが減少するため、関係者協議会で企画展のレベルの維持向
上を要望し続けることになり、県に対して常に働きかけるというインセンティブを持
つことになる。もちろん、企画展については県民・関係者から常に評価され続けてい
る。他方、県は民間事業者に企画展の内容に左右されないレストラン・ミュージアム
ショップを期待し、それが入館者数の増加に繋がることを期待している(独立採算制
は民間事業者のインセンティブを考慮した制度設計である)
。結果として、県・民間事
業者の双方ともサービスの改善を図るスキームになっていると考えられる。
このスキームを採用したのは、県の施策に沿って民間事業者が企画展を企画できるの
か、といった点にあった。逆にいえば、いかに民間事業者の創意工夫が発揮できる事業
を盛り込み、活用できるかがポイントであったといえる。神奈川県立近代美術館 PFI 事
業においてはそれが美術館支援業務という部分に凝集している。
もともと、神奈川県立近代美術館 PFI 事業はリース方式が予定されており、PFI 法の
趣旨に近いものが考えられていた。むしろ、平成 12 年 3 月の自治省通知にみられるよ
うに14、自治省から違法性が高いとみられていたリース方式による起債が、PFI 法の成
立によってリース方式の考え方(支出の平準化)を損なうことなく方向転換を図ること
ができたと評価できる15。
31
結果として、神奈川県立近代美術館 PFI 事業は、博物館・美術館業務のサービスのあ
り方について新しいあり方を試みた先駆的な事例であると位置づけられる。県からみる
と、レストラン・ミュージアムショップ・駐車場の運営リスクを原則的に民間事業者に
移転させることができた事例である。
しかし、入館者数・売上げの向上について PFI 手法が寄与したか否か不明である。同
じく、最終的な受益者たる県民の満足度が向上したかについても正確な検証が行われる
必要がある。
神奈川県立近代美術館 PFI 事業においては、設計がすでに県でなされていたことため
設計部分を含めた PFI 事業とはなっていない。また、事業実施場所についても葉山にあ
る県有地を活用している。これらの点は、美術館支援業務に関する民間事業者の創意工
夫を引出す点において困難な制約条件になっていたといえる。ただ、公共サービスの提
供ではあるものの、美術館支援業務は独立採算制である事業であるために、民間事業者
が部分撤退、または違約金を支払って完全撤退という選択肢も十分考えられる16。
5.おわりに
神奈川立近代美術館 PFI 事業は、現在県と民間事業者による適切な役割分担のもと事
業が進んでいる。
はじめにでも述べたように、指定管理者制度の導入に伴い、博物館・美術館の運営に
ついて民間事業者に委ねることが可能になったことから、PFI 法立法当時と社会情勢が
変化し、多様な公共サービス運営手法が可能になっている。長崎県立博物館では長崎
県・長崎市が共同して指定管理者を公募し、乃村工藝社が指定管理者に選定されている。
そこでは、県・市は指定管理者負担金・生涯学習受講料を指定管理者に支払い、その収
入が人件費(ショップ等除く)・施設運営費(光熱水道費等)・事業費(調査研究・生
涯学習)などの支出にあてられている。一方、利用料金事業たる観覧料・使用料・図書
販売収入・ショップカフェ収入・その他収入(協賛金等)は指定管理者が創意工夫をし
て実施し、指定管理者常設展経費・企画展経費(実行委員会形式等)・ショップカフェ
経費(独立採算)が支出となり、その結果指定管理者が利益を挙げ、または損失が発生
するスキームとなっている。
指定管理者制度も PFI と同様、官と民間事業者で情報の非対称性が著しく存在する。
民間事業者だけでなくいかに官においても事業改善のインセンティブを引き出し、適切
なリスク分担を踏まえたスキームを構築するか。また、官は民間事業者のインセンティ
ブを誘引するだけでなく、適切なモニタリングを実施し、サンクションを行使する権限
を保有しておくか。それらは最終的には契約という形式をとって表れるが、いかに双方
が合意のうえで契約を締結できるか。そして、サービス提供の目的であり、PFI 手法を
とる究極の目的であるサービスの質の向上をいかに図るか。これらの点を考慮したうえ
で事業スキームの制度を設計することが、これからの行政が提供する博物館・美術館サ
ービスに求められる方向であるように思われる。
32
1
市場化テストとは、今まで国・地方自治体が独占的に手がけていた事業について、民間企業との間で競
争入札を行い、落札した事業主体がその事業を実施する制度である。事業主体の選定は第三者機関がサ
ービスの質とコストの両方を考慮して判断する。
2
指定管理者とは、地方自治法第 244 条の 2 に規定される公の施設の管理を地方自治体が出資している団
体以外の民間事業者に委ねることを可能にする制度である。
3
平成 12 年 9 月 8 日付け「神奈川県立近代美術館新館(仮称)施設整備等事業実施方針等に関する質問へ
の回答」参照。
4
「付属資料④サービスの対価の減額及び契約終了の方法」参照。
5
一般的に落札後のスキーム変更は、公平性・公正性の確保の観点から実施されていないのが実情である。
6
受付・監視等を含めたマルチジョブローテーションを考案している。
7
美術館の展示方針・考え方を迅速に運営に反映させるためにできた体制である。
8
内閣府 PFI 推進室民間資金等活用事業推進委員会第 18 部会合同部会伊藤忠商事株式会社提出資料より。
9
「平成 16 年度公の施設評価の実施結果について」参照。
10
PFI 事業の評価そのものは法成立後 5 年を経過し、これから施設の維持管理・運営段階に入るため、今
後政策評価・行政評価として公表される事業が増えることが予想される。
11
平成 14 年度実績は 45,579 人、平成 15 年度実績は 81,795 人、平成 16 年度目標値は 184,598 人である。
但し、鎌倉館・葉山館と区別した数字ではないため、内訳は不明である。
12
内閣府 PFI 推進室民間資金等活用事業推進委員会第 18 部会合同部会伊藤忠商事株式会社提出資料より。
13
リース方式とは、行政が建物を建設後、当該建物を民間に売却し、行政は民間に対して一定のリース料
を支払うことで当該サービスを利用するものである。リース方式は、行政が建設費などの財政支出をリ
ース料として単年度ベースにならすことにより(支出の平準化)、ある年度に過度の財政支出が生じるこ
とを回避できるものである。
14
「地方公共団体における PFI 事業について(平成 12 年 3 月 29 日付け自治画第 67 号)」参照。
15
この点は神奈川県の各種報告書や内閣府 PFI 推進室民間資金等活用事業推進委員会第 17 部会合同部会
議事録などから裏付けることができる。
16
福岡市の PFI 事業であるタラソ福岡は SPC 構成企業である大木建設の倒産が SPC に波及した事例であ
るが、公共サービスの事業中断リスクが現実に生じ得ることを認知させた事業である。
33
第 4 章 水道事業の事業形態について
佐藤 陽介
1. 序論
1.1 研究の背景
わが国の水道事業は、これまで地方自治体を中心とした公営企業が担ってきたが、平成
11 年の PFI 推進法制定、平成 13 年の水道法改正により、民間参入が事実上可能となり、民
営化論が議論されるようになった。だが、事業の性質上、効率化ばかりではなく、あるい
はそれ以上に恒久的に安定した運営が必要なことを考慮すると、民間との競合の可能性が
高く民営化が望ましいと結論できるような公営事業とは同列には扱えない可能性がある。
このように、諸外国における事例などを参考にしながら、今後のわが国における水道事
業のあり方について、民営化を無条件に正しいものと考えるのではなく、効率性と事業の
恒久的安定性のバランスに配慮して、民営と公営のメリットを再考してみることが必要で
あろう。この際に重要なことは、現在の公営水道事業の問題点が、果たして公営である限
り不可避なものなのか、あるいは公営という原則の中で解決可能なものなのであるかにつ
いて明確にすることであろう。
1.2 研究の目的
以上のような背景の下、本章では水道事業を恒久的に安定したものとするという側面に
重点を置いて論じてみたい。
2. わが国における水道事業の現状
2.1 概要
わが国の水道事業を取り巻く環境は年々厳しさを増している。少子高齢化の進展や節水
型社会への移行により水需要の伸びが期待できない。また、昭和 30 年代から 40 年代にか
けて新設された水道施設の更新が必要となるため水道事業の経営状況は年々厳しさを増し
ている。
地方公営企業年鑑によると平成 15 年度において地方公共団体が経営する水道事業の数
は 3543 事業で、前年度より 86 事業減少している。減少した原因は、市町村合併や水道事
業者間の統合等が挙げられる。給水人口規模別にみると、3 万人未満の小規模事業体は全
体の 7 割弱を占めている。このうち全水道事業で黒字経営を行っている事業体は全体の 8
割強であり、残りは赤字経営を行っている。赤字経営は給水人口が少ない事業体に多く、
不良債務を抱えている事業体は 5 万人未満の事業体に集中している。このように事業体の
規模によって異なる性格を持っている。そこで本研究では、東京都と善通寺市を、大規模
事業体と小規模事業体の代表として取り上げる。
35
2.2 東京都の現状
東京都水道局は、給水人口が約 1213 万 4000 人の大規模事業体である。事業に携わる職
員数は 4683 名(平成 16 年)とわが国で最大規模を誇る。同局の課題としては、まず老朽
化による施設能力の低下が挙げられる。順次更新工事がなされているが、過密状態の大都
市ゆえの施工条件の困難さ故に全ての更新工事を終了させるにはまだ時間が必要である。
一方で、経営効率化への取組みもなされている。その例として、多摩地区の事務委託の解
消に伴う事業効率化や業務委託、朝霞・三園浄水場常用発電設備等整備事業での PFI 導入
による民間ノウハウの積極的な活用が試みられている。
2.3
善通寺市の現状
日本政策投資銀行の資料によれば、香川県善通寺市は、給水人口が約 3 万 5000 人の小規
模事業体である。事業に携わる職員数は 14 名(平成 16 年)と少ない。同市の課題として
は、東京都同様に施設の老朽化が挙げられる。浄水場は建設後 26 年が経過し、管路におい
ても耐用年数を経過したものによる事故が発生しており更新費用が嵩んでいる。次に重要
な課題は、中核職員の退職問題である。先に述べたように職員数は 14 名と少なく、今後中
核職員が退職した後の運営能力維持が課題となる。
このような背景から同市では民間化の検討を行っている。方式として個別業務委託方式、
運営委託方式や経営委託方式の検討がなされた。
3. 諸外国の民営化事例について
3.1 概要
野田(1、2004 年)によれば、近年になって諸外国において水道事業の民営化が盛んに
なった要因として、水源の水質悪化による高度な処理技術の導入が必要になったことが挙
げられる。そのために必要とされる浄化設備への投資が巨額となり、自治体の財政だけで
は到底賄えない状況になったため民間資金の導入が必要とされたということである。
本章では代表的な民営化事例であるイギリスとフランスの事例を取り上げてみたい。
3.2 イギリスの民営化事例
民営化の導入以前イギリスでは地方自治体により運営される 1000 を超す数の水道事業
が存在していたが、1974 年の改正水法により 10 の地域水管理公社の下に、これらの水道
事業は集約された。
さらに 1989 年に成立した水道法によって、これら公社は民営化されることとなり、株式
売却により完全民営化が実行された。
民営化された水道会社に対し、政府は所管地域における 25 年の運営ライセンスが与えら
れたが、同時に適切な設備投資が義務づけられた。これにより事業評価の結果如何では政
府によって契約を打ち切られることもある。事業評価を行う監視機関として、水道料金の
設定や経営状況を監視する OFWAT(Office of Water Service:水業務管理局)
、水質全般を監
視する DWI(Drinking Water Inspectorate:飲料水検査局)が設置され、民営化会社の提供す
36
る水道サービスのモニタリングが行われている。
このようにして民営化されたイギリスの水道事業であるが、その根本的問題は設備水準
の低さである。EU の飲料水基準を満たすために多額の設備投資が必要となり、水道料金の
値上げが不可避となり、水道サービスを受けられない人々が出てきたのである。ところが、
岡本(4、2003 年)によると値上げされた水道料金が全て設備投資に向けられたわけでは
なく株主への配当にも還元されており利益率 40%に達する事業体が出てきてしまった。そ
の意味では、水道料金の設定に問題があると言わざるを得ない。その後、水道事業会社は
ブレア政権の下で納税を義務付けられ、更に OFWAT によって平均 12%の値下げを強いら
れたのである。これにより、水道事業各社の経営状態が悪化し、テムズウオーターをはじ
めとした数社がフランスやドイツの企業に買収されるという事態に至っている。そんな中、
ウェールズ地方では、非営利団体(NPO)の水道会社が出現することとなる。Glas Cymru
という NPO 水道会社は、買収に必要な資金を全て社債によって調達する方式を採用した。
この「デッドファイナンス」は、水道事業が安定した事業形態であることが可能としたと
いわれている。この方式であれば株主への報酬は必要ないので資金は事業運営に全て投じ
られることになる。また同社では経営効率化のため業務の大半を種別毎に民間委託してい
る。
3.3 フランスの民間委託事例
フランスの水道事業民営化の歴史は古く、1853 年にリヨン市による民間委託が最初であ
った。同国の民営化では、イギリスのような所有移転型民営化と異なりコンセッションや
アフェルマージと呼ばれる官民のパートナーシップの形態がとられている。現在では、民
間水道会社(ベオリア、スエズ、ソール)の3社による寡占状態となっている。委託は入
札が法律上義務付けられているが、市場が寡占状態であるために競争原理の浸透が不十分
という問題点がある。そのため、新規参入促進策や住民参加方式の導入等が検討されてい
る。なお、入札は価格のみならず、サービスの質も重視される総合評価方式がとられてい
る。委託の形式は、①自治体(コミューン)が施設を整備し運営を民間が担う「アフェル
マージ方式」と、②施設の整備を含めて事業全般を民間が担う「コンセッション方式」の
2つが代表的である。監視機関としては、河川の流域毎に水資源庁があり、水質管理は保
健省が管轄している。
民間水道事業を運営しているベオリア社は、フランス国内だけでなく、世界各国で事業
展開を行っており、年商 4 兆円を超える世界最大の水道事業会社である。同社は、民営化
における問題点の 1 つとして挙げられる公務員の身分問題について東京都議会の海外調査
団のインタビューに以下のように答えている。
民営化の当初 5 年間は公務員の身分を保証し、5 年後にベオリア社の従業員になるか、
公務員に戻るかという選択を与えるそうである。しかし実際に公務員に戻るのはごく僅か
であるという。その理由としては 2 つの理由が挙げられる。1 つは給与水準が上がるとい
うことである。経営効率化による配当を労働者が得られる仕組みになっている。2 つ目は
キャリアアップの選択肢が広がるということである。職員研修の質が向上し、海外勤務と
37
いう選択肢も増えるというメリットがあるため公務員の大半は同社の職員となる道を選ぶ
のである。
3.4 まとめ
本節では、イギリスとフランスの事例を紹介した。イギリスは完全民営化という方式を
取り、フランスは民間委託という方式を選択しており対照的な事業形態と言えよう。ここ
で各々のメリットデメリットについて論じてみたい。
まずイギリスの完全民営化についてだが、メリットは、施設の更新が進み水質の向上に
寄与したことが挙げられる。自治体経営のままでは更新が期待されなかったという理由で
導入された民営化であったことを考えれば、この部分については目標を達成できたと言え
よう。一方デメリットは、必要以上の水道料金値上げと経営状態の不安定化である。株式
会社という形態であるため、値上げによる増収のかなりの部分は株主への配当や役員への
報酬に流れてしまった。規制機関は存在したがその機能を果たせなかったのも一因であろ
う。そして遅まきながら値下げを命じられると経営状況が厳しくなり他国の企業に買収さ
れるという事態に陥ったのである。これは安定した供給に支障をきたす可能性があり安定
経営の仕組みが出来ていなかった点は大きな反省材料であろう。しかし、その中で新たな
動きとして出てきた非営利水道会社については今後の水道事業形態を考える上で大きな可
能性を秘めていると言えよう。
このように多くの問題を抱えていたイギリスの事例と比較すると、フランスの民間委託
という手法は、デメリットよりもメリットの方が多いと思われる。まず、事業の責任者が
自治体にあるという点である。これは言い換えれば国家の保証を取り付けたようなもので
あるので、完全民間企業であるよりも事業存続に関して安定している。さらに、事業の効
率化が実現できるだけでなく、公務員の処遇問題についても抵抗がなく受け入れられてい
ることも、大いに参考になると言える。だがデメリットもあり、寡占化が進んだ結果競争
原理が働いていないことが指摘できる。これは民営化手法の問題というよりも水道事業の
特殊性によるものが原因であると思われる。水道事業は施設が固定的であり、管網1につい
ても既存の施設を活用することが大前提である。新規参入するためには、施設整備につい
ての初期投資が莫大である。その意味では新規参入自体が困難であると言えよう。また、
調べた範囲では分からなかったが、委託先の企業が破綻した場合に間髪入れずに事業の存
続を図る方法についてきちんと定められているかどうかが課題として挙げられよう。
38
4. 民営化に関わる事業形態について
4.1 概要
野田(1)は水道事業の民営化に関わる事業形態について以下のように整理している。
表 5-1:水道事業の民営化の形態
業務委託
リース
ソーシング
(アフェルマージ)
資本
公 共
公 共
料金徴収
公 共
契約期間
1 年間程度
リスク移転
低
事例
日本(多数)
コンセ
BOO
ッション
所有移転型
民営化
公共(民間)
民 間
民 間
民 間
民 間
公共/民間
民 間
民 間
民 間
民 間
民 間
2~5 年
10~12 年
20~30 年
20~30 年
20~30 年
永 続
低
中
中
高
高
低
民間関与度合
BOT
アウト
高
高
三次市
フランス
フィリピン
フランス
イギリス
チリ
米国
出典: 野田由美子・PwC アドバイザリー(株)
『民営化の戦略と手法』
本節では、コンセッションやアフェルマージを代表とする経営委託方式と、業務委託や
アウトソーシングを代表とする運営委託方式、最後に所有移転型民営化である株式会社方
式について整理する。
4.2 経営委託方式
経営委託方式とは、フランスでの民営化で採用されたものであり、コンセッションやア
フェルマージを代表とする方式である。
4.2.1 コンセッション方式
コンセッションとは公共セクターの発注者が、求める公共サービスの内容と水準を設定
し、事業の運営を委譲すべく、複数の民間事業者に対して提案の招聘を行い競争させる。
競争の結果、事業の運営権の委譲を受ける民間企業と公共セクターの間で、民間が提供す
べきサービスの内容と水準について定めた契約が締結され事業が進められる仕組みである。
民間事業者は金融機関などから資金を調達し、施設設備の更新を行い、維持管理を含む運
営業務を行う。ここでは原則として公共セクター側から民間事業者側にサービス提供への
対価の支払いは生じない。つまり利用料金の徴収も必然的に民間事業者の業務となる。施
設及び設備の所有権は民間事業者が建設したものを含め公共セクターに属することが原則
である。事業機関は 20~30 年間が一般的である。施設の更新規模が大きいほど長くなる傾
向にある。
4.2.2 アフェルマージ方式
アフェルマージは、コンセッションのカバーする事業範囲のうち資金調達部門が公共セ
39
クターに残ったものといえる。民間事業者は公共セクターが整備した施設を借り受け運
営・維持管理につとめる。利用料金は民間事業者が徴収し、そこからリース料と維持管理・
運営費を賄うという図式である。先に挙げたフランスのケースでは、既存設備が充実して
いるケースにおいてはコンセッションよりもアフェルマージの形式がよく用いられている。
その理由として更新費用の方が安いとされているが、管網に関しては撤去手間もあるため
一概に安く済むとはいえない面もある。アフェルマージはコンセッションよりも契約期間
は短く設定されており概ね 10~15 年程度とされている。
経営委託方式は、その性質上独占になりやすい分野に向く。入札段階で競争させること
により、より低料金で高いサービスを担保させることが可能となる。
4.3
運営委託方式
運営委託方式とは、業務委託やアウトソーシングといった日本でも比較的よく取り入れ
られている方式である。ともに公共セクターが施設の運営を委託するもので、民間事業者
は指定管理者の指定を受ける。料金収受については自治体に属し、事業者に対して委託料
支払いが発生する仕組みである。業務範囲や事業者の裁量をなるべく限定したいという性
質上、わが国でもよく用いられている方式であるが事業効率化にいかにしてつなげるかが
課題となる。また、業務委託とアウトソーシングは同意でとられることが多いが厳密には
意味合いが異なるためここでその違いについても整理しておく。
まず、業務委託とは、専門性が薄く、安い労働力が期待されるケースに用いられるもの
を言う。委託の責任の所在は公共セクター側にあるためリスクは極めて小さい。
続いて、アウトソーシングとは、業務委託よりも一歩踏み込んだものである。期待され
るところは業務委託と異なりその分野の高度なノウハウにある。近年の傾向として単位業
務ではなく包括業務委託として利用する自治体も出てきた。こちらの責任の所在はアウト
ソーシングされた側にあるため業務委託よりはリスクが大きい。ただ、どちらの方法にし
ても公共セクターが業務から離れてしまうため施設のモニタリングに支障をきたすことが
デメリットである。
4.4 株式会社方式
株式会社方式は、所有移転型の民営化を意味する。資産も含めて新設のセクター会社に
移管するものである。所有の移転先により 3 つの手法に分類されている。1 つは、一般の
投資家に株主を広く売却する株式公開方式。2 つ目は、企業等に売却するトレードセール
方式。3 つ目は民営化される企業の経営陣や従業員に売却される MBO 形式である。
株式公開方式は、イギリスの水道事業民営化の際に用いられた手法である。この方式は、
経営陣や職員の体制が維持されやすい方式であるため、比較的抵抗の少ない方式とされて
いる。民営化時に発生する官から民への身分切替をスムーズに行う方式である。ただ、イ
ギリスの例でも明らかになったように経営状態が不安定になるリスクも背負っている。更
に民営化時の事業再構築に多大なコストと時間がかかる方式であるというのもこの方式の
特徴として挙げられる。
40
トレードセール方式は、発展途上国において先進国企業のノウハウを活用する方式であ
る。MBO 方式は、経営陣や従業員が買い手となるため自治体がこの方式を導入する場合、
事業購入資金調達のため投資ファンドの活用が考えられる。自らが買い手となるため、経
営陣や従業員へのインセンティブが働きやすくなる。この方式の特徴は大きく 2 つ挙げら
れる。まず、現体制の保持に動きやすい点である。買取先が現在の体制である以上、事業
の流れがそのまま保持されるケースが考えられる。民営化以前の経営状況が安定的である
ならば持続的に事業の継続を図ることが可能である。但し、見方を変えれば民営化以前の
体制が経営的に厳しいものであれば効率化が図れなくなる可能性も秘めている。2 つめの
特徴はこの欠点を補完するところで、金融機関の監視が入る点である。これがガバナンス
の向上につながり、事業効率化へのきっかけとなる可能性がある。
4.5 まとめ
本節では 3 つの民営化方式について整理した。各方式ともメリット、デメリットが存在
するが、水道事業という観点で判断すると以下のような可能性が示される。まず、経営委
託方式については、先に述べたようにフランスにおいて長期にわたり実績を積み重ねてい
る方式である。コンセッションかアフェルマージの選択については、その性質上資金力の
あるなしが大きな要因となる。すなわち大規模事業体であればアフェルマージで小規模事
業体であればコンセッションである。ただ、民間事業者の立場で考えれば大規模事業体の
業務を行うほうが収益を挙げやすいため実情は逆になる可能性が高い。先に述べた善通寺
市のように検討に入っているところもあり導入の可能性は十分ある。
運営委託方式は、業務委託をはじめとし実際に導入されている。広島県三次市のように
包括的維持管理委託の例もあり限定的な民間委託の方式として今後拡大すると予測される。
株式会社方式は、イギリスの事例で挙げられたように経営の安定化が求められる。施設
更新費用調達のために水道料金の値上げが考えられるので財務状態の公表などにより透明
性を高めることが重要である。それらの条件をクリアすることが導入の前提となるが、問
題点が多いこともあり上記の他の方式と比較すると導入の可能性は最も低いと考えられる。
5. わが国の水道事業における事業形態について
5.1 はじめに
ここまで海外の事例及び民営化における事業形態について整理してきた。本節では、今
後のわが国の水道事業における事業形態について考察する。
まず、水道事業を実施する上で必要な視点について挙げてみたい。1 つ目は安定した給
水が可能であるかということである。2 つ目は安価であるかどうかということである。こ
れらの視点は、人間が生活する上で水が最重要インフラであるというところに起因するも
のである。電気とガスのようにどちらか片方が欠けてもよいという状況ではなく、代替す
るもののない唯一のインフラである。これらの点を最低限満たすものを条件として考察す
る。
41
5.2 モニタリングについて
まず、民営化の際に問題となるモニタリングの問題について考察したい。これまで自治
体が担っていた事業を民間事業者が担う形になるため、全ての利用者にとってこれまで通
りの水道サービスが保証されるかどうか監視する必要がある。特に問題となりそうなのが
技術的な監視である。経営状況の監視とは異なり、技術的な監視は、専門性が要求される
分野である。業務に携わった経験が生きる分野であるため、一旦業務から離れ監視業務の
みとなってしまうと充分な監視能力が発揮できない可能性がある。そのため、仮に民営化
したとしても監視部門に必要な専門性保持のため、技術部門に自治体側が一定の関与を残
すことが必要だと考える。
5.3 大規模事業体について
ここでは、大規模事業体の事業形態について考察する。大規模事業体は、小規模事業体
とは異なり、効率的な管網が整備されているため給水人口一人あたりにかかるコストは低
い。東京都水道局の場合、検針業務や施設の運転管理の一部は民間へ業務委託されている。
また給水所の無人化や施設整備の PFI 導入も進め経営の効率化を目指している。その結果、
平成 16 年度の純利益は 480 億円を超えており現在の事業形態であれば何ら問題は見つから
ない。今後は、民間委託した業務のモニタリングにおいて技術部門の技術継承問題を解消
することが重要であり、職員の技術力を高める組織形態が求められる。
5.4 小規模事業体について
一方、小規模事業体は、現状での事業継続に支障をきたしているケースが多い。主な原
因として考えられるのが給水人口の少なさからくるコストである。水道事業は規模を問わ
ず浄水場や給水所といった施設が必要となるため、給水人口が多いほうが単価を下げられ
る。このため、給水人口の少ない小規模事業体にとってこれらの施設を維持管理する費用
負担が経営状況を圧迫しているのである。善通寺市のケースでは民間化の検討がなされて
いるが、まず周辺自治体との事業統合を先に実施すべきではないだろうか。香川県には香
川県水道局があるため周辺自治体を含めて事業統合が実現できれば、施設の配置について
効率化できると考える。その上で、民間化が必要かどうかを再検討すべきではないだろう
か。単独市町村での水道事業では、効率化しても効果は限定的である。仮に民営化すると
しても広域化してから民営化したほうが効果も大きいと言える。
ここで、広域化を行ったという前提で民営化の必要性について考えてみたい。まず、広
域化により経営状況が改善され黒字経営が可能になった場合について考察する。この場合
は、東京都の例と同様に考え、自治体が担う方向で業務委託の推進により効率化を図って
いくことが最善であると考える。次に、広域化によっても経営状況が改善されない場合に
ついて考察する。この場合、考えられる方式は経営委託方式か株式会社方式が挙げられる。
経営委託方式は、コンセッションの導入が望ましい。施設更新費用を自治体財源では賄え
ない状況が予想されるため民間資本を入れるほうが妥当だと考える。その意味ではアフェ
ルマージの導入は考えられない。株式会社方式については、イギリスのように施設更新の
42
ための水道料金上昇の可能性が高いためコンセッションの導入がふさわしいと考える。
6. おわりに
これまで水道事業の事業形態について述べてきたが、東京都のような経営の安定してい
る事業体もあれば善通寺市のような厳しい経営を強いられている事業体もある。水道事業
は安価で安定した給水が求められるため、わが国の制度上、公的関与を残したほうが目標
を達成されやすい。ただ、経営の厳しい事業体は民間資本の導入なしには事業継続しがた
い状況となっている。民間資本の導入には厳しいモニタリングが求められるため、イギリ
スのような暴走を招かないモニタリングの方法を構築することが求められよう。今後の可
能性としてイギリスで挙げた NPO による水道会社が公的な性質を持ち、かつ効率化を図れ
る仕組みとなっているためわが国での導入を検討してもよいのではないかと考える。また、
民営化といえば、職員の処遇も課題となるが、フランスのようにインセンティブがあれば
民営化への支障とならない可能性もあり、日本式のインセンティブについて考えていく必
要があると感じた。いずれにせよ水道事業はなくてはならない事業であることに変わりは
ない。今後も安定した給水を目指し望ましい状態であることを願ってやまない。
1
管網とは、ある区域の管路全体を指す。
43
第 5 章 コミュニティ・ビジネスにおける民と公の新たなかたち
田口
薫
1.はじめに
平成 17 年4月に、経済財政諮問会議の下に置かれている専門調査会において、
「日本 21
世紀ビジョン」という報告書が作成、公表された。この中では、
「新しい躍動の時代」とい
うサブタイトルがつけられ、構造改革を進める上で参考にすることを踏まえ、2030 年を目
標とするわが国の目指すべき将来像と、回避すべき将来像が掲げられている。少子高齢社
会や情報化社会、グローバル社会など時代の変化にともなうわが国のあるべき姿がまとめ
られているものだが、
“経済活動が停滞し縮小する”
“官が民間経済活動の重し・足かせと
なる”
“希望を持てない人が増え、社会が不安定化する”といったことが回避すべき将来像
に掲げられ、こうした状態を避けるべく、政府主導の構造改革を進めていくという趣旨の
報告書である。
平成の大合併がひとまずの終焉をみた平成 18 年度の始まりに、全国の基礎自治体数は
1,820 となり、合併特例法が施行される前の平成 11 年3月の 3,232 から 1,412 の市町村が減
った。地方交付税も平成 16 年度から大幅に削減され、いよいよ小規模自治体の存続が厳し
くなっている。しかし、多くの自治体が、前述した回避すべき将来像を現実の問題として
抱えており、自治体財政状況は遅々として改善されていない状況にある。
一方で、合併の次なる歳出削減策は政府主導で次々と打ち出され、公務員制度改革や集
中改革プラン等による自治体職員数の削減、PFI や指定管理者制度、平成 18 年度から施行
される市場化テスト(官民競争入札)といった民間委託手法導入による官製市場の開放な
ど、自治体のスリム化を図る様々な制度が打ち出されてきている。しかし、来年には、い
わゆる 2007 年問題といわれる団塊世代の大量退職時代の幕開けを迎えるため、
地方分権を
推し進め、膨張し続ける公的サービスの新たな担い手を地域や民間等に求める方策は当然
の流れといえる。
ここでは、上記のような地方分権が進むことによって浮き上がってくる2つの大きな問
題について考えていく。その問題とは、①既存公的サービスの民営化が進むことによる公
と民(地域)の役割・責任の所在。そして、②地方分権による経済コミュニティの重要性
の増大について、コミュニティはどうあるべきかということである。自立・自律の地域社
会を形成するためには、地方分権社会においては、役割と責任を明確にすることが次の改
革を生み出し、より良い社会を創り出していくことにつながる。新たな役割を担う主体と
しては、民間企業や NPO、ボランティアなどが挙げられるが、本章では、地方自治体の自
主財源増加を目論んだ戦略的な視点として、米国や英国等の諸外国で着実に根づき、その
活躍が報告されている社会起業家に注目し、特に社会起業家を生み出すコミュニティのあ
り方について、わが国での先進的な取り組みや社会起業家の事例も踏まえながら、民と公
の新たなかたちを提案することを目的とする。
45
2.コミュニティ・ビジネスと経済コミュニティ
細内信孝氏(コミュニティ・ビジネス総合研究所所長)の提唱により 1994 年に造語とし
て生まれたコミュニティ・ビジネスという言葉は、約 10 年の年月を経て、2003 年の中小
企業白書のコラムで登場し、2004 年の中小企業白書で明確に位置づけられるようになった。
2004 年中小企業白書の中で、コミュニティ・ビジネスは、
「従来の行政(公共部門)と民
間営利企業の枠組みだけでは解決できない、地域問題へのきめ細やかな対応を地域住民が
主体となって行う事業」と定義されている。白書以外では、書籍やインターネット上にコ
ミュニティ・ビジネスに関する団体が細川氏が提案したわが国におけるコミュニティ・ビ
ジネスの特徴をほぼ引用する形で紹介しているものが散見される。細川氏が提唱するコミ
ュニティ・ビジネスの特徴は、
●住民主体の地域密着のビジネス
●必ずしも利益追求を第一としない適正規模、適正利益のビジネス
●営利を第一とするビジネスとボランティア活動の中間領域的なビジネス
●グローバルな視野のもとに、行動はローカルの開放型のビジネス1
と紹介されている。
図表 5-1 コミュニティ・ビジネスの位置づけ
NPO
会社
コミュニティ・ビジネス
組合など
個人事業
「コミュニティ・ビジネスとは、市民による『地域性・社会性+事業性・自
立性』をともなった地域事業体」
出典:
『富と活力を生む!コミュニティ・ビジネス』
(日本地域社会研究所刊)
一方、米国におけるコミュニティ・ビジネスの類義語として経済コミュニティという言
葉がある。経済コミュニティとは、
「企業とコミュニティに持続的な優位性と活力を与える
経済とコミュニティの間の強力かつ感度のよい関係を有した場所」2と定義される。ニュー
ディール政策の失敗や 1990 年代に米国で多くみられたコミュニティの自治の崩壊によっ
て喚起され、流動化が激しい時期に新しい種類の指導者が必要とされることは歴史が証明
している史実として、従来の大きな政府によるトップダウン方式から、コミュニティレベ
ルのボトムアップ方式に変え、地域の課題等に早期に対応できるシステムと、それを担う
リーダーの必要性が高まってきた。
経済コミュニティの特徴としては、
46
●コミュニティと結びついた専門化した産業クラスター
輸出により地域の富を創造し、相互のニーズを満たすためにコミュニティと結びつい
た企業の集積
●コミュニティの能力との結合
競争力のある産業クラスターを生み出し、人々の質の高い生活を支えるコミュニティ
の資産とプロセス
●市民企業が経済とコミュニティを結びつける
経済的活力とコミュニティの活性化を促進するために産業クラスターとコミュニティ
の能力を結合する関係3
図表 5-2 経済コミュニティの特徴
経 済
産業クラスター
コミュニティ
社会起業家
能力
出典:
「市民起業家-新しい経済コミュニティの構築」
そもそも、日本と米国では、宗教や文化などによりコミュニティのあり方が根本的に異
なることや、寄附やボランティアに対する優遇税制や学校教育制度(ボランティア活動の
単位化など)の違いなど、社会システム上異なる点が多いことも念頭に入れる必要がある
ものの、国・地方財政の破綻、青少年犯罪の増加やコミュニティの自治能力の崩壊、若年
者の地方から中央への流出など、地方分権の流れが加速化していく背景に類似点もみられ
る。
直接的・積極的な利益追求をコミュニティの課題解決に結びつけないことが日本の特徴
である反面、米国では企業活動の存続そのものがコミュニティの課題解決に不可欠である
という点で、根本的な考え方に大きな相違があることがうかがわれる。
3.コミュニティ・ビジネスの現状
起業家を排出する地域には、起業家を生み出す風土が存在する。風土とは、その地域で
育まれてきた歴史や文化、そこに住む人の価値観などを含むもので、さらに社会基盤や教
育環境なども大きく影響している。図表 5-3 は、都道府県別開業率と中小企業の平均年齢
を示したものだが、企業年齢の低い地域ほど開業率が高いことを表わしている。都道府県
別にみても開業率は異なるが、さらに小さな地域別・自治体別にみると、大きな格差があ
ることがうかがえる。
47
図表 5-3 都道府県別開業率と中小企業の平均年齢(会社組織、非 1 次産業、推計)
y=-1.552x+24.323 R2=0.630
都道府県名
北海道
青森県
岩手県
宮城県
秋田県
山形県
福島県
茨城県
栃木県
群馬県
埼玉県
千葉県
東京都
神奈川県
新潟県
富山県
石川県
福井県
山梨県
長野県
岐阜県
静岡県
愛知県
三重県
開業率
4.0
3.6
3.4
4.1
3.2
3.0
3.2
3.2
3.1
2.7
3.8
4.2
4.4
4.2
3.2
3.0
2.9
2.6
2.9
2.9
2.9
3.3
3.7
3.1
平均年齢
18.7
18.6
19.1
17.4
19.4
19.8
19.4
18.1
19.0
19.2
16.5
16.6
17.4
17.2
20.2
19.9
18.6
20.5
19.5
20.3
20.1
19.6
18.9
19.6
都道府県名
滋賀県
京都府
大阪府
兵庫県
奈良県
和歌山県
鳥取県
島根県
岡山県
広島県
山口県
徳島県
香川県
愛媛県
高知県
福岡県
佐賀県
長崎県
熊本県
大分県
宮崎県
鹿児島県
沖縄県
開業率
3.2
3.1
4.3
4.1
2.9
2.8
3.5
2.5
3.4
3.6
3.7
2.9
3.7
3.1
3.5
4.8
3.4
3.7
3.5
4.2
4.3
3.6
6.2
平均年齢
17.7
20.3
18.6
18.4
18.7
21.9
19.2
20.3
19.3
18.7
19.6
20.0
20.3
19.7
19.4
16.8
18.4
19.5
18.0
18.7
18.0
18.7
14.3
出典:中小企業白書 2005 年版
注1:開業率は 1999 年から 2001 年の年平均開業率。
注2:企業の平均年齢は 1999 年 6 月時点での数値。
注3:調査項目の「事業所の開設時期」の各期央にすべて開設したものとみなして算出。
ただし、
「昭和 29 年以前」と答えたものはすべて昭和 29 年 1 月 1 日開設とみなした。
注4:1999 年の調査では開業年が調査されていないため、1996 年の調査結果と結合し、継続して存続して
いる事業所については、この時の開設年を適用。結合できない事業所は、この間に新設されたもの
として、
「1996 年 10 月から 1999 年 6 月」に設立されたものとした。
わが国の開業率は先進諸外国に比べて低いことは改めて言及するまでもない事実である。
また、2003 年中小企業白書の中では、
「コミュニティ・ビジネスの進化」という項目で、
(株)
日本総合研究所が行った「社会的起業家の実態に関する調査」
(2003 年 12 月)の結果が報
告されている。そこでは、
「事業性の強い団体」
(1,850 団体・75.8%)
、
「ボランティア性の
強い団体」
(591 団体・24.2%)と、事業の収益性に着目して分類している。これによると、
「事業性の強い団体」の方が、幅広い内容の事業を展開しており、単に収入や収益を増加
させるだけでなく、地域住民へ提供するサービス内容も充実させているといった分析がな
されているが、コミュニティ・ビジネスの担い手として十分な活動費を賄えない企業が4
48
社に1社の割合で存在する実態がみられる。
上記のような現状を踏まえ、ここでは、実際に利益を上げることと社会問題を解決する
ことを同時に行っていこうとする起業家の支援に取り組んでいる支援機関と、社会問題を
解決することが事業として成立している社会起業家へのヒアリング調査結果を紹介する。
(1)株式会社まちづくり三鷹
三鷹市は、平成9年にまちづくり研究所第3分科会から「情報都市三鷹をめざして-
SOHO CITY みたか構想」の提言を受け、全国でもいち早く SOHO という業態の企業・起
業支援策に力を入れてきた。三鷹市が SOHO に注目した背景としては、戦後に都心郊外の
住宅地として人口が大幅に増加し、市域の約8割が宅地として利用されているため(平成
16 年の総面積に占める宅地の割合は 79.9%)
、工場誘致などができる余地はなく、法人税
に頼れない市の財源構造があった。また、商業面でも、近隣の吉祥寺や武蔵境などの大規
模商業地があり、商業都市としても発展が難しい状況だった。しかし、戦時中は軍需産業
を抱える都市であったため、日本電信電話公社の研究施設があり、昭和 59 年に INS 実験
(デジタル通信網の整備と活用、キャプテンシステムなどの新しいメディアによる行政情
報の提供等、地域の情報化の推進に向けた様々な取り組み)が行われ、この結果他市に先
駆け昭和 63 年度に三鷹市内の全域で NTT のデジタル通信網(INS ネット 64)の利用が可
能となった。このような背景を抱え、平成 10 年に施行された中心市街地活性化法に基づく
三鷹市のまちづくりと中心市街地活性化事業を行うまちづくり機関(TMO)として、株式
会社まちづくり三鷹を平成 11 年に設立し、本格的な SOHO のまちづくりが始まった。現
在、株式会社まちづくり三鷹には 59 人の従業員が働いている(うち6人は市職員出身)
。
TMO としての商業空間づくりや三鷹産業プラザの管理・運営、SOHO インキュベーショ
ン施設の整備・運営など、70~80 の事業を行っている。また、NPO や地場企業との協働
事業も行っており、様々な活動主体で構成されている。現在では、広がった事業の規模を、
身の丈にあった事業規模に見直す動きも最近では出てきている。
SOHO の特徴としては、
比較的起業しやすい業態であるものの、
他の中小企業と同様に、
経営を安定するための営業力・資金力・信用力などで課題を抱える企業が多い。株式会社
まちづくり三鷹の今後の方向性としては、①これまでの SOHO の誘致策から、市民による
内発的なコミュニティ・ビジネスの振興、②行政の内部や周辺にあるビジネスシーズの掘
り起こしなどを手掛けていく。
市町村が独自に稼がないといけない時代にあって、公の持つ信用(=安心感)は非常に
重要な意味を持つ。全国には、用地はあっても企業は誘致できず、お金にならない土地余
り現象がいたるところでみられる。人口減少社会にあって、自治体の産業振興策は根本か
ら発想を変える必要性がある。株式会社まちづくり三鷹でヒアリングに応じていただいた
向井氏は、まずは地域の現状を詳しく知る必要性があることを指摘されていた。そして、
支援する側もスピードと人脈づくり、さらには支援する企業や人の可能性を見抜く目利き
としての素質を養うことが必要であることを力説していただいた。
49
(2)株式会社 COCO・WA・DOCO
明治大学発のIT系ベンチャー企業である株式会社 COCO・WA・DOCO は、品川区戸越
銀座における「ユビキタス商店街」プロジェクトを手掛ける地域密着型の産学官連携を進
めている。このプロジェクトの概要は、商店街の電柱を地中化するのと並行して、光ファ
イバ網を敷設し、カメラやスピーカー等の映像表示装置を設置し、防犯・防災情報、子ど
もや高齢者の居場所確認情報、さらに商店街の店舗情報等を提供し、地域住民と商店街の
コミュニケーションの円滑化を図るとともに、商店街の活力を取り戻していこうとするプ
ロジェクトである。株式会社 COCO・WA・DOCO の代表取締役の半田氏は、品川区の出身
で、明治大学大学院博士課程に在籍している。ユビキタス商店街の前段として、半田氏は
戸越銀座商店街のホームページを地元住民と協力してつくりあげている。サラリーマンの
多い地域で、
地元のことに目を向けるよう呼びかけ、
それに応じて集まった人の職種は様々
であった。
ホームページの作成では、
それぞれの担当を決めて責任を分散管理する手法で、
やる気を喚起した。戸越銀座のホームページは、情報の質と量で他の商店街のホームペー
ジと大きく異なる。検索エンジンや地元の公共施設、交通機関等のリンクがトップページ
にリンクされており、商店街の利用者のみならずとも、地元の住民はポータルサイトとし
て設定したくなるようなサイトづくりがされている。様々な人が関わり合ってこそつくら
れるアイデアがあり、利用者が利用しやすいように練られたホームページといえる。
株式会社 COCO・WA・DOCO は、現在明治大学駿河台校舎のアカデミーコモン内に本社
を構えており、大学の信用は会社の大きな武器と捉えている。半田氏は、学内の人的資源
にも注目しており、法学部や商学部の学生などに、より実践的で専門的なことを企業内で
体験しながら学べる機会を今後学生に提供していくような仕組みを考えており、文理融合
の産学官連携の新たなかたちを模索している。また、大学の信用力に甘んじず、中小企業
振興公社のアドバイザーを活用した受注増の取り組みや、国や自治体の助成制度を活用し
た資金工面の方策を講じている。技術力・商品開発力では、
“半径5メートル以内の人が良
いといってくれないとネットでは売れない”という基本的考えのもと、まずは身近な人が
商品に興味を持つかを常にチェックしている。
インキュベーション施設などで行われているマッチングについては、需要側と供給側の
架け橋となる人材の資質について指摘された。中小企業振興公社の担当アドバイザーは企
業の商品に対する理解力が高く、営業面で大変助かっているという。また、話の中では、
企業の社会貢献について教育が重要だと指摘された。地域密着型で商店街活性化の事業を
手掛ける半田氏にとっては、地域や人の役に立つことは当り前という考えを持っている。
これは大学時代の教授の教えが影響を及ぼしているという。
4.激変の中にある民と公の新たなかたち
(1)コミュニティ・ビジネスを支える公的機関の支援策
図表 5-4 にあるように、インキュベーション施設は全国で増加傾向にある。こうした施
設は、社会起業家を支援し、ビジネスとビジネスを結ぶインキュベーション・マネジャー
(IM)などの活躍が期待される。また、大企業や調査研究機関、大学等の高等教育機関、
50
行政を結びつける、いわゆる産学官連携の橋渡しとなる、仕掛け人としての役割が重要と
なる見方も報告されている4。
また、株式会社まちづくり三鷹のように、行政の内部も知っていて、民間企業のことも
わかる半官半民のような企業が、行政周辺のビジネスシーズを掘り起こし、情報開示する
ことによって、自治能力の向上・自治体の財政的自立という行政の使命と、社会起業家を
事業家へ育てていくという使命を果たし、地域経済への効果を表わす指標で評価していく
ことが求められる。また、ビジネスシーズとビジネスチャンスのマッチングの他に、社会
起業家のネットワークづくりにおいても、これからの自治体が担う役割は大きくなること
が予想される。社会起業家は、旧来の価値観や行動規範に捕われず精力的に活動する人で
あるが、創業時から会社経営に関する知識や人脈が豊富な人は少なく、また、規模が小さ
いがために営業手段に制限がある場合が多い。こうした事業継続の障壁を、社会起業家同
士のネットワーク、あるいは社会起業家と専門家のネットワーク、さらには社会起業家を
含めた住民ネットワークを講じることで解決していく取り組みが重要となる。
インキュベーション施設等の施設については、入居企業のスタッフ不足を補うために、
外出時の電話番や、お客への対応(お茶くみ)などを施設スタッフが行うなど、単に安価
な賃料というメリットだけではない付加価値サービスをつけることが今後望まれるだろう。
特に、公的施設に入居するメリットとして大きいのは、公的な信用といえる。COCO・WA・
DOCO の半田氏も指摘されていたが、現在は、ベンチャー企業に実績を求める時代という
ことだ。実績はなくとも信用があれば、やる気のある人が集まる可能性は高い。そうした
信用を付与することに対して、公が入居時の審査等でしっかり見抜き、さらに、自治体ホ
ームページなどへのリンク貼り付けなど、企業の信用確保のための積極的な取り組みが、
リスクをともなう分、高い付加価値を生み出すだろう。こうした付加価値が、その施設へ
の入居率を上げることにつながる可能性がある。インキュベーション施設がないような自
治体においては、商店街の空き店舗や古農家など、使われなくなった既存施設を活用する
方法が考えられる。地方分権の時代は、米国をみるとわかるように、地方間の競争が加速
することを意味している。
地元から社会起業家を生み出す内発的な方策を講じるとともに、
あらゆる頭脳や資源を集約するために外から持ってくるという方策も講じなければならな
いだろう。
また、半田氏の指摘にもあるように、教育の質は大変重要なテーマである。企業の不祥
事や談合など、大人が社会に対する興味・関心を持っていないことの表れともいえる報道
が後を絶たない。行政やコミュニティにおいては、
「非難の文化」
、あるいは「擦り付けの
文化」といったものが根づいているところもある。企業は行政が悪いといい、行政は前任
担当者が悪いといい、非難しあい責任を擦り付けあう文化のことである。社会に関心を持
たない子どもが増えることは大人の責任である。学校・家庭・地域など、子どもの手本と
なり導くことができるように、大人が襟を正すことが重要である。
51
図表 5-4 インキュベーション施設の開設状況
出典:日本新事業支援機関協議会「ビジネス・インキュベーション総覧」
(2003)
注:調査時、開設予定のものは除く。
(2)自治体歳入増を目指す戦略的な産業振興策
コミュニティの諸課題を解決する社会起業家を育成することで、自治体の余計な経費を
削減するとともに、新たなビジネスを創出して自治体収入の増加を図る取り組みには、近
道のない地道な協力関係を築いていかなければならない。また、協力関係を築く対象は、
自治体からみれば住民や教育機関、民間企業等多様な対象が存在する。
社会起業家を育成していくためには、まずは第1世代を育成する視点から現状分析を行
う必要がある。コミュニティやまち全体のこれまでの社会変化やこれからの方向性が明確
でなければ、ビジネスシーズを掘り起こしても、目標のない改革・改善にとどまり、結果
として地域貢献につながらない。また、社会起業家は、企業である以上、ある程度の成功
や事業の拡大を考えれば、移転する可能性もある。しかし、まずは第1世代を育てていく
ことから始めなければ事は始まらない。
社会起業家を育成するためには、
何から取り組まなければならないという方程式はなく、
地域によって異なる。そのため、まずは地域の現状をあらゆる角度から分析することが必
要であろう。特に、既存の企業は、地元をどのように考えているかをヒアリング等で聞き
出すことは、企業側と自治体側の双方の認識を確認するためにも取り組まなければならな
いことの一つであろう。ヒアリングに応じてくれない企業が多いと嘆くのではなく、熱意
を持って足を運ぶことがヒアリングを行う者には求められる。
52
図表 5-5 第1世代の社会起業家育成・支援とコミュニティの関係
情報交換
指導・育成
コミュニティ
ビジネスシ
ーズ提起
資金提供
コミュニティファンド
情報提供
規制改革委員会
コミュニティ
社会起業家
社会起業家
評価委員会
コミュニティ
ビジネスプ
ランの発表
評価(監査)
マッチング
社会起業家
社会起業家
利用
自治体、
インキュベーション
NPO等
パートナー
シップ
資金提供
マッチング
技術支援
経営支援
筆者作成
図表 5-5 は、社会起業家育成・支援の方向性とコミュニティのこれからの関係を図示し
たものである。自治体、NPO 等、インキュベーション施設にとっては、安価な施設提供を
はじめ、資金提供、マッチングネットワーク、技術支援、経営支援など、様々な支援策が
考えられる。しかし、いたれりつくせりの支援では社会起業家の自立を促さないため、こ
うした諸課題を解決する方法として、
チェック機能を諸段階で設定することが考えられる。
これまでの国や自治体の助成金制度などでみられる傾向として、助成したらしっぱなしと
いう傾向がみられた。しかし、民間の金融機関等では融資した企業に対して随時チェック
し、企業の返済能力を見定めている。自治体やコミュニティが協力して評価委員会等を設
置し、こうした機能を有することも考えられる。また、コミュニティファンドなどを用い
て、間接的に地場の企業へ資金提供する手法も考えられる。事業を運営していく上で障害
となる種々の規制に対しては、規制改革委員会等を設置することによって条例等の改正や
構造改革特区の申請に結びつけるなどの手法も考えられる。
さらに、2007 年問題でクローズアップされている団塊世代のお金と関心をコミュニティ
に注いでもらうために、企業の社会的責任を投資判断とする指標を作成するインテグレッ
クス社のように、地域のために活動している企業の指標を作成し、それを自治体ホームペ
ージ等で広く情報公開することも、企業にとっては大きな信用力を獲得することにつなが
り、助成金の対象を絞り込む指標としても活用できるだろう。
現在、自治体間競争が進む中、どのように人を集め、若者が流出しないまちにするか、
多くの自治体が悩んでいる。例え公でも、これまでのように、公平一律ではなく、やる気
のある人に支援を行っていく選択と集中が必要である。そのための仕組みをつくるために
53
は、自治体の担うべき役割は非常に大きいと考える。社会起業家を生み出すためには民と
公が協働関係だけではなく、互いにチェックする緊張感のある関係の構築が必要である。
地域にはそれぞれ独自の文化があるように、独自のビジネスを中心に据えた自立度の高い
コミュニティが築かれていくことが望まれる。
1
2
3
4
「富と活力を生む!コミュニティ・ビジネス」より引用。
「市民起業家-新しい経済コミュニティの構築」より引用。
「市民起業家-新しい経済コミュニティの構築」より引用。
「産業立地 2004 年 Vol.43」
54
参考文献
第1章
無線周波数の分配・割当における政府及び市場の役割
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・ 川越啓太『民業化する公的サービス』知的資産創造 2003 年 9 月号
・ 経済産業省『パブリックビジネスの影響に関する研究会報告書』
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・ 中央青山監査法人『地方自治体の新しい組織・経営手法』
(2005)
・ 野田由美子『民営化の戦略と手法』
(2004)
・ 本間正明『概説市場化テスト-官民競争時代の到来』
(2005)
・ 宮木康夫『第三セクターと PFI』
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・ 山田浩之『地域経済学入門』(2002)
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美術館サービスのあり方-神奈川県立近代美術館 PFI 事業を通して-
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・ 内閣府 PFI 推進室「民間資金等活用事業推進委員会第 17 回合同部会配布資料・議
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・ 内閣府 PFI 推進室「民間資金等活用事業推進委員会第 18 回合同部会配布資料・議
事録」、http://www8.cao.go.jp/pfi/shiryo_b_18.html
・ 内閣府 PFI ホームページ、http://www8.cao.go.jp/pfi/
・ PFI インフォメーション、http://www.pfinet.jp/
・ PFI 推進委員会、http://www8.cao.go.jp/pfi/iinkai.html
第4章
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・ 善通寺市 HP: http://www.city.zentsuji.kagawa.jp/
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第5章
コミュニティ・ビジネスにおける民と公の新たなかたち
・ D・ヘントン、J・メルビル、K・ウォレシュ
加藤敏春訳『市民起業家-新しい経済コ
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・ 大川新人『富と活力を生む!コミュニティビジネス』日本地域社会研究所、2005 年。
・ 大西隆『逆都市化時代-人口減少期のまちづくり』学芸出版社、2004 年。
・ 株式会社ぶぎん地域経済研究所編著『SOHO 起業家として生きる』海文堂、2004 年。
・ 株式会社まちづくり三鷹『Mitaka ism=三鷹からの発想』株式会社まちづくり三鷹、2003
年。
・ 北川正恭+縣公一郎+総合研究開発機構編『政策研究のメソドロジー』法律文化社、2005
年。
・ 清原慶子『三鷹が創る「自治体新時代」』ぎょうせい、2000 年。
・ 斉藤槙『社会起業家』岩波新書、2004 年。
・ 櫻井道晴監修、南学、小島卓弥編著『地方自治体の 2007 年問題』官公庁通信社、2005
年。
・ 市町村産業研究会編著『市町村のための産業振興のポイント』ぎょうせい、2003 年。
・ 柴田郁夫『SOHO でまちを元気にする方法』ぎょうせい、2005 年。
・ 高橋四郎「産業再生のシナリオ」『産業立地』vol.42、2003 年、pp.24-29。
・ 原田久『NPM 時代の組織と人事』信山社、2005 年。
・ 船井幸雄『まちはよみがえる』ビジネス社、2006 年。
・ 古川勇二「クラスター政策は地域再生の切り札になるか」
『産業立地』vol.43、2004 年、
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・ 文化政策提言ネットワーク編著『指定管理者制度で何が変わるのか』水曜社、2004 年。
・ 星野敏「IM が存分に活躍できる環境をめざして」、
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・ 細内信孝『地域を元気にするコミュニティ・ビジネス』ぎょうせい、2001 年。
・ 町田洋次『社会起業家』PHP 新書、2000 年。
・ 渡邊奈々『チェンジメーカー』日経 BP 社、2005 年。
57
2005 年度 NIRA 公共政策研究セミナー
政策事例研究報告書の発行にあたって
NIRA 公共政策研究セミナー(NIRA セミナー)は、公共政策研究の分野の研究者やコ
ーディネータなどの養成を目的として 2002 年度から総合研究開発機構(NIRA)が実施し
ている人材養成事業である。2003、2004 年度に引き続き、今年度もケーススタディ重視
の方針を重視して次の 2 つのテーマで事例研究の枠組みを設定した。
A)構造改革-民と公の挑戦-
(稲葉陽二・日本大学教授、岡田靖・学習院大学特別客員教授)
B) NPO が切り拓く新たな公共
(田中敬文・東京学芸大学助教授、服部篤子・CAC 社会起業家研究ネットワーク代表)
NIRA セミナーのプログラムは、受講者が自ら実施するケーススタディに対してより明
確な問題意識を持って取り組めるよう設計されている。
研究指導講師のもとで関心対象を
具体化しつつ、専門家ヒアリングやグループ討議を通じて理解を深め、自ら選択したケー
スについて各受講者が綿密な分析研究を行って、政策事例研究報告書にまとめられた。
それぞれのグループでの研究の企画設計は次のようなものである。
まず各テーマにおけ
る基本的な政策課題を理解し問題意識を醸成するために、
講師による概論の講義を受けて
受講者が参加グループを決定した。受講者はそれぞれ研究企画案を作成し、それをもとに
講師とコーディネータを囲んで議論し、検討が進められた。受講者の問題意識を参考にし
て各グループ 3 回の専門家ヒアリングが設けられ、
研究者や実務家による解説に耳を傾け
て最近の動きなどについて現場の声を聞いた。今年度の「構造改革」と「NPO」の 2 つ
のケーススタディは互いに関連深いテーマであったため、
両方の専門家ヒアリングに参加
する受講者も少なくなかった。このような研究プロセスを経て、3 月の報告会では受講者
によるプレゼンテーションが行われ、中間段階で講師等から専門的な助言を受けた。その
後各自で論文執筆を進め、講師等から論文内容に対して助言やコメントを受けて、政策事
例研究報告書として刊行されたのである。
通算 6 回にわたるケーススタディでの指導をお引き受けくださった講師とコーディネ
ータ
(上記)
には厚く御礼申し上げる。
また専門家ヒアリングでご協力いただいた方々や、
各グループの NIRA 側担当者であった小林肇・研究開発部主任研究員、齋藤智之・政策研
究情報センター研究員にも御礼申し上げたい。そして、本セミナーに自発的に参加され、
仕事等で多忙な時間をやりくりしながら講義からケーススタディまでを踏破され、
政策事
例研究論文を完成された受講者の皆様に深く敬意を表したい。
本セミナーとこの報告書を
通じて、
公共政策研究分野における人材育成に対して幅広いご理解をいただけることを切
に願う。
2006 年 6 月
総合研究開発機構・政策研究情報センター
2005 年度 NIRA 公共政策研究セミナー
( 2005年9月~2006年3月実施・全12回 )
NIRA 公共政策研究セミナー(NIRA セミナー)は、政策の分析や評価の基本を学び、これらの方法を実
践的に修得する政策研究の導入セミナーです。公共政策の研究や分析を、理論的、学際的、実践的に進め
問題を提起し、議論を展開できる人材を養成することを目的としたプログラムになっています。ケースス
タディを重視しており、今年度は「公共」をキーワードに、政策分野に横断的な 2 つの領域を設定しまし
た。
政府、企業、団体等で実際に政策に関連する業務に携わっておりスキル・アップの必要性を感じている、
公共政策の実務者、研究者、コーディネータなどを目指している、あるいは市民として自発的に政策を論
じ行動を起こしたい、こうした問題意識を持っている方が NIRA セミナーの対象者です。
NIRA セミナーの特徴
・
・
・
・
・
・
学際性、多元性、総合性を重視したプログラム
政策課題に対する理論と実践からのアプローチ
ケーススタディの重視と実践課題の理解
充実した研究指導体制
参加者自身による研究企画と提案
政策現場の生の声にもとづく問題意識の醸成
関
連
資
料
NIRA セミナー関連資料は、NIRA セミナーHP(http://www.nira.go.jp/icj/seminar/2003/kanren.html) で全文公開しています。
(但し、NIRA 政策研究は除く。
)
2005 年度
『官と民の役割分担-新しい「公共」の形を求めて-』2005-01、2006 年 6 月
『NPOが切り拓く新たな公共-新たな地域ガバナンスの創造に向けた NPO 施策のあり方に関する実証的研究-』2005-02、2006 年 6 月
2004 年度
『市場ガバナンスの変革-市民社会と市場ルールの融合を目指して』2004-01、2005 年 6 月
『共に生きる社会を目指して-多文化社会へ向けた政策課題』2004-02、2005 年 6 月
『東アジアの活力と地域協力-大交流時代における日本の役割』2004-03、2005 年 6 月
北川正恭「公共のプラットフォームを考える」NIRA セミナー2004 第 2 回講演録、2004 年9月
2003 年度
『まちづくりと政策形成 -景観・環境分野における市民参加の展開と課題-』2003-01、2004 年 3 月
『教育の制度設計とシティズンシップ・エデュケーションの可能性』2003-02、2004 年 3 月
北川正恭「インパクトある政策研究-民主主義のインフラ整備-」NIRA セミナー2003 第 1 回講演録、2003 年 9 月
2002 年度
『廃棄物問題にみる新しい自治のかたち-公的問題と私人の参加-』2002-01、2003 年 3 月
『関心高まる地方環境税-制度化の背景と課題・展望-』2002-02、2003 年 3 月
「公共政策の人材基盤充実に向けて-NIRA 公共政策研究セミナーを中心に-」『NIRA 政策研究』Vol.16 No.2、2003 年 2 月
松井孝治「政治行政と政策研究」NIRA セミナー2002 第 9 回講演録、2003 年 1 月
林芳正「政策研究における人材」NIRA セミナー2002 開講記念シンポジウム講演録、2002 年 10 月
その他
宮川公男・NIRA 政策研究情報センター編『「公共政策・人材養成プログラム」策定に関する研究報告』2002 年 5 月
*
この報告書の全文、関連資料、ならびに NIRA セミナーの詳細は、NIRA セミナーホームページ
( h t t p : / / w w w. n i r a . g o . j p / i c j / s e m i n a r / i n d e x . h t m l )でも紹介しております。
セ ミ ナ ー に 関 す る ご 質 問 等 は 、 NIRA セ ミ ナ ー 事 務 局 ま で お 問 合 せ く だ さ い 。
NI RA セ ミ ナ ー 事 務 局 ( E- ma il: jimu k yoku@ n ir a.go.jp)
政策研究情報センター
ISBN4-7955-1817-3
主任研究員
中村
円
C3030
官と民の役割分担
-新しい「公共」の形を求めて-
発
行
Ⓒ総 合 研 究 開 発 機 構
〒150-6034
東京都渋谷区恵比寿 4-20-3
恵比寿ガーデンプレイスタワー34 階
TEL:03(5448)1740 FAX:03(5448)1746
URL:http://www.nira.go.jp
2006 年 6 月 発行
再生紙使用
2006
ISBN4-7955-1817-3 C3030
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