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Book Information-ケースブック刑事訴訟法〔第4版〕

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Book Information-ケースブック刑事訴訟法〔第4版〕
ケースブック刑事訴訟法
〔第 4 版〕
井上正仁 = 酒巻 匡 = 大澤 裕 = 川出敏裕 = 堀江慎司
2013 年 10 月刊/ 720 頁/ 6195 円(税込)
B5 変型判/上製
学習
LS
編集
担当者
から
ケースブックを判例集と理解しておられる読者の方も多いかもしれませんが,本書の内容で
最も優れていて得難いのは,「Q(Question)」であろうと思っています。法科大学院の
設
初年度の講義に間に合わせるべく,またソクラティック・メソッドに対応して使えるよう
に,著者全員による侃々諤々の議論を経て出来上がったのが本書です。
判例によって刑事訴訟法を学ぶというのは,それまでに無かった取組みであり,「Q」を考え,3 つ
のレベルを分けながら配列する作業は思っていたよりもずっと大変な事でした。講義で「Q」によって
学生さんに何を問うのか,何を引き出したいのか,答えられるような聞き方になっているか,聞く順序
は適切かなど,一つ一つの「Q」について行きつ戻りつの議論が何度も繰り返されました。幸い初版か
ら好評をいただき,今般第 4 版を迎えましたが,各版のはしがきを是非読み返していただき,この本
にかける著者の先生方の変わらぬ熱い思いを感じ取って,食らいついてみてください。(D)
各論点ごとに厳選された判例と考え抜かれた 3 つのレベルの「Q」を配置。
1
任意捜査と強制捜査
15 訴因の変更
2
職務質問・所持品検査
16 被告人・弁護人
3
任意同行と取調べ
17 黙秘権
4
写真撮影
18 公判の準備と証拠開示
5
おとり捜査
19 挙証責任と推定
6
逮捕・勾留
20 証拠の関連性
7
令状による捜索・差押え
21 自白の証拠能力
8
逮捕に伴う無令状の捜索・
22 補強証拠
差押え
23 伝聞証拠の意義
強制採尿
24 伝聞例外
9
10 会話・通信の傍受
25 違法収集証拠の証拠能力
11
26 裁 判
身柄拘束中の被疑者と
弁護人との接見交通
12 公訴権の運用とその規制
13 公訴提起の要件・手続
14 訴因の明示・特定
Nov. 2013 No.398
法学教室
37
有斐閣判例六法 平成 26 年版
井上正仁 編集代表
2013 年 10 月刊/ 2364 頁/ 2730 円(税込)
相
続の効力
. 九〇二︱九〇四の二
九〇〇
︵代襲相続人の相続分︶
第九〇一条① 第八百八十七条第二項又は第三項の規定
により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊
属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、
直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受
けるべきであった部分について、前条の規定に従って
その相続分を定める。
前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により
兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
②
孫︵亡長女の子︶を養子とした者が死亡した場合、右の
孫には、養子としての相続権と、亡母の代襲相続人として
の相続権がある。︵昭 ・9・ 民甲一八八一民事局長回答︶
二重資格者たる養子の相続権に関する登記先例
︵遺言による相続分の指定︶
第 九 〇 二 条 ① 被 相 続 人 は、前 二 条 の 規 定 に か か わ ら
ず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを
定 め る こ と を 第三者 に 委託 す る こ と が で き る。た だ
し、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違
反することができない。
相続分の指定が遺留分減殺請求により減殺された場
合 ↓一〇三一条
平5・7・ 家月四六・五・二三︶↓八九八条
九〇四
. 九〇四の二 ●
︻遺贈↓九六四︻贈与↓五四九︻相続
開始の時↓八八二 ●︻遺留分に関する規定↓九〇二
︵特別受益者の相続分︶
第九〇三条① 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を
受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計
の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人
が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与
の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規
定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の
価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
② 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又
はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相
続分を受けることができない。
③ 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示した
ときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反
しない範囲内で、その効力を有する。
二
%
一 死亡保険金の特別受益性
養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取
得する死亡保険金請求権又は死亡保険金は、本条一項に規
定 す る 遺贈又 は 贈与 に 係 る 財産 に は 当 た ら な い。も っ と
も、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との
間に生ずる不公平が本条の趣旨に照らし到底是認すること
ができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事
情が存する場合には、本条の類推適用により、死亡保険金
請求権 は 特別受益 に 準 じ て 持戻 し の 対象 と な る。︵最決平
ヲ
民法 ︵九〇一条︱九〇三条︶相続
七版五
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・ ・ 民集五八・七・一九七九、保険法百選七二︶↓保険
四二条
二 特別受益の審理手続
特定の財産が特別受益財産であることの確認を求める訴
え は、確認 の 利益 を 欠 く も の と し て 不適法 で あ る。︵最判
六五︶
同相続人の一人が遺産中の特定不動産について同人の
共
. 九〇八
︻共同相続人↓九九〇︻遺産の分割時期↓九〇七
︵相続分の取戻権︶
第九〇五条① 共同相続人の一人が遺産の分割前にその
相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人
は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り
受けることができる。
前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならな
い。
②
1
の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の
相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続
分の二分の一とする。
*
五・七・五五︶
4
*
3
. 九〇一︱九〇四の二 [ 一]
︻子↓八八七①︻配偶者↓
八九九
八九〇 [ 二]
︻直系尊属↓八八九① 一 [ 三]
︻兄弟姉妹↓八八九
① 二 [ 四]
︻嫡出 で な い 子↓七七九
. 七八七. 七七四︻嫡出子
↓七七二
. 七八九. 八〇九
、憲一四条
八⋮⋮可部 ほ か 四裁判官 の 補足意見及 び 中島 ほ か 四裁判官 の
反対意見がある︶↓
九〇三 ●︻家庭裁判所 の 処理↓家事別表第二︿十四 の 項.
﹀
二四四 ●︻遺贈↓九六四
相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を
定める。
③ 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した
財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えるこ
とができない。
④ 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請
求があった場合又は第九百十条に規定する場合にする
ことができる。
条
︵福岡家小倉支審昭 ・6・ 家月三四・一二・六三︶↓六六七
2 配偶者
三七年にわたり病弱の夫を扶養看護し、夫名義の不動産
も専ら自己の収入により購入した妻︵山形家審昭 ・3・
家月三四・五・七〇⋮⋮被相続人の妻と兄弟姉妹が共同相続人
となった事案︶
二 寄与に当たらないとされた場合 穎血族相続人
長男が父から営業を譲渡された後、店舗部分の拡張や改
造をし、父母の死に至るまで同居扶養したとしても、これ
は営業の譲受けと深い相関関係にあるから、特別の寄与と
はいえない。︵和歌山家審昭 ・9・ 家月三五・二・一六七︶
三 相続開始後の寄与
寄与分 は、相続開始時 を 基準 と し て 考慮 さ れ る べ き で
あって、相続開始後に相続財産を維持又は増加させても寄
与 分 と し て 評 価 さ れ な い。︵東 京 高 決 昭 ・3・ 家 月 三
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(
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法
ヲ
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四 寄与分を定める処分の性質
寄与分を定める審判は本質的に非訟事件であるから、公
開 の 法廷 に お け る 対審及 び 判決 に よ ら な く て も 憲法三二
条、八二条に違反しない。︵最決昭 ・7・4家月三八・三・
相
続の効力


嫡出でない子の相続分の合憲性
本条四号ただし書の立法理由は、法律上の配偶者との間
に出生した嫡出子の立場を尊重するとともに、他方、被相
続人の子である非嫡出子の立場にも配慮して、非嫡出子に
嫡出子の二分の一の法定相続分を認めることにより、非嫡
出子を保護しようとしたものであり、法律婚の尊重と非嫡
出子の保護の調整を図ったものである。現行民法は法律婚
主義を採用しているので、その立法理由にも合理的な根拠
があるというべきであり、非嫡出子の法定相続分を嫡出子
の二分の一としたことが、右立法理由との関連において著
しく不合理であり、立法府に与えられた合理的な裁量判断
の限界を超えたものということはできない。本条四号ただ
し書前段の規定は憲法一四条一項に反するものではない。
平7・3・7民集四九・三・八九三、重判平7民訴一︶↓民訴
一三四条
二三、民訴百選
四版二五︶
本条中の相続分︵以下﹁具体的相続分﹂という︶は、遺産
分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又は
その価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであっ
て、実体法上の権利関係であるということはできず、した
がって、共同相続人間において具体的相続分についてその
価額又は割合の確認を求める訴えは、確認の利益を欠くも
のとして不適法である。︵最判平 ・2・ 民集五四・二・五
&
三 再転相続と特別受益の持戻しの要否 ↓八九九条
四 持戻し免除の意思表示が遺留分減殺請求により減殺
された場合 ↓一〇三一条
◇ ↓八九六条 ∼
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︵最大決平7・7・5民集四九・七・一七八九、家族百選
8
+
本件相続開始時においては、立法府の裁量権を考慮して ② 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相
も、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的
続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたとき
な根拠は失われていたというべきであり、本条四号ただし
は、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により
書の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の
定める。
二分の一とする部分は、遅くとも平成一三年七月当時にお
九〇三︱九〇四 の 二︻遺産分割方法 の 指定・分割禁止↓九〇
いて、憲法一四条一項に違反していたものというべきであ
八︻遺贈↓九六四︻遺留分に関する規定↓一〇二八
. 一〇四四
る。しかしながら、法的安定性の確保との調和を図るため
に、この違憲判断は、本件相続開始時から本決定までの間
一 指定相続分と登記
に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされ
遺言により法定相続分を下回る相続分を指定された共同
た遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その
相続人の一人が、遺産中の不動産に法定相続分に応じた共
他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を
同相続登記がされたことを利用し、自己の持分権を第三者
及ぼすものではない。︵最大決平 ・9・4︻平 ク九八四︼︶
に譲渡し移転登記をしたとしても、第三者は右共同相続人
↓憲一四条 ・八一条
の 指定相続分 に 応 じ た 持分 を 取得 す る に と ど ま る。︵最判
7
+
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一 寄与に当たるとされた場合
1 血族相続人
被相続人が死亡するまで二五年にわたり共に家業に従事
し、最後 ま で 被相続人 と 生活 を 共 に し て 世話 を し た 長男
2
:
,
第九〇四条 前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行
為によって、その目的である財産が滅失し、又はその
価格の増減があったときであっても、相続開始の時に
おいてなお原状のままであるものとみなしてこれを定
める。
︻相続開始の時↓八八二
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5
*
民法 ︵九〇四条︱九〇六条︶相続
3
(
︵寄与分︶
第九〇四条の二① 共同相続人中に、被相続人の事業に
関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養
看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増
加について特別の寄与をした者があるときは、被相続
人が相続開始の時において有した財産の価額から共同
相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したもの
を相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの
規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもっ
てその者の相続分とする。
② 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることが
できないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与
をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、


一、家族百選
七版六九︶
有する共有持分権を第三者に譲り渡した場合は、本条を適
用又は類推適用できない。︵最判昭 ・7・ 判時九〇八・四
︻相続財産の共有↓八九八
第三節 遺産の分割
︵遺産の分割の基準︶
第九〇六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の
種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及
び 生活 の 状況 そ の 他一切 の 事情 を 考慮 し て こ れ を す
る。


一 本条の趣旨
本 条 は、相 続 人 の 相 続 分 に 応 じ、現 実 に 遺 産 に 属 す る
個々の財産の帰属を定めるにつき、考慮すべき事項を定め
たものであって、法律上定まった相続分を変更することを
許した規定ではない。︵東京高決昭 ・1・ 家月一九・六・
五五︶
二 分割の対象
1 代償財産
相続人のうちのある者が遺産分割前に勝手に相続財産を
処分したときは、その財産に代わり同人に対する代償請求

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6
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Nov. 2013 No.398
法学教室
60
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592
593
民

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民
本書は,条文とその関連判例の要約を 1 冊にまとめることによって,法令と判例が織りなす
法の全体を体系的に提示した書物です。
本年版では,ハーグ子奪取条約実施法と弁護士法の重要条文を抜粋して新たに収録し,民
編集
担当者
から
LS
学部
学習
事再生法の収録範囲を拡大するとともに,刑法をはじめ公職選挙法や金融商品取引法等の改正に対応し
ました。
また,最新判例も多数収録しました。その一方で,既収録判例の見直し・整理も行い,その結果,の
べ件数にして約 1 万 2300 件の判例を収録しています。判例部分の文字は青色とし,これによって条
文と判例が見分けやすくなっています。学習上の手引として判例百選シリーズの番号を付したり,デー
タベース等で検索する際の利便性のために判例集等に未登載のものについては事件番号を示したりなど
の工夫も凝らしました。
法律を学び始めた学生の皆さんや各種国家試験を受験している方々など,多くの方にご利用いただけ
れば幸いです。(Y)
条文と判例を見分けやすい 2 色刷です。
重要判例とともに読み解く
個別行政法
亘理 格 = 北村喜宣 編著
村上裕章 = 人見 剛 = 須藤陽子 = 前田雅子 = 藤谷武史 著
2013 年 4 月刊/ 498 頁/ 3570 円(税込)
中級
学習
編集
担当者
から
学部
LS
本書における各個別法の解説は,その「個別法の目的」から説き起こしていただいています
が,この点をいかにおさえるか,で,関連判例の理解や各法の解釈・適用にも,差が出てく
るように思います。まずは,目的規定についての本書の解説を(できれば,条文の文言その
ものも),キッチリ読み込むところからスタートしていただきたいです。また,本書の「事項索引」を
活用し,本書での解説と,一般的な行政法テキストでの解説を併せて読んでいただく,という学習方法
も,おススメです。
本書での学習をきっかけに,初めて見る個別法に対しても,テンパることなく向き合うことができる
ようになった,という方々が増えますように……。
最後に,本書の表紙カバーを彩る「各章を表すマーク」ですが,これらはスマートフォンなどのアイ
コンのような感じで,と,デザイナーさんに依頼しました。さて,最後まで二転三転して思い悩んだ
マークは,どの章のマークでしょうか? (伊丹・大原)
こたえ:第 7 章の国土整備法のマーク
各個別法の解説は,このような雰囲気でスタートします。
Nov. 2013 No.398
法学教室
61
人事と法の対話
――新たな融合を目指して
守島基博 = 大内伸哉
2013 年 10 月刊/324 頁/1995 円(税込)
初級
教養
実務
一般
「限定正社員」「雇用の多様化」「解雇規制緩和」「ブラック企業」……。新聞で目にすること
編集
担当者 ありませんか? 最近,政府が議論しているのが,これらの雇用システムの問題点と新しい
から
雇用のあり方についてです(なお,「限定正社員」の議論については,本誌 45 頁の大内先
生の「時の問題」欄の解説もご参考下さい)。
「人事」と「法」はこれまで水と油のような関係だと言われてきました。本書は,人材マネジメント
と労働法の研究者が,その関係性に新たな変化が起こせないかを議論した 1 冊です。話題のテーマを
素材にし,また,イオン,ベネッセ,コマツといった企業からゲストをお招きして,現場での人事と法
の関わりの実例を紹介いただくなど,多面的に人事と法が対話をすることで,従業員を“幸せ”にする
雇用のあり方こそ,人事と法の目指す新たな融合のかたちだということが見えてきました。
判例から学ぶのとは一味違った労働法の姿を「人事」の側面を通じて感じることができると思いま
す。法曹を目指すみなさんにこそ読んでいただきたい本です。(鈴木)
11 のテーマを対談形式で一気に読みこなせます。
146
法学教室
Nov. 2013 No.398
エネルギー投資仲裁・
実例研究
――ISDS の実際
小寺 彰 = 川合弘造 編
2013 年 9 月刊/ 258 頁/ 2940 円(税込)
A5 判/並製
上級
実務
編集
担当者
から
法曹
法務
本書は,エネルギー憲章条約にかかわる仲裁判断の実例研究です。これだけだと,本誌読者
の学生の方々は,「何のこっちゃ?」と思われるかもしれません。もう少しわかりやすく説
明しましょう。例えば,A 国の商社が B 国の石油関連のエネルギー開発を行って,それに
よって利益を得ようとしたら,B 国がその商売を妨害したように見えたため,A 国の商社と B 国の間
で紛争が起こったというような場合の紛争解決です。司法試験とはあまり関係ないかもしれませんが,
実社会との関係では,ホットなテーマと関係があります。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)で
す。TPP では,ISDS 条項(投資家と国家間の紛争解決条項)について,海外企業による日本政府への
訴訟の乱発が懸念されています。本書で扱う紛争解決は,エネルギー分野に限られているものの,条約
で規定された ISDS 条項の実際の解釈が展開されています。TPP を考える前に,一読の価値ありです。
さらに,第 2 部の各章は,「1 事実の概要」「2 判旨」「3 解説」というどこかで見たような構成に
なっています。そう,判例百選です。ページもそれほど多くはないので,国際法に興味のある方や,将
来商社に限らず企業の国際的な案件を手がけてみたい方は,是非手にとってみてください。(Y)
第一線で活躍する学者と弁護士のコラボレーション。
第 1 部 総 論
第 2 部 実例研究
第 1 章 エネルギー憲章条約
小寺 彰
第 2 章 エネルギー憲章プロセスと投資
淀川詔子
第 4 章 「投資家」の定義
細野 敦・西村 弓
第 5 章 「投資」の定義
森 肇志
第 3 章 エネルギー法におけるエネルギー
憲章条約の位置
一場和之
第 6 章 収容の禁止,不当又は差別的な
措置の禁止
西元宏治・平家正博
第 7 章 利益否認
岩月直樹
第 8 章 暫定的適用
藤井康次郎・菅 悠人
第 9 章 濫用的仲裁申立てと仲裁申立て
取下げの扱い
豊永晋輔
Nov. 2013 No.398
法学教室
147
刑法総論の
考え方・楽しみ方
佐伯仁志
2013 年 4 月刊/458 頁/3360 円(税込)
学習
学部
LS
本書は,法学教室 2004 年 4 月号∼ 2005 年 3 月号までの連載に加え,単行本化にあたり
編集
担当者 「正当防衛論⑶」「責任論」「共犯論⑶」の章を追加して刊行となりました。判例・学説を明
から
快に整理し,抽象的な概念を具体的な事例を用いて初学者にもわかりやすく解説されていま
す。自分で考え,よく理解することのおもしろさをわかってほしい,との著者の願いが込められてい
て,刑法を学ぶ楽しさへ読者を導く書です。
そして,小社の PR 誌「書斎の窓」No. 628 には,佐伯先生がご自身で本書のことを語った「『刑法
総論の考え方・楽しみ方』を上梓して」が掲載されています。是非,併せてお読みいただければと思い
ます(ご希望の方は,小社 HP 等からお申し込みください。無料でお送り致します)。著者が,本書を
執筆する過程で,どんなにか読者の方々のことを考え,そして,よりわかりやすい解説にするために各
章で様々工夫なさったこと等,著者の気持ちが,ご自身の言葉でぎゅっと詰まっています。著者のお人
柄も感じられ,一層理解が増し,益々本書に引き込まれていくこと間違いなしです。(T)
各章,工夫されたスタイルでわかりやすく執筆(この章は一例です)。
第 14 章 故 意 論 ⑴
に右側へ打とうとすると,妻が急に不思議な表情をしました。発作的に烈し
第 14 章
い恐怖を感じたらしいのです。妻はそのナイフがそのままに飛んで来て自身
の頸へささる事を予感したのでしょうか? それはどうか知りません。私はた
故 意 論 ⑴
だその恐怖の烈しい表情の自分の心にも同じ強さで反射したのを感じたので
した。私は目まいがしたような気がしました。が,そのまま力まかせに,殆
あて
ど暗闇を眼がけるように的もなく,手のナイフを打ち込んでしまったのです
……」
事件の直後,X は,故意で殺してしまった,という気がして,過失を装お
Ⅰ はじめに
うとするが,そのうちに,自分でも故意なのか過失なのかわからなくなり,
今回は,故意論の第 1 回目として,未必の故意を扱うことにしたい。本論
愉快でならなくなる。妻の死を悲しむ気持ちは全くない,と言って X が部屋
に入る前に,次の事例を読んでいただきたい。
を出て行った後,裁判官は,すぐにペンを取り上げて,その場で「○罪」と
書いた。
若い奇術師の X が,演技中にナイフで妻の頸動脈を切断して死亡させ,殺
人罪で起訴された。X は,以前から,結婚前の妻と友人との関係に対する嫉妬
あなたが裁判官なら○に何と入れるだろうか? 言うまでもなく,この事
から妻との生活がいやでたまらなくなり,妻が死んでしまえばよいと思って
例は,志賀直哉の小説『范の犯罪』からとったものであり,X(范)の発言
いた。事件の前夜には,妻との諍いから起こった興奮した気持ちの中で,う
は小説からの引用そのままである(岩波文庫『小僧の神様他十篇』)。作者は,
じうじとした生活に苦しんでいるくらいなら,なぜ妻を殺してしまわないの
この小説で現実の裁判を描こうとしたわけではないので 1),これを現実の事
だ,殺した結果どうなろうと問題ではないではないか,という気持ちになっ
件として判決を考えてみるというのは,単なるお遊びにすぎないが,余興の
た。X のそのような気持ちは翌朝には消えてしまっていたが,舞台でナイフを
つもりで,以下を読む前に,そして読んだ後で,X に未必の故意を認める
持って妻と向き合った瞬間,X は危険を感じる。その時の気持ちを,X は,
ことができるかどうかを考えてみていただきたい。
裁判官に対して,次のように話す。
「私は出来るだけ緊張した気分で仕なければあぶないと思いました。今日の
しず
上ずった興奮と弱々しく鋭くなった神経とを出来るだけ鎮めなければならぬ
と思ったのです。しかし心まで食い込んでいる疲労はいくら落ちつこうとし
てもそれを許しません。その時から私は何となく自分の腕が信じられない気
がしてきたのです。」「ナイフが指の先を離れる時に何かべたつくような,
こだわ
拘泥ったものがちょっと入ります。私にはもう何処へナイフがささるか分か
らない気がしました。一本ごとに私は(よかった)という気がしました。私は
落ちつこう落ちつこうと思いました。しかしそれはかえって意識的になる事
くび
から来る不自由さを腕に感ずるばかりです。頸の左側へ一本打ちました。次
236
166
法学教室
1)
作者は,X(
「范」
)や裁判官を抽象的存在として描いており,現実の裁判を叙述しようとし
ているわけではない。小説中の裁判官の宣告は「無罪」であるが,それは,芸術家の心情に
対する芸術上の評価にすぎないといえよう。志賀直哉は,小説『城の崎にて』の中で,
「
(范
が)その妻を殺すことを書いた」と述べており,范の行為は,芸術上は無罪でも,実生活上
は有罪だと考えていたのかもしれない。もちろん,作者が「殺す」という言葉を故意殺の意
味で意識的に使用しているかどうかは確かでないが,
『范の犯罪』の中で,范が,
「とうとう
殺したと思いました」と供述して,裁判官のそれは故意でしたという意味かという質問に対
して,そうだと答えているので,
「殺す」という言葉を意識して使った可能性はあるように思
われる。
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Nov. 2013 No.398
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