Comments
Description
Transcript
監査の結果及び意見の概要
平成 22 年度包括外部監査 監査の結果及び意見の概要 平成23年3月9日 札幌市包括外部監査人 酒井 純 第1 外部監査の概要 市営交通事業は、市民生活に欠くことのできない都市基盤のうち交通手段の提供とい う役割を担っており、札幌市交通局では現在、高速電車事業(地下鉄事業)と軌道事業 (路面電車事業)を行っている。 高速電車事業は昭和 46 年 12 月に南北線を開業し、その後の新線開業や延長の結果、 現在の南北線、東西線、東豊線の3路線 48 ㎞となっている。 軌道事業は、昭和2年に運行を開始し、昭和 39 年に営業路線を 25 ㎞としたが、昭和 49 年に1路線約 8.5 ㎞となり現在に至っている。 交通局では長年多額の赤字経営が続いてきた高速電車事業の経営改善を図るために 平成 16 年度から始まる「札幌市営地下鉄事業 10 か年経営計画」 (以下「10 か年経営計 画」という。 )を策定し、経営努力を継続してきており、当初計画では平成 23 年度に初 めて経常収支が黒字になる計画であったところ、平成 18 年度には経常収支が黒字にな り、当初計画を上回る実績を残している。 しかしながら、平成 20 年度末においても累積欠損金は 3,376 億円もあり、料金収入 は平成 13 年度の 384 億円をピークに減少傾向が続き、平成 20 年度には 375 億円まで減 少してきている。 また、企業債の残高は平成 20 年度末において 4,166 億円であり、企業会計を含む札 幌市全体の地方債残高の約 20%を占め、多額の企業債が残っている状況にある。ちな みに、平成 10 年度末の企業債残高は 5,170 億円であり、この 10 年間での残高減少額は 約 1,000 億円、1年間の減少は平均約 100 億円であり、企業債の残高の規模からすれば 減少額は少ない。 さらに、高速電車事業会計の経常収支の収入の中には、札幌市一般会計からの補助金 収入が平成 20 年度では 74 億円含まれており、この他に資本的収支として扱われる収入 として出資金及び他会計補助金収入が平成 20 年度には、国から 5 億円、札幌市一般会 計から 81 億円もあり、経常収支の黒字の実態を検証する必要がある。 ちなみに、昭和 46 年(1971 年)に開業以来、平成 20 年度(2008 年度)までに札幌 市一般会計から高速電車事業会計に繰り入れられた補助金収入(経常収支)は 2,947 億 円、出資金は 1,415 億円、他会計補助金収入(資本的収支)は 2,146 億円であり、合計 6,508 億円の資金が地下鉄の建設及び経営のために一般会計から投入されてきている。 そのために、一般会計において平成 20 年度末現在、高速電車事業会計出資金に関わ る市債の残高が 556 億円、高速電車事業会計補助金に関わる市債の残高が 16 億円残っ ており、高速電車事業に関わる地方債の残高は、企業債と市債を合計すると 4,738 億円 となっていることになる。 以上のように、現在までに多額の資金が投入され、現時点でも多額の企業債残高を抱 える札幌市の高速電車事業の経営実態及び財務状況を把握すること、合わせて、同じ交 1 平成 22 年度包括外部監査 通局の下で経営されている軌道事業の経営実態及び財務状況を把握することは有益で あると考え、高速電車事業及び軌道事業を包括外部監査のテーマとして選定した。 ※ 以下、文脈に応じて高速電車事業を地下鉄事業と、軌道事業を路面電車事業と、そ れぞれ表記することがある。 第2 監査の結果及び意見(高速電車事業) 1 10 か年経営計画の数値目標(意見)―報告書 21 ページ 10 か年経営計画では、東豊線の平成 20 年度経常収支計画(数値目標)△42 億円 対して、実績が△36 億円となっており、計画を達成しているとしているが、補助 金を除くと経常収支が、△77 億円と大きな赤字の状態となっている。 同様に、地下鉄全体の経常収支の実績は 26 億円と黒字だが、補助金を除く経常 収支は△48 億円と赤字となっている。 補助金収入を含む収支目標・実績だけでは経営状況に対する誤解を招くおそれが ある(赤字額の過小評価)ので、今後は補助金を除いた経常収支も主要な数値目標 として追加することが必要である。 2 路線別の情報開示(意見)―報告書 22 ページ 現在、路線別(南北線、東西線、東豊線)の経常収支等の情報開示は行われてい ない。 路線別の経常収支には大きな違いがあることから、路線別の経常収支や損益の情 報開示が必要と思われる。 なお、情報開示の際には、(1)南北線が黒字であること、(2)東豊線の巨額赤字の 理由と今後の解消見込、についての説明も望まれる。 3 利用者増加対策の必要性(意見)―報告書 25 ページ 札幌市の人口増加との比較をしながら乗降客数の推移を見ると平成 11 年度から 平成 20 年度にかけて乗降客数は 0.7%増加しているように見えるものの、札幌市 の人口は同期間において 5.8%増加しているため、実質的には約5%の乗降客数の 減少と考えなければならない。 この背景には、人口は増加しているものの通勤・通学者の多くが属する生産年齢 人口の同期間の増加が 0.08%しかなかったという人口構造の問題があるが、札幌 市全体での数値判断としては、人口は増加しているが、利用者は増加していないと いう実態であり、実質的には利用者は減少しているという構造にあるので、更なる 利用者増加対策の経営努力が求められる。 4 共通ウィズユーカードの未使用額の会計処理について(意見)―報告書 37 ページ 共通ウィズユーカードは、売却し入金があった月に売上を計上している。 しかしながら、共通ウィズユーカードの累積未使用額が券面金額ベースで 64 億 円(平成 21 年度末)となっている。 2 平成 22 年度包括外部監査 共通ウィズユーカードの未使用額について、簡便的に年度末での未使用額の一定 割合や当年度売上金額の一定割合を次年度以降の利用見込額として前受金計上す る方法など、実態を考慮した計算方法を選定した上で前受金として会計処理するこ とが望まれる。 5 精神障がい者用福祉乗車証に関わる交付金(意見)―報告書 40 ページ 福祉乗車証は心身障がい者に対するものと精神障がい者に対するものに分かれ、 運賃相当額の計算において、心身障がい者用福祉乗車証については、運賃相当額全 額が保健福祉局から交通局に支払われているが、精神障がい者用福祉乗車証につい ては、一般会計の予算不足による措置として、運賃相当額に 75%を乗じた額が支 払われている。 高速電車事業会計は独立採算を原則として運営が行われ、その経営状況により企 業債の発行や一般会計からの補助金の繰出しが決定されるべきであり、また、高速 電車事業の収入が正しく計上されていないことになるため、今後の是正が必要であ る。 6 サピカの今後(意見)―報告書 45 ページ 現在のところ、サピカ利用者は全体の 20%程度で、サピカ発行枚数は当初計画 の 30 万枚(平成 25 年度末まで)に対して 19 万枚程度となっており、サピカの普 及率が低い最大の理由として、最大プレミアムが共通ウィズユーカードよりも低い ことが挙げられる。 平成 22 年 12 月の市長定例記者会見において、同月の「札幌ICカード協議会」 (札幌市とバス事業者3社)の臨時総会においてバスへのサピカの導入を目指すこ とについて正式合意が成立した旨発表され、その完全導入とサピカの利用向上が期 待されるところである。 しかしながら、サピカの今後の十分な普及については、ウィズユーカードの最大 プレミアムを低くするのか、又はウィズユーカードを廃止するのかによる面が大き いので、バスへのサピカ対応のシステム導入投資に際しては、ウィズユーカードの 取扱いついての明確な方向付けが必要である。 7 営業外収益に含まれる賃貸料収入に付随する収入(意見)―報告書 50 ページ 下記の雑収益は、営業外収益として処理されているが、賃貸料収入に付随する収 入であり、これに対応する費用は営業費用として処理されているところから、営業 収益として計上する方法を採用することが適切である。 (1)広告代理店からの保守管理料 (2)電気料(ATM・店舗・ビル・自動販売機) (3)上水道・下水道 (4)ガス使用料 (5)警備料 (6)目的外使用許可加算料 3 平成 22 年度包括外部監査 8 一般会計からの補助金(意見)―報告書 56 ページ 毎年度、総務省の繰出基準に明記されていない「基準外繰出金」の交付に関わる 関係書類には交付の「特別の理由」と「金額の必要性・妥当性」を明記した上で、 交付手続を受ける必要がある。 例えば、主要な基準外繰出金は「資本費負担軽減分」であるが、下表のとおりほぼ 減少していない。 高速電車事業は当初の収支計画以上に経常収支が黒字になっているところから、 「資 本費負担軽減分」をさらに減額しても良いものと推察されるところであるが減額して いない。 下記の金額を減額しないとするならば、その根拠を関係書類に明記した上で、一般 会計からの補助金の繰出しを受けるべきである。 (単位:百万円) 名 称 平成 19 年度 資本費負担軽減分 6,431 平成 20 年度 平成 21 年度 5,908 6,200 9 未払利息の負債未計上(指摘)―報告書 61 ページ 企業債の支払利息は、支払時に営業外費用として処理されている。 「費用の原因である事実の生じた日の属する年度」に対応した利息の計上が必 要であるところ、高速電車事業の企業債では、利息の支払は後払い方式となって おり、事業年度末における未払利息(下表の金額)がその事業年度の営業外費用 として計上されていない。 「行政実例」 (昭和 43 年)では、支払利息が毎年度ほぼ平均して大差なく支払 われる場合には期間損益計算に大きな影響を与えるものではないので「実際に支 払の事実の存した年度」に処理してさしつかえないものである旨の例示がされて いるが、支払利息の状況を見ると、平成 12 年度が 236 億円で、平成 21 年度には 107 億円となっており、この考え方は適用できないものと考える。 今後は未払利息を計算の上、負債として計上するべきである。 (単位:円) 平成 20 年度末 未 払 利 息 418,035,664 平成 21 年度末 417,399,492 差 引 △636,172 10 勤勉手当について(意見)―報告書 65 ページ 札幌市企業職員の給与の種類及び基準に関する条例第 14 条によると「勤勉手当 は、職員の勤務成績に応じ、かつ、企業の経営状況その他の事情を考慮して支給す る」とあり、その支給の趣旨を勘案すると人事評価や企業の経営成績に直接関係の ない扶養手当を基礎額に加算することは望ましくない。 勤勉手当は、 「基礎額」というものに一定の割合を乗じて算定されているが、 「基 礎額」に含まれている扶養手当は勤務成績との直接的な関係は希薄であり、あくま でも生活費の補助を目的とする手当と位置づけられるから、住居手当等と同様に、 4 平成 22 年度包括外部監査 「基礎額」から除外することが望ましい。 なお、勤勉手当の支給総額の算定に当たっては、国においても札幌市と同様に扶 養手当を算入しているが、国は具体的に職員に支給する額の算定に当たっては、 「基 礎額」には扶養手当を含めず、扶養手当相当分を支給率の方に反映させることで、 成績に応じてより大きな差がつくように設定しており、 「勤務成績に応じて」とい う趣旨に沿った算定方法を採用している。 国の算定方法と同様の方法を採用することが、 「勤務成績に応じ」かつ「企業の 経営状況その他の事情を考慮して」支給するという条例の趣旨に沿った算定方法で ある。 11 退職給付引当金の負債未計上(意見)―報告書 66 ページ 職員の退職金については、年度末に退職給付引当金を一定の計算に基づき計算の 上、負債として計上するべきと考えるが、計上されていない。 退職給付引当金については、地方公営企業法施行規則(以下「地公企法施行規則」 という。 )別表第1号の「勘定科目表」に記載されており、高速鉄道事業はこれに 準じて計上しなければならない。 行政実例では、 「累積欠損金がある場合には引当金を計上するのは不適当」とす る一方で、 「損益計算が恣意的に行われることのないよう毎年度一定基準により引 当てを行うことは、累積欠損金があることをもって一概に否定されるべきものでは なく」という考え方も示されている。 引当金を計上するとした場合、高速電車事業では下記のとおりの試算となってお り、金額的には重要性のあるものであり、損益計算書への影響があると同時に負債 としての重要性もあるところから、今後の計上について検討をするべきである。な お、現状では、隠れた債務が存在することとなっている。 (単位:百万円) 平成 20 年度 高 速 電 車 事 業 7,591 平成 21 年度 差 6,840 引 △751 12 貯蔵品の資産未計上①=高速電車事業・軌道事業共通(指摘)―報告書 67 ページ 定期券用紙・乗車券用紙・ロール紙の事業年度末の在庫が決算書(貸借対照表) に資産として計上されていない。 貯蔵品として決算書(貸借対照表)に資産として計上するべきものであり、今後 の適正な会計処理が求められる。 (単位:円) 平成 20 年度末 定期券用紙等の金額 128,732,145 平成 21 年度末 153,635,078 差 引 24,902,933 ※高速電車・軌道ごとの区分はしておらず、交通局全体の定期券用紙等の金額である。 5 平成 22 年度包括外部監査 13 貯蔵品の資産未計上②(指摘)―報告書 67 ページ タイヤ、車両部品の事業年度末の在庫が決算書(貸借対照表)に資産として計上 されていない。 貯蔵品として決算書(貸借対照表)に資産として計上するべきものであり、今後 の適正な会計処理が求められる。 (単位:円) 平成 20 年度末 タ 車 合 イ 両 部 平成 21 年度末 差 引 ヤ 126,768,100 133,025,500 6,257,400 品 993,634,800 1,022,748,346 29,113,546 計 1,120,402,900 1,155,773,846 35,370,946 14 車両部品の資材納入伝票の入力の省略(指摘)―報告書 67 ページ 平成 22 年3月 17 日に納品された単価 100,000 円以上の車両部品のうち、 9種類、 部品点数で 193 点、合計 38,324,000 円が資材納入伝票入力を省略したまま修繕に 使用されたとして処理をされている。 これらの部品は、平成 21 年度末では未使用の状況にあったので、本来であれば、 貯蔵品として決算書(貸借対照表)に資産として計上するべきものであり、今後の 適切な管理と適正な会計処理が求められる。 15 車両部品資材在庫内訳書の年度間非連動性について(指摘)―報告書 68 ページ 西車両基地において、平成 19 年度から平成 21 年度までの資材在庫内訳書を閲覧 したところ、内訳書間で在庫数が連動していないケースがあった(平成 20 年度の 資材在庫内訳書に記載されている期首在庫数量が、平成 19 年度の資材在庫内訳書 に記載されている期末在庫数に比べて少なくなっていた。 ) 。今後の適切な管理が必 要である。 16 車両部品の長期滞留在庫について(意見)―報告書 69 ページ 西車両基地において、ナット、ボルト、ビス、ワッシャー、ピン等比較的単価が 低い作業部品について、使用頻度や使用見込みについて検討しないまま長期間所有 しているケースがあった。 少額部品の金額的重要性にもよるが、長期滞留品、不用品の解消という観点から、 今後、このような部品の洗い出し調査を継続的に行うことが望まれる。 17 有形固定資産の減価償却方法(指摘)―報告書 72 ページ 札幌市交通局会計規程(以下「会計規程」という。 )第 103 条第2項では、 「減価 償却の方法は、有形固定資産については定率法、無形固定資産については定額法に よるものとする。ただし、有形固定資産のうち必要と認められるものについては、 定額法によることができる。 」と規定されている。 有形固定資産については定率法が原則で、定額法は例外であるものと解釈するべ きである。 (ただし、取替法適用の有形固定資産は除く。 ) 6 平成 22 年度包括外部監査 しかしながら、高速電車事業において実際には、定額法(一部定率法)により減 価償却を行っており、定率法は例外となっている。 これに対し、軌道事業では、定率法(一部取替法)により減価償却を行っている。 したがって、高速電車事業において現在の減価償却方法を継続するのであれば、 事業ごとに減価償却の方法を記載するよう会計規程を改訂するべきである。 18 有形固定資産の減価償却方法(取替法) (指摘)―報告書 72 ページ 会計規程第 103 条では、軌条及び同附属品・まくら木・転てつ器(注記)及びて つさ・送配電線及び電線・電車線・電信電話線・信号機・木柱及び架線材料につい ては、減価償却方法は取替法によるものとしている。 しかしながら、高速電車事業では、このうち、転てつ器・信号機・電信電話線に ついては、取替法を適用していない。 実態に基づく判断をして適用していないという経緯は理解できるものの、対象資 産の名称に異なるところはなく、現状のままであれば会計規程に準拠しているとは いえないことから、会計規程の改訂又はその解釈適用についての細則や事務要領の 定めが必要である。 (取替資産とは) 一定の資産が多量に同一の目的のために使用される固定資産で毎事業年度使用に耐えな くなったこれらの資産の一部がほぼ同じ数量ずつ取り替えられるものをいう。 (地公企法施 行規則第2条第5号) (固定資産の取替法とは) 当該固定資産の帳簿原価の 100 分の 50 に達するまで定額法又は定率法により算出した減 価償却額を各事業年度の費用とするとともに、当該固定資産が使用に耐えなくなったため これに代えて種類及び品質を同じくするこれに代る新たな資産と取り替えた場合におい て、その新たな資産の取得の価額をその取り替えた事業年度の費用に算入する方法をいう。 (地公企法施行規則第2条第8号) 19 有形固定資産の減価償却方法(取替法)の適用(指摘)―報告書 74 ページ 固定資産台帳を閲覧したところ、次のような事例があったため、修正可能な範囲 で、原則に従った処理をするべきである。 (単位:千円) 資産名 取替資産であるにもかかわらず、 取替法を適用していないもの。 案内軌条(東西線) (線路設備) 案内軌条改良−輸送力増強 (真駒内駅増築部) 取替資産ではないにもかかわら (線路設備) ず、取替法を適用していたもの。 北 24∼平岸間走行路面改良 (南北線) (電路設備) 二十四軒職員駐車場照明 7 取得価額 433,869 4,903 37,721 800 平成 22 年度包括外部監査 20 有形固定資産の減価償却方法(取替法)に関する注記(指摘)―報告書 74 ページ 高速電車事業では、下表の資産については取替法を適用しているが、 「札幌市高 速電車事業会計決算書」の注記には、その旨の記載がない。適切な注記をするべき である。 (取替法を適用している資産) 科目(目) 科目(節) 資 産 名 線路設備 軌道 案内軌条 電路設備 電力線設備 送配電線 電路設備 電力線設備 電車線 21 有形固定資産の減価償却方法(意見)―報告書 75 ページ 会計規程によると、有形固定資産の減価償却は取得価額の 95%まで行うことが できると規定されている。 交通局は、それに従い取得価額の5%に達するまで減価償却を行い、5%相当額 を帳簿価額としてそのまま有形固定資産に残しているが、地公企法施行規則第8条 3項では、同項各号に定める有形固定資産は、さらに当該帳簿価額が1円に達する まで減価償却を行なうことができる旨規定されている。 平成 21 年度末における5%まで償却済の有形固定資産残高を示すと下表のとお りであり、帳簿価額ベースで 6,447 百万円存在すること、今後、当該資産が増えて いくこと、及び未使用となったものが帳簿残として残っているのが実態にそぐわな いことなどを考慮すると、地公企法施行規則第8条第3項を適用し、備忘価額1円 に達するまで、減価償却を実施することを検討すべきである。 (単位:千円) 取 5%まで償却済の資産 得 価 額 減価償却累計額 128,645,095 122,197,130 帳 簿 価 額 6,447,964 22 建設諸費 (対象業務と人数の特定) (指摘)―報告書 75 ページ 交通局職員のうち、次表「建設諸費対象職員所属部の職員」のうち「建設諸費の 対象とした職員(建設諸費支弁職員) 」については建設改良に従事しているものと して、その全ての人件費をその年度の各建設改良事業金額に応じてその工事代金や 固定資産の購入金額に上乗せをして固定資産として資産計上を行い、支出時の営業 費用としての会計処理は行っていない。そして、固定資産に計上された人件費はそ の後毎年減価償却費として営業費用となる。 これは、 「自己による建築、製作、製造等にかかる固定資産の取得価額は、当該 建設、製作、製造等のために要した原材料費、労務費及び経費の額である」との一 般的な取扱いに基づくものである。 しかしながら、各担当者の業務分担内容を精査したところ、第1に、 「改良と保 守管理の業務」の両方を1人の職員が担当しているケースが多く、本来なら改良に 関わる業務部分の人件費だけを建設諸費の対象とするべきである。 8 平成 22 年度包括外部監査 この会計処理は営業費用となる人件費の金額を大きく左右するものであり、建設 諸費の対象人員が増えれば利益が増加し、対象人員が減少すれば利益が減少すると いう関係にあるため、各職員の職務内容を分析再検討し、建設諸費の対象とする職 員の人数を再度特定した上で適切に運用することが必要である。 (建設諸費対象職員所属部の職員) 建設諸費の対象とした職員 建設諸費の対象外の職員 施 設 課 13 名 29 名 車 両 課 5名 93 名 電 気 課 12 名 24 名 計 30 名 146 名 合 (建設諸費とした人件費) 平成 17 年度 合 計 263,557 (単位:千円) 平成 18 年度 平成 19 年度 270,343 275,391 平成 20 年度 264,185 平成 21 年度 255,846 23 建設諸費(所属課別の区分) (意見)―報告書 76 ページ 建設諸費を事業年度内に支出した建設費の割合に応じて、取得した有形固定資産 全てに配分しているが、上記のとおりに職員は所属課が異なっており、少なくとも 施設課・車両課、電気課などの所属課ごとの有形固定資産に応じ配分計算する方法 が合理的である。 24 建設諸費(受託工事該当分) (指摘)―報告書 77 ページ 受託工事については、全て時間外勤務で対応しているという整理になっているた め、建設諸費の受託工事への配賦はなされておらず、受託工事費請求額(建設費+ 工事費+その他人件費等+消費税)中の人件費相当額は概算で算出しているとのこ とである。 問題は、後に市から当該資産が受贈される場合であるが、通常、受贈益相当額は 市から提示され、その金額は税抜き工事費に類似することが多いという。 すなわち、受贈資産の帳簿価額は工事費相当額となり、人件費相当額が含まれて いないため、自己建設(製造・製作)の場合と受贈された場合とで資産計上額が異 なる結果となり、適切ではないと判断する。 したがって、受託工事についても建設諸費を計算して配分するべきである。 25 資本的支出と修繕費の区分−①(意見)―報告書 78 ページ 修繕費の内容や、有形固定資産として処理している内容を監査した結果、次表の 項目について修繕費として営業費用とするか、資本的支出として有形固定資産とし た上で減価償却費計算をするのかの選択の判断基準と判断の根拠が不明確であっ た。 具体的な内容は次表のとおりであり、今後、このような修繕費や有形固定資産の 会計処理に当たっては、判断した根拠を明確にした上で処理することが必要である。 9 平成 22 年度包括外部監査 なお、次表の 12 件中のうち 11 件は、経費である修繕費が多くなる(利益が少な くなる)ような会計処理であり、残り1件は修繕費が少なくなる(利益が多くなる) ような会計処理である。 妥当と判断さ 改修等の名称 経理処理の内容 1 南車両基地のパンク検知電気装置の改修 修繕費 有形固定資産 36,900,000 円 2 指令所仮眠室設置建設工事 〃 〃 14,248,000 円 3 中島公園駅仮眠室設置機械工事他 〃 〃 10,553,000 円 4 各線の大通駅ホーム駅名標識の設置工事 〃 〃 12,600,000 円 5 上下式シーザス形転てつ器制御盤他 〃 〃 52,290,000 円 6 パンク検知装置処理部の新製交換 〃 〃 17,356,500 円 7 東西線 8000 形車両の二段落し窓改修業務 〃 〃 55,891,500 円 8 南車両基地屋上防水改修工事 〃 〃 35,631,750 円 9 シェルターからの落雪防護フェンス設置工事 〃 〃 11,592,000 円 10 南基地転落防止網設置工事 〃 〃 4,051,593 円 11 東車両基地屋上防水改修工事として 〃 〃 19,530,000 円 12 ブレーキ更新他 有形固定資産 修繕費 60,369,260 円 合 れる処理内容 計 金額 210,275,083 円 26 資本的支出と修繕費の区分−②(意見)―報告書 83 ページ 交通局は、上記 25 のような資本的支出と修繕費の区分について、文書での判別 基準を作成し、それに基づいて判断するのではなく、個別の事業ごとに、能力、耐 用年数の維持のための支出は営業費用、固定資産の能力を積極的に高めるもの、あ るいは耐用年数を延長させるものは資本的支出として判断している。 担当者の入れ替わりや判断に悩む事例が生じたときの非継続的・不統一な処理を 防ぐため、判別に悩むような事例について過去の事例を記録として蓄積させるとと もに、文書で何らかの判別基準を明確にしておくことが望まれ、資本的支出と修繕 費としての支出の区分の判断の指針等の作成を検討すべきである。 27 修繕引当金(意見)―報告書 83 ページ 鉄道事業においては「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」第 90 条により、 車両の重要部検査及び全般検査を行うことが定められている。 この省令に基づき予測した検査に必要な金額を検討した結果、修繕費用を予測計 算することが可能であり、地公企法施行規則においても、修繕引当金は固定負債と して勘定科目が設定されていることから、今後、修繕引当金を計上することを検討 する必要がある。現状では、隠れた債務が存在する状況となっている。 また、引当金についての行政実例の考え方については、 「10 負債未計上」のところに記載している。 10 退職給付引当金の 平成 22 年度包括外部監査 28 土地、管理台帳について(意見)―報告書 85 ページ 「固定資産システム」から出力される「固定資産明細書」、「固定資産一覧表」、 「固定資産台帳」と過去から使用していた「交通局用地集計表」 「固定資産(土地) 台帳索引」 、 「固定資産台帳綴」との照合等を行ったところ、両者の金額に不一致が 生じているケースがあった(全て「固定資産台帳綴」への記入漏れだったため、追 加記入したとの報告を受けている。 ) 。 いずれも、 「固定資産システム」上での処理は適正に行われているため、財務デ ータに誤りは生じていないが、調査の上、両者の不一致を解消しておくことが望ま れる。 29 土地の活用状況について(指摘)―報告書 85 ページ (1) 交通局が(株)札幌振興公社に土地を賃貸し、その土地を同社から第三者に転貸 している事例があるが、交通局が同社との間で締結した公正証書によると、①6 か月おきに土地の利用状況の報告を受けること、及び②同社が建物に関して賃貸 借契約を締結するとき、本体建物の敷地が事業用借地権の借地であることを明記 することが記載されているが、①の報告を受けていないことに加え、同社と第三 者間の賃貸借契約書も入手していないため②の確認もなされていないことが判 明した。 したがって、この点については公正証書記載どおりの適正手続を踏むべきである。 (2) 同じく交通局から(株)札幌振興公社に土地が賃貸され、その土地が第三者に賃 貸されている他の事例がある。この場合、公正証書等によって、利用状況の報告 や同社と相手先で結ばれた賃貸借契約書の入手を約束していないが、(1)同様、 自己の所有物の転貸を許可していることを考慮すると、賃貸借契約書の入手等は 最低限行っておくべきである。 30 財団に関する事項(指摘)―報告書 95 ページ 財団法人札幌市交通事業振興公社(以下「財団」という。 )は、札幌市が 100% 出資して設立した団体であるという特殊事情に基づく信頼関係によって定期券発 売等業務等を札幌市から特命随意契約により受託している。 平成 22 年度に発覚したICカード乗車券(SAPICA)の不正処理や、平成 12 年の ウィズユーカード横領事件の発生は、そうした信頼関係を著しく損なうものであり、 今後、同様の不祥事が生ずるならば、財団の定期券発売等業務等の受託者としての 適格性に重大な疑義が生ずる。 しかしながら、財団では、不祥事が発生した根本的な原因の究明を行っていると はいえず、今後も同様の不祥事が発生するのではないかという懸念を払拭すること ができない。 財団において、なぜコンプライアンスが徹底されないのか、その原因を究明する こと。 11 平成 22 年度包括外部監査 31 財団に関する事項(意見)―報告書 96 ページ (1) 札幌市交通局の管理者と財団の理事長とが同一であるため、財団の自立性の促 進が阻害されるおそれがある。また、札幌市交通局との間で潜在的な利益相反の おそれがあるといった弊害も生じる。 今後、札幌市交通局の管理者と財団の理事長を別個とすることが望まれる。 なお、交通局では安全輸送体制の確保などの観点から指揮命令系統を一本化す る必要があるとの判断をしており、また、財団の契約権限を他の理事(常務理事) に明確に委任し実質的に利益相反にならないような措置を講じているとのこと であるが、現状の兼務を継続するのであれば、上記の観点に十分留意する必要が ある。 (2) 滞留貯蔵品に関する具体的な販売・処分計画が作成されていない。 長期滞留を理由に会計上、強制評価減を実施している以上、滞留貯蔵品に関す る具体的な販売・処分計画を作成し、早期に投下資金の回収を図る必要があるも のと考える。 また、強制評価減は有税処理なので、販売・処分を具体化すれば当該評価減は 実現損失となり税務上のメリットが期待できる。今後、滞留貯蔵品の具体的な販 売・処分計画を作成することが望まれる。 第3 監査の結果及び意見(軌道事業) 1 路面電車の料金設定(意見)―報告書 107 ページ 路面電車の利用料金は一律 170 円となっているが、地下鉄やバスの最低利用料金 (1区間)の 200 円と比較して安いことには、疑問がある。 交通局は地下鉄と比較して冬場など外で待たなければならないという利用上の 不便性があるとの見解であるが、バスと比較すれば大差はなく、料金が据え置かれ ていることは公平性に欠ける面がある。 とりわけ、過去に路面電車の全面廃止が検討された中で、利用者である地域住民 の要望もあり運行を継続したことや、軌道事業会計が赤字であることを考えると、 170 円を見直す必要がある。 2 貯蔵品の資産未計上(指摘)―報告書 107 ページ 軌道事業では、車両部品等は購入時に費用処理し、棚卸では数量のみ確認し、在 庫金額を資産計上することは行っていない。 平成 21 年度末でも、概算で 75,900 千円程度の在庫が存在していたという報告を 受けた。 このため、平成 21 年度末の車両部品の貯蔵品が過少計上となっている。 3 有形固定資産の減価償却方法(軌道事業) (意見)―報告書 107 ページ 高速電車事業と同様、軌道事業において平成 21 年度末の取得価額の5%まで償 却済の有形固定資産残高を示すと次表のとおりである。 12 平成 22 年度包括外部監査 今後、増加していくことや未使用資産が帳簿残として残っているのは実態にそぐ わないことなどから、地公企法施行規則第8条第3項を適用し、備忘価額1円に達 するまで、減価償却を実施することを検討すべきである。 (単位:千円) 取 得 5%まで償却済の資産 価 額 原価償却累計額 1,517,843 1,441,902 帳 簿 価 額 75,940 4 資本的支出と修繕費の区分(意見)―報告書 108 ページ 交通局では、取替資産について「種類及び品質が同じ」とは言い難いとして既存 施設を除却の上、新規取得資産を有形固定資産計上し、また、舗装について従来の 舗装工事内容と変わらないにもかかわらず継続的に有形固定資産計上している。 取替資産について、技術の進歩を考慮すると従前の資産より多少品質の向上して いることを理由に既存資産を除却し、新たな資産を計上するのは、取替法が予定し ているものと乖離するおそれがある。 また、舗装工事のほとんどは原状回復的な性質を有するものであり、費用処理す るのが実体に即している。 軌道改良工事の資産計上や費用処理の取扱いについては、資本的支出と修繕費の 区分の考え方の整理や取替法の考え方の整理を十分に行った上で、今後の処理方法 を再検討することが望まれる。 5 資本的支出と修繕費の区分の重要性(意見)―報告書 113 ページ 軌道事業において、過去に行っている主な軌道改良工事は下表のとおりであり、 概ね毎年1億円前後の軌道改良工事が行われてきているが、その全てが修繕費とし て営業費用処理されず、固定資産計上された上で減価償却をしてきている。 しかし、現行の会計規程などから判断すれば、実態としては営業費用処理するべ き内容のものがほとんどであり、軌道事業の事業採算は過去に公表されている数値 よりも悪い内容であったということがいえる。 路面電車事業を継続し、なおかつ路線延長というプランが検討されている中にあ って、今後の軌道電車事業の計数的な予測を市民に公表するに際しては、上記の会 計処理に関わる適正な判断を行った上での計数を使用しなければならない。 年 度 内 容 金 額 (百万円) 平成 17 年度 南 9 条∼12 条西 7 丁目 348m 92 平成 18 年度 南 12 条∼14 条西 7 丁目 334.64m 84 平成 19 年度 南 14 条∼18 条西 15 丁目 494.20m 126 平成 20 年度 南 18 条∼札幌環状線間 226.00m他 82 平成 21 年度 札幌環状線∼西野白石線間 372.87m他 13 122 平成 22 年度包括外部監査 6 修繕引当金(意見)―報告書 113 ページ 軌道事業においては「軌道運転規則」第 28 条及び第 29 条により、車両の重要部 検査及び全般検査を行うことが定められている。この省令に基づき、検査を車両ご とに計画し、実際に実施しているが、現在、検査に関する費用は支出時に費用とし て処理している。 地公企法施行規則においては、修繕引当金は固定負債として勘定科目が設定され ており、修繕引当金の計上について、今後検討する必要がある。 引当金についての行政実務の考え方については、 「第2 10 退職給付引当金の 負債未計上」に記載している。 7 退職給付引当金の負債未計上(意見)―報告書 117 ページ 高速電車事業と同様に、職員の退職金については、年度末に退職給付引当金を一 定の計算に基づき計算の上、負債として計上するべきあるが、計上されていない。 説明は、高速電車事業の「第2 10 退職給付引当金の負債未計上」のところに 記載している。 (単位:百万円) 平成 20 年度 軌 道 事 業 平成 21 年度 804 差 引 824 △20 8 勤勉手当について(意見)―報告書 118 ページ 勤勉手当については、高速電車事業と同様の意見である。 (第2 9 勤勉手当 について) 第4 監査の結果及び意見(契約事務) 札幌市交通局においては、特命随意契約が多く、かつ、同一会社との契約が長期間継 続している。 また、特命理由として「契約の性質又は目的が競争に適しない場合」 (地公企法施行 令第 21 条の 14 第 1 項第2号)を根拠としている事例が多い。さらに、特命随意契約に おいては、積算金額と契約金額が近似している事例が多い。 これらの実態に基づき、以下、監査の結果、交通局の契約事務に関して共通する事項 についての意見を記載する。 ◎ 共通意見 1 随意契約に関して、競争性のない随意契約によらざるを得ない場合(真に止むを 得ない随意契約)に限定した運用の必要性(意見)―報告書 130 ページ 「契約の性質又は目的が競争に適しない場合」 (地公企法施行令第 21 条の 14 第 1項第2号)の判断には契約担当者の主観的判断が介入しやすいので随意契約が厳 格に運用されないおそれがある。 契約担当者の主観的判断を排除し、随意契約を厳格に運用するために、今後は、 14 平成 22 年度包括外部監査 競争性の余地が全くないことが明白な場合を除き、契約締結方式の決定に当たって、 事前にアンケート手法による市場調査などを行った上で、複数業者の参入が可能で あると判明した場合には、総合評価方式による一般競争入札又は企画競争への移行 を検討することが望まれる。 2 随意契約に関するガイドラインとチェックリストの整備の必要性(意見)―報告書 131 ページ 前例にとらわれることなく、特命随意契約とする判断の妥当性・合理性を含め、 地公企法施行令第 21 条の 14 第 1 項の各号の要件に該当するか否かの判断を厳格に 行うため、今後、随意契約に関する判断基準等を盛り込んだガイドラインを整備す ることが望まれる。 また、当該ガイドラインに沿った運用が適切に行われるように随意契約を行うに 当たっての検討事項を具体的に示したチェックリストを作成することが望まれる。 3 随意契約に関する情報公開の促進の必要性(意見)―報告書 132 ページ 札幌市(交通局)における随意契約の公表の方法は、特命理由書及び見積結果調 書を備置し、閲覧に供するというものである。 一方、国においては、随意契約に関する情報は、ホームページにより公表するこ ととしている。 今後は、札幌市(交通局)においても、国に準じた情報公開の方法をとることが 望まれる。 また、発注元である札幌市(交通局)の退職者の再就職者が在籍している法人を随 意契約の相手方とする場合には、随意契約とした理由の妥当性等について十分に説 明できるようにする必要性があり、国と同様、随意契約の相手方における札幌市(交 通局)の退職者の再就職者の役員数等を公表することが望まれる。 4 再委託の審査・承認手続の厳格化の必要性(意見)―報告書 132 ページ 契約の相手方が特殊な技術又はノウハウ等を有することから競争に適しないと して随意契約を締結した業務に関して再委託の承認を行う場合、随意契約によるこ ととした理由と不整合とならないことに特に留意する必要がある。 今後、契約相手方が再委託を行う場合には、あらかじめ再委託の相手方の商号又 は名称及び住所並びに再委託を行う業務の範囲、再委託の必要性及び再委託の金額 を記載した書面を契約の相手方に提出させ、審査し、適当と認められる場合に承認 を行うことが望まれる。 5 委託契約の履行体制の把握及び報告徴収のルール化の必要性(意見)―報告書 133 ページ 不適切な再委託により業務の効率性が損なわれ経済合理性に欠ける事態になる ことを防ぐため、今後は、委託契約の履行体制を把握することをルール化すること が望まれる。 6 特命随意契約の適時・適正な見直しの必要性(意見)―報告書 133 ページ 今後は、競争性の余地が全くないことが明白な場合を除き、特命随意契約につい 15 平成 22 年度包括外部監査 て、再度、特命理由を見直した上で、競争性のない随意契約によらざるを得ない場 合(真に止むを得ない随意契約)に該当しないものは、競争入札(総合評価方式、 企画競争)への移行を検討することが望まれる。 7 長期継続的な随意契約における契約金額適正化の工夫の必要性(意見)―報告書 134 ページ 特殊な技術等の保持等を理由に特定業者との随意契約が長期間継続することが 不可避であるにもかかわらず、債務負担行為を設定せずに単年度契約を繰り返して いる継続案件に関しては、安全性や業務の安定的な遂行を損なうことなく契約金額 を削減するよう、例えば、複数年契約を導入するなどの工夫をする必要性がある。 8 業務の専門性が高い随意契約における契約金額適正化の工夫の必要性(意見)―報告書 134 ページ 業務の専門性が高い随意契約に関しては、札幌市(交通局)の職員では独自の予定 価格の積算ができないことから、随意契約の相手方の言い値で契約を締結するおそ れがある。 したがって、業務の専門性が高い随意契約においても契約金額が適正に設定され るよう、例えば、契約後に随意契約の相手方から契約金額の内訳書を徴取して実例 価格として積算実務の参考とするなどの工夫をする必要性がある。 9 指名競争入札において競争性が確保されていない原因の究明と競争性を確保す るための対策の構築の必要性(意見)―報告書 134 ページ 受注意欲を有する十分な数の入札業者の参加を得ておらず、競争性が確保されて いないと判断される事例がある。 指名に当たって業者の入札参加意欲が考慮されておらず、指名競争入札が形式的 に行われているおそれがあるので、今後は、入札参加意欲を確認し、技術資料の提 出を求めた上で指名を行う方式である公募型指名競争入札の適用範囲の拡大を検 討し、入札意欲のある事業者間で活発な競争が行われるようにすることが望まれる。 10 指名競争入札における最低制限価格制度から低入札価格調査制度への移行の検 討の必要性(意見)―報告書 135 ページ 指名競争入札において最低制限価格制度を設けて、最低制限価格以下の入札者を 機械的に失格とすることには、検討の余地があるものと考える。 一般競争入札においては入札資格者に一定の資格制限を設けており、指名競争入 札においては更に資産、信用、能力等を勘案して入札者を選定することができるこ ととして、あらかじめ不当な競争を排除するようになっていることから、指名競争 入札においては、最低制限価格制度を採用する必要性は乏しい。 今後は、調査に要する時間、事務量及び監督・検査体制の強化等低入札価格調査 制度を導入することによるコストの増加を勘案した上で、指名競争入札において、 最低制限価格制度から低入札価格調査制度への移行を検討することが望まれる。 16 平成 22 年度包括外部監査 11 一般競争入札において競争性が確保されていない原因の究明と競争性を確保す るための対策の構築の必要性(意見)―報告書 135 ページ 競争入札において入札者が3者未満のため実質的な競争性が確保されていない と判断される事例があるが、札幌市(交通局)はその原因を十分に究明しておらず、 競争性確保のための取組が不十分と考える。 今後は、入札者が3者未満となった契約を十分に精査した上で、その原因を究明 したうえで、入札者を増やし競争性を実質的に確保するための対策を検討し公表す ることが望まれる。 特に1者入札となった契約に関しては、告示期間や参加資格の緩和を行い、可能 な限り、1者入札を回避することが望まれる。 12 一般競争入札における地域要件の設定理由の開示の必要性(意見)―報告書 136 ページ 競争性や透明性を確保する観点から、今後、地域要件を設定する場合には、同施 行令を満たしていることを確認した上で、対外的に十分説明することが望まれる。 13 一般競争入札におけるランク制の不断の見直しの必要性(意見)―報告書 137 ページ 競争性を確保していくためには、事業者が固定化しないように、同一等級におけ る十分な事業者数の確保に配慮するとともに、例えば、契約内容に応じて等級を統 合していくといった見直しを不断に行っていくことが望まれる。 14 契約(入札)保証金免除の根拠の記録化の必要性(意見)―報告書 137 ページ 契約(入札)保証金を免除する場合には、当該判断の根拠を記録化することが望ま れる。 ◎ その他の意見等 共通意見として記載するには至らなかったが、次の契約について個別の問題点とし て検出された事項があった。 1 委託契約−A.随意契約−1.定期券発売等業務等(指摘)―報告書 119 ページ (1) 当該随意契約に関する透明性の確保や不祥事の再発防止には十分な留意を図 ること。 (2) 決裁書類等の管理は厳重に行うこと。 (3) 平成 22 年度から当該契約の委託料の支払方法が従来の精算方式から渡し切り 方式に変更された。渡し切り方式に変更する以上、積算の精度を向上させ、経営 努力に基づかない余剰金が財団に発生しないようにすることが必要であり、平成 23 年度の契約の積算に当たって特に留意すること。 2 委託契約−A.随意契約−13.昇降機設備保守業務(東芝製) 、24.昇降機設備保 守業務(フジテック製) (意見)―報告書 141 ページ 平成 19 年度の特命理由に誤りがあり、当該誤りは平成 20 年度からは修正されて いるが、同様の誤りが繰り返されないように、執行担当部内での内部チェック及び 17 平成 22 年度包括外部監査 執行担当部と契約担当部との相互間のチェックを厳重に実施することが望まれる。 3 委託契約−B.指名競争入札−3.駅構内及び地下鉄車内巡回警備業務(意見)―報告書 142 ページ 平成 19 年度の積算に誤りがあり、当該誤りは平成 20 年度からは修正されている が、同様の誤りが繰り返されないように、担当者に正しい積算方法を指導するとと もに、執行担当部内での内部チェック及び執行担当部と契約担当部との相互間のチ ェックを厳重に実施することが望まれる。 第5 結語 交通局における高速電車事業と軌道事業において、数値目標としての経常収支のあり 方(補助金収入を含むか否か) 、企業債の支払利息のうち未払部分を負債として計上す るべき事項、貯蔵品を営業費用ではなく資産として計上するべき事項、減価償却方法が 会計規程に準拠していないと判断される事項、改良工事費用を営業費用として処理する のか、または、固定資産に計上した上で減価償却を行う処理をするのか否かの判断を適 切に行わなければならない事項、退職給付引当金・修繕引当金を計上するべきか否かに ついて今後検討するべき事項、など会計や経営数値に関わる問題が今回の監査において 浮上してきた。 交通局において採用する会計処理の具体的なルールが明確になっていないことや、 「累積欠損金がある場合に退職給与引当金を計上するのは不適当である」というような 民間企業における判断基準と乖離した行政実例(総務省の見解)などが背景にあり、現 段階では不適正とまでは言えない面があるものの、交通局が現在行っている会計処理の 中には、市民への適切な経営情報の開示という観点からは、適切とはいえない事項があ る。 また、恣意的な会計処理の判断によって利益が増加したり減少したりする可能性があ り、結果として交通局が公表している経営数値情報の信頼性が問われることになる。 これらを会計処理に関わる個別問題として片付けてはならないと考える。 高速電車事業では 10 か年経営計画を早めに達成し経営計画としては順調であり、逆 に、軌道事業は赤字が継続しており、過去には全線廃止を検討した経緯がある。 高速電車事業の 10 か年経営計画における経営努力とその成果は高く評価されるべきも のであり、また、修理を繰り返し古い電車を何とか使用して支出を抑えてきている軌道 事業の節約の状況も評価するべきものと考えるが、一方において、公営企業としての適 切な経営情報の開示が求められており、決算数値に関わる会計処理は地公企法などに準 拠して作成された具体的なルールに基づき判断される必要性がある。 交通局においては、このような具体的なルールが一部作成されておらず、経験的な長 年の慣習による判断が行われてきており、本来の判断基準から乖離している点も見受け られ、減価償却方法などについての指摘事項は、地公企法第 20 条(計理の方法)に準 拠していない。 地公企法は個別具体的な会計処理まで規定したものではないため、交通局の事業の実 態に合った具体的でかつ実務的な会計処理のルール(指針)を作成し統一的に運用する 18 平成 22 年度包括外部監査 ことが望まれる。 包括外部監査人としては市民が的確に判断のできる適切な経営情報の作成と開示へ の取り組みを交通局に対して求めるものである。 また、契約事務に関しては、公共交通を担うという役割から「安全」や「技術」とい う面が強調され、現在の路線設備・駅設備・車両などを使用している限りは、永久に近 い期間、同一業者に業務委託される可能性が極めて高い特命随意契約が行われている。 特命随意契約は、地方自治体の契約方法としては例外的な選択方法であるにもかかわら ず、交通局の設備や車両については、主流の契約方法になっているのが実態である。 このような状況下においては、特命の理由について担当部署からの具体的な説明が行 われた上で、さらに契約担当部において厳密な審査が行われるべきであるが、執行担当 部内での内部チェックや執行担当部と契約担当部との相互牽制が十分機能していない。 特命随意契約は例外的な扱いであるので、契約担当部において、厳しいチェック、理 由の審査、検証を行う必要がある。 また、特命随意契約を一般競争入札や指名競争入札へ移行しようとする努力もさらに 必要である。 一般競争入札や指名競争入札においても参加業者を増やすなど、さらに改善を要する と判断される事項がある。 交通局並びに札幌市においては、以上のような点を十分に認識した上で、今後の行政 執行を行って頂きたいということを提言し、包括外部監査人として3年目となる最後の 年度の結語とする。 以上 19